「営業支援」に関する裁判例(32)平成28年 6月29日 東京地裁 平26(ワ)19821号 報酬請求事件
「営業支援」に関する裁判例(32)平成28年 6月29日 東京地裁 平26(ワ)19821号 報酬請求事件
裁判年月日 平成28年 6月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)19821号
事件名 報酬請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2016WLJPCA06298023
要旨
◆Xが、Yの営業支援を目的とする解約禁止特約付き業務委託契約に基づく約定報酬の支払を求めたのに対し、Yが、同契約の債務不履行解除、民法651条1項による解除、債務不履行を理由とする報酬支払義務の不存在を主張して争った事案において、Xは本件契約の債務の重要部分を概ね真摯に履行していたからY主張の債務不履行解除は認められず、また、Yは、本件契約がXの不当な説明により締結されたから本件解約禁止特約は公序良俗違反により無効であるとして民法651条1項による解除を主張するものの、本件解約禁止特約が公序良俗に反するとはいえないから同項による解除は同特約に反し無効であるとした上で、Xの債務が十全に履行されていない原因は、専らYが正当理由もないのに履行を受領しない態度をとっていることにあるから、Xの本件契約に基づく報酬請求権は民法536条2項によりなお存在するとして、請求を全部認容した事例
参照条文
民法90条
民法536条2項
民法540条
民法651条1項
民法656条
裁判年月日 平成28年 6月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)19821号
事件名 報酬請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2016WLJPCA06298023
東京都中央区〈以下省略〉
原告 X株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 和田慎一郎
東京都世田谷区〈以下省略〉
被告 株式会社Y
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 小柴一真
主文
1 被告は、原告に対し、453万6000円及び内21万6000円に対する平成26年4月1日から、内21万6000円に対する平成26年5月1日から、内21万6000円に対する平成26年6月1日から、内345万6000円に対する平成27年10月1日から、内43万2000円に対する平成28年2月26日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告に対し、被告の営業のためのアポイントメント取得等を目的とする業務委託契約に基づき、平成26年3月から平成27年11月までの間に発生した1か月21万6000円の約定報酬の合計453万6000円及びこれに対する上記期間の各月末日の支払期限より後の日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
被告は、①上記契約の債務不履行解除、②上記契約の民法651条1項による解除、③債務不履行を理由とする報酬支払義務の不存在を主張して、原告の請求の棄却を求めている。
2 前提事実
(1) 原告は、アニメ等業界に属する企業の営業サポートを主たる業務とする株式会社であり、被告は、3DCGの製作等を主たる業務とする株式会社である。(原告の業務につき弁論の全趣旨、その余は争いなし)
(2) 原告は、原告が保有する顧客リストを用いた商談のためのアポイント取得等に係る役務の提供を内容とする事業(以下、原告の命名に従い「○○」という。)を行っているところ、原告と被告は、平成25年12月16日、契約期間を同年同月18日から1年6か月とし、契約期間中における本件契約の解約はできないこととし(以下、この約定部分を「本件解約禁止特約」という。)、月額報酬の支払期限は前月末日として、○○の料金等プランのうちライトプラン(着手金15万円(消費税別。以下、約定金額の表示はいずれも同様)、月額報酬18万円)に係る契約を締結した(以下、後記の料金プラン等変更の前後を通じて「本件契約」という。)。(争いなし)
(3) 原告と被告は、平成26年1月8日、本件契約の契約期間を1年6か月から2年間へ、料金等プランをライトプランからベーシックプラン(着手金30万円、月額報酬20万円)へそれぞれ変更する旨合意した。(争いなし)
(4) 被告は、原告に対し、本件契約に基づき、以下のとおり金員(いずれも消費税を含む。)を支払った。(争いなし)
ア 平成25年12月18日、ライトプランの着手金及び1か月目の月額報酬の合計額として34万6500円
イ 平成26年1月8日、1か月目の月額報酬に係るライトプランとベーシックプランとの差額として2万1000円
ウ 平成26年2月3日、ライトプランとベーシックプランとの着手金の差額として15万7500円
エ 平成26年2月21日、2か月目の月額報酬として21万円
オ 平成26年2月28日、3か月目の月額報酬として21万円
(5) 被告は、平成26年3月15日、原告に対し、同年同月末日限りで本件契約を解除する旨の意思表示をした。(意思表示の年月日は乙1の1、その余は争いなし)
3 争点及び当事者の主張
(1) 債務不履行解除の可否(争点①)
〔被告の主張〕
ア 原告は、被告に対し、本件契約に基づき、被告の事情にマッチした会社(被告との間で契約が成立する可能性の高い会社)を紹介する債務を負っていた。しかるに、原告は、原告が知っている企業を闇雲に被告に紹介したにすぎず、上記債務を履行しなかった。
イ ベーシックプランにおいては、原告の債務として、① 原告従業員が営業に同行して被告のアピールポイントを適正に説明すること、② 営業資料の作成、③ 営業マニュアルの作成が付加された。しかるに、原告は、上記各債務を履行しなかった。
ウ 原告は、上記ア、イの債務不履行を理由に、平成26年3月末日をもって本件契約を解除した。
〔原告の主張〕
ア 被告が、ゲーム、遊戯機器、アニメーション等でCGの仕事を受注したいとの希望を有していたことから、原告は、被告に対して、かかる業務を発注する可能性のある企業を20社は紹介し、被告は実際に紹介先と面談もした。
イ 原告の従業員であるC(以下「C」という。)は、被告と紹介先との面談に同席した時には、被告の長所(ハリウッドでの仕事の経験もあるCGのクリエーターと提携していることや、CG製作業者には珍しく社内プログラマーもいること)を積極的にアピールし、面談の場を盛り上げるための雑談もした。
ウ 原告は、ベーシックプランの内容として、原告がリストを有する4000社に対し、被告を宣伝する内容の一斉メール配信を実施した。
エ 原告は、平成26年3月頃、被告が面談をした業者に対して、被告に仕事を発注するに至らなかった理由等を聞き取り調査し、それをまとめた書面を被告に交付した。
(2) 民法651条1項による解除の可否(争点②)
〔被告の主張〕
ア 原告は、民法651条1項により、平成26年3月末日をもって本件契約を解除した。
イ 次の事情によれば、被告を2年間も本件契約に拘束すべきではなく、本件解約禁止特約は、公序良俗に反するものであって、無効である。
(ア) 本件契約は、次のとおり、原告の不当な説明により締結された。
a Cは、被告に対し、「年商5億円で行きましょう」、「これまで○○に加入した企業の中で原告に支払った月額報酬が売上げを下回った企業はない」等の必ず成果が上がるかのような説明をした。
b Cは、被告代表者とのLINEのやりとりにおいて、月600万円の売上げや年商1億円につき「行けると思います!」、「目標は高く、月二千万ぐらいで、考えましょう」との応答をし、相当な売上増が確実であることを告げた。
c ○○のパンフレットには、「売上げアップ、1億円~4億円の売上増」との記載がある。○○の料金表の「○○は御社の売上げアップを100%完全に保証するサービスではありません。」との記載は、記載場所、文字の大きさ等から、見落とす可能性が高い。この料金表に署名したのは被告の従業員であるDであり、被告代表者ではない。
d Cは、ライトプランからベーシックプランへの変更の際、変更により「成約率が6割~8割」となる旨述べた。
(イ) 原告には、次のとおり、本件解約禁止特約により守られるべき利益はない。
a 原告が保有する顧客リストは、○○の加入者が入手できる状態に置かれており、それほど重要な情報とは考えられていない。
b 紹介先企業のリストの対価は、○○の着手金に含まれており、○○を途中解約してから紹介先企業に独自に接触しても、正当な対価を支払って得た情報の利用であって、「ただ乗り」ではない。
c ○○が途中解約されても、原告に何らかの損害が発生するわけではない。
〔原告の主張〕
ア 民法651条1項は任意規定であり、本件解約禁止特約により排除されている。
イ 本件解約禁止特約は、公序良俗に反するものではない。
(ア) Cは、必ず成果が上がるといった説明をしていない。
(イ) ○○が売上げの増加を保証するものでないことは料金表に明記されており、被告がこれを確認していないとは考えられない。
(ウ) 原告が○○加入者に提供する情報は、原告の人脈及びネットワークにより収集したものであり、重要な価値がある。
(エ) 2年間の解除禁止は、当事者を不当に拘束するものとはいえない。
(3) 債務不履行により報酬支払義務が不存在となるか(争点③)
〔被告の主張〕
原告は、平成26年4月4日以降、本件契約上の債務を一切履行していないから、被告の報酬支払義務は存在しない。
〔原告の主張〕
ア 原告は、平成26年4月以後も、被告が原告のウェブサイトにおいて営業先の情報を閲覧できるようにしており、被告に対して新規の情報が掲載された旨のメール送信もしているから、本件契約に基づく債務の本旨に従った履行をしている。原告の報酬請求は妨げられない。
イ 原告が、平成26年4月以後、被告と営業先との面談を設定していないのは、被告が本件契約の解約を主張して原告からの営業先の紹介を拒否したためである。民法536条2項により、原告の報酬請求権は失われない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に各掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件契約の締結に至る経緯(甲1、3の1、甲6、乙2、7、証人C、被告代表者本人)
ア 被告代表者は、被告従業員から存在を教えられた原告に興味を抱き、平成25年9月10日、原告主催の業界交流会に参加した。
イ 被告代表者は、平成25年12月10日頃、原告から企業の紹介を受けることを目的として原告に連絡をとり、同月14日には自ら被告の事務所に赴いた上、Cから○○を紹介されて、その説明を受けた。
ウ 被告代表者は、○○に関するCの説明やパンフレット(甲1の料金表が掲載されていたもの。なお、平成26年1月改訂後のパンフレットが乙2として提出されている。)の記載を検討し、売上げアップを100パーセント保証するサービスではないこと、また、本件解約禁止特約が存在することを認識した上、平成25年12月16日、被告従業員に指示して、原告に対し、○○のライトプランへの加入を申し込み、もって本件契約の締結に至った。
なお、被告代表者の上記認識内容は、○○の申込書を兼ねる料金表(甲1)の申込者自書欄の直上に、わずか3行の独立した注意書きとして端的に記載されている事項であるところ、株式会社の経営者である被告代表者においてかかる注意書きを十分に認識することなしに相当額の支出を要する本件契約を締結することを決断したなどとは、容易には認め難いものというほかなく、上記認識の存在を否定するかのような被告代表者の供述が存在することにかかわらず、上記認定は覆らない。
(2) 本件契約の料金等プラン及び存続期間の各変更をめぐる経緯(甲2の1及び2、甲4、6、乙5、7、証人C、被告代表者本人)
ア 被告代表者は、平成26年1月7日、Cから受けた○○の上位プランの説明を踏まえ、本件契約について、料金等プランをベーシックプランにアップグレードすることとし、被告従業員に指示して、原告に対し、その旨の変更を申し入れ、もって本件契約の料金等プランの変更に至った。
イ 被告代表者は、上記アと同時に、被告従業員に指示して、原告に対し、変更後のプランに係る料金の支払に関して、資金繰りが容易ではないとして従前のプランとの差額を月末に支払う方法を提案しつつ、契約期間を2年間とすることを申し入れ、もって本件契約の存続期間の変更に至った。
(3) 原告が提供する役務に関する表示(甲1)
○○の料金表には、各料金プランにおいて原告が提供する役務として、以下の項目が表示されている(用字はいずれも原文のまま)。
ア ライトプラン
営業先紹介、人月交渉代行・紹介アポイント後の電話サポート、4000社メール配信(1回10万円)
イ ベーシックプラン
営業先紹介、人月交渉代行・紹介アポイント後の電話サポート、初回営業同行orアポ獲得のみ、2回目営業同行orアポ獲得のみ、営業資料作成、営業マニュアル作成、4000社メール配信(2ヶ月に1回まで無料)
(4) 原告の債務履行の状況等(甲3の2及び3、甲6、乙5、7、証人C、被告代表者本人)
ア 原告は、本件契約の締結から被告の解除の意思表示までの間の約3か月間に、Cを担当者として、本件契約に基づき、被告に対し、被告の希望する仕事を発注する可能性がある企業を約20社紹介し、それらの企業と被告との面談を設定した。この企業数は、○○のパンフレットの記載において、契約当初の3か月間における紹介企業数として想定されている5ないし10社を上回る。
イ 本件契約の料金等プランがベーシックプランに変更された後においては、Cは、被告の営業を支援する立場で、被告と紹介先企業との面談に同行した。また、Cは、約4000の企業に被告を紹介するメールを送信したり、面談後において紹介先企業に電話をして被告の営業を支援する内容の話をするなどした。
ウ 被告は、原告から紹介された企業のうち3、4社から、報酬にして数万円から30万円程度の仕事を実際に受注した。ほかに、受注間近まで交渉が進展した案件もあった。
エ 被告が解除の意思表示をした後においては、企業からの発注案件が掲載された原告運営のウェブサイトへの被告によるログインが従前どおり可能であるほかは、原告による被告への企業紹介等は行われていない。
(5) 原告の債務履行に対する被告側の評価
ア 被告が平成26年1月7日に原告に送信したメールには、それまでのCの尽力の大きさに被告が大いに感謝している旨の記載がある。(甲4)
イ 被告が平成26年2月19日に原告に送信したメールには、Cに相談に乗ってもらったことが有意義であったことのほか、原告が提供する役務に対する肯定的評価を示す記載(「正直、今の時点でも、X社様のサービスに関して、素晴らしいものだと思っております」というもの)がある。(甲3の3)
ウ 被告が解除の意思表示をした後である平成26年4月4日に被告が原告に送信したメールには、原告の懈怠を問題視するものではない旨の記載(「Y社側は、X社側は弊社に対して仕事が怠惰だったとは思っていない」というもの)がある。(甲5)
エ 被告代表者は、その本人尋問において、被告が問題視するのは原告の仕事ぶりではなくその成果である旨の供述(「正直言うと、Cさんが怠慢だったとは僕は思ってないです。ただ成果が出なかったので問題だと言ってるんです。」、「無駄な努力だったかもしれないですけど、それなりに頑張ってくれたかなというのは思ってたので。」というもの)をした。(被告代表者本人調書30、34丁)
2 争点①(債務不履行解除の可否)について
前記前提事実及び上記認定事実に基づき検討するに、本件契約は、原告が被告の営業を支援する内容の準委任契約であるところ、原告は、その債務の重要な部分を概ね真摯に履行していたものと評価することができる。
これに反する被告の主張は、被告の主観的な期待を基準とする不満であるか、履行の契機として被告自身の要請ないし協力を要する事柄の未実施を指摘するものにすぎず、上記評価を覆すに足りない。
したがって、本件契約に基づく債務を履行した旨の原告主張はこれを肯認することができ、被告の債務不履行解除は、催告に関する主張立証の欠缺を問題とするまでもなく、認めることができない。
3 争点②(民法651条1項による解除の可否)について
被告は、本件契約が原告の不当な説明により締結されたこと、原告には守られるべき利益はないことを根拠として、本件解約禁止特約は公序良俗に反し無効である旨主張する。
しかるに、被告が主張する原告の説明の不当性とは、専ら本件契約における目標ないし見込まれる成果が過大であった旨をいうものと解されるところ、かかる原告の説明のあり方が本件解約禁止特約につき公序良俗違反との法的評価を導く根拠となる理由は、直ちには見いだし難い。してみると、原告の説明の不当性に関する被告主張は、その真偽を検討するまでもなく、失当といわざるを得ない。
また、前記前提事実及び上記認定事実に顕れた○○のビジネスモデルに照らして、本件解約禁止特約により守られるべき原告の利益がないとまでは直ちには断じることができない。
他方で、本件解約禁止特約により生じ得る不利益の内容ないし程度は、本件契約の締結及びその存続期間の伸長を申し入れた営利企業である被告において想定済みであるか容易に想定することができたものと認めるのが相当である。
さらに、被告の申入れによる伸長後の契約存続期間である2年間は、本件契約の内容ないし性質に照らして著しく長期間であるとまでは直ちには断じ難い。
以上を総合すれば、本件解約禁止特約が公序良俗に反するとは認められないものというべきであり、被告の民法651条1項による解除は、本件解約禁止特約に反するものとして無効である。
4 争点③(債務不履行により報酬支払義務が不存在となるか)について
被告は、解除の意思表示後である平成26年4月4日以後における原告の債務不履行を理由に、被告の報酬支払義務は存在しない旨主張する。
しかるところ、前記前提事実及び上記認定事実に表れた本件の事実経過に照らせば、解除の意思表示後において原告の債務が十全に履行されていないことの原因は、専ら、被告が、正当な理由がないにもかかわらず(解除が無効であることは、争点①、争点②に対する判断として説示したとおりである。)、原告による債務の履行を受領しない態度をとっていることにあるものと解するのが相当である。
そうすると、原告の被告に対する本件契約に基づく報酬請求権は、民法536条2項本文の趣旨に従い、なおも存在するものと認められ、これに反する被告の主張は採用することができない。
5 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤隆幸)
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