判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(387)平成14年 2月25日 東京地裁 平12(ワ)21422号 報酬金請求(本訴)、不当利得返還請求(反訴)事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(387)平成14年 2月25日 東京地裁 平12(ワ)21422号 報酬金請求(本訴)、不当利得返還請求(反訴)事件
裁判年月日 平成14年 2月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平12(ワ)21422号・平12(ワ)26964号
事件名 報酬金請求(本訴)、不当利得返還請求(反訴)事件
裁判結果 本訴一部認容、反訴請求棄却 文献番号 2002WLJPCA02250005
要旨
◆弁護士が債務超過の状態にあった会社との間で会社再建事務につき委任契約を結び、各種の再建策を講ずることにより会社の売上・利益を伸ばしていたところ、債務超過の状態を解消する見込みが出てきた段階で、会社が委任契約を一方的に解除することは委任事務の完成という報酬金の支払条件の成就を妨害したものであるとして、弁護士の会社に対する委任契約に基づく成功報酬金の請求が認められた事例
参照条文
民法130条
民法643条
民法665条
裁判年月日 平成14年 2月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平12(ワ)21422号・平12(ワ)26964号
事件名 報酬金請求(本訴)、不当利得返還請求(反訴)事件
裁判結果 本訴一部認容、反訴請求棄却 文献番号 2002WLJPCA02250005
本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。) A
同訴訟代理人弁護士 松田耕治
同 鶴由貴
本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。) 竹井機器工業株式会社
同代表者代表取締役 竹井顕一郎
同 竹井昭雄
同訴訟代理人弁護士 本橋光一郎
同 小川昌宏
同 下田俊夫
主 文
1 被告は、原告に対し、2026万5000円及びこれに対する平成12年10月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求及び被告の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は、本訴について生じた費用は、これを10分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とし、反訴について生じた費用は、被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
被告は、原告に対し、7788万9000円及びこれに対する平成12年10月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 反訴
原告は、被告に対し、3843万円及びこれに対する平成12年9月10から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、本訴で、被告の会社再建事務を受任していた原告が、被告と成功報酬金を支払う合意をしていたところ、委任事務遂行の途中で被告が一方的に原告との間の委任契約を解除したことは、成功報酬金の発生原因となる委任事務の成功という条件の成就を妨害したとして、成功報酬金の支払を求めたのに対し、被告は、成功報酬金の支払の合意はなかったとか、被告は、原告に対し、すでに着手金と成功報酬金を合わせた弁護士報酬を支払っているなどと主張し、反訴で、被告が、会社再建委任事務着手時に原告に支払った報酬金のうち、相当額を超える支払は信義則に反し無効であるとして、不当利得返還請求として、相当額を超える報酬金の返還を求めたのに対し、原告は、前記報酬金の支払は相当であると主張して争った事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか又は原告本人及び被告代表者竹井顕一郎(以下「顕一郎」という。)本人の各供述並びに認定の後の括弧内に掲示した証拠により容易に認定できる事実。)
(1) 原告は、東京弁護士会に所属する弁護士であり、被告は、実験心理学器機、職業適性検査器、体力測定器等の製作、販売等を目的とする会社である。
(2)ア 原告は、平成10年8月頃、被告の経営顧問であった長谷正裕(以下「長谷顧問」という。)から、被告の製品である運転適性検査器のプログラムの模倣品の販売禁止及び損害賠償に関する法律相談を受け、被告を紹介された。
イ 同年9月当時の被告の経営状況は、「平成7年3月頃から粉飾決算を行い、受注未確定なものまで売上に計上していたため、恒常的な資金不足に陥り、約6億円の債務超過となっており、主力銀行である株式会社新潟中央銀行(以下「新潟中央銀行」という。)をはじめ金融機関の協力なくしては会社の経営が存続できない状態であり、会社整理が必要な状況に追い込まれていた。」が(乙四、五)、当時の被告の代表取締役竹井昭雄(以下「昭雄」という。)と、取締役顕一郎及びその他の役員(以下「顕一郎ら役員」という。)との間で会社の経営に関する方針について意見の相違があり、被告会社の内部で経営方針の統一ができない状況であった。
ウ 長谷顧問は、原告に対し、同月23日頃、被告の現在の経営状況を説明して、「昭雄に対し被告の財務状況を認識してもらうとともに、被告の整理又は再建を行うように説得してほしい。」との依頼を行い、原告は、顕一郎ら役員から被告の経営状況の説明を受けるとともに、昭雄の説得を試みたが、昭雄は、被告の経営には問題がないとの認識を示し、原告の説得は功を奏さなかった(甲九、一一ないし一三)。
エ 顕一郎ら役員と原告は、被告の会社清算又は会社再建を進めるためには、昭雄を代表取締役から解任するしかないとの結論に達し、顕一郎ら役員は、同年11月30日には、「昭雄を代表取締役から解任する。」とする同意書(甲一九)と、「裁判所に対し和議申立を行うこと、和議申立に昭雄の同意が得られないときは破産申立をすること及び前記申立を原告に委任する。」ことを内容とする合意書を作成し(甲一)、被告の経営方針についての意思確認をするとともに、原告に対し、被告の和議又は破産申立(以下「和議申立等」という。)を委任する旨の契約(以下、契約を「本件委任契約」といい、委任事項を「本件委任事項」という。)を締結した。しかし、本件委任契約の締結は、被告の当時の代表者である昭雄の意思に基づかないものであった。
オ 原告は、顕一郎ら役員間の合意内容を受けて、「取締役会議事進行スケジュール」を作成し、顕一郎ら役員に対し、昭雄の解任手続について助言を行った(甲二〇)。顕一郎ら役員は、同年12月18日開催の被告の取締役会で、昭雄の代表取締役を解任するとともに、顕一郎を代表取締役に選任する旨の決議をしたところ、昭雄は自ら代表取締役を辞任した。顕一郎が被告の代表取締役に就任したことから、昭雄の意思に基づかない本件委任契約は追認された。
カ 原告と顕一郎は、被告の和議申立等を行う方針であったが、話合いによる会社再建(以下「会社再建」という。)が可能かどうかについても検討したが、会社再建に関する弁護士費用については取決めをしなかった。
(3)ア 原告及び顕一郎は、平成11年1月頃から、金融機関との間で交渉を始めたところ、会社再建の可能性があると判断し、同年2月10日、本件委任事項を、和議申立等から会社再建に変更することを合意した。
イ そこで、原告は、被告に対し、着手金4808万2650円(着手金4579万3000円及び消費税相当額228万9650円の合計額)を提示した(甲二)。
ウ 被告は、本件着手金の相当性について原告以外の弁護士二名に相談したところ、不相当であるとは認められないとする趣旨の意見を得た(甲一七、一八)。
エ 原告は、被告に対し、同年10月22日、本件着手金額を4725万円(着手金4500万円及び消費税相当額225万円の合計額)に減額し、同月25日、被告との間で、本件着手金の支払に関する「報酬金に関する確認書」を作成した(乙二)。
オ 被告は、原告に対し、平成12年7月25日までに、本件着手金を支払った。
(4) 原告と被告は、平成11年8月20日、法律顧問契約を締結し(乙三)、さらに、被告は、同月25日開催の株主総会で原告を監査役に選任した。
2 争点
(1) 本件着手金額の相当性
(2) 成功報酬契約の存否及びその相当額
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1) について
ア 原告
(ア) 原告と被告は、平成10年11月30日、本件委任契約を締結し、同日、日本弁護士連合会報酬等基準及び東京弁護士会報酬会規(以下「本件報酬基準」という。乙二〇)に従い、着手金及び成功報酬金を支払うことを合意した。
(イ) 原告は、本件委任契約締結後、被告と取引関係にある金融機関に対し、被告の負担する債務の元本返済の猶予及び月額返済額の減額並びに融資枠の確保を交渉し、その結果、会社再建が可能となった。そこで、原告と被告は、平成11年2月10日、本件委任契約の内容を会社再建に変更することに合意し、同日、原告と被告は、以下の本件報酬基準にしたがって計算された本件着手金を支払う旨の合意をした。
a 報酬算定の基準となる経済的利益の計算
金融機関等に対する履行期限の猶予、債務の減免等に加え、延払いによる利益、破産による資産売却や多額の負債を防止したことによる企業継続による利益25億円、被告が得られる年間の利益1億5000万円の5年分7億5000万円の合計32億5000万円とする。
b 着手金の算定
本件報酬基準28条3項、27条2項及び17条によると、前記経済的利益を基準とした着手金額は6869万円となる。
c 減額の合意
原告は、被告の経済的状況を考慮し、本件着手金を3分の2の4579万3000円及び消費税相当額228万9650円の合計4808万2650円に減額し、さらに、同年10月22日、本件着手金を4500万円及び消費税相当額225万円の合計4725万円に減額した。
(ウ) 原告は、本件委任契約に従い、次の事務(以下「本件委任事務」という。)を行った。
a 会社再建案を作成し、合計16の金融機関に対し、短期借入金及び長期借入金元本返済の6か月間据置並びに平成12年6月までのこれら借入金返済計画の承認を得ること。
b 従業員40人を解雇し、年間約1億2000万円の経費を削減すること。
c 借入金圧縮のため、有価証券、車両の売却、預金相殺及び不動産の売却を行うこと。担保権の設定された不動産の売却に際しては、担保権者から売却の承諾を得る交渉をすること。
d 被告の新潟工場の機能的活用のため、工場内の庭園の撤去及び生産ラインの効率化を図ること。
e 会社再建案に従った透明性の高い経営を行うことにより、新潟中央銀行から無担保で1億8000万円の融資枠を得るとともに、株式会社第四銀行(以下「第四銀行」という。)及び協栄信用組合から、それぞれ5000万円の範囲内で手形割引融資枠を受けること。
f 売上の先上げを禁止し、1か月に1回、支店の営業状況の報告を受けること。
g 従前開発及び生産部署との連絡不足に起因する諸問題の解消、及び資金繰状況を認識することによって、売掛金回収の努力を自覚させるために生産部署と販売部署との間の会議を開くこと。
h 年間2000万円以上あった接待交際費を年間300万円に削減すること。
(エ) 被告は、本件着手金の額が著しく高額であることから、顧問料相当額の882万円を超える部分は信義則に照らし無効である旨の主張をするが、被告会社の規模、負債状況、再建にかかる事務内容等に照らせば、本件着手金の額は相当である。
イ 被告
(ア) 原告は、被告から、会社再建報酬名目で4725万円もの金員を受領している。しかし、原告と被告との間には、
a 被告は、現在でも独自の資金調達をできるまでには経営が回復していないこと、
b 本件契約の契約書が存在しない反面、報酬額を月額42万円とする顧問契約が存在すること、
c 乙二号証の確認書においては顧問報酬金を10万5000円としていること、
d 被告の会社再建のための事業計画、財務改善策を策定し、実行したのはもっぱら被告会社自身または被告が依頼した原告以外の第三者であり、原告が行った事務は、被告に対する助言及び銀行との交渉に被告代表者等に同行して説明したにとどまること、
e 原告は、本件契約締結当時被告の監査役に就任し、監査役報酬として毎月20万円を受領していたこと、
等の事情が存在する。
(イ)a 弁護士費用は、本件の難易、経済的利益、労力の程度や所要時間の多寡、弁護士会報酬規定の内容その他諸般の事情を総合考慮して、信義誠実の原則に基づき報酬として受領が正当視される範囲が定まり、この範囲を超える部分についての支払約束は信義則に反し無効となると解される。
b そこで、原告と被告との間で本件契約に基づき報酬金4725万円を支払う旨の合意があったとしても、前記(ア)の事情のもとでは、著しく高額である。本件着手金は、原告が本件顧問契約に基づき行った行為の対価として評価しうる1か月42万の21か月分の合計882万円が相当な金額であり、これを超える3843万円(4725万円-882万円)の支払約束は信義則に反し無効となる。
c しかし、原告は、すでに被告から報酬金名目で4725万円の支払を受けていることから、正当な報酬と認められる882万円を超えた3843万円については、法律上の原因なくして利益を受けたものであり不当利得となる。
(ウ) 被告は、原告に対し、平成12年9月9日限り3843万円を支払うように催告したが、原告はその支払をしない。
(エ) よって、被告は、原告に対し、不当利得返還請求として3843万円及びこれに対し原告が支払を遅滞したことが明らかな平成12年9月10日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員の支払を求める。
(2) 争点(2) について
ア 原告
(ア) 原告と被告は、平成10年11月30日、本件委任契約を締結したが(前記(1) ア)、その際、被告(顕一郎)は、本件報酬基準に従い成功報酬金を支払うことを合意した(甲一)。
(イ)a 原告の会社再建策の実行より、被告は、平成11年度決算において約1億7000万円の営業利益を上げ、平成12年度決算では、過去最高の2億5000万円の営業利益を上げられると見込まれた。
b しかし、被告は、昭雄の申立を受けて、平成12年8月1日に臨時株主総会を開催し、原告を監査役から解任するとともに、法律顧問契約も解除して、本件委任契約を一方的に解除して、原告による被告の会社再建という本件委任契約の目的達成を妨害した。
c 原告と被告は、前記(ア)のとおり、本件報酬基準に従い、成功報酬金を支払うことを合意していたところ、被告の本件委任契約の一方的解除は、条件成就妨害行為(民法130条)にあたり、その結果、本件委任契約は成功したとみなされることから、原告は、被告に対し、成功報酬金請求権を取得した。
(ウ) 原告は、被告に対し、次のとおり本件報酬基準により計算された合計7788万9000円の報酬金請求債権を有する。
a 報酬金算定の基準となる経済的利益の計算
平成11年度決算における営業利益は1億7000万円であり、平成12年度には営業利益は2億5000万円が見込まれる。さらに、平成13年度から5年間には12億5000万円の営業利益が見込まれる。
b 報酬金額の算出
本件報酬基準28条3項、27条2項及び17条によると、成功報酬額は、7788万9000円(報酬金7418万円及び消費税相当額370万9000円の合計額)となる。
(エ) よって、原告は、被告に対し、本件委任契約の終了に基づく報酬金請求権として7788万9000円及びこれに対する平成12年10月27日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員の支払を求める。
イ 被告
(ア) 原告と被告との間で、前提事実エ記載の報酬の他に報酬金を支払う旨の合意をしたことは否認する。
(イ) 原告が作成した甲二号証の計算書には、「報酬」という文言が使われていること、報酬金額を算出するにあたって本件報酬基準28条3項に規定する内容の事情を挙げていること、さらに、乙二号証の確認書では、「報酬金の精算」、「報酬金残高」との記載がされていることからすれば、原告自身も前記計算書における報酬請求は、着手金と成功報酬金を合わせた報酬として請求していたことは明らかである。
(ウ) 本件顧問契約に基づく顧問料は月額42万円とされ、さらに、本件報酬金の精算について「顧問報酬金10万5000円と併せて各月31万5000円充て分割して支払うものとする。」とされている。本件報酬基準では、事業者の顧問料は月額5万円以上とされている(40条)ことに照らせば、本件顧問契約書に規定する法律的助言には、原告が行った銀行との交渉に同行して説明するという事務も含まれていると解すべきである。そこで、被告は、原告に対し、前記顧問料を支払ったことから、本件委任契約に基づく報酬の支払は終了している。
(エ) 原告は、被告は、平成12年8月1日、原告を監査役から解任するとともに、原告との間の法律顧問契約を解除して、原告が受任した被告の会社再建事務の目的達成を妨害した旨の主張をする。しかし、本件委任契約の内容は、被告が原告に対し、主として金融機関との交渉における助言、同行及び同席並びにこれに相当する行為を内容とする会社再建に関する業務を委任し、原告はこれらの業務を行い、弁護士費用(着手金及び成功報酬金)として4725万円を支払うというものであった。そして、原告は、同年7月25日までに、被告から会社再建報酬の名目で4725万円を受領しているのであり、本件委任事務はすでに終了している。そうすれば、原告の監査役の解任及び法律顧問契約の解除は、本件委任契約に基づく委任事務終了後の事情にすぎず、本件委任契約の途中解除の問題は生じない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1) について
(1) 原告本人及び被告代表者顕一郎本人の各供述並びに認定の後の括弧内に掲示した証拠によれば次の事実が認められる。
ア(ア) 本件報酬基準28条は、任意整理事件の報酬及び報酬金について規定し、着手金については、資本金、資産及び負債の額並びに関係人の数等事件の規模に応じて定め、事業者の任意整理事件は50万円以上と定めるが(1項)、同条項は、基本的には、比較的小規模な、かつ清算的な会社整理をも含む規定であると解される。
(イ) これに対し、被告会社は、平成10年6月の連結決算時点で、資本金7000万円、発行済株式数14万株、従業員数約150人、販売子会社2社、売上約23億円、当期利益マイナス約7億8800万円、短期借入金約17億円、長期借入金約17億4000万円、負債総額約12億4500万円(資産約30億8200万円-負債約43億2700万円)の規模を有する会社であり(乙五、弁論の全趣旨)、会社再建の委任事務は、再建策の作成、金融機関等の債権者との交渉、会社内の経営改善の実行等多岐にわたり、委任を受けた弁護士は、相当長期間にわたり委任事務に専念する必要があると思われる。したがって、被告の会社再建の委任事務に本件報酬基準28条1項の規定をそのまま適用するのは相当ではないと解され、他に、本件報酬基準には、本件委任事務のような、大規模な再建的会社整理の報酬について定めた適切な規定は見られない(この点について、何らの基準も示さないのは、本件報酬基準の不備である。)。
イ(ア) 本件報酬基準は、「着手金は事件等の対象の経済的利益の額を、報酬金は委任事務処理により確保した経済的利益の額をそれぞれ基準にして算定する。」(13条)として、経済的利益が算定可能な場合を14条各号に列挙するが、会社再建については列挙されていない。しかし、弁護士費用は、事件の難易、経済的利益、労力の程度や所要時間の多寡、弁護士会の報酬基準の内容その他諸般の事情を総合的に考慮して決定することが相当であると解されることから、本件会社再建について一定の経済的利益を算出し、本件会社再建の難易、労力の程度、所要時間の多寡、本件報酬基準の内容等を考慮することによって金額を算定することが相当である。
(イ) そうすると、本件委任契約の着手金を定める場合、原告の主張するように委任事務について経済的利益を算定し、これを基に妥当な金額を定めるとする方法をとることは不相当とは解されない。
ウ(ア) 原告は、本件会社再建による経済的利益を、金融機関等に対する履行期限の猶予、債務の減免に加え、延払いによる利益、破産による資産売却や多額の負債を防止したことによる企業継続による利益を25億円に、被告が将来得られる年間の利益を1億5000万円の5年分7億5000万円を加えて合計32億5000万円と算定し、これに本件報酬基準17条を適用し、本件着手金を6869万円と算出した。被告の経済的状況を考慮し、本件着手金を3分の2の4808万円に減額し、さらに、4500万円に減額している。
(イ) 本件会社再建業務は、前述(ア(イ))のように、その規模が大きく、事務内容が複雑でかつ多岐にわたり、関与する時間も長期にわたると認められ、弁護士が、同事務を受任するとした場合には、長期間にわたり他の事件の受任を控えたり、受任中の他の事件処理にも影響が出る可能性がある。
(ウ) 被告の会社再建が軌道に乗り、債務超過の状況が解消し、通常の営業が存続できるとすれば、被告は、原告に会社再建の事務を委任したときに比べれば数億円単位の利益を得ることになると推認される。
エ(ア) 前記ア(イ)のとおり、本件報酬基準には、本件委任事務のような、大規模な再建的会社整理の報酬について定めた適切な規定は見られないことから、会社再建事務を受任する立場の弁護士においても、本件着手金額が相当であるか否かについては判断が分かれる可能性がある。
(イ) そこで、被告は、原告以外の福岡県弁護士会所属の弁護士及び新潟県弁護士会所属の弁護士に、被告が提示した4808万円の着手金が相当な金額であるか否かについて問い合わせを行った。そして、問い合わせを受けた弁護士は、「任意による会社再建については、仕事量及び業務期間等の設定が非常に困難な不定形業務であるために、特に定められた算出基準はない。着手金を1300万円とした場合、同事件を依頼されても業務量及び内容に比べて着手金が低額のため受諾できない。本件委任事務について、経済的利益を基にした原告の報酬算出基準は妥当性がある(甲一七)。再建着手金を含んだ報酬金4802万2650円については、妥当な金額であると思われる。経済的利益を25億円+7億5000万円とする根拠には議論の余地があると思う。業務記録からすると、弁護士としてこれだけ1社に関わることはビジネスとは言えかなりハードな状況であり、収入面からもこの金額が高いという感覚は持たない。」(甲一八)との見解を示した。
(2) 以上によれば、本件着手金が著しく高額であり、信義誠実の原則に基づき報酬として受領が正当視される範囲を超えると認めることはできず、そうすれば、原告が本件顧問契約に基づき行った行為の対価として評価しうる1か月42万の21か月分の合計882万円が相当な金額であり、これを超える3843万円(4725万円-882万円)の支払約束は信義則に反し無効となるとの被告の主張は理由がない。
2 争点(2) について
(1) 甲二、三号証、乙二〇号証、原告本人及び被告代表者顕一郎本人の各供述によれば次の事実が認められる。
ア(ア) 原告は、平成11年2月10日頃、被告に対し、着手金の請求をした際、被告(顕一郎)に対し、「この事件が成功するかどうか分からないが、成功した場合には、成功報酬が発生する。」、「成功報酬金は、経済的利益の4パーセントになる。」旨話したところ、顕一郎は、「頑張って成功して恩に報いたい。」という趣旨の回答をして、これを承諾した。
(イ) これに対し、被告は、報酬金を支払う旨の合意をしたことを否認し、顕一郎も本人尋問においてその旨の主張をするが、原告本人の尋問結果に照らし採用できない。
(ウ) これによれば、原告と被告との間で、成功報酬契約が成立したと認められる。
イ(ア) 被告は、原告が作成した甲二号証の計算書には、「報酬」という文言が使われていること、さらに、乙二号証の確認書では、「報酬金の精算」及び「報酬金残高」との記載がされていることから、着手金を含んだ報酬金を請求していたものである旨の主張をするが、本件報酬基準によれば、弁護士報酬は、「法律相談料、書面による鑑定料、着手金、報酬金、手数料、顧問料及び日当とする。」(3条1項)とされていることから、報酬又は報酬金とは、事件の受任時に受ける対価である着手金を意味したり、成功の程度の応じて受ける対価としての成功報酬、さらに、両者を意味する言葉として混同して用いられることはよく知られた事実である。そうすれば、報酬契約書に、報酬という言葉が使われているとしても、そのことだけで成功報酬を意味すると解することはできない。
(イ) 甲二号証の計算書には、前文で報酬の請求をさせて頂きたいとの記載があるが、本文には、「よって着手金、消費税を含めた請求金額」とも記載されている。さらに、乙二号証の確認書は、報酬金の精算について確認すると題されているが、本文には、別紙計算書に基づく報酬金とし、添付の別紙計算書には、「会社再建等の着手金」と明記されている。
ウ これによれば、原告が本件着手金を成功報酬をも含むと考えていたとは認めることはできない。
(2) 原告本人及び被告代表者顕一郎本人の各供述並びに認定の後の括弧内に掲示した証拠によれば次の事実が認められる。
ア(ア) 原告は、被告の経営上の問題点を、決算対策のために売上の前倒しを繰り返したことから恒常的な資金不足に陥り、資金不足を銀行借入に依存したこと、不要な不動産や人員を放置するなど経費節減を怠ったことなどにあると分析するとともに、顕一郎ら役員及び従業員から意見を聴取して会社再建の方針について協議をしたり、顕一郎ら役員に対し、再建策の策定に対する助言や指示を行い、平成10年12月21日には、長谷顧問が同年7月1日付け及び同年8月20日付けで作成していた報告書(乙四、五)を参考にして、「経営陣の一新及び役員報酬の削減、販売子会社の本社への統合等販売戦略の見直し、事務所の統廃合、遊休資産等の処分、従業員の解雇による人員削減、技術開発についての業務提携の検討、金融機関に対しては、平成11年1月から同年6月までの借入元本返済の猶予、担保不動産売却による負債の圧縮等」を骨子とする「竹井機器工業株式会社再建計画(案)」を作成し(甲四)、平成10年12月頃から平成11年10月頃までの間、連日のごとく、金融機関との交渉や、再建計画実行のために顕一郎ら役員等と打合せをするために、新潟、大阪、名古屋等に出張したり、被告会社や原告の事務所で打合せをするなどした(甲一〇)。
(イ) 原告は、平成11年1月4日、顕一郎ら役員との間で、金融機関に対する返済について協議し、同月6日には、「金融機関に対する協力要請の基本方針」を作成し(甲二一)、同月7日及び8日には、第四銀行等七行の金融機関を訪問し、被告の再建計画を説明して協力を要請し(甲一〇)、その結果を、同月11日、「各銀行の借入金返済猶予及び会社再建案に対する反応について」という書面にまとめた(甲二二)。さらに、同月12日から22日までの間には、株式会社安田信託銀行等三行の金融機関を訪問し、被告の再建計画を説明するとともに協力を要請し(甲一〇)、その結果を、同月22日、「各銀行の公平のための借入返済案について」と題する書面を作成し、銀行との交渉の経過を報告した(甲二三)。
(ウ) しかし、主力の新潟中央銀行をはじめ、第四銀行、株式会社安田信託銀行、株式会社三菱信託銀行、中小企業金融公庫、日本興業銀行及び国民金融公庫及び商工中金等の金融機関は、被告の会社再建策に対する協力に消極的な態度を示したり、昭雄をはじめ、新たに代表取締役に就任した顕一郎に対しても旧経営陣の一人として経営責任を追及するとの立場を示し、原告に対し、被告の取締役会に出席し、不正が行われないように監督するために監査役に就任することを、再建策に協力するための条件とするなどしてきた(甲一一、一二)。
(エ) 原告は、同月25日、主力取引銀行である新潟中央銀行と最終的な協議を行い、同行から新規融資の約束を取り付けることができたことから、その結果をふまえて、同月26日に各銀行に対する支援を求める書面を作成し、提出した(甲五)。被告は、各金融機関から再建に関する協力の約束を取り付けて、新潟中央銀行から1億8000万円の範囲内で必要に応じて融資を行うこと及び手形割引も従前どおり行うとの約束を取り付けたことから、他の金融機関との間でも、平成11年1月から同年6月までの間の元本の返済の停止、短期借入金と長期借入金を一括して、同年7月以降に予定される営業利益の範囲内での長期の分割返済とすること、担保権の設定されている不動産の売却の承諾をするとの合意を得ることができた。ただし、その後、新潟中央銀行が破綻したため、約束どおりの融資の実行を受けることが困難となったことから、同年12月28日、原告は被告の準主力取引先であった第四銀行から5000万円の範囲内での手形割引融資枠を設けるとの承諾を得た。
イ(ア) 原告は、顕一郎ら役員との間で、長谷顧問の報告書(乙五)で指摘された、工場の統廃合及び遊休資産の売却等の実行について協議し、平成11年7月から販売子会社を被告に統合することにした。
(イ) 原告は、毎月、被告の生産販売会議に出席し、支店からの営業報告を受けたり、銀行との再建交渉の進行状況を報告するなどしたり、各支店長の営業責任の明確化をはかるため、顕一郎に対し、営業実績に応じて賞与の支給等を行うこと等を助言し、実行させた。
(ウ) また、原告は、金融機関に対し再建計画の確実な実行を示すために、東京都大田区所在の社長自宅兼寮、岐阜県所在の社宅及び東京都大田区所在の本社ビル等の不動産の売却、並びに車両、会員権、美術品等の売却を進め(甲二四)、担保付き不動産の売却については、担保権者の承諾を得るための交渉も行った(甲一〇、二四)。
(エ) 平成11年1月15日、被告から、解雇の対象となる従業員のリストの提示を受け、削減対象者の選定等を行い、その結果を顕一郎ら役員に、説明し、指示して、顕一郎ら役員は、同年2月20日までに約40名の解雇を行った。
(オ) 昭雄に対する責任追及姿勢を示すために、昭雄に対し計算上退職金を支払い、これにより平成10年度の報酬を返上させるとの措置を取った。
(カ) 顕一郎は、平成11年8月頃、被告の従業員に対し賞与を支給することを考えていたが、新潟中央銀行に反対されていたところ、原告は、従業員の志気等を考え同行と交渉して賞与の支給について同意を取り付けた。
ウ(ア) 被告は、再建策の実行により、平成11年6月までには、ほぼ予定どおりの資金調達ができたことから、平成11年1月から同年6月までの間の元本の返済の停止、短期借入金も長期借入金と一括して、同年7月以降に予定される営業利益の範囲内での長期の分割返済とすることとする金融機関との約束に基づき、同年7月から、各金融機関に対し返済を実行した。そして、同年10月頃までには、被告自身で資金調達ができるまでに業績が回復し、平成11年度決算では、売上が約21億1500万円、営業利益が約1億6600万円、経常利益が約1億1000万円、当期利益が約5700万円となり(乙八)、さらに、平成12年度決算では、売上が約20億円、経常利益が約1億2200万円、当期利益が約1470万円となったことから(乙九)、債務超過額は、平成11年度決算期で2億4000万円に、平成12年度決算期において1億6000万円まで減少し、原告の当初予想のとおり再建計画実行から5年程度の期間で債務超過の状況は解消されることが見込めるようになるなど、本件委任事務は、成功に向かいつつあった。
(イ) これに対し、被告は、原告が行った事務は、主として金融機関との交渉における助言、同行及び同席並びにこれに相当する行為にすぎないと主張をし、被告代表者顕一郎もその旨の供述をする。しかし、原告が行った事務は、上記(ア)のとおりと認められるのであり、被告の主張は理由がない。被告は、甲四一号証では、被告の会社再建が軌道に乗っているのは原告の功績である旨の釈明をしており、被告の本件訴訟における主張と矛盾する。
(ウ) さらに、被告は原告が金融機関との交渉に同行し、助言したりする行為をしただけであると主張するが、債務超過に陥り、金融機関等からの借入金の占める割合が高い会社の再建には、経営体質の改善、人員の適正配置、利益の上がる業務の開発等の再建策の実行と同時に、大口債権者である金融機関に対して、破綻に至った経緯を説明し、会社の策定した再建策について協力してもらうこともきわめて重要である。仮に、会社が実現可能な再建策を作成しても、金融機関の協力が得られない場合、会社再建がきわめて難しいことは、会社再建にあたる者にとっては基本的な知識である。被告の会社再建の事務を委任された原告は、金融機関の協力が重要であると考え、顕一郎ら役員及び被告の従業員とともに、被告の経営の分析を行い、さらに再建策を作成して、被告会社内部において、それを実行する体制をとるとともに、主力取引銀行である新潟中央銀行等に対し、再建策に対する理解及び協力を得るための活動に多くの時間を割いている(甲一〇)。しかし、当時の金融機関は、被告が粉飾決算を行ったことなどの責任追及を行う姿勢であり、その責任追求は、被告代表取締役である顕一郎にも向けられたことは容易に推認され、原告が顕一郎に同行して金融機関に対し説明や説得をしなければ、被告の会社再建案について金融機関の協力が得られなかったと容易に推認される。金融機関に対する事情説明や、再建策に対する協力の要請は、中立的な立場にある弁護士の同行や、助言があるとスムーズに進行することが多いことは、新潟中央銀行等の金融機関が、被告に対し原告を監査役に就任させ、原告が被告の経営を監視すること等を再建策に対する協力の条件としている(甲一一ないし一三)ことからも明らかである。原告が、単に金融機関に対する説明の助言をしたにすぎないとする被告の主張は、ことさら、被告の大口債権者である金融機関に対する原告の働きかけの役割を軽視するものであり採用できない。
エ(ア) 昭雄は、平成12年4月5日付けの内容証明郵便で、顕一郎に対し株主総会を開催するように求めたが(乙一二)、顕一郎がこれに応じないことから、同月28日、新潟地方裁判所に対し、被告の株主総会招集許可決定の申立を行い(甲二九)、これに対し、同裁判所は、同年6月30日、昭雄の申立を認める決定をした(乙二一、二二)。昭雄は、同年7月11日付けで、同年8月1日に被告の臨時株主総会を招集する旨の手続をとり、同日開催の臨時株主総会で、顕一郎ら取締役全員を解任して、代わりに昭雄らを取締役に選任するとともに、原告の監査役を解任して、代わりに本件訴訟の被告代理人である本橋光一郎弁護士及び同小川昌宏弁護士を監査役に選任した。その後に開催された被告の取締役会において、昭雄は代表取締役に選任された(甲三六)。
(イ) 被告において、取締役全員が解任されたこと及び原告が監査役を解任されたことに対し、株式会社北越銀行等の金融機関は、被告に対し釈明を求めてきた(甲三七ないし三九)。これに対し、被告は、役員を全員解任したことは、原告が5700万円もの弁護士報酬を受領していること、原告と旧役員が臨時株主総会に他社との資本提携議案を提出したことにあるとする釈明書(甲四一)を提出している。しかし、一方、同釈明書では、「被告が最悪の状態をまぬがれ、今日あるのは原告の力によるものでその功績は認めますと。」述べるとともに、「旧経営陣の策定した経営再建計画は相当なものであり、今後もこれを遵守して、より確かなものとしてさらに履行していく。」と、旧経営陣を解任したことと矛盾するかのような決意を述べている(甲四一)。
(ウ) 被告が、顕一郎ら取締役全員を解任し、原告を監査役から解任し、原告との間の顧問契約を解除したのは、被告の会社再建のために解任された昭雄が、被告の多数株主であることを利用して、経営権を取り戻そうとしたことが背景にあり、金融機関等からの求めに応じて監査役に就任し、会社再建事務を行っていた原告の後任の監査役に昭雄の代理人弁護士らが就任して、昭雄とともに原告が行っていた会社再建業務を引き続き行っていると認められる。
オ これによれば、被告が原告を監査役から解任し、顧問契約を解除することによって、本件委任契約を一方的に解除したことには相当の理由があるとは認められないといわざるを得ない。
(3)ア 前記(2) ウ(ア)のとおり、被告は、平成11年度連結決算及び平成12年度連結決算で、順調に売上や利益を伸ばし、債務超過額が、平成11年度連結決算で2億4000万円に、平成12年度連結決算期において1億6000万円まで減少し、再建計画実行から5年程度の期間で債務超過の状況は解消されることが見込めるようになったのは、原告の策定した再建策の効果が表れてきたことを示すものである。
イ そして、原告が、会社再建計画に従って本件委任事務をこのまま継続することによって、被告の営業がこのまま推移するとすれば、本件委任契約の目的である会社再建が成功したと評価できる可能性が高いといえる。それにもかかわらず、被告が原告を監査役から解任したり、顧問契約を解除して、本件委任契約を一方的に解除したことは、報酬金を支払うことで不利益を受ける立場にある被告が、原告の委任事務の完成という報酬金の支払条件の成就を妨害したと評価できる。
ウ 本件報酬基準44条3項は、「弁護士に責任がないにもかかわらず、依頼者が弁護士の同意なく委任事務を終了させたときは、弁護士は、弁護士報酬の全部を請求することができる。ただし、弁護士が委任事務の重要な部分の処理を終了していないときは、その全部については請求することができない。」と規定する。
エ 以上によれば、原告は、被告に対し、本件委任契約に基づく成功報酬金を請求することができると解される。
(4)ア 本件報酬基準には、本件委任事務のような、再建的会社整理の報酬について定めた適切な規定は見られないが、任意整理事件に関する本件報酬基準28条3項及び倒産整理事件に関する27条2項によれば、会社債務整理事件が、債務の減免、履行期限の猶予又は企業継続等により終了したきの報酬金は、経済的利益の額を基準とする17条の規定を準用すると規定することから、再建的会社整理事件においても、17条の規定を準用して適用することが相当である。
イ 被告の経常利益は、平成11年度連結決算では約1億1000万円、平成12年度連結決算では約1億2200万円であった。平成11年度と平成12年度の伸び率からすれば、被告は、今後3年間程度でほぼ再建できたと判断できる。そうすると、被告の今後3年間の年間の経常利益は、平成13年度1億3400万円、平成14年度1億4700万円、平成15年度1億6100万円の合計6億7400万円になると推認される。
ウ これに対し、原告は、報酬算定の基準となる経済的利益を、平成11年度連結決算における営業利益が1億7000万円であり、平成12年度には営業利益は2億5000万円が見込まれ、平成13年度から5年間には12億5000万円(年間2億5000万円)の営業利益が見込まれることから、合計16億7000万円であると主張するが、平成12年度の経常利益は1億2200万円であること(乙九)からすれば、平成13年度以降についても原告の主張するような経常利益が生じると推認することは相当でない。
エ 本件報酬基準17条によると、経済的利益の額が6億7400万円の場合には、報酬金は3400万円(これに消費税相当額170万円を加える3570万円)となる。
オ しかし、被告の会社再建は軌道に乗りつつあるが、再建策が実施されて3期目に入った段階であること、平成11年度及び平成12年度も経常利益が出ているが、平成12年度は、平成11年度より利益が減少していること、現在の経済情勢等からすれば被告の会社再建の先行は不確定な部分もあることなど本件に表れた諸事情を考慮すれば、本件報酬金は、前記エで求めた報酬金の約3分の2に相当する2260万(これに消費税相当額113万円を加えると2373万円)とするのが相当である。
(5)ア 原告は、被告との間で、平成11年8月20日、法律顧問契約を締結し、顧問料として毎月10万5000円(消費税相当額5000円を含む。)を支払う旨約し、同年9月から平成12年7月までの間に顧問料合計115万5000円(10万5000円×11)を受領した(弁論の全趣旨)。さらに、原告は、平成11年8月25日、被告の監査役に就任し、報酬として毎月21万円(消費税相当額1万円を含む。)の支払を受けることになり、同年9月から平成12年7月までの間に監査役報酬合計231万円(21万円×11)を受領した(弁論の全趣旨)。
イ 原告が被告との間で法律顧問契約を締結したのは本件委任事務遂行を主たる目的とするものであること、さらに、原告が監査役に選任されたのは、金融機関から被告の会社再建に対する協力の条件とされたこと(前記(2) ア(ウ))が認められる。そうすると、原告が、被告から受領した顧問料115万5000円及び監査役報酬231万円の合計346万5000円(消費税相当額16万5000円を含む。)は、本件委任契約の報酬の一部であると解するのが相当である。
ウ 本件報酬金2373万円に顧問料115万5000円及び監査役報酬231万円の合計346万5000円を充当すると、本件報酬金は2026万5000円(報酬金1930万円及び消費税相当額96万5000円の合計額)となる。
3 結論
以上によれば、原告の本訴請求は、2026万5000円の限度で理由があることからその限度でこれを認容し、その余は理由がないことからこれを棄却し、被告の反訴請求は理由がないことからこれを棄却することとして、訴訟費用については仮執行宣言は相当ではないことからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判官 城内和昭)
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