「営業支援」に関する裁判例(131)平成19年 2月20日 東京地裁 平16(ワ)16384号 損害賠償請求事件
「営業支援」に関する裁判例(131)平成19年 2月20日 東京地裁 平16(ワ)16384号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年 2月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平16(ワ)16384号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA02208002
要旨
◆ゴルフ場精算機の販売業者(売主)である原告が、その買主である被告らに対し、被告の一人が代表取締役を務める企業の資金繰りを図るために原告を欺罔して本件売買契約を締結させたうえで売買代金を支払わなかったとして不法行為に基づく損害賠償を請求した事案において、売買代金の支払がなされていないことに争いはないものの、被告らが原告に損害を与えることを共謀したとまでは推認することができないとして、訴えが棄却された事例
参照条文
民法709条
会社法429条
裁判年月日 平成19年 2月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平16(ワ)16384号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2007WLJPCA02208002
川崎市〈以下省略〉
原告 X株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 西川紀男
同 佐々木清得
東京都品川区〈以下省略〉
被告 Y1
東京都府中市〈以下省略〉
同 Y2
東京都小平市〈以下省略〉
同 Y3
上記3名訴訟代理人弁護士 平出一栄
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告らは,原告に対し,連帯して5431万6500円及びこれに対する平成15年10月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 訴訟物など
原告は,訴外株式会社a(以下「a社」という。)の代表取締役及び取締役である被告らにつき,
(1) 被告らは,代金の支払が困難であったにもかかわらず,共謀して原告から物品を購入し,原告に損害を与えた旨,
(2) 代表取締役である被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,a社の金を個人的に流用貸付を行い,a社に損害を与え,よって,原告に対する売買代金債務の履行を不能にした旨,
(3) 取締役である被告Y2(以下「被告Y2」という。)及び同Y3(以下「被告Y3」という。)は,被告Y1が上記行為を行うにつき監視を怠った旨
主張し,会社法(平成17年法律第86号)429条による損害賠償請求権に基づき。被告らに対し,連帯して5431万6500円及びこれに対する平成15年10月1日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
2 争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認めることのできる事実を含み,証拠により認定した場合には,かっこ内に証拠を示す。)
(1) 原告は,通信機等の製造・販売を主たる目的とする株式会社である。
(2) 被告Y1は,a社の代表取締役,被告Y2及び同Y3は取締役である。
(3) a社は,コンピューターソフトウェアの開発,製造,販売及びメンテナンスを業務とする会社である。
(4) a社は,平成15年4月1日,原告から,ゴルフ場精算機(6コース分)KT-200等を代金5011万6500円で買った。
(5) 原告は,上記(4)の売買契約に基づき,平成15年5月から同年6月にかけて順次納品した。
(6) a社は,平成15年7月25日,原告から,上記ゴルフ場精算機に関連するソフト,ICカードホルダー,音声ガイダンス費用,非接触ICカード回収ボックス等(以下,上記ゴルフ場精算機と併せて「本件物件」という。)を代金420万円で買った。
(7) 原告は,上記(6)の売買契約に基づき,納品した。
(8) 被告Y1は,破産申立てをしたが,破産廃止となり,免責許可決定を受け,同決定は確定した(乙第15,証人Y1)。
2 争点
(1) 争点1(被告らの共謀又は重過失による不法行為の成否)
(原告の主張)
ア 被告Y1,被告Y2及び同Y3は,原告を利用して,ほぼ倒産の状態にあったa社の資金繰りを図るため,共謀して,原告に対し売買代金を支払うことができるはずがなかったにもかかわらず,b株式会社から支払われるリース代金の時期,金額及び入金の事実につき,原告に虚偽の事実を申し向けて欺罔して本件売買契約を締結させ,原告に代金相当額5431万6500円の損害を与えた。
イ 被告らに原告に対する不法行為につき共謀がなかったとしても,
(ア) 被告Y1は,a社の取締役として,a社に対し善管注意義務ないし忠実義務を負っているにもかかわらず,a社の金を,個人として,株式会社c(以下「c社」という。)のB社長に1000万円,同社営業部長にも高額の金員を貸し渡すべく流用し,a社に数千万円の損害を被らせ,よって,同社の原告に対する債務の弁済を不能にした。
(イ) 被告Y2は,a社に対し忠実義務を負担しているところ,被告Y1の上記(ア)の行為の監視を怠ったことが明らかであるから重大な過失がある。
(ウ) 被告Y3は,非常勤の取締役であるが,a社に対し忠実義務を負担しているのであり,被告Y1の上記(ア)の行為の監視を怠ったことが明らかであるから重大な過失がある。
(エ) 被告らの上記重大な過失によって原告は,本件売買契約の代金相当額5431万6500円の損害を被った。
(被告らの反論)
ア 否認する。
被告らが共謀した事実はない。
本件売買契約当時,a社は支払不能の状態ではなかった。
a社とb株式会社との間には,原告が主張するリース契約など締結されていない。a社は,b株式会社と株式会社d(以下「d社」という。)とのリース契約に関し,サプライヤーの立場に立つのである。
イ 否認する。
(ア) 被告Y1は,a社の資金繰りのための選択肢の1つであったc社に対する売掛,貸金の回収を現に行っていた。
(イ) 被告Y1に任務懈怠も不法行為も成立しない以上,被告Y2及び同Y3にY1の行為の監視を怠ったという重過失による不法行為も成立しない。
(2) 争点2(被告Y1は,本件損害賠償債務を免責されたのか)
(被告Y1の主張)
被告Y1は破産申立後,免責許可決定を受けた。
本件の原告の債権についても免責された。
(原告の反論)
被告Y1の行為は誠に悪質であり,債務の支払を免れようとして破産手続,免責手続を利用したものであって,免責の主張は権利の濫用である。
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 上記第2の2の争いのない事実等及び証拠(甲第4,第7から第9,第11から第13,乙第3から第5,第7,第9から第12,証人C,同D,同Y1,被告Y2)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 原告は,通信機等の製造・販売を主たる目的とする株式会社である。
イ 被告Y1は,a社の代表取締役,被告Y2及び同Y3は取締役である。
被告Y2は,平成14年5月にa社に入社し,平成15年1月に取締役に就任した。
ウ a社は,平成11年7月に設立された,コンピューターソフトウェアの開発,製造,販売及びメンテナンスを業とする会社である。
エ d社は,ゴルフ場の運営,管理,企画,設計等を業とする会社である。
d社は,ゴルフコースの管理,運営のため,ゴルフ場精算機(6コース分)の導入を検討し,平成15年1月14日,a社にゴルフ場精算機KT-200を12式(6コース分)等の注文内示をした。
代金の支払については,当初から,リースを予定し,かつ,b株式会社とe産業株式会社(以下「e社」という。)とのリース契約及びe社とd社との転リースを利用する方法を予定していた。
オ a社は,平成15年2月17日,e社に「(仮称)ゴルフ場自動精算機システム構築(6コース分)」の見積書を提出した。
カ e社は,平成15年3月14日付けで,d社に対し,総金額を1億1807万7000円とする「(仮)ゴルフ場自動精算機システム転リース金額の件」と題する文書を送付した。
キ 平成15年3月14日付けで,b株式会社からa社に対し,代金合計1億1807万7000円の売買注文書が送付された。
ク 平成15年3月18日付けで,a社からb株式会社に対し,代金合計1億1807万7000円の注文請書が送付された。その添付「コース別物件明細」には,埼玉ロイヤルゴルフ倶楽部おごせコースの自動精算機の数量欄には2台と,宇都宮ロイヤルゴルフ倶楽部の自動精算機の数量欄には2台と,ましこロイヤルゴルフ倶楽部ましこコースの自動精算機システムの数量欄には3台と,いわせロイヤルゴルフ倶楽部いわせコースの自動精算機システムの数量欄には3台と,やさと国際ゴルフ倶楽部の自動精算機システムの数量欄には3台と,鷹羽ロイヤルカントリー倶楽部の自動精算機システムの数量欄には3台と,自動精算機システムにつき以上合計16台が記載されている。
ケ 当時,d社は,6コース分のゴルフ場を管理していたところ,民事再生法による再生が検討されていた群馬県所在のゴルフ場ベルエアカントリークラブの他,数カ所のゴルフ場の引き合いがあり,事業展開の予定があったため,自動精算機システムの数量を4台増やすことにした。
ところが,ベルエアカントリークラブにつき,d社の他にも名乗りを上げた会社があり,入札になったため,d社は4台分を留保した。
コ a社は,平成15年4月1日,原告から,ゴルフ場精算機(6コース分)KT-200(12台)等を代金5011万6500円で買った。
サ d社は,平成15年4月10日,e社から自動精算機システム16台をリースする旨のリース契約を締結した。
シ e社は,平成15年4月22日,d社から自動精算機システムの転リース料として1億5621万5880円の支払を受けた。
ス 平成15年4月30日,さわやか信用金庫のa社の普通預金口座にb株式会社から売買代金1億2398万0115円(代金合計1億1807万7000円及び消費税590万3850円の合計額)が振込入金された。
セ 同日,d社は,a社から,留保した自動精算機システム4台分の3949万0615円の交付を受けた。
ソ 原告は,上記売買契約に基づき,平成15年5月から同年6月にかけて順次納品した。
タ c社は,複数の保険会社の保険代理店であって,a社は,c社に対する「乗り合い保険代理店向け営業支援ツール」開発に係る債権を有していたが,その回収が遅れたため,平成15年7月3日,これを消費貸借の目的とする合意をし,かつ,同債権の担保として額面1700万円の手形の振出を受けた。
チ a社は,平成15年7月25日,原告から,上記ゴルフ場精算機に関連するソフト,ICカードホルダー,音声ガイダンス費用,非接触ICカード回収ボックス等を代金420万円で買った
ツ 原告は,上記(6)の売買契約に基づき,納品した。
テ d社は,平成16年にベルエアカントリークラブを取得し,上記増加分の追加発注をしたが,原告から納品できる状態ではない旨拒否され,取りやめた。
ト 平成16年5月,原告とa社は,本件物件の売買代金合計5431万6500円の支払につき交渉し,a社は,c社に対する平成15年7月3日の消費貸借に基づく貸金債権合計4080万円を譲渡することを提案したが,原告は,譲渡債権の回収可能性に疑いを抱き,合意には至らなかった(なお,甲第17号証は,証人Y1の供述及び甲第17号証の記載自体からして,その作成日は,同文書に記載された平成15年ではなく,平成16年5月と認められる。)。
(2) 原告は,被告らが共謀して,倒産の状態にあったa社の資金繰りを図るため,原告に対し売買代金を支払うことができるはずがなかったにもかかわらず,原告を欺罔して,本件売買契約を締結させ,原告に代金相当額5431万6500円の損害を与えた旨主張し,証拠(甲第10,証人C)中には,a社の取締役であった被告Y2が,平成16年2月27日,原告の担当者であるCに対し,d社の指示で,ゴルフ場精算機の台数を水増しし,d社がゴルフコースの改造費に充てた旨告げたとの部分があるけれども,その内容は,証人C自身の証言内容及び被告沼田の供述に照らし,採用できない。
また,a社が原告に対し,本件売買契約に基づく代金債務を履行していないことは当事者間に争いはないが,証拠(甲第11)によれば,a社のさわやか信用金庫の普通預金口座には,平成15年4月30日にb株式会社から1億2398万0115円の振込入金があったから,当時,a社が既に倒産の状態にあって,原告に対し売買代金を支払うことができるはずがなかったとはいえない。
更に,上記(1)の事実によれば,平成15年7月ごろ,a社は,c社に対する債権の回収が滞り,準消費貸借を締結し,担保として手形の振出を受けていたものであって,原告に対する売買代金を確実に支払うことができたことは推認できないけれども,その事実によっても,被告らが原告に損害を与えることを共謀したことまでは推認することができないといわざるを得ない。
(3) また,原告は,被告Y1は,a社の取締役として,a社に対し善管注意義務ないし忠実義務を負っているにもかかわらず,a社の金を,個人として,株式会社c社のB社長に1000万円,同社営業部長にも高額の金員を貸し渡すべく流用し,a社に数千万円の損害を被らせ,よって,同社の原告に対する債務の弁済を不能にした旨主張し,証拠(甲第10,証人Y1)中にはこれに沿う記載部分(経理女性担当者の発言によれば,c社の総括本部長等へ名刺の裏書きで,社長が個人的にも貸付をしている旨)ないし供述部分(c社のB社長に1000万円,同社営業部長にも金員を貸し渡した旨)があるけれども,いずれの記載ないし供述も,貸借の日時,金額及び弁済期等の内容が明らかではなく,これを採用することができず,他に上記原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
2 結論
したがって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 石原寿記)
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