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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(107)平成27年 9月29日 東京地裁 平20(ワ)37367号 損害賠償等請求事件(本訴)、損害賠償請求反訴事件(反訴)

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(107)平成27年 9月29日 東京地裁 平20(ワ)37367号 損害賠償等請求事件(本訴)、損害賠償請求反訴事件(反訴)

裁判年月日  平成27年 9月29日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(ワ)37367号・平22(ワ)19806号
事件名  損害賠償等請求事件(本訴)、損害賠償請求反訴事件(反訴)
裁判結果  一部認容(本訴)、請求棄却(反訴)  上訴等  控訴  文献番号  2015WLJPCA09298035

要旨
◆原告c社が、証券会社である原告a社と被告d社との間の日経225オプションに係る取引によって発生した決済不足金に関する原告a社の被告d社に対する立替金償還請求権を譲り受けたとして、被告d社に対し、一部請求として立替金の償還を求めるとともに、被告d社の唯一の取締役かつ代表取締役であった被告Lに対し、同人が被告d社と訴外f社との間の投資一任契約に基づいて運用される契約資産を2倍以上に増額して投資一任を継続する旨の変更合意をした結果、被告d社が支払不能に陥ったことに係る原告a社の被告Lに対する損害賠償請求権を譲り受けたとして、損害賠償を求めた(本訴)ところ、被告d社が、原告a社の説明義務違反及び適合性原則違反を主張して、同社を吸収合併した被告b社に対し、損害賠償を求めた(反訴)事案において、訴外f社等が明らかに法令等に反した運用の指図を行うといった特段の事情はないから、原告a社が被告d社主張の義務を負うことはないなどとして、反訴請求を棄却する一方、原告c社の立替金償還請求権を認め、また、被告Lの悪意又は重大な過失による任務懈怠を否定するなどして、被告d社に対する本訴請求を認容した事例

裁判経過
上告審 平成29年 8月22日 最高裁第三小法廷 決定 平29(オ)930号・平29(受)1167号
上告審 平成29年 8月22日 最高裁第三小法廷 決定 平29(オ)929号・平29(受)1166号
控訴審 平成29年 1月26日 東京高裁 判決 平27(ネ)5495号 損害賠償等、損害賠償反訴請求控訴事件

参照条文
民法1条2項
民法1条3項
民法415条
民法418条
民法650条1項
民法709条
商法552条2項
会社法429条1項
金融商品の販売等に関する法律4条(平18法66改正前)

裁判年月日  平成27年 9月29日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(ワ)37367号・平22(ワ)19806号
事件名  損害賠償等請求事件(本訴)、損害賠償請求反訴事件(反訴)
裁判結果  一部認容(本訴)、請求棄却(反訴)  上訴等  控訴  文献番号  2015WLJPCA09298035

平成20年(ワ)第37367号 損害賠償等請求事件(以下「本訴」という。)
平成22年(ワ)第19806号 損害賠償請求反訴事件(以下「反訴」という。)

当事者等 別紙当事者等目録記載のとおり

 

 

主文

1  本訴被告株式会社dは,本訴原告a株式会社訴訟承継人b株式会社引受承継人に対し,15億0993万0811円及びこれに対する平成20年10月21日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
2  本訴原告a株式会社訴訟承継人b株式会社引受承継人のその余の請求及び反訴原告の請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,本訴及び反訴を通じて,これを10分し,その3を本訴原告a株式会社訴訟承継人b株式会社引受承継人の負担とし,その余を本訴被告兼反訴原告株式会社dの負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  本訴
(1)  主文第1項と同旨
(2)  本訴被告Lは,本訴原告a株式会社訴訟承継人b株式会社引受承継人に対し,15億0993万0811円及びこれに対する平成20年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  反訴
反訴被告は,反訴原告に対し,19億6070万2150円及びこれに対する平成20年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  本件は,次の本訴及び反訴より成る事案である。
(1)  本訴
次のア及びイの請求が併合されたものである。
ア ① 本訴被告(兼反訴原告)d株式会社(以下,単に「d社」という。)が本訴原告(兼反訴被告)であるa株式会社(以下,単に「a社」ということがある。その後,b株式会社によって吸収合併されたことに伴い,同社が訴訟承継した。)との間で締結した先物・オプション取引委託契約(以下「本件委託契約」という。)等に基づき,a社に対し日経225オプションの売り取引等を注文し,これを受けたa社が商法551条所定の問屋として,株式会社大阪証券取引所(以下「大阪証券取引所」という。)が開設する市場(以下「大阪市場」ということがある。)等においてd社の注文を執行する取引(以下,d社とa社との間の取引のうち,日経225オプションに係るものを「本件取引」といい,その余のものを含めた当該取引全体を「本件全部取引」という。)をしていたところ,本件取引による決済不足金が発生し,その支払のため,a社が平成20年10月14日に15億7954万9281円を支出したこと,② その結果,a社が商法552条2項,民法650条1項に基づき,d社に対して,立替金償還請求権を取得したこと,③ a社が上記立替金償還請求権を平成22年5月27日に本訴原告a株式会社訴訟承継人b株式会社引受承継人である株式会社c1(平成25年4月1日に「株式会社c」に商号変更された。以下,この商号変更の前後を通じて,単に「c社」という。)に譲渡したこと等を理由に,c社が,d社に対し,上記立替金償還請求権に基づき,上記支出額15億7954万9281円の一部である15億0993万0811円及びこれに対する弁済期後の平成20年10月21日から支払済みまで約定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求めるもの
イ ① d社がa社との間で本件委託契約を結ぶとともに,f株式会社(以下「f社」という。)との間で投資一任契約(それに基づいて運用される資産〔以下「契約資産」という。〕を10億円とするもの)を結ぶなどし,それらに基づいて日経225オプションの売りを主とする本件取引を続けていたこと,② そうしたところ,平成20年10月8日に11億円ほどの追加証拠金を預託することが必要となる事態となる中で,d社が同日又は同月9日にf社との間で契約資産を二倍以上に増額して投資一任を継続する内容の投資一任契約の変更合意をしたこと,③ 当該変更合意をするに当たり,d社の唯一の取締役かつ代表取締役である本訴被告L(以下,単に「L」という。)としては,これをしない場合には少なくとも支払資金が不足し取引先に損害を与える危険は全くない一方,これをする場合には予期に反して取引先に損害を与える危険があったことから,両者の場合の利害得失を検討して,上記危険が現実化する事態が生じた場合でもd社が支払をすることができる見込みを確保した上で当該変更合意をし,それができなければオプションの売り建玉を全て決済して取引を中止するべき注意義務を負っていたこと,④ それにもかかわらず,Lが悪意又は重大な過失によりこの任務を懈怠して契約資産を二倍以上に増額して投資一任を継続する旨の変更合意をした結果,d社が支払不能に陥ったこと,⑤ そのためa社が本件委託契約に基づき決済不足金を支払うために支出した金員相当額の一部である15億0993万0811円をd社から回収できなくなり,あるいは,d社が支払不能であるにもかかわらずa社が上記金員相当額の支出をせざるを得なくなった結果,a社が同額相当の損害を被ったこと,⑥ 上記①ないし⑤を根拠として,a社が会社法429条1項に基づき,Lに対して損害賠償請求権を取得したこと,⑦ a社が上記損害賠償請求権を平成22年5月27日にc社に譲渡したこと等を理由に,c社が,Lに対し,上記損害賠償請求権に基づき,損害金15億0993万0811円及びこれに対する本訴状送達日である平成20年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるもの
(2)  反訴
d社が,①〈ア〉 平成19年7月4日にa社との間で本件取引を開始する際に,d社に対してオプション取引に関するリスクの説明をする義務を負っていたのに,a社がこれを十分に行わなわないという説明義務違反があり,また,d社の唯一の株主及び取締役が昭和57年○月○日生まれのLであって,d社の資産が5億円未満で,資本金が1億5680万円にすぎないこと等をa社が認識していたから,本件取引を開始させないか,売り建玉を適切に制限する措置を講じるべきであったのに,a社がこれを怠るという適合性原則違反があったこと,〈イ〉 平成20年9月16日に証拠金6億円を支払って本件取引の内容を拡大させる際に,d社の唯一の株主及び取締役がLであり,d社の資本金が1億5680万円にすぎないことを認識していたから,d社の知識,経験,財産の状況等を確認した上で,指導助言を行い,本件取引の内容を拡大させない措置を講ずるべきであったのに,a社がこれを怠るという説明義務違反又は適合性原則違反があったこと,又は〈ウ〉 平成20年10月8日の取引終了後同月9日に11億0192万3442円の追加証拠金を支払うまでに,d社の唯一の株主及び取締役がLであり,d社の資本金が1億5680万円にすぎないことを認識していたから,d社の知識,経験,財産の状況等を確認した上で,指導助言を行い,本件取引の内容を拡大させない措置を講ずるべきであったのに,a社がこれを怠るという説明義務違反又は適合性原則違反があったこと,② これらの結果,d社がa社との間で本件取引を開始し,その内容を拡大していき,最終的に39億2140万4301円の損害を被ったこと,③ 反訴被告a株式会社訴訟承継人b株式会社(以下,単に「b社」という。)がa社を吸収合併したこと等を理由に,b社に対し,債務不履行,不法行為又は金融商品の販売等に関する法律(平成18年法律第66号による改正前のもの。以下「金融商品販売法」という。)4条に基づく損害賠償請求権に基づき,上記損害金の5割に相当する19億6070万2150円及びこれに対する平成20年10月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるもの
2  前提事実(証拠原因を掲記しないものは争いがない。)
(1)  当事者
ア a社は,大正12年に創業し,平成18年10月1日に「a1株式会社」から「a2株式会社」に,平成20年12月1日に「a2株式会社」から「a株式会社」にそれぞれ商号変更をした金融商品取引法所定の第一種金融商品取引業者(証券取引法所定の証券会社)であるが(以下,これらの商号変更の前後を通じて「a社」と呼称する。),平成22年9月20日にb社に吸収合併された。(甲1,弁論の全趣旨)
イ b社は,昭和24年7月20日に設立された株式会社で,金融商品取引法所定の金融商品取引業者である。(弁論の全趣旨)
ウ c社は,昭和48年10月24日に設立された株式会社で,平成13年4月1日に「株式会社c1」に商号変更され,さらに,平成25年4月1日に現在の商号に変更された(以下,これらの商号変更の前後を通じて「c社」と呼称する。)。
エ d社は,平成18年6月30日まで,株式会社g(以下「g社」という。)の100%子会社であったが,その後,Lが100%株主となった株式会社である。なお,Lが100%株主となった後,d社にはプロパーの従業員がおらず,g社の創業者でその筆頭株主兼代表取締役会長であるD(以下「D」という。)の秘書であるEがd社の従業員としてその事務処理を行っていた。
オ Lは,Dの長男(昭和57年○月○日生)であり,平成18年6月30日に,g社からd社の発行済み株式全てを譲り受けるとともに,d社の取締役及び唯一の代表取締役に就任し,平成20年10月10日に辞任するまでその立場にあった。なお,g社は,主に日用雑貨品等の卸売販売及び小売販売を営む株式会社で,現在,その発行株式は,東京証券取引所に上場され第一部銘柄に指定されている。(甲2,乙59,弁論の全趣旨)
(2)  日経225オプション取引
ア オプション(ヨーロピアンタイプ)とは,特定の商品(原資産)をあらかじめ定められた期日(満期日,権利行使日)に,あらかじめ定められた価格(権利行使価格)で買い付け,又は売り付ける権利をいい(前者の権利を「コールオプション」,後者の権利を「プットオプション」という。),これらの権利の取引をオプション取引という。オプションの買手は,それらの権利を得る対価として,売手にプレミアムと呼ばれる対価を支払い,そのことによって原資産の価格変動リスクをヘッジすることができ,売手は,買手からプレミアムを受け取る代わりに原資産の価格変動リスクを引き受けることになる。(甲4,弁論の全趣旨)
イ 日経225オプション取引は,日経225(東京証券取引所第一部指定銘柄から225銘柄を選定し,それらの株価を基に算出される株価指数であり,日経平均株価とも呼ばれる。)を原資産として,大阪市場に上場されたヨーロピアンタイプのオプション取引である。日経225オプションは,プレミアム(オプション価格)に1000を乗じて得た額を1単位として取引される。(甲4,弁論の全趣旨)
日経225オプションの買手と売手は,満期日前日(取引最終日)まで,大阪市場において転売又は買戻し(反対売買)によって決済することができるほか,オプションの買手が満期日(権利行使日)に権利行使することによっても決済が行われ,この場合,特別清算指数(SQ。取引最終日の翌日における日経225の構成銘柄の始値に基づいて算出される特別な清算指数)と権利行使価格との差に相当する金銭(以下「権利行使差金」という。)を売手が支払うことになる。権利行使差金は,満期日(権利行使日)の翌日までに支払わなければならない。なお,満期日(権利行使日)において権利行使されなかったオプションは消滅する。(甲4,弁論の全趣旨)
ウ 顧客は,直接,大阪市場において日経225オプション取引を行うことはできず,同取引を行う場合には,第一種金融商品取引業者(証券会社)に証券口座を設定した上で,第一種金融商品取引業者との間で先物・オプション取引口座設定契約(問屋契約)を締結しなければならない。顧客との間で第一種金融商品取引業者は問屋営業の関係に立ち,第一種金融取引業者が大阪証券取引所に対して債権債務を負い,第一種金融商品取引業者は,顧客に対して費用等の償還請求を行う。
エ オプション取引の売手となる顧客は,取引契約の履行を担保するため,証拠金を差し入れなければならない。必要証拠金は,大阪証券取引所が「SPAN」(シカゴマーカンタイル取引所が開発したリスクベースの証拠金計算システム)で計算したSPAN証拠金額に基づき算出する。必要証拠金額が既に差し入れている証拠金の金額を上回り,証拠金不足額が発生した場合には,その翌日までに追加証拠金を差し入れなければならない。(甲4,16)
(3)  d社とa社の取引経緯
ア d社は,平成19年7月2日,a社に証券口座設定申込書(甲5)を提出し,同月4日,1億円をa社に対し振込送金することにより,a社との本件全部取引を開始した。なお,本件全部取引を開始するに当たり,d社は,a社に対し,先物・オプション取引口座設定約諾書(甲6)を差し入れて,大阪市場において取引される有価証券指数等先物取引及び有価証券オプション取引の委託をした。上記約諾書には,次の趣旨の約定が定められていた。(甲6,12)
(ア) d社がオプション取引に関し,a社に負担する債務を所定の時限までに履行しないときは,通知,催告を行わず,かつ,法律上の手続によらないで,d社が委託証拠金として預託した代用有価証券をd社の計算において,その方法,時期,場所,価格等はa社の任意で処分し,その取得金から諸費用を差し引いた残額を法定の順序にかかわらず債務の弁済に充当されても異議がない。
(イ) d社がオプション取引に関し,a社に対する債務の履行を怠ったときは,a社に対し履行期日の翌日より履行の日まで,大阪証券取引所の定める率による遅延損害金を支払う(なお,同率は,100円につき1日4銭とされ,年率に換算すると14.6%である。)。
イ a社とd社との間の本件全部取引は,当初,株式会社h(以下「h社」という。)とd社との間の投資一任契約(甲49)を前提として,a社がd社の証券口座を設定し,h社の指図に基づいて取引を執行するというものであった。そのため,上記投資一任契約のほか,a社,d社及びh社の三者間での投資一任契約に伴う契約資産の預託に関する契約(甲7)が平成19年7月4日に締結された。
d社とh社との間の投資一任契約が継続する間は,一貫して,h社の取締役会長兼ファンドマネージャーであるF(以下「F」という。)がa社に対して運用の指図を行っていたが,平成20年4月,Fがh社から退職することに伴い,Fの指図により,a社とd社との間の本件全部取引は,一度中断した。
ウ その後,Fがf社に移籍したため,平成20年7月30日にd社とf社との間で投資一任契約が,同年8月1日にa社,d社及びf社の三者間で投資一任契約に伴う契約資産の預託に関する契約(甲8)が締結され,a社とd社との間の本件全部取引が再開された。(甲8)
エ 平成20年10月8日,日経平均株価が大きく下がったことに伴い,本件取引における必要証拠金額が23億9379万6420円となった。そのため,追加証拠金を差し入れることが必要となり,同月9日,d社は,a社の証券口座に11億0192万3442円の入金をした。a社は,同入金分から同日の決済金を控除した10億9975万0867円を証拠金とした結果,d社から預け入れられた証拠金の合計額は23億4185万5020円となった。(甲18)
オ 本件取引に基づくd社の平成20年10月9日取引終了時点のプットオプションの売り建玉は,いずれも同月限月(満期日〔権利行使日〕を同月10日とするもの)であり,その具体的内容は次のとおりであった。(甲10,18)
(ア) 権利行使価格9000円のもの 2383枚
(イ) 権利行使価格9250円のもの 846枚
(ウ) 権利行使価格9500円のもの 247枚
(エ) 権利行使価格9750円のもの 25枚
カ 平成20年10月10日の特別清算指数(SQ)が7992円60銭となったため,上記オの建玉のまま同日を迎えたd社は,権利行使差金を支払って同建玉の決済をすることになった。その結果,d社は,手数料を含めて合計39億2140万4301円をa社に支払うべきことになり,上記エの証拠金が充当されてもなお,上記決済に係る不足金が残る状況となった(なお,d社に損失が発生したことを,Fは,Dに直接連絡した。)。しかし,d社は,その弁済期である同月14日までにその支払をしなかった。
そのため,a社は,同日,上記不足金を支払うため15億7954万9281円を支出した。
(甲10,18,弁論の全趣旨)
キ a社は,平成20年10月15日,d社との間で締結した先物・オプション取引口座設定約諾書の定めに基づき,d社に対し,本件取引に係る債務の期限の利益を喪失させることを請求するとともに,d社から預託を受けていた代用有価証券を売却し,同月20日,その売却代金7384万円から手数料を控除した後の7340万9388円を取得した。そして,a社は,そのうち379万0918円を上記カの15億7954万9281円の立替金に係る同月15日から同月20日までの遅延損害金に充当し,残金6961万8470円を上記立替金元金に充当した。(甲11,13の1,18,弁論の全趣旨)
ク d社は,a社に対し,平成21年4月27日の本件弁論準備手続期日において,d社のa社に対する説明義務違反又は適合性原則違反を理由とする損害賠償請求権をもって,c社の本訴アの請求債権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。(顕著な事実)
ケ a社は,平成22年5月27日,本訴アの請求に係るd社に対する立替金償還請求権及び本訴イに係るLに対する損害賠償請求権をc社に譲渡し,当該債権譲渡をした旨を,d社に対して同月28日,Lに対して同年6月1日,それぞれ通知した。
3  争点
(1)  a社の説明義務違反又は適合性原則違反の有無
(2)  a社の違反行為と損害との間の相当因果関係の有無
(3)  d社への立替金償還請求に係る相殺の成否
(4)  d社への立替金償還請求に係る過失相殺の要否
(5)  d社への立替金償還請求に係る信義則違反又は権利濫用の有無
(6)  Lの悪意又は重大な過失による任務懈怠の有無
(7)  Lの任務懈怠と損害との間の相当因果関係の有無
(8)  Lへの損害賠償請求に係る過失相殺の要否
(9)  Lへの損害賠償請求に係る信義則違反の有無
4  争点に対する当事者の主張の要旨
(1)  a社の説明義務違反又は適合性原則違反の有無(争点(1))について
【d社】
ア 本件取引は,極めてリスクが高い取引類型であるオプションの売り取引を主なものとするものであって,次の(ア)ないし(ウ)の各時点でa社に説明義務違反又は適合性原則違反があることは明らかである。
(ア) 本件取引開始時
a社は,平成19年7月4日にd社がオプション取引を開始する際,郵便による書類のやり取りで,証券口座設定申込書及び先物・オプション取引口座設定約諾書を差し入れさせただけで,代表取締役であるLと面談をすることもなく,金融商品取引法3条及び信義則上行うべきオプション取引に関するリスク説明を十分に行わなかった。
また,a社は,同日にd社がオプション取引を開始する際,d社の株主及び唯一の取締役かつ代表取締役がその当時24歳のLであり,Lがオプション取引に関する十分な知識や経験を有していないこと,d社の資産が1億円から5億円未満で,その資本金が1億5680万円にすぎないことを知っていたから,証券取引法40条及び信義則上の適合性原則に基づき,オプション取引を開始させないか,又は売り建玉を適切に制限するといった措置を講じるべき義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,何らの指導助言もしないまま,d社に対し,証拠金を7億円とするオプション取引を開始させた。
(イ) 本件取引継続時
a社は,平成20年9月16日にd社が証拠金として6億円を追加する際,d社の株主及び唯一の取締役かつ代表取締役がその当時25歳のLであり,d社の資産が1億円から5億円未満で,その資本金が1億5680万円にすぎないことを知っていたから,本件取引に付随する信義則上の義務として,その時点でのd社の知識,経験,財産の状況を確認し,それを踏まえて指導助言をし,オプション取引を継続拡大させない義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,何らの指導助言もせずにd社から6億円の証拠金を漫然と受け入れ,取引を継続拡大させた。
(ウ) 本件取引のリスク増大時
a社は,d社の知識,経験,財産の状況等を把握しており,平成20年10月8日の取引終了後から同月9日の取引終了時までの間に,d社の財産状態が極度に悪化していることを十分に認識していたから,適切な説明や指導助言をして取引を継続させない措置を講じるべきであった。また,d社がf社に投資一任していたが,取引を継続拡大すればするほど,投資顧問業者が受け取ることができる手数料が増え,自らの収益を上げることができる一方,取引を継続した結果損失が生じた場合に当該損失を負担するのはd社であるという関係にあることからすれば,a社としては,f社が取引を継続する方向で助言を行う可能性があることを考えて,顧客の保護,ひいては自らのリスク管理という観点から,その時点におけるd社の資産状況に加えて,追加証拠金を支払って取引を継続しても問題がないのか,すなわち,リスク許容度について確認するべきであった。a社は,本件取引に付随する信義則上の義務として,以上のような義務を負っていたにもかかわらず,何らの説明や指導助言,リスク許容度の確認もしないまま,d社に対して11億0192万3442円の追加証拠金を請求してこれを漫然と受け入れて,取引を継続させ,d社が預託する証拠金を24億0192万3442円にまでふくれ上がらせた。
イ a社は,本件取引の相手方がd社であるにもかかわらず,本件取引の開始時,取引継続時及びリスク増大時のいずれの時点においても,Dの資産を一方的に当てにして,もし何かが起こったとしても,Dが何とかしてくれるはずであるという一方的な期待を抱いていた。そのため,d社の証券口座の設定手続を郵送で行ったほか,d社の代表取締役で株主であるLと面談をしようとしたり何らかの説明や指導助言をしようとしたりすることはなく,また,投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態といったd社の属性を十分に確認しないまま,本件取引を開始し,取引内容を拡大させていったのである。
ウ 金融商品販売法3条3項は,「一の金融商品販売業者等」である投資顧問業者が「顧客の行う行為を代理する者」に当たる場合に,当然に「他の金融商品販売業者等」の重要事項についての説明義務を免除する趣旨の規定ではない。また,同項本文が本件に適用されるとしても,その免除の要件につき主張立証責任を負うのは,証券会社側である。
【c社及びb社】
ア(ア) d社は,金融商品取引業者であるh社及びf社との間で投資一任契約を締結して投資運用を一任していたから,a社は,金融商品販売法3条3項ただし書により,説明義務を免除されている。
(イ) 仮に,金融商品販売法3条3項ただし書によって説明義務が免除されるわけではないとしても,証券会社としては,投資一任契約を締結し資産運用を行うことについて代理権限を有しその裁量をもって投資を行う投資顧問業者(金融商品取引業者)に対する説明をもって顧客本人に対する説明を果たしたことになると解されるところ,金融商品販売法3条1項の説明義務に関する規定がリスクに関する正しい認識を持った上で顧客が契約を締結するか否かの意思決定をすることができるようにするためのもので,金融商品販売法3条4項1号において,顧客が金融商品の販売等に関する専門的知識及び経験を有する者として政令で定める者である場合には金融商品販売法3条1項における説明義務に関する規定を適用しないと規定され,専門的知識及び経験を有する者に対しては説明が不要とされている趣旨からすれば,証券会社が投資一任契約を締結した金融商品取引業者に対して説明義務を負うことはない。
本件取引開始当時から,d社は,金融商品取引業者であるh社及びf社との間で投資一任契約を締結して,投資運用を一任し,d社とa社との間では,a社は,h社及びf社の投資判断及び指示に従うものとされていたのであって,投資のプロであるh社又はf社からオプション取引の指図を受けてきたにすぎないa社につき,d社に対する説明義務違反及び指導助言義務違反が認められる余地はない。
(ウ) a社は,d社との取引を開始するに際して,d社に対し,説明書を交付した上で商品内容やリスクの説明を行い,d社は,これを十分に理解した上で,本件取引を開始したから,a社に説明義務違反はない(d社がa社に提出した「株価指数オプション取引に関する確認書」〔甲27〕には,d社が日経225オプション取引を行うに際し,a社より商品の説明〔リスク説明を含む。〕を受け,十分理解し,説明書を受領した旨,よって今後,同様の説明は不要と判断する旨等の記載がある。)。
イ(ア) 金融商品取引法(証券取引法)上の適合性原則は,あくまでも業法上の規制であり,極めて限定的な場合にしか私法的な効果を生じない。そして,同適合性原則は,勧誘を前提とする規制であり,a社は,d社に対して何らの勧誘もしていないから,適合性原則は問題とならない(本件においては,d社は,投資一任契約に基づく取引しかしておらず,投資顧問業者がa社との窓口になるから,a社がd社に対し取引の勧誘をすることはできない。)
(イ) 仮に,本件で適合性原則が問題となるとしても,次の諸事情を総合すれば,a社にその違反はない。
a 日経225オプション取引は,金融商品取引所の上場商品として,広く投資者が参加するものであって,その上場に当たり所轄行政庁の承認を通じて,投資者保護等の観点から商品性についての審査を経たものである。また,基礎商品となる日経平均株価やオプション料の値動き等は,経済誌はもとより一般の日刊紙にも掲載され,一般投資家にも情報提供されているなど,投資者の保護のための一定の制度的保障と情報環境が整備されている。
b d社の代表取締役であったLは,平成17年4月1日から平成19年3月までの約2年間,先物・オプション取引を行っており,損失を被ったこともあるなど,取引について十分な経験を有し,これを熟知していた。
c 本件取引開始当時から,d社は,金融商品取引業者であるh社及びf社との間で投資一任契約を締結し,投資運用をh社及びf社に一任していた。したがって,「顧客の知識,経験」は投資顧問業者について判断するべきであり,「顧客の財産状況及び金融商品取引を締結する目的」も投資顧問業者が把握しているはずである(投資一任契約では,契約資産の範囲で運用するものであるので,そもそも顧客の財産状況は問題とならない。)。
d d社における実質的運用責任者はDであるところ,Dは,自ら次のとおりa社との間で先物・オプション取引を行った経験があり,かつ,上場会社であるg社の創業者で,平成21年6月30日現在で1471万2000株を保有する大株主であり,また,その代表取締役会長であって,日経225オプション取引に関する十分な経験及び知識を有していた。
すなわち,平成16年3月下旬頃,j1社のGから,a社担当者のH(以下「H」という。)に対し,g社又はその代表者であるDの資金について,h社のFの投資一任運用でオプションの売りも使って運用する意向があるが,a社で受けられるか問い合わせがあった。同月30日,Hとa社の当時の代表者及び法人営業部長とがFとともに,g社本社を訪問し,Dと面会して,株式の現物と日経225オプションの取引をするため,Dの個人証券口座と,Dの資産管理会社でg社の株式を414万株(5.7%)を保有する有限会社i(以下「i社」という。)の法人証券口座を設定することになった。D名義の口座では,平成16年4月12日にD名義のg社株式を代用有価証券として運用を開始したが,その後当局の指導により自社株式を担保とした運用が禁止されたため,平成17年1月13日に運用を終了した。i社についても,平成16年4月17日に取引を開始し,平成17年3月31日に終了した。
e Dがd社の資産運用を自ら行い,追加証拠金の出捐をDがしたこと,d社にプロパーの従業員がおらず,g社のDの秘書であるEがd社の従業員として事務処理を行っていたこと,Fが損失の発生につきDに直接連絡したことからすれば,d社は,実質的にはDの個人資産運用会社であった。
f d社は,本件取引開始時に7億円もの証拠金を預託し,さらに,平成20年9月16日に6億円の証拠金を預託しており,潤沢な資金調達力を有していた。
g a社は,本件取引が継続していた当時,d社からその資産の状況について明らかにされていなかった。
ウ 証券会社には,取引開始後,顧客の知識,経験,財務状況等を確認する法的義務はなく,特に,財務状況については,顧客のプライバシーや機密事項に該当するものであって,取引継続中に把握することは困難であり,そのような措置を執ることがa社の法的義務となることはない。
(2)  a社の違反行為と損害との間の相当因果関係の有無(争点(2))について
【d社】
ア a社がオプション取引の開始時に説明義務を尽くし,かつ,適合性原則を遵守していれば,d社は,オプション取引を開始せず,又は,仮に開始していたとしても,売り建玉が制限され,平成20年9月16日に6億円の証拠金の支払をしてオプション取引を継続し,さらに,同年10月8日の取引終了後に11億0192万3442円の証拠金を追加することもなかった。それにもかかわらず,a社が売り建玉の制限もしないまま取引を開始させた結果,d社は,a社に対して手数料を含めて合計39億2140万4301円の債務を負担することとなった結果,同額の損害を被ることになった。
イ a社が平成20年9月16日に説明義務を尽くし,かつ,適合性原則を遵守していれば,d社が同日に6億円の証拠金を支払うことはなく,さらに,同年10月8日の取引終了後に11億0192万3442円の証拠金を追加することもなかった。それにもかかわらず,a社が同年9月16日に証拠金6億円を支払わせ,さらに,同年10月8日の取引終了後に11億0192万3442円の証拠金を追加させて取引を継続させたため,d社は,a社に対して手数料を含めて合計39億2140万4301円の債務を負担することとなった結果,同額の損害を被ることになった。
ウ a社が平成20年10月8日の取引終了後から同月9日の取引終了時までの間に説明義務を尽くし,かつ,適合性原則を遵守していれば,d社は,同日,11億0192万3442円の証拠金を支払うことはなく,又は,これを支払ったとしても,同日,オプション取引を継続することはなかった。それにもかかわらず,a社がd社をして同月9日に追加証拠金を支払わせ,取引を継続させたため,a社に対して手数料を含めて合計39億2140万4301円の債務を負担することとなった結果,同額の損害を被ることになった。
【c社及びb社】
争う。
(3)  d社への立替金償還請求に係る相殺の成否(争点(3))について
【d社】
上記(1)及び(2)の各【d社】に掲記した事実関係によれば,d社は,a社に対し,39億2140万4301円の損害賠償請求権を取得したといえ,同請求権を自働債権とする相殺の結果,c社のd社に対する本訴アの請求(立替金償還請求)は理由がないことに帰着する。
【c社】
争う。
(4)  d社への立替金償還請求に係る過失相殺の要否(争点(4))について
【d社】
仮に,上記(1)及び(2)の各【d社】に掲記した事実関係によっても,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権が認められないとしても,上記事実関係のほか,次のとおり,d社に損失が生じることにつきa社に予見可能性及び結果回避可能性が容易に認められるという事情があるから,民法418条の類推適用により,c社によるd社に対する立替金償還請求について大幅な過失相殺が認められるというべきである。
ア a社は,d社の資産が1億円から5億円未満であり,資本金が1億5680万円であることを認識していたところ,本件取引の証拠金所要額は,平成20年10月に入って急増し,同月8日の取引終了時点では,証拠金所要額が23億9379万6420円にふくれ上がり,10億9975万0867円の追加証拠金が発生した。これらの規模は,d社の資産及び資本金の規模をはるかに上回るものであった。しかも,同日時点の日経平均株価に比して,合計1118枚の売り建玉は,権利行使価格の方が高い状態(イン・ザ・マネー)であり,この株価水準のまま満期日を迎えれば,1118枚もの大量の売り建玉につき,権利行使され,差損が生じることが確実であった。
イ a社が平成19年7月2日の口座設定時にd社から受け入れた先物・オプション取引口座設定約諾書には,d社に「債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき」は,a社の請求により,a社の指定する日時までに,d社がa社に設定したオプション取引口座を通じて処理される全てのオプション取引を決済するために必要な転売又は買戻し等をa社に委託して行うこととされていた。
平成20年10月8日の取引終了時点で,d社にその資産及び資本金の規模をはるかに上回る証拠金所要額と追加証拠金が発生したことは,「債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき」に該当する事実であり,a社としては,同月9日の取引時間中に上記約諾書に基づき全てのオプション取引を決済するために必要な転売又は買戻し等を行うこと(以下「強制決済」ということがある。)によって,d社が追加証拠金を入金して取引を継続したとしても,それを超える損失が発生した場合にその償還を受けることができずにa社に損失が発生するという信用リスクを回避することができた。
しかしながら,a社では,信用リスク管理に関する規定の整備等の信用リスク管理態勢が整備されておらず,顧客の財務内容の把握がなく,与信限度額の設定管理をしていなかった。そのため,a社は,d社に追加証拠金を入金するよう求めるのみで,上記リスク回避策を全く講じようとせず,漫然と同日の取引終了時間まで取引を継続させた。
ウ a社は,d社に資金援助をする後ろ盾として常にDがいるものと誤って一方的に思い込み,Dの信用力をd社の信用力と混同し,d社の信用評価を完全に見誤った。
【c社】
d社の主張は失当である。
ア 平成20年3月31日現在のd社の資産は,決算報告書によれば,20億5933万5661円であるが,同年10月8日時点でのd社の資産状況は,明らかにされていない。
また,a社とd社との間の本件取引は,平成16年3月30日に開始したD及びi社との取引,Lとの取引に引き続いて,平成19年7月2日に開始されたものであり,これらの取引は,全てDが運用担当者であった。本件取引も,Dの意向に基づき開始されたものであり,a社がd社の後ろにDが存在することを前提に取引を行うことは当然である。現に,Dは,追加証拠金の出捐をしているのであって,Dの資力からすれば,決済資金不足金が生じた場合でも,d社がDから借入れを行うことが想定できた。取引を行う際に,関連先の信用やそこからの資金調達の可能性を考慮に入れることは,経済社会の常識である。
イ 本件取引に係る先物・オプション取引口座設定約諾書に強制決済の約定があることはそのとおりであるとしても,追加証拠金が生じた場合に入金期限までの追加証拠金の入金がないのであれば別として,d社の運用責任者であるDの出捐により,現実に追加証拠金の入金がされているのであるから,「債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき」に該当するはずはなく,a社が平成20年10月8日又は9日において,本件取引につき強制決済をすることができたといえる根拠はない。
ウ Dは,g社の創業者で,会長として社会的信用もある上,d社のために,現実に追加証拠金を出捐しているのであるから,a社として,d社がDから資金調達することができると信用することは当然である。
(5)  d社への立替金償還請求に係る信義則違反又は権利濫用の有無(争点(5))について
【d社】
ア 上記(4)【d社】の事実関係によれば,本件取引の口座を設定する証券会社であるa社には,民法1条2項に基づき,顧客に生じるであろう損害を最小限にとどめるよう十分に配慮するべき信義則上の義務があるのに,a社は,この義務を怠ったといえ,d社に対する立替金償還請求は,少なくともc社が主張する39億2140万4301円の5割に当たる19億6070万2151円を超えない金額に制限される。
そして,d社は,24億1526万4408円を支払済みであるから,d社のc社に対する立替金償還債務は存在しない。
イ また,上記(4)【d社】の事実関係によれば,c社のd社に対する立替金償還請求権に基づく請求は,正当な範囲を逸脱した権利の行使であり,民法1条3項において禁止されている権利濫用に当たるものとして,少なくともc社が主張する39億2140万4301円の5割に当たる19億6070万2151円を超えない金額に制限される。
【c社】
争う。
(6)  Lの悪意又は重大な過失による任務懈怠の有無(争点(6))について
【c社】
ア(ア) d社は,平成20年10月9日に追加証拠金を差し入れて本件取引を継続するに当たり,同月8日又は9日に,f社との間で,契約資産の額を二倍以上に増額した上で投資一任を継続する内容の投資一任契約の変更につき合意をした。
(イ) d社の唯一の代表取締役かつ取締役のLとしては,平成20年10月8日の追加証拠金発生が確実となった時点から同月9日に追加証拠金を入金するまでに,投資を継続する前提で契約資産の額を二倍以上に増額するという投資一任契約の変更合意を行うか否かについて,それを実行した場合のd社及び取引先の利害得失,より端的には支払見込みを確保できるか否かと,それを実行しなかった場合のd社及び取引先の利害得失とを比較考量し,支払資金の不足を生じさせることにより取引先等に不測の損害を与えることのないようにするべき善管注意義務を負っていた。そして,同日時点で追加証拠金を支払った上で,全てのプットオプションの反対売買を行ったとすれば,同日の中間値により反対売買が行われた場合には,その所要額は7億0505万2000円,その決済損益はマイナス6億9234万2460円であり,同日の高値により反対売買が行われた場合には,その所要額は12億9006万5000円,その決済損益はマイナス12億7735万5460円となり,d社に巨額の損失の発生を確定させることになったが(平成20年3月31日現在の貸借対照表上,d社の純資産は5億9378万6804円であったことと対比すれば,いずれにせよ,d社の資産状況は含み損を抱える状態であった。),取引を継続せず,全てのプットオプションの反対売買を行った場合,d社は,同日時点の証拠金残高の範囲内で本件取引を終了することができ,不足金を生じさせ,かつ,支払不能に陥ることにより,取引先に損害を与えることはなかった。
(ウ) したがって,Lとしては,上記変更合意を行わない場合には少なくとも支払資金の不足は生じず,直ちにd社が支払不能に陥って取引先に損害を与える危険は全くなかった一方,上記変更合意を行った場合,投資に関する予測や判断が的中せず,予期に反した価格変動が生じることによってd社が支払不能に陥ることにより取引先に損害を与える危険があったのであるから,投資一任契約につき変更合意をして取引を継続するのであれば,そのような事態が生じた場合であってもd社が支払をすることができる見込みを確保した上でするべきであり,それができなければ建玉を全て決済して取引を中止するべきであった。
(エ) ところが,Lは,平成20年10月8日の緊急時においても,f社のFと直接連絡を取るといった情報収集を自ら行わず(Fとの対応は全てDが行った。),何らの検証もしなかったばかりか,不足金が生じた場合の支払見込みに関する確認はもとより,変更合意を行った場合と行わなかった場合の利害得失の検討も全く怠り,損失発生時にd社の経営を維持するための資金面の備えを一切行わないまま,漫然と投資一任契約の契約資産額を増額して投資を継続する変更合意をした。
このようなLの対応は,支払資金の確保よりも投機的利益を求めて,リスクが顕在化した場合における支払資金の確保には全く意を払わず,取引先であるa社に損失が発生することを認容しつつ,d社の株主としては有限責任の結果失うものがないため,イチかバチかの投機に走ったものといわざるを得ない。
イ その上,次のような事情があることからすれば,Lに悪意又は重大な過失による任務懈怠があることは明らかである。
(ア) d社は,平成19年7月に本件取引を開始した当初から,自己資本の2.5倍にも上る多額の借金を抱えて,日経225オプションの売りという危険で,多額の損失が発生する可能性のある取引を行っており,平成20年10月8日及び9日の時点で,d社は,債務超過で,かつ,現預金がないに等しい状態であった。
(イ) Lは,オプション取引により,平成18年6月に追加証拠金を入金せざるを得ない事態及び7262万円もの決済損失が生じる事態を経験していた。
さらに,Lは,平成20年10月8日には,d社の行う本件取引が11億円を超える追加証拠金が必要となる危険なものであることを経験した。
(ウ) 平成20年10月10日には,d社の側は,支払不能であり,破産申立て予定である旨や,d社の代表取締役がLから変更される旨を述べ,実際にLは,同日d社の代表取締役を辞任したことからすれば,Lは,上記の変更合意を行って投機に走るに当たって,当てが外れて支払不能となった場合には,d社を破産させ,L個人は,何らの責任も負わずに済ませようとしていたことさえうかがわれる。
(エ) なお,d社が追加証拠金を差し入れ,かつ,投資を継続する限りにおいて,本件取引の相手方であるa社としては,これに応じて取引を継続せざるを得ず,a社の側で自ら損失の発生を回避することは,d社とa社との間の契約上,できなかった。
【L】
ア d社がa社との間で追加証拠金を入金することと,f社との間の契約資産を増額して投資一任契約を変更することとは,全く異なる事柄である。d社は,追加証拠金を入金しないことにより建玉の強制決済が行われ,損失が確定してしまうことを避けようとして,追加証拠金の入金をしただけであって,f社との間の投資一任契約を増額変更することは一切意図していなかった。
イ(ア) 本件取引について,d社のために一義的に投資判断を行っていたのは,d社が投資一任契約を締結していたf社であり,投資判断者であるFは,オプション取引に関して極めて高度な知識と極めて豊富な知識を有する専門家であった。
(イ) Lは,平成20年10月8日,万が一,更に日経平均株価が下落して,証拠金残高を超える負担が生じそうな場合は,反対売買を行って損失を確定させ,それ以上の追加証拠金の負担がないようにするというものを含むFの投資判断に従い,同月9日に追加証拠金相当額約11億円をDから借り入れた上で,追加証拠金約11億円をa社に対し入金し,同日の運用をFから説明を受けた投資判断に任せるという判断をした。
(ウ) Lが平成18年6月に追加証拠金1億7000万円を入金して満期日を迎えた際の損失額は7338万9684円であって,Lがそれまでに預託していた証拠金約7億円の10%程度にすぎず,また,Lの日経225オプション取引における通算利益は8134万7000円であって,こうしたLの経験からしても,また,Fから「追加証拠金約11億円を入金していただければ,これ以上の御負担はかけないようにする。」という説明を受けていたことからしても,平成20年10月8日の夕刻に,その翌日に追加証拠金を入金したとしても,それまでに預託していた証拠金(約13億円)を大きく超える損失が発生するとの事態は予見できなかったし,ましてや,追加証拠金を含めた証拠金(約24億円)を超える損失が発生するという事態は全く予見できなかった。
(エ) 加えて,同月9日に追加証拠金を入金しなければ,a社による強制決済によって,同日の中間値で決済されたとした場合でも7億円以上の損失が確定する状況にあったのであり,その一方で,Fからの説明を受けていたd社の最大の債権者であるDから,追加証拠金相当額約11億円を貸し付ける旨の意向が示されていた。
ウ 以上のような状況の下,Lは,それらの事情を総合的に検討した結果,Fの投資判断に従うことがd社及び取引先の利害得失に資すると判断した。同月8日の夕方にd社が投資損失を被る具体的可能性に直面した状況下で,Lが取締役として負っていた義務は,投資損失を最小限にするために最善の方策を講じる注意義務であり,投資損失を最小限にすることが,d社の企業価値を最大化することになるのと同時に,取引先や債権者の利益を最大化することにも直結するのである。
一般論として,投資判断と損失管理は別次元の事柄であるが,同日の夕方にd社が投資損失を被る具体的可能性に直面した状況下においては,同月9日に追加証拠金を入金して強制決済を避けるかどうかの判断及び同日に建玉全部を反対売買して損失を確定させるかどうかの判断のいずれに関しても,投資判断と損失管理の判断は不可分一体となっており,これを殊更分離し,FとLが別々の判断をすることは不可能であり,かつ,不適切であった。
したがって,LがFの投資判断に従い,建玉を維持してa社の強制決済による損失確定を避けるために追加証拠金を入金した行為は,同月8日の夕方の状況下において,投資損失を最小限にするために最善の方策を講じる注意義務を果たしたものといえる。
以上のとおり,Lは,d社及び取引先の利害得失の検討を十分に行った上で,Fの投資判断に従うという選択をしたものであり,その選択が漫然と行われたとか,イチかバチかの投機をしたとかなどとはいえない。Fの投資判断に従った結果,満期日を迎えたことによる最終損失額が同月9日に取引を中止していた場合に想定される損失額を大きく超えたものとなったことは,あくまでも結果論であり,そうした事態は,a社のHや,投資のプロであるFですら予見できなかったものであるから,そのような状況下でLに任務懈怠があるはずがない。
エ a社は,d社が追加証拠金を差し入れて本件取引を継続することにした場合でも,そのことによってd社が損失を受け,その結果がa社に波及するおそれがあると判断すれば,d社が平成19年7月2日の口座設定時にa社に差し入れた先物・オプション取引口座設定約諾書の約定に基づき,「債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき」に該当することを理由に,d社の期限の利益を喪失させ,強制決済をすることが可能であったのであり,a社の側で自ら損失の発生を回避することができなかったとはいえない。
オ 本件取引開始時に,d社の資産は1億円から5億円未満だったのにもかかわらず,取引開始当初から合計7億円の証拠金を預託していたことから,a社は,d社がDからの借入れを原資として本件取引をしていることを把握しており,そのような状況において本件取引をすることを認めたのは,a社である。
カ d社が平成20年10月10日に破産申立てを予定していた事実はない。
(7)  Lの任務懈怠と損害との間の相当因果関係の有無(争点(7))について
【c社】
Lに上記(6)【c社】に掲記した任務懈怠があったことを原因として,① d社が決済不足金につき支払不能となって,当該決済不足金につきa社が商法552条1項に基づく立替払いを余儀なくされ,又は② d社が損害を被って,支払不能となり,その結果,a社がd社に対して有する立替金償還請求権の回収をすることができない事態となったため,a社は,15億0993万0811円の損害を被ることとなった。
d社が行っていたオプションの売り取引は,その性質上当然に損失が無限にふくらみ得るものである上,オプション取引を行って相場が大きく変動すれば決済資金不足金が発生し得ることは,平成20年10月8日に約11億円もの追加証拠金が発生したことをLが経験していることからしても,十分に予見可能なことであった。
【L】
オプション取引に関して極めて高度な知識と極めて豊富な経験を有する専門家であるFが,d社の委託を受けて善管注意義務を尽くして投資判断を行ったにもかかわらず,「100年に1度の大暴落」といわれる未曽有の出来事に見舞われた結果,Lにとって予見不可能な債務がd社に発生し,差し入れた証拠金及び代用有価証券の売却代金をもってしても,賄うことができない事態に立ち至ったのであって,仮にLに任務懈怠があるとしても,当該任務懈怠と損害との間には相当因果関係を認めることはできない。
(8)  Lへの損害賠償請求に係る過失相殺の要否(争点(8))について
【L】
上記(4)【d社】に掲記した諸事情,その他本件取引に関して平成20年10月8日から同月10日までに生じた事実関係等からすれば,a社自体の行為の結果としてd社に損失が生じたものであるといえ,又は,d社に損失が生じた場合にa社に影響が及ぶという事態に至ることは,a社が善良なる管理者の注意をもってすれば,容易に予見し,かつ,容易に回避することが可能であったことから,仮にLが責任を負うとしても,大幅な過失相殺が認められるべきである。
【c社】
争う。
(9)  Lへの損害賠償請求に係る信義則違反の有無(争点(9))について
【L】
ア 平成20年10月8日から9日にかけて,a社は,d社に対し,追加証拠金を入金するよう請求したことはあっても,入金しないよう求めたことはなく,強制決済をすることもできたが,強制決済をしたことはない。そのような事情があるのに,d社が追加証拠金を入金する一方で,反対売買により本件取引を中止しなかったことを問題とするのは,禁反言の法理に反し,認められない。
イ 上記(5)【d社】アに掲記したとおり,d社に対する立替金償還請求は信義則に基づき19億6070万2151円を超えない金額に制限されるところ,d社は,24億1526万4408円を支払済みであるから,d社のc社に対する立替金償還債務は存在せず,よって,Lのc社に対する損害賠償債務も存在しない。
【c社】
争う。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前提事実,証拠(甲2~9〔枝番号があるのに個別に掲記しない場合はその全てを含む。以下同じ。〕,14,17~23,27~30,36,37,49,50,乙8,13,14~35,37~40,42,47~52,59,64,65,67,証人H,証人F,L本人)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認めることができる(以下に適宜掲記するものは関係する主要な証拠である。)。
(1)ア  Lは,g社の創業者でその筆頭株主兼代表取締役会長であるDの長男(昭和57年○月○日生)であり,高校を卒業後,プロボクサーを目指してボクシングに没頭していたが,目の負傷によりプロボクサーへの道を断念し,その後,オーストラリアに海外留学をして,平成16年に帰国した。Lは,その後,平成18年に東京都内の広告代理店に営業職として就職して,現在までそこに勤務している。(乙59,L本人)
イ  Fは,大学を卒業後,昭和39年4月にj2株式会社に入社し,昭和62年7月にはj3株式会社(現j4株式会社)に運用担当常務取締役として出向した。そして,昭和63年には,日本でオプション取引をスタートさせるため,j5社のニューヨーク本社で開かれた勉強会に,日本からの参加者の団長として出席した。Fは,昭和63年末にj2株式会社を退社し,平成元年にj3株式会社に転籍した後も,運用担当常務取締役としてオプション取引に関与し,日本においてオプション取引が開始されると同時にオプション取引に携わるようになった。その後,Fは,平成10年7月には,j6株式会社に転籍し,常務取締役,副社長及び顧問を歴任した。Fは,同社に在籍中,投資信託の運用を統括したほか,「オプションストラングルファンド」というファンドを設定したことがある。また,Fは,平成4年10月から平成5年3月まで,k1テレビの「○○」という番組で株式市況のコメントを担当したほか,k2テレビ,△△,k3ラジオ等の複数のメディアに出演したり,そのコメントがk4新聞,k5新聞及びk6新聞等の各紙に度々掲載されたりした。(乙47,64,証人F)
(2)  平成15年頃,当時,h社の取締役会長として,株式取引及びオプション取引の運用を担当していたFは,知人であるj7株式会社(以下「j7社」という。)のI顧問の紹介で,g社の代表取締役であるDと面談した。その際,Fは,オプション取引について説明したところ,Dは,オプション取引について興味を示し,まず,i社とh社との間で投資一任契約を結び,証券口座をj7社に設定して,Fが投資判断者となってオプション取引で1億円を運用することになり,その後,D本人との間でも,h社が投資一任契約を結び,証券口座をj7社に設定して,Fが投資判断者となってオプション取引で運用することになった。(乙47)
h社は,この当時から有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律が廃止される平成19年9月30日までは,同法所定の認可投資顧問業者であり,金融商品取引法が施行された同日からは,同法所定の投資運用業を行う金融商品取引業者であった。
(3)  h社との間の投資一任契約に基づき,i社及びDの資産をFがオプション取引で運用する取引(以下「i社等一任取引」ということがある。)が継続されていたところ,証券口座を設定していたj7社から,リスク管理部門が了解しないとしてそれ以上の取引継続を断られた。そこで,Fは,i社等一任取引を継続できる証券会社を探し,知人から,平成16年3月下旬頃,a社のHを紹介され,a社で証券口座の設定が可能か問い合わせたところ,Hは,上司の許可を得て,可能である旨をFに伝えた。これを受け,Fは,a社にi社(本店所在地はg社の当時の本社所在地と同じであり,代表者はDであった。)及びDの証券口座を設定してi社等一任取引を継続することとし,そのことにつきDの了解を得た。(甲36,乙47,49)
そして,平成16年3月末頃,Fは,a社の代表者,Hらとともに,i社等一任取引を継続するための証券口座をa社に設定する手続のため,当時,東京都江戸川区〈以下省略〉にあったg社の本社事務所を訪問し,g社の代表取締役社長(その後,平成17年9月に代表取締役会長となった。)であったDと面会した。この面会の後,D及びi社の証券口座がa社に設定され,平成16年4月12日からDの関係で,同月14日からi社の関係で,i社等一任取引が再開されることになった。Dの関係の取引は平成17年1月13日まで続けられて終了し,i社の関係の取引は同年3月31日まで続けられて終了した。i社等一任取引により,Dは通算で1億9476万9083円の利益を上げ,i社は通算で6907万8833円の利益を上げた。(甲28,29,30の2,同36,乙47,50,51,65)
Fは,i社等一任取引の運用報告をするため,i社及びD宛ての書類を持参して,毎月,Dと面会していた。そうした中,Dは,平成16年末頃,Lに対し,「優秀なファンドマネージャーがいるんだ。」といってFを紹介し,その後,Fは,Dの依頼に基づき,Lに対し,世界経済の実態についての勉強会を定期的に実施した。(甲36,乙47)
(4)  Fは,平成16年末から平成17年3月頃までの間に,D及びLから,Lのために株式やオプション取引を含む運用を行ってほしいとの依頼を受け,これに応じることとして,Dやi社の場合と同様に,Lの証券口座の設定をa社にしてもらう話をHに対してし,a社側は,これを了解した。(甲36,乙47)
その結果,同月末頃,証券口座設定の手続が行われて,a社にLの証券口座が設定されるとともに,L及びh社との間で同年4月1日付け投資一任契約(甲21)が,L,a社及びh社の間で同日付け投資一任契約に伴う契約資産の預託に関する契約(甲22)がそれぞれ締結された。そして,a社に設定されたLの証券口座に,同日,7億円が入金され,その後,Fの運用指図の下でオプション取引や株式現物の取引(以下「L一任取引」ということがある。)が行われた。(甲21~23,36,乙47,52,59)
L一任取引が始まった後,Fは,Lに対し,現物株式取引やオプション取引について,マン・ツー・マンでの勉強会を行ったが,Lのオプション取引等についての投資判断は,h社の担当者であるFが全て行い,Fは,順調に利益を上げていった。もっとも,Lとh社との間のL一任取引が続けられる過程で,Lは,平成18年6月8日及び9日に合計1億7000万円の追加証拠金を入金してオプション取引を継続した結果,満期日(同日)に7650万円ほどの損失を被ったこと(この損失は,これが発生した際に預託していた証拠金の1割程度のものであった。)があったほか,平成17年5月限月の満期日に378万円ほど,平成19年3月限月の満期日に8143万円ほどの損失を被ったことがあった。しかし,L一任取引は,これが終了した平成19年7月中旬までを通算すれば8134万7004円の利益となったことがあり,Lは,Fとの取引は,長期的にみれば危険な取引ではないと認識していた。(甲36,乙47,65,L本人)
なお,h社のFは,L一任取引を開始するに際し,金融商品販売法所定の金融商品販売業者等としての立場から,Lに対し,日経225オプションの商品性やリスク等を説明したほか,Fが採用するオプション投資戦略であるショート・ストラングル(権利行使価格の異なるプットオプションの売りとコールオプションの売りを,プットオプションの権利行使価格の方がコールオプションの権利行使価格よりも低額となるように建てて,株価指数〔日経平均株価〕が売り建てたコールオプション又はプットオプションの権利行使価格に近づいてきたら,当該オプション売り建玉をロスカット〔買戻し〕して,より遠目の建玉を売り建て直すといった方法で,株価指数が2つの権利行使価格の間に収まるように調整して,満期日までをしのぎ,プレミアムを取得して利益を上げていくという手法)のことや,Fの採用するショート・ストラングルは,レンジ(売り建てるプットオプションとコールオプションの権利行使価格の間隔のことをいう。)を非常に広く取った独特のもので,従来ほとんどリスクを感じずにオプション取引を行っていること等について説明した。(乙47,64,証人F,L本人)
(5)  d社は,平成18年6月30日まで,主な事業内容を不動産管理業とし,発行済み株式の全てをg社が持ち,g社の代表取締役会長であるDが代表取締役を務める資本金の額が1億5680万円の取締役会設置会社であったが,同日,その発行済み株式の全てがg社からLに対して,代金額1億8900万円にて譲渡されるとともに,定款が変更されて取締役会設置会社でなくなり,Lがd社の唯一の取締役及び代表取締役に就任した。Lが100%株主となった後,d社にはプロパーの従業員はおらず,g社の代表取締役であるDの秘書を務めるEがd社の経理課員として,その事務処理を行っていた。
また,上記株式譲渡の前後を通じて,g社の事務所があった東京都新宿区〈以下省略〉がd社の本店所在地であった(その後,遅くとも平成20年6月30日までには,g社の本店所在地も東京都新宿区〈以下省略〉とされた。なお,d社の本店所在地は,平成21年9月1日に東京都目黒区〈以下省略〉に変更された。)。
なお,d社の平成19年3月31日現在の純資産額は4億2892万9045円(うち資本金が1億5680万円,うち資本剰余金が1568万円,うち利益剰余金が2億5644万9045円)であった。
(甲2,3,14,30の1,同50の1)
(6)ア  Fは,平成19年6月頃,L及びDから,Lを取引主体として行っている投資一任契約に基づく株式及びオプション取引を,d社を主体とするものに変更してほしいと求められ,これを了解して,a社のHに対し,そのために必要なd社の証券口座の設定をa社にしてもらう話を持ち込み,a社側は,d社の証券口座を設定することを了解した(Fは,その頃までには,a社には建玉の制限が特別なく,比較的自由にオプション取引ができることから,オプション取引を行う顧客に対し,a社に証券口座を設定することを勧めることが多くなっていた。)。なお,この頃,d社は,株式やファンドへの投資をしていたが,その外には特段の事業はしていなかった。(甲36,乙47,65,証人F,L本人)
イ  a社は,平成19年7月2日に,d社からの証券口座設定申込書(甲5)及び先物・オプション取引口座設定約諾書(甲6)を郵便にて受け入れた。上記申込書には,投資目的は定期的収入優先かつ資産増大である旨,取引予定は株式現物及びオプションで,投資経験として株式現物及びオプションがある旨,資産は1億円以上5億円未満であり,資本金は1億円以上5億円未満である旨の記載がされているほか,「私は,説明書に記載されている商品の説明を受け,十分理解しました。よって,今後同様の説明は不要と判断します。なお,取引を始める場合には,私自身の判断と責任においておこないます。」との不動文字の記載部分に,そのことを認める趣旨と認められるd社の代表者印が押印されていた。
また,d社は,a社に対し,平成19年7月2日付けの株価指数オプション取引に関する確認書(甲27)を提出した。同確認書には,d社が株価指数オプション取引(日経平均株価オプション取引を含む。)を行うに際し,a社から商品の説明(リスク説明を含む。)を受け,十分理解し,説明書を受領した旨や,よって,その後,同様の説明は不要と判断し,取引を始める場合には,d社自身の判断と責任において行う旨が記載され,d社代表取締役であるLの記名と代表者印の押印がされていた。
(甲5,6,27,証人H)
ウ  上記イに基づき,a社にd社の証券口座が設定され,また,d社及びh社との間で同月4日付け投資一任契約(甲49。以下「h社一任契約」ということがある。)が,d社,a社及びh社の間で同日付け投資一任契約に伴う契約資産の預託に関する契約(甲7。以下「h社預託契約」ということがある。)がそれぞれ締結された。なお,a社が上記d社の証券口座を設定すること(同口座を通じて先物・オプション取引を行うことを含む。)に関して,d社に対して勧誘した事実はない。
h社一任契約には,① d社は,同日付けで投資一任契約に基づく契約資産の運用に関して,有価証券の価値等の分析に基づく投資判断及び関係投資の実行の全部をh社に一任し,h社は,これを承諾した旨,② h社は,h社一任契約に従い,h社自らの投資判断に基づき,d社の計算において,d社のため投資を行うのに必要な権限を有する旨,③ d社は,契約資産の運用に関する一切の権限をh社に委任するものとし,h社は,これを受任する旨等が定められていた。
また,h社預託契約には,④ d社は,a社に対し,h社一任契約に基づく預託資産を長期的な投資をする目的をもって預託し,a社は,これを受託する旨,⑤ h社一任契約の変更に伴い,預託資産が増減することをa社は,承諾する旨,⑥ d社は,h社を本件預託資産の運用代理人と定め,運用の指図及び運用に伴う担保の指図に関する権限を付与し,h社は,これを受諾し,a社は,これを了解した旨,⑦ h社一任契約が継続中は,運用指図は,h社のみが行うものとし,d社は,独自にこれを行うことができない旨,⑧ a社は,上記⑦を了解し,h社の運用指図のみに従う旨,⑨ a社は,h社の指図が法令等に抵触すると認めたときは,その指図に従わないことができるものとする旨,⑩ a社は,善良な管理者の注意をもって,本件預託資産を管理する旨,⑪ d社は,本件取引を除いて,a社との間に別口座で取引契約を締結する等して,証券取引等一切の取引をしない旨,⑫ a社は,上記⑪を了解した旨等が定められていた。
(甲5,7,36,49,乙47,証人H)
(7)  平成19年7月4日,d社が銀行からの振込入金の方法によりa社に1億円を預託したことにより,h社一任契約に基づきFを投資判断者とする一任取引として,本件取引のほか株式取引を含む本件全部取引が開始された。さらに,d社は,同月17日,銀行からの振込入金の方法によりa社に6億円を預託し,この6億円はh社一任契約に基づく運用資産に組み込まれた。Lの説明(乙65の4頁)によれば,上記1億円及び上記6億円は,Dから貸付けを受けたものである。
Fは,h社一任契約に基づく運用資産につき,一部を株式取引によって運用したほかは,ショート・ストラングルの手法による日経225オプションの売り取引によって専ら運用した。Fによる運用は,平成19年8月20日に1億3092万0534円の追加証拠金が発生し,同額をd社が支払う事態となったことはあったものの(同月22日には,必要証拠金額が減少したため,同額がd社の証券口座から出金された。),その後は,平成20年3月31日に同年4月限月のプットオプションの売り建てが行われるまで,追加証拠金が発生する事態はなく推移した。そして,同月までに,Fがh社から退職することが決まったため,本件取引は,同月上旬頃に一旦中断した。
なお,d社の第22期(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)の決算報告書(甲50の1)に含まれる同日現在の貸借対照表によれば,d社の資産の部合計は20億5933万5661円(うち流動資産は16億2963万5661円,うち固定資産は4億2970万円),負債の部合計は14億6554万8857円,純資産の部は5億9378万6804円(うち資本金が1億5680万円,うち資本剰余金が1568万円,うち利益剰余金が4億2130万6804円)であり,同日現在の借入金額は,i社からのものが2億円,Dからのものが11億3614万6000円であった。
(甲18,36,50の1,乙49,65)
(8)  その後,Fがf社に移籍したため,平成20年7月30日にd社とf社との間で投資一任契約(以下「f社7月一任契約」ということがある。)が,同年8月1日にa社,d社及びf社の三者間で投資一任契約に伴う契約資産の預託に関する契約(甲8。以下「f社預託契約」ということがある。)が締結され,a社とd社との間の本件取引が再開された。f社は,金融商品取引法所定の投資運用業を行う金融商品取引業者であった。
f社預託契約には,① d社は,a社に対し,f社7月一任契約に基づく契約資産を長期的な投資をする目的をもって預託し,a社は,これを受託する旨,② f社7月一任契約の変更に伴い,預託資産が増減することをa社は,承諾する旨,③ d社は,f社を本件預託資産の運用代理人と定め,運用の指図及び運用に伴う担保の指図に関する権限を付与し,f社は,これを受託し,a社は,これを了解した旨,④ f社7月一任契約が継続中は,運用指図は,f社のみが行うものとし,d社は,独自にこれを行うことができない旨,⑤ a社は,上記④を了解し,f社の運用指図のみに従う旨,⑥ a社は,f社の指図が法令等に抵触すると認めたときは,その指図に従わないことができる旨,⑦ a社は,善良な管理者の注意をもって,本件預託資産を管理する旨,⑧ d社は,本件取引を除いて,a社との間に別口座を締結する等して,有価証券等の売買等の一切の取引を行わない旨,⑨ a社は,上記⑧を了承した旨等が定められていた。
(甲8,36,乙47)
(9)  f社7月一任契約等に基づき再開された後の本件取引は,投資判断者をFとして,平成20年8月7日から始められた。Fは,ショート・ストラングルの手法により,同年9月3日までは,同月限月のプットオプションとコールオプションの売りを建てていき,同月4日からは,同年10月限月のプットオプションとコールオプションの売りを建てていって(一部には,同年9月限月のプットオプションの売り建てや,買戻しもある。),プレミアムを取得していった。a社が作成した証拠金残高通知書兼受払連絡表(甲19)によって,同年8月7日以降のa社に設定されたd社の証券口座の当日受入現金(当日口座残高と当日建玉評価損益の合計)をみると,同年9月5日まで日を追うごとに当該金額が増加しており,翌営業日である同月8日には,株式買い付け代金1647万4617円の決済のための出金があったため当該金額は減少したものの,株式買い付け代金決済分を捨象すれば当該金額は増加しており,その後も当日受入現金の金額が日々増加していくことは,限月分の満期日である同月12日をまたいで,同年9月29日まで続いた(d社は,同月末までの本件取引において,1億7000万円ほどの利益を上げ,また,満期日に確定損失を生じさせたことは一度もなかった。)。
また,同月16日には,d社が銀行からの振込入金の方法によりa社に6億円を追加預託し,これがf社(投資判断者は,F)の運用する資産に組み込まれた。Lの説明(乙59の5頁,L本人調書6頁以下)によれば,同月15日のリーマンショックを受け,DからFが相場のチャンスだといっていると聞き,証拠金を積み増すことにしたものであり,上記6億円はDから貸付けを受けたものであるという。
(甲18,19,乙38,L本人)
(10)  その後,d社とf社は,d社の資産を株式とオプションに分けて運用するため(甲19の40枚目参照),平成20年10月1日付けで,f社7月一任契約を更新する趣旨と解される投資一任契約(乙42の1。以下「f社10月一任契約」ということがある。)を締結した。f社10月一任契約には,① d社は,f社10月一任契約の契約資産の運用に関して,金融商品の価値等の分析に基づく投資判断の全部をf社に一任し,f社は,これを引き受ける旨,② d社は,上記①の投資判断に基づき投資を実行するのに必要な権限をf社に委任する旨,③ f社10月一任契約に定める契約資産の額,運用に関する特別な指定事項等は,f社10月一任契約に係る契約書の別紙細則に定めるものとする旨等が定められ,また,当該別紙細則に当たると認められる「投資一任契約細則」(乙42の2)には,契約資産の額を10億円とする旨,運用に関する特別な指定事項として,運用対象商品を株価指数先物及び株価指数オプションとする旨,投資判断者をFとする旨等が定められていた(上記「投資一任契約細則」とは別途,運用対象商品を国内株式及び外国株式とする細則も作成されたものと解される。なお,f社預託契約を変更する契約書等が作成された事実は認められないところ,f社10月一任契約が締結された趣旨に鑑みれば,f社10月一任契約との関係でも,f社預託契約が引き続き適用されることとされたものと解される。)。(甲19〔40枚目〕,乙42,65)
(11)  f社10月一任契約等が結ばれ,d社の運用資産を株式とオプションに分けて運用することとされたことに伴い,f社は,平成20年10月2日,a社に対し,d社の預託資産のうち,10億円をオプション取引の預託証拠金とし,残額2億4313万1370円を株式の買い付け余資としての預かり金に振り替えるとともに,有価証券は全て代用担保から外し,預かり証券に振り替えるように指図し,a社は,これに従い,d社の証券口座内で,10億円をオプション取引の預託証拠金とし,2億4396万2550円(上記残額に,同月1日に行われたオプションの売り建ての取引により得たプレミアム合計83万1180円を加えたもの)を預かり金に振り替えるとともに,代用担保とされていたd社保有の有価証券全てを預かり証券に振り替えた。
そして,同月2日以降も,Fは,本件取引において,ショート・ストラングルの手法により同月限月のプットオプションとコールオプションの売りを建てていった。
(甲18,19〔40枚目,41枚目〕)
(12)  平成20年10月6日の取引開始時点で,Fの投資判断の下,d社が売り建てていたプットオプションは,①権利行使価格9750円のものが100枚,②権利行使価格9500円のものが247枚,③権利行使価格9250円のものが846枚,④権利行使価格9000円のものが2383枚であり(いずれも同月限月のものである。),また,日経平均株価の始値は1万0817円27銭であった。
Fは,同日の取引時間中に,権利行使価格9750円のプットオション45枚について反対売買を行った。同日の日経平均株価の終値は1万0473円09銭であった。また,d社が預託していた証拠金残高は10億0154万9557円,証拠金所要額は6億1802万8480円であった。
Fの説明(乙47の12頁以下)によれば,上記反対売買は,下落により日経平均株価が9750円に近づいてきたことから,用心のため行ったものであるが,同日の日経平均株価は,下落傾向であったものの,満期日である同月10日までの残りの日数を考えて特別清算指数(SQ)が9750円を割り込むことはないだろうと判断したため,権利行使価格9750円のプットオション55枚については,反対売買を行わなかったという。
(甲19,乙47)
(13)  平成20年10月7日の取引開始時点で,Fの投資判断の下,d社が売り建てていたプットオプションは,権利行使価格9750円のものが55枚であるほかは,同月6日の取引開始時点と変わらず,また,日経平均株価の始値は,1万0328円54銭であった。
Fは,同月7日の取引時間中に,権利行使価格9750円のプットオション20枚について反対売買を行った。同日の日経平均株価の終値は1万0155円90銭であった。また,d社が預託していた証拠金残高は9億9980万6445円,証拠金所要額は9億0113万0280円であった。
Fの説明(乙47の13頁)によれば,上記反対売買は,同月6日に続き,日経平均株価がより9750円に近づいてきたことから,用心のために行ったものであるが,日経平均株価は,下落傾向であったものの,満期日である同月10日までの残りの日数を考えると特別清算指数(SQ)が9750円を割り込む可能性は低いし,仮に割り込んだとしても大幅に下がることはないだろうと判断し,枚数も少ないため,権利行使価格9750円のプットオション35枚については,反対売買を行わなかったという。
(甲19,乙47)
(14)ア  平成20年10月8日の取引開始時点で,Fの投資判断の下,d社が売り建てていたプットオプションは,権利行使価格9750円のものが35枚であるほかは,同月6日の取引開始時点と変わらず,また,日経平均株価の始値は,1万0011円64銭であった。
Fは,同月8日の前場に権利行使価格9750円のプットオション10枚について反対売買を行った。同日の日経平均株価の前場の終値は9695円12銭であった。Fの説明(乙47の13頁以下)によれば,上記反対売買を行ったのは,日経平均株価が9750円に更に近づいてきたことから,用心のために行ったものであるが,満期日である同月10日までの残りの日数を考えると特別清算指数(SQ)が9750円を割り込む可能性は低いし,仮に割り込んだとしても大幅に下がることはないだろうと判断し,枚数も少ないため,権利行使価格9750円のプットオション残り25枚については,反対売買を行わなかったところ,後場に入り,日経平均株価が下がり始め,権利行使価格9750円のプットオプションを全て反対売買しておくことも考えたが,予想変動率(インプライド・ボラティリティ)が非常に高くなり,反対売買をすると,相当高値の買い決済となることや,残り枚数が少ないので仮に特別清算指数(SQ)が9750円を割り込んだとしても損失が多額になることはないと考えて,結局反対売買は行わず,また,権利行使価格9500円のプットオプションについても,同様の理由から反対売買をしなかったという。
(乙47)
イ  同日の日経平均株価の終値は9203円32銭であった。Fの説明(乙47の14頁)によれば,日経平均株価は,前日比で当時としては史上3番目の下落率を記録したが,権利行使価格9250円や9000円のプットオプションについては,過去,日経平均株価が暴落した直後は,相当程度の高い確率で反発するとの経験則を持っており,かつ,経済情勢に関する情報等からすれば,実際のところ高い確率で反発し,うまくいけば,同月10日の特別清算指数(SQ)は9500円を超える可能性も十分あり得ると考えていたことから,場中で反対売買しない方がよいと判断したという。(乙47)
ウ  同日の日経225オプションの取引時間の終了(午後3時10分)直後,a社のHは,Fに対し,概算額11億円ほどの追加証拠金が発生する見込みであることを電話で伝えた。これを受けて,Fは,Dに電話をして,追加証拠金の概算額を知らせるとともに,これを支払ってもらう方がよいだろうと伝えた。
Fの説明(乙47〔16頁,17頁〕,64,証人F)によれば,日経平均株価が暴落した直後は,相当程度の高い確率で反発するとの経験則を持っており,また,□□や●●により最新の情報を確認していたところ,日本政府の緊急の経済対策が打ち出され,1兆8000億円の緊急補正予算が組まれて,なおかつその額が増加されるかもしれないという材料が出されたことや,株価対策として,先進10か国の中央銀行が一斉同時利下げを実施するという発表をしたこと等の情報があって,過去の経験則からいって急反発する地合いが出てきたと感じたこと,j8社を始めとするほとんどの証券会社のアナリストが株価は急反発するだろうという予測を出しており,F自身も,同月9日以降,高い確率で日経平均株価は反発するだろうと判断していたため,Dに上記のように伝えるとともに,投資判断の方針として,予想に反して,同日も更に日経平均株価が下がり,更なる追加証拠金が発生しそうな場合や,同月10日の特別清算指数(SQ)が証拠金残高を上回る損失を生じさせるものとなりそうな場合は,反対売買で対応して,更なる追加証拠金を出してもらわないようにしたい旨を伝え,一旦電話を切った後,Dに対して正確な追加証拠金を知らせたときか,それ以降であったかはっきりしないものの,最終的に,Dから,Dがd社に貸し付けて,d社が追加証拠金を支払うことになったとの回答を受けたという(なお,Fの説明〔乙64の6頁〕によれば,同月8日午後5時過ぎ頃から,f社において,緊急ミーティングが行われ,国内外の市場動向や相場に影響を与え得る様々な情報の収集,分析をした上で,同月9日の日経平均株価の反発の可能性を検討しながらリスクシミュレーションが行われた結果,株価は底入れが近く,9500円台まで回復する可能性が相当高いと判断されたという。)。
なお,同月8日にa社からFに伝えられた正確な追加証拠金額は11億0192万3442円であった(もっとも,確定した計算〔甲19の2008年10月8日分参照〕によれば,同日のd社の所要証拠金額は23億9379万6420円である一方,d社が預託していた証拠金残高〔代用有価証券残高を含む。〕は12億9404万5553円であった。)。
(甲19,36,乙47,証人F)
エ  また,Fの説明(乙47の17頁)によれば,同日から翌9日にかけての深夜に,日本市場に強く影響を与えるニューヨークの市場動向が上昇傾向にあることを確認し,その旨をDに連絡してから,眠りに就いたという。(乙47)
(15)ア  平成20年10月9日の取引開始時点で,Fの投資判断の下,d社が売り建てていたプットオプションは,権利行使価格9750円のものが25枚であるほかは,同月6日の取引開始時点と変わらず,また,同月9日の日経平均株価の始値は9168円16銭,前場の終値は9318円40銭であった。
Fの説明(乙47の18頁)によれば,日経平均株価がFの予想どおりの値動きであった上,米国シカゴで行われている「グローベックス」(24時間中行われているニューヨークダウの先物取引)の値動きが上昇していたことから,安心しており,同日前場の時間帯に,Dに電話をして,その時点の状況や,「もう追加証拠金を入れていただかなくてもよさそうです。」との見通し,オプションは満期日まで持ち越した方がよいとの投資判断とともに,最終的な損益がどの程度になりそうかの試算を伝えたという。
(乙47)
イ  d社は,平成20年10月9日午後1時27分,a社に対し,追加証拠金として11億0192万3442円を振込送金により預託した。Lの説明(乙65の5頁)によれば,上記11億0192万3442円の全部又はそのほとんどはDから貸付けを受けたものである。(乙65)
ウ  平成20年10月9日の日経平均株価の終値は9157円49銭であった。また,d社が預託していた証拠金残高(代用有価証券残高を含む。)は23億8813万6920円,証拠金所要額は21億0510万5750円であった。なお,同日,Lは,勤務先の広告代理店に出勤しており,F及びDと連絡を取ることはなかった。
Fの説明(乙47の19頁)によれば,同日の後場になってからも更に日経平均株価は上昇するのではないかと期待していたが,その後は緩やかに下落し始めて,終値が上記のとおりとなった中で,Fが権利行使価格が9250円や9500円のプットオプションのみならず,9750円のプットオプションについても反対売買を行わなかったのは,反対売買を行った場合,予想変動率(インプライド・ボラティリティ)が非常に高く,それらのプットオプションの損失の理論値を大きく超えて損失を確定させる結果になってしまうため,満期日まで持ち越した方が得策であると判断したからであり,後場になってからも,当日の値動きに加え,過去の株価動向や,株式市場に影響を与える経済情勢に関する情報(同月8日に先進10か国の中央銀行が協調して緊急利下げを行うことが決まったことに加え,欧州中央銀行総裁やドイツ連邦銀行総裁が相次いで必要な施策を採る意向であることを表明したこと,G7で更なる施策が打ち出されるのではないかという観測が市場関係者の間で広まっていたこと,大手証券会社のアナリストも,過去の大幅下落とその後の底入れの状況との比較から底入れが近いとの見解を示していたこと等),「グローベックス」の値動き等からして,特別清算指数(SQ)が9000円を割り込む可能性は低く,むしろ,もっと高い金額になるのではないかと判断していたため,権利行使価格が9000円のプットオプションにつき反対売買を行おうとは考えず,また,その時点で,翌日のニューヨーク市場が暴落し,それに伴って,日経平均株価が再度暴落し,特別清算指数(SQ)が日経平均株価の同月9日の終値や同月10日の始値から大きく乖離するとは全く予想することができなかったという。
(甲19,乙47,L本人)
(16)  平成20年10月10日,日経平均株価の始値は9016円34銭であったが,日本の市場取引が開始される前にニューヨーク市場が暴落したこと,1ドル100円を割り込む円高が進行したこと,j9株式会社の経営破綻が発表されたことなどから,投資家心理が極端に悪化し,東京証券取引所の取引開始時間である午前9時直後に日経平均株価は9000円を割り込み,その後も下げ幅を広げた。また,大阪市場の日経225先物も売り気配から始まり,同日午前9時8分から15分間,サーキットブレーカー(取引の一時停止措置)が発動され,取引が停止されるという事態となった。
同日の日経平均株価の終値は,8276円43銭となった。日経平均株価が算出され始めた昭和25年以降平成20年10月8日までに,日経平均株価が1日に9%を超える下げ幅を記録したのは,スターリン暴落といわれる昭和28年3月5日と,ブラックマンデーといわれる昭和62年10月20日のほかは,平成20年10月8日しかなかったが,その直後の同月10日も,始値からの下落率が9.18%となり,9%を超える下げ幅となった(このように,日経平均株価が1日を空けるだけで続けて9%を超える下げ幅を記録したことはそれまでになかった。)。
なお,日経平均株価は,翌営業日である同月14日終値が9447円57銭,同月15日終値が9547円47銭となった。
(乙35,39,47,64,証人F。なお,平成23年5月31日付けd社ら準備書面(10)31頁参照)
(17)  平成20年10月10日を満期日とする日経225オプション取引の特別清算指数(SQ)は,通常は午前9時過ぎに確定するにもかかわらず,確定したのが同日午前10時過ぎであり,7992円60銭となった(平成18年1月から平成20年10月までの日経225オプション取引の満期日の日経平均株価始値と当日の特別清算指数〔SQ〕との乖離率を比較すると,平成20年10月における乖離率がマイナス11.35%で最も高く,その次に乖離率が高いのは平成19年8月のマイナス1.50%,3番目に乖離率が高いのは平成20年7月のプラス0.70%であった。また,平成18年1月から平成20年10月までの日経225オプション取引の満期日前日の日経平均株価終値と満期日当日の特別清算指数〔SQ〕との乖離率を比較すると,平成20年10月における乖離率がマイナス12.72%で最も高く,その次に乖離率が高いのは平成19年8月のマイナス2.92%,3番目に乖離率が高いのは平成18年5月のマイナス1.67%であった。)。(乙37~40,47,64)
(18)  平成20年10月10日の特別清算指数(SQ)が7992円60銭となった結果,建玉を決済することになったd社は,預託済みの証拠金を除いても,なお決済資金が15億円余り不足することになった。Fは,同日,d社に損失が発生したことをDに直接連絡した。
また,Hは,a社の役員のJとともに,同日午後7時30分頃,d社の本店(g社の本社でもある。)に行くと,Lは現れず(Lは,同日付けでd社の取締役及び代表取締役を辞任した。),Dと同日付けでd社の代表取締役及び取締役に就任したCが現れて,DがCをd社の新社長だと説明した。Jらは,不足金の支払を求めたが,Cは,ほとんど話をせず,Dは,「d社は破産する。」などとまくし立て,絶対に支払わない旨を述べて,話合いは進まなかった。
(甲36,乙48,49)
(19)  d社が平成20年10月8日にプットオプションの売り建玉全てを買い戻して決済したとして試算した場合(手数料を除く。),大阪市場における同日の高値によった場合の買戻し代金合計は9億3549万円(実現損9億2267万8460円),中間値によった場合の買戻し代金合計は4億8164万7000円(実現損4億6883万5460円)であった。また,同様のことを同月9日についてみた場合,同日の高値によった場合の買戻し代金合計は12億9006万5000円(実現損12億7735万5460円),中間値によった場合の買戻し代金合計は7億0505万2000円(実現損6億9234万2460円)であった。(乙8。なお,平成21年10月19日付けd社ら準備書面(5)別表1参照)
2  a社の説明義務違反又は適合性原則違反の有無(争点(1))について
(1)  上記1によれば,次のようにいうことができる。
すなわち,本件取引は,それまでに行われたi社等一任取引やL一任取引を通じて,投資判断者としてのFに対する信頼を厚くしたL及びDが,新たに,d社との投資一任契約に基づく資産運用をFにしてもらうことを企図し,その依頼を受けたFが,h社(後に,f社)とd社との間で投資一任契約を結ぶことによってオプション取引等による資産運用(投資判断者はFである。)をする上で,必要となる証券口座の設定をa社に求めたことから始められたものであって,a社からd社に対し,本件取引を行うことにつき勧誘したことはない。
加えて,本件取引に関する運用指図を担当したFは,オプション取引について豊富な知識と経験を有する専門家であり,また,当時,h社は有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律所定の認可投資顧問業者又は金融商品取引法所定の投資運用業を行う金融商品取引業者,f社は同金融商品取引業者であって,いずれもその業務を行うにつきd社に対して忠実義務(有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律30条の3,金融商品取引法42条1項)を負っていた上,本件取引の前提であるといえる投資一任契約(h社一任契約,f社7月一任契約及びf社10月一任契約)及び投資一任契約に伴う契約資産の預託に関する契約(h社預託契約及びf社預託契約)によれば,d社の契約資産の運用に関する一切の権限はh社又はf社に委託され,a社は,d社に対し,例外的な場合を除きd社の運用代理人であるh社又はf社の運用の指図及び運用に伴う担保の指図に従うとともに,善良な管理者の注意をもって預託資産の管理を行う義務を負うのみの関係にあった。
さらに,L一任取引を開始するに際し,その当時h社に在籍していたFは,金融商品販売法所定の金融商品販売業者等としての立場から,Lに対して,日経225オプションの商品性やリスク等を説明したほか,L一任取引が始まった後にも,現物株式取引やオプション取引について,マン・ツー・マンでの勉強会を行ったことに照らして,d社が本件取引を行うまでに,d社の代表取締役であるLは,金融商品販売法3条1項所定の重要事項につき,h社から説明を受けたものと認めることができる。
(2)  以上のことに鑑みれば,金融商品販売法及び金融商品取引法(証券取引法)の規定に照らしても,本件取引についてa社がd社に対して負うのは,原則としてh社又はf社の指図に従い,預託された資産を善管注意義務をもって管理する義務にとどまり,a社は,h社又はf社が明らかに法令等に反した運用の指図を行うといった特段の事情がない限り,本件取引に付随する信義則上の義務として,オプション取引に関するリスク説明をしたり,オプション取引を開始させないか,売り建玉を適切に制限するといった措置を講じたり,d社の知識,経験,財産の状況を確認し,それを踏まえて適切な説明や指導助言をしたり,オプション取引を継続拡大させないようにしたりするといったd社主張の義務を負うことはないと解するべきである。
(3)ア  この点,d社は,本件取引開始時に関して,① d社がオプション取引を開始する際,郵便による書類のやり取りで,証券口座設定申込書及び先物・オプション取引口座設定約諾書を差し入れさせただけで,代表取締役であるLと面談をすることもなく,金融商品取引法3条及び信義則上行うべきオプション取引に関するリスク説明を十分に行わなかったことや,② a社は,同日にd社がオプション取引を開始する際,d社の株主及び唯一の取締役かつ代表取締役がその当時24歳のLであり,Lがオプション取引に関する十分な知識や経験を有していないこと,d社の資産が1億円から5億円未満で,その資本金が1億5680万円にすぎないことを知っていたを主張するが,その主張に沿う事実があるとしても上記(2)の特段の事情に当たるとは認められない。
なお,a社が平成19年7月2日にd社から受け入れた証券口座設定申込書には,資産は1億円以上5億円未満である旨の記載があるが,d社の第22期(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)の決算報告書(甲50の1)を前提としても,同期末の資産の合計は20億5933万5661円であるところ,それから,平成19年7月以降に本件全部取引によって得た株式(l1社3000株,l2社6000株,l3社25株,l4社4000株,l5社3万株及びl6社5000株。合計1億1601万2341円)及びa社への証券預け金7億4077万1161円を控除しても,12億0255万2159円となり,平成20年3月11日にl13証券を介して売却されたとされるl14銀行株式30万株(売却金額1億7100万円)が平成19年7月よりも前に取得されたものであれば,更にその分が増額されることになる一方,他にd社の資産の異動状況を明らかにするに足りる証拠はなく,上記証券口座設定申込書の記載をそのまま採用することはできない。
イ  また,d社は,a社は,平成20年9月16日にd社が証拠金として6億円を追加する際,d社の株主及び唯一の取締役かつ代表取締役がその当時25歳のLであり,d社の資産が1億円から5億円未満で,その資本金が1億5680万円にすぎないことを知っていたと主張するが,その主張に沿う事実があるとしても上記(2)の特段の事情に当たるとは認められない。
なお,d社の第22期(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)及び第23期(同年4月1日から平成21年3月31日まで)の決算報告書(甲50)を前提としても,第23期末の資産の合計額が2億4305万9977円であるところ,d社は,平成20年9月16日当時には,本件全部取引によって取得した株式(l1社3000株,l2社6000株,l3社25株,l4社4000株,l5社3万株,l6社5000株及びl7社1万株)のほか,同年10月31日に381万6000円で売却したl8社株式60株や,同年12月4日に2億1000万円で売却したl9社株式,平成21年2月10日に合計3億0105万円で売却したl10社株式及びl11社株式を保有していたのであり,別途,同年1月20日に1030円でl12社株式を取得したことを考慮し,本件全部取引によって取得した株式やa社への証券預け金を考慮外としても,7億5000万円以上の資産を有していたことになることに照らし,d社の資産が1億円から5億円未満であったとはおよそ認めることができない。
ウ  さらに,d社は,a社は,d社の知識,経験,財産の状況等を把握しており,平成20年10月8日の取引終了後から同月9日の取引終了時までの間に,d社の財産状態が極度に悪化していることを十分に認識していたと主張するが,その主張に沿う事実があるとしても上記(2)の特段の事情に当たるとは認められない(なお,d社は,f社は,取引を継続拡大すればするほど受け取ることができる手数料が増え,自らの収益を上げることができるなどと主張するが,f社10月一任契約の投資一任契約細則〔乙42の2〕によれば,f社が受け取るのは,年額固定の管理報酬のほか,純利益に一定割合を乗じた成功報酬であると認められることに照らし,上記主張は失当であるといわざるを得ない。)。
エ  その余のd社の主張立証をもってしても,結局のところ,上記(2)の特段の事情があると認めることはできない。
したがって,その余の点を検討するまでもなく,d社のb社に対する債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償請求は失当である。
(4)  また,上記1(6)イにおいて認定した事実によれば,d社は,平成19年7月2日頃,a社に対し,本件取引に関し,金融商品販売法3条4項2号所定の意思の表明をしたものと認めることができる。
したがって,金融商品販売法3条1項の規定は,本件取引について適用されず,a社が本件取引を行おうとすることにつき,同項に基づき重要事項について説明をしなければならない場合に当たるといえないから,この場合に当たることを前提とするd社の金融商品販売法4条に基づく損害賠償請求は失当であるといわざるを得ない。
(5)  以上の次第で,d社のb社に対する反訴請求はいずれも理由がない。
3  d社への立替金償還請求に係る相殺の成否(争点(3))について
(1)  前提事実によれば,c社のd社に対する立替金償還請求権に基づく15億0993万0811円及びこれに対する弁済期後の平成20年10月21日から支払済みまで約定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払請求権が存すると認めることができる。
(2)  他方,上記2によれば,d社が自働債権として主張する損害賠償請求権は認められないことが明らかである。
(3)  したがって,d社が主張する相殺は成立しないといわざるを得ない。
4  d社への立替金償還請求に係る過失相殺の要否(争点(4))について
履行請求につき民法418条の類推適用の余地があるとしても,上記2において説示したところに鑑みれば,上記1に認めた事実関係に基づいてc社のd社に対する上記2(1)の立替金償還請求につき同条の類推適用により請求権を割合的に減縮することが相当であるというべき事情を認めることはできず,その他本件全証拠を精査しても,これを相当とするような事情を認めることはできない(Lの説明を前提としても,d社は,Dから,平成20年10月8日までに合計13億円もの巨額の貸付けを受けることができており,さらに,同月9日には更に11億円程度の借入れをすることができる状況にあったことや,本件取引に関する運用指図を担当したFは,オプション取引について豊富な知識と経験を有する専門家であり,そのFが,日経平均株価が暴落した直後は,相当程度の高い確率で反発するとの経験則を持っており,□□や●●による最新の情報その他経済情勢に関する情報等から,同月9日以降,高い確率で日経平均株価は反発するだろうと判断し,追加証拠金を支払う方がよいとDに説明したことなど,上記1及び2において認定した諸事情に鑑みても,同月8日の取引終了時点で,d社の合計1118枚の売り建玉につき日経平均価格より権利行使価格の方が高い状態であったことや,本件取引における必要証拠金額が23億9379万6420円となったといったことがあるとしても,そのことをもって,d社につき「債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき」に該当することを理由に,a社が同時点で本件取引につき強制決済をすることを十分に期待できたとはにわかにいえず,これをしなかったことがa社の立替金償還請求との関係でa社の落ち度であったとまで認めることはできない。)。
したがって,d社の過失相殺の類推適用に関する主張は失当である。
5  d社への立替金償還請求に係る信義則違反又は権利濫用の有無(争点(5))について
上記2において説示したところに鑑みれば,上記1に認めた事実関係によっても,c社のd社に対する本訴アの立替金償還請求権に基づく請求につき,これを信義則違反又は権利濫用に当たるというべき事情を認めることはできず,その他本件全証拠を精査しても,そうした事情を認めることはできない。
したがって,d社の信義則違反又は権利濫用に関する主張は失当である。
6  Lの悪意又は重大な過失による任務懈怠の有無(争点(6))について
(1)  上記1によれば,次のとおり認めることができる。
ア 平成20年10月8日の取引終了時点で,d社が売り建てていたプットオプションは,①権利行使価格9750円のものが25枚,②権利行使価格9500円のものが247枚,③権利行使価格9250円のものが846枚,④権利行使価格9000円のものが2383枚である一方(いずれも同月限月のものである。),日経平均株価の終値が始値から808円32銭下落した9203円32銭となったことから,追加証拠金として11億0192万3442円(同日時点でa社からFに伝えられた金額)が必要となり,これが同月9日午後1時27分に振込入金の方法によりd社からa社に預託された(なお,上記の追加証拠金の預託後に,本件取引において新たな建玉が行われたことはない。)。
イ 上記の追加証拠金は,オプション取引について豊富な知識と経験を有する専門家であり,平成15年頃からのi社等一任取引以来,相応の実績を上げて,信頼を勝ち得てきたFがDに対し,平成20年10月8日,日経平均株価が暴落した直後は,相当程度の高い確率で反発するとの経験則を持っており,また,日本政府の緊急の経済対策が打ち出され,1兆8000億円の緊急補正予算が組まれて,なおかつその額が増加されるかもしれないという材料が出されたことや,株価対策として,先進10か国の中央銀行が一斉同時利下げを実施するという発表をしたこと等の情報があって,過去の経験則からいったら急反発する地合いが出てきたと感じたこと,j8社を始めとするほとんどの証券会社のアナリストが株価は急反発するだろうという予測を出しており,F自身も,同月9日以降,高い確率で日経平均株価は反発するだろうとの判断をしていたことから,追加証拠金を支払ってもらう方がよいだろうと伝えるとともに,予想に反して,同日も更に日経平均株価が下がり,更なる追加証拠金が発生しそうな場合や,同月10日の特別清算指数(SQ)が証拠金残高を上回る損失を生じさせるものとなりそうな場合は,反対売買で対応して,更なる追加証拠金を出してもらわないようにしたいとの方針を示し,Dがその説明につき了解したことがあって,Dからその全部又は大部分が出捐されることによって,預託されるに至ったものである(なお,上記のFの判断は,F独自のものではなく,f社としての判断に沿うものであった。)。
ウ また,本件取引は,当時,f社への投資一任の下,Fの投資判断に基づき行われていたところ,Fは,平成20年10月9日の前場においては,日経平均株価がFの予想どおりの値動きであった上,米国シカゴで行われている「グローベックス」の値動きが上昇していたことから,プットオプションの売り建玉を満期日まで持ち越した方がよいとの投資判断をし,後場になってから,日経平均株価は緩やかに下落し始めて,終値が9157円49銭となった中で,反対売買を行った場合,予想変動率(インプライド・ボラティリティ)が非常に高く,それらのプットオプションの損失の理論値を大きく超えて損失を確定させる結果になってしまうため,満期日まで持ち越した方が得策であることや,当日の値動きに加え,過去の株価動向や,株式市場に影響を与える経済情勢に関する情報(同月8日に先進10か国の中央銀行が協調して緊急利下げを行うことが決まったことに加え,欧州中央銀行総裁やドイツ連邦銀行総裁が相次いで必要な施策を採る意向であることを表明したこと,G7で更なる施策が打ち出されるのではないかという観測が市場関係者の間で広まっていたこと,大手証券会社のアナリストも,過去の大幅下落とその後の底入れの状況との比較から底入れが近いとの見解を示していたこと等),「グローベックス」の値動き等からして,特別清算指数(SQ)が9000円を割り込む可能性は低く,むしろ,もっと高い金額になるのではないかと判断したことから,プットオプションの売り建玉をいずれも反対売買により決済しなかった。
エ 仮に平成20年10月8日にd社がプットオプションの売り建玉全てを買い戻して決済した場合,同日の中間値によったとすれば4億6883万5460円(手数料を除く。),同日の高値によったとすれば9億2267万8460円(手数料を除く。)の損失がd社には生じ,また,仮に同月9日にd社がプットオプションの売り建玉全てを買い戻して決済した場合,同日の中間値によったとすれば6億9234万2460円(手数料を除く。),同日の高値によったとすれば12億7735万5460円(手数料を除く。)の損失がd社には生じたと試算される。
オ 平成20年10月10日に,日経平均株価の始値は9016円34銭であったが,日本の市場取引が開始される前にニューヨーク市場が暴落したこと,1ドル100円を割り込む円高が進行したこと,j9株式会社の経営破綻が発表されたことなどから,投資家心理が極端に悪化して,日経平均株価が下げ幅を広げ,同月8日から1日を空けるだけで引き続き9%を超える下げ幅を記録するというそれまでにない状況が生じた(もっとも,日経平均株価は,翌営業日である同月14日には9400円台に,同月15日には9500円台に回復した。)。
また,平成20年10月10日を満期日とする日経225オプション取引の特別清算指数(SQ)は,通常は午前9時過ぎに確定するにもかかわらず,確定したのが同日午前10時過ぎであり,また,平成18年1月から平成20年10月までにおける各月の特別清算指数(SQ)と当日の日経平均株価始値及び前日の日経平均株価終値との乖離率をみた場合,他の場合にはせいぜい2%台であるのに,平成20年10月のそれは,いずれも10%以上マイナスとなる特異的なものであった。
(2)ア  ところで,他方において上記1によれば,d社がDからの借入れにより,日経225オプションの売りという極めてリスクの高い取引を行ってきており,また,d社の代表取締役であるL自身が自己名義で行ったL一任取引において平成18年6月8日及び9日に合計1億7000万円の追加証拠金を入金してオプション取引を継続した結果,満期日(同日)に7650万円ほどの損失を被ったことがあったほか,平成17年5月限月の満期日に378万円ほど,平成19年3月限月の満期日に8143万円ほどの損失を被ったことがあった経験があり,さらに,平成20年9月16日に証拠金6億円をDからの借入れにより積み増したことによりd社の行う本件取引の規模が拡大していたこと(この結果,平成20年3月31日現在の貸借対照表に基づいた概算をすれば,同年9月16日の時点でd社の資産額は26億円余り,負債額は20億円余りであったと考えられる。)を指摘することができる。
これらのことに加えて,同年10月8日に日経平均株価の暴落の結果,本件取引において11億円ほどの追加証拠金が発生したことや,同日の取引終了時点でのd社の売り建玉が上記(1)アのとおりである一方,同日の日経平均株価の終値が9203円32銭となったことなどに鑑みれば,d社の唯一の取締役であるLとしては,Dからの借入れによって追加証拠金を入金し,本件取引を継続するかどうかの判断をするに当たっては,日経平均株価が更に下落してd社の債権者に損害を与える危険性があることを考慮し,本件取引を中止することを視野に入れて,積極消極の場合の利害得失を慎重に検討するべき善管注意義務を負っていたということができる。
イ  そして,Lの説明(乙59,65,L本人)によっても,L自身がFと直接対応して情報収集をしたことは認められず,また,L本人は,追加証拠金を入金せずに損失を確定した場合に生じるべき損失の額について問われても,具体的な回答ができず,また,平成20年10月8日夕方のDからの電話での情報のみによって,11億円ほどの追加証拠金をDから借り入れて入金することを決めたなどということに鑑みれば,Lに上記アにおいて説示した善管注意義務について任務懈怠がなかったとはにわかにいい難い。
ウ  しかし,Lが上記アにおいて説示した善管注意義務を尽くさず,慎重な検討判断を行わないまま,上記追加証拠金を入金することを決め,この入金を実行するに当たり,d社とf社との間でf社10月一任契約の契約資産を増額変更する旨の合意が新たに結ばれるとともに,Lが本件取引を継続する旨の独自の判断をしたのだとしても,Lは,d社の資産運用に関し多額の資金を貸し付けてくれた最大債権者であるDに対する返済を行うためには,最大債権者であるDの意向をくみ取る必要があり,かつ,このような状況においては,オプション取引の専門家であるFの投資判断を信頼する以外に方法はないと考え,L自身の判断として,Dから約11億円を借り入れてf社との一任取引に基づく本件取引を継続し,平成20年10月9日以降の投資判断をFに任せることとした旨の説明をすること(乙59,65,L本人)に加え,次のエに説示することに鑑みれば,Lにその任務懈怠につき悪意はもとより,重大な過失があったことも認めることはできない(c社が主張する① 投資一任契約の変更合意を行うか否かについて,それを実行した場合のd社及び取引先の利害得失,より端的には支払見込みを確保できるか否かとそれを実行しなかった場合のd社及び取引先の利害得失とを比較考量し,支払資金の不足を生じさせることにより取引先等に不測の損害を与えることのないようにするべき善管注意義務や,② 投資一任契約につき変更合意をして取引を継続するのであれば,そのような事態が生じた場合であってもd社が支払をすることができる見込みを確保した上でするべきであり,それができなければ建玉を全て決済して取引を中止するべき義務を措定できるとしても,以上のことに加えて次のエに説示することに鑑みれば,Lについてその任務懈怠につき悪意又は重大な過失があったと認めることはできないというべきである。)。
エ(ア)  すなわち,上記1によれば,平成20年10月10日午後7時30分頃,a社のJらがd社の本店を訪れた際,Lが現れず,また,Dが「d社は破産する。」などとまくし立てたこと等を指摘できるが,後記オに説示するところに照して,Lがd社の代表取締役及び取締役を同日辞任し,Cがそれらに就任したことは,Dの意向に基づくものである可能性が相応に認められる一方で,Dがd社の債権者の立場を超えた何らかの法的地位にあったとは認め難いこと(別件訴訟判決〔甲39,乙48。なお,乙66〕等に照らし,この点は,c社申出の証人K及び証人Eを取り調べたところで変わらないものと認められる。なお,c社は,Dがd社の運用責任者,実質的運用責任者又は運用担当者であったと主張するが,その主張の内実は判然とせず,いずれにせよ,上記のようにいうしかない。)に鑑みても,同月10日のDの言動から直ちに,同月8日から同月9日に上記追加証拠金が入金されるまでの間に,Lがあらかじめd社の代表取締役等を辞任することを決定していたことや,Lがあらかじめd社を破産させるつもりであったことを認めることはできない。
また,Dの立場について上記のとおりといわざるを得ないことに鑑みれば,上記(1)エに照らし,同月8日の追加証拠金発生が確実となった時点から同月9日に追加証拠金を入金するまでに反対売買により全てのプットオプションの建玉を決済することによって,d社の取引先に損害を与える危険が全くなかったと断定することはできず(c社自身,反対売買により全てのプットオプションを決済することがd社に巨額の損失の発生を確定させるものであることを認めている。),その上,追加証拠金を預託して本件取引を継続することがDから11億円ほどの借入れを行うことを前提としていることや,Fが証人尋問において,投資顧問の仕事に従事する者やアナリストといった相場に関わる者が100人いたとして,同月8日の場面において,追加証拠金を入金せずに全部反対売買をした方がよいと勧める者は,100人中1人もいなかったと思う旨供述すること,その他上記(1)に掲記した諸事情に鑑みても,上記ア及びイの事実関係があるからといって,Lが取引先であるa社に損失が発生することを認容しつつ,d社の株主としては有限責任の結果失うものがないため,イチかバチかの投機に走ったなどということはできない。
(イ) 加えて,上記1によれば,① d社は,平成19年7月以降,本件取引を主要なものとする資産運用会社であったといえ,特に平成20年10月8日以降の状況(上記1(14)以下において認定したとおりである。)に鑑みれば,同日以降のd社の財務に関する経営判断は,本件取引に関する投資判断と極めて緊密な関連性を有するものであったと認められること,② LがL一任取引の過程で追加証拠金を入金して取引を継続した結果7650万円ほどの損失を被った際には,その損失の程度は当時預託していた証拠金の1割ほどのものであったのであり,また,L一任取引により通算で8134万7004円の利益が出たことがあって,Lは,Fとの取引は長期的にみれば危険な取引ではないと認識していたこと,③ LがFによる説明や勉強会,L一任取引等を通じてオプション取引につき相応の知識を得たことは認められるものの,オプション取引について豊富な知識と経験を有するFのような専門家が有する知識経験の水準を超えるものであったことの証拠はなく,かつ,上記ア及びイの事実関係を考慮に入れても,Lが上記経営判断を行うについて,専門家であるFの投資判断を信頼しこれに従うとしたことがおよそ不合理なものであったとは,断定し難いこと(また,平成20年10月8日以降のFの投資判断が不合理なものであったというに足りる証拠は見当たらない。)を指摘することができる。
(ウ) 以上のことのほか,a社自身が平成20年10月10日に至るまでに,d社との本件取引を継続することにつきリスクを認識して格別の措置を講じたとは認め難いことに加え,上記(1)に掲記した諸事情があることに鑑みれば,その他上記1に認めた事実関係を総合しても,Lの任務懈怠につき,悪意はもとより,重大な過失があったというに足りる事情を認めることはできないというべきである。
オ  なお,上記1によれば,d社が行う資産運用の資金をD及びDが代表者であるi社が貸し付けており,本件取引に関する連絡も専らFからDに対して行われていたこと,d社の本店所在地はg社の事務所があった東京都新宿区〈以下省略〉で,後には同所がg社の本店所在地とされていること,d社にはプロパーの従業員はおらず,d社の事務処理を行っていたのは,Dの秘書のEであることが認められ,また,Lの説明(乙59,L本人)によれば,平成20年10月10日にDからLに多額の決済不足金が発生したことなどが電話で伝えられたのは,同日夕方のことであり,その際に,d社の代表取締役及び取締役をLからCに交代することが決定されたと認められる。さらに,a社の役員のJらが平成20年10月10日の午後7時30分頃にd社の本店を訪れた際に,対応をしたのはDとCであり,a社側と話をしたのは主にDであること(上記1(18)参照)などに鑑みれば,Dがd社の運営について相当な影響力を持ち,実質的な関与をしていたことがうかがわれる。しかし,このことから直ちに,Lがd社の運営に全く関与していなかったことが帰結されるわけではなく,上記ウのLの説明を事実と異なるものとしてにわかに排斥することはできない(また,以上によれば,法的な位置付けとして,あくまでもd社が本件取引の主体,Lがd社の株主,取締役及び代表取締役であり,Dは,d社に対する債権者であるにとどまるといわざるを得ない。)。
(3)  したがって,Lに悪意又は重大な過失による任務懈怠があるとは認めることができないから,その余の点を検討するまでもなく,c社のLに対する会社法429条1項に基づく本訴イの請求は理由がない。
7  まとめ
以上によれば,c社が,d社に対し,立替金償還請求権に基づき,a社が平成20年10月14日に支出した額15億7954万9281円の一部である15億0993万0811円及びこれに対する弁済期後の同月21日から支払済みまで約定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求める本訴アの請求は理由があるが,その余の本訴請求及び反訴請求はいずれも理由がない。
なお,以上に照らし,d社及びLからの文書提出命令の申立て(平成23年(モ)第875号,同年(モ)第876号及び同年(モ)第3906号)は必要性がないからいずれも却下する。
第4  結論
よって,理由がある本訴アの請求を認容し,理由がないその余の本訴請求及び反訴請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小海隆則 裁判官 村井佳奈 裁判官藤倉徹也は,転補により署名押印することができない。裁判長裁判官 小海隆則)

 

別紙
当事者等目録
東京都港区〈以下省略〉
本訴原告a株式会社訴訟承継人b株式会社引受承継人 株式会社c
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 M1
M2
M3
M4
東京都中央区〈以下省略〉
本訴原告(脱退)兼反訴被告 a株式会社訴訟承継人b株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 M5
M6
M7
同訴訟復代理人弁護士 M8
M9
東京都目黒区〈以下省略〉
本訴被告兼反訴原告 株式会社d
同代表者代表取締役 C
東京都世田谷区〈以下省略〉
本訴被告 L
上記2名訴訟代理人弁護士 M10
M11
M12

 

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