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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(121)令和元年 5月16日 東京高裁 平29(ネ)2968号 取締役に対する損害賠償請求控訴事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(121)令和元年 5月16日 東京高裁 平29(ネ)2968号 取締役に対する損害賠償請求控訴事件

裁判年月日  令和元年 5月16日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ネ)2968号
事件名  取締役に対する損害賠償請求控訴事件
文献番号  2019WLJPCA05169002

裁判経過
第一審 平成29年 4月27日 東京地裁 判決 平24(ワ)174号・平24(ワ)899号・平24(ワ)8257号 取締役に対する損害賠償請求事件

裁判年月日  令和元年 5月16日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ネ)2968号
事件名  取締役に対する損害賠償請求控訴事件
文献番号  2019WLJPCA05169002

主文

1⑴  一審被告A6らの附帯控訴に基づき,原判決中,一審被告A6ら敗訴部分を取り消す。
⑵  上記部分につき,一審原告会社の一審被告A6らに対する請求をいずれも棄却する。
2⑴  一審被告A2の控訴に基づき,原判決中,一審被告A2敗訴部分を取り消す。
⑵  上記部分につき,一審原告会社の一審被告A2に対する請求を棄却する。
3⑴  一審被告A3及び一審被告A4の控訴に基づき,原判決主文第2項及び第3項の一審被告A3及び一審被告A4に関する部分を次のとおり変更する。
⑵  一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社に対し,連帯して,586億7296万8936円,及び内金10億9700万円に対する,一審被告A3については平成24年1月30日から,一審被告A4については同月29日から,内金575億7596万8936円に対する同年2月2日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
⑶  一審原告株主の一審被告A3及び一審被告A4に対する第4事件の第6類型(剰余金の配当等)に係るその余の請求をいずれも棄却する。
4⑴  一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社に対し,連帯して,6億1986万円及びこれに対する平成29年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
⑵  一審原告会社の一審被告A6ら及び一審被告A2に対する当審における拡張請求をいずれも棄却する。
5  一審被告A3及び一審被告A4のその余の控訴並びに一審原告会社及び一審原告株主の控訴をいずれも棄却する。
6  訴訟費用中,第1事件及び第4事件について,当審において生じた部分並びに原審において一審原告らと一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4との間に生じた部分は,これを100分し,その1を一審原告会社の,その1を一審原告株主の,その余を一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4のそれぞれの負担とし,第2事件についての控訴費用は,これを全部一審原告株主の負担とする。
7  この判決は,第3項⑵及び第4項⑴に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  控訴の趣旨・附帯控訴の趣旨
別紙2-1「控訴及び附帯控訴の趣旨目録」記載のとおり
第2  事案の概要
1  本件は,東京証券取引所(一部)上場会社で光学機械及び精密機器の製造等を目的とする一審原告会社が,巨額の金融資産の損失の計上を避けるために,ファンド等に金融資産を買い取らせるなどして,損失を分離した上,それを解消するために企業を買収するなどした結果,金利及びファンド運用手数料等の支払を余儀なくされ(第1類型),株式を利用した資金運用をして運用損失が生じ(第2類型),実際の価値をはるかに超える額で株式を取得して企業を買収し(第3類型),企業買収に関して多額のFA報酬を支払い(第4類型),代表取締役等であったBから違法行為の疑惑を指摘されたにもかかわらず,虚偽の説明をして損失隠しを隠蔽しようとしたため一審原告会社の信用を失墜させ(第5類型),分配可能額を超えて剰余金の配当等を実施し(第6類型),虚偽の記載のある有価証券報告書等の提出により,課徴金・罰金の納付を余儀なくされた(第7類型)として,以下のとおり,会社法423条1項に基づき,取締役らに対し,損害賠償を請求し(第1事件),一審原告株主がこれに共同参加する(第4事件)とともに,取締役会においてBを代表取締役等から解職する決議をして,不祥事を隠蔽し,一審原告会社の信用を失墜させたなどとして,一審原告株主が,同法423条1項に基づき,取締役らに対し,一審原告会社に損害を賠償するように求めた(第2事件)事案である。
⑴  第1事件及び第4事件
ア 第1類型(金利・運用手数料関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の1及び同第3の1に係る請求)
第1類型(金利・運用手数料関係)は,一審原告会社が,金融資産の巨額の含み損の計上を回避する目的で,当該金融資産を買い取らせることを主たる目的とするファンド(以下「受け皿ファンド」という。)や受け皿ファンドに資金を注入するために利用されるファンド(通過用ファンド。以下,受け皿ファンド及び通過用ファンドを併せて「受け皿ファンド等」という。受け皿ファンド等を構成するファンドは,別紙3「ファンド等一覧」記載のとおりである。)に資金を供給し,含み損を抱えていた金融資産を簿価で買い取らせるなどして,一審原告会社から損失を分離させる損失分離スキーム(以下「損失分離スキーム」という。)を構築し,これを維持し続けたことにより,ファンド等が融資を受けた銀行に対して支払った金利(以下「本件金利」という。)及びファンド運用手数料等(以下「本件ファンド運用手数料等」という。)の損害(本件金利29億3711万2411円,本件ファンド運用手数料等78億8972万9208円)を被ったところ,承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,これを了承(黙認)し,又は中止のための措置若しくは是正措置を何ら採らなかったと主張して,会社法423条1項に基づき,承継前一審被告A1を相続した一審被告A6,一審被告A7及び一審被告A8(一審被告A6ら),一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対し,連帯して(ただし,一審被告A6らについては,各相続分の限度での連帯。以下「第2 事案の概要」において同じ。),上記損害の一部として,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の1記載の金員の支払を求めるとともに,共同訴訟参加した一審原告株主が,上記損害の全部として,同目録第3の1記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。なお,同目録第1の1及び同第3の1の各⑴ないし⑶の区分は,一審被告A3及び一審被告A4の取締役就任時点で区切った3つの期間(①平成13年4月から平成15年6月まで,②同年7月から平成18年6月まで,③同年7月から平成23年3月まで)に対応するものである。
イ 第2類型(ITX株式運用損関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の2及び同第3の2に係る請求)
第2類型(ITX株式運用損関係)は,一審原告会社が,損失分離スキームが維持された状態で,受け皿ファンド等であるITVをして,注入された余剰金を用いてITX株式会社(以下「ITX」という。)の株式取得を用いた新たな資金運用をさせたことにより,運用損として91億6022万円の損害を被ったところ,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5はこれに関与し,これを了承(黙認)し,又は中止のための措置若しくは是正措置を何ら採らなかったと主張して,会社法423条1項に基づき,一審被告A6ら,一審被告A2及び一審被告A5に対し,連帯して,上記損害の一部として,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の2記載の金員の支払を求めるとともに,一審原告株主が,上記損害の全部として,同目録第3の2記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。
ウ 第3類型(国内3社株式取得関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の3及び同第3の3に係る請求)
第3類型(国内3社株式取得関係)は,一審原告会社が,損失分離スキームの構築により生じた損失分離状態(一審原告会社から損失が分離された状態)を解消することを企図し,自ら又は完全子会社である Olympus Finance Hong Kong Ltd.(以下「OFH」という。)をして,株式会社アルティス(以下「アルティス」という。),NEWS CHEF 株式会社(以下「NEWS CHEF」という。)及び株式会社ヒューマラボ(以下「ヒューマラボ」といい,アルティス,NEWS CHEF 及びヒューマラボを総称して「本件国内3社」という。)の株式取得名目で受け皿ファンド等に多額の金員を流すことにより,実際の価値をはるかに超える高額(合計で最大613億7900万円)で本件国内3社の株式を取得して子会社化することを承認する旨の取締役会決議(以下「本件取得決議」という。)を行い,これにより607億9500万円を一審原告会社の社外に流出させて損害を被ったところ,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4はこれに関与し,又はこれを了承したと主張して,会社法423条1項に基づき,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対し,連帯して,主位的に上記損害の一部として,予備的に本件国内3社の株式取得に関して外部協力者に支払われた22億0925万円の損害の一部として,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の3記載の金員の支払を求めるとともに,一審原告株主が,上記22億0925万円の損害の全部として,同目録第3の3記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。
エ 第4類型(ジャイラス関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の4及び同第3の4に係る請求)
第4類型(ジャイラス関係)は,一審原告会社が,損失分離状態を解消することを企図し,英国医療機器メーカーである Gyrus Group PLC(以下「ジャイラス」という。)を買収する手続に関し,自ら又はその完全子会社である Olympus Finance UK Ltd.(以下「OFUK」という。)をして,フィナンシャルアドバイザー(以下「FA」という。)に対する報酬名目で,Axes America,LLC(以下「AXES」という。)に対するワラント購入権及び株式オプションの付与,AXAM Investments Ltd.(以下「AXAM」という。)からの5000万ドルでのワラント購入権の買取り,AXAMに対する発行額面約1億7700万ドルの優先株の付与及びAXAMからの6億2000万ドルでの優先株の買取りを行うとともに,これら各行為に必要な取締役会決議への参加を始めとする一審原告会社の社内手続及びFAとの契約締結等を行い,これにより,①25億4400万円(AXAMからAXESへのワラント購入権及び株式オプションの売買代金名目での支払額),②6億2000万ドル(ジャイラスの優先株の買取り代金名目でのAXAMへの支払額。支払日の為替レートで569億4080万円)及び③23億3517万0066円(優先株買取りに関して外部協力者に支払われた支払額)を社外に流出させて損害を被ったところ,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4はこれに関与し,又はこれを了承したと主張して,会社法423条1項に基づき,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対し,連帯して,上記①の損害の一部として別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の4⑴記載の金員の支払を,及び主位的に上記②の損害の一部として,予備的に上記③の損害の一部として,同目録第1の4⑵記載の金員の支払を求めるとともに,一審原告株主が,上記①の損害の全部として同目録第3の4⑴記載の金員及び上記③の損害の全部として同目録第3の4⑵記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。
オ 第5類型(疑惑発覚後の対応関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の5及び同第3の5に係る請求)
第5類型(疑惑発覚後の対応関係)は,一審原告会社が,損失分離スキームの構築・維持及びその解消による一連の損失隠しを認識していた一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCが,一審原告会社の代表取締役であったBから違法行為が行われているのではないかと疑惑を指摘されたにもかかわらず,問題は何もないと虚偽の説明を続け,同損失隠しの事実を隠蔽しようとしたことにより,一審原告会社の信用が著しく毀損され,少なくとも1000万円の損害を被ったなどと主張して,会社法423条1項に基づき,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCに対し,連帯して,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の5記載の金員の支払を求めるとともに,一審原告株主が,上記損害は10億円を下らないと主張して,同目録第3の5記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。
カ 第6類型(剰余金の配当等関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の6及び同第3の6に係る請求)
第6類型(剰余金の配当等関係)は,一審原告会社が,平成19年4月1日以降に実施した剰余金の配当及び自己株式の取得がいずれも分配可能額を超えて行われたものであるところ,①平成19年3月期ないし平成22年9月期の期末配当額及び中間配当額並びに平成20年5月8日及び平成22年11月5日の自己株式の取得額は合計546億8385万7848円,②平成23年3月期の期末配当額は39億9211万1088円であると主張して,会社法462条1項による金銭支払請求権に基づき,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対し,連帯して,上記①の金員の一部として,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の6⑴記載の金員の支払を,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCに対し,連帯して,上記②の金員の一部として,同目録第1の6⑵記載の金員の支払を求めるとともに,一審原告株主が,上記①及び②の全部として,同目録第3の6記載の金員を一審原告会社に対して支払うよう求めた事案である。
キ 第7類型(課徴金・罰金関係)(別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の7に係る請求)
第7類型(課徴金・罰金関係)は,一審原告会社が,①別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「虚偽記載に係る開示書類」欄記載の有価証券報告書,半期報告書及び四半期報告書(以下,これらを総称して「本件有価証券報告書等」という。)について,重要な事実に虚偽の記載がある有価証券報告書等を提出したことを理由として,金融庁長官から課徴金納付命令を受けるとともに(その後,刑事事件判決の確定に伴い,同命令の一部は取り消され,納付すべき課徴金の額は別紙4の「番号」欄16の四半期報告書(以下「本件四半期報告書」という。)の提出に係る1986万円となった。),②別紙4の「番号」欄1,3,7,11及び15の各有価証券報告書(以下「本件有価証券報告書」という。)が平成18年法律第65号による改正前の証券取引法(以下「旧証券取引法」という。)ないし金融商品取引法(以下「金商法」という。)に違反したとして,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4とともに起訴されて罰金7億円に処せられ,合計7億1986万円の損害を被ったところ,承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCにはこの点について善管注意義務違反があるなどと主張して,会社法423条1項に基づき,一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCに対し,連帯して,上記損害の一部として,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第1の7記載の金員の支払を求めた事案である。
⑵  第2事件
第2事件は,一審原告株主が,一審原告会社の取締役であった一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15,一審被告A16,D及びEは,Bから,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目での金銭支払に関し,不正行為が存在するとの疑惑を指摘されるなどしていたにもかかわらず,これを調査し違法行為が行われたと判断される場合に公表その他必要な措置を講ずる義務等を怠り,取締役会でBを代表取締役等から解職する旨の決議をして不祥事の隠蔽を図るなどしたことにより,一審原告会社に,①外部委員会の費用7億1944万9555円,②信用失墜による損害10億円及び③Bに支払った和解金12億7348万6900円の損害を与えたなどと主張して,会社法423条1項に基づき,同第2事件一審被告らに対し,連帯して,別紙2-2「原審請求の趣旨目録」第2の1記載の金員(上記①及び②の合計額)及び同目録第2の2記載の金員(上記③)を一審原告会社に対して支払うよう求めた株主代表訴訟の事案である。
2  原審は,一審原告らの請求のうち,第5類型,第6類型及び第7類型の各請求については,以下のとおり判断し,その全部又は一部の請求を認容した。また,第1類型に係る請求については,本件金利及び本件ファンド運用手数料等の損害の発生が認められないとし,第2事件に係る請求については,取締役の善管注意義務違反が認められないとして,いずれもその請求を棄却し,第2類型,第3類型及び第4類型に係る各請求についても,いずれもこれらを棄却した。
⑴  第1事件及び第4事件の第5類型(疑惑発覚後の対応関係)
一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCは,一審原告会社の代表取締役であったBからジャイラス買収に関する取引及び本件国内3社の買収に関する取引につき違法行為が行われているのではないかと疑惑を指摘された後も,Bの追及による損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として,取締役会においてBを代表取締役等から解職する旨の議案に賛成するなどしたことは,一審原告会社に対する善管注意義務及び忠実義務に違反し,これにより,一審原告会社の信用を毀損し,少なくとも1000万円の損害を被らせた点について,会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負う。
よって,一審原告会社の一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCに対する第5類型に係る請求は全部理由があり,一審原告株主の一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4及びCに対する第5類型に係る請求は,一審原告会社への1000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
⑵  第1事件及び第4事件の第6類型(剰余金の配当等関係)
一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,分配可能額を超えて行われた剰余金の配当及び自己株式の取得につき,「当該行為に関する職務を行った業務執行者」(会社法462条1項柱書)又は「当該株主総会に係る総会議案提案取締役」(同項6号イ)に該当するから,株主が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金額合計586億7596万8936円(①546億8385万7848円,②39億9211万1088円)について会社法462条1項に基づく金銭支払義務を負う。
よって,一審原告らの一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する第6類型に係る請求は全部理由がある(ただし,一審原告会社と一審原告株主の請求が重なる部分の請求元本に対する遅延損害金の請求については,一審原告会社の請求(一審原告会社にとってより有利な請求である。)を相当と認めてこれを認容した。)。
⑶  第1事件の第7類型(課徴金・罰金関係)
ア 承継前一審被告A1及び一審被告A2は,損失分離スキームの構築・維持に関して善管注意義務又は忠実義務違反があり,同義務違反により損失分離スキームの構築・維持の状態が作出され,当該状態を前提とする虚偽記載を含む本件有価証券報告書等が提出されたのであるから,課徴金1986万円及び罰金7億円の合計7億1986万円について会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負っていたところ,一審被告A6らは承継前一審被告A1の地位を相続した。
よって,一審原告会社の一審被告A6らに対する第7類型に係る請求は全部理由がある。ただし,一審被告A6らについて限定承認の抗弁が認められ,承継前一審被告A1から相続した財産の存する限度でのみ責任を負う。
イ 一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,虚偽記載を含む本件有価証券報告書等の作成及び提出を行い又は加功したものであり,取締役としての善管注意義務又は忠実義務に違反するから,課徴金1986万円及び罰金7億円の合計7億1986万円について会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負う。
よって,一審原告会社の一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する第7類型に係る請求(一部請求)は全部理由がある。
ウ Cは,一審被告A5による業務執行を監視して虚偽記載のない本件四半期報告書を提出させるための措置を採るべき注意義務があるのにこれを怠ったことは取締役としての善管注意義務又は忠実義務に違反するから,本件四半期報告書の提出に係る課徴金1986万円について会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負う。
よって,一審原告会社のCに対する第7類型に係る請求(一部請求)は,1986万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
3⑴  一審原告会社は,原判決中,第1類型(金利・運用手数料関係)についての一審原告会社敗訴部分を不服として控訴するとともに,当審において,原審では一部請求をしていた第7類型(課徴金・罰金関係)に係る請求について,別紙2-1「控訴及び附帯控訴の趣旨目録」第1の3のとおり,一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対しては控訴として,Cに対しては附帯控訴として,訴えを変更して全部請求をすることとして請求を拡張した。
⑵  一審原告株主は,原判決中,第2事件の一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15及び一審被告A16に対する請求に関する部分を不服として控訴を提起した(D及びEに対しては控訴を提起しなかった。)。
⑶  一審被告A2,一審被告A3及び一審被告A4は,原判決中,各敗訴部分を不服として控訴を提起し,一審被告A6らは,原判決中,各敗訴部分を不服として附帯控訴を提起したが,一審被告A5は,控訴も附帯控訴もしなかった。
⑷  Cは,原判決中,C敗訴部分を不服として控訴を提起したが,その後,控訴を取り下げた(これに伴い一審原告会社のCに対する附帯控訴も失効した。)。
⑸  以上により,当審における審判の対象は,①第1事件の第1類型(金利・運用手数料関係)について,一審原告会社の一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する請求を棄却した部分,②第1事件及び第4事件の第5類型(疑惑発覚後の対応関係)について,一審原告らの一審被告A3及び一審被告A4に対する請求を認容した部分,③第1事件及び第4事件の第6類型(剰余金の配当等関係)について,一審原告らの一審被告A3及び一審被告A4に対する請求を認容した部分,④第1事件の第7類型(課徴金・罰金関係)について,一審原告会社の一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A3及び一審被告A4に対する請求を認容した部分並びに一審原告会社の一審被告A6ら,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する当審における拡張請求部分,⑤第2事件について,一審原告株主の一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15及び一審被告A16に対する請求を棄却した部分の当否である。
4  前提事実(当事者間に争いがないか,末尾に掲記した証拠等によって容易に認定できる事実)
⑴  当事者
ア 一審原告会社は,東京証券取引所(一部)に上場する,顕微鏡,写真機,精密測定器,その他光学機械の製造販売並びに修理及び賃貸業務等を行うことを目的とする株式会社である。
イ 一審原告株主は,責任追及等の提訴請求書が一審原告会社に到達した日の6か月前から同社の株式1単元以上を引き続き保有する株主である。
ウ 承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15及び一審被告A16は,いずれも一審原告会社の取締役であった者であり,その在任期間等は別紙5「承継前一審被告A1及び一審被告A6らを除く一審被告らの役員在任期間等」記載のとおりである。このうち,承継前一審被告A1は,昭和59年1月から平成5年6月まで一審原告会社の代表取締役社長,同月から平成13年6月まで代表取締役会長の各地位にあり,一審被告A2は,平成5年6月から平成13年6月まで同じく代表取締役社長,同月から平成17年6月まで代表取締役会長の各地位にあり,一審被告A5は,平成13年6月から平成23年3月まで同じく代表取締役社長,同年4月から同年10月26日まで代表取締役会長の各地位にあった。
⑵  LGT銀行等との取引
ア 一審原告会社は,平成10年3月23日,LGT Bank in Liechtenstein AG(以下「LGT銀行」という。)に一審原告会社及び子会社であるOlympus Asset Management Ltd.(以下「OAM」という。)名義で預金口座を開設し,預金口座内の資産を担保として同銀行からCFCに対し同年3月27日に180億円,同年8月6日に120億円の貸付けを受けた(甲Aキ3の7〈添付資料4,5〉,8の3〈添付資料1-1~1-3〉,12の3〈添付資料2,3〉,13の10)。
イ 一審原告会社は,平成11年9月頃,Commerzbank AG(以下「コメルツ銀行」という。)シンガポール支店に一審原告会社名義の預金口座を開設し,預金を担保として,同銀行から Hillmore に対し,約300億円,149億円の貸付けを受けた。その後,一審原告会社は,取引先をSociete Generale Bank(以下「SG銀行」という。)に変え,同銀行に一審原告会社名義の預金口座を開設し,預金を担保として同銀行からEasterside が約550億円の貸付けを受けた。さらに,取引先をSGボンドに変え,SGボンドに対し,平成17年2月,合計600億円を出資し,Easterside は,SGボンドからの資金でSG銀行の借入金を返済した(甲Aキ3の8〈添付資料1,6,7〉,9の12,12の5〈添付資料6の1・2〉,13の17〈添付資料6,7,9〉)。
ウ 一審原告会社は,平成12年3月,事業投資ファンドであるGCNVVを設立し,リミテッドパートナーとして,300億円を出資した(甲Aキ9の13,9の14,13の15〈添付資料5〉)。
⑶  ITX株式の取得
一審原告会社は,平成12年3月31日,日商岩井株式会社(以下「日商岩井」という。)からITX株式4662株を50億0018万1480円で取得し,ITVは,同月28日,日商岩井からITX株式9323株を99億9929万0420円で取得した(甲Aキ9の15〈添付資料3~5〉,12の7〈添付資料8〉,13の16)。
⑷  本件国内3社の株式の取得
一審原告会社は,GCNVVの解散に伴い,GCNVVが保有していた本件国内3社の株式をGCNVVの取得時の簿価で取得した。
一審原告会社は,平成20年3月21日,Neoからアルティス株式1650株を181億5000万円,ヒューマラボ株式670株を137億3500万円,ITVから NEWS CHEF 株式1600株を152億円でそれぞれ取得した。また,OFHは,同年4月25日,DDから,アルティス株式530株を55億6500万円,NEWS CHEF 株式450株を40億5000万円,GTからヒューマラボ株式210株を40億9500万円で取得した。
(甲Aウ15の1・2,19の1~3,20の1・2,21の1・2,22の1~3,甲Aキ3の14〈添付7,16〉,9の19,9の20)
⑸  ジャイラス買収
一審原告会社は,M&Aのために,平成18年6月,AXESとの間でフィナンシャルアドバイザー(FA)契約(以下「本件FA契約」という。)を締結し,企業買収の成功報酬の支払を約し(なお,平成19年6月には成功報酬が変更された。),英国の医療機器会社であるジャイラスを買収し,その報酬として1200万ドルを支払い,配当優先株式(発行額面1億7698万1106ドル)を発行し,ワラント購入権を5000万ドルで買い取り,その後,OFUKは,上記配当優先株を6億2000万ドルで買い取った(甲Aエ1~4,6の1・2,13,42,43,甲Aキ13の24,13の26)。
⑹  剰余金の配当等
一審原告会社は,第139期事業年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)から第143期事業年度(平成22年4月1日から平成23年3月31日まで)にかけて,期末配当,中間配当及び自己株式の取得を実施し,以下の金額を支出した(以下,これらを総称して,「本件剰余金の配当等」という。)(甲Aカ4の1~4,6の1~8,8の1・2,9の1・2,10の1・2,11の1・2,12の1・2,13の1・2,14の1・2,15の1・2,16)。
ア 期末配当
(ア) 平成19年3月期 64億6483万4177円
(イ) 平成20年3月期 53億9087万6237円
(ウ) 平成22年3月期 40億3690万8324円
(エ) 平成23年3月期 39億9211万1088円
イ 中間配当
(ア) 平成19年9月期 53億9051万5530円
(イ) 平成20年9月期 53億3219万3453円
(ウ) 平成21年9月期 40億3792万6015円
(エ) 平成22年9月期 40億3764万6712円
ウ 自己株式の取得
(ア) 平成20年5月8日決議 99億9773万円
(イ) 平成22年11月5日決議 99億9522万7400円
(アないしウの合計額は,586億7596万8936円である。)
⑺  Bの解職
Bは,平成23年4月1日付けで一審原告会社の社長執行役員に就任し,同年6月29日に代表取締役及び社長執行役員・COOに就任し,同年9月30日開催された取締役会(以下「9月30日取締役会」という。)においてCEOに選任された。
しかしながら,平成23年10月14日に開催された取締役会(以下「10月14日取締役会」という。)において,議長である一審被告A5から,代表取締役及び社長執行役員・CEOのいずれからも即時解職し,業務執行権限のない取締役とすることが提案され,出席取締役の過半数の賛成により承認可決された。同取締役会には,B,一審被告A5,一審被告A4,C,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15,一審被告A16及びFの各取締役,並びに,一審被告A3,G,H及びIの各監査役が出席し,D及びEは欠席した。
⑻  本件有価証券報告書等の提出と課徴金・罰金の支払
ア 一審原告会社は,関東財務局長に対して以下の提出日に本件有価証券報告書等を提出したところ,本件有価証券報告書等のうち,別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「番号」欄1,3,7,11及び15の有価証券報告書(本件有価証券報告書)並びに同16の四半期報告書(本件四半期報告書)には以下の内容の虚偽記載がされていた(甲Aキ2,弁論の全趣旨)。
(ア) 同「番号」欄1の有価証券報告書(提出日:平成19年6月28日)
連結純資産額が約2324億5900万円であるところ,3448億7100万円と記載した。
(イ) 同「番号」欄3の有価証券報告書(提出日:平成20年6月27日)
連結純資産額が約2500億2900万円であるところ,3678億7600万円と記載した。
(ウ) 同「番号」欄7の有価証券報告書(提出日:平成21年6月26日)
連結純資産額が約1208億5200万円であるところ,1687億8400万円と記載した。
(エ) 同「番号」欄11の有価証券報告書(提出日:平成22年6月29日)
連結純資産額が約1713億7100万円であるところ,2168億9100万円と記載した。
(オ) 同「番号」欄15の有価証券報告書(提出日:平成23年6月29日)
連結純資産額が約1252億2500万円であるところ,1668億3600万円と記載した。
(カ) 本件四半期報告書(提出日:平成23年8月11日)
連結純資産額が約1017億5100万円であるところ,1511億4700万円と記載した。
イ 一審原告会社は,平成24年7月11日,金融庁長官から,重要な事項に虚偽の記載がある本件有価証券報告書等を提出したとして,合計1億9181万9994円の課徴金納付命令を受けた(甲Aク1の1)。
ウ 一審原告会社,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,平成25年7月3日,東京地方裁判所において,別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「番号」欄1,3,7,11及び15の有価証券報告書について,損失を抱えた金融商品を簿外処理するなどの方法により,「連結純資産合計」欄に虚偽の記載をし,虚偽の記載のある有価証券報告書を提出したなどとして,証券取引法違反及び金商法違反を理由に,一審原告会社を罰金7億円(以下「本件罰金」という。),一審被告A5及び一審被告A3を懲役3年(5年間の執行猶予),一審被告A4を懲役2年6月(4年間の執行猶予)にそれぞれ処する旨の判決の宣告を受けた(甲Aキ2)。
エ 金融庁長官は,平成25年9月4日,本件罰金の支払を命ずる判決の確定に伴い,前記イの課徴金納付命令のうち,別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「番号」欄1~15に係る部分を取り消した。これにより,一審原告会社が納付すべき課徴金額は,本件四半期報告書に係る1986万円となった(以下「本件課徴金」といい,「本件罰金」と併せて「本件罰金等」という。)。(甲Aク1の2)
オ 一審原告会社は,平成24年7月31日,本件課徴金の支払として,1986万円を国庫に納付した。また,一審原告会社は,平成25年8月9日,本件罰金の支払として,7億円を国庫に納付した。(甲Aク2の1・2)
⑼  提訴請求
この間,一審原告株主は,平成23年11月7日,一審原告会社に対し,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬支払に関して,調査の上,取締役らの善管注意義務違反が認められる場合には,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15及び一審被告A16を含む取締役を被告として,前記取得額及び支払額を損害とする責任追及等の訴えを提起するよう通知した。また,一審原告株主は,同月17日,一審原告会社に対し,同社が国外投資ファンド等に支払った1394億1900万円は企業買収の目的で支出されたものではなく,一審原告会社が保有していた金融商品の含み損の穴埋め目的で支払われたものであって,関係役員らの善管注意義務違反は明らかであること,不正行為の疑いを指摘していたBを解職したことなどによる信用毀損等の損害は少なく見積もっても100億円を下回らないため,これらの損害について第2事件一審被告らを含む役員に対して損害賠償請求をすべき旨の提訴通知兼補充通知を送付した。(甲B1の1・2,2の1・2)
⑽  一審被告A6らによる訴訟承継
承継前一審被告A1は,平成25年6月30日に死亡し,その妻である一審被告A6並びに子である一審被告A7及び一審被告A8が,本件訴訟における承継前一審被告A1の地位を承継した。一審被告A6らは,同年9月24日,東京家庭裁判所に対して限定承認の申述をし,同裁判所は,同年10月15日,当該申述を受理するとともに,一審被告A7を相続財産管理人に選任した。
一審被告A7は,平成25年10月28日,同月15日に限定承認をした旨及び一切の相続債権者及び受遺者は2か月以内に請求の申出をすべき旨を公告した。
(乙A7~9)
5  主な争点
⑴  第1類型(第1事件)
ア 承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反の有無
イ 本件金利及び本件ファンド運用手数料等相当の損害発生の有無
⑵  第5類型(第1事件及び第4事件)
ア 一審被告A3及び一審被告A4の疑惑発覚後の対応に係る善管注意義務違反の有無
イ 損害発生の有無
⑶  第6類型(第1事件及び第4事件)
一審被告A3及び一審被告A4の会社法462条1項の責任の有無
⑷  第7類型(第1事件)
ア 承継前一審被告A1及び一審被告A2の善管注意義務違反と一審原告会社に科された本件罰金等との間の相当因果関係の有無
イ 会社に科された課徴金・罰金は取締役の善管注意義務違反による損害に含まれるか否か
⑸  第2事件
ア 第2事件一審被告らの善管注意義務違反の有無
イ 損害の発生及び因果関係の有無
⑹  抗弁
ア 第1類型につき消滅時効の成否
イ 第1類型,第6類型及び第7類型につき信義則又は過失相殺による減額の可否
ウ 第6類型につき権利濫用の有無
6  主な争点に対する当事者の主張
⑴  第1類型(金利・運用手数料関係)
(一審原告会社の主張)
ア 承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反
(ア) 取締役は,受任者として会社法330条(民法644条)に定める善管注意義務を負っており,具体的には,①有価証券報告書等を提出している株式会社の取締役は,会社による適正な決算処理を困難にし,又は有価証券報告書等の虚偽記載の原因となる行為をしてはならない義務を負うとともに,②取締役は,正当な事業投資とはいえない目的の為に会社の財産を使用するなど,会社をして,無用な経済的負担の原因となる支出をさせてはならない義務を負い,③これらの行為が行われることを認識した取締役は,これを中止するために対応すべき義務を負う。
損失分離スキームの構築及びその維持は,それ自体,一審原告会社における適正な決算処理を著しく困難にするとともに,有価証券報告書等の虚偽記載を発生させる原因となるばかりか,一審原告会社においてその実行のための無用な負担を発生させるものである。このため,損失分離スキームの構築及び維持に関与する行為が取締役の善管注意義務違反に該当することはもちろん,損失分離スキームの構築及び維持が行われていることを知り,又は知り得たにもかかわらず,これを了承(黙認)したり,当該行為を中止・是正させるための措置を採らなかったりすることは,取締役の善管注意義務に違反するものである。
(イ) 承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の具体的な善管注意義務違反は以下のとおりである。
a 承継前一審被告A1及び一審被告A2について
承継前一審被告A1及び一審被告A2は,一審原告会社が行った資金運用において巨額の含み損が発生したことを認識しており,現に,バブル経済崩壊後の平成4年以降,継続的に行われてきた一審原告会社における損失計上回避策は,承継前一審被告A1及び一審被告A2が一審被告A3及び一審被告A4に指示をすることで実施されてきたものである。損失分離スキームの構築に関しても,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,その報告を受けて実行するよう指示した上,その後の損失分離状態の維持に関しても,一審被告A3及び一審被告A4から「135PB運用報告」等を用いた損失分離状態に関する報告を定期的に受け,これを認識していたにもかかわらず,何らの是正措置を採らなかった。
さらに,一審被告A2は,損失分離スキームの構築のための資金調達を目的としてLGT銀行の口座を開設するに当たり,平成10年3月23日付け口座開設申請書に一審原告会社の代表者として署名するなど,損失分離スキームの維持のための行為に積極的に関与している。
したがって,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,損失分離スキームの構築及び損失分離状態が達成された後である平成13年4月から損失分離状態が解消される平成23年3月までの間の損失分離状態の維持につき,取締役としての善管注意義務違反が認められる。
b 一審被告A5について
一審被告A5は,平成11年6月に総務・財務部を担当する取締役に就任して以降,一審被告A2や一審被告A3から,一審原告会社が簿外で抱えている多額の損失について説明を受けており,自らも損失分離スキームの構築に必要な議案を提案するなど,その構築に積極的に関与していた(少なくとも,一審被告A3及び一審被告A4が行おうとしている損失分離スキームの構築について認識していたにもかかわらず,当該行為を中止させるための措置を採らずにこれを了承していた。)。また,損失分離状態の維持に関しても,一審被告A3及び一審被告A4から「135PB運用報告」等を用いた損失分離状態に関する報告を定期的に受け,中間決算や本決算の際に一審被告A3から一審原告会社の簿外の損失について報告や相談を持ちかけられるなどしており,これを認識していたにもかかわらず,何らの是正措置も採らなかった。
したがって,一審被告A5は,損失分離スキームの構築及び損失分離状態が達成された後である平成13年4月から損失分離状態が解消される平成23年3月までの間の損失分離状態の維持につき,取締役としての善管注意義務違反が認められる。
c 一審被告A3及び一審被告A4について
一審被告A3及び一審被告A4は,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5の了承の下,損失分離スキームを策定して構築したのみならず,分離した損失を解消するまでの間,損失分離状態の維持のための行為に積極的に関与した。
したがって,一審被告A3は,取締役に就任した平成15年6月29日以降,また,一審被告A4は,取締役に就任した平成18年6月29日以降,いずれも損失分離状態が解消される平成23年3月まで,それぞれ取締役としての善管注意義務違反が認められる。
イ 損害の発生
(ア) 本件金利及び本件ファンド運用手数料等
a 一審原告会社の保有に係る預金債権(預託していた国債等を含む。以下,両者を併せて「預金債権等」という。)を担保として銀行から資金を借り入れた受け皿ファンド等が支払った金利の合計額は,別紙6「本件金利」の合計欄記載のとおり,29億3711万2411円である。
b LGT-GIM,SGボンド及びNeoの各受け皿ファンド等が平成13年以降ファンド運用者に対して支払った本件ファンド運用手数料等は,別紙7「本件ファンド運用手数料等」の「⑴GIM,SG Fund,Neo分」の表に記載のとおり,合計55億4408万8527円である(なお,同表中,「GIM」及び「GIM(OT)」はLGT-GIMを,「SG Fund」はSGボンドをそれぞれ示している。)。
また,GCNVVがそのジェネラル・パートナーである GCI Cayman Limited(以下「GCI Cayman」という。)に対して支払った運用報酬等は,合計34億2072万5993円である。GCNVVは,損失分離スキームの構築及び維持に利用することを主たる目的として設立されたものであるが,付随的に新事業の創生等の目的も存在したことを踏まえると,GCI Cayman に支払われた報酬のうち,損失分離スキームの構築及び維持の目的に用いられた資金の運用に係る部分は,GCNVVへの出資金350億円のうち少なくとも約240億円がQPに対して送金されていることから,240/350に相当すると考えられ,別紙7「本件ファンド運用手数料等」の「⑵GCNVV分」の表に記載のとおり,上記支払額のうち,23億4564万0681円となる。
これらの運用手数料等は,合計78億8972万9208円である。
c そして,以上の本件金利及び本件ファンド運用手数料等を,一審被告A3及び一審被告A4の取締役選任時点(平成15年6月,平成18年6月)をもって区切ると,以下の金額となり,これが下記(イ)及び(ウ)の理由により,一審原告会社の損害となるというべきである。
① 平成13年4月から平成15年6月まで
29億3702万3056円
② 平成15年7月から平成18年6月まで
38億1614万8682円
③ 平成18年7月から平成23年3月まで
40億7366万9881円
(イ) 主位的主張(法人格否認の法理の適用)
a 受け皿ファンド等は,関与者・認識者である承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4によって,含み損を隠すという不当な目的を実現するために組成され,受け皿ファンド等に注入された資金は,関与者・認識者の意のままに移動されていたものであること,受け皿ファンド等は,一審原告会社に発生した含み損を隠すことを目的とした損失分離スキームの中で使用された一審原告会社のための計算上の「道具」にすぎず,受け皿ファンド等に金融資産を保有させ続けるための費用については,全て一審原告会社が負担することが当初から予定され,かつ,実際にも一審原告会社が負担し続けてきたものであり,このような実態からすれば,受け皿ファンド等と一審原告会社は全体として一体であり,一審原告会社と各受け皿ファンド等の間,及び各受け皿ファンド間の資金移動は,実質として,一審原告会社の計算の範囲内で行われる資金移動にすぎず,各受け皿ファンド等から一審原告会社の計算の範囲外に流出した資金は一審原告会社の損害と評価されるべきである。
b 受け皿ファンド等は,一審原告会社の損失隠し,具体的には一審原告会社の連結決算において損失を計上させないという違法な目的のためにその法人格が利用されていたものであるから,目的要件を充足し,また,関与者・認識者である承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,自らの意思及び指示に基づいて,受け皿ファンド等を損失分離スキームの構築,維持及び解消に用いており,これらの受け皿ファンド等の資金は全て一審原告会社から拠出されていること等からすれば,支配要件を充足するといえるから,法人格否認の法理(最高裁昭和48年10月26日第二小法廷判決・民集27巻9号1240頁等)により,信義則上,その法人又は法主体の法人格は否定されるべきであり,少なくとも損失分離スキームに関する損害を被った主体を評価する上ではこれらの受け皿ファンド等の法人格を否認すべきである。
c ①受け皿ファンド等のうち本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払主体となったCFC,Hillmore,Easterside,LGT-GIM,SGボンド,GCNVV及びNeoは,一審原告会社の支配下にあって,計算上同一体と評価できるから,一審原告会社の計算の範囲内でこれらの受け皿ファンド等から支払われた本件金利及び本件ファンド運用手数料等は,一審原告会社が支払ったものと同視できるものである,②受け皿ファンド等に資金を注入したのは一審原告会社であるから,受け皿ファンド等の名義の預金は,いずれも一審原告会社に帰属すると考えられる(預金口座の帰属について判示した最高裁昭和57年3月30日第三小法廷判決・金融法務事情992号38頁等,最高裁平成15年2月21日第二小法廷判決・民集57巻2号95頁判決各参照),③受け皿ファンド等が損害を被った場合には,一審原告会社に生じた損害と評価でき,本件金利や本件ファンド運用手数料等の支払により受皿ファンド等から外部に資金が流出した時点で,同支払額と同額の損害が一審原告会社に発生したものと評価できる(子会社が被った損害の全額につき,親会社に生じた損害として賠償の責めに任ずると判示した最高裁平成5年9月9日第一小法廷判決・民集47巻7号4814頁参照)。
(ウ) 予備的主張(一審原告会社の預金債権等又は出資債権の価値毀損による損害の発生)
a 本件ファンド運用手数料等については,一審原告会社から直接又は間接的に100%出資を受けた受け皿ファンド等(LGT-GIM,SGボンド,GCNVVは直接的に出資しており,NeoはLGT-GIM及びTEAOを通じて間接的に出資している。)が支払い,最終的に受け皿ファンド等の財産は全て一審原告会社に返還されなければならないものであるから,損失分離スキームを構築・維持するという目的のために支払われ(費消され),一審原告会社に返還されないこととなる本件ファンド運用手数料等がその支払時点において,一審原告会社に損害として発生することになるのであって,その後に受け皿ファンド等の資産状態の変動によりその返済能力や返還能力が変動し又は変動する可能性が存在したとしても上記の損害の発生が否定されるものではない。
b 受け皿ファンド等の資産状態が変動することにより,その返済能力が変動する可能性があるとしても,それは飽くまで預金債権等の価値が毀損された後の「損害の填補」の問題であって,受け皿ファンド等から一旦本件金利又は本件ファンド運用手数料等が支払われたことにより損害は発生済みと評価すべきであり,受け皿ファンド等の資産状態が変動することにより,その返済能力が変動する可能性については,「損害の填補」の問題であるから,関与者・認識者である一審被告らが立証責任を負うのが相当である。
c 受け皿ファンド等は,損失分離スキームの構築・維持という同一の目的の下において,関与者・認識者である承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の指示の下,各受け皿ファンド等の間において,資金の入出金等が互いに行われていた可能性があることからすれば,受け皿ファンド等がそれぞれ単独で債務超過状態にあったか否かを論じるのではなく,全体としてみて債務超過の状態にあれば,預金債権の価値が毀損したと評価すべきである。
また,各受け皿ファンド等の多く(CFC,Easterside,SGボンド,LGT-GIM及びGCNVV)は,本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払った各時点において,それぞれが継続的に債務超過状態であったことは明らかである。
d 少なくとも平成15年以降,各受け皿ファンド等(CFC,Easterside,SGボンド,LGT-GIM及びGCNVV)に新たに注入された資金は,一審原告会社から損失分離スキームの解消のため(すなわち,一審原告会社の預金債権等の返還を受けるため)に注入されたものであって,各受け皿ファンド等において,保有資産の運用等による収益が発生している事実は存在しない。
e 仮に,損害の発生時期が一審原告会社が提供した担保である預金債権等や出資債権が返済又は返還されなかった時点であるとの前提に立ち,その時点の受け皿ファンド等の返済能力や返還能力によって預金債権等や出資債権の毀損の有無を判断するとしても,一審原告会社への預金債権等や出資債権の返還(返還額は1351億円)は,本件国内3社の株式取得又はジャイラスの配当優先株の買取りに関する任務懈怠に起因して得た利益が還流したものにすぎず,一審原告会社が各受け皿ファンド等(CFC,Easterside,LGT-GIM及びSGボンド)に「国内3社・ジャイラス代金1229億円」を支払う直前の時点において,各受け皿ファンド等には返済能力や返還能力がなかったということになるため,それまでに蓄積されていた本件金利又は本件ファンド運用手数料等の支払(支払額は108億円)による預金債権等の価値の毀損が最終的に現実化し,損害が発生したと評価でき,少なくとも,CFC及び Easterside が支払った本件金利分合計28億7711万2360円,LGT-GIM及びSGボンドが支払った本件ファンド運用手数料等合計47億7608万3682円については,一審原告会社に返済又は返還されなかったと評価でき,同額の損害が発生したといえる。
f 一審原告会社において,GCNVVの組成に当たり,直接の出資として300億円,GVを介した出資(一審原告会社がCFCを経由してGVに送金した資金による出資)として50億円の合計350億円を出資しているのに対し,GCNVVから一審原告会社に償還された財産は,平成18年3月の中間償還として60億円,平成19年9月の中途解約に伴う償還として30億9196万5718円の合計90億9196万5718円にすぎず,出資額から259億円強も目減りしていたのであるから,少なくとも,GCNVVに対する出資債権のうち,本件ファンド運用手数料等分の出資金23億4564万0681円については,一審原告会社に返還されなかったのであるから,同額の損害が発生したといえる。
(一審被告A6らの主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 一審原告会社における金融資産の運用は財務担当の一審被告A3及び一審被告A4が中心となって行っており,承継前一審被告A1は,一審被告A3及び一審被告A4から一審原告会社の含み損の状況について説明を受けた記憶がなく,損失分離スキームの構築について了承したこともない。承継前一審被告A1の供述調書においては,同人が損失分離スキームへの関与を認める旨の供述をしたと記載されているが,同人は自らの関与を認める供述になっていることを認識していなかった。同供述調書は,供述当時87歳の老人が,概ね10年以上前の事実について詳細に供述している点で不自然であり,検察官による相当な誘導があったと考えざるを得ない。
(イ) 大規模な事業会社の役員は広範な職掌事務を有しており,かつ,承継前一審被告A1は必ずしも金融取引の専門家でもないから,その任務として,自らが個別の取引の詳細を一から精査することまでは求められておらず,下部組織等が適切に職務を遂行していることを前提として,そこから上がってくる報告に明らかな不備不足があり,これに依拠することにちゅうちょを覚えるというような特段の事情がない限り,その報告を基に調査・確認すれば注意義務を果たしたことになるというべきである。承継前一審被告A1は,損失分離スキームの構築について説明を受けた記憶がないことに加え,当時,75ないし77歳と高齢で,代表取締役としての責務を主として一審被告A2が担っていたことをも併せ考えると,承継前一審被告A1に,代表取締役会長としての善管注意義務違反は認められない。
イ 損害の発生について
(ア) 損害についてそもそも,損害とは,もし加害行為がなかったとしたならばあるべき利益状態と,加害がされた現在の利益状態との差である(差額説)から,受け皿ファンド等による本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払前後における財産状態を明らかにすべきであり,これがないまま,本件金利等の支払時点で損害が発生するとはいえない。また,かかる差額説からすれば,一審原告会社が受け皿ファンド等に生じた損害がその後填補されていないことまで主張立証しなければならないはずである。一審原告会社は保有する全ての証拠にアクセスできる立場にあるのに対し,一審被告A6らは開示を受けた証拠しかアクセスできないのであるから,公平上も,事案解明のためにも,一審原告会社が主張立証責任を負うのが当然である。
また,仮に,損失分離スキームの構築後,これを放置した善管注意義務違反が観念できるとしても,放置と相当因果関係のある損害は,取締役在任期間における取締役の行為と相当因果関係のある損害に限定されるはずである。承継前一審被告A1は,平成16年4月に取締役を退任しているから,一審原告会社は,その時点において,損害がいくらとなっていたかを明らかにすべきである。
(イ) 主位的主張について
a 受け皿ファンド等は,一審原告会社とは別の法人格を有する法人である。受け皿ファンド等は,一審原告会社とは別の資産を有し,その固有の資産運用も行っており,一審原告会社も,受け皿ファンド等が別の法人であることを前提として業績や財産状況の説明,開示を行っていたものであって,法人格を否認すべき状況などない。
そもそも,法人格否認の法理は,主に会社債権者等の第三者を保護するために認められたものであり,会社やその背後にいる株主に有利な法理の主張は安易に認められるべきではない。
本件は,受け皿ファンド等の法的責任が問われている場面ではなく,一審原告会社が受けたと主張する損害を算定する場面において,受け皿ファンド等の法人格を否定するものであって,法人格の濫用又は形骸化の状態を作出した一審原告会社が法人格否認の法理の適用を主張することはできない。
b 金利は,資金借入れの対価であって,会社は,資金の運用により利益を受けており,金利の支払自体が損害になるものではない。支払った金利以上に会社の資産が増加すれば,損害があるとはいえない。運用手数料についても,同様であり,運用手数料の支払によって資産運用という業務の提供を受けているのであるから,運用手数料の支払自体が損害になるものではない。支払った運用手数料以上に会社の資産が増加すれば,損害があるとはいえない。
特定の受け皿ファンドの支出の一部のみを掲げ,それが一審原告会社の損害であると主張するのみでは不十分であり,ファンド運用による保有資産の増加額を含め,他の受け皿ファンド等も含む一審原告会社と「同一体」にあると主張する範囲全体の財務状況や収支が明らかにならない以上,損害が発生したとはいえない。
(ウ) 予備的主張について
a 一審原告会社が毀損したとする預金は担保から解放され,出資も一審原告会社に戻っているので,預金債権や出資債権の毀損は何ら現実化していない。
b 受け皿ファンド等の資産の減少によって直ちに一審原告会社の預金債権や出資債権の価値が減少するものではなく,預金や出資が返還されないことが確定した時点で損害と認識することが一般的であり,預金や出資が返還されないことが確定する前の時点で損害が発生したとすることはできない。また,一審原告会社の有する預金債権や出資債権は,その債務者である受け皿ファンド等の総資産を引き当てとするものであるから,預金債権や出資債権の価値の減少を主張するのであれば,受け皿ファンド等の支出の一部を掲げるだけでは不十分であり,受け皿ファンド等による運用によって生じた利益もある(実際,預金利息や国債配当等のほか,LGT銀行の預金を解約した際には約7億円の益金が発生し,コメルツ銀行・SG銀行・SGボンドの関係でも解約時に約31億円の益金が発生している。)から,ファンド運用による保有資産の増加額も含め,受け皿ファンド等の全体の財務状況や収支が明らかにされなければならない。一審原告会社の出資が現実に毀損されたことが主張立証されていない。
(エ) 一審被告A2の主張を援用する。
(一審被告A2の主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 一審被告A2は,1990年代,いわゆる特金の運用資産の残高及びその中に含み損を抱えた金融商品が存在していたことは認識していたが,それを超えて,一審原告会社が主張するような巨額の含み損が発生していたことは認識していなかった。一審被告A2が,巨額の損失が海外ファンドに隠されていることの概要につき説明を受けたのは,代表取締役会長に就任した平成13年6月より後の,平成14年から15年頃,一審被告A3より「135PB運用報告」(甲Aイ8の1)と類似した書面を見せられた時が最初であり,その時点までは損失隠しの全体像を知らなかった。一審被告A2が受けた報告は,「130PB期運用計画」(乙B44)及び「130PB決算速報」(乙B45)の内容説明にとどまっており,これらがJ常務を名宛人にしていることから表の書面であり,「135PB運用報告」が裏の書面であるというものではない。また,LGT銀行の有価証券取引口座の開設書類(甲Aキ8の3添付資料1-1)に,一審原告会社の代表者である一審被告A2の署名があるが,①同日付けの担保権設定契約書の担保権設定者欄には一審被告A2の署名がなく,一審被告A3が署名したものであること(甲Aイ1,乙B74),②平成15年7月の担保権設定(延長)契約及び宣誓書には一審被告A2の署名がある(甲Aイ10)が,本来であれば,当初の担保権設定契約の締結にも,一審被告A2の署名が必要とされていたこと,③預金口座又は有価証券取引口座の開設は,取締役会決議事項ではなく,LGT銀行との取引関係を作ること自体は,リヒテンシュタイン公家との資産運用を担うなど同行の高い運用実績を活用して資産内容を改善したいという意図や,新事業であるデジタルアーカイブ事業を推進するためリヒテンシュタイン公家や欧州の富裕層顧客とのコネクションを形成したいという意図があって行われたものであり,口座開設書類への署名をもって,担保権設定契約の締結の事情を知っていたと認定することはできないことなどからすると,担保権設定契約は,一審被告A3が社内の決裁手続を意図的に回避して行ったものであって,一審被告A2が一審被告A3から担保権設定契約書の内容を知らされていなかったことを強くうかがわせるものである。
一審原告らは,刑事事件における一審被告A2の供述調書を引用して,一審被告A2が一審被告A3らに指示して損失分離スキームを実施してきた旨主張するが,当該供述調書は,取調べ当時76歳という高齢であった一審被告A2が,長時間に及ぶ取調べを受ける中で,決められたストーリーを執拗に押しつけてくる検察官の取調べに無力感を覚え,少々のことは妥協してしまおうという心理状態になったことなどの複数の要因が影響して作成されたものである。その供述内容も,20年も前の出来事を明確に記憶しているものになっていて不自然であるのみならず,客観的証拠により裏付けられた内容になっていないなど,信用性が極めて乏しい。「運用状況と決算数値について」(甲Aキ12の1添付資料2),「運用ポートフォリオ回復案」(甲Aキ12の2添付資料1),コメルツ銀行に約306億円もの預金がある旨の記載のある決算内訳表(甲Aイ14の1),ITX株式追加購入時の含み損があることを知っていたかのような一審被告A2の供述は,仮にこれを一審被告A2が知覚・認識する機会が存在していたとしても,それはあくまで特金に含まれ又は含まれていた金融商品の含み損解消の過程で生じた一事象であると理解した可能性も十分あり得るものである。
このように,一審被告A2が当初から損失分離スキームの構築・維持を認識していたとはいえず,一審被告A2が,損失隠しの全体像の概要を認識した後に事実の調査の指示,公表等の措置を講じなかったことは,当時の状況下ではやむを得ない事由があったというべきであり,一審被告A2の任務懈怠責任は否定されるべきである。
イ 損害の発生について
(ア) 主位的主張について
そもそも法人格否認の法理は,会社・株主の相手方(主に会社債権者)を保護する法理として発展してきたものであり,会社・株主側に有利となるような適用は安易に認められるべきではない。一審原告会社が援用する最高裁昭和48年10月26日判決も新・旧両会社の法人格の別異性を否定して,会社債権者の保護を図った事案である。
加えて,CFC関係では,一審原告会社がLGT銀行に預託した資産からの収益が存在したはずであり,実際,LGT銀行への預託を解除した際には益金7億円が発生している。また,Hillmore 及び Easterside関係では,コメルツ銀行及びSG銀行に有していた預金には金利が発生する上,預金及びSGボンド解約時には31億円の益金が発生している。さらに,LGT-GIM関係では,2000年(平成12年)12月15日から2007年(平成19年)12月31日までの間の損益計算書によると,運用手数料を控除しても,一貫して利益を上げ続け,その総額は19億2340万5830円に上る。
このように,一審原告会社は,各ファンドとの取引により利益も得ているのであり,これを無視して,損失隠しの道具として各ファンドの法人格を否定することは許されない。
(イ) 予備的主張について
a 損害とは,もし加害原因がなかったとしたならばあるべき利益状態と,加害がされた現在の利益状態の差であるとされており(差額説),このような差額説を前提とすれば,本件の損害とは,「損失分離状態が維持されていることを知りながら又は知り得たにもかかわらず当該状態を是正するための措置を採らずにこれを放置した」という加害がされた現在の利益状態と,加害がなかったとしたならばあるべき利益状態との差と解することになる。一審原告会社が主張する本件金利及び本件ファンド運用手数料等は,いずれも過去のある時点における個々の支出の問題であり,差額説による損害算定の前提となる「現在の利益状態」を構成する一要素にすぎない。本件金利及び本件ファンド運用手数料等を支払った時点で損害が発生するとの一審原告らの主張は,事実のレベルにおいても,損害概念に関する差額説からも理由がない。また,差額説を前提とすれば,加害行為がされた現状と,それがなされなかったと仮定した場合の原状との差額が損害である以上,一審原告会社において「原状」と「現状」との差額を主張立証しなければならない。
b LGT銀行とCFCとの間のローンアグリーメントにおいては,CFCは,弁済期までは300億円を自由に利用できるとされているのであり,弁済期が到来するまでの間は,金利を支払いさえすれば債務超過に陥っていても構わないのである。CFCがたとえ本件金利の支払時点において一審原告らのいうところの実質的な債務超過状態であったとしても,弁済期に返済資金を準備できれば,一審原告会社が担保に供した預金債権等の価値が毀損されるという損害も発生しなかったと評価することが,金銭消費貸借契約の法的性質からも妥当な結論であることは明らかである。さらに,一審原告会社が担保に供した預金債権等や出資金は,最終的にその全額が一審原告会社に戻ったものと考えられるから,これらが毀損されたことを前提とする損害の主張は理由がない。
c LGT-GIMについてみれば,少なくとも平成12年12月15日から平成19年12月31日までの間,一審原告会社が主張する本件ファンド運用手数料等を控除した上でもなお一貫して利益を上げ続けており,LGT-GIMに対する一審原告会社の出資債権の価値は何ら毀損されていない。LGT-GIMにおいて収益が上がっている事実がある以上,他のファンドにおいても同様に収益が上がっている可能性は十分にあり,この点の精査なくして一審原告会社に損害が発生しているか否かを判断することはできない。
d 一審原告会社は,一審原告会社が担保を設定していた預金債権等が実際に担保実行されることなく返還された場合にはじめて一旦発生した損害が填補されると主張するが,単純に考えて,金利や運用手数料の支払がされた後にファンドの運用による収益が発生した場合,過去の各支払時点において損害が発生するとの一審原告らの論理に基づけば,収益発生の都度損害が填補されて,預金債権や出資の価値の毀損も回復すると考えることになるはずである。損害の発生を過去の各支出時点と考え,他方で損害の填補については,過去の収益発生時点においてはこれを考慮せず,最終的に担保に供されていた預金債権やファンドへの出資金が一審原告会社に返還される時点においても考慮する必要がないかのごとき一審原告らの主張は,論理的にも整合性のない独自の見解というほかない。
e なお,一審被告A2の認識では,GCNVVの組成及び300億円の投資は,新事業創成のためのチャレンジであり,損失隠しのために利用したものではない上,GCNVVから支払われたファンド運用手数料は,契約で定められたものであって,不当に高額なものであるなどの証拠もない。したがって,一審原告会社が主張する一審被告A2の善管注意義務違反とGCNVVからのファンド運用手数料の支払との間には相当因果関係はない。
(ウ) 一審被告A6らの主張を援用する。
(一審被告A5の主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 一審被告A5が含み損の存在について報告を受け,これを了承したのは,代表取締役に就任した平成13年6月28日より後のことであり,常務取締役時代には,含み損や損失分離スキームの存在について理解してなかった。これは,一審被告A5が,刑事手続の供述調書において,社長就任後に一審被告A3から簿外の損失があることをはっきり教えられた旨を供述していることや,一審被告A2が上記主張に沿う供述をしていることから明らかである。
(イ) 有価証券報告書を提出している会社の取締役は,有価証券報告書等の虚偽記載をしてはならない義務を負うのみであり,会社による適正な決算処理を困難にし,又は有価証券報告書等の虚偽記載の原因となる行為をしてはならないという義務を負うものではない。また,一審被告A5が損失分離スキームの構築・維持に関与したとしても,そのことから直ちに,適正な決算処理が不可能になったり,虚偽記載を発生させたりするものではない。
イ 損害の発生について
一審被告A6ら,一審被告A2及び一審被告A3の主張を援用する。
(一審被告A3の主張)
ア 本件金利及び本件ファンド運用手数料等は,一審原告会社とは別法人である受け皿ファンド等が支出したものであって,一審原告会社の損害ではない。また,LGT銀行への預託については解約時に益金7億円が,SGボンドについては解約時に31億円の益金が発生しているほか,預託していた資産に係る利息等を含めれば相当の利益があったのであるから,これらの利益は損害から控除されなければならない。
イ 損害に関する一審被告A6らの主張を援用する。
(一審被告A4の主張)
ア 善管注意義務違反について
一審原告会社が損失分離スキームの構築・維持の責任の発生根拠として主張する行為は,いずれも一審被告A4が取締役に就任した平成18年6月29日以前の行為である。一審被告A4は,一従業員としてそれらの行為に関与したにすぎず,取締役として責任を負うべきものではない。
イ 損害の発生について
一審被告A3の主張を援用する。
⑵  第5類型(疑惑発覚後の対応関係)
(一審原告らの主張)
ア 一審被告A3及び一審被告A4の善管注意義務違反
取締役及び監査役は,善管注意義務の一つとして,違法行為が行われた疑いが認められる場合にはこれを調査し,その結果違法行為が行われたと判断される場合にはそれについて公表その他必要な措置を講じる義務がある。さらに,違法行為が行われていることを認識している取締役及び監査役は,違法行為が行われたことを隠蔽せず,違法状態を是正すべき義務がある。
本件において,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4が損失分離スキームの構築・維持に関与した者であることは前記⑴記載のとおりであり,損失隠しの存在を認識しながら,平成23年9月にBが本件国内3社の株式取得等に係る疑惑を指摘するようになって以降も,この問題を取締役会で取り上げて議論しようとせず,損失隠しについて認識がない取締役に対し,損失隠しの存在を隠蔽し,ジャイラスや本件国内3社のM&Aに関し違法と言われる問題は何もないとの虚偽の説明を続け,さらにBを非難してその解職に賛成するよう働き掛けるなど,損失隠しについて認識がない取締役が疑問を持たないように仕向けて,違法行為の発覚を避けようとした。これらの行為が,違法行為を隠蔽せず,違法状態を是正すべき義務に違反することは明らかであり,一審被告A3及び一審被告A4には善管注意義務違反が認められる。
なお,一審被告A3は,平成23年6月取締役を退任し監査役に就任しているので,Bによる疑惑指摘後は監査役として対応したことになるが,監査役も取締役と同様,違法行為が行われたことを隠蔽せず違法状態を是正すべき善管注意義務を負うことは,前記のとおりである。
イ 損害の発生
一審被告A3及び一審被告A4は,一審被告A5とともに,Bの疑惑の指摘に対し,違法行為の発覚を避けようとして,10月14日取締役会においてBを社長から解職したが,これにより世間からの批判が強くなって,一審原告会社の株価は下落した。結果的には,第三者委員会(以下「本件第三者委員会」という。)の調査が始まった約1週間後である同年11月8日に損失先送りを公表することになったが,Bによる疑惑の指摘後の対応が不適切であったことは,違法行為を隠蔽するために疑惑を指摘するBを解職したのではないかという印象を世間に与えるなど,一審原告会社のガバナンスに対する信頼を失墜させ,その信用を著しく毀損することとなった。毀損された信用は,その後の回復努力によってある程度回復される可能性はあるが,そのためには相応の費用がかかるし,違法行為を行ってこれを隠し続けたことによる信用毀損を完全に元に戻すことはできない。
こうした信用毀損により一審原告会社が被った損害は,少なくとも1000万円を下回るものではない。
(一審被告A3の主張)
ア 取締役会においてBが解任された主な理由は,Bが強権的であり,他の取締役や社員らとの間で協力関係を築くことができなかったからであり,このことは一審原告会社の社内で共有されていた。Bを解職した理由が上記のようなものである以上,一審被告A5の行為は何ら違法なものとはいえない。
したがって,当時,監査役であった一審被告A3が,違法行為を阻止するために,取締役会や監査役会にその旨報告するなどの措置を講じる義務を負っていたとはいえず,一審被告A3に任務懈怠はない。
イ 一審被告A4の主張を援用する。
(一審被告A4の主張)
ア 一審被告A4は,もともと,Bが代表取締役として相応しくないと考えていたのであるから,B解任決議に賛成したことは,粉飾の発覚を避けるという動機を併有していたとしても,善管注意義務違反にはならない。また,粉飾の発覚を避けるという動機についても,一審被告A4が会社の方針に従って行ってきた一連の行為の延長線上のことであって,善管注意義務違反に問うべきものとはいえない。
イ 損害とは,その行為がなかったとした場合の会社が保有する財産状態と実際の財産状態を比較し,前者が後者を上回る場合に初めて発生したといえるものである(差額説)。したがって,信用毀損による損害が発生したといえるには,B解職により,一審原告会社ができたはずの取引について失注し,これによる利益が得られなくなったなど会社財産を減少させる要因となる具体的事実が認められなければならない。一審原告会社は,そのような具体的事実を何ら主張,立証していないから,損害の発生は認められない。
ウ 一審被告A3の主張を援用する。
⑶  第6類型(剰余金の配当等関係)
(一審原告らの主張)
ア 本件有価証券報告書等の訂正報告書の貸借対照表を元に各期の分配可能額を算定すると,別紙10「訂正後財務諸表における分配可能額」記載のとおり,各期の分配可能額はいずれもマイナスであった。したがって,本件剰余金の配当等は,いずれも分配可能額を超えてされたものである。
イ 平成17年改正前商法においては,利益の配当は,決算に基づく利益処分として行われていたが,会社法は,利益の配当は決算に基づく利益処分ではなく,時期を問わず,いつでも可能な「剰余金の配当」として整理された結果,分配可能額を算定するに当たり,いつの時点の貸借対照表上の金額を基準とすべきかが問題となるところ,分配可能額の算定上「最終事業年度の末日」(すなわち,承認を受けた計算書類にかかる事業年度のうち最も遅いものの末日)の金額を基礎としている(会社法461条2項の「分配可能額」の算定の基礎となる「剰余金の額」は同法446条1項により「最終事業年度の末日」における資産等の金額を基礎とすることとされている。)。これは,本来直近に終了した事業年度の末日における資産等の金額を基準とすべきところ,各事業年度終了後に定時株主総会又は取締役会の承認手続等を経て当該事業年度に係る計算書類が確定されることを前提として(同法438条,439条),各事業年度終了後から定時株主総会又は取締役会の承認手続等がとられるまでの間において剰余金の配当等が行われる場合には,確定のための手続途上の計算書類を基準として分配可能額を算定するのが妥当ではないため,確定のため手続を経ている前の事業年度の末日現在の計算書類を基準とすべきものとしたにすぎない。このように分配可能額の算定の時点は極めて技術的な問題であって,計算書類について取締役会の承認手続が有効か否かの問題ではない。本件においては,各事業年度終了後,定時株主総会又は取締役会の承認等によって本来計算書類が確定されるべき時期までに,承認手続を経た各計算書類のうち,直近のものに基づいて分配可能額が算定されている。
本件は,100億円を超える巨額の損失隠しが問題になっている事案であって,平成19年3月期から平成23年3月期までの貸借対照表に基づく分配可能額は,100億円を超える大幅なマイナスとなっており,貸借対照表上の細かな数値を問題にするまでもなく,平成19年3月期から平成23年3月期までの分配可能額がマイナスであることは明らかである。
ウ 一審被告A3及び一審被告A4の責任について
(ア) 株式会社が分配可能額を超えて剰余金の配当を行った場合には,「会社法454条1項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合における当該株主総会に係る総会議案提案取締役」が,当該株式会社に対し連帯して,分配可能額を超えて配当された剰余金額を支払う義務を負うと規定されており(同法462条1項6号イ),この「総会議案提案取締役」とは,株主総会における「議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われたときは,当該取締役会において当該取締役会の決議に賛成した取締役」がこれに当たると規定されている(同項1号イ,会社計算規則160条3号)。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,平成19年5月8日,平成20年5月8日,平成22年5月11日及び平成23年5月11日に開催された各取締役会において,定時株主総会に剰余金配当議案を提案することに賛成しており,いずれも総会議案提案取締役に該当する。
(イ) 中間配当についても,会社「法454条1項の規定による決定に係る取締役会において剰余金の配当に賛成した取締役」が,株式会社に対し連帯して,分配可能額を超えて配当された剰余金額を支払う義務を負うと規定されている(同法462条1項柱書,会社計算規則159条8号ハ)。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,平成19年11月6日,平成20年11月6日,平成21年11月6日及び平成22年11月5日に開催された各取締役会において,中間配当に関する議案に賛成しているから,いずれも分配可能額を超えた剰余金の配当に関する職務を行った業務執行者に該当する。
(ウ) 違法な自己株式の取得についても,会社「法156条1項の規定による決定に係る取締役会において株式の取得に賛成した取締役」が,株式会社に対し連帯して,分配可能額を超えて自己株式の取得の対価として交付された金銭を支払う義務を負うと規定されている(同法462条1項柱書,会社計算規則159条2号ハ)。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,平成20年5月8日及び平成22年11月5日に開催された各取締役会において,審議された自己株式取得議案に賛成しているから,いずれも分配可能額を超えた自己株式の取得に関する職務を行った業務執行者に該当する。
(エ) 損失分離スキームの構築・維持を認識していた一審被告A3及び一審被告A4がその職務を行うについて注意を怠らなかったとはいえないから,一審被告A3及び一審被告A4は,一審被告A5とともに,会社法462条1項に基づき,一審原告会社に対し連帯して,前記前提事実⑹記載の各配当額及び自己株式の各取得額の合計586億7596万8936円を支払う義務を負う。
(一審被告A3の主張)
ア 本件剰余金の配当等をした事実については認めるが,違法な本件剰余金の配当等に基づく責任については争う。一審被告A4の主張を援用する。
イ 一審被告A4の主張を援用する。
(一審被告A4の主張)
(ア) 会社法462条1項に基づく金銭支払義務は,剰余金の配当等が効力を生じる日における分配可能額を超えた剰余金の配当等が行われることが要件である(同法461条,462条)。この効力を生じる日における分配可能額は,最終事業年度末日における貸借対照表計上額を基準に算定される(同法446条,462条)。そして,最終事業年度とは,会計監査人設置会社の場合,各事業年度に係る計算書類について取締役会の承認を受けた場合における,承認を受けた当該各事業年度のうち最も遅いものをいう(同法2条24号,439条,436条2項)。
一方,計算書類の内容に虚偽がある場合,取締役会の承認自体が無効である。一審原告会社が,平成19年3月期から平成23年3月期の貸借対照表に虚偽記載がある旨主張しているから,取締役会の承認は無効であり,同時期の訂正前の貸借対照表は承認を受けたことにはならない。
したがって,本件において,分配可能額の基礎となる貸借対照表は,平成18年3月期の貸借対照表であって,この貸借対照表上の分配可能額を基準に,その後の剰余金の配当の支払及び自己株式の取得代金の支払による分配可能額の減少により各支払の効力発生時において分配可能額が零を下回ったか否かにより分配可能額を超えた剰余金の配当・自己株式の取得が行われたか否かを判断すべきである。
本件においては,平成19年3月期ないし平成23年3月期の貸借対照表については訂正がされているが,訂正後の貸借対照表について承認を受けたのは,効力発生日よりも後のことであり,効力発生日には存在しなかったものであるから,これをもって効力発生日における貸借対照表であるということはできないのであって,訂正後の貸借対照表上の分配可能額をもって,直ちに効力発生時における分配可能額とすることはできない。
仮に,外形的な承認をもって,承認と解する余地があるとしても,訂正後の貸借対照表は,効力発生日においては存在していなかったのであるから,訂正後の貸借対照表における分配可能額をもって効力発生日における分配可能額とすることはできない。
(イ) また,一審被告A4は,平社員であったころから,一審原告会社の指示に基づき,損失の分離等に関する業務を行ってきたのであり,取締役就任後の行為もその延長にすぎないから,注意を怠ったとはいえない。刑事事件において,有罪になったのは連結決算に関する有価証券報告書等の虚偽記載であって,単体の決算について注意を怠ったことにはならない。(抗弁ではあるが,ここに掲記する。)
(ウ) 一審被告A3の主張を援用する。
⑷  第7類型(課徴金・罰金関係)
(一審原告会社の主張)
ア 承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に関する善管注意義務違反承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4には,前記⑴(一審原告会社の主張)ア記載のとおり,平成23年3月までの損失分離状態の構築・維持につき取締役としての善管注意義務違反が認められる。
イ 一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の虚偽記載のある有価証券報告書等の提出に係る善管注意義務違反
有価証券報告書等を提出する会社の代表取締役及びその提出の業務に携わる取締役は,これを提出するに当たり,その記載事項につき,虚偽の記載をすべきでないことはもちろん,事実に即して正確に記載し,又は虚偽の記載がされることのないよう配慮すべき注意義務を負う。また,取締役は,取締役会に上程された特定の業務執行に限らず,広く代表取締役ないし業務執行取締役につき一般的に監視する義務ないし任務を負う。
(ア) 一審被告A5の注意義務違反
一審被告A5は,本件有価証券報告書等が提出された平成19年6月28日から平成23年8月11日までの間,一審原告会社の代表取締役であり,かつ,損失分離スキームの維持により,本件有価証券報告書等における連結純資産額等の記載が虚偽であることを認識していたから,本件有価証券報告書等につき,事実に即して正確に記載し,又は虚偽の記載がされることのないよう配慮すべき注意義務を怠った。
(イ) 一審被告A3及び一審被告A4の注意義務違反
一審被告A3は,本件有価証券報告書等が提出された期間のうち,平成23年6月29日まで一審原告会社の取締役を務めており,同日から同年11月24日までは監査役を務めていた。また,一審被告A4は,本件有価証券報告書等が提出された期間,一審原告会社の取締役を務めていた。これらの一審被告は,いずれも損失分離スキームの維持により,本件有価証券報告書等における連結純資産額等の記載が虚偽であることを認識していたから,一審被告A5による業務執行を監視して虚偽記載のない有価証券報告書等を提出させるための措置を採るべき注意義務を怠った。
ウ 損害の発生及び因果関係
一審原告会社は,課徴金納付命令及び刑事判決に従い,本件課徴金1986万円及び本件罰金7億円を納付したところ,善管注意義務違反行為をした取締役が賠償義務を負う損害には,本件罰金等も含まれる。課徴金や罰金を支払ったことによって会社が受けた損害について取締役が賠償責任を負うか否かは,当該善管注意義務違反の具体的行為と損害との間の相当因果関係の有無の問題であるところ,以下のとおり,一審被告らの行為と本件罰金等の納付との間には相当因果関係があるというべきである。
(ア) 損失分離状態の維持等に係る善管注意義務違反との間の因果関係
a 承継前一審被告A1及び一審被告A2について
承継前一審被告A1及び一審被告A2の実行指示の下で行われた損失分離スキームの構築は,有価証券報告書等の虚偽記載に直結する「含み損について損失を計上しないこと」を目的として実行されたものであり,損失分離スキームの構築がなければ,これによる虚偽記載を含む本件有価証券報告書等が提出されることもなかったのであるから,同人らによる損失分離スキーム構築の実行指示と本件有価証券報告書等の虚偽記載との間に条件関係が認められることは明らかである。一審原告会社における一連の損失隠しは,極めて少数の役職員らの間でのみ共有され,実行されており,損失隠しを継続することについての強固な運命共同体が形成された結果,承継前一審被告A1や一審被告A2が取締役を退任した後も,残る運命共同体の構成員たる一審被告A5らによって延々と継続されていくことになった。「含み損を計上しないこと」は,当然ながら有価証券報告書等の虚偽記載を行うことを意味するのであるから,少なくとも承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役であった時期の有価証券報告書等の虚偽記載については,同人らの了解の下で行われていたことは明白である。加えて,同人らは,一審被告A5をはじめとする後任の取締役らに対して損失隠しについての是正の指示や要望をした形跡は一切なく,自らの指示によって実行され,損失隠しによる有価証券報告書等の虚偽記載という結果発生を防止するための積極的な行為を何らしていない。これらのことからすれば,承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役であった時代に既にされていた有価証券報告書等の虚偽記載が,同人らの退任後においても継続してされることは,当然の因果の流れというべきであり,これにより一審原告会社に生じた本件罰金等相当額の損害は,通常生ずべき損害に当たる。
仮に,これが通常損害とは認められないとしても,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,一審原告会社に生じた含み損を計上しないというスタンスを一貫して採り続けているとともに,最後まで適正な方法により含み損が計上されないままであろうと予想しており,かかる認識の下に損失分離スキームの構築の実行を指示していたのであって,自らが取締役を退任した後も,一審被告A5らによって虚偽記載のある本件有価証券報告書等が提出され続けるであろうことを予見し,又は予見し得たのであるから,前記損害は,承継前一審被告A1及び一審被告A2の善管注意義務違反によって生じた特別損害に当たる。
これに対し,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,一審被告A5らの故意行為が介在したことを理由に,自らの善管注意義務違反行為と損害との間の因果関係を否定しているが,本件有価証券報告書等に虚偽記載がされる経緯に鑑みれば,提出時点の代表取締役らの行為の介在は,客観的に見て,予期せざる第三者の故意行為の介入ではない。むしろ,一審被告A5らによる本件有価証券報告書等の提出行為は,前記運命共同体の損失隠しの継続という目的の下において予定されていた必然的な成り行き(いわば共犯による続行行為)であり,損失隠しの継続という目的から切り離された一審被告A5らによる独立の意思決定と評価されるものではないから,これにより相当因果関係が否定されることはない。
また,一審被告A2は,虚偽記載のある四半期報告書の提出が課徴金の対象になる旨の改正がされたのは,平成18年6月14日に公布された「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第65号)であることを理由として,本件課徴金と平成17年6月29日一審原告会社の取締役を退任した一審被告A2の行為との間に相当因果関係がない旨も主張する。しかしながら,既に平成15年4月より証券取引所の適時開示ルールに基づき,上場会社においては四半期業績の概況の開示が義務付けられていたところ,株式を上場している会社の企業内容の適正な開示の要請は有価証券報告書のみならず四半期報告書にも等しく当てはまり,四半期報告書であっても,有価証券報告書と同様,その内容に虚偽記載があってはならないことはいうまでもない。そして,仮に,四半期報告書に虚偽記載があれば,これに起因して一審原告会社に様々な経済的負担(損害)が生じることはいわば当然の事態であるし,そうでないとしても,一審原告会社に,有価証券報告書に虚偽記載があった場合と同様の経済的負担が生じることは予見し又は予見し得たというべきであるから,本件四半期報告書の虚偽記載に係る本件課徴金相当額の損害は,通常損害又は特別損害に当たる。
b 一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4について
本件有価証券報告書等の虚偽記載は,損失分離状態の下で生じた一審原告会社の会計の誤りに起因するものであるから,これらの一審被告らの損失分離状態の維持等に係る善管注意義務違反と本件罰金等の支払との間に相当因果関係があることは明らかである。
(イ) 虚偽記載のある本件有価証券報告書等の提出に係る善管注意義務違反との間の因果関係
本件有価証券報告書等の提出に係る一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の善管注意義務違反により,一審原告会社は,本件罰金等合計7億1986万円の支払を余儀なくされたのであるから,本件罰金等相当額が前記一審被告らの善管注意義務違反と相当因果関係のある損害である。
(一審被告A6らの主張)
ア 法人に対する罰金は,法人を名宛人として法人自体を罰するものである。金商法上も,法人とその代表者等とでは罰金の上限額が異なり,法人に対する上限額の方が多額となっており(同法207条),仮に法人に科された罰金についても取締役が会社に対して損害賠償責任を負うとすると,その実質は二重処罰であり,法人を個人とは別に罰した趣旨が全うされないことになるから,本件罰金は取締役が賠償責任を負うべきものではない。
イ 仮に,承継前一審被告A1が取締役であったときから損失分離状態があったとしても,本件有価証券報告書等の提出時において,一審原告会社の代表取締役やその提出業務に携わる取締役は,損失分離状態があることを認識していたのであるから,虚偽記載のある本件有価証券報告書等が提出されたのは,当該代表取締役や当該取締役の選択の結果である。実際,承継前一審被告A1が取締役を退任した後,本件有価証券報告書等が提出されるまでの間においては,例えば,損失分離スキームとの関係では,NeoからQPへの約445億円の入金やQPからNeoへの約8億円の入金がされており,損失分離スキームの解消との関係では,本件国内3社の株式の買増し,ジャイラスのワラント購入権の買取り並びに優先株の発行及び買取り等について取締役会決議がされるなど,重要な事項について様々な意思決定がされている。したがって,承継前一審被告A1の在任中の行為と損害との間には,道具とはいえない第三者の行為が介在しており,承継前一審被告A1の支配下で行われたものとはいえないから,因果関係は中断している。
株式会社の代表取締役や財務担当の取締役は,毎年の株主総会で取締役に選任され取締役会で選定されるものであり,承継前一審被告A1は,退任から3年ないし7年後における代表取締役,財務担当取締役ないし財務グループ従業員の選任には全く関与できない上,特に上場会社の代表取締役や財務担当の取締役は,その時々の多数の株主から善管注意義務違反を問われないように固有の慎重な判断が求められるのであって,退任した承継前一審被告A1の言いなりになることなどあり得ない。また,損失分離スキームにより分離した損失は,将来的に減少したり解消されたりすることがあり得たのであって,承継前一審被告A1の退任時において,損失を隠し続けなければならないことが予定されていたわけではない。損失分離スキームの維持については,関与者の間でも公表する意見が出るほど考えが揺れていたのであり,同スキームの維持が不動の方針ではなかった。有価証券報告書等の虚偽記載が世間で問題視され,有価証券報告書等の審査体制が厳格化され,課徴金の対象とされるようになったのは,承継前一審被告A1が退任した後の平成17年以降のことであり,その後の有価証券報告書等の提出に当たっては,このような情勢やリスクも踏まえて,損失分離の公表の是非について熟慮を重ねていたものである。さらには,承継前一審被告A1は,取締役退任後に,有価証券報告書等の提出に関与したり指示をしたりするなどの行為をしていない。
これらのことからすれば,本件有価証券報告書等の提出は当然の因果の流れとは到底いえず,一審原告会社が主張する承継前一審被告A1の善管注意義務違反と本件有価証券報告書等の虚偽記載や提出に基づく本件罰金等の納付との間には,相当因果関係がない。
ウ 一審被告A2の主張を援用する。
(一審被告A2の主張)
ア 刑事罰や課徴金制度は,法人を名宛人として法人自体を罰するものであり,これらの罰金等を取締役の賠償責任額に含めるべきではない。
本件罰金は,金商法207条1項1号に基づくものであるところ,同規定はいわゆる両罰規定であり,違法行為を行った自然人の刑事責任を問うとともに,業務主である法人固有の責任を問うものであること,自然人に対する罰金額(1000万円以下)と法人に対する罰金額(7億円以下)を連動させない法人重課を定めていることからすると,同法は,違法行為の抑制のために自然人である行為者に加えて法人固有の刑事責任を認めてこれに刑事罰を科す必要性を認めるとともに,その刑事罰である罰金額について,法人の資産や事業規模を考慮して,法人に対する抑止力として期待できる金額として7億円以下の法定刑を定めていることが明らかである。
このような金商法の趣旨からすれば,自己の責任に基づいて科された刑罰を他者に転嫁することは許されない。
また,本件課徴金について,金商法172条の4は,継続開示書類の虚偽記載により財務状況の見せかけ上の改善が生じて資金調達金利が低下し,発行者に経済的利益が生じるという考え方に基づき,試算される資金調達コストの低下額を課徴金の金額としたものであるところ,上記規定の立法趣旨は,違法行為によって法人たる会社が得た利益を国家が剥奪するというものであり,自然人に対する制裁という目的はなく,専ら法人に対する制裁が意図されている。加えて,金商法は,課徴金の減算制度を設け,違反行為者が当局による調査前に当該違反行為の事実について当局への報告を行った場合に,課徴金の金額を半額にするリニエンシー・プログラムを用意している(185条の7第14項)ところ,会社が納付した課徴金が会社法の制度に基づいて請求される可能性があるとするならば,違反行為に関与した取締役に当該報告を行うことを期待することはできず,リニエンシー・プログラムが有効に機能する障害要因になってしまうことから,金商法は,課徴金の取締役等への転嫁を想定していないというべきである。
イ 本件課徴金は,虚偽記載のある本件四半期報告書の提出に対して課されたものであるところ,虚偽記載のある四半期報告書の提出が課徴金の対象になる旨が定められたのは,平成18年6月14日公布された「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第65号)においてであるから,一審原告会社の取締役を退任した平成17年6月29日以前の一審被告A2の行為と本件課徴金の支払との間には,相当因果関係がない。
ウ 本件有価証券報告書等は,一審被告A2が一審原告会社の取締役を退任した後約2年間が経過した平成19年6月28日以降に提出されたものである。その内容は,当該事業年度における会社の数々の意思決定を反映したものであり,その作成・提出も,当該行為時に取締役等の地位にある者の経営判断ないし意思決定に基づいて行われたものである。例えば,平成19年9月に一審被告A3及び一審被告A4がGCNVVを中途解約して中途解約金を受領したことや,本件国内3社の株式取得名目で合計607億9500万円を支出したことなどは,一審被告A2の退任した後に,一審被告A2の与り知らぬところで,後任の役員らにおいてされたものであって,因果関係の切断を認めるに十分な事情というべきである。また,後任の役員は一審被告A2の意思とは無関係に選任・解任されるため,一審被告A2が退任後に就任した役員等の意思決定に影響を与えることはできず,強固な運命共同体など存在し得ない。
これらのことからすると,一審被告A2の在任中の行為と,本件罰金等の支払によって生じた損害との間には,一審被告A2が関与することのできない,本件有価証券報告書等の提出時の役員等による重大な経営判断ないし意思決定が介在しているというべきであって,これにより両者の因果関係は切断されたと評価すべきである。
(一審被告A5の主張)
一審被告A6ら,一審被告A2及び一審被告A4の主張を援用する。
(一審被告A3の主張)
一審被告A2,一審被告A4の主張を援用する。
(一審被告A4の主張)
ア 罰金・課徴金は,会社に対する制裁という性格からして,その名宛人である会社が負担しなければ意味はなく,これを法的拘束力をもって,その負担を第三者に転嫁することは,罰金・課徴金を認める法の趣旨に反するものである。
イ 一審被告A6ら及び一審被告A2の主張を援用する。
⑸  第2事件
(一審原告株主の主張)
ア 第2事件一審被告らの善管注意義務違反
(ア) 取締役の一般的な善管注意義務の内容
取締役は,会社に対して善管注意義務を負っており,他の取締役の行為が法令・定款を遵守し適正に行われているか否かを監視する義務を負うが,その監視対象は取締役会に上程された事項にとどまらない。したがって,取締役は,他の取締役が関与する違法行為の存在が疑われる場合には,これを調査する義務を負い,調査の結果違法行為が行われたと判断される場合には,それについて公表その他必要な措置を講じる義務等を負うと解すべきである。そして,その違法行為の存在がほぼ確実な程度に明確になっていない段階であっても,会社の経営に関わる人物がある程度信頼できる根拠に基づいて違法行為の疑惑を指摘しているなど,違法行為の存在が相当程度明確に認められる場合であれば,他の取締役は善管注意義務・忠実義務に基づき,当該疑惑を解明するための調査を行う等の対応が求められるというべきであり,少なくとも,疑惑の解明を妨害しない程度の注意義務は認められるべきである。
(イ) 9月30日取締役会における善管注意義務違反
月間FACTA(以下「FACTA」という。)8月号(平成23年7月20日発行)には「オリンパス『無謀M&A』巨額損失の怪」と題する記事(以下「本件記事1」という。)が掲載され,FACTA10月号(平成23年9月20日発行)には「オリンパスの『尻尾』はJブリッジ 巨額M&Aの闇を暴く調査報道第2弾。問題子会社の事業計画書に,あっと驚くファンドの名。」と題する記事(以下「本件記事2」といい,本件記事1と併せて「本件各記事」という。)が掲載されたところ,第2事件一審被告らは本件各記事の内容を把握していた。本件各記事は,一読すれば,しっかりした情報源や内部情報なくしては書けないものであって,十分信用できるものである上,法的知見や企業買収に携わった経験がない取締役であっても,容易に疑問を持ち得る内容であった。
Bは,本件各記事を読んで,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払につき疑念を抱き,平成23年9月23日頃から同月28日頃までの間,一審被告A5及び一審被告A4に対して電子メールのレター(以下,同月23日付けのレターを「本件レターⅠ」,同月24日付けのレターを「本件レターⅡ」,同月25日付けのレターを「本件レターⅢ」,同月26日付けのレターを「本件レターⅣ」,同月27日付けのレターを「本件レターⅤ」といい,後記本件レターⅥを含め,Bが送付したレターを総称して「本件各レター」という。)を送付し,上記疑念に関する質問に対する回答と資料の提供を要求し,一審被告A4から,回答を受領するとともに,平成21年5月17日付けの第三者委員会報告書(以下「平成21年第三者委員会報告書」という。)及び井坂公認会計士事務所作成に係る平成20年2月29日付け本件国内3社の各株主価値算定報告書の送付を受けた。第2事件一審被告らは,平成23年9月24日から同月30日までの間に,Bから本件レターⅠ~Ⅴの送付を受けるとともに,Bと一審被告A5及び一審被告A4との間で交信されたメールの内容も把握していた。
このように,第2事件一審被告らは,本件各記事において一審原告会社のM&A活動に関して一審被告A5ら経営陣による違法行為の疑いなどが指摘されていることを知っていた上,Bから本件各レターの送付を受け,当時の経営陣に重大な違法行為が存在するとの疑いを指摘されていたこと,本件各記事やBが指摘する疑惑の内容が具体的かつ妥当なものであったこと,Bの本件各レターに対する一審被告A4の回答は,Bの追及を否定するか,資料についても全ては送付せず,送付の遅れの理由をるる述べているだけで,Bの疑問に対して,正面から回答するものではなく,一審原告会社で違法・不正な取引が行われたという疑念を払拭するものではなかったこと,平成21年第三者委員会報告書及び井坂公認会計士事務所作成に係る本件国内3社の株主価値算定報告書の内容は,いずれも不十分な内容であって,Bの指摘する違法行為の可能性を否定できるようなものではなかったことなどからすると,9月30日取締役会までに,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関し,一審被告A5ら経営陣による違法行為が存在する疑いがあることは明確になっていたものといえる。また,当該違法行為の疑いの中心的な行為者が一審被告A5であり,同人やその協力者が,疑惑の解明を妨害し,違法行為等の隠蔽を行う可能性があることは,容易に想定される状況にあった。このような状況からすれば,第2事件一審被告らは,遅くとも9月30日取締役会の時点で,Bの指摘を真剣に受け止め,違法行為の有無について調査すべき注意義務を負っていたものというべきである。
そして,Bは,9月30日取締役会において,本件国内3社の買収額やジャイラスのFA報酬額について疑問が解消された旨の発言をしたわけではなかったにもかかわらず,第2事件一審被告らは,9月30日取締役会において,Bの指摘を真剣に受け止めず,Bによる調査が妨害されないよう配慮するどころか,かえって,Bが本件レターⅠ~Ⅴ等を守秘義務が課されている監査法人に送付したことを執拗に非難し,一審原告会社がジャイラス買収に伴ってFAに多額の金銭支払をしたことを知らなかったとの虚偽の答弁を支持し,結局,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関してまともな議論は一切せず,Bから調査結果の報告を受けることを次回の取締役会の議題とするとの提案もしなかったのであるから,Bの指摘を事実上無視したものであり,違法行為の存在が疑われる場合に取締役が行うべき調査義務を怠ったというべきである。
また,第2事件一審被告らは,違法行為の存在が認められる場合の調査義務に反して,一審被告A5ら損失隠しに直接関与した役員らの違法行為はもとより,杜撰な判断により善管注意義務に違反していた役員らの違法行為を黙認ないし放置したものであり,監視義務にも違反したものである。
(ウ) 10月14日取締役会における善管注意義務違反
a Bは,平成23年10月12日,K弁護士に対し,①本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関し,一審原告会社の顧問弁護士として,違法行為が疑われる役員個人との相談及びこれに対する助言は当然禁止されていることを指摘するとともに,②同年9月23日以降一審原告会社の顧問弁護士として提供した全ての書類を早急に提出するよう要請するとともに,書類は存在しないが,会合,電話その他の手段による交信がされた場合には,その目的と内容を早急に報告するよう要請するメールを送信した。
Bは,平成23年10月13日午前1時10分,第2事件一審被告らを含む一審原告会社の取締役及び監査役並びにK弁護士に対し,同月11日付けのプライスウォーターハウス Legal LLP.(以下「PwC」という。)作成の中間報告書(以下「PwC中間報告書」という。)を添付したレター(以下「本件レターⅥ」という。)を送付した。PwC中間報告書には,一審原告会社の過去のM&Aをめぐる金銭の動きについて,コンプライアンスリスクがある旨の指摘が随所に記載され,最後に「現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできないと考えられる。」と結論付けられ,「さらに,不適切な会計処理や財務アドバイス,取締役の忠実義務違反を含む,他の潜在的な違法行為がある。」と締めくくられており,通常の判断能力を有する取締役であれば,大手会計事務所によって一審原告会社の過去のM&Aをめぐる金銭の動きに重大な疑問が呈されており,コンプライアンス違反となる可能性が極めて高いと断じられていることは容易に判断できるものであった。そして,Bは,本件レターⅥの中で一審被告A5及び一審被告A4の辞任を要求した。
前記(イ)の9月30日取締役会に至るまでの事情に加え,Bが,第2事件一審被告らを含む一審原告会社の取締役及び監査役並びにK弁護士に対し,PwC中間報告書が添付された本件レターⅥを送付し,一審被告A5及び一審被告A4に対し役員から辞任するよう要求していることからすると,10月14日取締役会の時点では,9月30日取締役会の時点に比して違法行為が存在する疑いは一層明確になっており,もはや違法行為の存在はほぼ確実な状況にあった。
このような状況の下では,第2事件一審被告らは,10月14日取締役会において,①本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関し,正式に議題として取り上げて真剣に議論し,未だBに提供されていない関連資料の提出を要請し,同人が詳細な調査を実施できるよう対応すべきであるとともに,②Bから違法行為の責任を問われて役員を辞任するよう要求されている一審被告A5,一審被告A4及びその協力者が,今後の調査を妨害し不祥事の隠蔽を図る危険性があることは明白であったから,一審被告A5及び一審被告A4に対し,より詳細な調査結果が判明するまでは業務から離れて自宅待機を勧告するなど,Bの調査に対する妨害を回避する方策を採るべきであった。
それにもかかわらず,第2事件一審被告らは,平成23年10月13日,一審被告A5の呼びかけに応じてK弁護士の事務所に参集し,翌日開催される取締役会において,Bを,一審原告会社の代表取締役及び社長執行役員,CEOその他関連子会社を含めた全ての役職から即時解職すると同時に,一審被告A5を社長に復帰させることを確認し,その手順等を打ち合わせたが,その際,その能力を高く評価してCEOに選任したにもかかわらずわずか2週間でBを解任することの整合性を問う意見を出すこともなかった。
そして,第2事件一審被告らは,10月14日取締役会において,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払につき一切議論することなく,不祥事の責任を追及されていた一審被告A5や一審被告A4の意向に沿って,前日打ち合わせた手順通り,何らの解任理由を説明することなく,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解職し,これに代わって,一審被告A5に社長執行役員を兼務させることを承認する旨決議した。
これらのことからすれば,第2事件一審被告らは,一審被告A5によるBの解職提案が,少なくともBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できたにもかかわらず,Bによる疑惑追及や調査を妨害するために前記決議をしたことは明白であり,損失隠しに直接関与した役員らの違法行為を黙認ないし放置しただけでなく,一審被告A5らによる違法行為の隠蔽行為に加担したものとして,善管注意義務及び監視義務に違反するというべきである。
b なお,本件国内3社の買収に関する平成20年2月22日の取締役会決議,ジャイラス買収に係るFA報酬の支払に関する同年9月26日の取締役会における優先株発行に関する決議,平成22年3月19日の取締役会における優先株買取に関する決議については,いずれも取締役責任調査委員会が,それに賛成した一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14の善管注意義務違反の責任を認定している。また,第三者委員会も,「本件国内3社の株式取得額やジャイラス買収に係るアドバイザリー報酬額は,専門的知見がなかったとしても,一般常識からしても異常に高額であり,取締役会にこの議題が上程された際,本来は突っ込んだ議論がされて然るべきであったが,全くされていない。」と指摘している。そして,一審原告会社及び一審原告株主が提起した別件損害賠償請求事件(東京地方裁判所平成24年(ワ)第174号,同第8257号。以下「別件損害賠償請求訴訟」という。)において,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14は,和解に応じている。
c Bには,CEO等の適格性が十分にあり,適格性がないことを解職の理由にすることはあり得ない。一審被告らは,Bの解職理由は,①人格問題,②経営姿勢の問題,③日本に滞在していないこと,④会社の内部資料の漏洩であるとするが,以下のとおり,いずれも根拠がなく,解任理由となり得ないものである。
すなわち,上記①(人格問題)については,Bが激高したとしても,それは,一審被告A5及び一審被告A4が社長であるBに対して何ら知らせることがなかったことをとがめた際のやりとりの中での一過性の出来事であり,社長としての適格性に疑いを生じさせる行為ではない。上記②(経営姿勢の問題)については,仮にBの独断での人事等があったとしても,それはBの強いリーダーシップの現れであり社長解任の理由とはいえない。上記③(日本に滞在していないこと)については,一審原告会社は,日本のみならずアジア・オセアニア地域,欧州,北米・中南米にグループ会社を有するグローバル企業であり,売上げの多くを占める海外に社長が多く滞在していたとしても,元々予定されていたことであり,社長に与えられた裁量の範囲内であり,一審原告会社の取締役は常時は海外駐在しているものも多く存在しており,業務上の必要に応じて電子メール等で意思疎通を図ることで特段不都合は存在しなかったから,社長解任の理由とはならない。上記④(会社の内部資料の漏洩)については,Bは,著名な法律会計事務所であるPwCに対して資料を渡し,一審原告会社の過去のM&Aをめぐる金銭の流れを調査するよう依頼したものである。その資料提供の目的は,一審原告会社の過去のM&Aをめぐる不透明な金銭の流れを調査するためであって正当なものであり,また,資料を提供した相手方は監査法人や法律会計事務所であって法律上守秘義務が課せられているから,解職の理由とはならない。
d 第2事件一審被告らは,Bの解職と疑惑解明の調査とは別問題であるというが,一審原告会社は,B解職後に,世間の注目が集まり,マスコミ報道が加熱し,機関投資家等一部の株主から調査要請を受けて,やむなく第三者委員会の設置を検討したにすぎない。Bの解任とは別に調査をすることを決定していたのであれば,調査対象となる取引を主導し,調査対象となる最重要人物である一審被告A5を経営トップの社長・CEOに復帰させることはあり得ない。
(エ) 第2事件一審被告らの個別事情
a 一審被告A9
①一審被告A9は,Bが解職されれば,社外から隠蔽という批判が出る可能性を認識していたのであるから,その可能性を指摘した上で,解職と違法行為の指摘とが無関係であることの確認をすべきであったが,このような確認をせずに,Bの解職に賛成したのであるから,一審被告A5のBの解職提案について,違法行為の隠蔽目的であると認識していたこと,②一審被告A9は,平成20年2月22日取締役会における本件国内3社の買収に関する承認決議,同年9月26日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株発行に関する決議,平成22年3月19日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株買取に関する決議という,異常な取引に関する各取締役決議に賛成しており,自らの責任追及回避のためにもB解職に賛成する必要があったことなどから,一審被告A9は,一審被告A5のBの解職の主たる目的がBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できた。
b 一審被告A13について
①一審被告A13は,昭和63年から平成12年3月末まで,一審原告会社の総務・財産部財務グループのグループリーダーの地位にあり,当時の当該グループの規模に照らし,一審被告A13の上司であった一審被告A4及び一審被告A3の損失分離スキームの構築等に一審被告A13が気付かなかったとは考えられないこと,②一審被告A13は,平成20年12月18日のあずさ監査法人との意見交換会,平成21年3月5日の懇談会,同年4月10日の懇談会及び同年5月7日の懇談会のいずれにも出席し,あずさ監査法人から,本件国内3社の買収価格やジャイラス買収に係るFA報酬支払の妥当性について厳しい意見を述べられていることを知っていたこと,③一審被告A13は,平成22年3月19日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株買取に関する決議という著しく不合理な決議に賛成しており,自らの責任追及回避のためにもB解職に賛成する必要があったことなどから,一審被告A13は,一審被告A5のBの解職の主たる目的がBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できた。
c 一審被告A14について
①一審被告A14は,自ら過去に損失隠しに加担していたことを自認していること,②一審被告A3及び一審被告A4は,損失隠しを隠蔽するため,あずさ監査法人を解任し新たな監査法人を選任することとしたが,その際,一審被告A14は,大学の同級生が理事長を務める新日本有限責任監査法人を一審原告会社に紹介したこと,③一審被告A14は,一審原告会社に入社前にパリバ証券東京支店に勤務していたが,その際,一審被告A4に依頼され,決算対策のために期末に資産を帳簿から外す,いわゆる「期末外し」を行うなどしていたこと,実際にも,一審被告A14は,パリバ証券東京支店が一審原告会社に販売した仕組債が巨額の含み損を抱えるようになったことから,一審原告会社の約283億円の損失を簿外に隠すなどの過去の損失隠しに協力していたこと,④一審被告A14は,平成20年9月26日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株発行に関する決議,平成22年3月19日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株買取に関する決議という,異常な取引に関する各取締役決議に賛成しており,自らの責任追及回避のためにもB解職に賛成する必要があったことなどから,一審被告A14は,一審被告A5のBの解職の主たる目的がBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できた。
d 一審被告A15について
一審被告A15は,9月30日取締役会において,ジャイラス買収に係る多額のFA報酬の支払に関して指摘したBに対して,社長に就任するまで半年も時間があったのに,今更こうした案件を問題にすることについてBを非難しておきながら,Bからの問い掛けに対し,出席取締役らがジャイラス買収における多額のFA報酬の支払について知らなかったという虚偽の返答をしたことを黙認し,疑惑を追及するBに対して重大な虚偽情報を伝えることに加担し,Bの疑惑追及に協力するつもりがないことを明らかにしたことからすると,一審被告A15は,一審被告A5のBの解職の主たる目的がBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できた。
e 一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12について
①一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12は,平成20年2月22日取締役会における本件国内3社の買収に関する承認決議という,特にシナジー効果を認められない本件国内3社の株式を高額な価格で取得するという不合理な決議に賛成したこと,②一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12は,平成19年11月19日取締役会におけるジャイラスの買収,買収資金の銀行からの借入れ,ジャイラスの買収についての投資顧問としてAXESとの業務委託契約の締結に関する承認決議,平成20年9月26日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株発行に関する決議,平成22年3月19日取締役会におけるジャイラス買収におけるFA報酬の支払に関する優先株買取に関する決議という,異常な取引に関する各取締役決議に賛成しており,自らの責任追及回避のためにもB解職に賛成する必要があったことなどから,一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12は,一審被告A5のBの解職の主たる目的がBの指摘する違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できた。
イ 損害の発生及び因果関係
(ア) 各外部委員会の費用 合計7億1944万9555円
a 一審原告会社は,第2事件一審被告らの善管注意義務違反行為により,本件第三者委員会の設置を余儀なくされ,さらには,経営改革委員会,取締役責任調査委員会及び監査役等責任調査委員会を設置せざるを得なくなり,それらの費用として合計7億1944万9555円を出捐した。
b 9月30日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
第2事件一審被告らが,9月30日取締役会において,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払の経緯や原因,それぞれの判断の妥当性等につき真剣に議論し,少なくとも後の取締役会等においてBから調査結果の報告を受けることを提案し決議するなどの配慮を怠らなければ,Bの指揮の下で調査が継続され,真相究明がされた蓋然性が高く,Bの解職決議がされることもなく,一審原告会社が各外部委員会費用を出捐することもなかった。したがって,9月30日取締役会における第2事件一審被告らの善管注意義務違反行為と上記出捐との間には,相当因果関係がある。
c 10月14日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
第2事件一審被告らが,10月14日取締役会において,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解職し,一審被告A5に社長執行役員を兼務させることを承認する旨決議したことによって,Bを解職して不祥事を隠蔽したのではないかとの報道等が広く行われ,一審原告会社に対する社会的批判が強まったため,一審原告会社は,前記のとおり,本件第三者委員会,経営改革委員会,取締役責任調査委員会及び監査役等責任調査委員会を設置せざるを得なくなった。前記一審被告らがBの解職や一審被告A5の社長執行役員への復帰をさせなければ,Bの指揮の下で調査が継続され,真相究明がされた蓋然性が高く,一審原告会社が各外部委員会費用を出捐することもなかったのであるから,前記一審被告らの善管注意義務違反行為と前記出捐との間には,相当因果関係がある。
(イ) Bとの和解合意により同人に支払った和解金 12億7348万6900円
a 一審原告会社は,Bが不当に解職等をされたことにより,同人に対し,12億7348万6900円の和解金(以下「本件和解金」という。)を支払わざるを得なくなった。
b 9月30日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
9月30日取締役会において,第2事件一審被告らが,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払の経緯や原因,それぞれの判断の妥当性等につき真剣に議論し,少なくとも後の取締役会等においてBから調査結果の報告を受けることを提案し決議するなどの配慮を怠らなければ,Bの指揮の下で調査が継続され,真相究明がされた蓋然性が高く,Bの解職決議がされることもなく,一審原告会社が本件和解金を支払うこともなかった。したがって,9月30日取締役会における第2事件一審被告らの善管注意義務違反行為と前記支払との間には,相当因果関係がある。
c 10月14日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
10月14日取締役会において,第2事件一審被告らが,Bの指摘に真摯に対応して適切な調査を行うことを決議し,Bの解職を決議することがなければ,一審原告会社が本件和解金を支払うこともなかったのであるから,前記一審被告らの善管注意義務違反行為と前記支払との間には,相当因果関係がある。
(ウ) 一審原告会社の信用失墜による損害 10億円
a 一審原告会社の株価は,Bの解職及び一審被告A5の社長復帰が発表された平成23年10月14日から下落し始め,その後も下落が止まらず,一審原告会社が一連の損失隠しの事実を公表した日の前日である同年11月7日の終値は1034円であって,同年10月13日の終値(2482円)の半値以下となった(この間の下落幅は1448円である。)。同年11月8日以降の株価下落は,一連の損失隠しの事実の公表に起因するものであるとしても,それ以前の株価の下落は,第2事件一審被告らの善管注意義務違反行為を原因として,一審原告会社の信用が毀損されたために生じたものである。平成23年3月期の一審原告会社の発行済株式総数(自己株式を含む。)は2億7128万3608株であるから,一審原告会社の時価総額は3928億1866万4384円(=271,283,608 株×1,448 円)も減少したことになる。
このように,一審原告会社の信用が著しく毀損されたことは明らかであり,その損害額は,どれほど少なく見積もっても10億円を下らない。
b 9月30日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
第2事件一審被告らは,9月30日取締役会において,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関してまともな議論は一切せず,Bから調査結果の報告を受けることを次回の取締役会の議題とするとの提案もしなかったため,その後,一審被告A5ら損失隠しに直接関与した者の意向に沿って,Bが代表取締役及び社長執行役員を解職され一審被告A5が社長執行役員に復帰するという過程を経て,Bを解職して不祥事を隠蔽したのではないかとの報道等が広く行われるに至り,一審原告会社に対する社会的批判が強まり,結果として,一審原告会社の信用は著しく失墜した。
したがって,9月30日取締役会における第2事件一審被告らの善管注意義務違反行為と前記信用失墜による損害との間には,相当因果関係がある。
c 10月14日取締役会における善管注意義務違反との因果関係
第2事件一審被告らが,10月14日取締役会において,Bを解職し一審被告A5を社長執行役員に復帰させることを承認する旨決議したことによって,Bを解職して不祥事を隠蔽したのではないかとの報道等が広く行われるに至り,一審原告会社に対する社会的批判が強まり,結果として,一審原告会社の信用は著しく失墜したのであるから,前記一審被告らの善管注意義務違反行為と前記信用失墜による損害との間には,相当因果関係がある。
(一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12及び一審被告A13(以下「一審被告A9ら5名」という。)の主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 取締役の監視義務について
取締役が他の取締役の業務執行一般を監視する義務を負うのは,違法ないし不適正な業務執行を認識しまたは認識し得た場合に限られるものというべきところ,認識し得た,すなわち認識可能性があったといえるためには,認識の抽象的な可能性があったというだけでは足りず,具体的な認識可能性があったことが必要であり,認識していたとまでは認定できないが,それに近い心証が形成される場合に,初めて「認識し得た」として監視義務違反が肯定される。また,監視義務違反の対象が,役職員の具体的な法令違反ではなく,善管注意義務違反などの抽象的法令義務違反である場合,取締役の監視義務が認められるのは,当該善管注意義務が顕著な場合に限られる。さらに,仮に,取締役において,他の取締役の不正な業務執行を認識し又は認識し得た場合であっても,取締役が負う監視義務は無限定のものではなく,監視義務の履行としてどのような措置を講じるべきかは,取締役に一定の裁量が認められ,経営判断原則と同様の配慮が必要であって,後知恵で評価することには慎重でなければならない。
(イ) 一審被告A9ら5名の本件国内3社の買収及びジャイラス買収に伴うFA報酬の支払についての認識
一審被告A9ら5名は,本件国内3社の買収は,経営戦略に合致し,新事業創成に繋がり得るものであり,本件国内3社の事業計画や事業価値等について事業投資委員会,経営執行会議,経営企画本部及び新事業関連会社統括本部等による検討又は審議等を経たものであって,取締役会における一審被告A5らによる説明及び取締役会提出資料によれば,本件国内3社の株式取得はやむを得ないものであり,経営判断の範囲内として承認したものである。また,ジャイラスの買収についても,事業展開において不可欠なものであり,取締役会における一審被告A5らによる説明及び取締役会提出資料によれば,FA報酬に関連する支払もやむを得ないもので適法であると認識していた。そして,あずさ監査法人からは,本件国内3社の買収及びジャイラス買収に係るFA報酬について疑義を述べられたものの,外部の専門家による調査結果である平成21年第三者委員会報告書においては,取引自体に不正・違法行為はなく,取締役の善管注意義務違反や手続的瑕疵は認められないとされ,あずさ監査法人も無限定適正意見付きの監査報告書を提出したという経過があり,一審被告A9ら5名は,本件国内3社の買収やジャイラス買収に係るFA報酬の支払は,いずれも適法である旨認識していた。取締役責任委員会や第三者委員会も,取締役に善管注意義務違反があると認定したものではない。
(ウ) 9月30日取締役会における善管注意義務違反について
① FACTAに掲載された本件記事1は,一審被告A9ら5名にとっては,既知である本件国内3社の買収及びジャイラス買収に係るFA報酬について,金額が過大であるという外部からの評価が記載されたものにすぎない上,反社会的勢力に巨額の資金が流れたという明らかに事実に反する内容を含むものであり,これをもって違法行為の存在を認識させるに十分なものとはいえない。
② Bからの要請を受けた一審被告A4の対応も,休日の関係で社内資料にアクセスできない,英訳に時間がかかるなどといった説明をしつつ,最終的にはBが求める質問に全て回答し,求められた資料を送付するなどしており,真摯かつ適時のものであった。
③ Bに提供された平成21年第三者委員会報告書は,本件国内3社の買収金額やジャイラス買収に係るFA報酬額を問題視していたあずさ監査法人からのヒアリング等にも依拠して作成されたものであって,同報告書が提出されたことにより,同監査法人も,問題視していた点も含めて無限定適正意見を出したという経過があった。
④ Bは,9月30日取締役会において,問題とされる取引の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないことを十分確信できたので,今後は前向きに未来に目を向けるつもりであるとの趣旨の発言をしており,本件レターⅤにおいて,詳細に調査し,専門家の助言を受ける必要があると記載しておきながら,取締役会においては,問題を詳細に調査すべきであるとか,専門家の助言を受ける必要があるなどといった発言は一切しなかった(この点は,Bも証人尋問において認める証言をしている。Bは,そのような発言をしなかったのは,その前日,一審被告A5らと面談した際,取締役の任命権など,自己が欲した権限を手に入れて満足していたからに他ならない。)。仮に,Bが疑問を解消したと考えていなかったとしても,Bの上記発言を聞いた一審被告A9ら5名が,Bの疑問は解消されたものと認識するのは当然である。
これらの事情からすると,9月30日取締役会の時点で,本件各記事やBが役員全員に送付した本件レターⅠ~Ⅴにより,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関し,一審被告A5らによる違法行為が存在することが明確になっていたものとはいえない。
(エ) 10月14日取締役会における善管注意義務違反について
① Bは,取締役らに対し,PwC中間報告書を添付して本件レターⅥを送付し,一審被告A5らに一方的に取締役を辞任するように迫った。しかし,PwC中間報告書は,本件国内3社の買収に関しては数行触れる程度であって,その本文全てがジャイラス買収に係るFA報酬に関するものであり,FA報酬が高額にすぎる,高額になった理由等は,資料提供を受けていないからコメントできないなどと記載されており,結論部分の記載は違法行為が存在したと結論付けるものではない上,役員個人の責任について言及するものでもなかった。したがって,本件レターⅥ及びPwC中間報告書によっても,10月14日取締役会の時点で,違法行為の存在がほぼ確実な状況になったとはいえない。
② かえって,一審被告A9ら5名は,Bには独断的な一面があるものの,他方で,強いリーダーシップという点では魅力的とも評価し,一審被告A5及び一審被告A4と協力し,同被告らがBを補佐し,過度の独断を抑えることができるという前提で,BのCEO就任に賛成したが,違法行為の存在を断定していないPwC中間報告書を根拠にして,一審被告A5らに辞任を迫るという独断専権的な行為に及ぶに至り,Bの経営者としての資質に疑問を抱かざるを得なかった。
一審被告A9ら5名は,平成23年10月13日,K弁護士の事務所における打合せに参加したが,一審被告A5から,Bは社長として問題があるから翌日の取締役会で解職したい旨を告げられ,K弁護士からも,本日集まってもらったのはB解職の段取りを確認するためである旨説明を受けたが,特段の疑問を感じることはなかった。
③ 一審被告A9ら5名は,10月14日取締役会において,Bの解職に賛成したが,それは,Bが,ヨーロッパに滞在してほとんど来日せず,他の取締役との意思疎通も不十分であり,一審原告会社の総務部からの報告も十分行えないとの状況の中,突如として,PwC中間報告書を送付して一審被告A5及び一審被告A4の辞任を要求する行為に出たことを考慮し,他の経営陣との間で経営の方向性や手法に大きな乖離を生じ,経営の意思決定に支障を来す状態に陥っていると判断したためである。
これらの事情によれば,10月14日取締役会において,一審被告A9ら5名が,違法行為の存在を認識し,または認識し得る状況にはなく,Bの解職に賛成したのも,Bの経営者としての資質に疑問を持ったからであって,Bによる疑惑の追及や調査を妨害するためではないから,善管注意義務違反はない。
(オ) 善管注意義務の履行
一審被告A9ら5名の取締役は,Bの解職の7日後である平成23年10月21日には本件第三者委員会の設置を準備している旨のプレスリリースを行い,同年11月1日には実際にこれを設置して調査を開始し,同月8日には損失隠しを公表し,同年12月6日には本件第三者委員会から調査報告書の提出を受けているのであって,まさに調査義務を尽くしている。一審原告会社の株価が急落し,不正会計疑惑等に関する報道が過熱して収拾がつかなくなったために,本件第三者委員会の設置が決定されたといった事実や,同年11月8日発売の週刊朝日に損失隠しに係る疑惑の真相を詳細に記載した記事が掲載されたため,これを知った一審被告A5が,同日,損失隠しを公表したといった事実はない。
(カ) 別件損害賠償請求訴訟における和解
一審被告A9ら5名が,別件損害賠償請求訴訟において,和解に応じたが,善管注意義務違反の責任を認めたものではないことはその和解条項からも明らかである。
イ 損害の発生及び因果関係について
(ア) 本件において,各外部委員会による調査は必要不可欠であり,9月30日取締役会及び10月14日取締役会において一審被告A9ら5名がいかなる対応をしたかにかかわらず,各外部委員会への費用の支払はされたのであるから,一審被告A9ら5名の善管注意義務違反行為と前記費用の出捐との間には条件関係を欠き,相当因果関係も認められない。
外部の専門家により構成された本件第三者委員会の設置は,まさに取締役による調査義務の履行であって,調査義務の履行により生じた費用をもって,調査義務違反により生じた費用と解する余地はない。
(イ) 10月14日取締役会におけるBの解職決議は,同人が,他の取締役と十分意思疎通することができていない上,9月30日取締役会の後,突如として,PwC中間報告書を送付して一審被告A5及び一審被告A4の辞任を要求するなど,独断的な行動を採ったことを理由とするものであり,9月30日取締役会における一審被告A9ら5名の対応如何にかかわらず,同取締役会の後に発生した事由に起因して,適法にされたものである。したがって,①9月30日取締役会における一審被告A9ら5名の対応,②10月14日取締役会におけるBの解職決議,③これを前提とする本件和解金の支払のそれぞれの間には条件関係を欠く。
また,本件和解金の支払は,9月30日取締役会及び10月14日取締役会における一審被告A9ら5名の対応から通常生ずべき損害ではない。また,Bが9月30日取締役会の時点で「私は安心したのです。」などと発言していることからすれば,その後,Bを解職するという事態が生じることを予見できず,予見可能な特別損害にも当たらない。
(ウ) 一審原告会社の信用失墜による損害額が10億円を下らないことにつき,具体的な主張・立証はない。時価総額の喪失,すなわち,株価の下落をもって,当該会社に信用失墜による損害があったと認めるべき合理的理由はない。
一審原告会社の信用失墜及びそれに伴う株価の下落は,一審被告A5らによる一審原告会社の損失隠しや,暴力団や反社会的勢力に資金が流れているとの誤った報道によって生じたものであり,一審被告A9ら5名の行為によるものではなく,相当因果関係は認められない。
(一審被告A14の主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 一審被告A14の本件国内3社の買収及びジャイラス買収に伴うFA報酬についての認識
一審被告A14は,平成20年6月27日に社外取締役に就任したが,その時点では,既にジャイラスの買収は完了しており,同年9月26日の取締役会において,税務対策上の事情により,FA報酬の支払方法が優先株の付与に変更する旨の説明を受け,議案に賛成し,同年11月28日の取締役会において,優先株の転売を阻止するために買戻しが必要である旨の説明を受け,やむを得ないものと判断して議案に賛成した。そして,あずさ監査法人から,本件国内3社の買収やジャイラス買収に係るFA報酬について懸念が伝えられたものの,弁護士,公認会計士,大学・大学院教授からなる平成21年第三者委員会が調査を実施し,不正・違法行為があったとは認められず,取締役の善管注意義務違反があったとも認められないとの判断を示したため,あずさ監査法人も無限定適正意見を出した。
このような経過から,一審被告A14にとって,本件国内3社の買収やジャイラス買収に係るFA報酬の支払について不正・違法行為があると疑うべき理由などなかった。
(イ) 9月30日取締役会における善管注意義務違反について
一審被告A14が9月30日取締役会までに受領した資料は,本件レターⅠ~Ⅲの英文部分と一審被告A4が平成23年9月24日及び同月25日にBに宛てて送信した英文の電子メールを印刷したもののみである。上記レターの日本語訳は受け取っておらず,本件レターⅣ及びⅤについては,英文部分及び日本語訳ともに受け取っていない。Bからは,9月30日取締役会までに上記英文部分の確認を求めるとの説明はなく,これらの資料が送付されてきたのも9月30日取締役会の直前である同月27日であったため,社外取締役であり一審原告会社以外にも職務を有する一審被告A14は,9月30日取締役会の時点において,本件レターⅠ~Ⅴの内容を把握していなかった。
そして,一審被告A14は,9月30日取締役会において,Bが,FACTAの記事を基に何らかの疑念を抱いていたようであったが,同人の発言から,疑念は解消され,前向きに経営に取り組んでいく姿勢を表明したものと理解した。
9月30日取締役会の時点で,一審被告A14において関与者らによる違法行為の存在が明確になっていたとはいえず,一審被告A14に善管注意義務違反行為があるとする一審原告株主の主張は,その前提を欠く。
(ウ) 10月14日取締役会における善管注意義務違反について
一審被告A14は,PwC中間報告書を受領していない。一審被告A14は,平成23年10月13日にK弁護士の事務所に赴いた際,PwC中間報告書の存在を認識したが,現物を見せられたわけではなく,何ら不適切な行為の存在を認めるものでないことを教示されたにすぎない。また,一審被告A14は,一審被告A5から,Bは,他の取締役の担当人事に介入したり,独断的な発言や行動が多く,経営者としての資質に欠けるためBを解職したい旨の提案があり,一審被告A14も,BのCEO就任に違和感を感じていた上,他の常勤取締役らからも不満が述べられていたことなどから,解任に賛成することとした。
一審被告A14は,一審被告A5らが違法行為に関与している可能性があるなどと認識し得なかったし,B解任が違法行為の隠蔽にあるなどと認識する由もなかった。
一審被告A14は,B解任とは別にPwC中間報告書において疑義を排除できないとされているのであれば,いずれにせよ調査をした方がよいと考え,他の取締役とともに第三者委員会設置の準備を勧めたのであって,取締役としての善管注意義務・調査義務を果たしている。
イ 損害の発生及び因果関係について
(ア) 一審原告会社において,一審被告A5らにより,長年にわたって巨額の損失隠しが行われていた以上,これについて適切に真相究明を行い,かつ,第三者に対して説明責任を果たすためには,単なる内部調査では足りず,外部の委員会による調査を行うことは不可欠である。各外部委員会はB解職の有無にかかわらず設置されるべきものであるから,一審被告A14の善管注意義務違反行為と各外部委員会の費用の出捐との間には条件関係を欠き,相当因果関係も認められない。
(イ) 本件和解金の支払につき,Bによる英国労働審判の申立内容,同審判の審理及び和解協議の内容や経過等が明らかにならない限り,一審被告A14の善管注意義務違反行為と本件和解金の支払との間に相当因果関係があるとはいえない。
(ウ) 一審原告会社の株価の下落を含む信用失墜は,一審被告A5らによる長年の巨額な損失隠しが原因であるから,一審被告A14の善管注意義務違反行為との間に相当因果関係は認められない。
(一審被告A15及び一審被告A16の主張)
ア 善管注意義務違反について
(ア) 善管注意義務としての調査義務について
違法行為の存在が明らかとまではいえない場合に,他の取締役に調査義務が発生するのか,発生するとして具体的にどのような状況において調査義務が発生するのかは,ケースバイケースである。具体的な法令違反の有無が問題になる場合とは異なり,過去における経営判断が問題とされる場合には,価値判断が介在するものであるから,どのように調査を進めるかも高度な経営判断事項であり,取締役に一定の裁量があり,調査義務が容易に観念されるわけではない。
(イ) Bの意図について
Bは,社長に就任したものの,一審被告A5が人事権等を有し,実権を握っていることに不満を持ち,FACTAの記事を利用して一審被告A5から実権を奪おうとしていた。平成23年9月29日の面談は,本来であれば,FACTAの記事が指摘した事項について議論がされるはずであるが,Bは,FACTAの記事を問題にすることなく,一審被告A5に対し,引退し,経営執行会議へ出席しないこと,自己がCEOに就任し,人事権を持つことなどを要求し,一審被告A5は,引退を除き,渋々その要求を受け入れた。そのため,9月30日取締役会においては,一旦「矛を収める」形にして,本件国内3社の買収及びジャイラス買収に係るFA報酬について「懸念」があるという趣旨の発言はしたものの,直ちに調査する必要がある,「懸念」を解消すべきである,取締役会として対応すべきであるといった趣旨の発言をしなかった。また,Bは,一審被告A5及び一審被告A4に辞任を要求するために,PwC中間報告書を利用した。
(ウ) 9月30日取締役会における善管注意義務違反について
本件各記事は月刊誌に掲載されたものであり,裏付けとなる客観的資料の記載もないなど,経営陣による違法行為の疑いを明確にするような内容ではなかった。また,Bからの本件各レターに対しては,一審被告A4がメールを受領する都度回答し,添付資料も送付するなどの対応をしており,その対応に不自然又は不合理な点があったわけでもなかった。これらの事情を踏まえれば,9月30日取締役会の時点で,一審被告A15及び一審被告A16にとって,経営判断に基づいて行われた本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払について,一審被告A5ら経営陣による違法行為が存在する疑いがあることが明確になっていたとはいえない。疑惑を指摘していたB自身,9月30日取締役会において,一審被告A5や一審被告A4と話し合った結果,本件各記事で指摘された内容に係る疑問が解消され,相互に建設的な理解に達したこと,今後は前向きに未来に目を向けていきたいことを述べていたのであるから,一審被告A5らの違法行為を全く認識していない一審被告A15及び一審被告A16にとっては,当該疑惑について,直ちに調査を進めなくてはならない状況ではなかったのであり,一審原告株主が主張するような義務が認められないことは明らかである。
(エ) 10月14日取締役会における善管注意義務違反について
PwC中間報告書はあくまで中間報告書にすぎず,その結論についても「現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできないと考えられる。」と記載されているにすぎないから,PwC中間報告書やそれに基づくBの電子メールによる指摘をもって,10月14日取締役会の時点で,違法行為が存在する疑いが一層明確になったとか,違法行為の存在がほぼ確実な状況になったとはいえず,一審被告A15及び一審被告A16が不祥事の隠蔽を図る危険性を認識する前提を欠いている。そもそも,一審被告A15は,香港に滞在していて香港で電子メールを受信していたところ,平成23年10月13日には日本に帰国しており,PwC中間報告書を含む本件レターⅥを読んだのは,同月26日か27日頃であった。
一審被告A15は,平成23年10月13日のK弁護士の事務所における打合せには参加していない。一審被告A16は,打合せに参加したが,もともと,Bの資質に問題を感じていたため,一審被告A5からのB解職の提案に違和感はなかった。
10月14日取締役会において,一審被告A15及び一審被告A16がBの解職に賛成したのは,同人が,ヨーロッパに滞在してほとんど来日せず,他の取締役との意思疎通も不十分であり,メーカーとして重要な製造工場を視察しないなど製造現場を軽視し,研究開発費の削減を目的とした研究テーマの見直しを独断で進めるなどその経営等の進め方が独断専行的で,本件についても,独断でPwCに対して社内秘の資料を送付するなどした上,役員全員に対し,外部機関によるPwC中間報告書を一方的に送付して一審被告A5及び一審被告A4の辞任を迫るなど,他の経営陣との間で経営の方向性や手法に大きな乖離を生じ,経営の意思決定に支障を来す状態に陥っていると判断したためである。
このように,一審被告A15及び一審被告A16は,一審被告A5らが違法行為を隠蔽する目的でBの解職を提案したことを認識することはできなかった。
(オ) 調査義務の履行
一審被告A15及び一審被告A16は,Bが指摘する疑惑について,違法行為が存在するとまでは考えなかったものの,その解明のために何らかの調査等を行う必要があるとは認識しており,現に,平成23年10月21日に本件第三者委員会を立ち上げることを公表し,同年11月1日には本件第三者委員会を設置して疑惑についての調査を委託し全容を明らかにしたのであるから,調査義務を果たしたものであって,一審被告A5らによる違法行為を黙認ないし放置したことにはならないし,これに加担したことにもならない。
イ 損害の発生及び因果関係について
(ア) 本件第三者委員会,取締役責任調査委員会及び監査役等責任調査委員会は,一審被告A5らが損失隠しのために違法行為を行ったことを原因又は契機として設置されたものであるから,一審被告A15及び一審被告A16の善管注意義務違反行為とこれらの委員会費用の出捐との間には,相当因果関係がない。また,経営改革委員会は,一審被告A5らの違法行為を受けて再発防止策の策定等を目的として設置されたものであり,一審原告株主が主張する善管注意義務違反行為とは全く関係がない。
(イ) 本件和解の合意は,Bが不当に役職から解職されたことを認めた上でされたものではなく,また,英国の裁判所が,同人が不当に役職から解職されたと認定したわけでもないから,一審原告株主が主張する善管注意義務違反行為と本件和解金の支払との間には相当因果関係がない。
(ウ) 一審原告株主が主張する信用失墜による損害は,極めて抽象的・多義的な主観的評価(印象論)にすぎない。また,株価の下落は株主に発生した損害であって,一審原告会社に発生した損害ではない。
⑹  抗弁
ア 消滅時効(第1類型)
(一審被告A6らの主張)
一審原告会社の承継前一審被告A1に対する第1事件に係る訴訟提起は,平成24年1月8日にされているため,承継前一審被告A1は,同年3月1日の原審口頭弁論期日において,平成14年1月8日より前の取締役としての行為を理由とする善管注意義務違反による損害賠償請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(一審被告A2の主張)
一審被告A2は,平成26年2月6日の原審口頭弁論期日において,支払日から10年を経過している本件金利及び本件ファンド運用手数料等に係る損害賠償請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(一審原告らの主張)
いずれも争う。
イ 信義則ないし過失相殺(第1類型,第6類型及び第7類型)
(一審被告A3の主張)
(ア) 一審原告会社における損失隠しは,昭和62年10月のいわゆるブラックマンデーを機に株価が大暴落した際から始まるが,これは当時社長であった承継前一審被告A1及び経理部門の担当役員であった一審被告A2の指示によるものであり,その後,平成2年頃からのバブル経済の崩壊により一審原告会社が運用していた金融商品に多額の含み損が生じ,平成4年には約480億円もの多額の損失が生じたが,承継前一審被告A1は,一審被告A3らに対し,同年3月期の決算において損失を表に出さずに処理するように指示した。その後,平成5年6月に一審被告A2が社長になったが,承継前一審被告A1の方針を踏襲し,損失は開示されず,平成8年8月には損失は約900億円に達したが,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,一審被告A3らに対し,損失を開示しないように指示した。平成13年6月には一審被告A5が社長に就任したが,承継前一審被告A1及び一審被告A2の方針を踏襲し,損失の開示がされないまま経過した。
一審被告A3は,この間,歴代社長らに対し,損失の開示を進言したが,社長らは,これを拒絶した。すなわち,一審被告A3は,①平成4年1月頃,一審原告会社の実現損及び含み損が合わせて約480億円に達していたことから,承継前一審被告A1及び一審被告A2に対し,損失を開示すべきことを進言したが,承継前一審被告A1から,開示することは不可能であるなどと言われ,損失を開示しない方針が維持され,②その後も,承継前一審被告A1の指示で損失を開示しない方針が採られたが,積極的な資金運用を行って損失を取り戻そうとする承継前一審被告A1の方針が損失を増大させるのみであったことから,総務・財務部長に就任した平成9年4月頃,承継前一審被告A1及び一審被告A2に対し,積極的な資金運用を停止すべき旨を進言したところ,同人らがこれを容れて,積極的な資金運用は停止されることとなったものの,損失を開示することについては拒絶され,③平成12年3月期の決算時にも承継前一審被告A1及び一審被告A2に対し,損失を全部開示すべき旨を進言し,④一審被告A5が代表取締役に就任した後には,同人に対しても損失の開示について第三者に相談するよう進言したが,一審被告A5らから拒絶された。一審原告会社が平成23年11月に損失を開示したのも,一審被告A3が一審被告A5を強く説得してようやくこれに踏み切らせたためである。
仮に,一審原告会社に損害が発生したとしても,かかる損害を発生・拡大させたことは専ら一審原告会社の社長及び会長を長年にわたって務めていた承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5の指示及び決定によるものであった。一審被告A3は,損失を開示するよう度々進言したが,拒絶されたため,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5の意向に従わざるを得なかったのであり,当時は内部告発者を保護する法的環境も未整備で,仮に内部告発を行えば一審原告会社を倒産させるのみならず,一審被告A3自身も職を失って家族を路頭に迷わせるおそれが高かったために内部告発をすることも困難であった。一審原告会社の請求は,自ら損失隠しを決定し,そのための対応を一審被告A3に指示しておきながら,いざ損失隠しが露見するや,そのことによって被ったとする損害を一審被告A3に請求するものであり,クリーンハンズの原則に反する。
仮にそうでないとしても,公平の観点から,過失相殺規定の類推適用により,賠償額は大幅に減額されるべきである。
(イ) 一審被告A4の主張を援用する。
(一審被告A4の主張)
(ア) 一審被告A4は,昭和62年に一審原告会社に入社し,資金運用業務に携わることになり,直属の上司であった一審被告A3の指示のもと損失隠しに関与するようになった。
一審被告A4は,含み損を損失として表に出したいという考えを持ち,機会があるごとに,少なくとも,決算の度に,上司である一審被告A3に伝えていたが,意見を同じくする一審被告A3が,当時の社長らに対し,損失の開示を進言したものの,拒絶され,損失の開示がされないまま経過した。
使用者が,その事業の執行につきされた被用者の加害行為により損害を被った場合においては,使用者は,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対して損害賠償請求を行い得ると解されている。このように,使用者に故意・過失がない場合においても,使用者の被用者に対する損害賠償請求が制限されていることからすると,被用者が使用者の違法な指示に従った行為について,使用者が損害賠償請求をすることは,それ自体信義則に反し,許されないというべきである。一審被告A4は,一審原告会社としての意思決定に基づく指示に従って,損失分離スキームの構築・維持等に関与したのであるから,一審原告会社の責任を棚上げにして一審被告A4に巨額の責任を負わせることは,信義則に反し,許されない。
仮に,一審被告A4に何らかの責任が認められるとしても,一審被告A4の責任原因とされる行為は,いずれも一審原告会社の代表取締役であった承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5の意思決定や指示に基づいて行われたものであり,歴代の経営者がしてきたことを継承する以上に,会社側の体質に起因するところが大きい。したがって,一審原告らの一審被告A4に対する請求は,過失相殺規定の類推適用により,賠償すべき損害額は大幅に減額されるべきである。
(イ) 一審被告A3の主張を援用する。
(一審原告らの主張)
(ア) 信義則に関する主張について
損失分離スキームの構築・維持等に始まる一連の行為は,一審原告会社の限られた取締役や従業員のみによって計画・実行されたものであり,正式な機関決定の上でされたものではないし,仮に歴代の代表取締役の決定や指示があったとしても,一審原告会社の決定・指示と同視し得るものでもない。一審被告A3及び一審被告A4は,単に承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5の決定・指示に従っていただけの消極的な立場にあったのではなく,むしろ,これらの歴代の代表取締役の了承の下,損失分離スキームの構築から解消に至るまで極めて長期間にわたり,様々な方策を策定・実行するなどして,一連の行為に積極的に関与し続けてきた者である。取締役は自ら法令を遵守するだけでなく,代表取締役の決定・指示が取締役としての善管注意義務に違反するようなものである場合には,これを是正するための措置を採るべきことは当然である。一審被告A3及び一審被告A4は,およそクリーンハンズの原則に反するなどと主張できる立場にはなく,また,同人らに対する請求が信義則上制限されることもない。
(イ) 過失相殺の主張について
前記(ア)のとおり,一審被告A3及び一審被告A4は,歴代の代表取締役の了承の下,損失分離スキームの構築から解消に至るまでの極めて長期間にわたり,積極的に関与し続けた者である。一審被告A3及び一審被告A4は,損失隠しという違法行為を行うことについて明確な目的を持って一連の善管注意義務違反行為を行ったのであり,そのような一審被告らが過失相殺規定の類推適用を主張することこそ,公平の観点から許されないというべきである。
ウ 権利の濫用等(第6類型)
(一審被告A4の主張)
(ア) 一審原告会社は,本件剰余金の配当等の後も破綻することはなく,現在では訂正後の決算内容を前提として単体での分配可能額はゼロを上回り,剰余金の配当も行っている。現在の分配可能額の状況からみれば,分配可能額の範囲内で剰余金の配当等が行われたのと同じ結果になっているにすぎず,これによって債権者にも一審原告会社にも実質的な不利益を与えるものではない。それにもかかわらず,本件剰余金の配当等によって流出した金銭を役員に弁済させた場合には,一審原告会社が不当に利得することになる。
また,企業の実質的な財産状態は連結ベースの財産状態であるところ,本件剰余金の配当等が行われた当時,連結貸借対照表に基づいて分配可能額を計算すると分配可能額は十分にあった。仮に,当時,虚偽記載のない決算をしていた場合には,子会社から配当金を受領して単体ベースでの分配可能額を十分な額にした上で,剰余金の配当等をしていたはずであって,いずれにせよ剰余金の配当等は行われていたはずである。本件剰余金の配当等は,会社の実質的な財産状態を不当に悪化させたものではなく,単に,子会社からの配当受領額の増加のための手続を履践しなかったという手続的な瑕疵にすぎない。
以上によれば,一審原告らの会社法462条に基づく請求は,権利の濫用として許されないというべきである。
(イ) 一審被告A3の主張を援用する。
(一審被告A3の主張)
(ア) 一審原告会社の株主らは,本来受領することがなかった分配可能額を超える剰余金の分配に与り,他方で,一審被告A3から分配可能額を超える額を回収することができることになり,実質的に,一審原告会社が原資を負担することなく,分配可能額を超える剰余金の配当等がされたことになる。分配可能額を超える剰余金の配当等を行った責任を一審被告A3に負わせるのは著しく公平に反する。
(イ) 一審被告A4の主張を援用する。
(一審原告らの主張)
会社法462条の金銭支払義務は,「剰余金の配当が効力を生ずる日における分配可能額」を超えた配当がされたことについての責任であって,仮に事後的に分配可能額が回復したとしても,前記責任の消長とは全く関係がないし,その責任を追及することが権利濫用になるわけでもない。また,同条は,分配可能額の算定を単体ベースで行うことを前提としており,連結に関する調整は,会社計算規則158条4号の定める限りに留めているのであって,連結貸借対照表に基づいて分配可能額を計算すると分配可能額は十分にあったという一審被告A3の主張自体,失当である。
エ 損益相殺
(一審被告A4の主張)
一審原告会社は,一審被告A4の妻Lを被告として,分配可能額を超えた剰余金の配当等による責任に係る金銭支払請求権を被保全債権として詐害行為取消請求事件を提起し(横浜地方裁判所川崎支部平成25年(ワ)第936号。以下「別件詐害行為取消訴訟」という。),別件詐害行為取消訴訟において,平成26年9月29日,一審原告会社に対し,和解金として,Lが50万円,一審被告A4が250万円をそれぞれ支払うことを内容とする和解が成立し(乙E2),全額履行された。同額については,損益相殺により控除されるべきである。
(一審原告会社の主張)
別件詐害行為取消訴訟の和解において,合計300万円の支払を受けたことは認める。これが損益相殺の要件を満たすかどうかは措き,上記300万円を損害から控除することは争わない。
理由

第3  当裁判所の判断
1  第1類型(金利・運用手数料関係)について
⑴  認定事実(損失分離スキームの構築・維持及び解消等)
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
ア 積極的な資金運用等による損失(含み損)の拡大
(ア) 昭和60年当時,為替相場は急速に円高が進んでいたところ,一審原告会社においては,国内で製造したカメラ,顕微鏡及び内視鏡等を欧米に輸出していたことから,円高による収益圧迫が深刻な状況となっていた。そのような中,昭和59年に一審原告会社の社長に就任した承継前一審被告A1は,営業外収益を獲得するために証券投資等を積極的に行っていく方針を打ち立て,国債や公社債等による資金運用に加え,特定金銭信託(投資家が信託銀行に対して金銭を信託し,運用指図をして有価証券への運用等を行わせ,信託契約終了時に金銭で信託財産の償還を受けるもの。)及び特定金外信託(信託で運用を行う点は特定金銭信託と同様だが,信託契約終了時の信託財産の償還を現状で受け取るもの。以下,特定金銭信託と併せて「特金等」という。)等の運用割合が多くを占めるようになった。(甲Aキ9の1,12の1,13の1)
(イ) 平成2年には,株式相場の大幅な下落によって一審原告会社が特金等で運用していた株式等が多額の含み損を抱えることとなったが,承継前一審被告A1は,当該損失を決算において公表しないこととする旨の判断をし,一審原告会社の経理部財務グループに対してその旨を指示した。
これを受けて,一審原告会社は,①バスケット方式原価法(特金等内の財産をまとめて1つとみなし,その期末時点の時価が取得価格の50パーセントを下回る場合には時価で評価しなければならないものの,これを下回らない場合には簿価たる取得価格で評価できる方法)を採用して特金等に現金を預け入れることで,特金等内の資産の簿価が50パーセントを上回るようにする方法や,②決算期末前に,含み損を抱えた金融商品を一審原告会社が買い戻す合意をして証券会社等に購入させ,期末後に買い戻すなどの方法(いわゆる「飛ばし」行為)を用いて,含み損の全てを財務諸表に計上せず,過小に計上する処理を行った。
(甲Aキ7,12の1,13の1)
(ウ) 承継前一審被告A1及び当時専務取締役であった一審被告A2は,平成4年1月頃,経理部財務グループに対し,当期の決算数値のまとめ方と損失の回復方法を検討するよう指示し,これを受けて,平成元年から経理部財務グループのグループリーダーを務めていた一審被告A3は,部下であった一審被告A4及びCとともに,平成4年1月20日付け「運用状況と決算数値について」と題する文書を作成し,承継前一審被告A1及び一審被告A2に提出・報告した。当該文書には,一審原告会社の抱える損失が480億円(実現損250億円,評価・含み損230億円)であること,長期保有株の一部を海外へ移管し,表向きは将来的にアジア地区の資金・為替コントロールの中枢を担うことを理由として,金融子会社(OAM)を設立すべきことなどが記載されていた。(甲Aキ12の1(特に,添付資料2を参照。以下,同様の意味で「〈添付資料2〉」などと表記する。),13の1,原審における一審被告A3本人)
(エ) 一審原告会社は,平成4年以降,決算において利益を計上するとともに損失の回復を狙うため,購入時点で利益を受け取ることができる仕組債やスワップ等を購入したものの,これらの資金運用による損失額は拡大の一途を辿り,平成8年夏頃には資金運用による含み損が約900億円に達していた。
同年頃一審原告会社の社長であった一審被告A2は,経理部財務グループに対して損失回復のための方策を検討するよう指示したところ,一審被告A3は,一審被告A4及びCとともに,同年8月5日付け「運用ポートフォリオ回復案」と題する文書を作成し,一審被告A2及びその頃一審原告会社の会長であった承継前一審被告A1に対して報告した。当該文書には,一審原告会社の抱える損失が902億円であること,そのうち450億円を回復目標額として具体的な損失解消案を実行することなどが記載されていた。
(甲Aキ12の2〈添付資料1〉,13の2,原審における一審被告A3本人)
イ CFC及びQPの設立と損失の計上
(ア) 一審原告会社は,前記ア記載のとおり,含み損を抱えた金融商品を期末に証券会社等に一時的に買い取らせ,その後買い戻す手法等を用いて損失を隠していたが,平成7年頃には,そのような手法に協力してくれる証券会社が徐々に減少する状況となっていた。
そこで,一審被告A3は,ペインウェーバー証券のM及びNに対し,決算対策商品による損失を一審原告会社の決算に反映させずに損失を回復する方法を相談したところ,同人らから,ケイマン諸島籍の簿外のファンドを作り,そこに含み損を抱えた金融商品を移す方法を提案された。一審被告A3は,一審被告A2の了承を得て,Mらの協力の下,メディアトラストと称するケイマン諸島籍の多数のファンドを設立するとともに,平成8年1月25日には,一審被告A3,一審被告A4及びCを役員とするCFCを設立した上,一審原告会社ないしその子会社であるOAMが特金等内で保有していた債券をCFCに貸し付け,それをCFCが売却して作った資金を使用して,一審原告会社がペインウェーバー証券から購入した決算対策商品をメディアトラストに組み替えた。
一審被告A3は,メディアトラスト内の資産の運用をM及びNが設立したAXESグループに委託して損失の解消を図ったが,結局,これを実現することができず,メディアトラストが抱えていた含み損をCFCに付け替え,CFCにおいて損失を計上した。
(甲Aキ9の3・4,12の2〈添付資料2〉,13の2)
(イ) また,一審被告A3は,平成9年3月頃,330億円の含み損を抱えていたパリバ証券の仕組債を簿外のファンドに簿価で買い取らせてそこで損失を計上させるため,一審被告A2の了承を得た上,一審被告A4とともにQPを設立し,一審原告会社からQPに対して流した資金により,QPが当該仕組債を簿価で買い取り,これをパリバ証券に対して時価で売却することにより,QPにおいて損失を計上した(甲Aキ10,12の2,13の4)。
ウ LGT銀行を介した損失分離スキームの構築等
(ア) 一審被告A3は,平成9年4月一審原告会社の総務・財務部長に就任し,秘密保持の徹底している外国の銀行に一審原告会社の口座を開設し,当該銀行に預け入れた預金を担保にCFC等に融資をしてもらうことにより,一審原告会社とCFC等との関係を切り離すことが望ましいと考え,一審被告A2に対してその旨を説明して,その了承を得た。
一審被告A3は,野村證券株式会社(以下「野村證券」という。)に勤務していたOから,リヒテンシュタインに本店を置くLGT銀行のPの紹介を受け,平成10年3月23日,LGT銀行に一審原告会社及びOAMの名義の各預金口座を開設した。その際,一審原告会社の預金口座開設申請書には一審被告A2が一審原告会社の代表者として署名し,同時に,当該口座に関する署名権者を,一審被告A3,一審被告A4及びCと定めてLGT銀行に通知した。また,一審原告会社及びOAMは,同日,一審原告会社及びOAMの名義の各預金口座内の資産全てについて,CFCのために担保権を設定する旨の契約を締結したが,当該担保権設定契約において署名権者として署名したのは,一審原告会社については一審被告A3であり,OAMについてはCであった。
LGT銀行は,その後,上記担保権設定契約が締結されたことを受けて,CFCに対し,平成10年3月27日180億円,同年8月6日120億円をそれぞれ貸し付けた。
(甲Aキ3の7〈添付資料4,5〉,8の3〈添付資料1-1~1-3〉,12の3〈添付資料2,3〉,13の10,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
(イ) 一審原告会社及びOAMは,LGT銀行による融資を延長してもらうため,平成15年7月14日,LGT銀行との間で包括的な担保権設定契約を締結したが,これらの契約においては,一審被告A2が一審原告会社の代表者として,一審被告A3がOAMの代表者として,それぞれ署名した。その際,LGT銀行から,一審原告会社及びOAMの取締役会議事録の提出を求められたが,LGT銀行との取引は損失分離スキームの構築・維持のための預金取引であって取締役会に諮ることができなかったことから,これに代わるものとして,一審原告会社は同社の取締役会の意思と一致する旨が記載された一審被告A2及び一審被告A5の署名のある宣誓書を提出し,OAMも,同旨の記載がある一審被告A3の署名のある宣誓書を提出した。(甲Aキ13の10〈添付資料4~7〉,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
エ コメルツ銀行等を介した損失分離スキームの構築等
(ア)a 一審原告会社は,平成9年頃,同社の監査を担当していた朝日監査法人から,近い将来,時価会計制度が導入される旨の情報提供を受けていたところ,平成10年5月29日,同監査法人から,同年3月期の監査概要報告書において,バスケット方式原価法を採用している特定金外信託について,今後の金融商品に対する時価会計導入の影響を含めて対処を検討する必要がある旨の指摘を受けた。また,同年6月頃,一審原告会社が財テクの失敗で巨額の損失を抱えている旨が新聞で報じられて一審原告会社の株価が急落したことを契機として,同年7月,同監査法人から,一審原告会社の資金運用に特化して行われた監査の結果として,時価会計導入を踏まえて特金等の解約を検討するよう要請された。
そこで,一審被告A3は,一審被告A4及びCとともに,朝日監査法人からの上記要請への対処方針を検討し,同要請を受け入れて平成13年3月期までに特金等を解約する(朝日監査法人に対しては,特金等の解約を目指す旨回答した。)とともに,それまでの間に新たな資金注入のためのスキームとして,LGT銀行以外の金融機関を介した損失分離スキームの手法を開拓することとした。
そして,一審被告A3は,一審被告A2に報告してその了承を得た上で,Mを介してコメルツ銀行のQと面会し,平成11年9月頃,コメルツ銀行シンガポール支店との間で,一審原告会社名義の預金口座を開設する契約を締結し,一審被告A4とともに,当該預金口座に,同年10月6日2億0100万ドル,同年12月27日1億0100万ドルをそれぞれ入金し,この預金を担保にして,Qが設立したファンドである Hillmore に対して約300億円の融資を受け,この資金をM及びNが設立した21C等の受け皿ファンド等に送金した。
さらに,一審被告A3及び一審被告A4は,平成12年6月22日,コメルツ銀行の預金口座に150億円を入金し,この預金を担保にして,Hillmore に対して149億円の融資を受け,これも受け皿ファンド等に送金した。
(甲Aキ3の8〈添付資料1,3,6,7〉,9の4,9の10,9の12,9の13,12の5〈添付資料1,3,6の1・2〉,13の3〈添付資料1,2〉)
b 一審原告会社の決算内訳書におけるコメルツ銀行への定期預金額は,第132期事業年度(平成11年4月1日から平成12年3月31日まで)が306億1825万円,第133期事業年度(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)が150億0001万2778円であった(甲Aイ14の1・2)。
(イ)a Qは,平成12年秋頃,勤務先をコメルツ銀行からSG銀行シンガポール支店に変えたため,一審被告A3及び一審被告A4は,コメルツ銀行を介した損失分離スキームをSG銀行に移すことを企図し,Hillmore においてコメルツ銀行に対して借入金を返済し,一審原告会社において預金の担保解除及びその払戻しを受け,当該資金を原資として,SG銀行の一審原告会社名義の預金口座に,平成12年12月4日200億円,平成13年2月21日100億円,同年6月11日150億円をそれぞれ入金した。さらに,一審被告A3及び一審被告A4は,平成15年10月22日,同預金口座に100億円を入金した。
Qが設立した Easterside は,これらの預金を担保として,預金額とほぼ同額の約550億円の融資を受け,21C等の受け皿ファンド等に当該資金を送金した。
(甲Aキ3の8,13の17〈添付資料6,7〉)
b 一審原告会社の決算内訳書におけるSG銀行への預金額は,①第133期(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)が300億0005万5556円,②第134期(平成13年4月1日から平成14年3月31日まで)が450億円,③第135期(平成14年4月1日から平成15年3月31日まで)が450億円,④第136期(平成15年4月1日から平成16年3月31日まで)が450億円であった(甲Aイ14の2~5)。
(ウ) Qは,平成17年,SG銀行を退職して投資顧問会社を経営することになったため,一審被告A3及び一審被告A4は,Qの会社が運営するSGボンドに対して資金を出資し,これを通じて受け皿ファンド等に資金を流す方法に切り替えることを企図し,SGボンドにおいて一審原告会社から出資を受けた資金で債券を購入し,Easterside において,当該債券を借り受けて売却により資金化し,SG銀行に対して借入金を返済した。
その過程で,一審原告会社は,SGボンドに対し,平成17年2月4日100億円,同月15日50億円,同月17日200億円,同月18日100億円,同月22日150億円(合計600億円)をそれぞれ出資した(甲Aキ3の8,13の17〈添付資料9〉)。
オ GCNVVを介した損失分離スキームの構築等
(ア) 一審原告会社は,平成11年9月頃,特金等の口座の中で保有していたシュローダー証券取扱いの仕組債を一時的に「飛ばす」ため,買戻しの合意をした上で金融機関に簿価で買い取らせたが,これが朝日監査法人に発覚し,同監査法人から当該仕組債を買い戻すよう要求された。さらに,一審原告会社は,朝日監査法人から,平成11年9月期中間決算において,特金等内の金融資産を時価評価し,損失相当額を引当金計上するとともに,(従前の要請を1年前倒しして)平成12年3月期までに特金等を解約するよう指導を受けた。
一審被告A3は,一審被告A4及びCと相談の上,一審被告A2に対し,この機会に一審原告会社が簿外に抱えている全ての損失を公表することを提案したが,一審被告A2から,監査法人に把握されて指導を受けた限度で損失を公表し引当金を計上するようにとの指示を受けたため,結局,一審原告会社は,一審被告A2の方針に従い,平成11年9月期中間決算において,朝日監査法人が把握した金融資産に限定して時価評価を行い,約168億円の引当金を計上した。
そのため,平成11年10月27日付けで,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5は,それぞれ報酬の減額処分を受け,一審被告A3は,減給処分を受けた。
(甲Aキ7,9の10,9の13,12の6〈添付資料1の1・2〉,13の11,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
(イ) 一審原告会社は,既にCFC及びQPを設立してこれに資金を送金する損失分離スキームを構築・維持していたが,監査法人の指導に従い平成12年3月期に前倒しして特金等を解約するためには,これまでのスキームに加えて,受け皿ファンド等に資金を流すルートを設ける必要が生じた。
一審被告A3は,一審被告A4及びCとともに,既に野村證券を退職して株式会社グローバルカンパニー(以下「グローバルカンパニー」という。)を設立していたOに相談したところ,同人から,一審原告会社において,①LGT銀行が設定するファンドである PS Global Investable Markets を購入し,これを担保にLGT銀行から資金を借りてCFCに送金する方法や,②資金を出資して事業投資ファンドを組成し,グローバルカンパニーがファンドマネージャーとなって,新規事業の発掘・育成等を行う方法が提案された。Oは,②の方法を用いれば,資金を受け皿ファンド等に回すことが容易となるだけでなく,新たなベンチャー企業を発掘して上場させることでキャピタルゲインを取得して損失を取り戻すこともできるなどと説明した。
一審被告A3,一審被告A4及びCらは,Oと協議を重ねた結果,平成12年1月,LGT銀行の設定するファンドの購入及び事業投資ファンド設立のスキームの大枠が固まったことから,一審原告会社の経営会議及び取締役会に諮るべく,承継前一審被告A1に対しては一審被告A3において,一審被告A2及び一審被告A5に対しては一審被告A3及び一審被告A4において,一審原告会社が抱えている簿外の損失の状況や,LGT銀行のファンドの購入及び事業投資ファンドの設定を損失分離スキームに利用することなどを説明した。
(甲Aキ9の13,9の14,12の6,13の14,13の15,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
(ウ) 一審原告会社の第787回取締役会は,平成12年1月28日,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5を始めとする一審原告会社の取締役らが出席して開催され,LGT銀行のファンドの購入及び新規の事業投資ファンドの設定が議案として上程されて,一審被告A5及び一審被告A4が投資の必要性や事業投資ファンド設立の目的を説明し,全員異議なく了承された。
その後,一審原告会社は,LGT銀行との交渉の結果,PS Global Investable Markets ではなく,一審原告会社の英語の頭文字を名称に冠した一審原告会社独自のクラスファンドである PS Global Investable Markets-O(GIM)に出資することとなり,平成12年3月17日,一審原告会社が150億円,OAMが200億円(合計350億円)をLGT銀行に出資してこれを購入した。
(甲Aキ3の10〈添付資料6,7〉,9の14,12の6〈添付資料2-1・2〉,13の15,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
(エ) 一審原告会社は,平成12年3月1日,M及びNが設立した Genesis Venture Capital Series Ltd.(以下「GV」という。),及びOが設立した GCI Cayman との間で,一審原告会社及びGVをリミテッドパートナー,GCI Cayman をジェネラルパートナーとする事業投資ファンド組成契約を締結し,一審原告会社が300億円,GVが50億円,GCICayman が1億円をそれぞれ出資して,GCNVVを設立した(なお,GVの出資金50億円は,一審原告会社がCFCを経由してGVに送金した資金であり,GCI Cayman の出資金1億円は,同社に対する運用報酬と相殺したため,GCI Cayman から現実に拠出された資金はなかった。)。
(甲Aキ9の13,9の14,13の15〈添付資料5〉,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
(オ) 一審被告A3,一審被告A4及びCは,Oらと相談の上,LGT-GIMに出資した350億円のうち,310億円を受け皿ファンド等であるTEAOに貸し付けるとともに,そこから300億円を出資してNeoを設立する(GCI Cayman がNeoの資金移動権限を持つジェネラルパートナーに就任する。)こととし,その旨実行された。Neoに出資された資金は,平成12年3月23日ITVに対して101億1515万円が送金され,同月24日QPに対して194億円が送金された。
(甲Aキ3の10〈添付資料8,9〉,12の7)
(カ) 一審被告A4は,QPの債券を購入する名目で,ジェネラルパートナーである GCI Cayman のO,R及びSに依頼して,GCNVVにおいて,平成12年3月17日出資された金銭のうち320億円をQPに送金するとともに,同月28日QPの債券を購入し,QPにおいて,一審原告会社から借り受けていた国債を一審原告会社に返還した。その後,平成17年まで,GCNVVの決算期に向けた監査法人対策としてQPからGCNVVへ債券の償還名目で資金を戻し,その目的を達成するとGCNVVからQPに再び資金を移動するという行為を繰り返した。
その後,平成18年3月頃,本件国内3社の株式を実際の価値よりも高値で取得することを利用してGCNVVとQPとの間の債権債務関係を解消することとし,QPがGCNVVに対し,その当時の残債務である240億円を全て返済してこれを解消した。
(甲Aキ3の13〈添付資料1~8〉)
カ 損失分離状態の報告
一審原告会社においては,金融商品への投資により損失を抱えるようになった平成2年頃以降,承継前一審被告A1及び一審被告A2に対し(一審被告A5に対しても,遅くとも同人が一審原告会社の社長に就任した平成13年6月以降),概ね半期に一度,定期的に,一審原告会社の抱えていた簿外の損失の額やその対策等についての報告が行われていた。当該報告は,一審被告A4,Cないし損失分離スキームの構築・維持等に必要な事務作業を行っていたTが作成した資料に基づいて,一審被告A3が行うのが通例であり,必要に応じて,一審被告A4,C及びTが立ち会って補足説明をしていた(例えば,平成15年9月12日付けで財務部が作成した「135PB運用報告」と題する資料(甲Aイ8の1)には,宛先として「A1取締役殿」,「A2会長殿」,「A5社長殿」等とされており,135期下期(平成14年10月から平成15年3月まで)の期末である平成15年3月末時点における一審原告会社の損失額が1176億6000万円であること,対前期比で損失が8億0600万円増加したことなどが記載されていたが,一審被告A3は,一審被告A4及びCとともに,当該資料を用いて,承継前一審被告A1,一審被告A2及び一審被告A5に対し,その記載に沿った説明をした。)。
(甲Aイ8の1,キ3の11〈添付資料3〉,3の17,12の8,13の18,原審における証人T,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)
キ 損失分離スキームの維持に伴う本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払
(ア) 前記ウ(ア)記載のとおり,CFCは,LGT銀行から300億円の融資を受け,平成13年7月以降,利息等の名目で,別紙11の「①CFCのLGT銀行への本件金利の支払」の各「日付」欄記載の日に,各「支払額」欄記載の金員を支払った(甲Aキ3の18の1,3の18の2〈添付資料5〉)。
(イ) SG銀行が Easterside に宛てて送付した契約条件の確認書面によれば,SG銀行の Easterside に対する貸付けの利率は,別紙11の「②Easterside に対する貸付けの利率」記載のとおりであった(甲Aイ15の1~5)。
(ウ) LGT-GIMが,その資産を運用することに伴い,同資産からLGT銀行に対して支払う年間のファンド運用手数料は,各年末のファンドの総資産価値の1.5パーセントと約定されていた。そして,LGT-GIMの各年末における総資産価値は,①平成13年末が355億8318万9504円,②平成14年末が358億0870万9552円,③平成15年末が360億3974万8379円,④平成16年末が362億7438万4959円,⑤平成17年末が365億5933万6382円,⑥平成18年末が368億2679万4646円,⑦平成19年末が370億6305万5830円であった。(甲Aキ3の18の1〈添付資料2〉,3の18の2〈添付資料4〉)
(エ) SGボンドは,そのファンド運用手数料等として,Qの経営する会社に対し,別紙12の「①SGボンド運用手数料等」記載のとおり,合計6億7656万1796円を支払った(甲Aキ3の18の1〈添付資料6〉)。
(オ) Neoは,GCI Cayman に対し,報酬として,別紙12の「②Neoから支払われた報酬」記載のとおり,合計12億8768万5775円を支払った(甲Aキ3の18の1〈添付資料1〉)。
(カ) GCNVVは,GCI Cayman に対し,報酬として,別紙12の「③GCNVVから支払われた報酬」記載のとおり,合計41億3095万3226円を支払った(甲Aキ3の18の1〈添付資料1〉)。
ク ITX株式の取得
(ア) 一審被告A3,一審被告A4及びCは,平成11年12月頃,Oから,当時の日商岩井がその情報産業部門を独立・分社化したITX株式の取得を勧められた。
一審被告A3らは,IT関連のノウハウの取得による一審原告会社の事業の改善目的のほか,将来の上場によるITX株式の値上益を一審原告会社の抱える損失の穴埋めに充てるなどの目的から,一審被告A2の了承も得て,後記のとおり,50億円分のITX株式を一審原告会社が取得し,100億円分のITX株式については,Oに依頼してLGT銀行グループが組成し管理するクラスファンドとしてITV(LGT ClassFund IT Ventures(JPY))を組成させ,ITVに取得させることとした。また,グローバル・カンパニーがLGT銀行のアドバイザーに就任して,ITVの実質的な運営者となった。
(甲Aキ8の4,9の15,12の7,13の16)
(イ) 平成12年1月28日開催された一審原告会社の経営会議における審議を経て,同日に開催された一審原告会社の第787回取締役会において,前記オ(ウ)のとおり,LGT銀行のファンドの購入及び新規の事業投資ファンドの設定が議案として審議されるとともに,ITX株式を50億円で取得する旨の議案が承認可決された(甲Aキ8の4〈添付資料1-1・2,2〉,9の15〈添付資料2〉)。
一審原告会社は,日商岩井との間で,平成12年3月31日,ITX株式4662株を50億0018万1480円で譲り受ける旨の契約を締結し,ITVは,同月28日,日商岩井との間で,ITX株式9323株を99億9929万0420円で譲り受ける旨の契約を締結した。ITVによる当該株式取得資金は,LGT銀行のNeo名義の口座からITVに出資した101億円を原資とするものであった。(甲Aキ9の15〈添付資料3~5〉,12の7〈添付資料8〉,13の16)
(ウ) その後,株式分割やITVから一審原告会社へのITX株式の譲渡を経て,最終的には,一審原告会社は,平成22年11月11日から同年12月27日までを買付期間として実施した公開買付け及び平成23年3月23日を効力発生日とする株式交換により,ITXの全株式を取得してITXを完全子会社化し,これに先立つ同月17日ITXは上場廃止となった。
ITXが株式を上場した平成13年12月から上記上場廃止の前日までのITXの株価の推移は,別紙13「ITXの株価の推移」記載のとおりである。
(甲Aイ11,16の1・2,17~21)
(エ) 一審原告会社は,平成24年8月24日,アイ・ティー・エックス株式会社(以下「新ITX」という。)を設立し,同年9月28日を効力発生日として,ITXの営む情報通信事業を含む全事業を新ITXに引き継いだ上で会社分割する旨を公表した。また,一審原告会社は,同日付けで,新ITXの発行済株式の全てをアイジェイホールディングスに530億円で譲渡する旨の契約を締結したことを公表した。(甲Aイ22)
ケ 一審原告会社による本件国内3社の株式の取得
(ア) 本件国内3社の事業内容
アルティスは,医療施設から排出される感染性廃棄物並びに事業所及び工場から排出される廃プラスチックを油化プラントで再生油等にリサイクルする事業を行う会社であり,NEWS CHEF は,電子レンジ専用調理容器や健康食・食材キットの販売等を行う会社であり,ヒューマラボは,健康食品及び化粧品の販売,担子菌及びその他の菌類の培養・研究・開発等を行う会社であった(甲Aウ1~3)。
(イ) 本件国内3社を用いた損失分離状態の解消
一審被告A3,一審被告A4及びCは,一審原告会社の新規事業の投資先として,Oから本件国内3社の紹介を受けた。一審被告A3,一審被告A4及びCは,最終的には,①Neo及びITVが安い価格で本件国内3社の株式を取得する,②本件国内3社の企業価値が著しく高くなるよう見積もった事業計画を作成する,③GCNVVがNeo及びITVから本件国内3社の株式を本来の企業価値よりも高い金額で買い取った後,一審原告会社が本件国内3社の株式を引き取り,本件国内3社を一審原告会社の子会社とする,④Neo及びITVが取得した多額の株式売却益を用いて損失分離スキームに関わる簿外ファンドに資金を環流させるなどして簿外ファンドが抱えている損失の一部を解消する,⑤一審原告会社は,本件国内3社の買取価格と企業価値との差額を多額の「のれん」として計上し,「のれん」を長期償却する方法により損失分離状態を解消することを企図し,一審被告A5の了承を得て,これを実行することとなった。(甲キA9の16,9の17,13の19,13の20)
(ウ) Neoらによる本件国内3社の株式の取得
ITVは,平成16年4月16日(増資日は同月20日),同年8月6日(増資日は同月7日),平成17年3月11日(増資日は同月14日)の3回にわたり,NEWS CHEF の株式合計2000株を合計4億円(1株当たり20万円)で,新株引受け(増資)の方法により順次取得した。
Neoは,①平成17年7月20日(増資日は同月21日),ヒューマラボの株式1200株を6000万円(1株当たり5万円)で,②同年12月13日(増資日は同月16日),アルティスの株式2880株を1億4400万円(1株当たり5万円)で,③既に NEWS CHEF の株式250株を保有していたが,同年12月,NEWS CHEF の株式2000株を4000万円(1株当たり20万円)でそれぞれ新株引受け(増資)の方法により取得した。
GCNVVは,①平成17年3月11日(増資日は同月14日),NEWS CHEF の株式1000株を2億円(1株当たり20万円)で,②同年7月20日(増資日は同月21日),ヒューマラボの株式200株を1000万円(1株当たり5万円)で,③同年12月13日(増資日は同月16日),アルティスの株式720株を3600万円(1株当たり5万円)でそれぞれ新株引受け(増資)の方法により取得した。
(甲Aウ4~7,甲Aキ9の16,13の19,甲B41)
(エ) DD及びGTによる本件国内3社の株式の取得
一審被告A3らは,Qの設立したファンドであるDDやGTにも本件国内3社の株式を購入させることとし,①DDは,平成18年3月9日,Neoからアルティスの株式530株を29億5210万円(1株当たり557万円),NEWS CHEF の株式450株を20億0250万円(1株当たり445万円)でそれぞれ購入し,②GTは,同月10日,Neoからヒューマラボの株式210株を29億6100万円(1株当たり1410万円)で購入した(甲Aキ9の16)。
(オ) GCNVVによる本件国内3社の株式の取得
平成18年3月9日に開催された一審原告会社の事業投資委員会において,Oから本件国内3社を重点的な投資先として提案するなどし,一審原告会社では,社内審査の結果,GCNVVが本件国内3社の株式を取得することになった。
一審被告A3らは,その後,Oの作成に係る事業計画を元に,平成18年3月時点における本件国内3社の売上高,営業利益及び当期純利益を別紙14の「1.平成18年3月時点における事業計画」記載のとおり見積もり,井坂公認会計士事務所により,アルティスの事業価値は204億円から370億円,NEWS CHEF の事業価値は171億円から306億円,ヒューマラボの事業価値は167億円から306億円と評価されていること(外部評価。なお,書証によって数値に変動があるが,甲Aキ9の17〈添付資料8〉の数値による。)を踏まえた上,投資に当たってのアルティスの事業価値を220億円(1株当たり579万円),NEWS CHEF の事業価値を160億円(1株当たり445万円),ヒューマラボの事業価値を230億円(1株当たり1437万5000円)とするのが妥当である旨を記載した投資提案審議資料を作成した。また,一審被告A3らは,事業投資審査委員長名義で,上記投資提案審議資料と整合する内容の同月16日付け「審査結果の報告」と題する書面(甲Aキ9の17〈添付資料8〉)を作成したが,同書面には,①アルティス株式760株を,取得金額44億0040万円(1株当たり579万円)で,② NEWS CHEF 株式400株を,取得金額17億8000万円(1株当たり445万円)で,③ヒューマラボ株式320株を,取得金額46億円(1株当たり1437万5000円)でそれぞれ取得することを承認する旨が記載されていた。(甲Aウ9,甲Aキ9の16・17,13の19〈添付資料3~5〉)
これを受けて,GCNVVは,①平成18年3月17日,ITVから,NEWS CHEF の株式400株を17億8000万円(1株当たり445万円)で,②同月23日,Neoから,アルティスの株式760株を44億0040万円(1株当たり579万円)で,③同日,Neoから,ヒューマラボの株式320株を46億円(1株当たり1437万5000円)でそれぞれ購入した(甲Aウ10,甲Aキ9の16,9の18)。
(カ) GCNVVの解散と一審原告会社による本件国内3社の株式の取得
平成19年3月期から事業投資ファンドに関する会計処理が変更となり,GCNVV及びその主要な投資先については持分法を適用して連結決算に組み込まれるようになったことを契機として,一審原告会社及びGCI Cayman は,同年9月21日,GCNVVの組成契約を中途解約し,これにより,GCNVVは解散した。
一審原告会社は,GCNVVの解散に伴い,GCNVVが保有していた本件国内3社の株式を現物で取得し,これら株式は,一審原告会社の連結貸借対照表において,GCNVVが上記平成18年の売買の際に取得した価格(簿価)で資産として計上された。
これにより,損失分離スキームのうち,GCNVVとQPとの間の貸借関係は解消した。
(甲Aウ15の1・2,甲Aキ9の19,9の20〈添付資料2〉,甲B41)
(キ) 一審原告会社による本件国内3社の株式の追加取得
平成20年2月8日に開催された一審原告会社の経営執行会議における審議を経て,同月22日に開催された一審原告会社の第999回取締役会において,一審原告会社が本件国内3社の株式を総額186億1200万円ないし613億7900万円で追加取得して子会社化することなどが提案され,これを承認する旨の決議(本件取得決議)がされた。一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12は,当該取締役会に出席し,上記議案に賛成した。なお,一審被告A4は,上記経営執行会議において,同月時点における本件国内3社の今後の事業計画について,別紙14の「2.平成20年2月時点における事業計画」記載のとおりであることなどを説明した。また,井坂公認会計士事務所は,平成20年2月29日付け「株主価値算定報告書」において,上記事業計画に基づき,DCF法を用いて,アルティスの株主価値を335億4700万円ないし469億6200万円,NEWS CHEF の株主価値を336億4200万円ないし382億7600万円,ヒューマラボの株主価値を297億6700万円ないし392億8100万円と評価していた。(甲Aウ16の1・2,17の1・2,甲Aエ6の1・2,甲Aキ9の20,12の11,甲B32の5~7)
本件取得決議を受けて,一審原告会社は,平成20年3月21日,①Neoから,アルティスの株式1650株を181億5000万円(1株当たり1100万円),ヒューマラボの株式670株を137億3500万円(1株当たり2050万円)で購入し,②ITVから,NEWS CHEF の株式1600株を152億円(1株当たり950万円)で購入する旨の各売買契約を締結した。一審原告会社は,同月26日,上記売買契約に基づく代金として,Neoに対し318億8500万円を,ITVに対し152億円をそれぞれ支払った。(甲Aウ19の1~3,甲Aキ3の14〈添付資料7〉,9の20)
また,OFHは,平成20年4月25日,①DDから,アルティスの株式530株を55億6500万円(1株当たり1050万円),NEWSCHEF の株式450株を40億5000万円(1株当たり900万円)で購入し,②GTから,ヒューマラボの株式210株を40億9500万円(1株当たり1950万円)で購入する旨の各売買契約を締結した。OFHは,同日,上記売買契約に基づく代金として,DDに対し96億1500万円を,GTに対し40億9500万円をそれぞれ支払った。(甲Aウ20の1・2,21の1・2,22の1~3,甲Aキ3の14〈添付資料16〉,9の20)
(ク) 借入金の返済及び出資金の償還
Neoが一審原告会社から得た本件国内3社の株式の売却代金約319億円は,QPを経由してCFCに資金が移動した後,CFCがLGT銀行に対し,借入金の返済をし,LGT銀行は,平成20年6月4日,一審原告会社に対し,上記借入れの担保となっていた預金の払戻しとして351億4233万3333円を支払った。
ITVが一審原告会社から得た本件国内3社の株式の売却代金152億円は,Neo及びTEAOを経由してLGT-GIMに資金が移動した後,LGT-GIMは,平成20年8月26日,一審原告会社に対し,LGT-GIMのファンドに出資した出資金150億円の償還及びその運用益の分配として,159億0480万円を支払った。
DD及びGTがOFHから得た本件国内3社の株式の売却代金約137億円は,Easterside,CD及びGPAI,CFC及びTEAOを経由してLGT-GIMに資金が移動した後,LGT-GIMは,平成20年10月24日,OFH(出資者はOAMであったが,OFHはOAMからLGT-GIMに関する事業を承継した。)に対し,平成20年10月24日,出資金の償還及び運用益の分配として,209億4620万円を支払った。
本件国内3社の株式取得についての資金移動の概況は,別紙8「H20.2.22の取締役会決議に基づく国内3社株式代金流出後の資金移動の概況」記載のとおりであり,このうち,一審原告会社から送金された各資金移動の内容は,別紙16の「Ⅰ 本件国内3社の株式取得に関する預金移動(一審原告会社)」記載のとおりであり,OFHから送金された各資金移動の内容は,別紙16の「Ⅱ 本件国内3社の株式取得に関する預金移動(OFH)」記載のとおりである。
これにより,損失分離スキームのうち,LGT銀行及びLGT-GIMに係る債権債務関係は解消された。
(甲Aキ3の14,甲B41)
(ケ) 本件国内3社の財政状態等
当時の本件国内3社の売上高等の実績値は別紙15「本件国内3社の財務諸表」記載のとおりであった。
(コ) 「のれん」の計上
本件国内3社は,GCNVVの解散による株式の承継と一審原告会社による株式の追加取得等により,一審原告会社の子会社となり,一審原告会社は,連結決算上,平成20年3月期において,本件国内3社の「のれん」として約545億円(期中増加額)を計上した。最終的には,その後に計上された「のれん」を含めて,本件国内3社の「のれん」について,平成21年3月期に約557億円,平成22年3月期に約13億円の減損処理をそれぞれ行った。(甲Aキ3の14,9の20,甲B41)
(サ) 外部協力者へ支払われた報酬
a Neoは,平成20年9月11日,その預金口座から Gurdon Overseas S.A の預金口座に対し,12億5925万円を振込送金した。同金員は,一審被告A3及び一審被告A4が,一審被告A5と相談の上,LGT銀行の行員であったUらが損失分離スキームに協力したことへの報酬とする趣旨で,同人らが経営する Gurdon Overseas S.A に対して支払ったものであった。(甲Aウ27,甲Aキ11の5,12の12,13の21)
b TEAOは,平成20年12月19日,その預金口座から NaylandOverseas S.A の預金口座に対し,9億5000万円を振込送金した。同金員は,一審被告A3及び一審被告A4が,一審被告A5との相談の上,LGT銀行の行員であったPが損失分離スキームに協力したことへの報酬等とする趣旨で支払ったものであった。(甲Aウ28,甲Aキ11の5,12の12,13の22)
コ ジャイラス買収に伴うFA報酬の支払,ワラント購入権及び配当優先株の買取り等
(ア) 事業買収(ジャイラス買収)を用いた損失分離状態の解消
一審原告会社は,医療市場への事業拡大のためのM&Aの活用を検討していたが,一審被告A3及び一審被告A4は,事業買収を通じてファンドに資金を流し,損失分離状態の解消を図ることを企図し,最終的には,後記のとおり,①ジャイラス買収に伴うFA契約において,報酬として株式オプションとワラント購入権を付与し,②その後に株式オプションを配当優先株に交換した上,ワラント購入権及び配当優先株を高額で買い取ることにより,高額なFA報酬を支払い,③これらジャイラス買収に伴う高額なFA報酬の支払,ワラント購入権及び配当優先株の高額での買取りによる資金を損失分離スキームに関わる簿外ファンドに資金を環流させるなどして損失分離状態の解消を図ることを企図し,一審被告A5の了解を得て,これを実行することとなった。
(イ) ジャイラス買収に伴い締結したFA契約及び修正FA契約の内容等
一審原告会社は,平成18年6月5日,AXESとの間で,当時想定していた大型のM&A案件を前提として,①適切な買収ターゲットの特定における一審原告会社への支援,②各専門家を構成員とする作業部会の運営管理,③各取引のスキームの立案,④各取引に関して,通常フィナンシャルアドバイザー兼代理人が提供する分析,評価,交渉及び文書作成その他の支援を内容とする本件FA契約を締結した。本件FA契約では,買収金額の1パーセントに相当する成功報酬として支払うこととされ,その成功報酬のうち20パーセントは現金で支払い,その余は買収の条件に基づいて対象会社の資産を承継する法人(以下「買収ビークル」という。)が発行した株式オプションで支払うこととされていた。
その後,M&Aの対象がジャイラスに変更され買収規模が縮小したことから,一審原告会社は,平成19年6月21日,AXESとの間で,本件FA契約で定めた成功報酬を変更する旨の契約(以下「本件修正FA契約」という。)を締結した。本件修正FA契約では,買収金額に応じた一定の割合で成功報酬を支払うこととされ,その成功報酬のうち一定の割合は現金補償額として現金で支払い,その余は買収ビークルの発行済み株式総数の価額の9.9パーセント分の株式オプションで支払うこととされた(例えば,買収金額が20億ドルの場合,20億ドルの5パーセントが成功報酬となり,そのうち15パーセントが現金補償額として現金で支払われることとされた。)ほか,ワラント購入権を付与することとされた。
(甲Aエ1~4,甲Aキ11の6,13の26)
(ウ) ジャイラス買収に係る取締役会の承認決議
平成19年11月19日に開催された一審原告会社の第994回取締役会において,英国の医療機器会社であるジャイラスを約9億3500万ポンドで買収すること,この買収資金として銀行から上限2500億円の資金借入れを実施すること,ジャイラス買収に関する投資顧問として,AXESと業務委託契約を締結することなどが提案され,承認可決された。一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11及び一審被告A12は,当該取締役会に出席し,上記議案に賛成した。(甲Aエ5の1・2)
(エ) 本件修正FA契約に基づく報酬支払
一審原告会社は,平成19年11月26日,本件修正FA契約に基づき,AXESに対し,成功報酬のうち15パーセントに当たる現金支払分として1200万ドルを支払った(甲Aエ6の1・2)。
(オ) ジャイラスの買収手続の完了
英国裁判所による買収手続が適法であるとの判断及び承認を得てジャイラスは上場廃止となり,平成20年2月14日,一審原告会社は,ジャイラスの株主に対し払込みを行い,ジャイラスの買収手続が完了した(甲Aエ6の2)。
(カ) コール・オプション契約の締結
一審原告会社は,平成20年2月14日,AXESとの間で,本件修正FA契約における義務に従い,AXESに対してジャイラス発行の株式オプションを付与すること,当該合意に基づくAXESの権利義務はAXESと第三者との間で合意された対価ないし条件で自由に譲渡できることなどを内容とするコール・オプション契約を締結した(甲Aエ7)。
(キ) 配当優先株の発行及びワラント購入権の買取りに係る取締役会の承認決議等
a 一審原告会社は,ジャイラス買収完了後から,ジャイラスの資本再編を進めていたところ,その過程でジャイラスに生じる売却益について,一連の再編手続がグループ内再編と認められなければ米国や英国で課税対象となる可能性があり,これを回避するためには,AXESに発行した株式オプションを一審原告会社側で買い取る必要があることが判明した。
一審被告A4及び一審被告A3は,株式オプションを買い取る方法として,AXES及びAXAMの代表者であったNと協議した上,株式オプションの対価としてジャイラスの配当優先株を発行する方法で精算することで調整し,併せて本件修正FA契約に基づく報酬としてAXESに付与したワラント購入権についても,一審原告会社側が現金で買い取り,その代金を損失分離状態の解消のための資金に充てることとした。
一審被告A4及び一審被告A3は,一審被告A5の了承を得て,上記のワラント購入権及びAXAMに付与するジャイラスの配当優先株を一審原告会社側が買い取り,その代金を損失分離状態の解消のための資金に充てることにより,SGボンドを介した損失分離スキームの600億円の損失を解消する方針を決定した。
(甲Aエ8の1・2,9の1・2,甲Aキ11の6,13の26)
b 平成20年9月26日に開催された一審原告会社の第1009回取締役会において,本件FA契約及び本件修正FA契約に基づくAXESへの投資顧問料の支払について,現物報酬として,ジャイラスの配当優先株(発行額面1億7698万1106ドル)を同月30日に発行すること,一審原告会社が本件修正FA契約に基づくワラント購入権を5000万ドルで買い取ること(支払日は同月30日)などが提案され,承認可決された。一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12及び一審被告A14は,当該取締役会に出席し,上記議案に賛成した。(甲Aエ14の1・2)
一審原告会社は,平成20年9月30日,上記取締役会決議に基づき,ジャイラス,AXES及びAXAMとの間で,ジャイラスがAXAMに配当優先株式を発行すること,AXES及びAXAMが本件修正FA契約に基づくワラント購入権の発行に関する義務を一審原告会社から解放する代わりに,一審原告会社がAXAMに5000万ドルを支払うことなどを内容とする株式引受契約を締結した。なお,AXESは,これに先立つ平成20年6月9日,AXAM(ジャイラスの買収に伴い一審原告会社から支払われる資金を受領するために設立された法人)に対し,本件修正FA契約に基づく株式オプション及びワラント購入権を2400万ドルで譲渡していた。
(甲Aエ13,甲Aキ5の3,13の24〈添付資料5〉)
(ク) 配当優先株の買取りに係る取締役会の承認決議
平成20年11月28日に開催された一審原告会社の第1012回取締役会において,ジャイラス配当優先株の配当条件に基づく今後のキャッシュの外部流出を防止すること,今後のグループ内再編を容易にすることなどを理由として,OFHがAXAMからジャイラスの配当優先株(発行額面1億7698万1106ドル)を5億3000万ドル~5億9000万ドルで購入すること,その実施のための資金を調達することを目的として,OFHが増資を行うことが提案され,承認可決された(甲Aエ18の1・2)。
(ケ) あずさ監査法人による指摘
一審原告会社は,平成20年12月から平成21年4月にかけて監査に当たっていたあずさ監査法人から,ジャイラスの買収について,本件FA契約及び本件修正FA契約に基づく報酬が異常に高い上,AXESの役割も十分理解できないこと,また,本件国内3社の買収について,投資した金額が事業に投資されておらず,ほとんどファンドに渡ってしまっていることなどを繰り返し指摘され,取得価額や取引先の妥当性について懸念を表明する監査役会宛ての文書を受領した。
これを受けて,一審原告会社の監査役会は,平成21年5月9日,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に伴うFA報酬の支払について,①取引自体に不正・違法行為がなかったか,②取締役の善管注意義務違反及び手続的瑕疵がなかったかにつき調査・検討を行うことを目的として,独立性の高い弁護士及び公認会計士らによって構成される第三者委員会を組織することを可決した。一審原告会社の監査役会から調査・検討の依頼を受けた第三者委員会は,調査・検討の上,同月17日,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に伴うFA報酬の支払について,いずれも違法もしくは不正な点があった又は善管注意義務違反があったとまで評価できるほどの事情は認識できなかったとする平成21年第三者委員会報告書を提出した。
あずさ監査法人は,平成21年5月20日,一審原告会社の連結計算書類が,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に照らして適正に表示しているものと認める旨の仮の意見を表明したが,一審原告会社に対し,ジャイラスの配当優先株を買い取ることを白紙に戻すなどの条件をクリアしなければ,真正の監査報告書は出せない旨を伝達した。
(甲Aエ22~35,36の1・2,38,甲B15〈添付資料3〉)
(コ) 配当優先株の買取りに係る取締役会の承認決議の取消し
平成21年6月5日に開催された一審原告会社の第1022回取締役会において,第1012回取締役会で承認されたジャイラスの配当優先株の買取りに係る決議を取り消すことが提案され,承認可決された。
(甲Aエ39の1・2)
(サ) 監査法人の交代及び配当優先株の買取りに係る取締役会の再承認決議
a 一審原告会社は,あずさ監査法人との監査契約を更新しないこととし,平成21年6月開催の株主総会において,新日本有限責任監査法人を新たな会計監査人に選任した。
一審被告A3及び一審被告A4は,あずさ監査法人からの指摘を受けて一旦頓挫したジャイラスの配当優先株の買取りによる損失分離状態の解消を実現するため,新日本有限責任監査法人所属の公認会計士に対し,当該優先株の買取価格と簿価との差額をのれん代として計上する方法を相談したところ,平成22年2月頃,同公認会計士から,了承が得られたことから,一審被告A3及び一審被告A4は,一審被告A5の了承も得た上,同年3月期中に,再度,AXAMからジャイラスの配当優先株を買い取る方針を固めた。
(甲Aキ11の6,12の13,13の27,弁論の全趣旨)
b 平成22年2月26日に開催された一審原告会社の第1033回取締役会において,AXAMからのジャイラスの配当優先株の買取りについて,ジャイラスの配当優先株評価額に配当未払額を加えた金額を買取価格の上限とし,同年3月までに買い取ることを条件として交渉することが提案され,承認可決された(甲Aエ40の1・2)。
また,平成22年3月19日開催された一審原告会社の第1034回取締役会において,①OFUKがジャイラスの配当優先株1億7698万1106株を6億2000万ドル(約558億円)で買い取ること,②取得者であるOFUKに対して一審原告会社から増資及び貸付けを行うことなどが提案され,承認可決された。一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14は,当該取締役会に出席し,上記配当優先株買取りの議案に賛成した。(甲Aエ41の1~3)
c OFUKは,平成22年3月22日,AXAMとの間で,ジャイラスの配当優先株1億7698万1106株を6億2000万ドル(なお,発行額面は1億7698万1106ドルであった。)で買い受ける旨の契約を締結した(甲Aエ42,43)。
(シ) 資金移動
a ワラント購入権買取代金の資金移動
一審原告会社は,平成20年9月30日,AXAMに対し,ワラント購入権の買取代金として,5000万ドルを支払った(甲Aキ3の15〈添付資料1〉)。
同資金は,GPAI,21C及び Easterside 及びSGボンドをそれぞれ経由した上で一審原告会社に戻ったものと解される(甲Aキ3の15〈添付資料2~5〉)。
b 配当優先株買取代金の資金移動
OFUKは,AXAMに対し,ジャイラスの配当優先株買取代金として,平成22年3月23日に2億ドル,同月24日に2億1000万ドル,同月25日に2億1000万ドルの合計6億2000万ドル(当時の為替レートで換算すると91.84円/ドル(甲Aエ44の2)569億4080万円)を支払った(甲Aキ3の15〈添付資料6〉)。
同資金は,GPAI,CD及び Easterside を経由してSGボンドに 資金が移動した後,SGボンドは,一審原告会社に対し,出資金の償還として,平成22年9月22日に315億6910万9673円,平成23年3月24日に315億3634万7569円の合計631億0545万7242円を支払った(甲Aキ3の15〈添付資料9,11,13〉)。
c 資金移動のまとめ
ワラント購入権及び配当優先株の買取りについての資金移動の概況は,別紙9「〈ワラント購入権・優先株買取代金支払後の資金移動の概況〉」記載のとおりであり,このうち,一審原告会社から送金された各資金移動の内容は,別紙16の「Ⅲ ジャイラス買収に関する預金移動(一審原告会社)」記載のとおりであり,OFUKから送金された各資金移動の内容は,別紙16の「Ⅳ ジャイラス買収に関する預金移動(OFUK)」記載のとおりである。
これにより,損失分離スキームのうち,SGボンドに係る債権債務関係は解消された。
(甲Aキ3の15,甲B41)
(ス) 「のれん」の計上
AXES及びAXAMに対して支払われた報酬,付与された株式オプションの簿価及びワラント購入権の買取代金の一部である合計190億円が「のれん」として計上され,OFUKが支払った配当優先株の買取代金と簿価との差額414億円のうち,412億円が「のれん」として計上されるなどした。(甲Aキ3の15,甲B41)
(セ) 外部協力者へ支払われた報酬
a Mは,GPAIの預金口座から,自身が設立した Promo Tech Investment Limited の預金口座に対し,平成22年5月18日に250万ドル,同日に2億3180万円,同年9月2日に633万0775.58ドル,同日に6億3000万円を振込送金した。これは,一審被告A3及び一審被告A4が,一審被告A5と相談の上,損失分離スキームに協力したN及びMへの報酬とする趣旨で,同人らに支払うこととしたものであった。(甲Aキ5の3〈添付資料14の1・2,15の1・2〉,11の5,12の13,13の24)
b 平成22年4月26日,Easterside の預金口座から DRAGONS ASSET MANEGEMENT CO.LTD の預金口座へ,1450万ドル(同日の為替レートである94.20円/ドル(甲Aエ44の5)で換算すると13億6590万円)が振込送金された。これは,一審被告A3及び一審被告A4が,一審被告A5と相談の上,損失分離スキームに協力したQへの報酬とする趣旨で,同人の会社に支払うこととしたものであった。(甲Aキ3の15〈添付資料12〉,11の5,12の13,13の23)
⑵  承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反の有無について
ア 取締役は,善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う(会社法330条,民法644条)とともに,法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し,株式会社のために忠実にその職務を行わなければならず(会社法355条),これらの義務を怠ったときは,会社に対して,当該義務違反により生じた損害を賠償する責任を負う(同法423条1項)。
会社の抱える損失の財務諸表への計上を回避するため当該会社から損失を分離するスキームを実行し,その状態を維持することは,それ自体,適正に処理すべき会社の決算を困難にさせ,財務諸表の虚偽記載を発生させる原因になるとともに,その実行に伴って本来支払う必要のない負担を会社に生じさせ得るものであるから,取締役が,自ら損失分離スキームの構築・維持を行うことが善管注意義務及び忠実義務に違反するものであることはもちろん,損失分離スキームの構築・維持が行われていることを知り,又は知り得たにもかかわらず,これを中止ないし是正させることを怠ることも,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものというべきである。
イ 承継前一審被告A1について
(ア) 前記⑴の認定事実によれば,一審原告会社は,LGT銀行等を介した損失分離スキームを構築する以前から,証券会社に対して決算期末に買戻しの特約を付して損失を抱えた金融商品を売却する(いわゆる「飛ばし」行為)などの損失計上回避策を行っていたところ,それらの措置は,承継前一審被告A1が,積極的な証券投資等を行った結果生じた一審原告会社の損失を決算において公表しないこととする旨の判断を下し,経理部財務グループに指示するなどして実施したものであること,承継前一審被告A1は,LGT銀行を介した損失分離スキームが構築された平成10年頃には,既に一審原告会社の社長を退任して会長となっていたものの,概ね半期に一度の割合で,一審被告A3らから一審原告会社の抱える簿外の損失の額やその対策等について報告を受けていたこと,承継前一審被告A1は,平成12年1月,一審被告A3らがLGT銀行の設定するファンドであるLGT-GIMを購入したり事業投資ファンドであるGCNVVを組成したりするに当たり,一審被告A3から,その時点における一審原告会社の簿外の損失の状況や,上記ファンドの購入及び事業投資ファンドの設定を損失分離スキームに利用する旨の説明を受けたことが認められるから,これらの事情によれば,承継前一審被告A1は,一審原告会社が損失の財務諸表への計上を回避するために損失分離スキームを構築し,これを維持していることを知っていたと認められる。
しかるに,承継前一審被告A1は,一審原告会社の簿外の損失を公表する機会があったにもかかわらずこれを公表することをせず,取締役を退任する平成16年6月29日までの間,前記損失分離スキームの構築・維持について,中止ないし是正させるための措置を何ら講じていなかったのであるから,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,一審原告会社に対する任務懈怠の責任を負う。
(イ) これに対し,一審被告A6らは,承継前一審被告A1が一審原告会社の含み損の状況について説明を受けた記憶はなく,損失分離スキームの構築について了承したこともない旨主張するが,証拠(甲Aキ7,乙D1,2,4,原審における一審被告A3本人,原審における一審被告A4本人)に照らし,採用することができない。一審被告A6らは,承継前一審被告A1の供述調書が検察官による相当な誘導によって作成されたと考えられる旨主張するが,これを的確に裏付ける証拠はなく,採用できない。
また,一審被告A6らは,大規模な事業会社の役員は,下部組織等から上がってくる報告に明らかな不備不足があり,これに依拠することにちゅうちょを覚えるというような特段の事情がない限り,その報告を基に調査・確認すれば注意義務を果たしたことになるなどとも主張する。しかしながら,前記⑴の認定事実記載のとおり,承継前一審被告A1は,一審原告会社において発生した損失を決算において公表しない旨の決断を下し,当該損失の財務諸表への計上を回避するための措置を自ら指示して実行させていたのであって,単に下部組織等から上がってくる報告に基づいて対応策を了承・是認していたにとどまるものではない。一審被告A6らの上記主張はその前提を異にするものであって,採用できない。
ウ 一審被告A2について
(ア) 前記⑴の認定事実によれば,一審被告A2は,平成2年頃以降,概ね半期に一度の割合で,一審被告A3らから,一審原告会社の抱える簿外の損失の額やその対策等について報告を受けていたこと,一審被告A2は,一審被告A3らにおいて,CFC・QPの設立,LGT銀行を介した損失分離スキームの構築,コメルツ銀行を介した損失分離スキームの構築及びGCNVVを介した損失分離スキームの構築等,新たな損失分離スキームの方策を策定する際には,その都度一審被告A3らからその旨の報告を受けてこれを了承していたことが認められるから,一審被告A2は,当初から損失分離スキームの構築・維持を知っていたというべきである。
(イ) これに対し,一審被告A2は,①平成10年3月23日付けLGT銀行の有価証券取引口座の開設書類(甲Aキ8の3〈添付資料1-1〉)には,一審原告会社の代表者である一審被告A2の署名があるが,同日付けの担保権設定契約書の担保権設定者欄には一審被告A2の署名がなく,一審被告A3が署名したものであること(甲Aイ1)などからすると,担保権設定契約は,一審被告A3が社内の決裁手続を意図的に回避して行ったものであって,一審被告A2が一審被告A3から担保権設定契約書の内容を知らされていなかったことを強くうかがわせるものである,②「130PB期運用計画」(乙B44)及び「130PB決算速報」(乙B45)が「表の書面」,「135PB運用報告」(甲Aイ8の1)が「裏の書面」であるとの原判決の認定には誤りがあり,一審被告A2に対する説明内容は,「130PB期運用計画」及び「130PB決算速報」の記載内容にとどまっていたものである,③一審被告A2の捜査段階の供述調書中には,損失の分離を知っていたかのような供述があるが,仮に一審被告A2がこれを知覚・認識する機会が存在していたとしても,あくまで特金に含まれ又は含まれていた金融商品の含み損解消の過程で生じた一事象であると理解した可能性も十分あり得るなどとして,一審被告A2が当初から損失分離スキームの構築・維持を認識していたとはいえないと主張する。
しかしながら,上記①については,平成10年3月23日付け一審原告会社とLGT銀行との間の包括的な担保権設定契約書に一審被告A3が署名したことについては,LGT銀行の一審原告会社名義の預金口座の署名権者として一審被告A3,C及び一審被告A4が登録されていたことによるものであると考えられること(甲Aキ8の3[3頁],12の3[14頁]),一審被告A2が平成15年7月14日に融資の延長に伴い作成された一審原告会社とLGT銀行との間の包括的な担保権設定契約書及び宣誓書に自ら署名した際に基本となる包括的な担保権設定契約について問題視した形跡もないことからすると,平成10年3月23日付け一審原告会社とLGT銀行との間の包括的な担保権設定契約書に一審被告A3が署名し,一審被告A2が署名していないことをもって,一審被告A2がその事情を知らなかったものと認めることはできない。
上記②については,一審原告会社内部においては,例えば,第135期事業年度の後半については,巨額の含み損の記載のない「135PB金融資産運用損益報告」(甲Aイ30)と,巨額の含み損の記載のある「135PB運用報告」(甲Aイ8の1)の両方が作成されていたと認められるところ,これは,原審において証人Tが,同一事業年度の資料として,含み損の実態を反映したものと含み損の実態を反映していないものの2種類の資料が作成されていた旨証言しているところと合致するものであって,同証言は信用することができるというべきである。そして,一審被告A2は,「135PB運用報告」の名宛人となっているとおり,巨額の含み損の記載のある資料をもって,一審被告A3らから一審原告会社の抱える簿外の損失の額やその対策等について,定期的に説明を受けたものと認められることからすると,一審被告A2が損失隠しの事実を知ったのは平成14年ないし15年頃であるとの一審被告A2の主張は不自然・不合理であり,一審被告A2の認識の内容が巨額の含み損の記載のない「130PB期運用計画」及び「130PB決算速報」の記載内容にとどまっていたものとは認められない。
上記③については,一審被告A2の主張自体,「可能性も十分あり得る」というものであって,一審被告A2の当時の具体的な認識を主張するものではない上,一審被告A2は,上記のとおり,一審被告A3らから,一審原告会社の抱える簿外の損失の額やその対策等について報告を受け,損失分離スキームの構築等の際には,その都度報告を受けてこれを了承していたことが認められるから,一審被告A2の損失の分離に関する認識が,一時的な限定的な事象に関するものであったとは到底認められない。
また,一審被告A2は,同人の供述調書は長時間の取調べを受ける中で,検察官から決められたストーリーを執拗に押しつけられたものであるなどとも主張するが,これを的確に裏付ける証拠はなく(一審被告A2の作成に係る地検メモ(乙B65~74)にもこれを直接裏付ける記載はない。),採用することができない。
一審被告A2の上記主張は,採用できない。
(ウ) 以上によれば,一審被告A2は,当初から損失分離スキームの構築・維持を知っていた上,自ら指示し又は一審被告A3らの提案を了承して損失分離スキームの構築・維持を行い,平成17年6月29日に取締役を退任するまでの間,それを中止ないし是正する措置を講じることもなかったものというべきであり,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,一審原告会社に対する任務懈怠の責任を免れない。
エ 一審被告A5について
(ア) 前記⑴の認定事実によれば,一審被告A5は,GCNVVを介した損失分離スキームを構築するに際し,平成12年1月28日に開催された取締役会に先立ち,一審被告A3及び一審被告A4から,一審原告会社が抱える簿外の損失の状況やLGT銀行のファンドの購入及び事業投資ファンドの設定を損失分離スキームに利用することなどの説明を受けていることが認められるから,遅くともこの時点までには,一審原告会社が損失の財務諸表への計上を回避するために損失分離スキームを構築及び維持していることを知ったものというべきである。
それにもかかわらず,一審被告A5は,一審原告会社の簿外の損失を公表する機会がありながらもこれを公表することをせず,前記損失分離スキームの構築についてこれを中止ないし是正させるための措置を何ら講じておらず,かえって平成12年1月28日に開催された取締役会において,一審被告A3とともに投資の必要性や事業投資ファンド設立の目的を説明したことなどが認められるから,損失分離スキームの構築・維持を積極的に容認したといえ,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,一審原告会社に対する任務懈怠の責任を負う。
(イ) これに対し,一審被告A5は,含み損の存在について報告を受けこれを了承したのは,自らが代表取締役に就任した平成13年6月28日より後のことである旨を主張するが,前記認定に照らし採用できない。
オ 一審被告A3について
前記⑴の認定事実によれば,一審被告A3は,一審被告A2の指示ないし了承の下,一審原告会社の外部の者であるNやOの協力・助言を受けるなどして,LGT銀行,コメルツ銀行及びGCNVV等を介した損失分離スキームを構築するための実務作業を担い,その構築後には,損失分離スキームを維持するため,上記両名に受け皿ファンド等の運営を任せて本件金利を支払うなどしていたことが認められるから,自ら損失分離スキームの構築・維持を行ったということができる。
それにもかかわらず,一審被告A3は,取締役に就任した平成15年6月27日以降,取締役として,自ら構築した損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じていないことが認められるから,善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,一審原告会社に対して任務懈怠の責任を負う。
カ 一審被告A4について
(ア) 前記⑴の認定事実によれば,一審被告A4は,一審被告A2の指示ないし了承の下,一審被告A3とともに,NやOの協力・助言を受けるなどして,LGT銀行,コメルツ銀行及びGCNVV等を介した損失分離スキーム構築の実務作業を担い,その構築後には,損失分離スキームを維持するため,上記両名に受け皿ファンド等の運営を任せて本件金利を支払うなどしていたことが認められるから,自ら損失分離スキームの構築・維持を行ったということができる。
それにもかかわらず,一審被告A4は,取締役に就任した平成18年6月29日以降,取締役として,自ら構築した損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じていないことが認められるから,善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,一審原告会社に対して任務懈怠の責任を負う。
(イ) これに対し,一審被告A4は,一審原告会社が損失分離スキームの構築・維持の発生根拠と主張する行為はいずれも一審被告A4が取締役に就任する以前のものであるから,取締役としての責任を負わない旨を主張する。
前記⑴の認定事実によれば,一審被告A4は,一審原告会社の役員ではなく従業員として,一審被告A3とともに,外部の者の協力・助言を受けるなどして損失分離スキームの具体的な方策を検討し,その構築・維持に関与したものであるが,一審被告A4は,そのこと自体を理由として責任を問われているものではなく,そのような損失分離スキームの構築・維持に深く関与した一審被告A4が,平成18年6月29日に取締役に就任した以降,自ら構築した損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を講じなかったことをもって善管注意義務及び忠実義務違反があると判断されるものであるから,一審被告A4の上記主張は採用できない。
⑶  損害の発生の有無について
ア 前記⑴の認定事実によれば,CFCが,LGT銀行に対し,利息等の名目で,合計22億8622万0276円を支払ったことが認められる。また,Easterside は一審原告会社の預金を担保としてSG銀行から約550億円の融資を受けたこと,SG銀行の Easterside に対する貸付けの利率は,別紙11の「②Easterside に対する貸付けの利率」に記載されたとおりであることが認められるから,Easterside は,SG銀行に対して,当該利率に従った利息を支払ったものと推認される。なお,一審原告会社は,Hillmore が,コメルツ銀行に対し,少なくとも借入金(期首預金残高150億0001万2778円)に対する平成13年4月1日から平成14年3月31日までの間の金利として,600万0051円(年0.40%)を支払ったと主張するが,上記期間は,資金調達先をコメルツ銀行からSG銀行に移行させた時期と重なり,上記期間における Hillmore のコメルツ銀行に対する借入金残高の推移も本件証拠上は明らかではないから,Hillmore がコメルツ銀行に支払った金利の額も明確になってはいない。
次に,前記⑴の認定事実によれば,SGボンドが,別紙12の「①SGボンド運用手数料等」記載のとおりの運用手数料等合計6億7656万1796円を支払ったこと,Neoが,別紙12の「②Neoから支払われた報酬」記載のとおりの報酬合計12億8768万5775円を支払ったこと,GCNVVが,別紙12の「③GCNVVから支払われた報酬」記載のとおりの報酬合計41億3095万3226円を支払ったことが認められる。さらにLGT-GIMは,その資産を運用することに伴い,同資産からLGT銀行に対し,各年末の総資産価値の1.5パーセントに相当するファンド運用手数料を支払う約定となっていたことが認められるから,LGT-GIMは,前記⑴の認定事実キ(ウ)記載の各年末の総資産価値に1.5パーセントを乗じたファンド運用手数料を支払ったことが推認される。
イ 主位的主張(法人格否認の法理の適用)について
(ア) 一審原告会社は,本件金利及び本件ファンド運用手数料等が,承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反による一審原告会社の損害である(ただし,責任を負う範囲は,一審被告A3については平成15年7月以降,一審被告A4については平成18年7月以降に限られる。)とし,信義則上,受け皿ファンド等のうち本件ファンド運用手数料等の支払主体となったCFC,Hillmore,Easterside,LGT-GIM,SGボンド,GCNVV及びNeoの法人格を否認して,受け皿ファンド等が支払った本件金利及び本件ファンド運用手数料等は一審原告会社が支払ったものと評価すべきであると主張する。
一審原告会社は,損失を分離するために利用した受け皿ファンド等が負担した本件金利及び本件ファンド運用手数料等を,信義則上,自らが負担したものと同視し,一審原告会社に生じた損害と評価すべきであるとして,法人格否認の法理の適用を主張するが,そもそも,法人格否認の法理は,法人格が全く形骸にすぎない場合又はそれが法律の適用を回避するために濫用される場合に,権利の濫用又は信義則の法理を具体化して,法人格の背後にある者の責任を追及するための法理であって,法人格の背後にある一審原告会社が,自らが被ったとする損害を主張するために法人格否認の法理を援用することは相当ではないというべきである。
(イ) また,この点を措くとしても,本件において,損失分離スキームの構築・維持に利用した受け皿ファンド等は,多数に及び,その法形態も多様であり,本件全証拠によるも,一審原告会社と実質的同一性があると認めるには十分でない。
すなわち,①CFCは,平成8年1月25日頃,一審原告会社が保有する含み損のある金融商品について一時的に連結決算の対象から外すために行われるいわゆる「飛ばし」行為の受け皿として設立されたSPC(特別目的会社)であり,管理者(Administrator)は,Nらが経営する Genesis Global Securities Inc.(後に GENESIS ASSET MANAGEMENT INC.)で,一審被告A3,一審被告A4及びCはCFCの役員であったこと,一審原告会社及びOAMは,CFCに一審原告会社が保有する含み損のある資産等を引き受けさせるため,平成10年3月23日,一審原告会社及びOAMの名義の各預金口座内の資産全てについて,CFCのために担保権を設定する旨の契約を締結し,同月以降,LGT銀行は,これを担保としてCFCに対し,合計300億円を貸し付けたこと,その後,CFCは,本件国内3社の株式取得に関する資金の移動により得た資金でLGT銀行に対する約300億円の借入金を返済するなどした(別紙8,16)後,平成22年9月30日頃,解散したことが認められる(甲Aキ3の16)。
②Hillmore は,一審原告会社がコメルツ銀行に預けた預金を担保にして融資を受けるための役割を果たしていたSPC(特別目的会社)であり,平成11年10月7日頃,SG銀行を退職して独立したQによって設立されたものであること,平成12年頃,コメルツ銀行からSG銀行に預金を移動させたことを契機に,銀行からの資金の受け皿となるファンドは Hillmore から Easterside に切り替えられたことが認められる(甲Aキ3の16)。
③Easterside は,平成12年頃以降,上記 Hillmore に代わって一審原告会社がSG銀行に預けた預金を担保として融資を受けたり,SGボンドから債券を借りてその資金を21Cに移動させる役割を果たしていたSPC(特別目的会社)であり,これを設立したのはQ又はその関係者であったこと,平成22年4月までに,SGボンドから借りていた約600億円の債券を返済したこと,その後,TはQに対し Eastersideを閉鎖(解散)するよう指示したことが認められる(甲Aキ3の16)。
④LGT-GIMは,LGT銀行グループが組成し管理していたクラスファンドであり,一審原告会社及びOAMは,平成12年3月中旬頃,LGT銀行に開設したLGT-GIMの投資口座に合計350億円を出資したこと,LGT-GIMの形式上の運用者はLGT銀行であったが,実質的にはアドバイザーとしてOらが経営するグローバルカンパニーが運用者になっていたこと,LGT-GIMは,平成12年3月中旬頃,出資を受けた350億円のうち310億円を受け皿ファンド等であるTEAOに貸し付けていたが,TEAOから本件国内3社の株式取得に関する資金の移動により得た資金で同額が返済されるなどした(別紙8,16)後,平成20年10月頃,契約を解約したことが認められる(甲Aキ3の10,3の16)。
⑤SGボンドは,平成16年10月25日頃,Qが組成し登記した免税リミテッド・パートナーシップ(Exempted Limited Partnership)であり,投資マネージャーはQが経営する STRATEGIC GROWTH Asset MANAGEMENT であったこと,一審原告会社は,SGボンドに対し,平成17年2月4日100億円,同月15日50億円,同月17日200億円,同月18日100億円,同月22日150億円(合計600億円)をそれぞれ出資したこと,SGボンドは一審原告会社から出資を受けた資金で債券を購入し,Easterside において,当該債券を借り受けて売却により資金化し,SG銀行に対して借入金を返済したが,SGボンドは資金を移動させる役割を果たしたこと,平成23年3月3日までに一審原告会社は出資金の全額を払い戻し,同年9月1日頃,解散したことが認められる(甲Aキ3の8,3の16,13の17)。
⑥GCNVVは,平成12年3月1日頃,一審原告会社が,O,R及びSの協力を得て,新事業創出のために事業投資することを名目として設立した事業投資ファンドであり,同ファンドは,出資名目で同ファンドに拠出された資金をQP等に環流させて「特金」や包括信託を解消することを企図して設立されたものであること,GCNVVは,ジェネラルパートナーがOらが設立し経営する GCI Cayman,リミテッドパートナーが一審原告会社及びGVであったこと,一審原告会社は,GCNVVの設立に際して,自らの出資分300億円及び一審原告会社が実質的に管理するファンドであるGVによる出資分50億円の合計350億円を現実に出資し,GCI Cayman が1億円を出資したこと(ただし,上記1億円の出資は報酬等と相殺された。),GCNVVは,平成19年9月頃には契約を終了し,同年11月7日頃,解散したことが認められる(甲Aキ3の9)。
⑦Neoは,平成12年3月15日頃,組成されて登記されたファンドであり,Oらが設立し経営する GCI Cayman がそのジェネラル・パートナーとなっていたこと,Neoの設立に際し,一審被告A3,一審被告A4及びCは,Oらと相談の上,LGT-GIMに出資した350億円のうち,310億円を受け皿ファンド等であるTEAOに貸し付けてNeoの出資金の原資とすることとなり,TEAOが300億円を出資したほか,GCI Cayman が1000万円を出資したこと,Neoは,本件国内3社の株式取得に関する資金の移動により得た資金をTEAOやQP等に移動させた(別紙8,16)後,平成20年9月18日頃,解散したことが認められる(甲Aキ3の10,3の16)。
(ウ) 以上のとおり,LGT-GIM,SGボンド及びGCNVVは直接一審原告会社ないしOAMが出資していること,NeoはLGT-GIM及びTEAOを介して間接的には一審原告会社の資金により出資が行われていることが認められるものの,GCNVVに対しては,一審原告会社のほかにGV及び GCI Cayman が出資しており,Neoに対しては,TEAOのほかに GCI Cayman が出資しているものであって,受け皿ファンド等の中には,一審原告会社以外の他の出資者が存在するものもあり,その出資の程度,割合も異なっていることなどが認められる。また,受け皿ファンド等の中には,一審原告会社がその組成・設立や解散に関与していたことがうかがわれるものがある一方で,一審原告会社以外の第三者が組成・設立したものもあり,その管理,運営についても,第三者に管理,運営が委ねられていたとうかがわれるものもあって,受け皿ファンド等の運営,管理の実態や財務状況や収支等も明らかではない。このような状況のもとにおいては,一審原告会社と受け皿ファンド等との間に一体性があると評価することは困難である。一審原告会社が平成23年12月14日提出の有価証券報告書の訂正報告書(甲Aカ1の1~5,3の1~5,18の1・2)において受け皿ファンド等の一部を連結決算の対象としたとしても,連結決算は,経済的一体性を有する連結グループ内の財政状況やキャッシュフロー等を投資家や株主等に総合的に報告するためにされたものであって,これによって,法人格が形骸化等していると評価できるような一体性があるとはいえず,上記判断が左右されるものではない。証券取引等監視委員会事務局証券取引特別調査官作成の調査官報告書(甲Aイ24)も同様であり,同報告書は,受け皿ファンド等が連結財務諸表原則等の定める基準における連結の範囲に含まれるかを検討したものであって,法人格の形骸化等とは異なる観点からの検討であり,同様に上記判断を左右するものではない。
また,もともと,各受け皿ファンド等は,損失分離スキームの維持等において,一審原告会社から経済的に独立した主体として存在して一審原告会社が保有する金融資産の巨額の含み損を簿外処理する目的を果たしていたものである。
このように,受け皿ファンド等の一審原告会社との実質的な同一性を認めるのは困難であるというべきである。
一審原告会社が指摘する前掲最高裁平成5年9月9日判決も,完全子会社(親会社がすべての発行済み株式を有する子会社)が保有する親会社の株式を親会社の指示により売却した場合における完全子会社の損害について判示したものであって,一審原告会社以外の出資者があり,一審原告会社の出資の割合や程度も異なる受け皿ファンド等を親会社と完全子会社との関係と同視することはできない。また,前掲最高裁昭和57年3月30日判決等も実際の出捐者に預金債権が帰属する旨を判示したものであって,本件で問題となるような損害の認定について判示したものではない。
(エ) 以上によれば,受け皿ファンド等が支払った本件金利及び本件ファンド運用手数料等が一審原告会社の損害と評価することは困難であり,一審原告会社の上記主位的主張は,採用できない。
ウ 予備的主張(一審原告会社の預金債権等又は出資債権の価値毀損による損害の発生)について
(ア) 一審原告会社は,本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払によって,一審原告会社の預金債権又は出資債権の価値が毀損されたことが一審原告会社の損害であるとし,受け皿ファンド等が本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払った時点において,一審原告会社に損害が発生し,その後の受け皿ファンド等の資産状態の変動又は変動の可能性によっては損害の発生は否定されない,受け皿ファンド等が本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払った後の受け皿ファンド等の資産状態の変動は,損害の填補の問題であるなどと主張する。
しかしながら,そもそも,一審原告会社は,受け皿ファンド等が本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払ったことで,銀行等から預金債権又は出資債権の価値が減少したとして,新たな担保提供や更なる出資等を求められたことなどなく,また,金利やファンド運用手数料等の支払が遅滞するなどして,問題になったことなどもないから,現実に価値の減少が生じたものとはいえず,損害の発生は認められない。
加えて,一審原告会社は,承継前一審被告A1,一審被告A2,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の損失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反による損害の賠償を求めているところ,一審原告会社の主張する損失分離スキームは,前記⑴に認定のとおり,平成10年頃から構築され,平成23年頃に至ってようやく解消したものであって,LGT銀行,コメルツ銀行等及びGCNVVを介した3つのルートがあり,それに関わる受け皿ファンド等も多数存在し,その間には,出資,債券の購入,債券の貸借等を介した複雑な資金の移動等がされるとともに,その中には,一審原告会社の正当な経済活動という側面があることが否定できない取引等も含まれている。このような長期間にわたり,相互に関連を有する経済活動が継続され,しかも,預金の金利をはじめ,ファンドの運用利益等の収益もありながら,各受け皿ファンド等の財務状況や収支等の全体は明らかではない状況のもとで,過去の一時点における本件金利又は本件ファンド運用手数料等の支払のみをもって損害が発生したと捉えることは相当ではない。一審原告会社は,ファンド等の運用利益が発生したとしても,損害の填補の問題にすぎないと主張するが,上記のとおり,そもそも損害の発生が認められないのであるから,損害の填補の問題とはいえない。
(イ) 一審原告会社は,受け皿ファンド等を全体としてみて債務超過の状態にあれば,預金債権の価値が毀損したと評価すべきである,各受け皿ファンド等の多くは,本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払った各時点において債務超過状態にあったと主張する。
しかしながら,本件証拠上,各受け皿ファンド等の財務状況や収支等の全体が明らかになっているわけではなく,各受け皿ファンド等について,本件金利又は本件ファンド運用手数料等を支払った各時点において債務超過状態にあったといえるかは不明であるといわざるを得ない。
(ウ) 一審原告会社は,少なくとも平成15年以降,各受け皿ファンド等に新たに注入された資金は,一審原告会社から損失分離スキームの解消のために注入されたものであって,各受け皿ファンド等において保有資産の運用等による収益が発生している事実はないと主張する。
しかしながら,上記のとおり,預金債権等又は出資債権が存続する期間中における受け皿ファンド等の資産や収支の増減についても考慮することなく,過去の一時点における本件金利又は本件ファンド運用手数料等の支払のみをもって損害が発生したと捉えるのは相当ではない。そして,本件証拠上,各受け皿ファンド等において多額の資金が注入されることによって保有資産の運用等による収益の発生があったことはうかがわれるものの,その時期や額等も不明といわざるを得ず,結局,各受け皿ファンド等の財務状況や収支等の全体が明らかになっているわけではないから,本件金利又は本件ファンド運用手数料等の支払のみをもって直ちに預金債権等又は出資債権の価値毀損による損害が発生したと認めることはできない。
(エ) 一審原告会社は,各受け皿ファンド等に「国内3社・ジャイラス代金1229億円」を支払う直前の時点において各受け皿ファンド等には返済能力や返還能力がなく,その時点でそれまで蓄積されていた本件金利又は本件ファンド運用手数料等の支払による預金債権等の価値の毀損が最終的に現実化し,損害が発生したと評価できると主張する。
しかしながら,そもそも,本件国内3社及びジャイラスの買収は,平成19年11月から平成20年3月頃にされたものであるところ,それ以前に発生した本件金利及び本件ファンド運用手数料等も相当額に上るが,それらは何らの問題もなく支払がされ,預金債権等の価値の毀損も発生したとはいえないことはもとより,その後において預金債権等の価値の毀損が現実化することもない。そして,前記のとおり,そもそも,本件証拠上,各受け皿ファンド等の財務状況や収支等の全体が明らかになっているわけではなく,一審原告会社が主張する時点において各受け皿ファンド等の返済能力や返還能力がなかったといえるかは不明であるといわざるを得ない。本件において,一審原告会社が主張する時点において預金債権等又は出資債権の価値毀損が現実化したものと認めることはできない。
(オ) 一審原告会社は,GCNVVについては,出資額と償還額を比較すると259億円目減りしていたから,少なくとも本件ファンド運用手数料等分の出資金23億4564万0681円については同額の損害が発生したといえると主張する。
しかしながら,上記の259億円の目減り分と本件ファンド運用手数料等の支払との関連性は不明である上,上記のとおり,本件証拠上,各受け皿ファンド等の財務状況や収支等の全体が明らかになっているわけではないから,仮にGCNVVについて出資額と償還額とを比較して259億円の目減りが生じていたとしても,直ちに損失分離スキームの構築・維持に係る取締役らの善管注意義務違反と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。
(カ) 以上によれば,本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払によって,一審原告会社の預金債権又は出資債権の価値が毀損されたことが損害である旨の予備的主張も,採用できない。
⑷  小括
以上の次第であって,第1類型について,一審原告会社の主張する損害の発生は認められないから,その余の点について判断するまでもなく,一審原告会社の第1類型に係る請求は理由がない。
2  第5類型(疑惑発覚後の対応関係)及び第2事件について
⑴  認定事実(B解任を巡る事実関係)
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
ア 本件国内3社の株式の取得及びジャイラス買収について
前記1⑴のケ及びコのとおり,一審原告会社において,本件国内3社の株式を取得し,ジャイラスを買収しこれに伴ってAXES及びAXAMに対しFA報酬を支払い,FA報酬として付与されたワラント購入権及び配当優先株を買い取るなどした。
イ Bの代表取締役就任等
Bは,一審被告A5が主導して,平成23年4月1日付けで一審原告会社の社長執行役員に就任し,同年6月29日に代表取締役及び社長執行役員・COOに就任した(甲B11の1,原審における一審被告A5,弁論の全趣旨)。
ウ FACTAの記事
FACTA8月号(平成23年7月20日発行)に,「オリンパス『無謀M&A』巨額損失の怪」と題する本件記事1が掲載された。本件記事1には,①一審原告会社が平成20年3月期に合計約700億円で買収した本件国内3社について,素人目にも極めて不自然な利益計画であり,まともな投資とはいえないこと,②ジャイラスの買収に関して,ジャイラスが2700億円も出して買う会社ではなく,さらに,そののれん代を一括償却すれば連結自己資本がほとんど吹き飛んで一審原告会社の屋台骨が大きく傾くこと,③一審原告会社のM&Aが不明朗で,貸借対照表に計上されていない損失があるのではないかとアナリストが疑いの目を向けていること,④一連のM&Aで社外に流出した巨額の資金の流れも闇に閉ざされていることなどが記載されていた。(甲Aオ1)
(イ) FACTA10月号(平成23年9月20日発行)に,「オリンパスの『尻尾』はJブリッジ 巨額M&Aの闇を暴く調査報道第2弾。問題子会社の事業計画書に,あっと驚くファンドの名。」と題する本件記事2が掲載された。本件記事2には,①一審原告会社が平成20年に本件国内3社を子会社化した際に株式を買い取ったのはNeo及びDDであること,②DDを立ち上げた投資ファンドはJブリッジから52パーセントの出資を受けた子会社であること,③Jブリッジは反社会的勢力との関係が疑われて資本市場で爪弾きされる企業であること,④本件国内3社の買収により総額350億円前後の資金がファンドに渡ったことになること,⑤Jブリッジに巨額の資金が流れた疑いが出ていることについて,一審原告会社の広報・IR室は黙りを決め込んでいることなどが記載されていた。(甲Aオ2)
エ Bによる本件各レターの送付とこれに対する一審被告A4の回答等
(ア) Bは,本件各記事がFACTAに掲載されたことを受けて,平成23年9月24日午前2時31分,一審被告A4に対し,同月23日付け本件レターⅠを電子メールで送付した。
本件レターⅠは,表題として「当社のM&A(合併・買収)活動に関する深刻なガバナンスの問題」と記載され,本文部分には,本件記事1のコンテンツに対し深い疑念を抱いていたが,本件記事2は不安を一層高めるものであること,自分には一審原告会社の社長として全ての関連問題を理解する責任があること,本件各記事に記載されている懸念に加え,一審原告会社のM&A活動に関する他の分野で何が実際に起こったのかや,それに伴うリスクを理解するために,説明を希望する分野が数多くあること,具体的には,本件国内3社の買収に係る取引の詳細やジャイラス買収に係る取引の詳細等について説明を希望することなどが記載されており,末尾には,取締役会役員各自は,一審原告会社の活動に対する法的責任を共有しており,電子メールのカーボン・コピー(以下「CC」という。)に記載されていない社外役員,監査役及び新日本有限責任監査法人のシニア・パートナーにも本件レターⅠのコピーが確実に送られるように手配してほしい旨が記載されていた。
(甲B17の1・2)
(イ) 一審被告A4は,本件レターⅠを受領し,平成23年9月24日午前10時58分,Bに対し,本件レターⅠに対する回答の電子メールを送信した。同回答メールには,Bが本件レターⅠで指摘している点は,ほとんど,あずさ監査法人から新日本有限責任監査法人に会計監査人を変更する前に,監査役会とあずさ監査法人によって指摘されている事項であること,これについては,既に会計事務所,法律事務所,学術的な専門家からなる第三者によって構成された調査委員会を組織し,調査報告(平成21年第三者委員会報告書)を受けたこと,あずさ監査法人は,当該調査報告に基づき,第141期事業年度(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)の会計報告書を承認してサインしたこと,新日本有限責任監査法人もこの調査を認識した上で,一審原告会社の会計監査人を引き受けたこと,平成23年9月28日の会議でこの調査について説明することが記載されていた。(甲B28)
(ウ) Bは,上記回答メールを受領し,平成23年9月24日午後8時2分,一審被告A4に対し,同日付け本件レターⅡを送付した。本件レターⅡには,一審被告A4からの回答が不十分であること,自分が提起した各問題に対して十分な回答が得られない場合,著名な会社の独立会計士を入れて,様々な取引の調査を行い,一審原告会社取締役会に正式に報告書を提出することを主張すること,自分が懸念している事柄の1つがジャイラスの買収に関して外部のアドバイザーに6億ドルを支払った理由であること,要求している回答が書面によって得られるまで(自分が一審被告A4から詳細な報告書を受領するまで),訪日を延期し,それに合わせてスケジュールを変更することなどが記載されていた。(甲B18の1・2)
(エ) 一審被告A4は,本件レターⅡを受領し,平成23年9月25日午後5時8分,Bに対し,本件レターⅡに対する回答の電子メールを送信した。同回答メールには,Bの質問に対する回答のほとんどは平成21年第三者委員会報告書や過去の取締役会の提案書にあること,同月28日のBとの会議までにはほとんどの資料を提供できると確信しているが,その翻訳にどれほど時間がかかるか明言できないことなどが記載されていた。(甲B29)
(オ) Bは,上記回答メールを受領し,平成23年9月26日午前5時25分,一審被告A4に対し,同月25日付け本件レターⅢを送付した。本件レターⅢには,懸念事項は取引の合法性であり,取締役会がその取引を承認したか否かではないこと,もっとも,ジャイラス買収に関する取締役会の出席者が,①AXAM側にいる個人宛てに支払われた金額とその個人の氏名,②優先株の発行が「関連当事者取引」か否かを決定できるだけの十分な開示がされなかったため,あずさ監査法人と新日本有限責任監査法人がジャイラスグループの決算を承認した事実について知っていたかを確認してほしいことが記載されており,これに加えて,当該取締役会に提出された資料のコピーと議事録の送付,及び本件レターⅠの質問事項のうち,本件国内3社及びジャイラス買収に関する質問に対し直ちに回答することを要望する旨が記載されていた。(甲B19の1・2)
(カ) 一審被告A4は,本件レターⅢを受領し,平成23年9月26日午後9時14分,Bに対し,本件レターⅢに対する回答の電子メールを送信した。同回答メールには,自分らが資料を集め,翻訳する作業を続けているが,関係資料(特に,平成21年第三者委員会報告書)の量が多いため,明日中に回答及び根拠書類を送付できると明確には言えないこと,明日,再度進捗状況を報告すること,本件レターⅠ~Ⅲを一審被告A14や新日本有限責任監査法人のパートナー等に送付する手配をしたことが記載されていた。(甲B30の1~3)
(キ) Bは,上記回答メールを受領し,平成23年9月27日午前1時40分,一審被告A5に対し,同月26日付け本件レターⅣを送付した。本件レターⅣには,本件各記事で取り上げられた問題と疑惑は最も深刻な類いのものであること,まずは本件レターⅠの本件国内3社及びジャイラスに関する質問に対する明確な回答を同月27日午後8時までにしていただきたく,その後,その他の質問に対する回答や第三者による調査報告その他の資料を送付してほしいこと,これらに対する納得できる回答がない限り日本には戻らないという自らのスタンスは,極めて適切なものであることなどが記載されていた。(甲B21の1・2)
(ク) さらに,Bは,平成23年9月27日午前9時13分,一審被告A5に対し,一審被告A4から,同月28日午後8時までに本件レターⅠの本件国内3社及びジャイラスに対する質問に対する回答ができる旨を伝えられて安心していること,これらが自分の心配を和らげるものであれば,同月29日に互いの顔を見ながら議論でき,同月30日の取締役会においても隠し立てすることなく議論できることを記載した電子メールを送信した(甲B22)。
(ケ) 一審被告A4は,平成23年9月27日午後7時50分,Bに対し,平成21年第三者委員会報告書の英訳及び本件国内3社への投資手続の説明を添付した上で,本件レターⅠの質問のうち,本件国内3社の株式取得に係る取引の詳細やジャイラス買収に係る取引の詳細等に関するものに対し,例えば,本件国内3社に対する投資はそれぞれ投資目標を持っており,一審原告会社の投資戦略と一致していたこと,それぞれの買収手続において,独立した会計事務所による評価等を参考にして交渉を行ったことなど,個別に,一通りの回答を記載した電子メールを送信した。また,一審被告A4は,同日午後7時57分,Bに対し,上記回答の添付資料として,井坂公認会計士事務所作成に係る本件国内3社それぞれの株主価値算定報告書の英訳を添付した電子メールを送信した。(甲B31の1~5,32の1~7)
(コ) Bは,平成23年9月28日午前4時17分,一審被告A4に対し,同月27日付け本件レターⅤを送付した。本件レターⅤには,一審被告A4からのメールの返信や資料の送付に礼を述べた後,さらに追加の書類として,①本件国内3社の買収に係るデューディリジェンス報告に関し,調査を行ったファンドマネージャーの報告書の写し,②一審原告会社の取締役会において第141期事業年度決算のために提示された関連書類,③本件国内3社の第144期事業年度の予算,4月から8月までの予算及び実績の資料,④ジャイラス優先株の価値を算定した際の計算基準及び計算過程の詳細を示した別表,⑤AXESとの間の本件FA契約書及び本件修正FA契約書の写し,⑥平成20年11月28日開催された一審原告会社の取締役会の議事録,特に優先株再購入についての会社の承認に関する文書を,同月28日午後3時30分までにメールで送付してほしいことが記載されており,これに加えて,自分が依然として,あらゆる点を考慮しても完全に過度と思われるAXESに対する6億ドル支払の理由や,本件国内3社買収の商業的な論理的根拠について大変懸念しており,同月29日に一審被告A5及び一審被告A4と面談し,9月30日取締役会において十分な話合いをしたいと考えていること,同年10月7日までには自分の考えをまとめて取締役会に正式に報告するつもりであることも記載されていた。(甲B23の1~6)
(サ) 一審被告A4は,本件レターⅤを受領し,平成23年9月28日午前8時55分,Bに対し,本件レターⅤに対する回答として,依頼された資料を収集しようとしており,本日午後3時30分までにメールで送付するが,要求された資料の英訳が間に合うかどうかは定かではない旨の記載のある電子メールを送信した(甲B33)。
(シ) 上記(ア)ないし(サ)の各電子メールは,いずれもCCとして,「aaa@bbb.co.jp」の宛先(メンバーは,一審被告A5,一審被告A3,一審被告A4,C,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A15,一審被告A16,D及びG)及びEに対し送信された(甲B17の1~3,18の1・2,19の1・2,21の1・2,22,23の1~6,28,29,30の1~3,31の1~5,32の1~7,33,乙M3)。
(ス) Bは,平成23年9月29日午前3時58分,「aaa@bbb.co.jp」の宛先及びEに対し,本件レターⅠ~Ⅴの日本語訳を添付した上で,自分と一審被告A5及び一審被告A4との間で一審原告会社のM&A活動に関するコーポレート・ガバナンス上の重大な懸念事項についてやり取りが交わされたこと,取締役会メンバー全員が内容を完全に理解できるよう,交信内容を日本語に翻訳したものを添付して送付すること,同日一審被告A5及び一審被告A4と面談し,同月30日開催される取締役会においてこの件を議論したいと考えていることなどを記載した電子メールを送信した。また,Bは,同月30日午前1時48分,上記宛先及びEに対し,上記電子メールに添付した本件レターⅤが判読不能となってしまったため,再度これを添付して送る旨を記載した電子メールを送信した。
これらの電子メールは,CCとして,K弁護士及び新日本有限責任監査法人にも送信された。
(甲B24の1~6,25の1・2)
オ 一審被告A5及び一審被告A4とBとの面談
この間,一審被告A5及び一審被告A4は,平成23年9月29日,一審原告会社の会議室において,Bと面談し,同人に対し,FACTAは無名のタブロイド誌であるから本件各記事には取り合う必要がないこと,Bの疑問に対しては一審被告A4が全て回答することなどを説明した。一審被告A5は,その話合いの中で,Bに対し,同人が映像事業のトップである一審被告A9に相談しないまま,中南米地域の映像販売子会社を独立させようとしたことを注意したところ,Bは激高し,自分が社長なのに従業員は一審被告A5の意見ばかり聞いて自分の言うことを聞かないなどと述べ,一審被告A5が退任するか,さもなければCEOの地位をBに移譲することを要求した。一審被告A5は,一審原告会社のCEOの地位が単なる肩書に過ぎず,それに付随する権限もなかったため,これをBに与えることとし,同人に対し,その旨を伝えるとともに,今後経営執行会議に出席しないことを約束した。(甲B11の1,原審における一審被告A5本人,原審における一審被告A4本人)
カ 9月30日取締役会の開催
一審原告会社の第1062回取締役会(9月30日取締役会)は,平成23年9月30日午前9時から,議長である一審被告A5のほか,B,一審被告A4,C,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14,一審被告A15,一審被告A16,D,E及びFの各取締役,並びに,一審被告A3,G,H及びIの各監査役が出席して開催された。同取締役会においては,一審被告A5が主導して,最初に,同年10月1日付けでBをCEOに任命すること(ただし,取締役会の議長は従前どおり一審被告A5が務める。),一審被告A5は,同日以降,経営執行会議のメンバーから外れ,同会議に出席しないことなどを提案し,全員異議なく承認可決された。
その後,Bは,発言の機会を得て,要旨,「私が懸念していることについて,私自身,A4さん,A5さんとの間で連絡を取り合っていました。その懸念というのは,部分的には『FACTA』誌の記事によるものであり,またイギリスのジャイラス社の会計を調べた時に感じたものでもあります。」,「昨日,会長とA4さんと私はしばらく話し合いました。非常に正直かつ率直な話合いでした。最終的に私たちは非常に建設的な理解に達したと思います。」,「ここで,話し合いの結果,個人的な利害関係や利益の証拠はないと断言できます。」,「もう一度言いますが,私たちは昨日議論しました。非常に単刀直入な議論をし,意思決定を行いました。私はこれらの取引の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないことを十分に確信できました。」,「社長として私は代表で公衆の前に出て,決算書に署名し,陳述書にも署名します。それが,私が例のメールのやり取りを行った理由です。(中略)メールの中にはこの会社内のどの役員も個人的な利益を得ていると私に思わせるような事実はなく,今は前向きに未来に目を向けるつもりであることをはっきり表明します。」などと発言した。
(甲Aオ3,乙M1,2)
キ PwC中間報告書の入手と本件レターⅥの送付等
(ア) Bは,外部の会計事務所であるPwCに対し,一審被告A4との電子メールのやり取りにより入手した資料を提供して調査を依頼していたところ,同事務所から,平成23年10月11日付けでPwC中間報告書の提出を受けた。同報告書は,ジャイラス買収に係る本件修正FA契約の報酬が,経験上,類似しているサービスと比較して,①買収取引の規模及び性質から鑑みて,買収総額の1パーセント程度を報酬として期待するのが通常であり,その6.25パーセントを報酬としているのは明らかに高いこと,②専門のアドバイザーは,通常,取得するビジネスの株式オプションやワラントといった形態で報酬をもらうことは期待しないこと,③専門のアドバイザーは,一旦アドバイザーとして指名されて以降,特に業務範囲が大きく変更されていないのに自分たちの都合のいいように報酬スキームを変更することは期待しないことといった理由から異常であり,本件修正FA契約に至る手続も,AXAMに対してどのような財務デューディリジェンスが実施されたか不明瞭であること,成功報酬の増額について外部からどのようなアドバイスがあったのか及びどのようにアドバイスに準拠したのかについて調査する必要があることなどの問題点があって,結論として,「現在までに実施したレビューに基づくと,我々は不適切な行為が行われたと確信することはできないが,支払われた総報酬金額と今までになされたいくつかの非通例的な意思決定を考慮すると,現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできないと考えられる。」,「オリンパス社にとって重要なのは,(中略)例えばマネーロンダリングのような広範囲に及ぶ規制違反があったかどうか,もしあったのであれば,どのようなアクションと矯正段階がとられるべきか,について十分な調査を行い,理解するために適切な段階を踏むことである。」などと記載し,更なる調査を推奨するものであった。また,本件国内3社の株式取得については,指示を受けた調査の対象外であったが,これらの取引に関する特定の事項について,調査の実施を推奨していた。
(甲B27の3・5)
(イ) Bは,一審被告A5に対し,平成23年10月11日付け本件レターⅥを送付した。本件レターⅥには,PwC中間報告書の一部が添付され,本件国内3社及びジャイラスの買収に関するBの検討内容が記載された上で,「PwCからの報告は関係者の行為を完全に糾弾したものであり,当社の役員を一新しない限りこの先前進していくことは不可能であることが,はっきりしました。」,「PwCの報告書に明らかな通り,非常に多くの悲惨な誤り,そして並外れてお粗末な判断力,これが重なってアルティス,ヒューマラボ,New Chefの買収は,13億米ドルというショッキングな額に上る株主への損失となりました。」,「会社の利益を優先し,名誉ある前途を歩むためには,いかなる局面から考慮しても恥ずべき事件であるこれまでの経過に対する結果に,あなたとA4さんが直面することが必要です。現状に至ってはもはや擁護できない事態であることが明白であり,これから前向きに進む上での対策として,あなた方両者が役員会から辞任することが必要です。」などと記載されていた。(甲B27の2・4,弁論の全趣旨)
(ウ) Bは,平成23年10月13日午前1時10分,「aaa@bbb.co.jp」の宛先及びE(CCとしてK弁護士)に対し,本件レターⅥ及びPwC中間報告書を添付した上で,これらに記載されている出来事は尋常ではなく,ここから前進を試みるためには当事者の責任が明確にされなければならないこと,「じっとして嵐が過ぎ去るのを待つ」という試みは論外であり,「都合の悪い事実を隠し通せるのでは」という態度は通用しないこと,取締役会メンバーの長期間にわたる個人的な忠誠心等が本件に関するロジックをゆがめることなく,対象となる個別案件の詳細を捉えてもらえることを願っていることなどを記載した電子メールを送信した(甲B27の1~5)。
ク 平成23年10月13日の打合せ
一審被告A3,一審被告A4,C,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13,一審被告A14及び一審被告A16は,平成23年10月13日,一審被告A5から招集を受け,K弁護士の所属する法律事務所に参集した。一審被告A5は,上記一審被告らに対し,Bは経営者としての資質に問題があるため10月14日取締役会で解職したい旨を告げ,それに引き続き,K弁護士がBを代表取締役から解職するための手続について説明したところ,上記一審被告らから異論が出ることはなく,また,9月30日取締役会においてBをCEOに任命したこととの整合性やBが指摘していた疑惑の存否等について説明を求める意見も出なかった。
(原審における一審被告A5本人,原審における一審被告A9本人,原審における一審被告A14本人)
ケ 10月14日取締役会の開催
一審原告会社の第1063回取締役会(10月14日取締役会)は,平成23年10月14日午前9時に開催され,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOのいずれからも即時解職し,業務執行権限のない取締役とすることが,(Bを除く)出席取締役全員の賛成により承認可決され,さらに,一審被告A5を社長執行役員・CEOに選定し,代表取締役会長兼社長執行役員・CEOとすることが承認可決された(甲Aオ4)。
コ その後の経緯
(ア) 一審原告会社は,平成23年10月14日,適時開示情報として,Bと他の経営陣との間で経営の方向性や手法に大きな乖離が生じ,経営の意思決定に支障を来す状況になったため,10月14日取締役会において,代表取締役及び社長執行役員であったBを解職すること(代表取締役及び社長執行役員のいずれからも解職し,業務執行権のない取締役とすること),及び,これに伴い代表取締役会長であった一審被告A5が社長執行役員を兼任することを決議したことを公表した(甲B4)。同日,一審原告会社の株価は,前日の終値2482円から約400円下落し,終値は2045円となった(甲B10〈資料3〉)。
(イ) 平成23年10月中旬,Bが海外でのM&Aを巡る一審原告会社内部の不透明な資金の流れについて調査を進めており,トップの立場から内部告発を行ったために解任に繋がったとの見方を示す記事が英紙フィナンシャル・タイムズ電子版等に掲載されたことを受け,市場での一審原告会社の企業統治への不信感が高まっている旨の記事が同月17日の日本経済新聞電子版に掲載された。同日,一審原告会社の株価は,前営業日の終値2045円から更に下落し,終値は1555円となった。また,同月18日には,Bが,複数の海外メディアに対し,過去の企業買収での不明朗な支出を追及したのが解職の理由だったと主張しており,新旧トップ同士の泥仕合が経営の混乱を拡大させることになりそうである旨の記事が読売新聞に掲載された。同日,一審原告会社の株価は,終値1417円となった。(甲B10〈資料3〉,37の8・13)
これらの報道を受けて,一審原告会社は,平成23年10月19日,「一連の報道に対する当社の見解について」と題する文書を公表し,Bの解職について一部報道機関において不正確又は誤解を招く内容が報道されているが,当該解職の理由は既に適時開示等で公表したとおりであり,本件国内3社及びジャイラス買収に不正・違法行為は認められないなどと説明した(甲B10〈資料2〉)。
(ウ) 上記のBの解職発表やその後の報道内容を踏まえて一審原告会社の株価が大きく下落していたこと,更なる調査を推奨する内容のPwC中間報告書は会計監査人である新日本有限責任監査法人にも送付されていたことなどから,一審原告会社においては,遅くとも平成23年10月17日(月)頃から,第三者委員会を設置して調査を行うことについての検討が行われ,同月20日,取締役連絡会において,第三者委員会を設置することが決定された(甲B10,原審における一審被告A15本人,当審における一審被告A16本人)。
(エ) 一審原告会社は,平成23年10月21日,一審原告会社の過去の買収案件について,弁護士及び会計士等の有識者によって構成される第三者委員会の設立を準備している旨を公表した(甲B10〈資料4〉)。
(オ) 一審被告A5は,平成23年10月26日,代表取締役会長及び社長執行役員の役職を返上して取締役となり,同日開催された取締役会において,後任として,取締役専務執行役員であった一審被告A9を代表取締役及び社長執行役員に選任した(甲B10〈資料6〉)。
(カ) 一審原告会社は,平成23年11月1日,①一審原告会社によるジャイラス買収に関する一切の取引(FAの選定,報酬の支払等を含む。),②本件国内3社の買収に関する一切の取引(買収額の決定及び買収後の減損処理に至った経緯等を含む。)に関し,一審原告会社に不正ないし不適切な取引等があったか否かにつき検証することなどを目的として,一審原告会社と利害関係のない弁護士5人及び公認会計士1人により構成される本件第三者委員会を設置し,その旨を公表した(甲B10〈資料8〉)。
(キ) 一審被告A5及び一審被告A4は,平成23年11月24日付けで一審原告会社の取締役を辞任し,一審被告A3は,同日付けで一審原告会社の監査役を辞任した。他方,Bも,同年12月1日付けで一審原告会社の取締役を辞任した。(甲B10〈資料14,18〉)
(ク) 本件第三者委員会は,平成23年12月6日,一審原告会社に対し,調査報告書を提出した。これを受けて,一審原告会社は,同月7日,①一審原告会社及び同グループ全体の経営体制の刷新,ガバナンス体制等の抜本的な見直し等に関する指導・勧告等をすることを目的とする経営改革委員会(以下「本件経営改革委員会」という。)を設置すること,②損失計上先送り等の一連の問題につき,現旧取締役に善管注意義務違反行為があったか否かを調査してその責任を明らかにするため,取締役責任調査委員会(以下「本件取締役責任調査委員会」という。)を設置すること,及び③現旧監査役に取締役の職務執行の監査に関する善管注意義務違反行為がなかったか,現旧監査法人に不当又は不適正な監査がなかったか等を調査してその責任を明らかにするため,監査役等責任調査委員会(以下「本件監査役等責任調査委員会」といい,本件第三者委員会,本件経営改革委員会,本件取締役責任調査委員会及び本件監査役等責任調査委員会を併せて「本件各外部委員会」という。)を設置することを決定し,各委員会に対し指導・勧告等や調査を委託した。その後,一審原告会社は,平成24年1月7日本件取締役責任調査委員会から,同月16日本件監査役等責任調査委員会から,それぞれ調査報告書を受領した。(甲B10〈資料19・21・27・28〉)
(ケ) 一審原告会社は,①本件第三者委員会の各委員及び補助者に対する報酬,実費等として,合計4億6402万1835円を(甲B6の1~13),②本件経営改革委員会の各委員及び補助者に対する報酬,実費等として,合計3005万6770円を(甲B7の1~4),③本件取締役責任調査委員会の各委員及び補助者に対する報酬,実費等として,合計1億4070万7350円を(甲B8の1~5),④本件監査役等責任調査委員会の各委員及び補助者に対する報酬,実費等として,合計8466万3600円を(甲B9の1・2)それぞれ支払い,さらに,⑤平成24年1月21日,東京証券取引所から,上場契約違約金として1000万円を支払うよう通知を受け,同年2月20日これを支払った(甲B10〈資料31〉)。
(コ) 一審原告会社は,平成24年6月8日,「和解に関するお知らせ」を公表し,①同年1月,Bから,同人の解職等が英国の1996年雇用権利法に違反するなどとして,英国労働審判所に対して労働審判を申し立てられたが,同年5月29日付けで和解の合意に至ったこと,②これにより,Bは前記労働審判の申立てを取り下げ,一審原告会社はBに対し,本件和解金1000万英ポンド(約12億4500万円)を支払うことになることを明らかにした(甲B5)。
一審原告会社は,平成24年7月4日,Bに対し,本件和解金として1000万英ポンド(支払時の為替レートで換算すると12億7348万6900円)を支払った(弁論の全趣旨)。
サ 一審原告会社の株価の推移等
一審原告会社の平成23年10月11日から同年12月30日までの株価の推移は,別紙17「一審原告会社の株価の推移」記載のとおりである(甲B10〈資料3〉)。
また,Bの解任が報じられた平成23年10月14日以降,連日のように新聞紙上等において,一審原告会社の経営の混乱や迷走,コーポレートガバナンス(企業統治)の体制や法令遵守の姿勢の欠如を指摘する多数の記事が掲載された(甲B37の1~114)。
⑵  第5類型について
ア 一審被告A3及び一審被告A4の疑惑発覚後の対応に係る善管注意義務違反の有無について
(ア) 一審被告A5の認識について
前記⑴の認定事実によれば,一審被告A5は,Bから,本件各レターにおいて,一審原告会社における本件国内3社及びジャイラスの買収案件に関し,深刻なガバナンス上の問題がある旨の指摘を受けた際,一審被告A4とともに,平成21年第三者委員会報告書等の資料を示しつつ,本件国内3社について完全な調査を行い,独立した会計事務所による評価を行ったなどと回答するなど,一貫して,上記の各買収について何らの疑念も存在しないという態度を表明し,損失分離スキームの解消を目的として上記の各買収を行ったことが露見しないように対処したこと,一審被告A5は,Bが,一審被告A5及び一審被告A4に対し,「現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできないと考えられる。」と結論付けたPwC中間報告書及び平成23年10月11日付け本件レターⅥを送付して辞任を要求したのに対し,一審原告会社の取締役らが当該レターを受信した日である同月13日に当該取締役らをK弁護士の法律事務所に招集し,Bの解職を取締役らに告知した上で,翌14日開催された10月14日取締役会においてBを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解職する旨の決議を成立させるなどしたことが認められ,これらの事情によれば,一審被告A5は,Bの追及による損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として同人の解職を主導したものと認定するのが相当である。
一審被告A5は,Bの社長としての執務ぶりには多大の問題があったのであり,Bの解職は一連の疑惑発覚を避けることだけを目的としたものではないなどと主張するが,一審被告A5自身,原審における本人尋問において,損失隠しが公表されることになれば,一審原告会社は倒産し,従業員やその家族が路頭に迷い,利害関係人にも大変な迷惑を掛けるから,損失隠しがされたことが発覚することは絶対避けようと思っていた旨供述していることに加え,わずか2週間前に開催された9月30日取締役会において,自らが主導して,BをCEOに選任したことなどに照らすと,一審被告A5の上記主張は採用できず,一審被告A5は,自らが主導して代表取締役及び代表執行役員・CEOに選任したBが疑惑追及を強硬に主張して一審被告A5や一審被告A4の辞任を迫るに及んだことから,損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として解職決議に及んだものというべきである。
(イ) 一審被告A4の善管注意義務違反について
前記⑴の認定事実によれば,一審被告A4は,一審被告A3らとともに損失分離スキームを構築・維持するために具体的な手法を策定・実施するなどの実務作業を担っており,これによって一審原告会社は簿外の損失を保有し続けることができたことや,一審被告A4は,本件国内3社の株式取得及びジャイラスの配当優先株の買取り等が損失分離状態を解消するために実行されたものであることを知悉していたこと,それにもかかわらず,一審被告A4は,Bが送付した本件各レターに対し,同人の指摘する疑念は存在しないとの回答を送付し続け,同人がPwC中間報告書を示して一審被告A5及び一審被告A4の辞任を求めるようになった後は,一審被告A5が招集したK弁護士の法律事務所における集まりに参加し,翌日の10月14日取締役会におけるBの解職に異論を述べず,同取締役会において解職議案にも賛成したことが認められるから,一審被告A4は,一審被告A5とともに,Bの疑惑追及による損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として,Bの解職に向けた上記の一連の行動を採ったと認定するのが相当である。
このような一審被告A4の行為は一審原告会社に対する善管注意義務及び忠実義務に違反するものと認められる。
一審被告A4は,Bが代表取締役として相応しくないと考えて解職議案に賛成したというが,一審被告A4は,一審被告A5と同様,Bが疑惑追及を強硬に主張して一審被告A4の辞任を迫るに及んだことから,損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として解職決議に及んだものというべきである。
(ウ) 一審被告A3の善管注意義務違反について
前記前提事実のとおり,一審被告A3は,平成23年6月から監査役に就任していたことが認められるが,監査役も取締役と同様,会社に対する善管注意義務を負っており(会社法330条,民法644条),取締役が不正行為をし,又は不正行為をするおそれがあるときは,遅滞なく取締役会に報告しなければならない義務(会社法382条)等を負っているものと解される。
そして,前記⑴の認定事実によれば,一審被告A3は,一審被告A4らとともに損失分離スキームを構築・維持するために具体的な手法を策定・実施するなどの実務作業を担っており,これによって一審原告会社は簿外の損失を保有し続けることができたこと,一審被告A3は,本件国内3社の株式取得及びジャイラスの配当優先株の買取り等が損失分離状態を解消するために実行されたものであることを知悉していたこと,一審被告A3は,Bと一審被告A4との間の本件各レターその他のメールのやり取りを認識し,一審被告A4が事実に反して何らの疑惑はないという立場で応対していることも認識していたこと,それにもかかわらず,一審被告A3は,Bが本件レターⅥによって一審被告A5及び一審被告A4の辞任を求めた直後,一審被告A5が招集したK弁護士の法律事務所における集まりに参加し,翌日の10月14日取締役会におけるBの解職に異論を述べず,解職議案にも賛成したことが認められるから,一審被告A3は,一審被告A5が,Bの追及による損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として同人を解職する旨の議案を10月14日取締役会に提案したことを認識していたと推認するのが相当である。
このように,一審被告A3は,そのような一審被告A5の違法行為を阻止するため,取締役会や監査役会にその旨報告するなどの措置を採る義務を負っていたというべきであるにもかかわらず,実際には何らの措置を採らなかったのであるから,一審原告会社に対する善管注意義務に違反するものと認められる。
イ 損害の発生の有無について
前記⑴の認定事実によれば,一審原告会社は,平成23年10月14日,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解職したことを公表したこと,一審原告会社の株価は,当該公表前には概ね2400円前後で推移していたものの,公表当日の終値は2045円に下落し,翌週にはさらに,終値が1555円,1417円,1389円などと下落した上,本件第三者委員会の設立を準備している旨を公表した同月21日には終値が1231円となり,更にその翌週の同月24日には終値が1099円に下落していることが認められる。
このような株価の下落をもって,直ちに一審原告会社に損害が生じたものということはできないものの,Bの解職前後における上記の株価の下落状況に加え,前記⑴の認定事実によれば,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解職することは,同人が指摘していた疑惑を隠蔽するためにされたとの見方をされてもやむを得ないものであること(B自身,対外的に,過去の企業買収における不明朗な支出を追及したのが解職の理由であったと主張した。),実際に,Bの解職を受けて,一審原告会社の経営の混乱や迷走,コーポレートガバナンス(企業統治)の体制や法令遵守の姿勢の欠如を指摘する多数の新聞報道がされ,一審原告会社は,その後,各種プレスリリースや本件第三者委員会の設置等の対応を強いられたことなどが認められるから,これらの事情を総合すれば,一審原告会社には,Bの解職によって,信用毀損による損害が生じたものというべきである。
そして,当該損害の性質上,その額を立証することは極めて困難であるといえるから,民事訴訟法248条により,その損害額は,一審原告会社主張の1000万円であると認定するのが相当である。
一審被告A4らは,損害の立証がないと主張するが,上記のとおり,本件は,損害の発生は認められるものの,その額の立証が極めて困難な場合に当たるから,上記主張は採用できない。
ウ 小括
以上によれば,一審原告らの第5類型に係る請求は,一審原告会社が請求する限度で全部理由がある。
⑶  第2事件について
ア 9月30日取締役会における第2事件一審被告らの善管注意義務違反の有無について
一審原告株主は,①FACTAに掲載された本件各記事は,内部情報に基づく十分信用できるものである上,法的知見や企業買収に携わった経験がない取締役であっても,容易に疑問を持ち得る内容であったこと,②Bが指摘する疑惑の内容は具体的なものであったが,Bの本件各レターに対する一審被告A4の回答は,Bの追及を否定するか,資料についても全ては送付せず,送付の遅れの理由を述べるだけで,Bの疑問に対して,正面から回答するものではなく,一審原告会社で違法・不正な取引が行われたという疑念を払拭するものではなかったこと,③平成21年第三者委員会報告書及び井坂公認会計士事務所作成に係る本件国内3社の株主価値算定報告書の内容は,いずれも不十分な内容であって,Bの指摘する違法行為の可能性を否定できるようなものではなかったことなどからすると,一審被告A5ら経営陣による違法行為が存在する疑いがあることは明確になっていたものといえ,第2事件一審被告らは,遅くとも9月30日取締役会の時点で,Bの指摘を真剣に受け止め,違法行為の有無について調査すべき注意義務を負っていた,④Bは,9月30日取締役会において,本件国内3社の買収額やジャイラスのFA報酬額について疑問が解消された旨の発言をしたわけではなかったにもかかわらず,第2事件一審被告らは,Bの指摘を事実上無視し,違法行為の存在が疑われる場合に取締役が行うべき調査義務を怠った,また,一審被告A5ら損失隠しに直接関与した役員らの違法行為はもとより,善管注意義務に違反していた役員らの違法行為を黙認ないし放置したものであり,監視義務にも違反したものである旨主張する。
しかしながら,上記①については,本件各記事は,本件国内3社やジャイラスの買収額が高額であると指摘するものであるが,そもそも,本件国内3社の買収額やジャイラスの買収額及びFA報酬については,あずさ監査法人から取得価格や取引の妥当性について懸念を表明され,平成21年第三者委員会が設置され,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に伴うFA報酬の支払に関して,①取引自体に不正・違法行為がなかったか,②取締役の善管注意義務違反及び手続的瑕疵がなかったかについて調査,検討がされ,平成21年第三者委員会は,いずれも違法もしくは不正な点があった又は善管注意義務違反があったとまで評価できるほどの事情が認識できなかった旨の報告をしていたのであって,本件各記事の内容は,概ね,既に一審原告会社内において,既知のものであり,一応の決着を得た問題であったことが認められる。また,本件各記事のうち,本件国内3社の株式を一審原告会社に売却したDDが反社会的勢力との関係が疑われるJブリッジと関係があり,Jブリッジに巨額の資金が流れた疑いがあるとする部分は,一審原告会社の違法行為の存在に関して客観的な根拠を示したものではなく,推測の域を出ない内容といえる。
次に,上記②については,Bは,平成23年9月24日から同月28日にかけて,第2事件一審被告ら(一審被告A14を除く。)を含む一審原告会社の取締役等に対し,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に関する金銭の支払について,「深刻なガバナンスの問題」と記載した本件各レターを送付したが,一審被告A4は,本件各レターを受領した当日ないし翌日にはBに対し電子メールを返信するなどして対応し,その際,一審被告A4は,Bから回答を求められた本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に関する全ての質問に対して個別に回答しており,その回答内容も不自然なものではなかった上,Bが提出を求めた資料についても,平成21年第三者委員会報告書及び井坂公認会計士事務所作成に係る本件国内3社の株主価値算定報告書等の英訳を準備するなどして送付したのであって,このような一審被告A4の対応は,損失分離スキームに関する事情を知らない第2事件一審被告らが一審被告A5や一審被告A4らが疑惑を隠蔽しようしているとの疑念を抱くようなものであったとはいえない。
さらに,上記③については,平成21年第三者委員会報告書は,上記の経過による調査,検討の結果であり,取引に不正・違法行為があったとの事情は認識できなかったと結論付けられていたものであるから,第2事件一審被告らが一審被告A5や一審被告A4らが疑惑を隠蔽しようしているとの疑念を抱くようなものであったとはいえない。
加えて,上記④については,Bは,9月30日取締役会において,「最終的に私たちは非常に建設的な理解に達したと思います。」,「非常に単刀直入な議論をし,意思決定を行いました。私はこれらの取引の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないことを十分に確信できました。」,「今は前向きに未来に目を向けるつもりであることをはっきりと表明します。」など,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に関して自己が抱いていた疑問点が解消した旨の発言をし,調査が必要であるとは発言しなかったことが認められる(乙M2,当審における証人B)。一審原告株主は,Bは,ジャイラス買収に一審原告会社の2年分の利益に相当するFA報酬を支払ったことについて疑念は解消していない旨を発言していると主張するが,9月30日取締役会におけるBの発言を詳しく見ると,Bは,ジャイラス買収のFA報酬について上記の発言をしながらも,最終的には,FACTAの記事にあるような疑念はないことを確信し,安心したと発言したのであって,Bの内心はともかく,9月30日取締役会に出席した取締役らが,Bの疑念が解消されたと認識することが自然といえる状況にあったものと認められる。
これらの事情に照らすと,9月30日取締役会の時点で,損失分離スキームに関する事情を知らない第2事件一審被告らにおいて,Bが指摘をした違法行為について調査するなどの対応を要するような状況にはなかったのであるから,その時点において,第2事件一審被告らに善管注意義務違反があったとはいうことはできない(一審被告A14は,本件レターの送信を受けておらず,Bと一審被告A5及び一審被告A4とのやり取りを知らなかったが,9月30日取締役会に出席し,Bの前記発言を聞いていたのであるから,同様に,善管注意義務違反があったとはいえない。)。
なお,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14は,本件国内3社の株式取得あるいはジャイラスの配当優先株の買取りに係る取締役会に出席し,これらの議案に賛成しているが,当時,これらの議案提出の動機である損失分離スキームの解消についての認識を有していなかったものと認められるから,上記事実をもって,前記判断を左右するものではない。
イ 10月14日取締役会における第2事件一審被告らの善管注意義務違反の有無について
一審原告株主は,Bは,第2事件一審被告らを含む一審原告会社の取締役及び監査役らに対し,PwC中間報告書を添付した本件レターⅥを送付したが,PwC中間報告書は,通常の判断能力を有する取締役であれば,大手会計事務所によって一審原告会社の過去のM&Aをめぐる金銭の動きに重大な疑問が呈されており,コンプライアンス違反となる可能性が極めて高いと断じられていることは容易に判断できるものであり,Bは,本件レターⅥの中で一審被告A5及び一審被告A4の辞任を要求していたのであるから,もはや違法行為の存在はほぼ確実な状況にあったといえ,第2事件一審被告らは,10月14日取締役会において,Bが詳細な調査を実施できるよう対応すべきであるとともに,一審被告A5及び一審被告A4に対し,Bの調査に対する妨害を回避する方策を採るべきであったが,Bの解職提案が,違法行為を隠蔽しようとするものであることは容易に認識し又は認識できたにもかかわらず,疑惑追及や調査を妨害するために解職決議をしたことは明白である旨主張する。
しかしながら,PwC中間報告書は,Bが一審被告A4から入手した資料を提供して作成されたものであり,その内容も,ジャイラス買収に伴うFA報酬の支払等について,コーポレートファンナンスチームの経験から,AXESやAXAMに支払われた報酬が取引の規模,性質からは高額にすぎる,その理由等は資料の提供を受けていないからコメントできない,詳細な調査を推奨するとし,結論として「不適切な行為が行われたと確信することはできない」と記載しているものであって,具体的な根拠をもって一審原告会社の過去の買収案件に関する違法ないし不適切行為の存在を指摘したものではなく,限られた資料に基づき書面調査をした経過を報告した中間報告書という性質からしても,それによって疑惑が一層明確になったとはいうことはできない。また,本件国内3社の株式取得については,そもそもPwCによる調査の対象外であった。
そして,Bは,9月30日取締役会においては,疑念が解消したと表明しながら,本件レターⅥにおいては,添付したPwC中間報告書が,本件国内3社の株式取得は対象外とされ,関係者らに善管注意義務違反があるとの指摘をしたものではないにもかかわらず,本件国内3社の株式取得の疑惑を指摘して,一転して一審被告A5及び一審被告A4の辞任を強硬に迫ったものであること,Bは,「私はこれらの取引の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないことを十分に確信できました。」,「A4さんがスイスのどこかに別荘を持っているとか,そういうことは一切ないということについて確信できました。」などの発言(乙M2)からも明らかなように,もともと個人的に利益を得た者がいるかに関心を持っていたこと,B自身が不満を抱いていたように一審原告会社の社内や他の取締役らからは必ずしも全面的に支持されていなかったこと(当審における証人B)などからすると,Bの真意が疑惑の解明,調査というよりも,疑惑を利用して,一審原告会社における実権を獲得することにあるのではないかとの疑いも生じる状況にあったものといえる。
さらに,平成23年10月13日のK弁護士の法律事務所における打合せは,極めて異例のものであったが,一審被告A5が資質上の問題からBを解職する意向を有している旨を明らかにし,K弁護士がそのための手続を説明したことは認められるものの,それ以上にその打合せの状況を詳しく認定し得る証拠はない。Bは,9月30日取締役会においては,前向きに未来に目を向けるつもりであることをはっきり表明し,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に関する自己の疑問点が解消したことを明らかにする発言をしたにもかかわらず,一転して,自己が依頼して作成させたPwC中間報告書に基づき,一審被告A5及び一審被告A4の辞任を強硬に求めるなどしたこと,上記取締役会においても,出席取締役らから,Bが外部の監査法人に資料を送付したことや納得する返事がなければ取締役会に出席しないと述べたことなどが批判され,B自身,自己が代表取締役であることに反対であるならば,取締役らにおいて自己を代表取締役から解職する権利があるとも発言していたこと,上記のとおり,Bの真意が疑惑の解明,調査というよりも,疑惑を利用して,一審原告会社の経営における実権を獲得することにあるのではないかとの疑いも生じる状況にあったことなどからすると,Bを抜てきした一審被告A5自身がBの資質に問題がある旨の説明をして解職を提案したことは,取締役らにとっては,不可解なものとはいえず,理解できないものではなかったというべきである。
したがって,10月14日取締役会に出席した第2事件一審被告らには調査義務があったものとはいえず,一審被告A5によるBの解職提案が違法行為を隠蔽しようとするものであることを認識することができたともいえないから,善管注意義務違反があったということはできない。一審被告A14は,PwC中間報告書を添付した本件レターⅥの送信を受けていないが,K弁護士の事務所における打合せに出席し,Bが一審被告A5及び一審被告A4の辞任を強硬に求めていることを知ったのであるから,同様に,善管注意義務違反があるとはいえない。また,一審被告A15は,上記打合せに出席していないが,実際,9月30日取締役会には出席し,Bの手法に疑問を呈する旨発言もしていた(乙M2,原審における一審被告A15本人)のであるから,Bの解職提案に賛成したことは一審被告A5らによる違法行為の隠蔽に加担したとはいえず,同様に,善管注意義務違反があったとはいえない。
また,一審原告株主は,BにはCEO等の適格性が十分あり,解職する理由がなく,CEOに選任した2週間後に解職するのは不自然であり,調査と解職は別問題とする第2事件一審被告らの供述は信用できない旨主張するが,上記のとおり,既に9月30日取締役会においてもBの手法等には疑問を呈する意見が出されていたが,B自身が自己の疑問点が解消したことを明言し,前向きに未来に目を向けると表明して収まったものの,一転して,一審被告A5及び一審被告A4の辞任を強硬に迫るなどした状況があり,資質に問題があるという一審被告A5の説明も不可解なものとはいえず,理解できないものではなかった上,遅滞なく,平成23年10月20日の取締役連絡会において,第三者委員会の設置の方針を固め,翌21日には,その旨のプレスリリースをし,同年11月1日,本件第三者委員会が設置され,調査が実施され,一審被告A5も,同年10月26日に辞任しているから,第2事件一審被告らの供述が信用できないものとはいえない。
なお,一審原告株主は,一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14は,別件損害賠償請求訴訟(東京地方裁判所平成24年(ワ)第174号,同第8257号)において和解に応じている旨主張するが,善管注意義務を認めて和解したものではないことはその和解条項からも明らかである。また,本件第三者委員会報告書は,関与した取締役らの善管注意義務を認定したものではない上,本件取締役責任調査委員会が,本件国内3社の株式取得あるいはジャイラス買収に伴うFA報酬の支払に関する取締役会決議に関与した一審被告A9,一審被告A10,一審被告A11,一審被告A12,一審被告A13及び一審被告A14について善管注意義務違反があると指摘したとしても,後日実施された調査に基づく指摘であり,上記一審被告らが,自らの責任追及を回避するために,Bの解職提案に賛成したものとはいえない。
ウ 小括
以上によれば,一審原告株主の第2事件に係る請求は理由がない。
3  第6類型(剰余金の配当等関係)について
⑴  認定事実(剰余金の配当等の事実)
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 第139期事業年度から第143期事業年度までの間の期末配当の実施平成19年5月8日,平成20年5月8日,平成22年5月11日,平成23年5月11日にそれぞれ開催された一審原告会社の各取締役会において,各剰余金の配当を定時株主総会に上程する議案が承認可決された。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,上記取締役会に出席し,同議案に賛成した。
上記各配当議案は,平成19年6月28日,平成20年6月27日,平成22年6月29日,平成23年6月29日にそれぞれ開催された一審原告会社の各定時株主総会において原案のとおり承認可決され,前記前提事実⑹ア記載のとおり配当が実施された。
なお,実際の配当額が上記定時株主総会で決議された配当額よりも低額であるのは,配当金を受領しない株主が存在したためである(なお,以下のイの中間配当についても同様である。)。
(甲Aカ6の1~4,7の1~4,8の1・2,9の1・2,10の1・2,11の1・2,16)
イ 第139期事業年度から第143期事業年度までの間の中間配当の実施
平成19年11月6日,平成20年11月6日,平成21年11月6日,平成22年11月5日にそれぞれ開催された一審原告会社の各取締役会において,各中間配当に関する議案が承認可決され,前記前提事実⑹イ記載のとおり配当が実施された。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,上記取締役会に出席し,同議案に賛成した。
(甲Aカ6の5~8,12の1・2,13の1・2,14の1・2,15の1・2)
ウ 自己株式取得の実施
平成20年5月8日,平成22年11月5日にそれぞれ開催された一審原告会社の各取締役会において,各自己株式取得に関する議案が承認可決された。一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,上記取締役会に出席し,同議案に賛成した。
一審原告会社は,上記取締役会決議に基づき,前記前提事実⑹ウ記載のとおり,自己株式を取得した。
(甲Aカ4の1~4,6の2・8)
⑵  一審被告A3及び一審被告A4の会社法462条1項の責任について
ア 証拠(甲Aカ1の1~5,3の1~5,5,18の1・2)によれば,本件剰余金の配当等について,一審原告会社の提出した訂正後の有価証券報告書に従って分配可能額を算出すると,別紙10「訂正後財務諸表における分配可能額」記載のとおり,本件剰余金の配当等は,いずれもその効力を生ずる日における分配可能額を超えて行われたものと認められる。
イ そして,前記⑴の認定事実によれば,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,本件剰余金の配当等のうち,平成19年3月期,平成20年3月期,平成22年3月期及び平成23年3月期の各期末配当を定時株主総会に上程する議案について,各取締役会において決議に賛成しているから,「当該株主総会に係る総会議案提案取締役」(会社法461条1項8号,462条1項6号イ)に該当する。
ウ また,前記⑴の認定事実によれば,被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,本件剰余金の配当等のうち,平成19年9月期,平成20年9月期,平成21年9月期及び平成22年9月期の各中間配当について,これらの議案が審議された各取締役会において剰余金の配当に賛成しているから,「当該行為に関する職務を行った業務執行者」(会社法461条1項8号,462条1項柱書,会社計算規則159条8号ハ)に該当する。
エ さらに,前記⑴の認定事実によれば,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,本件剰余金の配当等のうち,平成20年5月及び平成22年11月の自己株式の取得について,これらの議案が審議された各取締役会において同株式の取得に賛成しているから,「当該行為に関する職務を行った業務執行者」(会社法461条1項2号,462条1項柱書,会社計算規則159条2号ハ)に該当する。
オ したがって,一審被告A3及び一審被告A4は,一審被告A5とともに,会社法462条1項に基づき,一審原告会社に対し,連帯して,本件剰余金の配当等により,株主に対して交付された金銭合計586億7596万8936円を支払う義務を負う。
カ これに対し,一審被告A4は,分配可能額の算定に関し,①計算書類の記載に虚偽記載がある場合,計算書類に関する取締役会の承認決議は無効となるから,本件において分配可能額の算定の基礎とすべき貸借対照表は平成18年3月期の貸借対照表である,②訂正後の各貸借対照表(訂正後の平成19年3月期ないし平成23年3月期の各貸借対照表)は,剰余金の配当等の効力発生日においては存在していなかったこと,剰余金の配当等に係る金銭の支払責任は,剰余金の配当等の効力発生日において客観的に発生するか否かが定まるべきものであり,事後的に権利者である会社の行為により,決められるものではないことから,訂正後の各貸借対照表を基礎として分配可能額を算定するのは不当である,③一審原告会社は,公正妥当な会計基準に基づいて裁量の余地なく訂正後の貸借対照表の金額に修正されなければならないことを具体的な明細及び根拠を示して主張・立証すべきであるのにこの点の立証がなく,訂正後の各貸借対照表を基礎として分配可能額を算定するのは不当である,④訂正後の各貸借対照表は連結貸借対照表であるから,単体の貸借対照表について粉飾がされたのか否かは明らかではないと主張し,一審被告A3もこれを援用する。
しかしながら,上記①については,まず,剰余金の配当又は自己株式の有償取得(以下「剰余金の配当等」という。)が会社法461条1項の剰余金の配当等の効力を生ずる日(以下「効力発生日」という。)における「分配可能額」を超えて行われた場合には,業務執行者及び同項各号に定める取締役は,同法462条1項に基づく金銭の支払義務を負うところ,この分配可能額の算定は,大要,「最終事業年度の末日における剰余金の額」を計算の出発点として,これに最終事業年度の末日後,当該配当等を行う時までの分配可能額の増減(金銭等の分配,資本金の減少等)を反映させることにより行われる(同法462条2項,446条,会社計算規則等)。ここで「最終事業年度」とは,「計算書類につき承認を受けた場合における当該各事業年度のうち最も遅いもの」と定義されている(同法2条24号)ところ,一旦,取締役会の承認決議等により直近の事業年度の末日をもって計算書類が確定され,これを基礎として剰余金の配当等に係る定時株主総会又は取締役会の決議が行われている以上,当該直近の事業年度の末日をもって,分配可能額の算定の基礎となる「最終事業年度の末日」の時点は確定するというべきであり,仮に計算書類の承認決議に無効事由があることが後に判明したとしても,これによって,分配可能額の算定の基礎となる「最終事業年度の末日」が影響を受けることはないと解するのが相当である。また,実質的にみても,同法462条1項に基づく責任は,会社財産の株主に対する分配可能額を超える払戻しにより,債権者に対する弁済の引当てとなる会社財産が不当に流出することを規制し,会社債権者と株主との利害を調整するという趣旨によるものであるから,分配可能額の算定は,剰余金の配当等の決定・実施時から近接した時点における会社の財産状態等を正しく表した計算書類を基礎とするのが相当であり,このような観点からも,剰余金の配当等において基礎とされた計算書類が対象としていた直近の事業年度の末日の時点を基礎として分配可能額を算定するのが相当である。このように,承認手続を経た計算書類に係る直近の事業年度の末日の時点を基礎として分配可能額を算定するのが相当であり,一審原告会社が主張する訂正後の各貸借対照表を基礎とした分配可能額の算定に誤りがあるとはいえない。
上記②については,会社法462条1項の支払義務が生じるのは,同法461条1項のとおり,剰余金の配当等の効力発生日における分配可能額を超えた場合であるところ,同法462条1項の財源規制の趣旨からしても,分配可能額の算定の基礎とする数値は,各計算時点における会社の財産状態等を表す真正な数値によるべきであるから,分配可能額の算定の基礎とされた承認手続を経た貸借対照表の数値に誤りがある場合には,当該各計算時点においてあるべき真正な数値を表示した訂正後の貸借対照表の数値を基礎として算定するのが相当である。
上記③については,証拠(甲Aカ1の1~5,3の1~5,5,18の1・2)によれば,分配可能額の算定の基礎とされた訂正後の各貸借対照表を含む各有価証券報告書については,第三者委員会による調査報告書による指摘を踏まえて過年度決算について精査の上,訂正を行ったものであり,訂正後の財務諸表については,監査法人による監査を受け,適正意見(平成21年3月期以前については限定付適正意見,平成22年3月期以降については無限定適正意見)を受けているものであるから,その信用性を肯定することができる(なお,一審被告A3及び一審被告A4も訂正後の各貸借対照表について具体的な誤りを指摘するものではない。)。そして,訂正後の各貸借対照表によれば,本件剰余金の配当等が,いずれもその効力発生日における分配可能額を超えて行われたものであることは明らかである。
上記④については,会社法上の配当制限が,単体の貸借対照表に基づいてされることは,会社が任意に連結貸借対照表も考慮した配当規制を選択できるとされている(連結配当規制適用会社,会計計算規則158条4号)ことからも明らかであるが,有価証券報告書の訂正報告書(甲Aカの1~5)には,訂正後の単体の貸借対照表の説明として,「貸借対照表では同期首(注:訂正期間期首である平成18年4月1日を指す。)において,『関係会社投資』に対する損失見込額 117,914 百万円を期首剰余金から減額しています。」と明記されている上,証拠(甲Aカ1の1~5,3の1~5,5,18の1・2)によれば,単体の貸借対照表である訂正後の各貸借対照表を基礎として計算した結果として,本件剰余金の配当等の効力発生日時点における単体の貸借対照表に基づく分配可能額は,少なくとも70億円を超えるマイナスになっているものと認められるから,本件剰余金の配当等が,いずれもその効力発生日における分配可能額を超えて行われたものであることは明らかである。
一審被告A4及び一審被告A3の上記主張は,いずれも理由がない。
キ 一審被告A3及び一審被告A4は,本件剰余金の配当等について注意を怠ったとはいえない旨主張する。
会社法462条1項に基づく支払義務は,業務執行者及び同項各号に定める取締役が「その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したとき」(同条2項)には,その義務を免れるとされている。しかしながら,前記⑴の認定事実によれば,①一審被告A3は,一審被告A2の指示ないし了承の下,一審原告会社において,金融資産の運用に直接に携わり,外部協力者の協力・助言を受けるなどして自ら損失分離スキームの構築・維持を行った者であり,平成15年6月27日に取締役に就任した以降も,取締役の善管注意義務及び監視義務に違反し,損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じておらず,損失分離状態を前提とした虚偽の計算書類が作成されていたことを認識していたものと認められること,②一審被告A4についても,一審被告A2の指示ないし了承の下,一審被告A3の部下として一審被告A3とともに,一審原告会社において,金融資産の運用に直接に携わり,外部協力者の協力・助言を受けるなどして自ら損失分離スキームの構築・維持を行った者であり,平成18年6月29日に取締役に就任した以降も,取締役の善管注意義務及び監視義務に違反し,損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じておらず,損失分離状態を前提とした虚偽の計算書類が作成されていたことを認識していたものと認められることからすると,会社法461条1項に違反する本件剰余金の配当等の実施が行われることについて,一審被告A3及び一審被告A4が,業務執行者又は総会議案提案取締役として「注意を怠らなかった」ということはできない。
⑶  権利濫用の抗弁について
一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社による会社法462条1項に基づく請求は,著しく公平に反するものであって,権利濫用に当たる旨主張する。
一審被告A3及び一審被告A4は,訂正後の連結貸借対照表に基づいて分配可能額を算定すれば,分配可能額は十分にあったと主張するが,会社法の配当規制は,単体の貸借対照表に基づくものであり,任意に連結貸借対照表も考慮に入れた配当規制を選択した連結配当規制適用会社(会社計算規則158条4号)でない限り,単体の貸借対照表に基づいて分配可能額を算定することになる。そして,一審原告会社が,連結配当規制会社を選択することなく,単体の貸借対照表による分配可能額に基づき会社法462条1項の請求をすることは何ら権利の濫用になるものではない。
また,一審原告会社の株主らは,本来取得できなった分配可能額を超えた剰余金の分配に与り,取締役らから分配可能額を超えて分配された額を回収することは二重に利益を得ることになり,著しく不公平であるとも主張するが,分配可能額を超えて分配がされた場合には,株主であっても,交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭の支払義務を負っている上(会社法462条1項,463条2項),取締役らが損害賠償義務を履行して分配可能額を超えた分配額に相当する額が会社財産に回復したとしても,個々の株主が直接利益を受けるわけではないから,二重に利得するものとはいえず,著しく不公平であるともいえない。
一審被告A3及び一審被告A4の上記主張は,採用できない。
⑷  信義則ないし過失相殺の抗弁について
一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社の方針に従い一連の行為に関与したものであるから,信義則又はクリーンハンズの原則から一審原告会社の会社法462条1項に基づく請求は棄却されるべきであるとか,過失相殺の規定の類推適用により責任額が減額されるべきであると主張する。
しかしながら,株式会社及び共同訴訟参加した株主が取締役に対し,善管注意義務違反等を理由として損害賠償を求める事案において,取締役は株式会社の機関であるから,これとは独立した株式会社の過失を観念することは困難であること,取締役は,株主総会において選任され,株式会社に対し,取締役会を通じて代表取締役の業務の執行が適正に行われるようにするべき監視義務を負っているのであるから,代表取締役等による違法又は不正な行為が行われていることを認識しながら,その指示に従っていたということは,取締役の監視義務に違反することにほかならず,これを取締役に有利な事情として考慮することは困難であることからすると,取締役の監視義務違反が明らかな事案において,信義則又はクリーンハンズの原則の適用,過失相殺の規定の類推適用により,取締役の責任の免責又は軽減を認めることはできない。また,会社法462条1項に基づく責任は,会社財産の不当な流出を防止し,会社債権者と株主との利害を調整する趣旨で法定された特別責任であって厳格な免責要件が定められていること(同条3項)からしても,過失相殺の規定の類推適用による責任軽減を肯定することは相当でない。
この点を措くとしても,一審被告A3及び一審被告A4は,いずれも自ら損失分離スキームの構築・維持を実行した者であり,取締役に就任した以降も,取締役の善管注意義務及び監視義務に違反し,損失分離スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じていなかったというのであるから,一審被告A3及び一審被告A4について,その責任を軽減すべき事由があるとはいえない。
一審被告A3は,歴代の社長や会長に対して損失の開示を進言した旨主張し,その旨供述するけれども(乙D1~4,原審における一審被告A3本人),一審被告A3自身,最終的には,一審被告A5らの損失を先送りするという意見に同調し,取締役会等の正式な場面で意見を述べることはなかったというのであるから(原審における一審被告A3本人),取締役の監視義務に違反することは明らかであり,一審被告A3について,その責任を軽減すべき事由があるとはいえない。
一審被告A4も,従業員時代に一審原告会社の意思決定に基づく指示等に従ったにすぎず,上司に損失の公表を進言したものの,これを拒絶されたなどの事情があるというが,本件において,一審被告A4は取締役としての責任を問われているのであって,財務部門の従業員時代の行為の責任を問われているものではない。そして,一審被告A4は,従業員時代に損失分離スキームの構築・維持に深く関与し,損失分離の実態を知悉していたにもかかわらず,平成18年6月29日に取締役に就任した後においても,損失の公表に向けた意見を述べることなどなく,かえって,違法な本件剰余金の配当等に関与したものであるから,一審被告A4について,その責任を軽減すべき事由があるとはいえない。
一審被告A3及び一審被告A4の上記主張は,採用できない。
⑸  損益相殺の主張について
別件詐害行為取消訴訟(横浜地方裁判所川崎支部平成25年(ワ)第936号)において,別件詐害行為取消訴訟の原告である一審原告会社と被告である一審被告A4の妻L及び利害関係人である一審被告A4との間で裁判上の和解が成立し,同和解に基づき,Lが50万円を,一審被告A4が250万円をそれぞれ一審原告会社に対し支払ったことは,一審原告会社と一審被告A4との間に争いがなく,一審原告会社,一審被告A5,一審被告A3との関係でも弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。そして,一審原告会社は,上記和解で支払われた合計300万円を損害から控除することを争わない旨陳述し,一審原告株主もこれに特段の異議を述べていないところ,これは,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4の会社法462条1項に基づき支払義務を負う額の元金から上記300万円を控除することを容認する趣旨と解される。
したがって,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4が会社法462条1項に基づき支払義務を負う586億7596万8936円から300万円を控除すべきである。
⑹  小括
以上によれば,第6類型に係る一審原告会社の請求(一部請求)は,全部理由があるが,第6類型に係る一審原告株主の請求は,一審被告A3及び一審被告A4に対し,586億7296万8936円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。なお,一審被告A5は,控訴も附帯控訴もしていないから,一審原告株主に不利益に変更することはできない。
4  第7類型(課徴金・罰金関係)について
⑴  認定事実(課徴金・罰金の納付等の事実)
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 虚偽の記載のある有価証券報告書の提出については,従前から,罰金,課徴金の対象とされ,罰金については,個人が5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金又は併科,法人が5億円以下の罰金とされていた(平成18年法律第65号による改正前の証券取引法(旧証券取引法)197条1項1号,207条1項1号)が,平成18年法律第65号による改正によって,個人が10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又は併科,法人が7億円以下の罰金と加重され(同改正後の金商法197条1項1号,207条1項1号),同改正部分は同年7月4日に施行された(附則1条1項)。
また,四半期報告書の提出は,従前は,証券取引所の自主ルールとされていたが,上記改正によって,法定化される(金商法24条の4の7)とともに,その虚偽記載が,罰則・課徴金の対象とされ(同法172条の2第2項,197条の2第6号,207条1項2号),平成20年4月1日以後に開始する事業年度から適用された(附則15条,16条)。その後,平成20年法律第65号による改正により,課徴金の根拠条文は,172条の4第2項となり,平成20年12月12日以後に開始する事業年度から適用された(附則8条)。
イ 一審原告会社,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,平成24年3月7日及び同月28日,旧証券取引法及び金商法違反の罪(虚偽記載有価証券報告書の提出の罪)の容疑で公訴提起され,平成25年7月3日,東京地方裁判所において,旧証券取引法及び金商法違反の罪(虚偽記載有価証券報告書の提出の罪)で,一審原告会社が罰金7億円,一審被告A5及び一審被告A3がそれぞれ懲役3年(5年間刑の執行猶予)並びに一審被告A4が懲役2年6月(4年間刑の執行猶予)に処せられたが,認定された罪となるべき事実は,⑴平成18年4月1日から平成19年3月31日までの連結会計年度につき,同年6月28日,損失を抱えた金融商品を簿外処理するなどの方法により,純資産額が虚偽の連結貸借対照表を,関東財務局長に提出し,⑵同年4月1日から平成20年3月31日までの連結会計年度につき,同年6月27日,損失を抱えた金融商品を簿外処理するとともに架空ののれん代を計上するなどの方法により,純資産額が虚偽の連結貸借対照表を,同局長に提出し,⑶同年4月1日から平成21年3月31日までの連結会計年度につき,同年6月26日,損失を抱えた金融商品を簿外処理するとともに架空ののれん代を計上するなどの方法により,純資産額が虚偽の連結貸借対照表を,同局長に提出し,⑷同年4月1日から平成22年3月31日までの連結会計年度につき,同年6月29日,架空ののれん代を計上するなどの方法により,純資産額が虚偽の連結貸借対照表を,同局長に提出し,⑸同年4月1日から平成23年3月31日までの連結会計年度につき,同年6月29日,架空ののれん代を計上するなどの方法により,純資産額が虚偽の連結貸借対照表を,同局長に提出し,提出したことにあった(甲Aキ1の1・2,2)。
ウ 金融庁長官は,平成24年7月11日,一審原告会社に対し,1億9181万9994円の課徴金納付命令を発したが,平成25年9月4日,その一部を取り消したため,一審原告会社が納付すべき課徴金は,第144期事業年度の第1四半期(平成23年4月1日から同年6月30日まで)について,平成23年8月11日,のれんの過大計上等により,連結純資産額が虚偽の本件四半期報告書を提出した事実による1986万円になった(甲Aク1の1・2)。
エ 一審原告会社は,平成24年7月31日,本件課徴金1986万円を,平成25年8月9日,本件罰金7億円を,それぞれ国庫に納付した(甲Aク2の1・2)。
⑵  法人に科せられた課徴金・罰金を取締役の善管注意義務による損害とすることの可否について
一審被告らは,①金商法207条1項1号は,行為者たる自然人を罰するほかに法人固有の責任として法人に対する抑止力をもたせるという見地から法人に罰金を科し,同法172条の4は,違法行為によって会社が得た利益を国家が剥奪するという性格から法人に課徴金を科しているのであって,法人に科された課徴金・罰金は,国が法人処罰等の特定の目的をもって意図的に科したものであるから,課徴金・罰金の取締役への転嫁を認めるべきではないこと,②会社が支払った課徴金・罰金について取締役が補填すれば,会社が実質的に不正又は違法な利益を保持することになり不当であること,③課徴金・罰金について取締役に対する損害賠償責任を認めることは,取締役に対して,過剰な負担を課すことになることなどを主な理由として,取締役の善管注意義務違反と課徴金・罰金の支払との間には,法的因果関係が否定されるというべきである,④また,同一の事実に基づき罰金相当額の損害賠償を命じられることは,実質的には禁止されている二重処罰になるなどと主張する。
しかしながら,まず,上記①については,会社法423条1項の取締役の責任は,債務不履行責任であって,取締役に対してその任務懈怠と相当因果関係のある損害の賠償義務を負わせているが,その賠償の範囲には任務懈怠と相当因果関係がある限り,特段の限定はなく,会社が取締役の任務懈怠によって課徴金・罰金の支払を余儀なくされた場合において,その課徴金・罰金を損害から除く根拠はない。また,課徴金が法人に対する制裁として,会社が得た利益を剥奪するものであり,罰金が法人固有の刑事責任を認め,法人の資産や事業規模等を考慮してその抑止力として期待できる額の法定刑を定めているとしても,それは課徴金・罰金の目的や性質であって,そのような目的,性質から直ちに課徴金・罰金が民事上の損害賠償の対象にはならないとされるものではない。そして,金商法207条1項1号及び同法172条の4の各規定の内容や沿革等を考慮しても,取締役の任務懈怠を理由とする損害賠償責任について,取締役の任務懈怠と罰金・課徴金の支払との間の因果関係を否定する根拠を見いだすこともできない。さらに,会社が自らの責任財産をもって課徴金・罰金の支払をし,納付を完了することによって,会社に対して課徴金・罰金を科す目的は達せられたのであって,その後に任務懈怠をした取締役等への損害賠償請求により,法人が支払った課徴金・罰金相当額についての損害が実質的に填補されたとしても,それは任務懈怠をした取締役に対する責任追及を認める会社法の規定に基づき取締役の損害賠償責任が認められた結果にすぎず,これをもって,会社が自己に科された罰金・課徴金を取締役等に転嫁したと評価されるべきものではない。
次に,上記②については,取締役の任務懈怠によって会社が課徴金・罰金の支払を余儀なくされ,それに相当する額の財産が逸出して株主にも不利益が発生した場合において,任務懈怠をした取締役が会社に対する損害賠償責任を負わないということになれば,株主が代表訴訟を提起し,取締役の責任を追及して会社に財産の回復をさせる手段も奪うことになり,最終的には株主にその不利益を甘受させることになるが,このような結果になることは相当とはいえない。むしろ,自らの任務懈怠によって会社に課徴金・罰金の支払を余儀なくさせた取締役が会社に対する損害賠償義務を果たすことによってその損害の回復を認めることが公平の見地からは相当であり,違法行為の抑止にも資するというべきである。
さらに,上記③については,会社が取り扱う取引の規模等によっては,取締役が通常の取引において任務懈怠があった場合でも,巨額の損害賠償責任を負担することがあり得るのであるから,課徴金・罰金に相当する額の損害賠償のみについて別異に取り扱い,過剰な負担であることを理由にして相当因果関係を否定する理由もない。取締役が過失によって巨額の損害賠償責任を負う場合については,取締役の責任の一部免除の規定(会社法425条)の活用や取締役賠償責任保険によって,その負担の軽減を図ることができるのであるから,取締役が巨額の損害賠償責任を負う結果となることを理由として,直ちにその損害賠償責任を否定すべきものとはいえない。
なお,上記④については,本件においては,取締役の民事上の責任として一審原告会社が支払を余儀なくされた罰金相当額の損害について賠償義務があるとされるのであるから,二重処罰にも当たらない。
⑶  承継前一審被告A1及び一審被告A2について
前記⑴の認定事実のとおり,一審原告会社が罰金刑に処せられたのは,承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役を退任した後の第139期事業年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)から第143期事業年度(平成22年4月1日から平成23年3月31日まで)の5年にわたる各連結会計年度について重要事項に虚偽の記載がある本件有価証券報告書を提出したという事実によるものであり,課徴金が科せられたのは,同様に承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役を退任した後の第144期事業年度第1四半期(平成23年4月1日から同年6月30日まで)について重要事項に虚偽の記載がある本件四半期報告書を提出したという事実によるものであって,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,本件有価証券報告書及び本件四半期報告書の作成やその提出自体には関与しておらず,刑事事件の判決においても,重要事項に虚偽の記載がある有価証券報告書の提出の事実について,一審被告A5らとの共謀が認定されているわけではない。
一審原告会社は,①承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役であった時代に同人らの指示の下で損失分離スキームが構築され,これを知る一部の役職員らの間で損失隠しを継続することについて強固な運命共同体が形成され,これが承継前一審被告A1及び一審被告A2の取締役退任後も継続されていたのであるから,一審被告A5らによる本件有価証券報告書等の提出行為は,運命共同体において損失隠しの継続という目的の下で予定されていた必然的な成り行き(いわば共犯による続行行為)であること,②承継前一審被告A1及び一審被告A2が取締役であった時代に既にされていた有価証券報告書等の虚偽記載が,同人らの退任後においても継続してされることは,当然の因果の流れというべきであるから,一審被告A5らによる本件有価証券報告書等の提出行為により,一審原告会社に生じた本件罰金等相当額の損害は,通常生ずべき損害に当たり,仮にこれに当たらないとしても,自らが取締役を退任した後も,一審被告A5らにより虚偽記載のある有価証券報告書等が提出され続けるであろうことを予見し,又は予見し得たのであるから,特別損害に当たると主張する。
会社の経済活動は社会的には事業年度を超えて連続性があるが,会社法等においては,事業年度を基準として種々の制度が構築されており,会社の状況に関する重要事項等を記載する事業報告は事業年度ごとに各事業年度の終了後に作成され,会社の計算(会計)も,事業年度ごとに,当該事業年度に係る貸借対照表,損益計算書等の計算書類を作成し,各事業年度の終了後に,株主の承認等を受け,公告等をするなどして決算を行うことが義務づけられ(会社法435条等),有価証券報告書も事業年度経過後3月以内に提出することが義務付けられている(金商法24条1項)。そして,有価証券報告書には,経理の状況として連結財務諸表及び個別財務諸表の記載が必要とされているところ,これらの計算書類については,上記のとおり事業年度ごとに作成,確定されるものであり,四半期報告書も,四半期(3か月)ごとの経理の状況等を記載するものであるが,これも事業年度を前提にしている。
本件においては,確かに,本件有価証券報告書等の連結貸借対照表の純資産額については,承継前一審被告A1及び一審被告A2が関与した損失分離スキームにより長期にわたり金融資産の含み損を簿外処理するなどをしたことの影響が一定程度残存していることは否定できないが,本件罰金等が科されたのは,飽くまで第139期事業年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)から第144期事業年度四半期(平成23年4月1日から同年6月30日まで)までの有価証券報告書等についてであり,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,これらの有価証券報告書等の作成,提出はもとより,本件有価証券報告書等に係る事業年度の経営に関与したり,経営に影響を与えたりしたとは認められない。しかも,承継前一審被告A1及び一審被告A2退任後には,GCNVVが本件国内3社の株式を取得し,その後のGCNVVの解散により,その保有する本件国内3社の株式を一審原告会社が取得し,本件国内3社は一審原告会社の子会社となって連結決算上「のれん」を計上し,ジャイラスの買収及びこれに伴うFA報酬が支払われるなど重要な意思決定が一審被告A5らによって次々とされ,これが本件有価証券報告書等の純資産額にも反映されたが,承継前一審被告A1及び一審被告A2は,それらの意思決定に関与したり,意思決定に影響を与えたりしたとは認められない。さらに,承継前一審被告A1及び一審被告A2が,取締役を退任した後も,損失分離状態の概要について一審原告会社の関係者から報告を受け,何らかの指示等を与えていたことなどを認めるに足りる証拠もなく(一審被告A3は,承継前一審被告A1及び一審被告A2に定期的に報告していた旨供述しているが(甲Aキ12の8,乙D2),取締役退任後のことを述べているものではない。),承継前一審被告A1及び一審被告A2について,当時現職であった一審被告A5らによる意思決定を中止ないし是正させる権限や影響力を有していたとも認められない。
このように,前記1⑵に説示するとおり,損失分離スキームの構築・維持に関して,承継前一審被告A1については平成16年6月29日までの取締役在任中の善管注意義務違反及び一審被告A2については平成17年6月29日までの取締役在任中の善管注意義務違反が認められ,その影響が本件有価証券報告書等の純資産額に一定程度残存していることは否定できないものの,本件罰金等が科されたのは,承継前一審被告A1及び一審被告A2の影響を受けることなく,それとは独立して,一審被告A5らが取締役として判断,意思決定をして虚偽記載がある本件有価証券報告書等を提出した結果であって,これを承継前一審被告A1及び一審被告A2の上記善管注意義務違反の当然の因果の流れということは困難である。
以上によれば,承継前一審被告A1及び一審被告A2による善管注意義務違反行為と本件罰金等の損害との間に相当因果関係を認めることはできないものというべきである。
⑷  一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4について
一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,取締役として,企業の業績を正確に開示させるために,記載内容が正確な有価証券報告書等を作成し,これを提出する義務を負うところ,重要事項に虚偽の記載をした有価証券報告書を作成しこれを提出し,旧証券取引法及び金商法違反行為を行ったものであるから,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反する。実際,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社とともに,旧証券取引法違反及び金商法違反の罪(虚偽記載有価証券報告書提出の罪)で有罪判決を受け,確定しているのであるから,一審被告A5らの上記善管注意義務違反,忠実義務違反と一審原告会社が支払った本件罰金との間には相当因果関係があることは明らかである。また,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,同様に,重要事項に虚偽の記載をした本件四半期報告書を作成しこれを提出しあるいはこれに加功したものであるから,一審被告A5らの上記善管注意義務違反,忠実義務違反と一審原告会社が支払った本件課徴金との間には相当因果関係があることも明らかである(なお,一審被告A3は,平成23年6月29日に取締役を退任し,監査役に就任した者であり,本件四半期報告書の対象となる期間のほとんどは取締役在任中であり,その後についても監査役として監視義務を負う。)。
したがって,一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4は,一審原告会社が支払を余儀なくされた本件罰金及び本件課徴金(合計7億1986万円)相当額の損害を賠償する義務を負う。
⑸  小括
以上によれば,一審原告会社の一審被告A6ら及び一審被告A2に対する第7類型に係る請求(当審における拡張請求を含む。)はいずれも理由がないが,一審原告会社の一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する第7類型に係る請求(当審における拡張請求を含む。)はいずれも理由がある。
5  各請求のまとめ
⑴  第1類型に係る一審原告会社の請求は理由がないから,一審原告会社の控訴を棄却すべきある。
⑵  第5類型に係る一審原告らの請求は,原判決が認容した限度で理由があるから,一審被告A3及び一審被告A4の控訴を棄却すべきである。
⑶  第6類型に係る一審原告会社の請求は,全部理由があるが,第6類型に係る一審原告株主の請求は,一審被告A3及び一審被告A4に対し,586億7296万8936円及びこれに対する遅延損害金を請求する限度で理由があり,その余は理由がない(なお,一審被告A5は,控訴も附帯控訴もしていないから,一審原告株主に不利益に変更できない。)。
⑷  第7類型に係る一審原告会社の請求のうち,一審被告A6ら及び一審被告A2に対する請求は理由がないから,これを認容した原判決を取り消し,一審原告会社の同部分に係る請求及び当審における拡張請求をいずれも棄却すべきである。一審被告A3及び一審被告A4に対する請求は理由があるから,一審被告A3及び一審被告A4の控訴を棄却し,当審における拡張請求を認容すべきである。
⑸  第2事件に係る一審原告株主の請求は理由がないから,一審原告株主の控訴を棄却すべきである。
6  結論
以上の次第であって,第6類型(第1事件及び第4事件)に係る一審被告A3及び一審被告A4に対する一審原告株主の請求は,一部理由がないから,その限度で原判決を変更し,第7類型(第1事件)に係る一審被告A6ら及び一審被告A2に対する一審原告会社の請求はいずれも理由がないからこれを認容した原判決を取り消し,一審原告会社の同部分に係る請求及び当審における拡張請求をいずれも棄却し,同類型に係る一審被告A5,一審被告A3及び一審被告A4に対する一審原告会社の請求は当審における拡張請求を含めて理由があるから,拡張請求を認容し,一審被告A3及び一審被告A4のその余の控訴並びに一審原告会社の控訴をいずれも棄却し,第2事件については一審原告株主の控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第8民事部
(裁判長裁判官 阿部潤 裁判官 嶋末和秀 裁判官 田口治美)

別紙1
別紙2
別紙3

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裁判年月日  平成31年 3月14日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(刑わ)1665号・平29(刑わ)1899号・平29(刑わ)2035号・平29(刑わ)2407号・平29(刑わ)2644号
事件名  詐欺被告事件
文献番号  2019WLJPCA03146015

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成31年 3月14日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(刑わ)1665号・平29(刑わ)1899号・平29(刑わ)2035号・平29(刑わ)2407号・平29(刑わ)2644号
事件名  詐欺被告事件
文献番号  2019WLJPCA03146015

 

主文

被告人を懲役3年6月に処する。
未決勾留日数中240日をその刑に算入する。

 

理由

【罪となるべき事実】
被告人は,「○○2017」及び「大阪○○2017」(以下,「○○」という。)と称するイベントの出店料等の名目で飲食店経営者から金銭をだまし取ろうと考えていたA及びBとの間で意思を相通じて,別表1ないし5記載のとおり,C1ことCらに,平成28年11月上旬頃から平成29年1月中旬頃までの間,那覇市〈以下省略〉等から,大阪市〈以下省略〉「a」店舗内等にいたDらに電話をかけさせるなどし,前記Dらに対し,真実は,○○を開催する意思も能力もなかったにもかかわらず,これがあるように装い,○○を開催する旨のうそを言わせて,○○への出店を勧誘し,前記Dらに○○が開催されるものと誤信させ,よって,別表1ないし5記載のとおり,平成28年11月14日から平成29年1月18日までの間,前記Dらに,○○の出店料及びそれに対する消費税の名目で,被告人らが管理する東京都中央区〈以下省略〉所在の株式会社b銀行c支店に開設されたd株式会社名義の普通預金口座に現金合計1167万0692円を振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。
【証拠の標目】括弧内の符号は証拠等関係カードの検察官請求証拠の番号を示す。また,掲げた証拠は,証拠価値に実質的な差がないと認めるので,特に断りのない限り,原本,謄本又は写しの区別をせずに記載する。
判示事実全部について
・ 被告人の当公判廷における供述
・ 証人E,同Cの当公判廷における供述
・ 被告人の警察官調書(乙2ないし8,19,20,22)及び検察官調書(乙9ないし18,23,24)
・ Aの検察官調書(甲143ないし148)及び警察官調書(甲134,136ないし142)
・ Bの検察官調書(甲158ないし167)及び警察官調書(甲149ないし157)
・ Eの検察官調書(甲170ないし185-甲182の不同意部分を除く)及び警察官調書(甲168,169)
・ Fの検察官調書(甲190ないし199)及び警察官調書(甲186ないし189)
・ C(甲127-不同意部分を除く),G(甲128,129),U1(甲131),U2(甲132),U3(甲215),U4(甲216),U5(甲217),U6(甲218),U7(甲219),U8(甲220),U9(甲221)の検察官調書
・ U10(甲5,6),U11(甲8),U12(甲42,43),U13(甲44ないし46),U14(甲52),U15(甲53,54),U16(甲57),U17(甲66,67),U18(甲72,73),U19(甲82),U20(甲83),U21(甲86),U22(甲105),U23(甲106),U24(甲108),U25(甲112)の警察官調書
・ 履歴事項全部証明書(甲1),所在確認結果報告書(甲2,3,9,41),聴取結果報告書(甲4,63,69,75,84),資料入手結果報告書(甲7,10,55,96,103,121,122,126),電話聴取結果報告書(甲11),証拠品複写報告書(甲47,133),資料入手報告書(甲48,68,74,87,107),電話聴取報告書(甲56),訂正報告書(甲58,135),資料作成報告書(甲85,123ないし125),企業検索結果報告書(甲104),供述調書訂正経緯報告書(甲109),印刷結果報告書(甲119),捜査報告書(甲120,130),資料作成結果報告書(甲321,323)
・ 捜査関係事項照会書(甲39,49,59,61,64,70,76,78,80,88,90,92,94,97,99,101,110,113,115,117,324,326,328,330),同回答書(甲40,50,51,60,62,65,71,77,79,81,89,91,93,95,98,100,102,111,114,116,118,325,327,329,331)
別表1番号1の事実について
・ Dの警察官調書(甲12)
・ 所在確認報告書(甲13),証拠品写真撮影報告書(甲16),複写報告書(甲17)
・ 捜査関係事項照会書(甲14),同回答書(甲15)
別表1番号2の事実について
・ U26の警察官調書(甲18)
・ 訂正報告書(甲19),被害場所確認結果報告書(甲20),資料入手報告書(甲21),証拠品写真撮影報告書(甲22),証拠品複写報告書(甲23)
別表1番号3の事実について
・ U27の警察官調書(甲24)
・ 訂正報告書(甲25),被害場所写真撮影報告書(甲26),証拠品写真撮影報告書(甲29),証拠品複写報告書(甲30),資料入手報告書(甲31)
・ 捜査関係事項照会書(甲27),同回答書(甲28)
別表1番号4の事実について
・ U28の警察官調書(甲32)
・ 訂正報告書(甲33),所在確認報告書(甲34),証拠品写真撮影報告書(甲37),複写報告書(甲38)
・ 捜査関係事項照会書(甲35),同回答書(甲36)
別表2番号1の事実について
・ U29の警察官調書(甲200)
・ 電話聴取結果報告書(甲201),被害場所確認結果報告書(甲202),証拠品写真撮影報告書(甲203),証拠品複写報告書(甲204)
・ 捜査関係事項照会書(甲205),同回答書(甲206)
別表2番号2の事実について
・ U30の警察官調書(甲207)
・ 電話聴取結果報告書(甲208),被害場所確認結果報告書(甲209),証拠品写真撮影報告書(甲210),証拠品複写報告書(甲211),資料入手報告書(甲212)
・ 捜査関係事項照会書(甲213),同回答書(甲214)
別表3番号1の事実について
・ U31の警察官調書(甲223)
・ 写真撮影報告書(甲224),証拠品写真撮影報告書(甲225),証拠品複写報告書(甲226)
・ 捜査関係事項照会書(甲227),同回答書(甲228)
別表3番号2の事実について
・ U32の警察官調書(甲229)
・ 所在確認結果報告書(甲230),証拠品写真撮影報告書(甲231,233),証拠品複写報告書(甲232,234),訂正報告書(甲236)
・ 捜査関係事項照会書(甲235),同回答書(甲237)
別表3番号3の事実について
・ U33の警察官調書(甲238)
・ 電話聴取結果報告書(甲239),所在確認報告書(甲240)
・ 捜査関係事項照会書(甲241),同回答書(甲242)
別表3番号4の事実について
・ U34の警察官調書(甲243)
・ 欺罔場所確認結果報告書(甲245),資料入手報告書(甲248)
・ 捜査関係事項照会書(甲246),同回答書(甲247)
別表3番号5の事実について
・ U35の警察官調書(甲249)
・ 被害場所確認結果報告書(甲250,251),資料入手報告書(甲252)
・ 捜査関係事項照会書(甲253),同回答書(甲254)
別表4番号1の事実について
・ U36の警察官調書(甲255)
別表4番号2の事実について
・ 答申書(甲256)
別表4番号3の事実について
・ 答申書(甲257)
・ 電話聴取報告書(甲258)
別表4番号4の事実について
・ 答申書(甲259)
・ 電話聴取報告書(甲260)
別表4番号5の事実について
・ 答申書(甲261)
・ 電話聴取報告書(甲262)
別表4番号6の事実について
・ 答申書(甲263)
・ 電話聴取報告書(甲264)
別表4番号7の事実について
・ 答申書(甲265)
・ 電話聴取報告書(甲266)
別表5番号1の事実について
・ 答申書(甲267)
・ 電話聴取報告書(甲268)
別表5番号2の事実について
・ 答申書(甲269)
別表5番号3の事実について
・ 答申書(甲270)
・ 電話聴取報告書(甲271)
別表5番号4の事実について
・ 答申書(甲272)
別表5番号5の事実について
・ 答申書(甲273)
・ 電話聴取報告書(甲274)
別表5番号6の事実について
・ 答申書(甲275)
・ 電話聴取報告書(甲276)
別表5番号7の事実について
・ 答申書(甲277)
・ 電話聴取報告書(甲278)
別表5番号8の事実について
・ 答申書(甲279)
・ 電話聴取報告書(甲280)
別表5番号9の事実について
・ 答申書(甲281)
別表5番号10の事実について
・ 答申書(甲282)
別表5番号11の事実について
・ 答申書(甲283)
・ 電話聴取報告書(甲284)
別表5番号12の事実について
・ 答申書(甲285)
・ 電話聴取報告書(甲286)
別表5番号13の事実について
・ 答申書(甲287)
・ 電話聴取報告書(甲288)
別表5番号14の事実について
・ 答申書(甲289)
・ 電話聴取報告書(甲290),電話聴取結果報告書(甲291)
別表5番号15の事実について
・ 答申書(甲292)
・ 電話聴取報告書(甲293)
別表5番号16の事実について
・ 答申書(甲294)
別表5番号17の事実について
・ 答申書(甲295)
・ 電話聴取報告書(甲296)
別表5番号18の事実について
・ 答申書(甲297)
・ 電話聴取報告書(甲298)
別表5番号19の事実について
・ U37の警察官調書(甲299)
別表5番号20の事実について
・ 答申書(甲300)
・ 電話聴取報告書(甲301),電話聴取結果報告書(甲302)
別表5番号21の事実について
・ 答申書(甲303)
別表5番号22の事実について
・ 答申書(甲304)
・ 電話聴取報告書(甲305)
別表5番号23の事実について
・ 答申書(甲306)
・ 電話聴取報告書(甲307)
別表5番号24の事実について
・ 答申書(甲308)
・ 電話聴取報告書(甲309)
別表5番号25の事実について
・ 答申書(甲310)
・ 電話聴取報告書(甲311)
別表5番号26の事実について
・ 答申書(甲312)
・ 電話聴取報告書(甲313),電話聴取結果報告書(甲314)
別表5番号27の事実について
・ 答申書(甲315)
・ 電話聴取報告書(甲316)
別表5番号28の事実について
・ 答申書(甲317)
・ 電話聴取報告書(甲318)
別表5番号29の事実について
・ 答申書(甲319)
・ 電話聴取報告書(甲320)
【事実認定の補足説明】
第1  争点
本件における争点は詐欺の故意及び共謀の成否であり,被告人は,○○を開催しないで出店料等(以下,消費税も含めて単に「出店料」ともいう。)をだまし取ろうと考えたことはなく,共謀したこともない旨述べ,弁護人もこれを前提として無罪の主張をしている。
第2  前提事実
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる(特に断りのない限り,以下の日付は平成28年のものである。)。
1  被告人らの関係等
B(以下「B」という。)は,イベントの企画運営等の業務を行う株式会社e(以下「e社」という。)を設立し,その代表取締役を務めていた。
被告人は,A(以下「A」という。)及びBと中学校の同級生であり,その頃から交友関係があったが,イベントの企画運営等に関与したことはなかった。
2  ○○の計画状況等
(1) A及びBは,「○○」と称するフードイベントに対する出店希望者を募ることを計画した(この計画の実現可能性やこれに関する被告人らの認識については争いがあるが,この点に関する判断は下記第3で示すこととし,以下,単に「○○」と呼称することにする。)。
そこで,Aは,4月上旬頃,○○用のホームページの作成を知人に依頼し,さらに,6月頃,その主催会社とするためにd株式会社(以下「d社」という。)を別の知人から代金100万円で取得した。被告人は,この頃,Aから「俺は保証協会のブラックリストに載っているから,やれない」などと説明を受けてその代表取締役に就任するよう誘われ,これを承諾した。
なお,d社は,いわゆる休眠会社であり,何ら資産を有しておらず,定款や決算書類等もなく,その名義では携帯電話機や事務所賃貸借の契約すらできない状態であった。
(2) Aは,7月頃,E(以下「E」という。)に対し,○○の出店希望者向けの開催概要を記載したパンフレット(出店者概要)の作成を依頼し,Eはこれを引き受けた。このパンフレットは,東京会場の「○○2017」及び大阪会場の「大阪○○2017」についてそれぞれ作成され,上記ホームページにも掲載されたが,その内容は以下のとおりである(下記アの開催会場・期間を除き,両会場ともその内容は概ね共通である。)。
ア 開催会場・期間
・東京会場 f施設内のg広場・h広場
前期:平成29年2月13日~2月17日
後期:平成29年2月20日~2月24日
・大阪会場 i施設内のj広場
前期:平成29年2月17日~2月19日
後期:平成29年2月20日~2月24日
イ 出店料金等
・一般募集枠:70店舗~100店舗
出店料金が1期間当たり40万円(税別)
・特別募集枠:先着50店舗限定
下記①の出店料金を含め,4つの優待特典付き
①出店料金が1期間当たり20万円(税別)
②期間内の売上が75万円を下回った場合には出店料金の全額返金
③出店に必要な機材等の無償提供
④1店舗当たり3人の学生ボランティアスタッフの用意等のサービス
3  飲食店経営者に対する出店勧誘状況等
(1) A及びBは,H(以下「H」という。)ら知人をテレアポスタッフ(飲食店経営者に○○への出店勧誘を行う従業員の総称)に勧誘し,東京都豊島区△△及び沖縄県那覇市に事務所を構えた上(以下,それぞれ「△△事務所」及び「沖縄事務所」という。),7月頃から△△事務所においては数名で,8月頃から沖縄事務所においても約20名の態勢で飲食店経営者に対する出店勧誘を開始した。
なお,Bはe社における代表取締役を務める傍ら,△△事務所にほぼ常勤していた。Aは沖縄事務所に常勤してテレアポスタッフを統括しており,その人件費を含め同事務所の経費等の支払も行っていた。
(2) テレアポスタッフは,案内スタッフマニュアルに基づき,一般募集枠ではなく,「先着50店舗限定」の特別募集枠のみによる勧誘を指示されており,特別募集枠の特典としてパンフレットに記載されていたもの以外にも,出店者の各店舗からの保冷車による食材運搬,宿泊施設の無償提供等の約束もすることなどが指示されていた。このような出店勧誘の後,飲食店経営者に対して上記パンフレット等が送付された。出店を決めた飲食店経営者は,送付を受けた出店申込用紙に所定事項を記入して申込みをするとともに,判示d社名義の普通預金口座(以下「本件口座」という。)に出店料を振り込んでいた。
その結果,平成29年1月頃には,特別募集枠での出店申込みは,東京会場分が297店舗,大阪会場分が199店舗に上り,振り込まれた出店料も合計約1億3500万円に達した(なお,10月末時点―検察官が被告人について詐欺罪の成立を主張する時点である11月上旬頃の直前に当たる時期―においても,東京会場分が140店舗,大阪会場分が25店舗と,合計して165店舗を超える店舗数となっていた。)。
なお,A及びBは,出店勧誘に際して,テレアポスタッフに出店者数の上限等については特に指示するなどしていなかった。
(3) テレアポスタッフに対しては,1名当たり1000円以上の時給に加えて,出店申込み1件当たり概ね数千円から数万円の成功報酬が支払われていた。この成功報酬の額は,A及びBが決定していた。
そして,○○の開催延期を発表した頃までに,各事務所における賃料や人件費等として,沖縄事務所において約3400万円,△△事務所において約3900万円の支出がなされた。
(4) 被告人は,△△事務所において,当初は「I」の偽名を用いて出店勧誘を行っていた。被告人は,Aから,出店申込み1件当たり20万円の成功報酬を提示されたが,これに対して採算が取れないのではないかとの懸念を示したところ,「お前は友達だからいいんだ。」などと説明された。
8月頃以降,被告人は本件口座の管理を任されるようになり,A及びBに対して通帳の残高総額を確認できる写真等を送信することによって,三者間でこれに関する情報を共有していた。これに伴い,被告人は,出店勧誘業務から離れたが,収入を確保するため,Bが勧誘してきたG(以下「G」という。)に出店勧誘業務を引き継ぎ,Gの勧誘による出店申込みに係る成功報酬については,1件当たり被告人に15万円,Gに4万円をそれぞれ支払う扱いとされた(被告人は,受領した合計金額が約540万円である旨述べる。)。
4  ○○の開催準備状況等
フードイベントの開催に際しては,具体的な企画書や運営実施マニュアル等を作成した上で,これを基に,開催会場となる施設担当者や機材リース・会場設営会社等との打合せ,会場を管轄する関係機関(保健所,警察,消防)への許可申請ないし届出等が必要となるところ,東京会場の「○○2017」及び大阪会場の「大阪○○2017」に関する開催準備の状況等は以下のとおりであった。これらの開催準備は,主にBの判断と指示に基づき,Eが外注先業者や関係機関との窓口となって進められていた。被告人は,その詳細まで知る立場にはなかったものの,△△事務所に勤務する中で,○○の準備がほとんど進んでいないことを危惧するようになっていた。
(1) 「○○2017」における準備状況等
ア 開催会場の確保
○○のパンフレットやホームページ上においては,東京会場として,東京都調布市所在のf1施設(通称「f施設」)のg広場及びh広場が予定されていた。
A,B及び被告人らは,f施設側に会場の空き状況等を照会し,7月頃に下見をした。その後の11月上旬頃,d社によりg広場及びh広場の仮予約がされたが,結局,前期日程分のg広場使用料のみの支払がされ,h広場の仮予約は解除された。
イ 機材リース・会場設営会社との打合せ
Eは,k株式会社の担当者と打合せをしており,11月下旬頃,同社から特別募集枠に係る機材の一部のリース費用として1店舗当たり約9万円(税別)の見積書が示された。これに対して,d社側から見積額等に関する交渉の申入れがされることはなかった。
ウ 関係機関に対する許可・届出申請等
B及びEは,11月以降,多摩府中保健所担当者から,営業許可が必要になる旨の指導を受け,方向性が決まったら連絡するようにも言われていたが,特にこれに対応することもないまま,○○の開催延期発表に至った。
このほか,d社から,調布市観光協会に入会手続・登録がされたが,後援を受けるために必要とされる書類の提出はされず,また,東京消防庁調布消防署にも11月上旬頃に電話相談がされたのみでそれ以降の連絡はされなかった。
(2) 「大阪○○2017」における準備状況等
ア 開催会場の確保,機材リース・会場設営会社との打合せ
○○のパンフレットやホームページ上においては,大阪会場として,大阪市所在のi施設「j広場」が予定されていた。
B及びEは同会場の下見に赴いており,d社によって同会場の仮予約がされていた。Eと同会場担当者との間で12月15日に打合せを実施することが取り決められたが,この際,Eは,具体的な企画書や運営実施マニュアル等を打合せに持参するよう求められた。
B及びEは,10月中旬頃,l株式会社(機材リース・会場設営会社であり,以下「l社」という。)の担当者と打合せを行い,10月18日には,同担当者から,特別募集枠に係る機材リース費用として1店舗当たり約15万円(税込約16万円)の見積書が示された。その後,d社側から,この見積額に関する交渉等の申入れはされなかった。
Eは,Bの指示により12月15日の打合せ(l社担当者も出席した。)に一人で出向いたが,持参を求められていた具体的な企画書等を作成・持参していなかったため,i施設担当者から次回の打合せまでに必ず作成するよう求められた。また,Eが,会場設営等の準備期間を開催前日の1日のみとする意向を伝えたところ,両担当者から,準備期間として短すぎるとして反発を受けた。結局,その後の12月20日頃,l社担当者は,Eに対し,正式に○○の会場設営等への協力を断った。
イ 関係機関に対する許可・届出申請等
d社関係者から,10月中旬頃以降,大阪市保健所に対して営業許可の申請方法等に関する問合せ,大阪府此花警察署に対して事前相談がされたが,いずれもその後の連絡はされなかった。
5  開催延期発表に至るまでの経緯
(1) 被告人は,7月ないし8月頃,A及びBから「代表取締役は,そのうちHになってもらう予定で,Hにも話している。」などと言われてd社の代表取締役から退任することを促された。その後の10月中旬ないし下旬頃,被告人は,Aから新しい代表取締役の候補者を紹介されたこともあったが実現せず,また,AとBにおいてHに代表取締役への就任を持ちかけもしたがこれも断られた。そのような中,被告人は,11月上旬頃,Bから「イベントが失敗したら破産になるから絶対代わった方が良い」などと言われ,代表取締役の交代を改めて勧められた。
そのため,被告人は,11月中旬頃ないし下旬頃,F(9月頃から,△△事務所において「F1」の偽名を用いて出店勧誘を行っていた。以下「F」という。)に対し,「イベントが失敗したらF君も破産することになるかもしれないけど,F君は既にキャッシングの審査も通らないと言っていたし,破産しても影響はないんじゃない」などと話した上で,100万円を支払うことを条件にd社の代表取締役に就任するよう依頼したところ,Fはこれに応じた。その後,被告人は,Fに対して,本件口座から引き出した100万円を数回に分けて支払った。
(2) 被告人は,Aから,本件口座からまとまった現金を引き出すよう指示を受け,さらに,Bからも,二,三百万円を残して本件口座から現金を引き出すよう指示を受けた。
そこで,被告人は,11月15日に1000万円,同29日に1000万円,12月15日に1000万円,同29日に2000万円,平成29年1月13日に2000万円(合計7000万円)を本件口座から引き出した。
被告人は,この現金の大部分を自宅金庫に保管していたが,○○開催延期発表前の平成29年1月上旬頃から中旬頃にかけて,Aに3500万円,Bに1500万円をそれぞれ交付した。その結果,平成29年1月17日の開催延期発表時点における本件口座の預金残高はわずか約9000円のみとなっていた。
他方,Aは,11月から12月にかけて,休眠会社であった株式会社m(変更前の商号は株式会社m1)を譲り受けて沖縄事務所のテレアポスタッフを代表取締役に就任させるとともに,被告人に対し,本件口座から990万円を引き出してm社名義の預金口座に入金するよう指示した。被告人は,その頃,この指示に従った出金・入金を行ったが,平成29年1月中旬頃,m社名義の預金口座に残っていた500万円を自らの取り分としようと考え,Bにその旨を確認した。
(3) 被告人は,12月初旬頃,△△事務所において,テレアポスタッフがいる中,「(○○は)やらない」旨の発言をした。その場に居合わせたFがこれをBに伝えると,Bは,「必ずやるから大丈夫」などと言ってテレアポスタッフをなだめた。
(4) 被告人は,A及びBの指示に従い,12月頃から平成29年1月上旬頃にかけて,△△事務所及び沖縄事務所の賃貸借契約についてそれぞれ解約通知を行い,両事務所の閉鎖の準備を進め,平成29年1月中に各事務所は引き払われた。また,B及び被告人の指示で,△△事務所のスタッフらによって出店申込用紙や通帳等が処分された。
d社は,平成29年1月17日付けで,ホームページを通じて○○の開催延期を発表した。この頃,A及びBの指示によって,関係者間で連絡用に使用していたLINEメッセージが消去するなどされた。
第3  詐欺の故意及び共謀に関する判断
1  弁護人は,Bの供述に基づく○○の客観的収支予想を前提に,そもそも○○が開催不可能な企画ではない旨を主張しているから,まず,この点を検討しておくが,主催会社のd社の実績・資産等,○○の計画内容,その実現に見込まれる収支状況等を前提として常識的に考えれば,以下のとおり,その開催を実現することは不可能あるいは著しく困難であったと評価することができる。
(1) 上記第2に認定したとおり,出店料として合計約1億3500万円が集められているが,この出店料収入は,出店申込み1件当たりの出店料金額を定め,出店申込数を見込んでおけば容易に予測することが可能であり,しかも,主催者の判断により○○の開催準備のために自由に支出できる資金となる。
他方,開催に必要とされる支出には種々の項目があるが,少なくとも△△事務所及び沖縄事務所の固定経費(賃料や人件費等)の予測は比較的容易であり,しかも,テレアポスタッフの成功報酬額等の人件費は,主催者側の判断次第でその支出を抑制することすら可能である。この支出額は,上記第2に認定したとおり,沖縄事務所分が約3400万円,△△事務所分が約3900万円の合計7300万円に上っている。このほか,既に予定されていた各会場の使用料は,東京会場分が合計540万円(前期分の270万円は支払済み),大阪会場分が約270万円であった。
結局,以上のように比較的容易に収支予測が可能なもののみからでも,○○の開催準備資金としてその差額である約5000万円余り(1億3500万円-8110万円)が残るということになるから,他の開催経費をこの範囲に収める必要があったことが明らかである(なお,経費の支払時期を○○開催後(後払い)とすることによる対応の可否については下記(3)で別途検討する。)。
(2) そこで,次に,他の開催経費の計算・予測の状況等についてみる。
○○の計画及び勧誘においては,特別募集枠の設定が特徴的であり,先着50店舗限定というのに出店者の勧誘はほとんど全て特別募集枠によって行われているので,まずこの点から検討する。この特別募集枠は一般募集枠の半額の出店料で多岐にわたる手厚い特典を出店者に付与するものであるのに,計画・出店勧誘開始の段階までにこれらの支出項目について業者に見積もりを依頼したり,あるいは,概算であっても自ら収支計算を行ったりしたという形跡が一切ない。そして,このうち特別募集枠に係る機材リース費用については後に見積書の提出を受けているが,その金額は大阪会場に関して1店舗当たり約15万円(税込約16万円)に上っており,これを出店申込数(496店舗)全てに提供すれば,約8000万円に達し,それだけでほぼ残りの開催準備資金を使い切るどころか,大幅な資金不足に陥る事態となる。しかるに,主催者側においては,このような段階に至っても,見積金額の減額について交渉をしたり,出店者に対して現実に必要となる機材について照会・確認したりするなど,支出の見込みを検討したという形跡がない。
さらに,上記の機材リース費用以外にも特別募集枠には種々の特典内容が盛り込まれている上,グルメイベント開催のための一般的な経費(本部・ステージ等の会場設営機材費,電気・水道工事費,廃棄物処理費,設営・撤去人件費,夜間警備費,運営・誘導スタッフ人件費等)として相当の費用を要することが当然に見込まれる。しかるに,○○の計画・出店勧誘開始の段階までに,主催者側において,これらも含めた支出総額を念頭に置いて収支計算・予測を検討したという様子も全くみられない。
(3) なお,Bは,○○においてはd社に出店者の売上高の10パーセントに当たるロイヤリティ等の収入が見込まれていたから,これを含めれば,収支は見合うことになる旨を供述している。
当然のことながら,ロイヤリティは○○開催後にしか得ることができないものであるから,主催者が開催準備資金として自由に支出できる出店料収入を超える部分については,機材リースや会場設営等の外注先との関係で,その支払時期を○○開催後(後払い)とすることを受け入れてもらうほかない。しかしながら,d社は資産がなく,イベント企画運営等の実績も全くない会社であり,その名義では事務所賃貸借等の契約すらできない状態であった。そのようなd社を主催会社としておきながら,唯一イベント企画運営等の経験を持つBは,わざわざ「B1」なる偽名を用い,あるいはHの名前を騙るなどして自身の関与を殊更に隠していたというのであるから,外注先業者がBの手腕に期待を寄せるということもあり得ない。しかも,そもそも上記のとおり収支計算・予測がされておらず,外注先業者を含め対外的に収支の見通しを説明することができる状態にはなかったのであるから,費用後払いの交渉がたやすく実現するとは到底考えられない。
(4) 以上によると,○○は,少ない収入の割に支出が大きい特別募集枠の仕組みを設け,特別募集枠によってほとんど全ての出店者を勧誘するという計画であったにもかかわらず,その収支計算・予測が全くといってよいほどされていない。そして,特別募集枠に係る機材リースに関する見積金額を見るだけでも,出店料収入に比して特別募集枠の特典のための支出が過大であり,これを含めた開催経費を後払いにするという対応がほぼ不可能であることは余りにも明らかといえる。結局,○○の計画は,出店料収入(開催準備資金)と見込まれる経費が見合うものではなく,計画に従って開催準備を進めていったとしても早晩破たんする性質のものであったといえ,これを開催することは不可能あるいは著しく困難であったということができる。
2  もっとも,上記1に検討した収支見込み等については○○を計画・主導していたA及びBはともかく,被告人においてその詳細まで知り得る立場になかったことは弁護人が指摘するとおりである。そこで,上記第2に認定した被告人の行動等を前提に,○○開催の実現可能性に関する認識の内容・程度についてみる。
被告人は,イベント企画運営等の経験がないにもかかわらず,Aの誘いに応じて,主催会社の代表取締役に就任し,その際,同社が携帯電話機や事務所賃貸借の契約すらできない状態であることを知っていた。そして,飲食店経営者に対する出店勧誘を開始して間もない7月ないし8月頃の段階から,早くも,A及びBから代表取締役の交代を促されていた。また,被告人は,8月以降,△△事務所において自らもテレアポスタッフとして行っていた出店勧誘を通じて,特別募集枠の特典内容等(パンフレット記載の特典のほか,出店勧誘時に提示したものも含む)はもちろん,ほぼ全ての勧誘が特別募集枠によって行われていることを知っており,Aから提示された高額の成功報酬額(出店申込み1件当たり20万円。特別募集枠の出店料とほぼ同額である。)に対して採算が合うのか懸念していたのであるから,○○の収支見込みにも不安を抱いていたといえる。しかも,その後,被告人は,△△事務所における勤務の中で○○の準備がほとんど進んでいないことを危惧するようになっていた。
以上のとおり,被告人は,○○の計画立案や準備等に実際に関与したわけではなく,その詳細まで知る立場にはなかったものの,出店勧誘に関わり始めて以降,○○の収支見込みや準備状況等を危惧し,○○の開催に不安を抱いていたことが認められる(被告人も,公判でその旨を自認し,捜査段階においては具体的な供述(乙6,24)もしている。)。
3  そして,ここに以下の事情が加わったことを考慮すれば,少なくとも11月上旬頃の時点までには,被告人において○○が開催されない可能性が高いことを認識するに至ったこと,つまり,本件詐欺の未必の故意を認定することができる。
(1) 被告人は,○○を計画・主導していたA及びBから,10月中旬頃から11月上旬頃にかけて,被告人に代わる候補者を検討したが叶わなかったことを説明された上で改めて主催会社の代表取締役の交代を促され,11月上旬頃には,Bから,○○が失敗する可能性を告げられるとともに,改めて強く交代を勧められるに至っている。
A及びBは,○○を計画・主導して被告人を誘い入れたものであって,この両名が揃って10月中旬頃以降に主催会社の代表取締役の交代を再三促してきたこと自体,○○の先行きを強く懸念させる事情である。そして,上記2のとおり,被告人は①特別募集枠の特典内容やそれによる募集状況,自己に対する成功報酬額の過大さ等から○○の採算(収支)を懸念し,②準備もほとんど進んでいない状況を危惧していたのであるから,A及びBの上記言動は,被告人にとって唐突なものではなく,既に抱いていた上記の懸念・危惧が現実のものであること,すなわち,○○が開催されない可能性が高いことに思いを至らせるのに十分なものであったと考えられる。この点については,被告人自身も捜査段階において,(Bの話を聞いて)「頼りになるBが心配になるくらい準備が進んでいないと思い,ものすごく不安になった」(乙5),「もしかしたら○○が開催できないのではないかと思った」(乙24)などと,まさしく上記推認と同趣旨の供述をしている。
これに対し,被告人は,公判において「○○は開催されるにしても,イベント業者がいい加減な運営をして,責任を追及されることや,最低保証売上高に達しない出店者が増えて出店料の返金が膨らむことを心配していた」旨の弁解をしている。しかし,準備が進んでいないことは不開催に直結するものであるのに,イベントの開催後に生じ得る事態しか危惧していなかったという上記弁解は不合理である上,捜査段階の供述を変更した理由も明らかでないから,これを信用することはできない。
(2) そして,被告人は,主催会社の代表取締役交代の前後を通じて本件口座(上記1のとおりこの預金は,○○の出店料であり,開催準備資金となるものである。)の管理を続けていたが,以下の預金の引き出し状況等をみると,○○の開催準備資金を流用,隠匿あるいは分配したとしか考えられないものが見受けられる。これらは,上記時点までに詐欺の未必的故意が生じていたことの推認を裏付ける事情ということができる。
ア まず,被告人は,上記のとおり主催会社の代表取締役交代を促された後,Fに100万円を支払う条件を提示してこれを持ち掛けた。これは,A及びBによる代表取締役交代の勧めを深刻に受け止めた結果であるとともに,○○の開催準備に充てられるべき出店料を取り崩して他に流用する行為であったといえる。
イ 被告人は,11月15日以降,A及びBの指示によって,本件口座から合計7000万円もの預金を引き出し,その大部分を自宅金庫に保管した。これが○○開催のために必要な資金の移動・管理であるとは到底考えられないから,○○の不開催が露見した事態に備えた資金の隠匿ではないかとの疑いが生じて当然である。しかるに,被告人において,A及びBにこのような不審さを問い質したという形跡が見当たらない。
ウ さらに,被告人は,Aの指示に従って,11月頃から12月頃にかけて,本件口座から990万円を引き出してm社名義の口座に同額を入金した。これまた○○の開催準備資金の流用であるのに,被告人はAの指示に唯々諾々と従っている。
エ そして,○○開催延期発表前の平成29年1月上旬頃から中旬頃にかけて,被告人は,上記イの自宅金庫保管分の現金からAに3500万円,Bに1500万円をそれぞれ交付するとともに,その頃,m社名義の上記口座に残っていた500万円を自己の取り分とすることをBに確認するなどしており,利益の分配と考えられても仕方のない行為にさえ及んでいる。
(3) この他,被告人は,12月頃に「(○○は)やらない」などと上記推認に合致する趣旨の発言をしたこともあり,さらに,捜査段階において11月には詐欺の未必的故意があったことを認める趣旨の供述もしている(乙22)。
4  これに対し,弁護人は,被告人が①11月頃にイベントが失敗する可能性を聞いても主催会社の代表取締役の交代をしただけで,イベントから脱退する選択はしていないこと,②テレアポスタッフに○○が開催されないという不安を抱かせるだけであるのに,「(○○は)やらない」旨の発言をしていること,③○○の開催延期発表後も飲食店経営者らに出店料の返金作業を行っていたことなどを指摘した上で,これらは,A及びBが詐欺を行うつもりであることを被告人が確信していたことと相容れない行為であり,詐欺の確定的認識がないのにその共謀を認定することは許されないと主張している。
しかしながら,弁護人の上記指摘は,○○の不開催に関する確定的な認識の認定を妨げるものにとどまり,その未必的な認識があったことを前提にしても説明が可能な事情にすぎない。また,共謀者の故意が未必的故意にとどまるときにも,これにつき共謀共同正犯が成立することは最高裁判所の判例(最高裁平成19年(あ)第285号同年11月14日第3小法廷決定・刑集61巻8号757頁)に照らして明らかであるから,この点に関する弁護人の主張は採用できない。
第4  結論
以上のとおり,被告人は,A及びBから○○が失敗する可能性を告げられて代表取締役の交代を促された11月上旬頃までには,それ以前の状況等と相まって,○○が開催されない可能性が高いことの認識,つまり,詐欺の未必的故意を有するに至ったと認めることができ,その限度においてA及びBとの間で意思を通じたことも認定することができる(なお,E及びFについては,○○に関与した立場・態様等に照らして,詐欺の故意及び共謀を認定することはできない。)。
したがって,11月上旬頃以降の出店勧誘について判示のとおり詐欺罪が成立する。
【法令の適用】
罰条 判示各別表の番号ごとにそれぞれ刑法60条,246条1項
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い別表5番号14の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
【量刑の理由】
本件は,○○と称するフードイベントの出店料名目で,日本各地の飲食店経営者らから金銭を詐取したという組織的・職業的な犯行である。その態様は,飲食店経営者に対して魅力的な各種特典を提示して出店を勧誘するという計画的にして巧妙なものである。被告人が関与した判示事実の被害者は約40名,被害額は合計約1100万円余りにのぼっており,その結果は重い。
被告人は,本件を計画・主導した共犯者2名との関係においては,全容を知らされないまま犯行に誘い込まれ,詐欺の故意が生じて以降もその指示に従うという従属的な立場にあったといえる。もっとも,被告人は,詐取金が振り込まれる預金口座の管理を担当してその隠匿・分配に当たる行為を行うなどし,自らも約500万円を得る見込みを立てていた。このような役割や分配金額等によると,その刑事責任は相応に重い。
他方,被告人のために酌むべき事情として,本件後に破産宣告を受けた主催会社の破産手続(平成29年5月時点での届出債権額は約7800万円)の過程で1000万円を支払うことによって被害の弁償に一定の寄与をしたこと(なお,これとは別にBから2500万円の支払いがされている),詐欺の故意を否定してはいるものの,事実関係について概ね素直に供述しており,反省・謝罪の態度を示していること,その母親が上記1000万円の一部を用立てるなどして被告人の身を案じていること,被告人に前科がないことなどを指摘することができるが,この点を考慮しても,主文の刑は免れない。
(求刑;懲役6年)
(検察官廣澤英幸・萩原由衣,弁護人(私選)V 各出席)
東京地方裁判所刑事第3部
(裁判長裁判官 丹羽敏彦 裁判官 内山裕史 裁判官 上田佳子)

 

〈以下省略〉

 

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裁判年月日  平成31年 2月27日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  決定
事件番号  平30(ラ)382号
事件名  株式売買価格決定に対する抗告事件
裁判結果  抗告棄却  上訴等  許可抗告、特別抗告  文献番号  2019WLJPCA02276001

裁判経過
第一審 平成30年 1月29日 東京地裁 決定 平28(ヒ)112号 株式売買価格決定申立事件

出典
金商 1564号14頁
資料版商事法務 420号222頁
ウエストロー・ジャパン

評釈
弥永真生・ジュリ 1534号2頁
岩田合同法律事務所・新商事判例便覧 3346号(旬刊商事法務2199号)
水野信次・銀行法務21 843号66頁

参照条文
会社法179条の8第1項

裁判年月日  平成31年 2月27日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  決定
事件番号  平30(ラ)382号
事件名  株式売買価格決定に対する抗告事件
裁判結果  抗告棄却  上訴等  許可抗告、特別抗告  文献番号  2019WLJPCA02276001

シンガポール〈以下省略〉
抗告人 X社
同代表者ディレクター A
同代理人弁護士 赤木貴哉
清野訟一
西岡祐介
川村一博
同復代理人弁護士 大塚和成
大阪市〈以下省略〉
利害関係参加人 Z相互会社
同代表者代表取締役 B
同代理人弁護士 荒井紀充
門田正行
岡野辰也
木村聡輔
田島弘基
大澤大
桑原聡子
関口健一
渡辺邦広
朽網友章
金村公樹

 

 

主文

1  本件抗告を棄却する。
2  抗告費用は,抗告人の負担とする。

 

事実及び理由

第1  抗告の趣旨
1  原決定を取り消す。
2  抗告人が所有するa株式会社の株式について売買価格の決定を求める。
第2  事案の概要
1  本件は,利害関係参加人が,a株式会社(以下「対象会社」という。)を子会社化する取引(以下「本件経営統合」という。)の一環として,対象会社の発行済株式の全部(対象会社が保有する自己株式を含まない。以下,同じ。)の公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)に引き続き実施した会社法179条1項に基づく特別支配株主による株式売渡請求(以下「本件売渡請求」という。)に対し,売渡株主である抗告人が,同条の8第1項に基づき,自己が保有する対象会社の普通株式の売買価格の決定を求める事案である。
原審は,抗告人が保有する対象会社の普通株式の売買価格は本件公開買付けにおける買付価格(以下「本件買付価格」という。)と同額の1株につき560円とする旨の決定をしたところ,これを不服とする抗告人が抗告した。
2  前提事実
前提事実は,原決定「事実及び理由」欄の第2の2(原決定2頁14行目から9頁16行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
3  争点及びこれに関する当事者の主張
(1)  本件の争点及びこれに関する当事者の主張は,後記(2)に当審における当事者の主張を摘示するほかは,原決定「事実及び理由」欄の第2の3(原決定9頁17頁から22頁12行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)  当審における当事者の主張
(抗告人)
ア 本件株式の売買価格の決定方法について
本件は,利害関係参加人が対象会社を子会社化する取引(本件経営統合)の一環として,非上場会社である対象会社の株式の公開買付け後に引き続き特別支配株主である利害関係参加人が公開買付けに応じなかった株主に対して売渡請求をするという公開買付前置型キャッシュアウトの事案であり,しかも,後記のとおり,本件経営統合においては,本件公開買付け後,利害関係参加人から同買付けに応じた従前の株主のうち株式会社b(以下「b社」という。)外○○グループに属する株主(以下「本件再取得株主」という。)に対して対象会社の株式の譲渡がされること(以下「本件再取得」という。)が予定されていたため,本件再取得株主は,対象会社の他の一般株主と異なり,本件再取得によって保有することになる株式につきシナジー等の利益を享受する可能性があるという客観的利益状況があり,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に構造的な利益相反関係が生じるものであった。
ところで,株式の公正な価格の決定に関する裁判所の合理的裁量の在り方について判示した最高裁決定としては,独立当事者間における共同株式移転の事案に関する最高裁平成23年(許)第21号,同第22号同24年2月29日第二小法廷決定・民集66巻3号1784頁(以下「テクモ最高裁決定」という。)と,株式会社の株式の相当数を保有する株主が当該株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引の事案に関する最高裁平成28年(許)第4号ないし第20号同年7月1日第一小法廷決定・民集70巻6号1445頁(以下「ジュピターテレコム最高裁決定」という。)があり,前者のテクモ最高裁決定は,相互に特別の資本関係がない会社間において,一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合には,特段の事情がない限り,当該株式移転における株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率は公正なものである旨判示しているが,同決定は,上場会社の株式(以下「上場株式」という。)について株式等の割当てに関する比率が争われた事案における判断であり,本件のように,市場株価という指標が存在しない非上場会社の株式(以下「非上場株式」という。)についてのものではなく,また,公開買付前置型キャッシュアウトの事案についてのものでもないから,その判断枠組みが本件に当然に当てはまるというわけではない。しかも,本件公開買付けにおいては,上記のとおり,本件再取得株主とその他の一般株主との間に構造的な利益相反関係が生じるなどしている。
また,後者のジュピターテレコム最高裁決定は,本件と同じ公開買付前置型キャッシュアウトの事案(ただし,本件とは異なり,多数株主による完全子会社化に向けた事案)につき,公開買付けを行った多数株主と少数株主の間に利益相反関係が存在したとしても,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り,裁判所は,上記株式の取得価格を上記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である旨判示し,利害関係参加人は,同決定はテクモ最高裁決定を前提とするものであり,しかも,本件は,テクモ最高裁決定の事案と同様,本件公開買付けが行われるまで,利害関係参加人と対象会社との間に資本関係がなく,また,利害関係参加人と対象会社の役員との間にも利害関係がなかったもので,利害関係参加人と対象会社は構造的な利益相反が生じるおそれのない相互に独立した会社であったから,テクモ最高裁決定の射程は本件にも及び,一般に公正と認められる手続により行われた本件公開買付け後の株式売買価格は本件買付価格と同額とするのが相当である旨主張する。
しかし,ジュピターテレコム最高裁決定の事案も,テクモ最高裁決定の事案と同様,上場株式について取得価格が争われた事案であり,また,本件とは異なる多数株主によるキャッシュアウトの事案であるから,直ちには,本件のような多数株主によらない公開買付前置型キャッシュアウトの事案にもテクノ最高裁決定の判断枠組みがそのまま当てはまるとはいえない。
利害関係参加人は,上記いずれの最高裁決定の趣旨も本件のような非上場株式についてこそ当てはまる旨主張するが,上場株式の場合には,市場株価という株主に最低限保証されるべき価値(いわゆるナカリセバ価値)を示す指標が客観的に存在し,市場株価と乖離する価格を採用しづらく,濫用もされにくいため,手続面から価格の公正性を判定することの妥当性が認められるが,非上場株式の場合にはこのような指標は存在しないから,手続面から価格の公正性を判定することの妥当性は認められない。ジュピターテレコム最高裁決定の補足意見は,「株式価格の算定の公正さを確保するための手続等が講じられた場合にも,・・・株式価格について一義的な結論を得ることは困難であり,一定の選択の幅の中で関係当事者,株主の経済取引的な判断に委ねられる面が存するといわざるを得ない。」と述べているところ,裁判所が価格決定の審理において取締役等の判断を尊重することができるのは,それが「一定の幅の中」で選択された価格であるからであり,上場株式については「一定の幅の中」であることについて市場株価という客観的指標による裏付けを得ることができるが,非上場株式についてはこのような指標は存在せず,そのため,非上場株式の評価は評価人や評価の方法によって大きな差異が生じる可能性があって,非上場株式の場合にも原則として手続審査のみを行い当事者が決定した価格を尊重するという判断枠組みを採用したときには,手続のみを形式的に整えて不当な価格でスクイーズ・アウトが行われるなどの濫用の危険が高いといわざるを得ないから,手続面から価格の公正性を判定する手法は採り得ない。
そこで,本件においては,価格形成過程に係る手続だけではなく,関係当事者が選択した株式の価格そのものについて,「一定の幅の中」にあると認められるか否か,その算定の手法や価格の評価を含め,実質的な審査をすることが必要である。
そして,仮に,価格形成過程に係る手続を審査するという手法を採用する場合であっても,上記観点から,構造的な利益相反関係及びその排除措置の有無や手続の公正性については,上場株式の場合よりも,より慎重に,よりきめ細やかに審査がされなければならない。
イ 本件買付価格決定における構造的な利益相反関係の存在及びこれを踏まえた公正な価格の判定について
(ア) 対象会社の一般株主と本件再取得株主との間にみられる構造的は利益相反関係の存在
本件公開買付けは,公開買付前置型キャッシュアウトの事案であり,しかも,対象会社が利害関係参加人の完全子会社となった後,利害関係参加人から一部の従前の株主(本件再取得株主)に対して対象会社の株式の譲渡がされること(本件再取得)が予定されていたことから,本件再取得株主は対象会社の一般株主と異なり本件再取得によって保有することになる株式についてシナジー等の利益を享受する可能性があるという客観的利益状況があり,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に構造的な利益相反関係があるといえる。そして,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に不平等を生じさせる本件公開買付けは,均一性原則に抵触する,違法なものとさえいえる。
このような構造的な利益相反関係の存在は,対象会社の営業職員を始めとする従業員のモチベーションやロイヤリティを維持するために,本件経営統合後も対象会社の商号や「○○」のブランドを維持する必要があり,そのために○○グループとの資本関係を一定程度維持すべく実施するといった,対象会社の取締役の目的という主観的事実の有無によっては左右されない。
構造的な利益相反関係がある場合の利益相反排除措置(恣意的意思決定排除措置)の要否判断において問題とされるべき利益状況は,裁判所が関係当事者等の判断した価格(取引条件)を尊重することができる利益状況の有無であって,それは,取締役に当該会社及びその株主の利益にかなう価格(取引条件)を決定することを期待することができ,株主も公正な価格と判断したからこそ公開買付けに応募したといえるような利益状況があったか否かである。抗告人は,利害関係参加人がいうように「何らかの意味で立場や利害に違いがあれば常に利益相反排除措置が必要になる」と主張しているのではなく,公正な価格に関する裁判所の合理的な裁量の在り方という観点から,利益状況の内容や性質,程度に即した利益相反排除措置が必要になる旨主張している。
本件再取得株主は,本件公開買付けに応じて,その保有する対象会社の株式を売却し,その後,本件再取得によって再び対象会社の株式を取得するが,これにより生ずる持株比率は従前の比率まで回復せず,低下する。しかし,取締役が会社及び株主の利益にかなう判断をする利益状況の有無は,本件再取得株主の持株比率の低下の程度だけで判断することができるものではない。すなわち,本件再取得株主の持株比率が本件経営統合によって低下したとしても,本件再取得株主がシナジー等の利益を享受する可能性があることには変わりがなく,現に,本件経営統合後の平成29年度には,対象会社の純利益は,本件経営統合によるシナジー効果により,野村證券株式会社(以下「野村證券」という。)及び大和証券株式会社(以下「大和証券」という。)が対象会社の株価算定の基礎とした本件経営統合を前提としないスタンドアローンベースでの事業計画における金利維持ケースの場合の純利益350億円(乙10の2・21頁,乙11の2・28頁)の2.18倍,金利上昇ケースの場合の純利益189億円(乙10の2・22頁,乙11の2・32頁)の4.04倍となる764億6900万円(同年度通期純利益232億0400万円(甲157・14頁)に追加で積み立てられた同期責任準備金532億6500万円(甲157・18頁)を加えたもの)にもなり,これに応じた株価の上昇(純利益を指標とするマルチプル法により算定した場合には2.18倍から4.04倍,DDM法(配当割引モデル法)により算定した場合には約4倍)が生じている。すなわち,本件再取得株主は,一般株主と異なりシナジー等の利益を享受する可能性があったため,買付価格に不満があったとしても,本件公開買付けに応じる動機が働いてしまう利益状況があったといえるのであり,本件再取得株主と一般株主との間に構造的な利益相反関係が生じていたことは客観的に明らかである。対象会社が,法務アドバイザーの助言に従い,対象会社の取締役のうちb社における名誉顧問の地位を有するC取締役及びd株式会社(以下「d社」という。)における監査役の地位を有するD取締役を本件経営統合に関する検討や利害関係参加人との協議,交渉に関与させないようにしたのも,上記構造的な利益相反関係がみられたからである。
そして,本件再取得株主は,本件経営統合に関する審議等が行われた当時,対象会社の支配株主として取締役人事をコントロールし(甲8),対象会社の取締役8名のうち過半数となる5名を本件再取得株主分の枠として確保して,継続的に利益代表者を取締役として対象会社に送り込んでいた(甲78~88)。本件経営統合の決議に関与した3名の取締役は,対象会社の取締役退任後,○○グループに復帰して,本件再取得株主の関連会社の役員に就任している(甲89~91)。このような対象会社の取締役会が,上記のような構造的な利益相反関係が認められる状況において,対象会社や株主の利益にかなった判断をすることは期待し難い。
したがって,本件買付価格に関する取締役等の判断を尊重することができるためには,上記のような構造的な利益相反関係に応じて,取締役等の意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置(恣意的意思決定排除措置)が適切に講じられていることが必要となる。
(イ) ところで,本件買付価格は,平成27年8月下旬まで,遅くとも同年9月11日までに,利害関係参加人と対象会社との間で,(a) 対象会社の取締役会が自ら算出し,公表したEEV(ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー)を,本件経営統合における自らの企業価値の算定方法から排斥した過程,(b) 対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムを織り込む過程,(c) 対象会社の取締役が利害関係参加人との交渉の中で買付価格を引き上げた過程,及び(d) 対象会社の取締役が買付価格の算定(試算)に関する野村證券の助言を受け入れた過程を経て決定されているが,本件買付価格が公正な価格といえるかどうかは,単にこれらの過程において,例えば,第三者機関の設置や株価算定機関からの意見聴取がされたという外形的事実があったということだけからではなく,上記各過程や恣意的意思決定排除措置が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかを検討し,判断することが必要である。
しかし,本件においては,上記各過程を通じてどのように本件買付価格の形成がされていったのか,また,恣意的意思決定排除措置が具体的にどのように機能し,同価格形成に影響したのかを解明するに足る的確な証拠は提出されておらず,利害関係参加人が提出した本件係属後作成の陳述書が的確な証拠とならないことは明らかである。
そして,仮に,上記各手続過程のうち,例えば前記(a),(c)及び(d)の各過程が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかについての事実が認定され,当該事実によればその価格構成部分は公正に形成されたと評価できたとしても,前記(b)のプレミアム・シナジー部分がそのようにいえない場合には,本件買付価格を構成する各部分のうちプレミアム・シナジー部分を尊重することは許されず,当該部分については,別途,公正な価格を算定することが必要になる。
a 対象会社の取締役会が自ら算出し公表したEEVを本件経営統合における企業価値の算定方法から排斥した過程(前記(a))について
本件のようなスクイーズ・アウトの事案における公正な価格とは,① 当該取引が行われなければ株主が享受し得る価値と② 当該取引後に増大が期待される価値のうち既存株主が享受してしかるべき部分を合わせたものである。そして,非上場会社である生命保険会社において,最も上記①の価値を反映することができる算定方法は生命保険会社におけるDCF法に相当するEEVであり,実際に,対象会社自身が,世界的に著名なアクチュアリー・ファームであるミリマン・インク(甲22)による検証意見を得た上,平成27年5月28日に「生命保険会社の企業価値を評価する有力な指標」(甲7・2枚目)としてEEVによる企業価値算定結果を公表し,また,これまでもEEVを継続して公表してきたこと(甲58の1~5)からすれば,EEVの算定結果の適正は担保されており,本件株式の買付価格算定につきEEVを採用することに支障はなかった。
ところが,本件公開買付けにおいては,対象会社の取締役会は,本件株式の買付価格の算定につきEEVを排斥し,あえてより低い株式価値が算出される算定方法を採用したのであるから,本件における手続(手続の公正性を担保するための措置)が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかについての判断において,上記(a)の過程が特に慎重に吟味検討されなければならず,例えば,対象会社が利害関係参加人に対してEEVによる算定結果を提示してそれが交渉にどのように影響したかといった事実の認定が必要である。
なお,平成27年10月27日及び同年11月5日各開催の対象会社取締役会の議事録には,抗告人からのEVこそが対象会社の企業価値を表すものである旨の主張を受けて,野村證券が株式会社T&Dホールディングス及び第一生命保険株式会社2社の市場価格はEVの1倍割れが常態化している旨説明したことが記載されているが(乙30・3頁,乙31・4頁),このことは,対象会社の取締役会があえて自ら算出し公表したEEVを本件経営統合における株式価値の算定方法から排斥して,より低い株式価値が算出される算定方法を採用した過程を認定し得るものではない。加えて,時期の問題としても,上記各取締役会議事録は,抗告人が平成27年8月28日に対象会社に対して買付価格について懸念を示し,説明を求めた(甲115の1・2・別紙1)後に作成されたもの,すなわち,抗告人が本件買付価格について争う姿勢を示した後に作成されたものに過ぎない。
b 対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムを織り込む過程(前記(b))について
本件のようなスクイーズ・アウトの事案における公正な価格とは,前記aの①の価値と②の価値を併せたものであるところ,シナジーやコントロール・プレミアムが考慮されていない買付価格は,同②の価値を含まないものであるから,公正な価格とはいえない。
そこで,当事者が決定した価格にシナジーやコントロール・プレミアムが適切に織り込まれていることは価格の公正性を基礎付けるものとなるから,本件における手続(手続の公正性を担保するための措置)が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかについての判断においては,対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムをどのように織り込んでいったかを具体的かつ慎重に吟味検討することが必要となる。
なお,本件においては,野村證券の算定結果(試算結果)がシナジーを考慮しないスタンドアローンベースのもの(本件経営統合を前提としないもの)であることについては当事者間に争いがない。また,本件のように市場株価のない非上場株式については,どの程度のシナジーが発生するかをある程度,定量的に把握できなければ,少数株主に対して適切にシナジーを分配することはできないが,利害関係参加人は,本件経営統合に関する基本合意書(乙3。以下「本件基本合意書」という。)作成日である平成27年9月11日の時点においてシナジーやコントロール・プレミアムを具体的にどのように加味するかを検討していなかったことを自認している。
本件基本合意書には,本件買付価格が「本統合によるシナジー,支配権の移転に伴うプレミアム等を勘案したもの」であるとの記載があるが,本件基本合意書作成時においてシナジーやコントロール・プレミアムをどのように加味するかが具体的に検討されていなかったことは上記のとおりである。また,本件基本合意書の上記記載は,単に本件買付価格の決定においてシナジーやコントロール・プレミアムを勘案したということを表現したものに過ぎず,財務アドバイザーが株価算定(試算)についてシナジーやコントロール・プレミアムを考慮していない状況において,どのようにシナジーやコントロール・プレミアムを考慮したかを明らかにするものではない。作成時期も,前記各取締役会議事録と同様,抗告人が平成27年8月28日に対象会社に対して買付価格について懸念を示した(甲115の1・2・別紙1)後である。
また,平成27年11月5日開催の対象会社取締役会の議事録(乙31・4枚目)には,「普通株式1株560円という価格は,Z社との間で長期間に亘る協議・交渉を経て,引き上げを行い,統合シナジーやコントロール・プレミアムも勘案して,合意された」との記載があるが,これは,財務アドバイザーの株価算定(試算)でシナジーやコントロール・プレミアムが考慮されていない状況で,どのようにシナジーやコントロール・プレミアムを考慮したかを明らかにするものではないし,作成時期も抗告人が本件買付価格について争う姿勢を示した後のものである。
c 対象会社の取締役が利害関係参加人との交渉の中で買付価格を引き上げた過程(上記(c))について
対象会社が当初利害関係参加人から提示された1株当たり490円という価格(以下「本件当初価格」という。)は,利害関係参加人が選定した財務アドバイザーである三菱UFJ証券株式会社(以下「三菱UFJ証券」という。)の類似取引比較分析やアプレーザル・バリュー分析及びシティグループ証券株式会社(以下「シティグループ証券」という。)の配当割引分析による算定結果のレンジを下回っている(甲3・19~20頁)ことからも明らかなとおり,そもそもその価格で妥結させるつもりで提示された価格ではなく,交渉の技法として,最初にある価格を提示し,その後,これを引き上げて,譲歩したという姿勢を見せつつ,有利な価格で妥結させることを想定して提示された価格に過ぎない。つまり,本件当初価格は,利害関係参加人の当時の検討資料と矛盾するものであり,真摯に提示された価格ではない。したがって,仮に,本件当初価格が本件買付価格に引き上げられた事実が認められたとしても,同事実は真摯な交渉があったことを示すものではなく,本件買付価格が一般に公正と認められる手続により形成された公正な価格であることを基礎付けるものとはいえない。
d 対象会社の取締役が買付価格の算定(試算)に関する野村證券の助言を受け入れた過程(前記(d))について
野村證券が採用し,対象会社の取締役会が受け入れたDDM法という株価算定方法は,配当還元法と同種の算定方法であり,内部留保率(ソルベンシーマージン比率)を高くすることにより株価を低くすることが可能であるから,内部留保率の設定次第では前記aの①の価値を適切に反映できない危険性のある算定方法である。
本件において,対象会社の取締役会は,本件経営統合直前の平成27年5月28日に行ったEEVの算定結果開示において,「必要資本維持のための費用の算出にあたり,ソルベンシー・マージン比率400%に相当する金額を必要資本」(甲7・7頁)とするという前提を置いたことを明示した上で,株主を始めとする利害関係人に対しては,上記前提を含む「計算前提は,最新の実績及び合理的に予測した将来の見通しに基づき設定しております」と述べて,計算過程の合理性を明言していた(甲7・13頁)。つまり,対象会社の取締役会は,自ら対象会社のソルベンシーマージン比率として400%が適切であると明言し,これを公表していた。しかし,対象会社の財務アドバイザーである野村證券は,対象会社の取締役会が設定したソルベンシーマージン比率よりも,低い株式価値が算出されるソルベンシーマージン比率により,対象会社の株式価値を算出し,これを対象会社の取締役会は受け入れている。
そのため,本件においては,対象会社の取締役会が,自らが数か月前に決定し,公表したソルベンシーマージン比率とは異なるソルベンシーマージン比率,しかも,対象会社の株式価値が大幅に低くなる方向に変更された比率を,どのような検討や利害関係参加人との交渉を経て受け入れるに至ったのかを具体的かつ慎重に吟味検討することが必要となるが,これに関する証拠方法は提出されていない。
ウ 本件株式の公正な価格
本件株式の売買価格については,本件買付価格(1株当たり560円)をもって公正な価格と認めることはできず,本来,鑑定の結果を用いるなどして公正な価格を認定するのが相当であるが,鑑定が実施されていない現在の証拠資料の状況を前提とすれば,対象会社自身が世界的に著名なアクチュアリー・ファームであるミリマン・インク(甲22)による検証意見を得た上で,平成27年5月28日に「生命保険会社の企業価値を評価する有力な指標」(甲7・2枚目)としてEEVによる企業価値算定結果(7450億円)を公表し,これまでもEEVを継続して公表してきた(甲58の1~5)ことから,同EEVの額をもって対象会社のスタンドアローンでの価値と認め,さらに,直近10年間に行われた公開買付けのプレミアムの平均及び平成22年から平成27年までに行われた公開買付けの各年のプレミアムの平均(甲48の1~7)が約40パーセントであることから,本件株式についても40パーセントのプレミアムが生じるものとし,上記EEVの額にその40パーセントに相当する額を付加し,これを株式数で除した金額,すなわち,1746円をもって本件株式の1株当たりの公正な売買価格とするのが相当である。また,仮に本件買付価格を前提にしたとしても,シナジー・プレミアムがその4割に相当する額であれば,本件買付価格にその4割に相当する額を加えた784円をもって本件株式の1株当たりの公正な価格と認めるべきである。
(利害関係参加人)
ア 非上場株式の売買価格の決定方法について
抗告人の主張は争う。
テクモ最高裁決定は,「一般に,相互に特別の資本関係がない会社間において株式移転計画が作成された場合には,それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう計画を作成することが期待できるだけでなく,株主は,株式移転完全子会社の株主としての自らの利益が株式移転によりどのように変化するかなどを考慮した上で,株式移転比率が公正であると判断した場合に株主総会において当該株式移転に賛成するといえるから,株式移転比率が公正なものであるか否かについては,原則として,上記の株主及び取締役の判断を尊重すべきである」と判示した上で,「相互に特別の資本関係がない会社間において,株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法に株主総会で承認されるなど一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合には,当該株主総会における株主の合理的な判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情がない限り,当該株式移転における株式移転比率は公正なものとみるのが相当である」と判示し,ジュピターテレコム最高裁決定は,「多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り,裁判所は,上記株式の取得価格を上記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である」と判示しているところ,ジュピターテレコム最高裁決定の判示は,その補足意見が,テクモ最高裁決定を引用して説明していることから明らかなとおり,テクモ最高裁決定の射程が,株式移転のような株式を対価とする会社間の組織再編行為のみに限定されるものではなく,公開買付けを行った上での全部取得条項付種類株式の取得のように現金を対価とした株式の強制取得の方法により買収者が対象会社の株主から株式を取得する二段階買収の取引の場合にも及ぶことを前提とした上で,多数株主による完全子会社化のような構造的な利益相反関係が存する場合であっても,そのような構造的な利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられていれば,裁判所はなお当事者の決定した取引条件を尊重すべきであることを明らかにしたものであり,いずれも当該株式が上場されていることを要件とも,また,前提ともしてないから,両決定の判断枠組みを踏まえた上,ジュピターテレコム最高裁決定の事案と異なり,多数株主による完全子会社化のような構造的な利益相反関係の存しない本件につき,いわゆる独立当事者間において企業間取引がされた場合と同様に,それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう契約内容や買付価格を決定することが期待できるというべきであり,公開買付けに応募しなかった株主の保有する株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど,一般に公正と認められる手続により経営統合の手段たる公開買付けが行われ,その後に公開買付けに係る買付価格と同額で株式売渡請求がされた場合には,株主が公開買付けに応じるか否かを適切に判断することが期待できる以上,上記の手続において基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情がない限り,裁判所は,株式売渡請求に係る株式の売買価格を公開買付けに係る買付価格と同額とするのが相当である。
抗告人は,上記各最高裁決定の判断枠組みは上場株式についてのものであり,非上場株式の場合には当てはまらない,裁判所が売買価格決定の審理において取締役等の判断を尊重することができるのは,それが「一定の幅の中」で選択された価格であるからであり,上場株式については「一定の幅の中」であることについて市場株価という客観的指標による裏付けを得ることができるが,非上場株式についてはこのような指標はないから,非上場株式につき上記各最高裁決定の判断枠組みを適用することはできない旨主張する。
しかし,上記各最高裁決定の判断枠組みが上場株式であることを前提とするものでないことは前記のとおりであり,ジュピターテレコム最高裁決定の補足意見が,全部取得条項付種類株式の取得価格の決定に関する裁判所の合理的な裁量の在り方につき,「関係当事者の判断等の形成過程の公正さ,その判断等に基づく取引に関する関係当事者の予測可能性と利害,取引の衡平の確保等を考慮し,どこまでその判断等に介入するかについて検討する必要がある」と指摘した上で,「株式価格の形成には多元的な要因が関わることから,種々の価格決定方法が存する。そのため,株式価格の算定の公正さを確保するための手続等が講じられた場合にも,将来的な価格変動の見通し,組織再編等に伴う増加価値等の評価を考慮した株式価格について一義的な結論を得ることは困難であり,一定の選択の幅の中で関係当事者,株主の経済取引的な判断に委ねられる面が存するといわざるを得ない。」と指摘するところは,その内容からして,上場株式のみに当てはまるものではなく,株価算定について様々な評価手法が存在し,どのような場合にどのような評価方法を用いるべきかについて明確な判断基準が確立されていない非上場株式にこそ,より強く妥当するといえる。
イ 本件買付価格決定における構造的な利益相反関係の存在及びこれを踏まえた公正な価格の判定について
(ア) 対象会社の一般株主と本件再取得株主との関係について
抗告人は,本件公開買付けにおいては,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に構造的な利益相反関係があるから,株式買付価格に関する取締役等の判断を尊重することができるためには,同利益相反関係に応じて,取締役等の意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置(恣意的意思決定排除措置)が適切に講じられていることが必要であり,抗告人主張の各過程(前記(抗告人),イ,(イ)の(a)~(d))において,単に第三者機関の設置や株価算定機関からの意見聴取がされたという外形的事実があったということだけからではなく,同各過程や恣意的意思決定排除措置が本件買付価格の形成との関係で具体的にどのように機能したかを検討し,判断することが必要である旨主張する。
しかし,構造的な利益相反関係がある場合に恣意的意思決定排除措置が必要となるのは,MBO(経営者による企業買収)や多数株主による完全子会社化の取引にみられるように,買付価格が上昇すれば,一方が上昇分だけ利益を得る反面,他方が上昇分だけ損失を被り,また,買付価格が下落すれば,その逆の状況が生じるというような,まさに構造的に利益が相反する関係があるからであり,何らかの意味で立場や利害に違いがあれば常に恣意的意思決定排除措置が必要となるかのような抗告人の主張は,相当でない。
本件再取得株主は,対象会社が利害関係参加人の完全子会社となった後,利害関係参加人から対象会社の株式を再取得するが,再取得価格は本件買付価格と同額であり,しかも,再取得後の持株比率(ただし,後記再取得前の比率は,A種株式,B種株式については,いずれも転換後の普通株式数による。)は,b社にあっては35.73%であったものが11%に,e株式会社にあっては17.64%であったものが2%に,f株式会社にあっては7.38%であったものが1%に,g株式会社にあっては3.92%であったものが1%に,d社にあっては3.91%であったものが1%にまで減少するのであるから,本件再取得株主は,他の一般株主と同様に,構造的に対象会社の株式の売主の立場に立ち,同一般株主と利害関係を共通にしているとみることができる。
そして,本件再取得株主によるシナジー等の利益の享受についても,本件経営統合によるその発生の可能性が認められるが,同事情は,本件再取得株主と他の一般株主との間に何らかの利益状況の差異が存する可能性を示すものに過ぎず,上記のような本件再取得株主の立場を構造的に売主から買主に転換させ,本件再取得株主と他の一般株主との間に対立する利害関係を生じさせるようなものではない。すなわち,本件再取得株主は,仮にシナジー等の利益を享受する可能性があったとしても,株式の買主のように買付価格が下落した分だけ自らが利得するという関係に立つわけではなく,買付価格が下落すれば損失を被る関係にあることに変わりはないのである。
また,本件再取得は,あくまでも対象会社の企業価値の維持・向上のための施策であって,本件再取得株主が本件経営統合によって生じるシナジーを享受することを目的に行われたものではない。本件再取得株主は,対象会社の要請により対象会社の株式の一部を再取得するに過ぎず,その保有する対象会社の株式の大半を売却するのであるから,仮に本件経営統合によるシナジー等の利益を享受する可能性があったとしても,本件再取得株主が対象会社の株式の廉価での売却に応じるとは合理的に考えられない。
抗告人は,本件再取得株主は,本件経営統合に関する審議等が行われた当時,対象会社の支配株主として取締役人事をコントロールし,対象会社の取締役8名のうち過半数となる5名を本件再取得株主分の枠として確保して,継続的に利益代表者を取締役として対象会社に送り込んでおり,同取締役らが対象会社やその株主の利益にかなった判断をすることを期待できない状況があり,構造的な利益相反関係が認められる,対象会社が,法務アドバイザーの助言に従い,対象会社の取締役のうちb社における名誉顧問の地位を有するC取締役及びd社における監査役の地位を有するD取締役を本件経営統合に関する検討や利害関係参加人との協議,交渉に関与させないようにしたのは,上記構造的な利益相反関係がみられたからである旨主張する。
しかし,本件再取得株主と他の一般株主との間に構造的な利益相反関係が認められないことは前記のとおりであるから,抗告人の上記主張はその前提を欠き失当である。また,本件再取得株主は,いずれも対象会社の支配株主ではなく,それぞれ独立した上場会社又は上場会社の完全子会社である。上記各取締役を本件経営統合に関する検討や協議,交渉に関与させないようにしたのは,本件再取得株主が他の一般株主と同様に売主の立場に立つことから構造的な利益相反関係が存在するとはいえないことを前提に,利益相反の疑いを避けるために,念のために執られた措置であって,かえって,この措置は対象会社が手続の公正性を重視して慎重な配慮をしていたことを示すものといえる。
なお,抗告人は,本件再取得株主と他の一般株主との間に不平等が生じる本件公開買付けは,均一性原則に抵触する旨主張するが,本件再取得の際の取得価格は本件買付価格と同額であるから,抗告人の上記主張は理由がない。
その他,本件公開買付けにおいては,構造的な利益相反関係が認められるような事情は認められない。
したがって,構造的な利益相反関係があることを前提とした恣意的意思決定排除措置の有無及びそれが実効的に機能したかについての手続審査をすることは必要とはいえない。
(イ)a 抗告人主張の対象会社の取締役会が自ら算出し,公表したEEVを,本件経営統合における自らの企業価値算定方法から排斥した過程(前記(抗告人),イ,(イ),a)について
抗告人の主張は争う。
対象会社は,EV(EEV)に関して,財務アドバイザーである野村證券の助言も受けながら議論しており,EVを類似会社比較法における比較の指標(マルチプル)とした野村證券及び大和証券の株価算定結果(乙10の1・11頁,乙10の2・7頁及び10頁,乙11の1・9頁,乙11の2・16頁及び20頁)も踏まえた検討の上,本件買付価格を合意するに至っているのであり(乙1・18~20頁,乙26・3~4頁,乙28・4頁及び7~8頁),EVを排斥して決定したということはない。
EVはその前提条件の設定により大きく異なり得,我が国におけるEVと株式価値との関連性についての研究はほとんど行われておらず,EVは財務情報の補完機能に限定されるとの指摘もあり,我が国の上場生命保険会社の市場株価はEVを大幅に下回っている。そして,対象会社は,平成3年頃から,いわゆる逆ざや状態が続くなど厳しい財務状態に追い込まれ,サブプライム・ローン問題とリーマンショックにより,平成20年度には,生命保険会社の基礎的な期間収益の状況を表す指標である基礎利益が大幅にマイナスになり,平成27年3月期においても,なお逆ざや状態が解消されなかった中で,保険料等収入や総資産等の規模が約9倍近くであり,従業員数も約7倍にもなる利害関係参加人との間で,本件買付価格を含む本件経営統合の取引条件について交渉し,財務アドバイザーやアクチュアリー・ファームから,対象会社と類似の国内の上場生命保険会社の株価の推移をみると,1株当たりEVを大きく下回る状況が常態化しており,生命保険会社のEV自体を株式価値とすることは合理的ではないとの説明を受け,あるいは,EV算定に当たっての前提条件の置き方には一定の幅があり得る旨の指摘を受けて,あえてEVの前提条件に関する詳細な議論に立ち入ることなく,利害関係参加人との間で買付価格の引上げ交渉を行い,本件当初価格から本件買付価格への引上げに成功した後,最終的に本件買付価格を受け入れている。こうした,我が国におけるEVの位置づけや,本件買付価格の価格交渉における対象会社のEVの検討過程を前提とすれば,本件買付価格が対象会社の公表したEVを大幅に下回る金額を前提にしたものであったとしても,対象会社と利害関係参加人との間の実質的な交渉によって決定された本件買付価格が,それぞれの会社及び株主の利害が適切に調整されたものであることは否定されないと解するのが相当である。
b 対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムを織り込む過程(前記(抗告人),イ,(イ),b)について
抗告人の主張は争う。
対象会社は,法務アドバイザーや財務アドバイザーの助言を随時受けながら,買付価格がシナジーやコントロール・プレミアムを十分に勘案した価格となるように利害関係参加人と交渉を行っており,このような交渉を踏まえて本件買付価格が決定されている。
なお,抗告人は,本件経営統合後,対象会社において,野村證券及び大和証券が算定に用いた(本件経営統合を前提としない)スタンドアローンベースの事業計画の計画値を上回る純利益が出ていることをもって,本件経営統合によって実際に大きなシナジー効果が発生しているとし,本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムを織り込む過程については,特に,信用性のある証拠により適正かつ具体的な事実認定がされなければならない旨主張する。しかし,対象会社は,上記のとおり,シナジーやコントロール・プレミアムを踏まえた交渉により本件買付価格の決定に至っているのであり,このことが抗告人主張の本件経営統合後の事情によって影響を受けるということはない。また,取引前にシナジーを具体的に計算して考慮することは困難であるため,公開買付事案における財務アドバイザー作成の株式価値算定書において,スタンドアローンベースの事業計画を前提とし,シナジーを織り込まないことは実務上一般的なことであり(乙27),また,対象会社の業績はシナジーに限らず様々な要因により変動するものであるから,野村證券及び大和証券が算定に用いた事業計画が本件経営統合を前提としないスタンドアローンベースのものであり,本件経営統合後の様々な要因により結果として対象会社において当該事業計画の計画値を上回る純利益が生じたとしても,本件経営統合において本件買付価格が一般に公正と認められる手続により決定されたことは,何ら否定されるものではない。
c 対象会社の取締役が利害関係参加人との交渉の中で買付価格を引き上げた過程(前記(抗告人),イ,(イ),c)について
抗告人の主張は争う。
対象会社は,利害関係参加人から当初提案された1株当たり490円という本件当初価格について,法務アドバイザー及び野村證券の助言を随時受けながら,対象会社の株主の利益のために,より高い価格を目指した交渉を行った結果,買付価格は1株当たり560円に引き上げられた。
d 対象会社の取締役が買付価格の算定(試算)に関する野村證券の助言を受け入れた過程(前記(抗告人),イ,(イ),d)について
抗告人の主張は争う。
対象会社は,野村證券の助言を随時受けながら,最終的に1株当たり560円の買付価格に合意した。
抗告人は,対象会社の取締役会が,買付価格の算定方法に関して,自らが数か月前に決定・公表したソルベンシーマージン比率(400%)とは異なるソルベンシーマージン比率(812.4%)を受け入れたことが異様であるかのような主張をするが,野村證券及び大和証券が採用したDDM法による算定において,ソルベンシーマージン比率として対象会社の直近事業年度の実績値である812.4%が採用されていることについて何ら不合理な点はないから(むしろ,DDM法による算定において,EV算定に用いられたソルベンシーマージン比率(400%)を採用することは明らかに不合理であった。),抗告人の上記主張はその前提を欠き,失当である。
第3  当裁判所の判断
1  当裁判所も,抗告人が有するa株式会社(対象会社)の普通株式の売買価格は1株につき560円とするのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり改め,後記2において当審における抗告人の主張について判断するほかは,原決定「事実及び理由」欄の第3の1から3(原決定22頁14行目から52頁23行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)  原決定46頁8行目の「普通株式に転換した」から10行目の「成立している。」までを「普通株式に転換したと見なした場合の株式総数5億9727万3868株のうち5億7543万2699株(株式総数の96.34%)の応募があり,買付予定数の下限4億3978万5136株(本件再取得株主及び住友生命保険相互会社(以下「住友生命保険」という。)が保有する株式の総数と同じ。株式総数の73.63%)を上回り,本件公開買付けが成立している。」と改める。
(2)  同48頁24行目から25行目にかけての「工夫例の一つとされているにすぎない。」の次に「また,本件公開買付けにおいては,対象会社の本件再取得株主及び住友生命保険が保有する株式以外の株式(合計1億5748万8732株)のうちその86.13%に相当する1億3564万7563株を保有する株主が本件公開買付けに応募している。」を加える。
2  当審における抗告人の主張について
(1)  非上場株式の売買価格の決定方法について
本件売渡請求は,利害関係参加人と対象会社の間の本件経営統合に係る契約(以下「本件経営統合契約」という。)を前提として,利害関係参加人による対象会社の発行済み株式の全部を対象とする公開買付けに引き続き実施されたものであるところ,利害関係参加人は,本件経営統合ないし本件公開買付けに至るまで,対象会社の株式を一切保有しておらず,対象会社との間に何等の資本関係もなかった。このように,相互に特別の資本関係がない会社間において,一方の会社が他方の会社と経営統合するための手段として株式の公開買付けを行い,その後に当該会社の株式について会社法179条1項に基づく特別支配株主による株式売渡請求をして,当該会社の株式の全部を取得する場合においては,いわゆる独立当事者間において企業間取引がされた場合と同様に,それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう契約内容や買付価格を決定することが期待できるといえる。そして,公開買付けに応募しなかった株主の保有する株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど,一般に公正と認められる手続により経営統合の手段たる公開買付けが行われ,その後に公開買付けに係る買付け価格と同額で株式売渡請求がされた場合には,株主が公開買付けに応じるか否かを適切に判断することが期待できる以上,上記の手続において基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情がない限り,裁判所は,株式売渡請求に係る株式の売買価格を公開買付けに係る買付価格と同額とするのが相当である。
抗告人は,上記のような考え方は本件公開買付けのような非上場株式が対象となる場合には当てはまらない,同考え方の前提となっている前記各最高裁決定はいずれも上場株式が対象となっている事案についてのものであり,そこにおいて裁判所が取締役等の判断を尊重することができるのは,それが「一定の幅の中」で選択された価格であるからであり,上場株式については「一定の幅の中」であることについて市場株価という客観的指標による裏付けを得ることができるが,非上場株式についてはこのような指標はないから,非上場株式につき上記各最高裁決定の判断枠組みを適用することはできない旨主張する。
しかし,上記考え方が公開買付けの対象となる株式が非上場株式である場合にも,いわゆる独立当事者間における取引については等しく当てはまると考えるべきことは,前記1のとおり引用する原判決説示のとおりである。株式価格の形成には多元的な要因が関わることから,種々の価格決定方法が存し,そのため,株式価格の算定の公正さを確保するための手続等が講じられた場合にも,将来的な価格変動の見通し,組織再編等に伴う増加価値等の評価を考慮した株式価格について一義的な結論を得ることは困難であり,一定の選択の幅の中で関係当事者,株主の経済取引的な判断に委ねられる面が存するといわざるを得ず,独立当事者間の取引の場合には各当事者がそれぞれ経済合理性を追求することから,合理的な価格が形成されるのが通常であり,このことは,上場株式に限らず,非上場株式の場合も同様である。
したがって,抗告人の上記主張は採用することができない。
(2)  構造的な利益相反関係の存在について
抗告人は,当審においても,本件経営統合においては,対象会社が利害関係参加人の完全子会社となった後,利害関係参加人から一部の従前の株主(本件再取得株主)に対して対象会社の株式の譲渡がされること(本件再取得)が予定されていたことから,本件再取得株主は対象会社の一般株主と異なり本件再取得によって保有することになる株式についてシナジー等の利益を享受する可能性があるという客観的利益状況があり,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に構造的な利益相反関係があったといえる旨主張し,また,本件再取得株主が本件再取得によっても対象会社の保有株式数を減少させ,持株比率を下げることについては,それでも,シナジー等の利益を享受する可能性があることに変わりはなく,現に,本件経営統合後の平成29年度にはシナジー効果が生じ,対象会社の純利益は2.18ないし4.04倍となり,これに応じて株式価値も2.18ないし4.04倍に上昇して,利益を得ている,つまり,本件再取得株主は,一般株主と異なりシナジー等の利益を享受する可能性があったため,買付価格に不満があったとしても,本件公開買付けに応じる動機が働いてしまう利益状況があったといえ,対象会社が法務アドバイザーの助言に従い対象会社の取締役のうちb社及びd社の役員の地位を有する2名の取締役を本件経営統合に関する検討や利害関係参加人との協議,交渉に関与させないようにしたのも,上記構造的な利益相反関係がみられたからである,そして,本件再取得株主は,本件経営統合に関する審議等が行われた当時,対象会社の支配株主として取締役人事をコントロールし,対象会社の取締役8名のうち過半数となる5名を本件再取得株主分の枠として確保し,継続的に利益代表者を取締役として対象会社に送り込む等していたから,本件公開買付けについては,構造的な利益相反関係があった旨主張する。
しかし,本件経営統合ないし本件公開買付けにおいて,抗告人を含む対象会社の一般株主と本件再取得株主及び対象会社の取締役との間にMBO類似の構造的な利益相反関係があったとはいえないことは,原決定説示のとおりである。
本件再取得株主は,本件再取得によって保有することになる株式について,一般株主と異なり,抗告人が主張するシナジー等の利益を享受する可能性があることは否定されないが,本件再取得は,対象会社の営業職員を始めとする従業員のモチベーションやロイヤリティを維持するため,本件経営統合後も対象会社の商号や「○○」ブランドを維持する必要があり,そのために○○グループとの資本関係を一定程度維持すべく実施されるに至ったものであって,本件再取得株主に対して対象会社の一般株主とは異なる特別の利益を与える目的で実施されたと認めることは困難である。また,シナジー等の利益は種々の要因が複合的,相乗的に影響することにより生じるものであって,これを取引前に具体的に算定することは困難であり,したがって,検討対象となっている買付価格と妥当と考えられる価格との差額をシナジー等の利益で補うことができるかを判断することもまた困難である。そして,本件再取得株主は,対象会社の38.65%の株式を有していたところ,本件公開買付けに応募することにより,本件再取得を前提にしても,その保有する対象会社の株式の持株比率を16%まで,これを各社個別にみれば,b社については14.23%から11%まで,e社については9.11%から2%まで,f社については7.20%から1%まで,g社については4.06%から1%まで,d社については4.05%から1%まで,また,対象会社のA種株式及びB種株式の各数をいずれも転換後の普通株式数に置き換えた場合には,b社にあっては35.73%であったものが11%まで,e株式会社にあっては17.64%であったものが2%まで,f株式会社にあっては7.38%であったものが1%まで,g株式会社にあっては3.92%であったものが1%まで,d社にあっては3.91%であったものが1%まで,それぞれ大幅に減らすことになり,本件再取得が本件買付価格と同額で行われたことからすると,本件再取得株主は,実質的には,利害関係参加人に対し,保有する対象会社の株式の大半を本件買付価格で売却しているに等しいことになるのであるから,本件再取得株主は,保有する対象会社の株式の多くについて,買付価格が低下すれば損失が拡大するという意味で,一般株主と同様の利害を有するといえる。
したがって,本件再取得が予定されていたことをもって,対象会社の一般株主と本件再取得株主との間に,MBO類似の構造的な利益相反関係があったということはできない。
(3)  本件買付価格が一般に公正と認められる手続に従い,決定されたものであるかについて
ア 抗告人は,本件買付価格は,平成27年8月下旬まで,遅くとも同年9月11日までに,利害関係参加人と対象会社との間で,(a) 対象会社の取締役会が自ら算出し,公表したEEVを本件経営統合における自らの企業価値の算定方法から排斥した過程,(b) 対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムを織り込む過程,(c) 対象会社の取締役が利害関係参加人との交渉の中で買付価格を引き上げた過程,及び(d) 対象会社の取締役が買付価格の算定(試算)に関する野村證券の助言を受け入れた過程を経て決定されているが,本件買付価格が公正な価格といえるかどうかは,単にこれらの過程において,例えば,第三者機関の設置や株価算定機関からの意見聴取がされたという外形的事実があったということだけからではなく,上記各過程や恣意的意思決定排除措置が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能し,影響したかを解明することが必要であり,これにより,仮に,上記各手続過程のうち,例えば前記(a),(c)及び(d)の各過程が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかについての事実が認定され,当該事実によればその価格構成部分は公正に形成されたと評価できたとしても,前記(b)のプレミアム・シナジー部分がそのようにいえない場合には,本件買付価格を構成する各部分のうちプレミアム・シナジー部分を尊重することは許されず,当該部分については,別途,公正な価格を算定することが必要になる旨主張する。
しかし,本件売渡請求は,利害関係参加人と対象会社の間の本件経営統合契約を前提として,利害関係参加人による対象会社の発行済み株式の全部を対象とする公開買付けに引き続き実施されたものであるところ,利害関係参加人は,本件経営統合ないし本件公開買付けに至るまで,対象会社の株式を一切保有しておらず,対象会社との間に何等の資本関係がなく,このように相互に特別の資本関係がない会社間において一方の会社が他方の会社と経営統合するための手段として株式の公開買付けを行い,その後に当該会社の株式について特別支配株主による株式売渡請求をして当該会社の株式の全部を取得する場合においては,いわゆる独立当事者間において企業間取引がされた場合に当たり,それぞれの会社において忠実義務を負う取締役が当該会社及びその株主の利益にかなう契約内容や買付価格を決定することが期待できるといえ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど,一般に公正と認められる手続により経営統合の手段たる公開買付けが行われ,その後に公開買付けに係る買付け価格と同額で株式売渡請求がされた場合には,株主が公開買付けに応じるか否かを適切に判断することが期待できる以上,上記手続において基礎となった事情に予期しない変動が生じたなどの特段の事情がない限り,裁判所は,株式売渡請求に係る株式の売買価格を公開買付けに係る買付価格と同額とするのが相当であることは前記(1)説示のとおりである。また,本件公開買付けにつき本件再取得株主あるいは対象会社の取締役会と一般株主との間にMBO類似の構造的な利害相反関係がみられないことは前記認定判断のとおりであって,本件再取得株主が対象会社の一般株主と異なりシナジー等の利益を得る可能性があるという利害状況や,本件買付価格が対象会社が自ら継続して提示してきたEEVを基準にして算出される株式価値を大幅に下回るものであったこと等を踏まえても,本件公開買付けが一般に公正と認められる手続により行われたといえることは,原判決説示のとおりである。すなわち,本件経営統合及び本件買付価格の交渉に関し,対象会社は,リーマンショック等の影響によって財務基盤が毀損し,他社との連携統合等も含めた検討をしていたところ,利害関係参加人から,本件経営統合に向けた協議の打診を受け,本件公開買付けに関する協議及び交渉に当たり,法務アドバイザー,財務アドバイザー及びアクチュアリー・ファームといった外部の専門家から助言を得ながら,利害関係参加人が提示した買付価格の妥当性を検討し,利害関係参加人との間で,上記打診から本件経営統合契約の締結に至るまで約7か月間に渡り,本件買付価格を含む取引条件の交渉をし,利害関係参加人から,普通株式の買付価格を本件当初価格とするなどの提案を受けたものの,財務アドバイザーや法務アドバイザーの助言を受けてシナジーやコントロール・プレミアム等をも考慮した本件当初価格の引上げを求め,その結果,本件買付価格への引上げに成功し,その後も,利害関係参加人に対し,更なる価格の上乗せを要請したが,本件買付価格は複数の財務アドバイザーによる株式価値の算定結果のレンジ内にあることが確認され,財務アドバイザーからこれ以上の価格の引上げは難しいとの報告を受け,さらに,抗告人を除く主要株主からも本件買付価格を含む本件経営統合について前向きな返答を得,利害関係参加人の財務アドバイザーから買付価格の更なる引上げが困難であるとの見解を得るなどしたことから,本件買付価格を応諾するに至ったものである。そして,本件公開買付けの実施に関しても,対象会社は,利害関係参加人との基本合意の締結後,直ちに,対象会社の発行済株式の全部を対象とする本件公開買付けを実施し,その後,スクイーズアウト手続が実施される予定であることや,本件再取得を行う方向で協議していることといった重要事項を公表し,経営統合契約締結後,利害関係参加人は,直ちに,本件買付価格,公開買付期間,決済の開始日,買付予定数の下限,本件公開買付けが成立した場合には本件買付価格と同額でキャッシュアウトされること,本件再取得に関する方針といった,本件公開買付けへの応募の可否を検討するために必要と考えられる事項を公表し,利害関係参加人と対象会社は,本件公開買付けに先立ち,公開買付届出書と意見表明報告書をそれぞれ提出し,本件買付価格の決定に当たって参考にした双方の複数の財務アドバイザーによる対象会社の普通株式の価格の算定過程とその結果を開示した上,利害関係参加人は,30営業日の公開買付期間を定めて本件公開買付けを実施したものである。その結果,A種株式及びB種株式を普通株式に転換したと見なした場合の株式総数5億9727万3868株のうち5億7543万2699株(株式総数の96.34%)の応募があり,買付予定数の下限4億3978万5136株(本件再取得株主及び住友生命保険が保有する株式の総数と同じ。株式総数の73.63%)を上回り,本件公開買付けが成立し,応募のあった株式のうち1億3564万7563株は本件再取得株主及び住友生命保険が保有する株式以外の株式(合計1億5748万8732株)の86.13%に相当するものであったのである。これらの事情に照らせば,本件公開買付けは,対象会社と利害関係参加人との間で,対象会社の一般株主にも配慮した買付価格の模索も含め,実質的な交渉が行われて実施されるに至ったものであり,本件公開買付けに当たっては,対象会社の株主が本件公開買付けに応じるか否かの判断に必要となる情報が適時かつ適切に開示され,また,当該判断に必要な期間も十分に確保されていたということができ,本件公開買付け及びその後の本件スクイーズアウト手続は,一般に公正と認められる手続により行われたということができる。
そして,抗告人が原審において主張した手続の公正性を担保するための各措置,すなわち,独立した第三者委員会の設置,財務アドバイザーからのフェアネス・オピニオンの取得,マジョリティ・オブ・マイノリティの設定,一般株主と利益相反関係にない取締役会による財務アドバイザーの選任,財務アドバイザーに対する成功報酬に関する情報の開示,オークションプロセスの実施といった措置がとられていないこと,対象会社が自ら公表したEVを大幅に下回る金額を基準として買付代金(本件買付価格)が決められたこと等があるとしても,原決定説示のとおり,手続の公正さが失われるものとまではいえない。
イ 抗告人は,本件公開買付けのようなスクイーズ・アウトの事案における公正な価格とは,①当該取引が行われなければ株主が享受し得る価値と②当該取引後に増大が期待される価値のうち既存株主が享受してしかるべき部分を合わせたものであるところ,シナジーやコントロール・プレミアムが考慮されていない買付価格は,同②の価値を含まないものであるから,公正な価格とはいえない,そして,当事者が決定した価格にシナジーやコントロール・プレミアムが適切に織り込まれていることは価格の公正性を基礎付けるものとなるから,本件における手続(手続の公正性を担保するための措置)が本件買付価格の形成に具体的にどのように機能したかについての判断においては,対象会社の取締役会が本件買付価格にシナジーやコントロール・プレミアムをどのように織り込んでいったかを具体的かつ慎重に吟味検討することが必要となる旨主張する。
しかし,前記1の引用に係る原決定の認定及び証拠(乙27)によれば,シナジー等の利益は種々の要因が複合的,相乗的に影響することにより生じるものであって,これを取引前に具体的に算定することは困難であり,公開買付事案における財務アドバイザー作成の株式価値算定書においてスタンドアローンベースの事業計画を前提とし,シナジーを織り込まないことが実務上一般的といえる状況において(乙27),対象会社は,法務アドバイザーや財務アドバイザーの助言を随時受けながら,買付価格がシナジーやコントロール・プレミアムを十分に勘案した価格となるように利害関係参加人と交渉を行っており,このような交渉を踏まえて本件買付価格が決定されていることが認められるのであり,抗告人の上記主張を踏まえても,本件公開買付け及びその後のスクイーズアウト手続が一般に公正と認められる手続により行われたといえるとの判断は動かすことができない。
また,抗告人は,野村證券が採用し,対象会社の取締役会が受け入れたDDM法という株価算定方法は,配当還元法と同種の算定方法であり,内部留保率(ソルベンシーマージン比率)を高くすることにより株式価値を低く算出することが可能であるから,内部留保率の設定次第では前記①の価値を適切に反映できない危険性のある算定方法であるところ,対象会社の取締役会は,自ら対象会社のソルベンシーマージン比率として400%が適切であると明言し,これを公表していたにもかかわらず,財務アドバイザーである野村證券が株式価値が低く算出される812.4%というソルベンシーマージン比率を採用して算定した株式価値を受け入れ,これを前提に利害関係参加人との交渉をしているから,同受入れの過程を具体的かつ慎重に吟味検討することが必要である旨主張する。
しかし,野村證券がDDM法による算定において使用した対象会社のソルベンシーマージン比率は対象会社の直近事業年度の実績値であり,これを株式価値の算定において用いたことについて不合理な点は認められない。
したがって,抗告人の上記各主張はいずれも採用の限りでない。
3  抗告人は,本件株式の売買価格については,本件買付価格(1株当たり560円)をもって公正な価格と認めることはできず,本来,鑑定の結果を用いるなどして公正な価格を認定するのが相当であるが,鑑定が実施されていない現在の証拠資料の状況を前提とすれば,対象会社自身が世界的に著名なアクチュアリー・ファームであるミリマン・インクによる検証意見を得た上で,平成27年5月28日に「生命保険会社の企業価値を評価する有力な指標」としてEEVによる企業価値算定結果(7450億円)を公表し,これまでもEEVを継続して公表してきたことから,同EEVの額をもって対象会社のスタンドアローンでの価値と認め,さらに,直近10年間に行われた公開買付けのプレミアムの平均及び平成22年から平成27年までに行われた公開買付けの各年のプレミアムの平均が約40パーセントであることから,本件株式についても40パーセントのプレミアムが生じるものとし,上記EEVの額にその40パーセントに相当する額を付加し,これを株式数で除した金額,すなわち,1746円をもって本件株式の1株当たりの公正な売買価格とするのが相当であり,仮に本件買付価格を前提にしたとしても,シナジー・プレミアムがその4割に相当する額であれば,本件買付価格にその4割に相当する額を加えた784円をもって本件株式の1株当たりの公正な価格と認めるべきである旨主張する。
しかし,シナジー・プレミアムを4割とみるべき根拠は見出すことはできず,対象会社の普通株式の売買価格は,前記理由により本件公開買付けにおける買付価格と同額の1株につき560円とするのが相当であるから,抗告人の上記主張は採用することができない。
4  抗告人の文書提出命令申立て(平成30年(ウ)第274号)及び平成30年11月12日付け鑑定申出は,いずれも必要性がないから,却下する。
第4  結論
よって,原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから棄却することとして,主文のとおり決定する。
東京高等裁判所第9民事部
(裁判長裁判官 齊木敏文 裁判官 廣田泰士 裁判官 增永謙一郎)

 

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裁判年月日  平成30年12月 3日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)30471号
事件名  損害金請求事件
文献番号  2018WLJPCA12038006

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年12月 3日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)30471号
事件名  損害金請求事件
文献番号  2018WLJPCA12038006

東京都渋谷区〈以下省略〉
a不動産こと
原告 X
同訴訟代理人弁護士 斎藤勝
東京都港区〈以下省略〉
被告 株式会社シーエイチアイ
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 小山田辰男

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,4179万6000円及びこれに対する平成28年10月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の主位的請求を棄却する。
3  訴訟費用はこれを5分し,その2を原告の,その余を被告の各負担とする。
4  この判決の第1項は仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  主位的請求
被告は,原告に対し,7452万円及びこれに対する平成28年10月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2  予備的請求
被告は,原告に対し,2086万5600円及びこれに対する平成28年10月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  事案の概要
本件は,被告からホテルの買収のための業務の委託を受けた原告が,被告に対し,主位的に,被告の妨害行為により原告の業務が履行不能となったと主張して,債務不履行等に基づき,逸失利益に係る損害賠償又は業務委託報酬として7452万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,予備的に,商法512条に基づく相当報酬の請求として2086万5600円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
2  前提事実
(1)  被告
被告は,ホテルの経営等を目的とする株式会社であり,東京における近時のホテル需要の高まりを受けて,買収可能なホテルを探していた。
(2)  本件ホテル
別紙物件目録記載の一棟の建物(以下「本件ホテル」という。)は,昭和62年に新築された地上13階,地下1階の区分所有建物であり,ホテルとして利用されている(甲3の2)。
本件ホテルは,その所有権を区分所有権を利用して細分化した上,投資家等に分配しており,出資口の総数は2579口(客室2555口,その他24口)である。客室等ごとに設定された各区分所有権は,部屋の広さ等に応じて複数の出資口で構成され,1個の出資口は,区分所有権との関係では,各区分所有権を構成する出資口の個数を分母とする当該区分所有権の共有持分として表現される(甲1,2,35,36の1~29,弁論の全趣旨)。
(3)  本件管理組合法人
本件ホテルには,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)所定の管理組合法人として,bホテル管理組合法人(以下「本件管理組合法人」という。)がある。本件管理組合法人の代表者理事長は,B(以下「B」という。)である。
本件管理組合法人の組合員は,本件ホテルの区分所有者全員から構成され,組合員の議決権の総数は303個である。各議決権に対応する区分所有権が共有となっている場合には,共有者である組合員が1個の議決権を共有するものとし,そのうち事前に定められた1名がこれを代表して行使する(甲2)。
(4)  本件一括売却に向けた経緯
ア 平成25年当時,本件ホテルの区分所有者には,高齢化,今後の改修費用の負担等から,区分所有権を売却して投資資金を回収することを希望する者が多く,アンケート調査の結果,同年12月の時点で,売却に賛成する区分所有者が多数を占めた(甲4)。
これを受けて,本件管理組合法人では,より高額の売却を期待することのできる一括売却を念頭に売却先の選定を進め,平成26年10月25日の総会において,最も高額を提示した三菱地所レジデンス株式会社(以下「三菱地所レジデンス」という。)に対し本件ホテルの一括売却(以下「本件一括売却」という。)をすることが決議された(甲5)。なお,三菱地所レジデンスは,本件ホテルの全区分所有権を取得した上,本件ホテルを取り壊して,新たに分譲マンションを建設することを計画していた(甲14)。
イ もっとも,本件ホテルの区分所有者の中には,ホテル業者への売却を志向して本件一括売却に反対する者もおり,本件一括売却に同意した者の割合は,平成27年5月31日の時点で,出資口数ベースで95.7%(2579口中2469口),議決権ベースで96.3%(303個中292個)であった(甲7,弁論の全趣旨)。
そこで,本件管理組合法人では,平成28年2月27日に区分所有法62条に基づく建替決議を目的とする臨時総会(以下「本件総会」という。)を開催することとし,平成27年12月16日,本件ホテルの区分所有者に対し本件総会の招集通知を発送した(甲7,8)。また,これに先立ち,同年11月20日には,組合員に対し,三菱地所レジデンスとの間で協定を結び,本件ホテルの区分所有権を総額22億5146万7000円(出資口1口当たり87万3000円)で売却する方針であることを明らかにした(甲6,15)。
ウ 本件総会は,平成28年2月27日,予定どおり開催されたが,本件ホテルの建替えに係る議案(以下「本件建替議案」という。)については,議決権の数では議決権総数303個中248個(81.8%)の賛成が得られたものの,区分所有者の数では組合員総数(当時)242名分のうち191名分(78.9%)が賛成,17名分(7.0%)が反対,34名分(12.5%)が未回答(欠席又は棄権)となり,3名分の僅差で否決された。
なお,共有となっている区分所有権に対応する議決権については,共有者全員が同内容の議決権行使書又は委任状を提出している場合に限り,有効票として扱われた(以上につき甲8,17の1,弁論の全趣旨)。
(5)  本件契約
原告及び被告は,平成28年2月15日,要旨,次の内容の業務委託契約(甲1。以下「本件契約」という。)を締結した。ただし,被告については,C(以下「C」という。)が被告の代理人として締結した(弁論の全趣旨)。
ア 本件契約は,被告が本件ホテルの区分所有権の過半数を買収することを目的とする(1条)。
イ 被告は,上記アの目的を達成するために,原告に対し,次の業務(以下「本件業務」と総称し,特に,次の①の業務を「本件業務1」,②及び③の業務を「本件業務2」という。)を委託する(2条)。
① 本件一括売却を撤回に持ち込む業務
② 本件ホテルの区分所有者の過半数から被告に対し区分所有権を売却することの同意(以下「被告売却同意」という。)を取得する業務
③ 被告売却同意をした区分所有者と被告との間で売買契約(以下「被告売買契約」という。)を締結する業務。これに際し,原告は,本件契約の契約期間内に,本件ホテルの出資口の総数の過半数以上,可能な限り多くの売買契約を締結するよう努め,被告は,これに協力するものとする。
④ 原告は,上記①~③の業務の全部又は一部を第三者に委託することができる。
ウ 被告は,本件ホテルの区分所有権を次の条件(一部摘示略)により買い取ることを確約する(3条)。
① 本件ホテルの区分所有者の過半数から被告売却同意の書面を取得したときは,直ちに被告売買契約を締結する。上記書面には,本件一括売却が平成28年7月末日までに履行されないことを条件とするものも含む。
② 被告売買契約の売買代金は,本件ホテルの出資口1口当たり100万円とする。
エ 原告の本件業務の報酬は,被告売買契約の締結が開始された時から発生する。報酬の額は,上記ウ②の金額の3%(消費税別)とし,被告は,原告に対し,次のとおり支払う(4条)。
① 被告売買契約の締結が開始されたとき 内入金として1000万円
② 本件ホテルの区分所有者の過半数との間で被告売買契約の締結が完了したとき 所定の報酬額から上記①により支払済みの金員を控除した残金
③ 本件契約が終了したとき 所定の報酬額から上記①及び②により支払済みの金員を控除した残金
オ 本件契約の契約期間は,契約締結の日から6か月とし,原告又は被告から特段の申出がないときは,1か月ごとに更新される(6条)。
カ 原告及び被告は,それぞれ相手方が誠意をもって本件契約の履行をしないとき又は著しく信用を失墜し本件契約の継続が困難と判断されるに至ったときは,催告を要せずに直ちに本件契約を解除することができる(8条1項)。この場合において,原告及び被告は,それぞれ相手方に対し,これにより生じた損害の賠償を請求することができる(同条2項)。
キ 本件ホテルの区分所有者の過半数から被告売却同意を得ることができなかった場合において,本件契約に基づく区分所有権の買収の継続が困難又は不可能と判断したときは,原告及び被告は,本件契約を解除することができる(7条1項)。この場合において,原告及び被告は,上記買収若しくは本件業務のためにこれまでに要した費用又は損害賠償の請求その他一切の異議の申出をしないものとする(同条3項)。
本件契約に基づく区分所有権の買収が継続中である場合であっても,外部環境,第三者の妨害その他の原告又は被告の責めに帰さない事由により上記買収をこれ以上進めることが困難又は不可能となったときは,同様とする(7条2項,3項)。
(6)  本件契約の解除の意思表示
原告は,平成28年6月16日,被告に対し,本件契約8条1項に基づき本件契約を解除する旨の意思表示をした(甲13の1,2)。
3  主位的請求に係る当事者の主張
(1)  原告の主張
ア 本件契約において,原告は,本件ホテルの区分所有者の過半数から被告売却同意を取得する業務の委託を受けており,そのために,本件業務として,本件建替議案を否決させる業務(本件業務1)及び被告売買契約の仲介業務(本件業務2)を行った。
具体的には,本件業務1として,原告は,本件契約締結後直ちに,本件ホテルの区分所有者であるD(以下「D」という。)を代表とする「bホテル区分所有者有志の会」(以下「有志の会」という。)の名称を用いて,本件ホテルの区分所有者に対し,本件建替議案に賛成するのではなく,被告売買契約に応ずべきである旨を記載した文書を発出し,これに応じて提出された本件建替議案に賛成する旨の議決権行使を取り消す内容の書面(以下「同意取消書」という。)をBに提出するとともに,本件総会にEやDを出席させ,本件建替議案への反対意見を述べさせるなど,本件建替議案の可決阻止のために手を尽くした。なお,有志の会の活動に関し,Dが主体的に関与した事実はない。
また,本件業務2に関し,原告は,本件建替議案が否決された後,E(以下「E」という。)及びCの各会社との間でそれぞれ業務委託契約を締結し,E及びCを実働部隊として用いて,平成28年4月13日までに出資口341口に相当する区分所有者との間で被告売却同意を取得させた(Cは,その後も同年5月18日までに更に出資口620口に相当する区分所有者から被告売却同意を取得した。)。
イ これに対し,被告は,平成28年4月15日,Cを通じて,原告に対し,被告売買契約の締結に向けた有志の会名での勧誘活動を中止するよう指示する一方で,これに先立つ同月13日,Bとの間で本件ホテルの区分所有権の60%以上を被告に取得させる内容の仲介契約を締結し,その後,原告を介さずにBの仲介により本件ホテルの区分所有権の過半数を取得した。さらに,被告は,同年5月上旬には,原告に対し,被告売買契約に関する一切の活動の中止を命じたため,原告は,本件業務を継続し,成功報酬を得ることができなくなった。
本件契約では,原告が全ての被告売買契約を独占的に仲介し得ることが前提とされており,被告は,原告の本件業務に協力する義務を負っていたにもかかわらず,これを妨害してその受領を拒絶し,履行不能に至らせたものといえる。また,民法130条の法理によれば,被告のこのような行為は,故意に条件の成就を妨げた場合と同視して,原告は,本件契約に基づく成功報酬を求めることができると解すべきである。
そこで,原告は,本件契約8条又は債務不履行に基づき,本件契約を解除するとともに,被告に対し,原告が得ることのできた利益について損害賠償を求める。また,選択的主張として,民法130条に基づき,本件契約に基づく成功報酬の支払を求める。
ウ ところで,本件一括売却に対しては,当初,本件ホテルの区分所有者の95%以上の賛同が得られていたことを踏まえれば,本件建替議案が否決に至ったのは,原告による本件業務1の成果以外の何物でもない。そして,本件建替議案が否決されれば,各区分所有者が被告売買契約の締結に応ずるようになるのは当然の成り行きであるから,被告による本件ホテルの区分所有権の取得についても,原告による本件業務の成果ということができる。
そうすると,被告の債務不履行がなければ原告が得ることのできた業務委託報酬相当額(原告の成功報酬の額と同額)は,少なくとも最終的に被告が取得した区分所有権に係る出資口2516口の一部である2300口の売買代金の3%に相当する6900万円に消費税相当額552万円を加えた合計7452万円を下らない。被告は,原告のこのような損害の発生を十分に予見していたというべきである。
なお,被告が取得した区分所有権には,登記上取得名義が株式会社深川ミナクル(以下「深川ミナクル」という。)又は株式会社南関総合サービス(以下「南関総合サービス」という。)とされているものもあるが,いずれも被告の子会社であり,被告が取得したものと評価すべきである。
エ よって,原告は,被告に対し,①本件契約8条2項若しくは②債務不履行(民法415条)に基づく逸失利益の損害賠償請求として,又は③同法130条に基づく報酬請求として,上記業務委託報酬相当額7452万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年10月6日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2)  被告の主張
ア 原告が本件契約に基づき実際にどのような業務を行ったのかは不知であるが,原告が本件業務を行った事実はなく,そうである以上,被告がこれに協力する義務に違反したということもない。
すなわち,本件業務1については,原告は有志の会名義の文書の案文を考案するなどしたにとどまり,中心的に活動していたのはDである。C及びEはDの活動を補助していたにすぎず,原告の本件業務の一環として行動していたものではない。
また,本件業務2についても,出資口341口に相当する区分所有者からの被告売却同意は被告自身が取得したものであり,E及びDは原告の本件業務として同意を得たのではない。出資口620口に相当する区分所有者からの被告売却同意を誰が取得したのかは不明である。なお,原告が被告売買契約の締結にまで関与した事実は一切ない。
イ 被告が原告に対し被告売買契約に関する交渉を中止するよう指示したこと,Bとの間で仲介契約を締結したこと,Bの仲介により本件不動産の区分所有権を取得したことは否認する。そもそも,Cは,被告の従業員ではなく,被告から本件契約の締結以外の代理権は一切与えられておらず,被告との間に何らかの業務委託関係があった事実もない。
また,本件契約上,被告売買契約に係る仲介業務につき原告に独占権が与えられていた事実はなく,原告の独自の契約解釈にすぎない。そもそも,本件契約では,原告が本件業務により区分所有者の過半数から被告売却同意を取得することが報酬発生の要件であり,これを満たさなければ,原告の報酬額はゼロとされている。
ウ 原告の損害は否認し,相当因果関係を争う。原告主張の損害につき,被告には予見可能性がない。
本件建替議案の否決は原告の業務の成果ではなく,飽くまでも建替えに反対する区分所有者の意思によるものである。同様に,本件ホテルの区分所有者の一部が被告売買契約の締結に応じたのも,原告の業務の成果ではなく,当該区分所有者の意思によるものである。
4  予備的請求に係る当事者の主張
(1)  原告の主張
ア 原告は,不動産仲介業を営む商人であるところ,被告売買契約に係る仲介業務を行い,被告のために出資口の総数2579口のうち731口分の被告売買契約を締結に至らせたのであるから,商法512条により,被告に対し,相当の報酬を請求することができる。
イ 相当報酬額については,一般に,平成26年国土交通省告示第172号により不動産売買代金の3%が相当とされていることから,上記731口の一部である644口分の被告売買契約に係る仲介業務の相当報酬額は,1932万円となり,これに消費税額154万5600円を加えると,合計2086万5600円となる。
ウ よって,原告は,被告に対し,商法512条による相当報酬として2086万5600円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年10月6日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2)  被告の主張
争う。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前提事実に証拠(甲1,8,9,11,12,16~28,31~39(各枝番を含む。),乙1~5,証人F,証人E,証人C,原告本人,被告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
(1)  本件契約に至る経緯
ア 本件ホテルの区分所有者であるG(以下「G」という。)は,本件管理組合法人の理事長であるBの前任者に当たり,本件ホテルの運営を委託されている株式会社デイナイスの前代表取締役であった者であるが,もとより本件一括売却に反対する意向を有しており,同様の意向を有する区分所有者を取りまとめる立場にあった。
Gは,本件管理組合法人の理事長であった頃に縁のあった被告が本件ホテルを買収する意向を有していることを知り,原告及びEを引き合わせた。また,Cは,被告の従業員ではないが,以前に被告を代理して同様の買収(新宿のホテルに関する案件であるが,区分所有権の過半数を取得するには至らず,実質的に失敗に終わった。)を手掛けたことがあり,Eと知り合いであったことから,本件でも,Eを介し,同様に被告の代理人として関与した。
そして,原告,E及びCを交えて協議を進める中で,本件管理組合法人に対抗していくために有志の会を結成することとなり,Gの大学の後輩でありGと同様の意向を有していたDがその代表として名前を掲げることとなった(以上につき甲27,28,38,乙1,2,証人F,証人E,証人C,被告代表者,弁論の全趣旨)。
イ 被告は,本件ホテルの区分所有権の過半数を取得することを必須の条件として,Cに対し,本件契約の締結を含め,本件ホテルの買収に関する一切の行為を任せていた(証人E,被告代表者,弁論の全趣旨)。
もっとも,Cは,当初,本件ホテルの買収に対しては慎重な姿勢を示し,被告の名称を公表することを避けていたが,平成28年2月14日,原告訴訟代理人に対し,本件ホテルの区分所有権及び議決権の各過半数の購入について取りまとめを依頼する旨の被告名義の文書を提出し,被告として本件に関与する姿勢を明らかにした(甲18,27,38,証人E,原告本人)。
ウ 本件契約の内容は前示のとおりであり,Cが被告の代理人としてこれを締結したが,本件ホテルの区分所有者の過半数から被告売却同意を取得することが契約の前提条件とされていた(甲27,38,証人E,証人C,被告代表者,弁論の全趣旨)。
(2)  本件業務の再委託等
ア 原告は,平成28年2月22日,有限会社リーフ不動産(以下「リーフ不動産」という。)に対し,本件業務を再委託した。再委託に係る業務委託報酬については,被告売買契約の締結の際に売主である区分所有者から支払われた仲介手数料(売買代金の3%)を一旦リーフ不動産が全額取得した上,その20%に相当する額をリーフ不動産から原告に支払うこととされた(甲19,38,証人E,原告本人)。
Cは,リーフ不動産の役員,従業員又は株主ではないが,リーフ不動産の代表者と友人であり,仲間として協力し合う関係にある(証人C)。
イ 原告は,平成28年2月15日,グリーンリーフ・インターナショナル株式会社(以下「グリーンリーフ」という。)に対し,本件業務を重ねて再委託した。再委託に係る業務委託報酬については,被告に対し本件ホテルの区分所有権を売却する業務が原告の企図するとおり成功した場合には,成功報酬として,原告がリーフ不動産及び被告から支払を受ける報酬合計額の50%に相当する額を原告が支払を受けてから7日以内にグリーンリーフに支払うこととされた(甲20,38,証人E,原告本人)。
なお,グリーンリーフの代表取締役はEである(甲20)。
ウ 原告は,平成28年当時,不動産鑑定業,不動産関係のコンサルタント業等を個人で営んでいた(甲28)。
(3)  本件建替議案の否決までの経過
ア 本件契約締結後,原告,E及びCは,本件建替議案を否決に追い込むべく,速やかに本件ホテルの区分所有者に宛てた文書の発出のための作業に着手した。各文書の文面は主に原告が起案した上,E,C及びDにおいて確認し,E及びCがそれぞれの会社の事務員を用いるなどして頒布作業を行った(乙3,証人E,原告本人)。
すなわち,まず平成28年2月16日付けで,有志の会名義で,本件ホテルの区分所有者に宛てて,本件一括売却に反対し,本件ホテルにおけるホテル営業を継続することを前提に,区分所有権を「国内でホテル・ゴルフ場を経営する法人」に出資口1口当たり100万円(決済時期平成28年3月31日)で売却することを目的として有志の会を結成したとし,これに賛同する区分所有者に同意書及び同意取消書の送付を求める内容の文書(甲21,乙5)を発出した。
これに対し,本件管理組合法人は,平成28年2月22日付けで,組合員に宛てて,有志の会から本件ホテルの建替決議への反対を呼び掛ける文書が送付されているが,悪質な妨害行為であり,名も明かせないようなホテル業者からの買取提案という極めて杜撰で不確かなものであるとして,本件総会では賢明な判断をするよう促す内容の連絡文書(甲9)を発出した。
そこで,平成28年2月24日付けで,有志の会代表D名義で,本件ホテルの区分所有者に宛てて,売却先の会社が被告であること,リーフ不動産が被告との連絡窓口となること等を明らかにするとともに,出資口1口当たり100万円で売却すること,被告売買契約を同年3月31日に締結し,売買代金の決済も同時に行うことを予定すること等を改めて示して,本件建替議案の否決及び被告売買契約の締結を促す内容の文書(甲23)を発出した。
イ 以上の作業と並行して,原告,E及びCは,本件ホテルの区分所有者から被告売却同意を取得するための具体的な作業に着手した。この作業は,原告との間の業務委託契約(前記(2))に基づき,リーフ不動産(C)が主となって被告売買契約の締結業務(仲介業務)を行い,Eは主に交渉関係を分担した(証人E,原告本人)。
ウ 平成28年2月27日開催の本件総会にはD及びEが出席し,有志の会の活動について議長であるBとの間で議論となった。その上で,Bが議決権行使書を未提出の組合員に対し提出を促したところ,若干名から提出があり,さらに,事前に提出済みの議決権行使書に記載した意思表示につき変更希望の有無を確認したところ,若干名から変更の申出があった。これらの手続を経た上で,本件建替議案の採決に移り,賛否を集計したところ,前記前提事実のとおり,僅差で否決される結果となった(甲17の1,弁論の全趣旨)。
なお,原告は,本件総会には出席していない(証人E,証人C,原告本人)。
エ 本件管理組合法人は,本件総会の結果を受けて,平成28年3月初め頃には,本件一括売却を前提に同年4月にも再度建替決議を経る方針を明らかにしていた(甲11,25)が,同年3月末には,本件管理組合法人は組合員の要望に応えるべく行動しており,同年4月中頃までには改めて連絡する旨の文書(甲26)を発出するにとどめる状況にあった。
(4)  本件業務の中止指示
ア 本件総会の結果を受けて,原告から業務委託を受けたE及びCは,本件ホテルの区分所有者から被告売却同意を取得する作業を進めたが,当初予定していた平成28年3月31日までに被告売却同意を得ることができたのは,出資口341口に相当する区分所有者にとどまっており,今後,出資口総数の過半数の同意を得ることのできる可能性はゼロではないものの,その見通しが付かない状況にあった(甲39,乙1,証人C,弁論の全趣旨)。なお,この341口については,同年4月13日には被告売買契約の締結及び売買代金の決済が行われている(甲27,28,38,証人E,原告本人)。
被告代表者は,本件契約締結以来,Cに本件ホテルの買収に関する事務を任せていたが,上記のような状況にあることを知り,新宿の案件に続いて二度も買収が失敗に終わるのを回避すべく,Cに任せるのをやめて,自らBと直接交渉する方針に転換した(証人C,弁論の全趣旨)。
イ 折しも,原告は,有志の会代表D名義の平成28年4月15日付け文書(甲12)により,本件ホテルの区分所有者に宛てて,出資口902口(出資口総数の35%)に相当する区分所有者との間で被告売買契約の締結を開始したこと,これにより本件一括売却は不可能となったこと,同月29日までに被告売却同意に係る同意書を送付した区分所有者については,同年5月13日に被告売買契約の締結と同時に売買代金の支払をすること等を告知しようとしていたが,当該文書は,Cの反対により発出に至らなかった(弁論の全趣旨)。
その後,原告は,Cと連絡を取ることのできない状況が続いていたが,Cは,平成28年5月上旬頃までの間は,被告から別途了承を得て被告売買契約の締結業務を継続していたようである(甲27,28,38,証人E,原告本人)。
ウ 他方で,本件管理組合法人は,同じ平成28年4月15日に,組合員に宛てて,再度の建替決議が難しい状況にあることを前提に,新たな売却先との間で出資口1口当たり106万円で同年6月末日までに売買契約を締結する等の条件で合意に至ったこと,ついては同年4月29日に説明会を開催すること等を告知する文書を発出した(甲16の1)。
平成28年4月29日に開催された本件管理組合法人の説明会では,三菱地所レジデンスとの協定は解除されたこと,新たな売却先は深川ミナクルであり,この売却のために南関総合サービスの出資等により新たに設立された特別目的会社(SPC)であること,信用性の担保の意味合いで既に5億円余りの支払を受けていること,本件ホテルの区分所有者のうち約25%が既にリーフ不動産を通じて被告に売却済みと聞いており,今回,本件管理組合法人を通じた売却の意思を表明している区分所有者は約63%に上ること,被告及び深川ミナクルは,本件ホテルの運営に関し協力する方針であること等が説明された(甲16の2,31)。
なお,南関総合サービスは,被告の関連会社である(甲32~34)。
(5)  本件ホテルの区分所有権の取得状況
現在,本件ホテルの区分所有権のほとんどは被告又は深川ミナクルの登記名義となっており,その他の区分所有者としては,南関総合サービスを除けば,法人が3社,個人が7名(延べ人数)残っているのみである。被告,深川ミナクル又は南関総合サービス以外の者の所有する区分所有権に相当する出資口の個数は,計61口にとどまる(甲35)。
2  原告の主位的請求について
(1)  前記認定事実によれば,Cは,平成28年4月15日に原告が文書を発出しようとしたことに反対し,その後,原告から連絡が取れない状況が続いていたところ,その間に,本件契約によらずにDを介して深川ミナクルに対し本件ホテルの区分所有権を売却する話が進んでいたことが明らかにされるに至った。
深川ミナクルは,被告の関連会社であるものと認められ,本件ホテルの運営に関しては被告と協力する方針とされることを踏まえると,本件ホテルの区分所有権の買収という意味では,実質的に被告と同視し得る存在であるものとうかがわれ,Cが従前から被告代表者に一任されて被告の代理人として行動しており,Cの反対や連絡不通も被告の意向を忖度した上での行動とみられること,これと前後して深川ミナクルへの売却の話が明らかにされており,被告代表者がCに任せるのではなく自らBと直接交渉する方針に転じたこと等を総合すると,これらは被告の一連の行為と捉えることが可能であり,原告は,本件業務を行ったと評価し得るかどうかはひとまず措くとしても,被告の行為によって本件業務の履行を妨害されるに至ったものと評価することができる。
また,本件契約において,原告が独占的に被告売買契約に係る仲介業務を行い得ることは明記されておらず,このような原告の独占権が侵害されたということはできないが,他方で,他の競合する仲介者の存在を前提とした規律の存在も認められない。そして,一般に,契約当事者は,相手方の債務の履行に協力し,これを妨害しない義務を負うというべきであるところ,被告又はその関連会社において原告を介さずに本件ホテルの区分所有者との間で直接に売買契約を締結することは,本件契約との関係では,原告の本件業務の履行を妨害するものとして,社会通念上,原告に対する債務不履行を構成するというべきである。
(2)  ところで,本件契約において,被告は,前件の買収の失敗を踏まえ,その強い意向により,本件ホテルの区分所有者の過半数から被告売却同意を得て初めて一括して被告売買契約を締結することとしており,原告の報酬についても,その締結開始の時点から発生することが大前提とされている。このように,本件契約は,本件ホテルの区分所有者の過半数から被告売却同意を取得することを契約の前提条件(以下「本件前提条件」という。)としていたものと認められるところ,原告において,本件契約が解除された平成28年6月16日までの間に本件契約に基づき本件前提条件を満たした事実はないから,本件契約に基づく原告の報酬請求権は発生していない。
これに対し,原告は,被告の妨害行為によって本件業務が妨げられ,そのために本件前提条件を満たすことができなかったと主張するが,平成28年3月31日までの間に被告売却同意を得た区分所有者の数は,出資口数にして341口(出資口総数の約13%)にとどまっていたというのであるから,本件契約の契約期間の差し当たりの終期である同年8月15日までの間に出資口総数の過半数である1290口以上に相当する区分所有者から被告売却同意を得ることができたかどうかは,本件管理組合法人の協力が得られない状況下では,必ずしも明らかではなかったというよりほかない。
原告は,本件建替議案が否決されれば当然の成り行きとして本件ホテルの区分所有者の過半数が被告売買契約に応じたはずであると主張するが,そもそも本件建替議案については,議決権数では決議要件を満たしたものの,区分所有者数の要件をわずか3票満たさずに否決されたにすぎないのであるから,本件管理組合法人の理事会の意向に同調する姿勢を示す区分所有者も相当数いたことが容易にうかがわれる。そして,前示のとおり原告ないし有志の会が本件管理組合法人と対立する状況下では,本件管理組合法人において代案が別途示されれば,相当数の区分所有者が当該代案になびく可能性もあったのであって,原告の主張するように,当然の成り行きとして区分所有者の過半数が被告売買契約に応じたであろうという事実について,単なる可能性の域を超えて,高度の蓋然性のある証明があったものとして当該事実を認定することは困難といわざるを得ず,相当因果関係の存在を認めるには至らない。
そうすると,本件契約につき被告に債務不履行があるとしても,これにより原告に逸失利益に係る損害が発生したといえるかどうかは明らかでないのであり,原告がこれ以外の損害を主張立証しない以上,損害の発生及び損害との間の相当因果関係につき証明がないというよりほかない。
したがって,原告の主位的請求のうち,逸失利益に係る損害賠償を求める部分は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(3)  他方で,原告は,民法130条の法理によれば,被告の上記行為は,故意に条件の成就を妨げた場合と同視され,本件契約に基づく成功報酬の支払を求めることができると解すべきであるとも主張する。そもそも,原告は,本件契約を既に解除しており,解除済みの契約について報酬債権の成否を検討するのは背理ともいい得るが,その場合であっても,同条に基づき一旦発生した報酬債権が解除に伴い損害賠償債権に転化したとみることもできるというべきであり,原告は,このような成功報酬に代わる損害賠償をも請求する趣旨であると解するのが相当であるから,更に検討することとする。
まず,本件前提条件は,民法130条にいう「条件」に類するものといえ,本件契約における原告の報酬も本件前提条件が成就した場合に支払われる成功報酬としての意味合いを有していることを踏まえれば,原告の主張するように,被告が故意に本件前提条件の成就を妨げたといえるのであれば,同条の法理により,原告は,本件契約に基づく成功報酬の支払を求めることができるというべきである。
もっとも,民法130条にいう「故意」とは,条件成就の妨害につき単に悪意であるというだけでは足りず,そのことについて信義則に反するといい得る事情があるか,又は害意をもって条件成就を妨害した場合であることを要すると解するのが相当であるところ,前記認定事実によれば,原告を介する形では本件ホテルの区分所有者の過半数から被告売却同意を得ることのできる見通しが立たない状況において,被告としては,何としても区分所有権の過半数を取得し,損害の発生を回避することを画策していたものとうかがわれ,結果的に,原告を介さずに本件ホテルの区分所有者との間で直接に売買契約を締結し,原告の本件業務の履行を妨害することとなったことには,原告に独占権が与えられていないことも踏まえれば,一定のやむを得ない事情がなかったとはいえない。
しかし,前記認定事実によれば,被告は,当初,本件ホテルの区分所有者に向けて被告の名称を明らかにすることには消極的であったものと認められ,原告を介して区分所有者の過半数から被告売却同意を取得し得るかどうかにつき懐疑的であったことがうかがわれるが,それにもかかわらず,本件契約の締結及びこれに関連する事務をCに一任し,Cの代理により本件契約を締結することを了承していたものと認められる。ところが,原告を介して本件ホテルの区分所有者の過半数から被告売却同意を得る見通しが立たないとみるや,被告は,本件契約の反対当事者である原告に何らの断りも入れることなく,これまで原告ないし有志の会が本件管理組合法人と対立していたことを知りながら,本件管理組合法人の理事会を介して被告の関連会社において本件ホテルの区分所有権の過半数を取得し,原告の本件業務を妨害するに至ったのである。被告のこの妨害行為が本件契約の債務不履行に当たることは前示のとおりであり,そのことも踏まえて以上の経緯を総合すると,被告の上記妨害行為は,本件前提条件に係る条件成就の妨害につき被告が単に悪意である状態でされたというにとどまらず,信義則に反するものであったと認めるのが相当である。
したがって,被告は,民法130条にいう「故意」によって条件の成就を妨げたものとして,同条の法理により,原告に対する成功報酬の支払義務を免れず,この義務は,原告による本件契約の解除に伴い,これに代わる同額の損害賠償義務に転化したと解するのが相当である。
民法130条の法理により発生したものとみなされる成功報酬の額については,本件契約上の最低限の成功報酬の額として,本件ホテルの区分所有権の過半数に当たる最小の出資口数である1290口についての被告売買契約に係る売買代金の3%(消費税(地方消費税等を含む。以下同じ。)別)に相当する3870万円と認めるのが相当であり,これに消費税相当額として8%を加算すると,4179万6000円となる。
(4)  被告は,原告は本件業務を行っていないから報酬債権は発生しないと主張するが,被告が本件前提条件の成就を妨げた以上,原告が実際に本件業務を行ったかどうかに関わりなく民法130条の法理により成功報酬が発生したものとみなされるのであるから,被告の上記主張は失当である。
そもそも,前記前提事実及び認定事実によれば,有志の会名義で発出された文書がなければ,本件建替議案は当初のアンケートの結果のとおり可決されていたであろうことが推認され,これが僅差で否決に至ったのは,当該文書の影響によるところが大きいものと認められるところ,原告は,自らその文書の案文を起案した上,頒布作業についてはE及びCの各会社との間で業務委託契約を締結し,本件業務を再委託して行わせていたのであるから,これらを総体としてみれば,原告が本件業務1を行っていなかったということはできない。本件契約では,原告において本件業務の全部又は一部を第三者に委託することができることとされているのであり,本件業務2についてみても,仮に,原告自身は被告売却同意の取得や被告売買契約の締結に係る具体的な業務を行っていなかったとしても,E及びCに再委託して行わせていたのであるから,本件契約との関係では,原告が本件業務2を行ったものと評価することができる。したがって,これらの点からも,被告の上記主張は理由がないことに帰するというべきであり,また,被告の前記妨害行為が信義則に反するものではなかったということはできない。
なお,被告が原告を介して本件ホテルの区分所有権の過半数を取得する見通しが立っていなかったとすれば,被告が条件の成就を妨げたといえるかどうかには疑義もあり得るが,条件というのは,その性質上,もとより成就するかどうかが未確定なものであり,原告において本件前提条件を達成する可能性がゼロではなかった限り,その可能性をゼロにする被告の行為は,条件の成就を妨害したものというに妨げない。
(5)  よって,原告の主位的請求は,被告に対し,民法130条の法理により生じた成功報酬に代わる損害賠償として4179万6000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
遅延損害金の起算点については,本件請求の額は訴訟手続の途中で拡張されているものの,上記の4179万6000円という額は,訴状送達の時点における請求額と同一であるから,全額につき訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の発生が認められる。また,本件請求債権の債務者である被告は株式会社であるから,遅延損害金の利率は商事法定利率である年6分となる。
3  結語
以上によれば,原告の主位的請求は上記の限度で理由があり,予備的請求の額はこれよりも低額であるから判断の必要がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第41部
(裁判官 髙橋玄)

 

〈以下省略〉

 

*******

裁判年月日  平成30年11月14日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)31288号・平30(ワ)3650号
事件名  不当利得返還請求事件(本訴)、損害賠償金等請求事件(反訴)
文献番号  2018WLJPCA11148019

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年11月14日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)31288号・平30(ワ)3650号
事件名  不当利得返還請求事件(本訴)、損害賠償金等請求事件(反訴)
文献番号  2018WLJPCA11148019

平成29年(ワ)第31288号 不当利得返還請求事件(本訴事件)
平成30年(ワ)第3650号 損害賠償金等請求事件(反訴事件)

茨城県古河市〈以下省略〉
本訴原告・反訴被告 X
訴訟代理人弁護士 小川晶露
大阪府守口市〈以下省略〉
本訴被告・反訴原告 一般社団法人Y協会
代表者代表理事 C

 

 

主文

1  本訴被告は,本訴原告に対し,3025万0325円及びこれに対する平成29年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  本訴被告は,本訴原告に対し,110万円及びこれに対する平成29年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  本訴原告のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
4  反訴原告の反訴請求をいずれも棄却する。
5  訴訟費用は,これを6分し,その1を本訴原告(反訴被告)の負担とし,その余は本訴被告(反訴原告)の負担とする。
6  この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  本訴事件
(1)  本訴被告は,本訴原告に対し,3275万0325円及びこれに対する平成29年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)  本訴被告は,本訴原告に対し,660万円及びこれに対する平成29年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  反訴事件
(1)  反訴被告は,反訴原告に対し,550万円を支払え。
(2)  反訴被告は,反訴原告に対し,100万円を支払え。
(3)  反訴被告は,反訴原告に対し,20万円を支払え。
第2  事案の概要
本訴事件は,本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。)が,本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)に対し,(1)被告との間で特定商取引に関する法律(以下「法」という。)にいう「特定継続的役務提供契約」を締結したが,法42条が規定する書面の交付を被告から受けなかったとして,法48条1項に基づいて同契約を解除(クーリングオフ)した上で,不当利得または法48条7項に基づき,入会金等として支払った合計3275万0325円とこれに対する催告の日の翌日である平成29年3月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(2)インターネット上の被告のホームページ及びブログに書かれた掲載文が原告の名誉を棄損するものであるとして,不法行為に基づき,660万円(慰謝料及び弁護士費用)とこれに対するホームページに掲載されていた同年12月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
他方,反訴事件は,被告が,原告に対し,(1)原告が,雑誌社に事実無根の記事を掲載するよう仕組んで取材を受けた,(2)原告が,警察に虚偽の報告をして捜査を求めた,(3)原告による本訴事件の提起が不当訴訟であるとして,不法行為に基づき,(1)につき550万円,(2)につき100万円,(3)につき20万円の損害賠償の支払をそれぞれ求める事案である。
1  前提事実(末尾に証拠等の摘示がない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)  被告は,日本人とウクライナ人との結婚を支援することにより,国際交流の促進と世界平和の実現に寄与することを目的とする一般社団法人であり,日本人男性に対して,ウクライナ人女性を結婚相手として紹介する事業(以下「本件事業」という。)を行っている(甲1,2)。
本件事業は,結婚を希望する者に継続的に異性を紹介し,相手方がそれに対して金銭を支払うというものであり,法41条1項にいう「特定継続的役務提供」にあたる(特定商取引に関する法律施行令11条,同別表第四の七参照)。
(2)  原告は,被告との間で,結婚相手としてウクライナ人女性を紹介してもらうというサービスを継続的に受けることを内容とする役務提供契約を締結し(以下「本件契約」という。),平成27年2月4日,32万4000円を被告に対して入会金として支払った。なお,その際,契約書等の書面は作成されなかった。
(3)  原告は,被告に対し,平成29年3月16日に被告に到達した同月14日付け内容証明郵便によって,本件契約(個々のサービスごとに契約が成立しているという場合にはその個々の契約)について,法48条1項に基づいてこれを解除するとの意思表示をするとともに,支払済みの費用等の合計3275万0125円の返還を求めた(甲14の1,2)。
(4)  原告は,同月17日,被告を相手方として,独立行政法人国民生活センターの紛争解決委員会にあっせん,仲介手続の申立てを行ったが,被告の協力が得られなかったことから,同年9月14日,東京地方裁判所に本件訴訟を提起した。
(5) 株式会社a(以下「a社」という。)が同年11月30日に発行した「b誌(12月7日号)」に,「『ウクライナ女性』結婚斡旋に被害続出は『世界一の美女大国』だから」と題する記事(甲18,乙5。以下「本件記事」という。)が掲載された。本件記事の内容は,原告が提起した本件訴訟を取り上げるものであり,本件本訴事件における原告の主張と同様の原告のコメントが引用されているほか,冒頭には「かの国では日本人男性へウクライナ美女との結婚を斡旋するビジネスが跋扈して,被害が続出しているというのだ。」との記載がある。
(6) 被告は,インターネット上の被告のホームページ,ブログ及びツイッターにおいて,「皆様にお知らせ」との表題のもと,別紙の記載の掲載文を,原告の実名を年齢及び在住都道府県名とともに挙げて掲載した(以下「本件掲載文」という。甲23,25,71。なお,ブログ上では少なくとも同年12月12日の時点で閲覧が可能である。)。
2  争点
【本訴事件】
(1) 原告の被告に対する費用等の支払の有無
(2) 本件掲載文についての名誉棄損による不法行為の成否
【反訴事件】
(3) a社に事実無根の記事を掲載させようとしたという不法行為の成否
(4) 捜査機関に虚偽の報告をしたという不法行為の成否
(5) 原告の本訴事件が不当訴訟であるという不法行為の成否
3  争点に関する当事者の主張
(1)  争点(1)(原告の被告に対する費用等の支払の有無)について
(原告の主張)
ア 原告は,被告の理事であったD(以下「D」という。)から,スカイプでの口頭会話またはチャット交信でのやり取りを通じて本件事業についての説明を受けた上で,被告との間で本件契約を締結し,その後,以下のとおり,入会金やウクライナ滞在パッケージ費用等の代金を被告に対して支払った。
①入会金
平成27年2月4日 32万4000円(甲3)
②ウクライナ滞在2週間パッケージ料金
平成27年3月23日 38万8800円(甲4)
現地でのアテンド費用,宿泊費,通訳料,現地空港までの送迎料,女性との現地お見合いセッティング料等
③ウクライナ滞在4週間パッケージ料金
平成27年6月10日 84万2000円(甲6)
現地でのアテンド費用,宿泊費,通訳料,現地空港までの送迎料,女性との現地お見合いセッティング料等
④1回目の結婚費用
平成27年9月2日 218万4000円(甲7)
1回目の新婦Eとの現地結婚式手数料等,成婚に対する成功報酬
⑤ウクライナ滞在4週間パッケージ料金
平成27年10月20日 85万3200円(甲8の1,2)
現地でのアテンド費用,宿泊費,通訳料,現地空港までの送迎料,女性との現地お見合いセッティング料,往復航空券代金等
⑥2回目の結婚費用
平成27年11月 250万0000円(手渡し)
2回目の新婦F(通称「F1」または「F2」)との入籍手続,アレンジ費用,パーティーバス,飲食代等
⑦VIP会員資格取得費用
平成27年11月27日 1080万0000円(甲9,11)
「必ず理想のウクライナ女性と籍を入れさせる」「一生かけても最後の最後まで面倒をみる」と被告が説明する無期限かつ最高ランクのVIP会員の資格取得費用
⑧VIP会員活動諸経費
平成27年11月27日 1300万0000円(甲10,11)
上記⑦にいうVIP会員の活動諸経費
⑨ウクライナ滞在2週間パッケージ料金
平成28年1月8日 42万1200円(甲12の1)
現地でのアテンド費用,宿泊費,通訳料,現地空港までの送迎料,女性との現地お見合いセッティング料等
⑩VIP会員延長料金
平成28年4月6日 143万7125円(甲13)
上記⑦にいうVIP会員の延長料金
イ 本件契約(上記ア①ないし⑩の個々のサービスごとに契約が成立するという場合には,その個々の契約)は,「特定継続的役務提供契約」(法41条1項1号参照)にあたるところ,原告は,被告から法42条が求める書面の交付を受けていないから,前記前提事実(3)のとおり,法48条1項に基づき,被告に対して本件契約を解除するとの意思表示(クーリングオフ)をした。
したがって,被告は,原告に対し,本件契約に関連して原告が被告に支払った上記ア①ないし⑩の代金について,不当利得または法48条7項に基づいてその全額の返還義務を負っている。
ウ なお,被告は,上記ア②ないし⑩の支払につき,ウクライナの現地法人である「c社」(以下「c社」という。)が原告にサービスを提供し,その代金もc社に支払われたものであって,被告に支払われたものではないと主張するが,c社という会社が実際に存在するかも不明であるし,仮にc社が存在するとしても,原告が提供されたサービスは被告のホームページにおいてサービスとして掲載されているものであり,原告がやり取りをしたDのスカイプ名も被告の法人名が表示されていたのであって,原告は一度もc社という名前を聞いたことがないから,原告にサービスを提供し,原告がその代金を支払った相手が被告であることは明らかである。
(被告の主張)
ア 原告が,被告の会員であり,①入会金として支払いを受けた32万4000円について返還義務があることは認める。
なお,本件契約の契約書は,原告に郵送してその返送を待っていたが,そのまま原告が役務提供を希望しないままであったことから,作成には至らなかったものである。
イ 原告の主張する②,③,⑤及び⑨のパッケージ料金については,原告は,被告と提携関係にあるウクライナ法人の結婚相談所であるc社と契約を締結したのであり,原告の支払は,c社によるあっせん,紹介の対価としてc社に支払われたものであるから(被告宛てに送金されたことの証拠も被告が発行した領収書もない。),被告がこれらについて返還義務を負うことはない。
なお,仮に契約の相手方が被告であるとしても,上記の代金は,原告がウクライナにおいて女性に対価を支払って性行為をするための費用を立て替えたものであり,本件契約とは関係性がないものである。
ウ 原告の主張する④の結婚費用は,c社が結婚式場料金などを立替払いした分について支払を受けたものであり,被告がこれらについて返還義務を負うことはない。
エ 原告の主張する⑥の結婚費用は,何も知らない。
オ 原告の主張する⑦及び⑧のVIP費用については,Dは1080万円及び1300万円といった大金を受け取っていないし,VIP会員という制度がない被告にはそもそも関係のないものである。
オ 原告の主張する⑩のVIP延長料金は,Dが個人的に原告に貸し付けた金銭の返済を受けたものである。
(2)  争点(2)(本件掲載文についての名誉棄損による不法行為の成否)について
(原告の主張)
ア 本件掲載文には,原告の実名と年齢が明確に記載されている上に,原告のフェイスブックのアカウントまでリンクが貼られており(甲28),本件掲載文の対象が原告であることは一般人にとって明らかである。
イ(ア) 本件掲載文には,「訴訟が存在する点は事実でございますが,全く事実に反する金額を請求してきている」「57歳男性側から悪意を持って雑誌社に事実無根の内容を話している」との記載があるところ,これは,原告が訴訟において全く事実に反する請求をしており,また,悪意を持って雑誌社に事実無根の話をしているような印象を社会一般に与えるものであり,原告の社会的評価を低下させ,その名誉を棄損するものである。
(イ) 本件掲載文には,「この57歳男性は,当初10代のウクライナ人女性との結婚を至急というかたちで希望」「57歳男性は,10代女性は絶対条件であり妥協はできないとの旨,要請を受けた」との記載があるところ,これは,原告が無理難題な要求を結婚業者に対して行う会員であるかのような印象を社会一般に与えるものであり,原告の社会的評価を低下させ,その名誉を棄損するものである。
(ウ) 本件掲載文には,「しかしながら,女性Aが日本に来日し,共に生活したところ,女性は57歳男性のことが恐くなり逃げ出した」との記載があるところ,これは,当該女性が原告から逃げ出さざるを得なくなるような乱暴ないし異常な性格を原告が有しているかのような印象を社会一般に与えるものであり,原告の社会的評価を低下させ,その名誉を棄損するものである。
(エ) 本件掲載文には,「後に女性Bより『性的虐待を受けた』との勇気ある告発が当協会にもたらされ,それによって恐ろしい事実が判明致しました。」との記載があるところ,これは,原告が,女性Bに対して,継続的に暴力や脅迫による性行為を強要する性的虐待を行ったものであり,当該女性がその実態を勇気をもって告発せざるを得なかったかのような印象を社会一般に与えるものであり,原告の社会的評価を低下させ,その名誉を棄損するものである。
(オ) 本件掲載文には,「少なからず不安な気持ちを持って来日されるウクライナ人女性に,来日直後に性行為を幾度と強要し,人ではなく物のように扱った」との記載があるところ,これは,原告が,当該女性を自らの異常な性行為,性的偏向のための道具としてのみ扱い,尊厳ある人間として扱わなかったかのような印象を社会一般に強烈に与えるものであり,原告の社会的評価を低下させ,その名誉を棄損するものである。
(カ) 本件掲載文には,「こういった理由がありウクライナ人女性と結婚してもすぐに帰国され,それを当協会の責任だと押し付けており,そういったことから事実無根の訴訟を提起してきた」との記載があるところ,これは,原告の性暴力や性的虐待が原因となってウクライナ人女性がすぐに帰国してしまったというのに,原告が,それを被告の責任だと押し付けるために事実無根の訴訟を提起しているかのような印象を社会一般に与えるものであり,原告の社会的評価を低下させ,その名誉を棄損するものである。
ウ 上記イ(ア)ないし(カ)で指摘した摘示事実のうち,訴訟が存在するという点以外は,すべて虚偽の事実であり,また,いずれの事実も公共の利害に関するものではないことは明らかであって,掲載について目的の公益性がないことも明らかである。
エ 本件掲載文によって,原告は,性暴力者,性変質者であるかのごとく記載され,著しい精神的苦痛を被った。その損害額は600万円を下らない。
また,原告は,上記損害賠償を求めるため,本件本訴事件の原告代理人に訴えの変更を依頼せざるを得なくなった。上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は60万円を下らない。
(被告の主張)
社会的評価の低下があったという点や,虚偽の事実であるという点,原告に損害が生じたという点は争う。
また,被告は,原告がb誌を利用して被告に対する事実無根の中傷を行ったこと(本件記事)に対し,顧客が離れてしまわないように反論(本件掲載文)したものであり,公共の利害に関する事実を,公益を図る目的をもって掲載したものである。
なお,原告の実名を公表したのは,原告と同年齢の会員から問い合わせがあり,実名公表を求められたことによるものである。
(3)  争点(3)(a社に事実無根の記事を掲載させようとしたという不法行為の成否)について
(被告の主張)
ア 前記前提事実(5)のb誌の記事(本件記事)は,事実無根のものであるところ,この記事は,原告が,a社に対し,虚偽の内容を掲載するように取材対応したことによるものである。
イ 上記アの原告の行為は不法行為にあたるところ,これによって被告は信用が棄損されるとともに営業を妨害され,550万円の損害を受けた。
(原告の主張)
本件記事は,発行の5日前である平成29年11月25日夜に,記者が突然原告宅に現れて取材協力を求め,原告がこれに応じたことによるものであり,原告から取材を求めたものではない。また,原告において,自己のコメントがそのままの形で掲載されることに同意しただとか,それを予想,容認しつつあえてコメントをしただとか,出版社による裏付け取材が期待できなかったといった事情は存在しない。
したがって,本件において名誉棄損による不法行為が成立する余地はない。
(4)  争点(4)(捜査機関に虚偽の報告をしたという不法行為の成否)について
(被告の主張)
ア 原告は,被告に不当に精神的圧力をかける目的で,大阪府警察本部の刑事に対し,被告の紹介する女性が売春婦であるとの虚偽の通知をして捜査を求めた。
イ 上記アの不法行為によって被告は100万円相当の精神的損害を受けた。
(原告の主張)
原告は,被告について,管理売春,詐欺,特定商取引に関する法律違反,旅行業法違反の被害相談を大阪府警にしたが,そのような被害相談をもって名誉棄損が成立するとの原告の主張は独自の見解に過ぎない。
(5)  争点(5)(原告の本訴事件が不当訴訟であるという不法行為の成否)について
(被告の主張)
ア 本件本訴請求は,事実に基づかない虚偽の主張により,不当に高額の請求を行うものであり,悪意をもって被告を陥れようとするものである。
イ 不当訴訟である本件本訴請求による慰謝料は20万円が相当である。
(原告の主張)
争う。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠(証人Dの証言を含む。)は信用することができない。
(1)  被告のホームページ(甲2の3,甲31,32)
ア 平成28年5月11日時点の被告のホームページの「運営法人」の欄には,「理事 D(代表・現地コーディネーター)」との記載がある。また,平成29年8月4日時点の被告のホームページには,「理事 D(代表理事・現地法人代表)」との記載がある。
イ 平成29年5月6日時点の被告のホームページには,日本人男性にウクライナ人女性を結婚相手として紹介するという被告の本件事業の利用料金等に関して,以下の記載がある(なお,各サービスがc社によって提供されるといった記載はない。)。
各サービスのご利用料金
ご利用料金
入会金 10万円(税別)
会費
ゴールドコース 30歳未満の方 2年間:20万円
プラチナコース 30歳以上の方 2年間:40万円
ダイヤモンドコース 無期限(成婚するまで,成功報酬型):300万円
(省略)
成婚料
・ゴールドコース,プラチナコースの成婚料:800,000円
(省略)
・VIPスペシャルコースの成婚料:Dまでお問い合わせください。(成功報酬:女性との婚約,及び,ウクライナでの法に基づいた婚姻手続きが完了したのちのお支払いになります。婚約時半金,結婚成立時半金をそれぞれいただきます。)
(省略)
ロマンスツアー キエフ滞在
短期6泊まで短期パック:料金はお見積りさせていただきます。
(省略)
キエフ滞在 2週間パック(13泊まで):料金はお見積りさせていただきます。
(省略)
キエフ滞在 マンスリー滞在パック:(30泊まで):料金はお見積りさせていただきます。
(2)  入会金の支払
原告は,本件事業について,被告の理事であったDから説明を受けた上で,被告に対し,入会金等として32万4000円を支払った(前記前提事実(2),甲70)
(3)  1回目の渡航
ア 原告は,平成27年5月13日にウクライナに渡航し,同月18日まで同国に滞在して,その間,数人の女性とお見合いをしたが,成婚には至らなかった(甲5,70)。
イ 原告は,上記アにかかる航空券代,アテンド通訳代,宿泊費,空港送迎往復費用,お見合い料等として,渡航前の同年3月23日に,Dの個人名義の口座に38万8800円を振込送金した(甲4,原告本人尋問の結果)。
(4)  2回目の渡航
ア 原告は,同年8月3日にウクライナに渡航し,同月30日までの約1か月にわたって同国に滞在して,その間,女性とお見合いをするなどした(甲5,原告本人尋問の結果)。
イ 原告は,上記アにかかる航空券代,アテンド通訳代,宿泊費,空港送迎往復費用,お見合い料等として,渡航前の同年6月10日に,Dの個人名義の口座に84万2400円を振込送金した(甲6,原告本人尋問の結果)。
(5)  Eとの結婚等
ア 上記(4)のウクライナ滞在中の同年8月上旬頃,原告は,Eという女性と会い,同月29日には現地で結婚式を行ったが,指環の交換などはなく,また,その結婚式にはEの親族や友人の出席はなく,被告ないしはDの関係者4名が列席しただけであった(甲62,原告本人尋問の結果)。
イ その後,原告が先に日本に帰国し,おって同年10月12日にEが来日して,数日間,原告の自宅に滞在したが,Eは,原告宅に到着した直後から,親が結婚に反対している,ウクライナにいいなづけがいるなどと言い出して,体調不良を理由に部屋に引きこもり,その後,ウクライナに帰国してしまった(甲36(66ないし74頁),64,原告本人尋問の結果)。
(6)  3回目の渡航
ア 原告は,Eの帰国後,同月25日にウクライナに渡航し,同年11月25日までの約1か月にわたって同国に滞在して,その間,後述するFを含む数人の女性とお見合いをするなどした(甲5,70)。
イ 原告は,上記アにかかる航空券代,アテンド通訳代,宿泊費,空港送迎往復費用,お見合い料等として,渡航前の同年10月20日に,Dの個人名義の口座に85万3200円を送金した(甲8の1,2,原告本人尋問の結果)。
(7)  4回目の渡航
原告は,同年12月2日にウクライナに渡航し,同月13日まで同国に滞在して,その間,後述するFと会うなどした(甲5,70)。
(8)  5回目の渡航
ア 原告は,平成28年1月9日にウクライナに渡航し,同月23日までの約2週間にわたって同国に滞在した(甲5,70)。
イ 原告は,上記アにかかる航空券代,アテンド通訳代,宿泊費,空港送迎往復費用,お見合い料等として,渡航前の同月8日に,Dの個人名義の口座に42万1200円を送金した(甲12の1,2,甲70)。
(9)  Fとの結婚等
ア 上記(6)の3回目のウクライナ滞在中の平成27年11月上旬頃,原告は,Fという女性と会い,レストラン等で数回会った後,同月21日に現地で結婚式を挙げるに至ったが,その結婚式において,Fは私服姿のままであり,出席者はDの関係者ばかりであった(乙3,原告本人尋問の結果)。また,原告が結婚式の際にFの父親及び兄として紹介された人物(被告はFの父親と兄であると主張している。)は,その後,Fの父親及び兄ではないことが判明した(甲33,61,68ないし70,原告本人尋問の結果)。
イ Fとの結婚式の後,原告は,上記(7)のとおり,同年12月2日から同月13日までウクライナに4回目の渡航をし,Fと会うなどした。
ウ その後,Fは,同年12月28日に来日し,平成28年1月5日まで日本に滞在した(甲65)。
エ 原告は,Fの帰国後,上記(8)のとおり,同月9日から同月23日まで,ウクライナに5回目の渡航をした。
オ さらにその後,Fは,同年3月20日に再び来日したが,その日本滞在中に,原告に対して,原告をだましていた,嘘をついていたと告白し,同月26日にウクライナに帰国した(甲66,原告本人尋問の結果)。
カ Fがウクライナに帰国した後,原告は,同年7月13日にウクライナに渡航して10日間ほど滞在し,また,同年11月27日にもウクライナに渡航して,Fと会うなどした(甲67)。
2  争点(1)(原告の被告に対する費用等の支払の有無)について
(1)  入会金(原告の主張する①の費用)について
上記認定事実(2)のとおり,原告は,本件契約に関連する入会金として32万4000円を被告に支払っている。
(2)  ウクライナ滞在パッケージ料金(原告の主張する②,③,⑤及び⑨の費用)について
ア 上記認定事実(3)イ,(4)イ,(6)イ及び(8)イのとおり,原告は,1回目,2回目,3回目及び5回目のウクライナへの渡航等にかかる費用として,Dの個人名義の口座に,38万8800円(1回目),84万2400円(2回目),85万3200円(3回目)及び42万1200円の合計250万5600円を送金している。
イ これらの送金につき,原告は,本件契約に関連して被告が提供したサービスに対する代金を被告に対して支払ったものであると主張するのに対し,被告は,原告がウクライナの現地法人であるc社と契約を締結してサービスを受けたものであり,c社に対して支払われたものであると主張する。
そこで検討するに,被告のホームページにおいては,ウクライナに滞在して女性の紹介を受けるツアーがサービスとして紹介されているところ(上記認定事実(1)イ),〈ア〉原告は,上記認定事実(3)ア,(4)ア,(6)ア及び(8)アのウクライナへの渡航,滞在,同国でのウクライナ人女性の紹介については,Dとのみやり取りを行っており,直接会っている時以外のやり取りのほとんどはスカイプ通信で行われているが(3回目と5回目の渡航にかかる費用についてのやり取りも残されている。),そこにおいてDが「一般社団法人Y協会 D」というスカイプ名を終始使用し続けていたこと(甲8の2,12の2,甲36),〈イ〉被告の理事であるDは,平成28年5月11日時点の被告のホームページにおいて「代表・現地コーディネーター」との肩書で掲載されているほか(上記認定事実(1)ア),被告のブログが平成26年11月に開設された際には,「代表理事」との肩書でメッセージを残し,自らの写真も掲載した上で(甲38(1,2頁)),その後のブログ上には「代表からのご挨拶」とある動画で登場しており(甲43),実質的に被告を代表する存在として活動しているものと認められること,〈ウ〉被告のホームページにおけるサービスの掲載において,そのサービスを実際には被告と提携するc社あるいは現地法人が担うといった旨の説明が一切なく(上記認定事実(1)イ),また,Dが,原告に対し,ウクライナへの渡航にかかるサービスはc社との契約によるものであると伝えたことをうかがわせる証拠や事情もないことからすると,原告は,被告の理事であるDとのやり取りを通じて,被告の提供するサービスを受けることとしてウクライナに渡航,滞在したものと認めることができ,そして,その代金の支払も,被告の理事であるDの個人口座への送金ではあるが,これを被告に対する支払と認めることができるというべきである。
ウ なお,被告は,仮に支払先が被告であるとしても,これらは原告がウクライナにおいて女性に対価を支払って性行為をするための費用の立替えに対して支払われたものであり,本件契約とは関係性がないなどと主張するが,原告がお見合い等を行っていることは上記認定事実(3)ア,(4)ア,(6)ア及び(8)アのとおりであり,被告の主張は採用できない。
(3)  結婚費用(原告の主張する④及び⑥の費用)について
ア Eとの結婚費用について
上記認定事実(5)アのとおり,原告は,平成27年8月29日にEと結婚式を挙げており,また,証拠(甲7,70)によれば,その直後である同年9月2日に,原告がDの個人名義の口座に218万4000円を振込送金していることが認められる。そして,被告のホームページにおいて,サービスのご利用料金として成婚料(最低額は80万円)が記載されているところ(上記認定事実(1)イ),上記(2)イで検討した〈ア〉ないし〈ウ〉の事情に加えて,被告が,平成30年4月25日受付の本訴被告準備書面(3)において,上記218万4000円は結婚式場料金などを立替払いした分であると主張していることも踏まえると,原告は,被告の提供するサービスに含まれる成婚料や,それに関連する結婚式費用等として218万4000円を支払ったものであり,その支払先も,被告の理事であるDの個人口座への送金ではあるが,これを被告に対する支払と認めることができるというべきである。
イ Fとの結婚費用
原告は,Fとの結婚についても,結婚費用としてDに250万円を手渡したと主張するが,かかる250万円の授受をうかがわせる証拠が何ら存在しない以上,原告の主張する結婚費用の支払を認めることはできない。
(4)  VIP料金等(原告の主張する⑦,⑧及び⑩の費用)について
ア 1080万円及び1300万円の支払について
原告は,平成27年11月27日に,被告のVIP会員資格取得費用としての1080万円とVIP会員活動諸経費としての1300万円を現金でDに渡したと主張し,これに対し,被告は,Dはそのような大金を受け取っておらず,また,被告にはVIP会員という制度がないから関係のないものであると主張する。
そこで検討するに,〈ア〉原告とDが,平成27年11月26日に一緒にウクライナから日本に帰国し,その日はDが原告の自宅に泊まった上で,翌27日,ともに原告の自宅近くのゆうちょ銀行に行き,そこで原告が預金口座の残高全額にあたる2410万8252円を引き出していること(甲5,55の1,2,甲70,原告本人尋問の結果),〈イ〉被告のブログにおいて,同年10月頃には,代表名で「特別VIP会員様募集しております。ハイレベルな女性と結婚したい。・・・」といったVIP会員募集の記載があり(甲41(48頁以下)),原告とDとの間のスカイプ通信においても,同年9月頃に「一千万プロジェクト」といった話題が出ていること(甲36(47,52頁)),〈ウ〉原告とDの間において,時期は不明であるが,原告「でもあれでしょ?俺が払った,VIPの1080万円は結構足しになったでしょ。」,D「いやだから,Xさんにも感謝してるから,絶対Xさんはうまいことやらさなあかんってつくづくそれ思うんですよ,僕も。」といった金銭の授受を前提とする会話があり,その録音が残されていること(甲56の1,2。Dは,無理やり言わされたという趣旨の証言をしているが,その前後のやり取りを通じて,そのような形跡はうかがわれない。),〈エ〉原告とDの間において,平成29年3月頃に,原告「(省略)それはちょっと守ってほしいんだけど,ほらDさん前に来たときに2400万渡したじゃん,お金。あのときそのまま,俺うっかりしちゃったんだけど,領収書もらわないで返しちゃったんだけど,その後来たときにもうしょうがないからって向こうの事務所で領収書もらったでしょ。あれ,下こう消してもらったんだけど,Dさん書いてくれたのは金額の1300万と2400万と,あとXって俺の名前しか書いてくれなかったんだよね。だからちゃんと,Dでも支援協会でもいいから,宛名と日付をもう一回書き直してほしいんだよね,領収書。」,D「うん,書くよ」といった会話があり,その録音も残されていること(甲54の1,2。Dが無理やり言わされたという形跡がうかがわれないことは上記と同じ。)を踏まえると,原告が,Dからの提案を受けて,被告の提供するVIP会員のサービスを受けるために,Dに対して1080万円と1300万円の合計2380万円を渡したことが認められ,そして,上記(2)イ及び(3)アでの検討と同様に,Dに対する支払をもって,被告に対する支払があったものと認めることもできる。
イ 143万7125円の支払について
原告は,VIP会員延長料金として,143万7125円を被告に支払ったと主張し,証拠(甲13)によれば,原告が,平成28年4月6日に,Dの個人名義の口座に同金額を送金していることが認められるところ,〈ア〉上記(2)及び(3)での認定のとおり,この送金以前においても,原告は,被告の本件事業にかかるサービスに関してその代金をDの個人名義の口座を通じて支払っており,この143万7125円についても同様のものと推認することができること,〈イ〉他方で,被告は,Dの原告に対する個人的貸付けに対する返済であると主張するが,Dが原告に対して金銭を貸し付けていたことをうかがわせる証拠がないこと(むしろ,従前からの原告のDに対する送金や支払状況を踏まえると,原告においてDから金銭を借り入れる必要性があったとは考えられない。)を踏まえると,原告の主張するように,上記の143万7125円は,被告のサービスであるVIP会員制度の延長のための費用として支払われたものであり,Dに対する送金をもって被告に対する支払がなされたものと認めることができるというべきである。
(5)  まとめ
ア 以上によれば,原告は,本件契約に関連するものとして被告から提供されたサービスに関し,入会金,ウクライナ滞在パッケージ料金(渡航費用や滞在費用なども,まとめて結婚相手の紹介という被告のサービスに関連した費用とみるべきである。),成婚費用等(結婚式の費用等の実費も関連費用とみるべきことは上記同様である。)及びVIP会員関連費用の合計3025万0725円を被告に支払ったものと認められる。
イ そして,原告は,法48条1項に基づいて本件契約を解除しているところ,同条7項によれば,被告は,本件契約に関連するものとして受け取っている上記の合計3025万0725円を全額原告に返還しなければならないと解される(なお,原告の主張する③の費用については,証拠(甲6)上は84万2400円の支払が認められるが,原告の請求は84万2000円にとどまっているので,本件請求にかかる認容額は3025万0325円となる。)。
3  争点(2)(本件掲載文についての名誉棄損による不法行為の成否)について
(1)  本件掲載文は,年齢や居住する都道府県の記載のほか,原告自身のフェイスブックへのリンクも付けた上で,原告本人の実名を記載しており,本件掲載文の対象が原告であると認識できることは明らかである。
(2)ア  本件掲載文には,「しかしながら,女性Aが日本に来日し,共に生活したところ,女性は57歳男性のことが恐くなり逃げ出した」,「後に女性Bより『性的虐待を受けた』との勇気ある告発が当協会にもたらされ,それによって恐ろしい事実が判明致しました。」,「少なからず不安な気持ちを持って来日されるウクライナ人女性に,来日直後に性行為を幾度と強要し,人ではなく物のように扱った」との記載があるところ,これらは,原告が,結婚相手として来日したウクライナ人女性に対して,過度に性行為を要求したり,性的虐待を行ったという事実を摘示するものであり,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
イ  また,本件掲載文には,「この57歳男性は,当初10代のウクライナ人女性との結婚を至急というかたちで希望」「57歳男性は,10代女性は絶対条件であり妥協はできないとの旨,要請を受けた」との記載があるところ,これらは,上記アで引用した記載と合わせて読めば,原告が,性行為や性的虐待の相手とするために紹介を求めているウクライナ人女性を10代の年若い女性に限っているとの事実を摘示するものであり,これらも原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
ウ  さらに,本件掲載文には,「訴訟が存在する点は事実でございますが,全く事実に反する金額を請求してきている」,「57歳男性側から悪意を持って雑誌社に事実無根の内容を話している」,「こういった理由がありウクライナ人女性と結婚してもすぐに帰国され,それを当協会の責任だと押し付けており,そういったことから事実無根の訴訟を提起してきた」との記載があるところ,訴訟の相手方が,当該訴訟の内容を事実無根であるなどと述べること自体は,通常は,一般人も紛争関係にある当事者間の一方的な発言としてみるので,社会的評価を低下させるものとまではいえないことが多いが,本件の場合には,その前後に上記ア及びイで引用した記載もあり,これらも合わせて読むと,原告が,自らの過度な性行為の要求や性的虐待によって紹介された結婚相手に帰国されてしまったにもかかわらず,その責任を被告に押し付けるために不当に訴訟を提起しているとの真実性の高まった印象を一般人に与えるものであり,原告の社会的評価を低下させるものということができる。
(3)ア  そして,本件掲載文が,公共の利害に関する事実にかかるものではないこと,公益を図る目的をもって掲載されたものでもないことは,その記載内容から明らかである。
イ  また,被告は,原告がb誌を利用して被告に対する事実無根の中傷を行ったこと(本件記事)に対し,顧客が離れてしまわないように反論したものであると主張するが,原告がb誌を利用して本件記事を掲載させたという前提事実をうかがわせる証拠や事情はなく,また,仮にそのような事実があったとしても,本件掲載文は,原告を性的虐待を行う者であるかのように誹謗中傷するものであり,本件記事に対する反論としての相当性を欠いているから,その違法性が阻却される余地はないというべきである。
ウ  なお,本件掲載文の内容について,これが真実である,あるいは,真実であると信じるにつき相当の理由があったということについての立証もない。むしろ,E及びFの来日時等の様子を撮影した証拠(甲64ないし67)によれば,原告が同女らに性的虐待等をしていた様子はうかがわれず,本件掲載文の内容は虚偽のものであると疑われるところである。
(4)  以上によれば,本件掲載文について,原告に対する名誉棄損が成立する。
(5)  そして,本件掲載文の内容が原告を誹謗中傷するものであることのほか,そのほか本件記録から認められる一切の事情を踏まえると,本件掲載文によって受けた原告の精神的苦痛は大きく,これに対する慰謝料は100万円が相当である。
また,本件掲載文による不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用は,10万円が相当である。
(6)  以上によれば,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,110万円の損害賠償の支払を求めることができる。
4  争点(3)(a社に事実無根の記事を掲載させようとしたという不法行為の成否)について
(1)  本件記事は,前記前提事実(5)のとおり,原告が提起した本件本訴事件を取り上げ,原告のコメント(被告と本件契約を締結するに至った経緯や,E及びFとの結婚の経緯,結末について述べるもののほか,「怪しい業者だとは思っていたのですが,リスクを背負わないと結果が出ないと思ってしまった。把握しているだけで,私の他に騙された人は4,5人います。」とのコメントがある。)を引用しつつ,被告による本件事業が被害者を生じさせるものであるとの内容を伝えるものであるところ,被告は,本件記事が事実無根のものであり,これは,原告が虚偽の内容を掲載するように仕組んで取材を受けたことによるものであるとして,不法行為が成立すると主張する。
(2)  この点,被告は,a社に対して虚偽の記事を掲載させるように取材対応したという原告の行為を問題とするものと解されるが(その意味で,当裁判所は,a社による本件記事について被告に対する名誉棄損等の不法行為が成立するか否かは判断しない。),本件においては,原告がa社に虚偽の記事を掲載させようとしたことをうかがわせる証拠はないから,被告の主張はその前提を欠くものとして,認めることができない。
なお,被告の主張は,a社からの取材に対して,原告が上記のコメントをしたことを問題とするものと解する余地もあるが,そうであるとしても,そのコメント内容は相当性を欠くものとはいえず,また,原告が,自らのコメントがそのまま掲載されることを予測し,認容していたことをうかがわせる証拠や事情も存在しないことから,被告の主張を上記のように解したとしても,これを認めることはできない。
(3)  したがって,原告が虚偽の内容を掲載するように仕組んで取材を受けたということを不法行為とする被告の請求は認められない。
5  争点(4)(捜査機関に虚偽の報告をしたという不法行為の成否)について
(1)  被告は,原告が,被告に不当に精神的圧力をかける目的で,警察に対して,被告の紹介する女性が売春婦であるとの虚偽の通知をして捜査を求めたと主張する。
(2)  この点,捜査機関等への被害の申告自体は法律上正当な行為であるから,容易に把握し得る客観的な事実や申告者自身の認識していた事実と著しく異なる被害事実を申告した場合であり,かつ,申告者において,その点に故意や重大な過失があると認められる場合に限って,不法行為が成立する場合があると解するのが相当である。
本件においては,弁論の全趣旨によれば,原告は,大阪府警に対し,被告につき,管理売春,詐欺,法(特定商取引に関する法律)違反,旅行業法違反等に関して被害相談をしたことが認められるが,かかる被害相談において,容易に把握し得る客観的な事実や原告自身の認識していた事実と著しく異なる被害事実を申告したというような事実を認めるに足りる証拠はない。
(3)  したがって,原告が捜査機関に虚偽の報告をしたということを不法行為とする被告の請求も認められない。
6  争点(5)(原告の本訴事件が不当訴訟であるという不法行為の成否)について
(1)  被告は,原告による本件本訴請求は,事実に基づかない虚偽の主張により不当に高額の請求を行うものであり,不当訴訟であると主張する。
(2)  この点,訴えの提起は,提訴者が当該訴訟において主張した権利または法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであり,同人がそのことを知りながら,または,通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り,相手方に対する違法な行為となると解するのが相当である。
本件においては,本件本訴請求が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くといえるような事情が何ら認められないばかりか,前記のとおり,そもそも原告の本件本訴請求は,そのほとんどにおいて理由があると認められるものであり,不当訴訟でないことは明らかである。
(3)  したがって,この点にかかる被告の請求も理由がない。
第4  結論
よって,原告の本訴請求は主文の範囲内で理由があるのでこれを認容し,原告のその余の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第45部
(裁判官 郡司英明)

 

〈以下省略〉

 

*******

裁判年月日  平成30年10月30日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平30(ワ)12282号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA10308014

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年10月30日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平30(ワ)12282号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA10308014

東京都葛飾区〈以下省略〉
原告 甲山X1
東京都羽村市〈以下省略〉
原告 乙川X2
上記2名訴訟代理人弁護士 野口明男
同 新美智彬
東京都東大和市〈以下省略〉
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 宮﨑浩之

 

 

主文

1  被告は,原告甲山X1に対し,11万円及びこれに対する平成29年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告は,原告乙川X2に対し,23万円及びこれに対する平成29年12月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4  訴訟費用は,これを20分し,その6を原告甲山X1の,その11を原告乙川X2の各負担とし,その余を被告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告は,原告甲山X1に対し,66万円及びこれに対する平成29年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告は,原告乙川X2に対し,137万2800円及びこれに対する平成29年12月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  訴訟費用は被告の負担とする。
第2  事案の概要
1  事案の要旨
本件は,原告らが,被告に対し,①被告が,インターネット上の掲示板サイト「5ちゃんねる」(以下「本件サイト」という。)に別紙投稿記事目録記載の各記事(以下,これらの記事を同目録の番号順に「本件記事1」などといい,まとめていう場合には「本件投稿記事」という。)を投稿したところ,②本件記事1及び2がいずれも原告甲山X1(以下「原告X1」という。)の名誉を毀損するものであり,③本件記事3が,原告乙川X2(以下「原告X2」という。)の名誉を毀損し,また,同人の名誉感情を侵害するものであることから,原告らに対する不法行為が成立し,④これによって,原告らが損害を被ったとして,不法行為に基づき,原告X1について,損害合計66万円及びこれに対する本件記事2の投稿日である平成29年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の,原告X2について,損害合計137万2800円及びこれに対する本件記事3の投稿日である平成29年12月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。
2  前提事実(当事者間に争いがないか,掲記した証拠等により容易に認められる事実。なお,枝番のある証拠は特に断らない限り,その全てをいう。以下同じ。)
(1)  当事者
ア 原告X1は,a株式会社(以下「a社」という。)立川営業所営業部に所属している者である。
イ 原告X2は,a社の賃貸部長の地位にある者である。
(以上の事実について,争いのない事実のほか甲11)
(2)  被告による本件サイトへの投稿
被告は,本件サイトにある「昭島の○○グループを語ろう」という題名のスレッド(以下「本件スレッド」という。)に,別紙投稿記事目録の投稿日時欄記載の日(本件記事1が平成29年10月4日,本件記事2が同年12月18日,本件記事3が同月24日)に,本件投稿記事を投稿した。なお,本件投稿記事の前後の投稿内容については,別紙記載のとおりであり,本件記事1は別紙の本件スレッドの4番目に,本件記事2は別紙の本件スレッドの16番目に記載されており,本件記事3は,本件スレッドの17番目に記載されている(以下,同別紙の特定の投稿をいう場合「レス番号1番の記事」などという。)。(争いがない事実のほか甲1)
(3)  発信者情報の開示請求
原告ら訴訟代理人は,平成30年2月1日頃,株式会社NTTぷらら(以下「NTTぷらら」という。)に対し,本件投稿記事の発信者情報の開示請求をしたところ,被告は,開示に同意したことから,同月16日,NTTぷららから被告の発信者情報が開示された。(甲3,4)
3  争点
(1)  本件投稿記事が原告らの名誉を毀損するか(特定性,名誉毀損性)
(2)  本件投稿記事による原告らの損害
第3  争点に対する当事者の主張
1  争点(1)(本件投稿記事が原告らの名誉を毀損するか〔特定性,名誉毀損性〕)について
(原告らの主張)
(1) 原告X1関係
ア 特定性について
特定の記事について名誉毀損が成立するためには,一般読者の普通の注意と読み方を基準として,本件記事1及び2の対象人物が原告X1を指すと理解できることが必要であるところ,ここでいう対象人物の特定性は,本件各記事のみならず,本件スレッド内の前後のレスやタイトルの内容も文脈として参照されるべきである。
そして,本件記事1及び2は,投稿のスレッドタイトルに,「○○グループ」と会社名が,スレッドの話題を表すレス番号1に「本社F部(不動産部)のAと立川E部(営業部)のKOは肉体関係ありありのW不倫。おばはんに誘惑された若造。」との記載があり,本件記事1は,レス番号1を受けて書かれたものと理解でき,本件記事1の「営業の男」と,レス番号1の「立川E部のKO」とは同一人物を指すものと読め,「KO」とは「こ」という原告X1の名字の頭文字と一致しており,かつ,原告X1は,a株式会社の立川営業所営業部に所属しており,レス番号9の記事にイニシャルとして「X・K」と表示されていること,本件記事2に「コウ○マ」と原告X1の名字が伏字となっており,これらの記事と併せて読めば,本件記事1及び2は,いずれも原告X1を指すと特定可能である。
イ 名誉毀損性について
本件記事1は,レス番号1の記事を受けて書かれたものであり,原告X1が,本社F部のAなる人物と二人で会っていた事実が摘示されているとともに,本件記事1の「そういうこと」とは,W不倫の事実を摘示するものである。
また,本件記事2の「あなたのホルモンも食べてあ・げ・る!」との記載は,原告X1に対し,「不○産部のババー(本社F部のAと同一人物と理解できる)」が,性的な行為をすることを揶揄して表現しているものであり,当該記載も,原告X1が浮気している事実を摘示するものである。
そして,民法上の不法行為たる不倫関係をしている事実を摘示することは,原告X1の社会的評価を低下させることは明らかであり,原告X1に対する名誉毀損に該当し,不法行為となる。
(2) 原告X2関係
ア 特定性について
本件記事3は,本件スレッドのタイトルに「○○グループ」と会社名が記載され,対象人物が賃貸部長の役職にあることが記載されているところ,○○グループの中で賃貸部長の地位にある者は原告X2のみであり,一般読者の普通の注意と読み方によれば,本件記事3の対象人物は原告X2を指すと理解できる。
イ 名誉毀損性について
本件記事3は,原告X2が会社の部下に対してナンパを強要している事実を摘示するものであるところ,これは会社内でのパワハラ行為に該当する行為であり,原告X2の社会的評価を低下させるものである。
また,本件記事3は,原告X2を「ドスケベ賃貸部長」と記載し,原告X2を口汚く罵る内容であり,同人に対する侮辱行為に該当する。
そのため,本件記事3の投稿は,原告X2に対する不法行為に当たる。
(被告の主張)
(1) 原告X1関係
ア 特定性について
本件記事1は,レス番号1及びレス番号3の記事を受けて書かれたものと読むのが自然であるところ,レス番号1の記事について,必ずしも原告X1が注記するような読み方をするとは限らないし,また,これらの投稿を併せて読んだ場合,レス番号1の投稿は「KO」と,レス番号3の投稿は,「KK」と対象人物のイニシャルが混同しており,さらに原告X1のイニシャルとも異なるのであるから,本件記事1にいう「営業の男」が原告X1を指すとは想起できない。
また,本件記事2についても「コウ○マ」という記載のみでは原告X1を想起することができない。
イ 名誉毀損性について
特定性を措くとしても,本件記事1が事実として摘示しているのは,「立川のビルの階段で二人で会っていた」という点のみであり,「そういうことだったのか。」という記載は,投稿者である被告の感想でしかないのであり,原告X1がW不倫をしているとの事実を摘示するものではない。
また,本件記事2についても,同記事は,ホルモンを提供する飲食店での飲食について記載されているものであり,同記事が性的な行為をすることまでは想起できない。
そのため,本件記事1及び2が原告X1の名誉を毀損するものとはいえない。
(2) 原告X2関係
ア 特定性について
○○グループの中で賃貸部長の地位にある者が原告X2のみであることは不知。「昭島の○○グループを語ろう」との本件スレッドを閲覧する一般読者は,○○グループの広範な人員や○○グループに興味を持った社会の人物が想定されるところ,これらの人物は,「賃貸部長」との記載から直ちに原告X2を想起できない。
イ 名誉毀損性について
本件記事3が摘示している事実は,賃貸部長が旅行先で部下に対し,「20代の金持ってない男と40代の金持ちの男とどっちがいいか聞いてこい」と述べた事実である。
ここにいう「旅行」は業務とは無関係な出来事を想起させるものであり,「会社内でのパワハラ行為」に該当する事実を摘示しているとは理解できず,原告X2の社会的評価を低下させるものではない。
2  争点(2)(本件投稿記事による原告らの損害)について
(原告らの主張)
被告の不法行為により原告らは以下の損害を被った。
(1) 原告X1の損害
ア 慰謝料 60万円
イ 弁護士費用 6万円
合計 66万円
(2) 原告X2の存在
ア 慰謝料 60万円
イ 調査費用 64万8000円
原告X2は,5ちゃんねるに対する発信者情報開示請求・記事削除費用として54万円を要し,さらに,NTTぷららに対する発信者情報開示請求費用として10万8000円を要しており,これらは,本件投稿記事の削除及び発信者の調査のために要した費用であり,被告の不法行為と相当因果関係のある損害である。なお,被告は,当該費用の相当因果関係を争うが,同一スレッド内の複数の投稿により名誉毀損が行われた場合には,これらの行為は共同不法行為に該当すると解されることから,全額が被告の不法行為と相当因果関係のある損害といえる。
ウ 弁護士費用 12万4800円
エ 合計 137万2800円
(被告の主張)
原告らの主張は争う。
(1) 名誉毀損行為に関する同種の裁判例により認定された慰謝料額からすると,原告らの慰謝料額は,一人当たり10万円を超えることはない。
(2) また,発信者の調査等に要した費用については,仮に損害と認められるとしても,支出した費用全額を損害として計上することはできず,特に被告によるものでない投稿(レス番号1,5,7,9,11,12,13の各記事)の調査等に要した費用までも,原告X2の損害とはできない。
第4  当裁判所の判断(争点に対する判断)
1  争点(1)(本件投稿記事が原告らの名誉を毀損するか〔特定性,名誉毀損性〕)について
(1)  原告X1関係
ア 前記前提事実,証拠(各項末尾に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) ○○グループは,a社,b株式会社のほか,複数の事業所からなり,そのうち,頭文字が「E」で始まる部署は,a社の営業部以外になく,また,「F」の頭文字で始まる部署は,a社の不動産部以外にない。また,○○グループの平成29年頃の社員数は合計191名であり,a社営業部の構成員は,顧問等を含めて9名であったところ,そのうち,イニシャル(名字又は氏名のいずれも含む。)が,「K」で始まる者は,原告X1のほか,女性と思われる者も含めれば,係長である甲川B及び派遣社員の甲谷Cがおり,イニシャル「KO」の者は,その読み方が姓名のいずれを先に読んだ場合にもいない。なお,a社の所在地は,東京都昭島市であるほか,東京都立川市に立川営業所がある。(甲11)
(イ) 本件スレッドには,平成29年12月25日時点において,別紙記載の17件の投稿がなされていたところ,被告は,本件記事1及び2(レス番号4及び16の各記事)を投稿した。(甲1,3~5)
イ 特定性について
(ア) 本件記事1及び2は,いずれも原告X1の氏名を明示してはいないところ,匿名記事について名誉毀損が成立するためには,その記載に係る人物の属性等を総合することにより,不特定多数の者が,匿名であってもなお当該特定人について記載されたものと認識することが可能であることを要すると解される。そして,匿名記事の場合には,実名を挙げるなどして客観的に当該記事の対象者を特定した場合と比較すると,対象者を特定できる読者の範囲は限定されるが,実名が記載されていなくとも,記事の記載内容から当該対象者の属性等について,一定の知識,情報を有している者らによって,対象者の特定がなされる可能性があり,さらに,これらの者から特定された対象者が不特定多数の第三者に伝播する可能性があれば,名誉毀損における対象者の特定としては十分であるというべきである。
(イ) そして,本件記事1及び2が,原告X1を特定しているか検討するに,前記認定のとおり,本件スレッドは,「昭島の○○グループ」と,a社を含む一連の会社群が明記されており,そのうち,本件記事1に先立つレス番号1及び3の各記事があるところ,レス番号3の記事は,レス番号1の「W不倫」という言葉を受けて,「この二人のW不倫関係は社内で超有名」との記載があること,レス番号1の記事には,「立川E部」と部署の記載があり,○○グループの部署で,「E」で始まる頭文字の部署が営業部しかなく,東京都立川市内には,a社の営業所があること,レス番号1の記事を受けたレス番号3において,女性に対する蔑称である「ババー」という言葉で,「F部」の人物が特定されており,その記載内容からすれば,「本社F部のA」とは,○○グループに勤務する女性(以下「本件女性」という。)を意味すると認識されるものといえる。そして,立川市所在の部署の人物が,「KO」又は「KK」であり,「若造」という若い男性を意味する単語が用いられていることが認められ,これらの記事をa社について一定の知識,情報を有している者が,一般読者の通常の注意と読み方をもって本件記事1以前の記事を読んだ場合には,a社営業部の若い男性で,「K」という姓名のいずれかがKで始まる人物がおり,その人物が社内の女性と不倫関係にあるという認識を持つものと認められる。前記認定のとおり,a社内において,上記の条件に合致する人物は,原告X1以外にいないこと(甲川Bが係長であることからも推認できる。)からすれば,少なくともレス番号1及び3の各記事における男性は,a社について一定の知識,情報を有する者がみれば,原告X1を指すと認識できると認められる。
その上で,そのような者が,本件記事1を読んだ場合には,本件記事1が,「なんで本社のおばはんが営業の男とこんなとこで会ってんのか不思議だった」などとレス番号1及び3の各記事を受けて記載したと読み取れるものであることからすれば,本件記事1にある「営業の男」とは,原告X1を指すものと認識されるものといえる。また,本件記事2についても,「不○産部」という,通常「不動産部」を意味すると読み取れる部署の記載があり,これはレス番号1及び3の「F」という名称の部署と頭文字が同一であること,かつ,「ババー」という女性に対する蔑称が用いられており,レス番号3及び本件記事1の各記事との連続性を想起させるものであること,本件記事2は,「コウ○マ」と,原告X1の姓を伏字にしていることからすると,本件記事2をa社について一定の知識,情報を有するものが通常の注意と読み方を持って読んだ場合,本件記事2の「コウ○マくーーーん」は,原告X1を指すものと認識されるものといえ,本件記事2についても,原告X1を指すものと認識できる。
(ウ) そのため,本件記事1及び2は,一般読者の通常の注意と読み方を持って読んだ場合には,いずれも原告X1を指すものと認識されるものと認められる。
これに対して,被告は,○○グループが,総勢600名に上ること,本件スレッドに原告X1を特定する記載がない旨を指摘し,これに沿う書証(乙2)もある。
しかしながら,本件記事1及び2並びにレス番号1及び3の各記事の記載を読むと,○○グループの中でもいわゆる正社員を意味するものと読み取ることができ,その中で原告X1以外に上記の各記事から特定されるべき人物がいないことからしても,被告の主張は採用できない。
ウ 名誉毀損性
(ア) そして,さらに,名誉毀損性(不法行為の該当性)について検討するに,本件記事1は,社内でW不倫をしている者がいる旨の記載があるレス番号1及び3の各記事を受けて,「立川のビルの階段で二人だけで会っていたのを見たことがある」などと,具体的な事実を摘示しており,その摘示の態様も,両者が人目を隠れて会っているかのような印象を与えるものであることからすれば,本件記事1を一般読者の通常の注意と読み方を持って読んだ場合には,原告X1が,本件女性と不倫関係にあり,社内で人目を隠れて会っていたとの印象を与えるものといえる。そして,前記認定のとおり,○○グループが少なくとも200人近くの社員により構成されていることからすれば,本件記事1及び2の上記の事実摘示が伝播する可能性があることから,本件記事1に係る事実の摘示は,不貞行為が民事上の不法行為を構成し得るものであることからすれば,原告X1の社会的評価を低下させるものと認められ,原告X1に対する不法行為を構成するものと認められる。
(イ) この点について,被告は,不法行為の該当性を争うものの,本件記事1の内容が,被告の感想のみを現わしていると認識することができず,採用することができない。
(ウ) また,本件記事2についても,本件スレッドの本件記事2に至る以前の記事,特にレス番号5及び9の各記事で,原告X1と本件女性とが,性行為に及んでいることを前提とする投稿がなされていることを踏まえると,「あなたのホルモンも食べてあ・げ・る!」との表現も,一般読者の通常の注意と読み方をもって読んだ場合には,原告X1と本件女性が肉体的な接触関係を持つことを想起させるものであり,原告X1が本件女性と不倫関係にあるとの印象を与えるものといえ,原告X1の社会的評価を低下させるものと認められる。
(2)  原告X2関係
ア 前提事実及び証拠(甲1,3,4,11)によれば,○○グループの中には,「賃貸部」という部署があり,原告X2が平成29年当時,その部長をしていたこと,被告が,本件記事3を投稿した事実が認められる。
イ 特定性について
本件記事3を,○○グループについて一定の知識,情報を有する者が一般読者の通常の注意と読み方を持って読んだ場合には,本件記事3にある「賃貸部長」が原告X2を指すと認識すると認められ,本件記事3は原告X2を特定するものと認められる。
これに対して,被告は,本件記事3が原告X2を想起させるとはいえないなどと主張するが,前記(1)認定に係る○○グループの組織構造に照らせば採用することができない。
ウ 名誉毀損性及び名誉感情の侵害について
そして,本件記事3が原告X2の社会的評価を低下させるものか検討するに,本件記事3は,原告X2が旅行先で部下にナンパさせる旨の事実が摘示されているところ,このような記事を一般読者の通常の注意と読み方をもって読んだ場合には,原告X2が部下に対して,通常業務と考えられない事柄をすることを要求するとの印象を与えるものといえ,このような記載は,原告X2の社会的評価を低下させるものと認められ,同人の名誉を毀損し,不法行為を構成する。
また,本件記事3は,原告X2を「ドスケベ賃貸部長」と表記しているところ,このような表記は,原告X2の品性を貶め,原告X2の名誉感情を社会通念上許容される限度を超えて侵害するものといえることから,この点からも不法行為を構成するものと認められる。
(3)  小括
そのため,本件投稿記事は,いずれも原告らの名誉及び原告X2の名誉感情を侵害し,不法行為を構成すると認められる。
2  争点(2)(本件投稿記事による原告らの損害)について
本件投稿記事により,原告らは以下の損害を被ったと認められる。
(1)  原告X1関係
ア 慰謝料 10万円
前記1で認定説示したとおり,本件記事1及び2は,原告X1が本件女性と不倫関係にあることを摘示するものであり,これによって,原告X1の社会的評価を低下させるものといえ,原告X1としても相応の精神的苦痛を受けたものと認められる。
他方,本件記事1及び2は,○○グループ外の者からは,原告X1を指すものとは容易に理解することができず,その伝播の可能性も限定的であること,書き込みの回数も2回であり,その記載の態様も,原告X1が不倫関係にあると断定するものとはいえないことなど,本件に関する一切の事情からすれば,本件記事1及び2による原告X1の精神的苦痛を慰謝するに相当な金銭の額は10万円と認められる。
イ 弁護士費用 1万円
原告X1は,弁護士に委任して本件訴訟を追行しており,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は1万円が相当である。
ウ 合計 11万円
(2)  原告X2関係
ア 慰謝料 10万円
前記1で認定説示したとおり,本件記事3は,原告X2が,部下に対して女性のナンパという業務外の事項をさせているとの印象を与えるものであり,同人がa社の賃貸部長の地位にあることからしても,同人の社会的評価を大きく低下させかねないものといえ,同人としても相応の精神的苦痛を被ったと認められ,また,名誉感情の侵害も認められる。
他方で,投稿回数は1回であり,その記載内容等も考慮すれば,原告X2の精神的苦痛を慰謝するのに相当な金銭の額は,10万円と認められる。
イ 調査費用
(ア) 証拠(甲2,3,9,10)によれば,原告らは,原告ら訴訟代理人に対し,本件スレッドの発信者情報の開示手続を委任し,これを受けて,同人が,レス番号1,4,5,7,9,11,12,13,16,17の10件の記事に関してIPアドレスの開示請求をし,本件投稿記事について,NTTぷららに対し,発信者情報の開示請求をしたこと,これらの費用として,合計64万8000円(削除請求及びIPアドレスの開示成功報酬54万円,ログ保全及び発信者情報開示請求費用10万8000円)を要したことが認められる。
本件投稿記事が,インターネット上でなされており,通常,発信者を特定することが困難であり,法律専門家である弁護士の関与なくして,発信者を特定することは困難であると考えられることからすれば,発信者の特定に要する費用も,これに要した費用のうち相当な範囲内においては,被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。
そして,その相当因果関係の範囲に含まれる調査費用について検討すると,前記認定のとおり,原告X2がしたIPアドレスの開示請求には,本件投稿記事の他に7件の記事が含まれ,原告X2に関する記事は1件であったこと,被告が,発信者情報開示請求に対して,開示に同意して発信者情報が開示されたことからすれば,被告の不法行為と相当因果関係のある開示請求費用は11万円と認められる。
(イ) なお,この点に関し,原告X2は,原告ら訴訟代理人との委任契約に関し,復委任を行う場合には,10投稿までは一律50万円であり,調査等の費用に差異がないと主張するが,これをもって,相当因果関係の範囲を左右するものとはいえない。
ウ 弁護士費用 2万円
原告X2は,弁護士に委任して本件訴訟を追行しており,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は2万円とするのが相当である。
エ 合計 23万円
(3)  まとめ
以上のとおり,原告らの損害額は,原告X1について11万円,原告X2について23万円と認められ,これらの損害賠償債務は,原告X1については,本件記事2の投稿日である平成29年12月18日から,原告X2については,本件記事3の投稿日である平成29年12月24日から履行遅滞に陥ったものと認められる。
第5  結論
よって,主文掲記の限度で,原告らの請求を認容し,その余は理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条,64条本文,65条1項ただし書きをそれぞれ適用し,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第10部
(裁判官 山口雅裕)

 

〈以下省略〉

 

*******

裁判年月日  平成30年10月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)41791号
事件名  売掛金請求事件
文献番号  2018WLJPCA10268012

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年10月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)41791号
事件名  売掛金請求事件
文献番号  2018WLJPCA10268012

東京都中央区〈以下省略〉
原告 デジタルデータソリューション株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 成田騎信
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 株式会社ヒューストンコーポレーション
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 菊池不佐男

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,194万4000円及びこれに対する平成28年3月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2  訴訟費用は被告の負担とする。
3  この判決は,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
主文同旨
第2  事案の概要
1  本件は,原告が,被告との間でサーバーのデータ復旧契約を締結し,データ復旧作業を完了してサーバーを納品したのに,代金が支払われないと主張して,被告に対し,同契約に基づく代金請求として,194万4000円及びこれに対する約定の支払期限の翌日以後である平成28年3月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2  前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)  当事者
ア 原告(前商号:OGID(オージッド)株式会社)は,データの復旧を業とする株式会社である。
イ 被告は,宣伝代理業務等を業とする株式会社である。
(2)  本件契約
原告は,平成27年12月28日,被告からサーバー(以下,同サーバー本体及びこれに保存されたデータを含めて,「本件サーバー」という。)のデータ復旧作業(以下「本件作業」という。)の依頼を受けて,「御見積書」(甲1。以下「本件見積書」という。)を提示した。
被告の担当者であったC(以下「C」という。)は,本件見積書の下部の「発注書」欄に署名した(以下,この契約を「本件契約」というが,その成否については,後記のとおり争いがある。)。
(3)  本件作業の完了及び本件契約の代金の未払
原告は,平成27年12月29日,本件作業を完了し,被告に対し,本件契約の代金が194万4000円になること等を説明したところ,被告から,一括で支払うことができず,2回の分割払いにして欲しいとの申出を受けたため,被告に対し,平成28年1月29日と同年2月29日にそれぞれ97万2000円の支払を求める旨の「御請求書」2通(甲2の1・2。以下「本件各請求書」という。)と「支払い予定日に関する証明書」2通(甲3の1・2。「以下「本件各証明書」という。)を送付した。
Cは,同年1月15日,本件各証明書に署名押印し,これらを原告に送付した。
原告は,被告に対し,本件サーバーを納品したが,被告から,本件契約の代金は支払われなかった。
3  争点及びこれに関する当事者の主張
(1)  本件契約の成否(争点1)
ア 原告の主張
原告は,Cに対し,本件サーバーの診断の内容並びに本件作業及び本件見積書の内容(①高度解析作業費,②磁気情報修復作業費,③データ転送作業費,④安全復旧希望データ復旧成功費)を説明し,被告から了解を得た上で,本件見積書に署名してもらって,本件作業を行い,その後,本件各証明書に署名押印してもらった。また,原告は,本件見積書で,上記④の費用を0円から50万円としており,被告が復旧を希望するデータが,本件作業完了時にどの程度復旧したかによって,最終的に請求する金額を上限50万円の範囲で変動させているのであり,被告にとってメリットのある内容である。
したがって,本件契約の内容や代金は明確であり,本件契約が成立したことは明らかである。
イ 被告の主張
本件契約の対象となる本件作業の具体的な内容は,本件見積書や本件各請求書によっても全く特定されていない。
また,本件契約の代金も,本件見積書では,④安全復旧希望データ復旧成功費が0円から50万円とされ,「成功定義データ」の取り決めもされていないなど,全く特定されていない。
したがって,本件契約は成立していない。
(2)  本件契約が暴利行為として無効になるか(争点2)
ア 被告の主張
原告は,平成27年12月28日,Cから本件作業の依頼を受けた際,被告の無思慮と年末年始という時期が切迫していたことに乗じて,本件作業の対価として不当に高額な代金を提示し,被告代表者から電話で指示を受けて帰ろうとしたCに対し,本件見積書に署名しないと帰さないなどと迫り,本件見積書に署名させた。
そして,原告は,翌29日,被告代表者から,本件作業は不要であるため,本件サーバーを返還して欲しいと言われたのに,本件契約の代金を支払わなければ,本件サーバーを返還しないと言い,本件サーバーがなければ事業に支障が出る被告の窮状に乗じて,194万4000円を2回に分けて支払うことを約束させた。
なお,本件サーバーの障害(中度)の修理費用は,一般的に20万円から34万円程度であり,本件契約の代金194万4000円が不当に高額であることは明らかである。
したがって,本件契約は,暴利行為として無効になる。
イ 原告の主張
原告は,Cに対し,本件見積書を提示し,本件契約の代金について説明し,被告の了解を得た上で,被告の依頼を最優先して緊急対応し,極めて短期間で本件作業を完了したもので,本件見積書に署名しないと帰さないなどと迫ったことはない。
なお,本件サーバーはRAID構築された繊細で複雑なサーバーであり,障害レベルが重度である場合は,データ復旧作業に高度な知識や経験を要するから,本件契約の代金が不当に高額であるとはいえない。被告は,本件契約の代金が高額であると考えたのであれば,原告以外の他社に発注すればよかっただけである。
したがって,本件契約が暴利行為として無効になることはない。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  被告は,平成27年12月28日頃,本件サーバーにエラーが発生して立ち上がらなくなったところ,年末であったため営業している修理業者が限られており,インターネット検索により原告を発見した。
(2)ア  被告の担当者であったCは,平成27年12月28日,原告に電話で修理を依頼し,本件サーバーを持参した。
イ  原告の担当者は,本件サーバーはハードディスク(HDD)4本組のRAID構築されたサーバーであるところ,HDDのうち1台(DISK1)はHDDの磁気ヘッドに何らかの障害(物理的な障害)が発生し,残りの3台はシステム又はRAIDを構成する情報に何らかの障害(論理的な障害)が発生していると診断した(甲5)。
なお,RAIDとは,複数台のディスクディバイスを用いたシステムで,大容量のデータを保存・共有することができ,データの安全性の面でも非常に優れた装置であるとされているが,その構造は繊細で複雑なものになっていて,データ復旧の際には,不良と思われるHDDのみならず,システムを構築していた全てのHDDを一度に修復させる必要があり,最も高度な技術が必要となるとされている(甲6)。
ウ  原告の担当者は,Cに対し,「復旧作業としては,壊れたHDDをクリーンルーム内で分解交換し,専用設備にてHDDのクローンを作成し,別の設備上でRAIDの情報を分析してRAIDを再構築してから見えたデータをバックアップする。」などと説明した(甲5)。
エ  原告の担当者は,Cに対し,本件見積書を提示し,これに記載された①高度解析作業費,②磁気情報修復作業費,③データ転送作業費,④安全復旧希望データ復旧成功費等について説明した。なお,本件見積書によれば,本件契約の代金は,①が55万円,②が75万円,③が0円,④が0円から50万円で,最大で合計194万4000円(税込)とされており,「成功報酬制」について,「成功定義データ」を決定し,それがどの程度復旧できたかによって最終的な請求金額を調整することとし,「成功定義データ」が1つも復旧できなかった場合には,一切の費用が無料になるとされ,本件作業の完了予定日は平成28年1月3日とされていた。(甲1)
オ  Cは,本件見積書の下部の「発注書」欄に署名した。なお,同欄には,「復旧失敗の際は送料着払いにてご返却いたします。」,「お客様の症状に合わせて部品や技術員を手配しますので,作業依頼後のキャンセルはお受けできません。」,「復旧後のデータ納品方法については,復旧作業完了後に希望データの復旧成否を御確認いただき,お支払い完了後に御納品となります。」等と記載されていた。(甲1)
(3)  原告は,平成27年12月29日,下記の内容の本件作業を完了し,本件サーバーのデータを復旧させた(甲5)。
ア 物理復旧
原告が,本件サーバーのDISK1を開封し,磁気ヘッドとプラッタの状態を確認したところ,プラッタ表面にスクラッチと呼ばれる傷が発生していることを確認したため,独自の技術を使用して,ファームウェア情報の調整,磁気ヘッド交換を実施し,専用設備で動作を確認したが,データが全く読み取れない状態であったため,ファームウェア情報が欠損して認識させることはできず,復旧不可であると判断した。
イ 論理復旧
原告は,残りのHDD3台からバイナリデータ上でRAID情報を分析し,過去の復旧事例等を参考にして,従前のRAID環境の特定に成功し,その情報に基づいてRAIDを再構築し,その環境下でデータが見えたことを確認した後,データを納品用のHDDへ移行して作業を完了した。
(4)  原告は,被告に対し,本件契約の代金が194万4000円になること等を説明したところ,被告から,一括で支払うことができず,2回の分割払いにして欲しいとの申出を受けたため,被告に対し,平成28年1月29日と同年2月29日にそれぞれ97万2000円の支払を求める旨の本件各請求書と本件各証明書を送付した。
(5)  Cは,平成28年1月15日,本件各証明書に署名押印し,これらを原告に送付した。
原告は,被告に対し,本件サーバーを納品したが,被告から,本件契約の代金は支払われなかった。
(6)  被告は,第一東京弁護士会会長を通じて,株式会社バッファローDSS事業部データ復旧課(以下「バッファロー」という。)及び株式会社アイ・オー・データ機器データ復旧サービスセンター(以下「アイ・オー・データ機器」という。)に対し,原告作成の「診断結果及び作業報告書」(甲5)を添付した上,本件サーバーのデータ復旧作業に要する標準的な日数及び費用について,弁護士法23条の2に基づく照会をした。
ア バッファローは,上記照会に対し,外付け・内蔵ハードディスク/NAS(4ドライブ)のデータ復旧作業の実作業日数は3日から5日程度で,費用は24万円から34万円程度であると回答した。なお,費用の説明として,本件サーバーのDISK1は中度の物理障害に,残りのHDD3台は中度の論理障害に当たると考えられるが,結果的にHDD3台のみでデータ復旧が可能であったことから,24万円を請求することになるが,HDD3台でデータ復旧ができるか不明の状況の場合等は,DISK1も含めて復旧することが必要になる可能性もあり,34万円を請求することになると回答した(乙2,4)。
イ アイ・オー・データ機器は,上記照会に対し,NAS(4ドライブ)のデータ復旧作業の価格目安は,中度障害で20万円,重度障害で30万円(その他症状により別途見積を提示することもある。),納期は,受付から見積まで5日から10日,見積の着手回答から復旧作業まで3日から5日程度(障害状況及び容量等により前後することがある。顧客に対して復旧可能なフォルダ名やファイル名を事前に案内して着手の有無を確認し,金額について納得が得られない場合や必要なデータがない場合は,顧客からの指示に従って現状のまま返却する。)であると回答した(乙5の1~3)。
2  争点1について
(1)  原告は,前記第2・3(1)アのとおり,本件契約の内容や代金は明確であり,本件契約が成立していると主張する。
(2)  そこで,前記1の認定事実を踏まえて検討するに,被告の担当者であったCは,原告に本件サーバーの修理を依頼し,本件作業や本件見積書の内容について説明を受けた上,本件見積書に署名して,原告に本件作業を行わせた上,後日,本件契約の代金194万4000円を2回に分割して支払う旨の本件各証明書に署名押印し,本件サーバーの納品を受けている。
これに対し,被告は,本件契約の内容や代金が特定されていないと主張する。しかし,本件作業の詳細が,契約書や見積書に記載されている必要はない。また,本件見積書では,④安全復旧希望データ復旧成功費が0円から50万円となっているが,本件作業の結果が判明しなければ特定できないのはやむを得ないし,少なくとも上限額は明らかになっている。そして,最終的に,被告は,本件サーバーのデータが復旧したことを受けて,本件見積書に記載された上限額である194万4000円を支払う旨を合意しているのである。このように,本件契約の内容や代金は,十分に特定されていたというべきである。
なお,被告は,Cは,原告から本件見積書に署名しなければ帰さないと迫られて,本件見積書に署名させられ,本件契約の代金の支払を約束しなければ本件サーバーを返還しないと言われて,本件各証明書に署名押印したと主張する。しかし,Cが,原告から本件見積書に署名しなければ帰さないと迫られたことを認めるに足りる証拠はないし,本件見積書では代金の支払完了後に納品するとされていたのであるから,本件契約の代金の支払を約束しなければ本件サーバーを返還しないと言われたとしても当然である。このように,本件契約の成立に至る経緯にも,問題があったとはいえない。
(3)  以上の検討によれば,被告が,原告に対し,本件作業を依頼し,その成功報酬を含む対価として,代金194万4000円を支払う旨の本件契約が成立したと認めるのが相当である。
3  争点2について
(1)  被告は,前記第2・3(2)アのとおり,本件契約は,代金が不当に高額であって,暴利行為として無効であると主張する。
(2)  そこで,前記1の認定事実を踏まえて検討するに,一般論として,本件のようなサーバーのデータ復旧費用は,必ずしも一義的に決められていたり,市場相場に拘束されたりするものではなく,当事者間で,自由競争の範囲内において,具体的な事情を考慮して代金を設定することができる性質のものであると考えられる。
そして,本件において,被告は,年末頃に本件サーバーに障害が発生し,営業している修理業者が限られていたところ,インターネット検索で原告を発見して,原告に本件サーバーのデータ復旧を依頼し,原告から,本件作業及び本件見積書の内容について説明を受けた上で,本件契約を締結することとし,翌日には本件作業を完了してもらい,その後,本件サーバーの返却を受けることを条件として,代金194万4000円を分割払いすることを合意したのである。仮に,被告が,本件契約の代金が不当に高額であると考えたのであれば,原告以外の他社にデータ復旧を依頼すればよかったのであり,そうしなかったのは,時期的に原告以外に早期にデータ復旧を依頼できる業者を見つけられる見込みがなく,高額の代金を支払ってでも早期にデータ復旧を完了したいと考えたからであるとみるのが自然である。
確かに,バッファローは,本件サーバーの標準的なデータ復旧費用は,24万円から34万円程度であると回答し,アイ・オー・データ機器は,中度障害で20万円,重度障害でも30万円であると回答している。しかし,バッファロー及びアイ・オー・データ機器は,本件サーバーがNAS(基本的にLinuxというOSがベース)であることを前提としているところ,証拠(甲7,8)及び弁論の全趣旨によれば,本件サーバーは企業向けサーバー(Windows2003ServerというOSがベース)に分類され,同サーバー内に保存されているデータの復旧は,パターン化できないユニークな復旧となるため,NAS内に保存されているデータの復旧と比較して,難易度が高いことが認められる。それゆえ,本件サーバーの現物を確認していないバッファロー及びアイ・オー・データ機器が,適切なデータ復旧費用を算定できているとも限らない。
(3)  以上の検討によれば,原告と被告は,自由競争の範囲内で,具体的な事情を考慮して,本件サーバーの復旧費用を194万4000円とすることに合意したのであって,これが暴利行為として無効になるとはいえない。
4  小括
したがって,原告は,被告に対し,本件契約に基づく代金請求として,194万4000円及びこれに対する約定の支払期限の翌日以後である平成28年3月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
第4  結論
よって,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第37部
(裁判官 西尾信員)

 

*******

裁判年月日  平成30年10月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)12289号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA10258011

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年10月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)12289号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA10258011

埼玉県比企郡〈以下省略〉
原告 X1
同所
原告 X2
神奈川県足柄下郡〈以下省略〉
原告 X3
埼玉県三郷市〈以下省略〉
原告 X4
上記4名訴訟代理人弁護士 長田淳
石川智士
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 株式会社オートテック
同代表者代表取締役 Y1
千葉県鎌ヶ谷市〈以下省略〉
被告 Y1
上記2名訴訟代理人弁護士 櫻井義之
名古屋市〈以下省略〉
被告 Y2
同訴訟代理人弁護士 古賀照平
東京都港区〈以下省略〉
被告 有限責任事業組合ひまわり
同代表者組合員 Y3
Y4
Y5
Y6
東京都練馬区〈以下省略〉
被告 Y3
長野県佐久市〈以下省略〉
被告 Y4
東京都中野区〈以下省略〉
被告 Y5
東京都八王子市〈以下省略〉
被告 Y6
上記5名訴訟代理人弁護士 安部明
東京都墨田区〈以下省略〉
被告 Y7
東京都北区〈以下省略〉
被告 Y8
上記2名訴訟代理人弁護士 本間由也
東京都葛飾区〈以下省略〉
被告 Y9

 

 

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。
2  訴訟費用は,原告らの負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告らは,原告X1に対し,連帯して,660万8085円及びこれに対する平成24年8月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告らは,原告X2に対し,連帯して,990万8085円及びこれに対する平成25年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告らは,原告X3に対し,連帯して,4400万8085円及びこれに対する平成24年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  被告らは,原告X4に対し,連帯して,2211万8085円及びこれに対する平成24年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,原告らが,①被告株式会社オートテック(以下「被告会社」という。)及び被告有限責任事業組合ひまわり(以下「被告組合」という。)は,〈ア〉被告Y1(以下「被告Y1」という。)が開発した障害物感知システム及び障害物感知方法は,日本,韓国及び米国において特許を取得しており,これを組み込んだセンサー(以下「本件商品」という。)を自動車に搭載すれば,自動車の窓やドアに指等を挟む事故を防ぐことができる,〈イ〉韓国のSpecial Purpose Acquisition Company(買収目的会社。以下「SPAC」という。)制度を利用して韓国の企業を買収し,本件商品を韓国で販売することにより莫大な利益が上がる,〈ウ〉被告組合に投資した資金によって韓国の企業を買収するから,被告組合に投資すれば,多額の配当が確実であり,元本も保証されるという投資スキーム(以下「本件スキーム」という。)が実在するかのように仮装し,実際には,〈エ〉被告組合に投資された資金は韓国の企業の買収には充てられず,被告会社や被告組合の事業経費として使用されることになっていたにもかかわらず,そのことを秘し,詐術を用いて本件スキームへの投資を勧誘することにした,②原告らは,被告Y7(以下「被告Y7」という。),被告Y8(以下「被告Y8」という。)又は被告Y1から,本件スキームを前提として被告組合への投資を勧誘され,被告Y7,被告Y8又は被告Y1の言を信じて,被告組合に対し,それぞれ金員を支払った,③被告Y1,被告Y7及び被告Y8は,他の被告らと共謀して,原告らに対し,本件スキームが実態を伴うものであるとして虚偽の説明をして本件スキームへの投資を勧誘して出資させた,④被告Y1は,他の被告らと共謀して,原告らに対し,被告会社の代表者として,自ら上記③の勧誘をし,又は他の被告らをして上記③の勧誘,出資をさせた,⑤被告会社の代表取締役であった被告Y2(以下「被告Y2」という。)は,他の被告らと共謀して,原告らに対し,他の被告らをして上記③の勧誘,出資をさせた,⑥被告組合は,他の被告らと共謀して,原告らに対し,他の被告らをして上記③の勧誘,出資をさせた,⑦被告組合の組合員又は元組合員であった被告Y3(以下「被告Y3」という。),被告Y4(以下「被告Y4」という。),被告Y5(以下「被告Y5」という。),被告Y6(以下「被告Y6」といい,被告Y3,被告Y4及び被告Y5と合わせて「被告Y3ほか」という。)及び被告Y9(以下「被告Y9」という。)は,他の被告らと共謀して,原告らに対し,他の被告らをして上記③の勧誘,出資をさせたなどと主張して,民法719条等に基づき,連帯して,原告X1(以下「原告X1」という。)が損害の合計660万8085円及びこれに対する平成24年8月28日(不法行為の日)から,原告X2(以下「原告X2」という。)が損害の合計990万8085円及びこれに対する平成25年1月21日(最後の不法行為の日)から,原告X3(以下「原告X3」という。)が損害の合計4400万8085円及びこれに対する平成24年6月15日(最後の不法行為の日)から,原告X4(以下「原告X4」という。)が損害の合計2211万8085円及びこれに対する同年9月13日(最後の不法行為の日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2  前提事実(当事者間に争いのない事実のほか,証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定することができる事実。認定根拠は末尾に付記する。)
(1)  被告会社は,自動車用電装部品等の開発,設計及び製造販売,それらの輸出入業及びコンサルタント業等を目的として平成19年8月28日に設立された株式会社である。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(2)  被告Y1は,被告会社の設立時から被告会社の監査役を務めていたが,平成25年3月20日,これを辞任して被告会社の代表取締役に就任した。(争いのない事実,乙B28,弁論の全趣旨)
(3)  被告Y2は,被告会社の設立時から被告会社の代表取締役を務めていたが,平成25年3月20日に代表取締役を辞任する旨の登記,同年4月5日に取締役を解任する旨の登記がされた。(争いのない事実,乙C1,弁論の全趣旨)
(4)  被告組合は,自動車用電装部品等の開発,設計及び製造販売,それらの輸出入業及びコンサルタント業等を目的として平成21年11月18日に設立された有限責任事業組合である。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(5)  被告Y3,被告Y4及び被告Y5は,被告組合の設立時から被告組合の組合員であり,被告Y6は,平成25年9月2日に被告組合の組合員となった。被告Y9は,平成22年10月20日に被告組合の組合員となった。平成23年6月6日に被告Y9が被告組合を脱退した旨の登記がされた。(争いのない事実,乙E2,弁論の全趣旨)
3  争点
(1)  本件スキームへの投資の勧誘が欺もう行為に当たるか。
ア 原告らの主張
被告会社及び被告組合は,〈ア〉被告Y1が開発した障害物感知システム及び障害物感知方法は,日本,韓国及び米国において特許を取得した,〈イ〉韓国のSPAC制度を利用して韓国の企業を買収し,上記〈ア〉の技術を組み込んだ本件商品を韓国で販売することにより莫大な利益が上がる,〈ウ〉被告組合に投資した資金によって韓国の企業を買収するから,被告組合に投資すれば,多額の配当が確実であり,元本も保証されるという投資スキーム(本件スキーム)が実在するかのように仮装したが,〈エ〉実際には,〈a〉被告らの説明とは異なり,原告が被告組合に振り込んだ金員は全て韓国に送金されず,一部が被告会社や被告組合の事業経費として使用されていた,〈b〉被告らの説明とは異なり,被告会社に送金された資金は,SPACの設立や投資に利用されなかった,〈c〉したがって,原告らが被告組合に振り込んだ資金については,元本の保証はなく,投資リスクがゼロとはいえず,短期のうちに株式を提供することは不可能であったという点において虚偽であったにもかかわらず,そのことを秘し,詐術を用いて原告らが投資した金員が本件スキームに充てられるものと原告らを誤信させて,本件スキームへの投資を勧誘することにした。
仮に,被告会社及び被告Y1の主張のとおり,SPACとしてスマートメリットシージーアイ第2号企業引受目的株式会社(以下「本件SPAC」という。)が設立されていたとしても,本件SPACによる仕組みと原告らが説明していた本件スキームとは,全く別物で同一性が認められないから,本件SPACが存在することをもって,本件スキームが架空の投資スキームであることは否定されない。
したがって,本件スキームへの投資の勧誘は,欺もう行為に当たる。
イ 被告会社及び被告Y1の主張
本件商品に組み込まれた障害物感知システム及び障害物感知方法は,被告会社が開発したもので,その特許が登録されたのは,韓国では平成22年3月8日,米国では同年12月17日,日本では平成23年3月11日であった。本件商品を量産するため,パルス電子が平成20年6月に韓国国内に設立された。その後,パルス電子は,販路を拡大するために,ドイツ企業プレトルの韓国法人プレトルコリアを買収することになった。プレトルコリアの買収資金は,当初,Mirae Asset証券のグループ企業であるMirae Assetベンチャーキャピタルが組成するファンドの資金を充てることが計画され,〈ア〉パルス電子は,韓国で合計1億円を集め,被告組合は,日本で集めた資金をパルス電子に送金する,〈イ〉Mirae Assetベンチャーキャピタルの理事であったAが同社を退社して,プレトルコリアを買収するために株式会社CGI Korea(以下「CGIコリア」という。)を設立し,パルス電子が1億円,AのTeamが5億円+αの資金を用意し,M&Aの資金として6億円のファンドを組成する,〈ウ〉その後,みなとみらいキャピタル株式会社(以下「みなとみらいキャピタル」という。)が5億円+αをファンドに投資し,合計11億円+αの資金を準備するというスキーム(以下「旧スキーム」という。)を立てた。被告組合は,平成21年9月頃から旧スキームに基づいて資金を集め,被告会社は,平成20年6月18日にパルス電子の設立資金250万円を送金したほか,平成21年12月28日から平成23年6月10日までの間に9回にわたり,被告組合が集めた資金から合計1億5000万円をパルス電子に送金した。ところが,メリッツ総合金融証券株式会社(以下「メリッツ証券」という。)及びパルス電子は,同年3月頃に,韓国で非上場企業を買収するのなら,ファンドよりも,投資家のリスクが低くなるSPAC(買収目的会社)制度を利用した方が資金は集まりやすいと提案し,みなとみらいキャピタル,CGIコリア及びメリッツ証券は,同年4月5日,SPAC設立のための業務協約書(乙B2)を取り交わした。また,みなとみらいキャピタル,CGIコリア,メリッツ証券,インジコントロルス株式会社(以下「インジコントロルス」という。)及び被告会社は,同年8月初旬,設立したSPACを株主の募集後に韓国取引所コスダック市場に上場していた他の法人と合併させるのを唯一の事業目的とする投資家間契約書(乙B3)を作成した。同月16日に設立された本件SPACは,同年11月頃から株式の募集を開始し,被告会社は,本件SPACに対し,本件SPACの転換社債を引き受けるための資金として,同年12月14日に12億ウォン(当時のレートで8500万円)を送金し,被告会社の韓国内の預金口座に対し,本件SPAC第三者割当増資引受準備金として,平成24年1月11日に1000万円,平成25年1月10日に1000万円を送金した。しかし,その後,みなとみらいキャピタルが5億円の投資をしなかったため,プレトルコリアの買収に失敗し,本件SPACは,同年4月23日,解散し,上記8500万円が供託された。被告会社とパルス電子との間で,韓国において,上記供託金に係る還付請求権をめぐって裁判になったが,第一審では被告会社が勝訴しており,これが確定すれば,これを投資者に返還することが可能である。
以上のとおり,被告会社及び被告Y1は,詐欺行為を行っていない。
ウ 被告Y2の主張
否認する。
エ 被告Y3ほか及び被告組合(以下,被告Y3ほかと合わせて「被告組合ほか」という。)の主張
否認する。
オ 被告Y7及び被告Y8の主張
否認する。
カ 被告Y9
知らない。
(2)  被告らによる本件スキームへの投資の勧誘等の有無
ア 原告らの主張
(ア) 被告Y7は,原告X1及び原告X2に対し,平成24年8月頃,数回にわたり本件スキームを説明し,被告組合への投資を勧誘した。原告X1は,本件スキームが実在し,投資により確実に利益が上がるものと誤信して,被告組合に対し,同月28日,600万7350円(うち入会手数料7350円)を支払った。
(イ) 原告X2は,上記(ア)の説明によって,本件スキームが実在し,投資により確実に利益が上がるものと誤信して,被告組合に対し,平成24年8月28日,600万7350円(うち入会手数料7350円)を支払った。原告X2は,被告Y7から誘われて,原告X1と共に,同年11月13日頃,集会に参加して,初めて会った被告Y1から,この投資の話はめったにない話だ,元本は必ず保証される旨の説明を受けた。原告X2は,被告組合に対し,同月22日,200万円を支払った。原告X2は,同年12月,被告Y1,被告Y2,被告Y7及び被告Y8らが企画した集会に参加し,被告Y2からもう少しで上場しますのでお待ち下さいとの発言があり,被告Y1から平成25年2月から10月までに上場するとの発言があり,同被告らから被告組合への投資を勧誘された。原告X2は,同年1月21日,100万円を支払った。
(ウ) 被告Y7及び被告Y8は,原告X3に対し,平成23年3月12日頃及び同月14日頃,被告組合に投資すれば,韓国でのビジネスのために資金が使われ,必ず何倍ももうかる,元本は必ず保証される,韓国では1年に1社のみ特別に選ばれる会社があり,そこに投資すれば必ず元本が保証される,今回の投資もこの仕組みを使う,知り合いの被告Y1という社長が商品開発した関係で,人生のうちで一度あるかないかのすごいもうかる投資話があるなどと言って,本件スキームを前提として被告組合への投資を勧誘した。原告X3は,被告Y7及び被告Y8の言を信じて,被告組合に対し,同月23日,1000万7350円(うち入会手数料7350円)を支払った。被告Y7は,原告X3に対し,同月末頃,被告Y1の集会に参加するよう勧誘し,被告Y1は,原告X3に対し,同月29日頃,被告Y7及び被告Y8の同席の下,本件スキームを説明し,被告Y7は,集会後に被告組合への投資を勧誘した。原告X3は,被告Y7及び被告Y8から聞いていた投資話が実在するものであるとの誤信を更に強め,被告組合に対し,同月30日,500万円を支払った。被告Y1は,原告X3に対し,同年4月14日頃,集会において本件スキームを説明した。その後も,被告Y7及び被告Y8は,原告X3に対し,被告組合への投資を勧誘した。原告X3は,被告組合に対し,同年7月28日,200万円,同年8月23日,300万円,同年9月28日,100万円を支払った。被告Y7は,原告に対し,韓国への視察旅行への参加を勧誘し,原告X3は,同年10月28日から同年11月1日頃まで,被告Y1らが主催する韓国への視察旅行に参加した。原告X3は,同年12月6日頃,被告Y1,被告Y7及び被告Y8が企画した集会に参加し,同被告らから被告組合に対する投資を勧誘された。原告X3は,同月8日,300万円,同月12日,500万円,同月13日,30万円,同月20日,70万円を支払った。原告X3は,平成24年5月18日頃,被告Y7から執ように被告組合に対する投資を勧誘され,被告組合に対し,同日,700万円を支払った。原告X3は,同月20日から韓国への視察旅行に参加し,同年6月頃,被告Y7から執ように被告組合に対する投資を勧誘され,被告組合に対し,同月14日,200万円,同月15日,100万円を支払った。
(エ) 被告Y7は,原告X4に対し,平成23年3月頃,知り合いの家族のお父さんが社長をやっている会社で長年開発していた自動車関係の商品がようやく認められ,韓国やアメリカで特許をとった,そのお父さんの会社のビジネスに投資したらそれが最低3倍のもうけになる,元本は保証される,絶対に損しない,会社が上場したら投資したお金の3倍から5倍になって返ってくるなどと言って,本件スキームを前提として被告組合への投資を勧誘した。被告Y7及び被告Y8は,同年4月4日頃,韓国でSPACという年に1社だけ選ばれる会社があり,その会社を使った投資をすれば,元本が必ず保証される,今回もこの仕組みを使うなどと言って,被告組合への投資を勧誘した。原告X4は,被告Y7及び被告Y8の言を信じて,被告組合に対し,同月11日,300万円を支払い,同月12日,入会手数料として7350円を支払った。被告Y1は,同月14日頃,被告Y7と共に,原告X4に対し,本件スキームを説明し,被告組合に振り込んだ資金が韓国のSPAC制度を利用した企業買収のために用いられると説明した。原告X4は,被告Y7から聞いていた投資話が実在するものであるとの誤信を更に強めた。被告Y7は,原告X4に対し,同月16日頃深夜から同月17日未明にかけて,被告組合への投資を勧誘した。原告X4は,被告組合に対し,同月18日,1050万円,同月28日,300万円を支払った。原告X4は,被告Y7から韓国への視察旅行を勧められ,同年5月20日頃から同月22日頃まで,韓国への視察旅行に参加し,同年5月31日,225万円,同年8月25日,75万円,同年12月31日,30万円,平成24年4月27日,15万円,同年9月13日,15万円を支払った。
(オ) 被告組合の主張に係る被告会社への送金のうち,別紙番号9,21,27,30及び32は,証拠がなく,番号2ないし8及び10ないし12は,被告組合ほかの提出に係る証拠が信用性に欠け,番号33は,被告組合ほかの提出に係る証拠では被告会社への送金が認められない。
イ 被告会社及び被告Y1の主張
被告Y1が平成24年11月13日頃に初めて原告X1及び原告X2に会い,同年12月にも会ったことは認め,被告Y1が同原告らの主張に係る説明や発言をしたことは否認する。同年11月13日頃の集まりは食事会にすぎず,同年12月の集まりはカラオケパーティーにすぎない。被告Y1は,訪韓していたので,平成23年4月14日頃に原告X3及び原告X4に説明することはできない。その余の勧誘行為は知らない。原告X3及び原告X4の主張に係る韓国への視察旅行は,単なる観光旅行にすぎない。本件スキームによる勧誘を開始したのは,同年11月頃であるから,原告らの投資時期からすると,原告らの投資の大部分は,本件スキームではなく,旧スキームに基づいて投資したものと考えられる。
ウ 被告Y2の主張
被告Y2が平成24年5月20日からの韓国旅行に参加したこと,被告Y2が同年12月に開催されたカラオケパーティーに参加したことは認め,被告Y2がその際に原告X2の主張に係る発言をしたことは否認する。他の被告らが行っていたことは知らない。
エ 被告組合ほかの主張
被告組合ほかは,原告らに対し,原告らの主張に係る説明をしたことはないし,他の被告らが行っていた説明に関与したこともない。他の被告らが行っていたことは知らない。被告組合が集めた資金のうち平成21年12月28日から平成23年12月27日までの間に被告会社に送金した分は,別紙のとおりである。
オ 被告Y9の主張
被告Y9は,本件スキームへの投資の勧誘には関わっていない。
カ 被告Y7及び被告Y8の主張
被告Y1が複数回集会を開催したこと,原告X3及び原告X4が韓国への視察旅行に参加したことは認め,本件スキームの実態は知らない。被告Y7及び被告Y8は,原告らと同様に出資者であり,原告らに対し勧誘したことはない。被告Y7及び被告Y8は,その性格や被告Y1をもともと知っていたという立場から,質問されることが多く,その都度,善意で,被告Y1が説明していたことを出資者間で確認しあったことがあるが,これは,勧誘には当たらない。被告Y7は,投資スキームを良く理解していなかったため,同じく出資者であるBが原告らに説明し,その後被告Y1が集会において詳細な説明をしていた。被告Y7及び被告Y8は,原告らの投資とは無関係である。
(3)  被告らの責任
ア 原告らの主張
(ア)a 被告Y1,被告Y7及び被告Y8は,他の被告らと共謀して,原告らに対し,本件スキームが実態を伴うものであるとして虚偽の説明をして本件スキームへの投資を勧誘して出資させたから,民法719条による損害賠償責任を負う。
b 仮に,被告らの一部に共謀が認められないとしても,被告Y1,被告Y7及び被告Y8は,原告らに対し,民法719条による損害賠償責任を負う。
(イ)a 被告Y1は,他の被告らと共謀して,原告らに対し,被告会社の代表者として,自ら上記(ア)aの勧誘をし,又は他の被告らをして上記(ア)aの勧誘,出資をさせたから,被告会社は,民法719条による損害賠償責任を負う。また,被告会社の行為は,勧誘をした他の被告らの行為と客観的関連共同性があるから,被告会社は,民法719条による損害賠償責任を負う。
b 被告会社は,被告Y1の使用者として,原告らに対し,民法715条による損害賠償責任を負う。
(ウ)a 被告Y2は,他の被告らと共謀して,原告らに対し,他の被告らをして上記(ア)aの勧誘,出資をさせたから,民法719条による損害賠償責任を負う。
b 被告Y2は,上記(ア)aの勧誘の当時,被告会社の代表取締役として,詐欺行為が行われないよう監視監督する義務があったにもかかわらず,これを懈怠して原告らに損害を被らせたから,原告らに対し,会社法429条1項による損害賠償責任を負う。
(エ)a 被告組合は,他の被告らと共謀して,原告らに対し,他の被告らをして上記(ア)aの勧誘,出資をさせたから,民法719条による損害賠償責任を負う。また,被告組合の行為は,勧誘をした他の被告らの行為と客観的関連共同性があるから,被告組合は,民法719条による損害賠償責任を負う。
b 被告組合は,被告Y3ほか及び被告Y9の使用者として,原告らに対し,民法715条による損害賠償責任を負う。
(オ)a 被告Y3ほか及び被告Y9は,他の被告らと共謀して,原告らに対し,他の被告らをして上記(ア)aの勧誘,出資をさせたから,民法719条による損害賠償責任を負う。
b 被告Y3ほか及び被告Y9は,被告組合が上記(エ)aの違法な業務によって原告らに損害を負わせたことについて,組合員として故意又は重大な過失があるから,原告らに対し,有限責任事業組合法18条による損害賠償責任を負う。
イ 被告会社及び被告Y1の主張
被告Y1が他の被告らとの間で原告らの主張に係る共謀をしたことはない。前記(1)イのとおり,被告会社は,投資家から集めた8500万円を本件SPACに送金しており,被告会社がすべきことは全て行っている。また,韓国の裁判で被告会社が勝訴すれば,本件SPACに送金された8500万円に供託利息を加えた金員を投資家に返還することができるから,投資家に損害は発生しない。
原告らは,被告会社の代表者であった被告Y2の不法行為を主張していないから,被告会社が原告らに対し他の被告らと連帯して不法行為による賠償義務を負うことはない。
被告Y1は,平成25年3月20日まで被告会社の監査役であったが,同日,これを辞任して被告会社の取締役及び代表取締役に就任したから,被告会社が被告Y1の被用者として原告らに対し民法715条による損害賠償責任を負うことはない。
ウ 被告Y2の主張
被告Y2は,被告Y1に請われて,平成18年7月から日本ヴィトネット株式会社(以下「日本ヴィトネット」という。)の取締役を務めていたが,平成19年夏頃,同社のセンサー部門を独立させるので,その社長をやってほしいと頼まれ,これを承諾し,被告会社の代表取締役に就任した。しかし,その後も,名古屋に在住して日本ヴィトネットの取締役として同社のために販路の開拓に当たっており,被告会社の経営に関与することはなく,月1回程度東京に出向くくらいで,被告会社から報酬を受け取ったことはなかった。被告Y2は,知らないうちに平成25年4月5日付けで被告会社の取締役を解任されていた。被告Y2は,被告会社の名義上の代表取締役にすぎない。
エ 被告組合ほかの主張
被告組合は,原告らから集めた資金を被告会社に送金し,本件スキームに沿って使用していた。
オ 被告Y9の主張
被告Y9は,被告Y5から誘われて,平成22年10月20日に被告組合の役員となったが,資金集めは無理と判断して,同年12月16日には役員を辞任した。
カ 被告Y7及び被告Y8の主張
争う。
(4)  損害
ア 原告らの主張
原告X1の損害は,勧誘されて支払った600万7350円,弁護士費用60万0735円,総計660万8085円である。原告X2の損害は,勧誘されて支払った合計900万7350円,弁護士費用90万0735円,総計990万8085円である。原告X3損害の損害は,勧誘されて支払った合計4000万7350円,弁護士費用400万0735円,総計4400万8085円である。原告X4の損害は,勧誘されて支払った合計2010万7350円,弁護士費用201万0735円,総計2211万8085円である。
イ 被告らの主張
争う。
(5)  消滅時効の成否
ア 被告会社及び被告Y1の主張
原告X3が平成23年4月11日から同年12月31日までに送金した合計3000万7350円,原告X4が同年4月11日から平成24年4月27日までに送金した合計1995万7350円に係る損害賠償請求権は,本件訴訟が提起された平成27年4月30日の時点において損害及び加害者を知った時から3年を経過しているから,被告会社及び被告Y1が原告X3及び原告X4に対して平成29年8月29日本件の第3回弁論準備手続期日においてした時効を援用する旨の意思表示により消滅している。
イ 原告X3及び原告X4の主張
原告X3及び原告X4が損害及び加害者を知ったのは,同原告ら代理人に法律相談した平成27年1月31日である。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前提事実のほか,後掲の証拠(ただし,証拠に次の認定に反する部分がある場合にはその部分を除く。)及び弁論の全趣旨により,次の事実を認めることができる。認定根拠は,認定事実の末尾に付記した。
(1)  被告会社が計画した事業
ア C(以下「C」という。)は,韓国において自動車用の非接触センサーを開発した。非接触センサーとは,自動車の窓やドアに指等を挟まれる事故を防ぐために窓やドアが人の指等に触れる前に窓やドアを閉めようとする動作を止めるための技術(障害物感知システム及び障害物感知方法)を組み込んだセンサーをいう。被告Y1は,上記技術が新規の発明に当たり,その発明者がC,その発明に係る特許権者が被告会社であるとして,平成19年12月17日に韓国,平成20年6月2日に日本,同年12月16日にアメリカにおいてそれぞれ特許を申請し,平成22年3月8日に韓国,同年12月17日にアメリカ,平成23年3月11日に日本においてそれぞれ上記特許が登録された。(甲26,33,36,乙A8,乙B13,26,28,被告Y1兼被告代表者(以下,証拠として摘示するときは「被告Y1」と付記することとする。))
イ 被告会社は,韓国において製造した本件商品(上記アの技術を組み込んだセンサー)を日本とアメリカで販売する計画を立て,本件商品を製造するパルス電子を韓国内で設立し,その代表者をD(以下「D」という。)とし,被告会社とDがそれぞれ250万円ずつ出資してパルス電子を設立することを決めた。被告会社は,Dに対し,平成20年5月18日,250万円を送金し,同年6月20日,パルス電子が設立され,Dが同社の代表理事,被告Y2が同社の理事にそれぞれ就任した。(乙A3,乙B1の1,13,28)
ウ 被告会社は,トヨタ自動車株式会社及び本田技研工業株式会社に対し,平成20年9月頃,本件商品のデモンストレーションを行い,平成21年5月頃,完成した本件商品の見本を提示したところ,評判が良かったことから,韓国内の自動車部品関連製品を製造している非上場の会社の株式を買収して合併した後に同社に本件商品を生産させれば,資金集めも容易で事業としても十分に成り立つと考えていた。パルス電子及びMirae Asset証券は,被告会社に対し,同年秋,パルス電子がプレトルコリアを買収することを提案し,被告会社は,これを了承し,プレトルコリアの買収に向けて資金集めを開始した。被告Y1は,長年の知り合いであった被告Y6の発案により,日本国内での資金集めは新たに設立する有限責任事業組合に行わせることを決めた。被告組合は,被告Y1から頼まれた被告Y5が中心になって,同年11月18日,設立された。(前提事実(4),甲44,乙B6,11,28,被告Y1,被告Y6,被告Y5)
エ 被告会社は,被告組合から送金された金員をプレトルコリアの買収資金として順次パルス電子に送金した。その額は,平成21年12月28日に700万円,平成22年2月2日に1500万円,同年4月2日に500万円,平成23年1月28日に300万円,同年4月7日に3000万円,同月19日に875万円,2125万円,同年5月23日に4000万円,同年6月10日に2000万円,合計1億5000万円であった。(乙B1の2ないし10,6,11)
オ 被告会社は,みなとみらいキャピタルとの間で,平成22年11月1日,プレトルコリアの買収資金を集めるためにアドバイザリー業務契約を締結した。その契約書には,契約期間が成功報酬の支払時又は平成23年4月30日までの6か月間,成功報酬がプレトルコリアの発行済株式の70%相当の買収に係る最終契約に基づくクロージング時(買収対価の支払時)より5日以内に買収対価のうちみなとみらいキャピタルが紹介した投資家の投資額の5%(消費税別)と記載されていた。みなとみらいキャピタルは,投資家向けに「ターゲットファンド組成について」と題する書面を作成して,非上場会社であるプレトルコリアの買収及びその後の早期の上場によるキャピタルゲインの獲得を目的とする出資を提案して出資を募った。同書面のⅥ.ファンド(事業投資組合)の概要-1及び2には,〈ア〉申込期間が(仮)同年11月から平成23年1月まで,〈イ〉出資金総額が5億円を上限,〈ウ〉出資金払込日が平成22年12月末日,〈エ〉投資対象がパルス電子による合併前提のプレトルコリアの株式買取(M&A)資金⇒事実上,存続会社がプレトルコリアになるため,同社の上場前株式取得となる旨の記載があるが,SPACに関する記載は見当たらない。(乙B21,23,28)
カ 「韓国Prettle買収資金フロー」と題する書面の,①現行のM&A資金フローには,〈ア〉日本及び韓国の経営陣が1億円を調達してパルス電子に送金し,〈イ〉A理事Teamが5億円+αを調達して,〈ウ〉Mirae Asset証券が上記〈ア〉及び〈イ〉の合計6億円+αの資金でM&Aファンドを組成し,〈エ〉みなとみらいキャピタルが5億円+αを調達して,これに上記〈ウ〉を加えた合計11億円+αでプレトルコリアを買収する旨の記載,②修正M&A資金フローには,〈ア〉1段階として,みなとみらいキャピタルが調達した5億円を被告会社がパルス電子に送金し,パルス電子が1か月以内に1億円未満を出資し,大手証券会社(Sponsor)の主導により1億円を投資させて,合計2億円でSPACを設立し,SPACについてIPOを申請し,1,2か月後には一般公募で11億円を募集し,パルス電子に残り4億円を一般公募時参加させ,経営陣参加の際に+αを出資し,SPACの資本金を17億円とし,1か月後にはSPACを上場させる,〈イ〉2段階として,上場したSPACとプレトルコリアを合併させ,その後にパルス電子を合併させる旨の記載がある。(甲12)
キ CGIコリアは,平成22年12月7日,E(以下「E」という。)を代表理事として設立された。(乙B15)
ク メリッツ証券が関与していたSPACが平成23年3月に上場されることになった。(乙B28)
ケ メリッツ証券,CGIコリア及びみなとみらいキャピタルは,平成23年4月5日,業務協約書を作成した。業務協約書には,要旨,①本協約は,メリッツ証券とCGIコリア及びみなとみらいキャピタルとが信義と誠実をもって業務提携を結ぶことによって,韓国内でのSPACの設立を推進し,これを通じた相互の発展及び収益創出のために協力することを目的とする,②本協約を通じて,〈ア〉メリッツ証券は,設立されるSPACのスポンサー及び主管会社の役割を担当することにし,〈イ〉CGIコリア及びみなとみらいキャピタルは,発起人として参加すると同時に,海外投資家の投資誘致のためのIR及びそれに関連する業務を担当する旨の記載がある。(乙B2,28)
コ メリッツ証券,CGIコリア,みなとみらいキャピタル及びパルス電子の間において,平成23年7月初旬,設立するSPACの資本政策がまとまった。みなとみらいキャピタルは,メリッツ証券に対し,投資家が一目見て分かるような内容の書面を作成するよう求め,同年8月5日,みなとみらいキャピタルの代表者Fと被告Y2は,メリッツ証券を訪ね,内容を確認して書面を完成させた。本件SPACに関する説明資料は,その完成した書面の一つであった。(乙B28,乙C1,被告Y1)
サ メリッツ証券,CGIコリア,みなとみらいキャピタル,インジコントロルス及び被告会社(以下,このサにおいて上記5社を総称して「投資家」という。)は,平成23年8月5日付けで,投資家間契約書を作成した。同契約書には,要旨,①投資家は,本契約によりSPACを設立して運営するに当たり,SPACは株券募集後,韓国取引所コスダック市場に上場している他の法人と合併するのを唯一の事業目的とする点を十分に理解し,その目的を達成するために最大限協力することにする(1条),②投資家のうち,メリッツ証券,CGIコリア,みなとみらいキャピタル及びインジコントロルス(以下,このサにおいてこれらを総称して「発起株主」という。)は,別添の定款(なお,本判決書への添付は省略)により共同でSPACを設立することとする(2条2.1),③発起株主は,SPACの設立時にSPACが発行する記名式普通株式を別紙(なお,その内容は次の(ア)のとおり)に記載されたところにより買収して,その買収代金を納入しなければならない(2条2.2),④投資家のうち,メリッツ証券及び被告会社は,SPACの設立後,最初株券募集前までSPACが発行する転換社債を別紙(なお,その内容は次の(イ)のとおり)に記載されたところにより買収して,その社債代金を納入しなければならない(2条2.3),⑤発起株主は,SPACの設立後,資本市場法により,SPACがその株券を一般に公開募集する(3条3.1),⑥投資家は,SPACを韓国取引所コスダック市場に上場してその事業目的を達成するのに協力すべきである(6条6.1)旨の記載がある。(乙B3,28,被告Y2)
(ア) メリッツ証券 出資金額0.5億ウォン
CGIコリア 出資金額0.5億ウォン
みなとみらいキャピタル 出資金額4.8億ウォン
インジコントロルス 出資金額0.2億ウォン
(イ) メリッツ証券 買収金額12億ウォン
被告会社 買収金額12億ウォン
シ 本件SPACは,平成23年8月16日,Eを代表理事,被告Y2を非常務理事として設立された。(乙A4,乙B4)
ス みなとみらいキャピタルは,平成23年8月25日付け「韓国(SPAC)への投資ご案内」と題する書面を投資家向けに作成した。同書面のI.Meritz証券SPAC資金フローには,①第1段階として,みなとみらいキャピタルが調達した5億円を被告会社がパルス電子に送金し,パルス電子が1か月以内に1億円未満を出資し,メリッツ証券(Sponsor)の主導により2000万円を投資させて,合計1.2億円でSPACを設立し,IPOを申請し,1~2か月後には一般公募で11億円を募集し,その際にパルス電子に残り4億円を一般公募参加させ,SPACの資本金を16億2000万円+αとし,1か月後にはSPACを上場させる,〈イ〉第2段階として,上場したSPACとプレトルコリアを合併させ,その後にパルス電子を合併させる旨の記載がある。(乙B22)
セ 被告会社は,本件SPACに対し,平成23年12月14日,8500万円を送金した。当時の為替レートは1ウォン≒0.07円であったから,8500万円は,12億ウォンに相当した。被告会社は,同月15日,本件SPACから12億ウォンの転換社債を購入した。(乙A12,乙B6,11,28)
ソ 被告会社は,被告会社の韓国内の預金口座に対し,本件SPACの第三者割当増資引受準備金として,平成24年1月11日に1000万円,平成25年1月10日に1000万円を送金した。(乙B17の1及び2,弁論の全趣旨)
タ 本件SPACは,平成25年2月の時点において,上場できないままであった。それは,①みなとみらいキャピタルが調達を予定していた5億円を調達できず,②被告会社がパルス電子に送金した合計1億5000万円をパルス電子が他に流用して本件SPACの上場のために使えなかったためであった。本件SPACは,同年4月23日,株主総会において解散を決議し,同年6月24日,清算が結了した。(乙B4,6,11,28)
チ 本件SPACは,被告会社が8500万円を送金して購入した転換社債の償還請求権について,債権者が被告会社であるかパルス電子であるか確定できないとして,平成25年4月2日,12億ウォンを供託した。被告会社は,パルス電子を被告として,①上記供託金の還付請求権が被告会社にあることの確認,②被告会社がプレトルコリアの株式取得のためにパルス電子に送金した1億4950万円をパルス電子が他に流用したとして,これをウォンに換算した16億4367万7750ウォンの支払を求める訴訟を水原地方法院安山支院に提起した。水原地方法院安山支院が平成26年7月17日に言い渡した判決は,①につき被告会社の請求を認めたが,②につき被告会社の請求を認めなかった。被告会社は,同判決を不服として控訴した。(乙B5ないし10,28)
(2)  被告会社と被告組合との関係
ア 被告Y3,被告Y6,被告Y4及び被告Y5は,平成21年9月頃から,被告組合として,被告会社のために日本国内での資金集めを開始し,その一環として,例えば,平成22年1月16日から同月18日まで,同年3月12日から同月16日まで及び同年5月15日から同月17日までなどの日程で,被告組合が主催して韓国を訪ねるツアーを開催して,資金集めを行っていた。(乙B29の1ないし3,30,31,被告Y1,被告Y4,被告Y6,被告Y5,被告Y9,弁論の全趣旨)
イ 被告組合は,被告組合への投資を決めた者から振り込まれた金員がある程度まとまると,順次被告会社に送金した。その額は,少なくとも,平成21年12月28日に800万円,同月29日に70万円,平成22年1月14日に185万8650円,同月25日に50万円,同月28日に700万円,同年2月1日に1000万円,同月25日に1000万円,同年3月10日に173万5320円,同年4月2日に600万円,同月9日に50万円,同月15日に30万円,同年5月9日に100万円,同月24日に200万円,同月25日に100万円,同年6月29日に100万円,同年7月2日に100万円,同月14日に100万円,同月21日に100万円,同年8月3日に100万円,同月24日に200万円,同月25日に100万円,同年9月2日に50万円,同月10日に50万円,同月26日に70万円,平成23年4月6日に3000万円,同月18日に3000万円,同年9月13日に500万円,同年12月27日に1000万円,合計1億3529万3970円であった。(乙B28,乙D1ないし8,弁論の全趣旨)
ウ 被告組合は,平成23年12月9日,4000万円を韓国の銀行宛てに送金した。(乙D8)
(3)  被告Y7及び被告Y8と被告Y1との関係
ア 被告Y7は,講師をしていたピアノ教室に通っていた被告Y1の3人の子供を教えたことから,かねてから被告Y1と面識があった。被告Y7は,平成23年1月,被告Y1から,①本件商品に組み込む技術が特許登録され,これを事業化するために被告組合を設立し,被告組合に対する出資金により韓国のプレトルコリアを買収する,②被告組合に出資すると,相当にもうかる旨の説明(以下「本件説明1」という。)その他の話を聞き,被告Y1を応援することを決めた。(甲42,乙F1,被告Y1,被告Y7)
イ 被告Y7は,知人から腰痛に効くベルトを紹介され,平成23年1月,初めてそのベルトを販売する株式会社インヴェル・ジャパン(以下「インヴェル」という。)の販売代理店を務めていた被告Y8と会った。被告Y7は,その際,被告Y8に対し,被告Y1から受けた本件説明1その他の話を話したところ,被告Y8は,本件説明1その他の話に興味を持ち,知人を集めて被告Y1から話を聞く機会を設けることを決め,被告Y7も,これに参加することにした。被告Y7及び被告Y8は,同年2月以降,集めた友人と共に,被告Y1から本件説明1その他の話を何度も聞いた。被告Y7及び被告Y8が友人を集めて被告Y1から話を聞くという集まりは,平成24年12月まで行われた。(甲23ないし25,42,乙B28,乙F1,2,被告Y1,被告Y7,被告Y8)
ウ 被告Y7は,合計750万円を被告組合に出資し,被告Y8は,合計930万円を被告組合に出資した。(乙F1,2,4の1及び2,5の1,5の3ないし13,被告Y7,被告Y8)
(4)  原告X3に対する出資の勧誘
ア 原告X3は,平成23年3月頃,知り合いであった被告Y7から腰痛に効くベルトを紹介され,同月9日,被告Y7と一緒にインヴェルを訪ね,応対した被告Y8からベルトを購入した。その際,被告Y7及び被告Y8は,原告X3に対し,本件説明1その他の話をした。原告X3は,同月12日頃にJR東日本の恵比寿駅の近くで被告Y7及び被告Y8と会った際及び同月14日頃にインヴェルで商品を購入した際,同被告らから本件説明1その他の話を聞かされた。本件説明1その他の話を聞いた原告X3は,被告Y1を応援する気持ちから被告組合に1500万円を出資することを決め,同月23日,1000万円及び入会手数料7350円を被告組合に送金した。原告X3は,被告Y7から,被告Y1から話を聞く集会があると聞かされて,同月29日頃,これに参加し,改めて被告Y1から資料を示されながら本件説明1その他の話を聞いた。原告X3は,同月30日,500万円を被告組合に送金した。原告X3は,同年4月26日付けのPRETTL Korea(Pulse電子工業)株式(新規)購入申込書(口数10口,合計1500万円)を被告組合宛てに送付した。(甲3,41,乙A11,乙F1,2)
イ 原告X3は,平成23年7月28日に200万円,同年8月23日に300万円,同年9月28日に100万円を被告組合に送金した。(甲3)
ウ 原告X3は,平成23年10月28日から同年11月1日まで,被告会社が主催する韓国への視察旅行に参加した。原告X3は,同年12月6日頃,被告Y1から話を聞く集会に呼ばれ,被告Y7及び被告Y8から追加の出資を求められ,これに応じて,同月8日に300万円,同月12日に500万円,同月13日に30万円,同月20日に70万円を被告組合に送金した。(甲3,4,27,41)
エ 原告X3は,平成24年5月20日から同月22日まで,被告会社が主催する韓国への視察旅行に参加した。原告X3は,同月18日,被告Y7から追加の出資を求められ,これに応じて,同日に700万円を被告組合に送金した。(甲5,41,42)
オ 原告X3は,平成24年6月,被告Y7から追加の出資を求められ,これに応じて,同14日に200万円,同月15日に100万円を被告組合に送金した。(甲3,6,41)
(5)  原告X4に対する出資の勧誘
ア 原告X4は,平成23年3月頃,知り合いであった被告Y7から本件説明1その他の話を聞かされた。その後,原告X4は,同年4月4日頃,被告Y7及び被告Y8から資料を示されながら本件説明1その他の話を聞かされた。原告X4は,同月5日頃,被告Y7から出資口数を尋ねられて,2口出資すると答え,同月11日,300万円を被告組合に送金した。原告X4は,送金後に会った被告Y7から入会手数料7350円も送金してほしいと言われ,同月12日,7350円を被告組合に送金した。その後も,原告X4は,被告Y7から追加の出資を求められ,同月18日に1050万円,同月28日に300万円を被告組合に送金した。原告X4は,同年5月5日付けのPRETTL Korea(Pulse電子工業)株式(新規)購入申込書(口数11口,合計1650万円)を被告組合宛てに送付した。(甲7,8,10,15,42,乙A11,乙F1,2,原告X4)
なお,原告X4は,その陳述書(甲42)において,同月14日に開催された被告Y1から話を聞く集会に参加して同被告から説明を受けた旨を供述するが,同被告が同月10日から同月15日まで韓国を訪問していたことをうかがわせる航空券の予約確認書兼請求書(乙B16)ことからすると,的確な裏付けを伴わない上記供述は,それだけでは採用することができない。
イ 原告X4は,被告Y7から追加の出資を求められ,これに応じて,平成23年5月31日に225万円,同年8月25日に75万円,同年12月31日に30万円,平成24年4月27日に15万円を被告組合に送金した。(甲7,9,10,原告X4)
ウ 原告X4は,平成24年5月20日から同月22日まで,被告会社が主催する韓国への視察旅行に参加した。原告X4は,同年9月13日,15万円を被告組合に送金した。(甲10,42)
なお,原告X4は,①その陳述書(甲42)において,同年5月31日に225万円を被告組合に送金した旨を供述するが,②その本人尋問において,上記①の送金は平成23年5月31日の誤りである旨を供述しており,そうすると,上記①の供述は,採用することができない。
(6)  原告X1及び原告X2に対する出資の勧誘
ア 原告X2は,平成23年10月頃,知り合いのG(以下「G」という。)から被告会社のセンサーを韓国でマーケティングするための投資の話を聞かされて,興味を持ち,夫の原告X1と共にGから話を聞くことにした。原告X1及び原告X2は,Gから,本件説明1その他の話を聞き,原告X1が調べたところ,本件商品に組み込まれる技術に特に不審な点がなく,元本も保証されることから,出資することを決めた。同月29日頃,原告X1が250万円を,原告X2が200万円を,それぞれGに預けた。(甲39,40,乙F1,原告X1,原告X2,弁論の全趣旨)
イ 原告X1及び原告X2は,その後Gから何の話もなかったことから,Gに連絡を取ったところ,Gから韓国の会社がいまだ上場されていないと聞かされ,その経緯を説明する者として被告Y7を紹介された。原告X1及び原告X2は,平成24年8月頃,被告Y7から資料を示されながら本件説明1その他の話を聞いた。原告X1は,その後,再び被告Y7及び同人が連れてきたBから本件説明1その他の話を聞いた。原告X1及び原告X2は,その後,再び被告Y7から本件説明1その他の話を聞き,PRETTL Korea(Pulse電子工業)株式(新規)購入申込書を受け取った。原告X1及び原告X2は,出資を決め,同月28日にそれぞれ600万円及び入会手数料7350円を被告組合宛てに送金した。原告X1及び原告X2は,同日,上記申込書及び振込用紙の写しを被告組合宛てに郵送した。原告X1及び原告X2は,被告組合から,同年10月25日付け株式保管証を受領した。株式保管証には「合併後,Prettl Korea株式になることを約し,株式を保管していることを証します。」と記載されていた。(甲1,2,16,17,37,39,40,乙F1,3,原告X1,原告X2,弁論の全趣旨)
ウ 原告X1及び原告X2は,平成24年11月13日頃に開催された宴会において,初めて被告Y1に会った。原告X2は,追加の出資を決め,同月22日,200万円を被告組合に送金した。(甲2,39,40,乙B28,33,原告X1,原告X2,被告Y1)
エ 原告X1及び原告X2は,平成24年12月23日頃に開催されたカラオケ大会に参加した。その会では,被告Y7が司会を担当し,被告Y2がもう少しで上場すると言い,被告Y1も平成25年2月から同年10月の間に上場すると言った。原告X2は,終了直後,被告Y7から追加の出資を求められ,同年1月21日,100万円を被告組合に送金した。(甲2,39,40,51,乙B28,原告X1,原告X2,被告Y1,被告Y2)
オ Gは,平成26年3月10日,原告X1に250万円,原告X2に200万円をそれぞれ返還した。(甲39,40)
カ 被告Y7及び被告Y8は,その本人尋問において,原告X1と原告X2が平成24年7月30日に被告Y1から本件説明1その他の話を聞いたと供述する。しかし,原告X1及び原告X2は,その本人尋問において,被告Y1は,その本人尋問兼代表者尋問において,それぞれ原告X1と原告X2が被告Y1と初めて会ったのは同年11月13日頃であると供述している。そうすると,的確な裏付けを伴わない被告Y7及び被告Y8の供述だけでは,上記供述を採用することはできない。
(7)  被告Y2と被告会社との関係
ア 被告Y2は,平成18年7月,被告Y1が代表者を務める日本ヴィトネットの取締役に就任した。被告Y1は,平成19年8月28日,日本ヴィトネットのセンサー部門を独立させて被告会社を設立した。被告Y2は,被告会社の代表者に就任したが,その就任の前後を通じて,名古屋に在住して株式会社槌屋に対する営業のみを担当し,月に1回程度上京する程度で,被告会社の業務を行っていたのは,専ら被告Y1であった。(前提事実(1),乙C1,被告Y1,被告Y2,弁論の全趣旨)
イ 被告Y2は,被告会社が主催して平成24年5月に行われた韓国の視察旅行に参加し,同年12月23日頃に開催された集会に参加して,もう少しで上場すると発言した。(認定事実(6)エ,乙C1,被告Y2)
ウ 被告Y2は,被告Y1に無断で,被告会社の代表者として,パルス電子の代表者であるDとの間で,被告会社が本件SPACから購入した転換社債の償還請求権をパルス電子に譲渡する旨の契約書を作成した。Dは,これを本件SPACに提出した。本件SPACは,被告会社に対し,転換社債償還請求権が譲渡された旨を通知した。それを知った被告Y2は,上記契約書は無効であるから,転換社債は被告会社に償還されるべきである旨を本件SPACに通知した。このため,本件SPACは,被告会社が購入した転換社債に相当する12億ウォンを供託した。(認定事実(1)チ,乙B11,32,乙C1,被告Y2)
(8)  被告Y9と被告組合との関係
被告Y9は,被告Y5の勧めで,平成22年10月20日,被告組合の組合員となった。被告Y9は,プレトルコリアの買収資金を集めるために被告組合に対する出資を勧誘したが,結局,誰からも出資がされなかった。(前提事実(5),乙E1,2,被告Y9)
(9)  SPAC
ア SPACとは,企業買収を唯一の目的として投資家から公募方式で一定規模以上の資金を募集して設立した一種の名目会社である。SPACでは,〈ア〉経営陣が対象企業を発掘して株主が企業買収の是非を決定する構造であり,SPAC設立後に一定期間内に対象会社を買収して企業公開を通して,価値が上昇した合併企業の株式を投資家たちが株式市場で売却し,投資利益を回収することができるようにするという収益構造をとる。SPACでの投資の流れは,非上場のSPACを設立し,SPACについてIPOを申請し,上場を果たし,経営陣が発掘してきた対象企業の買収の可否を株主が決定し,買収が成功すれば,存続会社となる合併企業の株式を株式市場で売却して収益を上げることができ,買収が失敗すれば,SPACを清算し,投資資金を返還することになる。(甲11,乙B22)
イ 被告Y1は,SPACに対する投資では元本が保証されると認識していた。(乙B28)
ウ 平成22年11月19日の日本経済新聞には,韓国が外国人マネーを呼び込む目的で平成21年6月から外国人投資家による債券投資への非課税措置を導入していたが,過度な外国人債券投資は市場の変動性を拡大し,経済全体のシステムリスクを拡散させる可能性があるとしてこれを廃止させ,課税を復活させる方針を明らかにした旨の記事があるが,その後の動向は,不明である。(甲26,32,34,弁論の全趣旨)
2  争点(1)(本件スキームへの投資の勧誘が欺もう行為に当たるか)
(1)  ①認定事実(1)ウ,オ及びカによると,被告会社は,買収したプレトルコリアに生産させた本件商品を日本やアメリカで販売するという計画を立て,その半額を出資して設立したパルス電子,買収資金を集めるために設立させた被告組合,買収資金集めへの協力を約したみなとみらいキャピタルやMirae Asset証券と共に,その計画を進めていた平成22年末頃までは,プレトルコリアの買収は,新たに組成するM&Aファンドにより行うものとされていたこと,②ところが,認定事実(1)カないしセによると,遅くとも平成23年3月には,Mirae Asset証券が外れ,代わりにSPAC上場の実績のあるメリッツ証券が加わり,同年8月には,プレトルコリアの買収は,新たに組成するSPACにより行うものとされたことが認められる。
(2)  これに対し,SPAC導入の意義,SPACの投資構造等に関する記載がある「企業引受目的會社」と題する書面(甲11)は,平成22年1月13日付けである。しかし,本件全証拠を精査しても,上記書面がプレトルコリアの買収資金を集めるために被告組合に対する出資を勧誘する際に資料として同年中に用いられていたことを認めるに足りる的確な証拠がないことに鑑みると,上記書面の日付が平成22年1月13日であることは,上記(1)の認定を左右しない。他に上記(1)の認定を左右するに足りる的確な証拠はない。
(3)  ①被告Y7は,その本人尋問において,被告Y1から,本件商品に組み込む技術が特許登録され,これを事業化するために被告組合を設立した旨の本件説明1を初めて聞いたのは,平成23年1月であったと供述していること,②被告Y7は,その本人尋問において,被告Y1が,同年2月又は3月に本件説明1をした際に,被告組合への出資では元本が保障される旨の説明(以下,「本件説明2」といい,本件説明1と合わせて「本件各説明」という。)をしたと供述していること,③被告Y7が,平成26年8月12日に原告X1と電話で話をした際に,被告組合への投資は全て元本保証であったと述べ(甲45),同年10月9日に原告X1及び原告X2と面談した際に,被告Y1が元金を絶対に保証すると皆の前で言っていたと述べている(甲46)こと,④被告Y1は,その陳述書(乙B28)において,パルス電子が韓国ではファンドよりもSPACの方が投資家のリスクが低くなるとしてプレトルコリアの買収にSPACを利用することを提案してきたのは平成23年2月頃であると供述し,その本人尋問兼代表者尋問において,提案の時期を同年3月頃と改めたほかは,同様の供述をしていること,⑤SPACに対する投資では元本が保証される(認定事実(9)ア)から,プレトルコリアの買収が新たに組成するSPACにより行われると説明をする方が被告組合への出資をさせやすくなると考えられることに鑑みると,被告Y1,被告Y7又は被告Y8は,同月以降,被告組合への投資を勧誘するに当たって,本件各説明をしていたと考えられないではない。
しかし,⑥被告Y1は,その本人尋問兼代表者尋問において,同年9月以降,本件説明1の①,すなわち,本件商品に組み込む技術が特許登録され,これを事業化するために被告組合を設立し,被告組合に対する出資金により韓国のプレトルコリアを買収する旨の話をする際に,本件SPACの話もしていたと供述していること,⑦〈ア〉プレトルコリアの買収が新たに組成するSPACにより行うことに改められたのが同年8月であること(前記(1)),〈イ〉本件SPACに関する説明資料が完成したのが同月である(認定事実(1)コ及びス)ことに鑑みると,説明資料が完成してから本件SPACの話をするようになったということが不自然,不合理であるとは認め難いこと,⑧被告Y1は,SPACに対する投資では元本が保証されると認識していた(認定事実(9)イ)から,被告Y1が本件説明1の①をする際に元本が保証されるという話もしていたとしても,不自然,不合理であるとは認め難いことも勘案すると,被告Y1は,同年9月以降に本件説明1をした際に,被告組合への投資では全て元本保証される旨の本件説明2の話をしており,被告Y7及び被告Y8も,同様に,同月以降に本件説明1をした際に,被告組合への投資では全て元本保証される旨の本件説明2の話をしていたと認めるのが相当である。証拠(甲39ないし42,乙B28,原告X1,原告X2,原告X4,被告Y1)は,この認定を左右するに足りず,他にこの認定を左右するに足りる的確な証拠はない。
(4)  原告らは,被告会社及び被告組合が,①〈ア〉被告Y1が開発した障害物感知システム及び障害物感知方法は,日本,韓国及び米国において特許を取得した,〈イ〉韓国のSPAC制度を利用して韓国の企業を買収し,上記〈ア〉の技術を組み込んだ本件商品を韓国で販売することにより莫大な利益が上がる,〈ウ〉被告組合に投資した資金によって韓国の企業を買収するから,被告組合に投資すれば,多額の配当が確実であり,元本も保証されるという本件スキームが実在するかのように仮装したが,〈エ〉実際には,〈a〉被告らの説明とは異なり,原告が被告組合に振り込んだ金員は全て韓国に送金されず,一部が被告会社や被告組合の事業経費として使用されていた,〈b〉被告らの説明とは異なり,被告会社に送金された資金は,SPACの設立や投資に利用されなかった,〈c〉したがって,原告らが被告組合に振り込んだ資金については,元本の保証はなく,投資リスクがゼロとはいえず,短期のうちに株式を提供することは不可能であったという点において虚偽であったにもかかわらず,そのことを秘し,詐術を用いて原告らが投資した金員が本件スキームに充てられるものと原告らを誤信させて,本件スキームへの投資を勧誘することにした,②仮に,本件SPACが設立されていたとしても,本件SPACによる仕組みと原告らが説明されていた本件スキームとは,全く別物で同一性が認められないから,本件SPACが存在することをもって,本件スキームが架空の投資スキームであることは否定されない旨を主張する。
しかし,認定事実(1)カないしソ,(5)ア及び(6)イによると,上記①〈ア〉ないし〈ウ〉を内容とする本件スキームは実在したものと認めるのが相当である。また,そうすると,原告らが説明を受けた本件スキームと実在するプレトルコリアの買収のための仕組みが全く別物で同一性が認められないとはいえない。
そうすると,原告らの主張①及び②は,いずれも採用することができない。
そして,原告らは,本件スキームへの投資を勧誘することが違法であることを前提に被告らの行為が違法であると主張するほかは,被告らの行為が違法であるとは主張していない。
3  争点(2)(被告らによる本件スキームへの投資の勧誘等の有無)
(1)  認定事実(4),前記2(3)で説示したことのほか,証拠(甲41)によると,原告X3が平成23年3月23日から平成24年6月15日までに被告組合に送金した金員は,原告X3が平成23年3月以降に被告Y1,被告Y7又は被告Y8から聞かされた本件説明1,原告X3が同年9月以降に被告Y1,被告Y7又は被告Y8から聞かされた本件各説明を信じて送金した金員であると認められる。
(2)  認定事実(5),前記2(3)で説示したことのほか,証拠(甲42,原告X4)によると,原告X4が平成23年4月11日から平成24年9月13日までに被告組合に送金した金員は,原告X4が平成23年3月以降に被告Y7及び被告Y8から聞かされた本件説明1,原告X4が同年9月以降に被告Y7及び被告Y8から聞かされた本件各説明を信じて送金した金員であると認められる。
(3)  認定事実(6)イ,前記2(3)で説示したことのほか,証拠(甲39,原告X1)によると,原告X1が平成24年8月28日に被告組合に送金した金員は,原告X1が被告Y7及びBから聞かされた本件各説明を信じて送金した金員であると認められる。
(4)  認定事実(6)イないしエ,前記2(3)で説示したことのほか,証拠(甲40,原告X2)によると,原告X2が平成24年8月28日及び同年11月22日に被告組合に送金した金員は,原告X2が被告Y7から聞かされた本件各説明を信じて送金した金員であり,原告X2が平成25年1月21日に被告組合に送金した金員は,原告X2が被告Y7から聞かされた本件各説明のほか,被告Y2及び被告Y1の上場する旨の話を信じて送金した金員であると認められる。
(5)  しかし,前記2(4)で説示したことによると,前記(1)ないし(4)の各勧誘が違法であると認めることはできない。
そうすると,前記(1)ないし(4)の各勧誘が違法であることを前提に被告らの行為が違法であるとの原告らの主張は,その前提を欠くから,被告Y1,被告Y7及び被告Y8を除くその余の被告らが前記(1)ないし(4)の各勧誘にどのように関与したか,同被告らが前記(1)ないし(4)の各勧誘後にどのような行為を行ったかにかかわらず,採用することができない。
4  結論
以上によると,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第10部
(裁判官 鈴木正紀)

 

〈以下省略〉

 

*******

裁判年月日  平成30年10月18日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)23212号
事件名  成功報酬請求事件
文献番号  2018WLJPCA10188009

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年10月18日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)23212号
事件名  成功報酬請求事件
文献番号  2018WLJPCA10188009

東京都千代田区〈以下省略〉
原告 株式会社ストライク
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 佐藤優
同 西中山竜太郎
宮城県多賀城市〈以下省略〉
被告 株式会社城港観光(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 C
宮城県多賀城市〈以下省略〉
被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 舟木友比古
同 赤津聡

 

 

主文

1  被告会社は,原告に対し,3255万円及びこれに対する平成25年12月25日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
2  被告Y1は,原告に対し,168万円及びこれに対する平成25年12月25日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
3  訴訟費用は,被告らの負担とする。
4  この判決は,1,2項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
主文同旨
第2  事案の概要
本件は,原告が被告らとの間で締結したM&A仲介依頼契約に基づいて,報酬(被告会社について3255万円,被告Y1について168万円)の各支払を求めるとともに,平成25年12月25日(報酬発生日の翌日)から商事法定利率年6%の遅延損害金の支払を求める事案である。
1  前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。なお,証拠について枝番のあるものは,特定していない限り,その全部を指す。)
(1)  当事者
原告は,企業の合併等の組織再編行為,資本提携,業務提携の仲介,企業の事業譲渡及び事業用資産の売買の仲介などを目的とする株式会社である(甲1)。
被告会社は,ホテル,旅館その他観光施設の経営並びに料理飲食店,売店,娯楽場の経営などを目的とする株式会社である(甲2)。
被告Y1は,被告会社の前代表者代表取締役であったが,平成26年2月28日に辞任した。D(以下「D」という。)は,被告Y1の妻であり,被告Y1とDとの間の子が,現在の被告代表者のC(以下「C」という。)である。
ブリーズベイホテル株式会社(以下「B社」という。)は,ホテルの経営及び飲食店の経営などを目的とする株式会社である(甲3)。
(2)  本件仲介依頼契約の締結
被告会社及び被告Y1は,平成25年9月10日,原告との間で,M&A仲介依頼契約(以下「本件仲介依頼契約」という。)を締結し,原告に対し企業提携,対象企業の探索及びその実現に関して,以下の業務(以下「本件委託業務」という。)を委託した(甲4)
① 必要な資料の作成
② 対象企業の探索
③ 契約条件の調整
④ スケジュールの調整
⑤ 契約書等の草案の作成
⑥ その他付随する業務
(3)  被告会社・B社間の契約締結
ア 被告会社はB社に対し,被告会社が経営するaホテル及びbホテルを譲渡するために,平成25年12月24日,別紙第1売買物件目録記載の土地建物について6億5000万円で売却した(以下「本件売買契約1」という。甲5)
イ 被告Y1及びDはB社に対し,上記アと同じ目的のために,平成25年12月24日,別紙第2売買物件目録記載の土地建物について,被告Y1について2000万円,Dについて2000万円の合計4000万円で売却した(以下「本件売買契約2」という。甲6)。
ウ 本件売買契約1,2締結当時,被告会社は,宮城県から補助金の交付を受けており,本件売買契約1,2による観光施設の譲渡については,県知事の承認が必要であり,仮に県知事の承認が下りないまま譲渡が行われると補助金の返還を求められるおそれがあった。そこで,県知事の承認が下りるまでの間,B社は建物の賃借人としてホテルを経営することとし,被告会社と被告Y1は,B社との間で賃貸借契約を締結した(以下「本件賃貸借契約」という。甲8)。
(4)  被告らは,原告に対し,平成29年10月25日,弁論準備手続期日において,原告に対し,本件仲介依頼契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権(9495万7000円)と原告の請求債権とをその対当額において相殺するとの意思表示をした。
2  争点
(1)  本件仲介依頼契約の有効性(本件仲介依頼契約が宅建業法の規制に服するか否か)
(2)  本件売買契約1,2の錯誤無効の成否
(3)  相殺の抗弁
第3  争点に対する当事者の主張
1  争点(1)(本件仲介依頼契約の有効性(本件仲介依頼契約が宅建業法の規制に服するか否か))
【被告らの主張】
(1) 原告は,本件仲介依頼契約により企業提携を仲介したと主張しているが,本件売買契約1,2は,被告ら及びDとB社との間の単なる宅地及び建物の売買契約であり,原告はその媒介をしているにすぎないから,宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)の規制に服する。
(2) 原告が宅地建物取引業者でなければ,宅建業法が無免許営業者による宅地建物取引の営業を禁止し,処罰の対象にもしていることから,無免許営業者である原告による報酬請求権を認めることは不当であり,本件仲介依頼契約に基づく報酬金の請求は認められない。また,仮に原告が宅地建物取引業者であれば,報酬の上限を定めた宅建業法46条の規制に服するから,原告が請求しうる報酬金額は,被告会社について2112万4800円,被告Y1について136万0800円にとどまる。
【原告の主張】
本件仲介依頼契約により,被告らは原告に対し,企業提携の対象企業の探索とその実現を委託し(甲4・1条),企業提携の手段として法人資産の譲渡・譲受が定められており(甲4・2条2項),原告は,本件売買契約1,2締結前に,M&A対象企業を数10社リストアップし,うち数社にコンタクトを取り,最終的にB社を選定し,不動産売買方式による企業提携を実現したのであり,単なる宅地及び建物の売買契約を媒介したわけではない。本件仲介依頼契約が宅建業法の規制に服することはない。
2  争点(2)(本件売買契約1,2の錯誤の無効の成否)
【被告らの主張】
(1) 被告ら及びDは,被告会社の債務を全額返済できるとの原告の説明を前提に事業譲渡を進めており,約9500万円もの補助金の返還を要し,被告会社の債務を全額返済できない結果になったことについて錯誤がある。
(2) 原告は,B社との関係で,売買代金については被告会社の債務を弁済した後に幾らの現金が残る額を設定するなどの契約条件の調整を行っている以上,被告ら及びDの補助金返還という動機は,本件売買契約1,2の内容になっており,被告会社の債務を全額返済できないならば,被告ら及びDは,本件売買契約1,2を締結しなかっただろうし,そうすることが社会の取引通念上も至当である。以上のとおり,本件売買契約1,2は錯誤により無効である。
【原告の主張】
(1) 被告ら及びDに錯誤があるとの主張は否認する。被告Y1は,本件売買契約1,2の締結まで補助金について説明しておらず,被告らの動機は表示されていない。
(2) 企業提携のための不動産売買が常に売主の債務の全額消滅を伴うものとはいえない。原告の主張は争う。
3  争点(3)(相殺の抗弁)
【被告らの主張】
(1) 被告会社は,平成23年12月頃,宮城県から9495万7000円の補助金の交付を受けた(乙1)。
(2) 被告ら及びDは,B社との間で平成25年12月24日,本件売買契約1,2を締結したが,そのことを知ったCは強く反対し,平成26年1月8日,原告に対して,本件売買契約1,2が実行されると,被告会社が宮城県から補助金の返還を求められるおそれがあることを指摘した。
被告ら及びDは,本件売買契約1,2を締結するにあたって,売買代金額が少なくとも被告会社の債務を全額返済できるとの説明を原告から受けたものの,その額には,宮城県から受けた補助金の返還分がまったく考慮されていなかったため,補助金返還問題の解決を原告に依頼し,原告は,被告会社がホテルの建物をB社に賃貸する方法で対処することとし,平成26年1月28日,被告会社とB社との間で本件賃貸借契約が締結された。
(3) しかし,被告会社が受けた補助金については,県知事の承認を受けないで行うことが禁止されている行為として「譲渡」のみならず「貸し付け」も明示されており,本件売買契約1,2が実行された場合のみならず,本件賃貸借契約が実行された場合にもまた補助金の返還が求められるのは明らかであり(甲7・8条2項),宮城県からも同様の回答を得ている。
以上のとおり,本件賃貸借契約を締結しても,補助金返還問題は解決せず,補助金の返還を考慮に入れず本件売買契約1,2の代金額を定め,補助金返還問題が存在することを認識した後も本件賃貸借契約を締結すれば補助金の返還は不要と判断し,本件賃貸借契約を締結するよう助力しただけの原告には債務不履行責任があり,被告らは,原告に対し,9495万7000円の損害賠償請求権を有する。
【原告の主張】
(1) 原告は,被告ら及びDに,売買代金をもって債務を弁済し,その後にいくらか現金が残るとの説明をしたが,かかる説明は本件売買契約1,2が締結された平成25年12月24日までのものであり,同日までの交渉窓口は被告Y1であった。被告Y1は,同日まで,原告に対し,補助金について説明しておらず,原告は補助金の返還を考慮せずに本件売買契約1,2の締結を進めていた。
(2) 被告Y1は,本件売買契約1,2が締結された平成25年12月24日まで補助金の話をしておらず,補助金返還問題の解決は本件仲介依頼契約における原告の債務にはなっていない。
(3) 本件売買契約1,2又は本件賃貸借契約が実行された場合,補助金の返還を求められることは明らかであるとの主張は争う。
第4  当裁判所の判断
1  認定事実(以下の事実は,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によって認めることができる。)
(1)  被告会社は,平成23年3月11日に発生した東日本大震災によって被災したaホテル及びbホテルを再生するため,同年12月頃,宮城県から9495万7000円の補助金の交付を受けた(乙1)。なお,原告の担当者は本件売買契約1,2を締結する前から被告会社が補助金を受けていたことは知っていた(乙5)。
(2)  原告は,M&Aのために必要な書類のリストを作成し,これを被告会社に交付し(甲17),被告会社は関係書類を原告に提供した(甲18,19)。
(3)  原告は,「M&A譲渡希望企業情報」を作成し,これを原告のホームページに掲載し(甲19),「企業概要書」を作成した(甲20)。
(4)  企業概要書には,希望形態として,株式譲渡(100%),Y1家所有不動産の買取が記載されていた(甲20)。
(5)  原告は,「ホテル買い手候補宮城県外」を作成し(甲20),順次候補会社の意向を打診したが,芳しい反応がなかったため,さらにB社を含む6社を候補として順次意向を打診したところ,B社が強い関心を示したので,本格的な交渉を行った。
(6)  M&Aの希望形態は,株式譲渡(100%),Y1家所有不動産の買取であったが,B社の強い希望により,事業用全不動産の売買によることとされ,平成25年12月24日,本件売買契約1,2が締結された。
(7)  原告は,本件売買契約1,2を締結するにあたって,その売買代金額が少なくとも被告会社の債務を全額返済でき,幾らかの現金が残ると被告らに説明していたものの,その際には,宮城県への補助金の返還については考慮されていなかった。
(8)  Cは,平成25年12月末,被告ら及びDが本件売買契約1,2を締結したことを知りこれに強く反対した。
(9)  Cは,平成26年1月8日,被告Y1及びDが同席する中で,原告の担当者に対し,本件売買契約1,2が実行されると上記(1)の補助金の返還を求められる恐れがあることを指摘した。
(10)  原告は,被告らからの依頼を受け,宮城県から補助金の返還を求められる事態を避けるため,賃貸借契約書の草案を作成し,被告らとB社は平成26年1月28日,本件賃貸借契約を締結した。
2  争点(1)本件仲介依頼契約の有効性(本件仲介依頼契約が宅建業法の規制に服するか否か)
(1)  M&Aは企業の合併及び買収のことであり,買収は株式譲渡又は事業譲渡によって行われる。上記1(6)のとおり,本件では,aホテル及びbホテルの買収にあたって,事業譲渡の形式を取らず端的に不動産売買契約により行われたが,売買対象不動産は,被告会社のホテル事業のために供されていた不動産の全てであって,被告会社のホテルの事業の支配権を移転するために行われたものといえる。したがって,本件売買契約1,2は企業買収のために行われたものといえる。
(2)  宅建業法は消費者利益を保護することを目的としており,宅建業法が適用される「宅地建物取引業を営む者」に該当するか否かは,消費者の利益を守るために法の規制を及ぼすべきかどうかという観点から判断されるべきである。その判断にあたっては,①取引の対象者,②取引の目的,③取引対象物件の取得経緯,④取引の態様,⑤取引の反復継続性などの要素を勘案するのが相当である。
これを本件についてみるに,原告の主な事業は,インターネット及びその他の通信を利用した企業情報提供サービス,企業の合併等の組織再編行為,資本提携,業務提携の仲介,企業の事業譲渡及び事業用資産の売買の仲介であって(甲1),M&A関連業務として事業用資産たる宅地建物の取引を媒介することはあるものの,一般消費者向けに宅地・建物の取引の媒介をすることを目的としてはいない。
また,取引の目的も,上記1(2)ないし(6)のとおり,宅地・建物の取引自体から直接利益を得るのではなく,あくまでもM&A業務によって利益を得ることを目的としている。
なお,原告は取引対象物件を取得していない。
以上からすれば,原告は「宅地建物取引業を営む者」に該当するとはいえず,原告が被告らとの間で締結した本件仲介依頼契約が宅建業法の規制に服するとはいえない。
(3)  この点,被告らは,本件売買契約1,2は,単なる宅地及び建物の売買契約であり,本件仲介依頼契約による本件委託業務が不動産売買の媒介における作業内容と同列であると主張する。
しかし,宅地,建物の売買の媒介において媒介業者が買受希望者に対し提供する情報は,宅地,建物についての情報であるが,本件において原告が提供した情報は被告会社の企業情報であり(甲19,20),その作業内容も上記1(1)ないし(6)のとおり,M&Aを目的としたものであって作業内容が宅地,建物の売買の媒介と同列とは認め難い。被告らの主張は採用できない。
3  争点(2)(本件売買契約1,2の有効性(錯誤の成否))
(1)  確かに,上記1(7)のとおり,原告は,被告会社の債務を全額返済できるように本件売買契約1,2の代金額を設定するなどの契約条件の調整を行っており,被告ら及びDにおいて,被告会社の債務を全額返済できることが本件売買契約1,2の動機となっており,そのことは原告らにも表示されていたとはいえる。しかし,契約相手であるB社に対しても表示されていたといえるのかは定かではない。
また,この点を措くとしても,原告が本件売買契約1,2の締結前に説明を受けていたのは,被告会社が補助金の交付を受けていたという点にとどまるのであり,補助金を返還しなければならなくなるとの説明を受けたのは,上記1(9)のとおり,本件売買契約締結後の平成26年1月8日の時点が初めてである。
したがって,被告ら及びDは,本件売買契約1,2によって,補助金の返還を求められる可能性があることまで原告に説明していない点において重過失があるといわざるを得ない。また,宮城県から補助金の返還を求められたとしても,被告会社の債務を全額返済できるように本件売買契約1,2の代金額を設定するという被告らの動機は明示的にも黙示的にも表示されていたとは認め難い。
(2)  以上からすると,本件売買契約1,2が錯誤により無効になるとは認め難い。
4  争点(3)(相殺の抗弁)
(1)  この点,被告会社が宮城県から平成23年12月頃,補助金の交付を受けているため,本件売買契約1,2が実行された場合はもちろん,本件賃貸借契約が締結された場合においても,補助金の返還を宮城県から求められることになるとされており(甲7・8条2項),宮城県の担当者も同様の回答をしている。
もっとも,原告が,本件売買契約1,2の締結前に説明を受けていたのは,被告会社が補助金の交付を受けていたという点にとどまり,補助金を返還しなければならなくなるとの説明を受けたのは,上記1(9)のとおり,平成26年1月8日の時点が初めてである。
(2)  この点,被告らは,補助金の交付を受けていたことを原告が知っていたのであれば,その返還の可能性についても思い至るべきであった旨主張する。
しかし,通常,補助金は返還義務を伴わないものであって,原告において,被告会社が補助金の交付を受けているということを知ったのみで,補助金の返還についてまで思い至るべき義務があるとは認め難い。
(3)  また,被告らは,本件仲介依頼契約において,被告らが原告に助言を求めた業務は原告の業務となるところ(甲3・3条1項6号),本件売買契約1,2の締結後,被告らは補助金返還問題の解決を原告に依頼しており,同問題の解決が本件仲介依頼契約の内容になったと主張する。
確かに,上記1(10)のとおり,原告は被告らから依頼を受けて,補助金の返還を免れるために本件賃貸借契約の締結を仲介している。しかし,そもそも本件仲介依頼契約(甲3)によれば,法人資産の譲渡・譲受の手段である本件売買契約1,2の締結,すなわち,提携に係る最終契約締結により,原告の被告らに対する成功報酬は生じている(甲4・9条2項)と解すべきである。その後,原告は,Cからの指摘を受け,改めて補助金の返還を受ける事態を防ぐために本件賃貸借契約の締結を仲介しているものの,かかる業務は本件仲介依頼契約における原告の債務として行われたものではなく,本件売買契約1,2の締結後におけるサービスとして行われたものと解するのが相当である。
(4)  以上からすると,本件仲介依頼契約の内容として,宮城県から補助金の返還を受けることを前提にして,被告会社の債務を全て返済できるだけの金額で本件売買契約1,2の締結を原告が仲介することとされていたと認めることはできないし,宮城県からの補助金の返還を免れるために本件賃貸借契約の締結を原告が仲介することまで債務の内容になっていたと認めることはできない。したがって,被告らが原告に対し,本件仲介依頼契約の債務不履行を理由として,宮城県から返還を求められる補助金(9495万7000円)相当額の損害賠償請求権を有しているとは認められず,被告らの相殺の抗弁は採用できない。
5  結語
(1)  以上のとおり,争点(1)~(3)における被告の主張はいずれも採用することができない。
そして,本件仲介依頼契約には,被告らは原告に対し,成功報酬として最終契約時に資産譲渡金額に対し,5億円以下の部分は5%,5億円超10億円以下の部分は4%の成功報酬及び消費税を支払う旨定められている(甲4・9条2項)。
本件仲介依頼契約に基づく資産の譲渡金額は,前提事実(3)のとおり,被告会社は6億5000万円,被告Y1及びDは合計4000万円であるから,被告会社分は3255万円(=(5億円×5%+1億5000万円×4%)×1.05)となり,被告Y1分は168万円(=4000万円×4%×1.05)となる。
(2)  したがって,原告の請求は理由があるから認容し,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第15部
(裁判官 内藤寿彦)

 

〈以下省略〉

 

*******

裁判年月日  平成30年10月17日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)4202号
事件名  損害賠償等請求事件
文献番号  2018WLJPCA10178006

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年10月17日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)4202号
事件名  損害賠償等請求事件
文献番号  2018WLJPCA10178006

東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 付岡透
同 庄野信
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 サンエース合同会社(以下「被告サンエース」という。)
同代表者代表社員 A
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 Aこと
Y1(以下「被告Y1」という。)
東京都狛江市〈以下省略〉
被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
同訴訟代理人弁護士 小林雄三
さいたま市〈以下省略〉
被告 Y3(以下「被告Y3」という。)
同訴訟代理人弁護士 内藤政信
横浜市〈以下省略〉
被告 Y4(以下「被告Y4」という。)
東京都墨田区〈以下省略〉
被告 Y5(以下「被告Y5」という。)

 

 

主文

1  被告サンエース,被告Y1,被告Y2,被告Y4及び被告Y5は,原告に対し,連帯して336万3000円及びうち102万1000円に対する平成24年8月22日から,うち102万1000円に対する平成25年3月21日から,うち102万1000円に対する平成25年7月31日から,うち30万円に対する被告サンエースにつき平成29年3月6日,被告Y1につき同月28日,被告Y2につき同月11日,被告Y4につき同月4日,被告Y5につき同月26日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告の被告サンエース,被告Y1,被告Y2,被告Y4及び被告Y5に対するその余の請求並びに被告Y3に対する請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,原告に生じた費用の4分の3と被告サンエース,被告Y1,被告Y2,被告Y4及び被告Y5に生じた各費用の10分の9を被告サンエース,被告Y1,被告Y2,被告Y4及び被告Y5の負担とし,原告,被告Y1,被告Y2,被告Y4及び被告Y5に生じたその余の各費用並びに被告Y3に生じた費用を原告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  主位的請求
被告らは,原告に対し,連帯して366万3000円及びうち102万1000円に対する平成24年8月22日から,うち102万1000円に対する平成25年3月21日から,うち102万1000円に対する平成25年7月31日から,うち60万円に対する本件の訴状送達の日の翌日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  予備的請求
被告サンエースは,原告に対し,300万円及びこれに対する平成29年3月6日(被告サンエースに対する本件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,株式会社ベストFAM(以下「FAM」という。)の従業員で,その後,被告サンエースの従業員となった被告Y4から勧誘を受けて,FAMが募集しているとするファンドに3口分合計300万円を出資するとともに,手数料として合計6万3000円を支払った原告が,主位的に,上記ファンドは運用実態がない可能性が高いなどと主張して,被告Y4,FAMの代表取締役であった被告Y5,原告の出資した資金をFAMから引き継いだとされる被告サンエース,被告サンエースの代表社員である被告Y1,被告サンエースの代表社員であった被告Y2及び被告Y3に対し,(共同)不法行為又は会社法429条(被告Y5関係)若しくは同法597条(被告Y1,被告Y2,被告Y3関係)に基づき,損害賠償金366万3000円及び遅延損害金の連帯支払を求め,予備的に,原告は被告サンエースとの間で,上記ファンドに係る出資契約を合意解除したと主張して,被告サンエースに対し,不当利得返還請求権に基づき,300万円及び利息の支払を求める事案である。
1  前提事実(認定に用いた証拠は括弧内に示した。)
(1)  原告は,昭和12年生まれの女性である(甲25)。
(2)  FAMは,平成23年7月6日に設立され,国内外の有限責任組合・匿名組合等の集団投資スキームを用いた投融資の運用・管理業務等をその目的として登記されている会社で,被告Y5がその代表取締役である。商業登記簿上,FAMの本店所在地は,平成25年7月3日から平成26年9月12日まで,被告サンエースの本店所在地と同じ,東京都千代田区〈以下省略〉とされていた。(甲2)
(3)  被告サンエースは,平成26年6月23日に設立され,雑貨の企画,制作,輸入及び販売等をその目的として登記されている会社である。被告サンエースの商業登記簿には,被告Y2及び被告Y3が設立当初の業務執行社員兼代表社員として登記されていたが,被告Y3については同年7月15日に代表社員を退任するとともに被告サンエースから退社した旨の,また,被告Y2については同月25日に代表社員を退任するとともに被告サンエースから退社した旨の各登記がされた(なお,上記の各日付は,平成28年11月1日に更正登記がされた後のものであり,もともとは,両被告とも平成26年10月1日に退任及び退社した旨の登記がされていた。)。そして,上記商業登記簿には,被告Y1が平成26年7月25日に被告サンエースに加入するとともに同日に代表社員に就任した旨の登記がされた(なお,上記の各日付は,平成28年11月1日に更正登記がされた後のものであり,もともとは,平成26年10月1日に加入及び就任した旨の登記がされていた。)。(甲1)
(4)  被告Y4は,FAMの従業員であったが,その後,被告サンエースの従業員となった(原告本人,被告Y2本人,弁論の全趣旨)。
(5)  原告は,以前より面識のあった被告Y4から,FAMが匿名組合を設立し,集めた資金を運用して配当するシステムへの出資の勧誘を受け,平成24年8月22日に1口分100万円をFAMに出資するとともに,手数料として2万1000円を支払った(甲25,原告本人)。
(6)  原告は,被告Y4から,追加の出資を勧誘され,平成25年3月21日及び同年7月31日に各1口分100万円ずつ(合計200万円)をFAMに出資するとともに,手数料として2万1000円ずつ(合計4万2000円)を支払った(甲5,9から12まで,25,原告本人)。
(7)  原告は,平成26年7月頃,被告Y4から,FAMが被告サンエースに社名が変更になるとの説明を受け,同年8月1日に被告サンエースとの間で100万円分及び200万円分の各出資契約書に署名押印し,被告サンエースから出資金預り伝票及び取引履歴書と題する書面を受け取った(なお,このやりとりの際に,原告から被告サンエースに対して新たに300万円が支払われたという事実はない。甲14から19まで,25,原告本人)。
(8)  被告サンエースは,同被告が原告に対し,100万円を平成28年5月末日から分割払いする旨,及び,200万円を同日から分割払いする旨をそれぞれ記載した同年2月19日付けの「和解契約書及び支払い約定書」と題する書面(2通)を原告に送付した(甲20,21,25)。
(9)  原告は,本件の訴状で,(予備的請求の前提として)上記(8)の被告サンエースによる合意解除に同意する旨の意思表示をした。
2  争点及びこれに関する当事者の主張
(1)  被告Y4の責任の有無
(原告の主張)
被告Y4が原告に対して,FAMの募集するファンドへの出資を勧誘した行為は,以下のとおり,不法行為(FAMとの共同不法行為)を構成するというべきである。
ア 被告Y4は,実態のない投資運用を実態があるかのごとく装い,かつ,高利が得られるかのごとく原告に申し向けて,原告から金員を詐取した。
イ 被告Y4は,無職の高齢者であり,かつ,年金生活者である原告に対して,匿名組合契約のような一般的になじみがない契約形態で,投資内容も不明確なものに出資させたものであり,適合性原則に違反する。
ウ 被告Y4は,原告に対し,利率が良いこと,絶対に安全であること,原告に問題が起きたら被告Y4が責任をとるなどと言って,リスク等について説明しないで,原告にFAMの募集するファンドに出資をさせたものであり,説明義務違反(断定的判断の提供を含む。)がある。
(被告Y4の主張)
争う。自分を信じていただくしかないと言った記憶はあるが,絶対安全で大丈夫であるとか,被告Y4が責任を負うと言ったことはない。原告も,(被告Y4が勧誘したファンドについて)元本保証があり,安全確実であるとは思っていなかった。
(2)  被告サンエースの責任の有無
(原告の主張)
被告サンエースは,被告Y4が従業員として移籍しており,被告サンエース及び被告Y4が原告に対して(FAMから被告サンエースへの)社名の変更であると説明していること,被告サンエースが,原告がFAMに交付した金員をそのまま引き継いでいることからすると,FAMに対して関東財務局の調査が入ったことを受けて(なお,FAMは,平成26年10月,無登録でファンドの自己私募及び運用を行っているなどとして関東財務局から警告を受けている。),FAMの受け皿となったといえ,被告サンエースは,主観的にも客観的にもFAMと関連共同性を有するのみならず,実質的にはFAMと同一性を有するといえるから,FAMが行った原告に対する違法な勧誘について共同不法行為責任を負うというべきである。
なお,原告と被告サンエースとの間で和解が成立している旨の被告サンエースの主張は否認する。
(被告サンエースの主張)
争う。なお,原告とは既に和解をしている。また,FAMとの取引を解約した顧客を被告サンエースが勧誘し,一部顧客となってもらったが,被告サンエースは,FAMの受け皿とはなっていない。
(3)  被告Y5,被告Y1,被告Y2及び被告Y3の責任の有無
(原告の主張)
ア FAM及び被告サンエース並びにそれらの役員及び従業員は,原告に関するFAM又は被告サンエースの業務の一環として,各自役割分担して行動しており,被告Y4の行為は,被告Y5,被告Y1,被告Y2及び被告Y3と主観的又は客観的に関連共同性を有するといえるから,被告Y5,被告Y1,被告Y2及び被告Y3も(FAM及び)被告サンエースや被告Y4と共に共同不法行為責任を負うというべきである。
イ 被告Y5は,FAMの取締役(代表取締役)として,被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,被告サンエースの業務執行社員(代表社員)として,会社が違法行為を行わないようにする義務を負っていたにもかかわらず,会社による違法行為を防止せず,故意又は重過失により取締役・業務執行社員としての任務を懈怠したといえるから,会社法429条1項又は同法597条の責任を負うというべきである。
ウ 被告Y2は,担当者として原告に連絡をして取引を継続させていること,被告サンエース及び被告Y1と一体となって社会的相当性を逸脱する取引を行っていたこと,及び,被告Y2が代表者の名義を貸すことによって被告サンエースが会社設立登記を完了して違法な行為に及ぶことができたといえることから,被告Y2は,不法行為責任を免れない。
エ 被告Y5は,FAMの代表者として,(原告を含む)顧客に違法な支出をさせて損害を与えていることから不法行為責任を免れない。また,被告サンエースは,その顧客に対してFAMから社名を変更すると説明して取引を継続させているところ,被告Y5は,被告サンエースが原告を含めたFAMの顧客に対して損害を与えることを助長させており,少なくとも過失による幇助としての不法行為が成立するというべきである。
オ 被告Y3は,原告との関係においては,(代表者としての)名義を貸すことによって,被告サンエースを設立させており,被告サンエース及び被告Y1らの違法行為を容易にしたのであって,過失による幇助としての不法行為が成立するというべきである。
(被告Y5の主張)
争う。原告とFAMとの間で取引があったことは認めるが既に元金以上の利益を出して解約により終了している。被告サンエースのことは知らない。
(被告Y1の主張)
争う。なお,原告とは既に和解をしている。
(被告Y2の主張)
争う。被告Y2は,平成23年9月頃,職業安定所での求人募集を見て,FAMに入社した。そして,被告Y1及び被告Y5から,FAMが正規の匿名組合方式による為替運用主体のファンドを行っているとの説明を受けた。被告Y2は,入社当時,最年長であったので,営業部長に就任することになり,電話で,ファンドの勧誘をしていた。なお,FAMにおける資金運用・管理は,代表者である被告Y5と取締役であるB(以下「B」という。)が行っていた(被告Y2は,為替運用の詳細を知らなかった。)。被告Y2を含むFAMの全従業員は,平成28年2月,被告Y1及び被告Y5から,(年末に匿名組合方式ができなくなるとの理由から)FAMを解散し,新しい会社を設立すること,全出資者に対し,FAMで出金し,被告サンエースに入金したとの手続を行い,被告サンエースの契約書,重要事項説明書,出金預り書などを交付するように指示され,全従業員はそれに従い,出資者から同意の上申書を受領した。その後,被告Y2は,被告Y5や被告Y1らに被告サンエースの代表者に就任することを求められた。被告Y2は,代表者の責任を考え一度は断ったが,FAMの解散により,同社の従業員の生活に及ぶ負担や被告Y2が最年長であることを考慮し,代表者は2名,期間は暫定的との約束で就任を承諾し,その後退任した。以上のとおり,被告Y2は,被告サンエースの名義上の代表社員(業務執行社員)になったにすぎない。また,被告Y2には,故意又は重大な過失による任務懈怠はない。
(被告Y3の主張)
争う。なお,被告Y3が平成26年6月23日から同年7月15日まで被告サンエースの代表者であった事情は,概要次のとおりである。被告Y3は,高校卒業後に土木のアルバイトをした後,23歳からは寿司職人として働き始めた。被告Y3は,平成24年頃に被告Y1と飲み屋で知り合い,1年程度,何度か飲食をする仲であったが,平成26年2月頃に被告Y1と再会した際に,被告Y1からインドネシアからの輸入雑貨を扱う仕事を一緒にやらないかと誘われて,これに応じた。被告Y1から,自分では,会社設立に必要な書類がそろうのが遅くなると言われて,被告Y1の代わりに被告Y3が代表になることになった。会社設立に必要な印鑑などは,被告Y1が用意し,手続も被告Y1が行った。被告Y3は,被告Y1から通帳を作るように言われ,通帳に200万円が振り込まれるが,それはすぐに返すようにと指示されたので,それに従った。被告Y3は,会社(被告サンエース)の名前がどのように決まったかも知らず,事務所と称される場所にも行ったことがない。被告サンエースが,原告が主張するような業務(投資関係業務)を行っていたことも知らなかった。なお,被告サンエース設立後に,被告Y3は,務めていた父親の経営する寿司店での仕事に専念する必要が生じたことから,被告Y1に事情を話して,被告サンエースの仕事を辞めることを伝え,被告Y1が作成した平成26年7月15日付けの退任届に署名,押印して印鑑証明書も手渡した。被告Y3は,被告サンエースの設立に当たって,資金を提供したことも,対価(報酬)を得たこともない。
原告が被告サンエースに出資したというのは,被告Y3が被告サンエースの代表者を退いた後のものである。また,被告サンエースが輸入雑貨を扱うことを業とするものと考えていた被告Y3にとって,被告サンエースによる投資業務を監督するのは不可能であった。以上のとおりであるから,被告Y3には重大な過失による任務懈怠はなく,また,(仮に,被告Y3に任務懈怠があったとしても,それと)被告サンエースの設立目的以外の業務から生じた原告の損害との間には,相当因果関係がないというべきである。
(4)  損害論
(原告の主張)
ア 原告は,被告らの(共同)不法行為(又は任務懈怠)により,出資金名目で300万円,手数料名目で6万3000円の支払をさせられており,同額の損害を被った。
イ 原告は,被告らの(共同)不法行為(又は任務懈怠)により,精神的損害を被り,それを慰謝するための金員は30万円が相当である。
ウ 原告は,本件を解決するために弁護士に委任して本訴を提起することを余儀なくされており,弁護士費用相当額の損害は30万円である。
エ なお,原告は,配当金名目で,数回金銭を受け取ったが,かかる金員の支払は,違法な出資状態を継続させ,また,新たな出資をさせるという不法行為のための手段に他ならないから,本件の損害賠償請求において損益相殺的な調整の対象とすべきでない。
(被告らの主張)
争う。
第3  判断
1  FAM及び被告サンエースについて
(1)  前記前提事実に加え,証拠(甲1から6まで,13,乙ハ1,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア FAMは,その代表取締役である被告Y5及び取締役であるBを中心に運営され,匿名組合方式によるファンドを組成したとして,被告Y2や被告Y4らの営業担当者を通じて,1口100万円,(1口当たりの)手数料を2万1000円で出資を募っていた。
イ FAMの全従業員は,被告Y5及びBから,FAMにおいて匿名組合方式のファンドが継続できなくなったとして,新たに,合同会社を設立して,そこで今までと同じような形で資産運用をするとの説明を受けた。なお,FAMは,平成26年10月に,無登録でファンドの自己私募及び自己運用を行っているなどとして,関東財務局から直ちに当該行為を取り止めるように求める警告書が発せられており,被告サンエースの設立は,監督官庁によるこのような警告が出されるのを見越して行われたものと推認される。
ウ 被告サンエースは,平成26年6月に設立されたが,その設立後も,被告Y1が代表者となるまでは,被告Y5らが中心となり,FAMと同様の業務を行った。そして,FAMの営業担当者は,被告サンエースの設立後,被告Y5らの指示により,FAMの全顧客に連絡して,FAMへの出資を被告サンエースへの出資に切り替える手続をした。
(2)  以上によれば,被告サンエースは,監督官庁からの警告書を受けて営業ができなくなったFAMに代わって,その顧客の資産を引き継いで,その業務を継続するために設立された会社であるといえる。
2  原告が出資したものを含むFAMや被告サンエースが取り扱っていたとされるファンドの実態について
(1)  前記前提事実に加え,証拠(甲3から6まで,25,乙ハ1,原告本人,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,被告Y4から,FAMによる匿名組合方式によるファンドへの出資の勧誘を受け,その際に,FAMの会社案内(甲3),「匿名組合契約に基づく権利(出資対象事業持分)の取得に係るお取引に関する重要事項説明書」と題する書面(甲4,5),「出資対象事業持分の取得に係るお取引に関する事項(業府令第87条関連)」と題する書面(甲6)の交付を受けた。
イ もっとも,甲3の会社案内では,ファンドの紹介として,「元本確保型」との記載や「運用実績平均 年利8%」などといった記載がみられるが,他方,甲4,5の重要事項説明書には,元本の補填や収益の補足がない旨の記載がある。また,被告Y2は,FAMへの出資の勧誘に当たっては,顧客に対して,甲6の書面の内容を説明した旨供述するが,他方で,同書面は,被告Y5が作成したものであり,被告Y2はその内容をよく理解していない旨の供述もしている。さらに,甲6に記載されている顧客がFAMに支払うべき申込手数料,管理報酬及び成功報酬を考慮すると,FAMにおいて相当な運用実績を上げない限り,顧客が利益を得ることは困難であるにもかかわらず,被告Y2は,資金の運用は専ら被告Y5及びBが行っていたとして,具体的な運用実態を説明できない旨の供述をしている。
(2)  以上のとおり,FAMが出資を募っていたファンドについては,その営業担当者である被告Y2ですら,その具体的内容を説明できず,加えて,FAMが関東財務局から,匿名組合方式のファンドについて警告書を出されていることや被告Y5や被告Y1が本件の訴訟の審理期日に欠席し続けて,上記ファンドの内容について何ら具体的な説明をしないことに照らすと,当該ファンドは,FAM及びこれを引き継いだ被告サンエースにおいて,顧客から集めた資金を全く運用していなかったか,少なくとも,顧客に対して配布した資料に記載されているような運用とは全くかけ離れた程度のことしか行われていないというファンドとしての実態がないものであったと推認するのが相当である。そして,原告が出資したとされるファンドも,甲4から6までに記載された運用があったといえるか疑わしく,やはり,上述したものと同様に実態のないものであったと推認される。
3  被告Y4の責任の有無について
上記2で認定したとおり,原告が出資したファンドは実態がなかったものと推認されるところ,仮に,被告Y4において,そのことを明確に認識までしていなかったとしても,具体的なファンドの内容を理解していたとは認められず,そのようなファンドへの出資を顧客に勧めたことについて,少なくとも説明義務違反が認められ,原告に対する不法行為責任を免れない。
4  被告サンエース,被告Y5及び被告Y1の責任の有無について
前記1,2で認定したところによれば,被告Y5は,FAMの代表者として,また,(被告Y1が代表者になるまでは)被告サンエースの実質的運営者の1人として,実態がないファンドについて顧客から出資を募っていたといえるから,不法行為責任(後述する被告サンエース,被告Y1との共同不法行為責任)を免れない。また,被告サンエースも,被告Y5らがFAMにおいて行っていた違法な業務をそのまま継続するために設立された受け皿会社にすぎず,現に,原告を含む顧客からの出資についてもFAMから引き継いで,違法な業務を継続した結果,最終的にそれらの顧客から集めた資金を返還できない状態にしており,被告Y3の供述及び弁論の全趣旨によれば,被告Y1も,そのような事情を知りつつ被告サンエースの設立に協力し,後に,その業務執行役員兼代表役員となった者であると認められるから,(被告Y5との)共同不法行為責任を免れない。なお,被告サンエースは,原告との間で和解が成立している旨主張するが,甲20,21は,被告サンエースが,単に原告宛てに送付した文書にすぎず,これをもって,上記和解が成立したと認めることはできず,このほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
5  被告Y2の責任の有無について
確かに,被告Y2は,原告に対して直接勧誘行為を行っておらず,原告に対しては,被告Y4から担当者が代わった旨を電話連絡したにすぎない(原告本人,被告Y2本人)。また,前記1の認定事実及び被告Y2本人の供述によれば,FAM及び被告サンエースは,被告Y5(被告サンエースについては,被告Y1が代表者になった後は,被告Y1)が中心になって運営されており,FAM及び被告サンエースの従業員であった被告Y2は,被告Y5に依頼されて,被告Y1が業務執行役員兼代表役員になるまでのつなぎとして,被告サンエースの設立に際して業務執行役員兼代表役員となったものと認められる。
しかしながら,被告Y2は,かつて証券会社に長く勤務した経歴を有していたこと(被告Y2本人)からすれば,自らが営業担当者として出資を勧誘するファンドの内容を知っていてしかるべきところ,その具体的な内容を把握しないまま顧客に出資を勧誘していたという同被告の供述は不自然であり,被告Y2は,上記ファンドが実態のないものであることを認識していたというべきである。そうすると,被告Y2は,被告サンエースが被告Y5のFAMにおける違法な営業を継続するための受け皿会社であることを認識しつつ,その業務執行役員兼代表役員となったものと認められる以上,被告サンエースによる違法な業務の継続を防止せず,その結果,FAMから引き継いだ(原告を含む)顧客の資産を返還できない事態にしたことにつき少なくとも重過失による任務懈怠があるといえるから,会社法597条の責任を免れない(なお,前記前提事実(3)のとおり,確かに,被告Y2は,原告がFAMから被告サンエースに出資を切り替える前である平成26年7月25日に,被告サンエースの代表社員を退任するとともに被告サンエースから退社した旨の登記がされたが,これは,原告の訴訟代理人弁護士が被告サンエースに宛てて損害賠償請求をする旨の内容証明郵便(甲22の1・2及び23の1・2)を送付した後である平成28年11月1日に更正登記がされたものであり,もともとは,平成26年10月1日に退任及び退社した旨の登記がされていたことからすれば,上記更正後の登記の記載をもって,直ちに,平成26年7月中に被告Y2が被告サンエースの代表社員を退任するとともに被告サンエースから退社したと認めることはできず,その他に,これを認めるに足りる的確な証拠はない。)。
6  被告Y3の責任の有無について
確かに,前記前提事実(3)のとおり,被告Y3も,被告サンエースの設立時に,その業務執行役員兼代表役員として登記されていた。
しかしながら,被告Y3は,寿司職人であり,飲み仲間であった被告Y1から雑貨の輸入,販売の仕事をしようと誘われるなどして,被告サンエースの設立時に業務執行役員兼代表役員としての名義を貸したにすぎず(被告Y3本人),同被告がFAMはもとより被告サンエースの業務に関与していたと認めるに足りる証拠がないこと,被告Y3がFAMの存在やその業務内容を認識していたと認めるに足りる証拠がないこと,(被告Y3は,被告サンエースが投資関係の業務をする会社であるとは知らなかった旨供述しているところ,)被告サンエースの商業登記簿には,同被告が投資関係の業務をすることは全く記載されておらず(甲1),被告Y3において被告サンエースが投資関係の業務をする会社であると認識していたと認めるに足りる証拠がないこと,被告Y3が名義を貸したことについて対価を受け取ったり,被告サンエースから業務執行役員兼代表役員であることに関して報酬等を受け取っていたことを認めるに足りる証拠がないこと,被告Y3が被告サンエースの業務執行役員兼代表役員として登記されていた期間も(更正登記がされるまえの退任・退社日を前提としても)約3箇月程度にすぎないことの各事情に鑑みれば,被告Y3について,原告が主張する(共同)不法行為責任や会社法597条の責任のいずれも認めることができないというべきである。
7  原告の損害について
原告は,被告サンエース,被告Y1,被告Y4及び被告Y5の(共同)不法行為及び被告Y2の任務懈怠により,出資金相当額の300万円及び手数料相当額6万3000円の損害を被ったと認められる(なお,原告は配当名目の金員を受け取っていることを自認しているが,(既に判示したとおり)その出資したとされるファンドが実態のないものであったといえる以上,上記金員は,(違法なものへの)出資を継続させ又は新たな出資をさせるために交付されたものといえるから,損益相殺的な調整をしない。)。なお,原告は,慰謝料の請求もするが,本件において,財産的損害の回復を超えて,慰謝料まで認める必要性はない。そして,上記の認容額等に照らせば,弁護士費用相当額の損害は,原告の主張するとおり30万円と認めるのが相当である。
第4  結論
以上によれば,原告の主位的請求は,被告サンエース,被告Y1,被告Y2,被告Y4及び被告Y5に対して,336万3000円及び及びうち102万1000円に対する平成24年8月22日から,うち102万1000円に対する平成25年3月21日から,うち102万1000円に対する平成25年7月31日から,うち30万円に対する本件の訴状送達の日の翌日(被告サンエースにつき平成29年3月6日,被告Y1につき同月28日,被告Y2につき同月11日,被告Y4につき平成同月4日,被告Y5につき同月26日)からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある(なお,被告サンエースに対する主位的請求の認容額が同被告に対する予備的請求の請求額を上回っているので,予備的請求については判断しない。)。よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第44部
(裁判官 飛澤知行)

 

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裁判年月日  平成30年 9月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)8865号
事件名  損害賠償等請求事件
文献番号  2018WLJPCA09288003

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年 9月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)8865号
事件名  損害賠償等請求事件
文献番号  2018WLJPCA09288003

埼玉県越谷市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 山室匡史
同 岡田照久
福岡市〈以下省略〉
被告 Y株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 五十嵐孝明
同 金秀香
同訴訟復代理人弁護士 榎本哲也

 

 

主文

1  被告は,原告に対して,1331万2000円及びこれに対する平成28年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の請求を棄却する。
3  訴訟費用は,これを8分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。
4  この判決第1項は,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告は,原告に対して,1億0209万1759円及びこれに対する平成28年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告は,原告に対して,10万2200円及びこれに対する平成28年11月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
1  事案の概要
本件は,原告が,被告に対して,被告代表者から被告の取締役兼従業員に勧誘され,これに応じて前職のa株式会社(以下「a社」という。)を退職したところ,被告が原告を採用せず,原告に損害が発生し,これが被告の信義則上の注意義務違反によるものであると主張して,a社に勤務していたならば得られたはずの生涯賃金とa社の退職金減額相当分と弁護士費用の合計1億0209万1759円及び遅延損害金の支払を求め(請求の趣旨1項関係),原告が被告の営業活動のために交通費等10万2200円を立て替えて支出したと主張して同額及び遅延損害金の支払を求める(請求の趣旨2項関係)事案である。
2  前提となる事実(争いのない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)  原告は,a社の従業員であった(争いのない事実)。
被告は,紳士服・婦人服の製造並びに販売,情報提供サービス業務等を目的とする会社であり,株式上場を目指している(弁論の全趣旨)。
(2)  原告は,平成27年6月10日,被告の第三者割当による新株発行につき株式120株を引き受けた(甲1)。
(3)  原告は,平成28年2月末にa社を退職した(争いのない事実)。
(4)  被告代表者は,原告に対して,ソーシャルネットワーキングサービスのLINEのメール(以下「LINE」という。)を通じて,次の連絡をした。
① 平成28年2月23日7時21分には「前回,話したb社さんとの雇用の契約について,3/25日にXさんと打ち合わせをしたいのですが,25日の18時ぐらいからあいませんか?」
② 同年7月28日9時45分には「常に相談しながら進めるので,また,Xさんは,社内で取締役扱いにしてますので,量産納品からは,手を引いてください。次に何か?有ったら,XさんとBさんの責任問題になる。僕とBさんでやります。誰も僕の責任問題にはしない。すると会社が止まるから,僕は責任を取らされない。Bさんも取締役扱いでは無いので,よっぽどの事がない限り,資任は取らされない。」
③ 同日9時49分には「7月から,9月までの暫定の取締役がある。C,D,A,の多数決で決まる。僕の一存で会社を動かせない仕組みが入ってます。」
④ 同日9時52分には「9月からの取締役にXさんに入ってもらう。6名から7名・A,C,E,X,F,が9月から取締役内定者です。XさんとEさんは社外取締役です。」
⑤ 同年8月4日9時04分には「7/11にCさんが会長。一か月早く,8/1日から管理部にFさんが入って,9月に向けて組織作りに入りました。管理部長。Gさんは社外コンサルにXさんはiot事業部の部長で取締役会のメンバーです。」
⑥ 同月31日7時02分には「僕は営業なしで,サイネージ=情報端末が売れる仕組みを作ります。Xさんは,今までの経験で営業でサイネージを売ってください。」(争いのない事実,甲11)。
(5)  原告は,平成28年3月に,株式会社b(以下「b社」という。)に入社し,被告は,b社との間で顧問契約書(甲2)及び覚書(甲3)を作成して,顧問契約を締結した(争いのない事実)。
(6)  被告は,平成28年10月6日,b社に対して顧問契約を解除する旨の意思を表示した(争いのない事実)。
(7)  原告は,平成29年2月にb社を退職した(争いのない事実)。
3  争点
(1)  原告と被告との間で,平成27年6月頃,原告を被告の取締役兼従業員として勤務させる合意(以下「本件合意」という。)が成立したか否か
(2)  本件合意違反による被告の責任の有無
(3)  本件合意違反による原告の損害額
(4)  立替払請求の可否
4  当事者の主張
(1)  争点(1)(原告と被告との間で,平成27年6月頃,原告を被告の取締役兼従業員として勤務させる本件合意が成立したか否か)について
ア 原告
(ア) 本件合意の成立と原告の退職
原告は,平成11年10月18日にa社に入社し,平成27年に,その営業部長の職にあったところ,a社の従業員と被告の従業員から被告代表者を紹介された。
被告代表者は,同年3月から4月頃から,原告に対して直接に面談するという方法で,勧誘を始め,a社において原告の働き振りが評価されていないこと,被告が平成28年12月に株式上場を目指して組織を拡大していること,原告を取締役兼従業員として迎え入れたいことを伝えて,被告に入社するよう勧誘した。取締役部分については委任契約,従業員部分については雇用契約の勧誘である。
原告が,被告代表者に対して,a社での年収が約840万円であることを伝えたところ,被告代表者は年収1000万円の支払を提示し,原告は,平成27年5月頃,被告の申出を受諾し,遅くとも同年6月の時点で,原告と被告との間で,原告を被告の取締役兼務従業員として年収1000万円で雇用することの本件合意が成立した。
なお,被告は,当時,第三者割当の方法で新株を発行しようとしており,a社に株式の引受けを申し込み,a社はこれに応じなかったが,原告は,被告の業務内容を聞き,将来被告の取締役に就任することもあり,自分の力で株式上場に携われるのであればと思い,株式120株を引き受けた。
原告は,平成27年11月下旬頃,a社に対して,平成28年2月末をもって退職する旨の意思を表示し,同月末にa社を退職した。
(イ) 被告の顧問契約
被告代表者は,平成28年2月末頃,原告に対して,同業を営むa社において営業部長であった原告を被告で直ちに直接雇用することはコンプライアンス上問題があると言い出し,当初は,原告と被告との間の直接の顧問契約(甲17)の締結が提示された。これに対して,原告が社会保険の加入が必要であることを伝え,原告と被告代表者との協議の結果,原告が同年3月から同年6月までb社に在籍し,被告がb社と顧問契約を締結し,同年7月から原告が被告に取締役兼従業員として勤務することになり,被告とb社との間で顧問契約書(甲2)及び覚書(甲3)が作成された。
また,実態としても原告は被告の従業員として活動しており,平成28年5月2日付の被告が株式会社c(現在の株式会社c1,以下「c社」という。)に宛てて発行した2通の見積書には,被告の担当者として原告の印鑑がおされ,管理部の押印には「H」の押印があり,c社との取引において,原告が被告の担当者であったことから,このような記載になった。また,被告は,韓国の会社との取引に際して,通訳人であるBと原告の2名しか派遣していない。自社の取引において他社の人物しか派遣しないことはあり得ない。
なお,原告の給料については,被告がb社に顧問料名目で支払い,b社がこれを原告に支払うこととなり,被告は,b社在籍中の原告の社会保険料も支払おうとしていた。被告代表者は,b社との顧問契約を締結する際の報酬を月額60万円と決めるとき,原告に対して,年収960万円とするが,月例の給料は60万円に据え置き,平成28年9月と平成29年3月にそれぞれ月例給料に60万円を上乗せして支払うと約束していた。これは,平成27年3月ないし4月頃に被告代表者が原告に対して年収1000万円という条件を示して勧誘し,同年5月後半頃に原告がこれを受諾したという前提があり,顧問契約締結時にそれに近い水準を確保するという趣旨から定められた支払方である。
(ウ) 本件合意が存在したことを示すメールのやり取り
被告代表者は,原告に対して,平成28年7月に入っても,原告を取締役に就任させないことのあいまいな説明を繰り返していたものの,LINEにより,同月3日午前7時17分には「会社のNo.2として,会社全体を見て,会社全体の為に行動してください。」と,同月28日9時45分には「常に相談しながら進めるので,また,Xさんは,社内で取締役扱いにしてますので,量産納品からは,手を引いてください。」と,同日9時52分には「9月からの取締役にXさんに入ってもらう。6名から7名・A,C,E,X,F,が9月から取締役内定者です。XさんとEさんは社外取締役です。」と,同年8月4日9時04分には「7/11にCさんが会長。一か月早く,8/1日から管理部にFさんが入って,9月に向けて組織作りに入りました。管理部長。Gさんは社外コンサルにXさんはiot事業部の部長で取締役会のメンバーです。」と,同月31日7時02分には「僕は営業なしで,サイネージ=情報端末が売れる仕組みを作ります。Xさんは,今までの経験で営業でサイネージを売ってください。」と連絡するなどしており,同年7月28日の時点で原告は被告の取締役として社内で扱い,同年8月31日の時点でも同年9月以降被告のiot事業部長の従業員として,被告の営業活動を実際に行うことが予定されており,本件合意の存在が裏付けられる。被告が主張するような外部のコンサルタントという位置付けではあり得ない。
なお,役員就任の条件交渉や取締役の就任承諾の意思表示は面談時に行い,LINEでは行わない。
(エ) 被告代表者の変節
被告代表者は,遅くとも平成28年7月28日頃には原告を被告の社内的には取締役として扱っていたし,同年8月4日頃には原告を被告の9月以降には対外的にも取締役に就任する内定者であるかのように扱っていたところ,1か月と経たないうちに,何らの正当な理由ないしは,正当化する具体的な出来事なしに,態度を翻して,原告を取締役に就任させなかったのであり,一方的に約束を反故にし態度を変節させた。
なお,原告は,同年9月6日になって,被告代表者が変節して,約束を反故にしたときに,口頭でその場で抗議を申し入れ,被告に対して同年10月17日付け内容証明郵便(甲5の1)を送付している。
(オ) 本件合意違反
被告は,平成28年10月6日,b社に対して顧問契約を解除する旨の意思を表示し,これによって,原告と被告との間で交わされた,原告を被告の取締役兼務従業員として雇用するという約定は実現しないことが確定した。
イ 被告
(ア) 本件合意は存在しない。原告提出に係る原告と被告代表者との間のLINEのやり取りを見ても,原告がa社に在籍していた平成28年2月までの間に本件合意を裏付ける発言,示唆はないし,同年6月以降も,被告代表者に対する原告による抗議等の発言が一切ない。
被告代表者は,原告から原告がa社を退社する話を聞いてはいたが,被告代表者から被告への就職を勧誘したことは一度もない。a社を介したc社への1200台の納品は,平成28年6月頃より開始され同年12月に終了したが,同年9月の段階における被告の最大の取引先はa社であり,当該案件は,被告が小企業であることからクレジットリスクを回避することを理由にc社が被告との直接取引を拒否し,a社が間に入ることを条件に成約したものであるため,a社との関係が悪化すれば,3億3000万円の商談が破談になるおそれが非常に高かった。このような危険を生じさせるような原告の引き抜き行為を被告が行うと,a社と無用の紛争を招きかねず,3億3000万円の売上げを失う危険な状態を招くことになるから,被告がこれを行うはずがない。
(イ) また,被告代表者は,原告のb社への入社に関しても一切関わっていない。b社は,空調の工事以外の業態拡大のために,原告を迎え入れ,サイネージ販売・設置事業部門を立ち上げ,被告の商品の販売代理を行うことを企図し,原告もまた被告の事業に期待をしていたことから,a社を退社後も被告事業に関与したいと考え,原告とb社の思惑が一致し,原告がb社に入社し,b社がサイネージ販売・設置事業部門を立ち上げて,被告と顧問契約を締結し,原告がb社の被告担当者として,被告商品の製造や販売代理業務を行うこととなった。
(ウ) 被告代表者は,3億3000万円のc社事業が成功したことから,共に営業に回っていた原告に対して,ゆくゆくは被告の後継者になり得る人材ではないかとの期待を有しており,将来的には被告の「取締役」や「社外取締役」に取り立てる可能性もあることから,被告の取締役同様の気概を持って仕事をしてほしいと思い,「取締役」や「社外取締役」との言葉を使用したこともあったにすぎない。
(エ) 被告代表者は,当初より,取締役就任には取締役会の承認が必要であること,取締役就任に納得を得られるような業績が必要であること,売上げを上げるために,後継者のつもりで頑張ってほしいと言っていた。
しかし,原告は,b社において被告商品の売上げがなく,経費の不正利用を行っており,また,顧問契約上の義務の履行(被告取締役会等に招集させたにもかかわらず出席しなかった。顧問契約第4条)も一切行わなかった。
被告は,b社が何ら成果を上げることができず,また,将来的にも成果が上がらない可能性が高かったため,平成28年9月,b社との顧問契約を解除した。
なお,原告は,平成29年2月までb社に勤めていた。
(オ) 被告は,b社に対し,顧問料を支払っていたが,これは原告の給料としてではなく,b社の販売業務に対して支払われていたものである。
原告は,被告とb社の平成28年9月の顧問契約終了後,平成29年2月頃まで勤務を続けていたが,b社の空調設備事業においても何らの実績も上げられなかったため,平成29年2月をもって解雇されたものである。
(2)  争点(2)(本件合意違反による被告の責任の有無)について
ア 原告
(ア) 契約準備段階に入ったものは,一般市民間における関係とは異なり,信義則の支配する緊密な関係に立つのであるから,のちに契約が締結されたか否かを関わらず,相互に相手方の人格・財産を害しない信義則上の注意義務を負い,それに違反して相手方に損害をおよぼしたときには,契約締結に至らない場合でも,当該契約の実現を目的とする準備行為当事者間にすでに生じている契約類似の信頼関係に基づく信義則上の責任として,相手方が契約が有効に成立するものと信じたことによって蒙った損害の損害賠償を認めるのが相当である(最高裁判所昭和59年9月18日判決)。
(イ) 本件においても,遅くとも平成27年6月の時点で,原告と被告との間で,原告を被告の取締役兼務従業員として年収1000万円で雇用することが内定し,原告は平成28年2月末をもって前職のa社を退職しているから,その後被告が原告を取締役兼務従業員として雇用しないのであれば,原告は,a社を退職することによって得られなくなった収入相当額や退職金相当額の損害を蒙ることになる。
したがって,被告の行為は,原告の人格・財産を害しないという信義則上の注意義務に反して原告の財産を侵害したものであり,不法行為を構成する。
(ウ) なお,原告の請求は,内定の不当破棄に基づく請求ではない。
イ 被告
原告の主張は本件合意が存在することを前提としており,本件ではその前提を欠くものである。また,契約締結上の過失責任が認められるためには,①契約締結(交渉)の成熟度が高いこと,及び②信義則違反と評価される帰責性が被告に認められることが必要であるところ,本件では,契約締結の成熟度がまったくないから,被告は契約締結上の過失責任を負わない。
すなわち,被告の取締役就任に関しては,原告の承諾は一切なく,また,取締役就任に伴う報酬等についての交渉についても一切なされておらず,立証もなされていないし,LINEのやり取りにおいても,取締役ないし社外取締役としての委任契約の内容は全く議論されていない。
そのうえ,被告代表者は平成28年9月末頃にも原告への期待を維持し,原告を鼓舞している一方で,原告から被告代表者への返信はほとんどなくなり,原告が被告代表者からのLINEを無視し,何らの対応も行わず,被告代表者との間での交渉を打ち切っているから,被告及び被告代表者に信義則違反もない。
原告と被告代表者は,平成28年1月19日,被告の上場政策担当者であるG(以下「G」という。)を交えて会談し,a社との関係から,原告が直ちに被告に取締役等として就任,採用されることは不可能であることが確認され,顧問契約をして外部の立場で活動することが合意され,原告が被告に取締役等として就任,採用されるためには,①原告が被告に入社することをa社が了承するような状況を創り上げること,又は②被告とa社との取引が中止,解消されるような状況になってもそれを補うに足りる営業実績と能力・意欲を原告が示すことが条件であった。しかるに,原告は,同日,Gが原告の被告への入社等について反対意見を述べたことについて不満ないし恨みを持ち,Gを排除することを強く被告代表者に働きかけ,被告代表者もその方向で検討したが,Gは,被告が念願としていた上場に不可欠な人材であったため,叶わず,この点に関する不満から,原告は,最終的に被告が要請した社外取締役としての就任を拒絶した。
顧問契約締結後(あるいはa社退社後)の原告の動きと被告との関係性の経過を見ると,当初はc社の成約実績があり,原告に対する被告代表者の評価が極めて高かったが,その後平成28年7月に至り,c社案件のクレーム等もあって徐々に評価が低下し,他方で原告自身も,Gの処遇その他原告が当初期待していた体制等と異なることとなり,消極的になり,平成28年9月以降は両者の信頼関係は失われ,原告の怠業も発覚し,解除となったもので,被告が損害賠償責任を負う謂れはない。
(3)  争点(3)(本件合意違反による原告の損害額)について
ア 原告
(ア) 給料相当額の損害
原告は,被告代表者の言動を信頼してa社を退職したのであるから,信頼利益の損害として以下の損害がある。
原告がa社に勤務していた最終年である平成27年1月1日から同年12月31日までの給与収入は815万1000円である。原告は,昭和44年○月○日生まれであり,a社退職日である平成28年2月末時点で46歳11か月であり,定年退職(a社では満65歳に達する月)まで18年1か月を残していた。
原告が蒙った給料相当額の損害は,815万1000円に,11.690(就労可能年数18年のライプニッツ係数)を乗じた9528万5190円である。被告は,原告が被告のために獲得してきた取引先に対して原告と取引しないように働きかけるなど,原告の再就職を作為的に妨害しているため,原告の労働能力喪失率を100パーセントとして計算するのが相当である。
仮に,原告の労働能力喪失率を100パーセントと見る期間を再就職に必要となる社会相当な期間(たとえば6か月程度)と限定するとしても,それ以降の期間についての逸失利益も考慮しなければならない。まず,再就職に必要となる社会的相当期間6か月間については,a社での収入の全額407万5500円(=815万1000円÷2)が,その後は,高校卒業が最終学歴である原告が賃金センサス474万2300円(平成28年度)と815万1000円との差額340万8700円を永続的に失ったのであるから,これを815万1000円で除した42パーセントが原告の再就職までの相当期間経過後の労働能力喪失率であり,これに基づくと3859万5637円が7か月目以降の原告の逸失利益であり,これらを考慮すると原告の逸失利益は4467万1137円を下回ることはない。
(イ) 退職金減額分相当額の損害
a社では,勤続年数(上限は55歳)に基本給を乗じて2で除した金額を退職金として支給しており,原告の平成27年12月時点での基本給は43万5000円,定年退職までの勤続年数は24年4か月であるから,定年退職時の退職金見込額は531万0480円である。しかし,実際に支給された退職金は,16年4か月分である355万2500円であるから,原告は差額175万7980円の損害を蒙った。
(ウ) 損益控除
被告は,b社を介して,原告に対して,顧問料名目で,平成28年4月1日,同月28日,同年5月31日,同年6月30日,同年7月29日,同年8月31日及び同年9月30日にそれぞれ60万円を支払っている。この合計420万円は,原告がa社を退職しなければ得られなかったものであるから,損益控除をするのが相当である。
(エ) 弁護士費用相当額の損害
原告が蒙った弁護士費用相当額の損害額は,(ア)及び(イ)を合算し,(ウ)を控除した金額の1割に相当する928万1069円である。
イ 被告
争う。仮に,本件において,被告が契約締結上の過失責任を負うとしても,被告が賠償する損害は信頼利益にとどまる。
なお,原告が主張する180万円は被告会社が原告の年収960万円を支払う約束をしたものではなく,原告への成功報酬のようなものとして話をしていた。
(4)  争点(4)(立替払請求の可否)について
ア 原告
(ア) 原告と被告は,原告が被告の営業活動のために支出した交通費を翌月原告に支払う旨合意していた。これは,平成28年3月1日付覚書第1項の「顧問契約第2条第1項の『乙が,その委託業務に要した費用』については,乙の旅費規程により認められた費用とする。」と定められているところから明らかであり,原告が支出した交通費実費を,b社を介して被告が支払う合意が存在する。
(イ) 原告は,平成28年8月28日の福岡出張の際に,航空機を利用し,航空券代8万7200円とホテル宿泊料1万5000円の合計10万2200円支払った。これらの領収証は残っていない。b社の国内出張規則によれば,原告のような部長の区分の人物が国内出張をした場合の宿泊費は1万5000円とされ,飛行機路を利用した場合は普通席の料金相当額が支給されていた。
(ウ) 原告は,同年9月13日に同月8月分の経費精算書を提出し,同年10月17日には同日付内容証明郵便にて被告に対して支払を催告したが,被告はこれを支払わない。
(エ) よって,原告は,被告に対して,10万2200円及びこれに対する催告後相当期間を経過した同年11月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告
争う。原告主張に係る合意はないし,仮に,原告の主張どおりの合意があったとしても,ホテル宿泊料は交通費には含まれず,請求根拠はない。
なお,被告とb社とは,b社が被告の委託業務に要した費用は一切被告が負担することを合意している(甲2)。
第3  当裁判所の判断
1  前記前提となる事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  a社は,シーリング印刷,スクリーン印刷などの特殊印刷関係,特殊機器の製造,店舗向け販促用品・照明機材などの販売等を行っており,古くから,北海道を拠点とするコンビニエンスストアチェーン店○○を運営するc社と取引をしていた。
原告は,平成11年10月18日にa社に中途採用として入社し,平成27年当時は同社の市場開発部部長の職にあり,c社に対する営業を担当しており,c社からサイネージの液晶ユニット付き自動販売機の試作を依頼されていた。(甲29,乙10ないし13,原告本人)
(2)  被告は,小型,大型ディスプレイを取り入れた電磁看板事業・デバイスの開発を主な事業内容とするベンチャー企業であり,株式上場を目指しているところ,平成27年4月1日付けでa社と代理店取引に関する取引基本契約を締結し,a社と共同して,c社から試作の依頼を受けたサイネージの液晶ユニット付き自動販売機に係る事業を行うことになり,被告代表者と原告が知り合い,試作の打合せをするようになった。(甲29,乙7,22,原告本人,被告代表者)
(3)  原告と被告代表者は,打合せを重ねるにつれ,原告がa社の中で上司との見解の相違があることや被告代表者が営業能力のある人材を求めていることを相互に理解するようになり,被告代表者は,平成27年4月頃,原告を有為の人材と考え,原告に対して,ベンチャー企業である被告が上場を目指しているので,a社を退職して,被告に転職して一緒に仕事をすることを勧誘した。原告は,原告自身の生活の安定を考え,一旦は,この誘いを断った。
また,被告代表者は,その頃,原告に対して,被告の第三者割当による新株発行につき,被告株式の引受けを勧誘した。
被告代表者は,平成27年5月頃,原告に対して,年収1000万円で被告の取締役兼営業部長に就任するという条件で,ふたたび被告への転職を勧誘し,原告は,何回かの勧誘の後,遅くとも同年6月頃,この勧誘に応じることを決め,本件合意が成立した。原告は,退職までの間は,営業部長としての業務が円滑に引き継がれるよう準備しつつ,自動販売機ユニットの完成の案件も進めることとした。
一方,被告に転職することを決めた原告は,同月10日,被告の第三者割当による新株発行につき,被告株式の引受けを申し出て,1株5万円を120株合計600万円を出資した。募集株式は普通株式1470株であり,これにより増加する資本金の額3675万円を予定していた。(前記前提事実(2),甲1,29,原告本人)
(4)  c社,a社及び被告は,平成27年7月1日,秘密保持契約を締結し,同年11月2日には,自動販売機ユニットに関する覚書を締結した(乙16,17,22,被告代表者)。
(5)  原告と被告代表者は,c社,a社及び被告の平成27年7月1日の秘密保持契約の締結以降,メールのほか,LINEを通じても頻繁に打合せをし,サイネージの液晶ユニット付き自動販売機の試作や営業について連絡を取り,共に北海道に頻繁に行き,原告がa社で担当した客先を被告代表者が知ることができるようにもした。(甲11,乙22,原告代表者)
(6)  原告は,平成27年11月下旬頃,a社に対し,平成28年2月末をもって一身上の都合により退職する意思を伝え,平成27年12月14日に退職届を提出した(甲29,原告本人)。
(7)  b社は,空調の設置,補修等を業とする会社であるが,同社代表取締役I(以下「I」という。)は,原告のa社以前の勤務先企業と関係があったことから原告と旧知の仲であり,原告は,Iに,被告の事業の説明をして,被告代表者を紹介をした。また,原告は,平成27年12月5日12時27分,被告代表者に対し,「こちらもI+1名と私で来週は北海道なので…社長の戦略に乗せるように動きます」と,b社が被告の事業に協力すること及び原告がIと行動を共にしていることを連絡した。
Iは,b社が被告からサイネージの液晶ユニット付き自動販売機の取り付け工事の事業を受注するために,被告代表者から被告の株式の譲渡を受け,平成27年12月17日付け「株式譲渡に関する覚書」(乙1)を締結した。同第1条には,I及びb社と被告代表者が,平27年12月より,被告と同社が製造・製作及び運営する商品及びサービス・システム等の設置及びメンテナンス等を関東中心に国内全域を専属的に請け負うことを条件として,被告株式の譲渡を受ける旨の記載がある(甲11,29,乙1,22)。
(8)  a社は,原告に対して,原告の退職に当たり競業避止義務を定める誓約書の提出を求め,原告はこれを被告代表者と相談したところ,被告代表者は,原告に対して,平成28年2月3日9時16分に「そんなややこしい事をしなくても,正々堂々と,このグローバル化の時代に,国際都市東京では,同族会社は生き残れたい(原文ママ〉と判断し辞めます。Y社のAさんとパートナーを組んで日本を変えますと言ってしまえば」と,原告が被告代表者とパートナーを組むことをa社に伝えることを唆す連絡をした。(甲11,29)
(9)  しかし,被告の上場政策担当者であるGは,被告代表者に対して,同業を営むa社において営業部長であり,3年間程度c社の担当者であった原告を,被告がa社の退職後に直ちに直接雇用することはコンプライアンス上問題があり,原告を雇用するとなると,取引先であるa社から違法な引き抜き行為と見られて無用な紛争を招きかねず,c社との締結が見込まれるデジタルサイネージの大量発注の取引が破談になる可能性が高いことを指摘し,被告代表者は原告を取締役として採用することを翻意し,被告代表者,G及び原告は,平成28年1月から同年2月にかけて,原告が社外取締役となる選択肢,原告が顧問として被告に関与する選択肢などを検討した。(甲29,乙22,23,原告本人,被告代表者,弁論の全趣旨)
(10)  Gは,平成28年2月,顧問契約案を作成し,被告の社印を押印した上で,原告に対して提示し,被告代表者は,その後,この顧問契約案の内容を説明した。
同顧問契約案の内容は,被告が原告に対し,同年3月1日から同年8月31日までの6か月の間,被告が,原告に対して,被告のビジネススキーム構築に関する指導及び相談並びに被告の経営方針に関する相談に係る業務を委託し,原告はこれを受託するというものであり,被告は,その報酬として,原告に対し,同年3月から同年6月までの4か月の間,月額60万円を毎月末日支給し,原告が委託業務に要した費用は被告が一切負担するというものであった。原告は,原告の社会保険加入の必要上から,この提案を断った。(甲17,29,原告本人,弁論の全趣旨)
(11)  そこで,原告の提案により,平成28年2月25日頃,原告と被告代表者は,b社が被告と顧問契約を締結し,b社が原告を雇用する形式を採用することに合意し,被告とb社は,平成28年2月29日,顧問契約を締結し,同年3月1日から同年8月31日までの6か月の間,被告が,b社に対して,被告のビジネススキーム構築に関する指導及び相談並びに被告の経営方針に関する相談に係る業務を委託し,b社はこれを受託することを合意した。被告とb社との間では同顧問契約に関する報酬として,被告がb社に対して同年3月から同年6月までの4か月間は月額60万円を支払い,委託業務に関する費用は被告が一切負担することを合意した。b社が被告から受領した報酬月額60万円は,原告がこれを受領し,その額は420万円になった。
同顧問契約の更新等の定めはなく,原告は,一定期間が経過した後は被告に入社することが予定されていた。(甲2,11,29,原告本人,弁論の全趣旨)
(12)  原告は,平成28年2月末にa社を退職し,平成28年3月にb社に正式に入社し,同社のデジタルマーケティング事業部の部長として勤務し,b社の名刺(乙2)も渡されていた。
また,被告は,この頃,原告に対して,被告の「IoT事業本部本部長」の肩書きを付した名刺を交付し,名刺記載の原告に被告から発行されたメールアドレスのドメインには被告の社名が表記されており,原告と被告は,このメールアドレスを相互連絡に用いていた。(前記前提事実(3),甲10,22,24,29,原告本人,乙2)
(13)  a社は,平成28年3月頃から,被告がc社に納入した商品の補償ができる態勢をとるために,c社と被告との間の商流に介入することとなり,被告はa社に見積りを出し,a社がc社と取引をすることとなり,原告は,被告とa社との間の取引に名前を出すことが困難となった。そのため,被告がa社に対して提出する見積書では原告の名前を出してトラブルを発生させることがような配慮がなされていた。(甲11,29,乙3,4,原告本人,弁論の全趣旨)
(14)  原告は,平成28年5月2日,被告管理部に対して,営業上の必要から,被告のc社宛ての窓枠型デジタルサイネージに係る見積書2種類の作成を依頼し,被告管理部は,これに応じて,担当者欄に「X」と原告名を押印し,社印を押した見積書のファイルを原告の被告メールアドレスに送信し,被告代表者もこれを同時にカーボンコピーで受領した。(甲18の1・2,22,23の1・2,24,原告本人)
(15)  被告は,a社との共同事業である自動販売機の試作機の開発に成功し,a社から,平成28年5月11日,窓枠型デジタルサイネージ1200台を代金3億3323万1600円で受注した。
a社と被告との共同事業の総売上げは,平成27年年始から平成28年6月頃までは,自動販売機の試作についての500万円であり,同年5月に発注を受けたものは,被告に対して,同年6月から平成29年3月までの間に3億3000万円の支払があった。被告代表者は,原告に対して,この3億円の売上げが原告の努力によるものであることを説明する旨を約束した。(甲11,20の2,29,乙19,原告本人)
(16)  a社と被告は,平成28年6月30日,売買,外注に関する取引基本契約を締結した(乙15)。
(17)  被告代表者は,原告を被告の取締役とする件については,Gから指摘を受けたコンプライアンス上の問題及び違法な引き抜き行為と見られることによるa社との間での無用な紛争が発生することから,依然として慎重な態度をとっており,平成28年6月10日には,原告に対して,新規に受注する会社が現れたことでで翌年の上場が決まり,原告が被告の二番手となるとか原告が本流となる旨のLINEを送ったりしたものの,同年7月には,c社への納品分の中で照度センターの不良で輝度調整が不能であったり,輝度が不足したり,配線がファンに絡み異音が発生する欠陥品が発生したことで,さらに慎重な態度となり,原告に対して口頭で,同月1日から取締役に就任させる約束であったことを認め,a社に原告の取締役就任の事実を伝えづらいことを説明し,同年7月28日9時45分には「常に相談しながら進めるので,また,Xさんは,社内で取締役扱いにしてますので,量産納品からは,手を引いてください。次に何か?有ったら,XさんとBさんの責任問題になる。僕とBさんでやります。誰も僕の責任問題にはしない。すると会社が止まるから,僕は責任を取らされない。Bさんも取締役扱いでは無いので,よっぽどの事がない限り,資任は取らされない。」,同日9時49分には「7月から,9月までの暫定の取締役がある。C,D,A,の多数決で決まる。僕の一存で会社を動かせない仕組みが入ってます。」,同日9時52分には「9月からの取締役にXさんに入ってもらう。6名から7名・A,C,E,X,F,が9月から取締役内定者です。XさんとEさんは社外取締役です。」と,原告が社外取締役になること,その時期は同年7月からではなく,同年9月からであることを説明し,同年8月4日9時04分には「7/11にCさんが会長。一か月早く,8/1日から管理部にFさんが入って,9月に向けて組織作りに入りました。管理部長。Gさんは社外コンサルにXさんはiot事業部の部長で取締役会のメンバーです。」等の連絡をするなどして,原告が被告の中で取締役扱いとなっていること,取締役内定者であること,社外取締役となること等を繰り返し伝えたものの,具体的な決定は先延ばしにしていた。原告は,被告代表者から提示のあった社外取締役という条件についても承諾をした。(前記前提事実(4),甲11,20の2,29,原告本人,弁論の全趣旨)
(18)  原告は,このような被告代表者の態度を見て,被告代表者を信用できないと考えて,被告代表者との打合せにおける会話を録音したところ,LINEでのメールのやり取りを裏付ける被告代表者の発言が繰り返されていた。(甲19ないし21の各1・2,29)
(19)  原告は,平成28年9月13日,被告に対し,同年8月分の経費として17万0961円の精算を求め,うち被告所在地である福岡までの出張費明細書を作成し,その金額を11万2140円であるとした。(甲15,16)
(20)  被告は,平成28年10月6日,b社に対して,同年9月30日をもって,b社との間の顧問契約を解除する旨の意思を表示し,原告に対して被告が貸与していたパソコンの返却も求めた。これによって,原告は,b社から収入を受領することが続けられなくなった。(前記前提事実(6),甲4の1・2,29)
(21)  原告は,平成28年10月17日付け同月19日到達の内容証明郵便により,原告訴訟代理人弁護士を通じて,被告に対し,被告が原告の就職を勧誘して年収1000万円を保証したこと等を主張して,本件請求をし,被告は,同年11月10日付けで,被告訴訟代理人弁護士を通じて,原告訴訟代理人弁護士に対して,原告の請求を拒否する旨の回答をした。(甲5の1・2,6)。
(22)  原告がa社に勤務していた最終年である平成27年1月1日から同年12月31日までの給与収入は815万1000円であり,原告の平成27年12月時点での基本給は43万5000円であり,これに役付手当5万円,通勤手当2万5010円,養育手当3万円が支給されていた。
原告は,a社の退職に当たり,脱退一時金として250万1250円の支給を受ける権利を取得し,退職金として356万7000円の支払を受けた。(甲7ないし9,弁論の全趣旨)
(23)  a社の就業規則は,退職金の支給を退職金規程に定め(76条),正社員は満60歳で定年となる(77条)。退職金規程では,退職金は原則として基本給を算定基礎額とし,この算定基礎額に勤続年数を乗じたものを2で割った額となる(3条)。原告が定年退職を迎える平成41年3月31日までの勤続期間は29年5か月であるが,勤続年数の上限は55歳に達する平成36年3月31日となる。(甲12,13の2)
(24)  被告とb社は,平成28年2月29日付けの顧問契約締結に当たって,同年3月1日付けの「覚書」を取り交わし,被告が委託業務に関して負担する費用については,b社の旅費規定により定められた費用であるとした。同旅費規定では,公共交通機関についての領収書は不要で正規料金精算とし,宿泊費は部長級であれは1泊1万5000円である。(甲2,3,14,29,弁論の全趣旨)
(25)  原告は,平成29年1月31日まで勤務し,同年2月にb社を退職した(前記前提事実(7),甲29,原告本人)。
2  争点(1)(原告と被告との間で,平成27年6月頃,本件合意が成立したか否か)について
(1)  前記認定事実(3),(6),(9)ないし(12)のとおり,被告代表者は,平成27年4月頃,原告に対して,ベンチャー企業である被告が上場を目指しているので,a社を退職して,被告に転職して一緒に仕事をすることを勧誘し,原告は,原告自身の生活の安定を考え,一旦は,この誘いを断ったものの,その後の同年5月頃,被告代表者から,年収1000万円で被告の取締役兼営業部長に就任するという条件を提示されて,被告代表者の勧誘に応じることを決め,本件合意が成立し,原告が被告株式の引受けをしたものの,原告がa社に対して退職をする意思を伝えた後の平成28年1月から同年2月において,Gからのコンプライアンス上の問題,取引先であるa社との間で違法な引き抜き行為を理由とする無用な紛争の恐れから,原告が直ちに被告の取締役に就任することを変更して,原告が社外取締役となる選択肢,原告が顧問として被告に関与する選択肢などを検討し,その結果,被告は一旦は原告が被告の顧問となる契約を提案し,原告がb社との顧問契約を締結して原告がb社に入社する対案を提案して,原告が同月末にa社を退職して,同年3月にb社に入社したものと認められる。
(2)  これに対して,被告は,本件合意は存在しないと主張し,LINEのやりとりでも原告がa社に在籍していた平成28年2月までの間に本件合意を裏付ける発言等はなく,被告の最大の案件であるa社との取引が原告の引き抜きにより悪化すると,3億3000万円の商談が破談になる危険があるからこれを行うはずがなく,被告代表者は,原告のb社への入社に関しても一切関わっておらず,原告が将来的には被告の「取締役」や「社外取締役」になる可能性もあることから,被告の取締役同様の気概を持って仕事をしてほしいと思い「取締役」や「社外取締役」との言葉を使用したこともあったにすぎいない等と主張し,これに沿った陳述書(乙22,23)を提出し,被告代表者もこれに沿った供述をする。
しかし,前記認定事実(5)のとおり,LINEのやりとりは本件合意成立後の同年7月以降であり,前記認定事実(13),(15)のとおり,a社がc社と被告との間の商流に介入してきたは平成28年3月頃であり,被告とa社との取引が3億円規模のものとなるのは同年5月のことであって,本件合意の成立した平成27年6月,原告が退職の意思を伝えた同年11月の時期よりも後のことであり,被告の主張はその前提を欠き,a社を退職している原告に対して,被告の取締役同様の気概を持って仕事をしてほしいと思い,「取締役」等の文言を用いたという供述は原告の置かれた境遇に照らして極めて不自然である。
しかも,前記(1)において説示したとおり,原告がa社に対して退職をする意思を伝えた後の平成28年1月から同年2月において,Gからのコンプライアンス上の問題,取引先であるa社との間で違法な引き抜き行為を理由とする無用な紛争の恐れから,原告が直ちに被告の取締役に就任することが変更されたのであるから,被告の上記陳述書及び被告代表者の供述部分は信用することができない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3)  以上により,原告と被告との間で,遅くとも平成27年6月頃,本件合意が成立したものと認められる。
3  争点(2)(本件合意違反による被告の責任の有無)について
(1)  契約準備段階に入った者は,契約締結には至らなかったが、その準備段階で損害を生ぜしめた場合についても、当事者間に契約締結についての交渉が始まるとともに、信頼関係を基礎とする法定債務関係を生じ、当事者の一方が故意又は過失によつてその信頼を裏切る行為をしたときは、このような債務関係に反するものとして、信義則上,相手方に対し損害賠償の義務を負うものと考えられ(最高裁判所昭和59年(オ)第152号昭和59年9月18日第3小法廷判決集民142号311頁参照),本件の事実関係のものでは,遅くとも平成27年6月の時点で,原告と被告との間で,原告を被告の取締役兼務従業員として年収1000万円で雇用することの本件合意が成立して,原告はこれに沿って平成28年2月末をもって前職のa社を退職したものの,被告はその後のa社との関係により,原告を取締役兼務従業員として雇用しないのであるから,原告は,a社を退職することによって得られなくなった収入相当額の損害を蒙ったものであり,原告の転職に伴うコンプライアンス上の問題や取引先であるa社との間で紛争の懸念は,被告代表者が原告に対して勧誘を開始したときから十分に予見することが可能なものであるというべきである。
したがって,被告代表者の行為は,その勧誘に応じて退職したことによる原告の収入の不利益を生じさせたものであって,原告に対する不法行為を構成するというべきである。
(2)  これに対して,被告は,契約締結上の過失責任が認められるためには,契約締結(交渉)の成熟度が高いことが必要であるところ,本件では,契約締結の成熟度がまったくないと主張するが,前記2の説示に照らして,到底採用することができない。
また,被告は,原告と被告代表者とGが平成28年1月19日に会談して,a社との関係から,原告が直ちに被告に取締役等として就任,採用されることは不可能であることが確認され,顧問契約をして外部の立場で活動することが合意され,原告が被告に取締役等として就任,採用されるためには,①原告が被告に入社することをa社が了承するような状況を創り上げること,又は②被告とa社との取引が中止,解消されるような状況になってもそれを補うに足りる営業実績と能力・意欲を原告が示すという条件があったと主張するが,被告の主張する条件は,本件合意が成立した後に被告が原告を就任させないように条件を積み上げていったものにすぎず,そのような条件を被告が提案したとしても,被告の損害賠償責任が減じられるものではないというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
4  争点(3)(本件合意違反による原告の損害額)について
(1)  前記認定事実(22)のとおり,原告がa社に勤務していた最終年である平成27年1月1日から同年12月31日までの給与収入は815万1000円であり,原告はa社を退職した平成28年2月末からb社を退職した平成29年2月までの期間は,前記認定事実(9)ないし(11)のとおり,被告代表者の翻意により原告が顧問としてb社に就職することとなりそれ以外の何らかの就職活動をすることができなかったと認められ,また,原告がb社を退職した月の翌月である同年3月から1年間の期間が再就職先を定めるに相当な期間と認められる。
したがって,原告は,被告代表者との間で成立した本件合意を信頼してa社を退職したのであるから,原告がa社を退職してから就職活動をすることができなかったと考えられる1年間の得べかりし収入額815万1000円から被告とb社との間の顧問契約により原告が収入を得た420万円を損益控除をした額及び原告が再就職先を定めるに相当な期間の1年間に得べかりし収入額815万1000円の合計1210万2000円が原告の信頼利益の損害額であり,これに弁護士費用相当額121万円を加えた1331万2000円を被告は賠償すべきである。
(2)  これに対して,原告は,被告が取引先に対して原告と取引しないように働きかけるなど,原告の再就職を作為的に妨害しているため,原告の労働能力喪失率を100パーセントとして計算するのが相当であるとして,原告の給料相当額の損害815万1000円に退職までの就労可能年数18年のライプニッツ係数11.690を乗じた9528万5190円が損害となると主張するが,退職までの18年間の部分が全額損害となるという因果関係は認められない。
また,原告は,原告の労働能力喪失率を100パーセントと見る期間を再就職に必要となる社会相当な期間と限定するとしても,それ以降の期間についての逸失利益も考慮しなければならないからと高校卒業が最終学歴である原告が賃金センサス474万2300円と原告の収入815万1000円との差額が損害となると主張するが,かかる因果関係は認められない。
さらに,原告は,退職金減額分相当額の損害として,a社で得られたはずの退職金見込額531万0480円と実際に支給された退職金額355万2500円との差額175万7980円が損害であると主張するが,原告がa社において定年まで退職をすることが明らかであるとは認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
5  争点(4)(立替払請求の可否)について
原告は,原告と被告は,原告が被告の営業活動のために支出した交通費を翌月原告に支払う旨合意していたとして,平成28年3月1日付覚書第1項の「顧問契約第2条第1項の『乙が,その委託業務に要した費用』については,乙の旅費規程により認められた費用とする。」をその根拠として援用する。
しかし,前記認定事実(24)によれば,原告主張の覚書は,被告とb社との間で締結されたものであり,b社が請求することは格別として,原告が請求することができる根拠ではない。
その他,被告が原告に対して原告主張の立替払金を支払う合意は認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
6  まとめ
以上によれば,原告の被告に対する本件請求は,不法行為に基づく1331万2000円の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから,これを棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第5部
(裁判官 吉村真幸)

 

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裁判年月日  平成30年 9月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平30(ワ)10277号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA09258004

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年 9月25日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平30(ワ)10277号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA09258004

千葉県富里市〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 荒木孝壬
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 Y

 

 

主文

1  被告は,原告に対し,163万3544円及び内金34万4600円に対する平成29年12月26日から,内金21万4510円に対する平成30年1月16日から,内金35万円に対する同月26日から各支払済みまで年6分の割合による金員並びに内金35万円に対する平成30年1月9日から,内金37万4434円に対する同年6月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告のその余の請求を棄却する。
3  訴訟費用は,その20分の3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  当事者が求めた裁判
1  請求の趣旨
(1)  被告は,原告に対し,193万3544円及び内金34万4600円に対する平成29年12月26日から,内金56万4510円に対する平成30年1月9日から,内金35万円に対する同月26日から各支払済みまで年6分の割合による金員並びに内金67万4434円に対する同年6月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)  訴訟費用は被告の負担とする。
(3)  仮執行宣言
2  請求の趣旨に対する答弁
(1)  原告の請求を棄却する。
(2)  訴訟費用は原告の負担とする。
第2  当事者の主張
1  原告は,請求原因として別紙のとおり述べた。
2  被告は,請求原因事実について争うことを明らかにしない。
第3  当裁判所の判断
1  上記第2の2に鑑み,被告は別紙の請求原因事実を自白したものとみなす。
2  以上によれば,原告の請求は,下記の限度で理由がある。
(1)  試用期間中の賃金 11万8800円
(2)  上記(1)に対する遅延損害金
平成29年12月26日(各賃金支払日以後の日)から支払済みまで年6分の割合による金員
(3)  平成29年11月分賃金 22万5800円
(4)  上記(3)に対する遅延損害金
平成29年12月26日(賃金支払日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員
(5)  平成29年12月分賃金 35万円
(6)  上記(5)に対する遅延損害金
平成30年1月26日(賃金支払日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員
(7)  平成30年1月分賃金 21万4510円
(8)  上記(7)に対する遅延損害金
平成30年1月16日(被告が原告に対し約束した支払日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員
なお,原告は解雇日の翌日を始期として主張するが,被告が解雇の意思表示をしたからといって,必ずしも解雇日以降に支払日が到来する賃金について期限の利益を放棄したことにはならない。
(9)  解雇予告手当 35万円
平均賃金の算定に当たっては,試用期間の日数及び賃金は除外される(労基法12条3項5号)。
原告が本採用された平成29年11月15日から,解雇日の前日に最も近い賃金締日である同年12月20日までの賃金総額は,57万5800円である(なお,同年11月分の給与は,試用期間後の本採用日が同年11月15日であるにもかかわらず,あえて被告が起算日を同月1日として支払を約したものであるから,これを同月15日の本採用以降の賃金と認めるのが相当である。)。
これを上記期間の総日数(36日)で除し,平均賃金は1万5994円となる。
原告の請求する解雇予告手当の金額は,上記平均賃金の30日分を上回らない。
(10)  上記(9)に対する遅延損害金
平成30年1月9日(解雇日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員
なお,原告は年6分の割合による遅延損害金を請求するが,解雇予告手当は雇用契約に基づき発生するものではなく,法律が特に認めたものであるから,商行為性はない。
(11)  立替払に係る求償金 37万4434円
(12)  上記(11)に対する遅延損害金
平成30年6月4日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員
3  原告の弁護士費用相当額の請求については,請求権の法的根拠が明らかでないから,理由がない。
4  よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部
(裁判官 別所卓郎)

 

別紙
請求の原因
1(当事者並びに雇用契約の成立)
原告は、千葉県印旛町にある株式会社aで、ハイヤーの運転業務に従事していたものであるが、平成29年10月13日勤務先から指定を受け、台東区錦糸町で乗車させた被告から、運転歴、給与額などを尋ねられ応答していた。すると、被告は運転態度が気に入った、僕個人のための運転手になってくれないかと申込まれた。
そこで原告は、被告に対し雇用条件を尋ねたところ、被告は試用期間を1ヶ月と定め、試用期間内の報酬は、被告から連絡を受けた原告は、被告が乗車した場所から降車した場所間で運転して、その都度、1万0800円の報酬を支払い、1ヶ月後の平成29年11月15日から正規の運転手として雇用し、給与として月額35万円を毎月20日締めで翌25日に支払うところ、11月分は11月1日を起算日として支払うと言い、原告はこの被告の申込みを承諾し、10月18日上記会社を退職した。
その折、被告は原告に対し、茨城県鉾田市〈以下省略〉に本店を置く、株式会社bの社長と告げたうえ、携帯電話番号を告げた。
この時、被告が原告に手渡した名刺に記載されていた株式会社bの本店所在地は、移転前の本店所在地となっていた。(甲5)この会社は実体のない登記簿だけの会社にすぎないものであった。
2(試用期間内の勤務状況)
(1)原告は被告から試用期間として告げられた期間は、次のとおり被告の指示に従い運行した。これにより、金11万8800円の賃金債権を得たが、その支払いを受けていない。原告は、この金11万8800円の支払日を最終業務日の後の日である11月25日とする。
平成29年10月20日 練馬方面から新宿
同年同月25日 新宿周辺
同年同月26日 〃
同年同月30日 〃
同年同月31日 〃
同年11月1日 〃
同年同月1日 西麻布→錦糸町方面
同年同月3日 新宿→お台場→新宿
同年同月5日 新宿→渋谷→新宿
同年同月6日 新宿→渋谷→新宿
同年同月12日 六本木周辺
3(原告の試用期間並びに正規雇用期間中、被告が原告に命じた運行業務について)
原告が試用期間中、被告から命じられた11回の各運転時間は、いずれも午後5時から午後11時頃、時には午前2時頃までの間で、被告の用向きは、女性との飲食、ボウリング等の遊びであり、アプリケーションの開発その他28の営業を行う株式会社bという会社の代表取締役の行為とは認められないものであり、正規に運転手として雇用された平成29年11月15日以後における運転時間と被告の用向きは、別紙記載のとおり同様のものから、被告が原告に命じた運転業務は株式会社bの業務とはいえないもので、被告のためのものであった。
4(原告の被告に対する賃金の未払い)
(1)被告は原告に対し、労働規約上約束した上記11回に及び試用期間中の業務に対する1運行当たり1万0800円の割合による賃金11万8800円の支払いをなさない。
のみならず、原告を正規運転手として雇用した平成29年11月15日より原告を解雇した同30年1月8日までの間の賃金をも支払わない。
(2)原告が被告から正規運転手として雇用された期間の賃金は、毎月20日締めの25日支払いとの約束のところ、被告は原告に対し11月分は11月1日を起算日とすると約束したので次のとおりのところ、被告は平成30年1月8日原告を通常解雇した。
〈表省略〉
上記21万4510円の支払日は、本来、平成30年2月25日のところ、被告は同年1月8日原告を解雇したので、その支払期限の利益を放棄したものであるから、その支払日は同年30年1月8日である。
また、労基法23条は労働者の退職の場合において、権利者請求があった場合において、7日以内に賃金を支払わなければならないと定められている。この点につき、被告は原告に対し平成30年1月9日全額の支払いを1月15日と約束しながら支払っていないものである。(甲6)
5(求償金)
被告は、原告を運転業務者として雇用中、原告に命じてコンビニエンスで煙草、飲料水、コーヒー等を、また、飲食店で飲食代を更には女性同伴でのホテル代金の立替払いを求め、別表記載のとおり、平成29年10月20日から同12月19日までの間38回、合計37万4434円を原告に立替払いさせた。
6(弁護士費用)
原告は本件訴訟を弁護士荒木孝壬に委任し、着手金10万円、成功報酬20万円の支払いを約束した。
被告の原告に対する上記賃金並びに立替金の未払いは、平成30年4月11日付訴状補正の申立書に記載した被告の違法行為によって生じたものであるから、刑法上、詐欺罪に該当しなくとも、社会的に許容されない公序良俗に反するものであることは明らかであり、単なる契約違反に基づく債務不履行ではなく詐欺紛いの行為といえる。
大審院民事刑事総連合部判決、昭和17年(オ)第340号損害賠償請求事件、民集22巻1185頁は、その要旨として「案スルニ不当訴訟カ目的ソノ他ニ於テ公ノ秩序善良ノ風俗ニ反スルアリ不法行為ヲ構成スルニ於テ公訴ノ為メ委任シタル弁護士ニ支払ヘル相当範囲ノ報酬手数料其ノ他ノ費用ニ付キ民法行為ニ関スル規定ニ従ヒ之ノ賠償ヲ原告ニ請求スルコトヲ得ヘシ」と判示している。
この大審院の判例は、不当な訴を提起された者に限らず、不当な行為によって受けた損害を、訴えにより回復するため委任した弁護士費用に関しても当て嵌まるものである。
7(結語)
よって、原告は被告に対し未払いとなっている賃金、求償金の支払いを求めて要した弁護士費用の支払いを求め、請求の趣旨記載の判決を求める。

〈以下省略〉

 

*******

裁判年月日  平成30年 9月 5日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)38401号
事件名  配当異議請求事件
文献番号  2018WLJPCA09058008

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年 9月 5日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平29(ワ)38401号
事件名  配当異議請求事件
文献番号  2018WLJPCA09058008

埼玉県川越市〈以下省略〉
旧商号 株式会社a
原告 X株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 中島茂ほか
東京都新宿区〈以下省略〉
被告 Y1
同訴訟代理人弁護士 Y2
東京都杉並区〈以下省略〉
被告 Y2
同訴訟代理人弁護士 Y1

 

 

主文

1  東京地方裁判所平成29年(ヲ)第30320号事件につき,平成29年11月9日に作成された別紙「配当表」の「配当実施額(円)」欄のうち,
(1)  被告Y1への配当額2272万4842円とあるのを0円に,
(2)  被告Y2への配当額2241万4760円とあるのを0円に,
(3)  原告への配当額31億3334万4424円とあるのを31億7841万8244円に,
(4)  原告への配当額457万2905円とあるのを463万8687円に,
それぞれ変更する。
2  訴訟費用は被告らの負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
主文第1項と同旨
第2  事案の概要
1  本件は,原告が,東京地方裁判所平成29年(ヲ)第30320号事件について,平成29年11月9日に作成された別紙「配当表」(本件配当表)に記載された被告らの配当要求に係る請求債権はいずれも架空のものであるなどと主張して,本件配当表の「配当実施額(円)」欄のうち,被告らへの配当額を取り消し,これを原告への配当額に加算する旨の変更を求める事案である。
被告らは,いずれもその配当要求に係る請求債権が実在するなどと主張している。
2  前提事実
(1)  原告(平成30年6月20日変更前の商号「株式会社a」)は,昭和52年3月31日に設立された,化粧品の製造,販売等を目的とする株式会社である(記録上明らかな事実)。
被告らは,いずれも東京弁護士会所属の弁護士(修習期63期)である(甲23の1及び2)。
(2)  原告は,平成28年8月12日,株式会社b(b社。甲10)に対して有する執行力ある債務名義正本2通(東京地方裁判所平成25年(ワ)第2760号判決,同裁判所平成28年(モ)第4566号訴訟費用額確定処分)に基づき,b社の有する原告の普通株式55万8735株(本件株式)を差し押さえる旨の株式差押命令(東京地方裁判所平成28年(ル)第5509号,本件株式差押命令事件。甲1)を得た。
本件株式は,競り売り(甲2)により31億8814万1910円に換価された。
(3)  被告Y1(被告Y1)は,平成28年9月29日,本件株式差押命令事件について,b社に対して有する執行力ある債務名義正本(東京法務局所属公証人B作成の平成28年第200号債務承認弁済等契約公正証書(第200号公正証書)。甲7の1ないし3)に基づき,配当要求をした。この配当要求に係る債権の原因及び額は,被告Y1のb社に対する着手金,日当及び実費の元金合計3083万5716円とこれに対する遅延損害金とされていた(甲5)。
また,被告Y2(被告Y2)も,平成28年10月5日,本件株式差押命令事件について,b社に対して有する執行力ある債務名義正本(東京法務局所属公証人B作成の平成28年第202号債務承認弁済等契約公正証書(第202号公正証書)。甲8の1ないし3)に基づき,配当要求をした。この配当要求に係る債権の原因及び額は,被告Y2のb社に対する着手金,日当及び実費の元金合計3041万4960円とこれに対する遅延損害金とされていた(甲6)。
(4)  本件株式差押命令事件に係る配当事件(東京地方裁判所平成29年(ヲ)第30320号)につき,平成29年11月9日,別紙のとおり,本件配当表(甲4)が作成された。
原告は,同日の配当期日において本件配当表のうち被告Y1への配当額,被告Y2への配当額につき異議(甲3)を述べた上,同月13日に本訴を提起し,同月14日に執行裁判所に対し本訴の提起をしたことの証明(民事執行法90条6項)をした(記録上明らかな事実)。
3  争点及びこれに関する当事者の主張
(1)  被告らの配当要求に係る債権の存否
(被告らの主張)
ア 被告らは,C弁護士(C弁護士)と共に,b社との間で,次の(ア)ないし(エ)の委任契約を書面により締結し,その委任事務を履行し,さらに,被告Y1は,次の(オ)の委任契約を書面により締結し,その委任事務を履行した(上記(ア),(イ)の委任契約書上,その消費税率が作成年月日当時の5%ではなく8%とされたのは,これらの契約書が消費税の問題で平成26年4月以降に改めて作成されたためにすぎない。)。
その結果,被告Y1は,次の(ア)ないし(オ)の委任契約に基づき,b社に対し,第200号公正証書記載のとおり,合計3083万5716円の着手金等債権((ア)の着手金2535万4080円,日当55万0800円,実費5万1164円,(イ)の着手金159万4080円,日当25万9200円,実費4万5592円,(ウ)の着手金132万8400円,(エ)の着手金132万8400円,(オ)の着手金32万4000円)を有し(第200号債権),被告Y2は,次の(ア)ないし(エ)の委任契約に基づき,b社に対し,第202号公正証書記載のとおり,合計3041万4960円の着手金等債権((ア)の着手金2535万4080円,日当55万0800円,(イ)の着手金159万4080円,日当25万9200円,(ウ)の着手金132万8400円,(エ)の着手金132万8400円)を有する(第202号債権)。
(ア) 東京地方裁判所平成25年(ワ)第2760号貸金返還請求事件についての平成25年5月9日付け委任契約(乙2の1)
訴額27億5000万円,着手金7606万2240円,日当1日1人3万円
(イ) 東京地方裁判所平成25年(ワ)第27912号損害賠償等請求事件についての平成25年10月1日付け委任契約(乙2の2)
訴額1億円,着手金478万2240円,日当1日1人3万円
(ウ) 東京高等裁判所平成27年(ネ)第1103号損害賠償等請求控訴事件(上記(イ)の控訴事件)についての平成27年3月20日付け委任契約(乙2の3)
着手金398万5200円,日当1日1人3万円
(エ) 最高裁判所平成27年(オ)第1403号,同年(受)第1751号(上記(ウ)の上告兼上告受理申立て事件)についての平成27年6月19日付け委任契約(乙2の4)
着手金398万5200円,日当1日1人3万円
(オ) 弁護士照会請求についての平成25年9月1日付け委任契約(乙2の7)
着手金30万円(消費税別)
イ 被告らは,上記アの委任契約の締結の際,b社からb社の保有する現金が乏しく,その資産の大半が本件株式であって,これを後日売却する予定である旨説明を受けたため,b社との間で,b社が被告らに支払うべき着手金等の弁済期をいずれも本件株式の換価時とする旨合意した。
(原告の主張)
被告らの上記主張はいずれも否認し,争う。
平成25年5月以降のb社には被告らに5000万円超の着手金を支払う資力がなく,また,その総勘定元帳,貸借対照表,勘定科目内訳明細書に第200号債権,第202号債権に係るb社の被告らに対する債務は計上されていなかった。弁護士である被告らにおいても,受任時に受けるべき委任事務処理の対価である着手金の支払を全く受けることなく,長期間にわたり訴訟活動を続けることはあり得ないし,平成25年当時に作成されたはずの上記(ア),(イ)及び(オ)の委任契約書に被告Y1が平成26年4月24日以降に使用していた丸印が押印されていること,上記(ア)の委任契約書の作成年月日である平成25年5月9日時点ではC弁護士の受任がなかったことなどは,これらの委任契約書が後日作成されたことを裏付ける。第200号公正証書,第202号公正証書が作成されたのは,b社が平成28年5月20日に上記(ア)の事件で27億5000万円の支払を命ずる敗訴判決を受け,同年8月12日に原告により本件株式の差押えを受けた直後である同年9月16日のことであり,b社から被告らに成功報酬が支払われないことが確定した後に急きょ作成されたものであった。このような事情によれば,第200号公正証書記載の第200号債権,第202号公正証書記載の第202号債権は存在しない架空のものであった。
(2)  被告らの配当要求に係る債務名義の有効性
(被告らの主張)
b社は,Dに第200号公正証書,第202号公正証書の作成についての代理権を授与し,公証人によりこの代理権の存在が確認されているから,第200号公正証書,第202号公正証書は,無権代理によるものではなく,有効なものである。
(原告の主張)
被告らの上記主張は否認し,争う。
Dはb社の監査役であり,監査役は会社の代理人となることができないから,代理人となることができないDがb社の代理人として作成された第200号公正証書,第202号公正証書は,無権代理によるものであって,無効である。
第3  当裁判所の判断
1  前提事実,証拠(後記各書証)及び弁論の全趣旨によれば,b社と被告ら,C弁護士との間の訴訟委任,その委任事務の遂行状況,第200号公正証書,第202号公正証書の作成経緯等について,次の事実が認められる。なお,C弁護士の証人尋問,被告らの当事者尋問は,当裁判所の求釈明に対し,当事者双方がこれを申請しない旨明示的に回答したため,実施されなかった。
(1)  b社は,原告が平成25年2月5日付けで提起した貸金27億5000万円及びこれに対する約定遅延損害金の支払を求める貸金返還訴訟(東京地方裁判所平成25年(ワ)第2760号貸金返還請求事件。乙3の1)に応訴するため,同年5月10日,この訴訟追行を被告らのみに委任する旨の訴訟委任状(甲15)を東京地方裁判所に提出し,実際の訴訟活動上も,b社の訴訟代理人として被告らのみが同日の第2回の口頭弁論期日,同年7月5日の第3回口頭弁論期日に出頭し(甲16の2及び3),被告らの作成に係る準備書面(1),証拠説明書(甲14の1及び2)を陳述ないし提出していた。
(2)  上記(1)の貸金返還請求訴訟につき平成25年5月9日付けで作成された委任契約書(乙2の1)は,平成26年4月1日以降の消費税率(8%)を前提とする記載があったほか,東京弁護士会の弁護士職印登録及び印鑑証明等手続規則(甲26)上,職印の登録は弁護士会員一人につき1個に限ると定められていた職印につき,上記委任契約書(乙2の1)の作成に使用された被告Y1の職印が,平成26年4月7日まで使用されていた角印(甲14の1ないし19)ではなく,平成26年4月24日以降に使用されるようになった丸印(甲14の20ないし67,乙3の1及び2。これに対し,写しであるにすぎない乙11の1及び2は上記認定を妨げるものではない。)であったなど,実際には少なくとも平成26年4月24日以降に作成されたものであった。また,上記委任契約書(乙2の1)の受任弁護士欄には,被告らのほかに第一東京弁護士会所属のC弁護士(修習期33期。甲23の3)も加えられていたが,C弁護士は被告らによる上記(1)の主張立証活動に加わっておらず,C弁護士が上記貸金返還訴訟の訴訟追行に加わったのは,b社からC弁護士に52万5000円の振込送金があった日(平成25年8月28日。甲19の18頁)に近接する平成25年8月23日の第4回口頭弁論期日以降のことであった(甲14の3ないし5,甲14の8ないし13,甲14の18及び19,甲14の22ないし24,甲14の27,甲14の30,甲14の35ないし37,甲14の41ないし43,甲14の48,甲14の52ないし54,甲14の58,甲16の4,乙3の1及び2)。
なお,被告らは,上記受任の際,b社から,b社の資金が乏しく(客観的にも,b社の預金残高は,平成25年5月当時,0円となったことがあり(甲19の17頁),また,b社の損益計算書(甲9の2の2)上も,平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に約1470万円の営業損失,約9341万円の当期純損失が発生していた。),その資産の大半が本件株式である旨の説明を受けており(なお,本件株式は譲渡制限株式であり,その価値は1株当たりの純資産額を基準としても,約41億7151万円にとどまる。乙8の1),b社が上記貸金返還訴訟に敗訴した場合,本件株式が原告により差し押さえられることは容易に想定し得たのに,被告らはもとより,C弁護士においても,本件株式の換価時を支払時期と定めたというb社からの着手金等の支払を確実にするために特段の措置を講ずることはなかった。
(3)  また,b社は,被告ら及びC弁護士に委任して,平成25年10月18日付けで,原告の会計業務等を担当するc税理士法人,その代表社員であり,原告の代表取締役でもあるA,c税理士法人の社員であるEの3名に対し,損害賠償金1億円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める損害賠償等請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成25年(ワ)第27912号損害賠償等請求事件。乙4の1)。
上記損害賠償等請求訴訟につき平成25年10月1日付けで作成された委任契約書(乙2の2)も,同年5月9日付け委任契約書(乙2の1)と同じく,平成26年4月1日以降の消費税率(8%)を前提とする記載があったほか,その作成に用いられた被告Y1の職印が平成26年4月24日以降に使用されるようになった丸印(甲14の20ないし67,乙4の1及び2)であったなど,少なくとも平成26年4月24日以降に作成されたものであった。また,被告ら及びC弁護士は,この受任の際も,b社の財務状況が好転したわけではないのに,本件株式の換価時を支払時期と定めたというb社からの着手金等の支払を確実にするために特段の措置を講ずることはなかった。ただし,被告Y1が,b社から,同年9月6日に104万5000円,同年10月22日に22万円の振込送金を受けたことはあった(甲19の18頁,19頁)。
(4)  なお,b社は,被告ら及びC弁護士に委任して,平成26年4月3日付けで,F,Gに対し,不当利得金各1785万3500円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める不当利得返還等請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成26年(ワ)第8392号不当利得返還等請求事件。甲14の16)。
上記不当利得返還等請求訴訟につき平成26年4月2日付けで作成された委任契約書(乙2の5)においても,平成25年5月9日付け委任契約書(乙2の1)や同年10月1日付け委任契約書(乙2の2)と同じく,着手金等の支払時期を本件株式の換価時とする旨定められていたが,被告ら及びC弁護士は,この受任の際も,b社の財務状況が好転したわけではないのに,b社からの着手金等の支払を確実にするために特段の措置を講ずることはなかった。
(5)  b社は,平成27年1月28日,上記(3)の損害賠償等請求訴訟につき,b社の請求をいずれも棄却する旨の第1審判決(乙4の3)の言渡しを受けたため,被告ら及びC弁護士に委任して,同年2月10日付けで,控訴を提起した(東京高等裁判所平成27年(ネ)第1103号損害賠償請求控訴事件。甲14の38,乙5の1及び2)。
b社は,同年6月3日,b社の控訴をいずれも棄却する旨の控訴審判決(乙5の3)の言渡しを受けた際にも,被告ら及びC弁護士に委任して,上告を提起し,上告受理の申立てをしたものの,同年11月5日,上告棄却兼不受理の決定を受けた(最高裁判所平成27年(オ)第1403号,同年(受)第1751号。甲14の55及び56,乙6の1ないし3)。
被告ら及びC弁護士は,これらの受任の際も,b社の財務状況が好転したわけではないのに,本件株式の換価時を支払時期と定めたというb社からの着手金等の支払を確実にするために特段の措置を講ずることはなかった。
(6)  b社は,上記(1)の貸金返還請求訴訟につき,平成28年5月20日,原告に対して貸金27億5000万円及びこれに対する約定遅延損害金の支払を命じ,かつ,訴訟費用はb社の負担とする旨の第1審判決の言渡しを受け(乙3の3),その後,同判決は確定した。
そこで,原告は,この確定判決及び訴訟費用額確定処分を執行力ある債務名義として,平成28年8月12日,本件株式差押命令(甲1)を得た(なお,b社への送達日は同月29日であった。甲24の1及び2)。原告の請求債権総額は,申立時点で既に約40億6100万円を超えており,配当期日までの遅延損害金により更に増額されることが見込まれていた。
(7)  b社の説明により,本件株式差押命令があり,本件株式についての競売手続が進行中であることを知った被告らは,本訴で主張する第200号債権(元本合計3083万5716円),第202号債権(元本合計3041万4960円)があるとの前提に立って公正証書を作成し,本件株式命令差押事件につき配当要求しようと考え(乙9),平成28年9月16日,第200号公正証書,第202号公正証書を作成し(甲7の1ないし3,甲8の1ないし3。ただし,その別紙の「支払期日」という記載は「委託契約日」の誤記であった。乙1の1及び2),被告Y1は同月30日に,被告Y2は同年10月6日に,それぞれ配当要求するに至った(甲4ないし甲6)。
これに対し,b社から上記(2)の振込送金以外の支払を受けたことはなかったC弁護士は,被告らとは異なり,本件株式命令差押事件につき配当要求することはなかった。
なお,b社の総勘定元帳(甲21の1の1及び2,甲21の2ないし4),貸借対照表(甲9の2の1,甲9の3ないし5),勘定科目内訳明細書(甲22の1及び2)に第200号債権,第202号債権に関係するb社の被告らに対する債務は全く計上されていなかった。
(8)  本件株式の換価額が約31億8814万円(甲2)であったのに対し,手続費用及び原告の請求債権の総額は(平成29年11月9日の配当期日までの遅延損害金が加算された結果,)約46億1461万円に達したため,本件配当表上の被告らへの配当実施額は被告Y1につき2272万4842円,被告Y2につき2241万4760円にとどまった。
(9)  なお,b社は,株主の一人から,b社の役員が被告らと通謀してb社の財産を流出させた可能性が高いことなどを理由に検査役選任の申立てを受け(甲12),平成29年6月20日,会社法358条2項により,b社の業務及び財産の状況を調査させるため,検査役が選任された(甲13)。
2  争点(1)(被告らの配当要求に係る債権の存否)について
(1)  上記1で認定した事実によれば,被告らが第200号債権,第202号債権の発生原因であると主張する委任契約によると,b社は委任時に支払うべき委任事務処理の対価である着手金を全く支払う必要はなく,逆に,被告らは受任時に支払を受けるべき委任事務処理の対価である着手金の支払を受けることも,委任事務処理の都度支払われるべき日当の支払を受けることもなく,かえって,委任者であるb社のために実費を立て替えた上で長期間にわたり訴訟活動を行うことを強いられるなど,その着手金額が弁護士一人当たり3000万円前後の高額なものであったことを考慮しても,受任者である弁護士のみが委任者の無資力の危険を一方的にかつ無条件に負担することとされており,法律の専門家である被告らはもとより,特に弁護士として相応の経験を有していたであろうC弁護士において,このように自らに一方的に不利な契約内容を甘受したとは考え難い。
(2)  仮に東京地方裁判所平成25年(ワ)第2760号貸金返還請求事件についての平成25年5月9日付け委任契約(乙2の1)がその作成日付の時点で実際に作成されたものであるとすれば,被告ら及びC弁護士に約7606万円もの着手金を支払う義務を負うこととなったb社において,その支払原資に充てるべき現金や預貯金を保有しておらず,b社の資産の大半を構成する本件株式も,b社が上記貸金返還請求訴訟において敗訴した際には原告によって差し押さえられ,競売手続によるとその時価を大幅に下回って換価されることも容易に想定された以上,上記のような高額な着手金債権が完全な満足を得る見込みは極めて低いものであった。それにもかかわらず,被告らはもとより,C弁護士でさえb社からの支払を担保する措置を全く講じていなかったことは著しく不自然かつ不合理なことであるから,むしろ,そのような担保措置を講じてしかるべき着手金債権はもともと存在していなかったのではないかという疑いを払拭することができない。また,上記貸金返還請求訴訟において,b社からC弁護士への授権を証する委任状が当初提出されず,b社の当初の訴訟活動が被告らのみによって行われていたことは,被告らが共同受任したはずの先輩弁護士であるC弁護士を無視して独断専行していたなどというよりは,当初はC弁護士が共同受任していなかったと考える方が自然であり,そうであるとすれば,上記委任契約(乙2の1)は,受任者という委任契約上の重要な要素を正しく反映していないものであって,その証拠価値は低いと評価せざるを得ない。また,b社からC弁護士や被告Y1への振込送金も,各契約書に記載された契約内容とは異なり,いくばくかの着手金が受任の際に支払われていたのではないかとの疑いを生じさせるものである。
その他,その後に締結された平成25年10月1日付け委任契約(乙2の2),平成27年3月20日付け委任契約(乙2の3),平成27年6月19日付け委任契約(乙2の4),平成26年4月2日付け委任契約(乙2の5),平成25年9月1日付け委任契約(乙2の7)上も,当初締結された平成25年5月9日付け委任契約(乙2の1)に関して生ずる疑問や不自然さを解消し得るに足りるような措置は講じられておらず,かえって上記疑問や不自然さを助長することとなっている。
(3)  このような事情を総合すれば,被告らが第200号債権,第202号債権の発生原因であると主張する委任契約が実際に各作成日付の時点で各契約書に記載された内容で締結されたものとは考え難く,他に第200号債権,第202号債権の発生を基礎付ける主張立証のない本件においては,被告らの配当要求に係る請求債権はいずれも存在しないものといわざるを得ない。
したがって,本件配当表の「配当実施額(円)」欄のうち,被告らへの配当額を取り消し,これを原告への配当額に加算するのが相当であり,具体的には,配当表の「配当実施額(円)」欄のうち,①被告Y1への配当額2272万4842円とあるのを0円に,②被告Y2への配当額2241万4760円とあるのを0円に変更した上,③原告への配当額31億3334万4424円とあるのを31億7841万8244円(31億3334万4424円+(2272万4842円+2241万4760円)×45億3754万0137円/(45億3754万0137円+662万2234円))に,④原告への配当額457万2905円とあるのを463万8687円(457万2905円+(2272万4842円+2241万4760円)×662万2234円/(45億3754万0137円+662万2234円))に変更することとなる。
3  以上と異なる被告らの主張は,上記1で認定し,上記2で判示したところに照らして,いずれも採用することができない。
第4  結論
よって,原告の請求は,その余の点(争点(2) 被告らの配当要求に係る債務名義の有効性)について判断するまでもなく,理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第39部
(裁判官 田中秀幸)

 

〈以下省略〉

 

*******

裁判年月日  平成30年 8月22日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平30(ネ)1929号・平30(ネ)1946号
事件名  損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
裁判結果  控訴棄却、拡張請求認容  文献番号  2018WLJPCA08226003

事案の概要
◇被控訴人会社が、控訴人Y2は訴外Cと共謀して、訴外会社発行に係る転換社債型新株予約権付社債の引受名目で、被控訴人会社から訴外会社に1億円を送金させる方法で騙取し、また、譲渡株式の代金名目で、訴外Cが被控訴人会社に無断で控訴人Y1社の指定する会社に1億5000万円を送金して奪取したなどと主張して、控訴人Y2に対しては共同不法行為に基づき、控訴人Y1社に対しては使用者責任に基づき、2億5000万円の内金1億円等の連帯支払を求めたところ、原審が請求を全部認容したことから、控訴人らが控訴し、被控訴人会社が附帯控訴して請求を拡張した事案

裁判経過
第一審 平成30年 3月 7日 東京地裁 判決 平28(ワ)23315号 損害賠償請求事件

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年 8月22日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平30(ネ)1929号・平30(ネ)1946号
事件名  損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
裁判結果  控訴棄却、拡張請求認容  文献番号  2018WLJPCA08226003

平成30年(ネ)第1929号,同第1946号
損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件
(原審 東京地方裁判所平成28年(ワ)第23315号)

東京都中央区〈以下省略〉
控訴人兼附帯被控訴人 株式会社Y1(以下「控訴人会社」という。)
同代表者代表取締役 B
東京都港区〈以下省略〉
控訴人兼附帯被控訴人 Y2(以下「控訴人Y2」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 佐川明生
同 佐藤未央
東京都中央区〈以下省略〉
被控訴人兼附帯控訴人 株式会社X(以下「被控訴人」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 有賀大輔
同 藤田武俊

 

 

主文

1  控訴人らの控訴を棄却する。
2  被控訴人の附帯控訴に基づき,控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して1億5000万円及びうち5000万円に対する平成27年4月21日から,うち1億円に対する同年5月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  控訴費用及び附帯控訴費用は控訴人らの負担とする。
4  この判決の2項は,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

(前注)略称は,原判決の例による。
第1  当事者の求めた裁判
(控訴の趣旨)
1  原判決を取り消す。
2  被控訴人の請求を棄却する。
(附帯控訴の趣旨)
主文2項と同旨(被控訴人は,当審において,請求をこのように拡張した。)
第2  事案の概要
1  本件は,被控訴人が,控訴人らに対し,控訴人Y2がC(C)と共謀して,①株式会社a(a社)発行に係る転換社債型新株予約権付社債の引受名目で,被控訴人からa社に1億円を送金させる方法で騙取し,②譲渡株式の代金名目で,Cが被控訴人に無断で控訴人会社の指定する株式会社f(f社)に1億5000万円を送金して奪取したなどと主張して,控訴人Y2に対し共同不法行為に基づき,控訴人会社に対し使用者責任に基づき,2億5000万円の内金1億円及びうち5000万円に対する不法行為の日である平成27年4月21日から,うち5000万円に対する不法行為の日である同年5月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
2  原審は,被控訴人の控訴人らに対する請求を全部認容した。
これに対し,控訴人らが控訴した。被控訴人は附帯控訴し,当審において,原審における請求を主文2項のとおり拡張した。
3  前提事実は,原判決を次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)  原判決5頁15行目の「21日」の次に「,被控訴人の預金口座から」を加える。
(2)  原判決6頁5行目の「株式」の次に「(以下「e社株式」という。)」を加える。
4  争点及び争点に関する当事者の主張
(1)  争点1(本件送金1について,控訴人Y2にCとの共同不法行為が成立するか)
(被控訴人の主張)
ア 故意による不法行為
(ア) a社は,i社で51点の評価を受けておらず,第1期(平成25年6月末日締め)の経常損益が24万5351円の損失,第2期(平成26年6月末日締め)の経常損益が25万3931円の利益にすぎず,平成27年4月には事務所を閉鎖して事業を停止し,株式会社g(g社)に対する買掛金を支払えずに仮差押命令の発令を受ける状況であり,多くの負債を抱えた破産間近の会社であって,売上げや利益を見込める状態にはほど遠く,社債の償還や利息の支払を受けたり,化粧品代3000万円を支払うことができない会社であった。
しかるに,控訴人Y2は,平成27年4月8日頃,a社発行に係る転換社債型新株予約権付社債代金の名目で被控訴人の資金を奪取することを企て,Cと上記詐欺を行うことを共謀し,同月11日頃,被控訴人代表者に対し,Cを通じて,a社について,i社の評価が51点の優良企業であること,太陽光関連の販売会社で今期10億円の売上げ,来期40億円の売上げ,4億円の利益獲得を計画している会社であり,被控訴人が本件CBによって融資をすれば,3か月後の同年7月末には返済され,仮に返済が受けられなくとも社債の償還及び利息の支払が受けられるから安全であり,被控訴人の系列会社である株式会社d(d社)に化粧品3000万円の売上げが見込めるとともに宣伝効果があり,販路拡大という相乗効果が得られると述べた。
(イ) 控訴人Y2は,本件CBの発行が成立すれば2000万円の収益を得ることができたから,虚偽の事実を告げてでも本件CBの発行に関する契約を締結させる強い動機があった。
(ウ) 以上のとおり,控訴人Y2は,2000万円を獲得するために,Cと詐欺を共謀の上,被控訴人による1億円の融資の回収可能性を何ら考慮せずに虚偽の事実を申し向け,その結果,被控訴人代表者をその旨誤信させて,被控訴人に本件送金1を行わせたのであって,本件送金1について故意による共同不法行為が成立する。
イ 過失による不法行為
仮に,控訴人Y2が自らの説明が事実でないことを認識していなかったとしても,2000万円の報酬を受けながら,自らの説明の真実性,特にa社の経営状態及び財務状態について通常行うような確認・調査を行わないまま,被控訴人代表者に対し虚偽の事実を告知したことに重大な過失があるから,不法行為が成立する。
(控訴人らの主張)
ア 控訴人Y2が,被控訴人の資金を騙取することをCと共謀したこと,被控訴人に対し虚偽の説明を行ったことは否認する。
イ 控訴人Y2は,Cに対してa社の財務内容等その他の事項を伝えたとき,次のとおりこれらが真実であると信じていたから,虚偽の説明について故意も過失もない。
(ア) a社は,i社の平成27年2月6日時点の信用調査において,その信用要素別評価で「50」の評価を受けていた。一般にこの評点は中小企業であれば取引に心配のないレベルであると評価されている。控訴人Y2は,同年4月7日,Cに対し,a社について,i社51点と説明しているが,これは記憶違いによるものであるし,1点の差は客観的な評価に違いはない。また,控訴人Y2は,Cを通じてa社の決算書や試算表等の資料を被控訴人に提供したり,a社を訪れてスタッフが稼働しているのを確認しており,その他の事実についても真実と認識していたか当然のことを説明しただけであって,何ら虚偽の事実を説明したという認識はない。
(イ) 控訴人Y2は,a社から仮差押決定を受けているという報告を受けておらず,知らなかった。a社の代表取締役であったL(1審相被告L。以下「L」という。)ですらa社の経営が悪化していることを知らず,a社の実態を知るE(E),D(D)及びM(1審相被告M。以下「M」という。)が加わったソーシャルネットワーキングサービスのLINEのメッセージのやり取り(本件グループトーク)においても,経営の悪化等に関するやり取りはないのであって,控訴人Y2が虚偽の事実を説明したことはない。
(ウ) 化粧品3000万円分はa社に実際に納品されて,d社に3000万円の売上げが計上されているのであって,その後の控訴人Y2のあずかり知らない事情により代金が支払われなかったにすぎず,控訴人Y2の説明は虚偽ではない。また,化粧品の販売については,売上げの計上という目的に加えて,被控訴人のビジネスが,主婦層から実際に化粧品の販売をしていないにもかかわらず化粧品の販売名目で資金調達をするという,いわゆるネズミ講に近いネットワークビジネス(連鎖販売)を行っていたことを捉えて提案したものである。むしろ,被控訴人代表者は,化粧品の3000万円の売上げが計上されることに魅力を感じ,積極的に本件CBの引受をCに指示していたのが実態である。
(エ) 被控訴人は,本件CB発行に当たり,出資の際に通常行うはずの財務面からの検討を全く行わなかったことから,その回収が不能になったにすぎず,被控訴人と本件CBの発行に関して何ら契約関係になく,しかも被控訴人から報酬も受領していない控訴人Y2が,被控訴人に対し,a社の財務内容について責任を負うものではない。むしろ,控訴人Y2は,本件CBの仲介役であるF(F)とともに,被控訴人の社債権の保全を図るための措置をa社に強く求めていた。
ウ 控訴人Y2がCと共謀した事実はない。
(ア) 控訴人Y2は,本件CB発行の直近の平成27年2月頃,被控訴人が控訴人会社に出資することをきっかけにCと面識を持っただけであるところ,控訴人Y2とCとの間のチャットワーク(甲9)においても,被控訴人からの騙取等の共謀において当然あるはずの金銭の分配についてのやり取りが一切されていないこと,控訴人Y2はCに1円も支払っていないことからすれば,Cとの共謀がなかったことは明らかである。
(イ) 控訴人会社がa社から受領した2000万円は,a社と控訴人会社との間のコンサルティング契約に基づく本件CBの発行に対する報酬であるし,控訴人Y2が本件CBの発行に関する登記書類を作成することも,a社と控訴人会社との間のコンサルティング契約に基づくものであり,共謀の事実を推認するものではない。
エ 本件CBは有効に発行され,登記も完了しており,被控訴人はその意思決定に基づいてこれを引き受けているのであり,引受及び発行に瑕疵はない。被控訴人は,結果的に失敗に終わった本件CBの引受けの損害の責任を控訴人らに転嫁しようとしているにすぎない。
(2)  争点2(本件送金2について,控訴人Y2にCとの共同不法行為が成立するか)
(被控訴人の主張)
ア 控訴人Y2は,平成27年4月頃,被控訴人代表者に対し,被控訴人が控訴人会社からその保有するe社株式を買い取ることで,e社の株主としてマレーシアの人脈を開拓することを提案して被控訴人代表者の承諾を得て,被控訴人からe社株式の売買代金名目で1億5000万円を騙取し,又は被控訴人代表者が承諾しない場合でも,被控訴人代表者に無断で本件譲渡契約書を作成して,同額を控訴人Y2が支配しているf社宛てに送金して奪取することを企て,Cと上記金員騙取等を共謀の上,Cにおいて被控訴人代表者に対しe社株式の購入を申し向けた。しかし,被控訴人代表者から承諾を受けられなかったことから,Cは,被控訴人代表者に無断で,本件譲渡契約書を作成した上で本件送金2を行い,もって不正に送金した。控訴人Y2とCの上記行為は,本件送金2について共同不法行為が成立する。
イ 控訴人Y2とCが上記共謀をしたことは,次の事実から明らかである。
(ア) 控訴人Y2が自ら1億5000万円という金額を提案して,Cに実体又は価値のないe社株式の本件譲渡契約書を作成させ,被控訴人の会計を担当していたCに同金額をf社宛てに振り込ませたところ,控訴人Y2は,このことについて被控訴人の許可を得なくてよいと考えていた。
(イ) 控訴人Y2とCは,平成27年4月30日,チャットにおいて,原判決別紙のとおりのやり取りをした。
ウ e社の実体は不明であり,被控訴人がe社に連絡しても何らの返信もないし,控訴人らは,e社に対し,株式を譲渡した旨の通知を全くしていないだけでなく,そもそも控訴人会社がe社株式を保有していたという明確な証拠がない。e社株式の譲渡についてCが何ら反論をしなかったことも,e社株式の譲渡名目の本件送金2が正当な取引でなかったことを裏付ける。
仮に,控訴人会社がe社株式を有していたとしても,その価値は1091万円であり,本件譲渡契約書における1億5000万円を大きく下回るものであって,e社株式を1億5000万円で譲渡すること自体が,被控訴人に少なくとも1億4000万円の損害を生じさせる行為であり,本件送金2が控訴人Y2及びCによる奪取であることは明らかである。
エ 仮に,e社株式が存在し,かつ,控訴人Y2が,被控訴人の承諾があったと誤信していたとしても,e社株式を1億5000万円で売却すれば被控訴人に1億4000万円の損害が発生することを認識していたといえ,被控訴人に対して損害を加える故意が認められる。そして,e社株式の売買契約の申込み,価格設定,同契約の締結をしている以上,控訴人Y2の行為は,Cの不法行為と客観的関連共同が認められる。
(控訴人らの主張)
ア 控訴人Y2とCとのチャットワーク(甲9)から明らかなとおり,被控訴人代表者は,平成27年4月18日,マレーシアの件を進めてほしい旨述べてe社株式の譲受けを承諾し,その後一旦は躊躇したものの,同月30日にはCからの説明を受けて納得して,被控訴人のマレーシアにおける事業について議論をし,マレーシアでの人脈作りを期待した上で本件送金2を承諾し,Cに指示したのである。
Cが被控訴人代表者に無断で1億5000万円の振込を行うのであれば,被控訴人代表者と打合せを重ねてその意思を確認する必要はなく,本件譲渡契約書のとおり同月30日に振込をしたはずであり,振込が同日から1日遅れた同年5月1日になった事実は,被控訴人代表者の承諾があったことの証左である。
イ 控訴人Y2とCが騙取を共謀していたのであれば,他人の目に触れることのないチャットワーク(甲9)において,控訴人Y2に虚偽の報告をする必要がないのであるから,Cの控訴人Y2に対する報告内容は真実といえる。したがって,控訴人Y2が,Cと共謀して本件送金2を不正に行ったとはいえない。
ウ 控訴人Y2は,Cとともにe社株式を譲渡した後も,被控訴人のために,e社の人脈等を利用して,マレーシアにおいて被控訴人が扱う化粧品等の商品の販売を拡大する方針で一致しており,真にマレーシアでの被控訴人のビジネスの展開を考えていたのであるから,被控訴人の資産の騙取を共謀するはずがない。
エ e社株式の譲受けは,被控訴人代表者自身が承諾,指示して行ったものである。被控訴人は,結果的に失敗に終わった責任を控訴人らに転嫁しようとしているにすぎない。
(3)  争点3(控訴人Y2が控訴人会社の被用者で,本件送金1及び2が控訴人会社の事業の執行に当たるか)
(被控訴人の主張)
控訴人Y2は,本件送金1及び2の当時,控訴人会社の最高経営責任者として,Cと共謀の上,経営指導・経営コンサルタント業の一環として本件送金1及び2を行ったのであるから,控訴人会社の被用者として「事業の執行」について本件送金1及び2を行ったといえ,控訴人会社は使用者責任を負う。
(控訴人会社の主張)
控訴人Y2は,控訴人会社の最高経営責任者と称して控訴人会社の業務に従事していたものの,控訴人会社の役員及び労働者ではなく,指揮命令を受けることはなく,控訴人Y2独自の判断で当該業務を遂行していたにすぎない。
したがって,控訴人Y2は控訴人会社の被用者ではないから,控訴人会社が,控訴人Y2の行為について使用者責任を負う根拠はない。
(4)  争点4(被控訴人の損害額及び因果関係)
(被控訴人の主張)
ア 被控訴人は,本件送金1により1億円を騙取されたから,本件送金1と相当因果関係にある損害が1億円を下らないことは明らかである。
イ 被控訴人は,本件送金2により1億5000万円を奪取されたから,本件送金2と相当因果関係のある損害が1億5000万円を下らないことは明らかである。仮に,e社自体が存在し,控訴人会社がe社株式を保有していたとしても,譲渡に係るe社株式が1億5000万円の価値があることは何ら反証されておらず,むしろせいぜい1091万円の価値しかないのであるから,被控訴人の損害を否定する根拠とはならない。
(控訴人らの主張)
ア 本件送金1について,被控訴人は本件CBの引受けを承諾しているし,本件CB発行は有効に行われているから,被控訴人に損害は生じていない。
イ 本件送金2について,控訴人会社は,平成26年3月11日,I(I)が保有するe社株式を譲り受け,これを保有していたのは明らかであるし,e社は,マレーシアにて登記(登録)されてホームページを開設しているなど,現在でもマレーシアにて事業を行っている実体のある会社である。そして,控訴人会社は,平成27年4月30日,被控訴人に対し,本件譲渡契約書をもって,その保有するe社株式を譲渡代金1億5000万円で譲渡し,同年5月1日,その代金が支払われたことで,e社株式の譲渡の効力は確定的に生じた。
なお,控訴人会社によるe社株式の取得金額は1091万円であるが,通常の転売ビジネスで購入希望者に取得金額を伝えることはないことからも明らかなとおり,取得価格と転売価格の差をもって損害であるとはいえない。
第3  当裁判所の判断
1  当裁判所は,被控訴人の請求をいずれも認容するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおりである。
2  認定事実
上記前提事実並びに証拠(甲1ないし19,乙イ1ないし8,乙ロ1,乙ハ1(枝番を含む。),被控訴人代表者本人,控訴人Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  被控訴人とC及び控訴人らとの関係
ア 被控訴人代表者は,平成18年に被控訴人を設立し,平成22年10月頃,従兄弟から紹介されたCに被控訴人の経理処理を任せるようになった。被控訴人は,平成23年4月,Cとの間で記帳代行等の業務委託契約を締結し,被控訴人代表者が100%出資しているd社も,平成24年3月,同様の業務委託契約を締結した。Cが勤務先を退職すると,平成26年10月からd社においてCを雇い,被控訴人の経理事務に従事させていた。被控訴人代表者は,5年近くCに不正はなく,Cを仕事熱心な人物として信頼していた。
イ Cは,Kを通じて控訴人Y2と知り合い,平成27年3月頃,被控訴人代表者に対し,コンサルタントとして控訴人Y2を紹介した。被控訴人代表者は,控訴人Y2から,d社の株式の店頭公開に向けた協力等を受けることとした。また,被控訴人代表者は,控訴人会社との提携等が大きなビジネスチャンスであると考え,被控訴人は,同年3月及び同年4月,控訴人会社の発行済み株式の10%弱に相当する合計2万5000株を約2億円で取得した(乙イ1,2)。控訴人Y2とのやり取りはCが窓口となった。
ウ Cは,平成27年4月,d社の代表取締役に就任した。
(2)  a社の実態
ア a社は,平成24年9月に,Eの友人の父が営んでいた建設業を法人化するためEが出資して設立された建設会社であり,当初は,Eの友人が,その後はその母Nが代表取締役を務めていた。
イ a社の第1期(平成24年9月3日から平成25年6月30日まで)の売上高は557万4800円,経常損失は24万5351円であり,従業員の状況の申告はなく,常勤役員1名の役員報酬36万円が計上されているのみであり,同期末時点の資産の部の合計は941万5219円,負債の部の合計は166万0570円であり,短期借入金は2万2100円であった。また,a社の第2期(同年7月1日から平成26年6月30日まで)の売上高は713万0392円,経常利益は25万3931円であり,従業員の状況の申告はなく,役員報酬は計上されておらず,同期末時点の資産の部の合計は795万7609円,負債の部の合計は1529円であり,借入金は計上されていなかった。(甲2の1・2)
ウ Eは,平成26年8月頃,太陽光事業に参入しようとしていたところ,妻の友人の元夫であるDがa社に出入りするようになった。その後,Dのつながりで,F,Mなど多数の者がa社の経営に関与するようになり,同年12月,Nは代表取締役を辞任した。
エ a社は,平成26年10月頃,太陽光事業に従事する人員が約30名になり,Eの出資により資本金は3000万円になった。平成27年1月頃には,テレフォンアポインター約100名,営業職約30名,事務職約30名の合計約160名の体制となった。
オ Lは,平成27年1月にa社に入社し,法人向けの太陽光発電の営業職として勤務するようになり,同年3月,E,D及びMから就任を要請されて代表取締役に就任したものの,その後もその業務内容は従前と変わらず,a社の経営は