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判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(306)平成19年11月28日 神戸地裁伊丹支部 平19(モ)23号 否認の請求申立事件

判例リスト「営業代行会社 完全成果報酬|完全成功報酬」(306)平成19年11月28日 神戸地裁伊丹支部 平19(モ)23号 否認の請求申立事件

裁判年月日  平成19年11月28日  裁判所名  神戸地裁伊丹支部  裁判区分  決定
事件番号  平19(モ)23号
事件名  否認の請求申立事件
裁判結果  一部認容  上訴等  異議申立  文献番号  2007WLJPCA11286003

要旨
◆破産管財人が、破産者が破産手続申立前に弁護士に支払った任意整理及び過払金返還請求に関する着手金等のうち適正金額を上回る部分や支払義務がないものがあり、それらについて支払う旨の合意や支払行為を破産法160条1項1号や同条3項に基づき否認する旨主張した事案において、弁護士による債務者の責任財産の保全活動としての任意整理の申立て等に対する着手金ないし報酬金の支払行為は、その金額が役務の提供と合理的均衡を失する場合、合理的均衡を失する部分の支払行為は、破産債権者の利益を害する行為として否認の対象となりうるとして否認権行使が認められた事例

新判例体系
民事法編 > 民事訴訟法 > 破産法〔平成一六年法… > 第六章 破産財団の管… > 第二節 否認権 > 第一六〇条 > ○破産者を害する行為… > (二)第三項の無償行為と同視すべき行為
◆破産者が破産手続申立前に破産者の案件を受任した弁護士に支払った弁護士報酬のうち役務提供と合理的均衡を失する部分の支払行為は、無償行為と同視すべき行為として、否認権行使の対象となる。

 

出典
判タ 1284号328頁
判時 2001号88頁

参照条文
破産法160条3項
破産法160条1項1号

裁判年月日  平成19年11月28日  裁判所名  神戸地裁伊丹支部  裁判区分  決定
事件番号  平19(モ)23号
事件名  否認の請求申立事件
裁判結果  一部認容  上訴等  異議申立  文献番号  2007WLJPCA11286003

申立人 破産者マイスター株式会社破産管財人
朝本行夫
相手方 A野太郎

 

 

主文

一  相手方は、申立人に対し、二〇六万三七二五円及びこれに対する平成一九年三月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二  申立人のその余の請求を棄却する。
三  申立費用はこれを五分し、その一を申立人の、その余を相手方の各負担とする。

 

 

理由

一  申立ての趣旨
相手方は、申立人に対し、二四七万八〇〇〇円及びこれに対する本申立書送達の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二  事案の概要
本件は、破産者マイスター株式会社(以下「破産者」という。)の破産管財人である申立人が、破産者が破産手続申立前に弁護士である相手方に依頼した二件の貸付金債務の処理及び自己破産の申立てについて支払った報酬金等のうち、適正金額を上回る部分や支払義務がないものがあり、それらについて支払う旨の合意や支払行為を破産法一六〇条一項一号や同条三項に基づき否認権を行使する旨主張している事案である。
(1)  一件記録(基本事件に係る神戸地方裁判所伊丹支部平成一九年(モ)第二四号、第二五号各否認の請求申立事件、関連破産事件である同庁平成一八年(フ)第五四七号事件及びそれに係る同庁同年(モ)第二〇号否認の請求申立事件の各記録も含む。)によれば、以下の各事実が一応認められる。
ア  当事者
破産者マイスター株式会社は、厨房機械、器具の販売等を業とする株式会社であったが、平成一八年一二月一八日、神戸地方裁判所伊丹支部において破産手続開始決定を受け、同日、申立人が破産者の破産管財人に選任された。
相手方は大阪弁護士会所属の弁護士である。
イ  破産者・相手方間の委任契約締結及び同契約の内容
破産者は、平成一八年三月ころ、株式会社ロプロ(以下「ロプロ」という。)及び株式会社インター(以下「インター」という。)に対する借入金債務について、相手方との間で、下記の内容の委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結し(ゴシック字体で表記した部分は手書きされている。)(甲四)、相手方に対し、着手金として二万円を支払った(以下「本件着手金支払」という。)。

第一  委任事項
任意整理
受任件数 二件
受任範囲 示談折衝
弁護士着手金 一〇五、〇〇〇円
諸費用及び成功報酬 〇円
業者への毎月の返済額(予定) 円
過払金返還請求
受任件数 二件
受任範囲 示談折衝
弁護士着手金 〇円
諸費用及び成功報酬 返還受領額の三割(以下これを「本件報酬支払合意」という。)
第二  支払方法
分割払い(第一回 二万(円) 残金は報酬と同時に支払う)
(分割払の場合、一回目の着手金入金後直ちに処理に着手しますが、最終的な和解契約成立は着手金等の支払完了後になります。)
破産者が着手金等の支払を遅滞したときは、相手方は事件の処理を中止することができる。
第三  中途終了
一  相手方は、約定のとおりの着手金の支払いがないとき、破産者との間で任意整理等の進め方や和解案の内容等について意見が一致しない場合、本契約を解約することができる。
二  本契約が中途終了した場合、以下のとおり弁護士費用等を精算する。
任意整理 相手方の処理の段階に応じて以下のとおりとする。
受任通知発送時 弁護士着手金の二割
取引履歴取寄時 同四割
利息制限法による再計算時 同六割
和解案(暫定)作成時 同八割
(和解成立時 同一〇割)
過払金返還請求
相手方の責めに帰すべく事情がない場合は報酬金全額
(以下、省略)
ウ 相手方の法律事務所のインターネットホームページ掲載内容
相手方は、自らの法律事務所のインターネットホームページ(以下「相手方ホームページ」という。)中で、同法律事務所が多重債務問題解決に特化した法律事務所である旨標榜している。
相手方ホームページ中、「任意整理」の項目においては、「任意整理とは、弁護士が業者と直接交渉し、返済総額、毎月の返済額、返済方法を合意することによって負債を整理する方法です。」、「過去に払いすぎた利息を弁護士が業者と交渉して返してもらうのです。もっとも通常は借入金があるため、その分だけ借入金を減額してもらうことになります。〈中略〉減額した借入金について、以後無利息で分割払いで返済していくように業者と交渉します。」等の説明があり、「過払金返還請求訴訟」の項目においては、「完全成功報酬制!」、「わずか一万円の費用負担で過払金返還請求訴訟を起こせます。」、「お金を借りた人はこれまで取られすぎた利息の返還を業者に要求することができます。そして、業者がこれに応じない場合訴訟を提起して取り返すことになります。」、「きちんとした証拠(借用書や領収書等)があれば、もちろん訴訟して勝訴することができますが、訴訟を起こさなくとも示談で取り返すことも可能です。」、「完全成功報酬制ですからこれまでのように着手金は不要です。もっとも全くタダというわけではありません。〈中略〉一業者につき費用として一律金一万円はご負担頂きます。依頼者の経済的負担はこれだけです。これで業者との示談交渉から裁判まで一切を行ないます。そして、首尾よく業者から過払金を取り戻すことができれば、取り戻した金額に応じた割合の成功報酬を頂きます。成功報酬の割合は、訴訟の難易度、証拠(借用書や領収書)の有無、過払金額等によって変わります。簡単な訴訟であれば低額ですし、困難な訴訟では高額になります。最初にお引き受けするときにお話し合いで割合を決めます。もし万一訴訟で負け、全く回収できなかった場合、当然成功報酬は頂きません。もちろん追加費用等も一切頂きません。つまり依頼者の経済的な負担は最初の一万円だけです。」、「リスク管理を徹底し、リスクに見合った割合の報酬を頂くことによって、完全成功報酬制は充分可能なのです。」等の説明がある。また、同ホームページの「料金」の項目においては、「安心のオールインクルーシブ制(全費用込みの制度)を採用 日当、追加費用、成功報酬等一切頂きません。」とした上で、任意整理は「弁護士費用(諸費用込み)債権者八件まで一件当たり五万円(消費税別)〈後略〉」、「過払金返還請求訴訟」が「完全成功報酬制 但し費用一万円(消費税別)」、自己破産は、同時廃止が「(債権者数、負債総額に関わらず下記金額です。)弁護士費用三〇万円、諸費用(裁判所予納金等を含む)五万円、合計三五万円(消費税別)」、小規模管財が「(事業内容によって料金が変わります。)弁護士費用三五万円から、諸費用(裁判所予納金等含む)二五万円、合計六〇万円から(消費税別)」との記載がある。
エ 相手方による破産者らの破産手続申立て受任
破産者は、平成一八年五月一五日に第一回目の手形の不渡りを出した後、翌一六日に第二回目の手形の不渡りを出したことから、破産手続を希望するようになり、相手方は、破産者とその代表者である申立外B山松夫(以下「B山」という。)、その妻である申立外B山花子(以下「花子」という。)について、それぞれの破産手続申立てを受任し、B山の債権者らに対して自己破産申立受任通知等を送付するなど自己破産の申立ての準備をした。しかし、破産者らと相手方との間で、上記各破産手続申立てについて委任契約書を作成することはなかった。
オ 相手方によるロプロからの過払金回収
相手方は、平成一八年五月一五日、ロプロとの間で、破産者の代理人として、破産者の手形貸付取引契約に基づく金銭消費貸借に関し、①破産者が相手方に対し、同日現在で元金合計六〇〇万円及びこれに対する利息金等の支払義務があることを認める、②相手方は上記①記載の金額全ての請求権を放棄する、③相手方は破産者に対し、和解金として五三〇万円を、同年六月七日及び同年七月七日の二回にわたり、各二六五万円ずつ支払う、④相手方は破産者に対し、本件和解成立後、破産者が相手方に交付した手形・小切手、破産者が差し入れた債権書類等一式を速やかに返還する、⑤破産者・相手方間には本件和解以外に一切の債権債務のないことを相互に確認する旨記載された「和解書」を取り交わし、和解契約(以下「本件和解契約」という。)を締結した。
カ B山は、その所有していた兵庫県川西市内に自宅及びその敷地(以下「本件不動産」という。)について、自らの破産手続開始後も引き続き本件不動産に居住するために同手続申立前に親族に売却することを希望し、その旨を相手方に伝えたが、相手方は破産手続開始前に売却する必要性はなく、破産手続において問題とされる等の理由でこれに反対した。
キ その後、B山は、本件不動産を破産手続申立て前に二女のC川竹子(以下「C川」という。)に売却すべく、宅地建物取引業者である株式会社リセール(以下「リセール」という。)、次いで、同じく宅地建物取引業者である有限会社田中栄住建(以下「田中栄住建」という。)に対し、本件不動産をC川に売却する計画を伝え、その実現への協力を依頼し、最終的に、C川に対し、本件不動産を一七五〇万円で売却し、同不動産の担保権者らもいずれも担保権の抹消に応じた。
ク 本件委任契約及び破産者らの相手方に対する各破産手続申立てについての委任関係の終了
相手方と破産者、B山及び花子との間の全ての委任関係は、上記カ及びキ各記載のB山のC川への本件不動産売却について意見が対立したことから平成一八年八月初めころ終了した。
ケ 破産者ら・相手方間の精算合意
B山は、本人として、また花子の代理人及び破産者代表者として、相手方との間で、同月一八日、本件委任契約について、①相手方が破産者より依頼を受けたロプロ及びインターに対する過払金返還請求事件の着手金の未払残金が八万五〇〇〇円(同着手金一〇万五〇〇〇円のうち二万円については支払済み)であることを確認する(第一項)、②ロプロに対する過払金返還請求の弁護士報酬が一六六万九五〇〇円(受領した和解金五三〇万円の三割に相当する一五九万円に消費税五パーセントを加算した金額)であることを確認する(第二項)、③インターに対する過払金返還請求事件、B山、花子及び破産者の各自己破産申立ての中途解約による報酬清算金の合計が一二六万円(消費税込み)であることを確認する(第三項)、④相手方は、B山、花子及び破産者に対して預かり書類を全部返還したことを確認する(第四項)、⑤相手方と、破産者、B山及び花子間には何らの債権債務のないことを確認する(第五項)旨の合意(以下「本件精算合意」という。)をし、「合意書」(甲一)を取り交わした。
コ 本件精算合意に基づく破産者の各支払行為
相手方は、本件精算合意に基づき、破産者に対し、預かり金(ロプロから受領した破産者の過払金)五三〇万円から、着手金未払残額八万五〇〇〇円、同第二項記載のロプロに対する過払金返還請求の弁護士報酬として一六六万九五〇〇円(消費税込み)、同第三項記載のインターに対する過払金返還請求事件の中途解約による報酬清算金として二一万円(消費税込み)、破産者の自己破産申立ての中途解約による報酬清算金として八四万円(消費税込み)のほか、B山及び花子の自己破産申立ての中途解約による報酬清算金として二一万円(一人当たり一〇万五〇〇〇円(消費税込み))の合計三〇一万四五〇〇円を控除し、残額二二八万五五〇〇円を破産者に返還した。
サ 相手方は、本件精算合意後、B山の債権者らに対し、平成一八年八月二三日付の「ご通知」と題する書面を送付したが、同書面中には、「今般都合により(B山ないし破産者の代理人を)辞任を致しました」旨記載していた。
シ 破産者らの破産手続申立て等
その後、B山、花子及び破産者は、D原梅夫弁護士(以下「D原弁護士」という。)を申立代理人として、同年一一月七日、神戸地方裁判所伊丹支部に対して破産手続開始申立てをし、破産者は、同年一二月一八日に破産手続開始決定を受け、申立人がその唯一の破産管財人に選任された。なお、同日にB山も破産手続開始決定を受け、申立人がその唯一の破産管財人に選任されている(同庁平成一八年(フ)第五四七号事件)。
ス D原弁護士は、上記各破産手続申立てに先立ち、平成一八年一〇月二日、インターとの間で、破産者、松夫及び花子の三名の代理人として、破産者のインターに対する返済が過払いになっていることを確認した上、インターが解決金として破産者に対して九〇万円の支払義務があることを認め、同月一三日限りでこれを支払い、破産者はインターに対するその余の不当利得返還請求権を放棄し、破産者・相手方間には上記解決金以外に一切の債権債務のないことを相互に確認する旨記載された「和解契約書」を取り交わし、和解契約を締結した。
セ 相手方の申立人照会に対する回答内容等
相手方は、本件破産手続開始後の申立人からの照会に対し、平成一九年一月一九日、本件精算合意第三項の中途解約報酬清算金合計一二六万円の内訳について、文書で、破産者の自己破産弁護士費用八〇万円、B山及び花子の各自己破産弁護士費用二〇万円(一人当たり一〇万円ずつ)、インターについての過払金返還請求権の清算金(みなし報酬を減額したものとして)二〇万円であり、インターについての過払金返還請求権の清算金について、本件委任契約書第三の第二項により、約九四万円の三割に相当する二八万円より減額とした上で、インターとは約八割返還でいつでも合意できる状態であったが、破産者が自己破産手続を希望したため、破産管財人に処理を委ねるのが妥当であると考えて、和解を成立させなかった旨説明し、また、B山の本件不動産売却について、「破産者は申立直前に自宅を身内に売却処分することを強く主張したが、当職(相手方)は、既に十分すぎるほど予納金が確保されていたため、申立直前にオーバーローンでもない自宅を身内に換価処分する必要性は全くなく、不透明・不明朗なものとして疑惑を呼ぶおそれがあるので、できないとして応じなかったところ、破産者は売却処分を認めてくれる弁護士を探したと述べて、委任契約を解約したものであり、委任契約終了は破産者の責に帰すべきものである」旨主張した。
ソ 申立人は、平成一九年二月二六日、本件否認の請求をし、同請求書は、同年三月二日、相手方に送達された。
タ 申立人は、基本破産事件において、本件否認の請求のほか、ロプロ及びインターに対して、それぞれ継続的な貸付けにより破産者に生じた過払金処理について、低額の和解金支払いを内容とする和解契約が締結され、破産者が上記過払金返還請求権の残額(上記和解金との差額)を放棄したことを無償行為にあたるとして否認請求の申立てをした(神戸地方裁判所伊丹支部平成一九年(モ)第二四号、第二五号各否認の請求申立事件)。また、申立人は、B山の破産管財人としても、リセール及び田中栄住建に対し、相手方リセールに対する破産者の「物件事前調査測量、図面作成などの費用」名目での支払、及び、田中栄住建に対する破産者の媒介報酬支払についての否認請求の申立てをした(同庁同年(モ)第二〇号否認の請求申立事件)。上記各否認請求申立事件について、同裁判所は、平成一九年一〇月一日までにいずれも全部ないし一部を認容する旨の決定をしている。
チ 司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律(平成一五年法律第一二八号)による弁護士法三三条の改正に伴って平成一六年四月一日に廃止された「報酬等基準規程」(日本弁護士連合会会規第三八号。以下「報酬規程」という。)によれば、弁護士報酬の種類として、「着手金」は「事件又は法律事務(以下『事件等』という。)の性質上、委任事務処理の結果に成功不成功があるものについて、その結果のいかんにかかわらず受任時に受けるべき委任事務処理の対価」、「報酬金」は「事件等の性質上、委任事務処理の結果に成功不成功があるものについて、その成功の程度に応じて受ける委任事務処理の対価」とされ、特に定めがない限り、着手金はその事件等の対象の「経済的利益」の額を、報酬金は委任事務処理により確保した「経済的利益」の額をそれぞれ基準として算定するものとされ、「経済的利益」は金銭債権の場合、債権総額(利息及び遅延損害金を含む。)とされている。
上記報酬等基準規程において、「(民事)訴訟事件、非訟事件、家事審判事件、行政事件等事件及び仲裁事件」、「調停事件及び示談交渉事件(裁判外の和解交渉事件)」、「倒産処理事件(破産、会社整理、特別清算及び会社更生の各事件)」、「任意整理事件(倒産処理事件に該当しない債務整理事件)」の着手金・報酬金については、下記のように定められている。

(ア) 訴訟事件、非訟事件、家事審判事件、行政事件等事件及び仲裁事件
経済的利益の額 着手金 報酬金
三〇〇万円以下の部分 八% 一六%
三〇〇万円を超え三〇〇〇万円以下の部分 五% 一〇%
三〇〇〇万円を超え三億円以下の部分 三% 六%
三億円を超える部分 二% 四%
* 事件の内容により、それぞれ三〇%の範囲内で増減額することができる。
* 着手金の最低額は一〇万円。ただし、経済的利益の額が一二五万円未満の事件の着手金は、事情により一〇万円以下に減額できる。
(イ) 調停事件及び示談交渉事件(裁判外の和解交渉事件)
(ア)又は「手形・小切手訴訟事件」に準じる。
* それぞれにより算定された額の三分の二に減額することができる。
* 着手金の最低額は一〇万円(「手形・小切手訴訟事件」に準じるときは五万円)。ただし、経済的利益の額が一二五万円未満の事件の着手金は、事情により一〇万円(「手形・小切手訴訟事件」に準じるときは五万円)以下に減額できる。
なお、「手形・小切手訴訟事件」の着手金・報酬金については、以下のように定められている。
経済的利益の額 着手金 報酬金
三〇〇万円以下の部分 四% 八%
三〇〇万円を超え三〇〇〇万円以下の部分 二・五% 五%
三〇〇〇万円を超え三億円以下の部分 一・五% 三%
三億円を超える部分 一% 二%
* 事件の内容により、三〇%の範囲内で増減できる。
* 着手金の最低額は五万円。
* 手形、小切手訴訟事件が通常訴訟に移行したときの着手金は、(ア)により算定された額と前三項により算定された額との差額とし、その報酬金は、(ア)に準じる。
(ウ) 倒産処理事件(破産、会社整理、特別清算及び会社更生の各事件)
着手金 資本金、資産及び負債の額、関係人の数等事件の規模並びに事件処理に要する執務量に応じて定め、それぞれ次の額とする。(この項、以下省略)
① 事業者の自己破産事件 五〇万円以上
② 非事業者の自己破産事件 二〇万円以上
(③ないし⑥ 省略)
報酬金 (ア)に準じる。この場合の経済的利益の額は、配当額、配当資産、免除債権額、延払いによる利益及び企業継続による利益等を考慮して算定する。ただし、①及び②の事件は、依頼者が免責決定を受けたときに限り、報酬金を受けることができる。
(エ) 任意整理事件
着手金 資本金、資産及び負債の額並びに関係人の数等事件の規模に応じて定め、それぞれ次の額とする。
① 事業者の任意整理事件 五〇万円以上
② 非事業者の任意整理事件 二〇万円以上
報酬金
a ①②の事件が清算により終了したときは、債務の弁済に供すべき金員又は代物弁済に供すべき資産の価額(以下「配当源資額」という。)を基準として次のとおり算定する。
弁護士が債権取立、資産売却等により集めた配当源資額につき
五〇〇万円以下の部分 一五%
五〇〇万円を超え一〇〇〇万円以下の部分 一〇%
一〇〇〇万円を超え五〇〇〇万円以下の部分 八%
(以下、省略)
b ①②の事件が、債務の減免、履行期限の猶予又は企業継続等により終了したとき
倒産処理事件に準じる
* ①②の事件の処理について、裁判上の手続きを要したときは、その他の民事事件に関する規程により算定された報酬金を受け取ることができる。
ツ 上記弁護士法の改正により、弁護士会の会則の必要的記載事項から弁護士の報酬に関する標準を示す規定(同改正前の弁護士法三三条二項八号)が削除されたことを受け、各弁護士会の会則中の報酬に関する規定も平成一六年三月三一日をもって廃止されており、同年四月一日以降の受任事件に関しては、各弁護士事務所に備え置かれた報酬基準(日本弁護士連合会会則八七条二項、弁護士の報酬に関する規定三条)が参照されることとなっている。もっとも、多くの弁護士事務所では、各弁護士会の定めていた従前の弁護士報酬規定を実情等に則して一部修正するなどしたものを報酬基準として新たに制定している例も多いといえる。
なお、廃止前の兵庫県弁護士会の報酬規定中の上記タ記載の各事項に関する規定の内容は、上記報酬規程とほぼ同趣旨であるといえ(同報酬規定二条、一二条、一三条一号、一六条、一七条、二〇条、二六条、二七条等)、相手方の所属する大阪弁護士会の平成一六年三月三一日廃止前の同弁護士会の報酬に関する規定もほぼ同じような内容であると考えられる。
三  争点
(1)  本件報酬支払合意及び本件着手金支払の否認対象行為該当性
(申立人の主張)
ア 本件報酬支払合意の否認
本件報酬支払合意は、破産者が相手方に委任した過払金返還請求について、利息制限法所定の利息による引き直し計算によって破産者が法的に貸金業者に対して返還請求可能な金額に対する実際の回収額の割合(以下「弁済率」という。)を問わず、成功報酬額を回収額の三割と定めたものであり、弁済率が低い場合には不当な内容となる。本件において、相手方がロプロとの間で八割以下の回収額で和解した経緯を踏まえると、本件報酬支払合意のうち回収額の一割を超える報酬支払を定めた部分は、支払う必要のない報酬についての合意として無償行為にあたるから、申立人は、破産法一六〇条三項により否認する。
イ 本件着手金支払の否認
本件委任契約において、破産者が相手方に対して委任したのは、過払金返還請求の示談交渉であり、任意整理の示談交渉ではない。相手方ホームページにおいて、過払金返還請求訴訟を着手金なしの完全成功報酬制で受任する旨謳っており、同訴訟の受任が着手金なしということであれば、過払金返還請求の示談交渉も着手金なしで受任する取扱いのはずである。破産者がした本件着手金支払は支払義務がないにもかかわらずなされたもので、無償行為にあたるから、申立人は、破産法一六〇条三項により否認する。
(相手方の主張)
ア 過払金返還請求において回収額の三割を成功報酬として受領する旨の合意は不当なものではない。
イ 破産者には本件委任契約に基づき着手金一〇万五〇〇〇円の支払義務が発生していることは、同契約の契約書(甲四)から明らかである。
(2)  本件精算合意第一項の否認対象行為該当性
(申立人の主張)
本件精算合意第一項において、破産者は、過払金返還請求事件の着手金一〇万五〇〇〇円の支払義務(本件着手金支払が有効であること、及び、過払金返還請求事件の着手金残金として八万五〇〇〇円の支払義務があること)を承認しているが、支払義務のない事項の承認であって無償行為にあたるというべきであるから、申立人は、破産法一六〇条三項により否認する。
(相手方の主張)
(1)イに係る相手方の主張と同様である。
(3)  本件精算合意第二項の否認対象行為該当性
(申立人の主張)
本件和解契約締結時、破産者がロプロに対して利息制限法による引き直し計算により返還請求できる金額は六八六万〇九四〇円であるところ、破産者は、同契約において、上記金額の七七・二四パーセントに相当する五三〇万円の支払を受け、その余の請求権を放棄しており、同契約に基づく過払金の回収額は不当に低く、破産財団に損害を与えるものである。それにもかかわらず、本件精算合意第二項において、破産者が相手方に対してロプロに対する過払金返還請求の示談交渉の報酬として上記回収額の三割に相当する一六六万九五〇〇円を支払う旨の合意がなされているところ、少なくとも前記回収額の一割に相当する五三万円及びこれに対する消費税二万六五〇〇円の合計五五万六五〇〇円を超える一一一万三〇〇〇円の支払を定めた部分は、支払う必要のない報酬についての合意であり、無償行為にあたるというべきであるから、申立人は、破産法一六〇条三項により否認する。
(相手方の主張)
本件和解契約による弁済率は決して低いものではなく、むしろ、同契約締結の際には、破産者らの破産申立費用を調達する必要があったほか、手形不渡前に和解しなければより不利な条件で和解しなければならなくなるという事情があり、厳しい時間的制約の中で同契約のような内容で和解できたのは相手方の手腕というべきである。なお、本件において、ロプロは破産者に対して六〇〇万円の手形債権を有している旨主張していたことも同契約によって得られた経済的利益の算出にあたって考慮すべきであって、この点からしても上記報酬額は不相当なものではない。
(4)  本件精算合意第三項の否認対象行為該当性
(申立人の主張)
ア インターに対する過払金返還請求事件の中途解約報酬清算金の支払承認合意の否認
相手方は、インターに対する過払金返還請求について、利息制限法による引き直し計算により返還請求できる金額の約八割返還で合意できる状態であったにもかかわらず破産者が途中で破産手続を希望したために管財人に委ねるのが妥当であると考えてあえて和解を成立させなかった旨主張している。相手方は、過払金返還請求事件について完全成功報酬制を謳っており、インターに対する過払金返還請求について破産者に報酬請求できる理由はない。それにもかかわらず、本件精算合意第三項において、破産者が相手方に対してインターに対する過払金返還請求の示談交渉の報酬として二一万円を支払う旨の合意がなされており、同合意は無償行為にあたるというべきであるから、申立人は、破産法一六〇条一項一号により否認する。
イ B山、花子及び破産者の各自己破産申立ての中途解約報酬清算金の支払承認合意の否認(なお、申立人は、同合意が本件精算合意第四項でなされたものであるとして主張しているが、明らかな誤記と善解するのが相当である。)
本件委任契約の終了に至る経緯について、相手方は破産者が一方的に相手方を解任した旨、破産者は相手方が一方的に辞任した旨、それぞれ主張しているところ、上記経緯如何にかかわらず、B山が破産手続開始前に本件不動産を親族へ任意売却することは、売却価格や売却代金から諸経費等弁済後の残額の使途が適正である限り何ら問題がないのであって、相手方がこれに応じなかったのは不適切であったというべきであり、相手方の破産者代理人辞任は不当であり、辞任ではなく破産者からの解任であったとしても破産者の責めに帰すべき事由はない。このような事情の下で、破産者が、自己破産申立ての中途解約清算報酬金八四万円の支払を承認する旨の合意をすることは無償行為にあたる。また、上記合意には、破産者にとって支払義務のないB山及び花子の各自己破産申立ての中途解約報酬清算金として二一万円の支払を承認する内容が含まれているが、相手方はロプロから回収した金員から二一万円を控除しているので、破産者及び相手方は、上記清算金についても破産者からの支払を予定して上記合意をしたものである。それにもかかわらず、本件精算合意第三項においてなされた破産者がB山及び花子の各自己破産申立ての中途解約報酬清算金として二一万円を支払う旨の合意は無償行為にあたるというべきであるから、申立人は、破産法一六〇条一項一号により否認する。
(相手方の主張)
ア インターに対する過払金返還請求事件の中途解約報酬清算金の支払承認合意の否認について
本件委任契約は、同契約の契約書(甲四)第三条二により、受任弁護士の責めに帰すべき事情がない中途終了の場合、依頼者には報酬金全額の支払義務があるところ、相手方はいつでもインターと八割の弁済率で和解できる態勢を整えたが、その処理を破産管財人に委ねるべくあえてインターとの間で和解契約を締結しなかったところ、下記イのような事情により、相手方が破産者から解任されたものであり、相手方の責めに帰すべき事情はないから、破産者には報酬支払義務があるというべきである。
イ B山、花子及び破産者の各自己破産申立ての中途解約報酬清算金の支払承認合意の否認について
B山は、本件不動産の親族への違法な任意売却を計画し、相手方に無断でリセールに依頼して話を進めようとし、リセールから相手方にも上記任意売却への同意を要請されたが、相手方は、本件不動産の任意売却について、①B山がこれに不動産業者を関与させて「仲介手数料」名目で金員を支払い、還流させる手口への協力を相手方に打診したことがあったこと、②C川への廉価売却を強く希望していたこと、③B山の長男から、破産者が整理屋に取り込まれて同売却に関して破産犯罪を犯す可能性が高く、その目的を達成するために相手方を解任する段取りになっている旨知らされていたこと、④破産者が相手方に無断でリセールに依頼して話を進めていたこと、⑤否認権行使の対象となる根抵当権設定仮登記がなされていたことから、上記要請に応じなかった。しかし、B山は相手方の拒否にもかかわらず本件不動産の任意売却の話を進め、平成一八年八月一六日、「任意売却を認めてくれるD原弁護士に委任する」という理由で自らのみならず、花子の代理人ないし破産者代表者として花子や破産者と相手方との間の委任契約を全て解約した。本件不動産のC川への任意売却が違法なものであることは明らかで、破産者は相手方がこれを認めなかったために排除すべく解任したものであり、本件委任契約の終了について相手方の責めに帰するべき事情はない。したがって、相手方は民法六四八条三項により割合的報酬請求権を有する。
また、破産者の代表者たるB山及びその妻である花子の破産申立費用を法人たる破産者の財産から支出することは、必要費用の一部として事実上容認されているが、法的には問題があり、相手方は一旦申立人に対して全額を返還する用意がある旨述べた。しかしながら、その後、D原弁護士も、B山夫妻の破産申立事件の報酬金を破産者がロプロから回収した過払金から受領していることが判明した。申立人がD原弁護士にはB山夫妻の破産申立事件の報酬の返還を求めず、相手方にのみこれを求めるのは、特段の事情がない限り破産管財人としての公正中立義務に反するものであり、否認権行使の濫用というべきである。
(5)  本件精算合意第五項の否認対象行為該当性
(申立人の主張)
本件精算合意第五項は清算条項であるが、同合意第一項、第二項のうち一一三万三〇〇〇円を支払う部分、第三項及び第四項はいずれも無償行為を内容とし、申立人の否認権行使の対象であり、同合意第五項も上記無償行為に関する部分については同様に無償行為であるから、申立人は破産法一六〇条三項により否認する。
(相手方の主張)
申立人の主張を否認ないし争う。
四  当裁判所の判断
(1)  破産者は、平成一八年五月一五日に資金不足による手形の不渡りを出し、同年一一月七日に破産手続開始申立てをしており、本件委任契約締結と本件着手金支払及び本件報酬支払合意、本件精算合意及びそれに基づく各支払行為(破産者に返還すべき預かり金から控除する形で弁済を受けたもの。弁済額合計三〇一万四五〇〇円)は、いずれも破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後又はその前六月以内にしたものであることは明らかである。
(2)  弁護士の着手金や報酬金(中途解約による精算分も含む。)支払についての合意や支払行為の否認の可否について
ア  破産申立代理人が破産者から支払を受けるべき弁護士報酬は、共益費にあたる部分のみが財団債権になると解され、破産手続開始前に支払を受けた弁護士報酬についても、共益費相当額を超える部分は否認の対象となると解されているところ、弁護士による債務者の責任財産の保全活動としての任意整理ないし過払金返還請求や自己破産の申立てに対する着手金ないし報酬金の支払行為も、その金額が役務の提供と合理的均衡を失する場合、合理的均衡を失する部分の支払行為は、破産債権者の利益を害する行為として否認の対象となりうるというべきである。
イ  そうすると、本件において、相手方が破産者から支払を受けた報酬金等が、破産者から受任した事件についての着手金及び報酬金として合理的均衡を失するものであるかどうかを判断する必要があるところ、本件のような報酬支払行為の否認事件においては、弁護士と依頼者の意思にかかわらず、他の破産債権者を害する限り報酬金等の支払いを相当と認めることはできないのであるから、弁護士報酬の相当額を判断するにあたっては、弁護士が依頼者を相手方とする弁護士報酬請求事件において当事者の意思が報酬額算定における重要な要素の一つとなるのと異なり、客観的な相当額を算出する必要があるというべきである。
ウ  そこで、上記のような観点から、相手方が破産者から受任した事件について着手金及び報酬金等の相当額を、事件の難易、弁護士が費やした労力及び時間、その成果等の諸般の事情を総合考慮し、さらに、廃止前の報酬規程や弁護士会の報酬規定(これらの規程等は廃止前においても法的拘束力を有していたものではないが、現在においてもなお十分に弁護士報酬の客観的基準の一つとなりうるものであると解される。)も参照した上で算出し、それを基準として、否認権行使の対象となるかどうかを判断する。
(3)  本件着手金支払、本件精算合意第一項(着手金残金支払義務の承認及びそれに基づく支払行為)の各否認について
ア  まず、本件委任契約の内容について、同契約の契約書(甲四)の記載上、破産者の相手方に対する委任事項は「任意整理」及び「過払金返還請求」となっている。
しかし、相手方作成の合意書(甲一)においては、相手方の受任事件は「過払金返還請求」である旨記載されている(同表記が誤記である旨の相手方の主張はおよそ合意的なものではなく採用することができない。)。また、「任意整理」は、通常、債務超過状態の場合に法的な手続によらずして債務整理を行った上で配当や弁済の継続を行う場合をいうと考えられるところ、同契約締結当時の破産者の合理的意思としては、ロプロ及びインターに対する各債務について、それぞれ過払金が発生していることを前提に、示談交渉、場合によっては訴訟により返還を受けることを望んでいたものであり、法的な手続によらずしてその負担する債務の配当や弁済の継続を行っていくことではないと推認できるのであり、相手方に対しても、それに相応する事務処理を委任したつもりであったと認めるのが相当である。他方、相手方は、多重債務問題解決に専門特化している旨標榜する弁護士であり、本件委任契約締結の際、破産者の債権者たる業者名やその取引経過の概要等を聴取することにより、破産者の希望を正確に理解した上で、破産者のロプロ及びインターに対する各債務について過払金発生やその額を相当的確に予測することができたはずであるが、相手方ホームページによれば、「任意整理」として過払金の処理を行う場合があることを明らかにしているものの、同ホームページ内の「任意整理」、「過払金返還請求」の各説明内容に沿って考えれば、本件の破産者のロプロ及びインターに対する各債務については、利息制限法所定の引き直し計算を行った後、発生している過払金を、示談交渉ないし訴訟提起等の手段により可能な限り破産者に有利な条件で回収するという相手方のいう「過払金返還請求」の事務処理をすることで足り、それに加えて、債務が残存することを前提に、返済総額、毎月の返済額、返済方法について交渉し、合意に至らしめた上で破産者に弁済を継続させるといった相手方のいう「任意整理」の事務処理をする必要性はないと考えられるし、相手方があえて「任意整理」事件として過払金の処理を行うというのであれば、それのみを受任する内容で委任契約を締結すれば必要十分であると考えられる。さらに、相手方があえて「任意整理」という形でも受任した理由として掲げる手形不渡回避は、別の手段でもなしうるといえる。むしろ、相手方は、本件委任契約において、「任意整理、場合によっては過払金返還請求のみ」二件を、実際は過払金返還請求のみを行うことになるであろうことを認識しながら、破産者からの委任事項を「任意整理」、「過払金返還請求」各二件として本件委任契約を締結したのは、「任意整理」事件として着手金を受領しつつ、「過払金返還請求」事件として、回収した過払金から着手金を受領しないことを前提としているはずの完全成功報酬制に基づく報酬金受領を可能にするための便法であるとの疑いを容れる余地があり、少なくとも、破産者の希望に添い、その利益に適うものとは到底いえない。さらに、実際、本件委任契約に基づいて相手方がした事務処理は、専ら、破産者のロプロ及びインターに対する各借入金債務の利息制限法による引き直し計算と、これにより算出された過払金額を基にした金員の返還のための示談交渉、さらにロプロとの間での示談(和解)成立とそれに基づく回収作業であって、相手方のいう「任意整理」の際に行う借入金残額の減額や返済総額、毎月の返済額、返済方法等の合意に向けての交渉等は行われていないものと認められる。以上の諸事情からすれば、本件において、破産者と相手方とが「任意整理」について委任契約を締結する必要性があったと認められず、上記契約書の記載内容のほか、相手方が縷々主張する点をもってしても、破産者が相手方に対して「任意整理」をも委任したと認めるに足りず、破産者のロプロ及びインターに対する各「過払金返還請求」のみを委任する内容であったと認めるのが相当である。
イ  ところで、前記認定事実によれば、相手方は、過払金返還請求「訴訟」について完全成功報酬制を採用していることを明らかにしているところ、一般に、示談交渉は訴訟提起よりも要する時間や労力が少ないから、過払金返還に係る「示談交渉」についてもそれに係る「訴訟」を提起する場合と同様に完全成功報酬制を採用しているものと考えるのが自然である。仮に、過払金返還請求について訴訟提起の場合と示談交渉の場合とを別異に取扱うということであれば、そのことを破産者が了承していることが必要であるというべきであるが、本件において、破産者がそのような別異の取扱いを了承していたことを認めるに足りない。そうすると、本件委任契約締結時、相手方が同契約に基づいて破産者から受領できる金員は、過払金返還請求事件二件に要する費用としての名目に限られ、着手金名目で金員を受領する権限はないというべきであり、本件着手金支払は、相手方が行った上記事務処理がその対価としてなされたものと認めるに足りず、それらの対価として破産者が経済的利益を受けているとはいえないから、破産法一六〇条三項にいう「無償行為」にあたるというべきである。
ウ  さらに、本件精算合意第一項において、破産者は、「過払金返還請求」事件の着手金一〇万五〇〇〇円の支払義務(本件着手金支払が有効であること、及び、過払金返還請求事件の着手金残金として八万五〇〇〇円の支払義務があること)を承認しているが、すでに述べたとおり、破産者には本件委任契約に基づく相手方に対する「過払金返還請求」事件についての着手金支払義務があるとは認められず、同条項記載の支払義務の承認及びこれに基づく破産者の相手方に対する八万五〇〇〇円の支払はいずれも破産者に義務がないものであるから、破産法一六〇条三項にいう「無償行為」にあたるというべきである。
エ  以上により、本件着手金支払、本件精算合意第一項(着手金残金支払義務の承認及びそれに基づく支払行為)について、いずれも破産法一六〇条三項に基づき、申立人が否認権を行使することができる。
(4)  本件報酬支払合意、本件精算合意第二項における過払金返還請求の報酬支払承認及びそれに基づく支払行為について
ア  前記認定のとおり、本件委任契約の契約書(甲四)において、過払金返還請求の「諸費用及び成功報酬」は返還受領額の三割と定められているところ、相手方は、破産者代理人として本件和解契約を締結し、相手方はロプロから破産者の過払金のうち五三〇万円の返還を受けたことにより、ロプロに対する過払金返還請求について破産者から受領すべき報酬額を一六六万九五〇〇円(五三〇万円の三割に相当する一五九万円に消費税五パーセントを加算した金額)と算定し、これを破産者に返還すべき上記五三〇万円から控除する形で弁済を受けている。
イ  ところで、すでに述べたとおり、本件のような弁護士に対する報酬支払行為の否認の請求事件において、弁護士報酬の相当額を判断するにあたっては、客観的な相当額を算出する必要があるが、その場合でも、弁護士の着手金や報酬金について当事者間の合意があり、それにより決せられた額が相当であれば何ら問題はない。しかし、一般に委任契約は当事者間の信頼関係を基礎とし、他の契約関係に比較すると信義誠実の原則と衡平の原則が強く支配するといえるのであり、この関係は法律専門職たる弁護士とその依頼者との委任契約においてはより一層強調されてしかるべきである。そうすると、弁護士の報酬額に関して、当事者間の合意に全て拘束されるとするのは妥当ではなく、依頼された事件の難易、労力の程度、所要時間の多寡、廃止前の弁護士会報酬規定等の内容その他諸般の事情を総合考慮して、信義誠実の原則と衡平の原則に基づき約定の範囲内においてその報酬額を減額することができると解するのが相当であるし、否認の請求事件においては上記減額部分は否認の対象となるというべきである。
ウ  相手方の破産者に対するロプロに対する過払金返還請求について相当と認められる報酬額について検討する。
本件におけるロプロに対する過払金返還請求の報酬額につき、報酬規程に基づいて、経済的利益五三〇万円(破産者のロプロに対する貸付が手形貸付であったことからすれば、相手方主張のように本件の経済的利益の価額についてロプロの主張する手形債権の額を考慮するのは妥当でないので、同主張は採用しない。)の民事の調停事件及び示談交渉事件(裁判外の和解交渉)として、着手金・報酬金を計算すると(詳細は別紙のとおり)、着手金は一二万四二五〇円から四六万一五〇〇円までの間、報酬金は二四万八五〇〇円から九二万三〇〇〇円までの間、着手金・報酬金の合計額は三七万二七五〇円から一三八万四五〇〇円までの間となる。
ロプロは大手商工ローン業者であり、商工ローン業者や消費者金融業者等に対する過払金返還請求に関する近時の一連の最高裁判決を経て、上記業者らが取引履歴の開示に原則的に応じるようになるとともに、比較的高い弁済率(八〇ないし九〇%程度)での和解に応じる姿勢を示すなど、このような請求に慣れており、柔軟な対応がなされることも多いことは、裁判所にとって公知の事実である。本件においても、ロプロは取引履歴の開示に応じており、借入れの口数や充当関係について主張が対立する余地はあったと推測されるものの、過払金の有無やその額等についての事実認定や立証にさほど困難があったとは認められず、法律上の問題点についても上記の各最高裁判決等により解決済みであるといえるから、権利関係に複雑な争いがある事案とはいえないし、訴訟提起に至らずに過払金返還に至っているのであって、実際の回収作業も比較的容易であったといえる。そうすると、相手方主張の手形不渡前の和解成立がより有利であるとか、破産手続費用捻出の必要があった等の理由を十分考慮しても、本件和解契約で定められたロプロの弁済率は到底十分なものとはいえない。さらに、前記認定のとおり、相手方は、その所属する法律事務所のホームページにおいて、過払金返還請求訴訟の報酬について、「成功報酬の割合は、訴訟の難易度、証拠(借用書や領収書)の有無、過払金額等によって変わります。」、「最初にお引き受けするときにお話し合いで割合を決めます。」、「リスク管理を徹底し、リスクに見合った割合の報酬を頂く…」等の説明をしているが、本件委任契約締結時に、破産者との間で報酬額を決する際に十分な話し合いをしたことは窺われないし、報酬額の定めも、費用込みで「回収額の三割」という大雑把なものである。また、相手方は、過払金返還請求訴訟については完全成功報酬制を謳っており、事案の内容や依頼者の資力等を考慮して着手金を受領しない代わりに、回収した過払金から報酬金を受領するにあたっては着手金相当額程度を加算することは相当性があるといえるが、本件で報酬規程に沿った過払金返還請求の着手金・報酬金合計額の上限によった場合でも、その額は経済的利益の約二〇・〇九%相当であり、「回収額の三割」という報酬額は成功報酬であるとしても一般的にみてかなり高額なものであり、これを信義則と衡平の原則により適正な範囲まで是正する必要があると考えられる。
以上の各事実のほか本件の一切の事情を斟酌すると、上記報酬額の範囲内で相当と認められる着手金・報酬金の合計額としては、訴訟事件等の場合の下限に準じた七四万五五〇〇円が相当であり、その限度内でのみ本件報酬の合意に効力を認めるべきである。そして、上記相当報酬額に消費税相当額を加算した七八万二七七五円に、さらに諸般の事情を考慮して本件和解契約により受任した二件の過払金返還請求に要する費用としての二万円(一件当たり一万円)を加算した合計八〇万二七七五円を相手方が受領できた相当額であると認める。そうすると、相手方がロプロに対する過払金返還請求の報酬金として受領した一六六万九五〇〇円のうち八六万六七二五円(上記受領額の約五一・九二%)は上記認定の相当額を上回るものであるが、差額がこの程度にまで至るときは明らかに破産債権者を害するものであり、もはや役務の提供と合理的均衡を失するものと認めるよりほかない。
エ  なお、申立人は、相当額を超える部分の支払行為は無償行為と同視すべきであるとして、破産法一六〇条三項により否認することができることを前提に、本件において、前記相当額を超える部分についての支払行為への否認権行使を主張するものと解される。上記規定は、財産を無償で処分することは、通常の経済的取引においてきわめて特殊なものであるにもかかわらず、それをあえて危殆時期に行うときは、それだけで十分有害であり、また、受益者も無償で利益を得ている以上、主観的な認識を問わず否認を認めても不当ではないとの趣旨に基づくものである。したがって、同項にいう「無償行為及びこれと同視すべき有償行為」とは、破産者が対価を得ないでその積極財産を減少させあるいは消極財産を増加させる行為及び破産者が対価を出捐したが名目的な金額に過ぎず経済的には対価としての意味を有しない行為を指すものと解するのが相当であるが、もとより、不当に高額な部分の支払行為を総財産減少行為として否認することは可能であると解されるところ、着手金ないし報酬金の支払行為において支払金額が役務の提供と「合理的均衡を失する場合」にはその部分の支払行為のみを否認の対象とすることも許されると考える。
オ  以上により、本件においては、前記認定の相当額を超える八六万六七二五円の報酬支払合意及びそれに基づく支払行為は、相手方の役務の提供と合理的均衡を失し、破産者がその対価として経済的利益を受けていないことや、破産債権者を害することは明らかであって、無償行為と同視すべきものと認められ、破産法一六〇条三項により否認することができるというべきである。したがって、この点についての申立人の主張は、本件精算合意第一項のうち八六万六七二五円についての支払合意とそれに基づく支払行為を否認する限りで理由がある。
(5)  インターに対する過払金返還請求事件の中途解約報酬清算金の支払承認の否認について
ア  相手方が破産者らの破産手続申立ての準備を始めた後、破産者代表者であるB山との間で本件不動産の任意売却を巡って意見が対立したことが原因で、破産者による解任か相手方の辞任かはともかく、本件委任契約も含めて相手方と破産者、B山及び花子との間の委任関係が全て終了するに至ったこと自体は当事者間に争いない。
イ  前記認定事実によれば、本件委任契約の終了までに、相手方は、インターとの間では示談成立や訴訟の勝訴を得て過払金を現実的に回収するに至らなかったところ、相手方は、過払金返還請求について完全成功報酬制を採用しているのであるから、破産者に対してインターに対する過払金返還請求に対する報酬請求はできないというべきである。
この点、相手方は、本件委任契約終了について相手方の責めに帰するべき事由がないから、同契約が中途終了した場合、過払金返還請求については相手方の責めに帰すべき事情がない場合報酬金全額を支払う旨の約定に基づき報酬請求権を有する旨主張する。
同約定は、相手方が完全成功報酬制を採用していることにより、着手金の受領なしに過払金返還請求についての事務処理を始めたにもかかわらず、その事務処理完了前に相手方の責めに帰すべき事情がないのに、例えば依頼者の不当な中途解任等によって報酬請求権を失うこと等を防ぐ必要があるから設けられたものと解される。そこで、本件委任契約終了の原因やそれにつき相手方の責めに帰するべき事由の有無について検討する。
まず、本件記録上、破産者らが相手方を解任したと認めるに足りず、かえって、相手方作成の通知書の文面などからして、相手方が破産者らの代理人を辞任したものと認められる。次に、本件において、破産者と相手方との意見対立、さらには相手方の辞任の原因となったB山の親族に対する本件不動産の任意売却については、破産法一六一条が、適正価額による不動産等の財産の処分について、本来的に否認の対象外とされ、例外的に、共同担保としての確実性の毀損が生ずるだけではなく、さらに破産者の後続行為によって実際に共同担保が毀損されるおそれが具体的に想定されるような状況のもとで行われた場合に否認される場合があるという形で規定していることに照らせば、破産手続上必ずしも問題とされるものではないというべきである。そうすると、相手方は、法律専門家である弁護士として、その専門的知識を駆使し、依頼者のために善良なる管理者の注意をもって最善の権利・利益擁護活動を行う義務を負っていたのであるから、まずは、B山に対し、本件不動産の任意売却を適法な形で実現させることが可能であることを教示した上、そのために必要十分な説明や助力、場合によっては説得をすべきであったといえる。しかるに、相手方は、上記任意売却が破産手続開始後問題とされる違法なものである旨判断した上、B山やその周辺者からの要望を拒絶するのみで、何ら適切な対応をとっていなかったものであり、委任事務を誠実に履行したとは認められない。以上からすれば、相手方の破産者ら代理人辞任について、相手方にはその責めに帰するべき事由があったというべきである。したがって、前記約定に基づいて、破産者に中途解約報酬清算金を請求することはできない。
もっとも、他方で、関連記録も含む本件記録によれば、B山も、相手方に自らやその妻、破産者の各破産手続申立てを依頼しつつ、本件不動産の任意売却等について相手方に自分の希望を伝えたものの、適切な理解や承認を得るべく十分な事情説明をしたり、納得がいくまで説明を受ける等の行動をとることなく、独断で不動産仲介業者等に依頼して話を進めるなどしているほか、相手方に依頼する前後からいわゆる「整理屋」とおぼしき者との接触を続けるなど、相手方の委任事務処理に問題があったことを踏まえても、その委任事務遂行に協力的とはいえず、むしろ妨げかねない行動をとっており、必ずしも自己の希望実現のために相手方に対して適切な対応をしたとはいえない面も否定できず、その意味では、B山にも相手方との委任関係の基礎となる信頼関係の破綻につながる行為があったといえ、本件委任契約や破産申立てについての委任関係終了について帰責事由があるというべきである。
ウ  そうすると、本件精算合意第三項においてなされた破産者が相手方に対してインターに対する過払金返還請求の示談交渉の報酬として二一万円を支払う旨の合意及びこれに基づく支払行為は無償行為と同視すべき有償行為であり、破産財団を減少させ、破産債権者を害するものである。そして、破産者も上記合意等が破産債権者を害することを知っていたし、受益者である相手方も、上記合意等の時点で破産債権者を害する事実を知らなかったと認めるに足りない。以上により、破産法一六〇条一項一号により上記合意等を否認する旨の申立人の主張は理由がある。
(6)  B山、花子及び破産者の各破産手続申立ての中途解約報酬清算金支払合意の否認について
ア  まず、相手方が破産者に返還すべき過払金から控除する形で、破産者から受けた各破産手続申立ての中途解約報酬清算金の弁済は、破産者が法的に支払う義務を負わないもので、無償行為にあたるのは明らかであるし、破産財団を減少させ、破産債権者を害するとともに、破産者も自らの破産債権者を害することを知っていたことや相手方が上記弁済を受けることにより破産者の破産財団が減少することを知っていたことも明らかといえる。したがって、破産法一六〇条一項一号により、本件精算合意第三項においてなされた破産者がB山及び花子の各自己破産申立ての中途解約報酬清算金として二一万円を支払う旨の合意を否認する旨の申立人の主張は理由がある。
イ  次に、破産者自身の破産手続申立ての中途解約報酬清算金支払合意の否認について検討する。
本件記録上、相手方が、破産者について、過払金返還請求に引き続き破産手続申立てを受任した際、破産者との間で、各破産手続申立てについての報酬金等について格別の合意をせず、着手金の授受もなかったものと認められるが、その委任に至る経緯に鑑みると、当事者間において相当額の報酬を支払うとの有償の合意がなされたものと推認するのが相当である。そしてその相当報酬額については、当事者間で特に依るべき基準についての合意がなされたと認められない本件においては、当該訴訟によって依頼者の受ける経済的利益をもとにして、事案の性質、難易その他諸般の事情を斟酌して、これを定めるべきものといえる。
報酬規程によれば、事業者の自己破産事件の着手金について、最低額を五〇万円と規定されているところ、破産者の破産手続申立てについては、破産者が営業継続中であり、債権債務関係の把握のみならず、在庫商品や在職中の従業員の雇用関係の処理が必要であったこと、他方、手形不渡回避、配当原資の確保や債権者の把握については先行する過払金返還請求事件の事務処理と重複する部分もあるといえることや、破産手続申立てについて委任契約書を作成せず、報酬等についても十分な説明をしていないことが窺われ、格別の合意に至っていないことが明らかであるところ、これらは弁護士職務基本規程三〇条一項に反すること等からすれば、その着手金としては八〇万円が相当であると認める。
ウ  もっとも、本件においては、相手方が破産者の破産手続申立てに至る前に委任関係が終了しているところ、相手方は、民法六四八条三項に基づき、受任後解任されるまでに行った事務処理の割合に応じた報酬を請求することができる旨主張する。
すでに述べたとおり、本件においては、上記委任関係終了について委任者と受任者の双方に帰責事由があるといえるが、同条項はこのような場合について直接規定するものではない。しかしながら、同条項の趣旨が、委任契約は本来的に受任者が委任者に対して継続的に労務を供給することを予定しているところ、履行が中途に終わった場合には全く受任者は報酬を請求できないとすると、それまで受任者が供給してきた労務が全くの徒労に終わることになり、公平の観点からみて不当であるから、受任者の責に帰すべからざる事由によって委任契約が半途終了した場合には、受任者は委任者に対して委任事務遂行の割合に応じて報酬を請求できるとしたところにあると解されることからすれば、受任者に帰責事由があったとしても、委任者にも帰責事由があるような場合は、公平の観点から民法六四八条三項を類推適用し、受任者はその委任事務処理の割合に応じた報酬を委任者に対して請求できると解するべきである。
そこで、本件委任契約終了までの間に相手方が行った事務処理に相当する報酬額について検討するところ、相手方が、破産者の債権者らに受任通知を送付するなど自己破産申立手続を相応の時間や労力を費やして一定程度行おうとしていたことは窺われるが、それに向けて相手方が行った活動の具体的な内容やその結果を、相手方は破産者に対して説明しておらず、また、本件各証拠によっても明らかではない。そのほか、本件記録から認められる事案の内容、事務処理の性質及び程度並びに相手方がそれに要した労力、残存事務量等に照らし、また、相手方に破産者の破産手続申立てについての委任関係終了について責めに帰するべき事情があることをも考慮すると、相手方が破産者に対して請求できる割合的報酬は、前記認定の相当報酬額の二割にあたる一六万円を超えるものではないと認めるのが相当である。
そうすると、相手方は破産者からその破産手続申立ての中途解約報酬清算金として、上記認定の割合的報酬額一六万円に消費税相当額を加算した一六万八〇〇〇円の限度で受領することができたというべきところ、相手方が実際に受領した八四万円のうち六七万二〇〇〇円(上記受領額の八〇%)は上記認定の相当額を上回るものであるが、差額がこの程度にまで至るときは明らかに破産債権者を害するものであり、もはや役務の提供と合理的均衡を失するものと認めるよりほかない。
エ  以上、本件精算合意第三項においてなされた破産手続申立ての中途解約報酬清算金として八四万円を支払う旨の合意及びこれに基づく支払行為のうち、一六万八〇〇〇円を超える部分は相手方の役務の提供と合理的均衡を失し、破産者がその対価として経済的利益を受けていないことや、破産債権者を害することは明らかであって、無償行為と同視すべきものと認められるとともに、破産財団を減少させ、破産債権者を害するものである。そして、破産者も上記合意等が破産債権者を害することを知っていたし、受益者である相手方も、上記合意等の時点で破産債権者を害する事実を知らなかったと認めるに足りない(相手方が破産者の破産申立代理人をも辞任することは自由であるとしても、その場合、破産者の破産申立てについて新たな代理人の選任とそのための費用が必要となり、相手方にも予見できたはずである。)から、破産法一六〇条一項一号により否認することができるというべきである。したがって、この点についての申立人の主張は、上記合意のうち六七万二〇〇〇円についての支払合意とそれに基づく支払行為を否認する限りで理由がある。
(7)  本件精算合意第五項についての否認
破産管財人が法一六〇条三項の規定により無償行為又はこれと同視すべき有償行為として否認することのできる破産者の行為は、それによって破産財団を減少させ、一般債権者を害するもの又はその限度に限られるものと解するのが相当であるところ、本件精算合意第五項はいわゆる清算条項であり、その内容からみて、具体的な破産財団に係る合意である同合意第一項ないし第三項のうち破産財団を減少させ、一般債権者を害する部分を否認すれば、その否認の効力により破産財団は原状に復するから、同条項を独自に否認する実益はない。
(8)  なお、本件において、相手方は、申立人の本件ないしB山の破産管財人の職務執行について種々の義務違反がある等と主張、論難するが、関連事件を含む一件記録によれば、申立人は、本件ないしB山の破産管財人として、その権限や裁量の範囲内で適正かつ迅速に職務執行にあたっていると認められ、監督権限を有する破産裁判所が問題にすべきところは見当たらないし、同主張により本件における当裁判所の各判断が左右されるものではない。
五  結論
以上によれば、相手方は、破産者から、着手金として受領した合計一〇万五〇〇〇円、ロプロに対する過払金返還請求の弁護士報酬として受領した一六六万九五〇〇円のうち八六万六七二五円、インターに対する過払金返還請求事件の中途解約による報酬清算金として受領した二一万円、破産者の自己破産申立ての中途解約による報酬清算金として八四万円のうち六七万二〇〇〇円、B山及び花子の自己破産申立ての中途解約による報酬清算金として受領した二一万円の合計二〇六万三七二五円を返還すべき義務がある。破産者の破産管財人である申立人の否認請求は、相手方に対し、二〇六万三七二五円及びこれに対する本申立書送達の日の翌日である平成一九年三月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 谷口真紀)

 

別紙

経済的利益 着手金 報酬金
訴訟事件に準じた場合(①) ①で増減額した場合(②) 手形・小切手訴訟事件に準じた場合(③) ③で増減額した場合(④) 訴訟事件に準じた場合(①) ①で増減額した場合(②) 手形・小切手訴訟事件に準じた場合(③) ③で増減額した場合(④)
上限 下限 上限 下限 上限 下限 上限 下限
300万円以下 ¥3,000,000 8% ¥240,000 ¥312,000 ¥168,000 4% ¥120,000 ¥156,000 ¥84,000 16% ¥480,000 ¥624,000 ¥336,000 8% ¥240,000 ¥312,000 ¥168,000
300万円を超え3000万円以下 ¥2,300,000 5% ¥115,000 ¥149,500 ¥80,500 2.5% ¥57,500 ¥74,750 ¥40,250 10% ¥230,000 ¥299,000 ¥161,000 5% ¥115,000 ¥149,500 ¥80,500
合計((x)) ¥5,300,000   ¥355,000 ¥461,500 ¥248,500   ¥177,500 ¥230,750 ¥124,250   ¥710,000 ¥923,000 ¥497,000   ¥355,000 ¥461,500 ¥248,500

相手方算定報酬額(y) ¥1,590,000 30.00%

着手金+報酬金(a) 対経済的利益比
((x)÷(a))
相手方算定額との差額
(c)((y)-(a))
(c)÷(a)
①の場合 ¥1,065,000 20.09% ¥525,000 33.02%
②の上限の場合 ¥1,384,500 26.12% ¥205,500 12.92%
②の下限の場合 ¥745,500 14.07% ¥844,500 53.11%
③の場合 ¥532,500 10.05% ¥1,057,500 66.51%
④の上限の場合 ¥585,750 11.05% ¥1,004,250 63.16%
④の下限の場合 ¥372,750 7.03% ¥1,217,250 76.56%

相手方算定報酬額+消費税相当額(y’) ¥1,669,500

(着手金+報酬金)+
消費税相当額(b)
相手方受領額との差額
(c’)((y’)-(b))
費用(2万円)を加算
(d)
返還すべき額
(e)((y’)-(d))
(e)÷(y’)
①の場合 ¥1,118,250 ¥551,250 ¥1,138,250 ¥531,250 31.82%
②の上限の場合 ¥1,453,725 ¥215,775 ¥1,473,725 ¥195,775 11.73%
②の下限の場合 ¥782,775 ¥886,725 ¥802,775 ¥886,725 51.92%
③の場合 ¥559,125 ¥1,110,375 ¥579,125 ¥1,090,375 65.31%
④の上限の場合 ¥615,038 ¥1,054,463 ¥635,038 ¥1,034,463 61.96%
④の下限の場合 ¥391,388 ¥1,278,113 ¥411,388 ¥1,258,113 75.36%

 

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