「営業支援」に関する裁判例(149)平成16年10月22日 大阪地裁 平14(ワ)11956号 賃金請求事件 〔かんでんエンジニアリング事件〕
「営業支援」に関する裁判例(149)平成16年10月22日 大阪地裁 平14(ワ)11956号 賃金請求事件 〔かんでんエンジニアリング事件〕
裁判年月日 平成16年10月22日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決
事件番号 平14(ワ)11956号
事件名 賃金請求事件 〔かんでんエンジニアリング事件〕
裁判結果 一部認容、一部棄却 文献番号 2004WLJPCA10226003
要旨
◆一 時間外労働は従業員の申告によるとの方法を用いつつ、上限時間の目標を組合との間で設定して申告を抑制し、かつ所定労働時間内に終えることができないような業務を与えていたという事実関係からすれば、所定の手続をとっていなかったことをもって、時間外労働時間ではなかったとすべきではなく、会社は従業員に対し、作業日報作成のために書かれたダイアリーの内容から算出される時間外労働時間に基づく割増賃金と、実際に支払ったそれとの差額及び付加金を支払う義務があるとされた事例。
二 右算定に際し、直行直帰及び出張中の移動時間は労働時間とすることはできないとした事例。〔*〕
出典
労経速 1896号3頁(56巻10号)
評釈
鈴木銀治郎・労経速 1896号2頁
裁判年月日 平成16年10月22日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決
事件番号 平14(ワ)11956号
事件名 賃金請求事件 〔かんでんエンジニアリング事件〕
裁判結果 一部認容、一部棄却 文献番号 2004WLJPCA10226003
原告 X
同訴訟代理人弁護士 岩城穣
同 佐藤真奈美
被告 株式会社かんでんエンジニアリング(旧商号株式会社関西テック)
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 木村一成
主文
一 被告は、原告に対し、別表(略)「認定未払時間外手当一覧表」の各月(ただし平成一四年五月分を除く)の「差額」欄記載の金額並びにこれに対する同表の「遅延損害金起算日」欄記載の日から平成一四年五月三一日まで年六パーセントの割合による金員及び同年六月一日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。
二 被告は、原告に対し、四万七七七五円及びこれに対する平成一四年六月二六日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。
三 被告は、原告に対し、二七三万七一一七円及びこれに対する本判決確定の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
六 この判決は第一項及び第二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
1 被告は、原告に対し、別表1(略)「未払時間外手当一覧表」記載の各月(ただし平成一四年五月分を除く)の「差額」欄記載の金額並びにこれに対する同「遅延損害金起算日」欄記載の日から平成一四年五月三一日まで年六パーセントの割合による金員及び同年六月一日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、一二万〇二七九円及びこれに対する平成一四年六月二六日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告は、原告に対し、三〇一万一五九四円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、被告(以下「被告会社」という)の従業員であった原告が、被告会社に対し、雇用契約に基づく時間外手当、代休手当、振替休日手当及び深夜勤務手当(以下これらの手当を「時間外手当等」という)並びにこれらに対する退職日までの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金及び退職日の翌日以降の賃金の支払いの確保等に関する法律による年一四・六パーセントの割合による遅延損害金並びに労働基準法の規定による付加金及びこれに対する判決確定の日の翌日以降の民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 被告会社は、電気工事や電気通信工事を目的とする株式会社である。
イ 原告は、平成八年四月一日に被告会社に入社し、平成九年四月一日以降、被告会社大阪北支店電気工事課(以下「電気工事課」という)に勤務していたが、平成一四年五月三一日に被告会社を退職した。
(2) 被告会社における所定労働時間
ア 被告会社における所定労働時間は以下のとおりである。
(ア) 平成一二年一〇月一日以降平成一四年三月三一日まで
午前八時三〇分から午後五時三〇分まで。ただし、午後〇時から午後一時までは休憩時間。
(イ) 平成一四年四月一日以降
午前八時五〇分から午後五時三〇分まで。ただし、電気工事課においては、午前八時三〇分から午後五時一〇分まで。休憩時間は、午後〇時から午後一時まで。
イ 被告会社の所定休日は以下のとおりである。
(ア) 土曜日、日曜日
(イ) 国民の休日(国民の祝日に関する法律に定める日)
(ウ) 前記(イ)の休日が日曜日に当たるときはその翌日
(エ) 一二月二九日から同月三一日まで並びに一月二日及び同月三日
(オ) 五月一日
(カ) 五月四日
(キ) その他、被告会社の責に帰すべき事由による臨時休業
(3) 被告会社における時間外手当等
ア 振替休日手当 日額一六〇〇円
イ 代休手当
(ア) 時間外勤務ないし日曜日及び年末年始(一二月二九日から一月三日まで)以外の休日に勤務し、代休が与えられた場合の時間当たり単価
(時間外手当算定基礎賃金合計額÷月所定労働時間)×〇・二五
(イ) 日曜日、年末年始に勤務し、代休が与えられた場合の時間当たり単価
(時間外手当算定基礎賃金合計額÷月所定労働時間)×〇・三五
ウ 時間外手当
(ア) 時間外勤務ないし日曜日及び年末年始(一二月二九日から一月三日まで)以外の休日に勤務した場合の時間当たり単価
(時間外手当算定基礎賃金合計額÷月所定労働時間)×一・二五
(イ) 日曜日、年末年始に勤務した場合の時間当たり単価
(時間外手当算定基礎賃金合計額÷月所定労働時間)×一・三五
エ 深夜勤務手当(午後一〇時から午前五時まで勤務した場合に支給される)
(ア) 所定外深夜勤務手当の時間当たり単価
(時間外手当算定基礎賃金合計額÷月所定労働時間)×〇・三五
(イ) 所定内深夜勤務手当の時間当たり単価
(時間外手当算定基礎賃金合計額÷月所定労働時間)×〇・六〇
オ 年末年始手当(一二月三一日ないし一月一日から同月三日に勤務した場合に支給される)
(ア) 一日に四時間以上勤務した場合 日額二万円
(イ) 一日に四時間未満勤務した場合 日額一万二〇〇〇円
(4) 被告会社の就業規則二〇条一項は、「従業員は所属長から時間外勤務を命ぜられた場合、所定の用紙に必要事項を記入し所属長の認印を受けなければならない」と規定し、同条4項「前項によらない時間外労働に対しては原則として賃金を支払わない」と規定している。前記就業規則二〇条一項の「所定の用紙」は、出勤管理表であるが、原告についての出勤管理表は、原告が作成した「作業予定確認書兼作業日誌」(以下「作業日報」という)をもとに被告会社勤怠担当者が「実績時間帯」「実績時間数」を記入して原告の所属長である被告会社大阪北支店電気工事課長(以下「電気工事課長」という)の認印を受けている。なお、原告は、作業日報に「本日の直営稼働状況」「稼働状況」欄に勤務開始時刻と勤務終了時刻を記載していた。
(5) 被告会社における時間外手当、深夜勤務手当、振替休日手当、代休手当、年末年始手当は、毎月末日締め翌月払であり、これらの手当を含めた賃金の支払日は、毎月二五日(ただし、支払日が休日に当たるときは、その前日)であった。
(6) 被告会社における時間外手当算定基礎賃金は、基本給、特勤手当、特定勤務地手当の合計額とされていた。なお、基本給は、平成一四年三月三一日までは、職能資格給に年齢給を加えたものであったが、同年四月一日以降は、職能資格給に成果給を加えたものとなった。
(7) 原告につき、代休手当、時間外手当ないし深夜勤務手当の計算における時間外手当算定基礎賃金合計額は、別表5(略)「時間外・単価基礎票」の「基本給」欄記載のとおりであり、月所定労働時間については同表の「月所定労働時間」のとおりであった。
(8) 被告は、原告に対し、時間外手当等として、別表4(略)「支払済み時間外手当一覧表」記載の額を支払った。
2 争点
(1) 原告が、別表2―1(略)「実労働時間内訳表」のとおりの時間外労働をしたかどうか
(原告の主張)
原告は、以下のとおり、別表2―1(略)「実労働時間内訳表」のとおりの時間外労働をした。なお、「直行及び移動時間」「直帰及び移動時間」については、遠方への移動の場合は、実労働時間に算入し、近辺の現場への移動時間は算入していない。また、休憩時間ないし仮眠時間については、明らかに休憩をとったと思われる日については休憩時間を差し引き、明らかに休憩をとっていないと思われる日については、記載、算出しなかった。
別表2ないし5(略)の計算により、原告は、別表1(略)の「差額」の記載のとおりの時間外手当、代休手当、振替休日手当及び深夜勤務手当の請求権を有する。なお、各労働日についての具体的主張は、別紙(略)「各労働日における所定時間外の労働についての当事者の主張」の「原告の主張」記載のとおりである。
ア 出勤管理表及び作業日報との食い違いについて
(ア) 電気工事課は、自ら積極的に顧客を獲得し、注文を受けて工事を行う課であるため、不景気になると利益が少なくとも受注することとなり、また、その中で利益を少しでも生み出すために予算管理も厳しくなる傾向があった。そして、それぞれの案件を担当する現場代理人は納期までに膨大かつ煩雑な作業をこなさなければならず、七名の現場代理人は、その全員が極めて多忙な状況にあった。したがって、電気工事課長が現場代理人の選定にあたり、負担についての配慮をするとしても限界があり、また、経験年数が長くなると、担当者がある程度固定化されることとなったため、調整はいっそう困難であった。
(イ) 原告は、被告会社が受注する電気工事等につき、業務指示書により指示を受けていたほか、見積・積算やそのための現場調査や診断等の受注以前の業務については口頭により指示を受けていた。これらの指示は、原告のスケジュールの過密度が考慮されることはなく、また、業務指示を受けた後は、担当者である原告がスケジュール調整を含め業務全てについて責任を持ち、日々の業務指示はなかった。原告は、主要業務であった各種工事については、受注先が指定した締め切りから逆算して業務を行っており、恒常的に過密スケジュールとなっていた。
原告は、指示が出る度にスケジュールを組み直さざるを得なかったため、毎日作業日報を作成、提出し、記載された業務を行うことは不可能となっていた。また、当該工事の予算や時間外労働時間についての「上限」との関係で、実際どおりの労働時間を記載することができず、別途記録しておく必要があったことから、原告は、電気工事課に配属されてから、ダイアリー(書証略)に日々の実労働時間を記入するようになり、これをもとに月末に(ないし月に二回)まとめて作業日報を作成していた。特に、平成一四年以降、原告は、辞めたら、被告会社の労働基準法違反を労働基準監督署へ申告することを真剣に考えていたため、ダイアリーの正確性は増している。原告が時間外勤務を行っていたことは、原告が使用していたパソコンのデータが所定労働時間外に頻繁に更新されていることからも明らかである。
(ウ) 電話連絡や資料の微修正といった細かな作業についてまで手帳等に記録できなかったことから、作業日報には実際に行った業務の全てを記載したわけではなく、したがって、作業日報をもとにして作成された出勤管理表も、原告が行っていた業務のうちのほんの一部しか記載されていなかった。
(エ) 時間外手当の申請にあたっては、各工事の予算枠も密接に関係しており、また、電気工事課では時間外労働時間について年間を通じての「上限」を守ることとなっていたため、毎月の時間外手当の額が異なっているのは当然である。
(オ) 作業日報の就業時間が訂正されることはあったが、それは、予算等の関係から、原告が時間外労働の申請をしなかったところ、係長が配慮して書き換えたものである。したがって、原告の自由意思により訂正されたものではない。
(カ) 原告が主張する業務時間より作業日報等に記載された業務時間の方が長い場合があるのは、原告自身が、作業開始時間、終了時間について厳密な定義付けをしていなかったために片づけ時間等労働時間に含まれるべき時間を含めずに記載していることもあったからであることと、被告会社に対する時間外労働の申請にあたっては、代休が四時間単位で取得できることとの関係から、なるべく四時間単位でつけるよう指示を受けていたため、実際より多く時間外労働を申告することもあったからである。
(キ) 平成一二年一二月の作業日報においては、「明日の作業予定」欄に実労働時間が記載されていることが多い。作業日報は、月末にまとめて作成しており、実労働に基づいて記載されているが、これは、恒常的に時間外労働を行っているのに被告会社がそれらを全く考慮せず、さらに過大な業務を与えてくるのに業を煮やし、実際はこれほど遅くまで仕事をしているとアピールしたものである。結局何ら改善策はとられなかったのであるが、このような事情からしても作業日報の記載の労働時間が実労働時間とかけ離れたものであることは明らかである。
イ 仮眠時間について
徹夜の場合には、仮眠はとらず、食事をする時間も惜しんでパン等を食べながら業務を続けることもあった。翌日に現場作業がある場合でも、原告は、現場での肉体労働があったわけではなく、無理をすればこなせないわけではなかった。
仮に一定の仮眠時間をとっていたとしても、そもそも徹夜勤務は、課せられた業務を締め切りまでにこなすために必要不可欠なものであったのであるから、労働から離れることを保証されていない場合にあたり、被告会社の指揮命令下に置かれていたというべきである。
ウ 出張や現場への移動時間の労働時間性について
遠方への移動時間は、現場での業務を遂行するのに必要な時間であり、事業所へ出勤するのに通常要する時間(二〇分から三〇分)に比べて相当長時間である場合には当然労働時間に含めるべきである。
エ 休憩時間について
お茶を飲む等、短時間作業を休む時間があったとしても、それは労働者が権利として労働から離れることを保証されている時間であったとはいえない。そもそも正確な休憩時間が不明であるのは、労働時間の管理を適切に行っていない被告会社の責任であるから、正確な休憩時間が不明であることをもって労働時間の立証がないというべきではない。
オ 年次有給休暇取得日の労働について
原告が年次有給休暇取得日に出勤したのは、恒常的に、作業日報や出勤管理表に記載された労働時間でこなすことができないほどの労働を指示されていたためであるから、いったん年次有給休暇を取り消して改めて年次有給休暇を取得することはできず、実際していなかった。したがって、年次有給休暇を取得した日における労働は、被告会社の黙示の指揮命令下にしたもので、当然、労働基準法上の労働時間に当たる。
本件では改めて年次有給休暇を取得することはできなかったのであるから、本来であれば休日として休むことが許される日に労働を強いられていることとなり、当然時間外手当を請求することができる。
なお、本来改めて取得できるはずの年次有給休暇を取得していない以上、賃金の二重取りとはならないし、所定労働時間を超える労働時間については時間外手当の、深夜労働については深夜勤務手当の対象となると考えるべきである。
カ 代休取得日・振替休日における労働について
原告が代休取得日・振替休日に出勤したのは、恒常的に、作業日報や出勤管理表に記載された労働時間でこなすことができないほどの労働を指示されていたためであるから、いったん代休取得日・振替休日を取り消して改めて代休取得日・振替休日を取得することはできず、実際していなかった。したがって、代休取得日・振替休日を取得した日における労働は、被告会社の黙示の指揮命令下にしたもので、当然、労働基準法上の労働時間に当たる。そして、所定労働時間を超える労働時間については時間外手当の、深夜労働については深夜勤務手当の対象となると考えるべきである。
キ 始業時間前の出勤について
原告が、出勤時間より早く出勤していたのは、得意先での工事立ち会いや打ち合わせを行うためであり、業務を行っていたのであるから、被告会社の黙示の指揮命令下によるものとして、労働基準法上の労働時間にあたる。なお、原告は、勤務先から電車で二駅、徒歩数分の場所に居住していたのであるから、通勤の都合などにより早く出社することはなかった。
ク 原告の上司らは、自らも時間外労働をし、原告が遅くまで残って仕事をしている姿を日常的に把握的できる環境にあり、特に月末月初の検収処理がある日は、承認の関係上ほぼ間違いなく午後九時ころまで勤務せざるを得なかったことは周知の事実であり、原告を含む電気工事課の担当者らが遅くまで業務を行っていたことを、上司らが知らなかったとは考えられない。
特に、平成一二年一〇月五日、同月六日等の現場業務と社内業務が併記されている日は、通常は現場で夕方まで作業に立ち会い、帰社後に社内業務を行っているのであるから、時間外労働があったことは推測可能であり、上司が全く関知していなかったとは考えられない。
ケ 現場への移動に使用する社用車は、タコグラフによって運行状況が管理されている。したがって、社用車を使用した日については、帰社時間がいつだったのか把握することは容易であったはずである。
コ 休日でも緊急連絡等の対応要員として管理者、事務職ないし営業職のいずれかが連絡当番として出勤していたのであるから、原告の休日出勤状況を把握することは容易であった。
(被告会社の主張)
作業日報及び出勤管理表に記載された労働時間を超える労働時間は、以下のとおり、労働基準法上の労働時間と解することはできない。なお、各労働日についての具体的主張は、別紙「各労働日における所定時間外の労働についての当事者の主張」の「被告会社の主張」記載のとおりである。
ア 出勤管理表及び作業日報との食い違いについて
(ア) 被告会社においては、従業員は、所属長から時間外勤務を命ぜられた場合、出勤管理表に必要事項を記入し所属長の認印を受けなければならないこととなっており、この手続がない時間外労働に対しては原則として賃金を支払わないこととされている。そして、出勤管理表は、原告自身がその「指示内容」欄を記入し、原告が作成した作業日報をもとに被告会社勤怠担当者が「実績時間帯」「実績時間数」を記入して電気工事課長の認印を受けている。また、原告は、日々の業務の都度、作業日報を作成して被告会社宛提出しており、この作業日報には「本日の直営稼働状況」「稼働状況」欄に勤務開始時刻と勤務終了時刻を記入することとなっており、原告が提出した作業日報にはいずれも勤務開始時刻と勤務終了時刻が記入されている。
したがって、原告が主張する時間外労働のうち、作業日報及び出勤管理表に記載された労働時間を超える労働時間は、所定の様式に従った届出がないものであり、被告会社にとって全く関知しないままに労働者が勝手に業務に従事した時間というべきであるから、労働基準法上の労働時間と解することはできない。
(イ) 原告が従事していた現場代理人の業務は、その選任につき電気工事課長により特定の工事担当者に繁忙期が重ならないように配慮されており、特定の繁忙期を除くと、所定の労働時間内には終了しないような作業ではなかった。なお、電気工事課長は、現場代理人を選任する際、工事工程表だけでなく、自らの経験や工事副長からの情報等から営業支援等の工事工程表に現れない業務も考慮した上で、特定の工事担当者に負担がかかりすぎないように業務を割り振っていた。また、選定された現場代理人が多忙なときは、副現場代理人を選任して現場代理人業務のサポートに当たらせていた。
(ウ) 原告が主張するように、被告会社において労働時間の「調整」が行われているのであれば、原告に支払われてきた時間外手当は、「調整」された上限枠ぎりぎりの数字となり毎月同額となるはずであるが、原告に支払われてきた時間外手当の金額は毎月異なっており、このような「調整」がなかったことを示している。
なお、原告が主張する「上限枠」は、年間を通じて決定されるものの、月ごとに異なった数字であるのか、一定の数字であったのかについてはその主張ないし供述は変遷している。そして、前者であれば、その時々の予算額により月ごとの「上限枠」の数値が変化するというのならともかく、予算額とは別に年間を通じて定められる「上限枠」なるものまで、月ごとに違った数値を設定することは不自然である。年度初めの、月ごとの予算も不確定な状況で、被告会社がわざわざ、一年を通じて、各月の「上限枠」を設定する合理的な理由も必要性もない。また、後者であれば、それは単にいわゆる三六協定において延長限度時間を定めたものにすぎず、これによって従業員の労働時間の申告を阻害しようとするものでないことは当然であり、現にそのような扱いは全くしていない。実際、電気工事課でも、業務の必要に応じて、延長限度時間の延長を協定化して労働基準監督署に提出している。原告は、工事ごとの予算や三六協定の延長限度時間を勝手に超えてはならない上限と判断して自らの判断で「調整」したにすぎない。
(エ) 原告の業務の実態から、その日毎に作業日報を作成することができないほど常時多忙であったとはいえないし、ダイアリーに記載された内容は作業日報に記載すべき内容そのものであるから、ダイアリーに記載する時間があって作業日報に記載する時間がないことはあり得ない。
また、被告会社は、工事予算の問題と実際にかかった時間外労働の問題を全く別個に考えており、原告に対しても、「たとえ予算オーバーという結果になったとしても、実際にかかった原価はきちんと投入するように」「そうしないと、今後、契約に際しての予算見積が適切になされなくなるから、担当者レベルで勝手な判断はしないように」等の指導が行われていた。
イ 仮眠時間について
原告が主張する「徹夜」労働の中には、連続して「徹夜」勤務に及ぶものや、翌日に現場作業を控えながら「徹夜」労働に及ぶものがあるが、このようなかたちでの「徹夜」労働において、一定時間の仮眠時間は不可欠であり、相応の仮眠時間が存在するはずである。本件においては、そもそも「徹夜」勤務を明示にも黙示にも指示されたわけではなく、仮眠時間中に従事すべき労働は一切なかったのであるから、少なくとも仮眠時間は労働時間とはならない。
ウ 出張や現場への移動時間の労働時間性について
出張や現場への移動時間については、労働時間とはいえない。
エ 休憩時間について
同じように長時間勤務や「徹夜」勤務をしながら休憩を取得している場合と取得していない場合があったり、昼の一時間だけ休憩を取得して後は仮眠時間すら取得していない場合があったりして不自然であるほか、原告がその主張の根拠とするダイアリー(書証略)に記載がないものもある。ダイアリー(書証略)に休憩時間等の記載がないものについては、休憩時間の特定ができておらず、ひるがえって労働時間の特定ができていないというべきであるから、そのような時間は、従業員が自由に休憩を取得しつつ勝手に作業に従事した時間であって、労働時間性を否定すべきである。
なお、原告は、終業時刻を過ぎて被告会社に居残っていることはままあったが、熱心に仕事に取り組んでいるというよりは同僚とおしゃべりをしていたりすることが多く、上司から「何をしているのか」と尋ねられることもあったというものであり、休憩を取る暇もなく働き続けていたわけではない。
オ 年次有給休暇取得日の労働について
年次有給休暇取得日の労働については、いったん年次有給休暇を取り消して改めて年次有給休暇を取得すべきところ、従業員が勝手に自己の判断で出勤したものにすぎないからそもそも労働基準法上の労働とはいえないというべきである。仮に労働時間性が肯定されるとしても、年次有給休暇は通常の労働日に対して与えられるものであって、年休権の法的効果は年休日についての就労義務の消滅と法所定の賃金請求権の取得につきるのであるから、たとえ業務命令によっていったん消滅した就労義務が復活したとしてもこれに対応する賃金請求権は通常の労働日の賃金にとどまる。実際問題としても、年次有給休暇を取得した日には、通常の労働日の賃金は支給されているのであるから、たとえこの日に労働者が自主的に出勤したからといって改めて当該日の賃金を請求できるとすることは、賃金の二重取りというべき結果となって妥当でない。原告の主張どおりの賃金請求を認めることは、本来権利として認められていないはずの年次有給休暇の買上げを権利として認めることとなり不当である。
なお、年次有給休暇取得日における原告の勤務ぶりは、出勤時刻が定時より遅かったり、定時より早く退社してプライベートの予定を入れたりすることがたびたびあり、およそ被告会社の指揮命令下にあったとは言い得ない。原告のような自由出勤、自由退社を労働者の労務提供として受領しなければならないとすれば、およそ企業秩序を維持することは不可能となる。
カ 代休取得日・振替休日における労働について
被告会社において、代休は、休日勤務又は時間外勤務をした場合に、その二か月以内の特定の日に認められるものであり、振替休日は、日曜日を除く休日の労働について、事前に前後四週間以内に休日を振り替えるものであるが、いずれも当該従業員の都合により休日を指定できることとなっている。
原告は、業務命令により代休取得日ないし振替休日に出勤せざるを得ない場合にはいったん代休ないし振替休日を取り消した上で、改めて代休ないし振り替え休日を指定する手続をとるべきところ、これをせず勝手に出勤したのであるから、このようなかたちでした労働は「使用者が知らないままに労働者が勝手に業務に従事した時間」であって、労働時間性は否定されるべきである。
なお、代休取得日・振替休日における原告の勤務ぶりは、出勤時刻が定時より遅かったり、定時より早く退社してプライベートの予定を入れたりすることがたびたびあり、およそ被告会社の指揮命令下にあったとは言い得ない。
キ 始業時間前の出勤について
労働者が自己の出勤の都合などにより出勤時間より早く出勤したからといって、出勤時間前の時間が、「労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」ないし「使用者の作業上の指揮監督下にある時間又は使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事する時間」であるとはいえないのであるから、原告が主張する短時間の早出出勤について、労働時間性はない。
業務上の必要性があるのであれば、きちんと申告されてしかるべきであり、被告会社は、原告から申告のあった早出残業についてはきちんと時間外手当を支払っていることからすると、申告がなかった早出残業については、早出自体がなかったか、業務上の必要性のない早出であったかのいずれかであると見るべきである。
ク 原告が主張の根拠としているダイアリー(書証略)は、その記載そのものが不完全であったり、作業日報等の資料との間に数多くの矛盾やそこがみられるほか、社内行事への出席も労働時間としていたり、作業日報を記入するためという原告が主張する目的とは関係がないプライベートの予定が記入されていたり、本来の目的に必要なはずの社内行事についてほとんど記載されておらず、多忙であるということであれば、当然スケジュール帳が必要であるはずなのになかったということであり、まったく合理性を欠く。また、平成一三年にした退職についての面談について一切記載せず、平成一四年にした退職についての面談は記載されていることや本件において退職後に入手した社内資料を証拠として提出していることなどからすると、ダイアリーは、原告が平成一四年五月に退職してから、資料をかき集め、記憶を遡って事後的に作成されたというほかはない。
(2) 付加金について
(原告の主張)
使用者が始業時刻ないし始業時刻を確認し、記録する方法としては、通達によれば、原則として〈1〉使用者が自ら現認することにより確認し、記録すること、〈2〉タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録することとし、自己申告によらざるを得ない場合にも事前に十分に説明をし実態調査を実施し適正な申告を阻害しないこととされていないにもかかわらず、被告会社は、従業員の労働時間管理につき、タイムカードを使用せず、労働時間について上限枠を設け、月末に従業員が申告する労働時間を「調整」した上で、労働時間を決定するという不適正な扱いを続けており、きわめて悪質である。
原告に対し、過労死の認定基準を超えるほどの長時間労働を余儀なくさせておきながら、何らの反省も見られないばかりか、当然の請求を行った原告に対し、「勝手に働いた」「証拠がない」と開き直り、「雑談や遅刻ばかりしていた」などと中傷するなど卑劣であり、当然に未払の時間外手当等と同額の付加金の支払いが命じられるべきである。
(被告会社の主張)
法律上、使用者に求められるのは労働時間の適正な把握であって、その方法については定めはなく、たとえ自己申告制であっでも、労働者による適正な申告を阻害するものでなく、適正な運用がされていれば結果として使用者による労働時間の適正な把握は可能である。
本件においても、原告が予算との関係で時間外労働を過少申告した際に、電気工事課長が「そういうことはするな」と指導したこともあり、適正な運用を旨としていた。原告は、工事ごとの予算や三六協定の延長限度時間を勝手に超えてはならない上限と判断して自らの判断で「調整」したにすぎない。
したがって、被告会社には労働基準法に違反した事実も違反しようとした意図も全くなく、仮に未払賃金があったとしてもそれは被告会社にとっていわば不可抗力といえ、少なくとも違法性阻却事由なり責任阻却事由があると評価すべき事案であるから、付加金請求は棄却されるべきである。
第三 当裁判所の判断
1 認定事実
前記争いのない事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる的確な証拠はない。
(1) 電気工事課の構成等
ア 電気工事課は、原告在職当時、営業担当者と工事担当者の二つのグループに分かれており、それぞれの長である副長を含め、八名の人員で構成されていた。
イ 電気工事課に所属する電気工事課長を含めた従業員の机は、まとめて配置されており、それぞれの机の間にパーティションはなかった。
ウ 被告会社大阪北支店においては、電気工事課に所属する従業員が最も遅くまで残って業務を行っていることが多かった。
(2) 原告の業務内容
ア 原告は、工事担当者のグループに属し、現場代理人業務に従事していたほか、上司から指示される業務を行っていた。
イ 工事一件あたりの工事担当者基本的な業務の流れは、以下のとおりであった。
(ア) 受注前
〈1〉 営業担当者の営業活動により受注する見込みとなった案件につき、仕様書や仕様図面を作成した上で現場説明会に立ち会う。
〈2〉 現場説明会で確認した現場状況を元に、設計図面等を作成し、これを得意先に提出して承認を得る。
〈3〉 得意先の承認が得られたら、工事に必要となる機材を拾い出して、材料費の積算を行い、業者見積を参考に工費の積算、現場諸経費の積算を行う。
(イ) 受注後
〈4〉 工事届けの作成及び提出
〈5〉 現場調査及び打ち合わせ
〈6〉 打ち合わせの議事録の作成
〈7〉 工事外注会社への見積依頼
〈8〉 材料拾い出し及び資材調達会社への見積依頼
〈9〉 実行予算・執行予算の作成
〈10〉 工程表の作成及び提出
〈11〉 施工図作成及び提出
〈12〉 施工図以外の工事書類の作成
〈13〉 現場施行の立ち会い
〈14〉 現地検査、試験の実施又は立ち会い
〈15〉 完成図用の現場図面、工事書類の作成
〈16〉 工事完成図の作成及び提出
(ウ) 官公庁等の発注の場合には、安全書類、工事仕様書、工事計画書、特殊構造物や特殊機器、大型機器が含まれる工事では強度検討書や技術計算書等の作成をすることが必要であった。
ウ 電気工事課においては、各工事について、電気工事課長が、受注前の現場説明会に同行させる時点で工事担当者を選定していた。電気工事課長は、工事担当者選定の際、各工事担当者が担当する工事や工期が記載された工事工程表を確認した上で、特定の担当者に仕事が偏らないように配慮していた。副現場代理人を選任して、現場代理人業務をサポートさせることもあった。もっとも、工事工程表に記載された工事は受注後のものだけであった。
(3) 被告会社大阪北支店における時間外労働の申告方法
ア 従業員は、作業の前日に、作業日報に作業予定を記入し、当日に作業実績、作業時間を記入することとなっていた。
イ 従業員は、時間外労働をする場合、事前に出勤管理表の「時間外勤務命令書(承認伺書)」欄に想定される時間外労働の時間帯と作業内容を記入し、所属長の承認印をもらうこととなっていた。時間外労働をした後は、被告会社勤怠担当者が、従業員がした作業日報の記載をもとに出勤管理表に時間外労働の時間を記入し、所属長の承認印を受けることとなっていた。
もっとも、電気工事課においては、平成一〇年ころから、従業員が事前に出勤管理表に予定される時間外労働の時間帯と作業内容を記入することはほとんどなく、事後に報告をし、電気工事課長の承認をもらうことが多かった。
(4) 被告会社と労働組合との時間外労働ないし休日労働に関する協定
ア 被告会社は、原告が在職していた当時、関西テック労働組合との間に、時間外労働ないし休日労働に関する協定を締結しており、時間外労働を命じることができる時間として、電気工事課については、平成一〇年三月三一日までは、一か月に八〇時間、年間で八〇〇時間と合意していたが、平成一〇年四月一日以降原告退職時まで、被告大阪北支店においては、一か月に四〇時間、年間で三六〇時間と合意していた。
ただし、電気工事課については、例外が設けられており、電気工事課の工事担当者については、納期が集中し生産が間に合わない場合は一定期間ごとに労働組合と協議の上、平成一一年四月一日から同年三月三一日までは、一か月七〇時間、年間で五七〇時間、平成一三年一月一日から平成一三年三月三一日まで、一か月七〇時間、一年五八〇時間、平成一三年四月一日から平成一四年三月三一日まで、一か月七〇時間、年間六八〇時間とすることができる旨合意していた。
イ 電気工事課においては、平成一二年ころ、各自の時間外労働について、一か月三〇時間、年間で三六〇時間内に抑えるとの目標を掲げていた。
(5) 作業日報等の作成
原告は、平成一〇年ころから、自分で工事の予算を組んだり予算の管理を行うようになったことや、被告会社と関西テック労働組合との間の時間外労働ないし休日労働に関する協定による時間外労働を命じることができる時間が短縮されたことから、工事予算内に費用を抑え、時間外労働の申告を被告会社と関西テック労働組合との合意による時間数内に抑えるため、作業日報を翌月の初めころないし当月の半ばころと翌月の初めころの二回、事後的に作成し、作業日報の作成後、出勤管理表を作成していた。
原告は、作業日報を作成するため、ダイアリーに前日の作業内容と就業時間及び当日の出勤時間を記録するようになった。もっとも、仕事が忙しくなると、数日分まとめて記載することもあった。ダイアリーには、このほか、業務上の予定や私生活上の予定を記載することもあった。
(6) 原告は、平成一三年一〇月一日から退職するまでの間、別表(略)「認定時間外労働時間内訳表」のとおりの時間外労働を行った。
2 判断
(1) 争点(1)について
前記1(5)の認定事実によると、本件において原告が行った時間外労働時間は、別表(略)「認定時間外労働時間内訳表」のとおりである。
よって、原告は、被告に対し、別表(略)「認定未払時間外手当一覧表(詳細)」のとおりの時間外手当等を請求する権利を有する。
なお、別表(略)「認定時間外労働時間内訳表」の認定に関する当事者の主張に対する判断は以下のとおりである。
ア 出勤管理表及び作業日報との食い違いについて
前記第二の1争いのない事実及び前記1の認定事実によると、被告会社においては、時間外労働をする場合には、就業規則により、所定の用紙(原告の場合には出勤管理表)に必要事項を記入し、所属長の認印を受けなければならないこととされているところ、原告につき、出勤管理表に記載された労働時間を超える時間については、このような手続がない。
しかし、証拠(略)によると、別表(略)「認定時間外労働時間内訳表」記載の労働時間については、原告は被告会社から命ぜられた業務を遂行していたと認められるところ、原告は、振替休日、代休日、年次有給休暇取得日、夏期休暇取得日においても出勤して業務を行い、平成一三年の夏期休暇については同年一〇月に一日、その残りは同年一二月に取得していることからも、その所定労働時間内に終えることができないような業務を与えられていたということができる。
そして、被告会社は、時間外労働についてタイムカード等の客観的な資料を用いずに従業員による申告によるとの方法を用い、かつ、電気工事課においては、時間外労働の申告に際し、事前承認を得るべきこととはなっておらず事後に手続を行うことが多かったことに加え、各従業員に対し、労働組合との間で合意した時間外労働・休日労働の上限時間を目標として設定し、事実上、電気工事課の従業員の時間外労働の申告を抑制していたとみるべきことからすると、所定の手続をとっていなかったことをもって、労働時間であることを否定すべきであるとはいえない。
この点、被告会社は、電気工事課においては、業務を付与する際、特定の工事担当者に繁忙期が重ならないようにとの配慮はされていたことは認められるものの、原告のみならず電気工事課の従業員は、被告会社大阪北支店において最も遅くまで時間外労働をしていることが多く、その業務量は多かったといえる(このことは被告会社と関西テック労働組合との間の時間外労働ないし休日労働に関する協定において電気工事課について例外規定が設けられていた事実からも推認できる)から、このような配慮があったことをもって、原告の業務量についての評価が左右されるものではない。
なお、ダイアリーについては、その記載の目的が作業日報に労働時間を記載するためであったこと、必ずしも毎日作成されてはいないものの、少なくとも数日ごとに作成されていること、その労働時間についての記載も、証拠(略)により裏付けられていることから、その記載につき信用性がないとはいえない。
イ 直行直帰、出張先への移動時間について
本件において、原告が自宅から現場に直行ないし直帰した際、ないし出張をした際、被告会社から明示ないし黙示に移動時間中に何らかの業務を行うよう指示があったとの証拠はなく、ほかに移動時間について労働時間であるというべき事実も認められないのであって、労働時間であるということはできない。
ウ 年次有給休暇取得日における労働について
年次有給休暇は、通常の労働日に対して与えられるものであり、年次有給休暇の効果は、特定された年休日についての就労義務の消滅と法所定の賃金請求権の取得であるところ、業務命令により就労義務が復活するとしてもこれに対応する賃金請求権は、休日の賃金となるわけではなく、通常の労働日の賃金にとどまる。
なお、労働者が年次有給休暇取得日に労働をする場合に必ず年次有給休暇を取り消して改めて年次有給休暇を取得する手続を履行しなければならないということはできないのであって、原告が年次有給休暇を取り消さなかったことをもって労働時間であることを否定すべきこととはならない。
エ 代休取得日及び振替休日における労働について
本件においては、前記アのとおり、原告は所定労働時間内に終えることができない業務を与えられ、その業務を遂行するために別表(略)「認定時間外労働時間内訳表」中の代休取得日及び振替休日に出勤したことが認められ、これらの時間については、労働時間であるというべきである。なお、代休取得日及び振替休日について当該労働者の都合により休日を指定できることをもって、代休取得日ないし振替休日に出勤せざるを得ない場合に必ず代休取得日ないし振替休日を取り消した上で、改めて代休ないし振替休日を労働者の側で指定する手続を履行すべきであるということはできないのであって、被告会社の主張は採用できない。
(2) 争点(2)について
本件においては、被告会社は、時間外労働についてタイムカード等の客観的な資料を用いずに従業員による申告によるとの方法を用い、かつ、電気工事課においては、時間外労働の申告に際し、事前承認を得るべきこととはなっておらず事後に手続を行うことが多かったことに加え、各従業員に対し、労働組合との間で合意した時間外労働・休日労働の上限時間を目標として設定し、事実上、電気工事課の従業員の時間外労働の申告を抑制していたとみるべきこと、平成一四年四月以降については被告会社において一日の所定労働時間が七時間四〇分となっており、労働基準法に違反するのは八時間を超える時間外労働のみであることからすると、被告会社に対し、付加金として二七三万七一一七円の支払を命ずることが相当である。
3 結論
以上によると、原告の請求は、別表(略)「認定未払時間外手当一覧表」の各月(ただし平成一四年五月分を除く)の「差額」欄記載の金額並びにこれに対する同表(略)の「遅延損害金起算日」欄記載の日から平成一四年五月三一日まで商事法定利率である年六パーセントの割合による金員及び同年六月一日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律による年一四・六パーセントの割合による金員、別表(略)「認定未払時間外手当一覧表」の平成一四年五月分の「差額」欄記載の金額及びこれに対する同年六月二六日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律による年一四・六パーセントの割合による金員、並びに付加金として二七三万七一一七円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 朝倉亮子)
〈別紙略〉
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