判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(342)平成18年 9月14日 東京地裁 平17(ワ)18129号 損害賠償請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(342)平成18年 9月14日 東京地裁 平17(ワ)18129号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成18年 9月14日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)18129号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2006WLJPCA09140004
要旨
◆営業譲渡に際し、譲渡人が譲受人に提供した損益計算書、売上げ及び営業利益の見込みなどに関して営業譲渡契約の付随的義務として信義則上認められる情報提供義務違反が認められないとされた事例
出典
新日本法規提供
参照条文
民法1条2項
裁判年月日 平成18年 9月14日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)18129号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2006WLJPCA09140004
原告 株式会社リンク・ワン
同代表者代表取締役 E
同訴訟代理人弁護士 佐藤彰紘
同訴訟復代理人弁護士 木村英治
被告 株式会社伴茶夢
同代表者代表取締役 甲山A夫
被告 乙川B雄
両名訴訟代理人弁護士 中野博保
被告 株式会社ストライク
同代表者代表取締役 F
同訴訟代理人弁護士 田邨正義
同 佐野真
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告らは、原告に対し、各自3億1500万円並びにこれに対する被告乙川B雄において平成17年9月11日(訴状送達の日の翌日)から、被告株式会社伴茶夢及び同株式会社ストライクにおいて同月13日(訴状送達の日の翌日)から、各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告株式会社ストライク(被告ストライク)の仲介により、被告株式会社伴茶夢(被告伴茶夢)との間で同社の経営する飲食店5店舗について営業譲渡契約を締結し営業譲渡を受けたが、その後、同契約締結に際して被告伴茶夢から示された資料、情報には重大な誤りがあり、上記各店舗が実際には利益が出ていない店舗であったことが判明したため、営業譲渡代金3億8000万円から差替え保証金相当額8100万円を控除した2億9900万円及び被告ストライクに対する仲介業務報酬1600万円の合計3億1500万円の損害を被ったとして、被告伴茶夢に対し、上記営業譲渡契約の代金減額条項又は同契約の債務不履行に基づき、被告乙川に対し、同契約に先立つ基本合意の債務不履行、被告伴茶夢の上記営業譲渡債務の連帯保証若しくは重畳的債務引受け契約又は不法行為に基づき、被告ストライクに対し、仲介契約の債務不履行に基づき、それぞれ3億1500万円の支払を請求している事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、括弧書きした証拠及び弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 当事者
ア 原告は、飲食店の店長に対する研修、店長の派遣等を行うことを目的とする株式会社であり、平成16年7月東証マザーズ市場に上場を果たし、資本金約3億6000万円、従業員数165名(同年4月現在)を擁していた(丙2)。
原告は、同年10月当時、2店舗の飲食店について、店舗オーナーからアルバイト店員を引き継ぎ、原告が店長を派遣して経営をする受託業務を行っていた。
丙谷C郎は、原告の経理管理本部に所属し、被告伴茶夢との後記営業譲渡契約に原告側担当者として関与した。
イ 被告伴茶夢は、喫茶店、寿司店、居酒屋等の飲食店の経営等を目的とする資本金4000万円の株式会社である。
被告伴茶夢の代表取締役は、従前から、被告乙川であったところ(以下、被告伴茶夢及び同Gを併せて「被告伴茶夢ら」という。)、平成17年7月31日、被告乙川が退任し、被告乙川の子でそれまで専務取締役であった甲山A夫が就任した。
ウ 被告ストライクは、公認会計士らが主体となって設立され、企業の合併、資本提携及び業務提携の仲介、企業の営業譲渡及び営業用資産の売買並びにそれらの仲介等を目的とする株式会社である(甲12の1ないし5)。
丁沢D介は、被告ストライクの取締役企業提携部長であり、原告と被告伴茶夢との後記営業譲渡契約に被告ストライクの担当者として関与した。
(2) 被告伴茶夢と被告ストライクとのアドバイザリー契約の締結
ア 被告伴茶夢は、平成16年ころから、事業の縮小及び経営の被告乙川から甲山A夫への交替を計画し、同年2月下旬ころから、被告ストライクとの間で、「a店」、「b店」、「c店」、「d店」及び「e店」(丙5ないし9。以下、併せて「本件5店舗」といい、平成16年4月ころ開業したe店を除く4店舗を「本件4店舗」という。)の売却について交渉をし、被告伴茶夢らは、同年3月30日、被告ストライクとの間で、上記営業譲渡の対象企業の探索とその実行に関しアドバイザーとしての専門的な業務を行うことを委託する旨の次の約定を含むM&Aアドバイザリー契約(乙27)を締結した。
(ア) 業務の範囲(2条)
〈1〉 本件提携に必要な資料の作成
〈2〉 対象企業の選定及び探索
〈3〉 被告伴茶夢らの意向に基づく対象企業との条件交渉
〈4〉 本件提携に必要な契約書等の作成
〈5〉 本件提携に関する実務上の手続に関する助言
〈6〉 その他本件提携に付随する業務
(イ) 直接交渉の禁止(4条)
被告伴茶夢らは、直接、被告ストライクの紹介による対象企業又はその関係者に接触し、又は交渉してはならない。
(ウ) 報酬(6条)
着手金及び企業評価料として100万円(消費税別)、成功報酬として譲渡金額(5億円以下)の5パーセント(同)
イ 被告ストライクは、同年7月ころ、被告伴茶夢に対し、店舗譲渡先として原告を仲介した。
(3) 原告と被告ストライクとのM&Aアドバイザリー契約の締結
ア 原告は、平成16年7月13日、被告ストライクから、本件5店舗の営業譲渡案件を紹介され、その後、同案件に関するM&A提携希望企業概要書(甲1の1)、本件4店舗について被告伴茶夢が作成した平成14年から同16年3月までの店舗別月次損益計算書(甲1の2、2)等の交付を受けた。その平成14年及び同15年分の計算書には、減価償却費との科目があり、平成14年11月から同15年7月までの事業年度分の減価償却費が計上されていたが、平成16年分の計算書には、減価償却費の科目がなく、これが計上されていなかった。
イ 原告は、同年9月1日、被告ストライクとの間で、本件5店舗の取得等に関しアドバイザーとしての専門的な業務を行うことを委託する旨の次の約定を含むM&Aアドバイザリー契約(甲3の1。本件アドバイザリー契約)を締結した。
(ア) 業務の範囲(2条)
〈1〉 本件に必要な被告伴茶夢に関する資料の入手及び作成
〈2〉 価額その他の条件交渉
〈3〉 本件に必要な契約書等の作成
〈4〉 本件に関する実務上の手続についての助言
〈5〉 本件に関する店舗物件について、賃貸人の承諾を得ることについての協力義務
〈6〉 その他本件推進に付随する業務
(イ) 報酬(3、4条)
アドバイザリー業務委託報酬として100万円(消費税込み)、コンサルティング業務報酬として1800万円(同。ただし、コンサルティング業務報酬は名目で、コンサルタント業務をすることは予定されていなかった。)
ウ 原告は、被告ストライクに対し、上記報酬として、同月3日、100万円を、同月21日、報酬残額1800万円から後記(4)ウのとおり300万円を減額した1500万円をそれぞれ支払った(合計1600万円。甲3の2・3)。
また、被告伴茶夢は、被告ストライクに対し、(2)アの契約の報酬として、上記減額に伴い、合計して1680万円を支払った。
(4) 原告と被告伴茶夢との営業譲渡契約の締結と原告の代金支払
ア 原告と被告伴茶夢らは、平成16年9月2日、被告ストライクの仲介により、本件5店舗の営業譲渡契約を同月下旬を目処として締結し、営業譲渡の実行予定日を同年10月1日とすること、譲渡代金は3億9000万円(消費税込み。本件譲渡代金)を目処とすること、被告伴茶夢が原告に対して建物賃貸借契約やリース契約の承継ができるようにすること等を規定した基本合意(甲4。本件基本合意)をした。
本件基本合意8条には、被告乙川は、原告に対し、実行日後3か月を目処として、本営業に関する助言、情報を提供し、また、各契約に係る契約上の地位及び諸関係が円滑に原告に承継されるよう、原告の業務をサポートすると、10条には、被告伴茶夢らは、原告が譲渡財産及び被告伴茶夢の会計処理等の実態を把握するための情報、資料を開示するとともに、原告又は原告の指定する第三者が被告伴茶夢の会社又は店舗内に立ち入り、帳簿類及び譲渡財産を調査することを承認すると規定されている。
イ 原告は、同年9月3日、被告伴茶夢に対し、本件基本合意に基づき、手付金として2000万円を支払った(甲3の2)。
ウ 原告及び被告らは、同月16日、被告伴茶夢が従業員を社会保険に加入させていなかったことを理由に本件5店舗の本件譲渡代金を500万円減額して3億8500万円に、被告ストライクの仲介報酬残額を300万円減額して1500万円にすることを合意した。
エ 原告と被告伴茶夢は、同月17日、被告ストライクの仲介により、本件5店舗の営業を3億8500万円(消費税込み、賃貸借契約の差替え保証金8100万円を含む。)で譲渡する、中間金2億6500万円を本契約締結と同時に支払い、残金1億円を同月30日に支払う、同年10月1日に本件5店舗を現状有姿で引き渡すこと等を内容とする営業譲渡契約(甲6の1。本件営業譲渡契約)を締結した。
本件営業譲渡契約14条1項5号には、本契約締結日以前に被告伴茶夢から原告に開示された資料、情報に本契約締結日以後、重大な相違又は誤りが発見された場合、原告と被告伴茶夢が協議の上、本件営業譲渡の条件、内容を変更し、若しくは譲渡代金の減額、又は原告の伴茶夢に対する通知により本契約を解除することができると規定されている。
また、同契約は、被告乙川も当事者として記名押印しており、被告乙川は、4条1項で、賃貸借契約の承継について被告伴茶夢とともに確約し、9条で、本件店舗の営業が円滑に承継されるように譲渡実行後3か月を目処として、原告の望む範囲で原告の業務をサポートすると規定されている。
オ 原告は、同年9月21日、被告伴茶夢に対し、本件譲渡代金の中間金2億6500万円を支払った(甲6の2)。
カ 原告及び被告らは、同年10月1日、本件譲渡代金を500万円減額して3億8000万円とすることを合意し、原告は、同日、被告伴茶夢に対し、a店とb店の差替え保証金2280万円を控除した本件譲渡代金の残金7220万円を支払った(甲6の3・4)。
(5) 本件営業譲渡後の経緯等
ア 被告乙川は、連帯保証人として、被告伴茶夢とともに、a店について賃貸人との間で生じたトラブルについて原告には一切迷惑をかけない旨の原告あての平成16年9月17日付け念書(甲7)を差し入れた。
イ 被告乙川は、連帯保証人として、被告伴茶夢とともに、本件5店舗について、営業譲渡日以降3か月以内に営業譲渡前の要因により通常営業に支障をきたすような重大な故障等が発生した場合には、通常営業を行うに当たり問題のない状態への回復を行うことを保証する旨の原告あての同年10月1日付け念書(甲8)を差し入れた。
ウ 被告伴茶夢は、平成16年10月29日、原告に対し、同年1月から7月までの店舗別月次損益計算書(甲9)をファックス送信した。同計算書には、減価償却費の科目があり、本件4店舗につき1月にさかのぼって減価償却費が計上されていた。また、これによると、d店の同年5月から7月まで及びe店の同年5月(営業開始月)及び6月の各営業損益が赤字となっていた。
エ また、本件営業譲渡前、被告伴茶夢は、従業員から徴収していた社員寮の従業員負担金相当額を賃貸料収入との科目で店舗売上げに算入していた(甲1の2、2)が、社員寮賃料相当額は本社経費に計上していた。
3 争点及び当事者の主張
(1) 本件の争点は、被告伴茶夢との関係において、〈1〉被告伴茶夢が本件営業譲渡契約14条1項5号又は同契約に基づく信義則上の情報提供義務に違反し損害賠償責任を負うか、被告乙川との関係において、〈2〉被告乙川が本件基本合意10条違反又は本件営業譲渡契約に基づく被告伴茶夢の債務について連帯保証若しくは債務引受けにより損害賠償責任を負うか、〈3〉被告乙川に、被告伴茶夢の代表取締役で、かつ、本件基本合意及び本件営業譲渡契約の当事者として、原告に対し、本件営業譲渡において損害を与えないように正確な情報を提供する義務があり、同義務に違反したとして不法行為による損害賠償責任を負うか、被告ストライクとの関係において、〈4〉被告ストライクに、本件アドバイザリー契約2条又は同契約当事者としての信義則上の義務に違反する債務不履行行為があり損害賠償責任を負うか、被告らの損害賠償責任が認められるとして、〈5〉原告の被った損害額はいくらかである。
(2) 被告伴茶夢の債務不履行責任の有無(争点〈1〉)
ア 原告の主張
(ア) 本件営業譲渡契約14条1項5号には、同契約締結日以前に開示された資料、情報に、同契約締結日以後、重大な相違又は誤りが発見された場合、譲渡代金の減額をすることができると規定されている。
また、被告伴茶夢は、本件営業譲渡契約の内容又はその付随的義務として、相手方である原告に対し、損害を与えないよう営業店舗の営業状況等について適正な情報を提供する義務がある。
(イ) そして、被告伴茶夢から本件営業譲渡契約前に提供された資料では、〈1〉従業員から徴収している社員寮の負担金相当額を店舗売上げに算入しているにもかかわらず、支払賃料は本社経費に計上されていた。利益計上額合計は年338万9286円であり、本件4店舗の合計営業利益額8072万7593円の約4.2パーセントに相当する。また、〈2〉本件営業譲渡契約前に提示された資料では、本件4店舗の各月の減価償却費合計129万9000円が計上されていなかった。さらに、本件営業譲渡契約後、〈3〉被告伴茶夢が提示した資料には月額リース支払額が計上されていないことが判明し、その未計上リース料は月額208万5845円となる。加えて、〈4〉a店、b店、d店及びe店の保証金不返還約定部分についても、賃貸借契約期間に応じて各店舗において償却する必要があるが、本件営業譲渡契約前に提示された資料において償却されていないことが判明した。その未計上額は、上記4店舗で月額35万7660円となる。
上記の資料は、本件営業譲渡契約後に判明した相違又は誤りに該当し、営業譲渡契約の締結に当たっては、各店舗の営業利益が正確に把握できる正しい資料、情報が提供されることが前提となっており、上記4科目の月額合計は402万4945円にものぼり、被告伴茶夢から事前に提示された資料によれば、本件4店舗の月額営業利益は666万6600円であり、この額は極めて大きい。
また、被告伴茶夢は、本件4店舗の売上げ年4億1000万円、営業利益年8000万円との営業収益状況に関する情報及び本件5店舗の売上げとして年4億9000万円、営業利益として年9500万円が見込めるとの情報を提供した。しかし、本件営業譲渡契約後の営業状況によれば、実際には本件5店舗の経営状態は悪化しており、開示された情報のような利益を見込めないことが判明した。
このように、被告伴茶無から本件営業譲渡契約前に提示された資料には、重大な相違又は誤りがあり、本件営業譲渡契約14条1項5号又は同契約に基づく信義則上の情報提供義務に違反している。
イ 被告伴茶夢の主張
被告伴茶夢は、原告に対し、過去の会計資料を提出しており、原告は、これら資料を検討して本件5店舗の営業譲渡契約を締結するか否かの判断を自らの責任において行うべきものである。被告伴茶夢は、営業譲渡店舗の売上げをかさ上げするような意図で会計処理を行ってきたわけではなく、原告が、被告伴茶夢から提示された資料を検討すれば、容易に支払賃料の会計処理や減価償却費を算出することが可能であったのである。
また、被告伴茶夢が原告に対して、本件営業譲渡後に本件4店舗の営業利益として年8000万円が確保できると表明したり、本件5店舗の売上げとして年4億9000万円、営業利益として年9500万円が見込めると提示したことはなく、あくまで過去の実績を示したにすぎない。そもそも、飲食店の売上げは多様な要素が影響するものであり、その営業は原告の責任において行われるものであり、売上げが落ちたからといって被告伴茶夢に責任があるものではない。
(3) 被告乙川の債務不履行責任の有無(争点〈2〉)
ア 原告の主張
(ア) 被告乙川は、原告に対し、本件基本合意10条に基づき、原告が譲受財産及び被告伴茶夢の会計処理等の実態を把握するための情報、資料を開示する義務を負っているが、ここでいう情報、資料とは、譲受財産等を適正に表示する情報、資料であることは当然である。
また、被告乙川は、本件営業譲渡契約締結の際、同契約における被告伴茶夢の債務について連帯保証又は重畳的債務引受けをした。原告は、被告伴茶夢が小規模オーナー会社であり、本件5店舗譲渡後は更に小規模となることから、本件営業譲渡契約後、被告伴茶夢が倒産等した場合を考慮して被告乙川にも個人責任を負担してもらうよう本件営業譲渡契約を締結したのである。確かに、本件営業譲渡契約9条には被告乙川の協力義務の規定があるが、被告乙川が個人として記名押印した以上、被告乙川の責任が一部の条項に限定されることはない。
(イ) 被告伴茶夢から開示された資料、情報が不適正なものあったことは、前記(2)ア(イ)のとおりである。したがって、被告乙川は、本件基本合意10条違反又は被告伴茶夢の損害賠償債務の連帯保証若しくは債務引受けによる損害賠償責任を負う。
イ 被告乙川の主張
被告伴茶夢らは、原告に対し会計資料等を開示している。被告伴茶夢らが開示した資料を検討するのは原告の責任であり、被告伴茶夢らが開示した資料が不十分であれば、原告は、本件基本合意10条に基づき、被告乙川に対し、調査を求めることも可能であり、被告乙川は、本件基本合意8条の協力義務の趣旨に従い、原告の要望にいつでも応じられる態勢にあったから、本件基本合意10条に違反していない。
また、被告乙川が本件営業譲渡契約において負う責任は、同契約9条の協力義務のみであり、その余の条項について責任を負うことはない。被告乙川は、本件基本合意及び本件営業譲渡契約のいずれにおいても被告伴茶夢の債務の連帯保証、債務引受けをしたことはない。甲7、8号証の念書において、被告乙川は連帯保証人として記名押印しているが、これらはいずれも店舗設備の物理的な瑕疵、故障がある場合の保証であり、営業利益や収益の獲得に関する連帯保証、債務引受けではない。
(4) 被告乙川の不法行為責任の有無(争点〈3〉)
ア 原告の主張
(ア) 被告乙川は、被告伴茶夢の代表取締役であり、かつ、本件基本合意及び本件営業譲渡契約の当事者であるから、本件営業譲渡契約の譲受人である原告に対して、損害を与えないように譲渡対象店舗の営業状況、売上げ、収益状況等について適正な情報を提供する注意義務を負う。
(イ) そして、被告伴茶夢らが原告に対し不適正な情報を提供し、又は、不適正な情報が提供されるままになっていたことは前記(2)ア(イ)のとおりであり、被告乙川に上記注意義務違反が認められ、被告乙川は、不法行為による損害賠償責任を負う。
イ 被告乙川の主張
契約当事者が負う注意義務については、双方当事者がおかれている立場により程度の差が生じる。企業買収等を企図する企業は、相応の専門的社員を擁しており、会計資料等の分析能力、的確な経営判断をする社員が配属されている。原告は、店長の派遣等を行う企業であり、まさに専門的社員を擁する企業であり、被告伴茶夢において原告の経営の判断に資する資料の提出をしている以上、被告乙川に何らの注意義務違反はない。
(5) 被告ストライクの債務不履行責任の有無(争点〈4〉)
ア 原告の主張
(ア) 被告ストライクは、本件アドバイザリー契約2条に基づき、仲介業務として、被告伴茶夢の営業する本件5店舗に関する資料の入手及び作成、価額その他の条件交渉、本件に必要な契約書等の作成、本件に関する実務上の手続についての助言、その他本件推進に付随する業務を行うことになっていることから、営業の譲受けを検討している原告に損害を与えないように、被告伴茶夢から提供される情報、資料についてこれを精査し、原告に不適正な情報、資料が渡らないように注意する義務及び既に渡ってしまった不適正な情報、資料を訂正する義務とともに、原告が営業を譲り受けるか否か、譲り受ける場合に適切な金額は幾らかを検討、判断することが可能な程度の情報、資料が不足している時は、被告伴茶夢に情報、資料の追加提出を求めることを原告に対して説明すべき義務を負う。
仮に、本件アドバイザリー契約2条から上記義務が認められないとしても、被告ストライクは、本件アドバイザリー契約の一方当事者として信義則上、上記義務を負担する。
被告ストライクは、公認会計士が主体となって設立した企業の合併買収や営業譲渡等のいわゆるM&Aの専門会社であることをうたっており、原告としては、被告ストライクが会計面も含めたM&Aに関する専門的アドバイザー業務を責任を持って原告に提供する趣旨で本件アドバイザリー契約を締結したのである。
(イ) 被告ストライクを通じて被告伴茶夢から提供された情報、資料は、前記(2)ア(イ)のとおり不適正なものであった。したがって、被告ストライクは、債務不履行責任を負う。
イ 被告ストライクの主張
(ア) 本件アドバイザリー契約の目的は、本件5店舗の営業譲渡契約の媒介の受託であり、被告ストライクの受託業務の範囲は、本件アドバイザリー契約2条に具体的に列挙されている。
被告ストライクは、準委任契約の受託者の一般的義務として善管注意義務を負担しているが、これは、あくまで上記受託業務の遂行に付随しての注意義務にすぎず、営業にかかわる財務や会計処理に関する調査は含まれない。そして、被告ストライクの負担する義務の内容、程度は、委託者に期待される知識、経験、能力等により左右されるが、M&Aにおいては、委託者が相当の知識等を有していることは当然であるから、被告ストライクの調査、説明等の義務内容も委託者の能力を前提としたものであることはいうまでもない。
(イ) 被告ストライクは、被告伴茶夢から提出された資料を原告に交付しており、被告ストライクに善管注意義務違反はない。原告は、本件基本合意に基づいて、本件5店舗に対する調査を行うことが可能であり、また、被告伴茶夢から示された資料を検討すれば、減価償却費等について把握することは可能であった。また、本件店舗の売上げについても調査を行うことが可能であり、売上げを把握することはできたはずである。
このように、被告ストライクには、善管注意義務違反はなく、債務不履行はない。
(6) 原告の損害(争点〈5〉)
ア 原告の主張
本件5店舗は、実際には利益を見込めない店舗であったところ、営業譲渡契約においては利益を見込むことができるかが重要な要素であり、本件営業譲渡契約前に利益を見込めないことが明らかとなっていれば、原告が本件5店舗の営業譲渡を受けること及び被告ストライクとの間で本件アドバイザリー契約を締結して報酬を支払うこともなかったのであるから、原告は、営業譲渡代金3億8000万円から差替え保証金8100万円を控除した2億9900万円及び被告ストライクに支払った本件アドバイザリー契約報酬1600万円の合計3億1500万円の損害を被った。
イ 被告伴茶夢らの主張
原告は、本件5店舗について、売上利益以外に価値がないかのような主張をするが、店舗開設には費用、労力、従業員に対する指導教育等を要するものであり、原告の主張は失当である。
ウ 被告ストライクの主張
被告ストライクは、本件アドバイザリー契約に基づき適切な役務を提供しており、仲介業務報酬を返還する義務はない。
また、本件5店舗について、原告は、保証金以外に価値がないとするが、同様の店舗を新宿等に出店すれば、1店舗当たり5000万円から6000万円程度の費用や相当の時間を要する。上記店舗のように過去の売上実績を把握でき、ある程度収益を上げていた店舗をまとめて取得できることに価値がないとは到底認められない。
第3 当裁判所の判断
1 被告伴茶夢の債務不履行責任の有無(争点〈1〉)
(1) 本件営業譲渡契約14条1項5号には、同契約締結日以前に開示された資料、情報に、同契約締結日以後、重大な相違又は誤りが発見された場合、本件営業譲渡の条件、内容の変更若しくは譲渡代金の減額又は契約の解除をすることができると規定されている(前提事実(4)エ)。
ところで、提供される資料、情報に関しては、正確なものであることが望ましいことは当然であるが、被告伴茶夢から提供される資料、情報は、原告が本件5店舗の営業を譲り受けるか否かの判断において利用されるものであり、その判断は、原告の責任で行われるべきものであることを考えれば、提供された資料、情報が営業譲渡を受けるか否かの判断や条件決定に影響を及ぼすような重大な相違や誤りがあった場合に、初めて情報提供義務違反による債務不履行責任が認められると考えるべきであり、上記条項も同様の趣旨で規定されたものと解される。
この点について判断する場合に、営業譲受けの希望者といっても様々な個人、法人がおり、その有している知識や情報量には格差があり、どのような情報をどの程度提供する義務を負うかについては、当事者の知識や情報量、譲渡対象物等との関係で個別的に検討するべきである。
そこで、以下、原告が主張する相違又は誤りについて、情報提供義務違反といえるだけの重大なものか否かについて検討する。
(2) 店舗別月次損益計算書の記載について
ア 被告伴茶夢は、原告に対し、被告ストライクを通じて、平成16年7月から同年8月までの間に、店舗紹介リーフレット、M&A提携希望企業概要書(甲1の1。ただし、被告ストライク作成)、譲渡対象店舗概要(同)、平成14年及び同15年の店舗別月次損益計算書(甲1の2)、平成16年1月から同年4月までの店舗別月次損益計算書(甲2、丙11)、平成15年7月31日(事業年度末)現在の固定資産台帳・減価償却費明細書(乙4)、平成16年4月現在のリース契約書残高一覧表(丙13。ただし、被告ストライク作成)、同年8月1日現在の社員リスト(丙14)、店舗レイアウト図(丙15)、店舗賃貸借契約書(丙16の1ないし5)、リース契約等関係書類(丙17の1ないし28)、社外サポート業者一覧表(丙18)、平成13年11月から同14年10月まで及び同年11月から同15年7月までの各事業年度の確定申告書(乙2、3)を提供した(乙1)。
なお、平成16年4月分の記載のある店舗別月次損益計算書(丙11)について、原告は交付を受けていないと主張するが、被告ストライクの担当者である証人丁沢は、記憶が不確かな部分があるというものの、同損益計算書を原告に交付したことを具体的に証言していること、被告伴茶夢は、同損益計算書を同年8月10日に被告ストライクにファックス送信していること(丙11)、被告ストライクは、それまでの損益計算書等を原告に交付しているのであるから、同年4月分の記載のあるものを交付しない理由はないこと、丙谷も、丁沢に対し、同年7月28日に財務資料を早急に提出するよう電子メールで依頼した(丙19の3)後、同年4月分の損益計算書の催促を行っていないこと(証人丁沢)等から、同月分の記載のある店舗別月次損益計算書は丁沢が丙谷と会った同年8月12日(丙19の9・10)には交付されたと推認される。
このように、本件営業譲渡に際しては、被告伴茶夢から原告に対して、被告伴茶夢の経営状況や本件5店舗の組織や営業状況等を把握し得る資料の提供があったことが認められることに加え、原告は、本件基本合意に基づき、譲受財産である本件5店舗の実態を把握するために本件5店舗に立ち入り、又は、被告伴茶夢の帳簿類及び譲受財産の調査を行うことができたのであるから、被告伴茶夢から交付された資料、情報に不足があれば、被告伴茶夢に対して追加の資料の交付を要求したり、財務状況について調査したりすることが十分に可能であった。また、原告は、公開会社で専門の店舗経営者(プロ店長)として経営管理技術を駆使して店舗の存続と発展を実現していく者の育成とその派遣を図る企業(丙1)であり、原告の担当者である丙谷は、税理士事務所に勤務した経験を有し、経理財務管理を含めた管理業務を担当していた(証人丙谷)ことから、店舗の経営状態について把握する能力が十分にあったものと推認される。
以上を前提に、原告主張の個別の勘定科目について検討する。
イ 被告伴茶夢が本件営業譲渡契約前に原告に対し交付していた資料においては、純売上高が、売上高、クレジット売上げ、賃貸料収入及び売上値引戻り高に分類されて(甲1の2、2)、被告伴茶夢が従業員から徴収している社員寮の負担金相当額は、賃貸料収入として店舗売上げに含まれていたのに対し、社員寮の支払賃料については本社経費に計上されていた(前提事実(5)エ)が、被告伴茶夢がその売上げを不当に高くみせるために上記のように計上し、もって虚偽の事実を原告に報告していたとは認められない。
すなわち、店舗別月次損益計算書においては、勘定科目として賃貸料収入と明記されているのであるから、原告は、その記載内容から、被告伴茶夢が店舗の収入の中に賃貸料収入を含めていることは容易に把握することができたし、被告伴茶夢から交付された資料を検討することで、支払賃料についての財務処理を把握することが可能であったと考えられる。
ウ 減価償却費については、被告伴茶夢が本件営業譲渡契約前に原告に交付した平成16年1月から同年3月までの店舗別月次損益計算書には、減価償却費の科目がなく計上されていなかった(前提事実(3)ア)が、被告伴茶夢は、原告に対し、前記アのとおりM&A提携希望企業概要書、固定資産台帳・減価償却費明細書、確定申告書等を交付しており、それらの資料を検討すれば、上記店舗別月次損益計算書には減価償却費が計上されていないこと及び本件4店舗の減価償却費の額を把握することは容易であったと認められる。
被告伴茶夢は、平成14年及び同15年の計算書には、減価償却費の科目を設け、平成14年11月から同15年7月までの事業年度分の減価償却費を計上していた(前提事実(3)ア)が、同年8月以降は、次年度の決算期末到来で、減価償却費が他の経費と異なり現実の支出を伴わないものであるため、計上していなかったにすぎないものと認められ(甲1の2、被告伴茶夢代表者)、平成15年8月分以降の減価償却費が空欄となっていることに照らしても、被告伴茶夢がその売上げを不当に高くみせるために虚偽の事実を報告しようとしたものでないことが明らかである。
この点について、証人丙谷は、上記店舗別月次損益計算書に減価償却費の科目がなかったことを認識しなかった理由として、被告ストライクが資料の内容についても確認していると考えていたため、事前に減価償却費について着目せず、確認しなかった、自分が帳簿を作成する際には減価償却費の科目を設けると証言しているが、原告と被告ストライクの本件アドバイザリー契約における被告ストライクの業務内容に被告伴茶夢から交付される資料の内容について調査、確認することまで含まれないのは後記4のとおりであるし、本件営業譲渡契約を締結しようとする原告としては、本件5店舗の営業状況等を把握するために各資料の交付を受けたものであり、原告においてこれらを検討していれば、減価償却費について容易に把握できたことが明らかである。
エ 店舗別月次損益計算書には、月額リース支払額の科目欄はない(甲1の2、2)が、このことから、月額リース支払額が計上されていないとはいえない。そして、本件5店舗の店舗設備や什器等がリース物件であることやリース契約の内容は、本件営業譲渡契約前に原告に交付されたM&A提携希望企業概要書、リース契約書残高一覧表、リース契約書等を確認すれば、容易に把握が可能であり、現に丙谷は、被告ストライクを通じて被告伴茶夢に対し、リース契約について詳細を確認するために契約書の写しの交付を求め、これを受け取っているのである(丙19の8ないし10)。
オ 本件5店舗の保証金不返還約定部分についても、店舗別月次損益計算書に償却計上していない(甲1の2、2)が、原告は、平成16年8月中旬ころ、本件5店舗の賃貸借契約書の写し(丙16の1ないし5)の交付を受けており、同契約書を調査、確認することで、保証金不返還約定部分を容易に把握することができたと認められる。
カ 以上のように、原告が主張する店舗別月次損益計算書に記載されている科目に関する相違又は誤りは、企業経営に関して相当の専門的知識や情報を有すると認められる原告が被告伴茶夢から交付された資料を検討することや、本件基本合意に基づいて被告伴茶夢に対して調査を行えば、いずれも容易に内容の適否や適切な情報を把握することが可能なものであったと認められる。
キ したがって、店舗別月次損益計算書の記載について、被告伴茶夢が原告に対して、重大な相違又は誤りがある情報を提供したとは認められない。
(3) 売上げ及び営業利益に関する部分について
ア 被告伴茶夢が原告に交付したM&A提携希望企業概要書の和食ダイニング5店舗概要(甲1の1)中には、直近年商計約4億9000万円、営業利益9500万円と記載されているが、それが、本件4店舗の平成15年1月から同年12月までの間の売上げ及び営業利益並びに営業を開始して間もない「e店」の予測値の合計額として記載されていることは、同概要の記載自体から明らかである。
この情報について、原告は、被告伴茶夢が本件5店舗の将来の営業利益の見込みを示したものであると主張し、証人丙谷もこれに沿う証言をする。確かに、飲食店の営業譲渡において、店舗の売上げは、店舗の価値を判断する際の重要な要素であるが、和食ダイニング5店舗概要の記載は、平成15年の実績値を記載したものであるから、同概要に記載の金額をもって、将来の見込みを示したものとは考え難いし、そもそも、飲食店の売上げは、店舗の経営者や経営方針、景気状況等の影響を受け、その予測を立てることは困難である。
他方、飲食店の営業譲渡を受けるか否かは、譲受人である原告が自己の責任において判断すべきものであるところ、原告は、被告伴茶夢に対し、本件基本合意に基づき本件5店舗に対する調査を行うことができる立場にあり、また、原告は、専門の店長の養成等を行う企業であり、原告担当者の丙谷も税理士事務所での勤務経験を有するのであるから、被告伴茶夢から開示された情報等を検討して、自らの責任で本件5店舗の売上げ等を予測し、もって営業譲渡を受けるか否かの判断材料とすべきものである。
そうすると、被告伴茶夢が、営業譲渡後、本件5店舗の売上額として年4億9000万円、営業利益として年9500万円が見込めるとの情報を提供したものとは認めることができないし、原告は、被告伴茶夢が示した情報が本件5店舗の将来の営業利益見込みではなく、過去の実績をまとめたものにすぎないことを認識していたと認められる。
イ したがって、本件5店舗の営業譲渡後の営業利益の見込みについて、被告伴茶夢が原告に対して、重大な相違又は誤りがある情報を提供したとは認められない。
(4) 以上のように、被告伴茶夢が原告に提供した情報は、本件営業譲渡契約14条1項5号又は同契約の付随的義務として信義則上認められる情報提供義務に違反したものであったとは認められず、被告伴茶夢の債務不履行をいう原告の主張は理由がない。
2 被告乙川の債務不履行責任の有無(争点〈2〉)
(1)ア 本件基本合意10条によれば、被告乙川は、被告伴茶夢の代表者として、原告に対し、原告が譲受財産及び被告伴茶夢の会計処理等の実態を把握するための情報、資料を開示する義務を負っているものと認められる(前提事実(4)ア)。
しかしながら、本件営業譲渡契約の譲渡人である被告伴茶夢に情報提供義務違反が認められないことは前記1のとおりであるから、その代表者である被告乙川についても同様に、上記情報提供義務に違反したものとは認められない。
イ また、原告は、被告乙川が、被告伴茶夢の原告に対する本件営業譲渡契約に基づく債務について連帯保証又は債務引受けをしたと主張するが、被告伴茶夢が本件営業譲渡契約14条1項5号又は同契約に付随する情報提供義務に違反し損害賠償責任を負っていると認められないことは前記1のとおりであるから、仮に、被告乙川が連帯保証又は債務引受けをしたとしても、その責任を負う余地はない。
ただし、この点については、次のとおり、被告乙川が本件営業譲渡契約において、被告伴茶夢の原告に対する債務について連帯保証又は債務引受けをしたとは認められない。
すなわち、本件営業譲渡契約には、被告乙川が、被告伴茶夢の契約上の責任を個人保証するとは記載されておらず、同契約4条1項で、賃貸借契約の承継について確約し、9条で、本件基本合意8条を受けて、一定期間原告の業務をサポートする旨規定されているにすぎないこと(前提事実(4)ア)、他方で、被告乙川は、本件営業譲渡契約を前提として、これとは別に一定の範囲で連帯保証人としての責任を負う旨の念書を原告に差し入れていること(前提事実(5)ア、イ)、原告は、本件営業譲渡契約の内容を原告の顧問弁護士に確認させており(証人丙谷)、被告乙川が連帯保証責任を負うことになっているのであれば、同契約書においてそのように明記するのが当然であること等を考慮すれば、被告乙川が本件営業譲渡契約において被告伴茶夢の責任を連帯保証又は債務引受けしたとは認められない。
(2) 以上のとおりで、被告乙川に債務不履行責任(連帯保証又は債務引受責任を含む。)は認められず、原告の主張は理由がない。
3 被告乙川の不法行為責任の有無(争点〈3〉)
原告は、被告乙川が原告に損害を与えないように適正な情報を提供する義務を負い、これに違反したと主張するが、前記1のとおり、被告伴茶夢から原告に提供された情報が本件営業譲渡契約14条1項5号等による情報提供義務に違反したものとは認められないのであるから、被告伴茶夢の代表者である被告乙川においても、情報提供義務に違反したものとして不法行為責任を負う余地はない。
したがって、原告の主張は理由がない。
4 被告ストライクの債務不履行責任の有無(争点〈4〉)
(1) 原告は、被告ストライクが本件アドバイザリー契約2条又は同契約の一方当事者として信義則上、被告伴茶夢から提供される資料等を精査して不適正な情報、資料が原告に示されないようにする義務を負うと主張し、証人丙谷は、被告ストライクに対しては高額の報酬を払っており、被告ストライクが被告伴茶夢から示される資料について調査することが前提となっていたと原告の主張に沿う証言をする。
確かに、本件アドバイザリー契約による報酬は1900万円とされている(後に1600万円に減額)こと、被告ストライクは、公認会計士が主体となって設立されたM&Aの専門の会社であることは、前提事実(1)ウ、(3)イ、ウのとおりであるが、本件アドバイザリー契約には、被告ストライクの具体的業務の範囲として、資料の入手・作成、価額その他の条件交渉、実務上の手続についての助言等と規定されているにすぎないこと(前提事実(3)イ)、原告が公開会社でプロ店長として経営管理技術を駆使して店舗の存続と発展を実現していく者の育成とその派遣を図る企業であり、店舗の経営状態について把握する能力があるものと認められること(前記1(2)ア)、本件アドバイザリー契約が仲介契約であると原告に事前に伝えられ、原告もこれを了解していたこと(甲13、証人丁沢)、原告が公認会計士の立会いを要求するなど被告ストライクの積極的関与を期待していたとは認められないこと、報酬額についても営業譲渡代金の5パーセント程度で仲介業務報酬として特段高額であるとは認められないこと等によれば、本件アドバイザリー契約は営業譲渡の仲介契約であり、被告ストライクが仲介業者としての善管注意義務を負うことがあるとしても、これを超えて被告ストライクにおいて、被告伴茶夢が提供する資料等についてその内容を精査し、不適正な情報、資料が原告提示されないようにする義務まで負うものと認めることはできない。
被告ストライクは、被告伴茶夢から示された資料が明らかに不合理なものであったり、当然提出されるべき重要な資料が提出されていない場合は格別、そもそも、営業譲渡を行うか否かの判断は、原告の責任において決すべきであるから、被告ストライクは、本件営業譲渡の仲介業務として、原告において譲受財産や帳簿等の調査をし得る程度の資料を入手し、これを原告に提供すべき義務を負っているにすぎないと考えられる。
(2) そして、被告ストライクは、被告伴茶夢から前記1(2)アの資料を入手し、これを原告に提供しており、被告伴茶夢から提供された資料がとりたてて不適正、不十分なものであったとは認められないのであるから、被告ストライクに前記義務違反があったとは認められない。
(3) したがって、被告ストライクに本件アドバイザリー契約についての債務不履行があったとは認められず、原告の主張は理由がない。
5 よって、争点〈5〉(原告の損害)について判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉山正己 裁判官 篠原礼 裁判官 新城博士)
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