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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(101)平成28年 1月 8日 東京地裁 平26(刑わ)975号 業務上横領被告事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(101)平成28年 1月 8日 東京地裁 平26(刑わ)975号 業務上横領被告事件

裁判年月日  平成28年 1月 8日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(刑わ)975号
事件名  業務上横領被告事件
裁判結果  有罪(被告人Y1:懲役5年(求刑 懲役6年)、被告人Y2:懲役3年(求刑 懲役4年)、被告人Y3:懲役3年10月(求刑 懲役4年))  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA01086006

事案の概要
◇企業合併及び資本提携に関するコンサルティング等を目的とするb社並びに各種事業の売却・買収・合併・提携の仲介業等を目的とするc社の各代表取締役である被告人Y1、b社の取締役である被告人Y2、b社の従業員兼c社の取締役である被告人Y3は、b社がa社との間で締結したコンサルタント顧問契約に基づき、a社の出納経理及びa社名義の銀行預金口座の出納等の業務に従事し、a社の銀行預金を業務上預かり保管していたところ、共謀の上、被告人Y1及び被告人Y3が、b社の事務所に設置されたa社管理部において、情を知らないb社の従業員をして、インターネットバンキングシステムを介して、a社名義の普通預金口座からc社名義の普通預金口座に1億円を振込送金させ、また、被告人らが、銀行支店において、情を知らないb社の従業員をして、a社名義の普通預金口座からc社名義の普通預金口座に2億8000万円を振込送金させたという、業務上横領被告事件

裁判経過
控訴審 平成29年 8月 4日 東京高裁 判決 平28(う)414号 業務上横領被告事件

裁判年月日  平成28年 1月 8日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(刑わ)975号
事件名  業務上横領被告事件
裁判結果  有罪(被告人Y1:懲役5年(求刑 懲役6年)、被告人Y2:懲役3年(求刑 懲役4年)、被告人Y3:懲役3年10月(求刑 懲役4年))  上訴等  控訴  文献番号  2016WLJPCA01086006

上記3名に対する各業務上横領被告事件について,当裁判所は,検察官古賀大己及び同加藤匡倫並びに私選弁護人村上泰(主任),同伊東正,同桃川雅之,同髙山梢(以上4名:被告人Y1),同伊東正(主任),同宮本英治(以上2名:被告人Y2),同松村眞理子(主任),同村上泰及び同高橋大祐(以上3名:被告人Y3)各出席の上審理し,次のとおり判決する。

 

 

主文

被告人Y1を懲役5年に,被告人Y2を懲役3年に,被告人Y3を懲役3年10月に処する。
被告人3名に対し,未決勾留日数中各160日を,それぞれその刑に算入する。
本件公訴事実中,第1の被告人Y2が被告人Y1及び被告人Y3と共謀の上平成22年7月2日業務上預かり保管中の株式会社aの銀行預金1億円を横領したとの点については,被告人Y2は無罪。

 

理由

(罪となるべき事実)
被告人Y1(以下「被告人Y1」という。)は企業合併及び資本提携に関するコンサルティング並びにその仲介等を目的とする株式会社b(以下「b社」という。)及び各種事業の売却・買収・合併・提携の仲介業,M&A業務及びそれに関連するコンサルティング業務等を目的とする株式会社c(以下「c社」という。)の各代表取締役,被告人Y2(以下「被告人Y2」という。)はb社取締役,被告人Y3(以下「被告人Y3」という。)はb社従業員兼c社取締役であるが,
第1  被告人Y1及び同Y3は,b社が株式会社a(以下「a社」という。)との間で締結したコンサルタント顧問契約に基づき,a社の出納経理及びa社名義の銀行預金口座の出納等の業務に従事し,a社の銀行預金を業務上預かり保管中,その一部を,ほしいままに,b社の資金等に流用しようと考え,共謀の上,平成22年7月2日,東京都中央区〈以下省略〉「dビル」12階所在の当時のb社事務所に設置されたa社管理部において,情を知らないb社従業員Aをして,同所設置のパーソナルコンピュータを使用して,インターネットバンキングシステムを介して,株式会社みずほ銀行麻布支店に開設されたa社名義の普通預金口座から,同銀行横山町支店に開設されたc社名義の普通預金口座に1億円を振込送金させ,
第2  被告人3名は,前記コンサルタント顧問契約に基づき,a社の出納経理及びa社名義の銀行預金口座の出納等の業務に従事し,a社の銀行預金を業務上預かり保管中,その一部を,ほしいままに,b社の資金等に流用しようと考え,共謀の上,同年10月4日,東京都豊島区〈以下省略〉同銀行池袋西口支店において,情を知らないb社従業員Bをして,同支店に開設されたa社名義の普通預金口座から,前記c社名義の普通預金口座に2億8000万円を振込送金させ,
もってそれぞれ横領したものである。
(証拠の標目)
(括弧内の甲乙の番号は記録中の証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号,弁の番号は同カード記載の弁護人請求証拠の番号をそれぞれ表す。)
判示事実全部について
・ 被告人Y1,同Y2及び同Y3の各公判供述
・ 証人C,同B,同D,同E,同F及び同Gの各公判供述
・ B(甲35~38。いずれも検察官撤回部分を除く。)及びA(甲39~41。甲39は検察官撤回部分を除く。)の各検察官調書
・ H(甲33),I(甲34),J1(甲52)及びA(甲68~71)の各警察官調書(甲34,70,71は検察官撤回部分を除く。甲52は抄本。)
・ 履歴事項全部証明書(甲1~3,13,79~81)
・ 所在確認結果報告書(甲4)
・ 犯行場所確認結果報告書(甲5)
・ 出力報告書(甲8)
・ 資料入手報告書(甲9,10,18,44,51,59~63,82,85,89,93,94,96,100,103,弁8,9,13,14。甲51,89,100は抄本。弁9,13は写し。)
・ 証拠品複写報告書(甲12,53,84,104~111)
・ 出力結果報告書(甲17,42,43,45~47,56~58,86,98,102。甲56~58,98,102は抄本。)
・ 捜査報告書(甲19,54,77。甲77は抄本。)
・ ファイナンシャル・アドバイザリー契約書作成時期特定報告書(甲48)
・ 対比捜査結果報告書(甲49)
・ 資料作成報告書(甲50,97,弁1,2)
・ 出力報告書(甲55)
・ 株式会社cに対する資金移動状況精査報告書抄本(甲73)
・ 資料作成並びに精査結果報告書抄本(甲74)
・ 資金フローチャート等作成報告書抄本(甲75,76)
・ 銀行印使用状況捜査報告書抄本(甲78)
・ 借入状況捜査報告書抄本(甲112)
・ 証拠品出力結果報告書(甲114)
・ 領置調書(甲91)
・ ノート(表紙に「Conference」と印刷があり,表紙・裏表紙を除いて13枚のもの)(平成26年押第167号の1)
(事実認定の補足説明)
第1  争点等
本件の争点は,①平成22年7月2日に行われた株式会社みずほ銀行(以下単に「みずほ銀行」という。)麻布支店に開設されたa社名義の普通預金口座(この口座を含め,本件に関連する口座は全て普通預金口座であるから,以下では単に「口座」と表記する。)から同銀行横山町支店に開設されたc社名義の口座(以下「本件c社口座」という。)への1億円の振込送金(以下,この送金に係る1億円を「本件1億円」という。)及び②同年10月4日に行われたみずほ銀行池袋西口支店に開設されたa社名義の口座から本件c社口座への2億8000万円の振込送金(以下,この送金に係る2億8000万円を「本件2.8億円」といい,本件1億円の送金と併せて「本件各送金」ともいう。)が,被告人3名による横領行為と評価できるか否か,すなわち,本件各送金のそれぞれについて,被告人らに故意ないし不法領得の意思があり,横領行為に当たると評価できるか否か及びそのそれぞれについて被告人らに共謀が認められるか否かである。
(なお,検察官は,論告において,本件各送金を認識していなかった旨の当時のa社代表取締役D(以下「D」という。)の供述を前提に,本件の主たる争点は同人の承諾の有無及び被告人らの共謀の有無であると指摘し,それを前提に主張を展開している。しかしながら,例えば,詐欺的手段を用いて委託者の承諾を得ていた場合には同承諾を得ていたからといって横領罪が成立しないわけではないことからも明らかなように,委託者の承諾がないこと等は横領罪の成否において成立に傾きやすい重要な事情ではあるものの,それは判断ないし評価事情の一つに過ぎず,結局は,当該行為が受託者の不法領得の意思を実現する行為と評価できるか否かを直截に問題とすべきである。また,被告人3名の弁護人ら(以下「弁護人ら」という。)においても,弁論で明らかなとおり,単にDの同意があったから業務上横領罪が成立しないとは論じていない。)
そして,横領罪における不法領得の意思とは,「他人の物の占有者が委託の任務に背いて,その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」(最判昭和24年3月8日刑集3巻3号276頁)をいい,また,占有者が権限がないのに物の処分をした場合であっても,それが専ら委託者のために行ったときには,不法領得の意思を欠くため,横領罪は成立しないと解される(大判大正15年4月20日刑集5巻136頁,最判昭和28年12月25日刑集7巻13号2721頁,最判昭和33年9月19日刑集12巻13号3047頁等)ところ,弁護人らは,本件各送金は,いずれもDの指示・承諾の下にc社においてa社のための投資に用いる資金を交付した正常な取引行為であるから,横領行為には当たらない旨主張している。
そこで,以下,当裁判所が前記罪となるべき事実を認定した理由について補足して説明する。
第2  当裁判所の判断
1  前提事実
客観的証拠の存在やD及び被告人らの間で供述内容が合致していて信用できるなど,関係各証拠によれば,以下の事実が認められる(以下,引用する書証については,証拠調べをしていない部分はこれを除くものである。また,引用する弁論要旨の箇所は「弁論○頁」と表記する。)。
(1) 関係者及び関係法人
ア a社
a社は,平成6年1月,広告代理業や印刷及び出版業等を目的として,D及びその友人のE(以下「E」という。)が資本金の50パーセントずつを出して,設立され(資本金1000万円),当初,D及びEが代表取締役に就任したが,平成20年頃は,直接的な実務ないし経営はDがほぼ一人で行い,後記のとおり,平成21年5月(第5回公判期日Dの証人尋問調書4頁。以下,「第5回D・4頁」というように,被告人ら又は証人の尋問調書に記載された事柄の証拠の引用において特に尋問調書のページ数を特定する場合には「第○回発言者(被告人又は証人)○頁」と表記する。)又は6月(検察官から6月とする質問にEが否定したり,訂正したりしていない(第6回E・4頁)。)にEが代表取締役を退任し,その後平成23年3月23日に被告人Y2が代表取締役に就任して平成24年4月6日に解任されたが,Dはその間も終始同社の代表取締役として業務全般を統括していた。a社は,大学や専門学校等の情報を載せた書籍やホームページ等の作成,高校生向けのガイダンス等を行い,それらを通じて大学や専門学校等から得る広告掲載料を主な収入源としている。a社の決算日は毎年3月31日である。(甲1,82,D・48頁,第7回被告人Y3・9頁等)
イ b社
b社は,平成16年10月,企業合併及び資本提携に関するコンサルティング並びにその仲介等を目的として設立され,被告人Y1が代表取締役に,昭和50年代に被告人Y1と知り合い共同して事業を行ってきた被告人Y2が取締役に就任し,平成20年5月頃までには,公認会計士の資格を有する被告人Y3が入社していた。被告人Y1は会長,被告人Y2は副社長と呼ばれ,平成22年当時,被告人Y3は部長という地位にあった。平成22年3月5日,平成23年2月4日及び平成24年2月22日にそれぞれ発行済株式総数を変更している。B(以下「B」という。)及びA(以下「A」という。)は,b社の従業員で,平成22年1月頃「管理部」と呼ばれる部署でa社の経理業務を担当するようになり,Aは,同月半ば頃から前任のJ2からの引継ぎを始めて,同年2月初旬に引継ぎを終え,a社の財務管理を行うようになった。そして,同年6月頃までは前記管理部における仕訳科目の入力はBが行っていたが,その後はAが行い,Aが分からないときにはBに質問があり,B自身で答えられないときには,Bが被告人Y3に聞いてAに伝えるなどしていた。b社の決算日は毎年10月31日である。(甲2,40,68,69,106~109,第4回B・1,3頁,第5回D・8頁,第7回被告人Y3・3頁,第8回被告人Y2・1頁等)
ウ c社
c社は,平成21年7月,本店をb社と同一所在地に置き,各種事業の売却・買収・合併・提携の仲介業,M&A業務及びそれに関連するコンサルティング業務等を目的として設立され,被告人Y1が代表取締役に,被告人Y1のK(以下「K」という。)及び被告人Y3が取締役に,被告人Y3の妻J3が監査役にそれぞれ就任した。c社は,a社の収益を増加させるための学校法人のM&A等の投資を行うための会社であるという前提で,設立時の資本金1億円について全てDが出資したが,後記の平成22年7月20日(甲73号証添付の取締役議事録によれば同月14日,取締役会決議により,被告人Y1が400株を取得することが承認されている。)及び平成23年1月11日の被告人Y1による2度の合計1億1000万円の増資(うち1000万円は資本準備金に組み入れたため,資本金は2億円)により,被告人Y1が過半数の株式を取得するに至っている。c社独自の社員はいない。c社の決算日は毎年12月31日である。(甲2,3,73,103~105,第4回B・8頁,第5回D・10頁,第9回被告人Y1・24頁,第15回F(以下「F」という。)7頁,弁1等)
エ 株式会社e(以下「e社」という。)
e社は,平成22年1月26日,各種企業の調査業務等を目的として設立され,Kが代表取締役に就任した。設立時の発行済み株式数は1株,資本金は1円であった。e社の決算日は毎年12月31日である。(甲79)
オ 一般社団法人f(以下「f法人」という。)
国際交流のため外国人留学生を支援,育成することを目的とし,日本の学校情報の全世界に対する普及・広報事業等を行う法人で,平成21年7月14日に設立された。Dが代表理事で,被告人Y3及びJ4が理事,被告人Y2が監事である。(甲80)(f法人は,後記の「三者間相殺」で関係する。)
カ 一般社団法人g(以下「g法人」といい,前記f法人と併せて「関連法人」という。)
外国人留学生の啓蒙を通して,国際貢献に寄与することを目的とし,g法人の適正審査及び格付けに関する事業等を行う法人で,平成21年7月14日に設立された。被告人Y1の弁護人J5が代表理事で,B及びJ6が理事,Dが監事である。(甲81)
(2) a社とb社の関係等
ア コンサルタント顧問契約締結以降のa社の経営等
Dは,知人の紹介を受けて被告人Y1らと知り合った。Dは,被告人Y1のこれまでの経験や人脈の話を聞いて,被告人Y1のことをすごい人物であると思っていた。平成20年5月1日,a社とb社との間で,b社がa社の経営に関し指導及び助言を行うことなどを盛り込んだコンサルタント顧問契約が締結され,月額顧問料は当初50万円であったが,同年10月分から350万円,平成22年5月分から400万円に変更された。(甲12,第5回D・2頁等)
a社は,b社が全額を出資して設立した台湾の投資会社h株式会社に対し,平成20年11月,投資の目的で3億円を保証金として支払ったが,Eの反対を受け,平成21年6月にその全額の返還を受けることとなった。(甲12,第6回E・3頁等)
Dは,被告人Y1から代表者が二人というのは外部的評価が落ちるのでよくないなどと言われた。そして,Eは,平成21年春頃,被告人Y3とDのそれぞれから,a社の株式を一部D等に譲るよう頼まれ,これを断わったものの,Dの求めに応じて代表取締役を退任した。その後,平成22年9月頃に発覚したa社の取引先の脱税問題やa社の助成金不正受給問題への対処を要する事態となり,平成23年3月23日に被告人Y2がa社の代表取締役に就任した。
a社が経理等を依頼していた税理士は,当初Eと関係のあった税理士法人iであったが,平成22年3月31日までの決算期から被告人Y1及び同Y2と関係があったj会計グループに変更された。Fは,平成22年3月31日までの決算期から,a社の税務を見るようになったが,そのときには,既に財務諸表が出来上がっていて,残高確認と決算の申告をした。また,Fは,平成22年秋頃からb社の税務を見るようになった。(第7回被告人Y3・38頁,第15回F・2頁,第15回G(以下「G」という。)1頁等)
イ a社内の経理等を担当する管理部の設置等
前記コンサルタント顧問契約締結後,前記のとおり,「管理部」と呼ばれる部署において,b社の従業員がa社の出納経理業務を担当するようになり,平成22年5月頃までには,被告人Y2が同部の責任者,被告人Y3が同部の部長,Bが同部の課長という役職で,同人らの下でAがa社の出納経理業務を担当するという体制になった。(甲33,39,40,第4回B・1,3頁,第7回被告人Y3・13頁等,第9回被告人Y1・19頁等)
管理部は,当初b社事務所内に置かれていたが,平成21年にa社本店が京都から東京へ移転し,平成22年10月1日に管理部も同本店内に移った(なお,Dは同年9月30日から同年10月5日まで大韓民国に行っていた。)。管理部の従業員の給料はb社から支払われていた。(甲40,第5回D・6,8,28頁,第7回被告人Y3・14頁,第8回被告人Y2・2頁等)
ウ a社の銀行口座及び銀行届出印の管理状況等
a社は,本社において,メインの取引先であるみずほ銀行麻布支店のほか,株式会社東日本銀行(以下単に「東日本銀行」という。)池袋支店,株式会社りそな銀行(以下単に「りそな銀行」という。)池袋支店及び株式会社三菱東京UFJ銀行(以下単に「三菱東京UFJ銀行」という。)大伝馬町支店において,それぞれ口座を開設していたが,平成22年8月18日にAがみずほ銀行池袋西口支店において,平成23年3月23日にBが株式会社東京都民銀行(以下単に「都民銀行」という。)東日本橋支店において,それぞれa社名義の口座を開設した。なお,京都中央信用金庫(以下「京都信金」という(会話の場合を除く。)。)駅前支店,株式会社福岡銀行(以下単に「福岡銀行」という。)博多駅東支店及び株式会社北海道銀行(以下単に「北海道銀行」という。)美香保支店にそれぞれ開設されていたa社名義の口座については,同社の支社において管理されていた。(甲18,38,71,78,第4回B・13頁等)
a社では,実印と銀行届出印を一つの印鑑で兼ね,その印鑑(以下「旧印鑑」という。)をDが管理していたが,平成22年6月又は7月頃,Aが被告人Y3又はBから旧印鑑を渡されて以降,Dが管理部から旧印鑑を持ち出して持ち続けるという状態がなくなり,Aが管理部において同印鑑を管理し,Dのみならず被告人Y3又はBが借り出すなどして用いるようになった。そして,その後,前記各銀行の届出印は,平成23年2月16日にb社の従業員により注文されたa社名義の新たな印鑑に順次変更された(前記B開設に係る都民銀行の口座については開設時から新たな印鑑が用いられており,京都信金の口座については同年6月1日に被告人Y3が,北海道銀行,福岡銀行,東日本銀行,りそな銀行及び三菱東京UFJ銀行の各口座については,いずれも同月8日から平成24年3月13日にかけてAがそれぞれ銀行届出印の変更の手続を行った。)。(甲39,40,68,77,78等)
エ D及びa社と被告人ら及びb社との決裂時の状況等
a社は,平成20年以降,みずほ銀行麻布支店及びりそな銀行池袋支店から融資を受けるようになり,平成23年5月から平成24年4月4日までの間に,被告人Y3又はBが手続を行い,みずほ銀行麻布支店に合計3億円,りそな銀行池袋支店に合計4億円の融資を申し込んでいた(同年4月2日,りそな銀行からa社に2億円の融資がされるなど,同月4日までに合計6億円の融資が実行され,うち4億円は返済されていた。)。
Dは,同年3月に電子メール(以下単に「メール」という。)のサーバーにアクセスしたところ,管理部のスタッフのメールの中に資金繰表というエクセル表を見,大きな金額が外部に支出されていることなどを見付けた。そこで,同年4月4日,DがBと面談し,知らないうちに銀行届出印が変更されていると抗議するなどしてBに話を聞いた。その際,Bは,みずほ銀行池袋西口支店及び都民銀行東日本橋支店の口座(これら口座が開設されたことを同月までDが知らなかったことが信用できることについては更に後で述べる。)については話さなかった。Dは,りそな銀行からa社に融資されていた2億円は出金されていなかったので,同月5日,同銀行の口座を凍結した。さらに,みずほ銀行麻布支店に1億円の融資の申込みがあり,同月6日に1億円が融資される予定であったので,Dは,みずほ銀行麻布支店を訪れ,自分の認識していない融資があるとして,その融資を中止させた。被告人Y3及びBは,同日早朝,融資が中止されていなければ1億円が送金される予定であったみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座から三菱東京UFJ銀行の同社名義の口座に1億円を送金する手続をしたが,残高不足で不成立に終わった。同日,Dは,Aや被告人Y3とそれぞれ面談した後,EとともにB及び被告人Y2とそれぞれ面談し,知らない資金移動等について抗議した。被告人Y3,A及びBは,皆それぞれ被告人Y2の指示でやったと話した。Dが被告人Y2に,Bらはこう言っているが,Dには言わないように口止めしていたのかと聞くと,被告人Y2は,これを否定しなかった。そして,被告人Y2は,戻って調査して報告すると言い,同月7日朝10時にDと会うという約束をしていたが,Dと会う前に急用ができたとDに告げ,その後は,Dに会って報告をすることはしていない(なお,Dは,同月3日,a社の代表印を管理部から取り上げ,同月5日,同社の銀行届出印を取り上げた。)。同月6日,D及びEは,被告人Y2をa社の代表取締役から解任した。(甲1,54,55,96,112,第5回D・45頁等)
b社では,同月4日以降,被告人ら及びB,弁護人らの間でDへの対応を繰り返し協議した上,同月中旬頃,a社に対し,2億4000万円の損害賠償を求める民事訴訟を提起した。(甲96,第5回D・46頁等)
(3) 本件各送金に直接関わる資金移動の状況及びその会計処理の内容等
甲第73号証添付の「株式会社cに対する資金フロー」(以下「本件資金フロー図」という。本判決末尾に写しを別紙1として添付。)記載のとおりの資金移動があったことは当事者間に争いがなく,また,同書証添付の資料等から認められる。
ア a社からc社への迂回した資金移動
被告人ら及びDは,a社からc社に2億円の資金を移動する目的で,関連法人を介してa社からc社へ送金することとし,平成21年9月29日,みずほ銀行麻布支店のa社名義の口座から同支店の関連法人名義の各口座に各1億5000万円が振込送金された上,平成22年3月31日,その各1億5000万円のうちの各1億円(合計2億円)が,関連法人名義の各口座から,本件c社口座に合計1億3500万円,みずほ銀行麻布支店の同社名義の口座(この口座は,Dが同社の資本金1億円を払い込んだ口座である。)に6500万円と分けて振込送金された。
このa社から関連法人に対する各送金は,a社において短期貸付金として会計処理され,これらの各送金及び関連法人からc社に対する各送金について,各振込送金日付けの金銭消費貸借契約書が作成されている。(甲12等)
イ 関連法人からa社への資金移動
平成22年6月28日,本件c社口座からみずほ銀行麻布支店のg法人名義の口座に1億円が振込送金された上,同月29日,同口座から1億3500万円が,同支店のf法人名義の口座から4500万円が,それぞれ同支店のa社名義の口座に振込送金された。
これらはa社においていずれも短期貸付金の返済として会計処理され,a社に対し,g法人が1億4500万円を,f法人が4500万円をそれぞれ返済した旨の各振込送金日付けの覚書が作成されている。(甲12等)
ウ a社からc社への本件1億円の資金移動等
同年7月2日,福岡銀行博多駅東支店のa社名義の口座から2650万0898円,北海道銀行美香保支店の同社名義の口座から2705万円,東日本銀行池袋支店の同社名義の口座から7000万円が,それぞれみずほ銀行麻布支店の同社名義の口座に振込送金された上,同日,同口座から本件c社口座に本件1億円が振込送金された。同日のみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座から本件c社口座への入金は,Aが被告人Y3の指示で,当時中央区〈以下省略〉「dビル」12階にあった管理部のパーソナルコンピュータ(以下単に「パソコン」という。)を使って送金手続をした。(甲33,41,69等)
本件1億円の送金について,a社においては当初c社への仮払金として会計処理されたが,同年9月30日付けで前払費用に訂正され,c社においては当初短期借入金として会計処理されたが,同年12月31日付けで預り金に訂正された。また,本件1億円の送金に関連するものとして,同月頃,本件1億円をa社のc社に対する業務委託の報酬とする内容の同年7月1日付けの業務委託契約書案が作成された。(甲17,74,第4回B・7頁等)
エ 本件1億円の送金後の資金移動
同月16日,本件c社口座から5000万円が出金され,そのうち3001万円がみずほ銀行麻布支店のe社名義の口座に,1999万円が同銀行横山町支店の被告人Y1名義の口座に,それぞれ入金された。
同月20日,被告人Y1は,同口座からみずほ銀行麻布支店のc社名義の口座に2000万円を振込送金して同社の増資に充て(うち1000万円は資本準備金に組み入れられた。),c社の株式400株の割当てを受けた。
同月26日,みずほ銀行麻布支店のe社名義の口座からりそな銀行池袋支店の同社名義の口座に3001万円が振込送金され,その後,同口座から,①同年11月18日,同銀行横山町支店のb社名義の口座に1000万円が振込送金され,同日被告人Y2に500万円,同月25日被告人Y1に100万円がそれぞれb社から貸し付けられるなどし,②同年12月16日,1000万円が出金されてb社に貸し付けられ,同日,同社から被告人Y1に100万円が貸し付けられるなどし,③平成23年2月24日,500万円が出金されてb社に貸し付けられ,同月28日,同社から被告人Y2に同額が貸し付けられ,④同月28日,合計200万円が出金されてみずほ銀行麻布支店のe社名義の口座に同額が入金され,⑤同年3月7日,100万円が出金されて被告人Y1に貸し付けられ,⑥同月15日,100万円が出金されてb社に貸し付けられるなどした。(甲114,弁2等)
オ a社からc社への本件2.8億円の資金移動等
平成22年10月1日,a社京都支店の営業部事務課に在籍していたI(以下「I」という。)は,同日午後1時頃,被告人Y3からの電話で,Dの代理で電話をしていると告げられ,同日午後2時までに資金移動をさせることを依頼された。そのため,Iは,京都信金下鳥羽支店に向かい,被告人Y3から電話で指示されていたとおり,京都信金駅前支店のa社名義の口座から同年8月18日にAが手続をして開設していたみずほ銀行池袋西口支店の同社名義の口座に3億5000万円を振り替える手続をとった。そして,Iは,振替手続を終えて,京都信金下鳥羽支店からa社京都支店に戻る際に被告人Y3に電話をすると,同被告人から,Dは仕事が忙しく,預金振替の指示ができないことが多いので,今後は同被告人から預金振替の際の指示をする旨を言われ,Iは,電話だと預金振替の指示を受けた記録が残らないことなどから,その指示は必ずメールでしてほしいと告げたが,その後に被告人Y3から指示を受けることはなかった。
そして,同年10月4日,同口座から本件c社口座に本件2.8億円が振込送金された。本件2.8億円の送金は,Bが,被告人Y2及び同Y3のいずれかからの指示を受け,みずほ銀行池袋西口支店において振込依頼書を記載して行った。(甲34,36,37,40,50,71等)
本件2.8億円の送金について,a社においてc社への前払費用として会計処理された一方で,c社においては当初借受金として会計処理されたが,同年12月31日付けで預り金に訂正された。また,本件2.8億円の送金に関連するものとして,同年10月1日付けの2億8000万円の金銭消費貸借契約書(押印済み),同年9月29日付けの1億8000万円の金銭消費貸借契約書が作成されている。(甲84,89等)
カ 本件2.8億円の送金後の資金移動
(ア) 同年10月5日,本件c社口座からりそな銀行池袋支店の同社名義の口座に1億0100万円が振込送金され,同年12月3日,同口座から同支店のe社名義の口座に1億円が振込送金され,同月21日,同口座から同銀行麻布支店の被告人Y1名義の口座に2回に分けて合計1億円が振込送金され,同日,同口座から都民銀行東日本橋支店のc社名義の口座に1億円が振込送金され,平成23年1月5日,同口座からりそな銀行麻布支店の被告人Y1名義の口座に1億円が振込送金された上,同口座から,①同月11日,被告人Y1が,みずほ銀行麻布支店のc社名義の口座に9000万円を振込送金してc社の増資に充て,同社の株式1800株の割当てを受けて約52.3%を保有する株主になり,②同年2月4日,同支店のb社名義の口座に1000万円が振込送金され,b社の増資に充てられた。
(イ) c社からa社への1億円の資金移動
平成22年10月6日,本件c社口座からみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座に1億円が振込送金された。
この送金は,a社において短期貸付金の返済(関連会社貸付金)として会計処理された一方で,c社においては借受金の返還として会計処理された。また,この送金に関連するものとして,c社がf法人に対する1億円の弁済に替えてa社に1億円を直接弁済し,c社のf法人に対する消費貸借関係を解消することを内容とする同年7月27日付けの相殺契約(以下,このc社,a社及びf法人の三者間の契約を「三者間相殺」という。)書が作成されており,同年10月6日にc社がa社にその1億円を返済することを内容とする同日付けの覚書が作成されている。(甲12,74,弁1等)
(ウ) 同日の1億円の振込送金の後,次の本件c社口座からの金員の移動として,平成23年3月3日,同口座から都民銀行東日本橋支店のc社名義の口座に1億8000万円が振込送金された。
キ b社への合計7億6000万円の資金移動
前記同日の本件c社口座から都民銀行東日本橋支店への1億8000万円に加えて,同日,みずほ銀行麻布支店のc社名義の口座から都民銀行東日本橋支店のc社名義の口座に1億2000万円が振込送金され,合計で3億円が都民銀行東日本橋支店のc社名義の口座に振込送金された上,同日,同口座から三菱東京UFJ銀行大伝馬町支店のa社名義の口座へ3億円が振込送金され,同日,同口座から都民銀行東日本橋支店のb社名義の口座に3億円が振込送金された。さらに,同月23日及び同月24日,同口座から,りそな銀行池袋支店のe社名義の口座,都民銀行東日本橋支店のc社名義の口座,同支店のa社名義の口座を順次経由して,前記3億円が振込送金されたのと同じb社名義の口座に8000万円が振込送金された(以下,同口座に振込送金された合計3億8000万円を「本件3.8億円」という。)。その後,同口座からは,後記の寄付金の支出もされたが,そのほか順次払戻しや他のb社名義の口座への振込送金等が行われた。(甲75,76等)
本件3.8億円に関し,a社がb社に対し,当時一般社団法人k1という名称であった同法人の公益法人化等の業務を委託し,公益法人化に対する成功報酬やa社が指定する監事,理事,代表取締役及び代表理事の人数に応じて報酬を支払うという内容の平成21年8月1日付けのファイナンシャル・アドバイザリー契約(以下,ファイナンシャル・アドバイザリー契約を「FA契約」という。)書,それを改める平成22年4月1日付けのFA契約書及び同日付けのそれに関する覚書3通が作成されている(なお,この作成時期については後記のとおり。前記法人については,平成20年12月1日に有限責任中間法人k2から一般社団法人k1に変更され,それが平成22年3月31日に一般社団法人k3(以下,一般社団法人k1及び一般社団法人k3を区別せず「k法人」ともいう。)に変更され,同年10月1日に公益社団法人k4に変更され,同日登記されている。)。(甲12~14等)
平成23年4月以降,a社からc社に一旦移動した3億8000万円について,FA契約に基づく報酬として,a社からb社に対し,同年11月に2億円,同年12月に8000万円,平成24年1月に1億円が支払われた。(第8回被告人Y2・32頁,第12回被告人Y2・14頁等)
(4) c社及びb社による投資等の状況
ア c社による投資等
c社は,平成22年9月,みずほ銀行麻布支店の口座からみずほ証券に振込送金することにより,電子黒板の製造等を行うl株式会社(以下「l社」という。)の株式を9712万7955円で取得し,c社の第2期決算報告書(平成22年1月1日~同年12月31日)における有価証券の内訳書欄には,l社の有価証券のみが記載されている。そして,c社の第3期決算報告書(平成23年1月1日~同年12月31日)では,同欄に,l社(期末現在高1億1052万1000円)のほか,m(株)(以下「m社」という。)(期末現在高161万円)の記載があり,さらに,c社の第4期決算報告書(平成24年1月1日~同年12月31日)では,同欄に,l社(期末現在高1億1052万1000円),m社(期末現在高161万円)に加えてn社(期末現在高170万円)の記載がある(なお,前記第2期決算報告書では,貸付金及び受取利息の内訳書欄に2名の個人名の記載のみの,前記第3期決算報告書では,そのうちの1名の個人名とo学園のみの各記載があったところ,前記第4期決算報告書によれば,同個人名1名のほか,p株式会社(期末現在高3000万円),q株式会社(以下「q社」という。)(期末現在高2212万5000円),学校法人r(期末現在高100万円),学校法人s(期末現在高11万9829円)に対し,それぞれ貸付金を有していることが記載されている。)。(甲103~105,弁1)
イ b社による投資等
b社は,平成23年8月,顧問契約を締結しているq社が経営権を取得している学校法人t学園に対し,日本私立学校振興・共済事業団を介して1億6000万円を寄付した(同事業団から同学校法人に対する払込みは平成24年4月)が,q社との間で,この寄付は同社の寄付金を立て替えたものであり,同社がb社から同額の借り入れをしている旨確認されており,相当額が顧問料に上乗せして支払われていた。(甲16,52,53,58,76)
2  全体的考察
(1) 本件資金フロー図記載のとおりの現金の移動が認められることは前記のとおりである。同図からは,a社の資金が,他の法人を通り,ときにa社の口座を通るなどして,結局において,被告人Y1や同被告人が代表取締役(被告人Y2が取締役,被告人Y3が平成22年当時部長)であるb社に移動した様子がうかがわれ,また,同図に記載はないが,前記のとおり,本件各送金に加え,本件各送金が行われた後の平成24年3月までの資金移動を合わせると合計7億6000万円のb社への資金移動がされていることが認められる。
そして,前記のとおり,a社の出納業務をb社の従業員が「管理部」という部署において取り扱うようになり,管理部は,初めはb社事務所内に置かれていたのがa社本店内に置かれるようになり,a社の経理関係を管理部において把握するようになったものである。
(2) 新たな銀行口座の開設及び銀行届出印の変更
ア さらに,Dに無断でa社名義の銀行口座が開設され,また,同社の銀行届出印が変更されたことが認められる。
すなわち,前記のとおり,平成22年8月18日にAにより本件2.8億円の送金に用いられたみずほ銀行池袋西口支店のa社名義の口座が,また,平成23年3月23日にBにより本件3.8億円うちの8000万円の送金に用いられた都民銀行東日本橋支店のa社名義の口座がそれぞれ開設され,これらの口座も含めa社名義の各口座に関する銀行届出印が被告人Y3又はAにより変更されたことが認められるが,Dは,いずれも平成24年4月に被告人らとの関係が決裂する前までは知らなかった旨を述べている。
Dの前記供述は,a社及びDと被告人ら及びb社とが決裂(以下,a社及びDと被告人ら及びb社との決裂を単に「決裂」という。)した平成24年4月4日~6日にかけてのDとB,被告人Y2らとの面談でのやりとりについて,具体的かつ迫真性に富むもので,実際,Dが同月に銀行口座を凍結した旨を述べていることについては,前記のとおり,関係各証拠(甲112添付の「取引経緯記録表」等)から認められる上,前記やりとりの際,DがBに対して,同月4日に「銀行印ってなんでできたん?」,「なんで,僕,知らないうちに」,「私,代表なのに知らない間に銀行印できてて」などと述べるとともに,「ほかに銀行はないですよね。口座は。」,「福岡銀行と,京都中央信用金庫と,東日本銀行。そうですね,それと北海道銀行と,りそなと,みずほの麻布と東京三菱の外貨とかなんか・・・ですよね。今度,今年に入って,ゆうちょ・・・京都で,ゆうちょ作ったってことで間違いないですよね。」などと述べ,みずほ銀行池袋西口支店及び都民銀行東日本橋支店の口座に言及していないことなどが,Bの残した録音データ(甲54)から明らかであること,また,同月6日にも,DがBに対してした発言として「D社長より,資金繰り表の中にある『都民銀行」の存在を知っているか,とコメント」とBが記録(甲55)していること,さらに,同月6日の被告人Y2との面談において,同席したEが殴り書きしたノート(平成26年押第167号の1(甲92)。以下「Eノート」という。)に,Dの発言として「こんな口座開設したのもこの資金の流れも全く聞いてない」,また,被告人Y2の発言として「すべての指示は私が出しました」などと記載されていること(なお,この時点で,被告人Y2が,Dに報告したなどの発言をしていないことは,同被告人も認めている。)などによって裏付けられており,Dが,その時点において,それ以降の事態の推移等を予測して虚偽の発言をしたとはおよそ考え難い。また,この点に関するDの供述は,みずほ銀行池袋西口支店の口座を開設した経緯について,Bが,数日前に被告人Y2又は同Y3から「管理部用の口座を作る。」と言われて開設したものでDに報告したことがないと述べていること(第4回B・9頁,甲35)や,Aが,Dに毎月a社名義の各口座の残高一覧表をメールで送信していたが,その中に一度もみずほ銀行池袋西口支店の口座の残高を載せたことがなく,りそな銀行池袋支店の口座の残高についても途中から載せないようになったが,みずほ銀行池袋西口支店の口座開設や同口座及びりそな銀行池袋支店の口座の残高をDに送るメールの口座残高一覧表に載せないことはBから指示されて行った旨を述べている(甲40,43,71)ことなどとも整合する。
イ 弁護人らの銀行口座開設についての主張
(ア) みずほ銀行池袋西口支店の口座開設について
弁護人らは,同口座については,Aの業務日報の平成22年7月26日のものに「D社長より,みずほ銀行池袋支店の口座開設指示あり。Y3部長に報告,打合せ。」との記載が,同年8月18日のものに「みずほ銀行池袋西口支店へ(口座開設手続のため)→銀行窓口にて手続き・通帳受取り→帰社・Bさんへ報告」,「みずほ銀行池袋西口支店の口座開設が本日終了しました。通帳は後日D社長にお渡しするそうです。」との記載がある(弁9)ことから,同口座はDの指示により開設されたものであるなどと主張する。
しかしながら,同口座の開設については,前記のとおり,Bが,被告人Y2又は同Y3から指示され,自分がAに指示した旨述べ(甲35),Aも同口座の指示をBから受け,また,同口座を開設する理由についてBから特別な説明はなかった旨述べている(甲40,41)ことからすると,Aに直接指示したのはBであったと認められる上,前記「通帳は後日D社長にお渡しするそうです。」との記載は,そもそもAが直接Dとやり取りしていないことを示しているものであって,以上からすると,Bが「Dの指示」などとAに伝えたことが前記業務日報に記載された可能性があり,同業務日報の記載から直ちに実際にDが同口座の開設を指示したということはできない。
加えて,Dの指示があったというのであれば,その前提としてDに同口座を利用する何らかの意図があって然るべきところ,前記のとおりDに対しては同口座の残高に関する報告すら一度もなされず,結局,Bが被告人Y2又は同Y3から指示されて行ったと述べる(甲37)本件2.8億円の送金の際にしか同口座が用いられていないのは不自然というほかない。
(イ) 都民銀行東日本橋支店の口座開設及び各銀行届出印の変更について
弁護人らは,同口座の開設については,関係会社間の資金移動の便宜のため,また,a社の銀行届出印の変更については,一般の事業者は実印と銀行届出印を分けているが,a社においては実印と銀行届出印が共用であり,a社の旧印鑑の縁の部分が欠けていることを銀行側から指摘されていたためであって,合理的な理由がある上,いずれも代表取締役に就任した被告人Y2の権限で行えることであり,同被告人からDに報告している旨主張する。
しかしながら,a社名義の口座を開設し,銀行届出印を変更する必要性等があったとしても,また,被告人Y2が代表取締役という立場であったとしても,それらは社長であるDの意思に反して行ったことの理由にはならず,そもそも銀行届出印の変更をDに事前に知らせずに行うこと自体不自然である。また,被告人Y2がDに報告したとの点は,前記決裂時のDとB及び被告人Y2との面談時のやりとりにも反している。
ウ 以上によれば,みずほ銀行池袋西口支店及び都民銀行東日本橋支店のa社名義の各口座の開設や,これらの口座を含む同社名義の各口座の銀行届出印の変更については,Dに無断で被告人らが行ったものと認められる(なお,平成23年9月8日,Bから被告人Y3へ宛てたメール(後記(次頁)の甲17のBメール)の添付ファイルのうち本音ベースとする資料には,「k1法人」に関連したものであるが,「(今後)★ みずほ麻布口座をもう1つ作成し,資金移動に手数料が発生しない形で,資金移動をする」,「・三井住友銀行:完全資金プール用口座 ・みずほ銀行(旧):支払用口座 ・みずほ銀行(新):一旦,資金を隠す用の口座」として資金隠しのために新たに口座を設ける旨の記載がある。)。
(3) そうすると,被告人らにおいて,a社の資金を被告人らの意図に従って,Dに気付かれないようにして,b社に移動させるようにしていたのではないかとうかがわれるところであるが,そうした,被告人らのa社に対する意識等をうかがわせるメモの記載等が存在する(なお,この全体的考察において被告人らとして論じているが,本件1億円及び本件2.8億円の各送金についての各被告人らの共謀の有無等は後に論ずる。)。
ア 被告人Y3のメモ(甲56~58,98,102)の記載
被告人Y1及び同Y3は,朝30分間程度の会議(以下「会長会議」という。)を頻繁に行っており,被告人Y3は,同会議の中で出された被告人Y1からの指示や同会議において議論した問題事項について,自分自身の備忘録として会長会議と題するメモ(以下「会長会議メモ」という。)をパソコンを用いて作成していた(第7回被告人Y3・3頁,第9回被告人Y1・16頁)。
被告人Y3が同メモを自分自身の備忘録として作成していたという同メモの作成経緯や同被告人が自己のパソコン内に年度ごとに分けて同メモを保存しており,同メモを継続的に作成していたと認められること等からすれば,同メモの記載は,会長会議における被告人Y1の指示や議論の内容を反映していると認められる。
イ Bのメール等(甲17)
Bは,被告人Y3とメールでのやりとりをしたり,b社関係者宛てにメール(甲17。以下「Bメール」という。)を送信している。
ウ 被告人Y3のノート(甲59,60)の記載
c社内から押収された被告人Y3のノート(表紙に「2011年1/17~2/22」と記載のあるノート(甲59)及び表紙に「2011.2/23~2011.3/25」と記載のあるノート(甲60)。以下,双方合わせて「被告人Y3ノート」という。)は,同被告人自身が記載したものであり,その記載内容からして,同ノートは第三者に見せることが予定されているものではなく,同被告人が自らの思考の整理や備忘等のために作成したものであると認められることから,同ノートの記載内容は,記載した当時の同被告人の認識等を表していると認められる。
エ B作成のノート(甲61)の記載
c社内から押収されたBのノート(甲61。以下「Bノート」という。)は,同人が記載したものであり,その記載内容等からして前記同様信用性が認められ,同ノートの記載内容は,同ノートを記載した当時の業務遂行におけるBの認識等を表していると認められる。
オ b社内から押収された被告人Y1の手帳(甲63。以下「被告人Y1手帳」という。)は,同被告人自身が記載したものであり,その記載内容等からして前記同様信用性が認められ,同被告人自身の認識等を表していると認められる。
カ 当裁判所の事実認定の補足説明において必要な,被告人らのa社に対する意識等をうかがわせるものなど,会長会議メモ,Bメール,被告人Y3ノート,Bノート及び被告人Y1手帳に記載された事柄を,時系列に沿うようにして整理したものが「別紙2 会長会議メモ等」である(事実認定の補足説明の便宜上から記載しているものを含む。読点は「,」で統一して表記。当該記載箇所の内容など関係各証拠から,○○社若しくは●●社又は◎◎社はa社,△△社はb社,□□社はc社,▲▲法人は「k1法人」,■■社はq社,MTG又はMTは会議(ミーティング)のことを指すと認められる。)。
(4) 会長会議メモ等の記載の評価等
ア 前記のとおり,Dは当初被告人Y1をすごい人物だと称賛し,同被告人の意向に沿うべく行動し,同被告人はDにa社の代表者が二人といるのはよくない旨を言うなどしていたところ,Dは,Eに株式を譲渡してほしいと依頼するなどしたが,Eは,b社側の人物に不信感を抱いており,過半数を超える株式を他人に保有されるわけにはいかないので,この依頼には応じなかったということがあった。(E,D,被告人Y1各公判供述等)
その上で前記会長会議メモ等の記載,殊に,「○○社に,c社の会社保証をさせる⇒ 保証ならば見つからない。」,「○○社との実質合併」,「資金移動(h社,c社)」(平成21年11月4日),「c社:D社長100%出資会社,h社:△△社100%出資会社,c社の資金は中間的な位置づけ⇒ 移動させる」(平成22年5月28日),「7億円を取れるように。⇒ 上場会社の器を取った。」,「そもそも⇒ 2千万円の増資も大事。」,「D社長+J7オーナーを抜ける時期が来た!」,「c社⇒ 株主として一部入れておけば ※51%+49%でいいでしょ?⇒ 33.4%+代表者という形」,「7億円⇒ この獲得のために,いかにパーツをあてはめるか。⇒ 吸いつかれているわけですからね!」(同年6月24日),「c社のお金:1億円⇒ 奥さんの会社に移してしまいます。e社に入れておく。⇒ 全部抜いて,1億円入れておく。」(同月28日),「8月末の資金残-3億円の資金を粘り強く取りに行く。」(同月30日),「9月末までに借入を完成させ,資金を吸収しないといけない。※5億円~7億円」,「☆今週中の課題⇒ 7億円を投入する道筋を決着付ける。」(同年7月12日),「ⅰ5千万円を保証金名目で抜く。ⅱ3千万円を△△社内に確保。ⅲ2千万円を出資とする。」(同月14日),「7億円引っ張ってきたら,○○社の仕事は終了」(同月19日),「c社へのお金を入れることが最優先。」(同年8月9日),「2.通帳を全部社長の机横のキャビネットに入れておいて下さい。」,「2.3.についてもちょっと都合が悪いと思います。」(同年10月14日),「D社長に追いつかれないように頑張るんだ!」,「○○社の資金の吸い上げ⇒ c社・h社へ」,「c社へ資本を入れる(資本金を同額とする)。」(同年12月6日),「○○社を取り込み,D社長を外に出していく流れ。」(平成23年2月7日),「今回のテーマは『吸収』」,「吸収をして,c社に資金を集約して行くことが目的」,「○○社→ 新○○社設立→ 新○○社節税→ c社増資→ 実質支配」(同月8日),「a社」,「副社長が完全に握った。」(同月17日),「テーマ[吸収]」,「[○○社]」,「Eさん」,「中に〈副〉が入る形→ 追い出す」及び下記図面(以下「図面 」という。)
「 」,
(同年1月17日~2月22日。被告人Y3ノート),「○○社①吸収プラン②節税プラン」(同月24日),「○○社」,「節税スキーム」,「吸収スキーム」,「今週中に確定」,「つかまる:事業分離(VS・E)つかまらない:実質支配」(同年2月23日~3月25日。被告人Y3ノート),「圧倒的な力で飲み込む!」,「D社長+○○社を飲み込む。」,「D社長は海外へ。⇒ 副社長統括体制の構築」,「いいから海外に行け!」,「c社・△△社問題がなく資金を集約する。」(同年4月5日),「○○社やqと同様の感覚で進めていく。⇒ 過半数のコントロール+金庫」(同年5月30日),「○○社からの資金⇒ 資金がふくらんでいるうちに抜いておく。」(同年8月22日),「大舞台が行く前に,B等がa社の人事の土台を作る→ その後に,△△社の人事・総務舞台を投入し,全体の掌握をしていく」,「〈金の流れは完成〉●●社→△△社→■■社」(同年11月),「◎◎社に関する2.8億円そして3.8億円の処理に関して」,「Dへ 無断で動かす理由付け必要」(平成24年2月被告人Y1手帳)などの記載からすると,被告人らが,本件各送金の前後の数年間を通じて,まずはEを排除しようとし,さらに,Dをもa社の実質的な経営から排除するとともに,a社からc社等へ資金を拠出することを介しながら,a社を「支配」し,Dに悟られず,a社からb社等被告人らの支配下に資金を「吸収」することを検討していたことが強くうかがわれる。そして,前記のBのノートにまで「吸収と節税」などの記載があることや,Bがb社内部の者に送信したメールから,そのような被告人らの目的やa社に対する意識がb社内の一定の範囲で共有されていたことがうかがわれる。
イ 前記会長会議メモ等に対する被告人らの供述
前記会長会議メモ等の記載に対して,①「資金を吸収しないといけない」,「a社の資金の吸い上げ」などの被告人Y1の発言は,a社にc社へ投資用資金を拠出してもらうという趣旨である(第10回被告人Y3・34,67頁),②「D社長を外に出していく流れ」との被告人Y1の発言は,当時「新a社」を設立して受配者指定寄付金によって節税することを検討しており,同寄付は企業名と代表者名が公表されるという制度であったことから,「新a社」ではDの名前が表に出ないようにしようという話であった(第10回被告人Y3・72頁),あるいは,Dが海外に行きたいという気持ちが強かったので,一旦海外に避難してもよいのではという話であった(第13回被告人Y1・35頁),③「つかまる:事業分離(VS・E) つかまらない:実質支配」は,Dが脱税問題で捕まった場合には事業分離をせざるを得ず,その場合には株主であるEと話をしなければならない,Dが捕まらない場合はDがa社を実質支配する状態が続くという意味である(第10回被告人Y3・77頁),④「◎◎社に関する2.8億円そして3.8億円の処理に関して」,「Dへ 無断で動かす理由付け必要」の記載は,平成24年3月期末に一旦c社からa社に資金移動した後,同年4月以降に再度a社からc社に同額を戻す資金移動に関する記載であり,この頃は被告人Y2が代表取締役であったので,Dに報告する必要はないと考えていたため,無断で動かすと書いたものであり,理由付けとはDに報告する際にDが嫌な思いをしないように説明を考えなければならないという意味である(第9回被告人Y1・50頁)などと,被告人らはそれぞれ述べている。
しかしながら,①の「吸収」や「資金の吸い上げ」という文言からすると,a社の資金をb社等の被告人らの支配下に移す趣旨であるとみるのが自然であり,単にDの了解の下でa社からc社に資金を拠出するという意味でそのような文言を用いたというのは不自然である。また,②については,当時の会長会議メモの記載等から「新a社」の設立が検討されていたこと自体は認められるものの,「新a社」でDの名前が表に出ないようにするという話を「外に出していく」と表現することは考え難く,また,平成23年2月24日の会長会議メモに「D社長:海外に逃げたい。⇒ D社長の気持ちはこっち。」との記載があることからすると,被告人らは,Dが海外に行きたいという気持ちがあると考えていたことが窺われるものの,Dを海外に行かせることを「外に出していく」と表現することも考え難い。「外に出していく」という文言からすれば,a社からDを追い出すことを検討していたとみるのが自然であり,このことは,「新a社」に経営の実質等を移し,DとEをa社に残して「新a社」には関与させないことを意図していたことをうかがわせる図面 によっても裏付けられている。③については,a社は元々Dが設立し経営している会社であり,Dが代表取締役社長であったのであるから,Dが支配をするという場合に「実質」という言葉を付ける必要などなく,「実質支配」がDが支配を継続することを意味するというのは不自然であり,被告人らがa社を実質的に支配する趣旨と解釈するのが自然である。④については,資金移動についてDに報告する必要がないのであれば,「無断」と記載する必要などなく,そのような資金移動の「理由付け」を考える必要もない。また,報告する際にDの気持ちを害さないように説明する必要があるのであれば,事前にDに話した上で資金移動をすれば足りる。被告人らの説明はいずれも不自然不合理で,信用できない。
ウ これに加えて,本件3.8億円のうち3億円の送金に用いられた三菱東京UFJ銀行大伝馬町支店のa社名義の口座についても,D及びBは,日常的に用いない口座であったと述べ,実際定期的な引き落とし等にしか用いられていなかったと認められる。これらの事実は,被告人らが本件3.8億円の送金等について,Dに悟られないで行おうとしていたことをうかがわせる事情といえ,前記会長会議メモ等に現れた被告人らの目的ないし意図を裏付けている。
エ そして,これら前記会長会議メモ等からうかがわれる被告人らの意図を踏まえ,前記第2の1(3)のとおり実際に行われた資金の移動状況をみると,本件3.8億円は,結局のところ,本件各送金を含む資金移動によりa社から,c社,b社等の複数の口座間を移動した上で,b社の口座に送金されたものと評価できる上,被告人らにおいても,そのような口座間等の資金の移動状況等が共有され,本件1億円及び本件2.8億円が一体として本件3.8億円の原資として認識されていたことは,下記の,被告人Y3及びBが記載した被告人Y3ノートの図(なおH22.3.3,H22.3.4は元の記載どおり。)及びBノートの図や,金額3億8000万円を前提としてFA契約書が作成されたというBの供述(第4回B・20頁)並びにBメール(特に平成22年9月22日及び同年12月7日のもの)等からも明らかといえる。
(2011.2/23~2011.3/25と記載された被告人Y3ノート)
「関係図 (3.H23.3/31現在資金)

「2/24(木) 13:00~ (Bノート)
【途中省略】

「3/1(火) (Bノート)
【途中省略】

オ そして,金員が移動する根拠を作出するための契約書を後になってその移動に合わせる形で作るなどして,金員移動の根拠付けを後から行うことで体裁を整えていたことがうかがわれる。
この点,弁護人らは,当事者の合意が実際にあったのであれば,後日の契約書の作成に問題はないと主張する。しかし,Bメール(2010年12月7日)から,a社からc社への貸付(前払費用)のうち,1億円を業務委託契約にする件の契約書を被告人Y3との間で作成したことが認められるが,同メールでは,同契約書の支払日をいつにするかについて,平成22年7月2日,同年10月4日にそれぞれ本件1億円,本件2.8億円の金員の移動がされていたことから,「見え方として,前者の方が話しやすいかと思い,7月2日にしてある」と記載され,さらに,提携,統合先との交渉に成功した場合の成功報酬の金額もBが第一次的に考えて契約書を作成していることが認められる。契約があった日の当事者の合意どおりの内容を反映した作成方法とはおよそ認められない。さらには,契約書の作成が同契約締結日とされる日から相当後になって作成されたり(平成23年3月頃から作成していた平成21年8月1日付けの一般社団法人k1に関してのFA契約書及び平成22年4月1日付けの一般社団法人k1に関してのFA契約書が平成23年6月頃になって完成されている(B公判供述等)。この点は更に後(第2の2(6)エ)に述べる。),作成してあった契約書をa社の契約書ファイルから抜くということもされている(Bメール(2010年11月29日))。これらからすれば,およそ正常な契約締結や取引合意が成立していたとは認められない(なお,被告人Y3宅からは,a社の押印はあるがc社の押印はない契約書や,a社の押印のみでc社の押印がない上,日付が未記載の契約書が多数押収されている(甲19)。)。
(5) 以上からすれば,被告人らがc社,b社へ資金移動を行ったことについては,専らa社の利益のためというよりも,a社の資金をDに悟られずに被告人らの支配下に移動させ,b社の資金等に流用する目的があったことがうかがわれ,被告人らは,当初は被告人らに不信を抱くEを追い出すことを企図して株式の譲渡をDを通じて迫り,経理の中枢を把握する管理部という部署をb社事務所に設置し,また,平成22年秋頃からは同管理部をa社本店内に置いて,b社の従業員にa社の出納経理業務を担当させ,銀行口座や銀行届出印をDに無断で作り,あるいは変更し,c社を介し,ときには,a社の銀行口座をも介すなどしながら,そのように法人間の銀行口座において入出金を繰り返したりしつつ,最終的には自己の利益のための金員をb社の銀行口座等に入金したということが強く推認される。
(6) その他全体面での弁護人らの主張(被告人らの弁解)
ア  弁護人らは,①銀行口座間で振込送金を繰り返した理由は,預金口座において多額の資金移動をすることで預金者の資金力を示し,銀行から将来の融資に向けた信用を獲得したり,銀行から投資対象となる学校の情報提供を受けたりするためであった(弁論46頁),②本件各送金は,a社のc社への投資用資金の拠出として行ったものであり,本件3.8億円の送金は,Dからの指示に基づいてa社の節税を検討する中で,当初はc社に報酬として支払うことを検討したが,税理士の助言があって,実働したb社に報酬として支払うことになったものであり,b社に移動した資金も,後にc社のための投資に活用することを考えていた(弁論51頁),などと主張し,被告人らもこれに沿う供述をしている。
イ  しかしながら,①については,口座に送金をした後一定期間預け続けていれば,銀行に対し預金者の資金力を示すことにつながることもあり得ると考えられるが,本件における口座間の送金状況をみると,入金後わずかの期間で別の口座へ送金されるということが繰り返されているのであって,それにもかかわらず銀行の信用を獲得でき,また,銀行から有益な情報提供がなされるかについては,疑問といわざるを得ない。
ウ  また,②についても,以下のとおり,同主張は採用できない。
(ア) 税理士で,決裂後の平成24年4月頃からa社の経理に関与しているC(以下「C」という。)が,①本件3.8億円の報酬の支払は,3億8000万円の現金がa社からなくなって,安くなった税金が1億6000万円ほどなので,2億2000万円分の財産が現に減少しているから,節税とはいえない,②b社が学校法人等へ寄付を行うことにより同学校法人等がa社に優先的に広告の注文をした場合にはa社の収益になり,合理的な節税策になる可能性があるが,b社が買収したからといって,ただちにa社の売上げにつながるとは限らないから,効果は不確実である,③被告人らは,平成24年3月期にも,平成23年3月と同様に3億8000万円をa社からb社に報酬として支払って節税したとするが,その支払により平成24年3月期は実質的に7000万円の赤字が生じており,そのような節税をすることは考えられない旨述べている。
(イ) さらに,Bも,本件3.8億円に係る節税スキームは,a社が大きな資金を失うリスクがある一方で,b社は何のリスクもなく確実に利益を得られるスキームであると言われても仕方ない部分がある旨述べている。
(ウ) Cの前記供述は,税理士としての専門家の立場から述べられた客観性のあるものであって,その供述内容も合理的であり信用できる。また,Bの前記供述は,信用できるCの供述と整合している上,b社の元従業員であるBがあえて被告人らに不利な供述をするとは考え難いことからすると,信用できる。そして,節税の方法として学校法人を購入して,理事や監事を替えて支配権を取るというのも,その学校法人が赤字で経営難に陥っている法人が多いというのであり(第4回B・25頁),平成24年3月のa社からb社に対する3億8000万円の支出を合わせて7億6000万円の支出ないし報酬に見合う利益をあげるというのはかなりの困難ないしリスクを伴うものといえ,この点からもBの供述の信用性は高い。
(エ) これに対して,弁護人らは,さらに,①j1会計事務所の従業員としてa社の税務監査に関与したGが,平成23年3月期において,k法人のマインドマップ検定をa社を通じて受検した人が多数いたことから,広告効果があると判断した旨述べていることや,前記のとおり,実際b社が平成23年8月にt学園に1億6000万円を寄付していること等から,本件3.8億円がb社に支払われることでa社が将来において利益を得ることが見込まれるから,合理性のある節税策である,②節税自体がDが求めたことであるから,節税策をとること自体にはDの概括的な合意がある上,資金移動自体も,Dに説明がされ,承諾を得ている旨主張し,被告人らもこれに沿う供述をしている。
しかしながら,①については,Dは,マインドマップ検定は,a社が関係のある高校等にアプローチして受検料を無料にして8000人ほどの受検生を集めることができたが,その後受検料を有料にして実施したところ,受検生がゼロに近くなった旨述べていること(第5回D・68頁,91頁),その見通しについては,平成22年3月28日時点で既に,Dは,k法人の代表理事であるJ8に宛てたメールで「有償でとなれば,厳しい数字になると思います」などとメールをしていたことからすると,マインドマップ検定がa社の売上げに大きく貢献したとも,また,貢献するとDが考えていたとも認められない(なお,マインドマップ検定がa社の売上にどれだけ貢献したのかを客観的に示す証拠等は提出されていない。)。そして,C及びBの前記供述のとおり,b社が本件3.8億円をどのような用途に用いるかについて,a社に決定権などはない上,仮に学校法人の買収等のa社の利益になり得る事業に用いられたとしても,それが直ちにa社の利益につながるものではないから,やはりb社が確実に利益を得られる一方で,a社が非常に大きなリスクを負う取引であり,a社にとって経済合理性のあるものとは認められない。なお,t学園に対する寄付は,前記のとおり,b社が別に顧問契約を締結していたq社のために行われたものであって,その寄付金も顧問料に上乗せするなどしてb社が回収できる見込みがあったのであるから,これをa社において本件3.8億円を支払った見返りであるなどと評価することはおよそできない(なお,Gは,昭和58,59年頃被告人Y1及び同Y2と知り合って旧来の仲であるFが統括していると解されるj会計グループに属し,実際のa社の税務処理を担当していたもので,Fの公判供述からしても,また,平成22年9月24日のBメールからしても,Gがa社の経理にFよりも深く携わっていたことが認められる上,G自身がBの証人尋問を傍聴していた旨述べており(第15回G・30頁),その供述の信用性にはFよりも更に慎重な検討が必要である。)。
また,②について,Dは,平成22年秋頃に,b社に節税をお願いしていたことはない旨述べている(第5回D・39頁)。この点については,a社のu社に対する支払が減少した(甲89。平成22年3月期の支払が約3億3000万円であったが,平成23年3月期は約8000万円)ことなどから,Dが節税の必要性があると考え,Dから被告人らに対して,節税策を考えるようにとの指示があった可能性はある。しかしながら,前記のとおり,本件3.8億円をb社に支払うという節税策は,a社にとって非常にリスクが大きく経済合理性に欠ける取引であり,このような取引にDが同意するとは考え難いこと,平成24年4月5日の会長会議メモに,「節税の必要性の提案+ねじ込み」との記載があり,仮にDが本件3.8億円に関する節税について承諾していたとすれば,その時点でDに対して節税の必要性を「提案」あるいは「ねじ込み」をする必要性が全くないこと,税務署の調べが入っている時期に節税をお願いするはずがないとのDの供述にも理由があることからすれば,本件3.8億円を節税策としてb社に支払うことの指示又は承諾していない旨のDの供述は信用性が高い。
エ  また,前記第2の1(3)キ記載のFA契約は,実体を有した契約ではなく,本件3億8000万円の根拠になるという説明も合理的ではない。
前記契約に係るFA契約書1通(甲12,右上に38と記載のあるもの)の作成日は,平成21年8月1日であるところ,平成22年4月1日,その契約書を改めるもの(甲12,右上に41と記載のあるもの)及び覚書3通(甲12,右上に39,40,42と記載のあるもの)が作成されている(これらの契約書について,前記のとおり,Bは平成23年6月頃完成したと述べ,被告人Y3は,同年3月にc社から3億8000万円全額をa社に返済した上で,改めてb社に送金し,a社とb社とのFA契約書を作成したと述べている(第7回公判期日106頁)。そして,Bは,先に3億8000万円という数字があり,それに合わせてFA契約書を作成した旨を述べ,被告人らの供述やそのような計算をしている被告人Y3ノートの記載からも,a社の3億8000万円の支出の根拠付けを平成23年になって作出したことは明らかである。)。金額が高額であることに照らしても,数年前にまで日付を遡らせて成立したとする契約が正常なものではないことは明らかであることは前記のとおりである。また,理事か監事の人数で報酬を支払うこととしたと弁護人らは主張するが,一般社団法人k3に名前が変更する前の一般社団法人k1において既に理事,監事であった者が,本件3.8億円の資金移動の際に多く就任しており,その者らが理事,監事であることを理由にFA契約により多額の金員をa社がb社に支払うことに合理性はない上,甲第13号証の代表理事,理事,監事の人数,就任時期からしても,これが3億8000万円の根拠であるというのも不自然かつ不合理である。そして,法人の理事等を替えて,その理事によって支配を及ぼすことで間接的に収益を上げていくというのも理事が退任してはその目的は達せられない。この点を検察官が指摘し,被告人Y2への質問(第12回被告人Y2・5~6頁)で,平成23年3月29日にはFA契約書の覚書で規定されている理事3名が退任していることを指摘した点について,弁護人は,平成25年9月26日になって登記されたものであり,平成23年3月29日には退任していないと主張する。しかし,形式的な登記時期は平成25年9月26日であっても,甲第13号証から明らかなとおり,代表理事,理事,監事が平成23年3月29日に退任していたのであって,実質的に前記収益を上げていくという目的が図られないことは検察官の指摘のとおりである。
オ  また,a社の利益となるためのc社による投資はほとんど行われてきていない。
この点,弁護人は,平成22年9月にl社の株を取得し,さらに,m社の株に対する投資を行った,結果的にみればc社から投資がなされた案件が前記2件であったことは事実であるが,a社のために確実に利益を獲得するための投資をするためには,関係先の情報を集め,関係者との協議・連絡・調整等のきわめて綿密な作業を必要とするのであって,簡単に次々と行うことができないものであると主張する(弁論38頁)。
しかし,本来の設立目的である投資先が見付からないというのであれば,それに合わせて資金移動を見合わせたり,控えたりすることが考えられるが,別紙1のとおり,c社がl社の株を購入する前に,c社から,被告人Y1やe社に金員が支出されている。そして,その後,簡単に行うことができないと言っても,長きにわたって,200万円を超えるような投資は全く行われていない。
カ  そして,結局において,a社からc社へ拠出された投資用資金は,c社からa社へ一旦返された上で,a社からb社へ送金されて,報酬という形で処理されている。この点について,a社から金員の交付を受けたb社は丸儲けとなるのではないのか,との弁護人からの質問に対し,被告人Y3は,a社のための資金として使うつもりであったと述べるほか,その分の収益が生じ,その分に対する税金がかかることから丸儲けにならないなどと述べる(第11回被告人Y3・3頁)。しかし,基本的に報酬として得た金額以上の税金がかけられることはなく,また,高額であればあるほど税金がかかるにせよ,残余の利益を得るのであって(例えば,何兆円と無償で取得した者が,税金がかかるから丸儲けではないなどというのはおよそ不合理な弁解である。),前記税金がかかるから丸儲けではないとの被告人Y3の供述に報酬としての処理の正当性を見出すことはできない。
キ(ア)  また,被告人らとDは,月に数回程度の頻度で,a社の体制や新規事業等について議論する会議(以下「a社会議」という。)を行っていたところ,弁護人らは,弁護人らの主張がa社会議における資料から裏付けられる旨を主張する。
そして,被告人Y3のパソコン内に保存された「○○社議事録」,「10年」というフォルダの中に同会議の資料と思われるパワーポイントファイルが保存されていたところ,その中には別紙3の内容が含まれている。
(イ) a社会議資料の信用性等
別紙3のうちの「仕掛事項(2010年9月3日現在)(弁8別添2)」は,その表題や「100903・○○社仕掛事項」というファイル名から平成22年9月3日のa社会議の資料と考えられるが,その最終更新日時が同月6日12時31分になっていることからすると,同a社会議の資料のデータが会議終了後に編集された可能性がある。また,前記Bメールから,被告人らがDに見せるa社会議の資料とb社内で共有する同様の体裁の資料の内容が大きく異なり,そのようなこと自体がb社内で共通の理解とされていたと認められることからすると,それ以外にもDに見られたくない部分を削除し,加筆・修正するなどした資料がある可能性が否定できない。そうすると,D自身が捜査官に提出した資料は別として,データで保存されていたa社会議資料(弁8及び甲87)が,現にDが出席した会議において実際に用いられた資料であるかどうかには疑問がある。
(7) 以上検討したことからすると,前記会長会議メモ等においても「節税」が「吸収」と同列に資金獲得のスキームとして検討されていたとうかがわれることなどにも照らせば,本件3.8億円のb社への支払は,a社の節税を真の目的としたものではなく,被告人ら(前記のとおり,全体的考察において被告人らとして論じているが,本件1億円,本件2.8億円の送金についての各被告人らの共謀の有無等は後に論ずる。)が,a社からDに悟られずに被告人らの支配下に資金を移動させて,b社の資金等に流用する意図を有していたと認められる。
そうすると,本件各送金のそれぞれについても,被告人らにおいて同様の意図で行われたものであることが強く推認される。
3 検察官の立証構造
もっとも,検察官は,被告人らが,a社に関わり始めた早い段階から,a社を実質的に支配し,c社を通じてその資金を被告人らが獲得することを目論んでおり,その一環として本件各送金を行ったという主張を前面に出して行ったりはしておらず,あくまで,本件各送金(平成22年7月2日及び同年10月4日の1億円と2億8000万円のa社のみずほ銀行麻布支店及び池袋西口支店の各口座から本件c社口座への資金移動)を捉えて,被告人らにおいて業務上横領罪が成立するかを問擬している。そのような主張・立証構造からすると,資金移動を全体として評価した場合の被告人らの弁解が信用できないことは前記のとおりであるが,更に,本件各送金について,被告人らの故意ないし不法領得の意思が認められるか否か等について,具体的に検討する必要がある。
4 本件1億円に関する故意ないし不法領得の意思の存否等
(1) 前提事実
第2の1(3)ア~エに加え,関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア  平成22年6月16日,AからBに対し,銀行口座残高と現時点での支払予定金額を伝えるとともに,業者からの支払予定金額が多い理由について,v社(甲69資料1より株式会社であると認められる。以下,「v社」という(メールの引用を除く。)。)への1億4719万3137円が原因である旨のメールが送信された。(甲47)
イ  同月22日のAの業務日報には,「D社長より,2社団の通帳&銀行印送付依頼」,「池袋へ 2社団の銀行印&通帳をD社長へお渡しするため」との記載がある。(弁9)
ウ  同月27日17時31分,Dから被告人Y3に対して,「v社の支払いを29日には実施します。J2さんに明日朝一でg法人とf法人からそれぞれ5000万円をみずほへ振り替え,各拠点の残高をみずほへ振り替えするよう指示しておいてください。それと・・c社+」とのメール(以下「メール 」という。)が送信された(なお,前記「J2」は,第5回D・22頁等関係各証拠から「A」の誤りであると認められる。)。(甲93)
エ  同月27日18時11分,Dは,a社の福岡銀行博多駅東支店の口座を管理しているJ9,北海道銀行美香保支店の口座を管理しているJ10,京都信金駅前支店の口座を管理しているIに対し,「7月2日に各銀行の残高をすべてみずほ銀行支店に資金移動してください。また,7月2・3日で未入金の学校がないかチェックしましょう。」とのメール(以下「メール 」という。)を送信した。(甲44)
オ  同年6月28日及び同月29日,本件c社口座,みずほ銀行麻布支店の関連法人名義及びa社名義の各口座間で第2の1(3)イのとおりの振込送金がされ,その後,同日,みずほ銀行麻布支店のa社名義の口座からv社に対し,1億4719万3137円が振込送金された。(甲69等)
カ  同年7月2日,第2の1(3)ウのとおり,福岡銀行博多駅東支店,北海道銀行美香保支店の各口座からみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座に合計5300万円余の振込送金がされたほか,同日中に同口座に向けて京都信金駅前支店の口座からも2000万円の送金手続が行われたが,取扱時刻の関係で着金は同月5日になった。
キ  同月2日,銀行での当日付け振替えが可能な午後2時の少し前,被告人Y3は,東日本銀行池袋支店のa社名義の口座を管理していたH(以下「H」という。)に電話をかけ,今日中に資金移動をするよう指示し,同人は,その指示どおり,7000万円を同口座からみずほ銀行麻布支店の同社名義の口座に送金した。Hによれば,普段資金移動の連絡についてはDかAから受けていたため,被告人Y3の指示によるのは異例のことであった。(甲33,45等)
ク  同日,被告人Y3は,Aに指示し,同口座から本件c社口座に本件1億円を振込送金させたが,その前後を通じて,Aがその送金をDに直接報告したことはなかった。(甲69等)
ケ  同月5日のAの業務日報には,「池袋へ (通帳と印鑑をD社長へ渡すため)」,「本日,a社・2社団の通帳&銀行印をD社長にお渡ししました」との記載がある(弁9)。
コ  同月16日,Aから,Dに対し,「7月支払一覧について」との件名で,a社の7月分の支払をまとめた「a社_支払請求書(7月支払一覧).xlsx」というエクセルファイルが添付されたメールが送信されたが,同ファイルの中には,本件1億円の送金の記載はなかった。(甲42)
サ  同年8月2日,AからDに対し,「7月支払一覧,振込明細送付」との件名で,「みずほ振込明細.zip」として,みずほ銀行が被告人Y3に宛てて作成した「みずほe-ビジネスサイト 振込・振替 依頼一覧」等を圧縮したファイルが添付されたメールが送信されたが,同ファイルの40頁にわたる表の中には,本件1億円に関するもの1頁が含まれていた(甲42)。
シ  別紙3のとおり,平成22年9月3日のa社会議の資料とされるデータ(弁8別添2)に「c社への貸付⇒ 平成22年7月」との記載がある。
(2) 本件1億円の送金及びその使途に関するDの認識
ア  D供述の概要
Dは,公判廷において,①本件1億円の送金のことは知らなかった旨述べるとともに,②メール については,平成22年6月末に,管理部の責任者である被告人Y3に,関連法人から各5000万円と,a社の支店の口座からみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座に資金を移して,v社への支払を処理してほしいと依頼する趣旨であり,③メール は,6月末は入金が多く支払も多いので,6月末までの入金を7月の頭に支払用の口座に資金移動するよう指示したもので,毎年やっている資金移動である,④c社からg法人を通じてa社に1億円が送金されたことは知らず,g法人の通帳がないので確認もできなかった,⑤同年7月20日に被告人Y1が2000万円をc社に出資したことも,その原資がc社から被告人Y1に流れたお金であることも知らず,c社での持ち株比率がDは50パーセントに満たず,被告人Y1が過半数を有していることを知ったのは,平成24年4月以降である旨を述べている。
イ  D供述の信用性
(ア) 本件1億円の送金に関する認識
a 前記第2の4(1)イ及びケのとおり,Aの業務日報(弁9)では,AはDに対し,本件1億円の送金前の平成22年6月22日に関連法人の各口座の通帳等を,また,本件1億円の送金直後の同年7月5日に関連法人の各口座及びみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座の通帳(Aが作成していた口座残高一覧表によると,被告人Y3・Aが担当している口座はみずほ銀行となっており(甲43),管理部が同口座を管理していたものと認められ,その時点でa社名義のみずほ銀行の口座は同支店のものしか存在しないことからすると,前記業務日報に記載されたDに交付したa社の通帳は同口座のものと認められる。)等をそれぞれ渡したことが記載されている。g法人の口座の資金移動は通帳がないので確認できなかったとするDの前記④の供述は,前記業務日報の記載と整合しない。検察官は,前記同年6月22日及び同年7月5日の業務日報において,Aが通帳等をDに渡すために外出することを記載した箇所が赤字となっているのは不自然であると指摘するが,そのことから前記業務日報が虚偽の事実を記載したと認めることはできず,また,他にそれを認めるに足る証拠はない。
また,前記第2の4(1)ウ及びエのとおり,Dは,同年6月27日,被告人Y3に対し,同月28日に,関連会社からそれぞれ5000万円をa社のみずほ銀行の口座(当時管理部が管理していた麻布支店の口座と解される。)に入れ,また,a社の各支店の口座からみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座へ送金するようにAに指示することを伝えるものと読めるメール を送信しており,同月28日にa社の各支店の口座残高をみずほ銀行麻布支店の口座に入金するように伝えていると読めるものとなっている。他方,その約40分後に,各支社の口座を管理する従業員3人に対し,直接,各支店の口座からみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座に同年7月2日に残高を全て移すよう依頼するメール を送信しており,支社が管理する各口座から送金をする日について前記メール と矛盾する内容と読み取れる(なお,①Dが被告人Y3らにメール 及びメール を送信した頃,Dとしてはとにかくa社に資金集めをしたかったことが窺われること,②メール からは,関連法人からみずほ銀行麻布支店への各5000万円の資金移動の締切が同年6月29日までであることは読み取れるが,a社の各支店口座から同社のみずほ銀行麻布支店の口座へ入金する日の締切がいつかは明確とはいえない面もあること,③被告人Y3の供述からすると,Dと被告人Y3との間で同年7月2日に1億円をa社からc社に戻すとの約束をしたにもかかわらず,メール で同年7月2日に全てのa社各支店の口座残高を前記麻布支店の口座に入金するよう指示したことになるが,そうするとa社の各支店の口座から前記麻布支店の口座への送金と同口座からc社名義の口座への送金を同日に行わなければならないことになり,同一日にそのすべての送金を完了できるかは疑問があり,実際,手続が間に合わず,前記麻布支店の口座への入金が同月5日となった支店があったことからすれば,メール とメール とで,その内容が明白に矛盾しているとまではいえない。)。この点,メール についてのDの前記③の説明(第5回D・71頁)については,平成23年7月上旬に各支店からみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座への入金はなく(甲73資料4。なお,同月22日には,それらしい送金が認められる。),毎年7月上旬に資金移動をするようにしていたとのD供述はその信用性に疑問がある。また,Dの供述からは,「c社+」の記載についても合理的な説明がされてはいない。
b 他方で,被告人Y3は,本件1億円の送金をすることになった経緯について,概要,以下のように供述している。
すなわち,前記第2の4(1)アのとおり平成22年6月末にa社において多額の支払が予定されていたところ,Dから送信されたメール を見て,これでは同月末の資金需要を充足できない可能性があると考え,Dに電話をかけて協議した結果,運転資金として各500万円を関連法人に残した上で,関連法人から各4500万円をa社に送金することになった。さらに,a社のc社に対する関連法人を経由した合計2億円の貸付金のうちの1億円を,同年7月2日までにc社に戻すという条件で,a社の資金繰りのために一時的に返済することとなり,その際Dは各拠点に指示しておくと述べていた。しかし,c社の資金がa社に戻った同年6月29日に,Dがc社に1億円を戻すタイミングを同年7月末にしたいと言い出した。そこで,同年6月29日の夜,被告人Y1とDとが会い,更に同月30日の会長会議を経て,結果,約束どおり同年7月2日にc社に1億円を戻すことになった。当日みずほ銀行麻布支店のa社名義の口座の残高が1億円に満たなかったため,Dに東日本銀行の口座から資金移動をするよう求めると,Dはこれに応じていたが,その資金移動が確認できなかったため,同口座を管理するHに自ら指示した。
このような被告人Y3の供述については,前記第2の4(1)シのa社会議の資料に同年7月にa社からc社に貸付けが行われたことを示す記載があることと整合しているが,a社会議の資料として残されたデータの内容が実際にDに示された資料と同じ内容かどうかについては,前記のとおり疑問がある。また,前記第2の4(1)サのとおり,AからDに送信された圧縮ファイルに本件1億円の送金に関するものが含まれていたとしても,その量の多さからしてDが逐一確認できるようなものであったとは考えにくい。なお,弁護人らは,Dが報告を求めた経緯からするとDが見ないことは考えられない旨主張するが,Aの同年6月21日付け業務日報には,「D社長の指示でみずほ銀行支払明細一覧を池袋へお持ちしましたが,今後はPDFでメール送信で良いとのことです。」(弁9)とその指示内容を記載しており,同文面からしても,メールでの送信を求めるようになった理由が,内容をよく確認するためにあったとは解されない。
もっとも,前記被告人Y3の供述は,本件1億円の送金前になされたc社から関連法人を経由したa社への1億円の送金の事実や,同月30日の会長会議メモの「○○社にお金が貯まったらc社に戻す。」との記載と整合する上,メール 及びメール で矛盾すると読み取れる内容のメールが送信されている理由について合理的な説明がされている。また,Aが本件1億円の送金の前後においてDに対して関連法人等の通帳を渡した事実を示す前記業務日報について,特に信用性を疑うべき事情がないことからすれば,被告人らが本件1億円の送金をあえて隠そうとしていなかったと考えられ,これは前記被告人Y3の供述と整合する。
これに対して,検察官は,①第2の4(1)コのとおり,AがDに対して同年7月16日に送信した7月支払一覧データの中に本件1億円の送金の記載がないことは不自然である,②本件1億円の送金状況,すなわち,前記のとおり,資金移動当日に,被告人Y3が,通常は資金移動の指示をしないHに指示したことは不自然である,③同年6月末のa社名義の各預金口座の残高の合計は,1億8941万5180円であった(甲43。同残高合計は,v社に対する支払後の残高であり,f法人からの4500万円及びg法人からの1億4500万円の返金を含む。)から,仮にc社からの1億円の資金移動がなかったとしても,a社が資金繰りに窮する事情は認められず,被告人Y3が述べるような資金移動をする理由がないなどと主張し,被告人Y3の供述の信用性を争っている。
しかしながら,①については,AがDにメールで送信していた支払一覧データには,請求書番号及び請求月という記載欄があり,Aによれば,請求月には請求書の日付を記載するとのことである(甲70)から,支払一覧データは取引先からの請求書をとりまとめたものと考えられ,請求書が存在しない本件1億円の送金について支払一覧データの中に含まれていないとしても不自然とはいえない。②については,Dに無断で計画的に送金するつもりであれば,「Dの指示」としてAにHへの連絡をさせるなど,目立たないように指示を行うことも可能であることからすると,同事実は必ずしも被告人らがDに無断で本件1億円の送金を行ったことを推認させる事実とはいえない。③については,v社に対する支払後の同年6月末の残高からすれば,結果的にはDから被告人Y3へのメール のとおり,関連法人から合計1億円の送金をすることで,v社への支払に対応することは可能であったと認められるものの,約1億4700万円もの多額の支払が予定されている以上,他に急な支払の必要が生じる可能性等も考慮して,支払用の口座に余裕をもって資金を集めておくことは合理的な行動であるから,被告人Y3の供述が不自然であるとはいえない。したがって,検察官の主張はいずれも採用できない。
c 前記のとおりメール とメール とでその内容が明白に矛盾しているとまで言い切れるか疑問がないではないにしても,文言上は矛盾していると読みとれることなどを含め,前記検討からすれば,本件1億円の送金を事前に知らなかった旨のDの供述は,その信用性に疑問があるというほかない。そうすると,被告人Y3の供述する経緯によって本件1億円の送金がなされた可能性は否定できず,また,AがDに対して本件1億円の送金の前後に関連法人の口座及びみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座の各通帳を交付していることからすれば,被告人らにおいて本件1億円の送金を隠そうなどの意図があったとは認められない。
もっとも,このことから,被告人らにおいて本件1億円の業務上横領罪が成立しないとの結論が導かれるものではないので更に検討する。
(イ) 被告人Y1名義でのc社の増資のためにc社の資金2000万円を用いることについてのDの認識
a 平成22年6月4日の会長会議メモの「(c社からの出資)
4千万円の資金移動 ・株主は△△社で資本金1円~1千万円(c社からの貸付け)」という記載や同月24日の会長会議メモの「c社⇒ 株主として一部入れておけば ※51%+49%でいいでしょ?⇒ 33.4%+代表者という形。」という記載等からすれば,被告人らは,本件1億円の送金前から,c社への増資を検討し,その増資資金にc社の資金を用いることを考えていたと認められる。また,同月30日の同メモの「c社への増資は伝えるタイミングではない。」という記載からすれば,被告人らは本件1億円の送金前に,Dに対し,c社の増資を行う予定であることやその原資としてc社の資金を用いる予定であることを伝えていなかったと認められる。
そして,同年7月14日の会長会議メモの「金曜に増資の話をする。」との記載からすれば,被告人らは,同日(水曜日)にその2日後の同月16日(金曜日)にc社の増資の話をすることを会長会議において議論したと認められ,このことからすれば,被告人らは,本件1億円の送金後の同月16日に,Dに増資を行うことを伝えた可能性は否定できない。しかしながら,a社からc社に拠出されている資金は,a社のための投資用資金として拠出されていたことからすると,Dが,被告人Y1名義でのc社への増資にa社がc社に拠出した投資用資金を用いることを承諾するとは考え難い。また,前記同年7月14日の会長会議メモの「金曜に増資の話をする。」の記載の後に,「ⅰ 5千万円を保証金名目で抜く。ⅱ 3千万円を△△社内に確保。ⅲ 2千万円を出資とする。」などと記載されているが,Dに対して5000万円を「保証金名目で抜く」ことや,3000万円をb社において確保すること等を説明することは考え難いことからすれば,同月16日にDに伝えられた可能性があるのは,c社に対して増資することのみであり,その原資がc社の資金であることはDに伝えていなかったと考えるのが自然である。
b これに対して,被告人Y1は,c社への増資は,Dから責任を共有していきたいからと依頼され,当初は断っていたが,平成22年6月頃その依頼を断れなくなってきたため,同年7月16日にDに出資のための金を貸してほしいと言ったところ,Dからc社の資金を使ったらいいとの申出があった旨述べる。
しかしながら,前記のとおりDがそのような申出をするとは考えがたい上,前記同月14日の会長会議メモの記載からすれば,被告人らは,同日までにc社の資金を用いて被告人Y1名義で2000万円の増資をすることを決めていたものと認められるから,同月16日にDから申出があったのでc社の資金を使うことになったとする被告人Y1の供述は前記会長会議メモの記載と整合しない。
したがって,被告人Y1の前記供述は信用できない。
c 以上によれば,被告人Y1がc社に出資することをDが知っていた可能性は否定できないものの,その出資金2000万円の原資がc社の資金であることについては,Dは認識していなかったものと認められる。
(3) 本件1億円の送金前における会長会議メモの記載内容
ア  平成22年6月4日付けの会長会議メモの「h社」,「(c社からの出資)4千万円の資金移動」,「株主は△△社で資本金1円~1千万円(c社からの貸付け)」などの記載や,同月28日付け会長会議メモの「c社のお金:1億円⇒ 奥さんの会社に移してしまいます。e社に入れておく。」などの記載からすれば,被告人らが,本件1億円の送金前から,c社の資金を被告人ら又はb社の支配下に移動し,b社の資金等に流用する意図を有していたことがうかがわれる(なお,h社については,会長会議メモ(同年5月28日,同年12月6日)において,c社はD,あるいはDと被告人Y1の会社で,h社はb社の会社であることや,a社の資金を吸い上げてc社とh社へ移動させる旨が記載されている(同年5月28日,12月6日)ことなどに照らせば,h社が取得した金員については被告人らの支配が可能であると考えていたことがうかがわれる。)。
イ  これに対して,弁護人は,前記同年6月28日付けの会長会議メモの記載について,被告人Y1が,被告人Y3に対し,Dに対する話法として,c社が貸付を受けている残りの1億円をe社に移してしまうので,いつでも返済が求められる金員ではなくなることや,a社がc社に拠出した金員は投資用資金であり,資金繰りの必要があるからと言って返済を求めるのでは投資がうまくいかないこと,資金を拠出することについては,そのような覚悟を持つ必要があることを話すように指示したものである旨主張し,被告人Y1及び同Y3もこれに沿う供述をしている。
しかしながら,a社のための投資用資金としてc社に拠出した金員をa社とは全く関係のないe社に移すことをDが承諾するとは考え難いことからすると,そのような話をDに対してするように被告人Y1が被告人Y3に対して指示したとの説明はおよそ不自然であり,前記被告人Y1及び同Y3の供述は信用できない。
また,平成22年7月2日当時,本件1億円の送金に関するc社の勘定科目は短期借入金であったこと(甲74等),さらに,その後に三者間相殺をしていることは,貸借関係を前提にしていると考えられることからすると,これを貸金ではなく返済を要しない投資用資金と見て処理していたと認めることはできない。
(4) 本件1億円の振込送金後の金員の移動状況
ア  そして,前記のとおり,被告人らが,本件1億円の送金前から,c社の資金を被告人ら又はb社の支配下に移動し,b社の資金等に流用する意図を有していたことがうかがわれるところ,実際の本件1億円の振込送金後の金員の移動についてみると,前記第2の1(3)エのとおり,本件1億円は,本件c社口座に送金された2週間後に5000万円が出金され,被告人Y1名義の口座とe社名義の口座に分けて入金された上,被告人Y1名義でのc社への増資や被告人Y1及び同Y2への貸付け,b社への貸付け等に用いられている。
なお,e社と被告人らとの関係については,その代表取締役が被告人Y1の妻であること,同社の決算報告書がb社内から押収されていること,e社の決算報告書(甲110,111。平成23年1月1日~平成24年12月31日までの事業年度分)をみると,売掛金や借入金の相手方はc社やb社等の被告人らの関係者や関係法人がほとんどであること,e社の平成22年度及び平成23年度の総勘定元帳(弁2)によれば,同社からb社や被告人Y1,同Y2らに対して複数回貸付がなされていること等からすれば,e社は,被告人ら及びb社と強い関係性を有し,被告人らの意思が強く働く会社であると認められる。
以上のような金員の移動状況からすると,平成22年7月16日に出金された前記5000万円は,被告人らの支配下においてb社の資金等に流用する意図で出金したものとみるのが自然である。そして,本件1億円の送金は前記5000万円の出金の2週間前という比較的時間的に近い時期になされている上,本件c社口座は本件1億円の送金から前記5000万円の出金までの間に一切入出金がないこと,前記のとおり,同月14日付けで1株5万円として400株を被告人Y1個人が取得することの取締役会決議がなされた旨の書面が作成されていること(甲73資料⑩-2)からすれば,本件1億円の送金の時点で,被告人らは,その一部を本件c社口座から出金して,b社の資金等に流用することを考えていたことが強く推認される。
イ  これに対して,弁護人らは,①c社においては,a社から送金された本件1億円,Dが資本金として拠出した金員,c社の売上げとして入金された金員等を分別して管理しておらず,前記5000万円の出金の原資が本件1億円であったとは特定できない,②c社とe社間では金銭消費貸借契約書(弁13)が作成されており,前記5000万円は費消されていない,返済等もされている(弁論125頁),③被告人Y1は,e社の株主でも取締役でもないから,同社を被告人Y1の会社と同視することはできないなどと主張し,被告人らもこれに沿う供述をする。
しかしながら,①については,本件c社口座において,前記のとおり本件1億円の送金と前記5000万円の出金との間には一切入出金がなく,本件1億円の送金がなければ口座残高が5000万円に満たなかった(甲73)ため,5000万円の出金は不可能であったこと,Dが資本金として1億円を入金した口座は別の口座であること(甲73)からすれば,前記5000万円の原資は本件1億円とみるのが自然である。②については,被告人らが他の契約書について作成日付を遡って契約書を作成していたことからすると,c社とe社間で金銭消費貸借契約書がその作成日付に作成されたか疑問がある。弁第13号証からは,同月16日,5000万円がc社からe社に貸し付けられ,同一日に,2000万円をe社から被告人Y1が個人で借り入れるという契約書が作成されていることが認められ,自らが代表取締役であるc社からの直接の借入れを被告人Y1が回避するかのように,同被告人の妻が代表取締役となっているe社を経由させたかのごとき体裁で契約書は作成されているが,5000万円が一旦e社に行き,そのうち2000万円が被告人Y1に移動したというのは実態に合致していない(なお,この点について,被告人Y1は,当時c社の経理を担当していた妻のKに対して,本件c社口座からe社名義の口座に5000万円を送金し,その後同口座から被告人Y1名義の口座に2000万円を送金するよう指示したところ,Kが誤って直接本件c社口座から被告人Y1名義の口座に送金してしまったものである旨述べるが,同送金時にc社とe社との間に金銭消費貸借契約が成立していたとすれば,契約当事者のe社の代表取締役であるKにおいて,そのような誤送金をするとは考え難く,被告人Y1の供述は信用できない。そして,同様に,弁第13号証からは,同年12月3日にc社が1億円をe社に貸し付け,同月21日にe社から被告人Y1個人が1億円を借り入れるという契約書が作成されているが,同日の被告人Y1個人のe社からの1億円の借入と先の2000万円の借入とを合わせて合計1億2000万円と捉えた金銭消費貸借契約が成立したこととし,その返済方法として50万円ずつを返済するということになっており,被告人Y1からc社への同年7月20日に2000万円の資金移動がされたときには,未だ完済は相当将来のことであったものである。)上,決裂前の平成23年3月当時から被告人Y1のe社に対する返済がされていたことについては裏付ける証拠がある(弁14)ものの,同契約書に定められた弁済期どおりにe社からc社に弁済がなされていることに関する立証がないことから,前記5000万円が費消されていないとの評価は困難である。そして,そもそも後に返済されたことによってそれ以前の流用について故意ないし不法領得の意思が否定されるものではない。③については,e社は当時発行済株式総数が1株で資本金が1円という会社であることや,前記のe社とb社及び被告人らとの関係からすれば,e社に送金された金員については被告人らがb社の資金等に流用することができる金員であると認められる。弁護人の主張はいずれも採用できない。
(5) 小括(本件1億円についての故意ないし不法領得の意思の存在等)
以上からすれば,全体的考察で検討してきたことに加え,本件1億円の送金に先立つ会長会議メモの記載やその後の本件1億円の使途等によれば,本件1億円の送金は,被告人らにおいて,b社の資金等に流用する意図をもってなされたものであることが認められる。
なお,前記第2の4(2)イのとおり,本件1億円の送金について,Dが,被告人らから,c社から一旦a社に返済された投資用資金を再びc社に戻すものと事前に知らされていた可能性は否定できない。しかしながら,被告人らは,Dに対し,本件1億円の一部を被告人Y1名義でのc社への増資資金に充てることを伝えておらず,また,本件1億円の一部をe社名義の口座に移動した後,同口座から被告人Y1及び同Y2への貸付,b社への貸付け等がされているが,このように資金を移動することをDが承諾するとは考え難いことからすると,本件1億円の送金自体をDが事前に承諾していたとしても,それは,被告人らの意図を知らずにした錯誤に基づく承諾であって,そのようなDの承諾をもって,被告人らに本件1億円の送金を行う権限が与えられたということはできない。
また,前記のとおり,本件1億円の使途の一部である被告人Y1の2000万円の増資資金が払い込まれたみずほ銀行麻布支店のc社名義の口座の資金を用いて平成22年9月にl社の株式が購入されており,この点は,c社がa社のための投資活動を行っていたと見得る面がある。しかしながら,前記のとおり,被告人らが本件1億円の送金をb社の資金等に流用する目的で行ったことをうかがわせる事情が存在することに加え,l社に対する投資は既に被告人Y1によるc社への増資が終わり,同被告人も株主となった後のことで,既に本件1億円について,b社の資金等に流用したと解される資金移動を行った後と認められることからすれば,本件1億円の送金時に同送金に係る資金を専らa社のための投資活動に用いる意図であったとは解されない。
以上からすると,本件1億円の送金については,被告人らにおいて,その一部について被告人Y1のc社の株式取得資金等のために流用する意図が認められ,したがって,被告人らにおいて,本件1億円の送金につき故意ないし不法領得の意思があったものと認められる(もっとも,被告人Y2については本件1億円については故意ないし不法領得の意思の存在が認められないことについては,後記6(共謀等)において更に論ずる。)。
(6) 委託信任関係に基づく占有について
なお,占有について付言すると,a社の財務経理業務は管理部が担当しており,同部所属のAが,a社の旧印鑑を保管,管理するとともに,同部所属のBの指示の下,前記のとおり管理部が管理していたみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座を通じて,日常的な支払業務やそのための資金移動等を行っていた(なお,Aがa社の旧印鑑等を保管していた点については,Dも必要な際にこれらをAから借りていたのであるから,Aによる旧印鑑の保管,管理自体はDも了承しているものと認められる。)。そうすると,本件1億円の送金当時,みずほ銀行麻布支店のa社名義の口座の管理を含むa社の財務経理関係は管理部が掌握していたと認められる。そして,管理部はa社とb社が締結していたコンサルタント顧問契約の一環として設けられたものであること,同部に所属している従業員はAやBを含めいずれもb社の従業員であって,給料も全てb社から支払われていたこと,本件1億円の送金当時,管理部はb社事務所内にあったことが認められる。そうした中で,前記のとおり,b社代表者の被告人Y1及び同社部長の被告人Y3は,会長会議やDを交えたa社会議等において,a社の資金をc社に拠出させることなどを議論し,被告人Y3は,同Y1の意向に基づき,Aに対して本件1億円の送金の指示をし,同指示を受けたAがb社事務所内にあった管理部のパソコンからインターネットバンキングシステムを介して本件1億円の送金手続をしたものであるから,本件1億円を含むみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座内の預金については,被告人Y1及び同Y3が共同して占有していたと解するのが相当である(なお,本件1億円の送金手続に用いられたみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座が開設されていることはDも知っており,前記契約に基づくその占有について委託信任関係が認められる。)。もっとも,被告人Y2については,本件1億円の送金については知らない可能性があることから,故意ないし不法領得の意思があったとは認められず,占有の有無を問わずしても,本件1億円の送金についての刑事責任を問えないことは後記のとおりである。
5 本件2.8億円に関する故意ないし不法領得の意思の存否等
(1) 前提事実
第2の1(3)ア~ウ,オ及びカに加え,関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア  別紙3(弁8別添1ないし3)のとおり,平成22年9月頃のa社会議の資料とされるデータ内には,その当時,a社会議において,a社が合計2億円あるいは1億8000万円の銀行からの借入を受けてc社に提供し,同社がその借入に関する利息を負担することなどが協議されていたことを示すものが存在する。
イ  同年9月30日,c社からみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座に24万2465円(この額は,2億円に対する年1.475%の利息の30日分に相当する。)が振込入金され,その後,平成24年2月29日までの間,毎月同額がc社から同口座に送金された(甲86)。
この各送金について,平成22年9月から平成23年10月までの間は,a社において受取利息として会計処理され,同年11月以降は売上(平成24年2月分までは備考として普通預金利息,同月分は備考として売上入金)として会計処理された(甲86添付資料4ないし7)。また,月額24万2465円をa社のc社に対する報酬とする平成22年10月1日付けの押印済みの業務委託契約書が作成されている。(甲85)
なお,b社内から押収された紙片には,2億円に対する同年9月分の利息(24万2465円)とともに,3億8000万円に対する同年10月分の利息が計算されている(甲100)。
ウ  同年9月30日,Bから被告人Y3に対し,「a社」,「D社長に資金移動の依頼済み→ 一旦,みずほ銀行麻布支店の口座へ」とのメール(Bメール)が送信された(弁16。なお,別紙2には記載していない。)。
エ  前記第2の1(3)オのとおり,同年10月1日午後1時頃,被告人Y3は,京都信金駅前支店のa社名義の口座を管理していたIに電話をかけ,「D社長の代理で電話をした。」,「今日の午後2時までに資金移動をしてもらえないか。」などと指示して,同口座からみずほ銀行池袋西口支店のa社名義の口座に3億5000万円を振込送金させた。(甲34等)
オ  同月4日,Bは,被告人Y3又は同Y2の指示により,同支店の窓口において,同口座から本件c社口座に本件2.8億円を振込送金した。なお,Dは当時海外渡航中であった。
カ  Dが捜査機関に提出したa社会議の資料のうち,平成22年12月24日付けのものには,「c社決算概要について」,「借入金 約280百万円(○○社)」などの記載が,平成23年6月30日付けのものには「資金調達項目 (1)a社:借入金280,000,000円」などの記載がある。(甲87,88)
キ  b社内から押収された「★D社長会議について 2012年4月4日(水)9時~」と上部にある紙片中,印字された
「(5)c社への仮払金2.8億円について
⇒ 2011年3月末日残高:0円
⇒ 2012年3月末日残高:2.8億円」
との記載の下に,手書きで
「早く返してほしい 通帳が見たい」との記載があり,その右横に,
「□D社長
→ 200Mじゃない?
→ □□社の通帳が見たい。状況を知りたい。
→ 契約書作った方がいい
→ 今日中に見ます」などの記載がある(甲89。この記載内容を含め,関係各証拠により□□社はc社を指すものと認められる。)。
(2) 本件2.8億円の送金に関するDの認識
ア  D供述の要旨
Dは,本件2.8億円の送金は知らなかったと述べ,その根拠として,a社からc社への貸付金は,当初関連法人を介して貸し付け,その後平成22年9月に直接貸し付ける形になったと聞いた2億円のみと認識していた旨述べている。
イ  D供述の信用性
(ア) 前記第2の5(1)キの手書きのメモの記載から,Dが,平成24年4月4日,被告人Y3らに対し,a社からc社への貸付金の額が2億8000万円ではなく2億円ではないのかと指摘をした事実が認められ,Dがその時点でa社のc社への貸付金が2億円であると認識していたことは明らかである。そして,前記のとおりDの供述は信用性に疑問がある点はあるものの,その内容は,一旦c社に提供した投資用資金をa社の資金繰りのために出し入れしたことに関するものであり(また,Dとしては,関連法人を介さずにa社とc社との直接の貸借関係としたかった(第5回D・19頁)との当時のDの要望(このように要望していたことが証拠からも認められることは後述のとおり。)に合致するものであった。),Dとして,重要度がそれほど高かったとは考えにくく,記憶違いなどもあり得ないとはいえないのに対して,a社としてc社に数億円単位の投資用資金を総額でいくら拠出することとしたかなどの重要な事項について,a社の社長であるDが誤解することは考え難い。さらに,前記第2の5(1)イのとおり,平成22年9月30日以降,c社からa社名義の口座に毎月24万2465円が振り込まれ,これが1年にもわたって受取利息として会計処理されていたことから,Dがa社のc社への貸付金が2億円であると考えた根拠については,客観的な証拠と整合している。
(イ) これに対して,弁護人らは,関連法人経由でa社からc社に拠出していた2億円について,関連法人経由だと直接c社に返済を求めるのが難しいので直接貸し付ける形にするように求めていたというDの供述(第5回D・19頁)からすれば,2億円をa社からc社に直接貸し付ける形にした後,a社に返還するよう求めるのが自然であるところ,単に毎月利息分が入金されることをもって了解したというのは不自然であり,また,利息の入金だけ確認し,元本を通帳等で確認しなかったというのも,会社経営者としては考え難い旨主張する。
しかしながら,Dは,a社からc社へ投資用資金として2億円を拠出することは了解していたのであり,また,Dが月額400万円の顧問料を支払うほど被告人らを信頼していたのであるから,2億円の利息分が振り込まれているのを確認したことで,a社からc社へ直接2億円が貸し付けられる形になり,その利息が振り込まれたと信じて,あえて元本の入金等を通帳で確認しなかったとしても不自然ではない。
(ウ) また,弁護人らは,①平成22年9月3日のa社会議で,被告人Y3が,a社がみずほ銀行及びりそな銀行から借り入れている短期借入金各1億円を長期借入金に振り替えた上で,a社からc社に投資用資金として拠出し,その銀行借入の利息をc社が負担することについて,前記第2の5(1)アのとおりの資料を用いて説明したことにより,Dは基本的に了解し,さらに,同月17日,被告人Y2が,りそな銀行における長期借入金への振替金額が8000万円になったこと等を説明したことにより,その時点でDは新たに1億8000万円の投資用資金を9月末にa社からc社に拠出することを承諾した(なお,弁護人は,三者間相殺によりa社のc社に対する直接の貸付となった1億円につき実際の資金移動をした方がよいとの被告人Y2の提案にDが応じ,a社からc社に新たな投資用資金として2億8000万円を拠出する一方,c社からa社に三者間相殺により直接の貸付となった1億円については返済することになった,a社からc社への投資用資金の拠出額の総額を3億8000万円とする点に変わりはない,本件2.8億円は全額投資用資金であり,新たに拠出することが合意された1億8000万円と従前の貸付金1億円の返済と引換に交付する1億円の合計額である,と主張する(弁論29~30頁)。)が,その前にDとの間で2億円の利息相当額をc社が負担する旨Dと約束していたので,2億円に対する利息分を送金していた,②最終的にa社からc社への本件2.8億円の送金については,前記第2の5(1)ウのメール(弁16)のとおり,同月29日までに,BがDに依頼し承諾を得ていたが,それがされないままDが海外出張に出かけて連絡が取れなかったため,被告人Y3がIに指示するなどしたものである(弁論30~31頁)などとして,本件2.8億円の送金根拠やそれをDが承諾していた,③同年12月24日のa社会議において,c社のa社からの借入金が2億8000万円であることが報告されており,被告人らは事後的にもc社のa社からの借入金が2億8000万円であることを報告している旨を主張し,被告人らもこれに沿う供述をする。
しかしながら,①については,前記のとおり,同年9月3日及び同月17日のa社会議の資料は,そもそもDに対し用いられたものか疑問があり,同資料の記載から,被告人らがDに対して,a社からc社に対して本件2.8億円の送金をする旨を説明したと認めることはできない。また,被告人Y1や同Y2の供述によれば,同年9月17日は,Dにおいて脱税に関与しているのではないかと問題になった事柄(以下「脱税問題」という。)から,Dは早朝から,慌ただしく,あるいはまた元気がない様子であったというのであり(第8回被告人Y2・9頁,第9回被告人Y1・8頁,第11回被告人Y2・15頁),そのような事態が生じた日に,a社から多額の投資用資金を追加で拠出するという緊急性の乏しい話をし,これをDが承諾するとは考え難く,また,被告人らの供述からは,そもそもDの海外渡航中に本件2.8億円の送金を急いで実施する理由があったとも考えられない。そして,借換えの金額が2000万円減額になったのであれば,その旨Dに説明した上で,金利を相当額にすればよいと考えられるところであり,Dが嫌がると思ったためという理由で2億円に対する金利を送金し続けたというのは,不自然である。そもそも,金利額を減らされるというのをDが嫌がるというのであれば,a社からc社への投資用資金の拠出額総額は3億8000万円で,その大元はa社がみずほ銀行やりそな銀行から借り入れた金員なのであるから,同額(相殺の点を考慮しても2億8000万円)を母数とする金利とならずになぜ2億円の金利でDが承諾しているのかについても合理的な理由があるとは思われない(むしろ甲第100号証では,母数を3億8000万円として利息計算をしている箇所が記載されている。)。②については,当該Bのメールは,BがDに依頼した資金移動の内容が何を指すのか明らかでない上,本件2.8億円の送金はみずほ銀行池袋西口支店のa社名義の口座から本件c社口座に送金がなされており,同メールに記載のある「みずほ銀行麻布支店の口座」は本件2.8億円の送金には利用されていない(同メールは平成22年9月30日にされているが,同日後に100万円以上の金額がみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座に入金があるのは,同年10月5日のりそな銀行池袋支店のa社名義の口座からの3000万円で,その次が同月6日の本件c社口座からの1億円である(甲73,86)。この1億円については後述する。)ことから,同メールから本件2.8億円の送金について,Dが承諾していたとみることもできない。さらに,③については,本件2.8億円の送金から2か月以上経過したa社会議の資料である上,D自身はそのような内容の資料を見て間違いではないかと指摘した旨述べているのであって,当該資料の記載から,Dが本件2.8億円の送金を知っていたことを示すものとはいえない。
前記弁護人の主張は採用できない。
(エ) 以上より,本件2.8億円の送金に関するDの供述は信用することができる。
ウ  前記のとおり,Dは,本件2.8億円の送金を事前に知らされていなかったと認められる。そして,a社からc社に2.8億円という多額の資金を送金する以上,a社の代表取締役であるDの指示又は承諾に基づいて行われるべきであるところ,これがないまま行われていることは,被告人らが本件2.8億円の送金をDに知られては不都合な目的で,すなわち本来の投資以外の目的で行ったことが強く推認される。
(3) 本件2.8億円の使途及びその後の金員の流れ
ア  本件各送金前後のc社による投資状況は前記第2の1(4)アのとおりであって,前記第2の2(6)オのとおり,平成22年9月,1億円に満たない額のl社の株式(被告人Y3の供述によれば発行済株式総数の約10%(第7回被告Y3・44頁。なお,前記のとおり信用性に疑問があるがa社会議資料(弁8)にも同割合についての記載がある。)を取得したほかは,m社の株式を取得するなどしたのみであり,本件2.8億円の送金後に,c社からまとまった金額の投資は行われていない。
そして,本件2.8億円の送金後は,前記第2の1(3)冒頭及び同カ(ア)(ウ),同キのとおりいくつかの銀行口座間で振込送金を行った後,平成23年3月に合計3億8000万円がb社に振込送金されている。
以上のとおり,本件2.8億円を用いた投資活動が一切なされていない,すなわち,それだけ多額の投資用資金がその時点で必要であったことが全く合理的に説明されていないだけでなく,複数の銀行口座間での送金を繰り返した上で,最終的にそれを含む資金が全てb社に送金されていることからすれば,本件2.8億円の送金が専ら投資用資金の拠出の目的でなされたものではなく,少なくともその一部についてb社の資金等に流用する意図でなされたものであることが強く推認される。
イ  これに対して,弁護人らは,前記第2の2(6)オのとおり,c社から投資がなされた案件が前記2案件にとどまるのは,投資先の選定は綿密な作業を必要とし,a社のために確実な利益を獲得するための投資先はすぐ見付かるものではない旨を主張する。
しかしながら,その主張が採れない前記第2の2(6)オの理由に加え,本件2.8億円の送金の時点でa社からc社に追加の投資用資金を拠出する必要性や緊急性があったといえず,本件2.8億円は,前記のとおりb社への送金に用いられているのであるから,本件2.8億円の送金が専ら投資用資金の拠出としてなされたとみることは困難である。なお,甲第84号証の平成22年10月1日付け金額2億8000万円の金銭消費貸借契約書が存在していることからすると,本件2.8億円の送金理由も金銭消費貸借契約としようすることも考えたことが窺われるところである(この点は,弁護人らの主張によっても,a社とc社間の平成22年10月1日付け金銭消費貸借契約書(甲84)の作成経緯はよく分かっていないところである(弁論104頁)。)。
(4) 本件2.8億円の送金直後のc社からa社への1億円の送金
ア  ところで,本件2.8億円の送金における故意ないし不法領得の意思の存否を判断するにあたっては,前記第2の1(3)冒頭及び同カ(イ)のとおり,本件2.8億円の送金の2日後の平成22年10月6日に,本件c社口座からみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座に1億円が振込送金されていることから,本件2.8億円のうち1億円については,当初からa社に再度送金されることが決まっており,領得する意思はなかったのではないかが問題となる。
イ  この点,弁護人らは,前記のとおり,a社がc社に追加で拠出する投資用資金は1億8000万円と合意したが,被告人Y2から,三者間相殺によって,a社から関連法人を経由してc社に貸し付けられていた1億円が,a社のc社に対する直接の貸し付けという形に変わったことについて,契約上の措置であるため,実際の資金移動をして清算した方がよいとの提案がされ,Dもこれを承諾したことから行ったものである旨を主張し,被告人らもこれに沿う供述をしている(第7回被告人Y3・90頁,第8回被告人Y2・22頁,第12回同被告人43頁,第13回被告人Y1・29頁)。
しかしながら,前記のとおり,Dが本件2.8億円の送金自体を事前に知らなかったと認められることからすると,Dがそれを前提に行われる2日後のc社からa社への1億円の送金を知っており,これを承諾していたとする被告人らの供述は信用することはできない。
また,a社からc社に直接貸し付ける形に変更したいというDの要望は,後記のとおり,返済を受けやすくするという目的であったと認められるところ,三者間相殺によってc社がa社に直接返済義務を負うに至ったことから,契約上の措置により既にDの要望に適う状況になっている(この三者間相殺までの金員の流れは甲第8号証添付の「●●社・2社団・□□社資金の流れ」(以下「資金の流れ図」という。)で整理されている。)。したがって,そこまでにおいて(資金の流れ図の1~6までにおいて),Dの要望に適う状況としてa社とc社との貸借関係が出来上がっており,それにも関わらず実際の資金移動をしておいた方がよいとする合理的な理由は認め難い(実際に資金移動をして返済した形をとる(第8回被告人Y2・22頁)との意味は判然としないが,三者間相殺前の状態に即してa社からc社に直接貸し付ける形にするということであれば,c社からf法人に1億円を移動させ,f法人からa社に1億円を移動させ,その後にa社からc社へ1億円を移動させるという形をとることになると思われるが,そのような資金移動はされていない。また,三者間相殺は契約上の措置にすぎず,a社からc社への直接の貸し付けになったことが明確ではないことから,これを明確にするため,一旦三者間相殺によって生じたa社のc社に対する貸付金については返済した上で,改めて,a社からc社に直接資金移動をして貸し付けたということであれば,c社からa社へ1億円を移動させ(一旦c社のa社に対する1億円の借金の返済をし),その後,a社からc社へ1億円を移動させる形をとることになると思われるが,そのような順序でも資金移動はされていない。)。
よって,平成22年10月6日に,本件c社口座からみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座に1億円が振り込まれた理由についての弁護人の主張は採用できない。
ウ  そこで,同年10月6日に本件c社口座からみずほ銀行麻布支店のa社名義の口座への1億円の送金の目的について更に検討すると,前記第2の1(3)ア~ウ,オ,キのとおりの被告人らの資金移動及びそれに関する会計処理により,最終的には,本件2.8億円の送金及びその後の同月6日の本件c社口座からa社名義の口座への1億円の送金により,a社が返済を受けられる1億円の貸付金が全く存在しない結果となっている(この点は,正に,Dが,「要は,貸すというふうになっていたのを,結局は,貸付金ではなしに替えられてるんですね。貸付けだったのが,うまいこと,こう,消されてるというか…。」と述べているところである(第5回D・102頁)。)ことからすれば,このような結果を作出することが,前記同月6日のa社名義の口座への1億円の送金の目的であったと認められる。
この点,弁護人らは,c社はa社の兄弟会社であるから投資用資金をどのように回収するかについてDと被告人らとの間で特に取り決めがなかったと主張するが,同主張は前記のa社及びc社における会計処理と整合しない上,Dが,投資用資金としてc社に拠出した資金について,貸付金であって,当然返済を受けるべきものと認識していたことは,前記第2の5(1)キの「早く返してほしい」という手書きの記載から明らかで,それ故直接貸し付ける形にしたいと求めていたというべきであるから,弁護人の主張は採用できない。
このようにみると,前記同月6日のa社名義の口座への1億円の送金につき,被告人らが前記のとおり不合理な弁解をしているのは,その真の目的は前記のとおりc社のa社に対する借金がない状態を作出することにあったところ,これを認めるわけにいかないことから,その金員の動きの理由を何とかして付けなければならなかったためであると考えるのが合理的である。
以上によれば,本件2.8億円のうちの1億円については,c社のa社に対する借金の返済に充てる目的で送金されたものであると認められ,そのような目的でなされた送金である以上,仮に本件2.8億円の送金の時点で,その直後にc社からa社に1億円を戻すことが決まっていたとしても,被告人らにおいて,本件2.8億円全部について,不法領得の意思をもってその送金を行ったものと認められる。
(なお,さらに,前記同月6日のa社名義の口座への1億円の送金が,本件2.8億円の一部を原資としているかを検討すると,①被告人らにおいて,本件3.8億円の原資として,本件1億円及び本件2.8億円を一体として認識していたことが認められるのは,前記(第2の2(7))のとおりであること,②同月4日の本件2.8億円の送金がされる前に,同年9月2日にb社からの2000万円の入金があり,本件c社口座に1億円以上が確保されて1億1104万2531円の預金残高があった(甲73資料⑨)こと,③前記第2の1(3)(ア)(ウ)のとおり,本件2.8億円の送金後に,同月5日と平成23年3月3日(本件c社口座からは,同年10月6日の1億円の送金の次の金員の移動となる。)と合わせて合計約2億8000万円がc社名義の口座に送金され,その後,被告人らが意図していたとおりに複数の口座を経て結局においてこの2億8000万円がb社名義の口座に振り込まれ,同金額をb社が確保していること(甲73等)などからすれば,a社に対する借金がないかのようにするタイミングとしては本件2.8億円の送金に合わせてそのわずか2日後に同月6日の1億円の送金をしているものの,それは,b社の資金等に流用する意図であった本件2.8億円とは別の(それ以前に本件c社口座にあった)原資から送金されたものととらえることが可能であり,本件ではそのようにとらえるのがむしろ合理的という見方もあり得るところであると思われる。)
以上のとおりであるから,前記同月6日のa社名義の口座への1億円の送金があったからといって,本件2.8億円に対する不法領得の意思がないことにはならない。
エ  そして,a社からc社に2.8億円という多額の資金を送金する以上,a社の代表取締役であるDの指示又は承諾に基づいて行われるべきであるところ,前記の検討のとおり,これがないまま行われているのであって,被告人らが本件2.8億円の送金を本来の投資以外の目的で行ったことが強く推認され,さらに,本件c社口座から同月5日及び平成23年3月3日に合計約2億8000万円が別のc社名義の2口座に入れられ,最終的に,同月24日までにb社名義の口座に入金されており,そこからa社のために支出された形跡はない。(甲73等)
(5) 小括(本件2.8億円の送金についての故意ないし不法領得の意思の存在)
全体的考察で検討してきたことに加え,以上のとおりDが本件2.8億円の送金を知らされていなかったことやその後の本件2.8億円の使途等によれば,被告人らには,本件2.8億円の送金について,少なくともその一部をb社の資金等に流用する意図が認められ,したがって,被告人らにおいて,本件2.8億円の送金につき故意ないし不法領得の意思があったものと認められる。
(6) 委託信任関係に基づく占有について
なお,委託信任関係に基づく占有について付言すると,本件2.8億円の送金当時,a社管理部はb社の事務所内からa社本店内に移転していたが,前記のとおり,旧印鑑等の管理はAが行っており,a社の財務経理業務は管理部において行われ,これをDは容認していた。また,本件2.8億円の送金に用いられたみずほ銀行池袋西口支店のa社名義の口座は,管理部で管理する口座としてBからの指示でAが開設したものであるから,同口座は管理部において管理されていたものと認められる。そして,被告人Y1及び同Y3が,会長会議やDも交えたa社会議等において,a社の資金をc社に拠出することなどを話し合ってきていたことは前記のとおりであり,また,被告人Y2についても,平成22年9月17日,脱税問題が生じた際にDとともに関係会社を訪問して事情聴取を行っていること(第8回被告人Y2・10頁,第9回被告人Y1・8,45頁,甲62)からすれば,遅くとも同日頃までには北海道から東京に戻りa社の業務に関与するようになっていたものと認められる。そうした中で,被告人Y2又は同Y3が,Bに対して本件2.8億円の送金の指示をし,同指示を受けたBによってみずほ銀行池袋西口支店において同送金がなされたことからすると,本件2.8億円を含む同支店のa社名義の口座内の預金については,被告人3名が共同して占有していたと解するのが相当である。
また,前記のとおり,みずほ銀行池袋西口支店のa社名義の口座の開設をDは知らされていなかったものの,(業務上)横領罪の要件となる委託信任関係は,事務管理によって生じ,又は慣習,条理ないし信義則に基づくものでもよいとされるところであり,みずほ銀行池袋西口支店のa社名義の口座にある2億8000円について同関係の存在が認められる。
6 共謀等
ところで,これまで,被告人らとして論じてきたところであるが,本件1億円,本件2.8億円の送金につき,被告人Y1,同Y2及び同Y3それぞれにおいて共謀が成立するかは更に検討しなければならない。
(1) 本件1億円の送金について
ア  被告人Y1及び同Y3
被告人Y1及び同Y3については,前記のとおり,会長会議等において,事前に本件1億円の送金やc社の株式取得などその使途に関する議論をしていたものと認められ,その結果を踏まえて,被告人Y3が,本件1億円の送金当日にH及びAに対して送金の指示をしていることは明らかである上,その後,b社名義の口座に本件1億円の一部が振り込まれていることからすると,被告人Y1及び同Y3は,本件1億円の送金について,少なくともその一部についてb社の資金等に流用する意図を有してこれに関与したことは明らかである。
したがって,判示第1の業務上横領につき,被告人Y1及び同Y3の両名の共謀が認められる。
イ  被告人Y2について
(ア) 被告人Y2は,公判廷において,平成22年6月に妻が入院をし,余命1か月と宣告され,同月下旬から同年8月下旬頃の時期は妻の入院や葬儀で北海道にいた(第11回被告人Y2・8頁)ため,本件1億円の送金には関与していない(第8回被告人Y2・20頁),事後に聞いた可能性はある(第11回被告人Y2・9頁)旨述べる。
前記のとおり,本件1億円の送金に関する具体的な話が出たのは,Dからメール が被告人Y3に送信された同年6月27日であるとする被告人Y3の供述は否定し難いものであるところ,同日から本件1億円の送金がなされるまでの期間に被告人Y2が北海道にいたことを否定する事情もないことに加え,被告人Y3も,被告人Y2は同年5月頃にa社の管理部の責任者になったが,その頃家庭の問題であまり東京にいなかったので,実質的に責任者になったのは同年の秋頃からであると思う(第7回被告人Y3・13頁),被告人Y2は,平成20年10月か11月頃から東京にいるときにはa社会議に参加していたが,平成22年夏頃は,家族の問題もあってほとんど東京にいなかったので参加しておらず,同年秋頃からは参加していた(第7回被告人Y3・12,29頁)旨述べていること,前記責任者となった平成22年5月~同年9月までは被告人Y2がa社に関して関与が薄かったことが,同時期においてAが,Dに送信していたa社の支払一覧や口座残高一覧表を添付したメールを被告人Y3やBには同時送信しているのに,被告人Y2には同年10月1日まで同時送信をしておらず,同月6日の時点では同被告人にも同時送信されていることが認められること(甲42,43)からも裏付けられていること,さらに,本件1億円の送金は,a社の一時的な資金需要のためにc社の資金のうち1億円をa社に一旦送金した後,それを再度a社からc社に戻すものであって,a社からc社に対する新たな資金の拠出などではないから,被告人Y1及び同Y3らにおいて,それほど重要性の高い送金ではないと認識されていた可能性も考えられることなどからすると,本件1億円の送金について被告人Y2に具体的な連絡がなされておらず,同送金の時点で被告人Y2が同送金が行われることを知らなかった可能性は否定できない。
(イ) この点,検察官は,①被告人Y2が,b社の取締役副社長である上,平成22年5月からa社の管理部責任者を務め,被告人Y3の直接の上司として同社の財務・経理処理を担当し,被告人Y1及び同Y2とDの3人で行う会議において重要な経営判断を行うこともあり,平成23年3月にはa社の代表取締役にも就任するなど重要な役割を任されていたこと,②被告人Y2が捜査段階でc社口座の入出金をその都度把握していた旨述べている(乙25)こと,③被告人Y1も公判廷において,被告人Y2が北海道に戻っている時期に業務に関して連絡を取ったことがある旨述べている(第13回被告人Y1・23頁)こと,④BからAに対する平成22年6月23日付けのメールで「毎月作成して送っていただいている支払一覧について,1つお願いがありメールしました。今後はCCにY2副社長も入れていただけますでしょうか?」(甲46)と記載されていること,⑤被告人Y2が捜査段階において「Dの了承があるということを被告人Y1か被告人Y3から聞いていた」旨弁解し,本件1億円の資金移動を知っていたことを前提とした供述をしていたことから,被告人Y2のみがその事実を知らないとは考え難く,本件1億円の資金移動については業務連絡がなされていたと考えるのが自然である旨主張する。
そして,前記のほか,被告人Y2は,捜査段階において,⑥平成22年8月18日にAがみずほ銀行池袋西口支店のa社名義の口座を開設したが,その開設を決定したのは被告人Y2であることを述べている(乙28)。また,⑦Bは,b社の朝のミーティングで,a社で起こった出来事をBが被告人Y1,同Y2及び同Y3に報告した旨を述べている(第4回B・2頁)。そして,⑧会長会議メモの平成22年5月28日の箇所に(本判決の別紙2では記載していない。),6月のテーマとして「ⅰ会長+副社長+Y3の会議」,「ⅱ会長+副社長+J11さん+Aさん+Y3の会議」,「ⅲ会長+副社長+J11さん+Aさん+J12さん+J13さん+J14さん+Y3の会議」とあり,いずれも「副社長」,すなわち被告人Y2が記載されている。さらに,⑨Eは,平成24年4月6日,DがBにDに無断で資金を大量に流出させたことについて問い詰めた際,Bが被告人Y2の指示で全てやったと話し,その後にDが同被告人を問い詰めた際,同被告人も自分の指示であったことを認めていた旨を供述しており(第6回E・12,13頁。),この同被告人の発言はEノートからも裏付けられる。
しかしながら,①,②,④,⑥~⑧については,いずれも被告人Y2がa社からc社への資金移動を知り得,あるいはまた,全般的業務としては資金移動を管理していたことや本件1億円の送金を知り得る立場にあったことはいえても,前記のとおり,本件1億円の送金に特定して考えると,同送金の時期には北海道にいたと認められる被告人Y2が具体的に本件1億円の送金を知っていたことまでを示すものとは解されない。④については,そのメールから,本件1億円の送金が行われた時期に被告人Y2がa社の管理部における業務に全く関与していなかったわけではないとはいえるものの,同時期における被告人Y2のa社の業務への関与が薄いものであったことは前記のとおりであり,同メールの存在から,本件1億円の送金に関する連絡が被告人Y2にあったとは認められず,こうしたことからすると,③についても,被告人Y1が被告人Y2と連絡をとった内容において本件1億円についての連絡があったとまでは認められない。⑨についても,被告人Y2がDにBに対して指示を出したことを認めたというその内容が具体的に何なのか,どこまでを認めたのかは明確とはいえず,前記被告人Y2の発言が本件1億円の送金の指示を含むものと認定することはできない。そして,⑤については,検察官の主張を事実認定として用いることが可能な被告人Y2の捜査段階の供述調書は証拠上認められない(存在したとしても取り調べていない。)。また,付言すると,被告人Y2は,公判廷において,検察官からの「あなたは以前に,取調べ等に対して,Dさんがお金を動かすことを了承しているのを聞いていたと思いますというお話をされていましたよね。」との質問に対して,「はい」と答え,検察官からの,「7月2日の1億円に関して,Dさんの了承があるというのをY1さんやY3さんから聞いていましたと,そういうお話をされたことがありますよね。」との質問に対して,「調書の作成の際については,そのように話したかもしれませんが,実際には,その頃の記憶がほとんどなかったので,時期の混同だとか,いろんなことがあるんだと思います。」と答えている(第11回被告人Y2・11頁)ところ,公判廷における検察官の質問は,いつの時点において本件1億円の送金についてDの承諾がある旨聞いたのかを特定して質問しておらず,このような供述も踏まえると,被告人Y2が,本件1億円の送金の前に同送金が行われることを知っていたとまで認めることはできず,また,供述が明らかに変遷しているということもできない。
(ウ) したがって,検察官の主張する点を踏まえても,被告人Y2が本件1億円の送金を知らなかった可能性は否定できない。
ウ  そうすると,前記のとおり,被告人らがa社の資金を被告人らの支配下に移すことを意図し,そのこと自体は被告人Y2も認識していたというべきであり,また,本件1億円の送金がその資金移動の一部であるとは認められるものの,こと本件1億円の送金について特定してみると,被告人Y2は,その送金のおおよその時期や金額等を含め,その送金自体を知らなかった可能性がある。したがって,本件公訴事実第1は,被告人Y2も含めた「被告人3名ら」が前記コンサルタント顧問契約に基づき,平成20年11月頃から,a社の出納経理及びa社名義の口座の出納等の業務に従事し,a社の銀行預金を業務上預かり保管中,その一部を,ほしいままに,b社の資金等に流用しようと考え,共謀の上,平成22年7月2日に,当時のb社事務所に設置の管理部において,Aをして,パソコンで,インターネットバンキングシステムを介して,みずほ銀行麻布支店のa社名義の口座から本件c社口座に本件1億円を振込送金させて横領したというものであるが,その業務上横領については,被告人Y2の故意ないし不法領得の意思並びに被告人Y1及び同Y3との共謀があったとまでは認められず,被告人Y1及び同Y3の限度で共謀を認めるのが相当である。
(2) 本件2.8億円の送金について
前記のとおり,平成22年10月4日の会長会議メモに本件2.8億円の送金に関する記載があること等からすれば,被告人Y1及び同Y3が同送金が行われることを知っていたことは明らかであり,また,被告人Y2についても,前記のとおり遅くとも同年9月17日頃までには北海道から東京に戻りa社の業務に関与するようになっていたものと認められる上,本件2.8億円の送金が行われることを知っていたこと前提に,同送金が行われるに至った経緯について供述をしていることからすれば,同送金が行われることを知っていたと認められる。
そして,本件2.8億円の送金が,被告人らにおいて以前から意図していたとおりのa社の資金移動の一部であり,被告人3名が同送金が行われることを知っていたことからすれば,被告人らは,3名とも,同送金が,専らa社のための投資用資金の拠出としてなされたのではなく,その一部について,以前から意図していたb社の資金等に流用する目的でなされたものであることを認識していたと認められる。
したがって,判示第2の業務上横領について,被告人3名の間で共謀があったと認められる。
7 結論
よって,当裁判所は,関係各証拠から,判示第1のとおり,被告人Y1及び同Y3の両名の共謀による業務上横領罪の成立を認め,また,判示第2のとおり,被告人Y1,同Y2及び同Y3の3名の共謀による業務上横領罪の成立を認める一方,本件公訴事実第1の業務上横領においては,被告人Y2につき,故意ないし不法領得の意思並びに被告人Y1及び同Y3との共謀を認めることができず,被告人Y2は無罪であると認定した。
(法令の適用)
罰条
被告人Y1及び同Y3について
判示第1及び第2の各所為
いずれも刑法60条,253条
被告人Y2について 判示第2の所為
刑法60条,253条
併合罪の加重
被告人Y1及び同Y3について
いずれも刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入
被告人3名について 刑法21条
訴訟費用の不負担
被告人3名について 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は,コンサルティング業務を営む会社の代表者又は従業員として,コンサルタント契約の相手方である被害会社の銀行預金を被告人Y1及び同Y3(判示第1)あるいは被告人3名(判示第2)において業務上預かり保管中に,被告人Y1及び被告人Y3(判示第1)あるいは被告人3名(判示第2)が,共謀の上,その一部をb社の資金等に流用する目的であるのにこれを秘して,被告人Y1が代表取締役を務める関係会社に資金を移動させて横領した業務上横領の事案である。
本件被害額は,被告人Y1及び同Y3において合計3億8000万円,被告人Y2において2億8000万円と同種事案の中でも高額である。そして,本件は,被害会社の出納経理を把握し,被害会社代表者に無断で銀行口座を開設して同口座の存在を同人に知らせないようにして犯行に用い,犯行後多数の口座間の送金を繰り返したほか,会計処理を訂正したり,契約書を事後に作成するなどして,犯行の発覚を免れるための措置を講じたりするなど,計画的で,かつ相当に巧妙な犯行といえる。また,被告人らは,被害会社代表者から,コンサルティング業務の一環として,被害会社の経理業務等を任され,信頼されていたにもかかわらず,その信頼を裏切って本件各犯行(被告人Y2については判示第1を除く。)に及んだもので,大きな被害を受けた被害会社代表者が厳罰を求めるのも当然である。
さらに,そのような犯行において,被告人Y1は,コンサルティング会社及び本件各犯行における金員の移動先となった関係会社の代表取締役として,判示各犯行において,主導的な立場に立ち,最も重要な地位にあったといえる。また,被告人Y2は,判示第2の犯行において,被害会社の経理業務を担当する管理部の責任者として同犯行に関与し,被告人Y3は,判示各犯行において,判示各送金の指示を従業員に対して行うなど,それぞれ重要な役割を果たしている。
これらの事情に照らすと,被告人らの刑事責任は重く,実刑は免れず,被告人Y1においては,他の共犯者よりもその刑事責任が重いというべきである。
その上で,被告人らが,公判廷において公訴事実を争い反省の態度がみられないこと,他方で,被告人Y3においては,被告人Y1(判示第2については更に被告人Y2)からの指示を受ける立場であったこと,被告人らに前科がないこと,その他被告人らの間での刑の均衡などの事情を考慮し,被告人らを主文の刑に処するのが相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑:被告人Y1を懲役6年,被告人Y2及び同Y3を各懲役4年)
東京地方裁判所刑事第11部
(裁判長裁判官 三上孝浩 裁判官 西山志帆 裁判官 堀内健太郎)

 

〈以下省略〉

 

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