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「業務委託 代理店 営業」に関する裁判例(4)平成30年10月30日 東京地裁 平28(ワ)10278号 損害賠償請求事件

「業務委託 代理店 営業」に関する裁判例(4)平成30年10月30日 東京地裁 平28(ワ)10278号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成30年10月30日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)10278号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA10308033

裁判年月日  平成30年10月30日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)10278号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA10308033

埼玉県桶川市〈以下省略〉
原告 X1
埼玉県桶川市〈以下省略〉
原告 X2
埼玉県蕨市〈以下省略〉
原告 X3
さいたま市〈以下省略〉
原告 X4
上記四名訴訟代理人弁護士 太田賢志
東京都中央区〈以下省略〉
(送達場所 東京都中央区〈以下省略〉)
被告 スプレマシーアセットパートナーズ株式会社
同代表者代表取締役 Y1
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y1
埼玉県上尾市〈以下省略〉
被告 Y2
千葉県我孫子市〈以下省略〉
被告 Y3
千葉県佐倉市〈以下省略〉
被告 Y4
茨城県守谷市〈以下省略〉
被告 Y5
上記四名訴訟代理人弁護士 栗原喜子
同訴訟復代理人弁護士 金子剛
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y6
東京都江戸川区〈以下省略〉
被告 Y7
上記両名訴訟代理人弁護士 小野聡

 

 

主文

1  被告スプレマシーアセットパートナーズ株式会社,被告Y1及び被告Y7は,原告X1に対し,各自1438万7761円及びこれに対する被告スプレマシーアセットパートナーズ株式会社及び被告Y1について平成28年4月25日から,被告Y7について平成28年4月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員を,他の被告らと認容額が重なる限度で各連帯して支払え。
2  被告Y2,被告Y3及び被告Y4は,原告X1に対し,各自760万9844円及びこれに対する被告Y2について平成28年4月21日から,被告Y3について平成28年4月24日から,被告Y4について平成28年4月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を,他の被告らと認容額が重なる限度で各連帯して支払え。
3  被告Y6は,原告X1に対し,778万7761円及びこれに対する平成28年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を,他の被告らと認容額が重なる限度で連帯して支払え。
4  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5  訴訟費用は,原告X1と被告スプレマシーアセットパートナーズ株式会社,被告Y1,被告Y6及び被告Y7との間に生じた費用は全部上記被告らの負担とし,原告X1と被告Y5との間に生じた費用は全部原告X1の負担とし,原告X1と被告Y2及び被告Y3との間に生じた費用はこれを2分し,その1を上記被告らの負担とし,その余を原告X1の負担とし,原告X1と被告Y4との間に生じた費用はこれを8分し,その7を被告Y4の負担とし,その余を原告X1の負担とし,原告X2,原告X3及び原告X4と被告Y6を除く被告らとの間に生じた費用は,全部上記原告らの負担とする。
6  この判決は,第1項から第3項までに限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告スプレマシーアセットパートナーズ株式会社(以下「被告会社」という。),被告Y1(以下「被告Y1」という。),被告Y2(以下「被告Y2」という。),被告Y3(以下「被告Y3」という。),被告Y5(以下「被告Y5」という。)及び被告Y7(以下「被告Y7」という。)は,原告X1(以下「原告X1」という。)に対し,各自1518万9907円及びこれに対する被告会社及び被告Y1について平成28年4月25日から,被告Y2及び被告Y7について同月21日から,被告Y3について同月24日から,被告Y5について同年6月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を,内878万8327円及びこれに対する同年4月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で被告Y4(以下「被告Y4」という。)と連帯して,内858万9907円及びこれに対する同月28日から支払済みまで年5分の割合による支払の限度で被告Y6(以下「被告Y6」という。)と連帯して支払え。
2  被告Y4は,原告X1に対し,被告会社,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y5及び被告Y7と連帯して,878万8327円及びこれに対する平成28年4月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を,内218万8327円及びこれに対する同月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で被告Y6と連帯して支払え。
3  被告Y6は,原告X1に対し,被告会社,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y5及び被告Y7と連帯して,858万9907円及びこれに対する平成28年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を,内218万8327円及びこれに対する同月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で被告Y4と連帯して支払え。
4  被告会社,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y7は,原告X2(以下「原告X2」という。)に対し,各自550万円及びこれに対する被告会社及び被告Y1について平成28年4月25日から,被告Y2及び被告Y7について同月21日から,被告Y3について同月24日から,被告Y4について同月22日から,被告Y5について同年6月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5  被告会社,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y7は,原告X3(以下「原告X3」という。)に対し,各自550万円及びこれに対する被告会社及び被告Y1について平成28年4月25日から,被告Y2及び被告Y7について同月21日から,被告Y3について同月24日から,被告Y4について同月22日から,被告Y5について同年6月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6  被告会社,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y7は,原告X4(以下「原告X4」という。)に対し,各自550万円及びこれに対する被告会社及び被告Y1について平成28年4月25日から,被告Y2及び被告Y7について同月21日から,被告Y3について同月24日から,被告Y4について同月22日から,被告Y5について同年6月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  事案の要旨
本件は,原告X1において,被告会社が取扱者である回胴式遊技機の賃貸事業に係るファンドに出資をし,原告X1,原告X2,原告X3及び原告X4(以下,原告X1を除く原告3名を併せて「原告X2ら」という。)が上記ファンドの事業者である株式会社LIG(以下「LIG」という。)の発行する小規模私募債を購入したことについて,原告らが,①上記ファンドや私募債は,既に回胴式遊技機の賃貸事業が破綻し,分配金の支払や出資金の償還が著しく困難な状況に陥っていたから,金融商品として不適正なものであるにもかかわらず,それを秘して違法に勧誘された,②被告会社の代表取締役である被告Y1及び被告会社の従業員が上記ファンドや私募債の勧誘に当たって適合性原則違反及び説明義務違反があった,③被告会社の取締役であった被告Y2,被告Y3及び被告Y4(以下,3名の取締役を「被告Y2ら」という。)は,回胴式遊技機の賃貸事業が破綻していることを認識しながら上記ファンドや私募債の販売を継続していたか,上記事業の状況について必要な確認作業を怠った過失又は重過失がある,④上記ファンドの営業者であるMTキャピタル合同会社(以下「MTキャピタル」という。)の代表社員であった被告Y6は,事業者であるLIGが債務不履行状態に陥っていることを知っていたにもかかわらず,ファンドの販売を継続し,出資金を受け入れていた,⑤LIGの代表取締役であった被告Y7は,同社が既に債務不履行状態に陥っていたにもかかわらず,それを放置してファンドや私募債の違法な勧誘を続けさせたなどと主張し,それによって原告らが出資金等を支払って損害を被ったとして,被告会社に対して,民法709条,719条又は715条若しくは会社法350条,被告Y1に対して,民法709条,719条又は会社法429条1項,被告Y2らに対して民法709条,719条又は会社法429条1項,被告Y5に対して民法709条,719条,被告Y6に対して同法709条,719条又は会社法597条,被告Y7に対して民法709条,719条又は会社法429条1項にそれぞれ基づいて,連帯して(ただし,被告Y4は取締役就任後の取引について,被告Y6は上記ファンドについてのみ連帯して)原告らが上記ファンド及び私募債購入のために支出した金員並びに弁護士費用相当額の損害賠償並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2  前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  原告X1は,昭和48年○月生まれの男性であり,会社員として勤務している者である。
原告X2(昭和57年○月生まれ)は,原告X1の妻であり,原告X3(昭和22年○月生まれ)は原告X2の母,原告X4(昭和55年○月生まれ)は原告X2の兄である。
被告会社は,平成22年4月に設立された有価証券の募集及び売出しの取扱い並びに私募の取扱いを行う業務等を目的とする株式会社であり,第二種金融商品取引業者の登録を受けている。被告会社は,営業者をMTキャピタル,事業者をLIGとして,MTキャピタルが出資金を基に購入した回胴式遊技機(いわゆるパチスロ機)をLIGに賃貸し,LIGがこれを遊技場に賃貸する匿名組合事業を行い,その収益から一定割合を出資者である匿名組合員に分配金として支払うことを内容とする匿名組合契約である「SAP36毎月分配型ファンド」,「SAP24毎月分配型ファンド」等(以下「SAPファンド」と総称する。)の取扱者であった。
被告Y1は,遅くとも平成25年6月から現在まで被告会社の代表取締役の任にあり,被告Y2は平成22年5月10日から,被告Y3は平成24年4月16日から,被告Y4は平成27年10月1日から,それぞれ現在まで被告会社の取締役の任にある者である。
被告Y5は,平成24年10月頃から被告会社において,営業を担当していた従業員であり,原告X1に対して,SAPファンドの出資を勧誘した。
(甲1,3~5,7~13,98,乙1,13~16,弁論の全趣旨)
(2)  MTキャピタルは,平成24年12月に設立された回胴式遊技機等の遊技場へのレンタル事業等を目的とする合同会社であり,SAPファンドの営業者であった。
被告Y6は,平成27年7月1日から平成28年2月1日までMTキャピタルの代表社員であった者である。同日から破産手続開始の時までの同社の代表社員は,被告Y1であった。
LIGは,平成26年6月20日に設立された,遊技機の開発,製造,レンタル及びリース,匿名組合事業に関する分別管理等を目的とする株式会社であり,SAPファンドの事業者であり,原告らが購入した私募債の発行体である。
被告Y7は,LIGが設立された平成26年6月から平成28年3月10日まで同社の代表取締役であった者である。同月11日から破産手続開始の時までの同社の代表取締役は,被告Y1であった。
(甲1,33,44,48,丙7,弁論の全趣旨)
(3)  原告X1は,平成27年8月18日,被告会社の媒介で営業者であるMTキャピタルとの間で「SAP24毎月分配型ファンド19号」に係る匿名組合契約を締結して10口,500万円を出資し,同額を上記ファンド口座に振り込んだ。
続いて,原告X1は,同年9月28日には「SAP24毎月分配型ファンド20号」に係る匿名組合契約を締結して2口,100万円を,同年10月28日には「SAP24毎月分配型ファンド21号」に係る匿名組合契約を締結して2口,100万円を,さらに同年11月25日には「SAP24毎月分配型ファンド22号」に係る匿名組合契約を締結して2口,100万円を出資し,これらのファンドの出資金として合計800万円を支払った(以下「本件ファンド」という。)。
(甲5,11~13,弁論の全趣旨)
(4)  原告X1は,平成27年12月19日,LIGが発行する第3回私募債を5口申し込み,同社に500万円を振り込んで支払った。
また,原告X1は,平成28年1月19日,LIGが発行する第5回私募債を1口申し込み,同社に100万円を振り込んで支払った。
原告X2らは,原告X1の勧めにより,平成28年1月,LIGが発行する第5回私募債を5口ずつ申し込み,同社にそれぞれ500万円を振り込んで支払った(以下,これらの私募債を「本件社債」という。)。
(甲17,19~22,98,弁論の全趣旨)
(5)  MTキャピタルは平成28年2月26日,LIGは同年3月23日,破産手続開始決定を受けた(MTキャピタルについて争いなし,LIGについて甲44)。
(6)  本件の訴状が送達された日は,被告会社及び被告Y1につき平成28年4月24日,被告Y2及び被告Y7につき同月20日,被告Y3につき同月23日,被告Y4につき同月21日,被告Y6につき同月27日,被告Y5につき同年6月21日である(当裁判所に顕著)。
3  争点及び当該争点に関する当事者の主張
本件における主たる争点は,(1)原告らに対する勧誘の違法性,(2)被告らの責任原因及び(3)損害額はいくらかであり,これらの争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。
(1)  争点(1)原告らに対する勧誘の違法性
(原告らの主張)
ア 不適正な金融商品
(ア) 本件ファンドへの出資金を原資として行われていた回胴式遊技機の賃貸事業は,顧客に説明していた内容で収益を上げることはおよそ不可能であり,出資者との約定利率である年利16%を上回る利益を得ることができない構造となっていた。また,LIGにおける,平成27年8月当時の本件ファンドの配当原資となる回胴式遊技機の月間賃貸台数は50台を下回る程度でしかなく,実際の賃貸状況に鑑みても,年利16%もの高利率の分配金を維持することは不可能であった。
(イ) 本件ファンドの事業者であるLIGは,原告X1が本件ファンドを最初に購入した平成27年8月の時点で,債務不履行状態であったし,LIGの実質的経営者であるA(以下「A」という。)が,同社の預金から8億円を超える資金を流用していたことも発覚し,原告らが本件社債を購入した平成27年12月の時点で,LIGの財務状況は危機的な状況にあった。
(ウ) 以上より,本件ファンド及び本件社債は,原告らに対して販売する時点において,分配金の支払や出資金の償還が著しく困難になっていたから,金融商品として不適正なものであった。
それにもかかわらず,これを秘して,高収益の商品である旨述べて行った勧誘は違法である。
イ 適合性原則違反
原告X1は,本件ファンドへの投資の前に一度投資信託を購入した経験があるものの,その他に投資の経験はなく,安定した投資意向を有していた。さらに,原告X1は,いわゆる資産家ではなく,本件ファンド及び本件社債に出捐した金員は,いずれも流動資産の多くを占めており,ハイリスクを許容して投資運用するような投資意向は全く有していなかった。
また,原告X2らは,本件社債購入まで投資経験が全くなく,原告X1と同様に安定した投資意向を有しており,ハイリスクを許容して投資運用するような投資意向は全く有していなかった。
にもかかわらず,被告らは,原告らに対し,極めてリスクの高い本件ファンド及び本件社債の購入を勧誘した。
ウ 説明義務違反
本件ファンドの事業者であるLIGは,平成27年8月ころから資金繰りが悪化し,債務不履行状態であった。
本件ファンドの事業者や社債の発行体の信用リスクは,本件ファンド及び本件社債を購入するにあたり,顧客の投資判断にあたり極めて重要な影響を及ぼすものである。
被告会社の従業員は,平成27年8月の時点で既にLIGが債務不履行状態であるという不利益な事実について,本件ファンド及び本件社債の購入時に,これを知りながら原告X1に告げず,各商品の危険性について説明義務を怠った。
(被告会社及び被告Y1の主張)
被告会社及び被告Y1は,原告X1に対し,本件ファンドのリスクを説明しており,原告X1は,同リスクを許容した上で本件ファンドを購入した。
また,被告会社及び被告Y1は,原告らに対して本件社債の購入を勧誘していない。
(被告Y2ら及び被告Y5の主張)
ア 原告X1の本件ファンド購入時及び原告らの本件社債購入時,LIGが債務不履行状態であったとの評価はいずれも争う。
イ 原告X1は,最初のファンド購入に続けてファンドをさらに購入するなど,積極的な投資意向を有していたから,本件ファンドが原告X1に対して適合しなかったという事実はない。
ウ 被告会社の従業員は,本件社債の購入を原告らに対して勧誘していない。LIGが縁故債を募集し,そのセミナーが開催されることを紹介しただけである。そもそも,私募債は,第二種金融商品取引業者が販売,勧誘する商品ではない。
(被告Y7及び被告Y6の主張)
ア 原告X1の本件ファンド購入時及び原告らの本件社債購入時,LIGが債務不履行状態であったとの主張はいずれも否認する。
イ 被告Y7は,本件社債を原告X1に紹介した際,虚偽の説明はしておらず,そのリスクを説明している。本件社債は,見込みがあると判断した回胴式遊技機の機種開発のための事業資金のために発行したものであり,その旨の説明を十分に尽くしている。
(2)  争点(2)被告らの責任原因
(原告らの主張)
ア 被告らは,前記(1)(原告らの主張)アのとおり,本件ファンド及び本件社債が,およそ金融商品として不適正なものであることを認識していた。
また,被告らがこれらの事実を認識していなかったとしても,被告らはこれらの事実を容易に知ることができたから,知らなかったことについては重大な過失があり,被告らは,これらを原告らに対して勧誘したことについて,不法行為責任を負う。
イ 被告会社,被告Y1及び被告Y5は,本件ファンド及び本件社債を原告らに対して購入するよう勧誘する際に,前記(1)(原告らの主張)イ,ウのとおり,適合性原則に違反すると共に説明義務を怠って,原告らに対して,それぞれ本件ファンド及び本件社債を購入させたことについて,不法行為責任を負う。
ウ 被告Y1は,被告会社の代表取締役として,その業務が適法に行われるように業務執行を行うべきであるにもかかわらず,悪意又は重過失によりその義務を怠り,被告会社による違法な投資勧誘を行わせたから,原告らに対し,会社法429条1項に基づいて,損害を賠償する責任を負う。
エ 被告Y2らは,被告会社の取締役として,被告Y1の業務執行を監視監督して,違法な業務執行をさせないようにする義務があったにもかかわらずこれを怠り,被告会社による違法な投資勧誘を行わせたから,原告らに対し,会社法429条1項に基づいて,損害を賠償する責任を負う。
オ 被告Y6は,MTキャピタルの代表社員として,MTキャピタルが被告会社に対して金融商品として不適正な本件ファンドの勧誘を継続させてはならないという義務及び被告会社が本件ファンドの取得の勧誘を行う際には被告会社が顧客に対して本件ファンドが不適正な金融商品であることを説明させる義務に反しないようその業務を執行すべき義務を負っていたにもかかわらず,悪意又は重過失によりその義務を怠り,被告会社による違法な投資勧誘を行わせ,出資金を受け入れ続けたから,原告らに対し,民法709条又は会社法597条に基づいて,損害を賠償する責任を負う。
カ 被告Y7は,LIGが債務不履行状態にあるにもかかわらずこれを放置して違法な本件ファンド及び本件社債の投資勧誘を行わせ又はLIGの代表取締役として,その業務が適法に行われるように業務執行を行うべきであるにもかかわらず,悪意又は重過失によりその義務を怠り,被告会社により違法な投資勧誘を行わせたから,原告らに対し,民法709条又は会社法429条1項に基づいて,損害を賠償する責任を負う。
(被告会社及び被告Y1の主張)
争う。
(被告Y2ら及び被告Y5の主張)
ア SAPファンドにおいて,LIGからMTキャピタルに振り込まれるべき賃料は,少なくとも平成27年8月末時点で不足分が生じているなどの事実はなく,被告Y2ら及び被告Y5は本件ファンドについて配当や償還が著しく困難な状況にあったとは知らなかったし,これを知ることはできなかった。
イ したがって,被告Y2ら及び被告Y5は,原告らに対する損害賠償責任を負わない。
(被告Y7及び被告Y6の主張)
ア 被告Y7は,本件ファンドの募集及び運用について関与しておらず,同ファンドに関する銀行預金口座は被告会社ないし被告Y1が管理していたから,被告Y7は本件ファンドの配当や償還が著しく困難な状況にあったとは知らなかったし,これを知ることはできなかった。
イ 被告Y6は,本件ファンドの募集及び運用について関与しておらず,MTキャピタルの前任の代表社員である公認会計士資格を有するB氏(以下「B会計士」という。)及び被告Y1から,SAPファンドの状況の報告を受けた上で自ら帳簿等の確認をした。しかし,帳簿を確認しても不明瞭な資金の流れは存在しなかったから,被告Y6は本件ファンドが配当や償還が著しく困難な状況にあったとは知らなかったし,これを知ることはできなかった。
ウ したがって,被告Y7及び被告Y6は,原告らに対する損害賠償責任を負わない。
(3)  争点(3)損害額はいくらか
(原告らの主張)
ア 上記の被告らの行為により,原告X1は,本件ファンドを800万円分,本件社債を600万円分,原告X2は,本件社債を500万円分,原告X3は,本件社債を500万円分,原告X4は,本件社債を500万円分購入した。また,原告X1は,被告会社から本件ファンドの配当金名目で19万0992円を,MTキャピタルの破産手続において72万1247円の配当金を受領したが,その余の部分については,いずれも償還されなかった。
イ したがって,原告X1は,本件ファンドと本件社債の合計額から上記既払金を除いた1308万7761円について,原告X2らは各500万円について,それぞれ損害が生じている。
ウ 原告らは,本件訴訟の追行のため,弁護士に依頼せざるを得なかったから,そのための弁護士費用は被告らの上記不法行為又は任務懈怠行為と相当因果関係を有する損害であり,その額は,上記イ記載の額の各1割である,原告X1について130万8776円,原告X2らについて各50万円をそれぞれ下らない。
エ 上記イ及びウの合計額は,原告X1につき1439万6537円であり,原告X2らにつき各550万円である。
被告らの上記債務は,遅くとも請求の日の翌日である本件訴状送達の日の翌日から遅滞に陥るから,上記請求の趣旨記載のとおりの支払を求める。
(被告会社及び被告Y1の主張)
原告らは,本件ファンド及び本件社債のリスクを認識した上でこれらを購入した。
(被告Y2ら及び被告Y5の主張)
否認又は争う。
原告X1に生じた損害は,LIG及びMTキャピタルの信用リスクが顕在化したために生じたものであって,原告X1においてはその予見が可能であったと言えるから,その損害の5割は過失相殺されるべきである。
(被告Y6及び被告Y7の主張)
不知又は争う。
第3  争点に対する判断
1  前記前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  原告らについて
原告X1は,本件ファンドに最初に出資した当時41歳であり,a株式会社の課長職にあった。原告X1は,約10年間に及ぶ投資信託の経験があり,原告X2との婚姻を控えて新居を建築中で,1500万円程度の資産を保有していた。
原告X2は,昭和57年生まれの主婦であり,原告X1の妻である。原告X2の保有資産は,預貯金600万円程度であった。原告X3は,昭和22年生まれの飲食自営業者であり,原告X2の母である。原告X3の保有資産は,預貯金2000万円程度であった。原告X4は,昭和55年生まれの会社員であり,原告X2の兄である。原告X4の保有資産は,預貯金600万円程度であった。原告X2らはいずれも,本件社債を購入するまで,投資の経験がなかった。
(甲98,乙1,弁論の全趣旨)
(2)  原告X1による本件ファンドへの出資に至る経緯
ア 原告X1は,平成27年7月頃,インターネットでSAPファンドの広告を見て,利率の高さからSAPファンドに興味を抱き,同年8月6日,被告会社が主催するSAPファンドの説明会に参加した。
被告Y1は,上記説明会において,「SAP24毎月分配型ファンド」と題するパンフレット(甲1),「SAP24毎月分配型ファンド19号資金使途及び試算表」と題する書面(甲2)及び「ファンド事業・分配状況」と題する書面(甲3)を原告X1に交付した。
上記パンフレットには,「SAP24毎月分配型ファンドの4つのポイント」として,「想定利回り 年率16%(税引き前)」「分配金は毎月お受取り」「運用期間は24か月」「出資は50万円から」と記載され,「SAP24毎月分配型ファンドの仕組み」として,①お客(投資家)様とMTキャピタルの間のファンド契約を取扱者である被告会社が媒介する,②お客様が営業者であるMTキャピタルに匿名組合出資金を払い込む,③MTキャピタルが遊技機を購入し,事業者であるLIGに賃貸する,④LIGが賃貸した遊技機を各遊技場へレンタルする,⑤遊技場がLIGに賃貸した遊技機のレンタル料を支払う,⑥LIGが支払われたレンタル料からLIGの管理料等を差し引きMTキャピタルに賃料を支払う,⑦MTキャピタルがお客様に分配金(2年間合計24回)を支払う,⑧MTキャピタルがお客様に最終分配日に出資金の償還として償還金を支払うという流れが図示され,被告会社はお客様に対してファンドの募集・勧誘を行うこと,MTキャピタルの事業履行内容を確認することなどが記載されている。上記パンフレットには,1頁にわたり「リスクについて」と題して10項目のリスクが記載され,「匿名組合出資金の元本が割れるリスク」として,匿名組合契約に基づく利益の分配又は匿名組合出資金の償還は,専ら営業者と協力して行う事業者の当該事業による収益を原資とするため,当該事業成果によっては利益の分配が行われない可能性があり,匿名組合契約終了までの分配金及び匿名組合契約終了時の償還金の累計額は出資金(元本)と比較して減少する可能性があること,「営業者の信用リスク」や「事業者の信用リスク」として,営業者や事業者が支払不能に陥り,又は破産手続等の申立てがされた場合等には,匿名組合利益の分配・償還は勿論,本匿名組合事業ができなくなる可能性があることなどが記載されている。
また,「ファンド事業・分配状況」と題する書面には,「現在,分配開始となっているお客様の分配金は,当初の計画通り分配しております。」「上記はあくまで実績であり,今後の分配金等支払の保証をするものではございません。」と記載されている。
被告Y1は,上記説明会において,上記パンフレットを,リスクについて記載された部分も含めて読み上げて説明し,通常であれば新しい事業を行う会社は5年ももたないけれども,被告会社は5年以上もったからいい会社ですと述べていた。
原告X1は,上記説明会の後,被告会社が第二種金融商品取引業者として登録を受けていることを確認したが,それ以外にSAPファンドについての調査を行うことはなかった。
(甲1~3,98,原告X1本人)
イ 原告X1は,平成27年8月18日,SAPファンドについて再度詳しく説明を聞きたいと考え,被告Y5と面談した。
被告Y5は,原告X1に対して,SAPファンドは,毎月,年利16%相当の分配金が得られること,2年できちんと償還されること,被告Y5は以前証券会社に勤めていたこと,自分や自分の家族もSAPファンドに出資しているが,毎月分配金が振り込まれていると述べて,自らの預金通帳を原告X1に見せて,出資を勧誘した。
原告X1は,同日,「SAP24毎月分配型ファンド19号」に出資することを決め,被告会社の媒介で営業者であるMTキャピタルとの間で匿名組合契約を締結して10口,500万円を出資し,同額を上記ファンド口座に振り込んだ。
原告X1は,その際,「取引開始の調査票」と題する書面(乙1。以下「本件調査票」という。)に,原告X1の投資経験年数につき10年,原告X1の保有資産につき1000万円以上2000万円未満と記載して,被告会社に提出した。また,原告X1は,「私は,貴社から別紙『匿名組合契約説明書(「SAP24毎月分配型ファンド」シリーズ)』を受領し熟読しました。又,同書面の重要事項等の説明を受け,その商品性,取引の仕組み,投資リスク等について確認し十分に理解しました。取引については,私自身の判断と責任において行うことを確認します。」などと記載された「取引に関する確認書」と題する書面(乙9)に署名押印し,「商品内容等のチェック表」と題する書面(乙10の2)の10のリスクについて,「営業者の信用リスク」,「事業者の信用リスク」,「取扱者の信用リスク」等のいずれについても「①理解した」の箇所に丸を付け,「出資した金銭の実際の使途や収支の状況等について,事業報告書等に基づいて匿名組合員自身で判断する必要があります。」についても「①理解した」の箇所に,「本件投資が,お客様ご自身の投資に関する知識,経験,目的,意向等に照らし適しているかどうかを慎重にご検討して頂けましたか。」についても「①検討した」の箇所に,「当商品の匿名組合契約及びファンド事業の特性(出資対象事業の収益性について保証等がされている訳ではないこと等)を十分理解した上で投資を行う必要があります。」についても「①理解した」の箇所に,それぞれ自ら丸を付けた上で,末尾に署名押印した。
(甲5,98,乙1,6の1~3,9,10の2,16,原告X1本人,被告Y5本人)
ウ 原告X1は,その後も,前記前提事実(3)のとおり,同年9月28日,同年10月28日及び同年11月25日に,本件ファンドに合計800万円を出資した。
なお,原告X1が,同年9月4日に被告会社を訪れた際には,同社営業部のマネージャーであった被告Y4が対応し,1000万円投資した場合と1500万円投資した場合の試算表を示しながら,追加の出資を勧め,SAPファンドには全く問題がないと説明した。
(甲98,乙15,原告X1本人)
(3)  原告らによる本件社債の購入に至る経緯
ア 原告X1は,遅くとも平成27年12月8日までに,被告Y5から連絡を受け,LIGが縁故債を募集することになり,そのセミナーへの参加を勧められ,被告会社従業員から,セミナーを案内するメールを受け取った。
原告X1は,同月10日,本件社債のセミナーに参加した。
上記セミナーでは,LIGの代表取締役である被告Y7が,回胴式遊技機である「○○」の開発資金に充てるために本件社債を募集すること,本件社債が年利18.8%であること,本件社債にも社債である以上リスクはあることなどを説明して,本件社債の購入を勧誘した。
上記セミナーには,被告Y1や被告Y5ら被告会社の従業員も参加しており,セミナー終了後,被告Y5は,原告X1に対し,年利18.8%を前提とする本件社債の試算表を示した。
(甲14,15,17,98,乙15,原告X1本人,被告Y1本人兼被告会社代表者(以下「被告Y1本人」という。),被告Y5本人,被告Y7本人)
イ 被告会社の従業員は,平成27年12月11日に,原告X1に対し,セミナーで被告Y7が告知した訂正箇所を修正した後の契約書類をLIGから郵送する旨の連絡に加え,前向きにご検討いただきたい旨を記載したメールを送信した。
さらに,被告会社の従業員は,同月17日,原告X1に対し,郵送した契約書類の到着確認に加え,本件社債が残りわずかであり,購入を前向きにご検討いただきたい旨を記載したメールを送信した。
原告X1は,同月19日,LIGに対して第3回私募債を5口申し込み,LIGに直接契約書を郵送して500万円を支払った。
(甲15~17)
ウ 被告会社の従業員は,平成28年1月5日,原告X1からのSAPファンドの問い合わせに対して,被告会社は現在SAPファンドを取り扱っておらず,LIGの社債を紹介している旨のメールを送信した。
原告X1は,平成28年1月19日,LIGに対して第5回私募債を1口申し込み,LIGに直接契約書を郵送して100万円を支払った。
原告X1は,この頃,原告X2らに対しても,本件社債の購入を勧め,原告X2らは,同月13日から25日までの間に,被告会社を介さず,LIGに対して本件社債をそれぞれ5口ずつ申し込み,LIGに直接契約書を郵送して各500万円を支払った。
(甲18~22,原告X1本人)
エ 被告Y3,被告Y4及び被告Y5は,社債の勧誘は第一種金融商品取引業者でなければ取り扱うことはできないことを知っており,被告Y3は,平成27年12月の全体会議で,従業員に対して,社債の勧誘はできないこと,社債に関しては顧客を紹介するのみであることなどを説明した。
(乙14,被告Y4本人,被告Y5本人)
オ 被告Y7は,平成27年12月頃,被告会社との間で,被告会社が社債購入の候補者をLIGに紹介することを内容とする契約書を作成した。被告Y3が同契約書の原案を作成した際には,LIGが,被告会社に対して,同社が紹介した社債購入者1名当たり10%の手数料を支払うことを定める条項はなかった。被告Y7においても上記手数料を支払う合意をした認識はなく,後になって,被告Y1から,上記手数料を支払うように指示された。
(被告Y3本人,被告Y7本人)
(4)  本件ファンドについて
ア 本件ファンドは,MTキャピタルがファンド営業者となって多数の出資者から匿名組合方式によって資金を集め,集めた出資金を原資として回胴式遊技機を購入し,これをファンド事業者であるLIGに賃貸し,LIGが遊技場に転貸し,それにより得られた賃料収入を原資としてこれを各出資者に配当するというものである。被告会社は,本件ファンドの取扱者であり,ファンドの募集,勧誘,営業者の事業履行内容確認を行うものとされている。
本件ファンドは,出資者が出資の際に振り込んだ出資金に対し,ファンドの期間中,出資額に対して年利16%の割合による金員を毎月分配金として受け取り,ファンドの期間が終了した時に,出資金と同額の償還金を受け取るという構造とされている。
(甲1~3)
イ LIGとMTキャピタルとの間において締結されている業務委託契約には,「乙(LIG)は,事業収益金として,平成26年5月12カ月物での事業開始以前は,12カ月物は1台当り固定レンタル料月額20,000円又24カ月物は1台当り固定レンタル料月額11,000円の購入台数分を甲(MTキャピタル)に支払うものとする。また,平成26年5月24カ月物での事業開始以降は,事業の業務委託費の年利36%の月額を固定レンタル料として甲に支払うものとする。更に,乙は,事業開始時の業務委託費は最終の事業収益を支払うまで及び事業開始1カ月以降の業務委託費は2年後に甲に償還されます。(6条1項)」及び「甲の行っている投資事業ファンドに使用されている遊技機については,当該遊技機の12カ月物又は24カ月物の期限が終了した場合,該当遊技機の所有権は甲から乙に移転すると共に該当投資事業ファンドが終了した場合,乙から甲の指定するファンド専用口座へのレンタル料振込みも終了することとする。(18条)」との定めがある(甲48)。
ウ LIGと遊技場との間の回胴式遊技機の賃貸借契約は,大別して固定方式と粗利を基礎とした変動方式とが存在し,固定方式の場合は税込月額7万2900円であり,変動方式の場合は遊技場の月間粗利額の50%である。なお,全国の回胴式遊技機の1台当たりの1日の粗利益は,3800円である(丙1,2,弁論の全趣旨)。
エ 被告会社が販売していたSAPファンドについて,平成27年7月時点で償還期限が到来したファンドは1本もなかった一方で,各月に支払うべき分配金の支払が遅滞したファンドも1本もなく,その中には,各月の分配金の支払と併せて償還金を分割して支払う構造のファンドも含まれている(甲1,3,被告Y5本人)。
オ MTキャピタルがLIGに回胴式遊技機の発注を行ったことを示す「発注書」及び,LIGがMTキャピタルの発注に応じてこれを納品したことを示す「納品書」は存在する。
しかし,これらの発注書及び納品書に対応する回胴式遊技機は,それぞれの納品書の2頁目以下に記載された納品先とされる遊技場に納品されていない。
上記発注書には「MTキャピタル合同会社」と記載された上で,同社の角印が押捺されており,上記納品書には「株式会社LIG 担当:C」と記載された上で,同社の角印が押捺されている。
MTキャピタルには従業員はおらず,同社の代表社員である被告Y6は,MTキャピタルに角印があることも知らず,MTキャピタルの実印及び銀行印は株式会社WARIKAN(以下「WARIKAN」という。)のCが所持していた。
(甲70~93,乙2~5の各1・2,被告Y6本人)
(5)  LIGの運営状況について
ア 被告Y7は,平成26年6月,被告Y1から回胴式遊技機の開発,レンタル及び販売事業に特化するよう指示されて,LIGの代表取締役に就任した。被告Y7は,LIGの実印も銀行印も所持しておらず,これらはいずれも被告Y1ないし同被告の意を受けたWARIKANのCが所持していた。
LIGには,被告Y7の管理する銀行口座(みずほ銀行神田支店普通預金〈省略〉 株式会社LIG,以下「Y7管理口座」という。),被告Y1の管理する銀行口座(楽天銀行第二営業支店普通預金〈省略〉 株式会社LIGファンド資産分別管理口座,以下「Y1管理口座」という。)及びAが管理する銀行口座があり,被告Y7は,Y7管理口座以外は,閲覧することも管理処分することもできなかった。
MTキャピタルから機械の発注代金としてLIGに振り込まれる金員は,全てY1管理口座に振り込まれ,被告Y7は,Y1管理口座から,Y7管理口座に振り込まれた金員を原資として,回胴式遊技機を購入し,これを遊技場へ賃貸又は販売する業務を行っていた。
被告Y7は,Y7管理口座に振り込まれた金員を,全額回胴式遊技機の購入に充て,購入した回胴式遊技機を賃貸又は販売し,得られた収益はY1管理口座に振り込んでいた。
(甲20,乙12,被告Y7本人,被告Y1本人)
イ 被告Y7が,平成27年7月頃,LIGの決算書類を確認したところ,同社において,同人の把握していない多額の入出金があること及び同社の株主であるAの会社に対して2億3000万円に上る短期貸付金があることに気付いた。
被告Y7は,被告Y1に対し,前記多額の入出金及び短期貸付金について尋ねると,被告Y1から,Aに聞くように言われたため,Aに問い合わせると,Aは被告Y7を「ふざけるな。お前は雇われ社長なんだから,そんなこと考えなくていいんだ。首にするぞ。」などと恫喝し,前記多額の入出金及び短期貸付金についての説明は得られなかった。
被告Y7は,さらに決算書類の検証のため,Aの関係する会計事務所を訪れて,資金が流れたAの会社の内容等を聞こうとしたものの,何も回答は得られなかった。
被告Y7は,被告Y1から今後SAPファンドにかかわらないよう告げられたため,自らの希望である回胴式遊技機の開発を続け,月40万円の給料を受けるために,これ以降,ファンドの運営には関与しなかった。
被告Y1は,平成27年10月頃からは,LIGに自らの席を用意させ,LIGの業務は,被告Y1及びWARIKANのCが行うようになった。
(被告Y7本人,被告Y1本人)
ウ 被告Y7は,平成27年12月頃,金銭を調達して新たな回胴式遊技機を開発し,これを賃貸又は販売することによって収益を上げることを企図し,本件社債の募集を行うことを決めた。
本件社債の振込先口座は,Y7管理口座であり,被告Y7は,本件社債について,回胴式遊技機の賃料収入によって,償還期限である1年後に問題なく償還できると考えていた。
(被告Y7本人)
エ 被告Y1は,平成28年1月以降,被告Y7に対し,被告Y7が社債の販売により振り込みを受けた金員につき,自らに交付しないと,LIGも被告会社も,全部が立ちいかなくなるなどと述べ,これを交付するよう求めた。
被告Y7は,被告Y1の指示に抗えず,1億円近い金員を,Y1管理口座に振り込んで貸し付けた。
(被告Y7本人)
(6)  MTキャピタル代理人弁護士は,平成28年2月15日,「ご連絡」と題する書面を原告X1を含む債権者に宛てて送付し,MTキャピタルの事業継続が困難である旨を通知した。
MTキャピタル代理人弁護士は,同年2月22日,「お詫びとご説明」と題する書面を原告X1を含む債権者に宛てて送付した。同書面には,「LIGは,平成27年8月末頃から,資金繰りが急速に悪化し,当社に対する賃料の支払が滞るようになりました」と記載されているほか,AについてLIGの「実質的経営者」であり,「A氏において管理していたLIGの預金の多くが使途不明となっていること」「8億円を超えるLIGの資金についてA氏による横領が疑われること」について記載されている。
MTキャピタルは,平成28年2月26日,破産手続開始決定を受けた。
(甲4,24,弁論の全趣旨)
(7)  証券取引等監視委員会は,平成28年4月1日,被告会社に対する検査の結果,複数の法令違反行為が認められたとして,行政処分を求める勧告を行い,関東財務局は,平成28年4月8日,被告会社に対して,第二種金融商品取引業者の登録を取消すと共に,業務改善命令を発した(以下「本件処分等」という。)。本件処分等の根拠となった法令違反行為は,①遅くとも平成27年9月以降,被告Y1の指示により,MTキャピタル又はLIGの管理するSAPファンドの資金管理口座から出金された金銭がLIGの経費,被告Y1が代表取締役を務めるWARIKANへの送金等に充てられているにもかかわらず,SAPファンドの私募の取り扱いを継続していたこと,②SAPファンドに係る匿名組合事業ではLIGから遊技場に回胴式遊技機が賃貸されることが事業内容の前提となっていたにもかかわらず,LIGから遊技場に回胴式遊技機が販売されている場合もあり,このように事業の実態について事実と異なる内容を告げて匿名組合契約に基づく権利の私募の取り扱いを行っていたこと,及び③第一種金融商品取引業の登録を受けていないにも関わらず,LIGが発行する社債について,期間や利率など具体的な商品内容を資料を用いて説明したり,電子メールで伝えることによって勧誘を行い,販売代金の10%を紹介料名目で受領するなど,無登録で社債の募集の取り扱いを行っていたことである(甲25)。
2  争点(1)(原告らに対する勧誘の違法性)について
(1)  本件ファンドが不適正な金融商品であると認められるか
ア 原告らは,そもそも,募集の時に説明していた事業の内容で収益を上げることは不可能であり,SAPファンドは構造的に破綻していると主張するから,この点について検討する。
(ア) 前記認定事実のとおり,MTキャピタルは上記匿名組合事業を通じて出資者に対して年利16%を支払うものとされているところ,LIGはMTキャピタルに対して年利36%を支払うことが約定されている。
そして,ファンドの償還期限には,当初の業務委託費についても,LIGからMTキャピタルに対して償還される旨が約定されている。
そうすると,MTキャピタルはLIGからの賃料収入から出資者に対して分配金を支払い,ファンド償還期限時にはLIGからの償還金から出資者に対して償還金を支払うことが一応可能な構造となっていることが認められる。
(イ) そして,前記認定事実によれば,LIGと遊技場との間の回胴式遊技機の賃貸借契約における賃料収入は,固定方式の場合は税込月額7万2900円であり,変動方式の場合は遊技場の月間粗利額の50%であるから,変動はあるものの,遊技場の月間粗利額の平均値に従うとすれば,月額11万4000円となる。
また,回胴式遊技機の平均賃貸期間が6ないし9カ月であったとしても,LIGは,改めて賃貸期間を経過した回胴式遊技機を,機器更新のために多少の費用投下が必要になる場合があるにしても,別の遊技場にさらに賃貸して賃料収入を得ることができる。
(ウ) そうすると,LIGの賃料収入は,遊技場との賃貸借契約の成約数によって変動するとはいえ,正常な取引状況下においてさえSAPファンドは構造的に破綻しているとの原告らの主張には理由がない。
イ 前記認定事実並びに証拠(甲26,27,51,乙12,被告Y7本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y1は,遅くとも平成27年7月頃以降は,SAPファンドの出資金につき,これを一旦,自らの管理するLIGの口座(Y1管理口座)に振り込ませて,本来その全額を回胴式遊技機の購入原資としなければならないところ,そのうち一部のみをY7管理口座に振り込ませ,その範囲で被告Y7が回胴式遊技機を購入し,これを賃貸事業に供していた事実が認められる。他方,被告Y1がY7管理口座に振り込まなかった金員によって,SAPファンドに係る回胴式遊技機の購入,賃貸は行われておらず,LIGが事業を開始した平成26年7月から平成27年8月までにMTキャピタルからLIGに回胴式遊技機の購入名目で3億9600万円が支払われているにもかかわらず,同月の遊技場への月間賃貸台数は50台以下であり,いわゆる空リースであった事実が認められる。
そうすると,被告Y1は,本来回胴式遊技機購入に充てなければならない金員につき,あえてその一部を目的外に流用しており,被告Y7に振り込まれた金員のみによっては,到底本件ファンドにおいて約定された年利16%もの高利を得ることはできなかったから,分配金の支払や出資金の償還が著しく困難になっており,表面上分配金の支払が継続していたとしても,その実質においていわゆる蛸足配当状態であったと評価せざるを得ない。
ウ したがって,SAPファンドは,遅くとも平成27年7月頃以降は,不適正な金融商品であったというべきであり,本件ファンドが不適正な商品であることを秘して,高収益の商品であると述べて出資を勧誘した行為は,違法な勧誘であって,原告X1に対する不法行為を構成する。
(2)  本件社債が不適正な金融商品であると認められるか
ア 前記認定事実並びに証拠(甲17,19~21,被告Y7本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y7は,平成27年12月頃,LIGが回胴式遊技機の新機種を開発するために小規模私募債を発行することを決めたこと,本件社債は,年利が18.8%,募集総額は各回4900万円,償還期限として定められている平成29年1月31日までの間,中途解約や縁故者以外への譲渡は原則として禁止されていること,本件社債の購入者が払い込んだ金員は,Y7管理口座に振り込まれて,回胴式遊技機の新機種の開発費用に使用されることになっていたことが認められる。
イ もっとも,社債の利息,償還金支払の確実性は,事業計画のみならず,社債発行会社の財務内容や経営状態に左右されるものであるところ,前記認定事実によれば,MTキャピタル代理人弁護士は,「お詫びとご報告」と題する書面(甲4)において,平成27年8月末ころからLIGの資金繰りが悪化したと記載していること,遅くとも同年7月頃には,LIGからAの会社に2億3000万円の資金が流出していたことが認められ,被告Y1自身も,その本人尋問において,同年9月末にはLIGの資金繰りが悪化したことを認めており,10月中旬にはAが管理していたLIGの資金8億円が使途不明になっていることが判明し,その回収に努めたが,回収の目処は立っていなかったと述べている。
確かに,会社の資金繰りが一時的に悪化したとしても,その後の営業努力等によって,改善する場合もあるであろうが,Aが資金流用した8億円については,その金額もLIGの会社規模からすると巨額であって,回収の目処も立っていない以上,本件社債の発行を決めた平成27年12月頃には,LIGの財務内容は,客観的にはいつ債務不履行になっても不思議のない状態に陥っていたというべきである。
この点,被告Y7としては,本件社債は,あくまでも見込みがあると判断した回胴式遊技機の新機種を開発するために発行したものであり,被告Y1も新機種が当たれば大きな利益につながると考えて社債の発行を決めたと述べているが,結局,発行後まもなく,被告Y1の指示により,他の資金需要のために,本件社債の払込金を回さざるを得なかったことが,すでにLIGが本件社債を正常に発行できる財政状況になかったことの証左である。
ウ 以上によれば,LIGの財務内容が破綻の危機に瀕しており,利息や償還金の支払が不能になる可能性が高いにもかかわらず,その状況下で新たに発行された本件社債は,不適正な金融商品であったといわざるを得ない。
したがって,本件社債が不適正な金融商品であることを秘して,高利を約して原告X1に本件社債の購入を勧誘した行為は,違法な勧誘であって,原告X1に対する不法行為を構成する。
(3)  もっとも,本件社債に関しては,そもそも被告ら(被告Y6及び被告Y7を除く)が勧誘行為を行ったか否かについて争いがあるので,この点について検討する。
ア 原告X1について
(ア) 前記認定事実によれば,第二種金融商品取引業者である被告会社は,本件社債の勧誘を行う資格がないこと,本件社債に関しては顧客を紹介することしかできないことについては,被告会社内では被告Y3が同社の従業員に対して全体会議の場で説明していたことが認められる。
一方で,被告会社が,平成28年4月に第二種金融商品取引業者の登録を取り消され,業務改善命令を受けた理由の1つに,無登録で本件社債について勧誘を行ったことが挙げられている。
(イ) そこで検討するに,前記認定事実並びに証拠(甲15,16,18,被告Y5本人,被告Y7本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y5は,原告X1に対し,LIGが縁故債を募集することになったことを伝えて,セミナーへの参加を勧め,被告会社の従業員が,平成27年12月8日,原告X1に対し,本件社債のセミナーについての案内をメール送信したこと,そのセミナーには被告Y1のほか,被告会社の従業員も参加しており被告Y7による本件社債の説明が行われたが,被告Y5は,セミナー終了後,原告X1に対して本件社債に関する試算表を示して説明したこと,被告会社の従業員は,平成27年12月11日,17日及び平成28年1月5日に,原告X1に対し,本件社債について「是非,前向きにご検討いただければと思いますので,何卒,よろしくお願いいたします。」(甲15),「ご紹介いたしましたLIG社の第3回私募債ですが残りわずかとなっておりますので,ご購入をご検討の場合は一度ご連絡ください。是非,前向きにご検討の程よろしくお願いいたします。」(甲16),「今月も前回ご契約いただきましたSAP24ファンドの事業者であるLIG社が,私募債を発行しておりますので,そちらをご紹介させていただいております。商品内容としましては前回同様の,運用期間:1年間 年率:18.8%(税込) 1口の金額:100万円」(甲18)などと記載されたメールを送信していること,LIGは,被告Y1に言われて,被告会社に対し,社債購入者1名当たり10%の手数料を支払ったこと,原告X1は,上記平成12月17日のメールを受信した2日後に,本件社債を初めて申し込んだこと,以上の事実が認められる。
(ウ) 金融商品取引における勧誘とは,投資者に対し,特定の金融商品の存在を示して関心を持たせ,その金融商品に対する投資意欲が湧くように働きかけをすることをいうものと解され,「ご紹介」という言葉を用いながらも,被告Y5が試算表を示して本件社債の説明をしたり,本件社債の具体的な商品内容をメールで伝えたり,残りわずかとなっているなどと購入意欲を煽るような働きかけをしており,これらの被告会社の行為は,実質的にみて勧誘行為と評価するのが相当である。
したがって,被告ら(被告Y6及び被告Y7を除く)が原告X1に対して本件社債の購入を勧誘していないという被告らの主張は理由がない。
イ 原告X2らについて
一方,被告Y1及び被告会社の従業員が,原告X2らとの間で,本件社債について何らかのやり取りをしたことを認めるに足りる証拠はなく,前記認定事実によれば,原告X2らは,原告X1に勧められるままに本件社債の購入を決意し,被告会社を介さずに直接LIGに本件社債の購入を申し込み,LIGに契約書を郵送すると共に,同社に購入代金を振り込んだことが認められる。
結局,原告X2らが本件社債の購入を決意するまでの間に,被告Y1及び被告会社の従業員が,原告X2らに対して,本件社債の購入を直接勧誘したこともないし,原告X1に対して原告X2らへ情報提供したり,購入を勧めたりすることを依頼した事実を認めることはできない。
よって,被告Y1及び被告会社の従業員が,原告X2らに対して本件社債の購入を勧誘したことを前提として,その違法性をいう原告らの主張は,失当である。
(4)  適合性原則違反
ア 金融商品取引業者は,金融商品の取引等について,顧客の知識,経験,財産の状況及び契約締結の目的に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならないところ(金融商品取引法40条),金融商品取引業者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上違法となると解するのが相当である。そして,上記のような顧客の適合性を判断するに当たっては,取引の対象となった商品の具体的な特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,金融商品取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるというべきである(最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1323頁参照)。
イ 本件ファンドについて
(ア) 本件ファンドは,前記認定事実のとおり,MTキャピタルがファンド営業者となって多数の出資者から匿名組合方式によって資金を集め,集めた出資金を原資として回胴式遊技機を購入し,これをファンド事業者であるLIGに賃貸し,LIGが遊技場に転貸し,それにより得られた賃料収入を原資としてこれを各出資者に配当するというものである。
そうすると,本件ファンドの収益は,LIGが取り扱う回胴式遊技機について,遊技場との間で賃貸借契約が締結できるか否かにかかっており,賃貸借契約の成否については,当該回胴式遊技機の人気等にも左右されるところ,賃貸借契約の締結に失敗すれば,利息部分はもとより,元本も回胴式遊技機の購入により失われる可能性もあるのであって,出資者への説明通りに事業を遂行していた場合であっても,相応のリスクが内在する商品といえる。
(イ) 一方,原告X1は,年利16%という利率の高さに着目し,自ら説明会に赴いて,本件ファンドの購入の検討を開始した。
また,証拠(乙1,原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,本件ファンド購入の際,投資目的につき住宅資金,投資資金として余裕資金,自らの年収額につき500万円以上1000万円未満,純資産額について1000万円以上2000万円未満と本件調査票に記載して被告会社に回答している。
そして,本件ファンドについての説明を受けた上で,その構造やリスクについて理解したことから,「商品内容等のチェック表」に,商品内容を理解した旨を示す丸を記載し,「取引に関する確認書」に,署名押印をしたものと認められる。
更に,証拠(原告X1本人)によれば,原告X1は,本件ファンド購入以前に長年にわたる投資信託の経験があること,本件ファンドの購入原資は当時投資信託に充てていた金銭であったこと,本件ファンドについては高利率であることから相応の危険性があること自体は認識していたこと,投資信託に充てていた金銭について自宅不動産の購入の頭金として利用するか本件ファンドに投資するか検討した結果,本件ファンドに投資することを選択したこと及び自宅不動産の購入については頭金の支払こそしなかったものの建築を終えて現在居住中であること,以上の事実が認められる。
その上,前記認定事実によれば,原告X1は,平成27年8月に本件ファンドを初めて購入して以来,毎月本件ファンドを購入しているものであって,積極的に利益を得ようとする投資意向を有していたと認めることができる。
以上の事実を総合すると,原告X1は,本件ファンドには一定のリスクが内在することを認識しつつ,年利16%という高利率の本件ファンドを購入して積極的に収益を得ることを求めて本件ファンドの購入を決定したものと認められるし,それが原告X1の資産状況等の投資適性に照らして明らかに過大な危険を伴う取引であるとは認められない。
なお,原告X1は,本件ファンド購入にあっては,安定した取引意向を有していた旨を主張するものの,一般的に安定性の高い国債や信用格付けが高い社債等に比してはるかに高利率(ハイリターン)の本件ファンドの購入を,大手の証券会社ではない比較的小規模な被告会社において積極的に行っているということからすると,原告X1の上記主張には理由がない。
ウ 本件社債について
(ア) 本件社債は,前記(2)アのとおり,基本的構造としては一般的な小規模私募債であり,年利が18.8%と極めて高く,中途解約や譲渡は禁止されているものの,償還期限は購入から約1年後であり,長期の拘束を受けるものではなく,投資経験の乏しい者について特別の注意が必要となるような,複雑な構造を備えているような金融商品ではない。
一方,社債である以上,LIGの経営状況の如何によっては,償還不能等のリスクが生ずる可能性があることは当然であり,この点について,本件社債のセミナーにおいて,被告Y7が一般的な社債に内在するリスクとして説明したことは前記認定の通りである。
(イ) そうすると,原告X1の投資適性については前記認定の通りであり,原告X1は本件社債の説明を聞き,本件社債に一定のリスクが内在することを認識しつつ,年利18.8%という高利率の本件社債を購入して積極的に収益を得ることを求めて本件社債の購入を決定したものと認められるし,それが原告X1の資産状況等の投資適性に照らして明らかに過大な危険を伴う取引であるとは認められない。
(5)  説明義務違反
ア 金融商品取引業者は,顧客に対して取引を勧誘するに当たっては,顧客の自己責任による取引を可能とするため,取引の内容や顧客の投資取引に関する知識,経験,資力等に応じて,顧客において当該取引に伴う危険性を具体的に理解できるように必要な情報を提供して説明する信義則上の義務を負うというべきである。そして,金融商品取引業者が上記のような義務に違反して顧客に対する勧誘行為を行った場合には,当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。
イ 本件ファンドについて
前記認定事実によれば,被告Y1は,説明会等において,本件ファンドに一般的に内在するリスク,すなわち,本件ファンドのパンフレットに記載されている各リスクについては,原告X1に対しても一通りの説明をした事実が認められる。
しかしながら,被告Y1がパンフレットに基づいて説明した本件ファンドの仕組みは,MTキャピタルが営業者として,払い込まれた出資金で遊技機を購入し,これを事業者であるLIGに賃貸し,LIGがこれを各遊技場に賃貸し,レンタル料の支払を受け,それが分配金の原資となるというものであるところ,前記認定事実によれば,MTキャピタルには従業員がおらず,MTキャピタルとLIGとの間の遊技機の発注と納品という取引の実態はなく,MTキャピタルに払い込まれた出資金はLIGに振り込まれ,LIGにおいて遊技機を仕入れて,各遊技場へ賃貸すると共に,販売もしていたことが認められる。
このように,被告Y1が説明した匿名組合事業の仕組みや事業内容自体が,事業の実態と異なっていたことに加えて,被告Y1が本来遊技機の購入に充てなければならない金員を目的外に流用し,その一部しか匿名組合事業に回しておらず,平成27年8月におけるLIGの遊技場への月間賃貸台数が50台以下であったことからすると,同月時点において,SAPファンドに係る匿名組合事業は実質的には破綻していたものといわざるを得ない。
そうすると,被告Y1が平成27年8月6日に開催されたSAPファンドの説明会において,原告X1に対して,上記事実を秘して本件ファンドへの出資を勧誘した行為は,金融商品取引業者が負っている説明義務にも違反しているというべきである。
ウ 本件社債について
被告Y1及び被告会社従業員が原告X1に対して本件社債の購入を勧誘したことは前述のとおりであり,被告会社が本件社債を勧誘する資格がなかったとしても,現実に原告X1に対して勧誘を行う以上は,前述の説明義務を免れるものではない。
前記認定事実によれば,本件社債の商品内容については,セミナーにおいて,LIGの代表者である被告Y7自身が説明を行ったのであり,その中で,被告Y7が社債一般に内在するリスクがあることについては説明したものの,被告Y5は原告X1に対し年利18.8%を前提とする試算表を示して,高収益な商品であることを説明しただけで,その時点において,破綻の危機に瀕していたLIGの財務内容等について,具体的な説明がされていた事実を認めることはできない。本件社債は,LIGの経営状況によって償還不能等のリスクが生ずるものであるから,LIGの財務内容等は,原告X1の投資判断において,極めて重要な情報であった。
したがって,被告Y1及び被告会社従業員が,このような重要な情報を提供せずに,原告X1に対して本件社債の購入を勧誘した行為は,説明義務に違反するものというべきである。
3  争点(2)(被告らの責任原因)について
(1)  被告Y1の責任
前記認定のとおり,被告会社の代表取締役である被告Y1は,本来回胴式遊技機購入に充てなければならないSAPファンドの出資金についてその一部を目的外に流用し,いわゆる空リースの状態となっており,遅くとも平成27年7月頃には,SAPファンドに係る匿名組合事業は実質的に破綻していたにもかかわらず,本件ファンドが不適正な金融商品であることを認識しながら,その事実を秘して本件ファンドへの出資を勧誘し,原告X1に対して本件ファンドに出資させたものと認められる。
また,被告Y1は,本件社債について,LIGの財務内容が破綻の危機に瀕しており,元本の償還も不能になる可能性が高いことを認識しながら,その事実を秘して,不適正な金融商品である本件社債の購入を勧誘し,原告X1に本件社債を購入させたものと認められる。なお,被告Y1及び被告会社従業員が,原告X2らに対して,本件社債の購入を勧誘した事実が認められないのは前述のとおりである。
よって,被告Y1は,原告X1に対し,本件ファンド及び本件社債について違法な勧誘行為を行って,同人に与えた損害について,民法709条,719条に基づく不法行為責任を負う。
(2)  被告会社
前記認定によれば,被告Y1による前記(1)の不法行為のうち,原告X1に対するものは,被告Y1が被告会社の代表者としての職務を行うについて行われたものということができるから,被告会社は,被告Y1の前記行為により,会社法350条に基づく損害賠償責任を負う。
(3)  被告Y2ら取締役の責任について
ア 証拠(甲61,乙11の1~5,12,被告Y1本人,被告Y2本人,被告Y3本人,被告Y4本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 被告会社は,従業員の数が被告Y2らを入れても10人に満たない会社であったところ,被告Y2及び被告Y3は,いずれも内部監視責任者の資格を有しており,被告Y2はコンプライアンス業務を,被告Y3は内部監査業務をそれぞれ担当していた。被告Y4は,経営企画部において,広告やウェブを使った集客を担当していた。
被告Y2らは,いずれも被告Y1から名目でよいから取締役になってもらいたいと就任を依頼されて取締役になったものであり,取締役に就任して以降も,役員報酬を受け取ったり,取締役として経営判断に関与したりすることはなく,従業員として業務に従事していた。
(イ) 被告会社では,取締役会はほとんど開かれず,社員全員による全体会議が月に1~2回開かれ,その会議では,被告Y1から収支報告がされ,ファンドの売上げの状況や目標,翌月の募集,各自の業務の状況などについてやり取りがされた。
(ウ) 被告Y3は,内部監査業務として,毎月,MTキャピタルのSAPファンド口座の預金通帳の写しを確認して,業務計画書と齟齬がないかをチェックする留保金の照合作業を行い,MTキャピタルとLIGの間の資金の流れをチェックしていた。また,MTキャピタルが顧客に対して作成,送付するファンドの事業報告書については,被告Y3及び被告Y2において,事業計画通りかどうか数字のチェックを行っていたが,LIGの遊技場への賃貸事業の状況については,特段確認をすることはなかったから,被告会社では,被告Y1以外は,LIGの内情について把握していなかった。
(エ) 被告Y1は,平成27年9月末頃から10月にかけてLIGの資金繰りが悪化したのを受けて,同月29日,MTキャピタルのファンド口座からLIGに資金を流用し,留保金に約2100万円の欠損が生じた。
被告Y3が同年10月分の留保金を照合した際に,このことに気付いたため,被告Y1に事情を尋ねたところ,LIGの被告Y7に聞くように言われたため,被告Y3は被告Y2と共に,平成28年1月初旬に被告Y7を訪ねて説明を求めたところ,同人は,被告Y1の事前の指示に従い,上記欠損金は回胴式遊技機の新規開発資金のために使った,新機種により売却益が出たら流出金の返却をしたいなどと述べた。
(オ) 被告Y1は,平成27年10月中旬に,Aによる8億円に上る資金流用が発覚したことについて,被告会社の従業員らに直接話をしたことはなかったが,この件について,同年12月にはWARIKANの主要代理店に協力を求めたことから,同月には大きな騒ぎになっていた。
(カ) 被告会社の監査役であるB会計士は,平成27年11月半ば頃,被告Y1と打合せを行い,その結果,被告Y1は,同年12月以降のSAPファンドの募集を停止するよう被告会社の従業員らに指示した。
B会計士は,同年11月15日頃,被告Y1に宛てて被告会社の監査役を辞任する旨のメールを送信した。同メールには,辞任の理由として,SAPファンドに関し,回胴式遊技機の設置状況が明らかにならないことや,金融商品取引法違反の行為があったことを示唆する内容が記載されていた。同メールは,被告Y2,被告Y3など被告会社の取締役の一部にも送信された。
(キ) SAPファンドの分配金及び償還金は,平成28年2月分の支払が不能となるまで,遅滞なく事業計画通りに支払われており,被告会社従業員においても,自ら又は身内が出資していることも多く,被告Y2においては3口,1000万円を,被告Y4においては父親等を含め合計500万円を,被告Y5においては母親等を含め約500万円をSAPファンド(19号を含む)に出資していた。
イ 株式会社の取締役は,代表取締役の業務執行全般を監視し,必要があれば取締役会を自ら招集し,あるいは招集することを求め,取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職責を負うものであるところ(最高裁昭和48年5月22日第三小法廷判決・民集27巻5号655頁参照),この職責は,名目的取締役であったとしても,取締役である以上,免れるものではないというべきである。
もっとも,前記認定事実によれば,MTキャピタルのSAPファンドの口座には,LIGから約定通りの収益金が振り込まれており,MTキャピタルとLIGとの間において,MTキャピタルがLIGから回胴式遊技機を購入し,それをLIGに貸し付けているかのような外観を呈する発注書及び納品書も作成されていたこと,平成27年10月分までは,留保金の照合作業においてもMTキャピタルとLIGの間の資金の流れに不自然なところはなかったことからすると,同年8月の時点で,被告Y2らがLIGの遊技場への賃貸事業が実際には空リースの状態であったことを容易に認識し得たとはいい難く,被告Y2らが被告会社において取締役会の開催を求めるなどしても,LIGの内情を明らかにできたとも言い切れない。
しかしながら,平成27年11月半ばに,B会計士と被告Y1が打ち合わせをした結果,12月以降のファンド募集を停止することになったこと,同じ頃,B会計士が辞任するに当たり,被告Y2や被告Y3にも送信したメールには,SAPファンドに関し,回胴式遊技機の設置状況が明らかにならないことや金融商品取引法違反の行為があったことを示唆する内容が記載されていたこと,通常,10月分の留保金の照合は11月の中頃までには行われるにもかかわらず,この時に限って遅れたこと,10月末にファンド口座からLIGへの資金流用,留保金の欠損が発生していたことなど,この頃立て続けにSAPファンドの信用にかかわるような事柄が発生しているのであるから,被告Y2らとしては,直ちに取締役会の開催を求めるなどして,LIGの遊技場への賃貸事業の実施状況に関する説明を求め,確認が取れるまでファンドの出資の受入れを停止するなどの措置を執るべきであったといえる。
それにもかかわらず,そのような措置を執ることなく漫然と同年11月25日に原告X1が本件ファンドに100万円を出資するのを受け入れたことについて,被告Y2らには,その任務懈怠について重過失があるというべきである。
ウ そして,その後には,被告Y1が,本件社債について,LIGの財務内容が破綻の危機に瀕しており,元本の償還も不能になる可能性が高いことを認識しながら,その事実を秘して,本件社債の購入を勧誘し,原告X1に本件社債を購入させたことについて,被告Y2らは,取締役会の開催を求めるなどして,LIGの財務内容に関する説明を求め,確認が取れるまで本件社債の購入勧誘を止めさせるべきであったといえ,そのような措置を執ることなく,漫然と原告X1に本件社債を購入させたのであるから,被告Y2らには,その任務懈怠について重過失があるというべきである。
エ 以上によれば,被告Y2らは,上記の点について,重大な過失により取締役としての任務を懈怠したものであるから,会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
(4)  被告Y5について
証拠(乙6の1~3,被告Y5本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y5は,被告会社における唯一の営業社員であり,普段は外回りをしており,被告会社には週に1回程度出社していたこと,全体会議には出席していたこと,B会計士から監査役を辞任する際のメールは見た記憶がないこと,平成27年8月にもSAPファンド19号に被告Y5の母が100万円を出資していること,以上の事実が認められる。
前記認定事実によれば,被告Y5は,同年8月に原告X1に対して,SAPファンドの分配金及び償還金が支払われていることを説明して,本件ファンドへの出資を勧誘したものであるが,被告Y5は内勤の被告Y2ら取締役に比べても情報量が少ない上,同月には自分の母親も追加出資しているのであり,この時点で,被告Y5において,本件ファンドが空リースを含む不適正な金融商品であると知っていたとは認められない。
したがって,被告Y5の原告X1に対する本件ファンドの勧誘行為に関して,説明義務違反をいう主張は前提を欠くものであって失当であり,また,適合性原則違反がないことは前述のとおりである。
前記認定事実によれば,被告Y5は,平成27年12月8日に行われた本件社債のセミナーの終了後に,被告X1に試算表を示して本件社債について説明したものであるが,その説明はセミナーにおける被告Y7の説明の補完としてされたものである上,この時点で,被告Y5において,LIGの財務内容が破綻の危機に瀕していることを認識していたと認めることはできないから,被告Y5の原告X1に対する本件社債の勧誘行為に関しても,説明義務違反の主張は前提を欠くものであって失当であり,また,適合性原則違反がないことは前述のとおりである。
よって,被告Y5は,原告X1に対する本件ファンド及び本件社債の勧誘について,不法行為責任を負わないものというべきである。また,被告Y5の原告X2らに対する勧誘行為が認められないのは前述のとおりであるから,原告らの被告Y5に対する請求はいずれも理由がない。
(5)  被告Y6について
前記認定事実並びに証拠(被告Y6本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y6は,被告Y1から,「形だけの代表でいい。」「パチスロ事業に関わらなくていい。」などと言われて平成27年7月1日にMTキャピタルの代表社員に就任し,以来平成28年2月1日まで,同社の代表社員であり,報酬として月5万円を受け取っていたこと,被告Y6は,前任の代表社員であるB会計士より引き継ぎを受けた際,決算書,通帳及び会計帳簿を確認した上で,B会計士から事業内容の説明を受け,内容について合理的であると判断したが,平成27年8月を最後にファンド口座の通帳すら見ていなかったこと,MTキャピタル自体は実体がなく,従業員もいないから,ファンドの管理,監査はB会計士が引き続き行うし,ファンド事業に関わる実務は全て被告会社に業務委託する形になっていたこと,MTキャピタルの印鑑及び印鑑登録カードもWARIKANのCが所持していたこと,以上の事実が認められる。
被告Y6は,代表社員の地位にある以上,対外的に同社を代表し,対内的に業務全般の執行を担当する職務権限を有する機関として,善良なる管理者の注意をもって会社のため忠実にその職務を執行し,ひろく会社業務の全般にわたって意を用いるべき義務を負っているところ,代表社員であるにもかかわらず,他の者に会社業務の一切を任せきりにし,その業務執行になんら意を用いないで,ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には,自らもまた悪意又は重大な過失により任務を怠ったものと解すべきである(最高裁昭和44年11月26日大法廷判決・民集23巻11号2150頁参照)。
前述のとおり,被告Y6は,本件ファンド事業に係る業務を全て被告会社に依頼し,被告会社及びその意を受けたWARIKANのCにおいて,SAPファンドの出資金についてその一部を目的外に流用し,いわゆる空リースの状態となっていながら,その事実を秘して本件ファンドの違法な投資勧誘を行わせ,MTキャピタルとの間で匿名組合契約を締結して出資金を受け入れ続けていたから,被告Y6はこれを阻止して,MTキャピタルの業務が適正,適法に行われるようにすべきであったのに,全てを漫然と被告会社に任せきりにして,平成27年8月を最後にファンド口座の通帳すら確認していなかったのであるから,被告Y6には,その任務懈怠について重大な過失があるといえる。
よって,被告Y6は,MTキャピタルの有限責任社員として,会社法597条に基づき,原告X1に対する損害賠償責任を負う。
(6)  被告Y7について
前記認定事実並びに証拠(被告Y7本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y7は,被告Y1から,回胴式遊技機の開発,賃貸及び販売事業のみを行うように指示されて平成26年6月にLIGの代表取締役に就任し,以来平成28年3月10日まで,同社の代表取締役であり,報酬として月40万円を受け取っていたこと,同社の実印や銀行印も被告Y7の管理下にはなかったこと,被告Y7は,LIGの平成27年7月のLIGの決算書類により,多額の入出金やAへの資金流出があることに気付いたが,Aや被告Y1に説明を求めても相手にされず,かえって被告Y1からファンド事業には関わらないように告げられたこと,LIGには被告Y7が閲覧すらできないY1管理口座があり,そこからY7管理口座に振り込まれる金額は一部に過ぎず,それを用いて回胴式遊技機を購入し,実際に賃貸に回されていた回胴式遊技機の台数は50台足らずであったから,空リースとなっていることに気付いていたが,ファンド事業には関わらないようにし,回胴式遊技機の開発についてのみ注力していたこと,以上の事実が認められる。
これによれば,被告Y7は,LIGに使途不明金が生じていることや,LIGのSAPファンドに係る回胴式遊技機の賃貸事業が空リースになっていることを認識していたものの,結局,A及び被告Y1との力関係でこれを是正することができず,その後は漫然と放置し,被告会社による本件ファンドの違法な勧誘行為を続けさせたことが認められる。
以上によれば,被告Y7には,LIGの代表取締役として,その任務懈怠について重大な過失があるといえる。
よって,被告Y7は,LIGの代表取締役として,会社法429条1項に基づき,原告X1に対する損害賠償責任を負う。
また,前記認定事実によれば,被告Y7は,本件社債について平成27年12月8日の説明会において自ら本件社債について説明するなどして,原告X1に対して,被告Y1及び被告会社の従業員らと共に本件社債の購入を勧誘したことが認められる。
被告Y7が,本件社債の勧誘の時点において,LIGの財務内容が破綻の危機に瀕しており,元本の償還も不能になる可能性が高いことを認識していたことは前述のとおりであり,その事実を秘して,不適正な金融商品である本件社債の購入を勧誘し,原告X1に本件社債を購入させた行為は違法な勧誘行為であるから,被告Y7は,本件社債の勧誘によって原告X1に与えた損害について,民法709条,719条に基づく不法行為責任を負う。
また,被告Y7についても,原告X2らに対して,勧誘行為を行った事実を認めることができないから,原告X2らの被告Y7に対する請求はいずれも理由がない。
4  争点(3)(損害額はいくらか)について
(1)  前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,本件ファンドに出資した合計800万円から,償還を受けた金員(19万0992円)及び破産手続における配当を受けた金員(72万1247円)を控除した残額である708万7761円並びに本件社債購入のために支払った額である600万円の損害を被ったものと認められる。
なお,前述のとおり,被告Y2らが任務懈怠によって生じた損害賠償責任を負うのは,原告X1がSAPファンド22号に出資した100万円及び本件社債を購入した600万円の合計700万円であり,SAPファンド22号について償還された金員はないものの(争いがないほか,弁論の全趣旨),破産手続における配当金を原告X1が出資した本件各ファンドへの出資額で按分すると,SAPファンド22号については9万0156円(1円未満四捨五入)となるからこれを控除した690万9844円について,被告Y2らの任務懈怠と相当因果関係のある損害と認められる。
(2)  過失相殺について
被告Y1は,本件ファンド及び本件社債が金融商品として不適正なものであることを承知の上で,敢えて原告X1に対して違法な勧誘行為を行い,前記の損害を生じさせたと認められるから,被告Y1及び被告会社との関係において,過失相殺をすることは相当でない。
また,原告X1は,前記認定のとおり,極めて高利率(ハイリターン)の本件ファンド及び本件社債を購入するにあたり,被告会社が第二種金融商品取引業者であるとの確認をしたほかに,被告Y5に口頭で大丈夫か確認しただけで,なんらの調査,確認も行わずに,短期間に次々と高額の出捐を繰り返した点で落ち度がないとはいえないものの,被告らが勧誘に際して本件ファンドにおける匿名組合事業の運用状況や実績等について,具体的な資料を示して説明した事実を認めることはできず,LIGの本件社債の購入を勧誘するに際しても,LIGにおける回胴式遊技機の賃貸事業の業績やLIGの財務内容について具体的な数値を基に説明したような事実は全く窺われないのであって,そのような事実関係の下においては,他の被告との関係においても過失相殺をすることは相当ではない。
(3)  そして,上記に認定した損害の金額,本件訴訟の経緯その他本件に現れた諸事情を考慮すると,前記不法行為又は任務懈怠行為と相当因果関係のある弁護士費用は130万円と認めるのが相当である(ただし,被告Y2ら及び被告Y6の任務懈怠行為と相当因果関係のある弁護士費用はこのうち70万円に限る。)。
第4  結論
以上によれば,原告X1の被告Y5を除く被告らに対する請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余の部分についてはいずれも理由がないからこれを棄却することとし,原告X2らの被告Y6を除く被告らに対する請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法64条,61条並びに65条1項ただし書を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部
(裁判長裁判官 男澤聡子 裁判官 森田淳 裁判官 奥山直毅)

 

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裁判年月日  平成30年10月30日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)10278号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA10308033

出典
ウエストロー・ジャパン

裁判年月日  平成30年10月30日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(ワ)10278号
事件名  損害賠償請求事件
文献番号  2018WLJPCA10308033

埼玉県桶川市〈以下省略〉
原告 X1
埼玉県桶川市〈以下省略〉
原告 X2
埼玉県蕨市〈以下省略〉
原告 X3
さいたま市〈以下省略〉
原告 X4
上記四名訴訟代理人弁護士 太田賢志
東京都中央区〈以下省略〉
(送達場所 東京都中央区〈以下省略〉)
被告 スプレマシーアセットパートナーズ株式会社
同代表者代表取締役 Y1
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y1
埼玉県上尾市〈以下省略〉
被告 Y2
千葉県我孫子市〈以下省略〉
被告 Y3
千葉県佐倉市〈以下省略〉
被告 Y4
茨城県守谷市〈以下省略〉
被告 Y5
上記四名訴訟代理人弁護士 栗原喜子
同訴訟復代理人弁護士 金子剛
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y6
東京都江戸川区〈以下省略〉
被告 Y7
上記両名訴訟代理人弁護士 小野聡

 

 

主文

1  被告スプレマシーアセットパートナーズ株式会社,被告Y1及び被告Y7は,原告X1に対し,各自1438万7761円及びこれに対する被告スプレマシーアセットパートナーズ株式会社及び被告Y1について平成28年4月25日から,被告Y7について平成28年4月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員を,他の被告らと認容額が重なる限度で各連帯して支払え。
2  被告Y2,被告Y3及び被告Y4は,原告X1に対し,各自760万9844円及びこれに対する被告Y2について平成28年4月21日から,被告Y3について平成28年4月24日から,被告Y4について平成28年4月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を,他の被告らと認容額が重なる限度で各連帯して支払え。
3  被告Y6は,原告X1に対し,778万7761円及びこれに対する平成28年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を,他の被告らと認容額が重なる限度で連帯して支払え。
4  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5  訴訟費用は,原告X1と被告スプレマシーアセットパートナーズ株式会社,被告Y1,被告Y6及び被告Y7との間に生じた費用は全部上記被告らの負担とし,原告X1と被告Y5との間に生じた費用は全部原告X1の負担とし,原告X1と被告Y2及び被告Y3との間に生じた費用はこれを2分し,その1を上記被告らの負担とし,その余を原告X1の負担とし,原告X1と被告Y4との間に生じた費用はこれを8分し,その7を被告Y4の負担とし,その余を原告X1の負担とし,原告X2,原告X3及び原告X4と被告Y6を除く被告らとの間に生じた費用は,全部上記原告らの負担とする。
6  この判決は,第1項から第3項までに限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告スプレマシーアセットパートナーズ株式会社(以下「被告会社」という。),被告Y1(以下「被告Y1」という。),被告Y2(以下「被告Y2」という。),被告Y3(以下「被告Y3」という。),被告Y5(以下「被告Y5」という。)及び被告Y7(以下「被告Y7」という。)は,原告X1(以下「原告X1」という。)に対し,各自1518万9907円及びこれに対する被告会社及び被告Y1について平成28年4月25日から,被告Y2及び被告Y7について同月21日から,被告Y3について同月24日から,被告Y5について同年6月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を,内878万8327円及びこれに対する同年4月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で被告Y4(以下「被告Y4」という。)と連帯して,内858万9907円及びこれに対する同月28日から支払済みまで年5分の割合による支払の限度で被告Y6(以下「被告Y6」という。)と連帯して支払え。
2  被告Y4は,原告X1に対し,被告会社,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y5及び被告Y7と連帯して,878万8327円及びこれに対する平成28年4月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を,内218万8327円及びこれに対する同月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で被告Y6と連帯して支払え。
3  被告Y6は,原告X1に対し,被告会社,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y5及び被告Y7と連帯して,858万9907円及びこれに対する平成28年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を,内218万8327円及びこれに対する同月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の限度で被告Y4と連帯して支払え。
4  被告会社,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y7は,原告X2(以下「原告X2」という。)に対し,各自550万円及びこれに対する被告会社及び被告Y1について平成28年4月25日から,被告Y2及び被告Y7について同月21日から,被告Y3について同月24日から,被告Y4について同月22日から,被告Y5について同年6月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5  被告会社,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y7は,原告X3(以下「原告X3」という。)に対し,各自550万円及びこれに対する被告会社及び被告Y1について平成28年4月25日から,被告Y2及び被告Y7について同月21日から,被告Y3について同月24日から,被告Y4について同月22日から,被告Y5について同年6月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6  被告会社,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y7は,原告X4(以下「原告X4」という。)に対し,各自550万円及びこれに対する被告会社及び被告Y1について平成28年4月25日から,被告Y2及び被告Y7について同月21日から,被告Y3について同月24日から,被告Y4について同月22日から,被告Y5について同年6月22日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  事案の要旨
本件は,原告X1において,被告会社が取扱者である回胴式遊技機の賃貸事業に係るファンドに出資をし,原告X1,原告X2,原告X3及び原告X4(以下,原告X1を除く原告3名を併せて「原告X2ら」という。)が上記ファンドの事業者である株式会社LIG(以下「LIG」という。)の発行する小規模私募債を購入したことについて,原告らが,①上記ファンドや私募債は,既に回胴式遊技機の賃貸事業が破綻し,分配金の支払や出資金の償還が著しく困難な状況に陥っていたから,金融商品として不適正なものであるにもかかわらず,それを秘して違法に勧誘された,②被告会社の代表取締役である被告Y1及び被告会社の従業員が上記ファンドや私募債の勧誘に当たって適合性原則違反及び説明義務違反があった,③被告会社の取締役であった被告Y2,被告Y3及び被告Y4(以下,3名の取締役を「被告Y2ら」という。)は,回胴式遊技機の賃貸事業が破綻していることを認識しながら上記ファンドや私募債の販売を継続していたか,上記事業の状況について必要な確認作業を怠った過失又は重過失がある,④上記ファンドの営業者であるMTキャピタル合同会社(以下「MTキャピタル」という。)の代表社員であった被告Y6は,事業者であるLIGが債務不履行状態に陥っていることを知っていたにもかかわらず,ファンドの販売を継続し,出資金を受け入れていた,⑤LIGの代表取締役であった被告Y7は,同社が既に債務不履行状態に陥っていたにもかかわらず,それを放置してファンドや私募債の違法な勧誘を続けさせたなどと主張し,それによって原告らが出資金等を支払って損害を被ったとして,被告会社に対して,民法709条,719条又は715条若しくは会社法350条,被告Y1に対して,民法709条,719条又は会社法429条1項,被告Y2らに対して民法709条,719条又は会社法429条1項,被告Y5に対して民法709条,719条,被告Y6に対して同法709条,719条又は会社法597条,被告Y7に対して民法709条,719条又は会社法429条1項にそれぞれ基づいて,連帯して(ただし,被告Y4は取締役就任後の取引について,被告Y6は上記ファンドについてのみ連帯して)原告らが上記ファンド及び私募債購入のために支出した金員並びに弁護士費用相当額の損害賠償並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2  前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  原告X1は,昭和48年○月生まれの男性であり,会社員として勤務している者である。
原告X2(昭和57年○月生まれ)は,原告X1の妻であり,原告X3(昭和22年○月生まれ)は原告X2の母,原告X4(昭和55年○月生まれ)は原告X2の兄である。
被告会社は,平成22年4月に設立された有価証券の募集及び売出しの取扱い並びに私募の取扱いを行う業務等を目的とする株式会社であり,第二種金融商品取引業者の登録を受けている。被告会社は,営業者をMTキャピタル,事業者をLIGとして,MTキャピタルが出資金を基に購入した回胴式遊技機(いわゆるパチスロ機)をLIGに賃貸し,LIGがこれを遊技場に賃貸する匿名組合事業を行い,その収益から一定割合を出資者である匿名組合員に分配金として支払うことを内容とする匿名組合契約である「SAP36毎月分配型ファンド」,「SAP24毎月分配型ファンド」等(以下「SAPファンド」と総称する。)の取扱者であった。
被告Y1は,遅くとも平成25年6月から現在まで被告会社の代表取締役の任にあり,被告Y2は平成22年5月10日から,被告Y3は平成24年4月16日から,被告Y4は平成27年10月1日から,それぞれ現在まで被告会社の取締役の任にある者である。
被告Y5は,平成24年10月頃から被告会社において,営業を担当していた従業員であり,原告X1に対して,SAPファンドの出資を勧誘した。
(甲1,3~5,7~13,98,乙1,13~16,弁論の全趣旨)
(2)  MTキャピタルは,平成24年12月に設立された回胴式遊技機等の遊技場へのレンタル事業等を目的とする合同会社であり,SAPファンドの営業者であった。
被告Y6は,平成27年7月1日から平成28年2月1日までMTキャピタルの代表社員であった者である。同日から破産手続開始の時までの同社の代表社員は,被告Y1であった。
LIGは,平成26年6月20日に設立された,遊技機の開発,製造,レンタル及びリース,匿名組合事業に関する分別管理等を目的とする株式会社であり,SAPファンドの事業者であり,原告らが購入した私募債の発行体である。
被告Y7は,LIGが設立された平成26年6月から平成28年3月10日まで同社の代表取締役であった者である。同月11日から破産手続開始の時までの同社の代表取締役は,被告Y1であった。
(甲1,33,44,48,丙7,弁論の全趣旨)
(3)  原告X1は,平成27年8月18日,被告会社の媒介で営業者であるMTキャピタルとの間で「SAP24毎月分配型ファンド19号」に係る匿名組合契約を締結して10口,500万円を出資し,同額を上記ファンド口座に振り込んだ。
続いて,原告X1は,同年9月28日には「SAP24毎月分配型ファンド20号」に係る匿名組合契約を締結して2口,100万円を,同年10月28日には「SAP24毎月分配型ファンド21号」に係る匿名組合契約を締結して2口,100万円を,さらに同年11月25日には「SAP24毎月分配型ファンド22号」に係る匿名組合契約を締結して2口,100万円を出資し,これらのファンドの出資金として合計800万円を支払った(以下「本件ファンド」という。)。
(甲5,11~13,弁論の全趣旨)
(4)  原告X1は,平成27年12月19日,LIGが発行する第3回私募債を5口申し込み,同社に500万円を振り込んで支払った。
また,原告X1は,平成28年1月19日,LIGが発行する第5回私募債を1口申し込み,同社に100万円を振り込んで支払った。
原告X2らは,原告X1の勧めにより,平成28年1月,LIGが発行する第5回私募債を5口ずつ申し込み,同社にそれぞれ500万円を振り込んで支払った(以下,これらの私募債を「本件社債」という。)。
(甲17,19~22,98,弁論の全趣旨)
(5)  MTキャピタルは平成28年2月26日,LIGは同年3月23日,破産手続開始決定を受けた(MTキャピタルについて争いなし,LIGについて甲44)。
(6)  本件の訴状が送達された日は,被告会社及び被告Y1につき平成28年4月24日,被告Y2及び被告Y7につき同月20日,被告Y3につき同月23日,被告Y4につき同月21日,被告Y6につき同月27日,被告Y5につき同年6月21日である(当裁判所に顕著)。
3  争点及び当該争点に関する当事者の主張
本件における主たる争点は,(1)原告らに対する勧誘の違法性,(2)被告らの責任原因及び(3)損害額はいくらかであり,これらの争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。
(1)  争点(1)原告らに対する勧誘の違法性
(原告らの主張)
ア 不適正な金融商品
(ア) 本件ファンドへの出資金を原資として行われていた回胴式遊技機の賃貸事業は,顧客に説明していた内容で収益を上げることはおよそ不可能であり,出資者との約定利率である年利16%を上回る利益を得ることができない構造となっていた。また,LIGにおける,平成27年8月当時の本件ファンドの配当原資となる回胴式遊技機の月間賃貸台数は50台を下回る程度でしかなく,実際の賃貸状況に鑑みても,年利16%もの高利率の分配金を維持することは不可能であった。
(イ) 本件ファンドの事業者であるLIGは,原告X1が本件ファンドを最初に購入した平成27年8月の時点で,債務不履行状態であったし,LIGの実質的経営者であるA(以下「A」という。)が,同社の預金から8億円を超える資金を流用していたことも発覚し,原告らが本件社債を購入した平成27年12月の時点で,LIGの財務状況は危機的な状況にあった。
(ウ) 以上より,本件ファンド及び本件社債は,原告らに対して販売する時点において,分配金の支払や出資金の償還が著しく困難になっていたから,金融商品として不適正なものであった。
それにもかかわらず,これを秘して,高収益の商品である旨述べて行った勧誘は違法である。
イ 適合性原則違反
原告X1は,本件ファンドへの投資の前に一度投資信託を購入した経験があるものの,その他に投資の経験はなく,安定した投資意向を有していた。さらに,原告X1は,いわゆる資産家ではなく,本件ファンド及び本件社債に出捐した金員は,いずれも流動資産の多くを占めており,ハイリスクを許容して投資運用するような投資意向は全く有していなかった。
また,原告X2らは,本件社債購入まで投資経験が全くなく,原告X1と同様に安定した投資意向を有しており,ハイリスクを許容して投資運用するような投資意向は全く有していなかった。
にもかかわらず,被告らは,原告らに対し,極めてリスクの高い本件ファンド及び本件社債の購入を勧誘した。
ウ 説明義務違反
本件ファンドの事業者であるLIGは,平成27年8月ころから資金繰りが悪化し,債務不履行状態であった。
本件ファンドの事業者や社債の発行体の信用リスクは,本件ファンド及び本件社債を購入するにあたり,顧客の投資判断にあたり極めて重要な影響を及ぼすものである。
被告会社の従業員は,平成27年8月の時点で既にLIGが債務不履行状態であるという不利益な事実について,本件ファンド及び本件社債の購入時に,これを知りながら原告X1に告げず,各商品の危険性について説明義務を怠った。
(被告会社及び被告Y1の主張)
被告会社及び被告Y1は,原告X1に対し,本件ファンドのリスクを説明しており,原告X1は,同リスクを許容した上で本件ファンドを購入した。
また,被告会社及び被告Y1は,原告らに対して本件社債の購入を勧誘していない。
(被告Y2ら及び被告Y5の主張)
ア 原告X1の本件ファンド購入時及び原告らの本件社債購入時,LIGが債務不履行状態であったとの評価はいずれも争う。
イ 原告X1は,最初のファンド購入に続けてファンドをさらに購入するなど,積極的な投資意向を有していたから,本件ファンドが原告X1に対して適合しなかったという事実はない。
ウ 被告会社の従業員は,本件社債の購入を原告らに対して勧誘していない。LIGが縁故債を募集し,そのセミナーが開催されることを紹介しただけである。そもそも,私募債は,第二種金融商品取引業者が販売,勧誘する商品ではない。
(被告Y7及び被告Y6の主張)
ア 原告X1の本件ファンド購入時及び原告らの本件社債購入時,LIGが債務不履行状態であったとの主張はいずれも否認する。
イ 被告Y7は,本件社債を原告X1に紹介した際,虚偽の説明はしておらず,そのリスクを説明している。本件社債は,見込みがあると判断した回胴式遊技機の機種開発のための事業資金のために発行したものであり,その旨の説明を十分に尽くしている。
(2)  争点(2)被告らの責任原因
(原告らの主張)
ア 被告らは,前記(1)(原告らの主張)アのとおり,本件ファンド及び本件社債が,およそ金融商品として不適正なものであることを認識していた。
また,被告らがこれらの事実を認識していなかったとしても,被告らはこれらの事実を容易に知ることができたから,知らなかったことについては重大な過失があり,被告らは,これらを原告らに対して勧誘したことについて,不法行為責任を負う。
イ 被告会社,被告Y1及び被告Y5は,本件ファンド及び本件社債を原告らに対して購入するよう勧誘する際に,前記(1)(原告らの主張)イ,ウのとおり,適合性原則に違反すると共に説明義務を怠って,原告らに対して,それぞれ本件ファンド及び本件社債を購入させたことについて,不法行為責任を負う。
ウ 被告Y1は,被告会社の代表取締役として,その業務が適法に行われるように業務執行を行うべきであるにもかかわらず,悪意又は重過失によりその義務を怠り,被告会社による違法な投資勧誘を行わせたから,原告らに対し,会社法429条1項に基づいて,損害を賠償する責任を負う。
エ 被告Y2らは,被告会社の取締役として,被告Y1の業務執行を監視監督して,違法な業務執行をさせないようにする義務があったにもかかわらずこれを怠り,被告会社による違法な投資勧誘を行わせたから,原告らに対し,会社法429条1項に基づいて,損害を賠償する責任を負う。
オ 被告Y6は,MTキャピタルの代表社員として,MTキャピタルが被告会社に対して金融商品として不適正な本件ファンドの勧誘を継続させてはならないという義務及び被告会社が本件ファンドの取得の勧誘を行う際には被告会社が顧客に対して本件ファンドが不適正な金融商品であることを説明させる義務に反しないようその業務を執行すべき義務を負っていたにもかかわらず,悪意又は重過失によりその義務を怠り,被告会社による違法な投資勧誘を行わせ,出資金を受け入れ続けたから,原告らに対し,民法709条又は会社法597条に基づいて,損害を賠償する責任を負う。
カ 被告Y7は,LIGが債務不履行状態にあるにもかかわらずこれを放置して違法な本件ファンド及び本件社債の投資勧誘を行わせ又はLIGの代表取締役として,その業務が適法に行われるように業務執行を行うべきであるにもかかわらず,悪意又は重過失によりその義務を怠り,被告会社により違法な投資勧誘を行わせたから,原告らに対し,民法709条又は会社法429条1項に基づいて,損害を賠償する責任を負う。
(被告会社及び被告Y1の主張)
争う。
(被告Y2ら及び被告Y5の主張)
ア SAPファンドにおいて,LIGからMTキャピタルに振り込まれるべき賃料は,少なくとも平成27年8月末時点で不足分が生じているなどの事実はなく,被告Y2ら及び被告Y5は本件ファンドについて配当や償還が著しく困難な状況にあったとは知らなかったし,これを知ることはできなかった。
イ したがって,被告Y2ら及び被告Y5は,原告らに対する損害賠償責任を負わない。
(被告Y7及び被告Y6の主張)
ア 被告Y7は,本件ファンドの募集及び運用について関与しておらず,同ファンドに関する銀行預金口座は被告会社ないし被告Y1が管理していたから,被告Y7は本件ファンドの配当や償還が著しく困難な状況にあったとは知らなかったし,これを知ることはできなかった。
イ 被告Y6は,本件ファンドの募集及び運用について関与しておらず,MTキャピタルの前任の代表社員である公認会計士資格を有するB氏(以下「B会計士」という。)及び被告Y1から,SAPファンドの状況の報告を受けた上で自ら帳簿等の確認をした。しかし,帳簿を確認しても不明瞭な資金の流れは存在しなかったから,被告Y6は本件ファンドが配当や償還が著しく困難な状況にあったとは知らなかったし,これを知ることはできなかった。
ウ したがって,被告Y7及び被告Y6は,原告らに対する損害賠償責任を負わない。
(3)  争点(3)損害額はいくらか
(原告らの主張)
ア 上記の被告らの行為により,原告X1は,本件ファンドを800万円分,本件社債を600万円分,原告X2は,本件社債を500万円分,原告X3は,本件社債を500万円分,原告X4は,本件社債を500万円分購入した。また,原告X1は,被告会社から本件ファンドの配当金名目で19万0992円を,MTキャピタルの破産手続において72万1247円の配当金を受領したが,その余の部分については,いずれも償還されなかった。
イ したがって,原告X1は,本件ファンドと本件社債の合計額から上記既払金を除いた1308万7761円について,原告X2らは各500万円について,それぞれ損害が生じている。
ウ 原告らは,本件訴訟の追行のため,弁護士に依頼せざるを得なかったから,そのための弁護士費用は被告らの上記不法行為又は任務懈怠行為と相当因果関係を有する損害であり,その額は,上記イ記載の額の各1割である,原告X1について130万8776円,原告X2らについて各50万円をそれぞれ下らない。
エ 上記イ及びウの合計額は,原告X1につき1439万6537円であり,原告X2らにつき各550万円である。
被告らの上記債務は,遅くとも請求の日の翌日である本件訴状送達の日の翌日から遅滞に陥るから,上記請求の趣旨記載のとおりの支払を求める。
(被告会社及び被告Y1の主張)
原告らは,本件ファンド及び本件社債のリスクを認識した上でこれらを購入した。
(被告Y2ら及び被告Y5の主張)
否認又は争う。
原告X1に生じた損害は,LIG及びMTキャピタルの信用リスクが顕在化したために生じたものであって,原告X1においてはその予見が可能であったと言えるから,その損害の5割は過失相殺されるべきである。
(被告Y6及び被告Y7の主張)
不知又は争う。
第3  争点に対する判断
1  前記前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)  原告らについて
原告X1は,本件ファンドに最初に出資した当時41歳であり,a株式会社の課長職にあった。原告X1は,約10年間に及ぶ投資信託の経験があり,原告X2との婚姻を控えて新居を建築中で,1500万円程度の資産を保有していた。
原告X2は,昭和57年生まれの主婦であり,原告X1の妻である。原告X2の保有資産は,預貯金600万円程度であった。原告X3は,昭和22年生まれの飲食自営業者であり,原告X2の母である。原告X3の保有資産は,預貯金2000万円程度であった。原告X4は,昭和55年生まれの会社員であり,原告X2の兄である。原告X4の保有資産は,預貯金600万円程度であった。原告X2らはいずれも,本件社債を購入するまで,投資の経験がなかった。
(甲98,乙1,弁論の全趣旨)
(2)  原告X1による本件ファンドへの出資に至る経緯
ア 原告X1は,平成27年7月頃,インターネットでSAPファンドの広告を見て,利率の高さからSAPファンドに興味を抱き,同年8月6日,被告会社が主催するSAPファンドの説明会に参加した。
被告Y1は,上記説明会において,「SAP24毎月分配型ファンド」と題するパンフレット(甲1),「SAP24毎月分配型ファンド19号資金使途及び試算表」と題する書面(甲2)及び「ファンド事業・分配状況」と題する書面(甲3)を原告X1に交付した。
上記パンフレットには,「SAP24毎月分配型ファンドの4つのポイント」として,「想定利回り 年率16%(税引き前)」「分配金は毎月お受取り」「運用期間は24か月」「出資は50万円から」と記載され,「SAP24毎月分配型ファンドの仕組み」として,①お客(投資家)様とMTキャピタルの間のファンド契約を取扱者である被告会社が媒介する,②お客様が営業者であるMTキャピタルに匿名組合出資金を払い込む,③MTキャピタルが遊技機を購入し,事業者であるLIGに賃貸する,④LIGが賃貸した遊技機を各遊技場へレンタルする,⑤遊技場がLIGに賃貸した遊技機のレンタル料を支払う,⑥LIGが支払われたレンタル料からLIGの管理料等を差し引きMTキャピタルに賃料を支払う,⑦MTキャピタルがお客様に分配金(2年間合計24回)を支払う,⑧MTキャピタルがお客様に最終分配日に出資金の償還として償還金を支払うという流れが図示され,被告会社はお客様に対してファンドの募集・勧誘を行うこと,MTキャピタルの事業履行内容を確認することなどが記載されている。上記パンフレットには,1頁にわたり「リスクについて」と題して10項目のリスクが記載され,「匿名組合出資金の元本が割れるリスク」として,匿名組合契約に基づく利益の分配又は匿名組合出資金の償還は,専ら営業者と協力して行う事業者の当該事業による収益を原資とするため,当該事業成果によっては利益の分配が行われない可能性があり,匿名組合契約終了までの分配金及び匿名組合契約終了時の償還金の累計額は出資金(元本)と比較して減少する可能性があること,「営業者の信用リスク」や「事業者の信用リスク」として,営業者や事業者が支払不能に陥り,又は破産手続等の申立てがされた場合等には,匿名組合利益の分配・償還は勿論,本匿名組合事業ができなくなる可能性があることなどが記載されている。
また,「ファンド事業・分配状況」と題する書面には,「現在,分配開始となっているお客様の分配金は,当初の計画通り分配しております。」「上記はあくまで実績であり,今後の分配金等支払の保証をするものではございません。」と記載されている。
被告Y1は,上記説明会において,上記パンフレットを,リスクについて記載された部分も含めて読み上げて説明し,通常であれば新しい事業を行う会社は5年ももたないけれども,被告会社は5年以上もったからいい会社ですと述べていた。
原告X1は,上記説明会の後,被告会社が第二種金融商品取引業者として登録を受けていることを確認したが,それ以外にSAPファンドについての調査を行うことはなかった。
(甲1~3,98,原告X1本人)
イ 原告X1は,平成27年8月18日,SAPファンドについて再度詳しく説明を聞きたいと考え,被告Y5と面談した。
被告Y5は,原告X1に対して,SAPファンドは,毎月,年利16%相当の分配金が得られること,2年できちんと償還されること,被告Y5は以前証券会社に勤めていたこと,自分や自分の家族もSAPファンドに出資しているが,毎月分配金が振り込まれていると述べて,自らの預金通帳を原告X1に見せて,出資を勧誘した。
原告X1は,同日,「SAP24毎月分配型ファンド19号」に出資することを決め,被告会社の媒介で営業者であるMTキャピタルとの間で匿名組合契約を締結して10口,500万円を出資し,同額を上記ファンド口座に振り込んだ。
原告X1は,その際,「取引開始の調査票」と題する書面(乙1。以下「本件調査票」という。)に,原告X1の投資経験年数につき10年,原告X1の保有資産につき1000万円以上2000万円未満と記載して,被告会社に提出した。また,原告X1は,「私は,貴社から別紙『匿名組合契約説明書(「SAP24毎月分配型ファンド」シリーズ)』を受領し熟読しました。又,同書面の重要事項等の説明を受け,その商品性,取引の仕組み,投資リスク等について確認し十分に理解しました。取引については,私自身の判断と責任において行うことを確認します。」などと記載された「取引に関する確認書」と題する書面(乙9)に署名押印し,「商品内容等のチェック表」と題する書面(乙10の2)の10のリスクについて,「営業者の信用リスク」,「事業者の信用リスク」,「取扱者の信用リスク」等のいずれについても「①理解した」の箇所に丸を付け,「出資した金銭の実際の使途や収支の状況等について,事業報告書等に基づいて匿名組合員自身で判断する必要があります。」についても「①理解した」の箇所に,「本件投資が,お客様ご自身の投資に関する知識,経験,目的,意向等に照らし適しているかどうかを慎重にご検討して頂けましたか。」についても「①検討した」の箇所に,「当商品の匿名組合契約及びファンド事業の特性(出資対象事業の収益性について保証等がされている訳ではないこと等)を十分理解した上で投資を行う必要があります。」についても「①理解した」の箇所に,それぞれ自ら丸を付けた上で,末尾に署名押印した。
(甲5,98,乙1,6の1~3,9,10の2,16,原告X1本人,被告Y5本人)
ウ 原告X1は,その後も,前記前提事実(3)のとおり,同年9月28日,同年10月28日及び同年11月25日に,本件ファンドに合計800万円を出資した。
なお,原告X1が,同年9月4日に被告会社を訪れた際には,同社営業部のマネージャーであった被告Y4が対応し,1000万円投資した場合と1500万円投資した場合の試算表を示しながら,追加の出資を勧め,SAPファンドには全く問題がないと説明した。
(甲98,乙15,原告X1本人)
(3)  原告らによる本件社債の購入に至る経緯
ア 原告X1は,遅くとも平成27年12月8日までに,被告Y5から連絡を受け,LIGが縁故債を募集することになり,そのセミナーへの参加を勧められ,被告会社従業員から,セミナーを案内するメールを受け取った。
原告X1は,同月10日,本件社債のセミナーに参加した。
上記セミナーでは,LIGの代表取締役である被告Y7が,回胴式遊技機である「○○」の開発資金に充てるために本件社債を募集すること,本件社債が年利18.8%であること,本件社債にも社債である以上リスクはあることなどを説明して,本件社債の購入を勧誘した。
上記セミナーには,被告Y1や被告Y5ら被告会社の従業員も参加しており,セミナー終了後,被告Y5は,原告X1に対し,年利18.8%を前提とする本件社債の試算表を示した。
(甲14,15,17,98,乙15,原告X1本人,被告Y1本人兼被告会社代表者(以下「被告Y1本人」という。),被告Y5本人,被告Y7本人)
イ 被告会社の従業員は,平成27年12月11日に,原告X1に対し,セミナーで被告Y7が告知した訂正箇所を修正した後の契約書類をLIGから郵送する旨の連絡に加え,前向きにご検討いただきたい旨を記載したメールを送信した。
さらに,被告会社の従業員は,同月17日,原告X1に対し,郵送した契約書類の到着確認に加え,本件社債が残りわずかであり,購入を前向きにご検討いただきたい旨を記載したメールを送信した。
原告X1は,同月19日,LIGに対して第3回私募債を5口申し込み,LIGに直接契約書を郵送して500万円を支払った。
(甲15~17)
ウ 被告会社の従業員は,平成28年1月5日,原告X1からのSAPファンドの問い合わせに対して,被告会社は現在SAPファンドを取り扱っておらず,LIGの社債を紹介している旨のメールを送信した。
原告X1は,平成28年1月19日,LIGに対して第5回私募債を1口申し込み,LIGに直接契約書を郵送して100万円を支払った。
原告X1は,この頃,原告X2らに対しても,本件社債の購入を勧め,原告X2らは,同月13日から25日までの間に,被告会社を介さず,LIGに対して本件社債をそれぞれ5口ずつ申し込み,LIGに直接契約書を郵送して各500万円を支払った。
(甲18~22,原告X1本人)
エ 被告Y3,被告Y4及び被告Y5は,社債の勧誘は第一種金融商品取引業者でなければ取り扱うことはできないことを知っており,被告Y3は,平成27年12月の全体会議で,従業員に対して,社債の勧誘はできないこと,社債に関しては顧客を紹介するのみであることなどを説明した。
(乙14,被告Y4本人,被告Y5本人)
オ 被告Y7は,平成27年12月頃,被告会社との間で,被告会社が社債購入の候補者をLIGに紹介することを内容とする契約書を作成した。被告Y3が同契約書の原案を作成した際には,LIGが,被告会社に対して,同社が紹介した社債購入者1名当たり10%の手数料を支払うことを定める条項はなかった。被告Y7においても上記手数料を支払う合意をした認識はなく,後になって,被告Y1から,上記手数料を支払うように指示された。
(被告Y3本人,被告Y7本人)
(4)  本件ファンドについて
ア 本件ファンドは,MTキャピタルがファンド営業者となって多数の出資者から匿名組合方式によって資金を集め,集めた出資金を原資として回胴式遊技機を購入し,これをファンド事業者であるLIGに賃貸し,LIGが遊技場に転貸し,それにより得られた賃料収入を原資としてこれを各出資者に配当するというものである。被告会社は,本件ファンドの取扱者であり,ファンドの募集,勧誘,営業者の事業履行内容確認を行うものとされている。
本件ファンドは,出資者が出資の際に振り込んだ出資金に対し,ファンドの期間中,出資額に対して年利16%の割合による金員を毎月分配金として受け取り,ファンドの期間が終了した時に,出資金と同額の償還金を受け取るという構造とされている。
(甲1~3)
イ LIGとMTキャピタルとの間において締結されている業務委託契約には,「乙(LIG)は,事業収益金として,平成26年5月12カ月物での事業開始以前は,12カ月物は1台当り固定レンタル料月額20,000円又24カ月物は1台当り固定レンタル料月額11,000円の購入台数分を甲(MTキャピタル)に支払うものとする。また,平成26年5月24カ月物での事業開始以降は,事業の業務委託費の年利36%の月額を固定レンタル料として甲に支払うものとする。更に,乙は,事業開始時の業務委託費は最終の事業収益を支払うまで及び事業開始1カ月以降の業務委託費は2年後に甲に償還されます。(6条1項)」及び「甲の行っている投資事業ファンドに使用されている遊技機については,当該遊技機の12カ月物又は24カ月物の期限が終了した場合,該当遊技機の所有権は甲から乙に移転すると共に該当投資事業ファンドが終了した場合,乙から甲の指定するファンド専用口座へのレンタル料振込みも終了することとする。(18条)」との定めがある(甲48)。
ウ LIGと遊技場との間の回胴式遊技機の賃貸借契約は,大別して固定方式と粗利を基礎とした変動方式とが存在し,固定方式の場合は税込月額7万2900円であり,変動方式の場合は遊技場の月間粗利額の50%である。なお,全国の回胴式遊技機の1台当たりの1日の粗利益は,3800円である(丙1,2,弁論の全趣旨)。
エ 被告会社が販売していたSAPファンドについて,平成27年7月時点で償還期限が到来したファンドは1本もなかった一方で,各月に支払うべき分配金の支払が遅滞したファンドも1本もなく,その中には,各月の分配金の支払と併せて償還金を分割して支払う構造のファンドも含まれている(甲1,3,被告Y5本人)。
オ MTキャピタルがLIGに回胴式遊技機の発注を行ったことを示す「発注書」及び,LIGがMTキャピタルの発注に応じてこれを納品したことを示す「納品書」は存在する。
しかし,これらの発注書及び納品書に対応する回胴式遊技機は,それぞれの納品書の2頁目以下に記載された納品先とされる遊技場に納品されていない。
上記発注書には「MTキャピタル合同会社」と記載された上で,同社の角印が押捺されており,上記納品書には「株式会社LIG 担当:C」と記載された上で,同社の角印が押捺されている。
MTキャピタルには従業員はおらず,同社の代表社員である被告Y6は,MTキャピタルに角印があることも知らず,MTキャピタルの実印及び銀行印は株式会社WARIKAN(以下「WARIKAN」という。)のCが所持していた。
(甲70~93,乙2~5の各1・2,被告Y6本人)
(5)  LIGの運営状況について
ア 被告Y7は,平成26年6月,被告Y1から回胴式遊技機の開発,レンタル及び販売事業に特化するよう指示されて,LIGの代表取締役に就任した。被告Y7は,LIGの実印も銀行印も所持しておらず,これらはいずれも被告Y1ないし同被告の意を受けたWARIKANのCが所持していた。
LIGには,被告Y7の管理する銀行口座(みずほ銀行神田支店普通預金〈省略〉 株式会社LIG,以下「Y7管理口座」という。),被告Y1の管理する銀行口座(楽天銀行第二営業支店普通預金〈省略〉 株式会社LIGファンド資産分別管理口座,以下「Y1管理口座」という。)及びAが管理する銀行口座があり,被告Y7は,Y7管理口座以外は,閲覧することも管理処分することもできなかった。
MTキャピタルから機械の発注代金としてLIGに振り込まれる金員は,全てY1管理口座に振り込まれ,被告Y7は,Y1管理口座から,Y7管理口座に振り込まれた金員を原資として,回胴式遊技機を購入し,これを遊技場へ賃貸又は販売する業務を行っていた。
被告Y7は,Y7管理口座に振り込まれた金員を,全額回胴式遊技機の購入に充て,購入した回胴式遊技機を賃貸又は販売し,得られた収益はY1管理口座に振り込んでいた。
(甲20,乙12,被告Y7本人,被告Y1本人)
イ 被告Y7が,平成27年7月頃,LIGの決算書類を確認したところ,同社において,同人の把握していない多額の入出金があること及び同社の株主であるAの会社に対して2億3000万円に上る短期貸付金があることに気付いた。
被告Y7は,被告Y1に対し,前記多額の入出金及び短期貸付金について尋ねると,被告Y1から,Aに聞くように言われたため,Aに問い合わせると,Aは被告Y7を「ふざけるな。お前は雇われ社長なんだから,そんなこと考えなくていいんだ。首にするぞ。」などと恫喝し,前記多額の入出金及び短期貸付金についての説明は得られなかった。
被告Y7は,さらに決算書類の検証のため,Aの関係する会計事務所を訪れて,資金が流れたAの会社の内容等を聞こうとしたものの,何も回答は得られなかった。
被告Y7は,被告Y1から今後SAPファンドにかかわらないよう告げられたため,自らの希望である回胴式遊技機の開発を続け,月40万円の給料を受けるために,これ以降,ファンドの運営には関与しなかった。
被告Y1は,平成27年10月頃からは,LIGに自らの席を用意させ,LIGの業務は,被告Y1及びWARIKANのCが行うようになった。
(被告Y7本人,被告Y1本人)
ウ 被告Y7は,平成27年12月頃,金銭を調達して新たな回胴式遊技機を開発し,これを賃貸又は販売することによって収益を上げることを企図し,本件社債の募集を行うことを決めた。
本件社債の振込先口座は,Y7管理口座であり,被告Y7は,本件社債について,回胴式遊技機の賃料収入によって,償還期限である1年後に問題なく償還できると考えていた。
(被告Y7本人)
エ 被告Y1は,平成28年1月以降,被告Y7に対し,被告Y7が社債の販売により振り込みを受けた金員につき,自らに交付しないと,LIGも被告会社も,全部が立ちいかなくなるなどと述べ,これを交付するよう求めた。
被告Y7は,被告Y1の指示に抗えず,1億円近い金員を,Y1管理口座に振り込んで貸し付けた。
(被告Y7本人)
(6)  MTキャピタル代理人弁護士は,平成28年2月15日,「ご連絡」と題する書面を原告X1を含む債権者に宛てて送付し,MTキャピタルの事業継続が困難である旨を通知した。
MTキャピタル代理人弁護士は,同年2月22日,「お詫びとご説明」と題する書面を原告X1を含む債権者に宛てて送付した。同書面には,「LIGは,平成27年8月末頃から,資金繰りが急速に悪化し,当社に対する賃料の支払が滞るようになりました」と記載されているほか,AについてLIGの「実質的経営者」であり,「A氏において管理していたLIGの預金の多くが使途不明となっていること」「8億円を超えるLIGの資金についてA氏による横領が疑われること」について記載されている。
MTキャピタルは,平成28年2月26日,破産手続開始決定を受けた。
(甲4,24,弁論の全趣旨)
(7)  証券取引等監視委員会は,平成28年4月1日,被告会社に対する検査の結果,複数の法令違反行為が認められたとして,行政処分を求める勧告を行い,関東財務局は,平成28年4月8日,被告会社に対して,第二種金融商品取引業者の登録を取消すと共に,業務改善命令を発した(以下「本件処分等」という。)。本件処分等の根拠となった法令違反行為は,①遅くとも平成27年9月以降,被告Y1の指示により,MTキャピタル又はLIGの管理するSAPファンドの資金管理口座から出金された金銭がLIGの経費,被告Y1が代表取締役を務めるWARIKANへの送金等に充てられているにもかかわらず,SAPファンドの私募の取り扱いを継続していたこと,②SAPファンドに係る匿名組合事業ではLIGから遊技場に回胴式遊技機が賃貸されることが事業内容の前提となっていたにもかかわらず,LIGから遊技場に回胴式遊技機が販売されている場合もあり,このように事業の実態について事実と異なる内容を告げて匿名組合契約に基づく権利の私募の取り扱いを行っていたこと,及び③第一種金融商品取引業の登録を受けていないにも関わらず,LIGが発行する社債について,期間や利率など具体的な商品内容を資料を用いて説明したり,電子メールで伝えることによって勧誘を行い,販売代金の10%を紹介料名目で受領するなど,無登録で社債の募集の取り扱いを行っていたことである(甲25)。
2  争点(1)(原告らに対する勧誘の違法性)について
(1)  本件ファンドが不適正な金融商品であると認められるか
ア 原告らは,そもそも,募集の時に説明していた事業の内容で収益を上げることは不可能であり,SAPファンドは構造的に破綻していると主張するから,この点について検討する。
(ア) 前記認定事実のとおり,MTキャピタルは上記匿名組合事業を通じて出資者に対して年利16%を支払うものとされているところ,LIGはMTキャピタルに対して年利36%を支払うことが約定されている。
そして,ファンドの償還期限には,当初の業務委託費についても,LIGからMTキャピタルに対して償還される旨が約定されている。
そうすると,MTキャピタルはLIGからの賃料収入から出資者に対して分配金を支払い,ファンド償還期限時にはLIGからの償還金から出資者に対して償還金を支払うことが一応可能な構造となっていることが認められる。
(イ) そして,前記認定事実によれば,LIGと遊技場との間の回胴式遊技機の賃貸借契約における賃料収入は,固定方式の場合は税込月額7万2900円であり,変動方式の場合は遊技場の月間粗利額の50%であるから,変動はあるものの,遊技場の月間粗利額の平均値に従うとすれば,月額11万4000円となる。
また,回胴式遊技機の平均賃貸期間が6ないし9カ月であったとしても,LIGは,改めて賃貸期間を経過した回胴式遊技機を,機器更新のために多少の費用投下が必要になる場合があるにしても,別の遊技場にさらに賃貸して賃料収入を得ることができる。
(ウ) そうすると,LIGの賃料収入は,遊技場との賃貸借契約の成約数によって変動するとはいえ,正常な取引状況下においてさえSAPファンドは構造的に破綻しているとの原告らの主張には理由がない。
イ 前記認定事実並びに証拠(甲26,27,51,乙12,被告Y7本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y1は,遅くとも平成27年7月頃以降は,SAPファンドの出資金につき,これを一旦,自らの管理するLIGの口座(Y1管理口座)に振り込ませて,本来その全額を回胴式遊技機の購入原資としなければならないところ,そのうち一部のみをY7管理口座に振り込ませ,その範囲で被告Y7が回胴式遊技機を購入し,これを賃貸事業に供していた事実が認められる。他方,被告Y1がY7管理口座に振り込まなかった金員によって,SAPファンドに係る回胴式遊技機の購入,賃貸は行われておらず,LIGが事業を開始した平成26年7月から平成27年8月までにMTキャピタルからLIGに回胴式遊技機の購入名目で3億9600万円が支払われているにもかかわらず,同月の遊技場への月間賃貸台数は50台以下であり,いわゆる空リースであった事実が認められる。
そうすると,被告Y1は,本来回胴式遊技機購入に充てなければならない金員につき,あえてその一部を目的外に流用しており,被告Y7に振り込まれた金員のみによっては,到底本件ファンドにおいて約定された年利16%もの高利を得ることはできなかったから,分配金の支払や出資金の償還が著しく困難になっており,表面上分配金の支払が継続していたとしても,その実質においていわゆる蛸足配当状態であったと評価せざるを得ない。
ウ したがって,SAPファンドは,遅くとも平成27年7月頃以降は,不適正な金融商品であったというべきであり,本件ファンドが不適正な商品であることを秘して,高収益の商品であると述べて出資を勧誘した行為は,違法な勧誘であって,原告X1に対する不法行為を構成する。
(2)  本件社債が不適正な金融商品であると認められるか
ア 前記認定事実並びに証拠(甲17,19~21,被告Y7本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y7は,平成27年12月頃,LIGが回胴式遊技機の新機種を開発するために小規模私募債を発行することを決めたこと,本件社債は,年利が18.8%,募集総額は各回4900万円,償還期限として定められている平成29年1月31日までの間,中途解約や縁故者以外への譲渡は原則として禁止されていること,本件社債の購入者が払い込んだ金員は,Y7管理口座に振り込まれて,回胴式遊技機の新機種の開発費用に使用されることになっていたことが認められる。
イ もっとも,社債の利息,償還金支払の確実性は,事業計画のみならず,社債発行会社の財務内容や経営状態に左右されるものであるところ,前記認定事実によれば,MTキャピタル代理人弁護士は,「お詫びとご報告」と題する書面(甲4)において,平成27年8月末ころからLIGの資金繰りが悪化したと記載していること,遅くとも同年7月頃には,LIGからAの会社に2億3000万円の資金が流出していたことが認められ,被告Y1自身も,その本人尋問において,同年9月末にはLIGの資金繰りが悪化したことを認めており,10月中旬にはAが管理していたLIGの資金8億円が使途不明になっていることが判明し,その回収に努めたが,回収の目処は立っていなかったと述べている。
確かに,会社の資金繰りが一時的に悪化したとしても,その後の営業努力等によって,改善する場合もあるであろうが,Aが資金流用した8億円については,その金額もLIGの会社規模からすると巨額であって,回収の目処も立っていない以上,本件社債の発行を決めた平成27年12月頃には,LIGの財務内容は,客観的にはいつ債務不履行になっても不思議のない状態に陥っていたというべきである。
この点,被告Y7としては,本件社債は,あくまでも見込みがあると判断した回胴式遊技機の新機種を開発するために発行したものであり,被告Y1も新機種が当たれば大きな利益につながると考えて社債の発行を決めたと述べているが,結局,発行後まもなく,被告Y1の指示により,他の資金需要のために,本件社債の払込金を回さざるを得なかったことが,すでにLIGが本件社債を正常に発行できる財政状況になかったことの証左である。
ウ 以上によれば,LIGの財務内容が破綻の危機に瀕しており,利息や償還金の支払が不能になる可能性が高いにもかかわらず,その状況下で新たに発行された本件社債は,不適正な金融商品であったといわざるを得ない。
したがって,本件社債が不適正な金融商品であることを秘して,高利を約して原告X1に本件社債の購入を勧誘した行為は,違法な勧誘であって,原告X1に対する不法行為を構成する。
(3)  もっとも,本件社債に関しては,そもそも被告ら(被告Y6及び被告Y7を除く)が勧誘行為を行ったか否かについて争いがあるので,この点について検討する。
ア 原告X1について
(ア) 前記認定事実によれば,第二種金融商品取引業者である被告会社は,本件社債の勧誘を行う資格がないこと,本件社債に関しては顧客を紹介することしかできないことについては,被告会社内では被告Y3が同社の従業員に対して全体会議の場で説明していたことが認められる。
一方で,被告会社が,平成28年4月に第二種金融商品取引業者の登録を取り消され,業務改善命令を受けた理由の1つに,無登録で本件社債について勧誘を行ったことが挙げられている。
(イ) そこで検討するに,前記認定事実並びに証拠(甲15,16,18,被告Y5本人,被告Y7本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y5は,原告X1に対し,LIGが縁故債を募集することになったことを伝えて,セミナーへの参加を勧め,被告会社の従業員が,平成27年12月8日,原告X1に対し,本件社債のセミナーについての案内をメール送信したこと,そのセミナーには被告Y1のほか,被告会社の従業員も参加しており被告Y7による本件社債の説明が行われたが,被告Y5は,セミナー終了後,原告X1に対して本件社債に関する試算表を示して説明したこと,被告会社の従業員は,平成27年12月11日,17日及び平成28年1月5日に,原告X1に対し,本件社債について「是非,前向きにご検討いただければと思いますので,何卒,よろしくお願いいたします。」(甲15),「ご紹介いたしましたLIG社の第3回私募債ですが残りわずかとなっておりますので,ご購入をご検討の場合は一度ご連絡ください。是非,前向きにご検討の程よろしくお願いいたします。」(甲16),「今月も前回ご契約いただきましたSAP24ファンドの事業者であるLIG社が,私募債を発行しておりますので,そちらをご紹介させていただいております。商品内容としましては前回同様の,運用期間:1年間 年率:18.8%(税込) 1口の金額:100万円」(甲18)などと記載されたメールを送信していること,LIGは,被告Y1に言われて,被告会社に対し,社債購入者1名当たり10%の手数料を支払ったこと,原告X1は,上記平成12月17日のメールを受信した2日後に,本件社債を初めて申し込んだこと,以上の事実が認められる。
(ウ) 金融商品取引における勧誘とは,投資者に対し,特定の金融商品の存在を示して関心を持たせ,その金融商品に対する投資意欲が湧くように働きかけをすることをいうものと解され,「ご紹介」という言葉を用いながらも,被告Y5が試算表を示して本件社債の説明をしたり,本件社債の具体的な商品内容をメールで伝えたり,残りわずかとなっているなどと購入意欲を煽るような働きかけをしており,これらの被告会社の行為は,実質的にみて勧誘行為と評価するのが相当である。
したがって,被告ら(被告Y6及び被告Y7を除く)が原告X1に対して本件社債の購入を勧誘していないという被告らの主張は理由がない。
イ 原告X2らについて
一方,被告Y1及び被告会社の従業員が,原告X2らとの間で,本件社債について何らかのやり取りをしたことを認めるに足りる証拠はなく,前記認定事実によれば,原告X2らは,原告X1に勧められるままに本件社債の購入を決意し,被告会社を介さずに直接LIGに本件社債の購入を申し込み,LIGに契約書を郵送すると共に,同社に購入代金を振り込んだことが認められる。
結局,原告X2らが本件社債の購入を決意するまでの間に,被告Y1及び被告会社の従業員が,原告X2らに対して,本件社債の購入を直接勧誘したこともないし,原告X1に対して原告X2らへ情報提供したり,購入を勧めたりすることを依頼した事実を認めることはできない。
よって,被告Y1及び被告会社の従業員が,原告X2らに対して本件社債の購入を勧誘したことを前提として,その違法性をいう原告らの主張は,失当である。
(4)  適合性原則違反
ア 金融商品取引業者は,金融商品の取引等について,顧客の知識,経験,財産の状況及び契約締結の目的に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならないところ(金融商品取引法40条),金融商品取引業者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上違法となると解するのが相当である。そして,上記のような顧客の適合性を判断するに当たっては,取引の対象となった商品の具体的な特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,金融商品取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるというべきである(最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1323頁参照)。
イ 本件ファンドについて
(ア) 本件ファンドは,前記認定事実のとおり,MTキャピタルがファンド営業者となって多数の出資者から匿名組合方式によって資金を集め,集めた出資金を原資として回胴式遊技機を購入し,これをファンド事業者であるLIGに賃貸し,LIGが遊技場に転貸し,それにより得られた賃料収入を原資としてこれを各出資者に配当するというものである。
そうすると,本件ファンドの収益は,LIGが取り扱う回胴式遊技機について,遊技場との間で賃貸借契約が締結できるか否かにかかっており,賃貸借契約の成否については,当該回胴式遊技機の人気等にも左右されるところ,賃貸借契約の締結に失敗すれば,利息部分はもとより,元本も回胴式遊技機の購入により失われる可能性もあるのであって,出資者への説明通りに事業を遂行していた場合であっても,相応のリスクが内在する商品といえる。
(イ) 一方,原告X1は,年利16%という利率の高さに着目し,自ら説明会に赴いて,本件ファンドの購入の検討を開始した。
また,証拠(乙1,原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,本件ファンド購入の際,投資目的につき住宅資金,投資資金として余裕資金,自らの年収額につき500万円以上1000万円未満,純資産額について1000万円以上2000万円未満と本件調査票に記載して被告会社に回答している。
そして,本件ファンドについての説明を受けた上で,その構造やリスクについて理解したことから,「商品内容等のチェック表」に,商品内容を理解した旨を示す丸を記載し,「取引に関する確認書」に,署名押印をしたものと認められる。
更に,証拠(原告X1本人)によれば,原告X1は,本件ファンド購入以前に長年にわたる投資信託の経験があること,本件ファンドの購入原資は当時投資信託に充てていた金銭であったこと,本件ファンドについては高利率であることから相応の危険性があること自体は認識していたこと,投資信託に充てていた金銭について自宅不動産の購入の頭金として利用するか本件ファンドに投資するか検討した結果,本件ファンドに投資することを選択したこと及び自宅不動産の購入については頭金の支払こそしなかったものの建築を終えて現在居住中であること,以上の事実が認められる。
その上,前記認定事実によれば,原告X1は,平成27年8月に本件ファンドを初めて購入して以来,毎月本件ファンドを購入しているものであって,積極的に利益を得ようとする投資意向を有していたと認めることができる。
以上の事実を総合すると,原告X1は,本件ファンドには一定のリスクが内在することを認識しつつ,年利16%という高利率の本件ファンドを購入して積極的に収益を得ることを求めて本件ファンドの購入を決定したものと認められるし,それが原告X1の資産状況等の投資適性に照らして明らかに過大な危険を伴う取引であるとは認められない。
なお,原告X1は,本件ファンド購入にあっては,安定した取引意向を有していた旨を主張するものの,一般的に安定性の高い国債や信用格付けが高い社債等に比してはるかに高利率(ハイリターン)の本件ファンドの購入を,大手の証券会社ではない比較的小規模な被告会社において積極的に行っているということからすると,原告X1の上記主張には理由がない。
ウ 本件社債について
(ア) 本件社債は,前記(2)アのとおり,基本的構造としては一般的な小規模私募債であり,年利が18.8%と極めて高く,中途解約や譲渡は禁止されているものの,償還期限は購入から約1年後であり,長期の拘束を受けるものではなく,投資経験の乏しい者について特別の注意が必要となるような,複雑な構造を備えているような金融商品ではない。
一方,社債である以上,LIGの経営状況の如何によっては,償還不能等のリスクが生ずる可能性があることは当然であり,この点について,本件社債のセミナーにおいて,被告Y7が一般的な社債に内在するリスクとして説明したことは前記認定の通りである。
(イ) そうすると,原告X1の投資適性については前記認定の通りであり,原告X1は本件社債の説明を聞き,本件社債に一定のリスクが内在することを認識しつつ,年利18.8%という高利率の本件社債を購入して積極的に収益を得ることを求めて本件社債の購入を決定したものと認められるし,それが原告X1の資産状況等の投資適性に照らして明らかに過大な危険を伴う取引であるとは認められない。
(5)  説明義務違反
ア 金融商品取引業者は,顧客に対して取引を勧誘するに当たっては,顧客の自己責任による取引を可能とするため,取引の内容や顧客の投資取引に関する知識,経験,資力等に応じて,顧客において当該取引に伴う危険性を具体的に理解できるように必要な情報を提供して説明する信義則上の義務を負うというべきである。そして,金融商品取引業者が上記のような義務に違反して顧客に対する勧誘行為を行った場合には,当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。
イ 本件ファンドについて
前記認定事実によれば,被告Y1は,説明会等において,本件ファンドに一般的に内在するリスク,すなわち,本件ファンドのパンフレットに記載されている各リスクについては,原告X1に対しても一通りの説明をした事実が認められる。
しかしながら,被告Y1がパンフレットに基づいて説明した本件ファンドの仕組みは,MTキャピタルが営業者として,払い込まれた出資金で遊技機を購入し,これを事業者であるLIGに賃貸し,LIGがこれを各遊技場に賃貸し,レンタル料の支払を受け,それが分配金の原資となるというものであるところ,前記認定事実によれば,MTキャピタルには従業員がおらず,MTキャピタルとLIGとの間の遊技機の発注と納品という取引の実態はなく,MTキャピタルに払い込まれた出資金はLIGに振り込まれ,LIGにおいて遊技機を仕入れて,各遊技場へ賃貸すると共に,販売もしていたことが認められる。
このように,被告Y1が説明した匿名組合事業の仕組みや事業内容自体が,事業の実態と異なっていたことに加えて,被告Y1が本来遊技機の購入に充てなければならない金員を目的外に流用し,その一部しか匿名組合事業に回しておらず,平成27年8月におけるLIGの遊技場への月間賃貸台数が50台以下であったことからすると,同月時点において,SAPファンドに係る匿名組合事業は実質的には破綻していたものといわざるを得ない。
そうすると,被告Y1が平成27年8月6日に開催されたSAPファンドの説明会において,原告X1に対して,上記事実を秘して本件ファンドへの出資を勧誘した行為は,金融商品取引業者が負っている説明義務にも違反しているというべきである。
ウ 本件社債について
被告Y1及び被告会社従業員が原告X1に対して本件社債の購入を勧誘したことは前述のとおりであり,被告会社が本件社債を勧誘する資格がなかったとしても,現実に原告X1に対して勧誘を行う以上は,前述の説明義務を免れるものではない。
前記認定事実によれば,本件社債の商品内容については,セミナーにおいて,LIGの代表者である被告Y7自身が説明を行ったのであり,その中で,被告Y7が社債一般に内在するリスクがあることについては説明したものの,被告Y5は原告X1に対し年利18.8%を前提とする試算表を示して,高収益な商品であることを説明しただけで,その時点において,破綻の危機に瀕していたLIGの財務内容等について,具体的な説明がされていた事実を認めることはできない。本件社債は,LIGの経営状況によって償還不能等のリスクが生ずるものであるから,LIGの財務内容等は,原告X1の投資判断において,極めて重要な情報であった。
したがって,被告Y1及び被告会社従業員が,このような重要な情報を提供せずに,原告X1に対して本件社債の購入を勧誘した行為は,説明義務に違反するものというべきである。
3  争点(2)(被告らの責任原因)について
(1)  被告Y1の責任
前記認定のとおり,被告会社の代表取締役である被告Y1は,本来回胴式遊技機購入に充てなければならないSAPファンドの出資金についてその一部を目的外に流用し,いわゆる空リースの状態となっており,遅くとも平成27年7月頃には,SAPファンドに係る匿名組合事業は実質的に破綻していたにもかかわらず,本件ファンドが不適正な金融商品であることを認識しながら,その事実を秘して本件ファンドへの出資を勧誘し,原告X1に対して本件ファンドに出資させたものと認められる。
また,被告Y1は,本件社債について,LIGの財務内容が破綻の危機に瀕しており,元本の償還も不能になる可能性が高いことを認識しながら,その事実を秘して,不適正な金融商品である本件社債の購入を勧誘し,原告X1に本件社債を購入させたものと認められる。なお,被告Y1及び被告会社従業員が,原告X2らに対して,本件社債の購入を勧誘した事実が認められないのは前述のとおりである。
よって,被告Y1は,原告X1に対し,本件ファンド及び本件社債について違法な勧誘行為を行って,同人に与えた損害について,民法709条,719条に基づく不法行為責任を負う。
(2)  被告会社
前記認定によれば,被告Y1による前記(1)の不法行為のうち,原告X1に対するものは,被告Y1が被告会社の代表者としての職務を行うについて行われたものということができるから,被告会社は,被告Y1の前記行為により,会社法350条に基づく損害賠償責任を負う。
(3)  被告Y2ら取締役の責任について
ア 証拠(甲61,乙11の1~5,12,被告Y1本人,被告Y2本人,被告Y3本人,被告Y4本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 被告会社は,従業員の数が被告Y2らを入れても10人に満たない会社であったところ,被告Y2及び被告Y3は,いずれも内部監視責任者の資格を有しており,被告Y2はコンプライアンス業務を,被告Y3は内部監査業務をそれぞれ担当していた。被告Y4は,経営企画部において,広告やウェブを使った集客を担当していた。
被告Y2らは,いずれも被告Y1から名目でよいから取締役になってもらいたいと就任を依頼されて取締役になったものであり,取締役に就任して以降も,役員報酬を受け取ったり,取締役として経営判断に関与したりすることはなく,従業員として業務に従事していた。
(イ) 被告会社では,取締役会はほとんど開かれず,社員全員による全体会議が月に1~2回開かれ,その会議では,被告Y1から収支報告がされ,ファンドの売上げの状況や目標,翌月の募集,各自の業務の状況などについてやり取りがされた。
(ウ) 被告Y3は,内部監査業務として,毎月,MTキャピタルのSAPファンド口座の預金通帳の写しを確認して,業務計画書と齟齬がないかをチェックする留保金の照合作業を行い,MTキャピタルとLIGの間の資金の流れをチェックしていた。また,MTキャピタルが顧客に対して作成,送付するファンドの事業報告書については,被告Y3及び被告Y2において,事業計画通りかどうか数字のチェックを行っていたが,LIGの遊技場への賃貸事業の状況については,特段確認をすることはなかったから,被告会社では,被告Y1以外は,LIGの内情について把握していなかった。
(エ) 被告Y1は,平成27年9月末頃から10月にかけてLIGの資金繰りが悪化したのを受けて,同月29日,MTキャピタルのファンド口座からLIGに資金を流用し,留保金に約2100万円の欠損が生じた。
被告Y3が同年10月分の留保金を照合した際に,このことに気付いたため,被告Y1に事情を尋ねたところ,LIGの被告Y7に聞くように言われたため,被告Y3は被告Y2と共に,平成28年1月初旬に被告Y7を訪ねて説明を求めたところ,同人は,被告Y1の事前の指示に従い,上記欠損金は回胴式遊技機の新規開発資金のために使った,新機種により売却益が出たら流出金の返却をしたいなどと述べた。
(オ) 被告Y1は,平成27年10月中旬に,Aによる8億円に上る資金流用が発覚したことについて,被告会社の従業員らに直接話をしたことはなかったが,この件について,同年12月にはWARIKANの主要代理店に協力を求めたことから,同月には大きな騒ぎになっていた。
(カ) 被告会社の監査役であるB会計士は,平成27年11月半ば頃,被告Y1と打合せを行い,その結果,被告Y1は,同年12月以降のSAPファンドの募集を停止するよう被告会社の従業員らに指示した。
B会計士は,同年11月15日頃,被告Y1に宛てて被告会社の監査役を辞任する旨のメールを送信した。同メールには,辞任の理由として,SAPファンドに関し,回胴式遊技機の設置状況が明らかにならないことや,金融商品取引法違反の行為があったことを示唆する内容が記載されていた。同メールは,被告Y2,被告Y3など被告会社の取締役の一部にも送信された。
(キ) SAPファンドの分配金及び償還金は,平成28年2月分の支払が不能となるまで,遅滞なく事業計画通りに支払われており,被告会社従業員においても,自ら又は身内が出資していることも多く,被告Y2においては3口,1000万円を,被告Y4においては父親等を含め合計500万円を,被告Y5においては母親等を含め約500万円をSAPファンド(19号を含む)に出資していた。
イ 株式会社の取締役は,代表取締役の業務執行全般を監視し,必要があれば取締役会を自ら招集し,あるいは招集することを求め,取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職責を負うものであるところ(最高裁昭和48年5月22日第三小法廷判決・民集27巻5号655頁参照),この職責は,名目的取締役であったとしても,取締役である以上,免れるものではないというべきである。
もっとも,前記認定事実によれば,MTキャピタルのSAPファンドの口座には,LIGから約定通りの収益金が振り込まれており,MTキャピタルとLIGとの間において,MTキャピタルがLIGから回胴式遊技機を購入し,それをLIGに貸し付けているかのような外観を呈する発注書及び納品書も作成されていたこと,平成27年10月分までは,留保金の照合作業においてもMTキャピタルとLIGの間の資金の流れに不自然なところはなかったことからすると,同年8月の時点で,被告Y2らがLIGの遊技場への賃貸事業が実際には空リースの状態であったことを容易に認識し得たとはいい難く,被告Y2らが被告会社において取締役会の開催を求めるなどしても,LIGの内情を明らかにできたとも言い切れない。
しかしながら,平成27年11月半ばに,B会計士と被告Y1が打ち合わせをした結果,12月以降のファンド募集を停止することになったこと,同じ頃,B会計士が辞任するに当たり,被告Y2や被告Y3にも送信したメールには,SAPファンドに関し,回胴式遊技機の設置状況が明らかにならないことや金融商品取引法違反の行為があったことを示唆する内容が記載されていたこと,通常,10月分の留保金の照合は11月の中頃までには行われるにもかかわらず,この時に限って遅れたこと,10月末にファンド口座からLIGへの資金流用,留保金の欠損が発生していたことなど,この頃立て続けにSAPファンドの信用にかかわるような事柄が発生しているのであるから,被告Y2らとしては,直ちに取締役会の開催を求めるなどして,LIGの遊技場への賃貸事業の実施状況に関する説明を求め,確認が取れるまでファンドの出資の受入れを停止するなどの措置を執るべきであったといえる。
それにもかかわらず,そのような措置を執ることなく漫然と同年11月25日に原告X1が本件ファンドに100万円を出資するのを受け入れたことについて,被告Y2らには,その任務懈怠について重過失があるというべきである。
ウ そして,その後には,被告Y1が,本件社債について,LIGの財務内容が破綻の危機に瀕しており,元本の償還も不能になる可能性が高いことを認識しながら,その事実を秘して,本件社債の購入を勧誘し,原告X1に本件社債を購入させたことについて,被告Y2らは,取締役会の開催を求めるなどして,LIGの財務内容に関する説明を求め,確認が取れるまで本件社債の購入勧誘を止めさせるべきであったといえ,そのような措置を執ることなく,漫然と原告X1に本件社債を購入させたのであるから,被告Y2らには,その任務懈怠について重過失があるというべきである。
エ 以上によれば,被告Y2らは,上記の点について,重大な過失により取締役としての任務を懈怠したものであるから,会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
(4)  被告Y5について
証拠(乙6の1~3,被告Y5本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y5は,被告会社における唯一の営業社員であり,普段は外回りをしており,被告会社には週に1回程度出社していたこと,全体会議には出席していたこと,B会計士から監査役を辞任する際のメールは見た記憶がないこと,平成27年8月にもSAPファンド19号に被告Y5の母が100万円を出資していること,以上の事実が認められる。
前記認定事実によれば,被告Y5は,同年8月に原告X1に対して,SAPファンドの分配金及び償還金が支払われていることを説明して,本件ファンドへの出資を勧誘したものであるが,被告Y5は内勤の被告Y2ら取締役に比べても情報量が少ない上,同月には自分の母親も追加出資しているのであり,この時点で,被告Y5において,本件ファンドが空リースを含む不適正な金融商品であると知っていたとは認められない。
したがって,被告Y5の原告X1に対する本件ファンドの勧誘行為に関して,説明義務違反をいう主張は前提を欠くものであって失当であり,また,適合性原則違反がないことは前述のとおりである。
前記認定事実によれば,被告Y5は,平成27年12月8日に行われた本件社債のセミナーの終了後に,被告X1に試算表を示して本件社債について説明したものであるが,その説明はセミナーにおける被告Y7の説明の補完としてされたものである上,この時点で,被告Y5において,LIGの財務内容が破綻の危機に瀕していることを認識していたと認めることはできないから,被告Y5の原告X1に対する本件社債の勧誘行為に関しても,説明義務違反の主張は前提を欠くものであって失当であり,また,適合性原則違反がないことは前述のとおりである。
よって,被告Y5は,原告X1に対する本件ファンド及び本件社債の勧誘について,不法行為責任を負わないものというべきである。また,被告Y5の原告X2らに対する勧誘行為が認められないのは前述のとおりであるから,原告らの被告Y5に対する請求はいずれも理由がない。
(5)  被告Y6について
前記認定事実並びに証拠(被告Y6本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y6は,被告Y1から,「形だけの代表でいい。」「パチスロ事業に関わらなくていい。」などと言われて平成27年7月1日にMTキャピタルの代表社員に就任し,以来平成28年2月1日まで,同社の代表社員であり,報酬として月5万円を受け取っていたこと,被告Y6は,前任の代表社員であるB会計士より引き継ぎを受けた際,決算書,通帳及び会計帳簿を確認した上で,B会計士から事業内容の説明を受け,内容について合理的であると判断したが,平成27年8月を最後にファンド口座の通帳すら見ていなかったこと,MTキャピタル自体は実体がなく,従業員もいないから,ファンドの管理,監査はB会計士が引き続き行うし,ファンド事業に関わる実務は全て被告会社に業務委託する形になっていたこと,MTキャピタルの印鑑及び印鑑登録カードもWARIKANのCが所持していたこと,以上の事実が認められる。
被告Y6は,代表社員の地位にある以上,対外的に同社を代表し,対内的に業務全般の執行を担当する職務権限を有する機関として,善良なる管理者の注意をもって会社のため忠実にその職務を執行し,ひろく会社業務の全般にわたって意を用いるべき義務を負っているところ,代表社員であるにもかかわらず,他の者に会社業務の一切を任せきりにし,その業務執行になんら意を用いないで,ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には,自らもまた悪意又は重大な過失により任務を怠ったものと解すべきである(最高裁昭和44年11月26日大法廷判決・民集23巻11号2150頁参照)。
前述のとおり,被告Y6は,本件ファンド事業に係る業務を全て被告会社に依頼し,被告会社及びその意を受けたWARIKANのCにおいて,SAPファンドの出資金についてその一部を目的外に流用し,いわゆる空リースの状態となっていながら,その事実を秘して本件ファンドの違法な投資勧誘を行わせ,MTキャピタルとの間で匿名組合契約を締結して出資金を受け入れ続けていたから,被告Y6はこれを阻止して,MTキャピタルの業務が適正,適法に行われるようにすべきであったのに,全てを漫然と被告会社に任せきりにして,平成27年8月を最後にファンド口座の通帳すら確認していなかったのであるから,被告Y6には,その任務懈怠について重大な過失があるといえる。
よって,被告Y6は,MTキャピタルの有限責任社員として,会社法597条に基づき,原告X1に対する損害賠償責任を負う。
(6)  被告Y7について
前記認定事実並びに証拠(被告Y7本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y7は,被告Y1から,回胴式遊技機の開発,賃貸及び販売事業のみを行うように指示されて平成26年6月にLIGの代表取締役に就任し,以来平成28年3月10日まで,同社の代表取締役であり,報酬として月40万円を受け取っていたこと,同社の実印や銀行印も被告Y7の管理下にはなかったこと,被告Y7は,LIGの平成27年7月のLIGの決算書類により,多額の入出金やAへの資金流出があることに気付いたが,Aや被告Y1に説明を求めても相手にされず,かえって被告Y1からファンド事業には関わらないように告げられたこと,LIGには被告Y7が閲覧すらできないY1管理口座があり,そこからY7管理口座に振り込まれる金額は一部に過ぎず,それを用いて回胴式遊技機を購入し,実際に賃貸に回されていた回胴式遊技機の台数は50台足らずであったから,空リースとなっていることに気付いていたが,ファンド事業には関わらないようにし,回胴式遊技機の開発についてのみ注力していたこと,以上の事実が認められる。
これによれば,被告Y7は,LIGに使途不明金が生じていることや,LIGのSAPファンドに係る回胴式遊技機の賃貸事業が空リースになっていることを認識していたものの,結局,A及び被告Y1との力関係でこれを是正することができず,その後は漫然と放置し,被告会社による本件ファンドの違法な勧誘行為を続けさせたことが認められる。
以上によれば,被告Y7には,LIGの代表取締役として,その任務懈怠について重大な過失があるといえる。
よって,被告Y7は,LIGの代表取締役として,会社法429条1項に基づき,原告X1に対する損害賠償責任を負う。
また,前記認定事実によれば,被告Y7は,本件社債について平成27年12月8日の説明会において自ら本件社債について説明するなどして,原告X1に対して,被告Y1及び被告会社の従業員らと共に本件社債の購入を勧誘したことが認められる。
被告Y7が,本件社債の勧誘の時点において,LIGの財務内容が破綻の危機に瀕しており,元本の償還も不能になる可能性が高いことを認識していたことは前述のとおりであり,その事実を秘して,不適正な金融商品である本件社債の購入を勧誘し,原告X1に本件社債を購入させた行為は違法な勧誘行為であるから,被告Y7は,本件社債の勧誘によって原告X1に与えた損害について,民法709条,719条に基づく不法行為責任を負う。
また,被告Y7についても,原告X2らに対して,勧誘行為を行った事実を認めることができないから,原告X2らの被告Y7に対する請求はいずれも理由がない。
4  争点(3)(損害額はいくらか)について
(1)  前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,本件ファンドに出資した合計800万円から,償還を受けた金員(19万0992円)及び破産手続における配当を受けた金員(72万1247円)を控除した残額である708万7761円並びに本件社債購入のために支払った額である600万円の損害を被ったものと認められる。
なお,前述のとおり,被告Y2らが任務懈怠によって生じた損害賠償責任を負うのは,原告X1がSAPファンド22号に出資した100万円及び本件社債を購入した600万円の合計700万円であり,SAPファンド22号について償還された金員はないものの(争いがないほか,弁論の全趣旨),破産手続における配当金を原告X1が出資した本件各ファンドへの出資額で按分すると,SAPファンド22号については9万0156円(1円未満四捨五入)となるからこれを控除した690万9844円について,被告Y2らの任務懈怠と相当因果関係のある損害と認められる。
(2)  過失相殺について
被告Y1は,本件ファンド及び本件社債が金融商品として不適正なものであることを承知の上で,敢えて原告X1に対して違法な勧誘行為を行い,前記の損害を生じさせたと認められるから,被告Y1及び被告会社との関係において,過失相殺をすることは相当でない。
また,原告X1は,前記認定のとおり,極めて高利率(ハイリターン)の本件ファンド及び本件社債を購入するにあたり,被告会社が第二種金融商品取引業者であるとの確認をしたほかに,被告Y5に口頭で大丈夫か確認しただけで,なんらの調査,確認も行わずに,短期間に次々と高額の出捐を繰り返した点で落ち度がないとはいえないものの,被告らが勧誘に際して本件ファンドにおける匿名組合事業の運用状況や実績等について,具体的な資料を示して説明した事実を認めることはできず,LIGの本件社債の購入を勧誘するに際しても,LIGにおける回胴式遊技機の賃貸事業の業績やLIGの財務内容について具体的な数値を基に説明したような事実は全く窺われないのであって,そのような事実関係の下においては,他の被告との関係においても過失相殺をすることは相当ではない。
(3)  そして,上記に認定した損害の金額,本件訴訟の経緯その他本件に現れた諸事情を考慮すると,前記不法行為又は任務懈怠行為と相当因果関係のある弁護士費用は130万円と認めるのが相当である(ただし,被告Y2ら及び被告Y6の任務懈怠行為と相当因果関係のある弁護士費用はこのうち70万円に限る。)。
第4  結論
以上によれば,原告X1の被告Y5を除く被告らに対する請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余の部分についてはいずれも理由がないからこれを棄却することとし,原告X2らの被告Y6を除く被告らに対する請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法64条,61条並びに65条1項ただし書を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部
(裁判長裁判官 男澤聡子 裁判官 森田淳 裁判官 奥山直毅)

 

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