【営業代行から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「営業支援」に関する裁判例(33)平成28年 6月28日 東京地裁 平25(刑わ)1756号 詐欺被告事件

「営業支援」に関する裁判例(33)平成28年 6月28日 東京地裁 平25(刑わ)1756号 詐欺被告事件

裁判年月日  平成28年 6月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(刑わ)1756号
事件名  詐欺被告事件
文献番号  2016WLJPCA06286006

裁判経過
控訴審 平成29年12月13日 東京高裁 判決 平28(う)1772号 詐欺被告事件

裁判年月日  平成28年 6月28日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平25(刑わ)1756号
事件名  詐欺被告事件
文献番号  2016WLJPCA06286006

上記の者に対する詐欺被告事件について,当裁判所は,検察官西野享太郎,同岡田哲明,同溝口貴之及び弁護人弘中惇一郎(主任),同弘中絵里,同大木勇,同植木亮,同山縣敦彦,同品川潤各出席の上審理し,次のとおり判決する。

 

 

主文

被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中400日をその刑に算入する。

 

 

(犯罪事実)
被告人は,平成21年8月から国立大学法人a1大学(以下「a1大学」という。)a2研究センター教授の職にあったものであるが,以下の各犯行に及んだ。
1 A1,A2及び別表個別事件の共謀相手欄記載の者と各共謀の上,真実は,被告人が研究に従事していた別表記載の平成21年度ないし同23年度厚生労働科学研究費補助金及び平成21年度長寿医療研究委託事業に係る各研究事業に関し,a3株式会社(以下「a3社」という。)ほか5社がa1大学から別表業務の内容欄記載の各業務を受注して行った事実はないのに,これがあるように装って,その代金の名目でa1大学から金員を詐取しようと企て,別表記載のとおり,平成22年3月上旬頃から平成23年9月中旬頃までの間,東京都文京区〈以下省略〉a1大学a4研究科等事務部において,a1大学経理担当係員に対し,前記各研究事業に関し,a3社ほか5社がa1大学から受注した業務を行い,その代金として合計1894万4400円を請求する旨記載した内容虚偽の納品書及び請求書等を提出し,同係員に,a3社ほか5社においてa1大学から発注された業務を受注して行っており,a1大学が当該代金支払債務を負っている旨誤信させ,よって,平成22年3月25日から平成23年9月22日までの間,7回にわたり,東京都港区〈以下省略〉株式会社三井住友銀行東京公務部に開設された国立大学法人a1大学名義の普通預金口座から,大阪市〈以下省略〉株式会社三井住友銀行歌島橋支店に開設されたa3社名義の普通預金口座等に合計1894万4400円を振込入金させて,人を欺いて財物を交付させた。
2 A1,A2及びa3社の代表取締役であったA3と共謀の上,真実は,国立大学法人a5大学(以下「a5大学」という。)大学院a6研究科教授の職にあったA4が研究に従事していた平成21年度長寿医療研究委託事業(在宅医療(在宅医療対応電子カルテ,在宅用医療機器等の在宅医療支援機器開発を含む。)の推進に係る総合的研究開発)に関し,a3社がa5大学から在宅介護支援の現状調査・分析作業等の業務を受注して行った事実はないのに,これがあるように装って,その代金の名目でa5大学から金員を詐取しようと企て,平成22年2月中旬頃,岡山市〈以下省略〉a5大学大学院a6研究科等事務部において,a5大学経理担当係員に対し,前記研究委託事業に関し,a3社がa5大学から受注した業務を行い,その代金として合計294万円を請求する旨記載した内容虚偽の納品書及び請求書等を提出し,同係員に,a3社においてa5大学から発注された業務を受注して行っており,a5大学が当該代金支払債務を負っている旨誤信させ,よって,同年3月25日,岡山市〈以下省略〉株式会社中国銀行法界院支店に開設された国立大学法人a5大学名義の普通預金口座から,前記a3社名義の普通預金口座に294万円を振込入金させて,人を欺いて財物を交付させた。
(証拠の標目)
※ 括弧内の甲の数字は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
犯罪事実全部について
第2回ないし第4回公判調書中の証人A1,第5回及び第6回公判調書中の証人A3,第8回公判調書中の証人A5,第12回公判調書中の証人A6,第13回公判調書中の証人A2,第15回公判調書中の証人A7,第18回公判調書中の証人A8,第20回公判調書中の証人A9,同A10の各供述部分
A11(甲131,132),A12(甲133),A13(甲162,163)の各検察官調書抄本
登記事項証明書(甲93)
捜査関係事項照会書謄本(甲17),同回答書(甲18)
捜査報告書(甲16,98,201,207,227,243ないし245,274,276,277)
第1回,第21回ないし第24回及び第26回公判調書中の被告人の供述部分
犯罪事実1全部について
第11回公判調書中の証人A14,第15回公判調書中の証人A15,同A16,第17回公判調書中のA17,第19回公判調書中の証人A18,同A19の各供述部分
A20(甲104),A21(甲105・抄本),A22(甲106・抄本),A23(甲108・抄本),A24(甲126・抄本),A25(甲128・抄本)の検察官調書
捜査関係事項照会回答書(甲236)
捜査報告書(甲13,14,20,23,24,53・抄本,57,58,202,204,206・抄本)
電話聴取書(甲21,25)
犯罪事実1別表番号1,2及び犯罪事実2について
捜査報告書(甲69,74,208)
犯罪事実1別表番号1及び犯罪事実2について
捜査報告書(甲26)
犯罪事実1別表番号1及び2について
捜査報告書(甲2・抄本,70)
犯罪事実1別表番号1について
捜査報告書(甲3・抄本,4・抄本,37)
犯罪事実1別表番号2について
第9回公判調書中の証人A26の供述部分
捜査報告書(甲5・抄本,27,79)
犯罪事実1別表番号3ないし6について
捜査報告書(甲71)
犯罪事実1別表番号3及び4について
第16回公判調書中の証人A27の供述部分
捜査報告書(甲6・抄本,7・抄本,28,38,39),電話聴取書(甲29)
犯罪事実1別表番号5ないし7について
捜査報告書抄本(甲9)
犯罪事実1別表番号5について
第9回公判調書中の証人A28の供述部分
捜査報告書(甲8・抄本,30,40,41,80),電話聴取書(甲31)
犯罪事実1別表番号6及び7について
電話聴取書(甲34)
犯罪事実1別表番号6について
第10回公判調書中の証人A29の供述部分
捜査報告書(甲32,42,82)
犯罪事実1別表番号7について
第10回公判調書中の証人A30の供述部分
捜査報告書(甲10・抄本,33,43,72,83・抄本,263,276)
犯罪事実2について
第7回公判調書中の証人A4,第14回公判調書中の証人A31,同A32,同A33の各供述部分
A34(甲120,121)の検察官調書
捜査報告書(甲1・抄本,15,22,35,36,64,76・抄本,77,200・抄本,205,239,267)
(事実認定の補足説明)
1 本件の争点
証拠上,犯罪事実記載のとおり,平成21年度から平成23年度までの3年度にわたり,国立a7センター(以下「a7センター」という。)からa1大学又はa5大学に支給される研究委託費(以下「委託費」という。)及び厚生労働省からa1大学に支給される厚生労働科学研究費補助金(以下「科研費」という。委託費と併せて「科研費等」ともいう。)に関し,a1大学又はa5大学において,a3社,株式会社a8(以下「a8社」という。),a9株式会社(以下「a9社」という。),株式会社a10(以下「a10社」という。),株式会社a11(以下「a11社」という。),株式会社a13(以下「a13社」という。以上6社を併せて「関係会社」ともいう。)がa1大学又はa5大学から各業務を受注し業務を行ったような会計処理が行われ,各業務について,a1大学又はa5大学から関係会社の普通預金口座等に対し,犯罪事実記載の金額が振込入金されたことは明らかである。
検察官は,これらに関し,①被告人は,関係会社の代表者等と共謀の上,関係会社が各研究事業に関して各業務を受注して行った事実はない(見積書,請求書及び納品書等の書類上,関係会社が業務を受注したかのような外形が作出されているものの,実質的には受注した業務がないという意味。以下,このような意味で受注した会社を「外形上の受注業者」ともいう。)のに,関係会社から虚偽の見積書,納品書及び請求書等を作成提出させた上,自らが実質的に経営する有限会社a14(以下「a14社」という。)のA1やA2らに作成させた報告書を成果物として納品させるなどして,関係会社が業務を受注して行ったかのように装って各業務の代金請求をさせたことが欺罔行為に当たり,②被告人は,関係会社が各業務を受注して行った事実がないことを認識しており,③納品物が研究事業に役立つか否かは欺罔行為の本質に関わらないと主張して,本件において被告人には詐欺罪が成立すると主張する。
これに対し弁護人は,①平成21年度にa5大学及びa1大学が発注した業務について,業務を受注したa3社は,実際に各業務(a1大学に対する別表番号1(1)「電子カルテに連動した薬品・医療材料・医療機器管理システム(ASP)レンタル」も含む。)を行っていたのであり欺罔行為が存在しない,②平成21年度及び平成22年度の各発注業務について,被告人には関係会社が各業務を受注して行った事実はないとの認識がなく詐欺の故意がない(a8社が受注したとされる電子カルテシステム(ASP)レンタル業務も同様。),③本件で起訴された全案件(平成23年度発注案件を含む。)について,業務を受注した業者と実際に業務を行う業者が異なることは科研費等の支出に当たって重要な事項ではなく,また関係会社が関係会社名義の見積書・納品書・請求書等をa1大学又はa5大学に提出する行為は関係会社が各業務を自ら行うことを表明する行為ではないから,いずれの業務についても欺罔行為がない,④平成21年度のa5大学に関する案件について被告人が支払手続に関与したことはなく被告人に詐欺罪は成立しない,などと主張して詐欺罪の成立を争う。
そこで,裁判所が犯罪事実記載のとおり,詐欺罪の成立を認めた理由を補足して説明する。
2 証拠上明らかな事実
以下の事実は証拠上明らかである。
(1) 本件の背景となる経緯と関係者について
ア 被告人は,医師であり,平成9年4月から国立a16病院に情報システム部長等として勤務し,物流管理システムであるPOSシステムと類似の仕組みを医療サービスに応用し,医療に関する行為をリアルタイムで一元化して記録することにより,正確な医療情報を収集し,医療の安全,経営管理,医療制度改革と医療費の削減,コホート研究等の実現を目指すPOAS(Point of Act System)理論を用いた電子カルテシステム「○○」導入に取り組んだ。
イ 被告人は,a15大学の客員教授に就任するため,平成17年9月に国立a16病院を退職し,他方,○○システムの開発主体である企業が開発から撤退するとともに,株式会社a17のグループが,株式会社a18(以下「a18社」という。)を設立して,同社で被告人の指導を受けてPOAS理論に基づく新しい電子カルテシステムである△△システムの開発を行うことになり,A1及びA2も同社において△△システムの開発に携わった。a17社グループは,当初5000万円のボーナスと年3000万円のコンサルティング料を,被告人が100%株主として設立し代表取締役となったa14社に対し支払った。
ウ 被告人は,平成21年8月,a1大学a2研究センター教授に就任したが,その前に,a14社の代表取締役を辞任し,妻A11が後任の代表取締役となった。また,a17社グループは,平成21年中に△△システムの開発から撤退することとなり,△△システムの権利をa14社に無償譲渡するとともに,3000万円をa14社に支払うことで,前記コンサルティング関係を解消した。このため,前記コンサルティング料は,平成21年9月を最後に支払われなくなった。被告人は,A1を年俸1000万円,A2を年俸700万円という条件でa14社に迎え入れて,同社で△△システムの開発を継続した。
エ その頃,山形県の複数の病院を△△システム等の医療システムでつないで連携できるようにする案件がa18社等の複数企業が関与して進められ,a19株式会社(以下「a19社」という。)が受注し,a18社が撤退した後も,a19社とa14社や,A3が代表取締役を務め△△システムと連携できる物流システムである◎◎システムの開発を行っていたa3社等が関与して作業が進められていたが,平成22年9月に契約解除となった。
オ また,平成22年から同23年にかけて,a14社は,a11社(後に「a12社」と名称変更)と共に,千葉県a20センターのシステム開発の受注に向け活動し,a12社がこれを受注したが,a14社はその開発から外れた。
カ こうした中,a14社は,平成23年2月にはA1及びA2に対する給料の支払を停止し,同年4月に支払を再開した際も当初約束された金額の約3分の1に減額し,同年9月末にA1及びA2はa14社を退社した。
キ この間,被告人は,a7センターから支給される委託費及び厚生労働省から支給される科研費に係る研究事業の研究員となり,これに関して犯罪事実記載のとおりa1大学又はa5大学が発注したとされる業務に関して,共犯者と共謀の上,本件詐欺行為を行ったとして起訴されている。
ク A3,A26,A27,A28,A29,A30は,いずれも犯罪事実記載のとおりa1大学又はa5大学から各業務を受注したとされる各関係会社の代表者である。また,A6は前記のとおり株式会社a17社の関連企業a18社の代表者であったものであって,本件に関して,被告人からの求めに応じてa11社を被告人に紹介し,a13社に平成23年度のa1大学からの発注業務(以下,a1大学が発注主体となっている業務を「a1大学案件」という。)を依頼したものである。A4は,a5大学の教授であり,平成21年度及び平成22年度において,a7センターの在宅医療に関する研究事業に関して被告人と共に分担研究者として研究を行い,アイフォン(iPhone)を用いた在宅医療に関する情報システムの製作について被告人に相談し,これに関して犯罪事実2記載の業務についてa3社に発注したものである。また,A5は,本件当時a21大学の准教授であり,被告人の紹介でA4教授の依頼を受け,平成22年度のA4教授の委託費を用いて前記アイフォンを用いた在宅医療に関する情報システムの製作を行ったほか,前記千葉県a20センターのシステム開発に関連し,被告人の依頼を受けて,△△システムをアイフォンに連携させるアプリケーションの開発などを行った。本件犯罪事実1別表3及び4の業務は,最終的にはa9社が受注したこととされているが,当初は,A5准教授が実質的に経営する株式会社a22が受注主体となることが想定されていた。
(2) 研究費の取扱い等について
a1大学及びa5大学における科研費等の管理方法,契約締結事務手続,支払事務手続等は大要次のとおりである。
ア a1大学においては,科研費等は,a1大学管理の預金口座に預託され,同口座で受け入れた後はa1大学の予算として,その出納及び保管をa1大学財務部経理課が担当していた。研究者が,科研費等から費用を支出するためには,a1大学所定の契約手続,支出手続を経る必要があるところ,契約手続については契約金額に応じて決裁権限が委譲されるなどしており,被告人が所属していたa1大学a2研究センターにおいては,契約金額が500万円未満の場合には,a1大学a4研究科等事務部(以下「法学事務部」という。)の副事務長が決裁権限を有し,契約金額が100万円未満の場合には予算責任者等が総長を代理して契約を締結する権限を有しており,同センター教授の被告人も予算責任者等に該当していた。一方,支払手続については,総長から委任を受けた法学事務部事務長のみが決裁権限を有していた。
a1大学a2研究センターに所属する研究者の科研費等について500万円未満の科研費等の支払をする場合,その発注する業務に係る見積書,納品書,請求書等の帳票類を法学事務部に提出して審査を受けることとされていたところ,法学事務部では,提出された見積書,納品書,請求書等について,相互に作成名義,件名,金額等が一致しているか,その記載内容に明らかな問題はないか,納品書に検収のサインがあるかなどについて審査を行い,問題がないと認められる場合に科研費等からの支払が行われていた。
イ a5大学においても,委託費はa5大学管理の預金口座に入金され,同口座で受け入れた後はa5大学の予算として,その出納・保管をa5大学財務部経理課が担当していた。a1大学と同様,研究者が委託費から費用を支出するためには,a5大学所定の契約手続,支出手続を経る必要があったところ,A4教授が所属していたa5大学大学院a6研究科においては,契約金額500万円未満の契約については同研究科等事務部総務課長が決裁権限を有しており,契約金額が50万円未満の場合には教職員が契約を締結する権限を有していた。一方,支払手続については,同研究科等事務部総務課長のみが決裁権限を有していた。
同研究科に所属する研究者の委託費について50万円未満の支払をする場合,その発注する業務に係る見積書,納品書,請求書等の帳票類を研究科等事務部に提出し審査を受けることとされていたところ,同研究科等事務部では,提出された見積書,納品書,請求書等について,相互に作成名義,件名,金額等が一致しているか,教職員の発注権限内か,その記載内容に明らかな問題はないか,納品書の検収印等について審査を行い,問題がないと認められる場合に委託費からの支払が行われていた。
ウ 以上のとおり,いずれの大学においても科研費等に関する契約締結及び科研費等の支払手続では,基本的には書面審査が行われるのみであり,書面に表れた事情から科研費等支払の必要性,相当性に疑義があることが明らかな場合等を除き,科研費等の支出目的等に照らし,必要な契約が締結され,必要な科研費等の支払が請求されたものとして扱われていた。
(3) 発注状況等
平成21年度から平成23年度にかけて,a1大学又はa5大学から各関係会社に対し,犯罪事実記載のとおりの業務名で各関係会社に各業務が発注され,a1大学から1894万4400円,a5大学から294万円,合計2188万4400円が支払われた。a1大学又はa5大学から各関係会社への業務の発注及び科研費等の支払に際しては,各関係会社名義の見積書,請求書,納品書等の契約関係書類が各大学へ提出され,各大学所定の契約手続,支払手続を経て各支払が行われている。そして,これらの各関係会社への支払がされた後(a13社については後記のとおりa1大学からの支払に先立って),各関係会社からa14社の普通預金口座に対し,その支払額合計の約89%に当たる合計1949万0442円が振込みにより支払われている。各関係会社についてみると,a3社には,a5大学から294万円,a1大学から515万円が支払われたほか,別表番号2の業務に関してa1大学からa8社に支払われた270万円のうち約95%に相当する257万円がa8社から支払われ,合計1066万円のうち約85%に相当する909万3000円がa14社に支払われた(後記のとおりA3が被告人に対する立替払いの精算として控除したとする110万円をa14社への支払として考慮すると,約96%がa14社に支払われたことになる。)。a9社には,a1大学から合計359万9400円が支払われ,そのうち約94%に相当する339万7262円がa14社に支払われた。a10社には,a1大学から合計220万円が支払われ,そのうち約89%に相当する196万8580円がa14社に支払われた。a11社には,a1大学から435万円が支払われ,そのうち約95%に相当する413万1750円がa14社に支払われた。a13社は,a1大学から94万5000円の支払いを受けているが,これに先立って約95%に相当する89万9850円がa14社に支払われた。
3 平成21年度のa5大学からの発注業務について
(1) a14社のA1は,平成21年度のa5大学からの発注業務(犯罪事実2。以下「a5大学案件」という。)に関し概ね次のように供述する(第2回~第4回公判調書)。
①被告人から,△△システムを在宅医療・介護分野にも対応できるシステムにしたいという話があり,a23医療生活協同組合(以下「a23医療生協」という。)がすばらしい取り組みをしているということで,平成21年12月19日に,被告人,a1大学で被告人の助手のような立場にあるA8特任研究員,a14社のA2,a3社のA3と共に訪問調査をした。
②これとは別に,被告人から,a5大学のA4教授の委託費をa14社で受けたいが,a5大学とa14社が直接契約することはできないので,a3社で受けてもらい,a14社が成果物を作るという話を聞いており,a23医療生協訪問調査後,翌20日に岡山のホテルでA4教授と打合せをすることになった。被告人は,訪問調査に先立って,A4教授からアイフォンを用いた地域医療連携システムを作ってほしいと依頼されたと話し,同教授が考えた画面の流れを示したパワーポイント資料を見せながら,素人が作ったものだなどと言っていた。岡山での打合せには,被告人,A4教授のほか,A3,A1,A2とa3社のA35が同席した。A4教授は被告人にアイフォンを用いた医療システムが欲しいと依頼していたが,この時点では具体的にどのようなものを作るかは決まらなかった。
③a5大学との契約手続や段取りについてはA35がA4教授の秘書と打ち合わせ,支出可能な予算額280万円を40万円前後の7から8の業務に分け,見積書を作成するため作業名を決める必要があるとの連絡が,A3を通じて被告人,A1,A2らに伝えられた。a3社がa5大学から受注する作業名,納品物については,同月22日に,A1が被告人の指示を受け検討を開始し,検討内容を被告人に随時メールで報告し,被告人から電話で確認,指示を受けながら進めた。検討当初は,A4教授から依頼のあったアイフォンを用いた在宅医療システムについて,実際に動くプログラムを納品する実装フェーズ,又は仕様書等を作成して提出する設計フェーズのどちらにするかといった観点等から作業名を検討していたが,△△システムが利用する□□というアプリケーションにアイフォンが対応していないことから,被告人に対して,△△システムの技術を用いた開発が困難であると連絡した。そうしたところ,被告人から,設計フェーズでよい,△△システム等の資料を流用することで簡単に作る方法を検討するようになどと連絡を受け,更に検討したが,被告人から△△システムの核となる技術を使用しないよう指示を受けるなどしたため,何度か作業名を修正した。すると被告人から,△△システムに関する資料は全て使わないよう指示があったため,被告人に納品物について相談したところ,a23医療生協訪問調査の報告書を納品物とするよう指示を受けた。a23医療生協訪問調査の報告書をa5大学への納品物とするという話は,同日に作業名を検討する中で初めて出た。
④A1は,研究事業の報告書を作成した経験がなかったところ,被告人から,A2と共に報告書を作ること,A8からフォーマットを入手するなどして一緒に作業を進めること,内容が分からなければ被告人に相談することなどの指示を受けた。A1とA2は,A8からa23医療生協訪問調査の資料の提供を受けた上,まずはフリーフォーマットの報告書を作成し,被告人に内容を確認してもらった後,a5大学への納品物を作成し,a3社に送付した。納品物となる報告書は8通作成する必要があったが,元々フリーフォーマットの1通の報告書を分割して作成したため,各報告書の記載にはかなりの重複が生じた。
⑤a3社はa5大学との契約関連事務と納品を行っただけであって調査分析作業は行っておらず,実際の報告書作成業務はa14社が行った。a3社がプロジェクトマネージャーの役割を担ったとはいえず,名義貸しだと認識している。このような役割分担は被告人の指示によるものである。
(2) a5大学案件で業務を受注したとされたa3社の代表者であるA3は概ね次のような供述をする(第5回,第6回公判調書)。
①平成21年12月,被告人から,a5大学のA4教授が受けた委託費による研究で在宅医療支援ICTシステムの開発をするが,a14社では契約するのが難しいので間にa3社が入ってくれないかと依頼があり,a3社は契約だけを行い,システム開発については何も業務をせず,実際の作業はa14社のA1,A2が行うという理解で,この依頼に応じることとした。
②同月19日に行ったa23医療生協見学には,被告人から,物流システムである◎◎システムの関係で在宅医療の現場が新たな仕事になるのではないかと言われて誘われ,a3社の仕事になるかどうかを見るため同行した。a5大学案件の関係でa23医療生協を訪問するという話はなかったし,後記A35も同行する必要がないと思っていた。
③翌20日,岡山のホテルでA4教授と打合せを行った。システムの打合せをa14社の人が行い,契約関係等について担当させるため,a3社の営業担当で岡山在住のA35を同席させ,同人がa5大学との窓口となることが決まった。a5大学案件では,当初,A4教授の提案するアイフォンを用いた在宅医療支援のICTシステムを納品するという話だったが,同月22日,被告人と打合せをしているときに,A1が作業名を検討するメールを送ってきて,何度か被告人とA1がメールや電話でやりとりを行う中で,当初のシステムを納品するという話が,医療システムの設計書を納品するという話になり,最終的にはa23医療生協訪問調査の報告書を作成,提出することになった。
④a3社は,a5大学案件に関し,8つの作業名に関して見積書,納品書,請求書をa5大学に提出したほか,a14社から受け取った報告書のパワーポイントのデータファイルをPDF化し,CD-ROMに焼き付けてa5大学に納品した。a5大学への納品物に関して,資料を提供したり作成のアドバイスをしたり,手を加えたり,あるいは報告書作成のための打合せに参加したことはない。被告人がA1やA2と報告書について会話している場面に同席したことはあるが,納品物の内容について発言したことはないと思う。a3社は,もともと契約の営業窓口となることが前提となっていたので,実際の作業やプロジェクトマネージャーとしての作業をすることはなかった。
⑤a5大学からの支払関係については,後記4(1)に併せて記載する。
(3) A4教授は,a5大学案件について概ね次のとおり供述する(第7回公判調書)。
①平成21年度及び翌22年度においてa7センターの在宅医療に関する研究事業について分担研究者となり,自分の委託費を用い,被告人の協力を得て,アイフォンを利用した在宅医療の情報システムを開発しようと考えた。被告人に,提供できる委託費の金額を知らせ,考えているアイフォンシステムの画面遷移をパワーポイントで作成した資料を送るなどし,システム開発をしてくれる会社の紹介を依頼したところ,平成21年12月に,岡山のホテルでa3社のA3を紹介された。その際,a3社がアイフォンシステムを開発するという話だった。私は,2年間の研究費であり,初年度はプログラムの開発に必要な仕様書を作成し,2年目に完成版を作成するという2年計画でお願いした。
②翌年2月中旬にa3社からa5大学に納品があった。システム開発に資する仕様書だと思っていたが,a23医療生協の見聞録だった。そのようなものの作成を依頼した覚えはなかった。しかし,その前に開かれた長寿医療研究の班会議でアイフォンシステムの開発について説明した際,被告人も,研究班の皆に対し,来年の今頃には実際に動くものでデモをすると約束してくれていたし,2年間の研究なので,途中経過としては不十分でも,a3社の責任で翌年にはシステムを開発してくれると考え,a3社や被告人に苦情を言ったりやり直しを求めたりしなかった。
③平成22年度の委託費についても,a3社に依頼してシステム開発を続けると思い,被告人にメール等で相談していたが,同年10月頃,A3に電話で尋ねたところ,a3社は開発には関わっておらず,実際に行っているのはa14社で,前年の委託費もa14社に渡したと言われた。a14社がアイフォンシステムの開発を行うと考え,被告人,A1,A2と会って実際に動くシステムのデモ版を作る話などをしたが,a14社が出してきた見積書と仕様書がシステムを作ることになっていなかったので,ダミーの報告書は不要という内容のメールをA1,A2,被告人に送った。結局,被告人から紹介されたa21大学のA5准教授がアイフォンシステムを作ることになり,同人が関わるa22社がその製作を受注した。
(4) A1供述及びA3供述について検討すると,両供述は,いずれも①被告人から,A4教授の委託費に関してa14社で業務を受注したいが,a5大学と直接契約ができないため,a3社を間に入れることについて指示ないし依頼を受けたこと,②a23医療生協訪問の目的についての認識,③a5大学からa3社が受注した業務の内容に関する検討状況,及び当初はシステム開発が検討されながら最終的にa23医療生協訪問調査の報告書が納品物となった経緯等について,相互に整合的な供述となっており,③については,A4供述もこれを裏付ける。これに加え,被告人とA1の間で作業名の検討を行うに際して送信されたメールのやりとり(甲274・平成21年12月22日午後1時12分,同日午後1時38分,同日午後6時59分,同日午後8時23分,同日午後8時26分,同日午後9時6分,同日9時39分の各メール・A1提示資料4ないし10),フリーフォーマットの報告書をもとに8通の報告書を作成したというメール(甲208・資料7平成22年1月21日午後9時56分のメール・A1提示資料18),間に入った会社は納品物作成に関与していないと思う旨のA2の供述(第13回公判調書)や,A1及びA2が報告書をまとめるにあたって,被告人とA8が中心になって調査した事項について資料提供をしたりアドバイスをしたりした旨のA8の供述(第18回公判調書)とも符合している。
その上で,A1供述,A3供述はいずれも,a5大学からa3社が受注するものの,実際の受注業務はa14社が行い,a3社がa5大学との窓口となって契約関連事務を行うという役割分担を前提に,被告人とA1が作業名を検討するやりとりの中でa23医療生協訪問調査の調査報告書を納品物とすることが決まっていったなど,具体的かつ自然な内容となっており,これらの供述はいずれも信用できる。
(5) 以上のとおり,信用できるA1供述及びA3供述によれば,平成21年度のa5大学案件において,a3社は受注業務を行う意思がなく,外形上の受注業者となっただけで,実際にこれらの業務を行うことなく契約関連業務を行ったに過ぎず,実際の受注業務はA8から資料の提供を受けたa14社のA1,A2が行っていたと認められる。
そして,被告人自身が,A1及びA3に対し,a3社にa14社とa5大学の間に入ってもらうなどと指示ないし依頼し,A1に対し,報告書については,a3社ではなくA8から資料の提供を受けるなどした上でA8と相談の上作成し,分からないことがあれば被告人に確認し,レビューを進めるよう指示していたのであるから,被告人においてa3社が受注業務を行っていないことを認識していたことも明らかである。
(6) 以上に対し,被告人は,「A4教授から在宅医療のICTシステムを開発してほしいと頼まれ,a7センターの委託費を使って3年計画で電子カルテのデモ版を作ることになり,分担研究員になった。A4教授に支給される委託費(a5大学案件)もその開発に使えるということだったので,まずは在宅医療の現場を調査するために,A4から紹介されたa23医療生協の訪問調査を行った。訪問調査の翌日の打合せの段階で,アイフォンが□□に対応していないことをA4教授にも伝えた上で,在宅医療に関するICTシステムを3年で作るというA4教授の計画を実現するため,1年目は現地調査報告にすべきと話し,A4教授の了解を得た。報告書作成はA1とA2が行ったが,a3社と共同で調査し,チームとして報告書を作成しており,A3と共に報告書に何を記載すべきか,あるいは記載すべきでないかについての検討を行った。」などと供述し,弁護人は,a3社において契約関連事務に加え被告人が供述するような業務を行っており,また,少なくとも被告人はa3社が業務を行っていると認識していたなどと主張する。
この被告人供述について検討すると,確かに,被告人がA4教授と共に在宅医療に関する分担研究者となった経緯,及び被告人がa5大学案件に関与するまで在宅医療システムを開発する上で必要な現場の実情に関する知見を有していなかったこと等に照らすと,a23医療生協訪問調査は在宅医療システム開発を念頭に置いた調査の一環として行われたと考えられ,更にこの訪問調査の直後にA4教授との打合せが行われたことも併せ考えると,被告人が,在宅医療に関するシステム開発を目指していたa5大学案件とa23医療生協の訪問調査とを,無関係であると考えていたとは思われない。しかし,a23医療生協訪問調査がa5大学案件の業務として行われたものかという点についてみると,訪問調査の時点で,a5大学案件でどのような業務を行うかということは決まっていなかった上,被告人は,A4教授が作成したアイフォンシステムの画面遷移に関し批判的評価を示すなど,A4教授が考えるようなシステム開発を行うつもりがあったとは考えにくいこと,a23医療生協訪問調査に同行したA1,A3は,いずれもa5大学案件とは無関係であり,むしろ被告人からは,それぞれ△△システムの機能拡張のため,或いはa3社として◎◎システムの在宅医療への応用の可否の検討のため,同行を求められた旨供述していることなどからすれば,被告人は,a23医療生協訪問調査をa5大学案件の業務のための事前調査と位置付けていたというのではなく,より一般的に自身がこれから取り組む在宅医療に関するシステム開発のための調査として行ったのであり,その調査報告書をa5大学案件の納品物とすることは,前記A1供述のとおりの経緯から事後的に決まったと考えることが合理的である。また,a5大学案件では,岡山での打合せにおいて現地調査報告書を納品物とすることが合意されていたという被告人供述は,A1・被告人間の作業名を検討する平成21年12月22日のメールが当初はシステム製作に関する納品物を前提とするやりとりとなっていることについて合理的に説明できず,a5大学への納品物に関するA1供述,A4供述とも整合しないものである。a3社が実際に受注業務を行ったという点も,信用できるA1供述,A3供述に反している上,被告人自身,a3社が行った業務について具体的な説明ができていないのであって,信用できない。被告人においてa3社が業務を行っていると認識していたという弁護人の主張も,被告人のA1,A2に対する報告書作成に関する指示等に照らし,採用できない。
(7) 以上によれば,a5大学案件については,業務を受注したとされるa3社が受注業務を行っておらず,被告人もそのことを認識していたと認められる。
4 平成21年度のa1大学案件について
(1) 平成21年度のa1大学案件(犯罪事実1別表1及び2)に関し,報告書の作成業務及び電子カルテに連動した薬品・医療材料・医療危機管理システムのASPレンタルを受注したとされるa3社の代表者であるA3は,概ね次のような供述をする(第5回,第6回公判調書)。
①平成21年12月24日,a1大学の会議室において,a5大学案件に関する作業名と金額等に関して被告人と打合せをした後,平成21年度の被告人の科研費等が1000万円ほど残っていることが判明した。被告人は,研究費が残った場合の問題点を指摘して研究費を管理していたA8を叱責していたが,他方で,何とかA8を助けてほしいなどと言ってきた。a3社は何も作業をしていないし納品できるようなものもないと答えると,被告人からa14社で納品物を作るという趣旨の話があり,a5大学案件で間に入ってほしいと言われていたこともあって,同様にa3社は契約関係の作業をすると理解した。そこで,研究費の残額確認や作業の項目等についてA8と相談を始めた。
②A8と相談する過程で,納品物を作成するための素材不足や時間的制約から,科研費等の一部は報告書の作成を要しないシステムレンタルによって支出することを考え,△△システムと◎◎システムのシステムレンタルを納品物に加えることとした。A8と相談して作成した作業内容に関する表を持参して被告人と何度か打合せを行い,平成22年2月2日までに,報告書3本と,電子カルテシステムである△△システム及びこれに連動する物流管理システムである◎◎システムのシステムレンタルを業務内容とし,a3社が全て受注したことにすると目立つので,△△システムのレンタルについては他の会社を受注先とする案がほぼ固まった。システムレンタルを納品物の一部とすること,そのうち△△システムのレンタルをa3社以外の会社が受注したことにすることについては被告人からも了承を得ていた。
③報告書を業務とする発注について,a3社は,見積書,納品書,請求書等を作成してa1大学に提出し,納品物である報告書は,a14社から受け取ったパワーポイントデータをそのままCD-Rに焼いて,a1大学に提出した。報告書の作成について,a3社は資料提供や内容についてのアドバイスをすることも,報告書を作成するための打合せに参加することもなかった。被告人がA1やA2と報告書について話している場面に同席したことはあるが,納品物の内容についてA3が発言したことはないと思う。a5大学案件と同様,契約の営業窓口であって,実際の受注業務やプロジェクトマネージャーとしての業務をすることはなかった。
④システムレンタルについて,システム機器をレンタルするのではなく,インターネットでサービスを提供するASPレンタルという方式をとったこととし,◎◎システムについてはa3社を,△△システムについてはa8社を受注先とすることとした。a3社とa8社は,それぞれ見積書,納品書,請求書等を作成し,a1大学に提出したが,両社とも,実際にa1大学に◎◎システムや△△システムをレンタルするための作業を行っていない。◎◎システムについては,△△システムを動かす上で必要だったので,a14社のサーバーにインストールしてあり,被告人は以前から無償で◎◎システムを使用していた。△△システムはa14社が権利を持っているので,a3社にはレンタルの権限がない上,被告人はa14社の△△システムを無償で利用していると認識していた。
⑤a3社の預金口座にa1大学から515万円,a5大学から294万円の振込を受けたほか,a8社から257万円の振込を受けたが,約5%をa3社の手数料として控除したほか,それまでに被告人の旅費や飲食費等を立て替えていた110万円を控除した残額909万3000円をa14社の口座に振り込んだ。
(2) A1は,平成21年度のa1大学案件に関し,概ね次のような供述をする(第2回~第4回公判調書)。
①平成22年1月14日に被告人とA8,A2,A3とa5大学への納品物について打ち合わせた際,a1大学への納品物の話も出て,被告人が,a5大学についてはa23地区で訪問調査した内容を介護という視点から書く,a1大学への納品物については医療側から見た視点で書くということで,1つの訪問調査で2個の報告が書けるじゃないかと言った。
②a1大学の科研費等に関する業務名については,被告人とA3が打合せを行って詰めた結果,報告書3通のほか,納品物の必要がないシステムレンタルを入れると聞いた。a5大学への納品物をa3社にメール送信した平成22年2月8日以降,被告人の指示を受けて平成21年度のa1大学への納品物である報告書の作成を開始した。在宅医療の現状調査報告書については,a23医療生協訪問調査のデータに基づき作成した上で,A8と被告人に見てもらい修正した。共通診察券に関する報告書と長寿医療に係るネットワーク等の現状調査報告書については,同月19日の打合せで被告人からレクチャーを受け,その内容に基づき作成した。いずれもA2と共に同月中に作成し,被告人に内容を確認してもらった上で,a3社を通じてa1大学に納品したが,報告書の作成に当たってa3社が関与することも資料提供を受けることもなく,被告人からa3社と協力して業務を行うようにという指示も受けていない。報告書の作成にあたっては,a5大学案件と同様に,内容が分からなければ被告人に相談するよう指示を受けていた。
③a3社を通じてa1大学へ納品した報告書のうち,在宅医療の現状調査報告書と長寿医療に係るネットワーク等の現状調査報告書には,a5大学への納品物を作成する機会に入手した素材をそのまま使っているため,重複した画像が多く使われている。各報告書の「4 分析」の部分は,被告人のレクチャーに基づいてまとめている。a1大学への納品物を作成するにあたり,A1やA2が新たに研究や調査をしたことはない。
④a3社が報告書作成業務で果たした役割は,a5大学案件と同様に契約関連事務作業と納品を行っただけであり,プロジェクトマネージャーの役割を担ったとはいえず,名義貸しだと認識している。
⑤△△システムをASP方式でレンタルするには,サービスを受ける側(本件でいえばa1大学の関係者)をユーザー登録するとともに,サービスにアクセスするためのユーザーIDやパスワードの発行等の作業が必要となるが,A1はこれらの作業を行っていないし,A2が行っているところも見ていない。
(3) 平成21年度のa1大学案件に関し,システムのASPレンタルを受注したとされるa8社の代表者であるA26は,「平成21年12月か平成22年1月頃,a3社のA36からa1大学案件について受注業者となってもらいたい旨の相談を受けた。受注業者となるのは書類上のことだけであり,見積書,納品書,請求書等の書類をa3社に提出すれば,a3社が全部処理するという話だった。a8社は電子カルテシステムのレンタル業務を行うようなノウハウやパッケージを持っていなかった。システムレンタルはスルー案件であり,a8社自身は電子カルテシステムのレンタルは実際に行っていない」などと供述する(第9回公判調書)。
(4) A3,A1及びA26の各供述の信用性について検討すると,まずA3は,前記a5大学案件を前提として,平成21年度のa1大学案件が検討されるに至った経緯から全体像について具体的に説明しており,その内容は自然である。また,a23医療生協視察後の平成21年12月24日に,A8が管理する被告人の科研費等の未消化分が約1000万円あることが判明した経緯については,A8供述やA3が作成した「A8氏の状況」と題する資料(甲69・平成21年12月28日午後4時35分のメール・A3提示資料10)によっても裏付けられている。A1及びA3は,a5大学案件と同様にa14社において納品物である報告書作成業務を行い,a3社は契約関連事務を行ったに過ぎず,報告書作成業務には何ら関与していないことを一致して供述するほか,その作成経緯に関するA1の供述内容は,A8やA2の供述(第13回,第18回公判調書)によっても裏付けられており,さらに,a5大学案件と同じ資料を使用しているため同案件における納品物との重複部分があるなどというA1の供述は,該当する報告書の内容に照らしても納得できるものである。
また,◎◎システムのASPレンタルについても,a3社は被告人に従前から◎◎システムを無償で提供していたところ,今回特に◎◎システムのASPレンタルが発注業務となった経緯について,約1000万円に及ぶ被告人の科研費等の残額を執行する方策を検討中に,納品物としての報告書を要しないシステムレンタルによることを思いついたという内容は合理的なものである。△△システムのASPレンタルについても,a3社のA3,a8社のA26いずれもASPレンタルに必要な作業を行っていないと供述していることに加え,実際に△△システムの権利者であるa14社のA1,A2が△△システムのレンタルに必要な作業を行っていないと供述していることによっても裏付けられている。
このほか,A1,A3及びA26の各供述は,A1から被告人,A8に対して送られた,a3社名義の報告書が添付された上,被告人に納品物についてのレビューを依頼するメール(甲70・平成22年2月19日午後5時13分,平成22年2月24日午後10時17分の各メール,甲274・平成22年2月26日午前10時4分のメール・A1提示資料23ないし25),A3からa1大学で被告人の秘書的立場にあったA17,被告人,A8に送られた,平成21年度の科研費等の割振り案(a3社以外の会社が電子カルテシステムのレンタルを受注する内容を含むもの)を添付したメール(甲70・平成22年2月2日午後7時40分のメール・A3提示資料18),A3からA1,A2に送られた同割振り案を提示するとともに実際の作業についてa14社に依頼する旨のメール(甲276・平成22年2月3日午後5時33分のメール・A3提示資料19),a3社のA36からA26に対して送られた,平成21年度の科研費等に関してa8社が行うべき作業はa3社に発注し検収することであり「スルー案件」である旨のメールや,サンプルとして提供を受けたa3社名義の見積書(甲79・平成22年2月4日午前8時26分のメール,同メールに添付された「a8社様(マル秘)」と題する書面等・A26提示資料1ないし4)などとも整合するものであって,十分に信用できる。
(5) 以上のとおり,信用できるA1供述,A3供述及びA26供述によれば,平成21年度のa1大学案件の業務内容の検討が始まったのは,a23医療生協訪問調査の後であり,この訪問調査はa1大学案件のために行われたものではないこと,同案件において,a3社は報告書作成業務,システムレンタル業務のいずれも行う意思がなく,外形上の受注業者となっただけで,実際にこれらの業務を行うこともなかったのであり,単に契約関連業務を行ったにすぎないこと,a8社も,システムレンタル業務を行う意思がなく外形上の受注業者となっただけで,実際にシステムレンタル業務を行っていないことが認められる。
そして,被告人は,A3に対しa5大学案件と同様に納品物はa14社が作る旨述べた上でa3社が平成21年度のa1大学案件の受注先となるよう依頼し,現にA1から被告人に対しa3社名義の報告書の確認を求められるなどしていたのであるから,a5大学案件と同様にa1大学案件のうち報告書作成業務について,a3社が受注業務を行っていないことを認識していたことも明らかである。また,a1大学案件のうち,システムのASPレンタル業務については,被告人は従前から◎◎システム及び△△システムを無償で使用しており,その無償使用を継続していただけで,単に納品物が必要ないからということでシステムレンタルを発注業務に入れることをA3から提案され,△△システムのレンタルについては,a3社で全ての業務を受注すると目立つので,他の業者に受注させると提案されて,これを了承したというのであるから,a3社とa8社によるシステムレンタル業務の実態がないことを認識していたことも明らかである。
(6) 以上に対し,被告人は,①報告書の作成業務は,a5大学案件と同様に,a14社とa3社がチームとして行ったものであり,a23医療生協訪問調査の結果を踏まえた実質的な検討を行った,②システムレンタルについても,被告人はa3社からシステムレンタルを受け,これを用いて△△システムと◎◎システムのデモンストレーションを行っていた,③当初は無償でレンタルを開始したが,後に研究費の予算が付けば遡って費用を支払う合意をしていたなどと供述し,弁護人も,被告人供述に沿う主張をするほか,少なくとも被告人はa3社が業務を行っていると認識していたと主張する。
しかし,この被告人供述は,信用できるA1,A3,A26供述及び前記のメール等に反する。また,被告人は,a1大学からa3社及びa8社に対して◎◎システム及び△△システムのASPレンタルが発注される以前から,これらのシステムを無償で利用しており,被告人がデモンストレーションを行っていたからといって,直ちに各システムのASPレンタルが行われていたことをうかがわせるものではない。さらに,被告人が従前から無償で利用していた各システムについて,従前からの無償利用ができなくなるような事情もないのに,あえて有償レンタルとする経緯について合理的な説明もない。しかも,これらのシステムレンタルに関する業務内容は,被告人個人ではなくa1大学に対するレンタルであり,その仕様書(甲5,甲2,A3提示資料21,22)によればa1大学の複数の関係者がシステムを利用できるようにする必要があるところ,そのようなサービスが提供されたことをうかがわせる証拠はない。これらに加え,a1大学案件が検討されるに至った経緯,ASPレンタルにあたってA3がa3社だけだと目立つので他の会社を入れるなどと被告人に報告した事実,被告人は△△システムの権利をa3社ではなくa14社が持っており,a3社がレンタル業務を行うことができないと熟知していたはずであること等に照らせば,被告人がa1大学案件についていずれもa3社が受注した上で業務を行っていた旨認識していたという供述は信用できない。
このように,平成21年度のa1大学案件に関する前記被告人供述は信用できず,これに依拠した弁護人の主張も採用できない。
5 平成22年度のa1大学案件について
(1) 平成22年度のa1大学案件(犯罪事実1別表3ないし6)に関し,A1は概ね次のような供述をする(第2回~第4回公判調書)。
①平成23年2月24日,被告人から,科研費が合計1060万円残っているのでこれでシステムを作りたいという内容のメールが送られてきた。会計への請求書の提出期限が3月11日であった。「A4先生のところとほぼ同じ要領」という記載から,a14社が報告書を作成して科研費をa14社に流し,そのお金で在宅医療のシステムを作るという内容だと理解した。メールではa14社の名前を出さないようにという指示があったが,これはa1大学に対してa14社の名前を出さないようにという意味だと理解した。被告人から,a14社にお金がないので,これをやらないと給料を払えないという話も聞いた。
②A1,A2は,科研費の金額や必要となる契約書数等をもとに,受注業者にどのように業務を割り振るかについてのシミュレーションを行った。この段階では,a1大学からの発注先業者は決まっていなかった。
③翌25日,被告人も出席する会議でa11社,a22社,a10社が受注したことにして科研費を振り分けることが決まり,a11社については,被告人が連絡を入れた上で,A2が必要な資料などについて連絡し,a22社については,A2がA5准教授との間で調整をした。a10社については,A1からa10社の取締役であるA37に連絡を取り,a10社に中請業者になってほしい旨伝えた上で,代表者であるA28とA2が調整を始めた。A37から問われて,a14社はa1大学と直接契約するだけの与信が通らない,利益相反となることを説明したと思う。
④その後,A5准教授から,a22社ではなくa9社で業務を受注したいという連絡があったため,a9社に発注先業者を変更した。結局,平成22年度のa1大学案件は,a11社,a10社,a9社がa1大学から業務を受注したこととし,これらの会社が手数料を得ることになった。
⑤同年3月11日までの段階で,発注業務が各種資料作成からデータベース作成に変わったため,既に作成に取り掛かっていた報告書について,内容の変更が必要になるか被告人に確認したところ,データベースは作成せず,報告書の作成で問題がないと書われた。
⑥A1は,a9社及びa11社が受注した業務(犯罪事実2別表番号3,4,6)に関する納品物として報告書3通を,A2はa10社が受注した業務(同5)に関する納品物として報告書2通を,それぞれ作成した。A1及びA2が担当した報告書の作成にあたって,被告人の指示や説明を受けたほか,過去の資料やa23医療生協訪問調査時の写真等を使用したが,a9社,a11社,a10社は,資料の提供等もしておらず,報告書の作成に何ら関与していない。別表番号6の報告書については,被告人から教えてもらった厚生労働省のホームページに掲載された分析表を利用し,被告人からレクチャーされた内容をまとめた。別表番号4の報告書は,被告人のレクチャー内容と,被告人の指示に基づきa14社のサーバー内に保管されていた資料やウェブサイト上に掲載されていた被告人の論文などを参考にして作成した。別表番号3の報告書は,被告人の指示に基づき△△システムの設計資料であるユースケースを利用して作成した。A2は,別表番号5の2通の報告書を,a24株式会社の資料や,平成21年度にa5大学やa1大学に納品した報告書,平成23年3月に被告人,A5准教授,A1,A2がa23医療生協を訪問調査したときの画像等を用いて作成していた。この訪問調査の際,a10社,a9社の関係者は同行していない。
⑦平成22年度のa1大学案件で作成された5通の報告書は,被告人に内容を確認してもらった後,a11社とa10社については手渡しし,a9社については郵送することで,各会社に納品物を交付した。
(2) 平成22年度のa1大学案件に関し,A2は概ねA1の供述内容に沿う供述をするほか,a10社が受注したこととされる別表番号5の2通の報告書に関し,いずれもA2が,同(1)の報告書については,被告人に教えてもらったa14社のファイルサーバーに保管されていたa24株式会社の資料から関係しそうなところを持ってきた上,インターネットで調べた内容を加えて作成し,同(2)の報告書については,平成21年12月と平成23年3月のa23医療生協訪問調査でまとめた資料をベースに作成したこと,その作成に際し,a10社が資料を提供したり作成に協力したりしたことはないことを供述している(第13回公判調書)。
(3) 平成22年度のa1大学案件に関し,別表番号5の業務を受注したとされるa10社の代表者であるA28は,「A37を介してA1から被告人の科研費を使い切るために医療に関する仕様書を作成するという話が来た。a10社は医療に特化していないことから,A37にa10社では受けられないと話したところ,A37からは,実際の作業はa14社が行うのでa10社は営業支援,口座貸しをすればよいと言われた。なぜa10社が入る必要があるのかA37に確認するように伝えたところ,A1からA37に,a14社は被告人が100%株主なので利益相反となるためa1大学と直接契約できないという内容のメールが届いたので,a10社としてa14社の依頼を引き受けることを決めた。a10社は,見積書,請求書,納品書等を作成しa1大学に提出したほか,納品物であるCD-Rをa14社から受け取り,これをa1大学に郵送した。当初から納品物を作成する意思はなく,実際にもa10社は納品物の作成に全く関与していない」などと供述する(第9回公判調書)。
(4) 平成22年度のa1大学案件に関し,別表番号3及び4の業務を受注したとされるa9社の代表者であるA27は,「平成22年度の科研費については,当初平成23年の3月頃に,A5准教授からa22社が業務を受注するための相見積の依頼を受けた。その翌日頃,今度はA5から,a22社では受注できなくなったのでa9社で受注してほしいという依頼を受けた。その際,実際の作業は別の会社が行うのでa9社は何もしなくてよいとも言われた。被告人のコントロール下にあるa14社が直接大学とやり取りできないか,a14社をa1大学から見えなくするためだと思った。a9社は,2つの業務について見積書,納品書,請求書等を作成し,a1大学に提出したが,当初から業務を行う意思はなく,実際に納品物である報告書の作成にも関与しなかった。納品物の報告書のデータはa14社のA2から宅配で送られてきたので,内容を確認し,特に手を加えることなくDVDに焼き直してa1大学へ提出した」などと供述する(第16回公判調書)。
(5) 平成22年度のa1大学案件に関し,別表番号6の業務を受注したとされるa11社の代表者であるA29は,「被告人からの依頼として,A6から平成22年度のa1大学案件について,納品物等はa14社が作成するので,商社機能をしてほしいという話を受けた。契約関係事務を担当すればよいという理解のもと,実際に業務を行う意思も予定もなかったが,商社機能を行うという前提で業務を受注することとした。納品物は,CD-Rに入った状態でa14社のA2,A1から手渡され,中身を確認することもなく,a1大学へ郵送する方法で納品した」などと供述する(第10回公判調書)。
(6) A1供述は平成22年度のa1大学案件のきっかけ,各関係会社の役割分担とその経緯,納品物の作成過程等を含め,その全体像を合理的に説明するもので,その内容も自然である上,納品物のうち2通の報告書を作成したA2供述とも整合する。また,各業務を受注したとされる関係会社のA28,A27,A29が,いずれも関係会社では業務を行うことなく,a14社が作成した納品物を受け取りa1大学へ納品したなどと供述していることとも整合するものであり,これらの供述は相互にその信用性を高めている。また,A1が供述する平成22年度a1大学案件のきっかけや,各関係会社の役割分担については,これを裏付けるメールのやりとり(甲71・平成23年2月24日午前11時31分,同日午後1時25分,同日午後7時44分,同月28日午後0時45分の各メール・A1提示資料27ないし30)と整合するほか,a10社のA28が,A1からA37を介して実際の作業はa14社が行う,a14社は利益相反となるためa1大学と契約できないとの説明を受けた旨供述していること,これに関するA1のメールによっても裏付けられている(甲80・平成23年2月24日午後2時37分のメール・A28提示資料1)。a9社及びa11社が受注先となった経緯についても,A5准教授が,「当初a22社が受注する予定だったところ,途中でA2又は被告人から,a22社は何もしなくていいと言われ,a14社に再委託するという話になり,研究費について再委託をするのはおかしいので,a22社を関わらせたくないと考え,A27にa22社に代わってa9社で受注してほしい旨の依頼をした。その際a9社には何もしなくていいと伝えた」旨供述していること(第8回公判調書),A6が「被告人の依頼を受けて,a11社のA29に,既に成果物が存在する業務について,中に入ってほしい,a1大学との調整などをやってほしい旨依頼した」旨供述していること(第12回公判調書)とも整合する。
以上によれば,これらの供述は十分に信用できる。
(7) 信用できるA1,A2,A28,A27,A29の供述によれば,平成22年度のa1大学案件につき,各関係会社は受注業務を行う意思がなく,外形上の受注業者として,実際に受注業務を行うこともなく,契約関連事務のみを行ったと認められる。
そして,被告人からA1らに対し,平成22年度のa1大学案件について,A4先生のところ(a5大学案件)とほぼ同じ要領であること,a14社の名前を出してはいけないことなどを指示したメールが送信されているところ,前記のとおり,a5大学案件については被告人自身がa3社に間に入ってもらうこと,報告書の作成はA8と協力の上a14社のA1,A2において行うことなどを指示し,a3社は受注した業務を行わず,実際の業務はa14社が行っていたことを認識していたのであるから,a5大学案件と同じ要領という平成22年度のa1大学案件についてもまた,実際の作業はa14社が行い,受注業者が実際の業務を行わないことを前提としていたと認められる。これに加え,A5とA6がA27とA29に対し,A1がA37を介してA28に対し,それぞれ,a14社が納品物を作成するので各受注業者は受注業務に関して何もしなくてよい旨伝え,各代表者はいずれもそのことを前提に受注した旨一致して供述しているところ,A1,A5,A6が,被告人の科研費で発注する業務に関し,受注業者が実際に行うべき業務内容という重要な事項について,被告人に無断で何もしなくてよいなどと伝えるとは到底考えられず,各関係会社が実際の業務を行う必要がないことについては,被告人の意向に従って伝達されたと推認される。したがって,被告人はこれらの関係会社が業務を行っていないことを認識していたと認められる。
(8) 以上に対し,被告人は,平成22年度のa1大学案件の成果物である各報告書を作成したのはA1とA2だと思うが,a9社,a10社,a11社もA1らとチームを組んで一緒に知恵を出して各業務を遂行したと思っていた,報告書はa14社が作るが関係会社が作成名義人となることでPOAS理論に基づく医療システム開発に主体的に取り組んでほしい,仲間になってもらうという意識だったなどと供述し,さらに,a9社については,A5准教授が大学院生達とシステムを作っていたが,彼らはa9社とイコールと考えていたなどとも供述している。また,弁護人は,被告人がa14社の名前を出さないよう伝えたのは,あくまでも医療システムの開発等にあたって対立していた教授及びその支援企業関係者に対して伝わらないようにという趣旨であり,被告人は,A1が各関係会社の適性をみた上で適宜役割分担を行い各関係会社が業務を行っていたと認識していたなどと主張している。
しかし,各関係会社の代表者や被告人・a11社間の仲介をしたA6は,各関係会社は作業を行っていない旨供述し,各関係会社の代表者からも本件の受注に関してPOAS理論に基づく医療システム開発に取り組むという話は全く出ていないのであって,各関係会社が業務を行っていないことは明らかである。また,a14社の名前を出してはならないというメールの記載について,当時対立していた教授及びその関係企業に対してa14社の名前を出してはならないという趣旨であるという被告人の供述についても,当該メールの文脈からはそのような趣旨とは読み取れないし,その後,A1,A5,A6が各関係会社に対し一致して関係会社は何もしなくていいと伝えるに至った経緯を説明できない。
以上のとおり,被告人の供述は信用できず,弁護人の主張も採用できない。
6 平成23年度のa1大学案件について
(1) 平成23年度のa1大学案件(別表番号7)について,被告人は,公判において,受注したとされるa13社が納品された報告書の作成に関与したかは知らないなどとして,詐欺の認識を争うかのような供述をしている(弁護人は,受注したa13社が実際に業務を行わなかったことと,これに関する被告人の認識を争っていない。)。
(2) 平成23年度のa1大学案件について,業務を受注したとされるa13社の代表者であるA30(第10回公判調書),同人に同案件を紹介したA6(第12回公判調書)及びa14社のA1(第2回~第4回公判調書)の各供述によれば,同案件については,①同年8月中旬頃,A6は被告人から,100万円の科研費があり,a14社で作業を行った,成果物作成業務は必要なく,手数料は発注額の5%,A1とA2の給料が払えないので8月末までにお金が欲しいという条件で,商社機能(a1大学とa14社の間に入って契約関係の事務を行うこと)を果たしてくれる会社を探してくれと頼まれたこと,②これを受けて,A6は,a13社のA30に,被告人の研究費についてa1大学とa14社の間に入って商社機能を担当してほしいと頼んだこと,③A30が,a13社の取引として書類に印は押すから,細かいことはA6に任せるというので,A6が,A1,A2にa13社に頼むことを伝えた上で,その後の事務についてa1大学で被告人の秘書的立場にあったA17と連絡を取り,細部を詰めたこと,④a1大学からの支払が9月末になることが判明したので,A6はA30にa13社からa14社への支払を8月末に前払いしてもらうことを依頼し,A30は,a1大学の支払についてA6から個人保証を求めた上で承諾し,8月末に89万9850円をa14社の口座に振り込んだこと,⑤a1大学への納品物については,A1とA2が,被告人から,a25社との間で服薬に関するアドヒアランスの研究があったので,それをテーマにするようにとの指示を受け,a25社の資料の提供を受け,この資料に平成21年度,同22年度のa1大学やa5大学への納品物などの過去の資料を利用して,1日程度で完成させ,被告人に内容を確認してもらったこと,⑥a13社は,8月末に見積書,納品書,請求書等をa1大学に提出したが,納品物である報告書の作成には関与していないことを認めることができる。
(3) これらの認定事実は,特に被告人がA6に依頼した内容や納品物作成の経緯等に関し被告人の公判供述とは異なっているが,これに関するA6,A30,A1の供述内容は互いに整合している上,A1とA2が給与の支払を十分に受けられないまま9月末で退職することになっていたという当時の状況からも自然であり,また,A6,被告人,A1,A2,A30の間でのメールや(甲274・平成23年8月18日午前11時27分のメール,甲83・平成23年8月24日午前11時51分のメール,甲276・平成23年8月23日午前8時58分のメール,甲83・平成23年8月23日午後6時24分のメール,以上,A6提示資料5ないし7,9,甲83・平成23年9月15日午前10時26分のメール・A30提示資料3),A6がA30に差し入れた保証書(甲263・A6提示資料8),a13社からa14社への送金状況によっても裏付けられているのであって,十分に信用できる。
(4) このように,平成23年度a1大学案件についても,受注したとされるa13社は,業務を行う意思がなく,実際にa1大学に納品された報告書の作成には関与することなく,契約関連事務とa14社が作成した納品物である報告書の提出のみを行い,被告人もa13社が業務を行わないことを認識していたと認められる。
7 詐欺罪の該当性について
(1) 以上のとおり,本件で起訴された各業務については,a1大学又はa5大学から受注したとされる各関係会社は,いずれも業務を受注して行う意思がなく,実際に業務を行っていないにもかかわらず,見積書,納品書,契約書等の契約関係書類を各大学に提出するとともに,業務内容がシステムレンタルであるもの以外については,a14社が作成した報告書を各大学に提出し,システムレンタルを業務とする発注については,誰も業務としてのシステムレンタルを行っていないことが認められる。
このような事実関係を前提として,検察官は,補足説明冒頭で記載したとおり,被告人は,関係会社の代表者等と共謀の上,各関係会社が各業務を受注して行った事実はないのに,各関係会社から虚偽の見積書,納品書及び請求書等を作成提出させた上,a14社に作成させた報告書等を成果物として提出させるなどして,各関係会社が業務を受注して行ったように装って各業務の代金請求したことが欺罔行為に当たると主張する。
これに対し,弁護人は,本件で問題とされる欺罔行為について,民法上の請負契約では下請けを用いることは差し支えないことが原則であることを前提に,法令等において受注名義人と業務担当者の同一性を確保すべき規定がないこと,各大学の契約・支払実務の運用においても受注名義人と業務担当者の同一性を確保するための措置が講じられていなかったことなどの理由から,①実際に作業を行う者が誰かという点は,「財産的処分行為の判断の基礎となるような重要な事項」に当たらない,②見積書等の提出行為は,これを提出する業者が自ら業務を行う旨表明するものではないから,本件では「偽る行為」がないなどとして,被告人は公訴事実すべてについて無罪であると主張している。
(2) これについて判断するに当たっては,まず,科研費等が公費によるものであり,その適正な執行が求められることを確認する必要がある。その経理の透明化等を図るなどのため,科研費等については,その給付を受ける研究員個人ではなく,大学等研究者の所属機関の長が適正な執行に責任を負い,その経理部門がその事務を担当することとされており(甲202・資料1,甲207・資料1),その支出については,大学等の所属機関の会計規則等の各種ルールに基づき行われる。目的外使用,空発注,条件違反,利益相反取引等の不正経理・不正支出は許されず(長寿医療研究委託費事務処理要領(甲207・資料1),厚生労働科学研究費補助金取扱規程(甲53・資料1),a1大学利益相反防止規則(甲236),A19供述(第19回公判調書),A16供述(第15回公判調書),河邉供述(第15回公判調書)),また,補助金等にかかる予算の執行の適正化に関する法律17条,18条は,目的外使用,交付決定の内容・条件違反,その他法令又はこれに基づく各省各庁の長の処分違反の場合の補助金交付決定の全部又は一部の取消しと,その場合の補助金等の返還について規定している。
(3) そして,本件当時a1大学大学院a4研究科事務部の会計担当主査又は副事務長として,それぞれa1大学案件に関する支払の決裁に関わったA18(第19回公判調書),A15(第15回公判調書),同大学において調達,契約関係規定の解釈運用等に関する各部局からの相談対応等を業務とする財務部契約課長の経歴を有するA16(第15回公判調書),a5大学において,本件当時a6研究科総務課用度係としてa5大学案件に関する支払の決裁に関わったA33(第14回公判調書),同大学a6研究科の委託費等に関する発注,支払等の業務を担当する同研究所等事務部総務課会計グループの主査の経歴を有するA31(第14回公判調書),同大学において委託費の支出に疑義が生じた場合等に問合せを受けること等を業務とする財務部企画課監査指導決算グループ総括主査であるA32(第14回公判調書)の各供述によれば,①a1大学及びa5大学における科研費等の支払の決裁に際しては,基本的に見積書,納品書,請求書等の作成名義,件名,金額等が一致しているか,納品物の検収が行われているかなどを確認し,特に疑義がない場合には,これらを提出した業者が業務を行ったと考えて支払を認めること,②受注業者が,受注当初から受注業務を行う意思がなかった場合や,受注業務を行わず単に見積書等の作成等を行い他者から提供を受けた納品物の納品のみを行っていた場合には,そのような外形上の受注業者が業務を受注して行ったものとは評価できず,大学と外形上の受注業者との間では有効な契約が成立しているとは扱えないか解除すべき契約であり,受注業者が外形上の受注業者にすぎず実際に業務を行った業者とが異なることがうかがわれる場合には,そのまま外形上の受注業者に支払うことはできないこと,③事実関係を調査した上で,実際に業務を行った業者に支払をすべきと判断される場合には,外形上の受注業者との契約を解除した上で実際に業務を行った業者と再度契約を締結する必要があることを認めることができる。
これらA18,A15,A16,A33,A31,A32の各供述は,その担当していた業務の範囲に応じて内容にズレがあるが,基本的に整合し,いずれも各証人の各大学における会計事務等の勤務経験に基づくものである。また,a1大学の役務提供契約基準(甲58・A15提示資料18)の第5において,請負者は,あらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合を除き,業務の全部又は一部を第三者に委任し又は請け負わせてはならない旨定められ,a5大学の製造請負契約基準(甲239・A31提示資料5)第5において,あらかじめ発注者の承諾を得た場合を除き,製造物の全部若しくは主たる部分等の製造を一括して第三者に委任し,又は請け負わせてはならない旨定められていることによっても裏付けられている。
(4) そして,受注した業務の再委託,一括委託がある場合には,行われた業務,提出された納品物に対する責任の所在が不明確となる上,実際に業務を行う業者が受けるべき対価のほかに,受注したとされる業者が受けるマージンが生じることが通常であることからすると,必要のない再委託,一括委託を防止することは,公費の支出の適正を確保する上で重要である。
したがって,再委託,一括委託があるか否か,すなわち実際に業務を行った主体が誰であるかは,a1大学及びa5大学において科研費等の管理について責任を負う両大学の長(その委任を受けた経理部門)の支払に関する判断において重要な事項であることもまた明らかである。
なお,平成21年度のa1大学案件において,a3社が受注したとされている業務のうち別表1(3)については物品供給契約書が作成されているところ,物品供給契約基準には役務提供契約基準のような再委託禁止規定は存在しない。しかし,物品供給,役務提供のいずれでも,公費の支出を伴う契約である以上,その執行が適正になされるべきことや納品物に対する責任の所在を明確にすることが等しく必要とされているところ,A16は,物品供給であってもメーカーが直接販売していないようなケースでは例外として代理店と契約し,そこから納品物を受けることになるが,原則として単に第三者から提供を受けた納品物を大学に納める手続をするだけでは業務を行ったとはいえず,アフターサービスも含め責任の所在を明らかにする必要があるなどと供述している。こうした必要性は,形式上物品供給契約とされていても,実質的に役務提供の要素を含む契約の場合により明らかであるところ,a3社が受注したとされる前記業務は,その仕様書等によれば実質的に現地調査という役務提供の要素を含んでいるのであって,これについて実際に業務を行った主体が誰であるかが重要な事実に当たることは,本件で起訴されている他の業務と同様である。
(5) 本件においては,a1大学又はa5大学からの各発注業務について,各関係会社は,見積書,納品書,請求書等とa14社が作成した納品物をa1大学又はa5大学へ提出するなどしているところ,各発注業務に当たり各関係会社以外の業者において実際の作業を行うことが前提とされているような事情は認められない。各関係会社は,前記3ないし6のとおり,いずれもその受注業務を行う意思がなく,実際に業務を行ったこともないのに,自らが実際に業務を受注して行ったかのように装って,各大学に見積書,納品書,請求書等を提出し,a14社が作成した報告書を納品物として提出したことで,各大学に対し欺罔行為に及んだと認められる。
(6) なお,本件の欺罔行為は前記のとおり,外形上の受注業者が実際の業務を行ったかのように偽る行為であるところ,a10社の代表者であるA28は,a1大学においてa10社が実際の業務を行っていないことを認識していると思っていた旨,a13社の代表者であるA30は,a13社が発注業務を行う意思がないことがa1大学に発覚しても何ら問題はないという認識だった旨,それぞれの行為が欺罔行為に当たらず,a1大学において外形上の受注業者にすぎないa10社及びa13社が実際に業務を受注して行った旨の錯誤に陥っているという認識を欠いていたとして故意を否認する供述をしている。しかし,A28は,a14社は被告人が100%株主なので利益相反となるためa1大学が直接契約できないことを認識していたとしながら,形式上a10社が間に入れば問題ないと思っていたなどとも供述しているが,証拠上,A28が問題ないと思った合理的な根拠は何ら現れておらず,A30についても,a1大学に特に確認等することもなく前記のように認識していたというのであるが,前記のとおり本件は私企業間の私的取引ではなく,特に適正さが求められる公費の支出に関する取引であるところ,このような本件取引の性質に照らし,A28及びA30が前記のような認識に至ったというのは常識に反するものであって信用できない。
また,a11社の代表者A29も,a1大学を騙したという認識はないなどと,詐欺の故意を否定するかのような供述をしているが,A29は,他方で,A6から本件の話があったとき,a1大学との関係でa14社の名前を出したくないと聞いた旨述べているのであり,業務を行った者を偽って本件の見積書,納品書,請求書等を提出し代金請求をすることについて認識を有していたと認められる。
(7) 以上に対し,弁護人は,民法上の請負契約の場合下請けを用いることは差し支えないことが原則であることなど前記(1)記載の理由から,実際に作業を行う者が誰かという点は「財産的処分行為の判断の基礎となるような重要な事項」に当たらないし,a1大学やa5大学の担当者らは,受注しようとする業者に内部基準で再委託等が禁止されていることなどを知らせておらず,被告人は,科研費等の支出に際し,再委託等が禁止されていることを知らなかったとして,被告人の行為が欺罔行為であることとその認識を争う。
しかし,民法上の請負契約と異なり,公費の支出に関しては原則として再委託等が禁止されており,受注業者が業務を行うことが当然の前提とされていることは,公費予算の執行上の常識であり,このことは,A5准教授が,前記5(6)のとおり研究費に関する再委託はおかしいので,自ら経営するa22社を関わらせたくないと考え,a9社に受注を依頼した経緯によっても裏付けられている。被告人は,a1大学の教授となる前から,国立a16病院等で公費を用いた業務の発注等に携わってきたのであるから,再委託等の原則禁止について当然認識していたと認められる。
そして,科研費等については,前記のとおり,その経理の透明性の確保等の観点から,支給を受ける研究者の所属機関等の経理部門がその支出等を行うこととされており,これは科研費等の支出の適正を確保する上で合理的と考えられるが,その反面として,支払の決裁において,経理部門は,前記のように書面審査によらざるを得ないし,特に受注業者の適否について研究者の判断を信頼せざるを得ない。これを前提とすると,科研費等についてa1大学及びa5大学の経理担当者が,通常の場合,見積書,納品書,請求書等の作成名義,件名,金額等の一致などに重点を置いた書面審査によって支払の決裁を行っていることも,合理性がある。そして,経理部門において,何らかの事情により,例えば研究事業との関連性や発注権限内であるかなどについて疑問を持った場合には,発注に関わった研究者等に問い合わせるなどして審査している。これによれば,実際に業務を行った者が誰かという点についても,支出に当たって重要な事項ではあるが,会計担当者において見積書,納品書,請求書等の帳票類以外から他に業務に関与する者がいるか否かを知る術もないのであるから,特段の事情のない限り帳票類による書面審査によるものの,受注業者が業務を行っていないことについて疑問が生じた場合に個別に調査を行って対応するという支払審査もやむを得ないところである。
そうすると,各関係会社が各大学に対して自社名義の見積書,納品書,請求書等を提出することは,自社が業務を受注しこれを行ったことを装い,対価を請求する行為であるから,詐欺罪における欺罔行為に該当し,被告人もそのことを認識していたと認められる。
これらに関する弁簿人の主張もまた失当である。
(8) さらに,弁護人は,a5大学案件について,A4教授は報告書の作成者について被告人が指揮監督する者が行う程度にしか認識していなかったのであり,A4教授が報告書を納品物として受容した以上,a5大学の支払手続に何ら関与をしていない被告人には詐欺罪が成立する余地がないと主張する。
しかし,前記認定によれば,被告人が,A3と共謀の上で,A3に業務を行う主体を偽る欺罔行為を行わせたことは明らかである。また,A4教授は,前記のとおり,a3社が被告人の指導の下アイフォンシステム開発を行っていると考えて,a5大学案件の報告書を受容したと供述しているところ,この供述は,その後のアイフォンシステム開発の経緯に照らしても信用できる。これによれば,A4教授がa5大学案件の報告書を受容したことは,被告人がA3と共謀の上で行った欺罔行為からの因果の流れにすぎず,被告人に詐欺罪が成立することを妨げるものではない。
(9) なお,弁護人は,仮に被告人の行為が詐欺罪の構成要件に該当するとしても,可罰的違法性がなく無罪であるとも主張するが,後記量刑理由のとおり,本件の被害額は多額で態様も悪質であって,可罰的違法性がないという弁護人の主張は失当である。
その他,弁護人が種々主張するところを踏まえても,被告人に犯罪事実のとおりの詐欺罪が成立するという前記認定に疑いは生じない。
(法令の適用)
罰条
犯罪事実1別表番号1,2,5 それぞれ包括して刑法60条,246条1項
同番号3,4 包括して刑法60条,246条1項
同番号6,7 いずれも刑法60条,246条1項
犯罪事実2 刑法60条,246条1項
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い犯罪事実1別表番号1の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
1 被告人は,科研費等による業務の発注に関わるa1大学教授としての地位にあることや,共同研究者から業務の発注に関して相談を受けたことを利用して,本件各犯行に及んでいる。科研費等の支払審査は,研究者が,発注業務の内容や,発注先の選定,発注金額の決定等を適正に行っていると信頼することを前提としているところ,本件各犯行はこの研究者に対する信頼を逆手に取り悪用した巧妙な犯行であって,その態様は悪質である。また,3会計年度にわたり同様の行為を繰り返し,被害額も合計2188万4400円と多額に上っている。
被告人は本件各犯行を計画し,共犯者である関係会社の代表者や被告人が実質的に経営するa14社の従業員等に指示して本件各犯行を実現した首謀者である上,a1大学及びa5大学から関係会社に振り込ませた科研費等の約9割をa14社が得ているところ,同社の代表者であった当時の被告人の妻に多額の役員報酬が支払われていたことからすれば,科研費等が被告人の私的利益のために用いられたことも認められる。
被告人は,本件において各業務の成果物を実際に納品し,その対価の支払を受けただけである旨主張するが,その納品物自体,被告人が,既存の知識をA1,A2に教示するとともに,被告人やa14社が入手済みの資料や厚生労働省のホームページに掲載されている公開資料を参照するよう指示するなどして,報告書として体裁を整えさせ,或いは従前から無償で利用していたプログラムをASPレンタルしたこととするなどしたものである。結局,その契約自体,科研費等をa14社に流すことを目的とした形式的なものにすぎないことからすれば,成果物が納品されている犯行があることを量刑上考慮することはできない。
また,確かに,被告人が供述するとおり,諸外国と比較して,日本の研究費については,基本的に単年度主義で予算を執行しなければならない上,使途が細かく規制されすぎて硬直的であり,研究の実情に応じた支出をしにくく,他方でその研究成果に対する審査が甘いという問題があることについては,a1大学a2研究センターのセンター長であった証人も述べるところである。しかし,そうであるからといって,外形上の受注業者を介して科研費等を自らが実質的に経営する会社に流す本件のような詐欺行為が許されるものではなく,この点も被告人にとって有利な事情として考慮することはできない。
そして,被告人自身,自己の行為の正当性を主張するばかりで,およそ反省の態度は見られない。
以上の事情に照らせば,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
2 他方で,被告人は,我が国における医療情報システムの研究開発に重要な役割を果たし,総務省の在宅高齢者向けの健康管理見守りケアシステムに関する実証研究事業において,被告人がPOAS理論に基づき開発を指導した△△システムとアイフォンやセンサーを連携させたシステムが高い評価を得ている。a14社における医療システム開発の継続状況や,関係会社からa14社に支払われた科研費等がa14社の運営資金として被告人の研究やシステム開発に充てられたことがうかがわれることからすると,本件は単に私的な利益を図るというだけでなく,被告人なりにPOAS理論に基づく研究やシステム開発を継続するという目的による犯行という面もあったと考えられる。
また,被告人は本件各犯行により,長年にわたって築いた研究者としての地位と信用を失った。このこと自体は当然のこととはいえ,既に被告人が相当程度の社会的制裁を受けているといえる。加えて,見るべき前科もないこと等被告人に対して酌むべき事情も存在する。
しかし,これらの事情も考慮しても,前記犯情の悪質性,結果の重大性に照らせば,被告人を主文の刑に処するのが相当と判断した。
(求刑 懲役5年)
平成28年8月17日
(裁判長裁判官 稗田雅洋 裁判官 田中結花 裁判官 板﨑遼)

 

〈以下省略〉

 

*******

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。


Notice: Undefined index: show_google_top in /home/users/1/lolipop.jp-2394bc826a12fc5a/web/www.bokuore.com/wp-content/themes/rumble_tcd058/footer.php on line 296

Notice: Undefined index: show_google_btm in /home/users/1/lolipop.jp-2394bc826a12fc5a/web/www.bokuore.com/wp-content/themes/rumble_tcd058/footer.php on line 296