判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(361)平成17年 3月11日 東京地裁 平17(ヨ)20021号 新株予約権発行差止仮処分命令申立事件 〔ライブドア/ニッポン放送新株予約権発行差止請求事件・仮処分決定審〕
裁判年月日 平成17年 3月11日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 決定
事件番号 平17(ヨ)20021号
事件名 新株予約権発行差止仮処分命令申立事件 〔ライブドア/ニッポン放送新株予約権発行差止請求事件・仮処分決定審〕
裁判結果 申立て認容 上訴等 保全異議申立て後、仮処分決定認可、保全抗告 文献番号 2005WLJPCA03110001
要旨
◆ニッポン放送の新株予約権発行が「特ニ有利ナル条件」による発行に当たるとはいえないが、「著シク不公正ナル方法」による発行に当たるとし、新株予約権発行差止めの仮処分命令の申立てが認容された事例
裁判経過
抗告審 平成17年 3月23日 東京高裁 決定 平17(ラ)429号 新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件 〔ライブドア/ニッポン放送新株予約権発行差止請求事件・控訴審〕
第一審 平成17年 3月16日 東京地裁 決定 平17(モ)3074号 保全異議申立事件 〔ライブドア/ニッポン放送新株予約権発行差止請求事件・第一審〕
出典
裁判所ウェブサイト
判タ 1173号143頁
金商 1213号2頁
旬刊商事法務 1726号47頁
資料版商事法務 252号267頁
商事法務別冊 289号368頁
評釈
清水俊彦・判タ 1192号75頁(下)
清水俊彦・判タ 1191号82頁(上)
武井一浩=山中政人=善家啓文・旬刊商事法務 1872号50頁
藤田友敬・旬刊商事法務 1746号4頁(下)
藤田友敬・旬刊商事法務 1745号4頁(上)
太田洋・旬刊商事法務 1736号9頁(下)
太田洋・旬刊商事法務 1729号24頁(上)
日置純子 他・金法 1744号9頁(特集)
大杉謙一・金法 1733号13頁(特集)
田邊光政・立命館法学 304号127頁
山田拓広・CHUKYO LAWYER 8号41頁
藤原俊雄・民事法情報 234号13頁(3)
藤原俊雄・民事法情報 233号5頁(2)
藤原俊雄・民事法情報 232号15頁(1)
末村篤・企業会計 57巻5号66頁
河野玄逸=北川恵子 他・銀行法務21 647号24頁(特集)
田中庸介・法と政治(関西学院大学) 56巻3・4号73頁
裁判年月日 平成17年 3月11日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 決定
事件番号 平17(ヨ)20021号
事件名 新株予約権発行差止仮処分命令申立事件 〔ライブドア/ニッポン放送新株予約権発行差止請求事件・仮処分決定審〕
裁判結果 申立て認容 上訴等 保全異議申立て後、仮処分決定認可、保全抗告 文献番号 2005WLJPCA03110001
東京都新宿区a町b丁目c番d号
債権者 株式会社ライブドア
上記代表者代表取締役 堀江貴文
上記代理人弁護士 三井拓秀
同 清水俊彦
同 高浜裕子
同 松島基之
同 根井真
同 木ノ山了子
同 廣田聡
同 清水政彦
同 三部裕幸
同 西岡祐介
同 神谷光弘
同 木ノ内さつき
同 熊木明
同 新保克芳
同 上野保
東京都千代田区e町f丁目g番h号
債務者 株式会社ニッポン放送
上記代表者代表取締役 亀渕昭信
上記代理人弁護士 中村直人
同 松山遙
同 川井信之
同 西本強
同 山下丈
上記当事者間の頭書事件につき、当裁判所は、債権者が本決定の送達を受けた日から5日以内に、債務者のために金5億円の担保を立てることを保全執行の実施の条件として、次のとおり決定する。
主 文
1 債務者が平成17年2月23日の取締役会決議に基づいて現に手続中の新株予約権4720個の発行を仮に差し止める。
2 申立費用は債務者の負担とする。
理 由
第1 申立ての趣旨
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、債務者の株主である債権者が、申立ての趣旨に係る新株予約権(以下「本件新株予約権」という。)の発行について、〈1〉特に有利な条件による発行であるのに株主総会の特別決議(商法280条ノ21第1項)がないため、法令に違反していること、〈2〉著しく不公正な方法による発行(以下「不公正発行」という。)であることを理由として、本件新株予約権の発行を仮に差し止めることを求めた事案である。
2 当事者の主張は別紙のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 後掲の各疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 当事者等
ア 債務者
(ア) 債務者は、昭和29年4月に設立され、放送法に基づく一般放送事業(AMラジオ放送)、BSデジタル音声放送の企画・制作・運営、その他関連物の企画・制作・運営等を主たる事業内容とする株式会社であり、AMラジオ業界における売上高1位のラジオ局である。平成17年2月現在の資本金は41億5000万円、発行済株式総数は3280万株であり、その発行する普通株式を東京証券取引所第二部に上場している。債務者においては、単元株制度が採用されており、1単元の株式数は10株である。また、平成16年3月期における総資産額は791億3100万円である。(甲1、3、乙5、審尋の全趣旨)
(イ) 債務者はいわゆるフジサンケイグループの一員であり、株式会社フジテレビジョン(以下「フジテレビ」という。)とは持分法適用関連会社の関係にあり、平成17年1月時点で同社の発行済株式総数のうち22.5パーセントを保有している。(甲5、26の3、乙1、5、43、77の1、2、乙79)
株式会社ニッポン放送プロジェクト、株式会社一口坂スタジオ、株式会社彫刻の森は、いずれも債務者の100パーセント子会社であり、株式会社ビッグショット及び株式会社ニッポンプランニングセンターは、いずれも株式会社ポニーキャニオンと債務者の子会社であり、株式会社フジサンケイエージェンシーは、債務者とフジテレビの子会社であり、株式会社ポニーキャニオンは、債務者、フジテレビ、株式会社産業経済新聞社等の子会社である。(乙15から21までの各1、2)
(ウ) 債務者の定時株主総会は、毎年6月に招集され、定時株主総会において権利を行使することのできる株主は、債務者の定款上、毎決算期の最終(3月31日)の株主名簿に記載又は記録された株主とされている。(乙4、70)
イ 債権者等
債権者は、平成8年4月に設立され、その資本金を240億3000万円(平成17年1月現在)とし、コンピュータネットワークに関するコンサルティング、コンピューターネットワークの管理、コンピュータプログラムの開発・販売、ネットワークコンテンツの編集・デザイン等を主たる事業内容とする株式会社である。(甲29の1)
株式会社ライブドア・パートナーズは、平成16年10月に設立され、その資本金を1000万円とし、投資顧問、証券投資信託委託等を主たる事業内容とする株式会社であり、債権者の子会社である。(審尋の全趣旨)
ウ フジテレビについて
フジテレビは、昭和32年11月に設立され、放送法に基づくテレビジョン放送、放送業務一般等を主たる事業内容とする株式会社である。フジテレビは、以前より債務者の発行済株式総数の12.39パーセント(406万4660株)を保有する債務者の株主であったが、後記の本件公開買付けにより、債務者の発行済株式総数の36.47パーセント(1196万1014株)を保有する債務者の株主となった。また、フジテレビの取締役のうち4名は、債務者の取締役を兼務している。(甲1、2、5、乙111、112)
(2) 本件新株予約権発行前の状況
ア フジテレビは、平成17年1月17日、債務者の経営権を獲得することを目的とし、債務者の全ての発行済株式(債務者の保有する自己株式は除く。)の取得を目指して、証券取引法に定める公開買付けを開始することを決定した(以下「本件公開買付け」という。)。
本件公開買付けにおいては、買付予定株式数をフジテレビの既保有分を含めて債務者の発行済株式総数の50パーセントとなる1233万5341株(ただし、応募株券の総数が買付予定株式数を超えたときは、応募株券の全部を買い付ける。)、買付価格を1株5950円、買付期間を平成17年1月18日から同年2月21日までとしていた。(甲5、7)
債務者はこれを受けて、平成17年1月17日開催の取締役会において本件公開買付けに賛同することを決議し、同日付けの「公開買付けの賛同に関するお知らせ」と題する書面を公表した。(甲6、8、乙41)
フジテレビ及び債務者は、本件公開買付け終了後、債務者の株式を上場廃止することを念頭においていた。(乙93)
イ 債権者は、債務者の発行済株式総数の約5.4パーセント(175万6760株)を保有していたが、本件公開買付け期間中である平成17年2月8日に、東京証券取引所のToSTNeT-1を利用した取引によって、株式会社ライブドア・パートナーズを通じて、債務者の発行済株式総数の約29.6パーセントに相当する株式972万0270株を買い付け(以下「本件ToSTNeT取引」という。)、その結果、債務者の発行済株式総数の約35.0パーセントの割合の普通株式を保有する株主となった。(甲4)
そして、債権者は、同日付けの「意向表明書」により、何人かの債務者の株主に対し、債務者の普通株式全部の取得を希望する旨を伝えた。(乙34)
また、債権者の代表取締役堀江貴文(以下「債権者代表者」という。)は、同日、記者会見を行い、債務者株式の取得の意図について、放送局が保有するWebサイトをポータル化し、シナジー効果を得ることを目的とするものであり、また、フジサンケイグループとの業務提携をも見据えたものであることを明らかにした。(甲9、42、乙27)
ウ フジテレビは、平成17年2月9日ころ、本件公開買付けについて、取組方針を鋭意検討しているとのコメントを発表し、また、フジテレビの代表取締役会長日枝久(以下「フジテレビ代表者」という。)は、記者に対し債権者と業務提携の気持ちはない旨を述べ、債権者が求めている提携に対し否定的な考えを示した。(甲53、審尋の全趣旨)
フジテレビは、同月10日、本件公開買付けに係る買付条件を変更し、買付株式数の下限はフジテレビの既保有分を含めて債務者の発行済株式総数の25パーセント、買付価格は1株5950円、買付期間は平成17年3月2日までとした。また、本件公開買付けの目的を訂正し、従前の目的に加え、外部企業との事業提携については、今後の放送と通信の融合の時代への転換を展望して、ブロードバンド・モバイル関連分野において積極的に推進していくこと、その際には債務者及びフジサンケイグループとしての今後のインターネット戦略を基軸にしつつ、提携候補先の有する事業ノウハウ、技術開発力、営業インフラ、人材等の諸要素、加えて当グループとの親和性とシナジー効果につき総合勘案して主体的に決定していくことを方針としているとした。この本件公開買付けに係る買付条件の変更は、同月18日に公告された(甲10、13)。
債務者は、これを受けて、同月16日開催の取締役会において前記の本件公開買付条件等の変更等を含む本件公開買付けに賛同することを決議した。(甲14、15、乙62)
エ 債権者と株式会社ライブドア・パートナーズは、平成17年2月21日までに債務者の株式1152万9930株を取得し、債務者の総議決権に対する割合が37.85パーセントとなった。(甲16、17)
金融庁が、債権者の株式取得に関して、「時間外だが、東証での市場内取引のため、TOBを採用する必要はなく、違法と認定できない。」とのコメントを発表したとの新聞報道が、同月16日ころになされた。(甲58)
オ フジテレビ代表者は、平成17年2月17日に債務者の代表取締役亀渕昭信(以下「債務者代表者」という。)に対し、債権者が債務者の株式の過半数を取得し、子会社化した場合には、フジテレビ及びフジサンケイグループは、債務者及びその子会社との従前の取引を中止せざるを得ないと口頭で伝えた。なお、フジテレビにおいては、取引中止は担当役員の決裁事項であり、取締役会決議事項ではない。平成17年2月28日のフジテレビの取締役会で、債務者に対して前記の取引中止の意向を記載したフジテレビ代表者作成の陳述書を本件仮処分事件の疎明資料として提出することの承認決議がなされ、その後、同陳述書が本件仮処分事件の疎明資料として提出された。(乙2、63から65まで)
(3) 本件新株予約権発行の公表
ア 債務者は、平成17年2月23日の取締役会において、大量の新株予約権をフジテレビに発行するとする別紙「本件新株予約権の要綱」記載の要領による本件新株予約権の発行を決議した。この取締役会決議は、債務者の19名の出席取締役のうち、特別利害関係人にあたる可能性のある4名の取締役を除いた15名の取締役の全員一致によってなされたものであり、その15名の中には4名の社外取締役も含まれていた。
イ 債務者は、上記の取締役会決議後に平成17年2月23日付けで「第三者割当による新株予約権発行のお知らせ」と題する書面を公表した。この書面には、本件新株予約権の発行は、債務者の企業価値の維持と、債務者がマスコミとして担う高い公共性の確保のために行うものであり、債権者が債務者の支配株主となることは債務者がマスコミとして担う高い公共性と両立しないと判断し、債権者による大量の債務者株式取得という公開買付けの開始後に発生した事情に影響を受けることなく、債務者が賛同を表明したフジテレビによる債務者の子会社化という目的を達成する手段として、フジテレビへの本件新株予約権の付与を決定した旨が記載されていた。また、本件新株予約権の発行により取得する払込金(新株予約権の発行価額の総額)は、(仮)臨海副都心スタジオプロジェクトへの整備資金に充当する予定であるとされていた。(甲18、25、26の1、2)
ウ 債務者代表者とフジテレビ代表者は、同日、共同で記者会見に出席し、フジテレビ代表者は、フジテレビの機関決定はなされていないとした上で、本件新株予約権の発行に賛成を表明した。(甲37の1、2)
フジテレビは、平成17年2月24日付け書面で、債務者の行う本件新株予約権の引受け及び行使については、本件公開買付期間終了後、買付結果を踏まえた上で、フジテレビとして十分な検討を行って決定する予定であることを公表した。(甲22)
(4) 本件新株予約権発行公表後の状況
ア フジテレビは、平成17年2月24日に本件公開買付けの条件をさらに変更し、買付期間の満了日を平成17年3月2日から同年3月7日に変更した。(甲23)
イ 株式会社産業経済新聞社の代表取締役社長住田良能は、平成17年2月25日付け書面で、債務者代表者に対し、債務者が債権者の子会社となる事態になった場合には、債務者との従前からの全ての事業上の関係を清算する意向であることを示した。住田良能の前記意向は、平成17年3月1日に開催された株式会社産業経済新聞社の取締役会において事後承認された。(乙3、66)
ウ 本件については、平成17年2月24日、衆議院予算委員会において質疑がなされ、七条明金融担当副大臣は、債権者が行った本件ToSTNeT取引は、現行法上、基本的には違法と評価されないと答弁した。(甲38の1、2)
(5) 本件新株予約権の内容と株価の状況
ア 発行価額の算出方法
本件新株予約権の発行価額(1株あたり336.2731円(1個あたり336万2731円)。以下「本件発行価額」という。)は、新株予約権の目的となる株式の数を4720万株(希薄化率143.9パーセント)、株式の基準時価を6750円(平成17年2月22日の終値)、ボラティリティ(株価変動率)を26.1パーセント(平成17年2月7日における65日間ヒストリカルボラティリティ)、無リスク金利を0.099パーセント(TIBOR3か月)、配当利回りを0.089パーセント、借株レートを5.0パーセント(市場実勢を踏まえた推測)との前提条件を置いて、大和証券エスエムビーシー株式会社が、同社で開発した三項ツリーモデルと呼ばれるオプション価格算定モデルを用いて算出したものである。(甲18、25、26の1、2、乙42、45、93)。
イ 本件新株予約権行使の影響
本件新株予約権の発行総額は、158億7209万0320円であり、これが全て行使された場合に発行される株式数4720万株は、従来の発行済株式総数の約1.44倍にあたる。また、新株予約権が全て行使されて普通株式に転換された場合の株式の発行総額は、2808億4000万円(新株予約権の行使により発行される株式1株あたりの払込金額(以下「行使価額」という。)が5950円の場合)となり、これは債務者の現在の資本金額の約68倍、債務者の平成16年3月期の総資産額の約3.5倍となる。さらに、本件新株予約権が全て行使されて普通株式に転換された場合、債権者による債務者株式の保有割合は、約42パーセントから約17パーセントへと減少し、一方で、フジテレビの保有割合は、新株予約権を行使した場合に取得する株式数だけでも約59パーセントになる。
ウ 債務者の株価の推移
平成17年1月27日から同年3月3日までの債務者の株価の推移は別紙「債務者の株価推移表」のとおりである。(甲51)
また、債務者の過去の市場価格の平均は次のとおりである。(乙72の1)
過去1か月平均 過去3か月平均 過去6か月平均
平成17年1月16日まで 5133円 4938円 5122円
平成17年2月7日まで 5849円 5240円 5184円
平成17年2月22日まで 6450円 5591円 5327円
エ 日本証券業協会の自主ルール
日本証券業協会の平成15年3月11日付け一部改正に係る「第三者割当増資の取扱いに関する指針」(以下「自主ルール」という。)は、株主総会特別決議を経て発行される場合以外の第三者割当増資の発行価額について、「発行価額は、当該増資に係る取締役会決議の直前日の価額(直前日における売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日の価額)に0.9を乗じた額以上の価額であること。ただし、直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から発行価額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に0.9を乗じた額以上の価額とすることができる。」と規定している。(乙71)
(6) 現在の株式保有状況
債権者は、本件ToSTNeT取引以降も債務者株式を買い付け、平成17年3月7日現在で、子会社である株式会社ライブドア・パートナーズを通じて保有するものも含めて、発行済株式総数の42.23パーセント(1385万2590株。債権者保有分322万5180株、株式会社ライブドア・パートナーズ保有分1062万7410株)を保有している。(甲96)
フジテレビは、平成17年3月7日に終了した本件公開買付けにより、新たに789万6354株の債務者株式を取得し、発行済株式総数の36.74パーセント(1196万1014株)を保有する株主となった。(乙111、112)
2 債権者が債務者の支配株主となった場合に債務者に生じる影響
(1) 債務者の主要な業務は、ラジオ放送、放送時間の販売並びに番組の制作及び販売であり、その他興行、イベントの開催などを行っている。(乙8の1)
債務者の放送事業においては、CM販売収入が多く、平成16年3月度の売上高合計に占める割合は約47パーセントである。イベント事業収入の売上高合計に占める割合は約4.6パーセント、興行収入の売上高合計に占める割合は約22パーセントである。(乙4、5、乙8の2の1、2)
(2) 債務者の主張
債務者は、債権者が債務者の支配株主になった場合、次のような損失が生じると試算し、債務者が喪失する将来収益等の合計を現在価値に引き直すと約550億円から約1450億円にのぼると主張し、後掲の各疎明資料を提出している。
ア 債務者が高い聴取率を獲得しているのは、フジサンケイグループの協力により、番組進行役であるパーソナリティの選定・確保と優れた番組コンテンツの確保が可能であったからであり、債務者がフジサンケイグループから離脱した場合、パーソナリティが降板し、フジサンケイグループから番組コンテンツの提供を受けることができなくなり、債務者の聴取率が著しく低下し、スポンサー収入が激減する。
また、債務者の放送の看板番組は「ショウアップナイター」と題するプロ野球開幕中に毎日放送しているナイター中継番組であり、債務者は、巨人、ヤクルト、横浜ベイスターズ、ロッテ、西武の各球団との間で放送権契約を締結し、株式会社電通との間で大リーグ中継のための放送権契約を締結しているところ、これらの契約には、債務者の経営主体に変動があった場合、各球団は放送権契約を解除できるものとする旨の条項がある。したがって、債権者が債務者の支配株主となると、債務者としてはこれらの放送ができないことになる。
さらに、債務者は、フジサンケイグループ各社との共催により実施しているイベント事業が多いが、債務者は、債権者が債務者の支配株主になると、債務者がフジサンケイグループから離れることになり、その関連での売上げが減少する。
結局、債務者の売上げの減少は約71億円、粗利益の減少は約28億円と見込まれる。
これに加え、債務者の従業員らも債権者が支配株主となることに反対しており、債務者が債権者の子会社になれば、その人的資産も毀損するし、債務者はフジサンケイグループの一員として大きなブランド力を持ち強い営業力を維持してきたところ、フジサンケイグループを離脱するとブランド力は大きく毀損される。
(以上、乙8の1、乙8の2の1、2、乙8の3から6まで、乙9、12の1、2、乙13、14、48、56から58まで、67、74)
イ 債務者の子会社である株式会社ポニーキャニオンは映画やテレビドラマ等のビデオ、DVDを製造・販売するいわゆる映像事業を行っているが、その事業はフジサンケイグループ各社との間の原盤供給契約に基づき、グループ各社との連携により遂行している。
債務者がフジサンケイグループから離れることになると、フジサンケイグループ各社との取引が中止され、売上げの減少は約234億円、粗利益の減少は約80億円と見込まれる。(乙15の1から4まで、乙48、68)
ウ 債務者の子会社である株式会社ビッグショットは広告の制作及び仲介、各種イベントの制作及び運営、販売促進用プレミアムの販売等をする会社であり、債務者がフジサンケイグループから離れると、株式会社ビッグショットはフジサンケイグループ各社から業務の委託を受けることができなくなり、売上げの減少が約29億円、粗利益の減少は約4億2000万円と見込まれる。(乙16の1から3まで、乙48)
エ 債務者の子会社である株式会社フジサンケイエージェンシーは、フジサンケイグループ各社及び同グループの従業員を顧客とした損害保険、生命保険を取り扱う会社であり、債務者がフジサンケイグループから離れると、株式会社フジサンケイエージェンシーはその事業の大半が継続不能となる。また、売上げの減少が約10億6500万円、粗利益の減少は約1億8300万円と見込まれる。(乙17の1から3まで、乙48)
オ 債務者の子会社である株式会社ニッポン放送プロジェクトは、リース事業やラジオショッピング事業を主として行っており、債務者がフジサンケイグループから離れると、株式会社ニッポン放送プロジェクトは、フジサンケイグループ各社とのリース取引を失うことになり、売上げの減少が約19億4400万円、粗利益の減少は約2億0600万円と見込まれる。(乙18の1から3まで、乙48)
カ 債務者の子会社である株式会社一口坂スタジオは、スタジオのレンタル業、音響・映像関連事業を行っているが、債務者がフジサンケイグループから離れると、株式会社一口坂スタジオは、フジサンケイグループ向けの取引がなくなり、売上げの減少が約8700万円、粗利益の減少は約2800万円と見込まれる。(乙19の1から3まで、乙48)
キ 株式会社彫刻の森は、箱根にある「彫刻の森美術館」におけるレストランやショップの運営及びお台場のフジテレビ本社内の来訪者用ショップでのグッズ販売等を行っており、債務者がフジサンケイグループから離れると、株式会社彫刻の森はフジテレビ本社内での販売や、フジテレビ関連グッズの販売ができなくなり、売上げの減少が約4億2600万円、粗利益の減少は約5800万円となり、赤字会社となることが見込まれる。(乙20の1から3まで、乙48)
ク 株式会社ニッポンプランニングセンターは、CDやDVDのジャケット等のデザイン、制作及び販売促進グッズのデザイン、制作等を行う会社であり、債務者がフジサンケイグループから離れると、株式会社ニッポンプランニングセンターはフジサンケイグループ各社との取引がなくなり、売上げの減少が約2億5800万円、粗利益の減少は約4700万円となり、赤字会社となることが見込まれる。(乙21の1から3まで、乙48)
(3) 債権者の主張
債権者は、債務者が債権者の子会社となった場合、債権者の行っていたインターネットビジネスと融合することにより次のような効果が得られると主張し、後掲の各疎明資料を提出している。
ア 債務者がインターネットのポータルサイトを自ら運営することになり、〈1〉ラジオの聴取者を債務者が運営するポータルサイトに誘導して、会員化し、聴取者情報を把握することにより、広告主への訴求力の向上や聴取者にあわせた番組づくりができ、また会員化することによって商品代金の決済に必要な情報を管理することもできるため、代金の決算が簡易になり、商品販売も増加する、〈2〉ラジオで紹介した商品を債務者の営むポータルサイトのショッピングサイトで特集し、ラジオでは伝達できない視覚情報も提供することで、商品販売を促進するとともに、聴取者のニーズも捉えられることになるし、販売機会を獲得できる、〈3〉リアルタイムの放送を聴取できなかった聴取者に対して、過去の番組を有料でダウンロードする仕組みを債務者が運営するポータルサイトから提供することにより、課金収入を得ることができることはもちろん、ラジオ放送そのものへの聴取者の繋ぎ止め効果や満足度向上に役立つ、〈4〉以上のようなサービスの向上によって、債務者のポータルサイトの魅力が増して訪問者が増加し、その結果、ラジオ放送自体の聴取率が上昇し、サイトともども広告媒体としての価値が増加して広告収入が増加する。
イ 広告売上げに対する影響
債務者のカバー人口は約4054万人であり、債務者のコアのファンは約1050万人である。債務者の運営するラジオ番組と債権者のポータルサイトの提携により、債権者の顧客数は3年間で1050万人増加し、その結果として、閲覧数が大幅に増加すると予測される。
今回の提携により平成17年の広告収入は約116億円増加すると見込まれる。ラジオ聴取者をポータルサイトに誘導したことで増加した広告収入の70パーセントを債務者に還元するとともに、ラジオ聴取者からポータルサイトへの会員化誘導に成功した場合にはその件数に応じて債務者に成功報酬(1件あたり1000円)を支払うビジネスモデルを考えているため、平成20年の債務者の広告売上増は279億円、営業利益増は230億円と推定される。(甲29の1)
ウ 物品販売に対する影響
ラジオからの顧客誘導により債権者が開設する物品販売サイトの利用者が増加し、これにより取扱高が増加するとともに、債権者が開設する物品販売サイトでの売上高の5パーセントを債務者に還元することにより、平成20年の債務者の売上増は110億円、営業利益増は42億円と予測される。(甲29の1)
株式会社ポニーキャニオンのCDとDVDの売上高は、590億円程度であるが、ラジオ番組と連携した通信販売を行うことにより、平成17年には10パーセント程度の売上げ増加が達成できる。(甲29の1)
エ 課金サービスに対する影響
株式会社ポニーキャニオンの映像・音楽ソフトを債権者のインターネット関連技術及びポータルサイトチャネルを利用することにより、多くの消費者に対してインターネットで配信することが可能となり、株式会社ポニーキャニオンの平成20年の売上増は229億円、営業利益増は69億円と推定される。(甲29の1)
オ フジサンケイグループ各社との取引が中止されることの影響
債務者とフジサンケイグループ各社との取引は、受注ベースで10億円、発注あるいは支払いベースでもほぼ同様の金額水準であり、債務者の単体の売上高が308億円以上であることを考慮すれば、フジサンケイグループ各社との取引中止が債務者の単体の業績に及ぼす影響は軽微である。
株式会社ポニーキャニオンの売上げは、フジサンケイグループ各社との取引の停止によって、約140億円(約30パーセント)ほど減少するかもしれないが、フジサンケイグループとの排他的な取引関係の開放による収益機会の増大により、平成20年には約288億円の売上高の伸びが考えられる。(甲29の1)
カ 以上の結果、債務者の企業価値が上昇し、その結果、債務者の株価は1株あたり1万2493円から1万3808円となり、一般株主を含む株主全体にとって利益が得られる。(甲29の2)
3 被保全権利の存否について
(1) 本件新株予約権の発行が有利発行にあたるかどうかについて
ア 債権者は、本件新株予約権の発行価額は適正価格を大きく下回る有利発行であるところ、株主総会の特別決議を経ていないため、本件新株予約権の発行は法令違反であると主張する。
商法280条ノ21第1項にいう「特ニ有利ナル条件」による新株予約権の発行とは、公正な発行価額よりも特に低い価額による発行をいうところ、新株予約権の公正な発行価額とは、現在の株価、権利行使価格、権利行使期間、金利、株価変動率等の要素をもとにオプション評価理論に基づき算出された新株予約権の発行時点における価格をいうと解されるから、こうして算出された価額と取締役会において決定された発行価額とを比較し、取締役会において決定された発行価額が大きく下回るときは、新株予約権の有利発行に該当すると解すべきである。
これを本件についてみると、本件発行価額は1株あたり336.2731円、行使価格は5950円(ただし、調整される場合がある。)であるところ、前記1(5)アのとおり、本件発行価額は、新株予約権の目的となる株式の数を4720万株(希薄化率143.9パーセント)、基準時価を6750円(平成17年2月22日の終値)として、三項ツリーモデルと呼ばれるオプション価格算定モデルを用いて算出されたものである。
イ これについて、債権者は、この三項ツリーモデルを用いること自体には異議はないものの、〈1〉本件新株予約権はフジテレビが債務者の支配権を取得するために行使されるものであり、その全てが行使されるわけではないから、そのような前提を置くべきではなく、行使割合が54.8パーセントとすると発行価額は447円(希薄化係数0.56倍)、行使割合が25.5パーセントとすると発行価額は585円(希薄化係数0.73倍)となり、本件発行価額は有利発行といえること、〈2〉本件新株予約権には消却条項があるとしても、新株予約権者たるフジテレビは1か月の猶予期間中に本件新株予約権を行使することが可能であるから、消却条項の存在を理由に発行価額を減額するのは相当でないこと、〈3〉経営支配が争われているときに、片方に支配権を与えるのであるから、支配プレミアムを上乗せして計算すべきであり、その場合、行使割合を54.8パーセントとすると発行価額は825円、行使割合を25.5パーセントとすると発行価額は1079円となるから、本件発行価額は有利発行といえること等を主張し、それに沿った疎明資料(甲30)を提出する。
そこで、この債権者の主張について検討すると、〈1〉については、現段階で本件新株予約権が全部行使されないのかどうかは明らかではないから、本件新株予約権が全て行使されることを前提としてその発行価額を算定するのが不合理であるとまではいえない。
〈2〉については、発行価額の算定において消却条項を考慮すれば理論的には発行価額は減額されるということができるが、債務者は本件発行価額の算出に当たり消却条項を考慮していないというのであるから(乙46)、債権者の主張はその前提を欠いているといわざるを得ない。
〈3〉については、前記1(5)ウのとおり、フジテレビが本件公開買付けを発表した後の平成17年1月27日の債務者の株価の終値は5950円であり、その後、債権者の株式購入の意向表明のあった同年2月8日に6800円をつけるまでの間は、債務者の株価の終値は6000円前後であったこと、本件新株予約権発行の決議のあった前日である同年2月22日時点での過去1か月平均の株価は6450円、3か月平均の株価は5591円、6か月平均の株価は5327円であったことからすると、基準時価を6750円として算出された本件発行価額について、さらに支配権プレミアムを考慮しなければ不合理であるとまではいえない。
以上のほか、本件発行価額の算出方法についての大和証券エスエムビーシー株式会社作成の説明資料等(乙45、乙46)に明らかに不合理な点は認められないから、本件発行価額がオプション評価理論に基づき算出される公正な発行価額を大きく下回り、本件新株予約権の発行が「特ニ有利ナル条件」による発行であるとまでいうことはできない。
ウ ところで、本件新株予約権は、申込期間を平成17年3月23日、払込期日を同月24日、行使請求期間を同月25日から同年6月24日までとしているところ、前記1(3)イのとおり、債務者は、債権者による大量の債務者株式取得という公開買付けの開始後に発生した事情に影響を受けることなく、フジテレビによる債務者の子会社化という目的を達成するための手段として本件新株予約権を発行したというのであるから、定時株主総会においてフジテレビが過半数以上の議決権を行使できるよう、フジテレビの持株割合からみて必要な数の本件新株予約権が、行使請求期間の初日である同年3月25日から議決権行使の基準日である同月31日までに行使されることが確実であるということができる。このことは、同年4月1日以降は本件新株予約権の行使価格が株式の時価に修正されるものとされており、実際には同日以降に行使がされることは考えられないことからも裏付けられる。
そうであれば、本件新株予約権は、オプションとしての形式を持つものの、その行使がなされることが確実であり、かつ、発行後極めて短期間に行使されることが予定されているということができ、そのような観点から、本件新株予約権の発行は、実質的には新株の発行と同一であるということができる。
本件新株予約権の発行におけるこのような特殊な事情を考慮すると、新株の有利発行を判断する際に株価を基準とした公正なる発行価額と実際の発行価額を比較するのと同様に、本件新株予約権の有利発行の判断として、株価を基準とした公正なる発行価額と1株あたりの本件発行価額と行使価格の合計額とを比較することにも、一応の合理性があると解される。
この観点からみると、本件発行価額(1株あたり336.2731円)と行使価格(5950円)の合計額である6286.2731円(以下「本件合計額」という。)は、平成17年2月22日の債務者株式の終値6750円の約93パーセントに相当する価格である。また、フジテレビが本件公開買付けを発表した後の平成17年1月27日の債務者の株価の終値は5950円であり、その後、債権者から株式購入の意向表明のあった同年2月8日に6800円の値をつけるまでの間は、債務者の株価の終値は6000円前後で推移していたところ、本件新株予約権発行の決議のあった前日である同年2月22日時点での過去1か月平均の株価は6450円、3か月平均の株価は5591円、6か月平均の株価は5327円であったが、本件合計額は、1か月平均の株価の約97パーセントに相当し、3か月平均及び6か月平均の株価についていずれもこれを上回っている。そうすると、発行決議の直前日の株価又は決議に先立つ一定期間の平均株価の9割の発行価額での第三者割当増資を認める日本証券業協会の自主ルールの基準(同ルールの内容は1(5)エのとおりであり、これは、旧株主の利益と会社の利益との調和の観点から日本証券業協会における取扱いを定めたものとして一応の合理性を認めることができる。)に照らしても、本件合計額が特に有利なもの、ひいては本件発行価額が特に有利なものとまではいえない。
そうであれば、本件新株予約権の発行が新株の発行と実質的に同一であるとの本件における特殊な事情を考慮した検証によっても、本件発行価額が公正な価格を大きく下回り、本件新株予約権の発行が「特ニ有利ナル条件」による発行にあたるとまでいうことはできない。
したがって、本件新株予約権の発行が有利発行にあたるとする債権者の主張には理由がない。
(2) 本件新株予約権発行が不公正発行といえるかどうかについて
ア 不公正発行の意味について
商法280条ノ39第4項、280条ノ10所定の「著シク不公正ナル方法」による新株予約権発行とは、不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合をいうと解されるところ、株式会社においてその支配権につき争いがあり、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株予約権が発行され、それが第三者に割り当てられる場合に、その新株予約権発行が支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営陣の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、会社ひいては株主全体の利益の保護という観点からその新株予約権発行を正当化する特段の事情がない限り、不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合にあたるというべきである。
商法は、公開会社について株主の新株引受権を排除し、原則として株主の会社支配比率維持の利益を保護していないから、新株又は新株予約権(以下「新株等」という。)の発行の目的に照らし第三者割当を必要とする場合には、授権資本制度のもとで取締役に認められた経営権限の行使として、取締役の判断のもとに第三者割当をすることが許容され、その結果として取締役の権限行使が株主の持株比率に影響を与えることがあることは法の予定するところである。しかしながら、会社支配権の争奪は、不適任な経営者を排除し、合理的な企業経営を可能とするという側面も有しており、一概に否定されるべきものではないところ、公開会社において、現にその支配権につき争いが具体化した段階において、取締役が、現に支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営陣の支配権を維持することを主要な目的として新株等の発行を行うことは、会社の執行機関にすぎない取締役が会社支配権の帰属を自ら決定するものであって原則として許されず、新株等の発行が許容されるのは、会社ひいては株主全体利益の保護の観点からこれを正当化する特段の事情がある場合に限られるというべきである(もっとも、このようにいうことは、公開会社が、あらかじめ敵対的買収者を想定して会社支配権の争奪の状況が発生する前に何らかの対抗策を設けることを否定する趣旨ではない。敵対的買収に備えて会社として事前にどのような措置を講ずることが許容されるのか、その内容、基準、社外取締役の関与、株主総会の承認など導入に際しての手順については、現在、有識者により様々な場において検討されているところであり、今後、議論が深化し、会社ひいては株主全体利益の保護の観点から公正で明確なルールが定められることが期待される。)。
イ 本件新株予約権発行の目的について
これを本件についてみると、確かに債務者の経営陣は事前にフジテレビによる公開買付けに協力することを決定しており、本件新株予約権の発行について社外取締役4名を含む全員が一致しているものであることに照らしても、自らの保身のために本件新株予約権の発行を決定したものとは認められないから、本件新株予約権の発行は現在の取締役の地位保全を主たる目的とするものということはできない。しかしながら、前記1(3)イのとおり、債務者は、債権者による大量の債務者株式取得という公開買付けの開始後に発生した事情に影響を受けることなく、債務者が賛同を表明したフジテレビによる債務者の子会社化という目的を達成する手段として、本件新株予約権を付与したというのであるから、本件新株予約権の発行は、現経営陣と同様にフジサンケイグループに属する経営陣による支配権の維持を目的とするものであり、なお現経営陣の支配権を維持することを主たる目的とするものというべきである。
これに対し、債務者は、本件新株予約権の発行は、証券取引法の規制を潜脱して債務者の株式を買い占め、債務者の当初からの事業戦略(フジサンケイグループとの連携強化)を妨害している債権者を排除することにより、債務者の企業価値の毀損を防ぎ、企業価値を維持・向上させ、また放送の公共性を確保するために行ったものであり、本件新株予約権の発行は正当なものであると主張している。
そこで検討するに、企業価値とは、会社ひいては株主全体の利益をいうものと解することができるところ、特定の株主の支配権取得によりかかる利益が毀損される場合には、取締役はこれを防止することを目的としてそのために相当な手段をとることが許される場合があるというべきである。他方、現経営陣の支配権の維持を主たる目的とする新株予約権の発行が原則として許されないことからすると、企業価値の毀損防止のための手段として新株予約権の発行を正当化する特段の事情があるというためには、特定の株主の支配権取得により企業価値が著しく毀損されることが明らかであることを要すると解すべきである。
ところで、会社には、株主のほかにも、従業員・取引先・顧客・地域社会などの利害関係者が存在し、これら利害関係者の利益を高めることは、長期的には株主全体の利益にも沿うということができるから、企業価値の検討にあたっては、これら利害関係者の利益をも考慮する必要があると一応いうことができる。しかしながら、特定の株主らが事業計画を示して会社支配権の争奪を行っている場合に、いずれの事業計画がこれら利害関係者の利益に資するのかを数値化して比較することは困難である。
本件では、当事者双方とも企業価値の比較を行う際の指標として、株主の利益たる今後の収益見通しに基づく客観的企業価値を主張することから、以下、この観点から判断を行うこととする。
ウ 企業価値の毀損のおそれについて
当事者双方は、それぞれの事業計画や事業実績を前提に、債権者が債務者の支配権を取得した場合の債務者に生ずる事業利益の増減を主張している。ところで、企業の支配権を争う者がそれぞれの事業計画を前提に収益見通しを主張する場合において、本来、いずれに経営を委ねた方が収益の向上が期待できるかを判断するのは株主であり、双方が株主に対し自らの事業計画を説明し、その理解と支持を求めるべきであろう。これに対し、当裁判所の判断の対象となるのは、債権者の支配権取得により企業価値が著しく毀損されることが明らかといえるかどうかという点である。これに加えて、現経営陣側は事業内容を知り尽くしているのに対し、買収者側は必ずしも事業内容を熟知していない点で事業計画を立案する上で平等な立場にないことも考慮する必要がある。
そうであれば、裁判所がこの判断を行うにあたっては、株主と同一の立場に立って、双方の事業計画や収益見通しを比較し、いずれが合理的かという観点から行うのではなく、債務者の疎明と債権者の疎明を総合して、債権者による支配権取得が債務者に回復しがたい損害をもたらすことが明らかといえるか、債権者が提示した事業計画に合理性が認められず、真摯に合理的な経営を目指すものということができないかという観点から行うべきである。そして、こうした観点から審査を行い、債権者の支配権取得により企業価値が著しく毀損されることが明らかとはいえない場合、現経営陣及び買収者のいずれの事業計画が合理的かの判断は、会社支配権の争奪に対する取締役の違法な関与を排除した上で、株主によってなされるべきものである。
(ア) 債務者が債権者の子会社となることによる損失
債務者は、債務者が債権者の子会社となり、フジサンケイグループから離脱すると、放送事業のうち看板放送である野球放送について契約を打ち切られ、番組作成についてグループからの協力が得られず聴取率が低下してスポンサーを失い、グループ各社との共催によって実施していたイベントができなくなって収入が激減するし、また、債務者の子会社らもフジサンケイグループ各社との取引を中止されることにより収入が激減すると主張している。また、債務者は、債務者の従業員は債権者の経営参画に反対する旨の声明を出しており、債務者が債権者の子会社となると、債務者の人的資源が流出するし、フジサンケイグループとしての債務者のブランド価値も失われると主張している。
a フジサンケイグループ等との取引の打ち切り
債務者は、債権者がインターネットにおいてアダルトサイトを運営したり、メディアリンクスの粉飾決算に関わったり、架空取引を行うなど問題のある会社であることや、債権者代表者の言動等からすると、債務者が債権者の子会社となり、フジサンケイグループから離脱した場合に、債務者の取引先やフジサンケイグループ各社から取引を打ち切られるのは当然であり、そのような取引の打切りは独占禁止法違反にあたらないと主張し、これに沿う疎明資料を提出する(乙90から92まで)。
なるほど、株式会社ポニーキャニオンなどの債務者の子会社には、その事業につきフジサンケイグループとの取引に大きく依存しているものが少なくなく、債務者が債権者の子会社となったことにより同グループから取引を打ち切られた場合には、少なからぬ影響を受けることは否定できない。また、フジサンケイグループ各社以外の取引先も、債務者がフジサンケイグループの一員であるために取引を継続しており、債務者が同グループを離脱した場合には取引継続を再考する場合もあることも否定できない。
しかし、債務者の放送事業のうち野球放送の契約が打ち切られる点については、球団との契約の中に債務者の主張する解除条項が定められていることは認められるが、債務者が債権者の子会社となった場合に球団側が解除権を行使するのか否かは、現段階では明確ではないといわざるを得ない。
また、債務者が債権者の子会社となった場合に、フジテレビやフジサンケイグループ各社が取引停止を示唆したことが独占禁止法違反に該当するか否かについては、債務者の売上等が大幅に減少するという債務者の主張を前提にすれば、債務者及び株式会社ポニーキャニオンのフジテレビに対する依存度が大きいことになり、フジテレビの債務者及び株式会社ポニーキャニオンとの取引打切りは独占禁止法に違反するとの指摘(甲77の2)がある一方、公正取引委員会委員長は、平成17年3月9日の衆議院経済産業委員会において、本件に関して「取引は自由で、放送業界の市場で競争の制限も発生しない。」と述べており(乙109)、これと同旨を述べる意見書(乙90から92まで)も提出されている。債務者や株式会社ポニーキャニオンがフジテレビを含めたフジサンケイグループ各社と継続的取引を続けていたようなときに、このような理由による継続的取引の打切りが独占禁止法違反となるか否か又は解約に正当な理由があるか否かは、個々の取引関係を詳細に検討して判断すべきことであるから、フジサンケイグループ各社の取引打切りの可否について、現段階で一概にいうことはできない。また、フジサンケイグループ各社以外の取引先との取引についても、それらの取引先の取引打切りが許されるかどうかは、個々の取引関係を詳細に検討して判断すべきことである。
さらに、パーソナリティの確保や番組コンテンツの提供を受けることができなくなるとする点についても、債権者の提出する疎明資料(甲27)に照らせば、パーソナリティの確保ができなくなることが明らかとはいえない。
これに加え、債務者とフジサンケイグループ各社との取引は、平成16年3月期の売上高の実績で13億4000万円、同期の債務者の単体の売上高が308億円以上であること(乙8)を考慮すると、フジサンケイグループ各社との取引中止が債務者の単体の業績に及ぼす影響は必ずしも甚大ということはできない。
以上によると、債務者の単体に対する売上等の低下が債務者の試算するほどの金額にのぼることが明らかということはできない。
b 人的資産の毀損
債務者の従業員らが債権者が支配株主となることに反対を表明しているところ(乙56、57)、放送事業者において、人的ネットワークや各種特殊技能を用いて番組の企画制作や営業に当たる従業員は、極めて重要な役割を担う利害関係者といわなければならない。しかし、債権者が債務者の従業員らに対し、これまで自らの事業計画を説明したことはなく、債務者の従業員らが反対しているのは債権者代表者の発言を捉えてのことであること、債務者はこれまで数多くの企業を買収してきたが、買収に伴って従業員らを解雇したことはなく、買収後直ちに雇用条件の見直しを進めたことはないこと(甲29、甲75)を考慮すると、債務者が債権者の子会社となった場合に、債権者が従業員らと十分な協議を行うとともに、真摯な経営努力を続けたとしても、債務者の従業員らの大量流出が生じることが明らかであるとはいえない。
c ブランドイメージの毀損
債務者は、債務者がフジサンケイグループの一員として大きなブランド力を有しており、それによって強い営業力を維持しているため、債権者の子会社となってフジサンケイグループを離れれば、ブランド力は大きく毀損されると主張する。
しかしながら、債務者はAMラジオ業界における売上高1位のラジオ局であり、高い知名度を有すること等を考慮すると、債務者がフジサンケイグループのブランド力にどれほど依存しているかは明らかではなく、債務者がフジサンケイグループから離脱することによってブランドイメージが毀損され、著しく営業力が損なわれることが明らかであるとはいえない。
(イ) 債務者が債権者の子会社となることによる収益の向上
a 債権者の試算
インターネットの利用者は年々増え続け、インターネット広告費も平成14年から平成16年までに2倍以上の伸びを示し、平成16年にはインターネット広告費がラジオ広告費を上回っている状況にあり(甲29の1、甲87、88)、前記2(3)のとおり、債務者との業務提携により、インターネットとメディアの融合がうまく進展すれば、その結果、債務者及び株式会社ポニーキャニオンの売上げや利益も上昇し、債務者の株価は1株あたり1万2493円から1万3808円になるとする試算を行っている。
b 債務者の反論
この債権者の試算に対して、債務者は、債権者が主張している今後のビジネスで実現可能なものは既に債務者において実現していること(乙86の1から3まで、乙87、88、89の1、2)、債務者のコアのファンを約1050万人としている前提が債務者の平均聴取率1.5パーセント(乙75)からして過大であること、債務者のコアのファンが3年間で会員化できるとしている見通しが債務者の聴取者の年齢層が高いこと(乙81)を無視していること、前提となる数値等に誤りがあるだけでなく、債務者の聴取者が会員化した際に債権者が債務者に対して支払うとする収入の計算を間違って債務者の将来の株価を算定していることなどの点から信用できるものではないなどと主張する。(乙85)
c 債権者の事業計画と姿勢
なるほど、債務者の主張するところを考慮すると、債務者が債権者の子会社となり業務提携を行った場合に、債権者の試算するとおりに債務者の収益や株価が向上することが合理的に予測できるとまではいうことはできないが、他方、前記のとおり、インターネットの利用者が増加し、インターネット広告費も上昇していること、電子商取引やインターネット課金・決済市場も急激な伸びを示していること(甲29)からすると、債務者の事業と債権者のインターネット事業との間の相乗効果が期待できないということはできないし、債権者の事業計画に合理性が認められないとまではいえない。
債権者は、債務者の株式を取得する前である平成16年11月以降、関西テレビとの業務提携を図って交渉を継続してきた経緯があること(甲28の1から4まで、甲75)、債権者は、債務者の経営に参画し、業務提携を行うことを前提に前記のとおりの事業計画(甲29の1)を作成していること、債権者の主張する債務者の株価試算は、債権者の事業計画に基づき第三者機関であるPwCアドバイザリー株式会社の行った分析にかかるものであること(甲29の2)からすると、債権者がメディアとの事業提携を目指していることを否定することはできない。
(ウ) 小括
したがって、債務者が債権者の子会社となった場合に、債務者がフジサンケイグループから離脱することにより債務者やその子会社の売上げ及び粗利益が債務者が主張するとおり減少し、その一方で、債権者との事業提携によって収益が向上することが期待できず、債権者による支配権取得が債務者に回復しがたい損害をもたらすことが明らかとはいえないし、債権者が真摯に合理的経営を目指すものではないともいえない。
以上によると、債権者の支配権取得により債務者の企業価値が著しく毀損されることが明らかであるということはできず、企業価値の毀損防止のための手段として、従前の発行済株式数の約1.44倍にも上る本件新株予約権の発行を正当化する特段の事情があるということはできない。
エ 証券取引法違反の主張について
(ア) 有価証券の公開買付けを規定する証券取引法27条の2第1項は、取引所有価証券市場外における買付け等について、買付け後に総議決権の3分の1を超える株式を有することとなる場合には著しく少数の者から取得する場合であっても、公開買付けによらねばならない旨を規定しているところ、債権者は、本件ToSTNeT取引により、平成17年2月8日に発行済株式総数の約30パーセントにあたる債務者株式を買い付け、その結果、発行済株式総数の約35パーセントの債務者株式を保有することとなったことは前記1(2)イのとおりである。
(イ) 債務者は、このような債権者の債務者株式の大量取得は、証券取引法27条の2が規定する強制公開買付制度に違反する点で違法であり、本件新株予約権の発行はそのような威嚇的な買収に対する対抗措置である旨を主張し、これに沿った疎明資料(乙55、104、105)を提出する。
そこで検討すると、ToSTNeTとは東京証券取引所で行われる立会外取引を執行するためのシステムであるところ、本件ToSTNeT取引は、東京証券取引所が開設する有価証券市場における取引であり、証券取引法上の取引所有価証券市場における取引と認められるから(証券取引法2条14項、同16項、同17項参照)、取引所有価証券市場外における買付け等には該当せず、本件ToSTNeT取引が取引所有価証券市場外における買付け等の規制である証券取引法27条の2に違反するものということはできない。
(ウ) なるほど、ToSTNeT-1は競争売買の市場ではないから、そこにおいて投資者に対して十分な情報開示がされないまま、会社の支配権の変動を伴うような大量の株式取得がなされるおそれがあることは否定できない。公開買付制度の趣旨が、支配権の変動を伴うような株式の大量取得について、株主が十分に投資判断をなし得る情報開示を担保し、会社の支配価値の平等分配を図ることを制度的に保障することにあることからすると、公開買付けの対象となる規模の株式を有することとなるToSTNeTを通じた取引についても、今後、公開買付制度の趣旨を及ぼす立法を行うことには、十分に合理的な根拠があろう。また、このような公開買付制度の趣旨からすれば、フジテレビによる債務者株式の公開買付期間中に、債権者が本件ToSTNeT取引によって発行済株式総数の約30パーセントにも上る債務者株式の買付けを行ったことについて、その分、市場の一般投資家が会社の支配価値の平等分配に与る機会を失う結果となっており、それだけ大規模な債務者株式の買付けを行うのであれば、公開買付けの手続によるべきであったとの批判も可能であろう。
しかしながら、証券取引法は、その規制対象の明確化を図るため、2条の各項に主要な文言の定義規定を並べており、「取引所有価証券市場」は「証券取引所の開設する有価証券市場」と定義されているところ(同法2条17項)、ToSTNeT-1は、東京証券取引所が多数の投資家に対し有価証券の売買等をするための場として設けているものであるから、これを取引所有価証券市場ではないと解することはできない。金融担当副大臣も、衆議院予算委員会において、本件ToSTNeT取引は現行法上基本的には違法と評価できないとの答弁を行っていることは、前記1(4)ウのとおりである。仮に、明文により規制の対象となっていない取引について、事後に法解釈を拡張することにより規制の対象とするとすれば、市場参加者の予測可能性を欠き、ひいては我が国の証券流通市場の公正性や透明性を損なうおそれもあろう。
そうであれば、本件ToSTNeT取引のような取引を規制すべきであるという立法論はともかく、現行法の下においては、本件ToSTNeT取引が証券取引法27条の2の規定に違反するものであるということはできない。
(エ) したがって、本件新株予約権の発行は違法な買収に対する対抗措置であるとする債務者の主張は、その前提を欠き、採用することができない。
以上のほか、債務者は、本件ToSTNeT取引は相手方との事前合意の上で行われたものであった旨や株価操縦や風説の流布等の証券取引法に抵触する可能性がある債権者側の行為があった旨を主張するが、本件新株予約権の発行を正当化する特段の事情があったとまでは認めるに足りる疎明はない。
オ 放送の公共性に関する主張について
債務者は、債権者がインターネットにおいてアダルトサイトを運営していたこと、債権者がメディアリンクスの粉飾決算に関わったり、架空取引を行うなど問題のある会社であること、債権者代表者の言動などから、債権者による企業買収が不当であり、放送の公共性を守るために債権者を排除する必要があると主張するが、債務者が債権者代表者の言動に関して指摘する諸点は、その発言の片言隻語を捉えたにすぎず、文脈全体を見れば必ずしも債権者の主張に沿うものとは考えられないものも少なからずあり、これらをもって債権者が債務者の支配権を取得した場合に放送の公共性が失われると認めることもできないし、他に放送の公共性に関する債務者提出の疎明資料をもって、本件新株予約権発行を正当化する特段の事情があると認めることもできない。
(3) 本件新株予約権の発行により債権者の受ける影響について
債務者は、債権者の株式取得の状況からして、債権者が保護されるべき株主でないし、名義書換がなされている債務者株式が3万1420株にすぎず、これは債務者の発行済株式総数の0.096パーセントにすぎないことから、債権者は、本件新株予約権の発行により損害を受ける地位にないと主張する。
しかし、前記1(6)のとおり、債権者及び株式会社ライブドアパートナーズは、相当数の債務者株式を保有している。そして、これらの保有株式のほとんどが保管振替機関に保管されているところ、保管振替機関から債務者の実質株主名簿の書換えのための通知がなされるのは9月末日と3月末日となっていることから(株券等の保管及び振替に関する法律(以下「保振法」という。)31条1項参照)、それらの株式については債権者又は株式会社ライブドア・パートナーズの保有するものであることについて未だ実質株主名簿の記載がなされていない。
しかし、保管振替機関から保振法31条1項に基づく通知を受けたときは、会社が実質株主名簿に、通知事項のほか、各実質株主が有するものとみなされる各株式につき同項の規定による通知の年月日を記載し、又は記録しなければならないのであり(保振法32条2項)、実質株主名簿の記録又は記載は株主名簿の記載又は記録と同一の効力を有する(保振法33条1項)とされている。本件において、保管振替機関から保振法31条1項に基づく通知を受けた場合に、債務者が名義書換を拒絶できる理由は特に存在しないと認められるため、確かに、現時点では債権者は3万1420株を超える株主であることを、株式会社ライブドアパートナーズは1062万7410株(平成17年3月7日現在)の株主であることを、それぞれ債務者に対抗できないものの、保管振替機関からの通知に基づき実質株主名簿の名義書換が予定される平成17年3月31日以降には債権者及び株式会社ライブドアパートナーズは債務者に対して株主であることを対抗できることになる。そして、平成17年3月24日に発行され、翌25日から行使請求期間となる本件新株予約権が全て行使された場合、債権者による債務者株式の保有割合は、約42パーセントから約17パーセントに減少することからすると、債権者が本件新株予約権発行により著しい損害を被るおそれがあることは明らかである。
4 保全の必要性について
債務者の本件新株予約権の発行により、債権者が著しい損害を被るおそれがあることは、前記3に判示したとおりであるから、本件では保全の必要性も認めることができる。
5 以上から、債権者の申立ては、理由があると認められるから、債権者が本決定の送達を受けた日から5日以内に、債務者のために金5億円の担保を立てることを保全執行の実施の条件としてこれを認容することとし、申立費用につき民事保全法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 鹿子木康 裁判官 真鍋美穂子 裁判官 大寄久)
(別紙)債権者の主張
1 本件新株予約権の発行は、新株の発行に他ならないが、資金調達の目的がなく、株主の議決権割合を低下させる目的で行われており不公正である。
本件新株予約権は、フジテレビが本年6月開催予定の債務者の定時株主総会で過半数の議決権行使を可能ならしめることを目的とするものであり、3月末の株主名簿に株主として記載されるためには、本件新株予約権を発行する平成17年3月24日の翌日で、行使期間開始日である3月25日に予約完結権の行使がなされることは間違いがなく、いったん一日だけ新株予約権を発行するものの実質的には新株の発行に他ならない。予約完結権の行使により発行される株式は、最低でも新株予約権の27パーセントと見込まれるが、その新株発行による資金を債務者は必要としていない。
商法280条ノ39第4項において準用される商法280条ノ10所定の「著シク不公正ナル方法」による新株発行とは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合をいうと解されており、株式会社においてその支配権につき争いがあり、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合に、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者やそれと人的に密接な関係にある一部の株主の支配権を維持・強化することを主要な目的としてされたものであるときは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合にあたる。
本件のように、資金調達の目的もないにもかかわらず、実質的に新株の発行とみなすことができる新株予約権を、発行済株式総数の1.4倍も大量に発行して、債権者の有する議決権割合を低下させることは、不公正である。
2 本件新株予約権発行の目的が「不公正」であること
(1) 本件新株予約権発行の目的が「フジテレビの利益」であること
フジテレビが行っている債務者株式の公開買付けは、もともと債務者の上場廃止及び株式交換による完全子会社化を目的としたものである。債務者の取締役がフジテレビによる株式公開買付けに賛同し、かつ、それを成功させるために本件新株予約権の発行をすることが、事業(収益基盤)を守ることでは特定株主(フジテレビ)の利益にはなるが、債務者の既存株主にとって利益であるとは言えず、本件新株予約権発行の目的は不公正である。
(2) 債権者が債務者の親会社になることにより債務者の企業価値が大幅に損なわれることを理由に、本件新株予約権を正当化できないこと
ア フジサンケイグループによる取引停止は独占禁止法違反であること
フジテレビ及びフジサンケイグループ各社(以下「フジサンケイグループ」という。)は、債務者が債権者の子会社となった場合には、債務者及びその子会社との取引を全て停止すると通告等しているが、このような行為は、独占禁止法により禁止される単独・共同の取引拒絶(一般指定1項・2項)あるいは優越的地位の濫用(一般指定14項2号)等に該当するため独占禁止法19条に違反し、少なくとも独占禁止法の趣旨に反するため私法上違法となる。
よって、債権者に対する独占禁止法違反又は私法上の違法の行為を前提として、債権者が親会社となった場合の債務者の企業価値が減少すると主張することは認められない。
イ フジサンケイグループから離脱しても債務者の企業価値を損ねないこと
債務者は、債務者がフジサンケイグループから離脱した場合は、債務者の企業価値を損ねると主張するが、債務者はフジテレビやフジサンケイグループとは別個独立して事業活動を行っているのであり、フジサンケイグループとの協力・連携関係が失われることになったとしても、破綻することはおろか、その企業価値が大きく毀損することはない。
ウ 債権者により債務者の広告媒体価値を格段に向上させることができること
ラジオによる広告市場は、年々縮小傾向にあるのが現状であり、インターネットなどの新たな情報媒体との共存・融合をどのように行っていくかが大きな課題となっている。債権者のインターネット事業と債務者のラジオ事業が融合することにより、双方向のメディアとなることや、若年・中年齢層の聴取者を発掘・獲得することができ、広告収入、物販、課金サービスにおいて相乗効果が生じて、債務者の企業価値は格段に向上することとなる。債権者は、多数の買収を行ってきたが、買収後の被買収企業の業績が好転する結果を残していることからも信頼性のあるものと認められる。そして、一般公衆の好意的な評価もあることから、債権者が債務者の親会社となったからといって、債務者のイメージが悪くなって、広告媒体として価値が減少するということは全くない。
エ 債務者の人的資産が毀損しないこと
債務者は、債権者が債務者の親会社となると、債務者の従業員が大量に辞職することにより債務者の企業価値が毀損すると主張するが、債権者から債務者の従業員に対して、雇用の問題等についての説明をする機会を与えられておらず、敵対的買収の場面では従業員が反対することが常態であることを考えると、人的資産の毀損などで債務者の価値がなくなるということはいえない。
オ 債務者が縷々主張する債権者代表者や債権者に対する人格攻撃や属性批判も、一般株主の利益=企業価値とは無関係であり、債務者の本件新株予約権発行の目的を正当化しない。
カ 電波法・放送法の趣旨
一事業企業である債権者が債務者の親会社になることが、電波法・放送法の趣旨に反し、放送事業の公共性に反するものではない。その筆頭大株主が報道関係会社以外の事業会社である放送会社は現に10局以上存在している。
キ 債権者は証券取引法に違反していないこと
2月8日にToSTNeT-1を利用して、発行済株式総数の29.6パーセントの株式を取得したが、証券取引法は、「取引所有価証券市場外」における買付け等について、特別関係者の所有割合と併せて、当該会社の議決権の3分の1超を保有する結果となるときは、公開買付けによるべき旨を規定している(証券取引法27条の2第1項4号、8号参照)が「証券取引所の開設する有価証券市場」としては、東証は、株券の売買について、伝統的な競争売買の方法によるオークション取引(立会取引)と、立会取引以外の時間帯に一定の条件のもとで売買される ToSTNeT取引(立会外取引)の、2つの制度を用意しており、投資家がネットワーク上で、オークション取引の終値を基準とした一定の範囲内で、交渉により価格を決定する ToSTNeT-1も市場による取引であるから、同法には違反していない。このことは金融庁や証券取引等監視委員会も、本件を踏まえて明言している。
また、証券取引法27条の2の「買付け等」とは、「売買その他の有償取得をいい、売買その他の有償取得の約定が成立することがこれにあたるが、証券売買の約定の成立には、銘柄、数量、売買の期日、価格、決済日などについて合意が成立することを要し、単なる意向表明や勧誘行為はこれに含まれないから、債務者株式を有する株主に対して株式買取の意向証明書を送付した債権者の行為は、何ら証券取引法に触れるものではない。
3 本件新株予約権は手段の点で「不公正」であること
たとえ目的が正当であっても、その手段の点で既存株主への不利益をいたずらにもたらすものは、「著しく不公正な方法による発行」に該当するが、本件新株予約権の発行には、次のような問題点がある。
(1) 代替手段を採らなかった不公正
債務者取締役会は、フジテレビによる債務者株式の公開買付けが発表された後直ちに、賛同の意見表明を行っているが、少なくとも平成17年2月8日に債権者が市場を通じて債務者株式を大量に取得し、かつ、その後も市場で買い増すことを明らかにした時点で、相対立する企業買収者が現れたことが明白になったのであるから、改めて債務者取締役として、債務者の企業価値の増大及び債務者株主の利益を図るために、フジテレビが行う公開買付に対する意見の再検討を行うべきであった。そして、真に債務者会社の利益及び債務者株主の利益を考えれば、市場価値をはるかに下回ることとなっているフジテレビの買付価格を、そのままに放置するのではなく、積極的に買付価格の引き上げを交渉し、フジテレビがこれに応じなければ、買付価格5950円のままでの公開買付けの続行については反対である旨の意見表明をすべきであった。
(2) 株式公開買付期間中に買付者に発行することの不公正
本件新株予約権は、払込期日である平成17年3月24日の翌日から直ちに行使請求が可能となり、かつ、その発行規模は債務者の発行済株式数の1.4倍という大きさであるから、本件行使価額が本件新株予約権発行の決議時点における債務者株式の株価を下回れば、債務者株式の株価を押し下げる効果を生じる。本件新株予約権の発行は、債務者株式の株価を下落させて、債務者の既存株主に対して損害を与える行為であって、市場操縦に等しい行為である。
また、債務者は、フジテレビによる債務者株式の公開買付け終了後に本件新株予約権の発行を行うことを公表し、かつ、そのリリース(甲18)の中で「本新株予約権が全て引き受けられ、かつその全てが行使された場合、フジテレビは4720万株の当社新株を取得することになり、本公開買付けの結果如何にかかわらず、当社はフジテレビの子会社となります。」と宣言している。既存株主は、フジテレビによる公開買付けに応じた場合には、市場の株価を下回る対価しか得ることができず、他方、本件公開買付けに応じない場合には、大量の新株発行による自らの株式の希薄化(株式価値や1株あたりの配当の減少を意味する)、フジテレビによる債務者支配、債務者株式の上場廃止のリスクを突きつけられているのである。時価より下回る額でTOBをかけている者に、かくも大量の新株予約権を発行すれば、他の既存株主は公開買付に応じる以外の「逃げ場」がなくなってしまう点で、一般株主の犠牲の下、フジテレビのみの利益を図ろうとする不当な「手段」である。
(3) 発行規模の不当性
新株発行の場合には、判例が採用する主要目的ルールのもと、資金調達目的との兼ね合いで、自ずと新株の発行規模の制約が生じることとなるが、新株予約権では必ずしも資金調達目的があるとは限らないため、かかる制約が働かないことが考えられる。しかし、いうまでもなく、新株予約権であるから、その発行数量に限定がないということではなく、会社の利益の最大化、ひいては既存株主の利益を最大化するための合理的な発行数量でなければならない。
しかるに発行済株式総数の1.4倍にも上る授権資本枠いっぱいの株式数の新株予約権を発行するという、本件新株予約権発行の発行規模には全く合理的な理由がなく、既存株主が受ける不利益は極めて大きい。
(4) 株価操縦が可能になってしまう不公正
本件新株予約権が授権資本枠いっぱいまで発行され、対抗的買収者である債権者が排除されれば、債務者株式の市場価値は大きく損なわれる。この場合、フジテレビは任意の時期に新株予約権を行使することによって、事実上いつでも債務者の株価にインパクトを与えることができ、場合によっては暴落の引金を引くことさえできる。
4 本件新株予約権の発行が、類似の先例を有する米国基準からも違法であること
米国で企業買収関連の判例法が最も発展しているのは、デラウェア州法であるが、デラウェア州判例法上の厳格な基準に照らした場合、本件新株予約権発行は、少なくとも、次に挙げる判例法や法理により違法と判断されるものと考えられる。
(1) レブロン義務違反
会社の支配権の移動が伴う事案において、取締役会は、株主にとって合理的に達成可能な最大限の(株式売却)価値を検討・追及することを要請されるが、債務者の行為はこれに抵触する。
(2) ユノカル基準違反
会社がその企業政策に対する脅威に直面した場合、取締役の行為は、当該脅威との関連において相対的に合理的なものかどうかが審査されるが、債務者の行為はこれを逸脱する。
(3) 衡平法違反
デラウェア州法では、一般法(コモン・ロー)上許される行為であっても、衡平法(エクイティ)上問題のある(inequitable、以下、「不公正」と表現する。)目的でなされた行為は無効とされる(以下「シュネル判断」という。)が、債務者の行為はこれに抵触する。
5 債務者取締役会での議決は、何ら本件新株予約権発行を正当化しないこと
債務者は、本件新株予約権発行は、社外取締役を含む全員一致で可決されたから適正であるかのように言うが、フジテレビの公開買付けの下限の引下げ(50パーセントから25パーセント)についての同年2月10日開催の債務者取締役会において、社内外の取締役から反対意見があったことが記載されているのに、本件新株予約権発行の議事録には取締役による意見交換の跡は何らみられない。莫大な量の新株予約権発行が行われるのに、何らの意見もでず全員一致であったとすれば、それこそ、債務者取締役会が機能していないことの証左であり、また、社外取締役は19名中4名に過ぎないから、その決議の存在は、何ら本件新株予約権発行を正当化しない。
さらに、フジサンケイグループ各社の役員を兼任している者が、フジサンケイグループとの取引が拒絶されるかどうかが前提の大問題であるにもかかわらず議決にも参加している。債務者取締役会での議決は、何ら本件新株予約権発行を正当化せず、むしろ、取締役会の議決に瑕疵がある。
6 本件新株予約権が特に有利な条件による発行であること
(1) 新株予約権の発行価額の有利発行の決定基準
債務者は、「本件新株予約権の発行価額(1株あたり336円)と行使価額(5950円)の合計額(6286円)」が時価を著しく下回っていないければ特に有利な発行価額でないと主張するが、正しくない。
新株予約権というオプションは、それ自体単独で価値を有するものであり、その価値が算出可能であるからこそ、商法は、「新株予約権の発行価額」を取締役会の決議事項とし(商法280条ノ20第2項)、「新株予約権の発行価額の算定理由」の公告を求めている(商法280条ノ23)。新株予約権者は、株式の株価が下落した場合には新株予約権を行使しなければ損をしないという利益と、発行会社の株式の将来における価値の上昇による利益を獲得しうる権利という、既存株主にはない利益を有する。その価値は、独自に評価できるし、評価すべきものである。
(2) 本件新株予約権の価額はフジテレビに有利なものである
ア 新株予約権の行使による株式数の増加を新株予約権の価値に反映するために、希薄化による修正を加味する際には、実際に行使される見込みのある新株予約権の量を想定するべきであり、本件の場合、本件新株予約権の理論価値は1株あたり少なくとも447円となるから、本件新株予約権の発行価額(1株あたり336円)は理論価値に対して約25パーセントも低い。
イ 本件新株予約権の消却を行うには、新株予約権者に1か月の猶予期間を与える必要があり、実際には、新株予約権者たるフジテレビは猶予期間中に本件新株予約権を行使することが十分可能である。したがって、本件新株予約権の消却条項が、債務者取締役会の決定により一方的に新株予約権の消却が可能であることを理由として、オプション価格を大幅に減額している本件発行価額は有利である。
ウ 経営支配を争う当事者の一方に対し、支配を確実に取得させる圧倒的な量の発行を行う場合は、いわゆる支配権プレミアムが付与されるべきであり、最低限10~40パーセントのプレミアムの付与は必要であるところ、10パーセントとして、行使割合54.8パーセントを前提とすると、本件新株予約権の理論価値は825円となる。336円は、約60パーセントも低い。
(3) 本件新株予約権発行は、上記の価格面で有利なほか、取締役会が「必要と認めた場合には」新株予約権を全部消却して発行価額と同額を本件新株予約権者に払い戻すことができる旨の消却条項が定められていて、事実上の無償による新株予約権の発行である。発行済株式総数の1.4倍であり、また、授権資本枠を全て使う形になっている株数にして4720万株に相当する大量の新株予約権を特定の株主であるフジテレビに対して一度に発行することは、価格以外の条件としても「有利な条件」である。よって、第三者割当による本件新株予約権の発行には債務者の株主総会の特別決議を経る必要がある。本件新株予約権はそれを経ずに発行されたものであり、法令違反がある。
7 保全の必要性
フジテレビの子会社になることを目的とする本件新株予約権の発行は、同時に債権者の保有する債務者株式の保有割合を低下させることを目的とし、そのような事態となれば債務者の経営に関与するために債務者株式を購入した債権者に回復することのできない損害が生じる。
他方、本件新株予約権の発行が出来なくても、債務者には158億円を現実に必要とする理由もないから、何らの経済上の損害は生じない。
本件新株予約権の発行は、明らかに既存株主の利益に反するばかりか、わが国の法秩序を破壊し、国際的にもわが国の法制度の信頼性に対する重大な悪影響を与えるものであって、これを放置することは許されない。
以上
(別紙)債務者の主張
1 「法令違反」にはあたらないこと
本件新株予約権の発行価額は「特に有利な発行価額」にはあたらないから、これを取締役会にて決議することは「法令違反」に該当しない。
(1) 本件新株予約権の発行価額は、これを実質上3月31日までに行使されて新株になるという点を捉えて新株発行と同様の基準で考えたとしても、適正な価額であり「特に有利な発行価額」ではないこと
本件新株予約権は、行使期間(3月25日から6月24日)のうち、3月25日から3月31日までは5950円、4月1日から6月24日までは時価に連動した額(上方・下方とも限度なく、毎週修正される。)を行使価額としている。
このように、この新株予約権の内容は、4月1日以降は市場価格で新株を購入する権利にすぎず、キャピタル・ゲインをほとんど期待できないのであるから、オプションとしての価値は存しない。フジテレビはかかる権利を1個336円で取得しているのであるから、「有利」でないことは明らかである。
また、この新株予約権は、3月31日までの間は5950円で新株を購入する権利であり、行使期間も短いことからすれば、債権者の主張するとおり、新株発行に近い性質のものである。
新株の有利発行に関する判断基準に関しては、発行価額決定の直前日の価額を原則としつつ、直前日から6か月以内の任意の期間の平均価額に0.9を乗じた額以上の価額までは有利な発行価額でないとされている(判例、日本証券業協会の指針等)。
債務者株の過去の平均株価(発行決議の日、債権者による大量取得の日、フジテレビによる公開買付の日のそれぞれ前日から、それぞれ1か月、3か月、6か月間の9とおり)のいずれに照らしても、本件新株予約権で新株を購入する価額(発行価額336円+行使価額5950円=6286円)は「有利な発行価額」に該当しない。
なお、本件の場合、債務者の株価はフジテレビの公開買付期間中に債権者が市場で買い集めているために投機対象となって乱高下しており、本件新株予約権発行決議の日の前日の株価は異常値であるから、基準とはなりえないのであるが、仮にその価額(6750円)で考えたとしても、ディスカウントは7.5パーセントにすぎず「有利な発行価額」に該当しない。
(2) 本件新株予約権の発行価額は、これをオプションと捉えて金融理論に基づきオプション価値を算定したとしても、適正な価額であり「特に有利な発行価額」ではないこと
本件新株予約権のオプション価値を算定したモデルについては当事者双方に争いはない。
この発行価額は、複数の専門家によって公正な理論価値であることが検証されており、これに対する債権者の反論はいずれも当を得ていない。
したがって、本件新株予約権のオプション価値を算定したとしても、「有利な発行価額」に該当しない。
2 「著しく不公正な方法」にはあたらないこと
(1) 主要目的ルールの判断基準
主要目的ルールとは、不当目的を達成するという動機が他の正当目的を達成するという動機よりも優越する場合には新株予約権の差止めを認めるという基準である。
「不当目的」とは取締役が自己の個人的利益を図る目的をいい、「正当目的」とは会社の利益を図る目的をいう。この「正当目的」は資金調達目的に限られず、企業価値の毀損を防止し、維持・向上を図ることも当然に「正当目的」と認められる。
(2) 取締役が守るべき「会社の利益」とは何か
取締役は会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っており、直接株主に対して義務を負うものではない。取締役は、会社の利益を図る上で、第一義的に考えるべきは株主の利益であるが、従業員、取引先、その他の関係者の利害も考慮に入れることができる。
「株主の利益」の「株主」とは特定の株主ではなく抽象的・理念的・総体的な意味での株主の利益をいい、「利益」とは短期的な市場価格の上昇ではなく長期的に見た客観的企業価値の向上を意味する。
したがって、債務者の取締役としては、債権者とフジテレビのいずれの子会社になった方が債務者の長期的に見た客観的企業価値が守られるのかを判断し、企業価値の維持・向上に資する方策を採らなければならない。
(3) 債務者の取締役に「不当目的」は存しないこと
債務者の取締役は、以前から企業戦略としてフジテレビとの関係をどう構築するかを検討しており、債権者が買収を仕掛けてくる前の平成17年1月17日の時点で、フジテレビの子会社となることが最も企業価値を高めるものと判断して、フジテレビの公開買付に賛同する旨の意思を表明していた。債権者が買収を仕掛けてきてからフジテレビの子会社となることを決めたわけではない。
また、債務者には極めて独立性の高い4人の社外取締役がいるが、本件新株予約権の発行については、取締役会で十分に議論した上、社外取締役4名も含めて全員一致で承認可決している。
さらに、本件新株予約権は、消却条項がつけられるなど内容を見ても合理的である。
したがって、本件新株予約権の発行につき、債務者の取締役が個人的利益を図るなどの「不当目的」は認められない。
(4) 債権者の子会社となった場合に債務者の企業価値は著しく毀損すること
ア 債権者の子会社となった場合には、次のとおり、債務者の企業価値は著しく毀損する。
(ア) フジサンケイグループを離脱することにより、グループ各社との取引がなくなり、スポンサーも失うことになる。
具体的には、債務者は、ナイター中継ができなくなってスポンサーがとれず放送事業収入が激減するほか、フジテレビほかグループ各社との共催によって実施していたイベントができなくなってイベント事業収入も激減する。
連結子会社であるポニーキャニオンは、フジテレビのコンテンツ(例えば「踊る大捜査線」「ドラゴンボールZ」「北の国から」など)の独占販売権を取得できなくなり、DVD等販売事業の収入が激減し、破綻を免れない。
そのほか、連結子会社のビッグショット、フジサンケイエージェンシーも破綻を免れず、その他の子会社も大幅赤字に転落する。
その結果、債務者の連結営業利益は、現在の25億円の黒字から93億円の赤字に転落することが予想され、失われる収益の現在価値を算定すると、550から1450億円にも上る。
(イ) 債権者の子会社となることにより、債務者の人的資源が流出する。
企業の価値は、機械や設備、無体財産などの物的資産だけでなく、個々の従業員の持つノウハウ、人的つながりなどの人的資産から構成される。債務者などのソフト(ラジオ番組、イベントなど)を提供する会社においては、人的資産は特に重要である。
しかし、債務者の全従業員は、債権者社長の発言には公共性の高い放送事業者としての自覚が全くなく、債務者のラジオ事業を全く評価せず、フジテレビ株の保有会社として認識しているかのような発言に反発し、従業員集会で全員一致で「債権者の経営参画に反対する」旨の声明を出している。かかる状況の下で債権者の子会社となれば、従業員が相当規模で転職することが避けられず、人的資産が大きく毀損されることは明らかである。
(ウ) 債権者の子会社となることにより、ブランド価値が毀損する。
債務者はフジサンケイグループの一員として大きなブランド力を有しており、商標にもフジサンケイグループを表す「目玉マーク」などが使われている。また、フジサンケイグループのブランド力によって強い営業力を維持してきた。
債権者の子会社となってフジサンケイグループを離れれば、かかるブランド力は大きく毀損される。
イ 一方で、債権者の子会社となったとしても、債務者の企業価値が向上することは見込めない。
(ア) 債権者の主張する「(債権者と債務者との)事業の相乗効果と企業価値の向上」は、次のとおり、前提となるデータが事実無根であり、それに基づく試算結果は虚偽である。
債権者は、「1週間のうち1秒でも債務者のラジオを聴く人」に人数を算出し(約1050万人)、これが債権者の運営するポータルサイト「livedoor」の顧客になるため広告収入・物販収入が増加し、その一部を債務者に還元することから利益が上がるなどと試算する。
しかし、上記の人数(約1050万人)が債務者のコアのファンとして「livedoor」の顧客になるなどあり得ない。債務者のコアのファンを、番組情報などを有料で提供する携帯電話会員と考えれば約7万7000人であり、平日の平均視聴率で計算したとしても約60万人にすぎないから、債権者の試算がいかに過大であるかは明らかである。
また、債権者の試算では、原価率も現実より相当少ない上、債務者への利益還元などもおよそ現実的な数字ではない。債権者の試算では、収益予測をする上での収益実績を債権者ではなく、ヤフー、楽天の数字を使っている。債権者の収益予測なのであるから、債権者の実績を使わなければ正確な予測ができるはずがない。ヤフー、楽天は、サイトの規模が債権者より格段に大きく、売上高・利益も良いことから、業績の良い同業他社の実績を使って水増ししているものと考えられる。
さらに、課金サービスによる収益予測についても、そもそも音楽配信の市場規模、ポニーキャニオンの市場シェアをいずれも過大に設定し、かつ、音楽配信・映像配信サービスにつきものの著作権法上の問題点を全く考慮しないなど、無理な試算となっている。
(イ) PwCによる株価算定も、債権者が勝手に試算した収益予想を前提として算定したにすぎず、肝心の収益予想が上記のとおり虚偽(詐欺的に高額)である以上、およそ信用するに足りる数字ではない。
また、算定過程にも看過できない問題点がある。
(ウ) 債権者が提唱する個々の事業モデルは、放送法・電波法その他の放送基準や著作権法との関係で実現困難なものばかりであり、実現可能なものは既に実行されている。
ウ 以上のとおり、債権者の子会社となった場合には、債務者の企業価値は大きく毀損し、債権者との事業提携によって何ら企業価値は増加しないことは明らかである。
(5) 債権者の子会社となった場合におけるフジサンケイグループ各社と債務者との取引中止が独占禁止法に違反しないこと
債権者は、債務者が債権者の子会社となった場合のフジサンケイグループによる債務者との取引停止等について独占禁止法違反を主張する。
しかし、債権者の主張には、上記の取引等が要件である「公正競争阻害性」を満たすことについての具体的な主張がなく、疎明資料の提出もない。したがって、本件での独占禁止法の要件事実の主張・疎明責任は債権者側にある以上、同法違反の事実を認定することはできない。
また、「その他の取引拒絶」の主張については、グループ企業の会社が別の企業の子会社になった場合、取引関係を見直すのはごく通常のことであり、かつ本件では合理的な目的があるから、「不当」ではない。
「優越的地位の濫用及び不公正な方法による株式取得」の主張については、本件では債務者がフジテレビから取引停止を示唆されて新株予約権を発行した事実がそもそもない以上、債権者の主張は前提事実を欠く。
(6) 債権者の債務者株式の大量取得経緯は違法であり、本件新株予約権の発行はかかる「威嚇的」な買収に対する対抗措置であること
ア 証券取引法27条の2(強制公開買付制度)違反
債権者のToSTNeT-1取引による債務者株式の大量取得は、「市場内取引」とは認められず、本来は公開買付をしなければならないものであって、証券取引法27条の2(強制公開買付制度)に違反している。
また、そもそも取得経緯に鑑みれば、債権者と各売主との間で事前合意があった(すなわち「市場外取引」)と認められるから、ToSTNeT-1取引が「市場内取引」かどうかの議論に関わらず、公開買付をしなければならないものであって、証券取引法27条の2(強制公開買付制度)に違反している。
イ 債権者の買収行為は、証券取引法27条の2以外にも、約50名の大株主に対する株式買い増しの意向表明、「7000円までなら買う」という発言、「高値なら売る」という発言など、証券取引法の趣旨を踏みにじるものであり、法律に従って実施しているフジテレビの公開買付を妨害するものである。
ウ 債権者が、上記のとおり、フジテレビの公開買付期間中にもかかわらず、証券取引法を遵守せずに違法かつ不当に債務者株式を買い集めている行為は、いわゆる「威嚇的」な買収に該当し、あるいは保護されるべき株主としての利益を有していないというべきであって、対象会社(債務者)の取締役はこれに対して対抗措置を執ることができる。かかる債権者の違法かつ不当な買収行為が存在することは、新株予約権発行にかかる「著しく不公正な方法」か否かの判断にあたり、十分に考慮しなければならない。
(7) 結論
以上のとおり、債務者の取締役は、フジテレビと債権者のいずれの子会社となることが会社の利益になるかを検討した結果、〈1〉債権者の子会社となった場合には企業価値が著しく毀損されることから、これを防止してフジサンケイグループに残るため、さらに、〈2〉債権者による違法かつ不当な株式買占行為に対抗して企業価値を守るため、本件新株予約権を発行したものであり、「正当な目的」によることは明らかである。
一方で、債務者の取締役には自らの保身を図るなどの「不当目的」は存しない。
したがって、本件新株予約権発行が「著しく不公正な方法」によるものでないことは明らかである。
3 債権者には保護されるべき株主としての利益がないこと
債権者は、前記のとおり、証券取引法の趣旨を踏みにじって違法かつ不当に債務者株式を買い占めているものであり、商法280条ノ10によって法的に保護されるべき株主としての利益を有していない。
また、債権者はわずか0.096パーセントの株式しか保有していないから、本件新株予約権の発行により特段持株比率の低下による不利益を受ける者ではない(なお、商法は、譲渡制限を設けていない株式会社の株主に対して持株比率の維持を保護していないから、その意味でも持株比率の低下による不利益は考慮されるものではない。)。
4 結論
以上の次第で、本件新株予約権の発行は「法令又は定款違反」及び「著しく不公正な方法」のいずれにも該当しない。
また、債権者には保護されるべき株主としての利益がないから、「株主が不利益を受くる虞ある場合」に該当しない。
したがって、本件新株予約権発行差止の申立ては却下されるべきである。
以上
(別紙) 本件新株予約権の要綱
(1)新株予約権の名称
株式会社ニッポン放送第1回新株予約権
(2)新株予約権の目的たる株式の種類および数
普通株式当初4720万株(本件新株予約権1個あたりの目的たる株式の数1万株)とする。ただし、下記の割当株式数の調整を受けることがある。
(3)発行する新株予約権の総数 4720個
(4)新株予約権の発行価額 1個につき336万2731円(1株につき336.2731円)
(5)新株予約権の発行価額の総額 158億7209万0320円
(6)募集の方法
第三者割当の方法により、全ての本件新株予約権を株式会社フジテレビジョンに割り当てる。
(7)申込期間 平成17年3月23日
(8)払込期日 平成17年3月24日
(9)新株予約権行使の際の払込金額
各本件新株予約権の行使に際して払込をなすべき金額は、各本件新株予約権の行使により発行又は交付する株式1株あたりの払込金額5950円(以下「当初行使価額」といい、必要な場合、第24項又は第25項に基づき修正又は調整したものを「行使価額」という。)に割当株式数を乗じた金額とし、当初は5950万円とする。
(10)新株予約権の行使の際の払込金額の総額
2808億4000万円(ただし、第24項又は第25項により行使価額が修正又は調整された場合には、払込金額の総額は増加又は減少する。)
(11)新株予約権の行使により発行する株式の発行価額
1個につき6286万2731円(1株につき6286.2731円)(ただし、第23項および第24項又は第25項によって変更されることがある。)
(12)新株予約権の行使により発行する株式の発行価額の総額
2967億1209万0320円(ただし、第24項又は第25項により行使価額が修正又は調整された場合には、発行価額の総額は増加又は減少する。)
(13)発行価額及び新株予約権の行使の際の払込金額の算定理由
株式会社東京証券取引所における平成17年2月22日の債務者普通株式の普通取引の終値を基準となる株価とし、前提となる金利には残存年数が行使期間までと同程度のTIBOR(Tokyo Inter-Bank Offered Rate)を、ボラティリティには債務者のマーケットにおける状況等を総合的に勘案した変動率を、配当利回りには今期における債務者予想年間配当金に基づく利回りを使用した。これらの諸条件を前提とし、一般的な価格算定モデルである三項ツリーモデルの算定結果を参考に、本件新株予約権1個の発行価額を金336万2731円(1株あたり金336.2731円)と算定した。また、本件新株予約権の行使時の払込金額は、当初、平成17年1月14日までの3か月間の株式会社東京証券取引所における債務者普通株式の普通取引の毎日の終値の平均値である4937円に約21%のプレミアムを加算した額とした。
(14)新株予約権の行使により株式を発行する場合の株式の発行価額中の資本組入額
本件新株予約権の行使により発行する新株の発行価額中資本に組み入れる額は、当該発行価額に0.5を乗じた金額とし、計算の結果1円未満の端数を生じる場合は、その端数を切り上げた額とする。
(15)行使請求期間
平成17年3月25日から平成17年6月24日までとする。
(16)新株予約権の行使の条件
各本件新株予約権の一部行使はできないこととする。
(17)新株予約権の消却事由および消却条件
債務者取締役会が必要と認めた場合には、本件新株予約権の発行日の翌日以降、債務者取締役会で定める消却日に先立つ1か月以上前に、新株予約権証券を当該消却日までに債務者に提出すべき旨を公告し、かつ新株予約権原簿に記載された各新株予約権者に対して通知を行った上で、当該消却日に、本件新株予約権1個あたり336万2731円にて、残存する本件新株予約権の全部又は一部を消却することができる。一部消却をする場合には、抽選その他の合理的な方法により行うものとする。
(18)新株予約権の譲渡制限
本件新株予約権を譲渡するときは債務者取締役会の承認を要するものとする。
(19)新株予約権証券の発行
新株予約権証券は、新株予約権者の請求があるときに限りこれを発行する。
(20)新株予約権の期中行使があった場合の株式の配当起算日
本件新株予約権の行使により発行又は交付される株式に対する最初の利益配当金又は中間配当金については、本件新株予約権の行使が毎年4月1日から9月30日までになされたときは当該年の4月1日に、毎年10月1日から翌年3月31日までになされたときは当該年の10月1日に、それぞれ株式の発行又は交付があったものとみなしてこれを支払う。
(21)新株予約権の行使請求受付場所
債務者本社総務局(又はその時々における当該業務担当部署)
(22)新株予約権の行使に関する払込取扱場所
株式会社みずほコーポレート銀行大手町営業部(又はその時々における当該銀行の承継銀行もしくは当該営業所の承継営業所)
(23)各新株予約権の目的たる株式の数の調整
ア 本件新株予約権を発行する日(以下「新株予約権発行日」という。)後、株式の分割により普通株式を発行するときは、その時点で行使されていない本件新株予約権について次の算式により本件新株予約権1個あたりの目的たる株式の数(以下「割当株式数」といい、1万株を当初の割当株式数とする。)を調整し、調整の結果生じる1株未満の端数株式は、これを切り上げるものとする。
調整前割当株式数×調整前行使価額
調整後割当株式数=―――――――――――――――――――
調整後行使価額
イ 本項第1号の割当株式数の調整を必要とする場合のほか、次のいずれかの場合には、債務者は取締役会が適切と考える方法(かかる方法は、誠実に決定されなければならない。)により割当株式数の調整(かかる調整は、公正で合理的なものでなければならない。)を行うものとする。
〈1〉 株式の併合、資本の減少、会社分割又は合併等のために割当株式数の調整を必要とするとき。
〈2〉 本号〈1〉のほか、債務者の発行済株式数の変更(債務者普通株式以外の株式の発行を含む。)又は変更の可能性を生ずる事由の発生によって割当株式数の調整を必要とするとき。
(24)行使価額の修正
平成17年4月1日以降、毎週金曜日(以下、「決定日」という。)の翌取引日以降、行使価額は決定日まで(当日を含む。)の5連続取引日(ただし、終値のない日は除き、決定日が取引日でない場合には、決定日の直前の取引日までの5連続取引日とする。以下「時価算定期間」という。)の株式会社東京証券取引所における債務者普通株式の普通取引の毎日の終値(気配表示を含む。)の平均値に相当する金額(円位未満小数第2位まで算出し、その小数第2位を切り捨てる。以下「決定日価額」という。)に修正される。
なお、時価算定期間内に、行使価額の調整事由が生じた場合には、修正後の行使価額は、本件新株予約権の発行要項に従い債務者が適当と判断する値に調整(かかる調整は、公正で合理的なものでなければならない。)される。
(25)行使価額の調整
ア 債務者は、新株予約権発行日後、本項第2号〈1〉ないし〈3〉に掲げる事由が発生した場合には、行使価額を次に定める算式(以下「行使価額調整式」という。)により調整し、調整の結果生じる1円未満の端数は切り上げるものとする。
第2号〈1〉の場合
自己株式を除く株式分割前発行済株式数
調整後行使価額=調整前行使価額×――――――――――――――――――――
自己株式を除く株式分割後発行済株式数
第2号〈2〉および〈3〉の場合
自己株式を除く既発行株式数 新規発行又は交付株式数 × 1株あたり払込金額
+
時価
調整後行使価額=調整前行使価額×
自己株式を除く既発行株式数 + 新規発行又は交付株式数
イ 行使価額調整式により行使価額の調整を行う場合については、次に定めるところによる。
〈1〉 株式分割により債務者普通株式を発行する場合。
〈2〉 行使価額調整式に使用する時価を下回る1株あたり払込金額をもって債務者普通株式を発行又は交付する場合(新株予約権の行使により普通株式を発行又は交付する場合を除く。)。
〈3〉 1株あたりの発行価額および当該新株予約権の行使に際して払込をなすべき金額の合計額が時価を下回る債務者普通株式に係る新株予約権を発行し又はかかる新株予約権の引受権を付与する場合。
(26) 上記各項については、証券取引法による届出の効力発生を条件とする。
以上
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