
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(317)平成19年 7月31日 東京地裁 平16(ワ)15116号 損害賠償請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(317)平成19年 7月31日 東京地裁 平16(ワ)15116号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年 7月31日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平16(ワ)15116号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2007WLJPCA07318001
要旨
◆被告の子会社の経営システムに関しコンサルティング会社の原告が被告と業務提携契約(本件契約)を締結し債務を履行したにもかかわらず、被告が子会社に約定報酬を支払わせなかったとして、約定報酬金相当額の損害を請求した事案において、本件契約は特定性を欠くものではなく、合意の有効性を認定した上で、原告の本件債務の履行が一部にとどまることや当該契約が委任関係であることによる一定時期以降の被告による契約解除を認定し、当該解除により原告が被った損害につき報酬金の一部相当額を認容した事例
参照条文
民法648条
商法512条
裁判年月日 平成19年 7月31日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平16(ワ)15116号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2007WLJPCA07318001
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 株式会社ファイナンスソリューション
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 仁平勝之
同 富永豊子
同 平英毅
宇都宮市〈以下省略〉
被告 株式会社ザ・フォウルビ
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 横山幸子
同 竹澤一郎
主文
1 被告は,原告に対し,3703万9406円及びこれに対する平成16年7月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1億6925万5430円及びうち5789万9073円に対する平成16年7月23日から,うち7804万0308円に対する平成18年4月1日から,うち3331万6049円に対する平成19年2月1日から,それぞれ支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,経営・金融コンサルタント業を営む原告が,原告・被告間の平成14年10月11日付け業務提携契約に基づいて被告の子会社にクレジットシステムを提案・導入し,平成15年3月から運用を開始したにもかかわらず,被告は子会社をして原告に対し約定の報酬を支払わせる等の債務を履行せず,約定報酬金相当額の損害を被ったとして,原告が被告に対して,1億6925万5430円及びうち5789万9073円に対する訴状送達の日の翌日である平成16年7月23日から,うち7804万0308円に対する平成18年4月1日から,うち3331万6049円に対する平成19年2月1日から,それぞれ支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提となる事実(証拠を記載していない事実は当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨から認められる。)
(1) 当事者等
ア 原告は,経営・金融コンサルタント業務等を営む株式会社である。(甲1)
被告は,美容(エステティック)業,化粧品の卸小売業等を営む株式会社であり,平成14年11月当時,全国に約60店舗を有していた。(甲2,12)
イ 原告代表者は,信販事業を営む株式会社オリエントコーポレーション(以下「オリコ」という。)の営業課長を経て,平成8年,美術品販売大手のアールビバン株式会社に入社し,同社において,信販会社の機能を果たす子会社の立ち上げに携わった。その後,原告代表者は独立し,平成14年7月15日,原告を設立した。(甲1,38,原告代表者本人)
(2) 集金保証システムの導入状況
遅くとも,平成4年ころまでには,自動車業界等において,メーカーが設立した信販子会社が,クレジットカード会社等に低額の保証料を支払い,上記信販子会社の顧客に対する集金業務の代行及び顧客の債務保証を委託する集金保証システムが導入されていた。(甲38,乙10,11,証人C)
被告においては,従前から自社クレジットを行っていたが,こうした集金保証システムは導入しておらず,振替不能(顧客の資金不足により引き落としができないもの)や回収不能等が生じていた。(甲24,42)
(3) 業務提携契約書(以下「本件契約書」という。)の作成
原告と被告は,平成14年10月11日,以下の記載がされている本件契約書にそれぞれ署名ないし記名し,押印した。(甲3。以下,本件契約書に基づく契約を「本件契約」という。)
「 業務提携契約書
株式会社ザ・フォウルビ(以下「甲」という)と株式会社ファイナンスソリューション(以下「乙」という)とは,乙の添付1の提案に基づく金融ビジネスモデル(以下「ビジネスモデル」という)を甲において設立予定の金融子会社(以下「丙」という)が導入することに関し,次のとおり業務提携契約を締結する。
第1条(目的)―省略―
第2条(合意事項)
甲及び乙は,以下の内容について合意する。
(1) 甲は乙に対して,ビジネスモデル導入に関するコンサルタント費用として,本契約締結月より6ヶ月間毎月末日までに別記記載の乙の指定口座に100万円(税別)を支払うことに合意する。
(2) 甲は本契約締結後遅滞なく,ビジネスモデルに沿って丙を設立し,かつ,丙に以下を遵守させる。
① 丙はビジネスモデル導入月より2年間毎月,別記記載の乙の指定口座に対し,月額50万円(税別)を支払うこと。
② 丙はビジネスモデル導入によって得られた粗利益の10%を,別記記載の乙の指定口座に対し支払うこと(但し,1円未満の端数は切り捨てるものとする。)尚,粗利益とは,ビジネスモデルに基づくビジネスによってユーザーから丙に支払われることとなる手数料から,ビジネスモデルに基づくビジネスに関連して(ⅰ)丙が信販会社に対して支払うこととなる保証料及び(ⅱ)丙の銀行からの資金調達コスト(ビジネスのたちあげに関して要する資金コストを除く,通常のビジネス運営に必要となる資金の調達コスト)を差し引いた額をいうものとする。
③ 丙がビジネスモデル導入による売上明細を乙に対し毎月翌月10日迄に文章で報告すること。
④ 丙がビジネスモデルを使用したことによって生じた実績を示す帳簿類を本社事務所に保管すること。また,乙が必要とする場合には,当該帳簿類その他これに関連する一切の書類を乙が丙の営業時間内において閲覧することを許諾すること。
⑤ 丙が乙と上記に沿った内容の契約を締結すること。
第3条(機密保持)
甲及び乙は,別途機密保持契約を締結する。
第4条(損害賠償)
甲又は乙が,本契約又は第3条に規定した機密保持契約の条項に違反し,相手方に損害を与えたときには,違反した当事者は,損害を被った相手方に対しその損害を賠償する。
第5条(契約解除)―省略―
第6条(有効期間)
本契約の有効期限は,本契約の締結日から甲の金融子会社がビジネスモデルに基づくビジネスをやめた日が属する月の末日までとする。但し,前文の定めにかかわらず,甲は本契約締結月から6ヶ月の間は第2条(1)により100万円の支払義務を負うとともに,ビジネスモデルによって得られる粗利益が生じる期間が終了するまで第2条(2)②による所定額を丙が乙に支払うよう,甲は丙に遵守させるものとする。
第7条(本契約終了後の甲及び丙の義務)
事由の如何をとわず本契約が終了した場合においては,爾後,甲はビジネスモデルの使用を一切なしえず,また,丙並びに甲及び丙の役員がビジネスモデルを使用しない旨を遵守させる義務を負う。
第8条(合意管轄)―省略―
第9条(協議事項)―省略―
第10条(特約事項)
甲が金融機関及び信販会社から取り扱いの承諾が受けられず「ビジネスモデル」の導入が図れなかった場合は,本契約は解除され,甲が乙に支払ったコンサルタント費用は返金されるものとする。」
(4) 被告における新クレジットシステムの運用開始
被告は,平成15年1月8日,金融子会社である株式会社ジェイズ(以下「ジェイズ」という。)を設立した。(甲4)
しかし,本件契約2条(2)⑤に定められたジェイズと原告との間の契約は締結されなかった。
被告は,平成15年3月1日から,従来の自社クレジットに替えて,以下の内容の新たなクレジットシステムを導入し,運用を開始した。
① 被告が,信販会社の機能を果たす金融子会社ジェイズを設立し,顧客の立替払業務を自社グループ内で行うことにより,従来外部の信販会社が享受していた立替払による手数料収入の利益を取得する。
② ジェイズは,株式会社ジャックス(以下「ジャックス」という。)と集金委託契約を締結し,顧客からの集金業務を委託するとともに,顧客のジェイズに対する支払債務の包括的保証契約を締結してリスクヘッジを行う。
③ ジャックスは,保証金額に相当する同社名義の約束手形を振り出し,ジェイズは手形を利用して立替払資金の調達を行う。
④ ジェイズは,みずほ銀行との間でジャックス振出の約束手形を同行子会社のSPC(特定目的会社)に手形債権譲渡する形式で資金調達を行う。
(5) 原告に対する金銭の支払
被告は原告に対して,平成14年10月31日,同年12月4日,同月27日,平成15年1月31日,同年3月4日,同月31日の6回にわたり,それぞれ105万円,合計630万円を支払った。
(6) 被告に対する内容証明郵便の送付
同年6月23日,原告は被告に対して,本件契約に基づき金融子会社に所定の支払等を行わせるよう求めるとともに,本件契約書4条に従い,被告の契約違反により原告が被った損害金の支払を請求する旨が記載された内容証明郵便を送付した。(乙6)
(7) 本件訴訟の経緯
原告は,平成16年7月15日,本件訴えを提起し,被告に対して,平成16年5月末日までに生じた報酬金相当額を損害として請求したが,平成18年4月14日に,同年3月末日までに生じた報酬金相当額につき,平成19年2月1日に,同年1月末日までに生じた報酬金相当額につき損害として請求するとして,それぞれ請求を拡張した。
3 争点
(1) 本件契約書に基づく合意の成否
【原告の主張】
ア 本件契約書に基づく合意の趣旨
本件契約書の表題は「業務提携契約書」である。被告代表者B(以下「B社長」という。)のような一流の企業人が,内容も吟味せず契約書に記名押印したり,「業務提携契約書」と題する書面に記名押印しながら,契約書としての効力と責任が発生しないなどと考えることや,「秘密保持契約の趣旨」であると理解したなどということは,およそあり得ない。
イ 原告の給付義務の特定
原告は被告に対して,平成14年8月30日の最初の面談以来,同年10月11日の契約締結に至るまでの間,「新クレジットシステム概要説明書」のほか,「貴社にご提案する新クレジットシステム」などを交付した上,ビジネスモデルの内容を説明しており,本件契約書は事前に交付されたこれらのビジネスモデルに関する資料を一体として締結されたものである。
原告の給付義務の内容は,ビジネスモデルの全体像の提示に始まり,必要な作業のアドバイスをして,自己が提案した新たな利益を取得できるビジネスモデルの導入という結果にまで至らせるコンサルティングである。
必要な個々の具体的作業は,ビジネスモデル導入という結果に至らせるよう臨機応変に対応すべきものであり,原告のみならず顧客企業の経営資源も活用して行うものであって,被告が主張するように,具体的作業を細々と契約書に規定しておくなどということはない。
ウ 本件契約書2条(2)②が規定する金員の性格
この金員は,原告が提案したビジネスモデルの導入により,被告が従来得ることのできていなかった新たな利益の取得を可能とした場合に,原告に対して新たな利益の割合に応じて支払う成功報酬である。
およそ経営コンサルティングは,既知の様々な方法を依頼者の利益のために導入することによって成り立っているものであり,その方法がコンサルタントにより独自に考案された方法や法的権利性を有する方法であることは,ビジネスモデル特許などの特殊な例を除きほとんどない。
コンサルタントが,既知の方法を使ったコンサルティングにより,企業が従来得ることのできていなかった新たな利益の取得を可能とする場合に,新たに取得した利益の割合に応じた報酬を受領する契約を締結することは当然である。
【被告の主張】
ア 被告が本件契約書に記名押印したことは認める。
イ 本件契約書に基づく合意の趣旨
本件契約書は,原告・被告間の業務提携にあたって必要とされる秘密保持契約の趣旨で作成されたものである。
なぜなら,①原告代表者は被告に対して,「秘密保持契約を結ばなければこれ以上の話はできない」と説明し,本件契約書が作成された,②秘密保持契約は,業務提携契約に先立ち,あるいは遅くとも同時に締結されるところ,平成14年10月11日時点で秘密保持契約書は作成されておらず,秘密保持契約書を作成する必要性が存在した,③本件契約書の前文に「乙の添付1の提案」とあるが,添付文書はなく肝心のビジネスモデルが定義されていないのであるから,本件契約書はビジネスモデルに関する契約書たり得ない,④本件契約書作成後に原告から被告に渡された「金融ビジネス導入のご提案」と題する書面では,発生収益に関するロイヤリティは「別途ご相談」となっていた,⑤原告が被告に対して同月25日付けで提出した「ビジネスモデル概要書」と題する書面では,秘密保持契約の締結と業務提携契約の締結が,いずれも10月下旬と提案されていた,からである。
したがって,本件契約書は,秘密保持に関する仮契約書程度の意味しかなく,本件契約書によって被告が法的に拘束されるのは,秘密保持のみであり,コンサルティング料,ロイヤリティ等の支払義務は,別途合意が成立しない限り発生しない。
ウ 原告の給付義務の特定
上記のとおり,本件契約書には,ビジネスモデルに関して「添付1の提案」が添付されていない。また,同契約書には,原告の給付義務が規定されていない。
このように,契約の目的物ないしそれに準ずるものが特定されず,給付義務も規定(特定)されていなければ,契約が特定性を欠いて無効となることは自明である。
エ 本件契約書2条(2)②が規定する金員の性格
原告は被告に対して,この金員は「ロイヤリティ」であると説明していた。
ロイヤリティは,権利者から権利使用者に対して請求される権利使用の対価であるところ,「ビジネスモデル」とされるものに関し,何ら権利を有しない原告が被告に対してロイヤリティを請求する理由はない。
百歩譲って,ロイヤリティを請求するためには必ずしも法的権利まで必要としない場合があるとしても,それには知的所有権に準じるようなオリジナリティの高いノウハウ・サービスの提供があり,相手方がその独自性ないし価値を十分認識した上でロイヤリティ支払義務を認めることが必要である。しかし,原告が「ビジネスモデル」とするものについて,知的所有権に準じるようなオリジナリティの高いノウハウ・サービスはなく,それどころかおよそオリジナリティが認められないといってよいのであるから,原告がロイヤリティを請求する理由はない。
(2) 被告は原告が提案したビジネスモデルを導入しているか。
【原告の主張】
ア 原告が提案したビジネスモデルの本質的部分は,①信販会社の機能を果たす金融子会社の設立によって,従来他の信販会社が得ていた顧客の立替払手数料を被告が取得するという構造の採用,②保証会社を付けて顧客の貸し倒れリスクを無くし,同社に顧客に対する集金業務も委託することによって集金の労力も不要とすること,③金融子会社が顧客に替わって被告へ立替払をする多額の資金の調達という困難な課題を克服するために,保証会社から金融子会社に対して約束手形を振り出させる仕組みの3点にある。
イ 資金調達方法について,金融子会社がジャックスから受領した約束手形を担保にして金融機関から資金を調達するか(繰り延べ方式),金融機関やそのSPCに裏書譲渡して代金支払という方法で資金を調達するか(手形債権流動化方式)は,金融子会社が立替払にかかるユーザー手数料を回収して売上を実現するまでの期間の長さ,ビジネスモデル導入当初の売上等に差はあるが,金融子会社が最終的に取得するユーザー手数料収入に差があるものではない。このビジネスモデルの根幹は,金融子会社が新たに手数料収入を取得することであり,資金調達コストは単なるビジネスモデルを維持するための経費に過ぎず,利益取得の基本構造自体に変化を与えるものではない。
したがって,資金調達方法として,みずほ銀行が提案した手形債権流動化方式を採用したからといって,原告のビジネスモデルを採用しなかったとはいえない。
ウ 確かに,原告が当初提案したのは,共同出資による金融子会社設立である。しかし,金融子会社を共同出資にするか単独出資にするかは,単に,原告に対する費用の支払の確保をどのような形で行うかの問題であり,被告から,金融子会社の株主とならなくても,契約書でロイヤリティの支払が確保されるように縛ればよいではないか,との提案があったので,変更に応じたものにすぎない。
金融子会社を共同出資にするか単独出資にするかによって,ビジネスモデルが異なるものではない。
【被告の主張】
ア 被告が採用したビジネスモデルは,みずほ銀行が提案した手形債権流動化を内容とするものである。
イ 原告が被告に対して提案してきたのは,原告と共同出資の信販子会社を設立して共同事業によりこれを運営するというモデルなのであるから,原告が提案したビジネスモデルは,共同出資による共同事業であることが1つの要である。しかし,被告は,原告が提案した共同出資や共同事業ということは当初より明確に拒否しており,また,実際に現在の被告のクレジットシステムはこのようなものを採用していない。
ウ 信販会社が得てきた立替払手数料を得るには別に金融子会社を設立する必要は全くなく,保証会社を付けて貸し倒れリスクを無くし集金業務も委託するという点も原告のスキームに独特のものではないから,これらの部分についてはビジネスモデルとして意味を持たない。そうすると,資金調達の問題だけがビジネスモデルとして意味を持つ。
原告が提案したのは手形を担保にして金融機関から資金を調達する繰り延べ方式であり,被告が採用したのは金融機関やSPCに手形を裏書譲渡して代金支払を受けるという方法で資金を調達する手形債権流動化方式である。
エ したがって,被告が導入したビジネスモデルは原告の提案したビジネスモデルとは異なるものであるということにならざるを得ない。
(3) 原告は本件契約に基づく債務を履行したか。
【原告の主張】
ア 本件契約における原告の債務は,ビジネスモデルの全体像の提示に始まり,必要な作業のアドバイスをして,自己が提案した新たな利益を取得できるビジネスモデルの導入にまで至らせることである。
原告は,被告に対して提案しようとしているビジネスモデルの内容を書面及び口頭で詳細に説明することに始まり,本件契約締結後は,先に保証料率の交渉を行っていたジャックスを保証会社として紹介してビジネスモデルに組み込み,各金融機関にビジネスモデルを説明し,資金調達の選択につき被告に助言をしてきた。
イ ジャックスとの交渉
原告は,平成14年8月ころから,ジャックスに対してビジネスモデルのスキームを説明し,被告にビジネスモデルを提案するのと並行してジャックスと折衝を重ね,平成14年9月,実質年率4パーセントという破格の保証料率で保証することの内諾を得た。
その結果,平成15年2月,ジャックスは,原告の提案したビジネスモデルに基づき,ジェイズと保証料率を実質年率4パーセントで立替払契約に係わる包括保証契約を締結した。
ウ 金融機関との交渉
原告は,ジェイズが立替払資金を調達する金融機関を探すため,本件契約後,みずほ銀行,足利銀行,あおぞら銀行,商工中央金庫に対して,ビジネスモデルのスキームの説明,資料の提出を行い,折衝を重ね,最終的にみずほ銀行とあおぞら銀行が候補として残った。
資金調達の方法としては,当初,保証会社振出の約束手形を直接金融機関に担保として持ち込んで融資を受けること(繰り延べ方式)が考えられたが,折衝を重ねる中で,みずほ銀行からは,金融機関が設立したSPCに約束手形を裏書譲渡して資金調達する方法(手形債権流動化方式)が提案された。原告は被告に対して,各資金調達方法の長短を分析して報告し,被告はこれに基づいてみずほ銀行を資金調達先として選択し,ジェイズとみずほ銀行との間に手形債権流動化方式に基づく資金調達のための契約を締結させた。
エ 以上のとおり,原告は被告に対してビジネスモデルの導入を完了し,平成15年3月1日より,ジェイズが被告の顧客らへの立替払を開始して,原告提案のビジネスモデルがスタートしたのであるから,原告の本件契約に基づく債務は履行されたものである。
【被告の主張】
ア 原告は,本件契約に基づいて,①プランの提案,②金融子会社の設立から運用までのすべてのサポート(具体的なサポート対象は,金融子会社設立に関する業務,運用フローに関する業務,スタッフ・社内研修に関する業務である。),③バックファイナンス(資金調達)に関する業務を行う義務がある。
イ 金融子会社設立について
ジェイズを設立したのは被告であって,原告は設立行為にも設立準備行為にも全く関わっていない。
ウ ジャックスとの交渉について
平成14年10月中旬以降,被告専務取締役D(以下「D専務」という。)はジャックスとの間で保証料率に関する交渉を行い,当初ジャックスから提示されていた5ないし6パーセントの保証料率が4パーセントという低率でまとまった。
被告は原告に対して,保証料率の交渉に必要な会社業務内容に関する資料を渡したことは一切ないのであるから,原告がジャックスと保証料率に関する交渉を行うことはおよそ不可能である。
エ 金融機関との交渉について
被告は従前から,取引先であるみずほ銀行宇都宮支店を資金調達先として予定していたが,遅くとも平成14年11月初旬にはこれを決定し,資金調達方法としても,同行提案の債権流動化方式(手形債権完全売却)を採用することを同月中にほぼ決定していた。
被告とみずほ銀行との交渉・打ち合わせは,週2,3回のハイペースで実施されていたが,これに原告は全く関与しなかった。
オ 以上のとおり,原告が行ったことは,何らかのプランの提案とジャックスへの口利きのみであり,原告が債務履行行為と主張するものは中身がなかったり,実際とかけ離れたりして,とるに足りるものは1つもない。
(4) 本件契約は合意解約されたか。
【被告の主張】
ア 原告は当初,原告と被告の共同出資による金融子会社設立を提案していたが,本件契約書作成後に,被告はこれを拒絶した。
そして,原告は,平成14年10月25日,単独出資でもいいから話に加わらせて欲しいと,同日付の「ビジネスモデル導入に関する概要書」と題する資料(乙18)に基づく提案をした。同資料に記載されているとおり,秘密保持契約も業務提携契約も,10月下旬予定とされ,いまだ締結されておらず,このことは同資料の作成者である原告も十分認識していた。
このように,原告と被告の提携関係は,被告の共同出資案の拒絶により,仕切り直し,つまり白紙の状態に戻ったのである。
イ 平成15年2月26日,原告・被告間で話し合った結果,原告が被告に対して210万円を支払う,これ以外に被告は原告に対して何ら支払義務を負わないとの内容の合意が成立し,被告はこの合意に基づいて,同年3月中に210万円を支払った。
したがって,本件契約は合意解約されており,原告の請求には全く理由がない。
【原告の主張】
争う。
(5) 被告によって本件契約が解除されたか。
【被告の主張】
ア 債務不履行解除
上記のとおり,原告は本件契約に基づく債務を履行していない。
被告は,原告がコンサルタントとしての内実を持っていないことを知るに至って失望したことから,原告との業務提携関係の解消を決め,遅くとも平成15年2月26日までに,コンサルティング業務の履行不能を理由として,本件契約を解除した。
イ 委任者による解除
仮に,原告と被告との間に業務提携契約関係があったとしても,本件契約は,原告提案のビジネスモデルを導入するにあたり,原告が,プランの提案,金融子会社の設立から運用までのすべてのサポートを行い,被告がこれに対価を支払うという内容のものであるから,準委任契約にあたる。
被告は,上記事情があったため,平成14年12月16日,遅くとも平成15年2月26日には,民法656条,651条1項により,本件契約を解除した。
なお,本件契約書2条(2)②が規定する金員は,準委任契約としての報酬としてみるべきものであるから,本件契約は「受任者の利益」を目的としたものではなく,委任者である被告は解除権を制限されない。また,この解除は「相手方に不利な時期における解約」にもあたらないから,民法651条2項による賠償義務も生じない。
委任契約の解除により,受任者はそれまでの労力に対する相応の報酬請求ができるだけであるところ,原告は被告のためにほとんど仕事をしなかったのであり,被告が原告に支払った630万円は,原告の労力に対する支払額としては相応というよりむしろ過大であって,不足はあり得ない。
【原告の主張】
ア 債務不履行解除について
上記のとおり,原告はビジネスモデル導入に必要なコンサルティング業務をすべて行っている。
イ 委任者による解除について
仮に被告が民法651条1項に基づき本件契約を解除したとしても,被告が解除を主張する平成15年2月26日は,原告提案のビジネスモデルの導入が完了し,運用が開始された同年3月1日の直前であり,仕事をすべて終えた時期であるから,この時期における被告の解除が,同条2項の「当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたとき」にあたることは明らかである。
よって,被告は同条の定める損害賠償の責めを免れない。
(6) 損害額
【原告の主張】
ア 本件契約書2条(2)①記載の金員
被告はジェイズに対して,ビジネスモデル導入月である平成15年3月から2年間(平成17年3月まで)毎月月額52万5000円(税込),合計1260万円を原告に支払わせる義務を遵守させなかった。
よって,原告は被告の本条項の不履行に基づき,合計1260万円の損害を被った。
イ 本件契約書2条(2)②記載の金員
(ア) 被告がジェイズに対して,ビジネスモデル導入により得られた粗利益の10パーセントを原告に支払わせる義務を遵守させないため,原告は,ビジネスモデル導入月である平成15年3月から毎月粗利益の10パーセント相当額の損害を被っている。
(イ)ⅰ 被告は,本件契約書2条(2)③及び④の約定に反して,ジェイズにビジネスモデル導入による売上明細を報告させず,かつ,ビジネスモデルを使用したことによって生じた実績を示す帳簿類を閲覧させない。そこで,被告の平成14年8月から同年12月までの金融子会社以外の信販会社を利用していたクレジットローン取扱額の資料等の数値に基づき,ジェイズが得た「粗利」(ユーザーがジェイズに支払った手数料から,ジェイズがジャックスに支払った保証料及びジェイズの銀行からの資金調達コストを控除したもの。)を算出する。
ⅱ ユーザーがジェイズに支払った手数料
平成14年8月から同年12月までの被告のクレジットローン取扱状況は別紙1記載のとおりであるところ,被告は,平成15年3月のビジネスモデル導入以後,少なくともこの取扱額以上に,ジェイズを信販会社としたクレジットローンを取り扱っている。
ジェイズが原告のビジネスモデル導入に基づいて取得したユーザー手数料額は,別紙1記載のとおり,月額5127万2641円である。よって,平成15年3月1日から平成19年1月末日までの47か月間に,ジェイズが原告のビジネスモデル導入に基づき取得したユーザー手数料額は,合計24億0981万4127円である。
ⅲ ジェイズがジャックスに支払った保証料
ジェイズがジャックスに支払った保証料は,ジャックスが引き受けた実質年率4パーセントの保証料率を,分割回数に応じた元本に対するアドオン方式の保証料率で再計算して算出すると,別紙2記載のとおり,月間平均1284万8765円である。よって,平成15年3月1日から平成19年1月末日までの47か月間に,ジェイズがジャックスに支払った保証料は,合計6億0389万1955円である。
ⅳ ジェイズの資金調達コスト
ジェイズがみずほ銀行及びSPCに支払った毎月の資金調達コストは,月間500万7827円であり,そのほかにスキーム維持手数料として年間100万円が必要であるから,ジェイズがみずほ銀行及びSPCに支払った資金調達コストは合計2億3936万7869円(=500万7827円/月×47月+100万円/年×4年)である。
(ウ) 以上によれば,原告がジェイズから受け取るべき金員は,平成15年3月1日から平成19年1月末日までの47か月間に限っても,少なくとも合計1億5665万5430円(=[24億0981万4127円-6億0389万1955円-2億3936万7869円]×0.1)であるから,原告は同額の損害を被っている。
【被告の主張】
争う。
第3 争点に対する判断
1 前記前提となる事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告代表者は,オリコ勤務時代の同僚であったC(以下「C」という。)に顧客の紹介を依頼していたところ,Cの取引先であった被告を紹介されたことから,平成14年8月30日,原告代表者と原告取締役E(以下「E」という。)は,Cと共に被告を訪問した。原告代表者らは,B社長らと面会し,「金融ビジネス導入のご提案」と題する資料(乙26)を交付して,金融子会社設立による金融ビジネスの導入を提案した。原告代表者らは,金融子会社の資金調達先について,被告のメインバンクが望ましい旨を伝えたところ,B社長は主要取引先である,みずほ銀行や足利銀行に打診すると回答した。原告代表者は,原告と取引があった,あおぞら銀行を被告に紹介することも可能であると考え,あおぞら銀行との間で資金調達に関する交渉を始めることにした。(甲25,26,27の1,29,38,乙26,証人C,原告代表者)
同年9月13日,原告代表者は,Cと共に被告を訪れ,B社長,D専務,被告の顧問税理士であったF(以下「F税理士」という。)らと面会し,「新クレジットシステム概要説明書」と題する資料を示して,原告が提案しているクレジットシステムの特徴や仕組みについて説明した。(甲6,26,38,原告代表者)
(2) 同月20日ころ,原告代表者らは被告を訪問し,B社長,D専務,F税理士らに対して,「Corporate Guidance」と題する原告の会社案内資料(乙2)とともに,本件契約書の原案を交付して,本件契約書2条(2)②に規定されている粗利益の計算方法や料率についての協議を行った。(甲8,乙2,原告代表者)
同月25日,原告代表者らは,F税理士の事務所を訪問して打ち合わせを行い,F税理士から本件契約書原案の条項の訂正を求められるなどした。(甲25,27の3,38,原告代表者)
(3) 同年10月11日,原告代表者らは被告を訪ね,B社長,D専務,F税理士らと面談した。本件契約書原案の訂正部分について確認した後,原告代表者は本件契約書に署名するとともに持参した実印を押捺し,B社長は社名印と代表者印を押捺して,同書面を2通作成した。B社長らから,本件契約書にビジネスモデルに関する別紙が添付されていないことに対する異議が出されることはなかった。(甲3,26,38,証人C,原告代表者)
(4) 同月13日,原告はジャックスの担当者を同行して被告に紹介した。(甲38)
同月25日,原告代表者らは被告に対して,「ビジネスモデル導入に関する概要書」と題する資料(乙18)を交付して,クレジットシステム導入のスケジュール等について説明した。被告は原告代表者らに対して,ジャックスが保証条件を決定するための参考資料として,従前被告の顧客が利用していた信販会社各社の手数料等の条件一覧表を交付した。(甲9の1,9の2,27の6,38,乙18)
(5) 同年11月1日,被告において,原告,みずほ銀行及び商工中央金庫を交えた説明会が催された。原告は,資金調達の方法として,手形を担保として融資を受ける繰り延べ方式を提案したが,みずほ銀行からは,同行の子会社であるSPCで手形を買い取って融資する手形債権流動化方式や,シンジケートローン(協調融資)などの方法もあり検討したい旨の発言があった。(甲25,26,27の7,38)
(6) 同月18日,原告代表者はジャックス担当者を同行して被告を訪問し,被告からクレジット契約の処理方法等について聞き取りを行うとともに,解約の際の書面や店舗一覧表を受領した。また,原告代表者は被告に,あおぞら銀行から要望のあった追加資料のリストを手渡し,これらの資料を用意するよう依頼した。(甲11から13,31,38)
同年12月9日,ジャックスは原告に対して,被告宛の「割賦販売に係わる保証制度のご提案」と題する資料(甲40)を送付した。同資料においては,被告とジャックスとの取引にあたり,保証料率を実質年率4パーセントとすることを前提とした取引条件が記載されていた。(甲40,41,原告代表者)
(7) 同月14日ころ,D専務はCに対して,被告はみずほ銀行が提案したスキームを採用し,原告が提案したスキームは使わない予定である旨を伝えた。(乙17,証人C)
同月16日ころ,原告代表者,B社長,D専務及びCらは,本件契約を継続するかどうかについて話し合いを行った。被告は原告に対して,みずほ銀行のシステムを実施し原告の提案はやらないこと,原告はジャックスを同行した以外に何もしていない旨を述べるとともに,原告に支払うことになっている報酬についての不満を伝えた。そこで,Cは原告及び被告に対して,報酬に関する和解案を提示したが,双方とも歩み寄ることはなく,不調に終わった。(乙4,17,証人C)
(8) 同月18日,被告において,E,B社長,D専務,みずほ銀行担当者,ジャックス担当者らを交えてミーティングが行われた。みずほ銀行は被告に対して,「貴社手形債権流動化スキームのご提案」と題する資料(乙3)を示して,被告が保有する売掛・手形債権を対象とした流動化スキームの概要を説明した。また,被告,みずほ銀行,ジャックスらの間で締結されることになる契約の内容や文言,今後のスケジュールなどについて話し合いがされた。(甲28の5,乙3)
そのころ,原告は,並行して,あおぞら銀行と資金調達に関する打ち合わせを重ねていた。(甲16,38)
(9) 平成15年1月8日,ジェイズが設立された。(甲4)
同月9日,原告代表者らは,あおぞら銀行担当者を同行して被告を訪問し,繰り延べ方式による資金調達方法等について打ち合わせを行った。(甲28の7,38)
同月17日,みずほ銀行からジャックス及び原告に対して,「立替払契約に係わる包括保証協定書」の修正案が送付された。(甲34,38)
同月18日,Eがみずほ銀行に対して,手形債権流動化方式の融資手数料について問い合わせたところ,同行担当者は,被告に直接連絡したから具体的な数字は直接聞いて欲しい旨を回答した。そこで,Eが被告に対してみずほ銀行の提案内容を聞いたところ,被告から,初回に一括して1億5000万円のアレンジメント手数料のほか,ジェイズから譲渡された手形金額の残高に対する実質年率1.375パーセントの割合による手数料,年間100万円のスキーム維持手数料が必要であるとの内容であった旨が伝えられた。(甲28の8,38)
同月21日及び25日,被告において,原告代表者,ジャックス担当者らを交えて,ジャックスとの間で締結が予定されている包括保証契約に関する打ち合わせがされた。
そのころ,原告は,資金調達方法の違いによる収益のシミュレーションを行い,その比較表を作成して被告に送付した。(甲21,22の1,22の2,原告代表者)
(10) 同年2月26日午後,被告において,同年3月1日から運用が開始される新クレジットシステムの導入につき,被告の各店舗の店長を集めて,ジャックスによる説明会が開かれることになっていた。(甲38,証人C,原告代表者)
それに先立ち,被告社長室において,D専務は原告代表者に対して,「あなたのビジネスモデルは使わないから,支払った400万円を返して欲しい。ジャックスとは契約しなくても別に構わないから,帰ってもらってくれ。」と告げた。これに対して,原告代表者は,「お金がないから返せない。ジャックスに対して私の面子が立たない。」と言ったことから,Cが間に入り調整したところ,D専務は,さらに200万円を2回に分けて支払い,合計600万円で原告との関係を完全に終わりにしたいと提案した。Cが調整を続けたところ,原告代表者はD専務に対して,「いい勉強になりますね。」と回答した。(乙25,証人C,原告代表者(ただし,上記認定に反する供述部分は採用しない。))
それ以降,原告と被告との面談は一切行われていない。
(11) 同年3月1日,被告において,新クレジットシステムの運用が開始された。
同月4日及び31日,被告は原告に対して,それぞれ105万円,合計210万円を支払った。
2 本件契約書に基づく合意の成否(争点(1))
(1) 被告が本件契約書に記名押印したことは争いがない。
(2) 本件契約書に基づく合意の趣旨
被告は,本件契約書は,原告・被告間の業務提携にあたって必要とされる秘密保持契約の趣旨で作成されたものであると主張している。
確かに,コンサルティング契約ないし業務提携契約においては,顧客企業における現状の業務内容を分析し,当該企業の業務改善・発展を助力するという契約の目的上,秘密保持契約も併せて締結されることが一般的であること,本件契約書3条において,原告と被告は「別途機密保持契約を締結する。」と規定されていたにもかかわらず,その後,両者間において秘密保持契約が締結されたと認めるに足りる証拠がないことに照らせば,本件契約が,今後,原告が提案しようとしているクレジットシステムの具体的な説明や導入に向けた協議を行うにあたり,相互に秘密を保持することを約する趣旨を一切含まないものであるとはいい難い。
しかし,本件契約書には「業務提携契約書」であることが明記されており,被告や被告子会社の原告に対する金銭支払義務や報告義務等が規定されていること,全国に60近い店舗を有するエステティック業を経営する企業の代表者が,加除等による訂正や留保を何ら行うことなく,不動文字で記載された文言と異なる内容の合意をする目的で契約書に記名押印することは容易に想定し難いこと,被告は原告に対して,本件契約書2条(1)に規定された金員と同額の金員を,同条項において定められた支払期日とほぼ同じ時期に支払っていたことにかんがみれば,本件契約が原告・被告間の業務提携にあたって必要とされる秘密保持のみの趣旨で締結されたものであるとは到底認められない。
したがって,被告の上記主張は採用できない。
(3) 原告の給付義務の特定
被告は,本件契約書には原告の給付義務が規定・特定されていないから,本件契約は特定性を欠き無効であると主張する。
本件契約書に,ビジネスモデルに関する「別紙1の提案」が添付されていなかったことは争いがない。
しかし,前記1で認定した事実によれば,原告は,平成14年8月30日の面談以降,同年10月11日の本件契約書作成に至るまでに,原告が提案しようとしているビジネスモデルについて,「金融ビジネス導入のご提案」と題する資料(原告は被告に対して,提案・コンサルティングをするだけでなく,金融子会社の設立から運用に伴うスタッフ研修や社内研修などすべてをサポートする旨が記載されている。乙26)や「新クレジットシステム概要説明書」と題する資料を交付し,原告が被告に対して提供する役務の内容や,ビジネスモデルの特徴・仕組みを説明しているのであるから,これらの資料及び説明を総合的にしんしゃくすれば,「別紙1の提案」が添付されていなかったことをもって,本件契約における契約の目的や原告の給付義務の内容が,契約の効力を否定しなければならないほどに特定性を欠くとまではいえないというべきである。
(4) 本件契約書2条(2)②に規定される金員の性格
被告は,同条項に規定される金員は「ロイヤリティ」であるところ,「ビジネスモデル」とされるものに関して原告は何ら権利を有せず,また,「ビジネスモデル」とされるものについては,およそオリジナリティが認められないのであるから,原告にはロイヤリティを請求する理由はないと主張する。
証拠によれば,原告が被告に交付した「金融ビジネス導入のご提案」と題する資料や収益シミュレーションなどにおいて,当該金員について「ロイヤリティ」との文言が使用されていたことが認められる。(甲22の1,乙26)
一方,原告が被告に対して提案したビジネスモデルについて,原告が何かしらの権利を保有していることや,上記ビジネスモデルがオリジナリティを有するものであることを認めるに足りる証拠はなく,当該金員が何かしらの法律上の権利ないしそれに準じるものの使用料であると認めるに足りる的確な証拠もない。
しかし,前記認定のとおり,本件契約において,原告は被告に対してビジネスモデルの提案や導入に向けたコンサルティングという役務を提供するとされていること,当該金員はビジネスモデルの導入によって生じた収益に対する一定の割合との形式で規定されていること,原告代表者は,当該金員は成功報酬である旨供述していること(原告代表者本人)に照らせば,当該金員は,原告が提供する役務に対する成功報酬であったと認めるのが相当である。
(5) 以上によれば,被告は原告に対して,本件契約に基づき,①ジェイズに本件契約書2条(2)①に規定された平成15年3月から平成17年2月まで毎月月額50万円を原告に対して支払わせる債務,②ジェイズに本件契約書2条(2)②に規定されたビジネスモデル導入によって得られた粗利益の10パーセントを原告に対して支払わせる債務,③ジェイズに本件契約書2条(2)③に規定されたビジネスモデル導入による売上明細を原告に対して毎月翌月10日までに報告させる債務,④ジェイズに本件契約書2条(2)④に規定されたビジネスモデルを使用したことによって生じた実績を示す帳簿類を本社事務所に保管し,原告に当該帳簿類その他これに関連する一切の書類を営業時間内において閲覧することを許諾させる債務,⑤ジェイズに上記①から④に沿った内容の契約を締結させる債務を,それぞれ負担したものというべきである。
3 被告は原告が提案したビジネスモデルを導入しているか。(争点(2))
(1) 前記前提となる事実によれば,平成15年3月1日から,被告は従来の自社クレジットに替えて,次の内容の新たなクレジットシステムを導入し,運用を開始したことが認められる。
① 被告が,信販会社の機能を果たす金融子会社ジェイズを設立し,顧客の立替払業務を自社グループ内で行うことにより,従来外部の信販会社が享受していた立替払による手数料収入の利益を取得する。
② ジェイズは,ジャックスと集金委託契約を締結し,顧客からの集金業務を委託するとともに,顧客のジェイズに対する支払債務の包括的保証契約を締結してリスクヘッジする。
③ ジャックスは,保証金額に相当する同社名義の約束手形を振り出し,ジェイズは手形を利用して立替払資金の調達を行う。
④ ジェイズは,みずほ銀行との間でジャックス振出の約束手形を同行子会社のSPCに手形債権譲渡する形式で資金調達を行う。
(2) そして,原告が提案したビジネスモデルによって被告に生じる収益及び費用の金額,関与する法人・組織の代替性等(甲22の1,22の2,乙27)に照らせば,当該ビジネスモデルの最も本質的な部分は,従来信販会社に支払っていた立替払手数料を被告ないし被告の関連会社が取得し,信販会社に顧客からの集金及び顧客の支払債務の保証を委託することで回収リスクを軽減することに集約されるというべきである。
そうすると,被告が導入したクレジットシステムは,上記原告が提案したビジネスモデルの本質的部分を含むものであると認めるのが相当である。
(3) この点,被告は,被告が採用したビジネスモデルは,みずほ銀行が提案した手形債権流動化スキームを内容とするものであると主張する。
確かに,資金調達方法の違いは,資金コストや収益計上時期等に差異をもたらし,スキーム全体の損益に少なからぬ影響を与えるものである。しかし,被告が導入したクレジットシステムによってジェイズに生じる手数料収入や,信販会社に対する保証料の金額,資金調達方法の違いによるコストの多寡(甲21,22の1,22の2)に照らせば,資金調達方法そのものは,被告が採用したクレジットシステムの本質を変容させるほどの重要な要素であるとまではいい難い。
(4) 以上によれば,被告は原告が提案したビジネスモデルを導入していると認められる。
4 原告は本件契約に基づく債務を履行したか。(争点(3))
(1) 証拠によれば,原告が被告に対して交付した「金融ビジネス導入のご提案」と題する資料には,「金融子会社の設立から運用に伴うスタッフの研修や社内研修などをすべてサポートします。」と記載されていること(乙26),原告が提案するビジネスモデルにおいては,集金保証を委託する信販会社及び金融子会社に融資する金融機関との連携が不可欠であること(甲6)が認められるから,本件契約における原告の義務は,被告に対してビジネスモデルの提案・説明を行うこと,信販会社及び金融機関に対してビジネスモデルを説明し,必要な協議・調整を行って,集金保証及び融資等の承諾を得ること,金融子会社の設立やビジネスモデルの運用に伴うスタッフの研修等に関する業務のサポートを行うことであったというべきである。
(2) 前記認定した事実及び証拠によれば,原告が被告に対して,ビジネスモデルの提案・説明を行ったこと,原告がジャックスを被告に紹介したこと,あおぞら銀行との間で,ビジネスモデルの導入を前提とした融資条件等の調整を行ったこと,ビジネスモデルの運用に伴うスタッフの研修業務をジャックスに委託したこと(原告代表者)が認められる。
これに対して,原告がみずほ銀行との間で,資金調達方法や融資条件についての協議・調整を主体的に行っていたとはいえず(平成15年1月18日,原告からの融資手数料に関する問い合わせに対して,みずほ銀行は,被告に直接聞いて欲しい旨の回答をしていることからすると,原告がみずほ銀行との調整・協議を主導的に行っていたとはいい難い。),ジャックスとの間の交渉についても,原告がこれに関与したことがうかがわれるものの,保証料率を実質年率4パーセントに引き下げることについての貢献度が大きかったと認めるに足りる証拠はない(原告が被告やジャックスとの間で,取扱額のとりまとめによる増額や保証料率の引き下げについて積極的に交渉・説得を行ったと認めるに足りる的確な証拠がないことからすると,保証料率の決定に向けた協議・調整において,原告の存在・関与が不可欠であったとまでは認め難い。)。
さらに,原告は,クレジットシステム運用開始後のサポートを何ら行っていない。
(3) そうすると,原告が本件契約に基づく債務のうち実際に履行したものは,被告に対してビジネスモデルの提案・説明をしたこと,ジャックスを被告に紹介したこと,あおぞら銀行との間でビジネスモデルの導入を前提とした融資条件等の調整を行ったこと,被告におけるスタッフの研修をジャックスに委託したことにとどまるというべきである。
5 本件契約は合意解約されたか。(争点(4))
ア 被告は,本件契約書作成後,原告と被告の提携関係は,被告の共同出資案の拒絶により,白紙の状態に戻ったと主張するが,このような事実を認めるに足りる証拠はない。
イ また,被告は,平成15年2月26日,本件契約は原告との間で合意解約されたと主張する。
前記認定した事実によれば,同日,D専務は原告代表者に対して,さらに200万円を2回に分けて支払い,合計600万円で原告との関係を完全に終わりにしたいと提案したこと,これに対して原告代表者が「いい勉強になりますね。」と回答したことが認められる。
この点,原告代表者の「いい勉強になりますね。」との発言は,D専務の提案に対して皮肉を込めて回答したものにすぎないと解する余地があること,遅くとも平成14年12月ころから,本件契約の中途解約も視野に入れて,原告に支払う報酬額について話し合い・調整がされてきたが,いまだに歩み寄りができていないという,相互の信頼関係維持がきわめて困難な状況にあったにもかかわらず,合意解約を証する書面が作成されていないことに照らせば,同日,原告と被告との間で本件契約が合意解約されたとは認めることができない。
ウ したがって,この点についての被告の主張を採用することはできない。
6 被告によって本件契約が解除されたか。(争点(5))
(1) 債務不履行解除
被告は,原告は本件契約に基づく債務を履行しておらず,遅くとも平成15年2月26日までに,コンサルティング業務の履行不能を理由として,本件契約を解除したと主張する。
前示のとおり,本件契約に基づく債務のうち,原告が実際に履行したものは一部にとどまるものと認められる。
しかし,原告は被告に対して,金融子会社の資金調達のための金融機関はメインバンクが望ましいと伝えていたところ,みずほ銀行が被告の主要取引先であったことから,被告はみずほ銀行との間で融資条件等について直接協議・交渉するに至ったと考えられること(被告には原告の具体的な個々の事務についてのサポートを必要としないほどの金融に関する知識や交渉力があったものと認められる。),ジャックスは,従前被告と取引関係があったが,トラブルにより取引が打ち切られたとの経緯があったというのであるから,被告との取引再開を強く希望していたことがうかがわれ(甲38),保証料率の決定に向けた交渉・協議においても,原告の積極的な関与が必ずしも必要でなかったといい得る。また,原告が運用開始後のサポートを行っていないのは,平成15年2月26日の被告からの申入により事実上不可能となったことに起因するものと認められる。これらの事情に加えて,本件契約の最も重要な目的であった,原告が提案したビジネスモデルの導入が完了し,被告はこれを利用して収益を上げていることに照らせば,原告が本件契約に基づく債務のうち,一部のみを履行するにとどまっていたとしても,そのことにつき,債務不履行に基づく解除権が発生するほどの違法性があるとまではいえないというべきである。
したがって,この点についての被告の主張を採用することはできない。
(2) 委任者による解除
本件契約は,原告・被告間の信頼関係を基礎として,原告が提案したビジネスモデルを被告に導入することを目的とした事務を行うという点において,民法上の準委任契約の要素を含むものと認められ,民法651条の趣旨に照らすと,損害賠償の問題とは別に,各当事者はいつでもその解除をすることができるものといわざるを得ず,この判断を左右するに足りる事情はないというべきである(本件契約書6条は解除権を制限するものとは認められない。)。
前記認定した事実によれば,平成15年2月26日,D専務は原告代表者に対して,「あなたのビジネスモデルは使わないから,支払った400万円を返して欲しい。ジャックスとは契約しなくても別に構わないから,帰ってもらってくれ。」と告げたというのであるから,これは本件契約を解除するとの意思表示であったと認めるのが相当であり,本件契約は,平成15年2月26日,被告により解除されたというべきである。
7 損害額(争点(6))
(1) 上記のとおり,本件契約は,平成15年2月26日,被告により解除されたが,前記認定のとおり,被告は平成14年12月16日ころから,原告に対して報酬額の引き下げを申し入れていたこと,上記解除はクレジットシステム運用開始の3日前にされたこと,被告は原告が提案したビジネスモデルを導入していることにかんがみれば,被告は,本件契約に基づいて原告に支払うこととされていた報酬額に不満を抱いており,上記解除は,もっぱらこの不満を契機としてされたものであると認めるのが相当である。
そして,本件契約書2条(2)①,②及び⑤の記載によれば,原告は,クレジットシステムの導入と金融子会社との契約締結を停止条件として同条項記載に沿った報酬を得べき地位にあったというべきであるから,民法130条の趣旨に照らし,原告は,ジェイズから支払われるはずであった報酬相当額につき,損害として被告に請求することができるというべきである。
(2) 前示のとおり,原告が本件契約に基づく債務のうち,実際に履行したものは一部にとどまるが,被告がこのクレジットシステムによって多大な収益を得られるに至った(この事実は弁論の全趣旨から認められる。)のは,原告が被告に対してこれを提案・説明し,被告に導入へ向けた決断を促したことに依るところが大きいこと(原告の寄与はこれのみといって過言ではないくらいであろう。),原告が,被告と取引再開を希望していたジャックスを紹介したことで,有利な保証料率での契約ができた可能性が高いことがうかがえることからすると,クレジットシステムの導入における,原告の寄与は決して小さなものではなかったというべきである。
しかし,原告がこのクレジットシステムについて何かしらの権利を有するものではなく,既に他の信販会社等において取り扱われていたものであること(したがって,本件契約書7条はその効力に疑問があるといわざるを得ない。),現実に導入されるに際して原告はほとんど具体的なサポートを行っておらず,主な交渉や事務は被告が自ら独力で行っていること,また,前記認定の事実によれば,仮にジェイズとの契約を締結するにしても,クレジットシステムによって得られる粗利益が生じる期間について交渉の余地が残されており,それについて合意が成立するかどうか不確定要素があること,運用開始後,原告は何らサポート業務を行っていないこと(運用開始後も,クレジット取扱高や顧客からの回収率,市場金利の変動等に伴い,保証料率や資金調達コストに関する信販会社や金融機関との協議・調整が必要となる可能性があるのだから,運用開始後のサポート業務の重要性は無視できないものというべきである。)に照らせば,上記解除当時,原告が合理的に期待し得た報酬は,本件契約書2条(2)①及び②に記載された報酬金のうち,導入後2年間に受領し得る総額の4割にあたる額にとどまるものと認めるのが相当である。
(3) 証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件契約書2条(2)①記載の金員として月額52万5000円,本件契約書2条(2)②記載の金員として年額3999万9258円(=[{5127万2641円(月額ユーザー手数料)-1284万8765円(月額保証料)-500万7827円(月額資金調達コスト)}×12-100万円(年額スキーム維持費用)]×0.1。ただし,1円未満の端数は切り捨て。)の約定報酬金をそれぞれ請求し得たことが認められるから,上記解除により原告が被った損害は,3703万9406円(=[52万5000円×12+3999万9258円]×2×0.4。ただし,1円未満の端数は切り捨て。)というべきである。
第4 結論
よって,原告の請求は,被告に対して3703万9406円の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がないので,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤謙一 裁判官 杉本宏之 裁判官 間明宏充)
〈以下省略〉
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