判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(363)平成16年10月13日 東京地裁 平13(行ウ)23号 法人税更正処分取消等請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(363)平成16年10月13日 東京地裁 平13(行ウ)23号 法人税更正処分取消等請求事件
裁判年月日 平成16年10月13日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平13(行ウ)23号
事件名 法人税更正処分取消等請求事件
裁判結果 一部却下、一部棄却 文献番号 2004WLJPCA10130007
要旨
◆更正処分の後、増額再更正処分がされた場合、当初の更正処分の取消しを求める訴えの利益は存在しないとされた事例
◆過少申告加算税賦課決定処分の後、同一本税に対して重加算税及び過少申告加算税賦課決定処分がされた場合、前者は後者により増額変更されたものとして、独立の存在意義を失うから、当初の過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求める訴えの利益は存在しないとされた事例
◆不動産売買の仲介等を業とする原告が、土地の売買に係る仲介に関して得た報酬一億円のうち三七〇〇万円は仲介手数料とは別個のコンサルティング業務の報酬であるとして確定申告をしたのに対し、被告が、上記一億円の全額が仲介手数料であり、超短期所有に係る土地の譲渡等に当たるとしてした法人税再更正処分及び重加算税等の賦課決定処分が適法とされた事例
参照条文
国税通則法24条
国税通則法26条
国税通則法65条
国税通則法68条
租税特別措置法63条の2第1項(平8法17改正前)
租税特別措置法63条の2第2項1号(平8法17改正前)
宅地建物取引業法46条1項
裁判年月日 平成16年10月13日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平13(行ウ)23号
事件名 法人税更正処分取消等請求事件
裁判結果 一部却下、一部棄却 文献番号 2004WLJPCA10130007
(原告) 株式会社プランニングキャンプジャパン 上記代表者代表取締役 A
(被告) 本所税務署長 小林昇
当事者の代理人は別紙のとおり
主 文
1 本件訴えのうち、被告が、原告に対し、平成10年3月24日付けでした、平成6年2月1日から平成7年1月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める部分を却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告-請求の趣旨
(1) 被告が、原告に対し、平成10年3月24日付けでした、平成6年2月1日から平成7年1月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
(2) 被告が、原告に対し、平成10年7月9日付けでした、平成6年2月1日から平成7年1月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分(ただし、平成11年1月18日付けの減額再々更正処分後のもの)及び加算税賦課決定変更処分(ただし、平成11年1月18日付けの賦課決定再変更処分後のもの)を取り消す。
2 被告
(1) 本案前の答弁
請求の趣旨(1)に係る訴えをいずれも却下する。
(2) 本案の答弁
原告の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
本件は、不動産売買の仲介等を業とする原告が、土地の売買に係る仲介に関して得た報酬1億円のうち3700万円は、仲介手数料とは別個のコンサルティング業務の報酬であるとして確定申告をしたのに対し、被告から、上記1億円の全額が仲介手数料であり、原告は、宅地建物取引業法所定の制限額を超えて仲介手数料を得たものであるから、その行為は、租税特別措置法の規定する超短期所有に係る土地の譲渡等をした場合に当たるとして、法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定をされ、さらに、仲介手数料の一部を、原告代表者が外注費の支出を仮装し、個人で費消したとして、再更正処分及び重加算税等を賦課する旨の賦課決定変更処分を受けたため、各処分の取消しを求めている事案である。
1 法令の定め
(1) 租税特別措置法(平成8年法律第17号による改正前のもの。以下同じ。)63条の2第1項は、法人が平成4年1月1日から平成9年3月31日までの間に超短期所有に係る土地の譲渡等をした場合、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、当該超短期所有に係る土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額を当該事業年度の所得とみなし、基準法人税率に100分の30を加算した税率を適用して計算した金額(基準法人税額があるときは、その基準法人税額を控除した金額)を法人税の額に加算した金額とする旨規定している。
(2) 上記「超短期所有に係る土地の譲渡等」について、同法63条の2第2項1号は、同法62条の3第2項1号に規定する土地の譲渡等のうち、当該法人がその取得した日から引き続き所有していた土地等で所有期間が2年以下であるものの譲渡その他これに準ずるものとして政令で定める行為をいうと規定するが、これを受け、上記「政令で定める行為」について、租税特別措置法施行令(平成8年政令第83号による改正前のもの。以下「租税特別措置法施行令」という。)38条の6第2項、38条の5第1項1号、38条の4第2項は、土地(国内にあるものに限る。)の売買の媒介等に関して宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)46条1項に規定する報酬の額を超える報酬を受ける行為(仲介行為)と規定している。
(3) 宅建業法46条1項は、宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、建設大臣の定めるところによると規定し、これを受けて、昭和45年建設省告示第1552号は、その報酬の額について、当該売買に係る代金の額を区分して、200万円以下の金額については5パーセント、200万円を超え400万円以下の金額については4パーセント、400万円を超える金額については3パーセントをそれぞれ乗じて得た金額を合計した金額以内とする旨を規定している。
2 前提となる事実(末尾等に証拠等を掲記した事実は当該証拠等により認定した事実であり、証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない事実である。)
(1) 当事者等(職業、勤務先等は、平成6年ないし7年当時のもの)
ア 原告は、不動産の利用に関する企画、調査及び情報の提供並びに不動産売買の仲介等を目的とし、宅地建物取引業の免許を有する株式会社であり、A(以下「原告代表者」又は「A」という。)は、同社の代表取締役であり、以前日本生命保険相互会社(以下「日本生命」という。)に勤務していた者である。
イ B(以下「B」という。)は、不動産取引一般を営業内容とする有限会社好日地所(以下「好日地所」という。)の代表取締役であるとともに、同じく不動産取引等を営業内容とする株式会社キュービックエス(以下「キュービックエス」といい、好日地所及びキュービックエスを総称して、「好日地所等」という。)を実質的に経営していた者である。
ウ C(以下「C」という)は、不動産鑑定士の資格を有し、日本生命の不動産営業部長として、主に資産運用部門の業務に従事していた者である。
エ A、B及びCの3名は、平成6年以前に、不動産取引等を通じて知り合っていたものである。
オ 株式会社デスクろくまるろく(以下「デスクろくまるろく」という。)は、事務所を原告と同一室内におく不動産仲介業等を目的する会社であるが、同社の代表取締役D(以下「D」という。)は、かつて日本生命でAと同期の従業員として勤務していたことがある者である。
デスクろくまるろくは、原告から業務を委託されることが少なくなかった。
カ E(以下「E」という。)は、有限会社鎌田工業の従業員として空港内の格納庫等で稼働するとともに、有限会社道栄(以下「道栄」)の代表取締役の肩書を有していた者であり、平成6年5月ころ行われた不動産取引を通じて、Aと知り合った。
(以上、アないしカにつき、甲40、乙8の3、証人C、同B、同D)
(2) 本件仲介の委託に至る経緯
ア 株式会社太陽住建(以下「太陽住建」という。)は、神奈川県川崎市〈以下省略〉所在の土地ほか26筆の土地(総面積2万1460.56平方メートル、地目山林、原野、畑等。以下「本件土地」という。)を所有していたものである。
イ 太陽住建は、本件土地につき、宅地として分譲・販売する計画の下、開発行為の許可申請を行っていたが、経営難から事実上倒産した。
本件土地につき第2順位の抵当権を有していたニッセイ抵当証券株式会社(以下「ニッセイ抵当証券」という。)は、競売代金による配当が見込まれなかったことから、本件土地の任意売却を進めることとした。この方針を受けて、親会社である日本生命の不動産営業部長であり、不動産鑑定士の資格を有するCが、平成6年2月ころ、Bに対し、本件土地をマンション開発用地として購入することを勧め、Bはこれを承諾し、好日地所において、原告に対し、本件土地の売買の媒介(以下「本件媒介」又は「本件仲介」という。)を委託するに至った。
(以上、証人C、同B)
(3) 物件取り纏め依頼書、本件仲介契約書及び本件支払約定書
好日地所と原告との間では、平成6年6月22日付けで本件土地の購入に関する「物件取り纏め依頼書」(甲5、以下「物件取り纏め依頼書」という。)が取り交わされたほか、同日付けで、約定報酬(仲介手数料)を6300万円(消費税189万円は別途)、有効期間を契約締結後3か月と記載した専属専任媒介契約書(甲6、以下「本件仲介契約書」という。)が取り交わされている。
さらに、原告と好日地所との間では、同年12月27日付け支払約定書(甲11、以下「本件支払約定書」という。)が作成されており、本件支払約定書には、好日地所が原告に対して、本件土地の売買に伴い媒介手数料として6300万円(消費税183万4951円を含む。)を支払う旨が記載されている。
(甲5、6、11)
(4) 本件評価報告書等の作成、提出
また、原告及びCの連名で、好日地所宛てに、平成6年4月21日付け「不動産調査並びに評価報告書(速報)」(甲3、以下「本件評価報告書(速報)」という。)及び同年6月6日付け「不動産調査並びに評価報告書」(甲4、以下「本件評価報告書」といい、本件不動産報告書(速報)と併せて、以下「本件評価報告書等」という。)が作成されて、提出されている。
(5) 本件売買契約の成立
本件土地の買受人は、融資の関係上、好日地所から、同じくBの経営するキュービックエスに替わり、平成7年1月30日、太陽住建とキュービックエスとの間で、本件土地を代金21億円で売却する旨の売買契約(以下「本件売買」又は「本件売買契約」という。)が成立し、その旨記載した契約書(乙4)が取り交わされた。
(6) 本件領収証及び本件小切手の交付
本件売買の成立に伴い買主から原告に対して支払われる報酬については、本件売買契約の成立までに、原告(A)と好日地所等(B)との間で交渉がされた結果、1億円とすることで合意が成立した。
そして、平成7年1月30日、A、B同席の場で、キュービックエスから原告宛てに、額面1億円の預金小切手1枚(以下「本件小切手」という。)が交付され(このようにして原告に支払われた1億円を「本件1億円」ともいう。)、引き換えに、原告からキュービックエス宛てに、「売買契約の仲介手数料として1億円を受領した」旨記載された領収証(乙5、以下「本件領収証」という。)が交付された。
(7) 原告のCらに対する支払
原告は、上記1億円を受領後、Cに対して3000万円を支払うとともに、Cの指図を受けて、ソフィアエステート株式会社(以下「ソフィアエステート」という。)に対して2000万円を支払った。
(甲13、16)
(8) 甲業務委託契約書及び甲領収書
原告とデスクろくまるろくとの間では、平成6年5月10日付けで、原告が、デスクろくまるろくに対し、本件土地の調査、基本設計の請負、開発計画の企画・立案業務等を委託し、報酬(成功報酬)額を原告の報酬額の3割を上限として協議の上支払う旨記載された業務委託契約書(甲26、以下「甲業務委託契約書」という。)が作成されている。
また、原告からデスクろくまるろくに対し、上記委託業務に対する報酬として3000万円(以下「本件外注費」という。)及び消費税90万円の合計3090万円の額面の小切手が交付され、デスクろくまるろくから原告宛てに同額の領収書(甲28、以下「甲領収書」という。)が交付されている。
(9) 乙業務委託契約書及び乙領収書
また、デスクろくまるろくと道栄との間でも、デスクろくまるろくが道栄に対し、本件土地の売買に係る媒介等の業務を委託し、その報酬として2781万円を支払う旨記載された業務委託契約書(以下「乙業務委託契約書」という。)及び額面2781万円の領収書(以下「乙領収書」という。)が作成され、デスクろくまるろくが道栄に対して外注費を支払ったものとされているが、これらは、いずれも、デスクろくまるろく・道栄間において真実支払がされたかのように仮装するために作成されたものである。
なお、デスクろくまるろく名義で好日地所宛ての業務経過報告書(甲27の1ないし6、以下「本件業務経過報告書」という。)が作成されている。
(10) 確定申告
原告は、平成7年3月31日、平成6年2月1日から平成7年1月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、被告に対し、所得金額0円、納付すべき法人税額0円とする確定申告を行った。
(11) 更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分
これに対し、被告は、平成10年3月24日付けで下記のとおりの更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした。
記
所得金額 0円
所得金額に対する法人税額 0円
課税土地譲渡利益金額 7958万7000円
課税土地譲渡利益金額に対する法人税額
5296万1225円
納付すべき法人税額 5295万7300円
翌期に繰り越す欠損金の額 9126万1503円
過少申告加算税の額 791万7500円
(12) 再更正処分及び加算税の賦課決定変更処分
被告は、原告の本件事業年度の法人税について、上記(11)の更正処分を前提として、平成10年7月9日付けで下記のとおりの増額再更正処分及び加算税の賦課決定変更処分をした。
記
所得金額 897万2451円
所得金額に対する法人税額 260万4500円
課税土地譲渡利益金額 7958万7000円
課税土地譲渡利益金額に対する法人税額
5035万6725円
納付すべき法人税額 5295万7300円
翌期に繰り越す欠損金の額 6135万2992円
過少申告加算税の額 752万7500円
重加算税の額 91万0000円
その結果、納付すべき法人税額(本税額)には変動はないものの、翌期に繰り越す欠損金の額が6135万2992円と変更され、加算税の合計額は843万7500円(過少申告加算税752万7500円、重加算税91万円)と変更された。
(13) 減額再々更正処分及び加算税の賦課決定再変更処分
被告は、原告に対し、平成11年1月18日付けで下記のとおりの減額再々更正処分及び賦課決定再変更処分をした。
記
所得金額 857万2451円
所得金額に対する法人税額 245万4500円
課税土地譲渡利益金額 7958万7000円
課税土地譲渡利益金額に対する法人税額
5050万6725円
納付すべき法人税額 5295万7300円
翌期に繰り越す欠損金の額 6175万2992円
過少申告加算税の額 755万0000円
重加算税の額 85万7500円
その結果、納付すべき法人税額(本税額)には変動はないものの、翌期に繰り越す欠損金の額が6175万2992円と変更され、加算税の合計額は840万7500円(過少申告加算税755万円、重加算税85万7500円)と変更された。
(以下、(11)記載の平成10年3月24日付けの更正処分を「本件更正処分」、同日付け過少申告加算税賦課決定処分を「本件賦課決定処分」、(12)記載の平成10年7月9日付け増額再更正処分(ただし、平成11年1月18日付けの減額再々更正処分後のもの)を「本件再更正処分」、平成10年7月9日付け賦課決定変更処分(だだし、平成11年1月18日付けの賦課決定再変更処分後のもの)を「本件賦課決定変更処分」という。)
3 被告の主張する本件各処分の根拠及び適法性
(1) 本件再更正処分の適法性
被告が主張する本件事業年度における原告の法人税に係る所得金額、課税譲渡利益金額及び納付すべき法人税額等は、以下のとおりであり、これは、本件再更正処分における本件事業年度における原告の法人税に係る所得金額、課税譲渡利益金額及び納付すべき法人税額と同額であるから、本件再更正処分は適法である。
ア 所得金額 857万2451円
上記金額は、下記a+b-cの計算式により算出された額である。
a 申告所得金額 0円
上記金額は、原告が被告に対して平成7年3月31日に提出した本件事業年度における原告の法人税に係る確定申告書に記載された所得金額である。
b 所得金額に加算すべきもの 6101万1958円
上記金額は、下記〈1〉ないし〈4〉の合計額である。
〈1〉 外注費の架空計上 3000万円
上記金額は、原告が平成7年1月30日付けでデスクろくまるろくに対して支払った外注費(本件外注費)として計上し、その所得金額の計算上損金の額に算入したものであるが、本件外注費は、役務の提供のない架空の外注費であるから、これを所得金額の計算上損金の額に算入することはできない。
したがって、本件外注費は、その全額を所得金額に加算すべきものである。
〈2〉 役員賞与の損金不算入額 2581万円
後記〈5〉で役員賞与として認容された額である2581万円は、所得金額の計算上損金の額に算入されないから(法人税法35条1項)、その額は所得金額に加算すべきものである。
〈3〉 交際費等の損金不算入額 445万0211円
上記金額は、後記〈6〉で交際費等として認容された額である494万1747円について、本件事業年度における原告の交際費等の金額にこれを加算したうえ、交際費等の損金不算入額を再計算した(租税特別措置法61条の4参照)結果新たに生ずる損金不算入額であり、その額は所得金額に加算すべきものである。
〈4〉 仮払消費税の否認額 75万1747円
上記金額は、前記〈1〉の外注費として否認された本件外注費3000万円に係る仮払消費税の額90万円から後記〈6〉で交際費等として認容された494万1747円に係る仮払消費税の額14万8253円を差し引いた金額であり、その額は所得金額に加算すべきものである。
c 所得金額から減算すべきもの 5243万9507円
上記金額は、下記〈5〉ないし〈8〉の合計額である。
〈5〉 役員賞与の認容額 2581万円
前記〈1〉の本件外注費の額3000万円及びそれに係る仮払消費税の額90万円の合計3090万円から、デスクろくまるろくが実際に受領した309万円及び道栄が受領した200万円の合計509万円を差し引いた2581万円は、原告代表者であるAが受領し、かつ、原告の帳簿に計上しないままに同人が費消したものであるから、同人に対する役員賞与と認められる。
したがって、その額を所得金額から減算したものである。
〈6〉 交際費等の認容額 494万1747円
前記〈1〉の本件外注費のうちデスクろくまるろくが受領した300万円(消費税額9万円を除く。)及び道栄が受領した194万1747円(消費税額5万2853円を除く。)の合計494万1747円は、両社が原告の不正経理に加担したことに対する謝礼金として原告から受領したものであるから、交際費等と認められる。
したがって、その額を所得金額から減算したものである。
〈7〉 未払消費税の認容額 75万1700円
前記〈4〉の仮払消費税の否認額75万1747円について、本件事業年度における原告の仮払消費税の額からこれを控除して本件事業年度において原告が納付すべき消費税の額を再計算すると、原告が新たに納付すべき消費税の額は75万1700円となる。
これは、未払消費税として損金の額に算入されるから、その額を所得金額から減算したものである。
〈8〉 繰越欠損金の当期控除額の認容 2093万6060円
本件事業年度における繰越欠損金の当期控除前の原告の所得金額が増加したことに伴い、繰越欠損金の当期控除額が2093万6060円増加することから、その額を所得金額から減算したものである。
イ 所得金額に対する法人税額 245万4500円
上記金額は、前記アの所得金額(ただし、国税通則法118条1項の規定によって1000円未満の端数を切り捨て後のもの。)に、法人税法66条(各事業年度の所得に対する法人税の税率)に規定する税率を乗じて算出した金額である。
ウ 課税土地譲渡利益金額及びこれに対する法人税額
原告は、本件土地の売買の媒介に際し、買主であるキュービックエスから、平成7年1月30日、報酬として1億円(消費税額291万2622円を含む。)を受領したが、この1億円は、その全額が本件土地の売買に係る媒介の手数料(以下「本件仲介手数料」ともいう。)と認められる。
すなわち、宅建業法2条2号にいう売買の媒介とは、売買当事者の少なくとも一方の依頼を受け、当事者の間にあって契約の成立をあっせんするすべての行為を総称するものであるから、その具体的業務の内容は千差万別であり、相手方を探し、登記簿の調査、権利証、住民票、委任状、印鑑証明等の検認をすること、抵当権その他物権の抹消が可能かどうかの調査をすること、価格の折衝をすること等、売買をしようとする当事者双方を売買契約の有効な成立へ誘導尽力するすべての事実上の行為がこれに含まれるところ、原告の行為は、好日地所等から媒介の委託を受け、本件売買を成約に至らしめるために尽力する行為に当たる。
そして、原告が本件仲介手数料としてキュービックエスから受領した1億円は、宅建業法46条1項、昭和45年建設省告示第1552号により定められた、宅地建物取引業者が売買の媒介に関して受け取ることのできる報酬の限度額「6300万円」を超えるから、租税特別措置法63条の2の規定により、本件仲介手数料の額(ただし、消費税額を除く)及び仲介手数料収入のもととなった本件土地の譲渡価額等を基礎として同条第2項2号並びに同法施行令38条の4、6の規定に基づき算出された課税土地譲渡利益金額に対し、別途法人税が課されることとなる。そこで、本件仲介手数料に対する税額等を計算すると、以下のとおり、課税土地譲渡利益金額が7958万7378円、これに対する法人税額が5050万6725円となる。
a 課税土地譲渡利益金額 7958万7378円
上記金額は、下記〈1〉-〈2〉-〈3〉の計算式により算出された額である(租税特別措置法63条の2第2項2号)。
〈1〉 土地の譲渡等による収益の額 21億9708万7378円
本件土地の譲渡価額21億円と本件仲介手数料の額9708万7378円(消費税額を除いたもの。)との合計額が収益の額とみなされることとなる(租税特別措置法63条の2第2項2号、同法施行令38条の6第3項、38条の4第4項1号)。
〈2〉 〈1〉に対する原価の額 21億円
本件土地の譲渡価額21億円が原価の額とされる(租税特別措置法63条の2第2項2号、同法施行令38条の6第3項、38条の4第5項1号ハ)。
〈3〉 直接又は間接に要した経費の額 1750万円
上記〈2〉の原価の額21億円に12分の1を乗じた金額1億7500万円が譲渡した土地等の帳簿価額の累計額とされ、法定の負債利子1050万円(上記1億7500万円の6パーセント)と法定の販売費及び一般管理費700万(上記1億7500万円の4パーセント)との合計額が直接又は間接に要した経費の額とされる(租税特別措置法63条の2第2項2号、同法施行令38条の6第4項、38条の4第6及び7項)。
b 課税土地譲渡利益金額に対する法人税額 5050万6725円
上記金額は、下記〈6〉-〈7〉の計算式により算出された額である(租税特別措置法63条の2第1項)。
〈4〉 前記a(ただし、1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下、同じ)のうち800万円までの部分に対する税額
800万円×税率(28%+30%)=464万円
〈5〉 前記aのうち800万円を超える部分に対する税額
7958万7000円-800万円×税率(37.5%+30%)=4832万1225円
〈6〉 土地譲渡税額(〈4〉+〈5〉) 5296万1225円
〈7〉 基準法人税額(前記イ) 245万4500円
エ 納付すべき法人税額 5295万7300円
上記金額は、下記a+b-cの算式により算出された額である。
a 前記イの所得金額に対する法人税額 245万4500円
b 前記ウbの課税土地譲渡利益金額に係る法人税額 5050万6725円
c 控除所得税額(法人税法68条1項) 3888円
オ 翌期へ繰り越される欠損金の額 6175万2992円
本件事業年度における土地譲渡利益金額7958万7378円は、前事業年度から繰り越した青色欠損金額を控除する前の原告の所得金額2872万9098円と前記の加算及び減算項目によって増加した2950万8511円(繰越欠損金控除前)との合計である5823万7609円を超えており、その超えた部分の金額2134万9769円は、租税特別措置法63条の2第5項の規定により、法人税法57条1項に規定する青色欠損金額とみなされる。
そして、上記みなし欠損金2134万9769円と原告の平成3年2月1日から平成4年1月31日までの事業年度に発生し、本件事業年度に繰り越された欠損金4040万3223円のうち租税特別措置法施行令38条の6第15項の規定によって損金の額に算入されなかったとみなされる4040万3223円との合計6175万2992円は、翌期へ繰り越される欠損金の額となる。
(2) 本件賦課決定変更処分の適法性
ア 本件賦課決定変更処分のうち過少申告加算税賦課決定処分の適法性
前記(1)のとおり、本件再更正処分は適法であるところ、その結果原告が新たに納付すべき法人税額5295万7300円のうち、重加算税の対象となる245万円を控除した後の金額である5050万円(ただし、国税通則法118条3項の規定によって1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)については、その計算の基礎となった事実について、原告がこれを計算の基礎としなかったことに同法65条4項の「正当な理由」があるとは認められない。
したがって、原告の本件事業年度の法人税に係る過少申告加算税の額は、上記5050万円に対して100分の10の割合(同法65条1項)を乗じて算出した金額505万円とそのうち50万円を超える部分の額5000万円に対して100分の5の割合(同法65条2項)を乗じて算出した金額250万円との合計額である755万円となる。
よって、これと同額である本件賦課決定変更処分のうち過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
イ 本件賦課決定変更処分のうち重加算税賦課決定処分の適法性
原告は、原告とデスクろくまるろくとの間及びデスクろくまるろくと道栄との間に業務委託契約が存しないにもかかわらず、それが存するかのように仮装し、本件事業年度の法人税について、本件外注費の額を損金の額に算入して確定申告をしたものであり、その行為は、国税通則法68条1項の「計算の基礎となるべき事実の…一部を…仮装し、その…仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」場合に該当するから、その重加算税の額は、その対象となる245万円に対して100分の35の割合を乗じて算出した金額である85万7500円となる。
したがって、これと同額である本件賦課決定変更処分のうち重加算税賦課決定処分は適法である。
4 当事者の主張
(原告の主張)
(1) 本件1億円のうち3700万円は、仲介手数料ではなく、コンサルティング業務の報酬であること
原告がキュービックエスから支払を受けた1億円の報酬のうち本件売買に係る仲介手数料は、6300万円のみであり、残りの3700万円は仲介手数料とは別個のコンサルティング業務に対する報酬である。
したがって、これを全額仲介手数料であると誤認してされた本件更正処分及びこれを前提とする本件再更正処分は違法である。
ア 原告、好日地所間の契約
原告は、平成6年2月ころ、好日地所が太陽住建に対し本件土地の購入を申し込むにあたり、好日地所から、本件土地の売買に係る媒介の委託(以下、原告と好日地所等との間の本件売買に係る媒介契約を「本件仲介契約」ともいう。)を受けるとともに、本件土地についての開発計画の企画・立案、土地価格の鑑定評価、開発許可に関する地位の承継等について、Cと共同してコンサルティング(指導、助言等)を行う業務の委託を受けてこれを受任したものであり(以下、原告主張に係るコンサルティング業務を「本件コンサルティング業務」と、同業務の委託契約を「本件コンサルティング契約」ともいう。)、その際、好日地所との間で本件土地の売買が成立した場合の仲介手数料として土地売買代金額の3パーセントの金員を支払う旨合意したうえ、本件コンサルティング業務の報酬についても土地売買代金額の3パーセントの金額を支払う旨合意した。
イ 本件1億円決定の経緯等
原告がキュービックエスから受領する仲介手数料とコンサルティング業務に対する報酬は、当初、それぞれ本件土地の売買代金21億円の3パーセント相当の6300万円、合計1億2600万円とする旨合意されていた。
しかし、Bが本件売買成立の数日前になって、Aに対し、上記報酬を1億円に減額するよう求めてきたため、平成7年1月30日、原告は、後日増額の交渉を求める旨申し入れつつ、1億円を確保する意図の下、キュービックエスから額面1億円の本件小切手の交付を受け、キュービックエスに対し金額1億円の本件領収証を交付したものであり、その後報酬の総額が1億円で確定したとしても、6300万円を超える部分はコンサルティング業務に対する報酬としての性質を有するものである。
ウ 本件領収証の交付について
a 本件1億円が仲介手数料と本件コンサルティング業務の報酬とを合わせたものであるにもかかわらず、誤って「仲介手数料として」1億円を受領した旨の本件領収証が作成、交付されたのは、次の事情による。
すなわち、Aは、Bから本件売買契約の締結日(平成7年1月30日)の3日前になって突然本件コンサルティング業務の報酬の減額を求められたうえ、締結日の前日になって仲介手数料と併せて1億円であれば支払う旨の連絡を受けたため、原告従業員に対し、急遽1億円の領収書を作成するよう指示し、これを受けた従業員が、本来であれば仲介手数料6300万円と本件コンサルティング業務の報酬3700万円とを分けて領収書を作成すべきところ、誤ってこのような区分のない本件領収証を作成してしまった。従業員から本件領収証を受け取ったAにおいても、Bから突然報酬を値切られたことに対する腹立たしさから、領収書の体裁等を気にする余裕がなかったため、本件領収証をそのままBに交付した。Aとしては、当初からの合意と異なる1億円という報酬額は不本意なものであり、契約締結の当日に再度Bと話し合って、当初の約定どおりの報酬を貰おうと考えていたが、万一Bと話合いが付かなかった場合に、領収書がないことを理由に報酬の支払が引き延ばされることを危倶し、とりあえずは1億円でも貰っておいた方がよいと考え、念のため、暫定的に本件領収証を用意した。
そして、本件領収証作成の時点では1億円の内訳(仲介手数料とコンサルティング業務の報酬の内訳)が合意されていなかったこともあって、とりあえず1億円の本件領収証1通のみを持参していったのであり、Aとしては、そもそも本件領収証を正式なものとは考えておらず、報酬の約束を破ったBに腹立たしさを覚えながらも、せめて1億円だけでも確保したいとの思いから、本件領収証と引き換えに本件1億円を受領したものである。
b Aは、キュービックエスから額面1億円の本件小切手を受領し、本件領収証を交付した後、その過誤に気付いたことから、直ちに原告従業員をして仲介手数料6300万円と本件コンサルティング業務の報酬3700万円とに分けた正しい領収書を作成させ、それを、本件領収証を交付した平成7年1月30日から1週間以内のうちに、原告の役員であり、Aの秘書でもあったF(以下「F」という。)に持たせ、キュービックエスの経営者であるBのところに向かわせて、本件領収証との差替えを依頼させた。
ところが、Bは、本件売買契約締結の直前に、Aとの間で本件コンサルティング業務の報酬をめぐって言い争いとなったこともあり、Fに「お前が来るところじゃないだろう。」と言って、本件領収証の差替えに応じてくれなかった。
エ コンサルティング契約書が作成されていない点について
好日地所等と原告の間においては、コンサルティング契約について契約書が作成されていないが、以下の事情に照らせば、全く不自然・不合理なことではない。
a 本件仲介契約及び本件コンサルティング契約のいずれについても、その合意が成立した平成6年2月ころの時点では契約書は作成されなかった。その後、本件仲介契約については、同年6月に原告及びCから本件評価報告書が提出され、その評価額をもとに本件土地の売買代金が定まったことに伴い、本件仲介契約書が作成されたのに対し、本件コンサルティング契約については、コンサルティング業務の重要な部分を占める本件土地の鑑定評価業務が既に履行済みであったことに加え、媒介契約と異なり市販の定型的な契約書がないこと、鑑定評価業務以外のコンサルティング業務については、広範な内容を列記することが困難であり、金額的なものを含めて具体的な業務内容に不確定な部分が残されていたこと等の事情から、原告及び好日地所等は、口頭での合意のほかに契約書まで作成することをしなかったものである。この点について、Aは、Bと東京青年会議所を通じて面識があり、あえて契約書を作成しなくても後日契約の成立等に関する紛争が生じることはないと考えていた。
なお、本件仲介契約についてみても、本件仲介契約書の有効期間は平成6年6月22日から3か月であり、同年9月23日以降同契約書は失効していたにもかかわらず、その後本件売買契約の成立が間近に迫った同年12月27日に本件支払約定書が作成されるまで、仲介契約に関して何らの書面も作成されておらず、また、太陽住建から好日地所に対する地位承継契約についても、結局最後まで契約書は作成されていない。
b また、本件コンサルティング契約においては、Cが行う上記鑑定評価業務がその重要な部分を占めていたことから、仮に契約書を作成することになれば、Cが本件土地の鑑定評価を担当し、それに基づいて報酬を受領することを契約書上明らかとせざるを得ない状況にあった。しかし、当時Cは日本生命の不動産営業部長という立場にあり、表立って本件コンサルティング業務を請け負うことがはばかられる状況にあったので、原告及び好日地所としても、Cに対する業務報酬の支払について原告を窓口とすることに合意し、契約書もあえて作成しないこととしたのである。
オ 原告による業務の提供
原告は、本件コンサルティング契約に基づき、〈1〉本件土地の具体的な開発計画の企画・立案、〈2〉本件土地の開発に関する環境アセスメント等、従前の許認可手続の売主からの地位の承継、〈3〉本件土地の適正な売買代金額の決定及び担保価値を把握する前提として、造成後の更地価格を踏まえた本件土地の鑑定評価、〈4〉開発プロジェクト融資のあっせん、〈5〉国土利用計画法に基づく土地売買等届出書の提出及び不勧告通知書の受領、〈6〉農地法に基づく農地転用届出書の提出、〈7〉好日地所に対して行った太陽住建に差し入れる前払金の融資先の紹介及び同融資に係る連帯保証並びに同融資の担保としての小切手の差し入れ等の業務を行った。
その主要業務の詳細は以下のとおりである。
a 鑑定評価報告書の作成、提出等
i 本件売買成立に至る過程で、本件土地の評価につき、好日地所宛てに、原告、Cの連名で、本件評価報告書(速報)及び正式な鑑定評価報告書である本件評価報告書の2種類の報告書が提出されており、本件評価報告書(速報)の頭書に「ご依頼の下記不動産に関する調査並びに評価の作業は鋭意進めておりますが、取敢えず次の通り、速報いたします。」との記載があること、及び本件評価報告書における評価額をもとに好日地所の購入希望価格が算出されていること等の事実に照らせば、本件評価報告書等の作成・提出が、Bの依頼を受けてなされたものであることは明らかである。
ii そして、本件評価報告書等は、不動産鑑定士の資格を持つCの作成によるものであり、不動産鑑定士の資格を有する者による評価報告が、媒介業務に含まれるはずがなく、このような不動産鑑定士による鑑定評価が無報酬で行われるはずもないから、前記鑑定評価書が好日地所宛てに提出されているということは、すなわち、Bが自ら原告及びCに対して鑑定評価業務を含む周辺業務を依頼し、これに対する報酬の支払を約したからにほかならないというべきである。
iii 加えて、本件評価報告書等は、以下のとおり、Cが従前作成した鑑定評価書を踏まえつつ、C及び原告が共同で必要な調査を尽くしたうえ、新たに鑑定評価を行って作成したものであり、本件評価報告書作成の提出の結果、本件売買の成立にとって最も重要な融資が実現したこと等を考慮すると、原告がCと共同で行った本件評価報告書等の作成、提出が、売買の媒介の範囲を超え、仲介手数料とは別個の報酬の対象となるものであることは明らかというべきである。
〈1〉 すなわち、Cは、勤務先である日本生命から関連会社である新星和不動産株式会社(以下「新星和不動産」という。)に出向中の平成2年7月ころ、ニッセイ抵当証券が本件土地を担保に太陽住建に融資をするにあたり、新星和不動産に対して本件土地の鑑定評価を依頼したのを受けて、同社の従業員として本件土地の鑑定評価業務を行った。そして、Cが日本生命に戻った後の平成5年の終わりころ、ニッセイ抵当証券から新星和不動産に対し、再度本件土地の鑑定評価を依頼されたため、以前本件土地の鑑定評価を行ったCが鑑定評価書(乙13、以下「新星和評価書」という。)を作成することとなったものである。
〈2〉 原告及びCは、以前C自身が作成した新星和評価書を参考としつつも、新星和評価書とは異なる前提に立って、新たに判明した前提条件をも考慮したうえで評価等を行い、本件評価報告書等を作成したものである。すなわち、新星和評価書は、本件土地の抵当権者であるニッセイ抵当証券の依頼により、その時点における本件土地からの回収可能性を正確に把握することを目的として作成されたものであり、本件土地が、今後開発されるかどうか不確定な土地であることを前提に、その価額を20億8159万1000円と評価している。これに対し、本件評価報告書等は、本件土地を買い受け、それを宅地として開発・分譲することを予定する好日地所からの依頼により、同社が売買代金の融資を受ける際の資料として使用することを目的として作成されたものであり、本件土地が今後宅地として開発されることを前提に、その価額を45億9246万3700円と評価したものであって、両者は鑑定の目的を異にしている。このように高額となる方向で評価を行うにあたり、C及び原告は、川崎市開発公社に出向き、今後の地下鉄の開通予定や残土の受入れの可能性について調査したり、川崎市役所や高津区役所まで行って今後の都市計画道路の延伸予定について確認する等の調査を尽くしている。その結果、本件評価報告書等において、都市計画道路である宮内新横浜線の本件土地への延伸実施時期が平成8年ころの予定であること、横浜市営地下鉄3号線が既に開通したこと、同4号線が今年度から着工される予定であること、がけ地を包含する本件土地を宅地に造成する際、他の工事現場から出た残土を受け入れ、それを造成のための盛土に使用することにより、造成費を縮減するとともに残土受入料の収入が見込まれること等が新たに考慮され、本件土地が高額に評価されるに至ったものであり、本件評価報告書等は好日地所宛てに提出されたうえ、好日地所等に対する融資先であるオリックス株式会社(以下「オリックス」という。)に交付されている。そして、C及び原告は、本件評価報告書等の提出後、好日地所等の依頼を受けて、その融資元であるオリックスを何度も訪れ、本件土地の状況等について詳しく説明しており、その結果キュービックエスはオリックスから約38億円もの融資を受けることができたものである。
b 開発許可に関する地位承継の取りまとめ等の業務
i 好日地所は、太陽住建から本件土地を買い受けるにあたり、早期開発・販売のため、開発許可の申請者に関する地位も承継することを考え、原告に対し、本件土地売買に関する媒介業務とともに、太陽住建から開発許可に関する地位を譲り受けるための交渉や関係書類の引渡し等に関する取りまとめ業務を委託し、原告は本件コンサルティング契約の一内容としてこれを受託した。
ii 好日地所が原告に対して上記のような業務を委託したことは、平成6年6月13日付けで好日地所から原告に交付された物件取り纏め依頼書において、購入希望価格が「地位の承継代金も含むもの」として定められていること、「取り纏めの条件」において、「〈3〉開発行為事前申請書に基づく正式書類一式」及び「〈4〉造成協力地権者の確定と協議の内容、あれば協定書等の写し」の提出が本件土地購入の条件とされていることからも明らかである。
iii そして、原告は、上記業務委託に基づき、太陽住建と好日地所との間で開発許可に関する地位承継の交渉にあたり、その代金額の決定に関わったうえ、太陽住建から好日地所に引き渡される書類を予め確認し、その写しを好日地所に交付して、同社において融資を受けられるよう手配したり、地位承継代金の支払と引き換えに上記書類が太陽住建から好日地所に引き渡される手はずを整える等の業務を行った。
iv その結果、好日地所の地位を引き継ぐ形で最終的な買主となったキュービックエスから太陽住建に対しては、平成7年1月30日、売買代金21億円に加えて、6億円が地位承継代金等として支払われ、同日付けで太陽住建等の開発行為に関する許可等の申請者としての地位がキュービックエスに承継されるとともに、後日、太陽住建からキュービックエスに対して、開発行為事前申請に基づく書類等が引き渡されるに至ったのである。
v 原告が行った上記取りまとめ業務は、物件取り纏め依頼書において「地位の承継代金」が純粋な売買代金と区別され、売買契約と地位承継契約とが分けて考えられていることからも明らかなとおり、仲介行為に含まれるものではない。また、上記取りまとめ業務が仲介行為に含まれないことは、仮に同業務が仲介行為の一部をなすとすれば、仲介行為の報酬が地位承継代金等を含む合計27億円を基礎として算定されて然るべきであるのに、実際には本件仲介契約の報酬は土地売買代金21億円のみを基礎とし、その3パーセントとして算出されていることからも明らかである。
c 国土利用計画法に基づく土地売買等届出書の提出及び不勧告通知書の取得並びに農地法に基づく農地転用届出書の提出等の業務
原告は、好日地所から委託され、その代理人として、国土利用計画法に基づく土地売買等届出書及び農地法に基づく農地転用届出書を提出する等の業務を行い、不勧告通知書を取得したものであり、これらの業務が、不勧告通知を得るために予定対価を算出する等、土地売買契約の仲介行為とは全く異質の業務であって、売買の仲介行為に含まれないことは明らかである。
d 融資のあっせん、連帯保証等
原告は、好日地所の依頼によって融資先を紹介したのみならず、好日地所の借受金債務を連帯保証し、その上で原告振出しの小切手を担保として差し入れており、これらの行為が、単純な「融資のあっせん」の範疇を超え、売買の媒介業務に該当しないことは明らかである。
上記好日地所に対する貸付金3000万円のうち1700万円は、融資から4日後の平成6年12月26日、申込証拠金として好日地所から太陽住建に支払われているから、上記融資が本件土地売買のためになされたものであることは疑いを容れない。
また、上記融資に基づく貸付金3000万円のうち、太陽住建に支払われた上記申込証拠金1700万円を除く部分は、好日地所においてその資金繰りに使用したものであるところ、年末の資金繰りに困窮していた好日地所に融資を受けさせることは、仮に好日地所が倒産等に至れば本件売買契約そのものが元も子もなくなるという意味において、媒介業務の前提をなす業務であって、正しくコンサルティング業務そのものにほかならない。
カ Cに対する報酬について
a 原告は、Cとの間で、原告がCに対し、不動産鑑定評価等を委託し、その報酬として自己の収入手数料から経費を控除した残額の半分を支払う旨の契約を締結しており、好日地所の代表者であるBも、Cに対し、不動産鑑定評価業務を中心とするコンサルティング業務に対する報酬を支払う意向を有していた。ところが、Cが、当時日本生命の従業員であったこと、土地売買の媒介等の業者として登録をしていなかったことから、原告と好日地所等の間で、原告が本件コンサルティング契約の当事者となり、好日地所等から報酬の全額を受け取ったうえ、Cに対する報酬分を支払うことを約したものである。
b Bが、買主側の仲介業者として宅建業法の制限内で受領し得る仲介手数料を超える報酬を支払ったことからしても、本件1億円の中に、仲介手数料の範囲を超えるCに対する報酬が含まれると認識していたことは明らかである。
c 被告は、原告がデスクろくまるろくに対する業務委託報酬として、「原告の報酬額の3割」を基準として3000万円を支払った旨主張していることは、本件1億円が全額自己の仲介手数料である旨自認したに等しい旨主張するが、原告は、デスクろくまるろくに媒介業務に対する助力のみを委託したのではなく、原告が好日地所から委託された、コンサルティング業務をも含めた原告の業務全体のサポートを委託したのであるから、原告からデスクろくまるろくへの報酬を決める際コンサルティング契約の報酬をも含めた1億円を基準としたことはむしろ当然である。
キ 原告の帳簿処理
本件1億円のうち、6300万円の仲介手数料と、3700万円のコンサルティング業務報酬とが峻別されていたことは、以下のような原告の帳簿処理からも明白である。すなわち、原告は、本件1億円に係る小切手金を、仲介手数料6300万円とコンサルティング業務報酬の3700万円とに分け、仲介手数料分は原告の富士銀行小舟町支店普通預金口座に入金する一方、コンサルティング業務報酬は現金として受け入れている。また、本件に係る売上げとして、仲介手数料6300万円とコンサルティング業務報酬3700万円とを分けて帳簿計上している。
(2) 本件外注費の支出、費消について
本件外注費は、以下のとおり、原告がデスクろくまるろくとの業務委託契約に基づいて支出したもので、原告において、デスクろくまるろく名義で虚偽の甲業務委託契約書を作成させて本件外注費の支出を仮装した事実はなく、Aにおいて、本件外注費の一部である2581万円を費消した事実もない。
したがって、本件再更正処分及び本件賦課決定変更処分には、事実誤認の違法がある。
ア 原告とデスクろくまるろく間の業務委託契約
原告は、平成6年5月10日、デスクろくまるろくとの間で、好日地所等から委託された媒介業務及びコンサルティング業務全般について、デスクろくまるろくが日常的に原告をサポートし、共同でその業務を遂行することを内容とする業務委託契約(甲業務委託契約書)を締結した。
このように、原告からデスクろくまるろくに委託された業務の範囲は広範であり、上記業務委託契約の締結時においては、具体的にいかなる業務をデスクろくまるろくが行なうことになるか明確でなかったことから、甲業務委託契約書に記載された委託業務は、「〈1〉物件の調査、〈2〉基本設計の請負、〈3〉開発計画の企画・立案業務、〈4〉官公庁との事前協議、〈5〉金融機関との交渉、〈6〉その他上記に係わる業務のうち、原告が依頼する業務」として、広範かつ概括的な内容とされたものである。
イ デスクろくまるろくによる業務の提供
a 原告は、デスクろくまるろくから、同契約に基づき、以下のとおりの役務の提供を受けた。
〈1〉「1.物件の調査」業務(甲業務委託契約書第2条1項)として、鑑定評価や抵当権者と交渉等する際の資料とするため、本件土地の各地積や地目、設定されている担保権について調査してそれを整理し、あるいは国土利用計画法に基づく土地売買等の届出に際して、本件土地の予定対価(一度不勧告通知が出た価格以上では再度不勧告通知を得ることが難しいため、再譲渡の可能性を考えて上限を算出する必要がある)を算出するため、近隣の売買価格等について調査する等の業務を行った。
〈2〉「2.基本設計の請負」業務(同2項)として、本件土地を開発するにあたり、本件土地全体をどのように区分して使用するかという、いわゆる「宅割り」についてアドバイスしたうえ、最も効率的な宅割りを図面にして示し、「3.開発計画の企画、立案」業務(同3項)として、これまで開発行為に携ってきた経験や本件土地の規模・特性等から、実勢価格を踏まえて本件土地の妥当な販売価格を算出するなどした。
〈3〉「4.官公庁との事前協議」業務(同4項)として、従前の許認可の承継の可否や承継の具体的な手続や、宅割りにあたり生産緑地を設ける必要があるかどうかについてのアドバイスを行い、「5.金融機関との交渉」業務(同5項)として、抵当権抹消の事務手続や、開発期限が切れた場合の保有税等の税金が、誰にどれくらい掛かるか助言する等の業務を行ったのである。
b 上記業務を含め、原告にとって特に有益であったのは、デスクろくまるろくと同一室内に事務所があって、開発行為を前提とする不動産取引についての豊富な経験を有するデスクろくまるろくに対し、開発行為に先立ち必要となる申請の種類・方法、申請書や国土利用計画法に基づく土地売買等届出書等の記入方法、届出書の提出後不勧告通知が出るまでの期間、不勧告通知が出された後に買主が変わっても2ないし3日で対応が可能であること等、詳細かつ多岐にわたる事項について、日常的に助言や指導を受けられたということである。このような日常的なサポートがあってこそ、原告が本件仲介契約及び本件コンサルティング契約に基づく業務を遂行することができ、本件売買契約が成立するに至ったことからすれば、デスクろくまるろくの貢献は極めて大きいということができる。
ウ 本件外注費の支出
以上のような役務の提供を受けて、原告は、平成7年1月30日、デスクろくまるろくに対し、額面3090万円の小切手を交付し、本件外注費(3000万円)及びこれに対する消費税(90万円)を支払ったものである。
エ Dによる本件外注費の費消
ところが、デスクろくまるろくの代表者であるDは、上記3090万円について、その一部である309万円をデスクろくまるろくの売上げに計上したのみで、残金の2781万円を現金で引き出したうえ、2000万円を自らの菅原治に対する借入金の返済に充て、581万円を生活資金等に費消したものである。
Dは、自ら費消した2781万円をすべて道栄に対する外注費として支払ったかのような事実を虚構するため、200万円のみをEに対して支払うとともに、同人から架空の乙業務委託契約書及び額面2781万円の領収書に記名押印をもらったものである。
オ デスクろくまるろくが提供した役務と報酬の額との対比について
被告は、デスクろくまるろくが原告に提供した役務の内容に照らし、3000万円もの高額な報酬を受け取ること自体不自然である旨主張するが、先にみたとおり、デスクろくまるろくが行った業務の本件売買の成立に対する貢献度は大きいということができ、一般に、仲介契約あるいはコンサルティング契約における報酬額の大小は、基本的には媒介やコンサルティングの対象となる不動産の価格の多寡によって決定され、必ずしも業務の労力の多少に応じて決まるものではないことと、本件売買契約の成立に対してデスクろくまるろくが果たした役割、対象物件である本件土地の価格や原告が受領した報酬額を併せて考えれば、デスクろくまるろくに対する3000万円という報酬が高額に過ぎるということはない。
カ 本件業務経過報告書の記載について
a 本件業務経過報告書は、Dが、デスクろくまるろくの税務対策の目的から、道栄との間に業務委託契約が存在するかのような外観を作出するため、既に原告に提出していた報告書面をもとに、後日作成したものであって、デスクろくまるろく・道栄間の業務委託契約に関する記載内容はすべて虚偽である。
すなわち、本件業務経過報告書には、デスクろくまるろくと道栄が平成6年5月に業務委託契約を締結した旨記載されているが、実際にデスクろくまるろくと道栄との間で乙業務委託契約書が作成されたのは平成7年2月6日であり、これは、Dにおいて、乙業務委託契約書に契約日として記載された平成6年5月20日の日付に符合するよう、同報告書の5月の欄に前記契約が存在したかのごとく新たに書き加えたものにほかならない。
また、原告がデスクろくまるろくと道栄との業務委託契約を承認しているかのような記載がなされているのも、Dにおいて、税務対策のため全体として整合性を保つように工夫しているにすぎず、原告がデスクろくまるろくと道栄との業務委託契約を承認したことはない。
b これに対し、本件業務経過報告書のうち、デスクろくまるろくと道栄間の業務委託契約に関する記載以外の記載内容は事実に基づくものであり、その記載等から、デスクろくまるろくが、原告から本件売買につき媒介及びコンサルティング業務の委託を受け、原告と共同で業務を遂行していたことが認められる。
(被告の本案前の主張)
原告の請求の趣旨(1)に係る訴えは、次のとおり、いずれも不適法なものとして却下を免れない。
(1) 本件更正処分の取消しを求める訴えについて
更正処分がされた後に更に税額を増額する再更正処分がされた場合には、増額再更正処分のみが取消しの対象となり、当初の更正処分の取消しを求める訴えについては、訴えの利益が失われると解すべきであるから、本件更正処分は、その後、繰越欠損金を減少させる本件再更正処分がされたことにより、増額再更正処分がされたものとして、本件更正処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきである。
(2) 本件過少申告加算税及び本件重加算税の各賦課決定処分の取消しを求める訴えについて
本件賦課決定処分(過少申告加算税額791万7500円)については、本件賦課決定変更処分によって増額変更されている(過少申告加算税752万7500円、重加算税91万円の合計額843万7500円)。このように、当初行われた過少申告加算税の賦課決定処分について、その基礎とされた納付すべき税額に変化がないにもかかわらず、その一部の税額について重加算税の賦課決定処分がされた結果、これと残余の税額に対する過少申告加算税の賦課決定処分との合計額が増加するに至った場合でも、同一の修正申告又は更正に係る加算税である限り、過少申告加算税の賦課決定処分と重加算税の賦課決定処分とは、相互に無関係な別個の処分ではなく、処分としての同一性を有し、1個のものと解すべきであるから、取消しの対象となり得るのは、増額された変更決定処分のみであって、当初の過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める訴えについては、訴えの利益が失われるものと解すべきである。
(被告の本案の主張)
(1) キュービックエスから原告に対し支払われた本件1億円の全額が、本件売買に係る仲介手数料であること
原告と好日地所等との間では、本件売買に係る仲介契約が成立したにとどまり、仲介とは別に、コンサルティング業務を委託し、これに対する報酬を支払う旨の合意が成立した事実はないから、本件1億円は、その全額が本件売買に係る仲介手数料であり、これは、以下の事実からも裏付けられている。
ア 本件1億円の決定の経緯
Aは、Bに対し、本来、原告は、本件土地の買主であるキュービックエスから仲介手数料6300万円の支払を受けることに加え、売主である太陽住建からも本件土地の購入代金の3パーセントの仲介手数料の支払を受けられるはずであるが、財務状況が悪い太陽住建からは仲介手数料がもらえないので、その分も合わせた本件土地の購入代金の6パーセントの仲介手数料を支払ってほしい旨を申し入れた。これを受けて、Bは、売主太陽住建側の仲介手数料や、本件土地の代金が20億円に上ること等を考慮し、原告との間で、1億円を支払うことを合意したものである。
イ 本件領収証の交付
原告は、本件売買契約が締結されたことにより、キュービックエスから平成7年1月30日に額面1億円の本件小切手の交付を受け、キュービックエスに対し、同日付けで1億円を受領した旨の本件領収証1枚を発行したのみであるところ、本件領収証には、本件土地に係る「売買の仲介手数料として」と明記されている。
ウ 本件コンサルティング業務についての契約書の不存在等
本件コンサルティング契約の内容を成す業務は多岐に及んでおり、それに対する報酬も、本件土地の売買代金額の3パーセントという高額なものであるから、業務委託の契約当事者間において、その旨の契約書が作成されてしかるべきところ、このような契約書は作成されていない。
現に、本件土地の売買の仲介契約については、平成6年6月22日付けで本件仲介契約書が作成されている。
エ 業務提供の有無・内容について
a 原告が本件コンサルティング契約に基づき行ったと主張する業務は、以下に述べるとおり、原告が、好日地所等から委託を受けて遂行したとはいえないものであるか、本件仲介契約に基づく媒介業務の内容に含まれるものである。
〈1〉 不動産鑑定評価業務について
Bが、原告及びCに対し、本件評価報告書等の作成を依頼した事実はなく、Bが本件評価報告書等の作成に関して原告及びCにその報酬の支払を約するはずもない。
本件評価報告書等は、既に新星和不動産が作成し、ニッセイ抵当証券に提出していた新星和評価書をもとに作成されたもので、その記載内容は、新星和評価書の標題及びその文章とほぼ一致し、本件土地の鑑定評価額について、これを新星和評価書が20億8159万1000円としたのに対し、本件評価報告書が45億9246万3700円としていることが主な相異点として指摘できる程度であって、その内容からみて、原告又はCが、好日地所等から本件土地価格の鑑定評価を新たに委託されて、自ら評価を行ったといえるものではない。
〈2〉 開発許可に関する地位承継の取りまとめ等の業務について
原告が、好日地所から開発許可に関する地位承継の取りまとめ等の業務の依頼を受けた事実はなく、かつ、これを遂行した事実もない。
なお、物件取り纏め依頼書の記載上、好日地所が原告に取りまとめを依頼した事項は、本件土地の購入についてのみであり、その余の記載は、購入の条件に関するものであって、同依頼書は、原告に対して開発行為の許可取得業務を依頼したものではない。
また、開発許可に関する地位の譲渡人の太陽住建の側からみても、開発許可に関する地位の承継に係る交渉は太陽住建が行い、原告にこの交渉を依頼したことはなく、かつ、地位の譲受人であるキュービックエスのBも、自ら太陽住建と交渉したのであり、原告はこれに関与していない。このことは、太陽住建とキュービックエスとの間で取り交わされた開発許可に関する地位の承継に関する協定書に原告の記載がないことからも明らかである。
〈3〉 国土利用計画法に基づく土地売買等届出書の提出及び不勧告通知書の取得並びに農地法に基づく農地転用届出書の提出等の業務について
国土利用計画法に基づく土地売買等届出書及び農地法に基づく農地転用届出書の提出及び不勧告通知書を取得する業務は、売買当事者の間にあって売買契約の成立を媒介する行為に含まれるものであって、仲介手数料と別に報酬を請求し得るたぐいのものではない。
〈4〉 融資のあっせん、連帯保証等について
原告が好日地所に対して融資先を紹介したのは、好日地所の資金繰りのためであり、本件土地売買の前払金の支払のためにされたものではない。仮に上記融資のあっせんが本件土地の売買代金の前払金の支払のためにされたものであったとしても、売買契約の成立に尽力すべき仲介業者としては、買主に融資をあっせんすることによって売買代金の回収を確実にすることは、売買を成立させるために有益な行為にほかならないから、媒介業務に含まれるものである。
(2) 本件外注費の支払、費消について
原告は、以下のとおり、デスクろくまるろくの代表者であるDの協力を得て、原告がデスクろくまるろくと業務委託契約を締結した旨の虚偽の甲業務委託契約書を作成し、本件外注費3000万円を支出したように仮装し、Aは、これを利用して、本件外注費による支払を装った金額の中から2581万円を費消したものである。
したがって、本件外注費3000万円の支払について、本件事業年度の損金に計上することを認めず、原告代表者による仮装と認めた本件再更正処分及び本件賦課決定変更処分は適法である。
ア 原告とデスクろくまるろく間の仮装の外注費支払
原告は、本件事業年度の法人税の申告にあたり、架空の外注費を計上するため、Dの協力を得て、原告・デスクろくまるろく間の虚偽の甲業務委託契約書を作成し、これに基づいて、同社が実際に業務を行ったように記載した本件業務経過報告書を作成させるなどして、本件外注費3000万円及びこれに対する消費税90万円を同社に対して支払った形を装ったものであり、原告は、Dに対し、上記協力に対する報酬として、上記3090万円の中から300万円を支払っている。具体的には、Dは、平成7年1月31日、Aからいったん額面3090万円の小切手の交付を受け、同月30日付けでデスクろくまるろく名義で3090万円の甲領収書を作成し、Aに交付した後、Aの指示により、同年2月6日、小切手金のうち2781万円を住友銀行(当時)両国支店で引き出し、これをAに対して再び交付したものである。
イ デスクろくまるろくと道栄間の仮装の外注費支払
原告は、本件外注費のうち2581万円をデスクろくまるろくから原告に還流させるため、道栄の代表者であるEの協力を得て、平成6年5月20日付けで内容虚偽の乙業務委託契約書を作成し、同社と道栄間で業務委託契約が存在したかのように仮装し、これに基づき、Dに、虚偽の業務経過報告書を作成させるとともに、デスクろくまるろくにおいて、平成7年2月6日、道栄に対し、経理上は外注費として2781万円(消費税額を含む。)を支払ったように装って2581万円を原告に還流させ、Aにおいて同額を費消したものである。
Eは、上記乙業務委託契約書の作成に協力したほか、道栄の名において、平成7年2月6日付けで、デスクろくまるろく宛てに2781万円の乙領収書を作成しており、このような協力に対する報酬として、原告は、Eに対し、上記2781万円の中から200万円を支払っている。
ウ デスクろくまるろくによる業務の提供がないこと
甲業務委託契約書は、Aの指示によって作成されたものにすぎず、デスクろくまるろくは、同契約書に記載された委託業務を実際に行っていない。
エ デスクろくまるろくの業務と金額の対比
デスクろくまるろくが原告に提供した役務の提供の内容は、〈1〉原告による業務の報告を受け、Aからの質問に答えたり、国土利用計画法や農地法に基づいて必要となる手続の概要や申請等、開発行為について必要な指導・助言をし、原告の業務及びそれに対する所見等を報告書にまとめるとともに、〈2〉本件土地の公図に登記簿上の表題部を書き込んだり、登記簿上の甲区欄・乙区欄に記載された登記事項を一覧表に整理したにすぎないのであり、このような役務を提供したことによって3090万円もの高額な報酬を受けること自体極めて不自然である。
オ 本件業務経過報告書の記載について
本件業務経過報告書には、平成6年5月10日の「会議・打合せ報告」の欄に「正式にPCJと業務委託契約を結ぶ。業務内容の詳しい打合せと報告様式について説明を受ける。」と記載されるとともに、「尚、業務遂行にあたり下請として〈17〉道栄・E氏にPCJより依頼してある旨を伝えられる。」と記載され、同月19日の欄には、「PCJより連絡があり、〈17〉道栄が業務委託契約を快諾との事。」と記載され、さらに、同月20日の欄には、「デスクろくまるろくにて業務委託契約を行い、PCJ了解の基、業務の大半を道栄に依頼する。」と記載されており、これらの記載から、道栄に対して虚偽の乙業務委託契約書の作成を依頼したのは、デスクろくまるろくではなく、原告であることが明らかである。
また、本件業務経過報告書には、デスクろくまるろくが、平成6年5月18日を初めとして、好日地所と10回以上もの打合せ又は連絡をした旨事実と異なる記載をするなど、本件業務経過報告書自体、デスクろくまるろくの業務を記録したものとはいえない。
カ Dの供述
a Dは、平成10年3月26日及び同月31日に被告に対して提出した自筆の各申述書において、甲業務委託契約書は、原告代表者の指示によって作成されたにすぎず、デスクろくまるろくは、当該契約書にある委託業務について、実際に、その業務をしたことがなく、本件業務経過報告書は、原告代表者の指示によって作成された虚偽のものであり、その謝礼として、原告からデスクろくまるろくに対し309万円が支払われた旨、及び、平成7年1月31日、原告代表者からいったん額面3090万円の小切手の交付を受け、デスクろくまるろく名義の甲領収書を作成して、これを原告代表者に交付したものの、同人の指示により、実際には、その後、そのうち2781万円を住友銀行両国支店で引き出し、これを同人に対して再び交付した旨供述している。
もっとも、Dは、その後2か月以上が経過した平成10年6月3日、「当日は、過年度の支払手数料につき、役員賞与として課税すると言われ、気が動転して、役員賞与にならないのならどうでもいいと思い、言われるままに申述書を作成し、内容を確認しないまま、署名捺印してしまった」として、上記各申述書の破棄、返送を求めている。しかし、Dは、各申述書の作成経緯として、被告調査担当者から、3、4回にわたって、1回当たり約1時間の事情聴取を受けた結果として作成されたものであるとするが、かかる事情聴取によって、Dが供述するような普通の精神状態でない状態になったとは考えられないし、まして、上記のような脱税を認めるような不利な創り話までするとは到底考えられない。
キ Eの申述
道栄の代表取締役であるEは、申述書等において、実際には何ら業務もしていないにもかかわらず、原告代表者の指示によって、架空の乙業務委託契約書及び乙領収書を作成し、原告代表者から謝礼として200万円を受領した旨自筆の書面をもって供述している。その供述は、謝礼として200万円をもらい受けたとする部分等は、本人しか知り得ない事実を述べているものであって、到底創り話とはいえない具体性を帯びたものであるうえ、脱税の共犯にも当たり得る行為を自認するものであり、その信用性を疑うべき事情が見当たらない。
5 争点
以上によれば、本件の争点は、以下のとおりである。
(1) 本件更正処分及び本件賦課決定処分の各取消しを求める訴えは、訴えの利益があるか。
(争点1)
(2) 原告がキュービックエスから受領した本件1億円は、全額が本件売買の仲介手数料か、それともそのうちの3700万円はコンサルティング業務に対する報酬か。
(争点2)
(3) デスクろくまるろくとの業務委託契約に係る本件外注費は、真実業務委託契約に基づいて支払われたものであるか、それとも、仮装に基づくものであるか。
(争点3)
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 被告は、本件事業年度の原告の法人税について、〈1〉平成10年3月24日付けで、納付すべき法人税額(本税額)5295万7300円、翌期に繰り越す欠損金の額9126万1503円とする更正処分(本件更正処分)、及び本件更正処分による新たに納付すべき税額5295万7300円を基礎として過少申告加算税額を791万7500円とする本件賦課決定処分をそれぞれ行い、その後、〈2〉同年7月9日付けで、納付すべき法人税額5295万7300円、翌期に繰り越す欠損金の額6135万2992円とする増額再更正処分、並びに過少申告加算税額を752万7500円及び重加算税額を91万円(加算税合計額843万7500円)とする本件賦課決定の変更処分をそれぞれ行い、さらに、〈3〉平成11年1月18日付けで、新たに納付すべき法人税額0円、翌期に繰り越す欠損金の額6175万2992円とする減額再々更正処分、並びに過少申告加算税額755万円及び重加算税額85万7500円(加算税合計額840万7500円)とする本件賦課決定の再変更処分をそれぞれ行ったものである(前記前提となる事実の(11)ないし(13))。
(2) このように、本件事業年度の原告の法人税について、納付すべき本税額については、本件更正処分、本件再更正処分を通じて同額(5295万7300円)であるのに対し、加算税については、本件賦課決定処分においては過少申告加算税の額791万7500円であったものが、本件賦課決定変更処分によって、一部について重加算税の賦課決定処分がされた結果、重加算税の額85万7500円、過少申告加算税の額755万円(加算税の合計額840万7500円)と変更されたものである。
(3) そこで、まず、原告の請求の趣旨(1)に係る訴えのうち、本件更正処分の取消しを求める訴えの利益についてみると、本件再更正処分は、本件更正処分による繰越欠損金を減少させた増額更正であるから、原告としては、本件更正処分に不服があるとしても、本件再更正処分の取消しを求めれば足り、当初の更正処分の取消しを求める訴えの利益は存在しないというべきである。
(4) また、本件賦課決定処分による過少申告加算税と、本件賦課決定変更処分による重加算税及び過少申告加算税は、同一本税額に対して賦課決定されたものであり、加算税としての合計額は、本件賦課決定処分は、本件賦課決定変更処分により増額変更されたものである。
ところで、過少申告加算税と重加算税とは、ともに申告納税方式による国税について過少な申告をした納税者に対する行政上の制裁として賦課されるものであり、同一の修正申告又は更正に係るものである限り、その賦課及び税額計算の基礎を同じくし、ただ、重加算税が過少申告加算税の賦課要件に該当することに加え、隠ぺい又は仮装という特別の事由が存する場合に、当該基礎となる税額に対して過少申告加算税よりも重い一定比率を乗じて得られる金額の制裁を課すこととしたものであり、両者は、相互に無関係な別個の処分ではなく、重加算税の賦課は、過少申告加算税として賦課されるべき一定の税額に前記加重額に当たる一定の金額を加えた額の税を賦課する処分として、上記過少申告加算税の賦課に相当する部分をその中に含んだ1個の処分と解される(最高裁昭和58年10月27日第一小法廷判決・民集37巻8号1196頁参照)。
そうであるとすれば、本件賦課決定処分は、同一の更正に係る加算税賦課決定処分である本件賦課決定変更処分によって増額変更されたものと解されたことにより、独立の存在意義を失うものと解されるから、原告としては、本件賦課決定処分に不服があるとしても、本件賦課変更決定処分の取消しを求めれば足り、本件賦課決定処分の取消しを求める訴えの利益は存在しないというべきである。
(5) したがって、本件訴えのうち、被告が原告に対してした本件更正処分及び本件賦課決定処分の取消しを求める部分(請求の趣旨(1)に係る訴え)は不適法というべきである。
2 争点2について
(1) キュービックエスから原告に対して支払われた1億円の支払に至る経緯をみると、前記前提となる事実及び証拠(甲4ないし8、11ないし14、15の1・2、同16、37、40、41、42、43、乙2ないし5、14、証人C、同B、原告代表者(なお、甲40、42、原告代表者については、後記措信できない部分を除く))並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 太陽住建は、その所有に係る本件土地につき、宅地として分譲・販売する計画を作成し、川崎市に対して開発行為の許可申請を行っていたが、経営難から事実上倒産し、第1順位の抵当権者から競売の申立てを受けたこと等から、自ら開発を行うことを断念せざるを得なくなった。
他方、本件土地につき第2順位の抵当権を有していたニッセイ抵当証券は、競売代金による配当が見込まれなかったことから、平成5年ころ、太陽住建の同意を得て、本件土地の任意売却を進めることとし、親会社である日本生命の不動産営業部長であり、不動産鑑定士の資格を有するCに依頼して、Cの意を受けたソフィアエステートに売買の媒介をさせたが、購入者側の資金調達の関係で売買の成立には至らなかった。
イ その後、Cは、原告との間で、本件土地の売買に関し、原告がCに対し、不動産鑑定評価等の業務を委託し、原告はCに対し、その収入手数料の中から、所要実費を控除した残金の半額を限度として支払う旨記載した、平成5年4月15日付けの業務委託契約書(甲41)を取り交わした。
ウ そして、Cは、平成6年上旬ころ、Aも同席の場で、Bに対し、本件土地をマンション用の宅地開発用地として購入することを勧め、Bはこれを承諾し、好日地所において、原告に対し、本件土地の売買の媒介を委託することとなった。
エ 好日地所は、上記媒介業務の委託に伴い、原告との間で、同年6月13日付けで物件取り纏め依頼書を取り交わしたうえ、同月22日付けで、約定報酬額を6300万円(消費税を除く)、有効期間を契約締結後3か月とする専属専任媒介契約を締結し、本件仲介契約書を取り交わした。
オ なお、上記仲介契約の締結に先立ち、原告及びCの連名で、好日地所宛てに、同年4月21日付け本件評価報告書(速報)及び同年6月6日付け本件評価報告書が作成、提出され、本件評価報告書等は、好日地所等が金融機関に借入れを申し込む際、参考資料とされた。
また、原告は、同年6月28日、好日地所及び太陽住建を代理して、川崎市長宛てに、国土利用計画法23条1項の規定に基づく届出を行い、同年7月27日付けで、川崎市長から、好日地所、太陽住建に対し、それぞれ同規定に基づく不勧告通知がされた。さらに、原告は、同年10月20日付けで農業委員会宛てに、農地法5条1項3号の規定に基づく農地転用届出を行った。
カ その後、原告と好日地所との間では、同年12月27日付け本件支払約定書が作成されたが、本件支払約定書には、好日地所が原告に対して、本件土地の売買に伴い仲介手数料として6300万円(消費税183万4951円を含む。)を支払う旨が記載されている。
キ 本件土地の買受人については、好日地所名義での借入れが難航したことから、同年末ころ、Bが実質的に経営するキュービックエスが、好日地所の地位を引き継ぎ、買い受けることとなり、オリックスからキュービックエス宛てに本件土地の売買代金及び開発行為に必要な資金として約38億円の融資が実行されることとなった。
ク 本件売買の成立に伴い原告に支払われる報酬の額について、原告は、Bに対し、売主側(太陽住建)から仲介手数料をもらうことができないことを理由に、その分も含めて売買代金の6パーセントを支払うよう求め、両者の間で交渉がされた結果、平成7年1月23日ころ、報酬の額を1億円とすることで合意が成立した。
ケ このようにして、同月30日、太陽住建とキュービックエスとの間で、本件土地を代金21億円で売却する旨の本件売買契約が成立し、その旨記載した契約書が取り交わされた。
なお、原告は、同契約書に、媒介業者として記名押印している。
コ 本件売買の成立に伴い、太陽住建からキュービックエスに対し、本件土地の開発行為の許可申請者としての地位が、本件売買とは別に、設計料等と合わせ代金6億円で譲渡された。
この地位の売買自体についての契約書は特に作成されず、太陽住建とキュービックエス間では、上記地位の承継への協力等をうたった協定書(甲37、以下「本件協定書」という。)が取り交わされた。なお、本件協定書には原告の記名押印はされていない。
サ そして、本件売買成立の席上、キュービックエスから原告宛てに、さくら銀行(当時)振出しに係る額面1億円の本件小切手1枚が交付され、引き換えに、原告からキュービックエス宛てに、「売買契約の仲介手数料として1億円を受領した」旨記載された本件領収証が交付された。
シ なお、原告は、同月31日、Cに対し3000万円を支払うとともに、同年2月28日、Cの指図を受けて、ソフィアエステートに対して2000万円を支払っている。
(2)ア ところで、Bは、税務署職員による聴取及び国税不服審判所に対する答述から証人尋問に至るまで、「Aから、売主(太陽住建)側からの仲介手数料(本件土地代金の3パーセント分)を受け取ることができないことを考慮して、報酬の額を1億2600万円とするよう求められ、売主・買主側双方の仲介手数料の合計額(本件土地の代金の6パーセント)の範囲内であり、本件土地の代金が20億円程度に上ることから、1億円で合意することとしたもので、その交渉の過程で、原告に対するコンサルティング業務の対価があることを理由に増額を求められたことはなく、好日地所等と原告との間で、本件土地の売買の媒介と別個にコンサルティング業務を委託したことも、その報酬を支払った事実もない」旨を述べて、一貫して、本件1億円の全額が本件売買に係る仲介(媒介)手数料である旨供述している(乙3、乙14、証人B12、34、35、66ないし70、78、88、94、142ないし145)。
これに対し、原告は、Bの上記供述が虚偽であると主張するが、原告とキュービックエスとの間では、交渉の結果、Bの承諾した1億円の報酬が支払われる結果で終わっており、Bがあえて手数料の内訳について、虚偽の供述をしなければならない理由があるとは考え難いうえ、Bの上記供述は、証人Cの供述とも符合しており、その内容は措信できるというべきである。
イ また、Cは、証人尋問の中で、一貫して、Cと原告間のコンサルティング業務委託契約に基づき、原告に対して情報提供や助言をしたにとどまり、原告が好日地所等との間で行った業務は仲介である旨供述している(証人C51、52、62、124、125、143ないし146、179、186ないし195)が、この点につき、Cが虚偽の供述をする理由は考え難い。
なお、Cは、平成11年11月4日に国税審判官に対して答述した内容が記載された質問調書(甲43)中で、原告との業務委託契約に基づき、実務的な仕事は原告に請け負わせた旨供述するとともに、原告から受領した報酬3000万円は、評価報告書等の作成料、情報提供料、物件紹介料である旨供述している(甲43の問答2、10)が、その一方で、本件取引において原告及びAが行ったのは、あくまで仲介行為である旨供述している(甲43の問答10)。
(3) 上記(1)記載の事実経過、特に、好日地所等と原告間で、売主側、買主側の仲介手数料の合計額を考慮して報酬額が決定されたこと、その報酬の支払として、キュービックエスから原告宛てに、額面1億円の本件小切手1枚が交付され、原告からキュービックエス宛てに、「仲介手数料として」1億円を領収した旨記載された本件領収証が交付されたこと、本件小切手及び本件領収証においても、媒介業務分とコンサルティング業務分の報酬の名目、金額の区分がされていないこと等の各事実と、(2)記載のB及びCの供述内容、原告と好日地所等との間で、原告主張に係るコンサルティング業務について、その対価を支払う旨記載された契約書は作成されていないこと等を総合すれば、キュービックエスから原告に対して支払われた1億円は、その全額が本件売買に係る仲介手数料であると認めるのが合理的である。
(4)ア これに対し、原告は、本件1億円交付の経緯等について、好日地所との間では、本件売買の媒介を合意した当初から、仲介手数料及びコンサルティング業務の報酬として、それぞれ本件土地の売買代金の3パーセントとする合意があったこと、コンサルティング業務の報酬は、Cの不動産鑑定評価業務を中心とするコンサルティング業務に対するものであり、原告及びCにおいて実際に同業務を提供したものであるが、Cが日本生命の従業員であることや、不動産業の登録をしていなかったこと等から、好日地所等との間では、原告が、本件媒介とは別に、本件コンサルティング契約の当事者となり、好日地所等からCの報酬分を受領したうえ、直ちにCに渡すこととしたものであること、本来原告が好日地所等から受け取る報酬は1億2600万円であったのに、本件売買契約締結日の直前になって減額を求められた結果、本件1億円を受領することを余儀なくされたものであること等を主張し、原告代表者の供述(甲40、42、原告代表者)には、以上の主張に沿う部分がある。
イ 証拠(甲41、証人C、同B)によれば、Cは、本件土地につき、ニッセイ抵当証券が任意売却を進めることを企図した当時、日本生命の不動産営業部長であり、また、宅地建物取引業の免許を有していなかったことから、売買の媒介は原告に依頼し、C自身は原告に対して売買成約のために必要な助言を行う関係にとどまるものとしたこと、その結果、原告とCとの間では、平成5年4月15日付けで、原告がCに対し、不動産の鑑定評価等の業務を委託し、業務委託料について、原告の収入手数料から所要実費を控除した残額の半額を限度として支払う旨記載された業務委託契約書が取り交わされたこと、本件評価報告書等は、原告及びCの連名で作成されているが、実質的にはCが作成したものであり、好日地所等が金融機関から本件土地の購入・開発に必要な融資を受ける際、参考資料とされたこと、Bは、原告に支払う金額の中から半分程度はCに支払いたいという意向を有していたが、Cに直接報酬を支払うことについては、Aから拒絶されたことがそれぞれ認められ、これらの事実からすると、Bが本件1億円の支払を承諾するにあたって、原告が本件売買の売主側から仲介手数料を取得できないという事情や本件土地の購入・開発による利益の見込みに加え、原告からCに渡る分もあるということが、その念頭にあったことは否定できない(証人B145)。
しかしながら、Bが、原告からCに渡る金額の決定に関与したわけではないこと、本件全証拠によっても、原告と好日地所等との間で、原告に支払う金額のうち一部の金額を特定して、Cに対して支払う旨合意された形跡はなく、Cが、自ら受け取るコンサルティング業務の報酬について好日地所との間で協議した形跡も認められないこと、Cは、証人尋問において、あくまで原告に対して助言をしたにとどまり、原告自身が好日地所に対してコンサルティング業務を提供したと考えるのは無理である旨供述していること(証人C194、195)等に照らせば、原告と好日地所等との間で、売買の仲介契約とは別個にコンサルティング業務の委託契約が締結されていたとは認め難いというべきである。
ウ 原告は、本件小切手金1億円につき、6300万円を現金、3700万円を預金として区分して経理処理を行ったとして、総勘定元帳(甲25の1ないし3)を提出しているが、同元帳上、キュービックエスから受け入れた1億円全額を原告の売上げとして会計帳簿に計上し、Cに対する報酬分を預り金として処理するなどしていない(甲25の3)うえ、原告が、1億円の小切手金について、現金6300万円と預金3700万円に区分して経理処理を行ったとしても、それ自体では、原告内部の処理の域を出ず、好日地所等と原告との契約により決定された金額の性質が左右されるものではない。
エ さらに、Bは、Aから、売主側の太陽住建から仲介手数料を取得できないことを考慮するよう求められ、売主側・買主側合わせて6パーセントの範囲内の仲介手数料であることを念頭に増額を承諾したもので、太陽住建から更に手数料を取得しない限り、上記宅建業法の制限に反しないと認識し(証人B145、205ないし208)、原告代表者のAにおいても、同様の認識を有していたこと(原告代表者286、287)が認められるから、売買代金の3パーセントを超える仲介手数料の支払がされたとしても、不自然とはいえない。
オ 原告は、好日地所等とのコンサルティング業務委託契約に基づき、〈1〉本件土地の具体的な開発計画の企画・立案、〈2〉本件土地の開発に関する許認可手続についての売主の地位の承継、〈3〉本件土地の適正な売買代金額の決定及び担保価値を把握する前提として、造成後の更地価格を踏まえた本件土地の鑑定評価、〈4〉開発プロジェクト融資のあっせん、〈5〉国土利用計画法に基づく土地売買等届出書の提出及び不勧告通知書の受領、並びに農地法に基づく農地転用届出書の提出、〈6〉好日地所に対して行った太陽住建に差し入れる前払金の融資先の紹介及び同融資に係る連帯保証並びに同融資の担保としての小切手の差入れ等の業務を行ったもので、特に、不動産鑑定評価については、不動産鑑定士の資格を有するCが本件評価報告書等を作成、提出し、その結果、好日地所等がオリックスから本件土地の代金及び開発に必要な融資を受けることができたこと等からすると、本件土地につき、売買の媒介とは異質のコンサルティング業務の委託契約が存在したことは明らかである旨主張する。
しかしながら、上記〈1〉、〈4〉の業務について、原告が行ったと認めるに足る事実・証拠はなく、その余の業務については、以下のとおり、原告が関与したことが認められるとしても、それは、原告が、本件仲介契約に基づく媒介業務の一環として、本件土地の売買を成約に導くために尽力する行為と解すべきであって、原告と好日地所等との間で、本件売買の媒介とは別に本件コンサルティング業務を委託する旨の合意が成立していたと認めることはできない。
a 本件土地の具体的な開発計画の企画・立案について
証拠(甲4、乙14、証人B)によれば、本件土地の開発の計画は、太陽住建及び同社から委託を受けた株式会社柴田建築設計事務所(以下「柴田設計」という。)等によって作成されていたものを、好日地所等が日本国土開発株式会社(以下「日本国土開発」という。)等と共に修正(設計・環境アセスメント、土壌汚染等)、川崎市と折衝して、まとめたもので、好日地所等は、本件土地の開発の企画・立案について、日本国土開発及び柴田設計に依頼しており、原告に対し、本件土地の開発の企画・立案自体を委託した事実はなく、原告が企画・立案業務に関与したと認めるに足る事実・証拠はない。
b 開発プロジェクト融資のあっせんについて
証拠(証人B)によれば、好日地所等は、本件土地の買受及び開発に必要な資金について、オリックスと交渉した結果、借主(本件土地の買主)をキュービックエスとして、合計38億円の融資を受けたものであることが認められるが、融資の交渉自体は、B及び日本国土開発が行ったものと認められ、原告が開発に必要な融資のあっせん業務を行ったと認めるに足る事実・証拠はない。
c 本件評価報告書等の作成、提出等について
本件土地の評価につき、好日地所宛てに、原告、Cの連名で、平成6年4月21日付け本件評価報告書(速報)及び同年6月6日付け本件評価報告書が提出されているところ、証拠(原告代表者、証人C)によれば、本件評価報告書等は、ニッセイ抵当証券が、以前Cが出向していた新星和不動産に依頼して作成させていた同年2月1日付け新星和評価書をもとに作成したものであること、その内容は、本件土地が今後宅地として開発・分譲されることを前提として、近年の地下鉄の開通予定や都市計画道路の延伸予定、残土の受入れの可能性等を踏まえ、新星和評価書と同一の基準地、取引事例の土地価格をもとに、開発の確定性の指標となる「熟成度修正率」や「比準価格」の地域格差修正及び個別格差修正の比率を高く見積もった結果、本件土地の評価額を45億9246万3700円と算定したものであること、同報告書は、好日地所宛てに提出された後、同社がオリックスから本件土地の代金や開発費用等の資金として38億円の融資を受けるにあたって参考資料として使用されたことが認められる。
しかしながら、本件評価報告書等は、基準地や取引事例等の基本的資料は、新星和評価書に依拠して作成されたもので、その作成の中心となる作業も、基本的に適用する指標・数値の修正という机上の作業が主であるうえ、道路延伸等の不動産価格に関する情報を確認し、これを買主である好日地所等に提供すること自体、本件土地の売買の媒介を超えるものとは言い難いことから、本件評価報告書等が好日地所の依頼を受けて作成、提出されたものであるとしても、直ちに媒介とは別個の業務として委託されたものとみることはできない。
また、本件評価報告書等の作成名義は、原告とCの連名ではあるが、実質的にはCによって作成されたものであるところ、先にみたとおり、好日地所等が原告に対し、本件売買に係る仲介手数料とは別に、Cのコンサルティング業務に対する報酬を支払う旨約したとは認められず、好日地所等とオリックス間の融資に関する交渉自体は、B及び日本国土開発が行ったものであること(証人B)、本件仲介契約書、本件支払約定書及び本件領収証のいずれにも、既に行われた鑑定評価に対する報酬についての言及はないこと等に照らすと、本件評価報告書等の作成・提出は、本件土地の売買の成約に向けた仲介行為に含まれるものとみるのが相当である。
d 開発許可に関する地位承継の取りまとめ等の業務について
前記前提となる事実及び証拠(甲4、5、37、乙3、証人B)によれば、太陽住建は、平成3年ころから、本件土地の開発・販売を企図し、開発行為の許可を取得するための事前審査申請等に着手していたが、経営不振により本件土地を自ら開発・販売することを断念し、本件土地の所有権を第三者に譲渡し、併せて開発許可の申請者に関する地位も相当な代金により譲渡しようと考え、好日地所等との間で、本件売買とは別に地位の譲渡への協力等について本件協定書を締結し、平成7年1月30日、本件土地の売買代金とは別に、地位承継代金等として合計6億円の支払を受けたこと、一方、これに先立ち、好日地所は原告に対し、平成6年6月13日付けで物件取り纏め依頼書を交付しており、物件取り纏め依頼書において、購入希望価格が「地位の承継代金も含むもの」として定められていること、また、「取り纏めの条件」において、「〈3〉開発行為事前申請書に基づく正式書類一式」及び「〈4〉造成協力地権者の確定と協議の内容、あれば協定書等の写し」の提出が本件土地購入の条件とされていたことが認められる。
しかしながら、物件取り纏め依頼書には、好日地所が原告に取りまとめを依頼したのが本件土地の購入についてである旨の記載しかなく、その余の記載をみても、「取り纏めの条件」として「金融機関と正式協議に必要な為、下記事項を確認させて下さい。またその写しをご提出下さい」と記載され、「下記事項」として、上記「〈3〉開発行為事前申請書に基づく正式書類一式(写し)」及び「〈4〉造成協力地権者の確定と協議の内容、あれば協定書等の写し」ほかの書類の確認又はその提出が要請されているだけであり、好日地所が原告に開発許可に関する地位承継等の業務を依頼すると記載されているわけでもないから、物件取り纏め依頼書の記載から、原告が好日地所から開発許可に関する地位承継等の業務を依頼されたと認めることはできない。
また、太陽住建とキュービックエスとの間で、開発許可申請者としての地位承継につき締結された本件協定書にも、原告が好日地所等から、地位承継についての業務の委託を受けたことを窺わせる記載はなく、許可についての官公庁等との折衝は、B及び日本国土開発、柴田設計によって行われ、開発許可に関する地位の承継に係る交渉も、太陽住建とBとの間で行われたとみられ(甲23、53、乙14、証人B)、原告がこれらの行為に関与したと認めるに足る的確な証拠はない。
原告は、太陽住建と好日地所との間で開発許可に関する地位承継等の交渉にあたり、その代金額の決定に関わったうえ、太陽住建から好日地所に引き渡される書類を予め確認し、その写しを好日地所に交付して、同社において融資を受けられるよう手配したり、地位承継代金の支払と引き換えに上記書類が太陽住建から好日地所に引き渡される手はずを整える等の業務を行った旨主張するが、その主張する関与の内容自体漠然としており、原告が、媒介とは別個に報酬の対象となるような関与をしたと認めるには足りない。
e 国土利用計画法に基づく土地売買等届出書の提出及び不勧告通知書の取得並びに農地法に基づく農地転用届出書の提出等の業務について
証拠(甲7、8、原告代表者、証人B)によれば、原告は、売主太陽住建及び買主好日地所の双方の代理人となり、国土利用計画法に基づく土地売買等届出書を川崎市長に提出し、不勧告通知書(甲7)を取得したほか、川崎市農業委員会会長宛てに業務及び農地法に基づく農地転用届出書(甲8)を提出したことが認められるが、これらの行為自体、売買当事者の間にあって売買契約の成立を媒介する行為に含まれることは明らかである(乙11の問6の答)。
f 融資のあっせん、連帯保証等について
証拠(甲9、10、38)によれば、原告は、平成6年12月22日付けで、好日地所が相互土地開発株式会社(以下「相互都市開発」という。)から3000万円を借り受けるにつき、金銭消費貸借契約書に連帯保証人として記名押印したこと、同日付けで、原告が相互都市開発に対し、連帯保証人として額面3300万円の小切手を差し入れる旨の「小切手差し入れ証(甲10)」が作成されていること、好日地所と太陽住建との間では、同月26日付け買付・売渡合意書(甲38)が取り交わされ、その中には、本件土地の売買代金21億円のうち1700万円は、申込証拠金として太陽住建に預ける旨記載されていることが認められる。
上記相互都市開発の好日地所に対する貸付金は、本件売買契約書に前払金の控除が記載されていないこと等に照らすと、太陽住建に対する売買代金の申込証拠金として前払されたとは認め難いが、好日地所の運転資金に充てられており(証人B)、好日地所の資金繰りは売買の成否に影響し得ることにかんがみると、原告による上記連帯保証等は、本件売買の成約に必要な行為とみることができ、本件売買の成立時に原告に対し支払われる報酬が1億円に上る高額なものであったこと等も考え併せると、上記連帯保証等は、原告において、仲介手数料を得るため、売買成約に尽力する行為の一環として行われたものとみるべきであって、上記連帯保証等の事実から、原告と好日地所等との間で、連帯保証人となったことにより別途報酬を取得する合意が存在したと認めることはできない。
カ 本件領収証交付の事情について
本件領収証は、「売買の仲介手数料」の文言も含め、原告側において事前に作成し、Bに交付されたものであるところ、その文面上、金員の内訳はともかく、名目として「仲介手数料及びコンサルト料」といった記載をすることも可能かつ容易であったのに、このような記載をしていないのは、原告主張に係るコンサルティング業務委託契約が成立していたとすれば、不自然、不合理というほかなく、原告代表者において、領収書の体裁を気にする余裕がなかったとか、Bに対する立腹等から、後に差替えを求める前提で、訂正もせずに交付したなどという供述は、措信できない(なお、原告は、本件小切手及び本件領収証の交付前に、BとAの間で報酬等をめぐり感情的な摩擦があったとしながら、他方、Aにおいて、後日の差替えを期待していたということ自体不合理であるし、Aが、秘書役のFを介し、Bに対して領収証の差替えを求めて拒絶されながら、その後、自らBに対し差替えを求めた形跡がないのも不自然というほかない。)。
キ 小括
イないしカ記載のとおり検討したところによれば、原告が、好日地所等からの委託に基づいて本件売買の媒介とは別個のコンサルティング業務を遂行し、その報酬の支払を受けたと認めることは困難であり、本件1億円は、前記(3)において認定したとおり、その全額が、好日地所等の原告に対する仲介手数料として支払われたものというべきである。
3 争点3について
(1) 前記前提となる事実のとおり、原告とデスクろくまるろくとの間では、平成6年5月10日付けで、本件土地の調査、基本設計の請負、開発計画の企画・立案業務等を委託し、報酬(成功報酬)額を原告の報酬額の3割を上限として協議の上支払う旨記載された甲業務委託契約書が作成されているほか、原告からデスクろくまるろくに対し、消費税90万円を含めた額面3090万円の小切手を交付され、デスクろくまるろくから原告宛てに3090万円を領収した旨の甲領収書が交付されている。
また、デスクろくまるろく、道栄間でも、デスクろくまるろくが道栄に対し、業務を委託し、その報酬として2781万円を支払う内容の乙業務委託契約書、及び同額を道栄が領収した旨記載した乙領収書が作成されているところ、乙業務委託契約書及び乙領収書については、いずれも、デスクろくまるろくから道栄に対し2791万円の外注費が支払われた形を仮装するために作成した内容虚偽の書類であることは、当事者間に争いがない。
(2) 被告は、Aが、このような事実関係の下で、キュービックエスから支払を受けた本件1億円の一部を自己に環流させる目的で、Dの協力を得て仮装の本件甲業務委託書及び甲領収書を作成するとともに、Eの協力を得て仮装の乙業務委託契約書及び乙領収書を作成し、原告からデスクろくまるろくに対して本件外注費3090万円が支払われたかのように装い、Dに口座に入金された小切手金から2781万円を引き出させて、Eに対する報酬200万円を支払った残額の2581万円を環流させ、Aにおいてこれを費消したものである旨主張する。そして、Dは、本所税務署職員に対する申述書(乙7の1・2)において、被告の主張に沿う供述をし、Eも、同税務署職員に対する申述書(乙8の1)及び同職員による聴取書(乙8の2・3)において、被告の主張に沿う供述をしている。
他方、原告は、本件甲業務委託書及び甲領収書は真実の業務委託に基づくもので、乙業務委託契約書及び乙領収書の作成には、原告は関与しておらず、原告からデスクろくまるろく宛てに支払われた3000万円の小切手金については、Dが、うち2781万円を現金化して引き出し、2000万円を自己の借入金の返済、581万円を生活費に費消したもので、Dは、これらの事実を隠すため、Eに協力を求めて、内容虚偽の乙業務委託契約書及び乙領収書を作成したうえ、残額の200万円をEに対する報酬として支払ったものである旨主張する。そして、これに沿う証拠として、デスクろくまるろく名義で、平成6年6月から平成7年2月までの日付につき作成された原告宛て本件業務経過報告書(甲27の1ないし6)を提出し、原告代表者も、上記主張に沿う供述をしている。
(3) そこで、検討するに、上記Dの申述書(乙7の1・2)並びにEの申述書(乙8の1)及び聴取書(乙8の2・3)の内容は、Aの指図により、内容虚偽の業務委託契約書及び領収書が作成されたものとする点で符合しているうえ、Aに対する現金交付の場所、状況が具体的に供述されており、Eの申述書等にも、Aから報酬として200万円を受け取った旨、本人でなければ知り得ない内容の供述が含まれていること等に照らし、措信できるというべきである。
(4) これに対し、Dは、平成10年6月2日、被告に対し、先に作成された申述書を破棄するよう申し入れたうえ(甲36)、本件訴訟において、陳述書(甲30)及び証人尋問の中で、原告の主張に沿う供述をし、供述を変遷させた理由として、本所税務署の職員から、2781万円全額を賞与として課税すると恫喝されたなどと供述する。
しかし、これらの申述書は、第1回(乙7の1)が同年3月26日、第2回(乙7の2)が同月31日と日数を置いて作成されたものであり、申述書の破棄を申し入れたのが、上記申述から2か月以上が経過した同年6月3日になってからであること、Dは、以前日本生命に勤務していた当時には、Aと同期であり、また、デスクろくまるろくは、原告の事務所と同一の室内に事務所を有し、原告から委託された業務を共同で行うことが多く、上記申述書の提出後も、デスクろくまるろくの代表者として、原告事務所と同一室内の事務所で業務に従事していること(証人D9ないし21、81ないし84、90、91)等に照らすと、Dの上記供述部分は、た易く措信することはできない。
(5) また、証人D(前記措信することができない部分を除く)の供述によれば、本件業務経過報告書は、Dが、デスクろくまるろくの行った業務を記載したものではなく、Aからの聴き取りやAの秘書役のFの作成したノートの記載をもとに、原告の遂行した業務の内容を記録したものであると認められるから、その記載をもとに、デスクろくまるろくが、原告主張のとおりの業務を行ったと認めることはできない。
そして、本件業務経過報告書の5月10日の欄に、「正式にPCJと業務委託契約を結ぶ。業務内容の詳しい打合せと報告様式について説明を受ける。」と記載されているほか、「尚、業務遂行にあたり下請として〈17〉道栄・E氏にPCJより依頼してある旨を伝えられる。」と記載され、さらに、同月19目の欄に「PCJより連絡があり、〈17〉道栄が業務委託契約を快諾との事。」と記載され、同月20日の欄にも、「デスクろくまるろくにて業務委託契約を行い、PCJ了解の基、業務の大半を道栄に依頼する。」と記載されていること(甲27の1)からしても、原告が道栄に対する仮装の業務委託を主導したものとみるのが自然である。
(6) 原告は、好日地所等から委託を受けた業務を広汎にデスクろくまるろくに委任した旨主張し、原告代表者はこれに沿う供述をするが、Fが、本所税務署職員による聴取(平成10年3月19日)に際し、本件土地の売買に関して、原告の業務の全部又は一部を委託した法人又は個人はない旨供述していること(乙10)、キュービエックス事業部長のGが、土地の取得過程において、デスクろくまるろく及び道栄と、協議打合せ等を通じ接触したことがない旨申述していること(乙2)、原告との業務委託契約に基づき助言を行っていたCも、デスクろくまるろくの代表者であるDを知らない旨供述していること(証人C163)、原告に媒介業務を委託したBにおいて、デスクろくまるろくが原告から業務全般を委託されたと認識していた形跡がないこと等に照らすと、原告代表者の上記供述は措信できず、他に、デスクろくまるろくが、原告から3000万円に上る外注費の支払を受けられるほどの業務を遂行したと認めるに足る的確な証拠はない。
(7) 以上によれば、前記Dの申述書並びにEの申述書等の内容は、措信できるというべきである。
これらによれば、原告代表者であるAにおいて、仮装の本件甲業務委託書及び甲領収書並びに仮装の乙業務委託契約書及び乙領収書を作成し、原告からデスクろくまるろくに対して本件外注費3090万円が支払われたかのように装ったうえ、Dに指図して口座に入金された小切手金から2781万円を引き出させ、3090万円からDに対する報酬309万円及びEに対する報酬200万円を差し引いた残額2581万円を環流させたものと認められ、原告の帳簿上同額が計上されている形跡がないことから、Aにおいて、これを費消したものと認めることができる。
4 前記2、3で検討したところによれば、原告がキュービエックスから支払を受けた本件1億円は、その全額が本件土地の売買に係る仲介手数料であり、宅建業法46条1項、昭和45年建設省告示1552号により定められた仲介取引に係る報酬の限度額である6300万円を超えるものと認められ、原告は、架空の業務委託契約書、領収書を作成し、本件外注費として3000万円を支出したように仮装し、その金額を損金の額に算入して確定申告を行ったもので、原告の代表者であるAにおいて、そのうち2581万円を費消したものと認められるから、本件再更正処分、本件賦課決定変更処分は、いずれも適法である。
第4 結論
よって、請求の趣旨(1)に係る訴えは不適法であるから、いずれも却下し、請求の趣旨(2)は理由がないから、いずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 関口剛弘 裁判官丹羽敦子は、差し支えのため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 市村陽典)
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