判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(311)平成19年10月 1日 東京地裁 平17(ワ)3550号 損害賠償請求事件
判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(311)平成19年10月 1日 東京地裁 平17(ワ)3550号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年10月 1日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)3550号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA10018010
要旨
◆原告会社が、原告の取締役あるいは従業員であった被告らに対し、被告らの詐欺行為や横領行為によって損害を被ったとして、不法行為に基づき損害賠償を請求した事案において、原告から被告に送金された多額の金員は、原告が主張する趣旨の被告への貸付けであるとも、被告が主張する被告へのヘッドハンティング料であるとも認められないが、結局原告が主張する詐欺の事実は認定できないとされ、また、被告が一時期原告口座の管理担当者であったとは認められるものの、同口座からの送金は原告代表取締役が少なくとも承知しており、被告らが無権限で行った横領行為であるとも認められないとして、原告の請求が棄却された事例
参照条文
民法709条
裁判年月日 平成19年10月 1日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(ワ)3550号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA10018010
東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社アクティビジョン
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 山田正明
東京都世田谷区〈以下省略〉
被告 Y1
横浜市〈以下省略〉
被告 Y2
栃木県下都賀郡〈以下省略〉
被告 Y3
上記3名訴訟代理人弁護士 坂本誠一
東京都中央区〈以下省略〉
被告 株式会社エフ・エヌ・エストラストジャパン
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 中野公夫
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告Y1,被告Y3及び被告Y2は,原告に対し,各自2800万円及びこれに対する平成14年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y1,被告Y3及び被告株式会社エフ・エヌ・エストラストジャパンは,原告に対し,各自1300万円及びこれに対する平成14年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Y1及び被告Y3は,原告に対し,各自600万円及びこれに対する平成14年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は,被告らの負担とする。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件の概要
本件は,原告が,被告らに対して,不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求める事案であり,原告が主張する不法行為の概要は次のとおりである。
(1) 詐欺行為
被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,かつて原告の取締役の地位にあった者であり,被告Y3(以下「被告Y3」という。また,被告Y1と被告Y3を合わせて「被告Y1ら」ともいう。)は,原告において経理事務等を行っていた者であるが,被告Y1らは,共謀の上,被告Y1が原告の取締役に就任するに際し,被告Y1には営業活動を行って一定の売上向上の目標を達成をする意思も能力もなく,また,目標を達成することができなかったときに金銭を返済する意思も能力もないのに,これらがあるかのように装い,原告代表者A(以下「A」という。)をして上記目標が達成されなかったときには直ちに返金されるものと誤信させた上,事情を知っている被告Y2(以下「被告Y2」という。)名義の銀行口座に2000万円を送金させ,これを詐取した。
(2) 横領行為
被告Y1らは,原告に在職中,共謀の上,その管理・保管する原告の銀行カードを使用して,ほしいままに,原告名義の銀行口座から,(ア)300万円を被告Y1名義の銀行口座に,(イ)800万円を事情を知っている被告Y2名義の銀行口座に,(ウ)1300万円を同じく事情を知っている被告株式会社エフ・エヌ・エストラストジャパン(当時の商号は株式会社アイテム。以下「被告会社」という。)名義の銀行口座にそれぞれ送金し,さらに,(エ)現金300万円を現金自動預払機(以下「ATM」という。)から引き出した上,被告Y1らにおいて着服し,横領した。
原告は,上記(1)の詐欺行為及び(2)の横領行為につき,民法719条,709条に基づき,①被告Y1,同Y3及び同Y2各自に対し,上記(1)の2000万円及び上記(2)(イ)の800万円の合計2800万円相当の損害賠償金の支払(請求の趣旨1関係),②被告Y1,同Y3及び被告会社各自に対し,上記(2)(ウ)の1300万円相当の損害賠償金の支払(同2関係),及び③被告Y1及び同Y3各自に対し,上記(2)(ア)及び(エ)の合計600万円の損害賠償金の支払(同3関係)並びに上記各損害賠償金に対する不法行為後の日である平成14年12月17日(被告Y1が原告の取締役を辞任した日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,認定事実末尾に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定することができる事実)
(1) 当事者等
ア 原告
原告は,平成11年6月1日,通信衛星やインターネットを利用した第二種通信事業等を目的として設立された会社である。Aは,原告の設立以来,その代表取締役を務めている。
イ 被告ら
(ア) 被告Y1は,平成13年3月2日,原告の取締役会長に就任し,平成14年12月16日,その職を辞した。
(イ) 被告Y3は,被告Y1が原告の取締役に就任する以前から,被告Y1が行っている飲食事業等に関与していたが,被告Y1が原告の取締役に就任し,原告の諸業務に携わるようになってから,原告において経理事務等を行うようになった。
(ウ) 被告Y2は,もと被告Y1の配偶者であった(昭和56年10月26日離婚。甲6の1・2)。
(エ) 被告会社は,平成3年6月19日,株式会社アイテムの商号で設立され,同14年7月23日には株式会社モルガントラスト・ジャパンに,同15年8月28日に現在の名称に順次商号を変更した。被告Y1は,平成14年3月31日まで被告会社の代表取締役を務めていた(退任登記は同年8月6日。甲7の1ないし6)。
(2) Aによる被告Y1の招へいと被告Y1らの原告の業務への関与
ア Aは,被告Y1が日本放送協会(以下「NHK」という。)関係者と人脈があると聞き,これを利用して原告の売上げを向上させたいと考え,被告Y1を原告の取締役として招へいした。
イ Aは,平成13年1月31日,被告Y1の指示に従い,同人の指定した被告Y2名義の銀行口座に2000万円を送金(500万円ずつ4回に分けて送金)した(甲2の1)。
ウ 被告Y1は,平成13年2月始めころから原告において業務に当たるようになった。また,前記(1)イ(イ)のとおり,その後,被告Y3も,原告の経理事務等を行うようになった。
(3) 原告からの金銭の移動
ア 原告の株式会社第一勧業銀行新宿南口支店の普通預金口座(口座番号〈省略〉。以下「本件原告口座」という。)から,別紙金銭移動一覧表記載No1ないし6のとおり,平成13年2月21日から同年5月24日までの間,被告Y1,同Y2及び被告会社の口座に合計2400万円の送金がされた。これらの送金は,いずれもATMを使用して行われた(甲2の1・2)。
イ 本件原告口座から,別紙金銭移動一覧表記載No7ないし9のとおり,平成13年6月19日にATMを使用して合計300万円が引き出された(甲2の2)。
3 本件の争点
(1) Aによる被告Y2名義の口座への2000万円の送金(前記2の前提事実(以下,単に「前提事実」という。)(2)イ)は,被告Y1,同Y3及び同Y2の詐欺によるものか。
(2) 平成13年2月21日から同年6月19日までの送金及び現金引出し(前提事実(3)ア及びイ)は,被告らによる着服横領か。
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(Aによる被告Y2名義の口座への2000万円の送金は,被告Y1,同Y3及び同Y2の詐欺によるものか。)について
(原告の主張)
ア 原告と被告Y1らとの合意
(ア) 被告Y1らは,原告が放送関連企業への事業展開を企図していることを知り,共謀の上,平成13年1月27日,被告Y1において,「自分にはNHKに友人知人が数多くいる。自分を通せば原告の売上げを大幅に増加させることができる。」などと言葉巧みに原告に接近し,一定の売上目標を達成する意思も能力も,また,目標が達成されない場合であっても返済する意思も能力もないのに,これらがあるかのように装い,Aをその旨誤信させ,原告と被告Y1との間で以下の合意をさせた(以下「本件合意」という。なお,本件合意については,これを記載した書面に被告Y1が署名押印をした。甲1は,それと同内容の記載がされている書面である。)。
a 被告Y1は,その営業活動により受注する売上げを次のとおり達成する。
(a) 平成13年1月から同年12月までに7億円の売上げ
(b) 平成14年1月から同年12月までに30億円の売上げ
b 原告は,上記売上げ達成のため,営業経費として被告Y1に対して,毎月200万円を貸し付ける。
(a) 被告Y1は,上記a(a)の売上げが達成されないときは平成14年1月末日までに2400万円を返済する。
(b) 被告Y1は,上記a(b)の売上げが達成されないときは,平成15年1月末日までに2400万円を返済する。
c 原告は,被告Y1に対し,特別営業経費として,平成13年2月末日までに2000万を貸し付ける。
ただし,被告Y1は,上記a(b)の入金が達成されないときは平成15年1月末日までに2000万円を返済する。
(イ) Aは,平成13年1月31日,本件合意を受けて,被告Y1の指定する,事情を知っていた被告Y2名義の銀行口座に2000万円を送金した。
イ しかし,約定の目標は達成できなかったにもかかわらず,被告Y1は貸付けの合意を否定し,上記貸付金2000万円の返還をしない。
被告Y1は,原告の業務に関与すると,従来共同で事業をしてきた被告Y3に原告の経理処理等を担当させていること,上記2000万円の送金先が被告Y2名義の銀行口座であったことなどからすれば,これらの者はY1と共謀し,あるいは上記詐欺の事情を知っていたものというべきである。
そうすると,前記のとおり原告に2000万円の送金をさせたことは,被告Y1らの共謀による詐欺行為であり,原告はその送金によって2000万円を詐取されたものである。
ウ 被告Y1らは,上記2000万円の送金を,5000万円のヘッドハンティング料の一部であるなどと主張する(後記(被告Y1ら及び被告Y2の主張)ア)。
しかし,Aは,被告Y1から,「自分はNHKに複数の友人知人がいる,C会長とも昵懇であり,自分を通せば,数億単位でNHK関連企業からの仕事がもらえるようになる。ただし,今までもそれらの人物を紹介したことがあるが,いい加減な仕事をされて個人的に痛い目を見てきた。前捌金として2000万円を借り受けたい。保証金のようなものである。」などと説明を受けて,2000万円の貸付けを承諾したものであり,被告Y1らが主張するようなヘッドハンティング料の支払合意など存在しない。
(被告Y1ら及び被告Y2の主張)
ア 原告と被告Y1らとの合意の内容
(ア) 原告が主張する被告Y2名義の銀行口座への2000万円の送金は,被告Y1に対するヘッドハンティング料(原告の業務に従事することの契約金)5000万円の一部であり,原告が主張するような貸付金ではない。
(イ) すなわち,Aは,被告Y1がNHKに友人知人がいることを知り,将来,原告において通信衛星とインターネットを利用した通信事業等を行いたいので是非NHKの関係者を紹介してほしいと被告Y1に懇願していたものである。
しかし,被告Y1は,その当時,自らレストランや日本そば店を経営していたため,Aの申出を受けるためにはかかる事業から撤退する必要があった。そこで,Aと被告Y1は,被告Y1が上記事業から撤退するための補償等の意味合いをも含めて,平成12年12月下旬ころ,以下の合意をした。
a 原告は,被告Y1に対し,ヘッドハンティング料として5000万円を支払う。
b 原告は,被告Y1に対し,毎月の給与として200万円を支払う。
(ウ) 平成13年1月31日に原告から被告Y2名義の銀行口座に送金された2000万円は,上記(イ)aの5000万円の一部として支払われたものであり,税務の関係上,被告Y1がAに対し,被告Y2名義の銀行口座に送金するように指示したものにすぎない。
イ 2000万円が貸付金であるとの原告の主張について
(ア) 原告は,被告Y2名義の銀行口座への送金は,本件合意に基づき被告Y1に対して貸し付けたものであり,これが共謀による詐欺行為であると主張する(前記(原告の主張)ア)が,否認する。
被告Y1には,当時,原告から借入れまでして原告の事業に協力をしなければならない理由も必要性も存しない。
被告Y1が,従来経験したことのない通信事業という分野で,自分よりはるかに若いAに対して,何らの報酬約束もなく,無条件で事業協力をするということは考えられず,その意味でも2000万円の送金が貸付金であるという原告の主張は,そもそも不合理である。
(イ) 被告Y3は,本件合意について被告Y1と共謀をしたことはないし,被告Y2がその事情を知っていたという事実もない。
(2) 争点(2)(平成13年2月21日から同年6月19日までの送金及び現金引出しは,被告らの共謀による着服横領か。)について
(原告の主張)
ア 横領行為について
前提事実(3)ア及びイのとおり,本件原告口座からATMを使用して,別紙金銭移動一覧表記載のとおりの送金がされ,また,ATMから現金が引き出され,その金額は合計2700万円に及んでいる(以下,別紙金銭移動一覧表記載の送金及び引出しを「本件送金等」という。)。
本件送金等はATMを使用して行われているが,送金の場合,送金先の銀行支店名,預金の種類,口座番号などを入力することが必要不可欠であることからすると,被告Y1ら以外の者がそのような情報を知っていたとは考えられないから,上記送金は,当時本件原告口座を管理していた被告Y1ら(具体的には被告Y3)の共謀によってされたものであり,その送金を受けた銀行口座の名義人である被告Y2及び被告会社は,いずれもその事情を知っていたものというべきである。
イ 被告Y3の関与時期について
(ア) 被告Y3は,被告Y1が原告に出社し始めた平成13年2月始めころから原告の事務所に出社し始め,原告が本店所在地を移転し,事務所を東京都港区西麻布に移転した同月20日ころからは毎日出社していた。
(イ) また,被告Y3は,原告において経理・総務を担当し,種々の出納業務に従事していた。
(ウ) したがって,被告Y3において本件送金等の操作をし,横領行為を実行することは十分可能であった。
ウ 被告Y1らによる隠ぺい工作
被告Y1らは,上記横領行為を隠ぺいするため,被告Y1の知人であるD(以下「D」という。)に頼み込み,同人が代表取締役を務めていた株式会社シー・エム・センター(以下「CMセンター」という。)の請求書用紙及び印鑑を借り受け,被告Y3において,別紙請求書目録記載のとおりのCMセンターから原告宛の請求書5枚を作成し,朝日監査法人に提出するなどした(甲3の1ないし5)。
さらに,被告Y3は,セントラル法務総合事務所のE副所長にあてて原告の帳簿の勘定科目の訂正を依頼するなど,積極的に隠ぺい工作を行った。
(被告Y1ら及び被告Y2の主張)
ア 本件送金等について
(ア) 本件送金等のうち,別紙金銭移動一覧表記載No1ないし6の合計2400万円は,被告Y1と原告との合意に基づく5000万円のヘッドハンティング料(争点(1)(被告Y1ら及び被告Y2の主張)ア(イ)参照)の一部である。
なお,本件送金等は,いずれも平成13年上半期に行われているが,通帳に明記されているものであり,このような多額の資金移動があればAが気が付かないはずはない。
仮に,上記金銭の移動が根拠のないものであれば,原告において直ちにその内容を調査し,それが横領に当たるというのであれば,警察への通報等を行うのが常識的な対応と考えられる。しかし,本件訴訟が提起されたのは,平成17年2月24日であるから,原告においては4年間も放置していたことになる。これは,原告が,当時,上記送金を認識しており,合意に基づく正当な支払であることを自認していたからにほかならない
(イ) 別紙金銭移動一覧表記載No7ないし9のATMからの出金については知らない。
なお,同様の引き出しは,本件原告口座において,上記期間の後にも多く見受けられる(甲2の2)。
イ 被告Y3の関与時期について
(ア) 被告Y3は,本件送金等に関与したことはない。原告は,本件送金等を被告Y1と被告Y3が共謀した横領であると主張するが,被告Y3が原告に入社したのは平成14年1月のことである。それ以前は,平成13年6月ころから原告の関連会社である株式会社アクティビジョンテクノロジーの仕事の手伝いのために,週2日から3日,原告事務所に出入りしていたにすぎない。
(イ) また,被告Y3が原告において従事していた経理事務等の内容は,Aの指示に従った記帳等であり,被告Y3には,原告の預金を移動させるような権限もなかった。
(被告会社の主張)
ア 被告会社の代表取締役であるBは,平成14年8月ころに被告Y1から被告会社を買い受けたものであり,それ以前の事情については知らない。したがって,横領に関する主張については,被告Y1ら及び被告Y2の主張を援用する。
イ 仮に,横領の事実があった場合,被告会社への入金については被告Y1らが関与しているものと思われるが,いずれにしても口座上で金銭の移動経過を示しているにすぎず,被告会社が主体的に横領行為に関与していたものではない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実に加え,証拠(甲1,2の1・2,3の1ないし5,4の1・2,5,8の1ないし3,14,26,27,38,39,44,46の2,47の1・2,乙3ないし7,48,49,証人F(以下「F」という),原告代表者A(以下,単に「A」という。),被告Y1,被告Y3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認めることができる(上記証拠のうち,認定事実に反する部分については採用しない。)。
(1) Aと被告Y1の出会い
ア 平成12年11月ころ,営業担当の従業員として,原告にG(以下「G」という。)が入社した。
Gは,そのころ,知人を介して被告Y3からNHK歌謡ショーのチケットを譲ってもらったという出来事がきっかけとなり,被告Y3に上記チケットを譲った被告Y1がNHKとのつながりの強い人物であるという認識を持つようになった。
Gは,Aから,営業担当として売上げを伸ばすように言われていたこともあり,被告Y1を通じてNHKとつながりを持つことができれば原告の業績も上がるだろうと考え,被告Y3に対し,被告Y1を営業先として紹介してもらえないかと依頼した。被告Y3は,Gと被告Y1を引き合わせることを承知した(甲14,乙6)。
イ Gは,平成12年12月初旬ころ,上司のHと共に被告Y1が経営するレストランを訪問し,被告Y1に対し,原告の事業のためにコンテンツを求めているので,NHKの関係者を紹介してほしいと依頼した。被告Y1は,Gの姿勢が甘く,申入れ内容が被告Y1にとって利益になるものではないなどとして,その申出を断った(甲14,乙6,48)。
ウ GとHは,平成12年12月中旬ころ,Aを被告Y1に引き合わせ,その際,原告から被告Y1に対し,被告Y1の紹介先からの売上げの5ないし10パーセントを成功報酬として支払うとの条件を書面で提示した。
これに対し,被告Y1は,①NHKグループの企業と取引口座を開設することは困難な仕事であること,②面談の機会さえ得られないこと,③さしたる実績のない若年のAを紹介して被告Y1にどのようなメリットがあるか疑問であること,④成功報酬の約束について保証がないこと,⑤仮に取引が開始された後にトラブルが生じた場合,原告に責任を負う能力があるか不明であり,その場合は,被告Y1が責任を負う結果となり,NHK関連会社の信用を喪失してしまうなどとし,とりあえず二,三千万円の活動費が準備できなければ紹介をすることはできないと述べた。
これに対して,Aは,そのような額を用意することはできないと述べたが,その後も被告Y1を訪問し,原告の営業本部長の肩書で活動することを依頼して用意した名刺を渡し,NHK関係者を紹介してもらえるように交渉をした(甲14,乙6)。
エ Aは,平成13年1月31日,被告Y1が指定した被告Y2名義の銀行口座に本件原告口座から2000万円を送金した。
被告Y1は,これを受けて,翌2月1日から,原告の事務所(東京都中央区東日本橋)に出社するようになった(甲14,44,乙48)。
原告は,同月14日,取締役会において,被告Y1を取締役に選任することを承認し,臨時株主総会に付議することとした(甲47の1)。
オ 原告は,平成13年2月末ころ,その事務所を東日本橋から港区西麻布の住居兼用2階(一部3階)建ての一戸建住宅に移転させた(そのころ,原告は本店所在地についても東京都新宿区から同港区に移転させた。甲46の2)。
同年3月2日に上記事務所で開催された臨時株主総会において,被告Y1は,原告の取締役に就任することが承認され,以後,原告の取締役会長の肩書きで行動した(甲47の2)。
カ 被告Y3は,原告が港区西麻布に事務所を移転させたころから,原告の正式な社員としてではないものの,上記事務所に出社して経理事務の仕事を行うようになった。Y3の関与は,当初は週2,3回,数時間程度であった(証人F)。
キ 平成13年2月21日から同年6月19日までの間,本件原告口座から別紙金銭移動一覧表記載のとおりの送金及び現金の引出しがされた(前提事実(3))。
(2) 原告における通帳等の管理方法
ア 原告では,預貯金の通帳や銀行カードを1つの金庫に入れて保管していた。その金庫は,ダイヤル式のもので4桁のパスワードを合わせると開くことができるものであった。そのパスワードを知っていたのはAと経理担当者のFであり,Aは,そのパスワードを被告Y3に教えたことはなかった(A)。
イ また,原告では,銀行カードの暗証番号が記載されているメモを上記通帳が保管されている金庫の中に入れて保管していた(A)。
ウ 原告における金銭の送金作業等は,少なくとも平成13年1月末までは,主にAが行っており,必要に応じ,小口の送金作業をFに行わせていたにすぎなかった(証人F,A)。
エ 原告においては,平成13年4月19日ころまでには,本件原告口座の通帳及びカードの管理・保管は被告Y3の担当とされていた(甲38,証人F)。
(3) 原告と朝日監査法人との関係
ア 原告は,平成13年6月ころ,被告Y1の紹介で,朝日監査法人と監査契約を締結した(甲14・5頁)。そのころ,原告においては,被告Y3が監査に関する業務を行っていた(甲8の3,甲14)。
イ 被告Y3は,平成13年7月ころ,CMセンターの請求書及び角印を使用し,別紙請求書目録記載のとおり,同社から原告宛の請求書を5通作成した(甲3の1ないし5,被告Y3)。
ウ また,被告Y3は,原告の会計を担当しているセントラル法務総合事務所のE副所長に対し,別紙金銭移動一覧表記載No1ないし5の金銭の移動に関する勘定科目をいずれも制作費に訂正するように依頼した(ただし,被告Y2名義の銀行口座への送金額は800万円であるところ,その日付に対応する金額は850万円となっている。)。
その際,被告Y3は,上記Eに対し,別紙金銭移動一覧表記載の金銭の移動のほか,平成12年12月28日の原告の預金口座への400万円の送金を現金引出しに,同13年1月31日の被告Y2名義の銀行口座への2000万円(500万円×4),同年2月22日付けの扶桑レクセルへの292万2500円の各送金を制作費にそれぞれ科目訂正することを依頼した(甲2の1,4の2)。
エ 朝日監査法人は,平成14年3月,原告に対し,上記CMセンターの請求書に対応する通帳の出金記録(甲2の1・2)が被告Y2や被告会社への送金になっており,一致していないことを指摘した(甲5)。
(4) 原告とNHK関連会社との共同事業
ア 原告は,被告Y1が取締役に就任した後,文部科学省メディア教育開発センター及びNHK情報ネットワーク株式会社と共同してNIME WORLD(NHKが保有する国際通信衛星を使って文部科学省メディア教育開発センターからコンテンツの提供を受けて番組編成を行い,それをインターネットで配信する内容の事業)というプロジェクトを立ち上げる構想を展開した(甲14,乙13)。
イ 被告Y1は,平成14年3月末にはNHKの関連企業を退職したI を原告の取締役に招き,同年8月から1年契約で通信衛星を利用したコンテンツの配信が開始されたが,上記事業の継続には通信衛星を使用する回線使用料として1か月当たり1000万円以上が必要であった。しかしながら,原告は,それに見合うだけの収益を確保できていなかったため,次第に資金繰りが困難になり,原告は,NHK情報ネットワーク株式会社への支払が滞るようになった。そのことが原因となり,原告は,平成15年4月には通信衛星による送信を止められた(乙13,14の6)。
2 争点に対する判断
(1) 争点(1)(Aによる被告Y2名義の口座への2000万円の送金は,被告Y1,同Y3及び同Y2の詐欺によるものか。)について
ア 原告は,被告Y1が一定の売上目標(平成13年には年間7億円,平成14年には年間30億円。)を達成することを約したので,設定した売上目標が達成されなかった場合には直ちに返済するという条件で,営業活動費として2000万円及び毎月200万円を貸し付けるとの本件合意をし,Aは上記合意に従って2000万円の送金をしたが,被告Y1には上記目標を達成する意思も能力も,そして目標が達成されなかった場合の返済の意思も能力もなかったにもかかわらず,上記送金をさせたものであり,これは,被告Y1,同Y3及び同Y2の共謀による貸付金名下の詐欺行為であると主張する(争点(1)(原告の主張)ア)。
そして,Aは,原告代表者尋問及びその陳述書(甲14,39,44)において,上記主張に沿う供述をし,一方,被告Y1は,本件合意の成立及び2000万円の送金が詐欺によるものであることを全面的に否認する(争点(1)(被告Y1ら及び被告Y2の主張)ア)。
イ(ア) そこで検討すると,原告が主張する本件合意の内容は,被告Y1が原告から金銭の貸付けを受けて原告のために営業活動をし,一定の営業目標が達成されなかった場合には直ちに借り受けた金銭を返済するとの条件であったというものである。しかし,その内容どおりであるとすれば,目標が達成されなかった場合の不利益についてはこれを被告Y1が一方的に引き受ける(目標が達成されなかった場合,被告Y1が得るものは何もない。)ことになる。
この点について,Aは,本人尋問において,原告の提示した本件合意の条件にはいわゆるストックオプションを付与するという内容も含まれているので,均衡は失していないなどと述べている(A31頁)が,本件合意と同内容の記載があるとされる甲1によれば,新株引受券付無担保社債券500株相当の無償譲渡についても目標が達成がされた場合に与えられるにすぎないから,目標不達成のリスクは被告Y1が一方的に負担することに何ら変わりはない。
(イ) また,原告主張の本件合意には,被告Y1が達成すべき具体的な売上目標(平成13年には年間7億円,平成14年には年間30億円。)が定められ,これが達成ができなかった場合には被告Y1が金銭を返済することになるが,この点について,Aは,被告Y1がどのような判断をしたかは分からないがその条件は被告Y1の申出によるものであると述べる(A31頁)。
しかしながら,仮に,目標が達成されなかった場合の不利益を被告Y1が負担するというのであれば,被告Y1において,当該目標達成の蓋然性について十分な検討をする必要があるものと考えられるところ,被告Y1において,実際に関与するまでの間に,原告の財務状況や業績を詳細に分析したことはうかがわれず,被告Y1からそのような目標を自らが負担する条件として提示するものとは認め難い。
(ウ) そして,前記1の認定事実(以下,単に「認定事実」という。)(1)ウによれば,Aと被告Y1が最初に面談したのは平成12年12月中旬ころのことであり,上記合意が成立したとされる平成13年1月27日までには1か月ないし1か月半程度の期間しかなく,知り合ってから間もないうちに本件合意が成立したことになる(なお,Aの供述では,Aが被告Y1に会ったのは平成12年12月末ころが初めてであり,2度目に会った平成13年1月27日に本件合意が成立した(甲44)ことになる。)。そうすると,初対面に近い状態において,被告Y1がいわば無報酬で原告に協力を申し出たことになるが,Aと被告Y1の間において,本件合意のような条件で被告Y1が協力を申し出ることについて特段の事情があったものとは認められないし,原告主張の条件を被告Y1が承諾することについて合理的な理由や必要性が存在することをうかがわせる事情があるとも認められない。
(エ) 加えて,Aの供述によっても,平成13年の目標額が達成できなかったにもかかわらず,原告から被告Y1に対して本件合意に基づく要求をしていないこと(A28頁),被告Y1が署名押印したという本件合意に係る書面が提出されていないことなど,その供述の裏付けとなる客観的な証拠が存在しないことを合わせ考えると,上記Aの供述は採用することができず,他に,原告主張の本件合意を認めるに足りる証拠はない。
(オ) 以上によれば,本件において原告が主張する詐欺については,その前提となる本件合意を根拠とする金銭貸付けの事実を認めることができない。そうすると,原告が主張する内容の詐欺の事実はこれを認めることができない。
ウ(ア) もっとも,前提事実((2)アないしウ)及び認定事実((1)ウ,エ)によれば,Aが被告Y1に対してNHKの関係者を紹介することを依頼し,その交渉の結果,被告Y1の指示により原告(A)が被告Y2名義の銀行口座へ2000万円の送金をしたこと,その直後から被告Y1が原告において活動を始めていることが認められ,このような経過からすれば,上記の2000万円は被告Y1が原告において行う活動の対価としての意味を有するものであると推認することができる。
この点につき,被告Y1らは,ヘッドハンティング料として原告が5000万円を支払うことについて合意ができており,上記2000万円はその一部であると主張し(争点(1)(被告Y1ら及び被告Y2の主張)ア),被告Y1はこれに沿う供述をする(被告Y1 1頁)。しかしながら,その供述はあいまいであって信用し難く,他に,その主張するような合意が成立したことを認めるに足りる客観的な証拠はない。したがって,被告Y1らの上記主張は採用することができない。
(イ) そうすると,原告主張の本件合意が認められないとしても,被告Y1が原告に対して何らの利便を図ることのできる立場にはないにもかかわらず,そのような立場にあると偽り,その旨Aを誤信させた上で,前記金銭を交付させたとすれば,その点につき詐欺が成立するとみる余地がないではない。
しかしながら,認定事実(4)によれば,原告は,被告Y1の紹介により,NHKの関連企業であるNHK情報ネットワーク株式会社との間で新規事業を行うに至っており,上記事業が成功すれば実際に原告にとって大きな利益を生む可能性もあったものと認められる(A29頁)。そうすると,被告Y1は原告に対し,一定の利便を図ることのできる立場にあったものと認めることができ,現にそのような立場で行動をしたものと認められるから,直ちに原告を欺罔して金銭を詐取しようとしたものと認めることはできず,他に,被告Y1の行為が詐欺に当たるものとまで認めることのできる証拠はない。
したがって,前記の観点からしても,被告Y1が2000万円を送金させた行為が詐欺に当たるものと認めることはできない。
(ウ) なお付言すると,以上の認定判断によれば,2000万円の送金の根拠については,原告主張の本件合意に基づくものとは認められないのみならず,被告Y1主張の合意に基づく5000万円の支払の一部とも認め難いものということになる。この点について,証拠上,その客観的事実を認定することは困難であるが,前記認定の2000万円の送金の経緯及びGがその陳述書(乙6)において,平成13年3月ころ,被告Y1が2000万円の契約金と200万円の固定給を受け取るという内容の原告の印が押された契約書らしきものを見たと述べていることなどからすると,上記Gの陳述内容に沿うような合意が成立していた可能性があることがうかがわれる(仮にそうであるとすると,原告は,2000万円に加え,年間2400万円の給与を被告Y1に支払うべき合意をしたことになる。)。
エ 以上の認定判断によれば,その余の点について判断するまでもなく,争点(1)に係る原告の主張は採用することができない。
(2) 争点(2)(平成13年2月21日から同年6月19日までの送金及び現金引出しは,被告らによる着服横領か。)について
ア 原告は,被告Y1らが,共謀の上,業務上保管していた本件原告口座の通帳及び銀行カードを使用して,被告Y1並びに事情を知ってた被告Y2及び被告会社の銀行口座にそれぞれ送金し,また現金を引き出して,合計2700万円を横領したものであると主張する(争点(2)(原告の主張)ア)。
イ 被告Y3の関与時期について
(ア) ところで,被告Y1自身が本件原告口座に係る通帳やカードを直接操作したことをうかがわせる証拠はなく,原告が上記の送金及び現金引出しを現実に行った者として疑うのは経理事務等に関与していた被告Y3であるところ,被告らは,被告Y3が原告に入社したのは平成14年1月であり,また,原告事務所において関連会社アクティビジョンテクノロジーの事務に関与し始めたのも平成13年6月ころからであるから,被告Y3において,原告主張の横領行為を行うことはできないと主張し(争点(2)(被告Y1ら及び被告Y2の主張)イ,同(被告会社の主張)ア),被告Y3は,本人尋問及び陳述書(乙5)において上記主張に沿う供述をする。
一方,原告は,被告Y3は被告Y1と共に平成13年2月始めから原告の事務所において経理事務を行っていたと主張し(争点(2)(原告の主張)イ),Aは本人尋問及び陳述書(甲14,39,44)において,これに沿う供述をする。
(イ) しかしながら,認定事実(1)オ及びカによれば,被告Y3が原告の事務所において事務を開始したのは原告の事務所が東京都中央区から同港区へ移転した平成13年2月末ころからであり,当初は週に2,3回,数時間程度,原告事務所を訪れていたものであることが認められる。したがって,被告Y3には本件送金等に関与する余地がないとする被告らの主張は採用することができない。
なお,被告Y1らは,各本人尋問及び陳述書(乙5,乙48)において,被告Y3は本件原告口座に係る通帳やカードには全く関与しなかったように述べる。
しかしながら,Fの作成に係る「銀行残高確認の際の住所 新宿区〈以下省略〉電話」と題する書面(甲38)の形式及び記載内容からすれば,同書面はそれが作成された時点において銀行カードや通帳を管理している人物を記載したものであり,本件原告口座については通帳及びカードとも被告Y3の管理とされ,作成後に書き込まれたと認められる日付けが「平成13年4月19」とされていることからすれば,事務担当者の間で,遅くとも同日までの時点における管理担当者を確認し記載したものであると認められる(証人F10頁)。
そうすると,被告Y3は遅くとも平成13年4月19日までには,少なくとも事務担当者間において,本件原告口座に係る通帳及びカードを保管・管理する立場にあったものと認めることができる(認定事実(2)エ)。したがって,被告Y1らの上記供述は採用することができない。
(ウ) 被告Y3の関与時期が前記(イ)のとおり認められることからすれば,別紙金銭移動一覧表記載No1の送金時には被告Y3が関与する可能性はなく,また,原告の事務所移転時期及び当初の被告Y3の関与状況に照らすと,No2の送金についても被告Y3が関与する余地は乏しかったものと認められる。
そうすると,被告Y3が全面的に関与したとする原告の主張も,これを採用することができない。
しかし,その後の送金等,取り分け4月19日以降の分については,Y3が本件原告口座を管理していた時期のものと認められるから,何らかの関与の可能性があることは否定することができない。もっとも,被告Y3が,別紙金銭移動一覧記載No3ないし9の金銭の移動があったころに本件原告口座の管理担当者であったとしても,そのことから直ちに被告Y3が原告主張の横領行為を行ったものということはできない。そこで,更に進んで検討することとする。
ウ 本件送金等が被告Y1らの横領行為と認められるか
(ア) 原告は,別紙金銭移動一覧表記載の金銭の送金はいずれもATMを使用して行われているところ,その場合には送金先の銀行・支店名,預金の種類及び口座番号等を入力する必要があるが,それらの情報を知り得たのは被告Y1らだけであるから,上記送金は被告Y1らにおいて行ったものであると主張する(争点(2)(原告の主張)ア)。
(イ) そこで,本件送金等に関与し得る者について検討すると,原告における通帳やカードの管理方法は認定事実(2)ア及びイのとおりであり,被告Y3が経理事務に関与するようになった後において,その管理方法が変更されたことをうかがわせる証拠はない。また,少なくとも平成13年1月末まではAがその通帳とカードを使用して自ら送金手続を行っていたものであり(認定事実(2)ウ),現に,被告Y1から指定された被告Y2名義の銀行口座に2000万円を送金をしたのもA自身である(認定事実(1)エ)。そして,被告Y1らが原告に関与するようになった後に,Aが本件原告口座の使用権限を全面的に被告Y1や被告Y3にゆだねたという事実も認められない。そうすると,事務担当者の間において,平成13年4月19日ころまでには被告Y3が本件原告口座の通帳及びカードの管理担当者となっていたとしても,通帳やカード自体は金庫に保管されたままであり,Aが本件原告口座の通帳の記載内容を確認することは可能であり,もとよりこれを使用してAが送金をしたり現金の引出しをすることも可能であったものと認められる。
以上の点に加え,前記のとおり,別紙金銭移動一覧表記載No1及び2の送金については,そもそも被告Y3の関与を認めることが困難であること,Fはその送金には関与していないものと認められること(証人F4頁)からすると,上記2件はA自身が被告Y1の指示する口座に送金の手続したものと推認するのが相当である。
そうすると,原告は,ATMによる送金の場合には送金先の銀行・支店名,預金の種類及び口座番号等を入力する必要があることを根拠として,本件送金等が被告Y1らによってされたと主張するが,その主張は,原告の関与の余地が完全に否定されない限り,成り立たないものであるところ,上記のとおり,別紙金銭移動一覧表記載No1及び2の送金がAによってされたことが推認されることに加え,前記(1)ウ(ウ)の説示のとおり,原告から被告Y1に対して一定額の給与ないし報酬の支払が合意されていたことがうかがわれること,しかし,被告Y1に対して毎月給与という形での報酬が支払われたことを認めるに足りる証拠はないことからすれば,別紙金銭移動一覧表記載No1ないし6の送金については,被告Y1が指示した送金先に,Aが報酬相当分を送金をした可能性も十分考えられるところというべきである。
(ウ) 一方,被告Y1の指示によって,被告Y3がその管理する通帳及びカードを使用して別紙金銭移動一覧表記載No3ないし6の送金をした可能性も否定することはできない。しかしながら,これらの送金は,被告Y1が原告の仕事に協力を始めてから4か月程度の間のものであり,この間,被告Y1らとAとの関係が特段問題になっていたこともうかがわれないことに加え,別紙金銭移動一覧表記載No1及び2の送金がAによってされたと認められることからすれば,被告Y1がAに秘して同表記載No3ないし6の送金を行う必要があったとは認められない。また,仮に,被告Y1らにおいて横領行為を行おうとしたものであるとすれば,送金先が預金通帳上に明記され,Aによって容易に認識可能となるような方法ですることも考え難い。そうすると,上記のような可能性は低いものといわざるを得ない。
Aは,自ら行っていた通帳の管理や送金行為を,被告Y3には特段権限を与えたことがないにもかかわらず,自らは一切行わず,全く通帳を確認することもなかったなどと述べている(A30頁)が,極めて不自然であって到底信用することができない。
そうすると,Aは,別紙金銭移動一覧表記載の各送金については少なくともこれを承知していたものと認めるのが相当であり,被告Y1らがこれら送金を無権限で行った横領行為であると認めることはできない。
したがって,上記行為を被告らの横領行為であるとする原告の主張は採用することはできない。
(エ) 次に,別紙金銭移動一覧表No7ないし9の現金の引出しについては,具体的にその行為者を特定するに足りる証拠がない。既に説示したとおり,本件原告口座については,被告Y3が管理担当者となっていたことからすると,被告Y3がその引出しをした可能性は否定することができないが,もとよりAにおいても引き出すことは可能であったと認められる。また,本件原告口座の通帳(甲2の2)によれば,上記引出し後においても,類似の形態の引出行為が複数回にわたって行われていることが認められることからすれば,上記引出しの目的が横領であると推認することもできない。そして,他に,上記現金の引出しが被告Y1らによる横領行為であることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,上記引出しを被告Y1らの横領行為であるとする原告の主張は採用することはできない。
エ 隠ぺい工作との主張について
原告は,被告Y1らは,CMセンターの請求書用紙及び印鑑を借り受け,被告Y3において原告宛の請求書5枚(甲3の1ないし5)を作成して朝日監査法人に提出するなどし,これは,帳簿上横領行為を隠ぺいする工作を行ったものであると主張する(争点(2)(原告の主張)ウ)ので,念のため,この点についても検討しておくこととする。
まず,原告が指摘する上記請求書は,別紙請求書目録記載のとおりの内容であり,その金額の合計は5007万2500円となる。そうすると,原告が被告Y1らによる横領であると主張する金銭の額(合計2700万円)とは一致しない。
また,上記請求書の中には,Aが自らの意思で被告Y2名義の口座に送金した2000万円に対応すると思われるものも含まれている(甲3の1)。しかし,上記金員の送金は,被告Y1らにとって原告の事務に関与する前のものである上,そもそも隠ぺいをする必要のないものであることからすれば,横領行為を隠ぺいする目的のために被告Y3が上記請求書を作成したものとは認め難い。
さらに,被告Y3は,セントラル法務総合事務所のE副所長に対し,科目の訂正を求めている(認定事実(3)ウ)が,証拠(甲4の2)によれば,これには,別紙金銭移動一覧表記載のうち同表記載No6の被告会社名義の銀行口座への送金が含まれておらず,一方,本件送金等以外のもの(Aによる上記2000万円の送金や扶桑レクセルに対する送金に対応すると思われるもの)も含まれていることからすると,本件送金等の横領を隠ぺいする目的で上記科目の訂正を依頼したものとも考え難い。
被告Y3は,上記請求書の作成等はいずれもAの指示によるものであると述べているところ(被告Y3 5,6,16,17頁),その点をおくとしても,上記のとおりの請求書等の内容に照らせば,仮に,被告Y1らが関与した原告の経理処理に不明朗な点があることが後に指摘されたとしても,そのことから,原告の主張する横領の事実を推認することができるものとはいえず,原告の上記主張は採用することができない。
オ 以上の認定判断によれば,その余の点について判断するまでもなく,争点(2)に係る原告の主張は採用することができない。
第4 結論
以上によれば,原告の主張に係る詐欺及び横領の不法行為は,いずれもこれを認めることができない。
よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について,民事訴訟法61を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井忠雄 裁判官 安部勝 裁判官 鈴木綱平)
〈以下省略〉
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