判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(145)平成26年 3月24日 東京地裁 平25(ワ)3040号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(145)平成26年 3月24日 東京地裁 平25(ワ)3040号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成26年 3月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)3040号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2014WLJPCA03248014
要旨
◆被告会社の従業員に勧誘されて、2つの投資事業組合契約形式の投資商品に投資した原告が、適合性原則違反、説明義務違反、断定的判断提供禁止義務違反を主張して、被告会社、同社の代表取締役であった被告Y1及び同Y2に対し、損害賠償を求めるなどした事案において、被告会社の説明義務違反を認めて同社の不法行為責任を認めるとともに代表取締役としての被告らの重過失による任務懈怠責任を認めた上で、原告の過失割合を3割とし、請求を一部認容した事例
参照条文
会社法350条
会社法429条1項
民法709条
民法719条
裁判年月日 平成26年 3月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)3040号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2014WLJPCA03248014
東京都足立区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 鈴木さとみ
同 伊集院剛
東京都中央区〈以下省略〉
被告 株式会社Global Arena Capital
同代表者代表取締役 A
埼玉県狭山市〈以下省略〉
被告 Y1
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 Y2
被告ら訴訟代理人弁護士 青木英憲
主文
1 被告株式会社Global Arena Capitalは,原告に対し,192万5000円及びこれに対する平成21年2月23日から支払済みに至るまで,年5%の割合による金員を支払え。
2 原告の被告株式会社Global Arena Capitalに対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 被告Y1は,原告に対し,192万5000円及びこれに対する平成25年3月10日から支払済みに至るまで,年5%の割合による金員を支払え。
4 原告の被告Y1に対するその余の請求をいずれも棄却する。
5 被告Y2は,原告に対し,192万5000円及びこれに対する平成25年2月28日から支払済みに至るまで,年5%の割合による金員を支払え。
6 原告の被告Y2に対するその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は,これを10分し,うち3を原告の,その余を被告らの負担とする。
8 この判決は,主文1項,3項及び5項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 主位的請求
(1)被告らは,原告に対し,連帯して275万円及びこれに対する平成21年2月23日から支払済みに至るまで,年5%の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は,被告らの負担とする。
(3)仮執行宣言
2 第1次予備的請求
(1)被告株式会社Global Arena Capitalは,原告に対し,275万円及びこれに対する平成25年2月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで,年5%の割合による金員を支払え。
(2)被告Y1は,原告に対し,275万円及びこれに対する平成25年3月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで,年5%の割合による金員を支払え。
(3)被告Y2は,原告に対し,275万円及びこれに対する平成25年2月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで,年5%の割合による金員を支払え。
(4)訴訟費用は,被告らの負担とする。
(5)仮執行宣言
3 被告株式会社Global Arena Capitalに対する第2次予備的請求
(1)被告株式会社Global Arena Capitalは,原告に対し,93万0280円及びこれに対する平成24年4月2日から支払済みに至るまで,年5%の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は,被告株式会社Global Arena Capitalの負担とする。
(3)仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 本件は,被告株式会社Global Arena Capital(以下「被告会社」という。)の従業員に勧誘されて,2つの投資事業組合契約形式の投資商品に投資した原告が,適合性原則違反,説明義務違反,断定的判断提供禁止義務違反を主張して,
(1)被告会社に対し,
ア 主位的請求として,出資金相当損害金250万円及び弁護士費用相当損害金25万円につき,不法行為に基づく損害賠償請求を,
イ 第1次予備的請求として,出資金相当損害金250万円及び弁護士費用相当損害金25万円につき,被告会社の代表取締役であった被告Y1(以下「被告Y1」という。)及び同じく被告会社の代表取締役であった被告Y2(以下「被告Y2」という。)が職務を行うについて原告に損害を与えたことに基づく会社法350条による損害賠償請求を,
ウ 第2次予備的請求として,投資事業組合契約に基づき,組合脱退清算金93万0280円の返還請求を,
(2)被告Y1及び被告Y2に対し,それぞれ
ア 主位的請求として,出資金相当損害金250万円及び弁護士費用相当損害金25万円につき,不法行為に基づく損害賠償請求を,
イ 予備的請求として,出資金相当損害金250万円及び弁護士費用相当損害金25万円につき,会社法429条1項に基づく損害賠償請求を
した事案である。
2 前提事実
当事者間に争いのない事実,かっこ内に摘示した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が容易に認められる。
(1)原告
昭和28年○月生の女性で,平成20年2月当時,54歳であった。
(2)被告会社(甲20)
ベンチャービジネスへの投資及びその養成,投資事業組合及び投資事業有限責任財産の運用並びに管理等を行っている。
平成21年3月6日,金融商品取引法上の第二種金融商品取引業者及び投資運用業者の登録を受けている。
以前の商号は「株式会社ウィズダムキャピタル」であったが,平成23年9月1日,現商号に変更した。
(3)被告Y1(甲21)
平成17年8月30日から平成21年12月10日までの間,被告会社の代表取締役であった者である。
(4)被告Y2(甲20)
平成19年9月26日から平成24年2月1日までの間,被告会社の代表取締役であった者である。
(5)投資事業組合契約の締結と出資(甲12の1ないし甲13の5)
原告は,被告会社の従業員B(以下「B」という。)から勧誘され,以下のとおり被告が業務執行組合員を務めるアグリ・ヴァンティアン投資事業組合の組合契約を締結して出資(1口15万円)を行った。
平成20年2月4日ころ 75万円(5口分)
同月29日ころ 45万円(3口分)
同年9月24日ころ 30万円(2口分)
合計150万円(10口分)
原告は,被告会社の従業員Bから勧誘され,以下のとおり被告が業務執行組合員を務めるピルツ投資事業組合の組合契約を締結して出資(1口5万円)を行った。
平成20年4月22日ころ 50万円(10口分)
同年6月30日ころ 30万円(6口分)
平成21年2月23日ころ 20万円(4口分)
合計100万円(20口分)
(6)被告会社への行政処分(甲19)
被告会社は,平成21年12月3日,関東財務局から3か月間の業務停止命令及び業務改善命令を受けた。その概要は次のとおりである。
A社(アグリ・ヴァンティアン株式会社(以下「アグリ社」という。)やピルツ株式会社(以下「ピルツ社」という。)ではない。乙1によれば,株式会社ステリック再生医科学研究所であると認められる。)の既存株主及びA社からA社株式を取得させ,A社の株式公開を支援するA社投資事業組合を設立したが(以下「当該ファンド」という。),これに先立ち,被告会社の代表者が既存株主との間で,A社株式の当該ファンドでの取得単価を決定した上で,決定した取得単価をかさ上げし,単価かさ上げに伴い当該ファンドから既存株主へ余分に支払われる譲渡代金を被告会社に環流させる旨の約束を行った。被告会社は,平成21年5月から同年10月にかけて,当該ファンドの出資持分の取得の勧誘を行い,顧客より出資を受け入れるとともに,当該ファンドに既存株主及びA社からA社株式を取得させている。この際,被告会社は,上記約束に基づき当該ファンドにかさ上げした単価で既存株主からA社株式を取得させており,その後,既存株主に支払われた譲渡代金の一部が同既存株主から被告会社へ環流されていた。これは,自己の利益を図るため,ファンド出資者の利益を害する運用を行っていたものであり,金融商品取引法42条の2第7号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令130条1項2号に該当する。
(7)被告会社の組合脱退清算金支払義務について
被告会社が93万0280円及びこれに対する平成22年4月2日から支払済みまで年5%の割合による組合脱退清算金支払義務を原告に負っていることについては争いがない。
第3 争点
1 本件の争点は,①適合性原則違反の有無,②説明義務違反の有無,③断定的判断提供禁止義務違反の有無,④被告Y1及び被告Y2の責任原因の有無,⑤過失相殺の可否である。
2 適合性原則違反の有無
(1)原告の主張
以下の点からすると,適合性原則違反が認められる。
ア 原告の投資を行う不適格性
原告は,投資経験のない58歳の独身独居の女性であった。
原告は,高校卒業後,大手銀行の窓口の預金係を3年ほどした後,退職して製図学校でトレースを学び,舞台関係の職場に勤務したり,住宅会社に勤務したりし,結婚後もトレースの仕事を続けた。その後,パート勤務をすることがある程度の職歴である。
原告は,農業経験もなく,農業事業への投資に関する判断力もなかった。
原告は,次兄が代表取締役を務める会社の取締役ではあったが,名目的で同社の経営には関与していない。
イ 投資資金の性質等
原告は,多額の遺産を相続したことがあったが,L&G詐欺事件やその二次被害によって預貯金を失い,数万円のわずかなパート収入と月額15万円程度の家賃収入,月額5万円程度の役員報酬があるのみである。原告が本件で投資した資金は老後の生活のための蓄えであった。
(2)被告らの主張
以下の点からすると,適合性原則違反は認められない。
ア 原告の投資を行う適格性
原告は,投資当時,会社の取締役であった。
原告は,相続により不動産や多額の現預金を有するようになったことがあり,現在でも月額15万円程度の家賃収入があって,証券会社に口座を持って株式を購入したことがあった。
イ 投資資金の性質等
原告は,投資当時,長期的視野に立ったキャピタルゲインを重視しており,投資資金の性格は余裕資金で,500万円以上の1000万円未満の金融資産があった。
その余の投資資金の性質等に関する原告の主張については不知。
3 説明義務違反の有無
(1)原告の主張
被告らは,各投資事業組合からの脱退が著しく制限され,その方法が限られる等の投資からの離脱方法に関し具体的説明をすべきところ,これを怠った。
被告らは,各投資事業組合への投資なのか株式投資なのか,投資のスキームや危険性等も明確に説明すべきところ,これを怠って投資の勧誘を行った。
被告会社は,自身が受領する管理報酬額について原告に説明すべきであったところ,これを怠った。
被告らは,各投資事業組合が購入する株式の価格の算定根拠について説明をすべきところ,これを怠り原告に出資させた。
被告らは,各投資事業組合及び各投資先の財務状況や収支状況等を原告に知らせるべきところ,これを怠った。
被告らが指摘する目論見書や投資対象企業の事業内容に関する資料が原告に仮に送付されていたとしても,投資の専門家でもない原告にとっては,これら資料を一方的に送付されただけで投資の詳しい内容を正確に理解することは困難で,対面において原告の理解度を確認しながら説明を行うべきであったが,被告らはこれを怠った。
(2)被告らの主張
被告らは,原告ら顧客に対し,投資事業組合契約締結前に目論見書を送付しているところ,これには組合からの脱退方法が記載されており,投資事業組合契約書にも脱退に関する手続の規定が置かれている。
被告らが原告に送付した被告会社の会社案内には,投資事業組合を通じた投資スキームが記載されており,目論見書にも投資スキームや危険性に関する詳細な記載がある。被告会社の営業担当者は,これらの書類に基づき原告に対し口頭でも説明を行っている。
目論見書には,投資事業組合に関する詳細な記載がある。
被告らは,原告に投資を勧誘するに当たり,投資先企業の営む事業の内容とその将来性,有望性について説明をした。各投資事業組合の投資は,ベンチャー企業への出資であり,当該企業の財務状況や収支状況は説明義務の対象にならない。投資事業組合は,会計基準上は低い評価額の株式を入手して将来の値上がりを期待するものであるから,同会計基準上の株式評価額の累積と実投資額とを対照する結果となる投資事業組合の貸借対照表や損益計算書を見ても何か判断できるものではなく,説明義務の対象とはならない。
4 断定的判断提供禁止義務違反の有無
(1)原告の主張
被告会社の営業担当者は,原告に対し,「(アグリ社の)株は必ず値上がりする。」,「(ピルツ社は)上場したら株価は4倍にも5倍にもなる。これを逃すと後悔する。」と,あたかも必ず利益が得られるかのような情報提供をして投資勧誘を行った。
(2)被告らの主張
否認する。
5 被告Y1及び被告Y2の責任原因の有無
(1)原告の主張
被告Y1及び被告Y2は,被告会社の代表取締役として違法な商法を構築・運営して原告に損害を被らせたのであるから共同不法行為責任を負う。
仮にこれが認められなくとも,被告Y1及び被告Y2は,被告会社の代表取締役として業務執行の適正を確保する義務を負っていたにもかかわらず,いずれも被告会社従業員であるBを通じて被告会社が違法な業務を行っているのを漫然と看過していたから,任務の懈怠があり,かかる任務懈怠についての悪意又は重大な過失があり,いずれも会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
(2)被告Y1及び被告Y2の主張
否認ないし争う。
6 過失相殺の可否
(1)被告らの主張
原告は,証券会社に口座を以て現物株式に投資した経験がある
原告は,投資詐欺被害やその損害回復を名目とした何件かの二次被害に遭ったというが,そうであれば,各事業協同組合の投資取引に関する危険性を理解する機会があった。
原告は,被告会社から送付された書類をよく読んでいなかったと供述する一方,必要書類には署名押印をしているのであって,相当程度の過失があった。
(2)原告の主張
被告らは,過大な価格設定で投資対象会社の株式を取得し,その取得先から不当に高率なコンサルタント報酬を被告会社に還元させ,業務執行組合員である被告会社にだけは確実に利益が流れ込むような仕組みを作り上げておきながら,これを出資者である原告らに秘していたのであるから,故意に秘匿していたか,そうでなくとも出資者を騙していたに等しい悪質性,過失の重大性が認められる。そうすると,本件で過失相殺をするべきではない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
当事者間に争いのない事実,かっこ内に摘示した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)被告会社は,元三洋証券出身者を中心に経営コンサルタント事業を始めたが,平成17年10月から「個人投資家も参加できるベンチャーキャピタル」を掲げて個人投資家向けのファンドを組成し,投資家らから資金を集めていた(甲1)。
(2)アグリ社は,農業用プラントの製造及び販売,農産物の加工及び販売等を目的とする資本金1億5000万円(発行済み株式総数6万2400株)の株式会社で,いちご・葉菜類栽培ハウスを建設したり,中国において農業施設栽培システムを販売するプロジェクトを進めたりしていた(甲25,甲27,乙6)。被告会社では,いちごは夏にはほとんど収穫がないところ,通年でいちごを栽培できる技術を有するものとして評価されていた(被告Y1本人)。
(3)ピルツ社は,農林業,畜産業及び水産業の生産及び販売等を目的とする株式会社である。平成18年ころの資本金額は3200万円であったが,平成24年12月1日の段階では1億2930万円(発行済み株式総数10580株)まで増資されている。きのこ生産販売等を事業として行っており,薬食材として知られるたもぎ茸を中心的商品としていた(甲26,乙9,乙10)。
(4)アグリ・ヴァンティアン投資事業組合の目論見書(乙11)には,投資リスクとして①出資金の一部あるいは全部に損失が生ずる可能性がある,②アグリ社は未公開企業であり,一般的に投資元本全額の回収が担保されているものではない,③組合員の地位に流動性がないといった記載がある。また,払戻手続についても触れられており,組合の存続期間中は,出資金を払い戻すことは原則としてない旨の記載もある。
同様の記載は,ピルツ投資事業組合の目論見書(乙12)にも存する。
(5)被告会社は,アグリ社の株式を被告会社の関連先である日東投資事業有限責任組合(被告会社は出資をしていないが,被告Y2が無限責任組合員に就任している(甲27)。)から1株当たり13万5000円で購入する予定に基づき,アグリ・ヴァンティアン投資事業組合を1口15万円(管理報酬1万5000円)で2000口以内を募集することとして組成した。
もっとも,日東投資事業有限責任組合は,アグリ・ヴァンティアン投資事業組合に売却するアグリ社株式を同社の代表取締役であり筆頭株主であるCのアグリ社株から予め取得して調達することとなっていたところ,日東投資事業有限責任組合は株式取得価額とアグリ・ヴァンティアン投資事業組合への譲渡価額の差益について,一定額をコンサルタント報酬名目で被告会社に環流するスキームが組まれていた。このコンサルタント報酬名目で被告会社に環流した金額は,計算上,9125万1823円に上った(乙2)。
(6)被告会社は,ピルツ社の株式を日東投資事業有限責任組合から1株当たり4万5000円で購入する予定に基づき,ピルツ投資事業組合を1口5万円(管理報酬5000円)で募集することとして組成した。
もっとも,日東投資事業有限責任組合は,ピルツ投資事業組合に売却するピルツ社株式を同社の増資新株発行の引受により調達することとなっていたところ,日東投資事業有限責任組合は株式取得価額とピルツ投資事業組合への譲渡価額の差益について,一定額をコンサルタント報酬名目で被告会社に環流するスキームが組まれていた。このコンサルタント報酬名目で被告会社に環流した金額は,計算上,1億0421万0598円に上った(乙3)。
(7)Bの名刺(甲3)には,IPOアドバイザーとの肩書きが付されている。IPOとは,Initial Public Offeringの略で,未上場会社の株式を証券市場において売買可能にすること,すなわち株式公開を指す(甲1)。
(8)原告は,被告会社の従業員Bと直接,面談したことはなく,書面は郵送やファクシミリでやり取りしていた(原告本人)。
(9)Bが原告に送付した(甲5)被告会社の会社案内(甲1)には,①各投資家らが投資事業組合契約を締結して組合員となり,出資を行い,利益の分配を得ること,②投資事業組合は,ベンチャー企業に投資を行い,株式公開や企業合併・買収の際に株式を売却したり処分したりして売却益を得たり投資元本を回収すること,③被告会社は,投資事業組合との関係でも出資を行い,利益の分配を得る関係にあること,④被告会社は,投資事業組合の運営,管理を担当し,管理報酬を得る関係にあること,⑤被告会社は,投資先のベンチャー企業に対しても経営支援を行うことが図式化されて説明されている。
(10)Bが原告に送付した「ご挨拶」と題する書面(甲5)には,「弊社では,支援先企業の株式公開や事業売却を目指すことにより,賛同していただけるパートナー様に利益を得ていただく為に,限られた株数ではありますが公開前の株式を事業投資組合ファンドとしてご案内させて頂いております。」との記載がある。
(11)被告会社が原告に交付したアグリ・ヴァンティアン投資事業組合の証券情報(甲8)には,申込時に組合員から手数料を徴収しない旨の記載があった。
(12)原告は,以下のとおり,被告会社に対し,アグリ・ヴァンティアン投資事業組合加入申込書に署名押印の上,ファクシミリで送信した(甲11の1,甲11の2,原告本人)。
平成20年1月30日 5口75万円
同年2月27日 3口45万円
(13)原告は,以下のとおり,被告会社に対し,ピルツ投資事業組合加入申込書に署名押印の上,ファクシミリで送信した(甲11の3)。
同年4月20日 10口50万円
(14)被告会社は,原告に対し,金融商品取引法37条の4所定の書面(甲6)を交付していた。
(15)原告の署名押印があるアグリ・ヴァンティアン投資事業組合契約書(甲9)には,大要,以下の定めがあった。
1条(定義)
中略
「本組合存続期間」 本組合契約の効力が発生する日から本組合が解散するまでの期間。なお当初は,2007年3月30日(中略)から2010年4月30日までとする。但し,組合の過半数の口数を有する組合員の同意により,1年間延長する場合があるものとする。また,組合がその存続期間を延長した場合は,自動的に延長されるものとする。
5条(目的)
本組合は,組合とし3億円2,000口をアグリ・ヴァンティアン株式会社(本店:東京都中央区)に投資し,本組合存続期間内に投下資本を増殖,回収することを目的とする。
9条(組合財産の帰属)
1項 組合財産は組合員全員の共有とし,各組合員の持分はそれぞれの出資口数の割合とする。
2項 組合員は,本組合精算前においては組合財産の分割を全組合員の合意に基づく場合のほか,請求することはできない。
11条(組合財産の持分処分の禁止)
組合員は,他の全組合員の承諾を得ることなく組合財産に対する自己の持分を譲渡,質入れ,その他一切の処分をすることができない(以下略)。
22条(業務執行組合員に対する報酬)
1項 業務執行組合員は,本組合の業務執行の職務に従事する報酬として,第14条に規定する分配を行う場合,本組合から組合員に分配される全ての投資有価証券の評価額及び売却の合計額から当該分配に対応する投資原価の総額を控除した額に20%を乗じて得られる額(以下「成功報酬額」という。)に相当する当該投資有価証券または現金を受領するものとする。なお,分配される投資有価証券等の評価額は適正な時価によって行う。また,一般組合員は本組合の管理手数料として,組合員の出資口数に応じて業務執行組合員に1口当たり10%を支払うものとする。
26条(組合員の地位の譲渡)
1項 組合員は,他の組合員全員の書面による承諾がある場合を除き,組合員たる地位を譲渡することができない。
2項 略
30条(脱退組合員の持分及び責任)
1項 第27条第2項もしくは第3項の規定により脱退した組合員に対しては,脱退時における本組合の財産の状況に従って精算をなすことができるものとする(以下略)。
2項 前項の場合,脱退時における組合財産に含まれる組合員の組合持分を評価し,さらに脱退した組合員の本組合持分を評価のうえ,脱退した組合員に対する持分の払い戻しにあてるものとする。
なお,本文記載の評価方法及び払い戻し時期については,業務執行組合員の裁量により決定したところに従うものとする(以下略)。
(16)原告の署名押印があるピルツ投資事業組合契約書(甲10)は,大要,以下の定めがある他は,アグリ・ヴァンテアン投資事業組合契約書と同様の規定が定められていた。
1条(定義)
中略
「本組合存続期間」 本組合契約の効力が発生する日から本組合が解散するまでの期間。なお当初は,2007年8月21日(中略)から2011年8月31日までとする。但し,組合の過半数の口数を有する組合員の同意により,1年間延長する場合があるものとする。また,組合がその存続期間を延長した場合は,自動的に延長されるものとする。
5条(目的)
本組合は,組合とし2億5000万円5,000口をピルツ株式会社(本店:東京都豊島区)に投資し,本組合存続期間内に投下資本を増殖,回収することを目的とする。
(17)原告は,各投資事業組合契約書(甲9,甲10)について,しっかり読み込むこともなく署名押印した(原告本人)。
(18)被告会社において保管されている原告名義の平成21年3月27日付け「個人用取引口座設定申込書(兼顧客カード)」(乙5)には,以下の記載がある。これは,原告が自ら記載した(原告本人)。
職業 非上場会社役員
投資経験 記載なし
取引の動機 電話勧誘
投資目的 長期的視野に立ったキャピタルゲイン重視
資金性格 余裕資金
金融資産 500万円以上1000万円未満
年収 300万円以上1000万円未満
もっとも,被告会社の従業員が記載した社用欄には,本人確認について「確認日・方法」に平成20年2月4日郵送によりとの記載がある。
(19)被告会社は,平成21年10月27日ころ,原告に対し,取引残高報告書(甲14の1)を送付した。これには,原告のアグリ・ヴァンティアン投資事業組合及びピルツ投資事業組合に対する出資口数,出資金額,各投資事業組合における原告の持分明細としての投資対象株式銘柄,株数,取得価額,評価額が記載されていた。同報告書に記載された取得価額と評価額は同額が記載されていた。
(20)被告会社は,平成22年3月11日,アグリ・ヴァンティアン投資事業組合の各組合員に対し,「アグリ・ヴァンティアン投資事業組合のスキームについて」と題する書面(乙2)を発出した。これには,「従前は各投資事業組合のスキームにつきまして,組合員各位にその詳細をご説明しておりませんでした」との記載がある(乙2)。
(21)アグリ社の業績の推移は以下のとおりである(甲25)。これによれば,第15期において営業利益及び当期純利益は黒字に転じており,純資産のマイナスも減少していたのであるから,平成22年3月期の段階で事業に将来性がなかったとは言えない。
第14期(平成22年3月期)
売上高 8416万8667円
営業利益 △3774万6895円
当期純利益・純損失 △3758万8650円
純資産合計 △6659万5332円
第15期(平成23年3月期)
売上高 5322万9082円
営業利益 1243万8718円
当期純利益・純損失 2088万1035円
純資産合計 △4571万4297円
第16期(平成24年3月期)
売上高 55万0000円
営業利益 △3035万3791円
当期純利益・純損失 △3077万3432円
純資産合計 △7648万7729円
(22)ピルツ社の業績の推移は以下のとおりである(甲26)。これによれば,売上高は上昇傾向にあり,これに応じて営業利益の赤字も拡大しているが,営業利益を黒字化できる営業方法の改善によりなお業績向上の可能性はあるところ,平成24年下期(平成24年10月1日から平成25年3月31日)にあっては,費用負担を最小限にして農産物の流通オーガナイザーないしプランナーとして業務を行うことが企画されていた。
第2期(平成20年3月期)
売上高 487万6133円
営業利益 △7045万1242円
当期純利益・純損失 △7210万2815円
純資産合計 △4214万3204円
第3期(平成21年3月期)
売上高 1561万2204円
営業利益 △6750万1290円
当期純利益・純損失 △6747万4742円
純資産合計 △2365万7946円
第4期(平成22年3月期)
売上高 2343万0679円
営業利益 △5023万8076円
当期純利益・純損失 △9617万7217円
純資産合計 △5113万8163円
(23)アグリ・ヴァンティアン投資事業組合の平成22年10月1日から平成23年9月30日までの間の状況からすると,存続期限までの期間内に資産の回収及び負債の返済が完了されないおそれがあり,継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況があった。この状況は平成23年10月1日から平成24年9月30日までの間も変化はなかった(甲27)。
(24)ピルツ投資事業組合の平成22年10月1日から平成23年9月30日までの間の状況からすると,存続期限までの期間内に資産の回収及び負債の返済が完了されないおそれがあり,継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況があった。この状況は平成23年10月1日から平成24年9月30日までの間も変化はなかった(甲28)。
(25)原告は,平成22年3月20日ころ,被告会社に対し,アグリ・ヴァンティアン投資事業組合及びピルツ投資事業組合の各出資金について,払戻を希望する旨の意向表明書(乙13,乙14)を送付し,これは,同年4月1日,被告会社に受理された(甲16)。
(26)被告会社の営業担当者であったBは,平成22年8月31日,被告会社の経営不振を理由として退職しが,未払給与がなお存する状況で,被告らが本件訴訟に対応する間も原告との取引当時の状況を確認することができなかった(乙15,被告Y1本人)。
(27)被告会社は,平成23年1月7日ころ,原告に対し,取引残高報告書(甲14の2)を送付した。これには,大要,以下の記載があった。
アグリ・ヴァンティアン投資事業組合
出資口数 合計10口
出資金額 合計150万0000円
出資金返還総額 合計40万7920円
持分株式処分代金 合計1万9360円
返還金総額 合計42万7280円
ピルツ投資事業組合
出資口数 合計20口
出資金額 合計100万0000円
出資金返還総額 合計21万8360円
持分株式処分代金 合計28万4640円
返還金総額 合計50万3000円
返還金総合計 93万0280円
(28)アグリ・ヴァンティアン投資事業組合の第6期(平成23年10月1日から平成24年9月30日まで)の財務状況は以下のとおりである(甲23の1,甲23の2)。
同組合は,アグリ社の普通株式2215株を保有しているが,平成24年9月30日時点での同社の株式の評価額はマイナスであり,決算上は備忘価格として1株100円で計算された。
同組合に対する出資総口数は1661口であるが,組合脱退者の持分株式が554株存する関係で,出資口数1口当たりアグリ社の普通株式1株が存する状況である。
貸借対照表では,資産の部合計22万1500円に対し,負債の部合計5928万8192円であり,純資産の部の合計はマイナス5906万6692円であった。
損益計算書では,営業外収益が30万0000円ある一方,営業外費用として貸倒引当金繰入額が54万0000円発生し,当期純損失は24万0000円であった。
(29)ピルツ投資事業組合の第6期(平成23年10月1日から平成24年9月30日まで)の財務状況は以下のとおりである(甲24の1,甲24の2)。
同組合は,ピルツ社の普通株式9544株を保有しているが,平成24年9月30日時点での同社は事業再開に向けて活動を行っているものの,生産販売を中断している状況で,その株式の評価額は算出できず,備忘価格として1株100円で計算された。
同組合に対する出資総口数は7602口であるが,組合脱退者の持分株式が1942株存する関係で,出資口数1口当たりピルツ社の普通株式1株が存する状況である。
貸借対照表では,資産の部合計95万4400円に対し,負債の部合計7277万8398円であり,純資産の部の合計はマイナス7182万3998円であった。
損益計算書では,営業外収益が48万0000円ある一方,営業外費用として貸倒引当金繰入額が86万4000円発生し,当期純損失は38万4000円であった。
(30)原告は,塗装加工処理全般等を目的とする資本金1000万円の株式会社aの取締役である。同社の取締役には同じX姓の者が名を連ねており,いわゆる同族会社であることがうかがわれる(乙4)。
(31)被告会社から投資の勧誘を受けた当時の原告は,月収約30万円であった(原告本人)。
(32)原告は,平成12年に母親の遺産を相続し,現在居住する一戸建ての家屋の他,月額15万円程度の賃料収入が得られるアパートを相続した。また,預貯金も約6000万円相続した。もっとも,これについては,円天に関わるL&Gの投資詐欺事件で約600万円を失ったほか,スイスの銀行の隠し口座から預金を取り戻すための手数料ないし保険料が必要であるという話からいつの間にか変化した外国のリゾート施設利用権話や石炭採掘事業話への投資,また,L&G事件の被害を回復するという触れ込みの詐欺的商法に遭って約450万円の二次被害を被り,減少した。また,宗教団体へのお布施として費消したりもした(原告本人)。
(33)原告は,相続した証券会社の口座を有していたが,相続時はMMCファンドに資金が入っていた。もっとも,これを利用して知人の会社の上場株式を購入した経験がある(原告本人)。
(34)原告は,被告会社から出資の勧誘を受けた当時,独身で1人暮らしであった(原告本人)。
2 適合性原則違反の有無
投資を勧誘する者が顧客の知識,経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘行為を行って投資者の保護に欠けることのないようにすべき適合性の原則が存し,顧客の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘する等適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。以下,検討する。
(1)各投資事業組合への出資に係る投資の性格について
各投資事業組合は,いずれも未上場の株式会社の株式を取得し,これが上場した場合の株式処分益や他の企業による買収時の株式譲渡益ないし合併等の際の利益を獲得することを目的としているところ,対象となったアグリ社やピルツ社は,決算書上の財務状況は決して好調とはいえず,1株当たりの純資産額や現在の業績に着目して投資するような性格の会社ではない。いずれも投資を行うとすれば,投資家独自の視点や評価によりその保有する技術や行っている事業の将来性に着目する面が強くでる性質の会社で,まさにベンチャー企業である。
そうすると,各投資事業組合への出資は,投資としては投機性が高い,すなわち高い利益が得られる可能性もある代わりに,出資額全額が事実上失われる可能性もかなりあるという性格の投資である。
また,被告会社が取得する管理報酬の割合やコンサルタント報酬名下に環流させていた金額からすると,なお投機性が高められているといえる。
加えて,各投資事業組合契約の約定により,随時の脱退は原則として許されていない。
さらに,仮に脱退が認められてアグリ社やピルツ社の株式を出資口数に応じて取得したとしても,これら会社の株式は未上場株式であるから売却は相対取引しかないところ,1株当たりの純資産額や現在の業績に着目して投資するような性格の会社でないことからして,売却先を見つけることは相当に困難である。
すわなち,投機性が高い一方で,状況に合わせ投資を早期に回収することが困難であるという性格が認められる。
(2)原告の投資を行う適格性の有無について
原告は,平成20年2月当時,54歳の独身独居の女性で,株式会社の取締役とはなっているものの,同族会社であって,会社の資本金額や得ている報酬額からしても会社への経営への関与は希薄であることがうかがわれる。
原告は,不動産収入を得て生活費に充てているが,多額とは言えない上,相続した物件の家賃をそのまま得ているだけで,不動産投資業を行っているとまで評価できない。
原告は,証券会社に口座を有していたことがあり,上場会社の株式を取引した経験があるが,知人の会社の株式を購入した程度というのであるから,これを以て豊富な投資経験ということはできない。
また,原告は,外国のリゾート施設会員権や石炭採掘事業への投資経験があるが,これらはいずれも投資額,投資に伴うリスクや利益の見込みを真摯に検討して行った投資ではないことがうかがわれ,投資経験として数えることが困難なものである。
(3)投資資金の性質等について
原告は,持ち家に独居しており,月額約30万円の収入があることからすると,各投資事業組合への出資当時,生活費に困窮していた状況であることはうかがわれず,出資金は相続した預貯金の範囲内で行われたものであることが認められる。
他方,詐欺ないし詐欺的商法の被害に遭って預貯金一定程度失っていたことや宗教団体にお布施として納めたものがあることからすると,相続した預貯金も目減りしていたことが認められる。
しかし,当時の預貯金残額は具体的に明らかになっていない一方,預貯金が少なくなったといっても,老後の不安を抱える程度の状況であったことからすると(原告本人),出資金は,これら預貯金から支出された余裕資金であったと認められる。
(4)小括
以上で検討したところによれば,各投資事業組合への出資は,投機性が高く,原告の投資経験が豊富とはいえないことからすると,出資の勧誘対象として妥当であったとするには疑問の余地がないとはいえないが,さりとて直ちに原告に対する勧誘が適合性の原則から著しく逸脱したものであったということもできず,適合性原則違反は認められない。
3 説明義務違反の有無
被告会社にあっては,一般投資家に対し投資事業組合への出資に係る投資を勧誘するに当たっては,当該投資の性質に応じて,勧誘を受けた者が当該投資の適否について的確に判断し,自己責任で投資を行うに当たり必要な情報である当該投資の仕組みや危険性等について,それらを具体的に理解することができる程度の説明を行う義務を負うと解するのが相当である。
そこで検討するに,前記2(1)で説示した各投資事業組合への出資に係る投資の投機性の高さが認められる一方,前記2(2)で説示したとおり,原告の投資経験が豊富であるとは言い難いことが認められる。
これらからすると,各投資事業組合への出資を勧誘するに当たっては,投機性の高さ,すなわち会社の決算書上の財務状況が決して好調ではないという現状と将来の発展可能性の不確実さ,殊に元本回収も不確実であること,元本回収の不確実さの可能性は決して低い者ではないこと,出資金の回収も容易ではないこと等について,原告が具体的に認識し,逐次理解しているか確認しながらていねいに説明する必要があったというべきである。
しかるに被告会社の従業員Bは,電話と書面のやり取りで取引を行い,直接面談して説明を行ったことはない。被告会社から原告に,被告会社の会社案内(甲1),アグリ社の現況レポート(甲2の1),被告会社のアグリ社の事業推進状況に対する考察及び戦略(甲2の9),各投資事業組合契約書(甲9,甲10)等の書面が交付されており,これらを子細に検討すれば,投機性の高さや出資金の回収の困難さについて認識することは不可能ではない。しかし,これらが原告に送付された時期は証拠上明らかでない上,仮に原告が各投資事業組合への出資前に送付を受けていたとしても,前記投機性の高さや原告が投資経験豊富とはいえないことからすると,Bにおいては,原告と直接面談して,これら書面を元に口頭で説明し,その際,原告の理解の程度を逐次確認しながら説明を行うべきであったが,かかる説明を行っていないものと認められる。
そして,これら事実からすると,原告においても,前記投機性の高さについて具体的な理解をしていなかったことが認められる。
以上によれば,原告に対する各投資事業組合への出資に係る投資の勧誘に際し,被告会社に説明義務違反が認められ,原告は,各投資事業組合への出資金相当額及び弁護士費用相当額の損害を被ったものと認められる。
4 断定的判断提供禁止義務違反の有無
原告は,被告会社従業員Bが必ず値上がりする等の趣旨の断定的判断を提供した旨供述するが,裏付け証拠はなく,これを認めるに足りる証拠はないと言わざるを得ない。
5 被告Y1及び被告Y2の責任原因の有無
アグリ社もピルツ社も,いずれもベンチャー企業であり,これに対する投資に高い冒険性が伴うことは否定できないが,業績の推移からすると,原告が各投資事業組合に出資した当時,全く業績向上の余地がなく,およそ投資が想定できない又は皆無に近いとまでは認められない。他方,ベンチャー企業への投資は投機性が高いことは否定できないにしても,それ自体が違法であったり,これに対する投資を勧誘することが違法ということもできない。そうすると,投機性の高い各投資事業組合への出資の勧誘が詐欺あるいは詐欺同然とまでいうことはできない。
また,原告は,業務執行組合員である被告会社にコンサルタント報酬名下に資金が環流する仕組みが存していたのに,これを秘して原告に各投資事業組合への出資をさせたことをも問題とするようであるが,これも結局は,投機性の高さを左右する情報の一つに過ぎないところ,金融商品取引業者としての被告会社がこれを説明する義務を負うことは格別,被告Y1や被告Y2が原告との関係でこれを説明する具体的義務を直接負っていたと解することは困難である。
以上によれば,被告Y1や被告Y2が,原告に対し直接に共同不法行為を行ったとみるのは困難で,被告Y1や被告Y2に共同不法行為責任を認めることはできない。
ところで,被告Y1及び被告Y2は,被告会社のベンチャー企業への投資をうたう(甲1)被告会社の代表取締役として,いずれも各投資事業組合への出資に係る投資が投機性の高いものであることを認識していたものと認められる。また,被告会社においては主な顧客を個人投資家と定めていたのであるところ,個人投資家の投資経験や投資資金の性格等が一様ではないことは明らかであるから,被告会社において,各個人投資家に応じ,場合によっては直接面談し,逐次理解度を確認しながら書面に基づき口頭で具体的に説明し,顧客に投資の危険性等について具体的に理解させる義務が生じることを認識していたというべきである。
さらに,被告Y1及び被告Y2は,原告が各投資事業組合への出資を行った当時の代表取締役として職務を遂行するに当たり,上記説明義務を実行するため,Bら各従業員に対し,原告ら一般投資家らへの説明義務を果たすよう指導し,これに必要な書面を作成したり,説明が確実に履践されるよう確認用書面を制定する等の社内体制の整備を行ったりすべき職務上の義務があった。
しかるに,被告らから原告との交渉経過や,取引を行った際の説明事項の確認書面等が提出されていないことからすると,被告Y1や被告Y2は,これら説明が確実に履践されるような社内体制の整備を十分に行っていなかったものと認められる。
この点,被告Y1は,営業担当者の上司によるチェック体制があった,A4版用紙2枚程度の営業マニュアルを備えていた,営業担当者に対しては投資に伴うリスクの説明を必ず行うよう指導していた等供述するが(乙15,被告Y1本人),裏付けがない上,原告との関係で実効的な措置が執られていた形跡がなく,直ちに採用できない。
また,被告Y2においても,営業担当者に対し,顧客とトラブルになるようなことをしないよう指導したり,断定的判断の提供と誤解されかねないような言動を耳にした場合は直接注意したこともある旨供述するが(乙16,被告Y2本人),これも裏付けがない上,原告との関係で実効的な措置が執られていた形跡がなく,直ちに採用できない。
以上によれば,被告Y1及び被告Y2は,いずれも代表取締役としての任務懈怠があり,これについて少なくとも重過失があるものと認められ,これの懈怠により原告は各投資事業組合への出資金相当額及び弁護士費用相当額の損害を被ったと認められ,被告Y1及び被告Y2は,いずれも会社法429条1項の損害賠償責任を負う。その遅延損害金の起算日は,履行の請求を受けた時であるところ(最高裁判所第一小法廷判決平成元年9月21日判例タイムズ714号83頁参照),本件では被告Y1及び被告Y2が履行の請求を受けた時は各自への訴状送達の日である。
6 過失相殺の可否
前記のとおり,各投資事業組合への出資の勧誘が詐欺あるいは詐欺同然とまでいうことはできない。
他方,原告にあっては遅くとも最初のアグリ・ヴァンティアン投資事業組合への出資の後,次の出資までには被告会社から送付されたはずの投資事業組合契約書(甲9)の確認も十分に行っていないこと(原告は,自身の陳述書(甲32)についてすら,原告はさらっと読んだがきちんと確認していない旨法廷で供述した。),過去に投資被害に遭った経験もあって,もうけ話には危険が伴うことを想起できたのに,結局,出資を行ったといううかつな面も否めないことも認められる。
以上からすると,原告の損害賠償請求については過失相殺を行うのが相当であり,その割合は上記諸事情を勘案すると3割とするのが相当である。
7 計算関係
以上によれば,被告会社については不法行為に基づく損害賠償債務として,被告Y1及び被告Y2についてはいずれも会社法429条1項所定の損害賠償債務を負う。
原告の出資金相当損害金額は合計250万円である。
原告には3割の過失相殺を行うべきであるから,これに0.7を乗じた額,すなわち175万円が過失相殺後の出資金相当損害金額となる。
弁護士費用相当損害金については,これの1割について相当因果関係が認められ,その額は17万5000円である。
これらを合計すると,認容すべき損害賠償額は,192万5000円である。
8 まとめ
以上で検討したところによれば,原告の被告会社に対する主位的請求は,192万5000円及び最後の出資の日の翌日である平成21年2月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を請求する限度で理由があるが,その余の被告会社に対する主位的請求は理由がないことに帰する。
原告の被告会社に対する第1次予備的請求は,主位的請求を同じ損害についての賠償を求めるものであるところ,主位的請求で理由がないものとした部分については,主位的請求と同様に過失相殺を行うべきであるから,第1次予備的請求のうちの同部分についても理由がないことに帰する。
原告の被告会社に対する第2次予備的請求のうち,主位的請求で棄却した額に相当する部分について検討するに,これは組合脱退清算金の請求であるが,主位的請求が出資金相当損害金の請求であり,この額が第2次予備的請求の額を上回っていることからすると,主位的請求を認容した以上は最早存在しないものとみるべきで,理由がないことに帰する。
原告の被告Y1及び被告古野に対する主位的請求は,前記のとおり理由がない。
原告の被告Y1及び被告Y2に対する予備的請求は,192万5000円及びこれに対するそれぞれへの訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年5%の割合による金員を請求する限度で理由があるが,その余は理由がないことに帰する。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 足立堅太)
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