判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(131)平成26年10月17日 東京地裁 平25(ワ)8011号 報酬請求事件(本訴)、反訴請求事件(反訴)
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(131)平成26年10月17日 東京地裁 平25(ワ)8011号 報酬請求事件(本訴)、反訴請求事件(反訴)
裁判年月日 平成26年10月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)8011号・平25(ワ)32723号
事件名 報酬請求事件(本訴)、反訴請求事件(反訴)
裁判結果 本訴一部認容、反訴請求棄却 文献番号 2014WLJPCA10178003
要旨
◆投資顧問業を営む原告が、投資ファンドの運用者である被告との間で、投資顧問契約を締結したと主張して、同契約に基づく報酬等の支払を求めた(本訴)ところ、被告が、原告に対し、原告が被告の運用しているファンドに帰属すべき株式を奪い、被告のファンドに対する受益権を侵害して損害を与えたと主張して、不法行為に基づく損害賠償を求めた(反訴)事案において、原告は、金融商品取引法上の投資助言業の登録をしていないが、登録義務の例外規定に該当するから、同法上、原告が投資助言業務を行うことができないことを前提とする本件投資顧問契約の錯誤無効に係る被告主張は前提を欠き、また、本件投資顧問契約は期間満了または被告のやむを得ない事由に基づく解除により終了していないなどとして、本訴請求を一部認容する一方、被告は原告に対して損害賠償請求権を有しないとして、反訴請求を棄却した事例
参照条文
民法95条
民法651条
民法709条
金融商品取引法61条
裁判年月日 平成26年10月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)8011号・平25(ワ)32723号
事件名 報酬請求事件(本訴)、反訴請求事件(反訴)
裁判結果 本訴一部認容、反訴請求棄却 文献番号 2014WLJPCA10178003
平成25年(ワ)第8011号 報酬請求事件(以下「本訴」という。)
平成25年(ワ)第32723号 反訴請求事件(以下「反訴」という。)
ケイマン諸島,グランド・ケイマン〈以下省略〉
本訴原告・反訴被告 ドラゴン・キャピタル・アドバイザリー・リミテッド
同代表者取締役 A
同訴訟代理人弁護士 岡田和樹
同 高橋茜莉
東京都千代田区〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告 キャピタルアセットマネジメント株式会社
同代表者代表取締役 B
同 C
同訴訟代理人弁護士 冨永敏文
主文
1 本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)は,本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。)に対し,金3億3696万4463円及び内金2974万8146円に対する平成23年12月28日から支払済みまで,内金4076万9031円に対する平成24年6月27日から支払済みまで,内金3787万7214円に対する平成24年12月26日から支払済みまで,内金1億0953万5738円に対する平成25年6月26日から支払済みまで,内金1億1903万4334円に対する平成25年12月26日から支払済みまで,年6%の割合による各金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,金8882万4680円に対する平成26年3月29日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,金4057万6601円及び平成26年5月27日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 被告の請求を棄却する。
6 訴訟費用は,本訴,反訴を通じ,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
7 この判決は,第1項,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
(1) 主文1項と同じ。
(2) 被告は,原告に対し,金1億5191万6181円及びこれに対する平成26年6月26日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(3) 主文3項と同じ。
2 反訴
原告は,被告に対し,金6635万8453円及びこれに対する平成25年10月30日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本訴は,投資顧問業を営む原告が,投資ファンドの運用者である被告との間で,投資顧問契約を締結した旨主張して,投資顧問契約に基づき,①報酬合計3億3696万4463円(但し,平成23年12月27日支払期限の報酬2974万8146円,平成24年6月26日支払期限の報酬4076万9031円,平成24年12月25日支払期限の報酬3787万7214円,平成25年6月25日支払期限の報酬1億0953万5738円,平成25年12月25日支払期限の報酬1億1903万4334円の合計金額)及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(本訴請求(1)),②報酬1億5191万6181円(但し,平成26年6月25日支払期限の報酬)及びこれに対する支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(本訴請求(2)),③弁護士報酬4057万6601円及びこれに対する訴えの変更申立書送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(本訴請求(3))を求める事案である。
反訴は,被告が,原告に対し,原告が,被告の運用しているファンドに帰属すべき株式を奪い,もって被告のファンドに対する受益権を侵害して被告に損害を与えた旨主張し,不法行為に基づく損害賠償として,6635万8453円及びこれに対する不法行為の日である平成25年10月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠の付記していないものは,当事者間に争いがないか,争うことを明らかにしない事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は,ベトナムの株式等に対する投資活動で著名な投資グループであるドラゴン・キャピタルグループ(以下「原告グループ」という。)に属しているところ,被告に投資助言を提供するために,被告との間で投資顧問契約を締結する会社として設立された。
イ 被告は,平成16年1月に設立され,第二種金融商品取引業,投資助言・代理業及び投資運用業の登録を受けて,新興国株式を投資対象としたファンドの運営などの事業を営む株式会社である。また,被告は,訴外キャピタル・パートナーズ証券株式会社(以下,「CPS」という。)の子会社である。(甲2,4~6,乙5)。
(2) 本件ファンドと本件投資顧問契約
ア 本件ファンドの組成
被告の親会社であるCPSと原告グループは,平成17年に,ベトナム株を投資対象として,クローズド・エンド型の会社型ファンドであるベトナム・ドラゴン・ファンド・リミテッド(以下,「VDF」という。)を組成し,原告グループに属する会社が運用を担当した(甲19,乙7,被告代表者C)。
その後,被告は,VDFをオープン・エンド型のファンドとして再組成することを企図し,原告グループの名前を冠した「ドラゴン・キャピタル・ベトナムファンド」(以下,「本件ファンド」という。なお,本件ファンドの名称は,平成24年11月,被告により,「CAMベトナムファンド」に変更された。)をベビーファンドとして組成し,マザーファンドである「ドラゴン・キャピタル・ベトナムマザーファンド」(以下,「本件マザーファンド」という。)に投資する仕組みを計画した(甲6)。本件ファンドは,平成22年10月から平成23年2月にかけてVDFの全資産を取得し,これに伴ってVDFは解体され,VDFの投資家に本件ファンドの受益権が分配された(甲7)。
イ 本件投資顧問契約の締結
原告は,被告との間で,平成22年9月29日,原告が,被告に対し,本件マザーファンドが行うベトナム関連企業の株式に関する投資に関し,助言,投資方針の提案,定期報告用の資料作成等のサービスを提供し,他方,被告が原告に対し,一定の計算式に基づいて報酬(以下,「本件報酬」という。)を支払う合意を含む投資顧問契約(以下「本件投資顧問契約」という。)を締結した(甲8)。
ウ 本件投資顧問契約における本件報酬についての規定
本件投資顧問契約6.1条は,本件報酬について,下記のとおり定めている(甲8)。
記
① 各計算期間における平均日額として計算される,本件ファンドの純資産価格の0.9%に相当する金額の顧問料(以下「本件顧問料」という)を,被告は,各計算期間の末日から15日以内に(本件投資顧問契約が解除された場合は,直ちに日割計算として),原告に支払う。
② 毎日計算され半年ごとに支払われる,基準価格がハイウォーターマーク価格を超えた場合の,当該超過分の金額の10%に相当する運用報酬(以下「本件運用報酬」という。)を,被告は,各計算期間の末日から15日以内に(本件投資顧問契約が解除された場合は,直ちに日割計算をして),原告に支払う。
なお,本件投資顧問契約には,本件報酬の計算の基礎となる「計算期間」の定義規定がないが,「本契約(中略)に含まれるその他の語および表現は,本契約の日付の時点の親信託契約(中略)におけるのと同じ意味を有する。」という解釈規定がある(甲8)。ここでいう「親信託契約」とは,被告と三菱UFJ信託銀行株式会社との間の平成22年6月4日付け「親投資信託 ドラゴン・キャピタル・ベトナムマザーファンド信託約款」(甲9の2)をいう。この34条によると,「計算期間」は,「毎年6月11日から12月10日および12月11日から6月10日までとする」とされ,計算期間終了日が休業日の場合は,翌営業日が終了日で,その翌日から計算期間が開始するとされている。そこで,本件の計算期間は,①平成23年6月11日から同年12月12日,②平成23年12月13日から平成24年6月11日,③平成24年6月12日から同年12月10日,④平成24年12月11日から平成25年6月10日,⑤平成25年6月11日から同年12月10日,⑥平成25年12月11日から平成26年6月10日となる。
エ 本件投資顧問契約における契約期間についての規定
本件投資顧問契約9.1条は,「本契約は本契約の日付(平成22年9月29日)に効力を生じ,3年間(以下「当初期間」という)有効である。当初期間の満了後,本契約は自動的に1年間延長され,その後も同様とする。ただし,当初期間の経過後は,いずれの当事者も,相手方に6か月以上前に書面で通知することにより本契約を解除できる」旨定めている(甲8)。
(3) 被告による本件報酬の不払いと解除通知
ア 被告は,本件報酬として,平成23年1月18日に金513万3393円,平成23年7月29日に金4988万4297円をそれぞれ原告に支払った。ところが,被告は,本件報酬の各支払期限である平成23年12月27日,平成24年6月26日及び同12月25日に,本件報酬を支払わなかった。被告は,本件報酬として,平成24年8月10日に800万円,同年9月12日に800万円をそれぞれ原告に支払ったが,その後,現在まで本件報酬の支払をしていない。
イ 被告は,原告に対し,平成24年8月7日付けで,本件投資顧問契約を解除する旨の通知をした(甲14)。
2 争点
(本訴関係)
(1) 本件投資顧問契約が,被告の錯誤を理由に無効となるか(争点1)
(2) 本件投資顧問契約が,平成24年8月7日付け解除により終了したか(争点2)
(3) 平成24年8月7日付け解除以前の未払報酬が,信義則により減額されるか(争点3)
(4) 原告が,平成25年3月1日以降,本件投資顧問契約に基づく投資助言提供義務について履行不能となったか(争点4)
(5) 本件投資顧問契約が,平成25年9月28日をもって,3年の契約期間満了により終了したか(争点5)
(6) 本件投資顧問契約が,平成25年10月30日をもって,被告のやむを得ない事由に基づく解除により終了したか(争点6)
(7) 本件投資顧問契約が,平成26年3月28日をもって,本件投資顧問契約9.1条ただし書きに基づく解除により終了したか(争点7)
(8) 本件報酬の算定方法及び金額(争点8)
(9) 弁護士報酬の請求が認められるか(争点9)
(反訴関係)
(10) 被告が,反訴請求において,当事者適格を有するか(争点10)
(11) 被告が,原告に対して,損害賠償請求権を有するか(争点11)
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(本件投資顧問契約が,被告の錯誤を理由に無効となるか)について
【被告の主張】
ア 原告は,本件投資顧問契約11.1条において,「自らが本件投資顧問契約を締結し本件投資顧問契約に基づく自らの義務を履行するための,完全なる行為能力,権限,同意および規制当局の許可または登録を有していることを確認し,これを約する」旨表明保証しているところ,原告が,上記表明保証に違反している場合には,金融商品取引法(以下「金商法」という。)上,投資助言業務を行うことができないことは明らかであるから,上記表明保証の内容は,本件投資顧問契約の要素である。したがって,原告が上記表明保証に違反して投資助言業務を行うことができない者であるときは,本件投資顧問契約は錯誤により無効である。
そこで,原告が上記表明保証に違反して投資助言業務を行うことができない者であるかについて検討するに,原告は,金商法上,金融商品取引業の登録をしておらず,また,金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」にも該当しないので,原告は,金商法上,投資助言業務を行うことができないというべきである。
なお,原告は,金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に原告が該当する旨主張する。しかし,金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」とは,外国において投資顧問契約を締結し,当該投資顧問契約に基づき助言を行う者であると解されるところ,原告は,被告と本件投資顧問契約を締結するために設立された会社であり,他の投資運用会社との間では投資顧問契約を締結していないのであるから,金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当しない。
イ 原告は,上記表明保証に対し,被告が何らの調査・確認もせずに漫然とこれを信じたことが被告の重過失である旨主張する。
しかし,表明保証とは,表明保証した者が表明保証した事項に誤りがないことを表明し保証することであり,これについて責任を持つということである。原告の表明保証事項を被告が調査,確認せずに信じたことが被告の重過失になるのであれば,表明保証事項に誤りがあった場合に責任が被告に転嫁されることになるが,このような解釈は,表明保証条項を無意味なものにする誤った解釈である。したがって,被告に重過失は認められない。
ウ 以上によれば,本件投資顧問契約は,被告の錯誤により無効であり,本件投資顧問契約に基づく報酬は発生しない。
【原告の主張】
ア 金商法61条1項は,「外国の法令に準拠して設立された法人(中略)で外国において投資助言業務を行う者」は,金融商品取引業の登録を受けることなく,「金融商品取引業者のうち投資運用業を行う者その他政令で定める者」(いわゆる「投資のプロ」)のみを「相手方として投資助言業務を行う」ことを認めている。金商法が,このような登録義務の例外を認める趣旨は,「投資のプロ同士」の取引であり,外国法人を規制することによって投資者を保護する必要性は低いと考えられるためである。この趣旨からすれば,外国法人が,投資助言を提供するための能力を有する「投資のプロ」であれば,金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当し,「投資のプロ」を相手方として,登録を受けることなく投資助言業務を行なうことができると解される。
原告の属する原告グループは,ベトナムの株式等に対する投資活動で著名な投資グループであり,原告が被告に対し,ベトナム株の投資について助言する能力を有する「投資のプロ」であることは明らかである。よって,原告は,金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当し,被告に対し,投資助言業の登録を受けることなく,投資助言を提供することができるから,この点につき,被告に錯誤はない。
イ 上記アとは別に,そもそも,原告は,本件投資顧問契約11.1条において,自らが日本の金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当し,日本法上,被告に対して適法に投資助言を提供できることを表明保証していない。なぜなら,原告は,日本国外の投資グループに属するケイマン法人であって,本件投資顧問契約において,原告が日本法に関する表明保証を行なうことは想定されていないからである。また,被告は,「ベトナム株への投資で著名な原告グループ」を本件ファンドの投資顧問に据えることを企図して本件投資顧問契約を締結したのであり,契約の相手方となる原告の日本法上の位置づけには関心がなかったから,被告の主張する錯誤は生じ得ない。
よって,被告が,本件投資顧問契約11.1条の表明保証を信じたとしても,被告には,原告が「外国において投資助言業務を行う者」に該当することについての錯誤はない。
ウ 仮に,被告に錯誤があったとしても,被告には,以下に述べるとおり重過失があるので,本件投資顧問契約の錯誤無効を主張することはできない(民法95条但書)。
被告は,第二種金融商品取引業,投資助言・代理業及び投資運用業の登録を受けて事業を営む会社であるから,金商法の定める登録義務について十分な知識を有していることは明らかである。それにもかかわらず,ケイマン法人で,かつ日本国外の投資グループに属する原告が,本件投資顧問契約11.1条により,金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当するとの表明保証を行なうに際して,被告が何らの調査・確認もせずに漫然とこれを信じたのであれば,被告には重過失がある。
したがって,被告には,錯誤に陥ったことについて重過失があるので,原告の表明保証違反に起因する錯誤に基づいて,本件投資顧問契約の無効を主張することはできない。
エ 以上のとおり,被告には錯誤がないため,本件投資顧問契約が錯誤により無効となる余地はない。また,仮に錯誤があったとしても,錯誤に陥ったことについて重過失があるので,被告は本件投資顧問契約の無効を主張できない。
(2) 争点2(本件投資顧問契約が,平成24年8月7日付け解除により終了したか)について
【被告の主張】
ア 被告は,本件ファンドの投資運用者であり,原告は,本件ファンドの投資助言者であるところ,金商法は,投資運用者に対して,投資家に対する忠実義務及び善管注意義務を課し(42条),また,投資助言者に対して,顧客に対する忠実義務及び善管注意義務を課すとともに(41条),「顧客相互間において,他の顧客の利益を図るため特定の顧客の利益を害することとなる取引を行うことを内容とした助言を行うこと」を禁じている(41条の2,1号)。そうすると,原告が,金商法に規定された投資助言者の上記義務に違反し,その結果,投資助言の委託者(被告)の受託者(原告)に対する信頼関係が破綻した場合には,被告は,本件投資顧問契約を解除することができるというべきである。上記のような場合に,被告が,原告からの利益相反助言に基づき本件ファンドの運用を継続することは,被告の投資家に対する忠実義務及び善管注意義務に違反することになるからである。
そして,本件投資顧問契約は,継続的な業務委託契約であるから,民法上の準委任契約である。したがって,受任者である原告が著しく不誠実な行為に出た等やむをえない事由がある場合,委任者である被告は,民法651条2項但書に則り,本件投資顧問契約を解除することができる。
イ 原告は,次のとおり,被告に対して,不誠実な助言行為をしている。
(ア) 原告の助言担当者であるD(以下「D」という。)は,被告の代表者であり運用担当者であるC(以下「C」という)に対し,平成23年3月19日頃,電話で,Cが同月15日から18日にかけてMASAN株を売却したことに対し,原告が他のファンドで運用するMASAN株が値崩れを起こすので売却を止めるよう強い口調で助言したので,Cは,以後,MASAN株の売却を中止した。
MASAN株は流動性の低い株式であり,本件ファンドはこれを流動性の高い株式に組み替えて運用する必要があるが,原告が他のファンドで運用するMASAN株の株価下落を回避するために,同株の売却を止めるよう助言するのは利益相反行為であり,著しく不誠実な助言行為である。
(イ) 原告の助言担当者であるE(以下「E」という)は,Cに対し,平成23年3月下旬から4月初旬頃,電話で,Cが,同年3月下旬にOYM株35万5000株を売却したことに対し,同株を売却するためにはカナダとオーストラリアに届出が必要と助言して同株の売却を中止させたが,実際には届出は不要であった。また,Eは,OYM株を市場で売却すると値崩れを起こすので止めるようにとも助言した。そして,Dも,Cに対し,同年4月,電話で,OYM株を市場で売却すると値崩れを起こすので,被告単独でOYM株を売却しないよう助言した。Cは,D及びEの上記助言により,その後1年以上OYM株を売却しなかったが,その間にOYM株の株価は大きく下落した。
OYM株は流動性の低い株式であり,本件ファンドはこれを流動性の高い株式に組み替えて運用する必要があるが,原告の属するグループが他のファンドで運用するOYM株の株価下落を回避するために,原告が,被告に対して,同株を売却することを止めるよう助言するのは利益相反行為であり,また,原告の所属するグループがOYMとの間で一定期間OYM株を売却しないことを合意し,これを遵守するために同株の売却中止を助言することも利益相反行為であり,著しく不誠実な助言行為である。
(ウ) Dは,Cに対し,平成24年2月,電話で,被告がビナミルク株を売却しようとしたところ,他のファンドと合同で売却するように持ちかけた。その結果,結局売れず,半年以上経過した後に,被告が単独で同株を売却した。
投資信託協会が,「投資信託及び投資法人に関する法律」に則り制定した「投資信託等の運用に関する規則」8条の2は,一括発注の運営等について,①市場取引開始前(後場を含む)までに発注部門に到達した有価証券の売買注文,②市場取引中に発注部門に到達した有価証券の売買注文についてのみ一括注文を認めている。同法及び同規則の趣旨は,基本的に複数の投資信託の運用をまとめて発注することは,運用者の恣意性が働く危険性があるので避けなくてはならないが,上記①②の場合は,運用部門から独立した発注部門が複数の注文を一括するという行為なので,売買手数料削減の見地から,これを例外的に認めるということである。
ところが,原告は,被告が運用する本件ファンドの株式と原告が運用するファンドの株式の売却について,同規則8条の2に定められた一括発注の規則に背く助言を意図的に行っており,これは著しく不誠実な助言行為である。
ウ よって,被告のした平成24年8月7日付け解除は有効であり,これにより本件投資顧問契約は終了した。
【原告の主張】
ア そもそも,本件投資顧問契約は,ベトナム株に投資する公募の投資ファンド(本件ファンド)のファンド・マネージャーである被告が,ベトナム株への投資についての専門的な投資助言を受けられるようにするために,ベトナム株への投資の分野で著名な原告グループに属する原告との間で締結した契約であり,民法の想定する準委任契約とは,全く性質を異にしている。したがって,本件投資顧問契約は,民法上の準委任契約ではなく,非典型契約としての投資顧問契約である。
また,本件投資顧問契約は,公募ファンドの仕組みの一環として締結された「サービスと情報」を提供する契約であり,当事者双方の対人的信用関係を基礎とする契約ではない。したがって,仮に本件投資顧問契約が民法上の準委任契約に当たるとされたとしても,当事者間で交渉の上,契約に限定列挙された解除事由を超えて,契約に定めのない「やむをえない事由」に基づく解除を,委任者である被告に認めるべき理由など一切ないことは明らかである。
イ 上記アのとおり,被告に「やむをえない事由」に基づく解除を認めるべき理由など一切ないことは明らかであるが,原告は,次のとおり,被告の主張する「著しく不誠実な行為」を行なっておらず,「やむを得ない事由」も一切ない。
(ア) 本件ファンドが,「ドラゴン・キャピタル」の名前を冠していることや,原告グループが運用していたファンドであるVDFを再組成した経緯からしても,本件ファンドの運用成績は,原告グループのマーケットにおける信用に直接影響する(つまり,「ドラゴン・キャピタル・ベトナムファンド」の運用成績が劣悪であれば,マーケットにおける「原告グループ」の信用が失墜することは,自明の理である)。また,本件ファンドの運用成績が良好であれば,原告が本件投資顧問契約に基づいて得る本件報酬の金額も高くなるのであるから,原告には,本件ファンドの運用成績を高めるように助言する強い経済的インセンティブもある。したがって,そもそも,原告が,原告グループが運用する他のファンドの利益のために,本件ファンドの利益を犠牲にして,被告の株式売却を阻止・妨害するという利益相反行為を行なう理由は全くない。
(イ) 原告グループは,本件ファンドと運用資産の共通する複数のファンドを運用しているが,このことは,本件投資顧問契約締結当時から被告も十分に承知していた。本件投資顧問契約3.5条にも,「本契約に基づく投資顧問のサービスはマネージャーのみを対象とするものではなく,投資顧問はマネージャーの同意を得ずとも他の法人等に同種のサービスを提供することができる」旨の記載がある(甲8の1・4頁,甲8の2・5頁)。また,ベトナムの上場株式市場は小規模であるため,ベトナムに重点を置いた複数のファンドの運用資産が共通するのは,いわば当然のことである。よって,原告が,本件ファンドと共通の運用資産を有する他のファンドを運用しつつ,本件ファンドについて助言することが,本件投資顧問契約の締結後になって,当事者間の「信頼関係を破綻させる」利益相反行為となるはずもない。
ウ よって,被告のした平成24年8月7日付け解除は無効であり,これにより本件投資顧問契約は終了していない。
(3) 争点3(平成24年8月7日付け解除以前の未払報酬が,信義則により減額されるか)について
【被告の主張】
本件ファンドについては,本件ファンドを流動性の高い株式で運用し,いつでも償還請求に応じられるようにすることが至上命題であった。ところが,原告は,流動性の低い株式を売却して流動性の高い株式に組み替える運用を阻む助言を行い,本件ファンドの利益に反する行為をした。
また,原告の助言を受けて本件ファンドを運用した期間の運用成績と,原告の助言を受けずに運用した期間の運用成績を比較しても,前者の超過リターンが同期間の運用手数料を控除すると投資家にほとんど利益をもたらさない運用成績であったのに対し,後者の超過リターンは投資家に多額の利益をもたらしている。さらに,Cが,E及びDから被告単独でOYM株を売却しないよう警告され,その結果,多額の損害が発生した。
以上によれば,原告は,善良な管理者の注意義務をもって被告に対して助言を行っていないので,平成24年8月7日付け解除以前の報酬は信義則により減額されるべきである。
【原告の主張】
争う。
原告は,本件ファンドの利益に反する行為をしておらず,また,本件マザーファンドにより行なわれる投資は被告のみの責任であり,原告はこれについて責任を負うことない。
(4) 争点4(原告が,平成25年3月1日以降,本件投資顧問契約に基づく投資助言提供義務について履行不能となったか)について
【被告の主張】
ア 原告グループは,法規制の緩やかであったベトナム証券市場(投資助言業及び投資運用業の登録(免許)が不要であった)において,投資助言業及び投資運用業を行ってきたが,ベトナムでは,平成25年3月1日から,投資助言業及び投資運用業を行うためには登録(免許)が必要になった。すなわち,平成25年3月1日から施行された通達(以下「本件通達」という。乙15)によって,ベトナムにおける証券投資助言業は,国家証券委員会の免許を必要とする証券会社と資産運用会社だけが行えることが明確にされた。
イ ところが,原告は,本件通達が定める上記登録(免許)を行っていないので,平成25年3月1日からは,外国(原告の場合はベトナム)で適法に投資助言業務を行える外国法人ではなくなり,金商法61条1項の規定する「外国において投資助言業務を行う外国法人」に該当しえなくなった。
ウ したがって,原告は,平成25年3月1日以降は,被告に対し投資助言業務を行う資格がなく,被告に投資助言を行うことができない(履行不能)ので,少なくとも同日以降は本件報酬が発生することはない。
【原告の主張】
ア 本件通達は,ベトナムにおける資産運用会社の設立,組織及び業務のための要件や手続を定めたものであるが,原告には適用されない。すなわち,本件通達は,ベトナム国内で設立された資産運用会社(ファンド・マネージャー)にのみ適用されるものであるから,ケイマン法人で,かつ資産運用会社でない原告には適用されない。
イ したがって,原告は,平成25年3月1日以降も,被告に対し投資助言業務を行う資格を有しており,被告に投資助言を行うことができるので,この点に関する被告の主張は失当である。
(5) 争点5(本件投資顧問契約が,平成25年9月28日をもって,3年の契約期間満了により終了したか)について
【被告の主張】
ア 本件投資顧問契約9.1条は,「本契約は,本契約の日付(平成22年9月29日)に効力を生じ,3年間有効である。」と規定している。
イ 被告は,平成24年8月7日に本件投資顧問契約を解除し,また,本件訴訟において一貫して解除の意思を表明しているから,3年の契約期間満了により,平成25年9月28日に本件投資顧問契約は終了した。
なお,原告は,被告が上記解除の意思表示をしても,本件投資顧問契約は1年間自動更新される旨主張するが,契約期間満了を理由に更新拒絶することができないなら,契約期間を定めた意味がなく,原告の主張は,契約期間は4年であると主張しているのに等しいが,これは契約期間を定めた上記の「本契約は,本契約の日付に効力を生じ,3年間有効である。」との規定に反する。
【原告の主張】
ア 本件投資顧問契約9.1条は,「当初期間の満了後,本契約は自動的に1年間延長され,その後も同様とする。ただし当初期間の経過後は,いずれの当事者も,相手方に6か月以上前に書面で通知することにより本契約を解除できる。」と定めている(甲8)。その文言からして明らかなとおり,この規定は,契約期間の満了時に合わせた「更新拒絶」を定めた規定ではなく,あくまで契約期間中にすることのできる「解除」を定めた規定である。仮に,「更新拒絶」を認める趣旨であれば,契約期間の「満了前」に書面で通知することによって契約期間満了により契約を終了させられるのであるから,かかる文言が用いられるはずがない。
イ したがって,本件投資顧問契約9.1条は,本件投資顧問契約の当初期間経過後の「解除」の規定であり,「更新拒絶」の規定でないことは明らかであるから,本件投資顧問契約が,当初の契約期間満了日である平成25年9月28日をもって終了することはない。
また,仮に,本件投資顧問契約9.1条が,契約期間の満了時に合わせた「更新拒絶」を定めたものであったとしても,被告は,原告に対し,本件投資顧問契約の更新を拒絶する旨を通知していない。よって,いずれにせよ,本件投資顧問契約が,平成25年9月28日をもって終了することはない。
(6) 争点6(本件投資顧問契約が,平成25年10月30日をもって,被告のやむを得ない事由に基づく解除により終了したか)について
【被告の主張】
ア 原告グループの代表者であるFが代表者を務めるベトナム・リソース・インベストメンツ・ケイマン・リミテッド(以下「VRICL社」という。)は,MASAN社株2977万0465株に転換できる転換社債(以下「本件プロミサリー・ノート」という。)を保有していた。そして,VRICL社の株式は,Fが代表者を務めるPNホールディング社が100%を保有し,PNホールディング社の株式は,本件ファンドが約18.5%,原告グループが運用するファンドであるベトナム・エンタープライス・インベストメント・リミテッド(以下「VEIL」という。)が約47.5%,原告グループが運用するファンドであるアマーシャム・インダストリーズ・リミテッド(以下,「AIL(VGF)」という。)が約34.0%を保有していた。
したがって,本件プロミサリー・ノートの転換権の行使により,本来,MASAN社株2977万0465株がVRICL社に発行され,同株式は,その約18.5%をVRICL社から本件ファンドに,その約47.5%をVRICL社からVEILに,その約34.0%をVRICL社からAIL(VGF)に帰属させなければならない。したがって,本件ファンドに帰属すべき株式は,本来,549万3436株(2977万0465株×約18.5%)であった。
ところが,平成25年10月30日,本件プロミサリー・ノートの転換権の行使により,MASAN社株2977万0465株は,VRICL社に対し531万8974株,VEILに対し1370万4017株,AIL(VGF)に対し980万2014株,原告グループに属するDCMLに対し94万5460株が発行された。
以上の結果,VRICL社に発行された531万8974株が将来本件ファンドに帰属するとしても,本件ファンドは17万4462株(549万3436株-531万8974株)を奪われた。
MASAN社が,本来VRICL社に発行すべき2977万0465株を,上記のとおりVRICL社,VEIL,AIL(VGF)及びDCMLに上記のとおり発行したということは,MASAN社,VRICL社,VEIL,AIL(VGF)及びDCMLとの間で,上記の発行を合意したということである。すなわち,上記の発行合意及び同合意に基づく同発行は,本件ファンドに帰属すべき17万4462株を本件ファンドから奪う不法行為であるが,原告らは,これを共謀して行ったのである。
イ さらに,本件プロミサリー・ノートの転換権の行使により発行されたMASAN株は,原告グループの指示により,原告グループが運用するVEILやAIL(VGF)には直接帰属するように発行されたが,本件ファンドに対しては直接帰属するように発行されず,VEILやAIL(VGF)と比較して本件ファンドは不利な取り扱いを受けた。本件プロミサリー・ノートの転換権の行使により本件ファンドに帰属すべきMASAN株は本件ファンドの運用資産の約25%を占める重要資産である。仮に,MASAN株が本件ファンドに直接帰属していれば,その半数は発行から約1年を経過した平成26年10月に市場で売却することができ,残りは平成27年10月に市場で売却することができた。
ところが,MASAN株が本件ファンドに直接帰属しなかった結果,本件ファンドが同株式を取得するには平成27年10月まで待たなければならない。Cは,本件ファンドの流動性を高めるために流動性の低いMASAN株をすべて売却しており,本件ファンドにとって,MASAN株をいつ売ることができるのかは極めて重要なことである。
ウ 受任者である原告が著しく不誠実な行為に出た等,やむを得ない事由がある場合には,被告は,本件投資顧問契約を解除することができるところ,上記ア及びイの事実は上記やむを得ない事由に該当する。そして,被告は,本件訴訟で,受任者である原告が著しく不誠実な行為に出た等やむを得ない事由に基づく解除を主張しているので,遅くとも平成25年10月30日には,本件投資顧問契約は被告の解除により終了した。
【原告の主張】
ア 争点2に対する原告の主張アのとおり,そもそも,被告は,やむを得ない事由に基づき,本件顧問契約を解除することはできない。
イ また,原告は,VRICL社と直接の関係はなく,MASAN株の発行にも一切関与していない。よって,原告が,本件マザーファンドからMASAN株を奪ったという被告の主張が成り立つ余地はない。
ウ さらに,次のとおり,本件ファンドまたは本件マザーファンドの運用資産への損害は存在しない。
すなわち,VRICL社が保有していた本件プロミサリー・ノート(計5通)は,MASAN株2977万0465株に転換できるものであったが,本件マザーファンドを含む,VRICL社の親会社たるPNホールディングス・リミテッドの株主が持分を有するのは,そのうちの4通(MASAN株2882万5005株に転換できる分)のみであった。この4通のプロミッサリー・ノート(及びその転換により発行されるMASAN株)に対するPNホールディングス・リミテッドの株主の持分は,ケイマン法に準拠した株主間契約(乙17)に基づき,各株主の保有割合に応じて決定されるため,本件プロミサリー・ノートの転換により,本件マザーファンドが持分を有するMASAN株は531万8974株である(2882万5005株×本件マザーファンドの保有割合18.452637037%,小数点以下切り上げ)。そして,VRICL社は,本件マザーファンドのために,その持分に応じたMASAN株531万8974株の発行を現に受けたものであるから,原告が本件マザーファンドからMASAN株を奪った事実はなく,本件ファンドまたは本件マザーファンドの運用資産に損害も生じていない。
なお,5通目のプロミッサリー・ノートは,ドラゴン・キャピタル・グループ・リミテッドがベトナム・リソーシズ・インベストメンツ・ホールディングス・リミテッド及びVRICL社を経由して,ベトナムの鉱業プロジェクトに提供したローン(甲23の1~9)のリストラクチャリングとして発行されたものであり,原告,被告または本件ファンド・本件マザーファンドのいずれにも関係がない。
(7) 争点7(本件投資顧問契約が,平成26年3月28日をもって,本件投資顧問契約9.1条ただし書きに基づく解除により終了したか)について
【被告の主張】
平成25年9月28日までの解除通知及び本件訴訟における解除の主張は,更新後の解除通知と認められるから,本件投資顧問契約9.1条ただし書きにより,平成26年3月28日に本件投資顧問契約は終了し,翌29日以降の報酬請求権は発生しない。
【原告の主張】
当初の契約期間満了日である平成25年9月28日までの解除通知や解除の主張が,更新後の解除通知と認められる余地はない。また,同日以降についても,本件投資顧問契約9.1が「当初期間の経過後は,いずれの当事者も,相手方に6か月以前に書面で通知することにより本契約を解除することができる」との手続を明確に定めている以上,当初期間の経過後に同条に基づいて同契約を解除するためには,6か月前以上前に相手方に通知する必要があるが,被告は原告に対してこの通知を行っていないため,本件投資顧問契約はいまだ解除されておらず,有効に存続している。
(8) 争点8(本件報酬の算定方法及び金額)について
【原告の主張】
ア 本件投資顧問契約6.1条によれば,本件報酬は,本件顧問料と本件運用報酬とで成り立っているところ,①本件顧問料は,各計算期間における平均日額で計算される本件ファンドの信託純資産価格の0.9%に相当する額であり,被告は,原告に対して,各計算期間末日から15日以内にこれを支払うこととされており,②本件運用報酬は,基準価格(信託純資産価格総額を投資信託の総ユニット数で除した金額)がハイウォーターマーク価格(信託報酬の一種である成功報酬・運用報酬を算出するための価額のことをいい,ハイウォーターマーク価格の条件や計算方法は,投資信託の設定時に決められるところ,本件のハイウォーターマーク価格は,1万ユニットあたり1万円と定められた。)を超えた場合の,当該超過部の金額の10%に相当する額を毎日計算し,半年ごとに支払うものとされ,被告は,原告に対して,各計算期間末日から15日以内にこれを支払うこととされている。
本件投資顧問契約6.1条に定める上記の方法で計算すれば,本件報酬の金額は,計算期間ごとに,①平成23年12月27日を支払期限とする平成23年6月11日から平成23年12月12日までの計算期間の報酬2974万8146円,②平成24年6月25日を支払期限とする平成23年12月13日から平成24年6月10日までの計算期間の報酬4076万9031円,③平成24年12月25日を支払期限とする平成24年6月11日から同年12月10日までの計算期間の報酬3787万7214円,④平成25年6月25日を支払期限とする平成24年12月11日から平成25年6月10日までの計算期間の報酬1億0953万5738円,⑤平成25年12月25日を支払期限とする平成25年6月11日から同年12月10日までの計算期間の報酬1億1903万4334円,⑥平成26年6月25日を支払期限とする平成25年12月11日から平成26年6月10日までの計算期間の報酬1億5191万6181円となる(別紙1及び同2参照)。
イ なお,被告は,ドラゴン・キャピタル・ベトナムファンド投資信託説明書(請求目論見書)(以下「本件投資信託説明書」という。甲6)等の記載をもって,各計算期間末日に基準価格がハイウォーターマーク価格を上回っていなければ,本件運用報酬はゼロになると主張するが,これは誤りである。本件運用報酬の内容を定めた本件投資顧問契約第6.1(b)条には上記のような記述はないことから,同条の定めるとおり,基準価格がハイウォーターマーク価格を超えた場合は,当該超過分の金額の10%に相当する本件運用報酬が発生することは明らかである。
【被告の主張】
争う。
ア 本件投資信託説明書(請求目論見書)(甲6)は,「マザーファンドの投資顧問会社が受ける報酬は,上記委託会社が受ける信託報酬の中から支払います」と規定している。同規定によれば,上記委託会社とは本件マザーファンドの運用者である被告のことであり,その報酬は,固定報酬と実績報酬から成り立っている。原告の主張する投資顧問報酬も,本件投資信託説明書に対応し,固定報酬である本件顧問料と実績報酬である本件運用報酬から成り立っている。
そして,本件投資顧問契約書(甲8)は,「本契約に含まれるその他の語及び表現は,本契約の日付の時点の親信託契約または本募集要項におけるのと同じ意味を有する」と規定しているので,本件投資顧問契約書が本件投資信託説明書に従った解釈をするのは当然である。加えて,本件投資顧問契約書は,本件運用報酬について,「毎日計算され半年ごとに支払われる,基準価格が・・・」と規定しており,運用者である被告に対し,毎日計算され半年ごとに支払われる実績報酬が支払われることを,本件運用報酬が支払われる条件としているのである。換言すれば,被告の実績報酬と原告の本件運用報酬が連動するのであり,被告の実績報酬が発生しないのに,原告の本件運用報酬だけが発生するという解釈はあり得ない。そうすると,原告の主張する報酬金額の計算方法は,被告の実績報酬が発生しなくとも,原告の本件運用報酬が発生するというものであり,このような解釈は明らかに誤っている。
イ したがって,毎日運用報酬は計算されるが,翌営業日に同額反対記帳されるので,計算期間中にいくら基準価格がハイウォーターマーク価格を上回っていても,最終的に各計算期間末日(6月10日又は12月10日)に基準価格がハイウォーターマーク価格を上回っていないと本件運用報酬はゼロとなる。
(9) 争点9(弁護士報酬の請求が認められるか)について
【原告の主張】
本件投資顧問契約8.2条によれば,被告は,本件投資顧問契約に基づく原告の権利行使または義務の履行に起因して原告が被るすべての「コスト」を補償する義務がある。
原告は,被告に対し,本件報酬の支払いを求めるため,4057万6601円の弁護士費用を負担したところ,上記「コスト」に訴訟費用ないし弁護士費用が含まれることは明らかである。
よって,原告は,被告に対し,本件投資顧問契約に基づき,上記弁護士費用を請求する権利がある。
【被告の主張】
争う。
(10) 争点10(被告が,反訴請求において,当事者適格を有するか)について
【被告の主張】
本件ファンドの運用者である被告は,反訴請求において,信託契約の受益者として,原告に対し,受益権侵害を理由とする損害賠償請求権を行使しているのである。
よって,被告は,反訴請求において,当事者適格を有する。
【原告の主張】
被告は,本件ファンド(または,本件マザーファンド)の運用資産の所有者ではない。したがって,仮に,本件ファンド(または,本件マザーファンド)の運用資産について何らかの損害が生じたとしても,被告がその損害の賠償を請求することはできない。
また,本件ファンドを構成する投資信託の受益者は,本件ファンドの受益権を取得した投資家である。そして,同投資信託の委託者である被告の地位は,原則として受益者の地位と一致しない(甲9の1第1条及び第6条)。したがって,被告は,本件ファンドの受益権を取得して受益者の地位を得ていない限り,「信託契約の受益者」として,受益権侵害を理由とする損害賠償請求の原告適格を有することはない。
よって,本件反訴は却下されるべきである。
(11) 争点11(被告が,原告に対して,損害賠償請求権を有するか)について
【被告の主張】
ア 争点6に対する被告の主張アのとおり,原告は,本件ファンドに帰属すべきMASAN株17万4462株を本件ファンドから奪い,もって,被告の受益権を侵害した。
イ 被告は,原告の上記不法行為により,次のとおり,6635万8453円の損害を被った。
MASAN株の本件不法行為日(平成25年10月30日)における時価は,1株8万1500ドンであり,同日における為替は1万ドンが46.67円であるから,同日のMASAN株17万4462株の時価は,6635万8453円(17万4462株×株価8万1500ドン÷1万×46.67=6635万8453円)である。
ウ よって,被告は,原告に対し,6635万8453円の不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。
【原告の主張】
争点6に対する原告の主張イ及びウのとおり,原告が,被告に対して,不法行為に基づく損害賠償責任を負うことはない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件投資顧問契約が,被告の錯誤を理由に無効となるか)について
(1) 原告が,金商法上,投資助言業の登録をしていないことは当事者間に争いがないところ,被告は,原告が,金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当せず,金商法上,投資助言業務を行うことができないことを前提に,本件投資顧問契約が錯誤により無効である旨主張しているので,以下,原告が金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当するか否かについて検討する。
(2) 金商法61条1項は,「外国の法令に準拠して設立された法人又は外国に住所を有する個人で外国において投資助言業務を行う者(第29条の登録を受けた者を除く。)は,同条の規定にかかわらず,金融商品取引業者のうち投資運用業を行う者その他政令で定める者のみを相手方として投資助言業務を行うことができる。」旨規定している。
金商法61条1項が上記のような登録義務の例外を認めているのは,投資を業とする者同士の取引については,外国法人を規制することによって投資者の利益を保護する必要性が低いためであると考えられる。そうだとすると,金商法61条1項の「外国において投資助言業を行う者」とは,投資助言を提供する能力を有する外国法人であれば,外国において現に投資助言業を行っていない者も含まれると解するのが相当である。
これを本件についてみると,原告は,ベトナムの株式等に対する投資活動で著名な投資グループである原告グループに属しているところ,被告に投資助言を提供するために,被告との間で投資顧問契約を締結する会社として設立された(前提事実(1)ア)のであるから,原告は,外国において現に投資助言業を行っていないものの,投資助言を提供する能力を有する外国法人であると認めることができる。
なお,被告は,金商法61条1項は,金商法上の登録を行っていない者が例外的に投資助言業務を行える場合の法律上の資格を定めた規定であるところ,投資助言能力の有無は計りようがなく,法律上の資格にはなり得ないので,投資助言能力を基準に,金商法上61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当するについての判断するのは誤っている旨主張する。しかしながら,外国によって投資助言業に対する規制は様々であり,規制が緩くほとんど規制がなされていない国もあると考えられる以上,現に外国において投資助言業務を行っていることを基準に,金商法上61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当するかについての判断をするのは適切ではないというべきである。また,原告のように,投資を専門とするグループが投資助言業を行うために設立した会社について,現に外国において投資助言業務を行っていないことを理由として,金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当しないとする解釈は,金商法61条1項の上記趣旨に合致しないものであるというべきである。したがって,被告の上記主張は理由がない。
よって,原告は,金商法61条1項の「外国において投資助言業務を行う者」に該当するものと認められる。
(3) 以上によれば,被告の錯誤無効の主張は,その前提を欠き,理由がない。
2 争点2(本件投資顧問契約が,平成24年8月7日付け解除により終了したか)について
(1) まず,被告が,民法651条2項但書に則り,原告が著しく不誠実な行為に出た等「やむを得ない事由」がある場合には,本件投資顧問契約を解除することができるかについて検討する。
本件投資顧問契約は,民法上の準委任契約に該当するか否かはともかく,本件投資顧問契約が,当事者間の信頼関係に基礎として成立した継続的な契約であることからすると,民法651条2項但書の趣旨により,原告が著しく不誠実な行為に出た等「やむを得ない事由」がある場合には,本件投資顧問契約を解除することができると解すべきである。
(2) そこで,被告が主張する解除事由が認められるかについて検討する。
ア 原告が著しく不誠実な行為をし,その行為が当事者間の信頼関係を破壊させるようなものであった場合には,被告において,原告に対して抗議をしたうえで,今後もそのような行為を継続させた時には,本件投資顧問契約を解除することになる旨の申入れをするのが,自然かつ合理的であると考えられる。
ところが,被告は,上記のような抗議及び申入れをした旨の主張をしていないところ,本件全証拠によっても,被告が上記のような抗議及び申入れをした事実を認めることはできない。
そうすると,この点に関する被告の主張にそった被告代表者B及び同Cの供述はたやすく信用することができないところ,他に,原告が被告の主張するような著しく不誠実な行為をしたことをうかがわせる証拠は存在しない。
よって,原告が被告の主張するような著しく不誠実な行為をしたと認めることはできない。
イ また,仮に,原告が被告の主張するような著しく不誠実な行為をしたことがあったとしても,上記アのとおり,被告が,原告に対して抗議をしたうえで,今後もそのような行為を継続させた時には,本件投資顧問契約を解除することになる旨の申入れをしたと認めることができない以上,本件投資顧問契約を解除するための「やむを得ない事由」があったと認めることはできないというべきである。
なぜなら,被告が上記のような抗議及び申入れをしたにもかかわらず,原告が著しく不誠実な行為を繰り返した場合にはじめて,上記「やむを得ない事由」を認めるのが相当であると考えられるからである。
(3) よって,本件投資顧問契約が,平成24年8月7日付け解除により終了したと認めることはできない。
3 争点3(平成24年8月7日付け解除以前の未払報酬が,信義則により減額されるか)について
(1) 本件投資顧問契約が存続している以上,本件投資顧問契約に基づく本件報酬が発生するのは当然のことであり,本件報酬が信義則により減額される場合があるとしたら,それは,原告が著しく不誠実な行為をしたことによって,被告が極めて大きな損害を被った場合に限られるというべきである。
(2) しかしながら,本件全証拠によっても,原告が著しく不誠実な行為をしたことによって,被告が極めて大きな損害を被ったと認めることはできない。
よって,本件投資顧問契約に基づく報酬が,信義則により減額されることはない。
4 争点4(原告が,平成25年3月1日以降,本件投資顧問契約に基づく投資助言提供義務について履行不能となったか)について
(1) 平成25年3月1日に施行されたベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム国」という。)の資産運用会社の設立,組織並びに業務についてと題する本件通達は,ベトナム国内で設立された資産運用会社にのみ適用されるものであると解される(乙15の1及び2,乙16の1及び2参照)。したがって,本件通達は,ケイマン法人である原告には適用されない。
(2) 本件通達が原告に適用されない以上,原告は,本件通達が施行された平成25年3月1日以降も,本件投資顧問契約に基づき,被告に対し,投資助言をすることができることになる。
よって,被告の主張は理由がない。
5 争点5(本件投資顧問契約が,平成25年9月28日をもって,3年の契約期間満了により終了したか)について
(1) 本件投資顧問契約9.1条は,「本契約は,本契約の日付(平成22年9月29日)に効力を生じ,3年間(以下「当初期間」という)有効である。当初期間の満了後,本契約は自動的に1年間延長され,その後も同様とする。ただし,当初期間の経過後は,いずれの当事者も,相手方に6か月以上前に書面で通知することにより本契約を解除できる。」旨定めている。
(2) 本件顧問契約の上記規定によれば,本件投資顧問契約は,当初の契約期間である3年が経過しても,自動的に1年間延長されるのであるから,本件投資顧問契約が,3年の契約期間満了により,平成25年9月28日をもって終了することはないと解される。
なお,被告は,契約期間満了を理由に更新拒絶することができないなら,契約期間を定めた意味がなく,原告の主張は,契約期間は4年であると主張しているのに等しい旨主張する。しかし,本件顧問契約には更新拒絶に関する規定がないこと(甲8)からすると,契約期間満了を理由に更新拒絶をすることができないというのが契約当事者の意思であると考えるのが合理的であり,また,3年の契約期間経過後は,当事者は,6か月前に通知することにより本件投資顧問契約を解除することができるのであるから,契約期間3年と定めた意味は十分にあるというべきである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
6 争点6(本件投資顧問契約が,平成25年10月30日をもって,被告のやむを得ない事由に基づく解除により終了したか)について
(1) 証拠(乙8,17)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告グループに所属する会社であるVRICL社の株式は,原告グループの代表者であるFが代表者を務めるPNホールディング社が100%を保有していた。
イ PNホールディング社の株式は,平成23年2月22日当時,本件ファンドが約18.5%,原告グループが運用するファンドであるVEILが約47.5%,原告グループが運用するファンドであるAIL(VGF)が約34.0%を保有していた。PNホールディング社の株主である本件ファンド,VEIL及びAIL(VGF)は,平成23年2月22日,PNホールディング社の株主間契約を締結し,同契約において,VRICL社が保有しているMASAN社の2882万5005株に転換できるプロミサリー・ノート4通の権利は,各株主の上記持株比率において分配されていることを確認した(乙17,18)。
ウ VRICL社は,MASAN社株2977万0465株に転換できる本件プロミサリー・ノートについて転換権を行使し,MASAN社は,平成25年10月30日付けで,MASAN社株2977万0465株を発行し,その結果,VRICL社に531万8974株,VEILに1370万4017株,AIL(VGF)に980万2014株,原告グループに属するDCML社に94万5460株がそれぞれ発行された(乙8)。
(2) まず,被告は,原告グループが,本件ファンドから本件ファンドに帰属すべきMASAN社株17万4462株を奪ったことを,本件顧問契約の解除事由として主張しているので,被告のこの旨の主張が認められるかについて判断する。
ア 上記(1)認定の事実によれば,本件プロミサリー・ノートについては,上記(1)イの株主間契約において権利の確認がなされたプロミサリー・ノート4通だけでなく,それとは別の5通目のプロミサリー・ノートが存在すること及びその5通目のプロミサリー・ノートは,MASAN株94万5460株に転換できるものであったところ,その権利については,上記4通のプロミサリー・ノートとは異なり,転換された株式はすべてDCML社に帰属するという内容のものであったと考えるのが自然かつ合理的であるというべきである。
そうすると,本件プロミサリー・ノートには上記内容の5通目のプロミサリー・ノートが存在する旨の原告の主張は自然かつ合理的であると評価することができるところ,証人Eは,原告の上記主張にそう供述をしている。
イ これに対し,被告は,上記内容の5通目のプロミサリー・ノートが存在せず,上記4通のプロミサリー・ノートが本件プロミサリー・ノートであることを前提に,原告グループが,本件ファンドから本件ファンドに帰属すべきMASAN社株を奪った旨主張しているが,被告の主張する上記前提が存在することをうかがわせる証拠は存在しないというべきである。
この点について,被告は,PNホールディングズの株主間契約(乙17)やEからC宛のメール(乙18)に,5通目のプロミサリー・ノートのことが記載されていないことから,5通目のプロミサリー・ノートが存在することはあり得ない旨主張する。しかしながら,5通目のプロミサリー・ノートは,PNホールディングズの株主間契約の対象にならないからこそ,上記契約に記載がなされていないのであり,また,EからC宛のメールについても,本件ファンドに関係するプロミサリー・ノート4通についての説明をしたものであるために,5通目のプロミサリー・ノートについての記載がなされていないと考えることができるので,上記契約やメールに5通目のプロミサリー・ノートについての記載がないという事実は,5通目のプロミサリー・ノートが存在しないことをうかがわせるものではないというべきである。
ウ よって,原告グループが,本件ファンドから本件ファンドに帰属すべきMASAN社株17万4462株を奪ったとの事実を認めることはできないので,被告の上記主張は理由がない。
(3) 次に,被告は,本件プロミサリー・ノートの転換権の行使により発行されたMASAN株は,原告グループの指示により,原告グループが運用するVEILやAIL(VGF)には直接帰属するように発行されたが,本件ファンドに対しては直接帰属するように発行されず,VEILやAIL(VGF)と比較して本件ファンドは不利な取り扱いを受け,これにより被告が損害を被ったことを,本件投資顧問契約の解除事由として主張しているので,被告のこの主張を認めることができるかについて判断する。
ア 証拠(乙18)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告グループから,本件プロミサリー・ノートの転換権の行使により発行されるMASAN社株は,直接本件ファンドに帰属するにように発行されるのではなく,VRICL社に帰属するように発行される取り扱いになることを知らされていたところ,被告が,原告グループに対して,そのような取り扱いに対して異議を述べたことはないことが認められる。
イ 上記ア認定の事実によれば,仮に,本件プロミサリー・ノートの転換権の行使により発行されるMASAN社株が,直接本件ファンドに帰属されるように発行されなかったことにより,結果的に被告が損害を被ったとしても,その事実をもって,原告が被告に対して著しく不誠実な行為を行ったとして,本件投資顧問契約の解除事由になると認めることはできないというべきである。
(4) 以上によれば,本件投資顧問契約が,平成25年10月30日をもって,被告の解除により終了したとは認められない。
7 争点7(本件投資顧問契約が,平成26年3月28日をもって,本件投資顧問契約9.1条ただし書きに基づく解除により終了したか)について
(1) 被告は,本件投資顧問契約について,平成24年8月7日付けで解除の意思表示をしているところ,被告は,本件訴訟においても,一貫して,解除の主張をしている。
(2) 上記(1)の事実によれば,被告は,本件投資顧問契約が当初の契約期間である3年が経過し,契約期間が平成25年9月29日から1年間自動延長された時点において,本件投資顧問契約を終了させる意思を有していたことは明らかであり,かつ,原告も,被告の上記意思を十分に知っていたことが認められる。
そうだとすると,本件投資顧問契約は,本件投資顧問契約9.1条ただし書きにより,平成25年9月29日から6か月が経過した平成26年3月28日をもって終了したものと認めるのが相当である。
なお,原告は,本件投資顧問契約9.1条が「当初期間の経過後は,いずれの当事者も,相手方に6か月以前に書面で通知することにより本契約を解除することができる」との手続を明確に定めている以上,当初期間の経過後に同条に基づいて同契約を解除するためには,6か月前以上前に相手方に通知する必要があるが,被告は原告に対してこの通知を行っていないため,本件投資顧問契約はいまだ解除されておらず,有効に存続している旨主張する。しかし,上記のとおり,契約期間が平成25年9月29日から1年間自動延長された時点において,被告が本件投資顧問契約を終了させる意思を有していたこと及び原告が被告のその意思を十分に知っていたことが明らかであるにもかかわらず,被告があらためて解除の通知をしなければ,解除の効力が発生しないとの解釈は,余りにも形式的な解釈であって,相当なものであるといえない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
8 争点8(本件報酬の算定方法及び金額)について
(1) 本件報酬の算定方法は,前提事実(2)ウのとおりである。
なお,被告は,「被告の実績報酬と原告の本件運用報酬が連動するのであり,被告の実績報酬が発生しないのに,原告の本件運用報酬だけが発生するという解釈はあり得ない。そうすると,原告の主張する報酬金額の計算方法は,被告の実績報酬が発生しなくとも,原告の本件運用報酬が発生するというものであり,このような解釈は明らかに誤っている。」旨主張する。
しかしながら,本件投資顧問契約において,被告の実績報酬と原告の本件運用報酬が連動する旨の規定はないのであるから,被告の上記主張は理由がない。
(2) 弁論の全趣旨によれば,本件報酬の上記算定方法によって計算すると本件報酬の金額は,計算期間ごとに,次のとおりとなる(別紙3及び4参照)。
ア ①平成23年12月27日を支払期限とする平成23年6月11日から平成23年12月12日までの計算期間の報酬2974万8146円,②平成24年6月25日を支払期限とする平成23年12月13日から平成24年6月11日までの計算期間の報酬4076万9031円,③平成24年12月25日を支払期限とする平成24年6月12日から同年12月10日までの計算期間の報酬3787万7214円,④平成25年6月25日を支払期限とする平成24年12月11日から平成25年6月10日までの計算期間の報酬1億0953万5738円,⑤平成25年12月25日を支払期限とする平成25年6月11日から同年12月10日までの計算期間の報酬1億1903万4334円となる。
イ 本件投資顧問契約が解除された平成26年3月28日を支払期限とする平成25年12月11日から平成26年3月28日までの計算期間の報酬8882万4680円となる。
9 争点9(弁護士報酬の請求が認められるか)について
(1) 証拠(甲8)によれば,本件投資顧問契約8.2条は,「被告は,原告自身の詐欺,故意による不履行又は重過失に起因するコストを除き,本契約に基づく原告の権利または義務の行使または履行に起因して,原告またはその代表者が被るすべてのコストを本件ファンドの資産の中から補償し,原告およびその代表者等に何らの損害も与えない」旨規定している。
(2) 原告が,被告に対し,本件報酬の支払いを求めるため,4057万6601円の弁護士費用を負担した事実について,被告は,争うことを明らかにしていないので,これを自白したものとみなす。
そして,上記弁護士費用は,本件投資顧問契約8.2条のコストに該当するものと認められる。
よって,原告は,被告に対し,本件投資顧問契約に基づき,上記弁護士費用の請求をすることができる。
10 争点10(被告が,反訴請求において,当事者適格を有するか)について
(1) 被告が反訴請求において審判の対象とする訴訟物は,被告自身に帰属すべき権利としての原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権であると解される。
(2) そうすると,上記請求権の主体である被告には,給付訴訟である反訴請求の原告適格が認められるというべきである。
11 争点11(被告が,原告に対して,損害賠償請求権を有するか)について
(1) 争点6で認定説示したとおり,原告が,本件ファンドに帰属すべきMASAN株17万4462を本件ファンドから奪い,もって,被告の受益権を侵害したと認めることはできない。
(2) よって,被告が,原告に対して,損害賠償請求権を有しない。
第4 結論
以上によれば,①原告の本訴請求(1)及び(3)は理由があるので,これを認容し,②原告の本訴請求(2)は主文2項の限度で理由があるので,その限度でこれを認容し,その余は理由がないのでこれを棄却し,③被告の反訴請求は理由がないので,これを棄却することとする。
(裁判官 飯淵健司)
〈以下省略〉
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