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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(103)平成27年10月30日 東京地裁 平25(ワ)32394号 特許を受ける権利帰属確認請求事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(103)平成27年10月30日 東京地裁 平25(ワ)32394号 特許を受ける権利帰属確認請求事件

裁判年月日  平成27年10月30日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(ワ)32394号
事件名  特許を受ける権利帰属確認請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2015WLJPCA10309001

要旨
◆原告が、発明の名称を「豚用飼料及びその給与方法」とする本件出願1及び本件出願2に係る本件各発明は、いずれも原告が発明したものであると主張して、被告との間において、本件各発明について、原告が特許を受ける権利を有することの確認を求めた事案において、原告は、本件各発明のいずれについても、当該発明を単独で発明した者とも、被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められないなどとして、請求を棄却した事例

評釈
IP研究会・特許ニュース 14148号19頁

参照条文
特許法33条1項
民法93条
民法94条1項
民法95条

裁判年月日  平成27年10月30日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(ワ)32394号
事件名  特許を受ける権利帰属確認請求事件
裁判結果  請求棄却  文献番号  2015WLJPCA10309001

東京都世田谷区<以下略>
Aリサーチ&コンサルティングこと
原告 A
同訴訟代理人弁護士 廣田逸平
同補佐人弁理士 堀内真
大阪市<以下略>
被告 株式会社カネカ
同訴訟代理人弁護士 重冨貴光
同 古庄俊哉

 

主文

1  原告の請求を棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求
原告と被告との間において,原告が,別紙特許出願目録記載1の特許出願の請求項1ないし11記載の各発明及び同目録記載2の特許出願の請求項1ないし4記載の各発明について,特許を受ける権利を有することを確認する。
第2  事案の概要
1  本件は,原告が,別紙特許出願目録記載1の特許出願(以下「本件出願1」という。なお,被告は,本件出願1につき,平成26年11月18日付け手続補正書〔甲47の1〕により特許請求の範囲を補正しており,同目録記載1の各請求項の記載内容は,同補正後のものである。)の請求項1ないし11記載の各発明(以下,請求項の番号に従い,「本件発明1-1」「本件発明1-2」などといい,これらを併せて「本件発明1」という。)及び同目録記載2の特許出願(以下「本件出願2」という。なお,被告は,本件出願2につき,平成27年1月5日付け手続補正書〔甲48の1〕により特許請求の範囲を補正しており,同目録記載2の各請求項の記載内容は,同補正後のものである。)の請求項1ないし4記載の各発明(以下,請求項の番号に従い,「本件発明2-1」「本件発明2-2」などといい,これらを併せて「本件発明2」という。また,本件発明1と本件発明2を併せて「本件各発明」という。)は,いずれも原告が発明したものであると主張して,被告との間において,本件各発明について,原告が特許を受ける権利を有することの確認を求めた事案である(なお,原告は,平成27年6月12日の本件第2回口頭弁論において,本件請求は,仮に,本件各発明が原告と被告の従業員らとの共同発明であると認定された場合には,原告が本件各発明につき特許を受ける権利の共有持分を有することの確認を求める趣旨を含むものである旨陳述した。)。
2  前提事実(証拠等を掲げたもののほかは,当事者間に争いがない。)
(1)  当事者
原告は,「Aリサーチ&コンサルティング」の屋号を用いて,研究開発のコンサルティング等を提供する個人である(甲5,21の1・2,弁論の全趣旨)。
被告は,無機,有機の工業製品,医薬品,医療用具,動物用医薬品,農薬の製造販売及び販売等を目的とする株式会社である。
(2)  アドバイザリー契約の締結
原告と被告は,次の内容を含む平成21年9月1日付け「アドバイザリー契約書」(以下,この契約書を「本件契約書」といい,同契約書に基づく契約を「本件契約」という。)を取り交わした(乙1)。
ア 原告と被告は,原告が被告に提供する「コエンザイムQの新規用途,市場開発」に関する助言その他のサービス(以下「本サービス」という。)に関し,本件契約を締結する。〔序文〕
イ 原告は,被告に対し,次の内容の本サービスを提供する。〔1条〕
① コエンザイムQ(以下「補酵素Q」という。)の豚飼料用途(豚出生率の向上)での開発アイデアの提供
② 被告の指定する機関又は原告が提案する機関との共同研究による豚飼料での補酵素Qの効果の実証及び特許出願用データの取得(共同研究のプロトコール作成と機関に対する説明を含む。)
③ 本サービスの実施報告書の作成と提出
ウ 本サービスの実施期間は本件契約の締結日から1年間とする。〔2条〕
エ 被告は,原告に対し,次のとおり,本サービスの対価を支払う。〔3条〕
(ア) 月額15万円
(イ) 被告が本サービスにより得られたデータにより特許出願した場合,又は,特許出願しないものの同データを被告の営業資料として利用することを決定した場合,上記(ア)とは別に,100万円(消費税分は含まず,源泉徴収分を含む。)
オ 本サービスの結果得られる成果(知的財産権含む)についての権利は,全て被告に帰属する。〔6条〕
(3)  被告による特許出願等
ア 被告は,平成22年3月9日,次の特許出願(以下「被告3月基礎出願」という。)をした。なお,発明者として記載されているB,C,D及びEは,いずれも被告の従業員である(甲16)。
発明の名称  豚用飼料及びその給与方法
出 願 番 号  特願2010-52286
発 明 者  B,C,D,E
請求項の数  11
イ 原告は,平成22年3月10日,次の特許出願(以下「原告出願」といい,同出願に係る明細書及び図面を「原告明細書」という。)をした(甲3)。
発明の名称  胎児期及び乳児期等の哺乳動物へのCoQ10の新規用途
出 願 番 号  特願2010-53452
発 明 者  原告請求項の数  6
ウ 被告は,平成22年5月21日,次の特許出願(以下「被告5月基礎出願」という。)をした(甲17)。
発明の名称  豚用飼料及びその給与方法
出 願 番 号  特願2010-117569
発 明 者  B,C,D,E
請求項の数  6
エ 被告は,平成23年3月8日,被告3月基礎出願に基づく優先権を主張して,次の特許出願(本件出願1。以下,本件出願1に係る明細書及び図面を「本件明細書1」という。)をし(甲1),被告3月基礎出願は,その出願の日である平成22年3月9日から1年3か月を経過した時に取り下げたものとみなされた(特許法42条1項)。
発明の名称  豚用飼料及びその給与方法
出 願 番 号  特願2011-50441
発 明 者  B,C,D,E
出願公開番号  特開2011-206050
公開年月日  平成23年10月20日
請求項の数  12
オ 被告は,平成23年5月20日,被告5月基礎出願に基づく優先権を主張して,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約に基づく国際出願をし(PCT/JP2011/061635),同出願については,平成24年10月10日に国内移行手続が執られた結果,その国際出願日である平成23年5月20日にされた次の特許出願(本件出願2。以下,本件出願2に係る明細書及び図面を「本件明細書2」という。)とみなされ(特許法184条の3第1項)(甲2,36),また,被告5月基礎出願は,その出願日である平成22年5月21日から1年3か月を経過した時に取り下げられたものとみなされた(同法42条1項)。
発明の名称  豚用飼料及びその給与方法
出 願 番 号  特願2012-515940
発 明 者  B,C,D,E
国際公開番号  WO2011/145719
国際公開日  平成23年11月24日
請求項の数  12
カ 被告は,本件出願1につき,平成26年11月18日付け手続補正書により,特許請求の範囲を別紙特許出願目録記載1のとおり補正した(判決注:同補正に係る部分に下線を付した)。補正後の請求項の数は11である(甲47の1)。
キ 被告は,本件出願2につき,平成27年1月5日付け手続補正書により,特許請求の範囲の記載を別紙特許出願目録記載2のとおり補正した(判決注:同補正に係る部分に下線を付した)。補正後の請求項の数は4である(甲48の1)。
3  争点
(1)  原告は,本件各発明の発明者又は共同発明者であるか(争点1)
(2)  原告は,本件契約により,本件各発明について特許を受ける権利を被告に譲渡したか(争点2)
(3)  本件契約は,心裡留保,虚偽表示又は錯誤により無効であるか(争点3)
4  争点に対する当事者の主張
(1)  争点1(原告は,本件各発明の発明者又は共同発明者であるか)について
【原告の主張】
ア 補酵素Q10に関する原告の発明
原告は,遅くとも原告が被告に本件各発明を開示した平成21年2月17日までに,以下に述べる各実験を通じて,コエンザイムQ10(以下「補酵素Q10」という。)に関する複数の発明(以下「原告発明」という。)を完成させていた。
(ア) 原告は,平成10年頃,東海大学の研究者に研究を申し出て,線虫を用いた実験を実施し,ビタミンEでは延長できなかった酸素感受性の線虫の寿命が,補酵素Q10を投与することにより延長できること,投与のタイミングが早いほど寿命が顕著に延長することを確認した(甲43)。これにより,原告は,生物の発生期に補酵素Q10を投与することによる顕著な効果を見いだし,酸化ストレスが問題となる未熟児の生産性向上等の課題が解決できることを考案した。
(イ) 原告は,平成13年1月頃までに,早産ウサギ(ウサギ未熟児)に補酵素Q10を腹腔内投与する実験(原告明細書の実施例1,図1及び図2。以下「ウサギ実験1」という。)及び妊娠ウサギに補酵素Q10を経口投与する実験(原告明細書の実施例2,図4及び図5。以下「ウサギ実験2」という。)を実施した。原告は,ウサギ実験1により,補酵素Q10が早産ウサギ等の哺乳動物の未熟児の酸化ストレスを低減しうることを把握し,ウサギ実験2により,補酵素Q10を妊娠哺乳動物に経口投与すると補酵素Q10が哺乳動物の胎児にまで送達されることや,補酵素Q10投与が哺乳動物の胎児(ウサギ胎児等)や未熟児(早産ウサギ等)の酸化ストレスを低減し得たことを把握した。
(ウ) 原告は,平成17年11月頃までに,マウスを用いた実験(原告明細書の実施例3)を実施し,補酵素Q10を雌非ヒト哺乳動物に経口投与することにより,出産数を増加し得たことを把握した。
(エ) 原告が上記各実験により完成させた原告発明は,次のとおり整理できる。
すなわち,原告発明は,補酵素Q10を非ヒト哺乳動物に投与することを特徴とする非ヒト哺乳動物の生産性向上方法であり,生産性の向上には,死産数の減少などを含む出産数の増加や,離乳期までの死亡率の低下が挙げられる。投与の対象としては,好ましくは妊娠期,授乳期の母非ヒト哺乳動物や,乳児期の非ヒト哺乳動物が挙げられるが,生物種に限定はない。投与方法としては,経口投与と非経口投与とを問わず,また,投与経路として,直接投与するほか,母非ヒト哺乳動物に投与し,これを経由して胎児期や乳児期の子非ヒト哺乳動物に投与してもよい。
イ 原告は,本件各発明の発明者であること
他方,被告の出願に係る本件各発明の特徴的部分は,「補酵素Q10等の補酵素Qを母豚に投与することにより,その母豚の分娩成績を効果的に改善し,あるいは,出生以降の子豚の成長・生産性を効果的に向上できるという効果を,確認又は高い蓋然性で把握する点」にあるものと解される。
ここで,哺乳動物の中でも豚は1回の出産で平均12匹もの子豚を生むため子豚は未熟な状態であること,未熟児は酸化能が低く,出産時の酸化ストレス障害が子豚の早期死亡の原因となることは,一般に知られていたところであり,これに原告発明とを併せ考慮すれば,母豚等に補酵素Q10を投与すれば,補酵素Q10を胎児豚の体内にまで到達させることができ,しかも,哺乳動物の中で特に豚については,胎児豚の酸化ストレスを軽減することによって,子豚の死産等の早期死亡を特に効果的に抑制することができることを,当業者は高い蓋然性により把握することができる。
なお,化学分野,生物分野に属する発明であっても,発明の完成に,当該発明の最終的な効果に関する直接的なデータが不可欠というものではなく,最終的な効果を間接的に示すデータと,その当時の技術常識を併せ考慮することにより,当該発明の構成により最終的な効果が得られること(当該発明の課題が解決できること)が認識できるのであれば,当該発明は完成したといえる。
したがって,本件各発明の特徴的部分は,平成21年2月17日以前に,原告により実証され,完成していたものであるから,本件各発明の発明者は原告である。
ウ 被告の従業員らは,本件各発明の発明者又は共同発明者でないこと
原告は,平成21年2月17日,被告の東京本社にて被告の従業員らと面談し,同従業員らに対し,本件各発明を開示し,本件各発明に関する飼料の開発アイデアとビジネス展開について提案した(甲6)。これにより,被告は,被告の主力商品である補酵素Q10を母豚の飼料として投与することによって,分娩成績の改善や出生以降の子豚の成長・生産性を向上させ得ることを初めて具体的に認識し,これを事業化することに関心を持ち,原告から継続的にコンサルティングを受けるために本件契約を締結したものである。
この点,被告は,原告との同日の面談以前にも,補酵素Qを豚に投与することで,死亡率低減,繁殖効率向上等の効果が得られるとの発明思想を被告が独自に得ていたと主張するが,同日以前の被告の検討(乙4ないし9)は,いずれも,補酵素Q10を,主要な各種家畜動物の各種ライフステージや属性のものに網羅的に投与する試験計画を示すにとどまり,その投与効果を直接的に又は間接的に裏付ける独自のデータ等もなく,畜産業界における一般的な課題や単なる願望を提示しているにすぎない。
また,同日以後においても,被告の従業員らは,本件各発明の特徴的部分に何ら創作的寄与をしたものではない。すなわち,被告は,原告からウサギ実験1及び同2等の実証データ,かかる実証データから導かれる技術的知見の開示を受けたからこそ,母豚への投与試験を行うおおやファーム有限会社(以下「おおやファーム」という。)を探し出すことができたのであり,投与試験の実施に際しても,そのプロトコール(試験の手順,条件)の重要部分は,原告が作成している。被告の従業員らは,原告の補助者として,原告が既に完成させていた本件各発明の効果をより直接的に示すデータを取得するための試験を,原告の作成したプロトコールに従い遂行又は遂行の補助を行ったにすぎないものである。
エ 原告は,少なくとも本件各発明の共同発明者であること
仮に,被告の従業員らが,本件各発明の特徴的部分に何らかの創作的寄与をしていたとしても,既に述べたとおり,原告は,本件各発明の課題及びその解決手段を考案したほか,同課題の解決を確認しているのであるから,少なくとも,本件各発明の共同発明者である。
【被告の主張】
ア 被告は,平成21年2月以前から,補酵素Q10を使用した製品開発を行うための知見・ノウハウを有しており,飼料開発,販売事業に関しても,種々の家畜動物を対象に補酵素Q10の給与試験を計画・実施してきた。母豚,子豚に補酵素Q10を投与することによって生産性向上を図るという本件各発明の開発アイデアは,遅くとも平成20年の時点で被告が独自に保有しており,豚に補酵素Q10を給与する試験の策定・実施の能力・体制を十分に備えていた。
本件各発明は,被告が有していたかかる開発アイデアに基づいて,被告の従業員が,おおやファーム,有限会社ロッセ農場(以下「ロッセ農場」という。),全国畜産農業協同組合連合会(以下「全畜連」という。)において実施した母豚への補酵素Q10添加飼料の給餌による各分娩成績改善試験(乙10ないし12)によって,補酵素Q10を豚に投与することによる豚の分娩成績の改善あるいは出生以降の子豚の成長等の生産性向上の効果を直接確認するなどして完成したものである。したがって,本件各発明の発明者は,被告の従業員らである。
イ これに対し,原告は,本件各発明の特徴的部分を「補酵素Q10等の補酵素Qを母豚に投与することにより,その母豚の分娩成績を効果的に改善し,あるいは,出生以降の子豚の成長・生産性を効果的に向上させることができるという効果を,確認又は高い蓋然性で把握する点」にあるとした上,原告は,ウサギ実験1等の各種実験により,上記特徴的部分に創作的な貢献,寄与をしたとして,原告が本件各発明の発明者である旨主張する。
しかしながら,そもそも,本件各発明の特徴的部分について,補酵素Qの投与の効果を「確認又は高い蓋然性で把握する点」であるとすることが,原告独自の見解であって失当である。本件のような生物分野における発明が完成に至るには,豚への補酵素Q10の投与実験を策定・実施することで,豚の分娩成績の改善あるいは出生以降の子豚の成長,生産性の向上という効果(有用性)を直接確認することが重要である。
また,原告自身が,補酵素Q10を豚に投与することによる効果はウサギ実験1等で得られたデータから推察される仮説であることや,豚を対象とした給与試験による実証の必要性がある旨を自認しており,それゆえに,原告は,被告との協働を提案したものである(甲13,18)。
ウ 原告は,本件契約の締結交渉過程や,本件契約締結後に,被告に対して一定の情報を提供したが,そのいずれもが,①被告が既に保有していた情報,②飼料,養豚の業界で既に知られていた内容又はこれらから自明の内容,③本件各発明の完成とは無関係な事項,④補酵素Qの投与計画策定にあたって当然に検討すべき事項にすぎないものであって,結果として,本件各発明との関係において創作的な貢献,寄与をするものではなかった。
エ 原告は,予備的に,原告が本件各発明の共同発明者である旨主張するが,上記のとおり,原告は,本件各発明の完成に対して何ら創作的な貢献,寄与をしたものではないから,同主張も理由がない。
(2)  争点2(原告は,本件契約により,本件各発明について特許を受ける権利を被告に譲渡したか)について
【被告の主張】
ア 仮に,原告が本件各発明の発明者又は共同発明者であるとしても,原告は,本件契約により,本件各発明について特許を受ける権利を被告に譲渡したものである。
すなわち,本件契約書(乙1)は,原告が被告に対して「本サービス」,具体的には,「コエンザイムQの豚飼料用途(豚出生率の向上)での開発アイデアの提供」,「乙(被告)の指定する機関あるいは甲(原告)が提案する機関・・・との共同研究による豚飼料でのコエンザイムQの効果の実証および特許出願用データの取得(共同研究のプロトコール作成と実施機関に対する説明を含む。)」などのサービスを提供すること(1条),これに対して被告が対価を支払うこと(3条)をそれぞれ規定した上,「本サービスの結果得られる成果(知的財産権含む)についての権利は,全て乙(被告)に帰属する。」として,原告が提供するサービスの結果得られた発明の特許を受ける権利が被告に帰属することを,端的かつ明確に規定している(6条)。
この点,原告は,本件契約により被告に帰属する権利が「特許出願に必要なデータを使用する権利」であると主張するが,本件契約書における「(知的財産権含む)」との規定を意図的に無視するものであって不当である。特許出願のためのデータを使用する権利を有しながら,特許出願を自由に行うことができなくなるような契約は,不合理というほかない。
イ 原告が,本件契約の締結に至る交渉過程において,特許を受ける権利の対価を別に求めたことはあるが,被告は,そのような提案には応じていないし,社内で検討もしていない。また,原被告間で,契約を二段階に分けることや,第二段階として特許を受ける権利を譲渡するといった交渉も行われていない。
【原告の主張】
ア 本件契約によっては,原告の特許を受ける権利は譲渡されていない。
そもそも,原告は,本件契約の締結に先だって,既に本件各発明を完成させているのであるから,本件各発明に係る特許を受ける権利は,本件契約書にいう「本サービスの結果得られる成果についての権利」に当たらない。
本件契約は,原告が,豚飼料用途(出生率向上)に関する試験のコーディネート等を提供し,これに対し,被告が,月額15万円の報酬を支払うと共に,特許出願に用いることができるデータを取得できた場合には,別途100万円の成功報酬を支払うことが約されたものである。したがって,被告が取得する「本サービスの結果得られる権利」とは,特許出願に用いることができるデータを使用できる権利であって,本件各発明について特許を受ける権利ではない。
イ 本件各発明について特許を受ける権利に関しては,原被告間で,その譲渡対価を別途協議することが予定されていたが,現在に至っても同対価は定まっておらず,結局,本件各発明について特許を受ける権利は,被告に移転していない。
すなわち,原告は,被告に対し,原被告間の契約を,ビジネス展開戦略の仮説の評価段階である第一段階と,同評価後の戦略策定や特許を受ける権利の譲渡などの第二段階の二段階に分けた上で,第一段階における原告の報酬として月額25万円を希望し,第二段階における報酬は別途協議することを申し入れた(甲21の1・2)。被告は,これに対し,本件各発明について特許を受ける権利の譲渡を含む第二段階の契約については,時間がかかりそうなので今回は除外したとしながらも(甲22),「本サービスの結果得られる成果についての権利は全て乙(被告)に帰属する」との規定のある契約書案を送付してきた(甲24の1・2)。このため,原告は,本件各発明について特許を受ける権利を無償で被告に譲渡することは考えられないと回答したところ(甲25の1・2),被告も自らの認識が誤っていたことを謝罪し,同譲渡の対価については,別途協議することに合意したものである(甲26)。
原告は,その後も,本件各発明について特許を受ける権利の譲渡対価につき,国内分400万円,海外分1600万円という希望額を提示するなど,被告との交渉を継続してきたが,結局,対価の合意には至らなかった。しかるところ,被告は,従前と同様に「本サービスの結果得られる成果についての権利は全て乙(被告)に帰属する」との規定のある契約書案を提示してきた(甲29の1・2)。原告は,この時点において,既に被告に対して本件各発明を開示しており,また,機密保持契約も締結できていない状況にあったことから,被告が原告の発明思想を用いて勝手に特許出願するなどして,原告のアイデアが横取りされてしまうことをおそれ,被告との間で,第一段階の契約の結果が良ければ第二段階の契約を締結することを確認し,本件契約の締結に踏み切ったものである。
以上のとおり,本件各発明について特許を受ける権利の譲渡を含む第二段階の契約に関しては,原被告間で別途協議することが合意されていたものである。
ウ ところで,原告は,本件契約締結後も,本件各発明について特許を受ける権利の対価を定めるべく,また,被告の特許出願に対応できるように本件契約を改定するよう,被告との交渉を継続してきた。その中で,原告と被告は,補酵素Q10に関する発明について,被告は豚飼料用途(出生率向上)に限定した特許出願を,原告はヒトやペットを含む広い範囲を捕捉する特許出願を,それぞれ同一日に行うことを合意した(甲31)。
ところが,被告は,その後,本件各発明について特許を受ける権利は本件契約により被告に帰属していると主張し,被告の担当役員において,原告に対して威嚇的な発言をするなどしたほか,同一日に特許出願するとの原告との先の合意を翻して,原告に秘したまま抜け駆け的に特許出願を行い(被告3月基礎出願),事実上,原告が補酵素Q10の豚飼料以外の用途において特許登録を受ける途を故意に閉ざした。
このような被告の背信的ともいうべき行為は,原告から本件各発明について特許を受ける権利の譲渡を受けていないことに起因する被告のやましさから出たものと考えられるが,原告から発明者としての権利を略取し,泣き寝入りを強いるものであって看過できないものである。
(3)  争点3(本件契約は,心裡留保,虚偽表示又は錯誤により無効であるか)について
【原告の主張】
ア 心裡留保又は虚偽表示による無効
仮に,本件契約が,原告が被告に対して本件各発明について特許を受ける権利を100万円の代金により譲渡するとの内容を含むものであると解釈されるとしても,原告には,本件契約当時,本件各発明について特許を受ける権利を被告に譲渡する意思はなく,被告もまた,原告にかかる意思がないことを知り,又は知ることができたのに,そのまま本件契約の締結に至っているのであるから,本件契約は,心裡留保(民法93条ただし書)又は原被告間で意を通じてされた虚偽表示による契約(民法94条1項)であって,無効である。
イ 錯誤無効
また,仮に,本件契約が,原告が被告に対して本件各発明について特許を受ける権利を100万円の代金による譲渡するとの内容を含むものであると解釈されるとしても,原告が本件契約を締結したのは,第一段階の結果が良ければ第二段階の契約を締結することを信じていたためであり,かかる原告の意思は表示されていたところ(甲30),現実には,第二段階の契約は締結されなかったのであるから,本件契約は,錯誤(民法95条)により無効である。
【被告の主張】
ア 心裡留保又は虚偽表示との主張について
原告の真意は不知であるが,原告は,被告が提示した本件契約の最終案(甲29の2)の条件により,成果に関する権利(知的財産権を含む)が被告に移転することについて何ら異議を述べていなかったのであるから,被告は,原告の意思表示が真意に基づかないことを知ることはできず,また,原告と通じて虚偽の意思表示を行ったということもない。
イ 錯誤との主張について
原告は,契約書の文言,契約条件及び結果が良ければ契約を継続することができるという期待を有するにすぎないことを確認・理解した上で本件契約の締結に応じたのであるから,契約の締結に際して何らの錯誤も存しない。そもそも,結果が良ければ契約を継続することは,本件契約締結時には,少なくともその可能性が存していたことは事実であるから,その点においても錯誤は存しない。
第3  当裁判所の判断
1  争点1(原告は,本件各発明の発明者又は共同発明者であるか)について
(1)  発明者の意義について
発明者とは,特許請求の範囲に記載された発明について,その具体的な技術手段を完成させた者をいう。ある技術手段を着想し,完成させるための全過程に関与した者が一人だけであれば,その者のみが発明者となるが,その過程に複数の者が関与した場合には,当該過程において発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者が発明者となり,そのような者が複数いる場合にはいずれの者も発明者(共同発明者)となる。ここで,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいう。なぜなら,特許権は,従来の技術では解決することのできなかった課題を,新規かつ進歩性を備えた構成により解決することに成功した発明に対して付与されるものであり(特許法29条参照),特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術課題の解決を実現するための,従来技術には見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的構成をもって社会に開示した点にあるから,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分の完成に寄与した者でなければ,同保護に値する実質的な価値を創造した者とはいい難いからである(知財高裁平成18年(行ケ)第10048号同19年7月30日判決参照)。
(2)  本件各発明の特徴的部分について
ア 本件明細書1(甲1参照)及び本件明細書2(甲36参照)の各発明の詳細な説明の欄には,要旨,次の記載がある(本件明細書1における段落番号を【 】で,本件明細書2における段落番号を[ ]で,それぞれ示した。)。
(ア) 技術分野
本発明は,補酵素Qを用いた,豚の分娩成績を改善させる方法又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させる方法,そのための飼料,または飼料の給与方法に関する(【0001】[0001])。
(イ) 背景技術及び発明が解決しようとしている課題
豚の分娩成績を改善させる方法,あるいは出生以降の子豚の成長・生産性を向上させる方法としては,L-トリプトファンを必要要求量よりも多く添加した配合飼料を母豚に与える方法,有機酸及び/または有機酸含有物を母豚に給与する方法,グアーガム酵素分解物を飼料に添加する方法,還元型葉酸を飼料に含有させる方法など,既にいくつかの報告がある(【0002】【0003】[0002])。
一方,補酵素Qは,その生理的作用として,アデノシントリ燐酸(ATP)の生合成,心機能の活性化,細胞膜の安定化効果,抗酸化作用による細胞の保護効果等が知られている。種々の用途での使用が知られており,酸化型補酵素Q10は鬱血性心不全薬として用いられているほか,栄養剤,栄養補助剤として経口的に使用されている(【0004】【0005】[0003][0004])。
補酵素Qを家畜・家禽等経済動物の飼料成分として用いるという試みは,1960年代より報告されており,補酵素Qが飼料添加剤として有用であるとの報告,鶏の飼料として用いることにより体重増加が認められたとの報告,ブロイラーの飼料・飲料に含有させることにより腹水症の発生率を低下させ,育成率も高いとの報告などがある(【0006】[0005])。
豚の分娩成績の改善や出生以降の子豚の成長・生産性向上に関する従来の報告は,効果が不十分であったり,方法が実用的でなかったりなど,要求される課題を総合的に解決しうるものではなく,実農場でコンスタントに採用されるような完成された技術とは言い難いものであった。したがって,生存頭数や離乳頭数で母豚1頭あたり,少しでも多くの数の子豚を確実に出産させ,さらには離乳まで確実に生存させる技術が強く求められていた(【0008】[0007])。
本発明が解決しようとしている課題は,豚の分娩成績の改善や出生以降の子豚の成長・生産性を向上させる方法及びそのための飼料を提供することである(【0009】[0008])。
(ウ) 課題を解決するための手段
上記課題を解決するために検討した結果,補酵素Qを母豚の特定の時期に投与することにより,豚の分娩成績が改善できるだけでなく,出生以降の子豚の成長や生産性をも確実に向上させることができることがわかった(【0010】[0009])。
(エ) 発明の効果
本発明により,従来,多産でかつ未熟な状態で出産を行うために死産や出産後の子豚の死亡率が高かった養豚の分娩成績を向上させ,また,生まれた子豚の成長速度や離乳率を高めることができ,さらには母豚の利用率をも高めることができる(【0011】[0023])。
(オ) 発明を実施するための形態
本発明による豚の分娩成績の改善とは,母豚の発情再帰日数の短縮,受胎率の向上,産子数の増加,生存頭数の増加,泌乳量の増加,生産性が低下しない妊娠の回数の増加,出産回転数の向上や,生まれた新生児豚の白子・ミイラ数の減少,出生児体重の増加等,母豚に対する総合的な分娩成績の改善成果のことをいう(【0014】[0026])。
本発明による出生以降の子豚の成長・生産性の向上とは,生まれた子豚の哺乳開始数の増加,離乳頭数の増加,離乳後事故頭数の減少,離乳後淘汰頭数の減少,飼料要求率の向上,増体重の向上及びそれに付随する離乳時体重の向上,下痢回数の減少等,生まれた子豚に対するその成長や生産性の成績の改善効果のことをいう(【0015】[0027])。
本発明において補酵素Qを投与する対象となる豚は,好ましくは母豚であることを特徴とする。投与時期は特に限定されないが,妊娠前(交配前)及び妊娠中の特定の時期に投与するのが好ましく,妊娠中の特定の時期に投与するのがより好ましく,なかでも交配後(妊娠初期)又は妊娠後期がさらに好ましい(【0016】[0028][0029])。
本発明において用いられる補酵素Qの形態,精製の程度,酸化型・還元型の別及び混合割合については,特に制限されない(【0018】[0031]ないし[0035])。
本発明において補酵素Qを豚に投与する方法は特に制限されないが,補酵素Qを飼料に添加・混合し,当該飼料を豚に給餌する方法が好ましい。この場合,飼料の原料,添加方法は特に制限されない。当該飼料中の補酵素Qの含有量も,本発明の効果を得られる量であれば特に限定されないが,経済的観点からは,上限は400ppm程度が妥当であり,300ppm程度でも十分に効果は得られる(【0019】ないし【0022】[0036]ないし[0039])。
(カ) 実施例
a 実施例1(【0024】ないし【0029】[0041]ないし[0043])
(試験方法)実生産農場の母豚約160頭を用い,試験期間を8か月間とし,当該試験期間中,補酵素Q10を通常の母豚用飼料に添加したもの(全飼料中の補酵素Q10濃度は60ppm)を全ての母豚に一斉に給与し,一斉に給与を停止した。豚の妊娠期間が114日間,出産後次の妊娠までの期間が約31日であることから,この試験により,妊娠期や授乳期等の異なる様々な母豚のステージで補酵素Q10が投与されたことになる。
(効果)補酵素Q10を給餌した母豚の初乳中の補酵素Q10含量は,補酵素Q10を投与しない時期に比べて明らかに高い数字を示した。また,補酵素Q10を母豚に投与しない時期と比べて,補酵素Q10を投与した時期では,産子数の上昇,白子・黒子率の低下,生まれた子豚の哺乳開始数と離乳頭数の増加が確認できた。さらに,本試験の母豚から生まれた子豚は,通常の飼育の場合と比べて,生後3週目での体重が重く,かつ,下痢も少なく順調に育っていた。
b 実施例2(【0030】ないし【0032】[0044]ないし[0046])
(試験方法)実施例1の試験において補酵素Q10を給与された母豚が生んだ子豚に,離乳期(人工乳期,中期)までは約80ppm分の補酵素Q10を通常飼料に添加し,子豚期から出荷までは40ppm分の補酵素Q10を通常飼料に添加した。
(試験結果)補酵素Q10を投与された子豚の母豚1頭あたりの離乳頭数は,対照群に比べて増加した。
c 実施例3(【0033】ないし【0035】[0047]ないし[0049])
(試験方法)実生産農場の母豚を用いて,妊娠中期及び後期に補酵素Qを投与した場合の出生以降の子豚の成長・生産性向上に対する影響について評価を行った。試験群A~Dについて,通常の母豚用飼料に補酵素Q10を100ppm又は400ppmの濃度となるように添加したものをそれぞれ妊娠中期(種付け後39日目から76日目までの期間。試験群A,B)と妊娠後期(種付け後77日目から出産までの期間。試験群C,D)に給与し,それ以外の時期には通常の母豚用飼料のみを給与した。対照群については,妊娠全期を通じて通常の母豚用飼料のみを給与した。試験期間は約5か月半であり,授乳時の母豚及び生まれた子豚に対しては補酵素Q10を給与しなかった。
(試験結果)各群の生まれた子豚1頭あたりの離乳時体重の結果は次表のとおりである。各試験群において出生時の体重は対照群とあまり変わらなかった。これにより,補酵素Q10を妊娠中期や妊娠後期に100~400ppm給与することで,離乳時体重を着実に増加させることができること,その効果は妊娠後期に補酵素Q10を給与した場合特に優れていることが確認された。

d 実施例4(【0036】ないし【0038】[0050]ないし[0052]
(試験方法)実生産農場の母豚を用いて,妊娠初期に補酵素Q10を投与した場合の分娩成績の改善及び出生以降の子豚の成長・生産性向上に対する影響について評価を行った。試験群E~Gについて,通常の母豚用飼料に補酵素Q10を100ppmの濃度となるように添加したものを,それぞれ妊娠初期(種付けから38日目までの期間。試験群E),妊娠中期(種付け後39日目から76日目までの期間。試験群F),妊娠後期(種付け後77日目から出産までの期間。試験群G)にそれぞれ給与し,それ以外の時期には通常の母豚用飼料のみを給与した。対照群については,妊娠全期を通じて通常の母豚用飼料のみを給与した。授乳時の母豚及び生まれた子豚に対しては補酵素Q10を給与しなかった。
(試験結果)各群の生まれた子豚の離乳頭数の結果は次表のとおりである。補酵素Q10を妊娠中に給与することで,離乳頭数を増加させることができること,その効果は妊娠初期に投与した場合に特に顕著であることが確認された。なお,妊娠初期に補酵素Q10を100ppm投与した群では,産子数,生存頭数においても,対照群に比べて1頭以上頭数が多い結果となり,分娩成績の改善効果も確認された。

e 実施例5([0053][0054]。本件明細書1には記載がない。)
(試験方法)実生産農場の母豚を用いて,補酵素Q10を投与した場合の再種付け時の受胎率の改善について評価を行った。試験群について,通常の母豚用飼料に補酵素Q10を100ppmの濃度となるように添加したものを試験期間(4か月間)を通じて給与した。種付けの28日目に受胎の有無を確認し,非受胎の豚に再種付けを実施した。
(試験結果)再種付けから28日後に受胎の有無を確認し,再種付けを実施した豚の受胎率を試験群と対照群で比較したところ,試験群では94パーセント,対照群では85パーセントの受胎率で,補酵素Q10の投与により,再種付け時の受胎率の改善が認められた。
f 実施例6([0055][0056]。本件明細書1には記載がない。)
(試験方法)実生産農場での母豚飼育時における,補酵素Q10を投与した場合の発情再帰日数(哺乳終了から発情までの日数)の短縮について評価を行った。
(試験結果)試験群の発情再帰日数は5.59日,対照群では5.92日と,補酵素Q10の投与により,0.33日分の発情再帰日数の短縮効果が認められた。
イ 被告は,本件出願1につき,平成26年11月18日付け手続補正書によって,特許請求の範囲を別紙特許出願目録記載1のとおり補正した。その要旨は,旧請求項1における補酵素Qの投与対象を母豚に限定し(補正後の請求項1),また,補正後の請求項6における補酵素Qの投与対象を「前記母豚より出生した子豚」に限定するものである(甲47の1・2)。
また,被告は,本件出願2につき,平成27年1月5日付け手続補正書によって,特許請求の範囲を別紙特許目録記載2のとおり限定した。その要旨は,補酵素Qの投与対象を母豚に限定し(補正後の請求項1),補正後の請求項2における投与期間を種付け前の期間に限定し,補正後の請求項3における受胎率の向上を再種付け時の受胎率の向上に限定し,補正後の請求項4における補酵素Qの含有量を100ppm以上400ppm以下に限定するものである(甲48の1・2)。
ウ 本件各発明の特徴的部分について
以上を前提に,本件各発明の特徴的部分について判断する。
(ア) 前記アにおいて認定した本件明細書1及び本件明細書2の記載からすれば,従来,豚の分娩成績を改善させる方法又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させる方法については,種々の報告があったものの,必ずしも効果が十分ではなく,また,方法が実用的ではないなど,実農場における継続的な利用に適するものとして完成されていないという課題が存したが,他方で,補酵素Qを飼料成分として用いることについては,家畜への好影響も複数報告されていたという状況にあって,本件各発明は,補酵素Qを母豚に投与することにより,豚の分娩成績を改善させ又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させることを指向し,また,これを実農場における継続的な利用に適するものとすべく,その効果を実証し,実用的な方法として完成させることを企図して創作されたものと認められる。
そうすると,本件発明1-1の特徴的部分は,「補酵素Qを母豚に投与することを特徴とする,豚の分娩成績の改善または出生以降の子豚の成長・生産性を向上させる方法」という特許請求の範囲に記載された構成のすべてであり,とりわけ,従来技術には見られない当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける要素は,補酵素Qを母豚に投与する方法を採用したことのほか,これにより現実に豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を挙げ得ることを具体的に見いだしたことにあるというべきである。
本件発明1-1の構成に加えて,更に発明特定事項が付加されている本件発明1-2ないし本件発明1-10の特徴的部分は,上記部分に加え,発明の詳細な説明の記載に従い,補酵素Qの投与時期を限定した部分(本件発明1-2につき「妊娠時期に」,本件発明1-3につき「少なくとも交配後1ヶ月間,妊娠中の」,本件発明1-4につき「少なくとも出産前の1ヶ月間」,本件発明1-5につき「授乳中の」との各部分),母豚から出生した子豚をも補酵素Qの投与対象とする部分(本件発明1-6につき「さらに前記母豚より出生した子豚にも」との部分),挙げることのできる効果をより具体的に限定した部分(本件発明1-7につき「分娩成績の改善が,産子数の増加または生存頭数の増加である」,本件発明1-8につき「出生以降の子豚の成長・生産性の向上が,離乳頭数の増加,増体重の向上,または離乳時体重の増加である」との各部分),補酵素Qの投与方法を限定した部分(本件発明1-9につき「補酵素Qを含有する飼料を母豚に投与する」との部分),補酵素Qの性質を限定した部分(本件発明1-10につき「補酵素Qが酵母由来である」との部分)であるというべきである。
前記アにおいて認定した本件明細書1の記載からすれば,本件発明1-11は,豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を現実に挙げ得る母豚用飼料中の補酵素Qの含有量を明らかにしたものと認められるから,本件発明1-11の特徴的部分は,「補酵素Qを20ppm以上含有する母豚用飼料」との特許請求の範囲に記載された構成のすべてであるというべきである。
本件発明2は,本件発明1との重複を回避し,差別化するために,その方法,投与期間,補酵素Qの含有量を限定したものと認められる。したがって,本件発明2-1の特徴的部分は,方法を限定した「受胎率の向上」との部分であり,本件発明2-1の構成に加えて,更に発明特定事項が付加されている本件発明2-2の特徴的部分は,上記部分に加え,投与期間を限定した「種付け前の期間に」との部分であり,本件発明2-2の構成に加えて,更に発明特定事項が付加されている本件発明2-3の特徴的部分は,上記各部分に加え,方法をさらに限定した「受胎率の向上が,再種付け時の受胎率の向上である」との部分であるというべきである。
前記アにおいて認定した本件明細書2の記載からすれば,本件発明2-4は,豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を現実に挙げ得る母豚用飼料中の補酵素Qの含有量を明らかにしたものと認められるから,本件発明2-4の特徴的部分は,「補酵素Qを100ppm以上,400ppm以下含有する」との部分であるというべきである。
(イ) 以上に対し,原告は,本件各発明の特徴的部分が「補酵素Q10等の補酵素Qを母豚に投与することにより,その母豚の分娩成績を効果的に改善し,あるいは,出生以降の子豚の成長・生産性を効果的に向上できるという効果を,確認又は高い蓋然性で把握する点」にあると主張する。
しかしながら,原告のかかる主張は,本件各発明のうち本件発明1-2ないし本件発明1-11及び本件発明2-1ないし本件発明2-4が,いずれも,母豚に補酵素Qを投与する方法又は補酵素Qを含有する母豚用飼料において,補酵素Qの投与時期,補酵素Qの投与対象,得られる具体的効果,補酵素Qの性質又は飼料中の補酵素Qの含有量を限定していることに目を瞑っている点において明らかに失当であるし,本件発明1-1についても,前記(ア)のとおり,従来技術には見られない当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける要素としては,補酵素Qを母豚に投与する方法を採用したことのみならず,これにより現実に豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を挙げ得ることを具体的に見いだしたことにもあることを看過しているから,採用することができない。
(3)  本件各発明の特徴的部分への原告の関与について
ア 前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各発明に至る経緯について,以下の事実が認められる。
(ア) 被告は,昭和52年,代謝性強心剤バルク「ユビデカレノン(CoQ10)」を発酵法により開発して生産を開始し,遅くとも平成10年頃から現在に至るまで,補酵素Q10の製造数量において世界的に大きなシェアを占めている(乙29,30,33,39)。
(イ) 被告は,遅くとも平成19年12月頃までに,補酵素Qの飼料分野における市場拡大を計画し,酵母由来補酵素Q10を原材料とした飼料の製造販売を可能とするため所定の行政手続をとったほか,平成20年3月以降,研究者や複数の飼料製造業者,畜産業者を訪問して,豚を含む家畜に対する補酵素Q10飼料の可能性を検討するなどし,同年6月には,補酵素Q10を配合した子牛用飼料を開発した(乙3,4,7,30,40,証人C〔以下「証人C」という。〕)。
被告は,上記飼料製造業者のうち,物産バイオテック株式会社との間では,同年3月から4月にかけて,秘密保持契約を締結した上,補酵素Qの飼料用途としての有用性を確認するための試験を計画し,同試験計画には,対象家畜として採卵鶏,ブロイラー,養牛のほか「養豚(種豚,母豚,子豚期)」が挙げられ,母豚に関する投与の目的は「繁殖成績改善」とされ,対象数,試験期間,補酵素Q10の給与量等が具体的に検討されたが,同社における母豚に対する投与試験は実現には至らなかった(乙3ないし6,30,証人C)。
また,被告は,上記畜産業者のうち多数の母豚を飼育する有限会社ひこちゃん牧場に対しては,同年9月頃,補酵素Q10を給餌することによる豚の生産性向上試験を依頼したが,手間とコスト等の理由から試験の実現には至らなかった(乙8)。
被告は,平成20年12月度の営業会議(飼料分野)において,補酵素Q10を飼料分野に展開するに際しての戦略を次のとおりまとめている。すなわち,補酵素Q10の飼料分野への展開は,消費者との関係では付加価値の向上(Q10高含有卵,肉質の改善),農場との関係では生産性の向上(死亡率低減,飼料効率改善)等の効果による戦略上のメリットが期待できること,畜種別の期待効果のうち,豚の生産性向上の効果については,死亡率低減や繁殖効率向上が考えられること,価格政策のうち,生産性の向上に関連するキーポイントとしては,価格を落とさず,その範囲で可能な配合量で得られる最大限の生産性追求にあることなどが確認され,展開の順序としては,これまでの実績や試験計画の進展等を考慮し,第1順位に日本国内における採卵鶏ブランド卵,第2順位に日本国内におけるブロイラー生産性向上,第3順位に米国における採卵鶏ブランド卵などと整理され,日本国内における豚の生産性向上については,第6順位とされ,平成22年(2010年)上期に展開することを予定するなどした(乙9)。
(ウ) 被告の従業員であるF(以下「F」という。)は,平成21年1月頃,補酵素Q10に関連する学会において原告と会い,その場において,補酵素Q10の飼料用途での可能性について話題となったことがあった(乙29)。
原告は,同年2月,Fに宛てて,豚での評価試験は未実施であり,原告の仮説を豚で実証する作業が必要となるが,ウサギを使った説得力があるデータがある,機密保持契約を締結することを前提に原告のアイデアを開示し,被告においてビジネスの可能性について検討して欲しいとの提案をした(甲12,13)。
原告は,同月17日,被告の東京本社を訪問し,「カネカ様へのCoQ10の新規用途開発に関する提案」と題する文書(甲6)を提示して,母豚を対象に補酵素Q10を含有する飼料を投与し,新生児の健康改善(死亡率低減)効果を検証する試験の実施を提案した。原告は,同提案の中で,ウサギ実験1及び同2に関するデータを紹介し,補酵素Q10の投与により胎児の抗酸化能が向上する効果が見込まれるところ,豚の新生児の死亡率が高い原因として抗酸化能が低いことによる酸化ストレス障害が挙げられ,補酵素Q10の投与により抗酸化能を高めることで死亡率低減効果が期待できること,母豚に補酵素Q10を投与すれば,胎盤又は母乳を通じて胎児又は新生児へ到達するため,妊娠授乳期の母豚を対象とすべきこと,実証試験の方法としては,第1段階として,種付け時から離乳時までを通じて1日あたり200mg又は400mg(判決注:仮に,豚の1日あたりの飼料摂取量を3.3kgとすれば,同飼料中に200mg又は400mgの補酵素Q10を含有させると,その含有量は60.6ppm又は121.2ppmとなる。)を投与して出生率と生存率を評価し,第2段階として,投与量と投与期間(発生期と妊娠後期だけでも十分ではないかとの仮説を提示している。)を削減して出生率と生存率を評価することなどを提案した(甲6)。
なお,同日時点において,母豚の妊娠初期と妊娠後期に母豚にかかる酸化ストレスが高いこと,豚の繁殖成績を向上させるためには繁殖豚のステージに合わせた飼料管理を要し,妊娠の各ステージにおいて必要とされる栄養上・管理上のポイントが異なること,補酵素Q10が胎児に抗酸化効果をもたらすこと,補酵素Q10が哺乳動物において母体から胎児に移行すること,補酵素Q10が,ビタミンEに比して,生体内の酸化ストレスを低減する効果を有することは,公然と知られていた(甲18,乙13,17,18,27,28)。
(エ) 被告は,原告との面談の結果,原告の提案を受け入れることとし,同日以降,原告と被告との間で,原告が商品化のアイデアと効果の仮説の検証試験についてのアドバイスを提供し,これに対して被告が報酬を支払うことを内容とするアドバイザリー契約の締結に向けた交渉が行われ,同年9月1日付けで本件契約が締結された(甲14,18,21ないし30,乙1)。
(オ) 被告は,原告との間でアドバイザリー契約の締結交渉を進める一方で,同年7月頃,第三者を通じて,豚農場を経営するおおやファームの紹介を受けた。被告は,同月17日,同社を訪問し,豚を対象として補酵素Q10を含有する飼料による生産性向上効果を確認する試験を実施すること,費用対効果の関係から,投与対象は母豚とし,子豚や母乳への補酵素Q10の移行効果等を確認する方法が望ましいこと,試験は対照区なしで,6か月又は1,2年のスパンで行うことなどが協議された(乙14,30)。
(カ) 原告は,同年8月18日,同年9月4日及び同年11月30日に,それぞれ被告の従業員らと面談したほか,同年9月30日には,被告の従業員らと共におおやファームを訪問し,また,被告の従業員らにメールを送信するなどして,母豚に補酵素Q10を含有する飼料を投与してその効果を評価する試験を実施すべき意義や,おおやファームで実施することが予定されている評価試験(以下「おおやファームでの評価試験」という。)の具体的な試験計画について,アドバイスを行った。原告が行ったアドバイスの要旨は,次のとおりである(甲7,11,乙16,19,22,原告本人)。
a 生まれた直後の子豚は未熟児状態であり,酸化ストレスを受けるが,ウサギ実験1及び同2での実証データがあり,豚においても,補酵素Q10の投与により酸化ストレスに対応できる可能性があること。また,発生時に受ける酸化ストレスにも対応できる可能性があること。
b 補酵素Q10の投与量及び投与時期を絞ることが望ましく,投与時期としては交尾直後1か月及び出産前1か月が重要であること,投与量は農場が経済効果を見込んで使用できる最大量とすること。
c おおやファームでの評価試験については,試験期間を8か月とすること(ただし,この試験期間は,原告が,試験の終了時期と本件契約の期間満了時期を近接させることにより,同契約の更新に係る交渉が容易になるとの考えから提案したものであった。)。
d 試験期間中の一定時期に,通常の飼料から補酵素Q10を含有する飼料に全面的に切り替えること。
e 評価項目としては,出産数,死産数,離乳数のほか,母乳の分析及び飼料中の補酵素Q10分析を行うべきこと。
f 母豚の分別が可能な農場で,5,6回目の妊娠時から補酵素Q10の投与を行い,処分せずに,さらに7,8回と延長して投与を行い,その効果を確認すべきこと(原告が,畜産学の研究者から得た情報を基にアドバイスしたものである。)。
(キ) 被告の従業員らは,おおやファームと協議し,また,原告によるアドバイスも参考にして,おおやファームでの評価試験について,同年11月19日頃,その試験計画の概要を定めた。試験計画の概要は,大要次のとおりである(乙10,14,15,20ないし23,29,30,証人F,証人C)。
a 試験1(母豚の給餌による分娩成績改善)については,試験期間を8か月,試験開始を同年12月8日頃,試験母豚頭数を約160頭(おおやファームが有する母豚の全頭),補酵素Q10の投与量は60ppmとして,飼料及び母乳中の補酵素Q10含有量分析のためのサンプリングを実施する。
b 試験2(離乳後の子豚及びその後の肥育期を通した生産性向上)については,試験期間を8か月,試験開始を同年12月8日頃,試験頭数を3000頭ないし4000頭(おおやファームが有する母豚及び雄豚以外の豚全頭),補酵素Q10の投与量は離乳期(人工乳,中期)までは約80ppm,子豚期から出荷までは40ppmとする。
おおやファームでの評価試験を実施したところ,補酵素Q10を混合させた飼料には少なくとも40ppm以上の補酵素Q10が含有されていること,補酵素Q10を給餌した時期における母豚の初乳中の補酵素Q10含量は,投与しない時期におけると比べて明らかに高い数字を示したこと,補酵素Q10を母豚に投与した時期においては,投与しない時期と比して,産子数の向上,白子・黒子率の低下,生まれた子豚の哺乳開始数と離乳頭数の増加が確認できたこと,補酵素Q10を投与した母豚から生まれた子豚は,通常の飼育の場合と比べて,生後3週目での体重が重く,下痢も少なく順調に育っていること,補酵素Q10を投与された子豚の母豚1頭あたりの離乳頭数は,通常の飼育の場合と比べて増加したことなどの結果が得られた。おおやファームでの評価試験の上記結果は,本件各発明の実施例1及び同2として,本件明細書1及び同2に記載されている(甲1)。
(ク) 被告の従業員らは,平成22年5月から同年6月にかけて,独自に開拓したロッセ農場及び全畜連との間で,それぞれ,補酵素Q10含有した飼料を母豚に投与してその分娩成績の改善成果を評価する試験(以下,それぞれ「ロッセ農場での評価試験」,「全畜連での評価試験」という。)について,その試験計画の概要を定め,それぞれ実施した。なお,ロッセ農場での評価試験においては,母豚への給餌による分娩成績の改善成果を評価するほかに,7,8回まで妊娠回数を延長した場合の補酵素Q10給餌効果についても評価の対象とすることが検討された。全畜連での評価試験を実施して得られた結果については,本件各発明の実施例3及び同4として本件明細書1及び同2に記載され,ロッセ農場での評価試験を実施して得られた結果については,本件発明2の実施例5及び同6として本件明細書2に記載されている(甲1,2,36,乙11,12)。
イ 以上に認定した事実を前提に,原告が本件各発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したといえるかについて検討する。
(ア)a 本件発明1-1の特徴的部分は,「補酵素Qを母豚に投与することを特徴とする,豚の分娩成績の改善または出生以降の子豚の成長・生産性を向上させる方法」という特許請求の範囲に記載された構成のすべてであり,とりわけ,従来技術には見られない当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける要素は,①補酵素Qを母豚に投与する方法を採用したことのほか,②これにより現実に豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を挙げ得ることを具体的に見いだしたことにあることは,前記のとおりである。
b まず,①補酵素Qを母豚に投与する方法を採用したことにつき,原告が創作的に寄与したといえるかについて検討する。
原告は,平成21年1月から同年2月にかけて,被告に対し,ウサギ実験1及び同2に関するデータを紹介するなどして,母豚を対象に補酵素Q10を含有する飼料を投与し,新生児の健康改善(死亡率低減)効果を検証する試験の実施を提案している。被告は,前年(平成20年)には,家畜に対する補酵素Q10を含有した飼料の展開可能性を広範囲にわたって具体的に検討していたが,日本国内における豚の生産性向上については,同年12月期の営業会議(飼料分野)において,これまでの実績や試験計画の進展等を考慮して,優先順位として劣るものと評価されており,平成22年(2010年)上期に展開することが予定されていたところ,原告による提案を契機に,豚の生産性向上に係る被告内部での検討が高まったこと,また,それまでなかなか実現に至らなかった農場等での豚の評価試験の実施について,原告の存在が梃子となって説得力を増し,おおやファームでの評価試験の実施や,ひいては本件各発明の完成に至った部分があることは否定できないというべきである。
しかしながら,前記アにおいて認定したところによれば,母豚を対象に補酵素Q10を投与することにより繁殖成績の改善や生産性向上等の効果を期待できることは,原告による被告への提案に先立ち,既に被告において検討されており,ここにいう繁殖成績の改善や生産性向上には,新生児の死亡率の低減も含まれているものと認められるほか,「補酵素Q10の投与により胎児の抗酸化能が向上する効果が見込まれるところ,豚の新生児の死亡率が高い原因として抗酸化能が低いことによる酸化ストレス障害が挙げられ,補酵素Q10の投与により抗酸化能を高めることで,死亡率低減効果が期待できること,母豚に補酵素Q10を投与すれば,胎盤又は母乳を通じて胎児又は新生児へ到達するため,新生児の死亡率の低減へつながるのではないか」との効果発生機序についての原告の仮説も,原告が被告に同提案をした時点で,母豚の妊娠初期と妊娠後期に母豚にかかる酸化ストレスが高いこと,補酵素Q10が胎児に抗酸化効果をもたらすこと,補酵素Q10が哺乳動物において母体から胎児に移行すること,補酵素Q10が,ビタミンEに比して,生体内の酸化ストレスを低減する効果を有することがいずれも公然と知られていたことからすれば,原告の提案自体が,従来技術に見られない格別に創作的な技術的思想であると評価することは困難である。
前記のとおり,必ずしも被告において優先順位が高くなかった豚の生産性向上に関する評価試験の実現を促進したことは,原告による貢献というべきではあるが,どちらかといえば事業上の戦略や計画を推進・実現していく過程への貢献であって,従来技術には見られない課題解決手段(技術的思想)を創作していく過程への貢献とはいえない。
したがって,①補酵素Qを母豚に投与する方法を採用したことについて,原告が創作的に寄与したとはいえない。
c 次に,原告が,②これ(補酵素Qを母豚に投与すること)により現実に豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を挙げ得ることを具体的に見いだしたことについて,原告が創作的に寄与したといえるかについて検討する。
前記アのとおり,本件明細書1及び同2には,おおやファームでの評価試験の結果が,実施例1及び同2として記載されており,同結果は,産子数の向上,白子・黒子率の低下,子豚の哺乳開始数と離乳頭数の増加,増体重など,要するに分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性の向上に属する成果と認められることからすれば,少なくとも,おおやファームでの評価試験の実施及びその結果が,本件発明1-1の特徴的部分の完成への創作的寄与の根幹を構成することは明らかである。したがって,原告が,おおやファームでの評価試験の実施につき,その内容の策定や結果を獲得する過程に具体的かつ実効的な貢献をしたといえるのであれば,本件発明1-1の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者と認める余地がある。
そこで検討するに,原告は,おおやファームでの評価試験の実施について,補酵素Q10の投与量及び投与時期を絞ることが望ましいこと,試験期間を8か月とすること,試験期間中の一定時期に,飼料を全面的に切り替えること,評価項目として出産数,死産数,離乳数のほか,母乳の分析及び飼料中の補酵素Q10の分析を行うことなどを提案し,結果として,これらの多くは,おおやファームでの評価試験の試験計画の概要と大筋において一致しているといえる。
しかしながら,前記アのとおり,当時,豚の繁殖成績を向上させるためには繁殖豚のステージに合わせた飼料管理を要し,妊娠の各ステージにおいて必要とされる栄養上・管理上のポイントが異なることは公知の事実であったこと,被告は,補酵素Q10を含有する飼料の価格政策について,生産性の向上に関連するキーポイントとしては,価格を落とさず,その範囲で可能な配合量で得られる最大限の生産性追求にあると指摘していたことなどからすれば,評価試験の実施において,補酵素Qの投与量及び投与時期を限定してその効果を確認することは当然に検討されるべきことであるし,対照区を限定できないと指摘されたおおやファームにおいて評価試験を行うためには,試験期間中の一定時期に飼料を全面的に切り替えることも,有力な選択肢として当然に検討されるべき事項である。出産数,死産数,離乳数は,豚の分娩成績と出生後の成長・生産性を評価する項目として当然に選択されるべきである。したがって,仮に,原告がこれらの点について被告やおおやファームに先立って提案していたとしても,そのことをもって評価試験の実施につきその内容の策定や結果を獲得する過程に具体的かつ実効的な貢献をしたとは評価し難い。
また,母乳中や飼料中に存する補酵素Q10の含有量を分析することは,それ自体が分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性の向上に属する成果ではなく,試験結果と補酵素Q10との関連性を基礎付けるための補助的な評価項目というべきであるから,原告がこの点を発案していたとしても,そのことをもって評価試験の実施につきその内容の策定や結果を獲得する過程に具体的かつ実効的な貢献をしたものとは評価し難い。
試験期間を8か月に設定した点については,既に認定したとおり,原告が,試験の終了時期と本件契約の期間満了時期を近接させることにより,同契約の更新に係る交渉が容易になるとの考えから提案したものであり,格別の技術的意義を有するものとは認め難いから,この点も評価試験の実施につきその内容の策定や結果を獲得する過程に具体的かつ実効的な貢献をしたものとは評価し難い。
したがって,②補酵素Qを母豚に投与することにより現実に豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を挙げ得ることを具体的に見いだしたことについても,原告が創作的に寄与したとはいえない。
d 以上によれば,原告は,本件発明1-1の特徴的部分の完成に創作的に寄与したとはいえないから,本件発明1-1を単独で発明した者とも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められない。
(イ) 原告が本件発明1-1の発明者又は共同発明者と認定できない以上,本件発明1-1の構成に加えて,更に発明特定事項を付加した本件発明1-2ないし本件発明1-10を単独で発明した者であるとも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められない。
(ウ) 本件発明1-11の特徴的部分は,「補酵素Qを20ppm以上含有する母豚用飼料」との特許請求の範囲に記載された構成のすべてであるが,その理由は,本件明細書1の記載からして,本件発明1-11は,豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を現実に挙げ得る母豚用飼料中の補酵素Qの含有量を明らかにしたものと認められるという点にある。そして,本件明細書1の記載によれば,かかる効果を現実に挙げうる補酵素Qの含有量は,おおやファームでの評価試験及び全畜連での評価試験によって明らかにされたものと認められる。したがって,おおやファームでの評価試験,全畜連での評価試験の実施及びこれらの試験の各結果が,本件発明1-11の特徴的部分の完成への創作的寄与の根幹を構成することが明らかである。
しかしながら,原告が,おおやファームでの評価試験の実施につきその内容の策定や結果を獲得する過程に具体的かつ実効的な貢献をしたといえないことは前記のとおりであるし,全畜連は,被告が独自に開拓した試験実施先であって,その評価試験の概要の策定に原告が関与したことを認めるに足りる的確な証拠もないから,原告は,本件発明1-11の特徴的部分の完成に創作的に寄与したとはいえず,本件発明1-11を単独で発明した者とも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められない。
(エ) 前記のとおり,本件発明2は,本件発明1との重複を回避し,差別化するために,その方法,投与期間,補酵素Qの含有量を限定したものと認められる。そして,本件発明1の明細書(本件明細書1)に記載がなく,本件発明2の明細書(本件明細書2)に記載されている部分は,ロッセ農場での評価試験の結果を実施例5及び同6として記載した部分であるから,ロッセ農場での評価試験の実施及びその結果が,本件発明2の特徴的部分の完成への創作的寄与の根幹を構成することが明らかである。
しかるところ,ロッセ農場は,被告が独自に開拓した試験実施先であって,その評価試験の概要の策定に原告が関与したことを認めるに足りる的確な証拠もない(ロッセ農場での評価試験において,7,8回まで妊娠した場合の給餌効果を確認することが検討された点については,原告の提案が反映されている可能性があるが,本件明細書2の記載をもっても,同提案が本件発明2の特徴的部分の完成に寄与したかは判然としないというほかなく,同提案のみをもって,原告がロッセ農場の評価試験の実施に創作的に寄与したとは認め難い。)から,原告は,本件発明2の特徴的部分の完成に創作的に寄与したとはいえず,本件発明2を単独で発明した者とも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められない。
(オ) したがって,原告は,本件各発明のいずれについても,当該発明を単独で発明した者とも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められない。
2  争点2(原告は,本件契約により,本件各発明について特許を受ける権利を被告に譲渡したか)及び争点3(本件契約は,心裡留保,虚偽表示又は錯誤により無効であるか)について
(1)  前記1のとおり,原告は,本件各発明を単独で発明した者とも,被告の従業員らと共同して発明した者であるとも認められないから,その余の争点について検討するまでもなく,本件請求は理由がないというべきであるが,当事者の主張に鑑み,念のため,争点2及び争点3について検討することとする。
(2)  本件各発明のうち基本となる発明である本件発明1-1の特徴的部分は,「補酵素Qを母豚に投与することを特徴とする,豚の分娩成績の改善または出生以降の子豚の成長・生産性を向上させる方法」という特許請求の範囲に記載された構成のすべてであり,その従来技術には見られない当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける要素は,①補酵素Qを母豚に投与する方法を採用したことのほか,②これにより現実に豚の分娩成績の改善又は出生以降の子豚の成長・生産性を向上させるという効果を挙げ得ることを具体的に見いだしたことにあるところ,これらの要素が少なくともおおやファームでの評価試験を経て完成されたことは,前記1において認定説示したところから明らかであるから,本件各発明は,原告と被告とが本件契約を締結した平成21年9月1日時点においては,いまだ完成していなかったものと認められる。
なお,原告は,本件契約の締結前後から,被告の従業員ら及びおおやファームと面談するなどして,母豚に補酵素Q10を含有する飼料を投与してその効果を評価する試験を実施すべき意義や,おおやファームでの評価試験の具体的な試験計画についてアドバイスを行っているが,これらのアドバイスは,本件契約において原告が提供すべき「本サービス」,具体的には,①補酵素Qの豚飼料用途(豚出生率の向上)での開発アイデアの提供,又は,②被告の指定する機関又は原告が提案する機関との共同研究による豚飼料での補酵素Qの効果の実証及び特許出願用データの取得(共同研究のプロトコール作成と機関に対する説明を含む。)に該当することが明らかである。
そうすると,仮に,原告による被告やおおやファームへのアドバイスが本件各発明の特徴的部分の完成に対する創作的寄与であると認められたとしても,本件各発明は,本件契約にいう「本サービス」の結果得られた成果であるから,本サービスの結果得られる成果(知的財産権含む)についての権利がすべて被告に帰属することを定めた本件契約書6条の規定に従い,本件各発明について特許を受ける権利は,いずれも被告に帰属したものというべきである(なお,証拠〔甲35〕によれば,被告は,平成22年5月31日,原告に対し,本件契約により定められた本サービスの対価のうち,被告が特許出願した場合に支払うべき95万円〔100万円から消費税を控除した額〕を支払い,原告がこれを受領したことが認められる。)。
この点,原告は,譲渡の対価が定まっていないとか,原被告間の契約は二段階に分けて契約するとされていたから,特許を受ける権利は本件契約によっては被告に譲渡されていないなどと主張するが,本件契約書6条は,明確に「本サービスの結果得られる成果(知的財産権含む)についての権利は,全て乙(判決注:被告を指す。)に帰属する。」と規定し,また,同契約3条2項は,被告が特許出願した場合には,被告は原告に対して月額の報酬とは別に別途100万円の成功報酬を支払う旨規定しているのであるから,特許を受ける権利が譲渡の対象になっていなかったとか,その対価が定まっていないなどと解釈する余地はないというべきであって,原告の上記主張は,採用することができない。
(3)  原告は,本件契約が心裡留保(民法93条ただし書)又は虚偽表示(民法94条1項)により無効である旨主張するが,仮に,原告が,本件契約を締結した時点で,特許を受ける権利を被告に譲渡する意思がなかったとしても,被告がこれを知り又は知ることができたことを認めるに足りる的確な証拠はないし,被告が本件契約について虚偽の意思表示をしたと認めるに足りる的確な証拠もないから,上記主張は,いずれも採用することができない。
原告は,本件契約が錯誤(民法95条)により無効である旨の主張もするが,原告は,一度は特許を受ける権利を別途被告に譲渡することを内容とする契約書案を被告に提示しながら(甲25の2),最終的にはそのような規定のない契約書を取り交わしているのであるから(乙1),特許を受ける権利を譲渡の対象とする意思表示の内容に錯誤があったとは認められないし,仮に,原告が本件契約による成果があがれば契約が継続されることを希望し,本件契約の締結に際し,これを動機として表示していたとしても,かかる動機の錯誤が要素の錯誤に当たるとは認められないから,同主張も採用することができない。
3  以上によれば,本件請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 鈴木千帆 裁判官 天野研司)

別紙

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