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「業務委託 代理店 営業」に関する裁判例(13)平成30年 4月26日 東京地裁 平27(ワ)5720号 損害賠償等請求本訴事件、損害賠償請求反訴事件、損害賠償等請求事件

「業務委託 代理店 営業」に関する裁判例(13)平成30年 4月26日 東京地裁 平27(ワ)5720号 損害賠償等請求本訴事件、損害賠償請求反訴事件、損害賠償等請求事件

裁判年月日  平成30年 4月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)5720号・平27(ワ)16111号・平27(ワ)24677号
事件名  損害賠償等請求本訴事件、損害賠償請求反訴事件、損害賠償等請求事件
文献番号  2018WLJPCA04268018

裁判経過
控訴審 平成30年12月 5日 東京高裁 判決 平30(ネ)3095号 損害賠償等本訴請求、損害賠償反訴請求、損害賠償等請求控訴事件

裁判年月日  平成30年 4月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(ワ)5720号・平27(ワ)16111号・平27(ワ)24677号
事件名  損害賠償等請求本訴事件、損害賠償請求反訴事件、損害賠償等請求事件
文献番号  2018WLJPCA04268018

平成27年(ワ)第5720号 損害賠償等請求本訴事件(第1事件)
平成27年(ワ)第16111号 損害賠償請求反訴事件(第2事件)
平成27年(ワ)第24677号 損害賠償等請求事件(第3事件)

東京都品川区〈以下省略〉
第1事件原告兼第2事件被告 X1株式会社
(旧商号はa株式会社。以下「原告X1社」という。)
同代表者監査役 A
東京都品川区〈以下省略〉
第1事件原告兼第2事件被告 X2(以下「原告X2」という。)
東京都品川区〈以下省略〉
第3事件原告 X3株式会社(以下「原告X3社」という。)
同代表者監査役 A
上記3名訴訟代理人弁護士 北村克己
東京都中央区〈以下省略〉
第1事件被告兼第2事件原告兼第3事件被告 Y(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 中村信雄
同 友田順

 

 

主文

1  原告X1社,原告X2及び原告X3社の各請求をいずれも棄却する。
2  原告X1社は,被告に対し,100万円及びこれに対する平成27年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告のその余の請求を棄却する。
4  第1事件の訴訟費用は原告X1社及び原告X2の連帯負担とし,第2事件の訴訟費用は,被告と原告X1社との間においてはこれを50分し,その47を被告の負担とし,その余を原告X1社の負担とし,被告と原告X2との間においては被告の負担とし,第3事件の訴訟費用は原告X3社の負担とする。
5  本判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求の趣旨
1  第1事件(第2事件の本訴)
(1)  被告は,原告X1社に対し,1億7826万5688円及びこれに対する平成27年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)  被告は,原告X2に対し,1000万円及びこれに対する平成27年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  第2事件(第1事件の反訴)
(1)  原告X1社は,被告に対し,1650万円及びこれに対する平成27年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)  原告X2は,被告に対し,1000万円及びこれに対する平成27年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  第3事件
被告は,原告X3社に対し,1億円及びこれに対する平成27年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  概観
(1)  第1事件
ア 本件の第1事件は,東京証券取引所マザーズ上場会社である原告X1社,同原告が平成23年9月28日の株式交換契約(以下「本件株式交換契約」という。)により完全子会社化した原告X3社及び本件株式交換契約を契機として原告X1社の経営に参画しその代表取締役に就任した原告X2が,共同原告となって,原告X1社の創業者であり元代表取締役である被告に対し,次のア~ウの各請求を併合した訴えを提起した事案である。
(ア) 原告X1社が,被告は信義則上の義務に違反して出版社に虚偽の情報を提供し,同情報が掲載された雑誌の記事により原告X1社の営業上の信用が毀損されたと主張して,選択的に不正競争防止法2条1項15号(請求の根拠規定の特定につき同法2条1項14号をもってする当事者の主張を,現行法に則して上記のとおり読み替える。以下同じ。)所定の不正競争行為又は民法709条所定の不法行為を根拠とする損害賠償請求権に基づき,顧客との取引の失注額に相当する損害金1億8942万0798円と慰謝料1000万円との合計1億9942万0798円の一部である1億円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成27年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める各請求(以下「本訴雑誌関係請求」という。)
(イ) 原告X1社が,同原告と被告との間の同月10日付け「確認書」と題する文書(甲10。以下「本件確認書」という。)等で合意された競業避止義務及び原告X1社株式の無断売却禁止義務に被告が違反したと主張して,債務不履行を根拠とする損害賠償請求権に基づき,原告X1社の株価の下落による損失に相当する損害金7826万5688円及びこれに対する上記アと同じ期間と割合による遅延損害金の支払を求める請求(以下「本訴確認書違反関係請求」という。)
(ウ) 原告X2が,同原告と被告との間の同月28日付け「覚書」と題する文書(甲12。以下「本件覚書」という。)で合意された競業避止義務及び原告X1社株式の無断売却禁止義務に被告が違反したと主張して,債務不履行を根拠とする損害賠償請求権に基づき,約定違約金1000万円及びこれに対する上記アと同じ期間と割合による遅延損害金の支払を求める請求(以下「本訴覚書違反関係請求」といい,本訴確認書違反関係請求と併せて「本訴各義務違反関係請求」と総称する。)
イ 被告は,本訴雑誌関係請求(上記ア(ア))に対しては,競争関係,被告の信義則上の義務違反,雑誌記事による同原告の信用毀損,被告の出版社への情報提供と同原告の信用毀損との間の相当因果関係,被告の故意・過失をいずれも否認した上,雑誌記事の内容につき真実性及び真実であると信じたことについての相当性がある旨の抗弁を主張し,本訴確認書関係請求(上記ア(イ))に対しては,競業避止義務及び同原告株式の無断売却禁止義務を定めた同原告と被告との間の合意の効力が被告に及ぶこと,被告が上記各義務に違反したこと,同原告の損害,被告の債務不履行と同原告の損害との間の相当因果関係をいずれも否認した上,上記合意につき公序良俗違反又は会社法127条違反による無効の抗弁を主張し,本訴覚書違反関係請求(上記ア(ウ))に対しては,競業避止義務及び原告X1社株式の無断売却禁止義務を定めた原告X2と被告との間の合意の効力が被告に及ぶこと,被告が上記各義務に違反したことを否認した上,上記合意につき公序良俗違反又は会社法127条違反による無効の抗弁,及び第2事件における被告の原告X2に対する請求債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張して,原告X1社及び原告X2の各請求の棄却を求めている。
(2)  第2事件
ア 本件の第2事件は,第1事件を本訴とする反訴として,被告が,原告X2及び原告X1社を共同被告として,次のア・イの各請求に係る訴えを併合提起した事案である。
(ア) 被告と原告X2との間で合意された法令等遵守義務に同原告が違反したと主張して,同原告に対し,債務不履行を根拠とする損害賠償請求権に基づき,約定違約金1000万円及びこれに対する本件反訴状送達の日の翌日である平成27年6月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求(以下「反訴義務違反関係請求」といい,本訴各義務違反関係請求と併せて「本件各債務不履行関係請求」と総称する。ただし,反訴義務違反関係請求は,前記(1)イのとおり,本訴覚書関係請求に対する相殺の自働債権に供されているため,第1事件に関し,同抗弁について既判力ある判断が示された場合には,その部分については反訴請求としない趣旨の予備的請求となるものと解される。)
(イ) 原告X1社が公表したIR(投資家向け広報)資料により被告の社会的評価が低下したと主張して,同原告に対し,不法行為を根拠とする損害賠償請求権に基づき,慰謝料150万円と取引失注による損害金1500万円との合計1650万円及びこれに対する上記(ア)と同じ期間と割合による遅延損害金の支払を求める請求(以下「反訴IR関係請求」という。)
イ 原告X2は,反訴義務違反関係請求(上記ア(ア))に対し,法令等遵守義務を定めた同原告と被告との間の合意の効力が同原告に及ぶこと,法令等遵守義務違反の効果として違約金支払義務が生じることをいずれも争うともに,同原告の法令等遵守義務違反を否認し,原告X1社は,反訴IR関係請求(上記ア(イ))に対し,IR資料による被告の社会的評価の低下を否認した上,IR資料の内容につき真実性及び真実であると信じたことについての相当性がある旨の抗弁,並びに正当防衛ないし正当行為の抗弁を主張して,それぞれ被告の請求の棄却を求めている。
(3)  第3事件
ア 本件の第3事件は,本件株式交換契約により原告X1社の完全子会社となった原告X3社が,被告に対し,被告は信義則上の義務に違反して出版社に虚偽の情報を提供し,当該情報が掲載された雑誌の記事(本訴雑誌関係請求における記事と同じもの)により営業上の信用が毀損されたと主張して,選択的に不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争行為又は民法709条所定の不法行為を根拠とする損害賠償請求権に基づき,顧客との取引の失注額に相当する損害金6億2750万9194円と慰謝料1000万円との合計6億3750万9194円の一部である1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年9月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下「第3事件請求」といい,本訴雑誌関係請求と併せて「本件各雑誌関係請求」と総称するとともに,反訴IR関係請求と併せて「本件各不法行為関係請求」と総称する。)事案である。
イ 被告は,競争関係,被告の信義則上の義務違反,雑誌記事による原告X3社の信用毀損,被告の出版社への情報提供と同原告の信用毀損との間の相当因果関係,被告の故意・過失をいずれも否認した上,雑誌記事の内容につき真実性及び真実であると信じたことについての相当性がある旨の抗弁を主張して,原告X3社の請求の棄却を求めている。
2  前提事実(当事者間に争いがない事実と掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)  当事者
ア 原告X1社(平成29年3月30日に従前の商号である「a株式会社」を現在の商号である「X1株式会社」に変更した。)は,創業者である被告により平成12年4月17日に設立され,平成19年に東京証券取引所マザーズに上場した,平成26年11月1日時点の資本金6億5568万3438円の,コンピュータシステム,コンピュータソフトウェア,建設機械,自然エネルギー等に各関連する事業を目的に掲げる会社である。(甲1,5,6)
イ 原告X3社は,創業者である原告X2により平成18年6月6日に設立された,資本金5000万円の,建設機械,自然エネルギー等に各関連する事業を目的に掲げる,公開会社でない株式会社である。(甲2,5,6)
ウ 原告X2は,平成19年に日本国籍を取得した中華人民共和国(以下「中国」という。)出身者であり,原告X3社を創業してその株式の75パーセントを保有していたが,本件株式交換契約を契機に,被告に代わり原告X1社の筆頭株主(保有株式数を発行済み株式総数で除して得た割合が最大の株主)となり,その後は次のとおり原告X1社の経営上の地位の得喪を経た者である。
(ア) 平成23年11月24日,COO(最高執行責任者)の肩書のある取締役兼代表取締役に就任した。
(イ) 平成24年9月27日,被告ともども代表取締役を退いて単なる取締役となった。
(ウ) 平成25年2月14日から平成28年9月28日まで再度代表取締役を務め,現在は取締役の地位にある。
(甲2,5,6,140の14及び15,甲141の11,甲142の4,甲145の8)
エ 被告は,原告X1社を創業し,当初から取締役兼代表取締役を務め,上場後も筆頭株主の立場にあったが,本件株式交換契約を契機に筆頭株主ではなくなり,その後は次のとおり原告X1社の経営上の地位の得喪を経るとともに,原告X3社の代表取締役を務めたことがある者である。
(ア) 原告X2がCOOの地位に就いた平成23年11月24日以後も,CEO(最高経営責任者)の肩書のある取締役兼代表取締役の地位に留まった。
(イ) 平成24年9月27日,原告X2ともども代表取締役を退いて単なる取締役となった。
(ウ) 平成24年12月31日,取締役を辞任して経営から完全に離脱した。
(甲1,5,6,140の15,甲141の11及び20,乙27の1)
(2)  関係者
ア A(以下「A」という。)は,原告X1社の現監査役と原告X3社の現監査役を兼ね,上記両原告を代表して本件訴訟を追行する者である。(甲1,2)
イ B(以下「B」という。)は,原告X1社の元監査役(平成18年1月~平成24年12月20日)である。(甲1)
ウ C(以下「C」という。)は,原告X3社株式の23パーセントを保有しその経営に関与していた中国出身者であり,本件株式交換契約を契機に,原告X1社の主要株主(100分の10以上の議決権を保有する株主)に加わり,原告X2と共に原告X1社の経営にも関与するようになった者である。(甲2,5,6,140の14及び15)
エ b株式会社(以下「b社」という。)は,創業者である被告により平成25年1月31日に設立された,資本金10万円の,コンサルティング業務,コンピュータシステム,太陽光発電システム等に各関連する事業を目的に掲げる,公開会社でない株式会社であり,被告がその代表取締役を務めている。(甲13)
オ c社(以下「c社」という。)は,原告X3社と取引のあった,ソーラーシステムのモジュールの製造販売等を手がける,米国ナスダック市場に上場している中国企業である。(乙5の1)
カ d株式会社(以下「d社」という。)は,原告X3社及び株式会社e(以下「e社」という。)の共同出資により平成24年7月19日に設立され,同年9月頃に原告X3社がe社に対して合弁事業の解消を申し入れたことにより解散した,自然エネルギー等関連事業を目的とする,本店所在地を沖縄県糸満市内とする会社である。(乙50)
キ D(通称として「D1」を使用することもある。以下「D」という。)は,そのd社との関係の有無につき当事者間に争いがある,株式会社fの代表取締役である。(甲116,乙50,51)
(3)  原告X1社と原告X3社との間の本件株式交換契約
原告X1社と原告X3社は,平成23年9月28日,原告X3社株式1株に対して原告X1社株式16.172株を割り当て,原告X1社を完全親会社,原告X3社を完全子会社とする内容の本件株式交換契約を締結し,同年11月24日開催の原告X1社の臨時株主総会における承認を経て,同月29日,本件株式交換契約に基づく株式交換(以下「本件株式交換」という。)が効力を生じた。(甲5,6)
(4)  東京証券取引所による審査の経緯
原告X1社は,東京証券取引所に対し,本件株式交換の日から起算される,新規上場審査基準に準じた基準に適合しているかどうかの審査を受けるための猶予期間(新規上場審査を免れて実質的に上場を果たす,いわゆる裏口上場を廃止するための上場廃止基準である「合併等による実質的存続性喪失に係る上場廃止基準」に基づくもの)中に,上記審査の申請をすることができず,東京証券取引所は,原告X1社株式を上記猶予期間の最終日である平成27年7月1日付けで監理銘柄(確認中)に指定し,さらに,上記審査の申請がされた日である同年10月9日付けで監理銘柄(審査中)に指定したところ,東京証券取引所は,平成28年9月29日,審査の結果,原告X1社が新規上場審査基準に準じた基準に適合すると認めて,監理銘柄(審査中)の指定を解除し,原告X1社の東京証券取引所マザーズにおける上場が継続されることとなった。(甲145の9)
(5)  原告X1社と被告との間の合意
ア 被告は,平成23年9月10日,原告X1社を名宛人として,本件確認書(甲10)を作成してこれを原告X1社に交付し,もって,以下の条項(用字用語は,本判決中の呼称ないし略語に読み替えた点及び西暦を和暦に変換した点を除くほか,原文のとおりである。なお,第1条中の「○○グループ」及び第5条中の「法令等」に係る各定義は,当裁判所の向後の認定・説示において用いるところではない。)を含む本件確認書の記載内容に同意する旨の意思表示をした。(甲10,11)
第1条(グループへの貢献)
被告は,原告X1社と原告X3社との間で締結した本件株式交換契約に関して,原告X1社及び原告X3社が相互に連携し,グループとしての企業価値を向上させるべく円滑かつ対等の精神をもってグループ経営してゆくことに原告X1社又は原告X3社(両社を総称して「○○グループ」という)の取締役として本件株式交換契約の効力発生日後少なくとも2年間従事します。
第2条(取締役の辞任)
被告は,前条にもかかわらず取締役を辞任しようとする場合には,事前に原告X1社に通知し同社取締役会の賛同を得た上で辞任するものとします。
第3条(競業避止義務)
被告は,本件株式交換契約効力発生日後5年を経過する日までの間,原告X1社及び原告X3社が本件確認書締結日において実行(営業活動を含む)している事業と競合すると原告X1社取締役会が判断する事業を直接又は間接に行いません。
2  被告は,本件株式交換契約効力発生日後5年を経過する日までの間,自ら又はその関係者を通じて,原告X1社又は原告X3社の役員又は従業員を勧誘し,原告X1社又は原告X3社からの退職を促し,又はその他何らの働きかけも行いません。
第4条(株式の長期保有)
被告は,本件株式交換契約効力発生日において所有する原告X1社が発行する株式について,第1条の趣旨に基づき長期的に保有するものとし,本件株式交換契約効力発生日後少なくとも2年を経過する日までは第三者に売却しません。但し,原告X1社の取締役会が合理的と判断(決議ではない)する場合はその限りではないものとします。
2  被告は,自己が所有する原告X1社が発行する株式を第三者に売却しようとする場合には,売却契約を締結しようとする1ヶ月前までに原告X1社に通知します。
第5条(法令等の遵守)
被告は,○○グループの役員として,各種法令,原告X1社が株式を上場する金融商品取引所規則(以下,「法令等」という)を遵守します。
第6条(有効期間・解除)
本件確認書の有効期間は本件株式交換契約にかかる本件株式交換効力発生日から平成28年11月30日までとします。〔以下略〕
イ  被告は,平成24年6月20日,原告X1社を名宛人として,「追加確認書」と題する文書(甲11。以下「本件追加確認書」といい,これと本件確認書を併せて「本件確認書等」と総称する。)を作成してこれを原告X1社に交付し,もって,本件確認書第4条の内容を,「被告は,今後も,本件確認書によって定められた期間終了日までは,事前に原告X1社取締役会に書面により通知し了承を得ることなく,株式を第三者に売却すること及び売却の打診をすることをいたしません。」との記載(上記用字用語は,本判決中の呼称ないし略語に読み替えた点を除くほか,原文のとおりである。)を含む本件追加確認書の記載内容に修正する旨の意思表示をした。(甲11)
(6) 原告X2と被告との間の合意
原告X2及び被告は,平成23年9月28日,本件覚書(甲12)を作成し,もって,以下の条項(用字用語は,本判決中の呼称ないし略語に読み替えた点及び西暦を和暦に変換した点を除くほか,原文のとおりである。なお,第7条中の「法令等」に係る定義は,当裁判所の向後の認定説示において用いるところではない。)を含む本件覚書の記載内容につき合意した。(甲12)
第1条(目的)
被告及び原告X2は,本件覚書締結日現在,被告が代表取締役を務め議決権の23.14%を所有する原告X1社と,原告X2が代表取締役を務め議決権75%を所有する原告X3社間で締結した本件株式交換契約に関して,原告X1社及び原告X3社が相互に連携し,グループとしての企業価値を向上させるべく円滑かつ対等の精神をもってグループ経営することを目的に本件覚書を締結する。
第4条(競業避止義務)
被告及び原告X2は,本件株式交換契約効力発生日後5年間を経過する日までの間,原告X1社及び原告X3社が本件覚書締結日において実行(営業活動を含む)している事業と競合すると双方,あるいは取締役会が判断する事業を直接又は間接に行わないものとする。
2 被告及び原告X2は,本件株式交換契約効力発生日後5年間を経過する日までの間,自ら又はその関係者を通じて,原告X1社又は原告X3社の役員又は従業員を勧誘し,原告X1社又は原告X3社からの退職を促し,又はその他何らの働きかけも行わない。
第6条(株式の保有)
被告及び原告X2は,本件株式交換契約効力発生日において所有する原告X1社が発行する株式について,本件株式交換契約の趣旨に基づき長期的に保有するものとし,本件株式交換契約効力発生日後少なくとも2年間を経過する日までは第三者に売却しないものとする。但し,原告X1社の取締役会が合理的と判断(決議ではない)する場合はその限りではない。
2 被告及び原告X2は,自己が所有する原告X1社が発行する株式を第三者に売却しようとする場合には,売却契約を締結しようとする1ヶ月前までに相手方に通知し,被告原告X2間で協議を行うものとする。
第7条(法令等の遵守)
被告及び原告X2は,各種法令,原告X1社が株式を上場する金融商品取引所規則(以下,「法令等」という)に従い原告X1社及び原告X3社を運営するものとし,両社の役職員に対しても法令等の遵守を徹底するものとする。
第8条(違約金)
被告及び原告X2は,被告原告X2のいずれかが本件覚書に違約した場合,違約した当事者は相手方当事者に対し違約金として金1000万円を速やかに支払う義務を負うものとする。
第9条(有効期間・解除)
本件覚書の有効期間は本件株式交換契約にかかる本件株式交換契約効力発生日から平成28年11月30日までとします。〔以下略〕
(7) 被告による原告X1社株式の売却処分
被告は,平成25年5月28日から同年6月3日までの間に,自己の保有する原告X1社株式の一部合計800株を1株4万4900円~4万7726円で売却処分した(以下「本件売却処分」という。)。本件売却処分の結果,平成25年6月3日時点で被告が保有する原告X1社株式の数は1743株となり,その保有割合(上記保有株式数を当時の発行済み株式総数3万5144株で除して得た割合)は,金融商品取引法27条の23第1項に基づく大量保有報告書の提出義務が課される基準となる5パーセントを下回る約4.96パーセントまで低下した。(甲14)
(8) 被告作成文書の関係諸機関への送付
被告は,平成26年9月付けで,「X1株式会社に関わる不適切な審査プロセス及び経営陣の不正行為に関する管理監督のお願い」と題する,原告X1社に係る管理監督等を要請する体裁の,本文が9頁にわたる文書(乙93。以下「本件要請文書」という。)を作成し,これを,同年10月15日又はこれに近接する時期において,証券取引等監視委員会及び東京証券取引所に対し,「提携パートナーの選定及びプロセス(Due Diligence,提携後判明した法令違反他諸問題の対応等)の失敗から,現在のX1社はガバナンス,コンプライアンス上非常に不健全な会社となってしまいました。」,「本来上場企業として存続すべきではない(と私が信じる)X1社の問題を指摘し,公正なご審査,ご監督の一助となることが創業者としての務めと信じ,本資料を提出させて頂きます。」等の文言が記載された添え状(乙92)とともに,原告X1社が公表したIR資料,本件株式交換契約の締結に至る過程で利用されたものと見受けられる資料,その他原告X1社に関連する作成主体を区々にする種々の資料合計17通(乙94の1~17。以下「本件要請文書添付資料」という。)を添付して提出した。(乙92,93,94の1~17)
(9) g誌の発行及び記事の内容
公表発行部数2万部(平成23年当時)の会員制月刊総合情報誌であり,発行人兼編集主幹をE(以下「E」という。)が務める「g誌」の平成25年5月号(以下「本件g誌」という。)の78頁から79頁にかけて,「『強欲』中国人の日本企業乗っ取り術」との見出し(以下「本件g誌見出し」という。)の下,本件の全当事者が実名で記載された,本件株式交換の経緯等に関する記事(以下「本件g誌記事」という。)が掲載された。本件g誌記事のうち原告X1社及び原告X3社がその信用を毀損するものであると主張する具体的な記載部分は,上記見出しのほか,本文中の次の各記載部分(以下,各冒頭の中括弧内記載のとおり略称する。)である。(甲15,24,乙80)
〔本件g誌本文部分1〕
「X3社は,米ナスダック上場のc社との間で日本での独占販売契約を結んでいる」
「発電システムの受注がこれだけあり,今後これだけ増える」
o大学大学院p研究科卒というX2らの景気のいい話に,当時のX1社社長,Yはまんまと口車に乗せられた。
〔本件g誌本文部分2〕
関係者は今や「X2らが説明したX3社の事業計画はウソや紛らわしい内容ばかりだった」とホゾを噛んでいる。
〔本件g誌本文部分3〕
c社との「独占販売契約」はフィクションだった。
〔本件g誌本文部分4〕
「発電システムの受注リスト」も取引が完了した案件はなく
〔本件g誌本文部分5〕
台所事情が火の車なのにX1社の移転を強硬に主張して,移転費用を多く流出させるなど,やりたい放題。
〔本件g誌本文部分6〕
強欲中国人“汚染”企業はさっさと追放すべきである。
(10) 週刊hの発行及び記事の内容
公表販売部数9万数千部(平成25年当時)の週刊経済雑誌である「週刊h」の平成26年11月1日号(以下「本件h誌」という。)の12頁から13頁にかけて見開きで,ジャーナリストのF(以下「F」という。)が執筆者であることを明示して,見開きの右側である12頁の上部約2分の1部分における「旧経営陣が現経営陣を告発」「新興上場企業に巣くう病巣」との2段にわたる大文字の見出しの下,本件の全当事者が実名で記載された,本件株式交換の経緯等に関する記事(以下「本件h誌記事」といい,これと本件g誌記事とを併せて「本件各記事」と総称する。)が掲載された。本件h誌記事のうち原告X1社及び原告X3社がその信用を毀損するものであると主張する具体的な記載部分は,次項の「本件写真中文書」に係るものを除くほか,次の各記載部分(以下,各冒頭の中括弧内記載のとおり略称する。)である。(甲16,25,122,乙90)
〔本件h誌本文部分1〕
X1社を乗っ取った現経営陣。
〔本件h誌本文部分2〕
株式交換前にX3社が提示した事業計画は「全く根拠のない荒唐無稽な数値であった」
〔本件h誌本文部分3〕
「ソーラー事業における『受注済リスト』のほぼすべてが実体のないものであった」
〔本件h誌本文部分4〕
c社の実質的な総代理店であるとの説明も虚偽であったことが後に判明。
〔本件h誌本文部分5〕
合弁会社には,反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた
〔本件h誌本文部分6〕
「X1社の商圏はすでにボロボロになっており,再建は不可能」
(11) 本件h誌における写真の掲載状況
本件h誌の13頁(本件h誌記事の見開きの左側)の上部約2分の1の誌面部分には,見開きの右側である12頁の上部約2分の1部分に記載された見出しと並ぶ形で,3葉の紙片をずらしながら重ねた状態を撮影した写真(以下「本件写真」という。)が,「X1社の旧経営陣による告発状。そこには現経営陣の問題点が列挙されている」との説明文と共に掲載されているところ,本件写真中の最上部に配された1葉目は本件要請文書の添え状(乙92。ただし作成者名を非表示とする加工が施されている。)と,その下に配された2~3葉目の文書(以下「本件写真中文書」という。)は本件要請文書の1~2頁目とそれぞれ同一のものと見受けられる。ただし,本件写真中文書については,紙片相互の重なりによりほぼ全行にわたり不可視部分が存在し,撮像上の文字の大きさは,本件h誌記事の本文の文字の数分の一程度の著しく小さいものとなっている。(甲16,122,乙92,93)
(12) 原告X1社によるIR資料の公表
ア  原告X1社は,平成26年11月7日,「平成26年10月27日の一部報道について」と題するIR資料(乙29。以下「本件報道関係IR資料」という。)を公表した。本件報道関係IR資料のうち被告がその名誉を毀損するものであると主張する具体的な記載部分は,次の各記載部分(以下,各冒頭の中括弧内記載のとおり略称する。)である。(乙29)
〔本件報道関係IR資料記載部分1〕
当社創業元社長のY氏は当時の役員を巻き込んで内部統制の名の下にX2氏・C氏の問題点を論い,これを専ら主観的に捉えて,客観性・公平性を欠く判断を押し付け,X2氏・C氏を取締役退任に追い込もうとしました。
〔本件報道関係IR資料記載部分2〕
メガソーラー案件の関係者を反社会的勢力と一方的に決めつけて,その関係者とX2氏・C氏の繋がりを問題視し,X2氏・C氏を取締役退任に追い込もうとしたものの,これは監査役の客観的判断により根拠なしとされました。その結果,当社は上記メガソーラー案件を撤収せざるを得なかったことにより,多大の収益機会を逸しております。
〔本件報道関係IR資料記載部分3〕
上記の企てが失敗に終わると〔中略〕メディアへの誹謗中傷記事の掲載,当社取引先・顧客様への記事の写しの送付等への関与が強く疑われております。
イ  原告X1社は,平成27年3月3日,「当社元代表取締役に対する訴訟の提起に関するお知らせ」と題するIR資料(乙43。以下「本件訴訟関係IR資料」といい,これと本件報道関係IR資料とを併せて「本件各IR資料」と総称する。)を公表した。本件訴訟関係IR資料のうち被告がその名誉を毀損するものであると主張する具体的な記載部分は,「事実と反する情報の提供等により一部メディア等を利用して虚偽等の内容を記事として摘示・掲載させた疑いがあり,当社等は風評被害を被りました。」との記載部分(以下「本件訴訟関係IR資料記載部分」という。)である。(乙43)
3  主な争点
本件の主な争点は,次のとおりであり,各争点に関する当事者の主張は,後記4~7において,請求ごとに別に整理するとおりである。
(1)  本件各雑誌関係請求(第1・第3事件)の当否を巡る主な争点
ア 競争関係の有無(争点(1)―ア)
イ 信義則上の義務違反の有無(争点(1)―イ)
ウ 本件各記事による信用毀損の有無(争点(1)―ウ)
エ 情報提供と本件各記事による信用毀損との間の相当因果関係の有無(争点(1)―エ)
オ 故意・過失の有無(争点(1)―オ)
カ 真実性又は真実相当性の抗弁の成否(争点(1)―カ)
キ 相当因果関係のある損害額(争点(1)―キ)
(2)  本訴確認書関係及び本訴覚書関係請求の当否を巡る主な争点(第1事件。ただし,被告の相殺の抗弁の成否に関する主な争点は後記(3)のとおり)
ア 本件確認書等及び本件覚書に係る各合意の効力は被告に及ぶか(争点(2)―ア)
イ 競業避止義務違反の有無(争点(2)―イ)
ウ 競業避止義務に係る合意の公序良俗違反の有無(争点(2)―ウ)
エ 株式無断売却禁止義務違反の有無(争点(2)―エ)
オ 株式無断売却禁止義務に係る合意の会社法127条違反の有無(争点(2)―オ)
カ 相当因果関係のある損害額(原告X1社につき)(争点(2)―カ)
(3)  反訴対X2請求(第2事件)の当否及び同請求に係る債権を自働債権とする本訴覚書違反関係請求に対する被告の相殺の抗弁(第1事件)の成否を巡る主な争点
ア 本件覚書に係る合意の効力は原告X2に及ぶか(争点(3)―ア)
イ 法令等遵守義務違反の効果(争点(3)―イ)
ウ 法令等遵守義務違反の有無(争点(3)―ウ)
(4)  反訴対X1社請求(第2事件)の当否を巡る主な争点
ア 本件各IR資料による社会的評価の低下の有無(争点(4)―ア)
イ 真実性又は真実相当性の抗弁の成否(争点(4)―イ)
ウ 正当防衛ないし正当行為の抗弁の成否(争点(4)―ウ)
エ 相当因果関係のある損害額(争点(4)―エ)
4  本件各雑誌関係請求(第1事件)の当否を巡る主な争点に関する当事者の主張
(1)  争点(1)―ア(競争関係の有無)について
〔原告X1社及び原告X3社の主張〕
原告X1社及び原告X3社と被告との間には,不正競争行為の要件である競争関係が存在する。すなわち,被告は,上記両原告と同一又は類似の事業を目的とするb社を設立したところ,被告が,b社代表取締役の名義で原告らに対する誹謗中傷を繰り返していること,コンサル業務を実際に行っていること,b社の事業目的に上記両原告と競業する事業が含まれていることにかんがみれば,競業の抽象的な可能性が存在するから,営業誹謗行為の要件事実である「競業」の要件を充足する。
〔被告の主張〕
原告X1社と被告との間には,競争関係が生じる可能性がない。原告X1社の目的は,登記上も実態も,被告が1人で運営している会社であるb社のそれとは異なる。被告の仕事は,会社上場や企業役員のノウハウを生かした経営コンサルティング業務やセミナー開催等の「調査をして,経営戦略のレポートを書いて,実行計画を立案する仕事」であり,太陽光やソフトウェアは扱わず,そういったジャンルの会社のコンサルもしないように気を付けてきた。原告X1社の業務は,ソフト開発や大企業に対してのナレッジマネジメント,原告X3社でいえば太陽光パネルを売るとか,パワコン,太陽光発電所を分譲するといった業務であり,被告との競争関係は潜在的にも生じ得ない。そもそも,上場会社である原告X1社と,法人化はしているものの実質的には被告個人と同視できるb社との間では,いかなる場合にも競争関係など生じ得ない。
(2)  争点(1)―イ(信義則上の義務違反の有無)について
〔原告X1社及び原告X3社の主張〕
被告は,原告X1社及び原告X3社の取締役退任後も,信義則上,在任中に知り得た上記両原告の内部情報について守秘義務を負う。このように解さなければ,当事者の信頼関係を基調とする委任契約の趣旨は全うされないからである。そして,被告が,上記両原告の取締役退任後,第三者に対し,上記両原告の内部情報が記載された内部資料である,①本件要請文書,②本件要請文書添付資料のうち中村信雄弁護士(以下「中村弁護士」という。)作成の意見書(乙25,94の7。以下「本件弁護士意見書」という。),③本件要請文書添付資料のうち調査委員会作成の最終報告書(乙26,94の8。以下「本件調査委員会報告書」という。)を提供した行為は,上記両原告の元代表取締役としての信義則上の義務に反してその信用を毀損する不法行為に当たり,被告は,これにより上記両原告が被った損害を賠償する責任を負う。
〔被告の主張〕
被告の元代表取締役としての信義則上の義務違反は,否認ないし争う。被告は,本件要請文書の提出先機関には,本件弁護士意見書や本件調査委員会報告書を添付資料として提供したが,雑誌社にはそれらを提供していない。
(3)  争点(1)―ウ(本件各記事による信用毀損の有無)について
〔原告X1社及び原告X3社の主張〕
本件各記事は,以下のとおり,原告X1社及び原告X3社に対する不信感を生ぜしめ,上記両原告が取引相手として不適格であるとの取引先等の判断を容易に導き,上記両原告との取引の開始・継続に重大な支障となるものであって,上記両原告の営業上の信用を著しく害する。
ア 本件各記事の次の各部分は,読者に対し,原告X2及び原告X3社が被告を騙して原告X1社を奪取したとの印象を与え,現体制下の原告X1社及び原告X3社が経営力・事業推進力のない悪質な企業であるとの誤解や,原告X3社が隠匿しなければならないようなトラブルを抱えていたとの誤解を与えるものである。
(ア) 本件g誌記事
a 本件g誌見出し(「『強欲』中国人の日本企業乗っ取り術」)
b 本件g誌本文部分1(「『X3社は,米ナスダック上場のc社との間で日本での独占販売契約を結んでいる』『発電システムの受注がこれだけあり,今後これだけ増える』o大学大学院p研究科卒というX2らの景気のいい話に,当時のX1社社長,Yはまんまと口車に乗せられた。」)
c 本件g誌本文部分2(「関係者は今や『X2らが説明したX3社の事業計画はウソや紛らわしい内容ばかりだった』とホゾを噛んでいる。)
d 本件g誌本文部分3(「c社との「独占販売契約」はフィクションだった。」)
e 本件g誌本文部分4(「『発電システムの受注リスト』も取引が完了した案件はなく」)
f 本件g誌本文部分6(「強欲中国人“汚染”企業はさっさと追放すべきである。」)
(イ) 本件h誌記事(下記(ウ)(本件写真中文書)を除く。)
a 本件h誌本文部分1(「X1社を乗っ取った現経営陣。」)
b 本件h誌本文部分2(「株式交換前にX3社が提示した事業計画は『全く根拠のない荒唐無稽な数値であった』」)
c 本件h誌本文部分3(「ソーラー事業における『受注済リスト』のほぼすべてが実体のないものであった」)
d 本件h誌本文部分4(「c社の実質的な総代理店であるとの説明も虚偽であったことが後に判明。」)
(ウ) 本件写真中文書
a 「Due Diligence時において提示した事業計画は全く根拠のない荒唐無稽な数値であった」
b 「事業計画策定において鍵となり,東証にも提出したソーラー事業における『受注済みリスト』のほぼすべてが実体のないものであった」
c 「X2はX3社がc社の『実質的な総代理店』と一貫して説明してきたが,嘘であることが後日判明した」
d 「提携後,交渉時における詐欺的行為が多数発覚した」
e 「更に,Due Diligence時にX3社は訴訟を抱えていたが,その点についても意図的に公表をしなかった」
ウ 本件g誌本文部分5(「台所事情が火の車なのにX1社の移転を強硬に主張して,移転費用を多く流出させるなど,やりたい放題。」)は,読者に対し,現体制下の原告X1社及び原告X3社が会社財産を不当な目的で外部に流出させている(いた)との印象を与えるものである。
エ 本件h誌本文部分5(「合弁会社には,反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた」)は,読者に対し,現体制下の原告X1社及び原告X3社が反社会的勢力との関係を有しており,到底正常な取引ができる会社ではないとの印象を与えるものである。
オ 本件h誌本文部分6(「X1社の商圏はすでにボロボロになっており,再建は不可能」)は,読者に対し,現体制下の原告X1社及び原告X3社の経営が破綻の危機に瀕しているとの印象を与えるものである。
〔被告の主張〕
本件各記事により原告X1社及び原告X3社の営業上の信用が毀損されたことは否認する。本件各記事の表現自体,上記両原告の営業上の信用を毀損するものであるかは疑問である。また,本件h誌記事は,原告X1社に取材した上でその認識を公平に記載しており,同原告の営業上の信用を毀損するものとはいえない。
(4)  争点(1)―エ(情報提供と本件各記事による信用毀損との間の相当因果関係の有無)について
〔原告X1社及び原告X3社の主張〕
ア 出版社の編集権が介在するとしても,情報提供者の情報内容に従った記事が掲載される蓋然性が高く,情報提供者がこれを予測,容認していた場合には,相当因果関係があるとされており,本件のように,被告が掲載を強く意図して,積極的に情報提供をしている場合には,出版社の編集権があるからといって,因果関係が存在しないということにはならない。
イ 被告が,私怨を晴らすため,記事として掲載されることを意欲して,出版社に対し,内部資料を提示して原告らを誹謗中傷する虚偽の事実を伝えたこと,本件各記事に被告の言説及び被告の提供した内部資料がそのまま掲載されたことは,次のとおり明らかである。
(ア) 本件h誌記事の内容から,被告が,内部情報を含む多数の関連資料を提供し,証券取引等監視委員会等に本件要請文書を提出しようとしたことが興味を掻き立て,同記事の掲載に繋がったことは明らかである。
(イ) 本件g誌記事が被告の言説を引用するものであることは,同記事中の「当時のX1社社長,Yはまんまと口車に乗せられた」との記載から明らかである。
(ウ) 被告以外の者が原告らを誹謗中傷した事実は確認されていない。
(エ) 被告は,証券取引等監視委員会,警視庁,東京証券取引所等に対し,本件要請文書等の原告らを誹謗中傷する書簡を度々送り付けた。
(オ) 本件g誌記事と本件h誌記事では,誹謗中傷の内容がほぼ同一である。
(カ) 被告は,出版社に対して,多数の関連資料・内部資料を提供した。
(キ) 被告は,Eのブログにおいて,私怨を晴らす目的で告発状を提出することを予告し,実際にそのとおり行動した。
ウ 被告が提供した情報と,本件各記事の内容との同一性は,次のとおり明らかである。出版社は,被告が提供した内部情報以上に決定的な情報を他から得られるはずがない。
(ア) 本件h誌本文部分3(「ソーラー事業における『受注済リスト』のほぼすべてが実体のないものであった」)は,本件写真中文書の一部分と同じである。
(イ) 本件h誌本文部分4(「c社の実質的な総代理店であるとの説明も虚偽であったことが後に判明。」)は,本件要請文書の記載と酷似している。
(ウ) 本件h誌本文部分5(「合弁会社には,反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた」)と同じく,本件要請文書には,「反社会的勢力」と断定する記載がある。
〔被告の主張〕
ア 被告は,雑誌社から取材を受け,資料(ただし,本件要請文書添付資料は含まない。)を渡したが,雑誌社は他の取材源から情報や資料を入手しているのであるから,被告による情報提供と信用毀損との間には因果関係がない。実際,被告がg誌のEと会ったとき,同人は他の情報源から情報や資料を仕入れて下調べを終えている様子であった。
イ 本件各記事の表現と,被告の情報提供との間に因果関係がないことは,次のとおりである。
(ア) 本件g誌記事
a 本件g誌見出し(「『強欲』中国人の日本企業乗っ取り術」)の表現については,被告は全く関与していない。
b 本件g誌本文部分1(「『X3社は,米ナスダック上場のc社との間で日本での独占販売契約を結んでいる』『発電システムの受注がこれだけあり,今後これだけ増える』o大学大学院p研究科卒というX2らの景気のいい話に,当時のX1社社長,Yはまんまと口車に乗せられた。」)は,被告の言葉ではない。被告は,取材者から「独占販売契約等権利関係も,嘘が多かったのではないですか。」と聞かれ,「そうですね。」との回答をしたことはある。
c 本件g誌本文部分2(「関係者は今や『X2らが説明したX3社の事業計画はウソや紛らわしい内容ばかりだった』とホゾを噛んでいる。)は,被告の言葉ではない。被告は,取材者から「事業計画も実態と違う部分が多かったのではないですか。」と聞かれ,「そういうことはあった。」との回答をしたことはある。
d 本件g誌本文部分3(「c社との「独占販売契約」はフィクションだった。」)は,被告の言葉ではない。被告は,取材者から「独占販売契約等権利関係も,嘘が多かったのではないですか。」と聞かれ,「そうですね。」との回答をしたことはある。
e 本件g誌本文部分4(「『発電システムの受注リスト』も取引が完了した案件はなく」)は,被告の言葉ではない。被告は,取材者から「受注関係の説明が嘘ということはありましたか。」と聞かれ,「そういうことはあった。」との回答をしたことはある。
f 本件g誌本文部分6(「強欲中国人“汚染”企業はさっさと追放すべきである。」)の表現については,被告は全く関与していない。
(イ) 本件h誌記事
a 本件h誌本文部分2(「株式交換前にX3社が提示した事業計画は『全く根拠のない荒唐無稽な数値であった』」)は,被告の言葉ではない。被告は,取材者から「事業計画が嘘ということはありましたか。」と聞かれ,「そういうことはあった。」との回答をしたことはある。
b 本件h誌本文部分3(「ソーラー事業における『受注済リスト』のほぼすべてが実体のないものであった」)は,被告の言葉ではない。被告は,取材者から「取引が取れている,取れていないで説明が嘘ということはありましたか。」と聞かれ,「そういうことはあった。」との回答をしたことはある。
c 本件h誌本文部分4(「c社の実質的な総代理店であるとの説明も虚偽であったことが後に判明。」)は,被告の言葉ではない。被告は,取材者から「独占販売契約が嘘だったということはありましたか。」と聞かれ,「そういうことはあった。」との回答をしたことはある。
(ウ) 本件写真中文書については,記事自体ではなく,記事に掲載された写真の中の文字であり,拡大コピーしなければ判読できないから,そもそも事実の摘示がない。また,被告は,雑誌社に対し,本件要請文書の記載内容を引用することや,それを写真として掲載することを許可していない。
ウ 本件g誌本文部分5(「台所事情が火の車なのにX1社の移転を強硬に主張して,移転費用を多く流出させるなど,やりたい放題。」)は,被告の言葉ではない。被告は,取材に対し,原告X1社の移転の話をした記憶がない。
エ 本件h誌本文部分5(「合弁会社には,反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた」)は,被告の言葉ではない。被告は,取材者から「反社的なこともあったのですよね。」と聞かれ,「そういうことはあった。」との回答をしたことはある。
オ 本件h誌本文部分6(「X1社の商圏はすでにボロボロになっており,再建は不可能」)は,被告の言葉ではない。被告は,取材に対し,そのような話を一切していない。
(5)  争点(1)―オ(故意・過失の有無)について
〔原告X1社及び原告X3社の主張〕
被告は,私怨を晴らすため,原告X1社及び原告X3社の社会的信用を低下させ,損害を被らせることを意図し,強く希望して,出版社に虚偽の情報を提供していることから,故意又は少なくとも過失が認められることは明らかである。
〔被告の主張〕
故意・過失は否認する。被告には私怨などなく,原告X1社及び原告X3社の社会的信用を低下させようともしていない。
(6)  争点(1)―カ(真実性又は真実相当性の抗弁の成否)について
〔被告の主張〕
本件各記事における事実の摘示は,次のとおり,公共の利害に関する事実に係ること,専ら公益を図る目的でされたこと,重要な部分について真実であることの証明があるから違法性がなく,又はそれが真実であると信ずるにつき相当な理由があるから故意・過失がない。
ア 公共性
本件各記事は,上場会社である原告X1社の経営方法や法令遵守状況に関するものであり,株主のみならず一般国民にとって大きな関心事であるから,公共の利害に関する事実に当たる。
イ 公益目的
一般に,新聞記事等は公益目的が当然に肯定されるところ,本件各記事にも公益目的が肯定される。被告は,専ら公益目的で,上場会社という社会の公器に係る事実に関する取材に協力した。
ウ 真実性
(ア) 本件g誌本文部分1(「『X3社は,米ナスダック上場のc社との間で日本での独占販売契約を結んでいる』『発電システムの受注がこれだけあり,今後これだけ増える』o大学大学院p研究科卒というX2らの景気のいい話に,当時のX1社社長,Yはまんまと口車に乗せられた。」)及び本件g誌本文部分3(「c社との「独占販売契約」はフィクションだった。」)の重要部分は真実である。
c社には国内にi株式会社(以下「i社」という。)という取引先がいた。原告X3社とi社との間の業務提携に関する覚書(甲20)の第2条①によれば,i社は原告X3社を通さずにc社と取引できるのだから,原告X3社はc社との独占販売契約など締結していないし,実質的な総代理店でもない。原告X2及びCは,当初,原告X3社とc社との関係性について,実質的には独占的な総代理店であるとの説明をしていたが,原告X3社はi社からのフィーをほぼもらえておらず,c社は独自に日本法人を開設するなど,原告X3社はc社の輸入代理店の一つという立場に過ぎなかった。
(イ) 本件g誌本文部分2(「関係者は今や『X2らが説明したX3社の事業計画はウソや紛らわしい内容ばかりだった』とホゾを噛んでいる。)の重要部分は真実である。
原告X2は,被告に対し,事業計画(乙5の1及び2)を示して,q1社,q2社,q3社,q4社,q5社等との商談が成約間近であるかのような説明をしていたが,それらは全く成約しておらず,商談自体の存在すら疑わしい。
(ウ) 本件g誌本文部分4(「『発電システムの受注リスト』も取引が完了した案件はなく」)の重要部分は真実である。
原告X2及びCは,次のとおり,既に受注が確定したかのような資料を示して,あたかも原告X3社がソーラー発電システムについて多数の案件を受注済みであるかのように装っていたが,これらの案件は実は単なる期待に過ぎず受注済みではないことが発覚した。
a Cが平成23年8月19日に「X3社受注リスト」との件名で送信した電子メール(乙11の1)の本文には,「弊社の受注リストを参考に送付します。」との記載があり,「X3株式会社ソーラー発電システム受注済みリスト(部分)」と題された同メールの添付資料(乙11の2)には,11案件について,プロジェクト名,導入先,型番,モジュール数,導入量,導入住所,仕入金額,受注金額及び導入時期が記載されていた。
b Cが上記アのメールと同時に送付した「X3株式会社建機仕入れ,売上予定/計画」と題する資料(乙11の3)には,13の建機の仕入案件が示され,かつ,うち8案件については既に受注「済」であると記載されていた。
c Cが平成23年8月29日に「X3社太陽光受注したリスト」との件名で送信した電子メール(乙12の1)には,「弊社の受注リストを参考に送付いたします。」との記載があり,「X3株式会社ソーラー発電システム受注したリスト(部分)」と題された同メールの添付資料(乙12の2)には,8案件について,プロジェクト名,導入先,型番,モジュール数,導入量,導入住所,仕入金額,受注金額及び導入時期が記載されていた。
d Cが平成23年9月14日に「X3社太陽光受注リストと2011年8月-11月建機売上予想」との件名で送信した電子メール(乙13の1)には,「X3社太陽光受注リストと2011年8月-11月建機売上予想を参考に送付いたします。」との記載があり,「X3株式会社ソーラー発電システム受注したリスト(部分)」と題された同メールの添付資料(乙13の2)には,19案件について,プロジェクト名,導入先,型番,モジュール数,導入量,導入住所,仕入金額,受注金額及び導入時期が記載されており,「建機仕入れ,売上予定/計画」と題された同メールの添付資料(乙13の3)には,13の建機の仕入案件が示され,かつ,うち8案件については既に受注「済」であると記載されていた。
e Cが平成23年9月18日に「ソラ資料」との件名で送信した電子メール(乙14の1)には,「ソラ資料を送付いたします。」との記載があり,「X3株式会社ソーラー発電システム受注したリスト(部分)」と題された同メールの添付資料(乙14の2)には,22案件について,プロジェクト名,導入先,型番,モジュール数,導入量,導入住所,仕入金額,受注金額及び導入時期が記載されていた。
f 原告X2及びCが提出したプロスペクトリスト(乙69)に受注確率100%と記載された14件のうち13件,同80%と記載された7件全ては,受注済みではなく,その後受注されることもなかった。
g 原告提出の見積書(甲109の1~6)は,2社の顧客候補の見積りに過ぎない。
(エ) 本件g誌本文部分5(「台所事情が火の車なのにX1社の移転を強硬に主張して,移転費用を多く流出させるなど,やりたい放題。」)の重要部分は真実である。
原告X2は,取締役会での十分な報告や協議を経ることなく本社移転を強行し,予想の2倍相当(約2400万円)の移転費用が支出された。
(オ) 本件h誌本文部分2(「株式交換前にX3社が提示した事業計画は『全く根拠のない荒唐無稽な数値であった』」)の重要部分は真実である。
原告X3社が提示した事業計画が実態と大きくかけ離れていたことは上述のとおりである。
(カ) 本件h誌本文部分3(「ソーラー事業における『受注済リスト』のほぼすべてが実体のないものであった」)の重要部分は真実である。
原告X2及びCが示した受注「済」リスト,受注「した」リストの多くが受注「済」ではなかったことは上述のとおりである。
(キ) 本件h誌本文部分4(「c社の実質的な総代理店であるとの説明も虚偽であったことが後に判明。」)の重要部分は真実である。
原告X3社が,c社と独占販売契約など締結しておらず,社会通念上,総代理店と評価できる立場ではないことは上述のとおりである。
(ク) 本件h誌本文部分5(「合弁会社には,反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた」)の重要部分は真実である。
d社設立の中心人物であるDについては,沖縄の指定暴力団j会との接触がある,仕手グループとの交際がある,普段から木刀を持ち歩いて人々に対する恫喝を行っている,k社の従業員が警察に告訴の相談をしている等の情報が得られていた。本件調査委員会報告書には,「反社会的勢力と疑われる可能性がある関係者を持つ会社への出資及びX1社取締役が同社関係者との関わりをもった問題」を調査した結果,「当社経営上重大な問題であることを確認した。」との記載がある。また,株式会社l(以下「l社」という。)のDに関する調査報告書(甲108,116)には,「企業社会の秩序を壊しかけた人物として銀行・証券筋は捉えている」との記載がある。原告X2も,Dについて,反市場勢力に該当し,こういった人物と取引をしてはならないとの見解を有している。
(ケ) 本件h誌本文部分6(「X1社の商圏はすでにボロボロになっており,再建は不可能」)の重要部分は真実である。
原告X1社は,原告X2及びCの行動により多数の案件を喪失した。また,原告X1社は,平成26年3月頃,「太陽光の受注を計画通り行え得ず失注する可能性があり」とか「連結通期予想の売上高を達成することが困難となる可能性」というIR資料を公表し,その株価も概ね下がり続けていた。
(コ) 本件写真中文書については,拡大コピーしなければ判読できず,そもそも事実の摘示が否定される。この点を措いても,記載内容の重要部分は真実である。
エ 故意・過失がないこと
真実性について上述したところによれば,被告が重要部分を真実と信じたことには相当の理由があり,故意・過失がない。
オ 公正な論評の法理
本件g誌見出し(「『強欲』中国人の日本企業乗っ取り術」),本件g誌本文部分6(「強欲中国人“汚染”企業はさっさと追放すべきである。」),本件h誌本文部分6(「X1社の商圏はすでにボロボロになっており,再建は不可能」)は,事実の摘示という面の他,論評という側面がある。いずれにしても,公共性,公益性,真実性,相当性という要件を満たすことには変わりなく,いわゆる公正な論評の法理により,被告は免責される(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁)。
〔原告X1社及び原告X3社の主張〕
ア 被告の行動は,あたかも公益性があるかのように偽装しているが,単なる私怨に基づくものであり,出版社に虚偽の情報を提供したのも私怨を晴らすためである。
イ 本件各記事の内容が真実であることは否認する。本件各記事の内容は,次のとおり,いずれも虚偽である。
(ア) 被告は,客観的根拠なく,「d社の設立に反社会的勢力が関与している」と断定し,その旨を記載した本件要請文書等を出版社に提供し,その結果本件各記事が掲載された。すなわち,外部調査機関であるl社の調査報告書(甲108)によれば,Dは反社会的勢力との関係がない。また,原告らがDにコンサルティングを依頼したことはなく,Dがd社の設立に関与したこともない。d社の取締役のGも反社会的勢力との関係が疑われる人物ではない。本件調査委員会報告書(乙26)は,被告の影響下にあった内部調査委員会が作成したものであり,客観性・公平性がなく,平成24年9月27日開催の定時株主総会及び直後の取締役会を見据えて,被告が原告X2及びCを取締役から排除するために,結論ありきでまとめた報告書であるから,信憑性がない。
したがって,本件h誌本文部分5(「合弁会社には,反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた」)等の本件各記事の内容は虚偽である。
(イ) プロスペクトリスト(甲33の2,乙69)記載の案件20件のうち,2件は最終的に受注し,残りの案件についてはいずれも口頭ベースでは受注して見積書も提出されている(甲109の1~6)から,案件には実体がある。
したがって,本件各記事のうち「プロスペクトリスト記載の案件のほぼ全てに実体がない」という趣旨の内容は虚偽である。
(ウ) 原告X3社は,本件株式交換契約締結当時,c社の「実質的な総代理店」であった。すなわち,当時,c社製品を日本において販売することができたのは原告X3社とi社のみであるところ,i社は,原告X3社の同意を得てc社製品を直接取引することが許されており,i社がc社製品を販売した場合には,取引高に応じて原告X3社にロイヤリティを支払わなければならず,実際に1年分のロイヤリティが支払われ,原告X3社は継続してその支払を請求している。また,c社側も,原告X3社を日本市場における総代理店であると認識していた。さらに,被告は,原告X3社とc社との間の販売代理店契約が非独占的なものであることを認識しており,そのリスクを十分に勘案して本件株式交換の条件が決定されていることを被告自身が開示している。
したがって,本件g誌本文部分3(「c社との「独占販売契約」はフィクションだった。」),本件h誌本文部分4(「c社の実質的な総代理店であるとの説明も虚偽であったことが後に判明。」)等の本件各記事の内容は虚偽である。
(エ) 原告X3社は,平成24年6月期から現在まで単体でも利益を計上しており,設立以来黒字を計上し続けている。原告X3社の平成24年6月期の計画値と実績値は,利益においてほぼ遜色のないものであった。原告X1社及び原告X3社が予想よりも業績を伸ばせなかったのは,本件各記事による風評被害の影響である。被告が,原告X2及びCを排除しようとしたり,風評被害を惹起させたりしなければ,原告X3社が他の太陽光発電事業者と同様に飛躍的に売上を増大させることは難しいことではなかった。
したがって,本件h誌本文部分2(「株式交換前にX3社が提示した事業計画は『全く根拠のない荒唐無稽な数値であった』」)等の本件各記事の内容は虚偽である。
(7)  争点(1)―キ(相当因果関係のある損害額)について
〔原告X1社の主張〕
ア 原告X1社は,本件各記事により著しく信用を毀損された結果,以下のとおり,システムソフトウェアの保守サービス業務を内容とする取引を失注した。上記信用毀損がなければ,いずれの案件も,少なくともあと2年間は取引を継続できたはずであり,原告X1社は,少なくとも2年分の業務委託料合計1億8942万0798円の損害を被った。
(ア) q6株式会社(q7銀行向け)の案件
平成20年4月1日から原告X1社が保守サービス業務を継続的に提供し,平成26年4月1日から同年9月30日まで6か月間契約が更新されたが,同年9月30日で取引が打ち切られた。業務委託料(本体保守分)は,6か月で1790万1000円(税込)であった。
(イ) q8株式会社(q9社向け)の案件
平成18年7月1日から原告X1社が保守サービス業務(社内用・代理店用)を継続的に提供し,平成26年4月1日から平成27年3月31日まで1年間契約が更新されたが,平成27年3月31日で取引が打ち切られた。業務委託料は,1年間で3502万3675円(税込)であった。
(ウ) q8株式会社(q10社向け)の案件
平成20年3月1日から原告X1社が保守サービス業務を継続的に提供し,平成26年3月1日から平成27年2月28日まで1年間契約が更新されたが,平成27年2月28日で取引が打ち切られた。業務委託料は,1年間で1282万2242円(税込)であった。
(エ) 株式会社q11(q12証券向け)の案件
平成19年9月1日から原告X1社が保守サービス業務を継続的に提供し,平成26年11月1日から平成27年10月31日まで1年間契約が更新されたが,平成27年10月31日で取引が打ち切られた。業務委託料は,1年間で59万0457円(税込)であった。
(オ) q13株式会社の案件
平成19年3月29日付けで業務委託契約を締結し,同年4月1日以降,原告X1社が保守サービス業務を継続的に提供し,平成26年4月1日から平成27年3月31日まで1年間契約が更新されたが,平成27年3月31日で取引が打ち切られた。業務委託料は,1年間で383万2725円(税込)であった。
(カ) q14株式会社の案件
平成20年3月1日から原告X1社が保守サービス業務を継続的に提供し,平成26年4月1日から平成27年3月31日まで1年間契約が更新されたが,平成27年3月31日で取引が打ち切られた。業務委託料は,1年間で273万5100円(税込)であった。
(キ) q15株式会社の案件
平成20年7月1日から原告X1社が保守サービス業務を継続的に提供し,平成26年7月1日から平成26年12月31日まで6か月間契約が更新されたが,平成26年12月31日で取引が打ち切られた。業務委託料は,6か月間で195万2100円(税込)であった。
イ 原告X1社は,本件各記事により著しく信用を毀損された結果,新規取引の受注が困難となったり,融資を受けることが困難となるなど,様々な支障が生じた。これに対する慰謝料として,少なくとも1000万円が支払われるべきである。
ウ 本件各記事と原告X1社の損害との間には,次のとおり因果関係がある。
(ア) 原告X1社は,本件各記事が掲載されたことにより取引を失注するなどしたが,その後は失注したことがなく,顧客との継続的取引案件につき解約又は更新拒絶等の理由で終了を余儀なくされた例はほぼ皆無である。
(イ) マスメディアの記事の影響は,極めて甚大である。集中的な取引の失注や売上げの激減は,余程の出来事がなければ社会通念上あり得ない。本件各記事の掲載時期と取引の失注時期は重なっている。
(ウ) 原告X1社が平成26年3月11日にライツ・オファリングによる資金調達を図ったことは,取引の喪失につながっていない。
(エ) 合併等による実質的存続性の喪失による上場再審査は,顧客離れにつながっていない。
(オ) そもそも原告X1社を上場廃止の危機に追い込んだのは被告であり,本件株式交換以前の原告X1社の会社経営には重大な問題があった。それだけの状況にありながら継続されてきた原告X1社の取引が,同じくコンプライアンス上の理由だけで失注することはあり得ない。
(カ) 被告は,d社の件について,原告らのコンプライアンス違反であると強調するが,そうであるならば,原告X1社の取引先が契約を更新しないことは至極当然のことである。
〔原告X3社の主張〕
ア 原告X3社は,本件各記事により著しく信用を毀損された結果,株式会社q16(以下「q16社」という。)及び株式会社q17(以下「q17社」という。)との間の取引を失注し,以下のとおり,合計6億2750万9194円の損害を被った。
(ア) q16社との取引の失注に係る損害
a 原告X3社の平成25年6月期における各月につき,q16社に対する売上伝票の取引額上位5件を合計して算出した取引額は,7034万6319円である。
b 原告X3社の平成26年6月期におけるq16社との取引額は1124万7746円であり,同期における失注額は,5909万8573円(=7034万6319円-1124万7746円)となる。
c 原告X3社の平成27年6月期におけるq16社との取引額は0円であり,同期における失注額は,7034万6319円(=7034万6319円-0円)となる。
d q16社との取引の失注に係る損害額は,上記b,cの各失注額に,原告X3社の平成26年6月期におけるq16社との取引の粗利率40.21%を乗じた,合計5204万9791円である。
(イ) q17社との取引の失注に係る損害
a 原告X3社の平成25年6月期における各月につき,q17社に対する売上伝票の取引額上位5件を合計して算出した取引額は,6億3554万3612円である。
b 原告X3社の平成26年6月期におけるq17社との取引額は19万6316円であり,同期における失注額は,6億3534万7296円(=6億3554万3612円-19万6316円)となる。
c 原告X3社の平成27年6月期におけるq17社との取引額は0円であり,同期における失注額は,6億3554万3612円(=6億3554万3612円-0円)となる。
d q17社との取引の失注に係る損害額は,上記b,cの各失注額に,原告X3社の平成26年6月期におけるq17社との取引の粗利率45.28%を乗じた,合計6億2750万9194円である。
イ 原告X3社は,本件各記事により著しく信用を毀損された結果,新規取引の受注が困難となったり,融資を受けることが困難となるなど,様々な支障が生じた。これに対する慰謝料として,少なくとも1000万円が支払われるべきである。
ウ 本件各記事と原告X3社の損害との間には,次のとおり因果関係がある。
(ア) 原告X3社は,本件各記事が掲載されたことにより取引を失注し,平成24年6月期には6億円以上あったq17社に対する売上げが一気に約10万円にまで減少するなどした。
(イ) 原告X3社がq17社との間の大量の取引を失注した重要な原因は,本件g誌記事のコピーがq17社の販売代理店にばら撒かれたことにある。
(ウ) マスメディアの記事の影響は,極めて甚大である。集中的な取引の失注や売上げの激減は,余程の出来事がなければ社会通念上あり得ない。本件各記事の掲載時期と取引の失注時期は重なっている。
〔被告の主張〕
ア 本件各記事によって原告X1社及び原告X3社の信用が毀損されたという事実はない。上記両原告の信用が毀損されたとすれば,その原因は,原告X2及びCの経営手腕のなさや,一般の商慣習からは考えられない行動によるトラブルにある。
イ 雑誌社は被告以外の取材源から情報や資料を入手している。雑誌社には編集権がある以上,取材に応じて情報提供することと結果との間には原則として因果関係はない。
ウ q17社は,平成24年夏頃には,原告X3社との取引を減少させる意思決定をしていた。q7銀行は,本件各記事の発表前に,原告X1社との間の保守契約の打切りを決めていた。本件各記事は,q17社やq16社が原告X3社や原告X1社を取引先として不適格であると考えるようになった時点より後に発表されたものである。
エ 原告X1社固有の顧客は,被告がトップセールスで獲得した顧客であり,被告が原告X1社を去った結果として取引関係がなくなったとしても不自然ではない。
5  本訴確認書違反関係請求及び本訴覚書違反関係請求(第1事件)の当否を巡る主な争点(後者に対する被告の相殺の抗弁に係る争点を除く。)に関する当事者の主張
(1)  争点(2)―ア(本件確認書等及び本件覚書に係る各合意の効力は被告に及ぶか)について
〔原告X1社及び原告X2の主張〕
被告は,原告X1社に対しては本件確認書等により,原告X2に対しては本件覚書により,原告X1社の了承を得ずに同原告株式を売却しないことを確約した。本件確認書等及び本件覚書に係る各合意の効力は被告に及ぶ。
〔被告の主張〕
本件確認書等及び本件覚書は,東京証券取引所の指導に従い,専ら原告X2及びCを縛るために作成されたものであり,被告に対しては効力を有しない。
(2)  争点(2)―イ(競業避止義務違反の有無)について
〔原告X1社及び原告X2の主張〕
ア 被告は,b社を設立して原告X1社と競合する事業を行っている。
イ 被告は,平成24年12月20日から同月31日までの間,原告X1社の従業員の引き抜きを図ったり,同原告の幹部社員に対して顧客を持って外に出るよう促すなどした。
〔被告の主張〕
競業避止義務違反となる被告の行為の存在は否認する。
(3)  争点(2)―ウ(競業避止義務に係る合意の公序良俗違反の有無)について
〔被告の主張〕
競業避止特約は,①制限の期間,②場所的範囲,③制限の対象となる職種の範囲,④代償の有無等という4つの要件が設定され,当該制限によって守られるべき会社の利益及びこれによって生ずる退任取締役の不利益を比較衡量した上,競業の制限が合理的かつ必要な範囲を超える場合には,公序良俗に反し無効である。
本件確認書等及び本件覚書の競業避止特約は,①制限の期間は5年と相当に長期間であり,②競業を禁止する場所的な限定は全くなく,③制限の対象となる職種の範囲が不明確で,原告X1社の考え方次第で競業の有無が決定される枠組みとなっている点で,いかなる行為を禁止しているのかが全く看取できず,④被告に何らの代償措置(退職金の支払い等)も講じられていない。以上を総合的に考慮すると,本件の競業避止特約は合理的かつ必要な範囲を超える協業の制限として公序良俗に反し無効である。
〔原告X1社及び原告X2の主張〕
本件覚書は被告が原告X2に締結を迫ったものであるから,本件覚書が公序良俗に違反するとの被告主張は,信義則上許されない。
(4)  争点(2)―エ(株式無断売却禁止義務違反の有無)について
〔原告X1社及び原告X2の主張〕
被告は,原告X1社及び原告X2への通知や上記両原告との協議をすることなく本件売却処分を強行し,株式無断売却禁止義務に違反した。本件売却処分前の被告とのやり取りは,専らインサイダー取引に該当するかという点に尽き,上記義務に違反するか否かを議論していない。
〔被告の主張〕
株式無断売却禁止義務違反となる被告の行為の存在は否認する。本件売却処分は,次のとおり,原告X1社及び原告X2の承諾を得て行われた。
ア 被告は,平成25年2月5日,当時原告X1社の代表取締役であったH(以下「H」という。)及び同原告の内部情報管理責任者であったI(以下「I」という。)に対し,同原告株式を他に売却したいとの意向を伝えた上,同原告の自社特定有価証券等売買申請書(以下「売買申請書」という。)の交付を受けた。
イ 被告が,原告に対し,平成25年2月6日,売買申請書を提出したところ,原告X1社は,同月12日,被告に対し,「金融商品取引法166条1項の上場会社の役員退任後1年間は,インサイダー規制における『会社関係者』という法的地位が継続することとなること,当社が重要事実を全部開示することは事実上不可能であることを鑑みると,今回の申請については当社として承諾することは,違法行為に加担することにもなりかねず,不許可と決定いたしました。」と回答した。
ウ 金融商品取引法のインサイダー取引規制は,会社関係者による株式売買をすべて規制するものではなく,会社関係者が未公表の重要事実を知りながら株式売買をする場合のみを規制するものであるところ,被告は,未公表の重要事実に全く思い当たるところがなかったため,平成25年2月12日,H,Iほかに対し,上記イの回答の根拠を明らかにするよう求めるメールを送信した。
エ 原告X1社は,平成25年2月13日,被告に対し,「あくまでもYさんの保有株式ですので,自己責任における売買に関しては,これ以上,当社として立ち入るつもりはございませんので,ご自身でのご判断をお願いいたします。」と回答し,これをもって,被告による原告X1社株式の売買を承諾した。
オ 原告X1社及び原告X2が本件売却処分を承諾していたことは,本件売却処分後に異議の申出等をしていないことや,本件売却処分後に原告X1社が提出した平成25年9月27日付け有価証券報告書における被告の保有株式数として本件売却処分後の数字が記載されていることからも明らかである。
(5)  争点(2)―オ(株式無断売却禁止義務に係る合意の会社法127条違反の有無)について
〔被告の主張〕
契約による株式譲渡制限は,会社との間で締結される場合には,株式譲渡自由を定める会社法127条に反し無効である。また,会社以外の者との間で締結される場合には,それが会社との間で締結される場合の潜脱として用いられているときは,同様に無効である。本件確認書等の株式譲渡制限は,原告X1社と被告との間で締結されたものであり,会社法127条に反し無効である。本件覚書の株式譲渡制限は,原告X2と被告との間で締結されたものであるが,会社法127条の潜脱であり無効である。
〔原告X1社及び原告X2の主張〕
契約による株式譲渡制限が一律に会社法127条に違反して無効とされるわけではなく,合弁会社設立の際に契約において株式譲渡を制限することは一般的に行われている。株式譲渡の自由は,債権的効力しかない契約上の譲渡制限を否定するものではなく,ただ財産処分権を過度に制約する場合に公序良俗に反して無効となるに過ぎない。本件確認書等及び本件覚書の株式譲渡制限は,株式交換に伴う譲渡制限であり,合弁会社設立のケースに酷似している上,株式交換の効力発生日から2年間という制限が付されており,更に重要なことには被告が原告X2及びCに締結を要求してドラフトを提示したものである。また,本件覚書の株式譲渡制限については,本件確認書等のそれよりもはるかに契約自由の原則が妥当すべきである。したがって,本件確認書等及び本件覚書の株式譲渡制限は,被告の財産権の過度の制約には当たらず,公序良俗に反するものではない。
(6)  争点(2)―カ(相当因果関係のある損害額(原告X1社につき))について
〔原告X1社の主張〕
本件売却処分により,原告X1社の株価は,少なくとも2227円下落した。すなわち,原告X1社の株価は,被告が売却を開始した時には4万5036円であったが,被告が800株を売却し終えた平成25年6月3日の終値は4万3079円となり,同月7日には3万3661円まで下落したところ,出来高の少ない原告X1社株式を被告が短期間に大量に売却したことが上記株価の下落を招いたことは明らかである。上記株価の下落により,原告X1社は,少なくとも7826万5688円(当時の発行済み株式総数3万5144株に2227円を乗じた額)相当の企業価値が低下する損害を被った。
〔被告の主張〕
損害及び因果関係は否認する。原告X1社の株価の変動は被告とは無関係である。平成25年6月7日以降,むしろ株価は上昇し続けた。
6  反訴対X2請求(第2事件)の当否及び本訴覚書違反関係請求に対する被告の相殺の抗弁(第1事件)を巡る主な争点に関する当事者の主張
(1)  争点(3)―ア(本件覚書に係る合意の効力は原告X2に及ぶか)について
〔被告の主張〕
原告X2は,被告との間で,本件覚書により,法令等を遵守することを合意した。本件覚書に係る合意の効力は原告X2に及ぶ。
〔原告X2の主張〕
被告が本件覚書の内容について公序良俗違反等の主張をすることは,被告が原告X2に本件覚書の締結を迫ったことと矛盾する挙動であり,禁反言の原則に反し許されない。本件覚書は,被告のみに片面的に効力を有し,原告X2には効力を有しない。
(2)  争点(3)―イ(法令等遵守義務違反の効果)について
〔被告の主張〕
本件覚書の法令等を遵守する義務(第7条)に違反した場合,違約金1000万円の支払義務を負う(第8条)。
〔原告X2の主張〕
原告X1社及び原告X3社の役職員につき法令等の軽微な違反がある場合にまで,本件覚書第7条に違反するとして,原告X2又は被告が相手方に対して違約金支払義務を負うのは極めて不合理である。したがって,同規定は,原告X2及び被告が協力して努力することを定めたものと解すべきであり,原告X2又は被告が相手方に対して同規定違反を理由として違約金支払義務を負うことはない。
(3)  争点(3)―ウ(法令等遵守義務違反の有無)について
〔被告の主張〕
原告X2は,次のとおり,法令等遵守義務を故意又は重過失により怠り,同義務に違反した。
ア 議案の承認の強要
原告X2は,平成24年1月20日開催の原告X1社の取締役会において,被告に対し「議長及び招集者を原告X2とすることを承認しなければ原告X3社から原告X1社に対する融資を実行しない」との交換条件を提示し,被告に強要して,議案を承認させた。上記強要行為は,会社に対する損害賠償責任(会社法423条)及び第三者に対する損害賠償責任(会社法429条)を生じ得る。また,原告X3社から原告X1社に対する融資の実行に上記交換条件を付したことは,原告X1社の代表取締役であった原告X2の善管注意義務(会社法330条,民法644条)に違反する。
イ 監査役の発言権を奪い強行採決
原告X2は,平成24年6月21日開催の原告X1社の取締役会において,監査役としての発言権(会社法383条)があるBの発言を途中で遮断し,強行採決した。上記発言遮断行為は,重大な法令違反に該当するおそれがある。
ウ インサイダー取引防止規程に違反する行為
原告X2は,原告X1社に係る未公表の重要事実である第三者割当増資を第三者に開示した。これは,機密情報の社外リークとしてインサイダー取引規制(金融商品取引法166条)に抵触する危険性を有する,善管注意義務に違反する行為である。
エ 利益相反取引規制違反
原告X2は,取締役会の決議を経ることなく,原告X3社の資金をCに融資した。これは,利益相反取引規制(会社法356条1項1号,365条1項)に反する。この法令違反は原告X2自身が認めており,財務局に提出された内部統制報告書にも記載された。
オ 反社会的勢力との関係が疑われる人物・会社との関与
原告X2が設立したd社には,反社会的勢力との関係が疑われるDが関与している。
カ Aが法令違反の事実を認めたこと
本件訴訟における原告X1社の代表者である監査役のAは,平成24年8月18日,監査役のBに対し,「取締役の法令違反・定款違反・ガバナンス無視に抗議して辞任するしかない」と伝えた。原告X1社の平成24年9月10日付け監査報告書には,「取締役の職務執行が適正であるとは言い難い」との記載がある。上記取締役は,原告X2及びCを指す。
〔原告X2の主張〕
法令等遵守義務違反となる原告X2の行為の存在は,否認ないし争う。原告X2が被告に強要したり本件株式交換前の約束を違えたことない。原告X2が,Bの原告X2を挑発するような発言を制することは,不合理ではない。原告X2及びCを追い出そうとしていた被告は,当時の監査役会をコントロールしようとし,実際にBは被告の意を受けて行動していた。d社の設立プロセスにDは関与しておらず,Dは調査会社の調査により反社会的勢力ではないとされている。
7  反訴対X1社請求(第2事件)の当否を巡る主な争点に関する当事者の主張
(1)  争点(4)―ア(本件各IR資料による社会的評価の低下の有無)について
〔被告の主張〕
本件各IR資料は,読者に対し,被告について,会社の同僚役員を退任に追い込もうとし,横暴により会社の収益を喪失させ,会社を辞任後はその誹謗中傷記事を雑誌に掲載し,その写しを顧客や取引先に送付して損害を与える人物であるといった印象を与え,被告の社会的評価を低下させるものである。
〔原告X1社の主張〕
本件各IR資料は,被告の社会的評価を低下させるものではない。被告が,本件各記事を掲載せしめたり,本件要請文書を配布したりして,自ら公衆の関心を集めたのに対し,上場会社である原告X1社がステークホルダーに対して事実関係を説明することは,当然に想定されることである。本件各IR資料は,誹謗中傷を受けた原告らの名誉・信用を回復するという正当な利益のために開示された。本件各IR資料においては,抽象的な表現を用い,断定を避けている。
(2)  争点(4)―イ(真実性又は真実相当性の抗弁の成否)について
〔原告X1社の主張〕
真実性及び真実相当性の抗弁が成立することは,次のとおりである。
ア 公共性・公益目的
本件各記事が掲載され,上場会社である原告X1社及びその完全子会社である原告X3社のステークホルダーの重大な関心を集める状況において,原告X1社が自らの認識を明確に伝え,事実関係を説明することは,公共の利害に関わること及び公益目的であることが明らかである。
イ 真実性
以下のとおり,本件各IR資料の重要部分は真実であり,少なくとも原告X1社において真実と信じるに足りるものである。
(ア) 被告は,監査役のBと通謀し,監査役のAを巻き込んで,原告X2及びCを取締役退任に追い込もうとした。その過程で,客観的な根拠なく,「d社の設立に反社会的勢力が関与している」と一方的に決めつけて,Dが関与していないd社の設立を問題視した。
(イ) 被告の辞任に至る経緯及び本件売却処分の経緯も真実である。
(ウ) 本件各記事の掲載が被告の言説に基づくことは,本件h誌の写真に掲載された本件写真中文書の内容と本件要請文書の内容が一致すること,Eのブログに,被告が私怨を晴らす目的で告発を行うことが予告されていることなどから明らかである。
(エ) 原告らを誹謗中傷する本件各記事が原告の言説に基づいて掲載されたこと,被告が証券取引等監視委員会,東京証券取引所,警視庁,監査法人等に本件要請文書等をばら撒き,知人等を通じて情報提供も行ったこと,被告が私怨を晴らすために告発を行っていること,会社の存立を脅かそうとしていること,被告が辞任直後に競合会社を設立していること,被告が事業を持ち出すことや原告X1社を退職することを促していることなどからすれば,原告らにとって,被告が本件各記事の写しの送付等に何らかの関与をしていることが合理的に疑われる状況にあった。
(オ) 原告X1社が,被告に対する訴えを提起した経緯についてIRとして適時開示を行うことは,ステークホルダーに対し投資判断に必要な情報を提供するという正当な目的・手段で行われたものであり,何ら不合理ではない。
ウ 本件各IR資料における意見表明は,その前提事実が真実であり,被告に対する人身攻撃に及ぶものではなく,意見ないし論評の域を逸脱するものではない。
〔被告の主張〕
ア 社会の公器である原告X1社が,一般の私人である被告を訴えたという本件事案について,公益性が認められることはない。原告らは,私怨から,あるいは経営上の失策の非難を旧経営者である被告に向き変えるという動機から本件訴訟を提起したのであり,公益目的もなければ,公共性もない。
イ 本件各IR資料の内容は,次のとおり,いずれも事実ではない。
(ア) 本件報道関係IR資料記載部分1のうち,被告が「客観性・公平性を欠く判断を押し付け,X2氏・C氏を取締役退任に追い込もうとしました。」との記載は虚偽である。
被告は,原告X2及びCを諫め行動を改めさせようと努力したが,原告X2やCを追い出そうなどとはしていない。
(イ) 本件報道関係IR資料記載部分2のうち,「メガソーラー案件の関係者を反社会的勢力と一方的に決めつけて,その関係者とX2氏・C氏の繋がりを問題視し,X2氏・C氏を取締役退任に追い込もうとした」たことにつき「監査役の客観的判断により根拠なしとされ」たとの記載は虚偽である。
当時の監査役は,d社の関係者であるDにつき,反社会的勢力との関係が疑われるとされることについて,各種ヒアリングやl社の調査報告書をもとに,むしろ「根拠あり」と判断した。
(ウ) 本件報道関係IR資料記載部分3(上記の企てが失敗に終わると〔中略〕メディアへの誹謗中傷記事の掲載,当社取引先・顧客様への記事の写しの送付等への関与が強く疑われております。)は,語尾が「関与が疑われる」とぼかされているが,読者の受け止め方は,「被告が記事の写しを原告X1社の取引先・顧客へ送付した」と書かれているのと同じであり,それは虚偽である。
被告が,取材源の一つとして雑誌社から話を聞かれる等したことは事実であるが,「誹謗中傷記事の掲載に関与」との表現は,より一層積極的に関与したとか,掲載行為自体を行った人物と受け止められるから,上記表現は虚偽である。
被告が,雑誌記事の写しを原告X1社や原告X3社の顧客や取引先に送付したことなど,一度もない。
(エ) 本件訴訟関係IR資料記載部分(「事実と反する情報の提供等により一部メディア等を利用して虚偽等の内容を記事として摘示・掲載させた疑いがあり,当社等は風評被害を被りました。」)は,被告が,メディアを利用して,いわば間接正犯的に虚偽の記事を書かせたという表現であり,虚偽である。また,被告が風評被害を与えたとする点も虚偽である。
(3)  争点(4)―ウ(正当防衛ないし正当行為の抗弁の成否)について
〔原告X1社の主張〕
本件各IR資料は,被告の言説に基づく本件各記事による原告らに対する誹謗中傷に対抗して行われた言論であり,自己の正当な利益を擁護するための表現活動による正当な防衛行為であるから,違法性がない。また,上場会社である原告X1社が,被告による誹謗中傷に対し,ステークホルダーへの説明を行うことは,社会的に相当な範囲内の行為として許容されなければならない。
〔被告の主張〕
原告らは,私怨から,あるいは経営上の失策の非難を旧経営者である被告に向き変えるという動機から本件訴訟を提起したのであり,名誉毀損の責任を免れることはない。
(4)  争点(4)―エ(相当因果関係のある損害額)について
〔被告の主張〕
ア 原告X1社の名誉棄損行為による被告の精神的損害の慰謝料は,150万円を下らない。
イ 被告は,大手企業との間で,1年間で500万円のコンサルタント料を得られる内容の契約を締結する直前まで進んでいたが,本件各IR資料の公表により失注した。上記契約は最低でも3年間は継続したはずであるから,被告は1500万円の損害を被った。
〔原告X1社の主張〕
被告の損害は,否認ないし争う。
第3  本件各不法行為関係請求に対する当裁判所の判断
当裁判所は,本件各不法行為関係請求のうち,本件各雑誌関係請求(第1事件・第3事件)については,原告X1社及び原告X3社とb社との間に競争関係はあると認められ(争点(1)―ア),被告の信義則上の義務違反を認めらることはできないものの,これのみで本件各記事による信用毀損に係る不法行為責任を免れるものではないところ(争点(1)―イ),本件各記事の一部については原告X1社の信用を毀損するものとは認められず(争点(1)―ウ),他の一部には信用毀損は認められるがこれと被告の情報提供との間の相当因果関係が認められず(争点(1)―エ),その余の部分による信用毀損については,被告に予見可能性はあるものの(争点(1)―オ),真実性の抗弁が認められるから(争点(1)―カ),理由がないと判断し,反訴IR関係請求(第2事件)については,本件各IR資料は被告の社会的評価を低下させるものと認められ(争点(4)―ア),真実性又は真実相当性の抗弁(争点(4)―イ)並びに正当防衛ないし正当行為の抗弁(争点(4)―ウ)はいずれも認められないから,相当因果関係のある損害額100万円の限度で(争点(4)―エ)理由があると判断した。上記各争点に対する判断は,それぞれ次のとおりである。
1  争点(1)―ア(競争関係の有無)について(本件各雑誌関係請求)
(1)  前提事実(1)ア,イ及び同(2)エ,証拠(乙100,被告本人)並びに弁論の全趣旨によれば,①原告X1社は,コンピュータシステム,コンピュータソフトウェア,建設機械,自然エネルギー等に各関連する事業を目的に掲げ,当該目的の一部に則した事業を営んでいること,②原告X3社は,建設機械,自然エネルギー等に各関連する事業を目的に掲げ,当該目的の一部に則した事業を営んでいること,③b社は,コンサルティング業務,コンピュータシステム,太陽光発電システム等に各関連する事業を目的に掲げ,当該目的の一部に則した事業を営んでいること,以上の事実が認められる。
(2)  上記認定事実によれば,原告X1社及び原告X3社と被告が代表取締役を務めるb社との間には,少なくとも潜在的に,同種の商品を扱い又は同種の役務を提供する可能性があるといえるから,上記両原告とb社及びその代表取締役である被告とは競争関係にあると認められる。
これに反する被告の主張のうち,営業相互の間に具体的競争関係が必要であることを前提とする主張は,不正競争防止法2条1項15号の規定の趣旨に照らして採用できず,潜在的にも競争関係が生じないとの主張は,上記(1)の各認定事実に照らして採用できない。
2  争点(1)―イ(信義則上の義務違反の有無)について(本件各雑誌関係請求)
原告X1社及び原告X3社は,被告が上記両原告の取締役を退任した後において,取締役在任中に知り得た上記両原告の内部情報について信義則上の守秘義務を負い,かつ,被告は当該義務に反する不法行為に及んだ旨主張する。
しかし,会社と取締役との間の関係を規律する委任に関する規定(会社法330条,民法643条~656条)には,委任契約の終了後において元受任者が守秘義務を負うことを直接に定める規定は存在しない。また,一般条項である信義誠実の原則(民法1条2項)から,直ちに元受任者の具体的な守秘義務が生じるとも解されない。ほかに被告が元受任者としての守秘義務を負うと認めるべき法律上及び事実上の根拠は主張・立証されていない。
したがって,被告が守秘義務に反する不法行為に及んだ旨の上記両原告の主張は,前提となる被告の守秘義務を認めることができず,これ以上検討するまでもなく採用することができない。もっとも,第1事件において原告X1社及び原告X3社が主張する不法行為は,本件各記事による信用毀損であるところ,かかる信用毀損についての被告の情報提供者としての不法行為責任は,当該情報提供が守秘義務違反ではなかったとしても,そのことをもって当然に免れる性質のものではないと解される。
そこで,以下,進んで不正競争行為及び不法行為に共通する「本件各記事による信用毀損」に関する各争点について判断する。
3  争点(1)―ウ(本件各記事による信用毀損の有無)について(本件各雑誌関係請求)
(1)  雑誌における特定の記事の内容が他人の社会的評価を低下させるものかどうかは,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として当該記事の意味内容を解釈してこれを判断するのが相当である(最高裁判所昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
(2)  上記(1)を本件g誌記事について検討すると,同記事は,会員制月刊総合情報誌である本件g誌に掲載されたものであり,前提事実(9)記載の記事の体裁・構成・内容等につき,会員制月刊総合情報誌の一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,その意味内容を解釈すれば,本件g誌記事のうち本件g誌本文部分1~4は,「本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明の内容は虚偽であった」との事実(以下「本件g誌摘示事実A」という。)を摘示するものと解釈され,本件g誌本文部分5は,「原告X2が原告X1社の代表取締役として不必要な移転費用を支出させるなど不適切な業務執行をした」との事実(以下「本件g誌摘示事実B」という。)を摘示するものと解釈され,本件g誌見出し及び本件g誌本文部分6は,趣旨は必ずしも明確ではないものの,本件g誌記事における摘示事実全般を基礎として,「『強欲中国人』に乗っ取られて『汚染』された企業である原告X1社は『追放』されるべきである」との,原告X1社に関する意見ないし論評を表明するもの(以下「本件g誌意見・論評」という。)と解釈されるものと認められる。
(3)  上記(1)を本件h誌記事について検討すると,同記事は,週刊経済雑誌である本件h誌に掲載されたものであり,前提事実(10)記載の記事の体裁・構成・内容等につき週刊経済雑誌の一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,その意味内容を解釈すれば,本件h誌記事のうち本件h誌本文部分1は,本件h誌記事における摘示事実全般を基礎として,「原告X1社の現経営陣が原告X1社を『乗っ取った』」との意見ないし論評を表明するもの(以下「本件h誌意見・論評A」という。)と解釈され,本件h誌本文部分2~4は,「本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明の内容は虚偽であった」との事実(以下「本件h誌摘示事実A」という。)を摘示するものと解釈され,本件h誌本文部分5は,原告X1社又は原告X3社と関係する合弁会社に関する記載と理解できる文脈において,「合弁会社に反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた」との事実(以下「本件h誌摘示事実B」という。)を摘示するものと解釈され,本件h誌本文部分6は,本件h誌記事における摘示事実全般を基礎として,「X1社の商圏はすでにボロボロになっており,再建は不可能」との,原告X1社に関する意見ないし論評を表明するもの(以下「本件h誌意見・論評B」という。)と解釈されるものと認められる。
(4)  原告X1社は,本件各記事の見出し及び本文部分のほか,本件写真中文書の記載内容によっても同原告の信用が毀損された旨主張する。
しかし,前提事実(11)記載の本件写真の体裁,すなわち,「X1社の旧経営陣による告発状」との説明を付し,見開きの記事の上部2分の1を用いて「旧経営陣が現経営陣を告発」との見出しと並べて掲載されていることや,写真中に3葉の紙面をずらしながら重ねた状態で撮影されているため,ほぼ全行にわたる不可視部分が存在していること,撮像上の文字が極小であること等からすると,本件写真は,本件h誌記事本文中の「告発状」の存在を視覚的に示すことを主眼とするものであるために,本件写真中文書の内容の可読性には特段の意が払われていないことが明らかであり,このことから見て,一般読者が通常の読み方により,本件写真中文書の記載内容を的確に読解することは著しく困難なものと認められる。
そうすると,本件写真中文書の記載内容により原告X1社の信用が毀損された旨の同原告の上記主張は,前提を欠くと解されるから,採用できない。
(5)  そこで,上記(2)及び(3)のとおり特定された本件各記事における各摘示事実及び意見・論評について,これらによる原告X1社及び原告X3社の社会的評価の低下の有無を検討する。
ア 本件g誌摘示事実A(「本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明の内容は虚偽であった」)は,虚偽の説明を受けた客体とされる原告X1社の社会的評価を直ちに低下させるものとまで認めることはできないが,虚偽の説明を行った主体とされる原告X3社の社会的評価を低下させるものと認められる。
イ 本件g誌摘示事実B(「原告X2が原告X1社の代表取締役として不必要な移転費用を支出させるなど不適切な業務執行をした」)は,不適切な業務執行の主体とされる原告X2の社会的評価への影響はさて措き,原告X1社及び原告X3社の社会的評価を直ちに低下させるものとまで認めることはできない。
ウ 本件g誌意見・論評(「『強欲中国人』に乗っ取られて『汚染』された企業である原告X1社は『追放』されるべきである」)は,「汚染」され「追放」されるべき存在であるとされる原告X1社の社会的評価を低下させるものと認められる。
エ 本件h誌摘示事実A(「本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明の内容は虚偽であった」)は,虚偽の説明を受けた客体とされる原告X1社の社会的評価を直ちに低下させるものとまで認めることはできないが,虚偽の説明を行った主体とされる原告X3社の社会的評価を低下させるものと認められる。
オ 本件h誌摘示事実B(「合弁会社に反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた」)は,原告X1社又は原告X3社と関係する合弁会社に関する記載と理解できる文脈における摘示事実であることに照らし,間接的ながらも上記両原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
カ 本件h誌意見・論評A(「原告X1社の現経営陣が原告X1社を『乗っ取った』」)は,乗っ取りを行った主体とされる「原告X1社の現経営陣」の社会的評価への影響はさて措き,原告X1社の社会的評価を直ちに低下させるものとは認められない。
キ 本件h誌意見・論評B(「X1社の商圏はすでにボロボロになっており,再建は不可能」)は,上場会社としての原告X1社の社会的評価を低下させるものと認められる。
(6)  以上によれば,本件g誌摘示事実Aは原告X1社との関係で,本件g誌摘示事実Bは原告X1社及び原告X3社との関係で,本件g誌意見・論評は原告X3社との関係で,本件h誌摘示事実Aは原告X1社との関係で,本件h誌意見・論評Aは上記両原告との関係で,本件h誌意見・論評Bは原告X3社との関係で,いずれも社会的評価を低下させるものではなく,信用を毀損するものとは認められないから,そのような信用毀損があることを前提とする上記両原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がない。
他方,本件g誌摘示事実Aは原告X3社につき,本件g誌意見・論評は原告X1社につき,本件h誌摘示事実Aは原告X3社につき,本件h誌摘示事実Bは原告X1社及び原告X3社につき,本件h誌意見・論評Bは原告X1社につき,それぞれ社会的評価を低下させるものであるから,信用を毀損するものと認められる。
そこで,このことを前提として,次項において,被告による情報提供と上記の各信用毀損との間の相当因果関係の有無を検討する。
4  争点(1)―エ(情報提供と本件各記事による信用毀損との間の相当因果関係の有無)について(本件各雑誌関係請求)
(1)  後掲証拠等(認定事実ごとに掲げる。)によれば,本件各記事の掲載に至る経緯について,次の各事実が認められる。
ア 本件g誌記事の掲載に至る経緯
(ア) 被告は,平成25年2月頃,原告X1社及び原告X3社の経営を巡る問題に関心を有し取材活動を行っていたEから取材の申込みを受け,これに応じ,Eに対し,本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明について,その内容が実態とは違う虚偽のものであったとの趣旨の話をした。
(イ) 上記(ア)の1,2か月後,被告は,Eから再度取材の申込みを受け,これに応じ,Eに対し,原告X1社及び原告X1社の経営に関して反社会的勢力に絡む問題があったとの趣旨の話をするとともに,本件弁護士意見書の写しを提供した。
(ウ) Eは,被告以外の者からも情報を収集したほか,原告X1社に対しても事前に質問状を送付するなどの取材活動を行った上,本件g誌記事を作成し,同記事が掲載された本件g誌が平成25年5月号として発行された。
(甲15,乙25,80,100,被告本人,弁論の全趣旨)
イ 本件h誌記事の掲載に至る経緯
(ア) 被告は,平成26年5月頃又はこれに近接する時期において,原告X1社の経営を巡る問題に関心を有し取材活動を行っていたFから取材の申込みを受け,これに応じ,Fに対し,本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明について,その内容が実態とは違う虚偽のものであったとの趣旨の話をするとともに,本件要請文書の写しを提供した。
(イ) Fは,被告以外の者からも情報を収集したほか,原告X1社に直接取材するなどの取材活動を行った上,本件h誌記事を作成し,同記事が掲載された本件h誌が平成26年11月1日号として発行された。
(甲16,乙79,90,93,100,被告本人,弁論の全趣旨)
(2)  一般に,雑誌の記事は,その執筆者ないし出版社が,自らの責任と権限において,記事の対象となる事実関係について種々の取材を行い,その結果得られた情報を取捨選択した上,自らの事実認識及び価値判断に従って記事の内容を構成することにより作成されるものである。そうすると,記事の作成者に情報を提供した者の行為と,雑誌の記事による名誉ないし信用の毀損との間に,不法行為の要件としての相当因果関係が認められるためには,記事の内容が提供された情報の内容に従ったものであり,かつ,情報提供者においてそのような記事が掲載される相当程度の蓋然性があることの認識を有していたことを要するものと解するのが相当である。
(3)  上記(2)を,本件g誌摘示事実Aについて見るに,上記(1)アの認定事実に照らせば,本件g誌摘示事実Aの内容(「本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明の内容は虚偽であった」)の主要部分は,被告がEに対して提供した情報に従いこれを反映させたものといえ,かつ,雑誌の出版に携わるEの取材に応じた被告には,そのような記事が掲載される相当程度の蓋然性があることの認識があったものと認めるのが相当である。
したがって,被告による情報提供と本件g誌摘示事実Aによる信用毀損との間には,相当因果関係があると認められる。
(4)  上記(2)を,本件g誌意見・論評について見るに,本件全証拠によっても,被告がEに対して提供した情報や意見ないし論評に,本件g誌意見・論評の内容(「『強欲中国人』に乗っ取られて『汚染』された企業である原告X1社は『追放』されるべきである」)が含まれていたとは,認めるに足りない。むしろ,上記(1)アの認定事実のほか,本件g誌記事において,本件g誌意見・論評は,同記事の執筆者の意見・論評としての体裁をもって掲載されていることをも併せ考えれば,本件g誌意見・論評は,専ら本件g誌記事を作成したEの主観的見解の表現と見るのが相当である。
したがって,被告による情報提供と本件g誌意見・論評による信用毀損との間には,相当因果関係があるとは認められない。
(5)  上記(2)を,本件h誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Bについて見るに,上記(1)イの認定事実に照らせば,本件h誌摘示事実Aの内容(「本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明の内容は虚偽であった」)と,本件h誌摘示事実Bの内容(「合弁会社に反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた」)の各主要部分は,被告がFに対して提供した情報に従いこれを反映させたものといえ,かつ,雑誌の出版に携わるFの取材に応じた被告には,そのような記事が掲載される相当程度の蓋然性があることの認識があったものと認めるのが相当である。
したがって,被告による情報提供と本件h誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Bによる各信用毀損との間には,相当因果関係があると認められる。
(6)  上記(2)を,本件h誌意見・論評Bについて見るに,本件h誌記事において,本件h誌意見・論評Bの内容(「X1社の商圏はすでにボロボロになっており,再建は不可能」)は,原告X1社の「旧経営陣」の意見・論評としての体裁をもって掲載されているところ,上記(1)イの認定事実に加えて,本件h誌記事の他の部分では,被告の実名が「創業社長」との肩書を付して明示されていること,さらに,被告が,本件h誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Bの各内容に対応する情報をFに提供したことは実質的に争わない一方で,本件h誌意見・論評Bが自己の言動に基づく表現であることは一貫して否定していることなどを併せ考慮すると,上記「旧経営陣」を被告と特定することは困難というべきである。
したがって,被告による情報提供と本件g誌意見・論評による信用毀損との間には,相当因果関係があるとは認められない。
(7)  以上によれば,被告による情報提供と,本件g誌意見・論評及び本件h誌意見・論評による各信用毀損との間には,いずれも相当因果関係があるとは認められないから,そのような関係があることを前提として被告の責任を問う上記両原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がない。
他方,被告による情報提供と,本件g誌摘示事実A,本件h誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Bによる各信用毀損との間には,相当因果関係があると認められるから,これらを前提として,次項において,当該各信用毀損についての被告の故意・過失の有無を検討する。
5  争点(1)―オ(故意・過失の有無)について(本件各雑誌関係請求)
上記4で認定説示したところによれば,被告は,本件各記事の作成者に対し,本件g誌摘示事実A,本件h誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Bの各内容に対応する情報を提供するに際し,当該情報の内容に従った記事が掲載されることを相当程度の蓋然性をもって予見していたと認められる。そうすると,被告は,上記予見に沿って現実に掲載されるに至った本件各記事による信用毀損の結果についても,予見していたと認められ,本件g誌摘示事実A,本件h誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Bによる各信用毀損について,真実性又は真実相当性の抗弁が成立するなどの事情がない限り,その責任を免れないものと解される。
6  争点(1)―カ(真実性又は真実相当性の抗弁の成否)について(本件各雑誌関係請求)
そこで,以下,上記各抗弁の成否について検討する。
(1)  公共性及び公益性について
前提事実(9)及び(10)並びに弁論の全趣旨によれば,本件各記事は,いずれも,定期刊行雑誌に掲載された,上場会社である原告X1社の企業結合の経緯や,同原告の経営の在り方に関わる事柄を内容とする記事であると認められる。そうすると,表現行為としての本件各記事の掲載は,公共の利害に関する事実に係り,かつ,専ら公益を図る目的に出るものと認めるのが相当である。
(2)  本件g誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Aの真実性又は真実相当性について
ア 本件g誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Aの内容は,いずれも「本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明の内容は虚偽であった」というものであるところ,当該内容に関連して,次の各事実が認められる。
(ア) 原告X3社が,平成23年8月29日,「X3社太陽光受注したリスト」との件名のメール(乙12の1)に添付する態様で原告X1社に提供した,「X3株式会社ソーラー発電システム受注したリスト(部分)」と題されたリスト(乙12の2)には,8件の取引案件がその詳細と共に記載されていた。
また,原告X3社が,平成23年9月18日,「ソラ資料」との件名のメール(甲33の1及び乙14の1に各引用のC作成部分)に添付する態様で原告X1社に提供した,「X3株式会社ソーラー発電システム受注したリスト(部分)」と題されたリスト(乙14の2)には,22件の取引案件が,それぞれの「受注確度」等の詳細と共に記載されていたところ,うち7件の「受注確度」は100パーセントとされ,その余の15件の「受注確度」は50~80パーセントとされていた。
更に,上記リストを元に平成23年10月7日頃に作成された「X3株式会社ソーラー発電システムプロスペクトリスト(10月7日アップデート)」と題されたリスト(甲19)は,取引案件が1件増加して23件となった点を除くほか,従前のリストの内容をほぼ踏襲する内容となっていた。
しかるところ,最終的に23件となった上記各リスト上の取引案件のうち,受注確度が100パーセントとされた複数の案件を含む約20件については,その後6年以上を経た現在に至るまで契約が締結されておらず,今後締結される具体的見込みがあることをうかがわせるような事情もない。
(甲19,29,33の1及び2,乙12の1及び2,乙14の1及び2,乙69,100,被告本人,弁論の全趣旨)
(イ) 本件株式交換契約に至る過程において,原告X3社が,原告X1社に提供した,平成23年6月時点における原告X3社の事業計画書(乙5の1)には,ソーラーシステム事業に関し,「原告X3社はc社との間でc社の商品についての独占販売契約を締結した」旨の記載があった。しかし,原告X3社は,実際には,上記事業計画の作成時に先立つ平成22年11月17日,i社との間で,「業務提携に関する覚書」と題する書面(甲20)をもって,「原告X3社は,i社がc社との間でc社の製品を直接取引することに同意する」旨の定めを含む契約を締結していた。
原告X3社とc社との関係に関する原告X3社及び原告X2の説明は,平成23年8月頃までには,「Exclusiveな契約ではない。」が「ビジネス展開においては実質的にExclusiveに近い関係」という説明にはなったものの(なお,「Exclusive」の一般的な訳語に「独占的」が含まれることは,当裁判所に顕著である。),c社は,本件g誌記事掲載後,本件h記事掲載前である平成26年4月,株式会社mと提携して「n社」という会社を我が国に設立し,原告X3社とは無関係に営業活動を開始した。
(甲20,21,乙5の1及び2,乙10,乙100,被告本人,弁論の全趣旨)
イ 上記アの各認定事実によれば,本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った説明のうち,原告X3社のソーラーシステム事業に関する説明は,取引の受注状況ないし受注実績や重要な取引先との契約が独占的なものであるか否かについて,客観的な実態に反し又は大きく乖離する部分があったことが認められる。そうすると,そのような説明の内容が虚偽であったとの趣旨をいうものと解される本件g誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Aは,その主要部分において真実であると認めることができる。
ウ 上記ア及びイの判断に反する原告X1社及び原告X3社の主張は,次のとおり採用することができず,他に同判断を覆すに足りる証拠ないし事情はない。
(ア) 原告X1社及び原告X3社は,「プロスペクトリスト記載の案件20件のうち,2件は最終的に受注し,残りの案件についてはいずれも口頭ベースでは受注して見積書も提出されているから,案件には実体がある」と主張するが,「受注確度」が100パーセントとされた複数の案件を含むリスト上の大半の案件について,実際には契約が締結されておらず,今後締結される具体的見込みがあることをうかがわせる事情がないことは,前記ア(ア)で認定説示したとおりであって,2件分について口頭ベースで受注され,見積書が提出されていたとしても,そのことから,原告X3社及び原告X2による説明が客観的な実態に大きく乖離していなかったということはできない。
(イ) 原告X1社及び原告X3社は,「原告X3社は,本件株式交換契約締結当時,c社の実質的な総代理店であった」などと主張して,重要な取引先との契約が独占的なものであるか否かについての説明にも虚偽はなかったかのように主張する。
しかし,本件g誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実は,「本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明の内容は虚偽であった」というものであり,その虚偽とされる具体的な内容は,本件g誌適示事実Aにおいては,「X2らが説明したX3社の事業計画はウソや紛らわしい内容ばかり」という本件g誌本文部分2の具体例として挙げられた「c社との「独占販売契約」はフィクション」とする本件g誌本文部分3であり,本件h誌摘示事実Aにおいては,「c社の実質的な総代理店であるとの説明も虚偽であったことが後に判明」という本件h誌本文部分4である。
そして,上記本件g誌摘示事実Aについてみると,仮に,原告X3社がc社の実質的な総代理店であったとしても,原告X3社の事業計画書における「原告X3社はc社との間でc社の商品についての独占販売契約を締結した」旨の記載は客観的事実に反するとと言わざるを得ないから,「事業計画がウソや紛らわしい内容ばかり」という本件g誌本文部分2が真実性を欠くとはいえないし,本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告に対して行った原告X3社の事業計画に関する説明の内容に虚偽があったことが否定されるものでもない。
また,上記本件h誌摘示事実Aについてみるも,本件h紙が発行された平成26年11月には,既に,c社が我が国に原告X3社とは無関係の営業活動を行う会社を設立していたわけであるから,「c社の実質的な総代理店であるとの説明も虚偽であったことが後に判明」との本件h紙本文部分4について,本件h誌発行時点において,被告や被告から情報提供を受けたEがこれを真実と信じることには相当な理由があったというべきである。なお,原告X3社がc社の実質的な総代理店であるか否かによって,前記ア(ア)で説示した原告X3社の取引の受注状況ないし受注実績説明に関する内容に虚偽があったことが否定されるものでもない。
そして,本件g誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Aが,「本件株式交換契約に至る過程において原告X3社及び原告X2が原告X1社に対して行った原告X3社の経営実態や事業計画に関する説明の内容は虚偽であった」というものであったことは,これまで認定・説示したとおりであるから,仮に,本件株式交換契約当時,原告X3社がc社の実質的な総代理店であったとしても,そのことから,本件g誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Aが真実性を欠くとか,真実相当性を有しないと認めることは困難である。
エ したがって,本件g誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Aについては,いずれも真実性の抗弁又は真実相当性の抗弁が成立する。
(3)  本件h誌摘示事実Bの真実性又は真実相当性について
ア 本件h誌摘示事実Bの内容は,「合弁会社に反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた」というものであるところ,当該内容に関連して,次の各事実が認められる。
(ア) Dは,d社の設立日である平成24年7月19日に先立つ同月6日,d社の企業概要が不動文字で記載された紙片(乙50)に,会社の「目的・ビジョン」等を手書きで記載した上,「不可能を可能にするコンサルティング&アドバイザー (株)f 代表取締役 D」との署名をした。同紙片には,d社の共同出資者である原告X3社の代表取締役としての原告X2のほか,同じく共同出資者であるe社の代表取締役も署名をした。(甲128,乙50,原告X2本人,弁論の全趣旨)
(イ) 中村弁護士が作成した平成24年9月10日付けの本件弁護士意見書(乙25)には,「D氏に関し,沖縄の指定暴力団に指定されているj会との接触がある旨の複数人からの情報を得た(真偽の確認には至っていないが相当確度の高い情報とみられる。)」等の記載がある。
また,調査業務を行うl社がDの素性について調査して作成した平成24年9月21日付けの調査報告書(甲116)には,「銀行・証券筋から警戒対象となっている」,「仕手筋とは異なるが,企業社会の秩序を壊しかけた人物として,銀行証券筋は捉えている」,「暴力団が背後に介在する反社会的な人物ではないものの,過去の不信行為は大きな禍根を残した」等の記載がある。
さらに,当時の原告X1社の役員3名(社外取締役のJ,平成24年9月27日付けで平取締役から代表取締役に就任したH,社外監査役であり本件訴訟においては原告X1社及び原告X3社を代表して訴訟追行をしているA)により構成される内部調査委員会が作成した平成24年9月27日付けの本件調査報告書(乙26)には,「d社は,反社会的勢力と疑われる可能性がある関係者を持ち,すみやかに関係を解消するべき」,「d社の件で,反社会的勢力と疑われる可能性のある者と関わりを持った(反社会的勢力調査の必要性指摘にもかかわらず,未済のまま案件を進行させた)」等の記載がある。
(甲116,127,乙25,26,A本人,弁論の全趣旨)
イ 上記アの認定事実によれば,原告X3社が出資した合弁会社であるd社の設立には,外部の弁護士が作成した意見書や原告X1社の内部調査委員会が作成した報告書において「反社会的勢力と疑われる可能性がある」旨の指摘を受けることとなるDが,コンサルタントないしアドバイザーとの肩書の下,相当程度関与していたことが認められる。そうすると,そのような人物が合弁会社に関与していたとの趣旨をいうものと解される本件h誌摘示事実Bは,その主要部分において真実であると認めることができる。
ウ 上記ア及びイの判断に反する原告X1社及び原告X3社の主張は,次のとおり採用することができず,他に同判断を覆すに足りる証拠ないし事情はない。
(ア) 原告X1社及び原告X3社は,「Dがd社の設立に関与したことはない」と主張するが,同主張は客観的証拠(乙50)に反し,採用できない。
(イ) 原告X1社及び原告X3社は,「l社の調査報告書によれば,Dは反社会的勢力との関係がない」と主張するが,上記ア(イ)で認定・説示したところによれば,Dが「反社会的勢力と疑われる可能性がある」者であることは否定し難いものというべきであり,上記主張は採用できない。
(ウ) 原告X1社及び原告X3社は,「本件調査委員会報告書は,被告の影響下にあった内部調査委員会が作成したものであり,客観性・公平性がない」と主張するが,調査委員会が被告の影響下にあったことを認めるに足りる証拠はない。かえって,本件訴訟において原告X1社及び原告X3社を代表して被告の法的責任を追及しているAは,当時,調査委員会の構成員であった者であり,このことに照らしても,上記主張は採用できない。
エ したがって,本件h誌摘示事実Bについては,真実性の抗弁が成立する。
(4)  小括
以上によれば,本件g誌摘示事実A,本件h誌摘示事実A及び本件h誌摘示事実Bについて,いずれも真実性の抗弁が成立し,これらによる信用毀損について違法性を認めることはできないから,原告X1社及び原告X3社の請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がない。なお,原告X1社及び原告X3社は,被告の行動が私怨に基づくものであり,公益性が認められない旨主張する。しかし,本件各雑誌関係請求は,原告X1社及び原告X3社が,本件各記事の掲載による信用毀損に係る損害の賠償を請求する事案であるところ,本件各記事のうち被告の情報提供行為と相当因果関係が認められる摘示事実について,前記のような理由で真実性ないし真実相当性の抗弁が成立する以上,当該摘示事実によって原告X1社及び原告X3社に生じる信用毀損は,同原告らにおいて受忍すべきものと解されるのであって,被告に対する関係で,当該信用毀損に係る賠償を求めることができると解することは困難である。そして,以上によれば,原告X1社及び原告X3社の被告に対する不正競争行為又は不法行為を根拠とする各請求は,全て理由がないことに帰する。
7  争点(4)―ア(本件各IR資料による社会的評価の低下の有無)について(反訴IR関係請求)
(1)  IR資料は,上場会社が投資家向け広報のために公表するものであるところ,同資料における特定の記載の内容が他人の社会的評価を低下させるものかどうかについて,前記3(1)で説示した雑誌の記事による場合と区別する合理的な理由は見当たらないから,同様に,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として当該記載の意味内容を解釈してこれを判断するのが相当である。
(2)  上記(1)を本件各IR資料について検討すると,同資料は,上場会社である原告X1社が投資家向け広報として公表したものであり,前提事実(12)記載の文章の体裁・構成・内容等につき,投資家向け広報の一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,その意味内容を解釈すれば,本件IR資料のうち本件報道関係IR資料記載部分1及び2は,「被告が,反社会的勢力であると一方的に決めつけた者と原告X2及びCとの関係を問題視するなど,客観性及び公平性に欠ける判断により,取締役である原告X2及びCを退任に追い込もうとし,これにより原告X1社に多大の損害を与えた」との事実(以下「本件IR資料摘示事実A」という。)を摘示するものと解釈され,本件報道関係IR資料記載部分3及び本件訴訟関係IR資料記載部分は,「被告が,メディアに対して虚偽の情報を提供し,原告X1社を誹謗中傷する虚偽の記事を掲載させ,当該記事を原告X1社の取引先等に送付したと疑うべき十分な根拠が存在する」との事実(以下「本件IR資料摘示事実B」という。)を摘示するものと解釈される。
(3)  そこで,上記(2)のとおり特定された本件各IR資料における各摘示事実について,これらによる被告の社会的評価の低下の有無を検討する。
ア 本件IR資料摘示事実A(「被告が,反社会的勢力であると一方的に決めつけた者と原告X2及びCとの関係を問題視するなど,客観性及び公平性に欠ける判断により,取締役である原告X2及びCを退任に追い込もうとし,これにより原告X1社に多大の損害を与えた」)は,不当な判断に基づき原告X1社及びその役員の利益を侵害し又は侵害しようとしたとされる被告の社会的評価を低下させるものと認められる。
イ 本件IR資料摘示事実B(「被告が,メディアに対して虚偽の情報を提供し,原告X1社を誹謗中傷する虚偽の記事を掲載させ,当該記事を原告X1社の取引先等に送付したと疑うべき十分な根拠が存在する」)は,原告X1社に対して執拗な誹謗中傷行為をしたとされる被告の社会的評価を低下させるものと認められる。
(4)  以上によれば,本件IR資料摘示事実A及び本件IR資料摘示事実Bは,いずれも被告の社会的評価を低下させ,その信用を毀損するものと認められる。そこで,更に進んで,次項において,真実性又は真実相当性の抗弁の成否を検討する。
8  争点(4)―イ(真実性又は真実相当性の抗弁の成否)について(反訴IR関係請求)
(1)  本件IR資料摘示事実Aの真実性又は真実相当性について
本件IR資料摘示事実Aの内容は,「被告が,反社会的勢力であると一方的に決めつけた者と原告X2及びCとの関係を問題視するなど,客観性及び公平性に欠ける判断により,取締役である原告X2及びCを退任に追い込もうとし,これにより原告X1社に多大の損害を与えた」というものである。
しかし,本件各雑誌関係請求について上記6で争点(1)―カ(真実性又は真実相当性の抗弁の成否)に対する判断として説示したところに照らせば,本件IR資料摘示事実Aの上記内容は,「反社会的勢力を巡る被告の判断の不当性」という前提部分において,真実と認められる事実である本件h誌摘示事実B(「合弁会社に反社会的勢力との関係が強く疑われる人物が入り込んでいた」)と実質的に整合しないものであり,本件IR資料摘示事実Aは,全体として真実であると認めることができないし,本件全証拠によっても,原告X1社がこれを真実であると信じたことについて相当性があると認める根拠となるような事情を認めることはできない。
(2)  本件IR資料摘示事実Bの真実性又は真実相当性について
本件IR資料摘示事実Bの内容は,「被告が,メディアに対して虚偽の情報を提供し,原告X1社を誹謗中傷する虚偽の記事を掲載させ,当該記事を原告X1社の取引先等に送付したと疑うべき十分な根拠が存在する」というものである。
しかし,本件各雑誌関係請求について上記6で争点(1)―カ(真実性又は真実相当性の抗弁の成否)に対する判断として認定・説示したところによれば,被告が提供した情報に対応する本件各記事の内容はいずれも真実であると認められるから,上記内容のうち「被告が虚偽の情報提供をして虚偽の記事を掲載させた」旨をいう部分は,真実であると認めることができないし,本件全証拠によっても,原告X1社がこれを真実であると信じたことについて相当性があると認める根拠となるような事情を認めることはできない。
また,上記内容のうちその余の部分については,本件全証拠によっても,被告が原告X1社の取引先等に本件各記事を送付したことを示す十分な根拠が存在するとは認めることができず,そのような根拠があると信じたことについての相当性があるとも認めることができない。
(3)  小括
以上によれば,本件IR資料摘示事実A及び本件IR資料摘示事実Bについては,その余の要件を検討するまでもなく,真実性又は真実相当性の抗弁は成立しない。そこで,更に進んで,次項において,正当防衛ないし正当行為の抗弁の成否を検討する。
9  争点(4)―ウ(正当防衛ないし正当行為の抗弁の成否)について(反訴IR関係請求)
被告について,原告X1社との関係で違法となる行為があると認めることができないことは,本訴雑誌関係請求について前記1~6において,本訴確認書違反関係請求について後記第4の2及び3において,それぞれ認定説示するとおりである。
また,本件各IR資料が,その真実性及び真実であると信じたことについての相当性のいずれも認められないものであることを踏まえると,その公表による被告の社会的評価の低下に係る損害について,原告X1社が責任を免れると解すべき理由は見いだせない。
以上によれば,正当防衛ないし正当行為の抗弁は成立せず,原告X1社は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うというべきである。
10  争点(4)―エ(相当因果関係のある損害額)について(反訴IR関係請求)
本件各IR資料による被告の社会的評価の低下と相当因果関係のある損害額について検討すると,原告X1社の不法行為に係る経緯,態様,発生結果,その他本件に顕れた諸般の事情を勘案すれば,被告が受けた精神的損害に対する慰謝料は,100万円と認めるのが相当である。
被告は,本件各IR資料が公表されたために大手企業との契約を失い,1500万円の損害を受けた旨主張するが,かかる主張を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,反訴IR関係請求は,慰謝料100万円の限度で理由があるが,その余は理由がない。
第4  本件各債務不履行関係請求に対する当裁判所の判断
当裁判所は,本件各債務不履行関係請求のうち,本訴各義務違反関係請求については,本件確認書等及び本件覚書に係る各合意の効力は被告に及ぶが(争点(2)―ア),競業避止義務に係る合意は公序良俗に反するものとして無効と認められ(争点(2)―ウ),被告の株式無断売却禁止義務違反は認められないから(争点(2)―エ),いずれも理由がなく,反訴義務違反関係請求は,法令等遵守義務違反に違約金支払義務を発生させる効果があるとは認められないから(争点(3)―イ),理由がないと判断した。上記各争点に対する判断は,それぞれ次のとおりである。
1  争点(2)―ア(本件確認書等及び本件覚書に係る各合意の効力は被告に及ぶか)及び争点(3)―ア(本件覚書に係る合意の効力は原告X2に及ぶか)について
前提事実(5)及び(6),証拠(乙100)及び弁論の全趣旨によれば,本件確認書等及び本件覚書は,いずれも,その体裁及び内容において,作成者の権利義務関係を規律する趣旨の文書であり,被告は本件確認書等及び本件覚書の内容を,被告X2は本件覚書の内容を,それぞれ全て認識した上で,自己を作成者とする文書として,それらを真正に成立させたことが認められ,これらの認定事実によれば,本件確認書等及び本件覚書に係る各合意の効力は,被告に及ぶものというべきであり,本件覚書に係る合意の効力は,原告X2に及ぶものというべきである。
これに反する被告及び原告X2の各主張は,上記認定事実を否認する理由としても,同認定事実の法的効果を覆す抗弁としても,的を射たものとはいえず,採用できない。
2  争点(2)―ウ(競業避止義務に係る合意の公序良俗違反の有無)について
(1)  前提事実(5)及び(6)並びに弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
ア 被告と原告X1社との間で合意された本件確認書第3条は,「競業避止義務」との見出しの下,その第1項において,被告に対し,本件株式交換契約の効力発生日から5年間,原告X1社の取締役会が「原告X1社及び原告X3社が本件株式交換契約の効力発生日において行う各事業と競合する」と判断する事業を行うことを禁じる内容の規定である。
イ 被告と原告X2との間で合意された本件覚書第4条は,「競業避止義務」との見出しの下,その第1項において,被告及び原告X2に対し,本件株式交換契約の効力発生日から5年間,被告と原告X2の双方又は原告X1社若しくは原告X3社の各取締役会が「原告X1社及び原告X3社が本件株式交換契約の効力発生日において行う各事業と競合する」と判断する事業を行うことを禁じる内容の規定である。
(2)  本件確認書第3条は,会社と取締役との間における取締役退任後の競業避止義務に関する合意であるところ,このような合意は,競業の制限により守られる会社の利益と,職業選択に制限を受ける取締役の不利益とを比較考量する観点から,競業を制限する期間,場所的範囲,制限対象の明確性及び範囲,代償措置の有無及び内容等の諸事情を考慮し,競業の制限が合理的かつ必要な範囲を超える場合には,公序良俗に反し無効となるものと解するのが相当である。
これを本件確認書第3条の合意について見るに,上記(1)アの認定事実によれば,同合意においては,競業を制限する期間が5年間と相当長期間に及ぶこと,場所的範囲は何ら限定がないこと,制限対象の範囲は原告X1社の事業のほか合意の当事者ではない原告X3社の事業にまで及び,かつそのような事業に該当するか否かの線引きは,専ら原告X1社の取締役会の判断に委ねられる仕組みとなっていること,競業の制限に対する代償措置は何ら講じられていないことが認められ,これらの事情を考慮すれば,本件確認書が原告X1社の代表取締役の立場にある被告により任意に作成されたものであることなどを勘案しても,競業の制限は合理的かつ必要な範囲を超えるものというべきである。
したがって,本件確認書第3条に定められた競業避止義務の合意は,公序良俗に反し無効と解するのが相当である。
(3)  本件覚書第4条は,被告と原告X2との間の合意であるところ,会社以外の者に競業の制限により守られる正当な利益があるとは通常考え難いから,会社以外の者と取締役との間における取締役退任後の競業避止義務の合意は,その有効性を基礎付けるに足りる特段の事情がある場合は格別,原則として公序良俗に反し無効となるものと解するのが相当である。
これを本件覚書4条の合意について見るに,同合意は,その内容において,上記(2)で説示したとおり公序良俗に反し無効と認められる本件確認書に定められた競業避止義務の合意とほぼ同じものであり,その有効性を基礎付けるに足りる特段の事情を認めるに足りる証拠ないし事情はない。
したがって,本件覚書4条に定められた競業避止義務の合意もまた,公序良俗に反し無効と解するのが相当である。
(4)  以上によれば,原告X1社及び原告X2の被告に対する債務不履行を根拠とする各請求のうち競業避止義務違反を理由とするものは,その余の争点について判断するまでもなく,理由がない。
3  争点(2)―エ(株式無断売却禁止義務違反の有無)について
(1)  後掲証拠等(認定事実ごとに掲げる。)によれば次の各事実が認められる。
ア 本件確認書及び本件覚書の定めの内容
(ア) 被告と原告X1社との間で合意された本件確認書第4条及び本件追加確認書は,「株式の長期保有」との見出しの下,被告に対し,本件株式交換契約の効力発生日から平成28年11月30日までの間,被告が本件株式交換契約の効力発生日において所有する原告X1社株式(以下「本件被告保有株式」という。)を第三者に売却する場合には,その1か月前までに原告X1社に書面により通知することを求めるとともに,原告X1社の取締役会が合理的と判断して了承する場合(取締役会の決議によることを要しない。)を除き,本件被告保有株式の第三者に対する売却又は売却の打診を禁じる内容の規定である。(前提事実(5),弁論の全趣旨)
(イ) 被告と原告X2との間で合意された本件覚書第6条は,「株式の長期保有」との見出しの下,被告及び原告X2に対し,本件株式交換契約の効力発生日から2年間,一方が本件被告保有株式を第三者に売却する場合には,その1か月前までに他方に通知して協議を行うことを求めるとともに,原告X1社の取締役会が合理的と判断する場合(取締役会の決議によることを要しない。)を除き,本件被告保有株式の第三者に対する売却を禁じる内容の規定である。(前提事実(6),弁論の全趣旨)
イ 本件売却処分に至る経緯
(ア) 被告は,平成25年2月5日,当時原告X1社の代表取締役を務めていたH及び同原告の内部情報管理責任者に対し,本件被告保有株式を売却する意向を明らかにした上,同原告のインサイダー取引防止規程所定の自社特定有価証券等売買申請書の書式の提供を依頼するとともに,同月12日までに承認を得たい旨伝え,翌6日には,原告X1社から提供された自社特定有価証券等売買申請書の書式に必要事項を記入したものを原告X1社に提出して,書面をもって本件被告保有株式の売買を申請した。(乙33~35,100,被告本人)
(イ) 被告は,平成25年2月12日,原告X1社から,「金融商品取引法166条1項に該当するため」との理由が付された,本件被告保有株式の売買申請を不許可とする旨の回答を受け取ったため,同日,Hを送信先に含むメールにより,上記回答の再考を求めた。(乙35,36,100,被告本人)
(ウ) 被告は,平成25年2月13日,原告X1社から,Hを送信先に含むメールにより,「顧問弁護士から基本OKとのことですが,あくまでもYさんの保有株式ですので,自己責任における売買に関しては,これ以上,当社としては立ち入るつもりはございませんので,ご自身での判断をお願いいたします。当社としましてはこれ以上の回答も差し上げられません事をご了承ください。」との連絡を受け取った。(乙36,100,被告本人)
(エ) 被告は,平成25年5月28日から同年6月3日までの間に,本件被告保有株式の一部合計800株を売却処分し,もって本件売却処分を行った。(前提事実(7),弁論の全趣旨)
(2)  上記(1)アの各認定事実によれば,被告は,本件被告保有株式を売却するに際し,事前に原告X1社の了承を得る義務を負うと解されるところ,上記(1)イの各認定事実によれば,原告X1社は,その代表取締役であるHの関与の下,本件被告保有株式の売却を了承するよう求めた被告に対し,「被告がその保有株式を自己責任で売買することに関しては,原告X1社は立ち入らないので,被告自身で判断されたい」旨を回答し,本件売却処分は,上記回答の後に行われたことが認められる。そうすると,原告X1社は,被告による本件被告保有株式の売却について,これを妨げるものではないとの立場をあらかじめ表明したものと見るのが相当であり,本件被告保有株式の売却につき事前に原告X1社の了承を得るべき被告の義務は全うされたものというべきである。
(3)  原告X2は,被告が,本件覚書に基づく原告X2への通知及び同原告との協議の義務を怠った旨主張する。しかし,上記(1)アの認定事実によれば,原告X2への通知及び同原告との協議は,原告X1社の了承とは異なり,本件被告保有株式の売却の制限を解除するための要件となる事実には当たらないと解することができるから,上記主張にいう被告の義務の懈怠は,本件売却処分による損害に係る賠償請求権の発生原因の主張としては,それ自体失当なものというべきである。
また,原告X1社及び原告X2は,本件売却処分前における原告X1社と被告とのやり取りの内容は,専らインサイダー取引に該当するか否かに尽きるものである旨主張する。しかし,本件売却処分に至る経緯及びこれに対する評価は,上記(1)及び(2)で認定・説示したとおりであり,上記両原告の主張は,これらの判断を左右しない。
(4)  以上によれば,本訴各義務違反関係請求のうち株式無断売却禁止義務違反を理由とするものもまた,その余の争点について判断するまでもなく理由がない。
4  争点(3)―イ(法令等遵守義務違反の効果)について
(1)  後掲証拠等(認定事実ごとに掲げる。)によれば次の各事実が認められる。
ア 本件覚書は,原告X1社と原告X3社との間における本件株式交換契約の締結と同時に,被告と原告X2との間において,「原告X1社及び原告X3社が相互に連携し,グループとしての企業価値を向上させるべく円滑かつ対等の精神をもってグループ経営すること」(第1条)を目的として締結された。(前提事実(3)及び(6),甲6,弁論の全趣旨)
イ 本件覚書第8条は,「違約金」との見出しの下,本件覚書が定める債務の不履行に基づく損害賠償の額を1000万円と予定する内容の規定である(以下「本件違約金条項」という。)。(前提事実(6),民法420条3項,弁論の全趣旨)
ウ 本件覚書第7条は,「法令等の遵守」との見出しの下,被告及び原告X2において,原告X1社及び原告X3社の運営に当たり,あらゆる法令及び原告X1社に適用される金融商品取引所規則の定める規範を自ら遵守するとともに,上記両原告の役職員に対してもそうした規範の遵守を行き届かせることを求める内容の規定である。(前提事実(6),弁論の全趣旨)
(2)  上記(1)の認定事実に基づき検討すると,本件覚書に係る合意は,その当事者である被告及び原告X2の個人的利益を図ることを直接の目的とするものではなく,専ら本件株式交換契約による企業結合の実を上げることを目的として,企業結合の当事者である原告X1社及び原告X3社の各経営者としての被告及び原告X2との間で締結された,本件株式交換契約に従たる性質の合意であり,したがって,本件覚書が定める債務について被告又は原告X2のいずれか一方による不履行があるときでも,それが直ちに他方の個人的利益を侵害するものではないと考えられる。
しかるところ,本件違約金条項は,その文言による限り,本件覚書に定める債務の不履行があるときは,当該不履行による損害の有無,主体,内容及び程度を問わず,被告又は原告X2のうち債務不履行に及んだ一方が,他方に対し,一律に1000万円もの予定賠償額を支払うべき旨を定める趣旨の規定と見るほかない。
かかる本件覚書に係る合意の性質及び本件違約金条項の定める効果に照らすと,同合意の当事者の合理的意思解釈として,その不履行により本件違約金条項に基づく予定賠償額の支払義務を生じることとなる債務は,十分に明確かつ具体的な内容のものに限られると解するのが相当である。
これを本件覚書第7条について見るに,同規定が定める義務の内容は,本件覚書に係る合意の当事者が,あらゆる法令における全ての規範を自ら遵守するとともに,役職員という属性のみにより特定される多数人に対しても同様の規範の遵守を行き届かせるというものであるところ,かかる義務の内容に十分な明確性及び具体性があるとは到底いえない。
(3)  以上によれば,本件覚書7条に定める法令等遵守義務の違反には本件違約金条項の適用はなく,同義務違反の効果として違約金支払義務が発生するとは認められない。したがって,被告の原告X2に対する債務不履行を根拠とする請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がない。
第5  結論
以上のとおり,第1事件及び第3事件における原告X1社,原告X3社及び原告X2の請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却し,第2事件における被告の請求のうち,本件IR関係請求は一部理由があるからその限度でこれを認容し,その余を棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条,65条1項ただし書,仮執行の宣言につき同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第15部
(裁判長裁判官 東亜由美 裁判官 田中香里 裁判官佐藤隆幸は,転補につき,署名押印することができない。裁判長裁判官 東亜由美)

 

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