「営業支援」に関する裁判例(91)平成23年 1月17日 東京地裁 平20(ワ)6683号 損害賠償等請求事件(本訴)、取締役報酬請求事件(反訴)
「営業支援」に関する裁判例(91)平成23年 1月17日 東京地裁 平20(ワ)6683号 損害賠償等請求事件(本訴)、取締役報酬請求事件(反訴)
裁判年月日 平成23年 1月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)6683号・平21(ワ)3822号
事件名 損害賠償等請求事件(本訴)、取締役報酬請求事件(反訴)
裁判結果 認容(本訴)、一部認容(反訴) 文献番号 2011WLJPCA01178015
要旨
◆原告が、被告会社に対しては、原告が、原告から被告会社に対して業務委託費の名目で支払われた合計520万円について、原告と被告会社には業務委託契約はないなどと主張して、不当利得返還請求権に基づき、同金員及び遅延損害金の支払を求め、被告Yに対しては、上記金員は、その当時、原告の代表取締役の地位にあった被告Y1が取締役の任務に懈怠することにより出金されたものであるなどと主張して、会社法423条1項に基づき、同金員及びその遅延損害金の支払を求めた(本訴)のに対し、被告Y1が、原告に対し、月額100万円の取締役報酬請求権があるとして、未払取締役報酬合計2000万円のうち、本訴請求分の520万円を控除した残額の1480万円及びその遅延損害金の支払を求めた(反訴)事案において、原告の本訴を認容し、被告の反訴については、被告が取締役を辞任した月の報酬額を日割り計算に基づき減額したほかは、請求を認容した事例
参照条文
民法703条
裁判年月日 平成23年 1月17日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)6683号・平21(ワ)3822号
事件名 損害賠償等請求事件(本訴)、取締役報酬請求事件(反訴)
裁判結果 認容(本訴)、一部認容(反訴) 文献番号 2011WLJPCA01178015
平成20年(ワ)第6683号 損害賠償等請求事件(本訴)
平成21年(ワ)第3822号 取締役報酬請求事件(反訴)
東京都新宿区〈以下省略〉
本訴原告兼反訴被告 株式会社JOネットワーク(以下単に「原告」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 堀鉄平
同 髙橋史記
同 桑村竹則
同 笹木辰郎
同訴訟復代理人弁護士 吉新拓世
同 髙田優児
東京都中央区〈以下省略〉
本訴被告 株式会社中央グループホールディングス(以下単に「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 相場中行
新潟市〈以下省略〉
本訴被告兼反訴原告 Y1(以下単に「被告Y1」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 田畑俊治
同 小川智史
主文
1 被告会社は,原告に対し,520万円及びこれに対する平成20年2月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y1は,原告に対し,520万円及びこれに対する平成20年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告の被告Y1に対するその余の請求を棄却する。
4 原告は,被告Y1に対し,1473万3333円及びこれに対する平成18年4月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 被告Y1の原告に対するその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用は,本訴反訴ともに,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
7 この判決は,第1項,第2項及び第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
(1) 被告会社は,原告に対し,520万円及びこれに対する平成20年2月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y1は,原告に対し,520万円及びうち210万円に対する平成17年7月15日から,うち310万円に対する平成18年3月23日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
原告は,被告Y1に対し,1480万円及びこれに対する平成18年4月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
本訴のうち,〔1〕被告会社に対する請求は,原告が,原告から被告会社に対して,2回にわたり業務委託費の名目で支払われた合計520万円について,原告と被告会社との間には,業務委託契約はないなどと主張して,不当利得返還請求権に基づき,520万円及びこれに対する催告期間満了日の翌日である平成20年2月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であり,〔2〕被告Y1に対する請求は,上記520万円は,その当時,原告の代表取締役の地位にあった被告Y1が取締役の任務に懈怠することにより出金されたものであるなどと主張して,取締役の任務懈怠に基づく損害賠償請求権(会社法423条1項)に基づき,210万円及びこれに対する同額の支払のなされた平成17年7月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,並びに,310万円及びこれに対する同額の支払のなされた平成18年3月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
被告らは,原告と被告会社との間にはコンサルティング契約が存在しないことを自認した上で,原告の被告会社に対する支払は,実質的には被告Y1に対する取締役報酬として支払われたものであり正当であるなどと主張した。
反訴は,被告Y1が,原告に対して,月額100万円の取締役報酬請求権があるとして,平成16年9月分から平成18年4月分まで(20か月分)の未払取締役報酬合計2000万円のうち本訴請求分の520万円を控除した残額の1480万円及びこれに対する最終支払期日の翌日である平成18年4月29日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実
(1)ア 原告は,平成9年3月10日に設立された地図情報等の作成等を目的とする会社である。
イ 原告の発行済み株式は,1500株であり,株主構成は,以下のとおりである。
(ア) A 600株(40%)
(イ) 被告会社ないし被告Y1 193株(12.9%)
(2)ア A(以下「A」という。)は,平成14年4月26日以前から現在まで,原告の代表取締役の地位にある(争いがない)。
イ 被告Y1は,平成14年4月26日以降,原告の代表取締役の地位にあり,原告の東京本社の業務を管理してたが,平成18年4月28日,原告の代表取締役及び取締役を辞任した(争いがない。甲7,丙3参照)。
(3) 被告会社は,平成17年5月2日に設立された経営,金融,不動産活用に関するコンサルティング業務等を目的とする会社である。
被告会社では,平成17年12月21日,被告Y1の妻であるC(以下「C」という。)が代表取締役に就任し,平成20年5月31日,Bが代表取締役に,被告Y1が取締役に,それぞれ就任した。その際,Cは取締役の地位になかった(以上につき,履歴事項全部証明書)。
(4)ア 平成17年当時,原告と被告会社との間には,コンサルティング契約は存在しなかった(争いがない)。
イ 被告Y1は,平成17年7月15日,原告の代表取締役として,被告会社に対し,「コンサルティング報酬」として,210万円を支払った(以下「本件支払1」という。甲1,2)。
ウ 被告Y1は,平成18年3月23日,原告の代表取締役として,被告会社に対し,「Y1 前々期役員報酬・業務委託費支払」として,310万円を支払った(以下「本件支払2」という。甲3,4)。
(5) 原告は,被告会社に対し,平成20年1月18日付の内容証明郵便をもって,同年2月4日までに本件支払1及び2の合計520万円を返還するように催告し,同郵便は,同年1月19日に配達された(甲5の1・2)。
2 争点
ただし,本件事案の内容に鑑み,反訴の争点から記載するものとする。
(反訴)
(1) 被告Y1は,原告に対し,月額100万円の取締役報酬請求権を有するか(反訴請求原因)。
(2) 被告Y1は,平成18年3月ころ,第9期(平成17年3月1日ないし平成18年2月28日)の取締役報酬の一部ないし全部を放棄したか(反訴抗弁)。
(本訴)
(3) 被告会社が,本件支払1及び本件支払2を受領することについて,法律上の原因がないといえるか(本訴請求原因)。
(4) 被告Y1が本件支払1及び本件支払2を行ったことが,原告の代表取締役としての任務を怠ったものとして,会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負うか(本訴請求原因)。
第3 当事者の主張
1 争点(1)(被告Y1の原告に対する取締役報酬請求権)について
(被告Y1の主張)
(1) 平成9年2月,原告の創立総会が開催され,同総会において,「取締役の報酬総額を年額金1億円以内とし,なお,これには使用人兼取締役の使用人分としての給与を含めないこととし,その配分方法は取締役会に一任すること」が承認可決された。
(2) 平成16年8月29日,原告の第21回取締役会が開催され,同取締役会において,「被告Y1の具体的報酬額を年額1200万円(月額100万円)とすること」が決議された。
(3) 原告の主張に対する反論
ア 被告Y1が原告から役員報酬として月額100万円の支払を受けた事実がないとしても,それは原告の取締役会決議により具体的に発生した報酬支払義務が履行されていない事実を表すものに過ぎず,月額100万円の決議がされていないこと(又は異なる金額の決議がなされたこと)を推認させるものではない。
イ また,株主総会決議に基づき取締役会が取締役報酬を決議したかどうかの問題と,同報酬の支払ができない(未収となる)場合,これをどのように決算処理するかは,全く別個の問題である。決算書類の承認は,株主・債権者に対する情報提供と配当規制のために行われるものであって,原告の定時総会において,月額100万円の報酬とは矛盾する内容で決算書類が承認されていたとしても,既に具体的な権利として発生した被告Y1の報酬請求権を左右しない。
ウ 被告Y1は,第5回弁論準備手続期日において,反訴における主張とは異なる内容の準備書面を陳述した事実はあるが,その後の調査により新たに資料が発見されたため,反訴を提起したものであり,上記陳述が反訴請求に影響を及ぼすことはない。
(原告の主張)
(1) 被告Y1が,原告の創立総会の証拠として提出する丙4号証は,原告作成にかかるものではなく,被告Y1の主張する総会決議は,存在しない。
(2) 原告の第21回取締役会において,被告Y1を含む取締役の報酬について議論されたことはあったが,同取締役会の議事録には,「支給総額(上限枠5000万円)については役員会で承認を求め,詳細は常勤委員会で決定する」との記載がある。すなわち,同取締役員会においては,取締役に対する報酬の合計を上限5000万円までとするという枠が決定されたに過ぎず,被告Y1への具体的な報酬決議がされたものではない。
このことは,同取締役会以降,原告から被告Y1に対して月額100万円の取締役報酬が支払われたことは一度もないことはもとより,原告の帳簿上も,被告Y1に対する月額100万円の取締役報酬が未払として計上されることさえなかったこと,さらには,被告Y1自身,本訴訟の第5回弁論準備手続期日において,「原告における被告Y1の平成16年度,平成17年度の役員報酬(名称を問わない)は,乙1号証記載のとおりである」と,反訴における主張とは異なる内容の準備書面を陳述していることからも明らかである。
(3) また,原告の第21回取締役会の議事録には,取締役報酬について「支払できない場合は未払で処理し後日精算する」との記載があるところ,同記載は,被告Y1の原告に対する取締役報酬請求権が具体的なものではなく,不確定なものであることを意味する。
2 争点(2)(被告Y1が取締役報酬請求権を放棄したか)について
(原告の主張)
(1) 被告Y1は,被告Y1の管理する原告の東京本社の業務の大幅な赤字を受けて,平成18年2月末ないし同年4月下旬ころ,未払の取締役報酬を放棄する旨の意思表示をした。
(2) このことは,①被告Y1が,平成18年2月28日付けで業務委託費取消の修正仕訳を行っていること,②被告Y1は,平成18年4月26日,Aに対し,平成18年度の役員報酬を放棄する旨のメールを送っていること,③被告Y1は,平成18年以降,反訴提起に至るまで,原告に対し,未払の役員報酬がある旨の主張をしたことが一度もないこと,④被告Y1自身が,本訴訟において,未払の役員報酬がないことを自認していたことからも明らかである。
(被告Y1の主張)
(1) 被告Y1が平成18年2月ないし4月,未払の取締役報酬を放棄する旨の意思表示をしたことはない。
(2) 原告の主張に対する反論
ア 被告Y1は,平成18年4月26日,Aから「取締役報酬を未収金として計上しないという会計上の処理」を提案され,これに同意したにすぎず,実体的な報酬請求権を放棄したことはない。
イ 被告Y1による修正仕訳も,会計処理として,業務委託費を計上しないとしたことに過ぎず,これをもって,実体的な報酬請求権を放棄したと評価することはできない。
3 争点(3)(被告会社の利得につき法律上の原因の有無)について
(原告の主張)
(1) 形式面からの検討
ア 原告と被告会社との間には,コンサルティング契約は存在せず,被告会社が業務委託費として原告から支払を受けることに,法律上の原因はない。
イ また,万一,原告が被告Y1に対し,取締役報酬の支払義務を負うとしても,被告会社が原告から支払を受けることに,法律上の原因はない。
(2) 実質面からの検討
上記(1)のように,形式面のみを捉えても,被告会社が原告から支払を受けることに,法律上の原因はないといえるところ,以下のとおり,実質面からみても,被告会社が,本件支払を受けることに,法律上の原因はない。
ア 本件支払1
本件支払1は,第9期に支払われているが,第9期の株主総会において,被告Y1に対する役員報酬として210万円を支給する旨の決議はなされていない。また,決算書上,被告Y1に対する役員報酬として210万円が計上されたということもない。
むしろ,第9期においては,原告は多額の赤字を出して債務超過に陥ったため,Aと被告Y1は,第9期の役員報酬は計上せず,未払の役員報酬を放棄することで合意している。
イ 本件支払2
(ア) 本件支払2は,①平成17年2月28日(第8期の最終日),未払費用として計上された被告Y1に対する役員報酬160万円,②同日,未払費用として計上された被告Y1に対する業務委託費250万円のうち150万円であると考えられる。
(イ) ②について,①と併せて,被告Y1に対する役員報酬として310万円を計上すればいいだけの話であるのに,役員報酬として計上されていない以上,役員報酬とはいえない。被告Y1は,第8期の期末に,Aにも無断で,株主総会決議もないまま,自己に対する隠れ役員報酬を取得しようとしただけである。
したがって,②の150万円については,実質的な役員報酬といえない違法な支出である。
(ウ) ①について,第8期の定時株主総会において,被告Y1に対する210万円の役員報酬の支払決議があった。
しかし,Aと被告Y1は,第9期の役員報酬は計上せず,未払の役員報酬を放棄することで合意している。
(被告らの主張)
(1) 争点(1)において,被告Y1が主張したとおり,被告Y1は,原告に対して月額100万円の取締役報酬請求権を有している。
被告Y1は,Aに請われて,原告の代表取締役を務め,その結果,第8期以降,原告の売上高が急拡大したという経営実態があるところ,被告Y1がその業務の対価として原告が定めた報酬を受けることは当然の権利であって,報酬額としても相当な金額である。
(2) 本件支払1について
上記(1)のような被告Y1の代表取締役としての職務執行の事実と原告の経営実態に加え,平成17年3月から同年6月までの間,被告Y1及びAに対し,毎月52万5000円が計上されたことからすると,本件支払1は,実質的には,原告の第21回取締役会決議に基づいて,被告Y1に対する取締役報酬として支払われたことが明らかである。
(3) 本件支払2について
本件支払2のうち,160万円は被告Y1の前々期役員報酬として,150万円は同期業務委託費として仕訳されているが,これらの合計310万円がまとめて支払われていることからすると,本件支払2は,実質的には,原告の第21回取締役会決議に基づいて,被告Y1に対する取締役報酬として支払われたことが明らかである。
(4) 以上のとおり,本件支払1及び2には,法律上の原因が存在するというべきである。
4 争点(4)(被告Y1の任務懈怠の有無)について
(原告の主張)
争点(3)において主張したとおり,被告会社が原告から本件支払1及び2を受けたことには,法律上の原因がない。
そして,被告Y1が,原告の代表取締役として,法律上の原因がないのに,被告会社に対して,金員の支出を行えば,当該支出が任務懈怠であることは自明のことである。
(被告Y1の主張)
争点(3)において主張したとおり,被告会社が原告から本件支払1及び2を受けたことには,法律上の原因がある。
したがって,被告Y1には,原告の代表取締役として職務を執行するに当たり,任務懈怠はない。
第4 当裁判所の判断
1 事実関係
関係証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)ア 平成9年2月,原告の創立総会が開催された。
イ 同創立総会において,「取締役の報酬総額を年額金1億円以内とし,なお,これには使用人兼取締役の使用人分としての給与を含めないこととし,その配分方法は取締役会に一任すること」が承認可決された(以上,乙3,丙4)。
ウ 同創立総会の資料では,原告の第1期(平成9年3月1日ないし平成10年2月28日)の収支予算案の人件費は,以下のとおり(合計1500万円)とされていた(丙7の10)。
(ア) D 25万円*16か月 400万円
(イ) A 30万円*12か月 360万円
(ウ) E(旅費交通費を含む) 30万円*12か月 360万円
(エ) Y1(事務所経費を含む) 20万円*12か月 240万円
(オ) その他 140万円
(2) 上記(1)ウのうち,A,E及び被告Y1は,原告設立時に原告の取締役に就任していたところ,原告が平成9年5月1日に作成した試算表には,同3名の2か月分(平成9年3月,4月)の役員報酬として,160万円が計上されていた(丙9の3・5)。
(3) 原告の第7期(平成15年3月1日ないし平成16年2月29日)の決算書類には,役員報酬として360万円が計上され,同期における当期利益は909万2173円とされていた(丙2)。
(4)ア 平成16年8月29日,原告の第21回取締役会が開催され,「今後の事業展開における貢献者に対する評価基準」が議案として採り上げられた。
イ 同取締役会の議事録草案には,上記議案について,以下のとおり,提案されていた。
(ア) 今後の事業展開における貢献者に対する評価基準(起算日2004年9月から)
今後の業務執行は,本社による常勤役員の負担を考慮し,ボランティア的な運営を廃止し,金銭による清算を明確にする。支払ができない場合は未払で処理し,後日清算する。支給総額(上限枠5000万円)については役員会で承認を求め,詳細は常勤役員会で決定する。
(イ) 各論 総額4890万円
① 常勤役員報酬 総額2900万円 A1200万,Y1・1200万円,F500万円
② 常勤職員報酬 総額1990万円(以上(4)全体につき甲13,丙5)
(5) Aは,主にNTT関連業務に従事し,被告Y1は,主にIPC関連業務,TMI関連業務に従事していたところ,A及び被告Y1は,平成17年1月29日,以下の事項について,覚書を取り交わした(甲7,19ないし21)。
ア Aは,NTT関連業務の売上の10%を,原告の本部経費として拠出すること
イ 被告Y1は,IPC関連業務及びTMI関連業務の売上の10%を,原告の本部経費として支出すること
ウ 原告は,原告の本部経費から,A及び被告Y1に対して,取締役報酬として,月額50万円及び経費を支出すること
(6) Aは,上記覚書に基づいて,NTT関連業務の売上の10%を,原告の本部経費として拠出していた(甲22)。
(7) 平成17年1月30日,原告の第22回取締役会が開催され,A及び被告Y1に対する役員報酬は,未払計上により繰り越すことが議決された(甲14の8)。
(8)ア 原告は,第8期(平成16年3月1日ないし平成17年2月28日)に,被告Y1に対して,取締役報酬として,50万円を現実に支払った(乙1)。
イ 原告の第8期の決算書類では,被告Y1に対する役員報酬として,210万円が計上され,うち160万円が未払費用として計上された(甲9の12・16枚目,甲12の1,乙1)。
ウ 原告の第8期の決算書類の「損益計算書」において,当期純利益は712万8513円,「買掛金(未払金・未払費用)の内訳書」欄には,未払費用として,上記イの未払費用も含め,次のとおり記載されていた(以上,甲12の1)。
科目 相手先(名称) 期末現在高 摘要
未払費用 中央グループ株式会社 2,100,000 業務委託費
未払費用 Y1 2,500,000 業務委託費
未払費用 A 1,000,000 業務委託費
未払費用 Y1 1,600,000 役員報酬
(9)ア 被告会社は,平成17年6月20日,原告に対し,平成17年3月から6月までの営業支援業務(コンサルティング)の報酬として,210万円(消費税込み)を請求した(甲1)。
イ 原告は,同年7月15日,被告会社に対し,210万円を支払った(甲2)。
(10) 原告の第9期(平成17年3月1日ないし平成18年2月28日)の決算書において,損益計算書上,当期純損失として5069万3286円と記載されていた(甲12の2)。
(11)ア 原告は,平成18年3月23日,被告会社の銀行口座宛に,310万円を振り込んだ(甲4)。
イ 原告の総勘定元帳では,上記310万円の支出は,「Y1 前々期役員報酬・業務委託費支払」として計上されていた(甲3)。
(12) 平成18年4月ころ,原告の第22回取締役会が開催された。
被告Y1は,営業報告において収支が赤字であることを報告したほか,代表取締役を含め,来期の役員から退任する意向を表明した(以上,甲14の10)。
(13)ア Aは,平成18年4月26日午前3時22分,被告Y1に対し,原告の確定申告を期限内に申告するようにメールで依頼した。
Aは,上記メールにおいて,①A自身の取締役報酬は計上しないよう指示するとともに,②被告Y1と会社との関係は被告Y1自身の判断で処理するように連絡した(以上,甲36の1)。
イ 被告Y1は,同日午前7時53分,Aに対し,メールで,①については確定申告を修正すること,②についてはAと同様で結構である旨の返答をした(甲36の2)。
(14) 原告は,平成18年4月27日,京橋税務署に対し,第9期(平成17年3月1日ないし平成18年2月28日)の確定申告書を提出した。
上記申告書の決算報告書に添付された「販売費及び一般管理費」欄には,役員報酬が計上されておらず,また,「役員報酬手当等及び人件費の内訳書」には,A及び被告Y1に対する報酬として,それぞれ0円と記載されていた(以上,甲12の2)。
(15) 被告Y1は,平成18年4月28日,原告の代表取締役及び取締役を辞任した(前提事実)。
(16) 原告は,被告会社に対し,平成20年1月18日付の内容証明郵便をもって,同年2月4日までに本件支払1及び2の合計520万円を返還するように催告し,同郵便は,同年1月19日に配達された(前提事実)。
(17) 被告会社は,上記催告に対し,同月29日付け内容証明郵便をもって,本件支払1については,Aの了解を得ている,本件支払2は被告Y1に対する取締役報酬であり,被告会社がこれを受領する理由もなく,かつ,受領した事実もない旨回答した(甲6)。
2 争点(1)(被告Y1の原告に対する取締役報酬請求権)について
(1) 上記認定事実によれば,平成9年2月の原告の創立総会において取締役の報酬総額を年額1億円以内とし,これには使用人兼取締役の使用人分としての給与を含めないこととし,具体的な配分方法は取締役会に一任することが承認可決されたこと,平成16年8月29日の原告の第21回取締役会において,常勤役員報酬の総額を2900万円とし,A1200万円,被告Y1・1200万円,F500万円と定める旨の決議がされたことが認められる。
そうすると,上記総会決議及び取締役会決議により,被告Y1の原告に対する年額1200万円(月額100万円)の取締役報酬請求権が具体的に発生することになったものというべきである。
(2) 原告は,①原告の第21回取締役員会においては,取締役に対する報酬の合計を上限5000万円までとするという枠が決定されたに過ぎず,被告Y1への具体的な報酬決議がされたものではないこと,②同取締役会以降,原告から被告Y1に対して月額100万円の取締役報酬が支払われたことは一度もないことはもとより,原告の帳簿上も,被告Y1に対する月額100万円の取締役報酬が未払として計上されることさえなかったこと,③被告Y1が本件訴訟の第5回弁論準備手続期日において,「原告における被告Y1の平成16年度,平成17年度の役員報酬(名称を問わない)は,乙1号証記載のとおりである」と,反訴における主張とは異なる内容の準備書面を陳述していることから,具体的な報酬決議がされていないと主張する。
しかしながら,①については,上記認定のとおり,被告Y1につき報酬年額1200万円であることが一義的かつ具体的に定められているのであるから,たとえ,同取締役会決議に支給総額5000万円という上限枠があったとしても,単に枠が決まったにすぎないということはできず,被告Y1の具体的な報酬請求権が発生することを左右しないし(A自身が,当時,被告Y1に対しては生活費として月額100万円の役員報酬を支払う必要があった旨の供述をしてのであるから,報酬年額1200万円と定められたことに必然性がうかがわれるにしても,何ら不自然な点は認められない。),②については,一義的かつ具体的に被告Y1の報酬額が定められた以上,被告Y1に対し月額100万円の取締役報酬が支払われたことがなかったり,帳簿上も未払として計上されていなかったりしたことは,原告が,支払うべき報酬の支払をせず帳簿に計上すらしていなかったとみるほかない。さらに,③については,被告Y1が反訴における主張とは異なる内容の準備書面を陳述していたとしても,その後の調査により発見した資料(丙4,5)に基づき反訴を提起したとの被告Y1の主張を排斥できないのであるから,上記陳述があったからといって具体的な報酬の定めを否定することにはならない。
また,原告は同取締役会決議における報酬の定めが,原告の収支が黒字であり,かつ,被告Y1において原告に10%の拠出をするという10%ルールを守るという条件にかかっていると主張し,Aもこれに沿う供述をするが,同取締役会の式次第(甲13,丙5)にも,報酬の定めがそのような条件にかかっていることをうかがわせる記載が全くないのであるから,そのような条件を認めるに足りないというべきである。
したがって,原告の主張は採用しない。
3 争点(2)(被告Y1が取締役報酬請求権を放棄したか)について
原告は,被告Y1が,被告Y1の管理する原告の東京本社の業務の大幅な赤字を受けて,Aと被告Y1との間のメールである甲36号証の1及び2により,平成18年2月末ないし同年4月下旬ころ,未払の取締役報酬を放棄する旨の意思表示(債務免除の意思表示)をしたと主張する。
しかしながら,上記認定事実によれば,Aがメールにおいて,A自身の取締役報酬は計上しないよう指示し,被告Y1と会社との関係は被告Y1自身の判断で処理するよう連絡してはいるものの,同メールはA自身が報酬を放棄する旨を明示した内容になっておらず,確定申告における決算書類にAの報酬を計上しないことを求めているにすぎないのであるから,同メールに応答する被告Y1のメールにおいて,被告Y1においても同様で結構である旨の記載があるからといって,未払報酬債権の放棄の意思表示と認めるに足りない。
また,Aの上記メールが,原告の平成18年2月決算期において当期純損失が発生し赤字であったことから未払報酬債権の放棄を意味する可能性があるとしても,原告の平成17年2月決算期においては決算書上当期純利益が出て黒字であったのであり,被告Y1は同決算期について経営責任を問われる地位にあったわけではないから,被告Y1において未払報酬債権の全部を放棄するまでの経営責任上の必然性はなく,仮に被告Y1が未払報酬の放棄をするとした場合でも未払報酬の一部のみを放棄することも十分あり得るところ,被告Y1においてもAと同様で結構である旨のメールの記載があったからといって,債権放棄の範囲が明確に意識されないままに黒字であった決算期における未払報酬債権を含めて放棄したと認めることは困難であり,結局,同メールの記載をもって被告Y1が未払報酬につき債権放棄の意思表示をしたと認めること自体に無理があるいうべきである。
したがって,原告の主張は採用しない。
4 もっとも,上記認定事実によれば,被告Y1は平成18年4月28日に原告の取締役を辞任しており,同月において取締役でない時期もあったのであるから,同月分の報酬は100万円ではなく,日割計算をした結果である93万3333円(円未満切り捨て)と認めるのが相当である。
よって,被告Y1の原告に対する報酬請求は,1473万3333円及びこれに対する平成18年4月29日から支払済みまで年5分の割合の遅延損害金の限度で理由があり,その余は理由がない。
5 争点(3)(被告会社の利得につき法律上の原因の有無)について
被告Y1が原告に対して,取締役報酬請求権を有しているか否かに関わりなく,実体法上,原告から被告Y1に対して支払うべき取締役報酬を,被告会社が受領することには法律上の原因がないというべきである。
6 よって,原告の被告会社に対する不当利得返還請求及びその遅延損害金請求は理由がある。
7 争点(4)(被告Y1の任務懈怠の有無)について
原告の代表取締役であった被告Y1が,被告Y1が受け取るべき取締役報酬であるにもかかわらず,被告会社に対して本件支払1及び本件支払2をしたことは,上記のとおり同報酬を受領する法律上の原因を有しない被告会社に対し,あえて支払ったものというべきであって,原告の代表取締役としての職務を懈怠したものと認められる。
8 よって,原告の被告Y1に対する会社法423条1項に基づく損害賠償請求は理由があるが,その遅延損害金請求については,本訴の訴状の送達をもって催告がされたことにより被告Y1の損害賠償義務が遅滞に陥ったというべきであるから,本訴の訴状送達の日までの遅延損害金請求は理由がなく,その翌日以降の遅延損害金請求は理由があることとなる。
第5 結論
以上によれば,原告の被告らに対する請求及び被告Y1の原告に対する請求は,上記の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 寺垣孝彦)
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