判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(334)平成19年 1月25日 東京地裁 平18(ワ)5120号 報酬金請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(334)平成19年 1月25日 東京地裁 平18(ワ)5120号 報酬金請求事件
裁判年月日 平成19年 1月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)5120号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA01250006
要旨
◆被告会社の代表取締役を相手に株主代表訴訟を提起・遂行した原告が、被告会社に対し、会社法八五二条一項にいう「株主が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」には、現実に勝訴判決があった場合だけでなく、訴訟係属中に損害賠償債務の全部又は一部が履行された場合も含むと主張して、同条項に基づき弁護士報酬等の支払いを請求した事案について、株主代表訴訟の第一審で請求が棄却され控訴も棄却されていること、代表取締役が控訴審係属中に被告に送金した金員は原告が主張した損害賠償責任の履行として支払われたものとは認められないことなどを理由に、代表訴訟において原告が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合にあたるとは認められないとして、請求が棄却された事例
出典
新日本法規提供
参照条文
会社法847条
会社法852条1項
商法267条(平17法87改正前)
商法268条ノ2第1項(平17法87改正前)
裁判年月日 平成19年 1月25日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)5120号
事件名 報酬金請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA01250006
東京都杉並区〈以下省略〉
原告 X
上記訴訟代理人弁護士 近藤義徳
東京都杉並区〈以下省略〉
被告 Y機工株式会社
上記代表者代表取締役 A
上記訴訟代理人弁護士 岩﨑精孝
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,263万円及びこれに対する平成17年7月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告の代表取締役であるA(以下「A」という。)を相手に,平成17年法律第87号により削除される前の商法267条に基づき株主の代表訴訟を提起,遂行した原告が,被告に対し,会社法852条1項(平成17年法律第87号により削除される前の商法268条の2第1項)に基づき,弁護士報酬及び遅延損害金の支払を求め,被告が,前記代表訴訟は株主が勝訴した場合に当たらないから,弁護士報酬を会社に請求できる要件を充たさないと主張し,争った事案である。
1 争いがない事実
(1) B(以下「B」という。)は,被告の発行済株式のうち,2万株を所有していた。なお,被告の現在の発行済株式数は4万1000株である。
(2) Bは,平成12年4月4日,死亡した。Bの相続人は,原告(相続分2分の1),C(以下「C」という。相続分8分の1),D(以下「D」という。相続分8分の1),E(以下「E」という。相続分8分の1)及びA(相続分8分の1)であり,原告とCは実親子,D,E及びAは実姉弟である。
(3) 原告及びCは,被告に対し,平成15年5月6日付内容証明郵便で,相続株式についての権利行使者を原告と定めた旨通知した。
(4) 原告は,被告に対し,同年9月17日付内容証明郵便で,Aに対する損害賠償請求訴訟を提起することを請求した。
(5) 被告が前記(4)の訴え提起の請求に応じないため,弁護士牧義行及び同近藤義徳(以下「前訴代理人ら」という。)は,原告を代理して,当庁に対し,同年11月27日,「1 被告は,Y機工株式会社に対し,金7902万3529円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2 訴訟費用は被告の負担とする。3 仮執行宣言」という請求の趣旨の損害賠償請求訴訟を提起した(当庁平成15年(ワ)第27073号事件。以下「前訴事件」という。)。
(6) 前訴代理人らは,平成16年1月15日,同年2月19日,同年3月19日,同年4月21日,同年6月2日,同年7月1日,同年9月1日,同年10月8日,同年11月30日,同年12月9日,平成17年2月8日,同年3月1日及び同年4月5日の各期日に出頭し,訴状及び準備書面1ないし準備書面3を陳述し,甲第1ないし18号証を提出した。
(7) 前訴事件の第一審は,原告の請求を棄却した。
(8) 前訴代理人らは,平成17年4月11日,東京高等裁判所に控訴し(同庁平成17年(ネ)第2410号事件),同年5月13日,控訴理由書を,同年6月20日,準備書面を提出し,同日,同月28日,同年7月8日及び同年8月24日の各期日に出頭した。
(9) Aが,和解を拒絶したため,前訴事件の控訴審は,同年7月8日,口頭弁論を終結し,同年8月24日を判決言渡期日と指定した。
(10) Aは,被告に対し,同年7月15日,450万円を送金し,同月26日,この事実を主張立証するために弁論再開の申立てをした。
(11) 前訴事件の控訴審は,原告の控訴を棄却した。
2 本件の争点は,前記1(10)の送金があったこと等前訴事件において,会社法852条1項の「株主が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」と評価できる事由があるか否かである。
(1) 原告の主張
イ 会社法852条1項が,株主の代表訴訟を提起した株主が,「株主が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」,会社に対し,相当の弁護士費用の請求を認めている趣旨は,株主の代表訴訟の結果,会社に生じていた損害が回復されたときは,株主の代表訴訟の提起,遂行は,第一次的には会社に利益をもたらし,会社のために行われた事務管理の側面があるので,会社は,代表訴訟の提起,遂行のために要した訴訟費用以外の費用,弁護士報酬等のうち,客観的に有益費と認められる範囲のものを株主に償還させる義務(民法702条)を負うことから,このような責任を会社に負わせ,このことにより株主の代表訴訟の提起を容易にさせ,制度の実効性を保障しようとしたものである。この趣旨に照らせば,同条の「株主が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」とは,現実に勝訴判決の言渡があった場合に限られず,訴訟係属中に債務の全部または一部の履行がされた場合を含む。
ロ AはF名義の口座(以下「F口座」という。)からA名義の口座(以下「A口座」という。)に金員を移動したが,前訴事件は,この点に争いがなく,争点は,F口座の資金が被告に帰属するか,A個人に帰属するかだった。Aは,A口座の資金はA個人に帰属すると主張していたが,本人尋問において,被告の貸借対照表上,被告に対して有している債権について,実質的に返還請求する意思がない旨供述した。そこで,裁判所は,F口座の資金が被告に帰属していることを前提に,Aが被告に対して債権を行使しないという内容で和解を成立させようとAに打診した。これに対し,Aは,本人尋問における供述を翻して,自らの被告に対する債権は,実質的な債権であり,行使の意思があると主張したため,和解は成立しなかった。この段階で,裁判所は,F口座の資金が被告に帰属していると判断していることを当事者に告げており,Aは和解を拒絶したことで敗訴判決を予想していたはずである。ところが,その後,裁判官が交替し,交替した裁判官は,Aが,本人尋問における供述を覆したことを看過して,前記1(7)のとおり,原告の請求を棄却した。控訴審の平成17年6月28日の和解期日において,控訴審は,F口座の資金が被告に帰属することを前提に,この資金を被告からの借入金ないし預り金として扱うことはできないかを検討するように当事者に打診した。Aが,同年7月8日の和解期日において,和解を拒絶したため,同年8月24日を判決言渡期日と指定した。従って,この段階では,控訴審がF口座の資金を被告に帰属する資金と認定していることは明らかであったから,当事者としては,第一審判決が取り消され,Aに対し,支払を命じる判決がなされることが当然に予想された。その後,前記1(10)及び(11)のとおり,Aによる送金,弁論再開の申立て及び控訴審の判決がなされた。
以上からすると,前記1(10)の送金は,Aが,そのままでは敗訴判決を免れないと知った段階で,訴訟係属中に請求の一部の金員を任意に被告に弁済することで敗訴判決を避けようとしたものである。
原告が株主の代表訴訟を提起しなければ,Aが,被告に対し,450万円を送金することは期待できなかった。このことからすると,Aは,訴訟係属中に,請求の一部を履行し,これによって,被告の損害が回復されたといえるから,原告は,被告に対し,相当な弁護士報酬を請求することができる。
ハ 原告は,前訴代理人らに対し,平成15年10月6日,着手金200万円,成功報酬の経済的利益の10パーセントに18万円を付加した金額を支払うという約定で,Aに対する株主の代表訴訟の訴訟手続を委任した。
(2) 被告の主張
イ 原告が提起した,株主の代表訴訟は,前記1(7)のとおり,第一審で請求を棄却され,同(11)のとおり,控訴審でも控訴棄却となっており,原告の敗訴が確定している。原告の本訴請求は,会社法852条1項の「株主が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」という要件を充たしておらず,主張自体失当である。
ロ 原告が提起した株主の代表訴訟は,代表取締役であるAがリベート資金として,F口座にプールしてあった金員をA口座に移して,Aが費消したことを理由とするものだった。Aは,この資金は,個人の給料の一部であると主張し,A口座に移した後もリベート資金として,会社のために使用し,自ら費消した事実はない旨主張して争った。控訴審で,和解が勧告され,平成17年6月28日の和解期日で,裁判所から,Aが自己のために費消した事実は認定できないが,リベート資金を被告からの預り金として扱ったらどうかという提案がされた。結局,和解は打ち切りになったが,Aは,このまま判決となっても,勝訴すると考えていたものの,前訴事件を再検討した結果,F口座の資金のうち,被告に対する貸付の原資となった450万円については,被告の資金と考えられるという判断のもとに,前記1(10)の送金を行った。その後,弁論再開を申し立て,再開された同年8月24日の期日に450万円の支払の事実を立証して,控訴審の判決が言い渡された。第一審及び控訴審のいずれにおいても,裁判所が,F口座の資金が被告に帰属することを明らかにしたことはなかった。
以上からすると,Aは,任意に前記1(10)の送金をしており,敗訴判決を避けるために支払ったものではない。
第3 争点に対する判断
1 甲第1ないし3,5,7ないし9,11,13,16ないし18,20号証,第25号証の10,第29,30号証及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 前訴代理人らは,前訴事件において,Aが,F口座を解約させ,被告に帰属するF口座の資金をA口座に振り込ませ,これを個人的用途に費消した等と主張した。これに対し,Aは,F口座の資金は,Aらの給与の一部がプールされたもので,営業経費として使用されており,Aが個人的に費消したものではないと主張した。また,Aは,前訴事件において,A口座に振り込まれた金員のうち,450万円を被告に貸し付けていたと主張した。実際に,A口座から,平成11年2月26日,350万円が,同年8月6日,100万円が,被告の口座に移動されており,この金員は,被告の経理上,Aからの貸付として処理されていた。なお,Aが,被告の経理担当者であった原告をして,平成10年12月10日,F口座を解約させた上,合計1195万3529円をA口座に振り込ませた事実は,当事者間に争いがなかった。
(2) Aは,前訴事件の本人尋問において,帳簿上被告に対する貸付金となっているが,別段返してもらうつもりはないと供述した。ところが,Aは,平成16年12月9日の前訴事件の口頭弁論期日において,F口座の金銭は,Aら個人のものであり,Aはその資金を被告に貸し付けたのであるから,Aの貸付債権は実体的に存在していると主張した。
(3) 前記(2)の口頭弁論期日後,裁判官が交替し,交替した裁判官は,前記第2の1(7)のとおり,原告の請求を棄却した。この判決は,金員の出所,預金の目的及び使途,預金手続等の行為者,預金通帳の管理状況等の諸事情を総合して,F口座の資金は被告に帰属すると認めた上で,A口座に振り込まれた後,被告の口座に振り込んだ金員について,経理上貸付と処理されているものの,平成11年の貸付以後現在まで特に返済を求めていないこと,Aに今後も積極的に返済を求める意思がないことを根拠に,この貸付の実質は,無期限無利息の貸与ないし贈与に近く,Aが費消したものとは認めることはできない,また,F口座の金員は,リベートとして営業経費に使われることが予定されており,前記のように被告の口座に振り込まれたもの以外は,リベートとして利用したものと認められるが,リベートとしての支出が不当で,被告に損害が生じたことが認められず,従って,Aが,リベートの名目で,金員を個人的に費消したと認めることはできない等と判断した。
(4) 前訴代理人らは,控訴理由書において,第一審判決が,平成16年12月9日の前記(2)の口頭弁論期日において,Aが貸付債権が実体的に存在していると主張したことを看過し,Aの返済を請求する意思の認定を誤ったと主張した。また,前訴代理人らは,控訴審の平成17年6月20日の第1回口頭弁論期日において,AがF口座の資金を「個人的に費消した。」というのは被告に帰属したF口座の資金を「自己のものとした。」との趣旨であると釈明した。
(5) 前訴事件の控訴審は,前記(4)の第1回口頭弁論期日において,弁論を終結し,和解期日が同月28日に開かれた。この期日において,裁判所は,リベート資金を被告からの預り金として扱ってはどうかという提案をした。同年7月8日に次回の和解期日が開かれたが,和解は成立せず,裁判所は,同日,判決言渡期日を同年8月24日午後1時20分と指定した。
(6) 前記第2の1(10)の弁論再開の申立てを受けて,前訴事件の控訴審は,口頭弁論を再開し,前記(5)の判決言渡期日を取り消し,同日を口頭弁論期日に指定した。Aは,前記口頭弁論期日で,被告に対し,450万円の返還義務があることを認め,同年7月15日,これを返済したと主張し,その証拠を提出した。控訴審は,再び弁論を終結し,同年9月14日,前記第2の1(11)のとおり,控訴棄却の判決を言い渡した。控訴審判決は,Aは,控訴審において,F口座の資金のうち,被告に対する貸付の原資となった450万円については,被告の資金であることを認め,前記第2の1(10)のとおり,送金して,返還した事実を認めた上で,F口座からA口座への資金移動自体をもって,Aによる個人的費消ということはできず,上記資金移動後にAがその資金を個人的に費消したことを認めるに足りる証拠はないと判断した。そして,控訴審判決は,被告への貸付について,被告に帰属していたF口座の資金をA口座に移動し,ここから被告へ450万円の資金移動をし,これをA個人から被告に対する貸付と処理したことは,当該資金の帰属を不明朗にするもので,不適切であったとはいえるが,上記450万円は被告によって利用され,Aが個人的利益を得ていたものではない上,Aは,450万円の貸付の原資に係るF口座の資金が被告からの預託金であることを認め,450万円を既に被告に返還していることを考慮すると,会計処理上は,A個人名義で被告に対して貸し付けられたものではあるが,その実質は被告のために預かり管理していたものと評価することができるから,被告の資金を自己のものとして着服横領したものとは認められないと判断した。
2 会社法852条1項において,株主の代表訴訟を提起した株主が,株主が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合,会社に対し,相当の弁護士費用の請求ができるのは,株主の代表訴訟の提起により,取締役の責任が認められ,勝訴(一部勝訴を含む。)した場合,会社に生じていた損害が回復されることにより,株主の代表訴訟の提起は,事務管理としての側面を有し,有益費の償還が認められるからである。
前記1で認定した事実によれば,前訴事件の争点は,AがA口座に振り込まれたF口座の資金を個人的に費消したか否かであること,前訴事件の第一審判決は,F口座の資金は被告に帰属するものであると認めたものの,Aが前記資金を個人的に費消したものとは認められないというものだったこと,控訴審は,和解期日において,A口座に振り込まれた金員を被告からの預り金として扱ってはどうかという提案をしたが,これは,F口座の資金は被告のものであることを前提とするものであるものの,損害賠償金の返還を必ずしも意味しないこと及び前訴事件の控訴審判決は,F口座の資金のうち,被告に対する貸付の原資となった450万円については,被告のAに対する預託金であると認めたことが認定でき,これらの事実によれば,前記第2の1(10)のとおり,送金して,返還した450万円は,預託金を返還したもので,前訴事件において,原告が主張した損害賠償責任の存在を認め,Aが,被告に対し,これを返還したものとは認められない。従って,450万円の返還は,代表訴訟により株主が追及した取締役の損害賠償責任の履行とは認められないので,株主の代表訴訟を提起した株主が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合に当たるとは認められない。
この判断は,450万円の返還は,前訴代理人らが,原告を代理して,前訴事件の株主の代表訴訟の提起,遂行をしたことがきっかけとなったものであること及び被告は現実に450万円の返還を受けたことを考慮しても,左右されない。
3 結論
以上のとおりであるから,原告の請求は,理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 梶智紀)
*******
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。