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「営業支援」に関する裁判例(111)平成20年 9月 3日 東京地裁 平18(ワ)27987号 損害賠償請求事件

「営業支援」に関する裁判例(111)平成20年 9月 3日 東京地裁 平18(ワ)27987号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成20年 9月 3日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平18(ワ)27987号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2008WLJPCA09038001

要旨
◆被告会社とフランチャイズ契約を締結し、フランチャイザーとして店舗を開業経営したが経営不振によりこれを閉鎖・廃業した原告が、主位的に、被告会社の従業員らの不法行為(従業員ら個人も被告)及び使用者責任に基づいて、予備的に、被告会社の債務不履行に基づいて損害賠償請求した事案について、被告会社の従業員らに不法行為責任があるとは認められないが、契約締結に至る過程において、契約当事者としての信義則上の説明義務を尽くしていたとは認められないとして被告会社の債務不履行を認め、原告の損害を認定し、その8割を過失相殺して、原告の請求を一部認容した事例

参照条文
民法415条
民法418条
民法709条
民法715条

裁判年月日  平成20年 9月 3日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平18(ワ)27987号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2008WLJPCA09038001

栃木県足利市〈以下省略〉
原告 X
訴訟代理人弁護士 嶋田雅弘
同訴訟復代理人弁護士 鈴木良
東京都台東区〈以下省略〉
被告 株式会社東洋堂
代表者代表取締役 Y1
埼玉県ふじみ野市〈以下省略〉
被告 Y1
東京都台東区〈以下省略〉
被告 Y2
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y3
さいたま市〈以下省略〉
被告 Y4
5名訴訟代理人弁護士 三谷明弘

 

 

主文

1  原告の主位的請求を棄却する。
2  被告株式会社東洋堂は原告に対し,金400万円及びこれに対する平成18年12月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3  原告のその余の予備的請求を棄却する。
4  訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の,その余を被告株式会社東洋堂の各負担とする。
5  この判決の第2項は仮に執行することができる。

 

 

事実及び理由

第1  請求
1  主位的請求
被告らは各自,原告に対し,金2670万1828円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2  予備的請求
被告株式会社東洋堂は,原告に対し,金2420万1828円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
原告は,被告株式会社東洋堂(以下「被告会社」)の勧誘を受けて,被告会社が本部として展開するはんこ製造販売等に係るフランチャイズ・システムである「はんこ広場」(以下「本件システム」)のフランチャイズ契約(本件契約)を締結し,同システムに係るフランチャイジーとして「はんこ広場」足利店(以下「本件店舗」)を開業・経営したが,経営不振によりこれを閉鎖・廃業した。
本件は,原告が,本件契約締結に至る過程で被告会社の担当者である被告Y3(以下「被告Y3」)及び同Y4(以下「被告Y4」)に原告に対する虚偽説明及び説明義務違反があったとして,主位的に,両被告は不法行為に基づき,被告会社は使用者責任(民法715条)に基づき,被告Y1(以下「被告Y1」)及び同Y2(以下「被告Y2」)はこのような虚偽説明・説明義務違反を指示・承認していたとして被告Y3及び同Y4との共同不法行為(民法719条)に基づき,原告の上記店舗経営によって生じた損失を損害賠償(及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金)として請求するとともに,予備的に,被告会社に対し,上記説明義務違反等は被告会社の債務不履行であると主張して,損害賠償(及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで商法所定年6分の割合による遅延損害金)として請求するものである。
1  前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)被告会社は,本件システムのフランチャイザーとして,はんこ・名刺の制作,合鍵の制作,コピーなどの業務についてフランチャイズ展開を行う会社である。
(2)原告は,栃木県足利市で弁当販売のフランチャイズ店である「ほっかほっか亭」店舗を経営しているが,はんこ・印刷業界のフランチャイズシステムにも興味を持ち,これに加盟することを検討するため,平成17年11月上旬ころ,被告会社から本件システムに関する資料(甲1の1,2)を送付してもらった。
(3)原告は,本件システムについて直接詳しい説明を受けるため,同年11月12日,被告会社店舗開発課長である被告Y3と上野松坂屋で待ち合わせ,同被告から被告会社事務所及び被告会社の直営店であるはんこ広場上野店を案内され見学した後,近くの喫茶店で話を聞き,本件システムへの加盟を勧誘された。
被告Y3は,加盟申込金10万円を支払えば,足利市の市場調査を行い,より詳しい説明をすることができる,加盟契約締結に至らなければ申込金は返還するので検討して欲しいと述べた。
(4)同年12月1日,原告は加盟申込金10万円を被告会社に振り込んだ。
これを受けて,被告会社では,足利市の市場調査を行うほか,同市内において「はんこ広場」足利店として適当な店舗を探し始めた。
(5)同月9日,原告は,いくつか質問したいことがあるということで被告会社を訪ねて被告Y3に面会し,足利市内に既に開業していた競合店と考えられる「はんこ卸売センター」足利店の存在が気になると述べたため,被告Y3は,「はんこ広場」の店舗でも競合店の多いフランチャイズ店舗である「はんこ広場」池袋店に原告を案内して同店のオーナーと話をさせた。その後,原告は,喫茶店で,被告Y3から本件システムについて更に説明を受けた。
(6)同月21日,被告Y3は,原告が開業するために適当な店舗として足利市通3丁目2592所在の木造2階建(1階52.8平米,2階42.9平米)の建物(本件店舗)を紹介し,被告会社の検討結果から本件店舗における売上予測値は100万円から120万円であると述べて,本件店舗における「はんこ広場」の開業を勧めた。
(7)原告は,本件システムに加盟することを決意し,平成18年1月7日,本件店舗の賃貸借契約を締結し,被告会社は同契約につき原告の連帯保証人となった。
(8)同月10日,原告は,加盟金,研修費,職域ルート費として209万円を被告会社の口座に送金して支払った。
(9)同月14日,被告Y3,被告会社の常務取締役を名乗る被告Y2(なお,同被告は取締役として登記されていない。)及び原告が被告会社に集まり,本件契約が締結された。
(10)同月22日,原告は被告会社の従業員Aから,本件店舗で使用する機材の価格及びリース料に関する説明を受けた。
また,原告は,そのころ本件店舗の内装工事を業者に注文し,代金63万円を支払い,同月23日,初期仕入,店舗什器備品,広告費及びオープニング費用として342万1425円,サイン工事代金として173万7750円の合計額である515万9175円をいずれも被告会社の口座に送金して支払った。
(11)原告は,同月30日から2月20日ころまで途中休日を挟む正味およそ16日間,被告会社が企画した研修を受けた。研修内容は,商品知識,接客態度,制作技術などであり,研修の後半は「はんこ広場」上野店や「はんこ広場」大和店で行われた。
原告は,2月21日ころから27日まで毎日チラシを撒き,店舗周辺の商店への挨拶回り,商店街組合への加入などの開業準備をした。
(12)平成18年2月28日,原告は,本件店舗において,本件システムのフランチャイジーとして「はんこ広場」足利店をオープンした。同日から3月4日までの5日間,被告会社からは担当スーパーバイザーとして被告Y4が,営業担当としてB(以下「B」)が足利店の応援に来た。その間,はんこの制作等は被告Y4が主に行い,同被告は,その合間に原告やパート従業員に対する技術指導・接客指導を行った。
(13)本件店舗の開業1か月めの平成18年3月の売上げは,80万円近かったが,4月以降は低迷し,同年6月の売上げは30万円を下回る程度であったため,原告は,同年7月下旬,被告Y3に連絡し,「売上予測と実際の売上げの乖離が大きい」「職域ルートの紹介がない」「屋外に出すこともできない看板代金を返却して欲しい」などと訴えて,足利店への来店を求め,同年8月7日,被告Y3と被告Y4が足利店に来て話合いをした。その際,原告は,被告Y4に対し,足利店の損益分岐点の売上げがいくらかと質問したところ,同被告は「100万円前後」と答えた。
(14)原告は,同年8月31日ころ本件店舗を廃業・閉鎖し,同年10月31日ころ,本件店舗建物を賃貸人に返還した。
2  原告の主張
(1)被告らの情報提供義務違反
フランチャイズ・システムにおいては,フランチャイザー側に法律・経営上の情報・知識が偏在しており,加盟希望者は,当該システムに加盟するか否かを判断する上で,加盟希望者が開店後の店舗運営の見通しを立てるために必要な情報をフランチャイザー側に多く依存している。このため,中小小売商業振興法及び独占禁止法は,フランチャイザーから加盟希望者への適切な情報開示を義務付けている。また,業界団体である社団法人日本フランチャイズチェーン協会は,「倫理綱領」として正確かつ十分な情報提供を謳うとともに,「フランチャイズ契約の要点と概説」において,中小小売商業振興法に定められた事項以上に広範囲の事項につき書面により開示することを各フランチャイザーに求めている。以上のことからすると,フランチャイザーは,信義則上,加盟希望者に対して,客観的・的確・正確・適正な情報を開示・提供する義務を負っているというべきである。
しかるに,被告らは,原告に対し,以下のとおり適切な情報提供を怠り,十分な検討材料を与えないままに本件システムに加盟させ,加盟前に予測できなかった事態に陥らせ,これに何ら適切な措置も講じることなく漫然と閉店・廃業に至らせて多額の損害を生じさせたものであり,被告らが原告に対して適切な情報提供を行っていれば原告は「はんこ広場」に加盟することもなかったのであるから,被告らは,原告に生じた当該損害を賠償すべきである。
(2)初期投資額・機材のリース料等について
被告Y3は,平成17年11月12日,被告会社近くの喫茶店で,原告に初めて「はんこ広場」について説明した際,開業資金は比較的少なく,500万円程度で開業できると説明した。被告会社作成のパンフレットにも開業資金が540万円である旨の記載がある。もっとも,その後,本件店舗の賃借を決めた後,物件取得費(内外装費等)約170万円を加えた概算見積書を提示された(乙13)。開業資金に物件取得費が上乗せされるという話自体,原告はそれまでに説明を受けていなかったが,結局,なし崩し的に話が進み,最終的には初期投資額として約844万円という見積りを提示された(乙14)。
さらに,本件契約締結後の平成18年1月22日,原告は被告会社のリース担当であったAから初めて機材の価格(合計約660万円)について説明を受けた。Aによれば,自己資金がなければリースが必要になるということであった。それまでに原告は被告Y3から機材についての説明は全く聞いておらず,初期投資額に加えてリース物件に関する負担がかかるとは全く寝耳に水の話であった。
被告らは,機器類についてはほとんどの加盟店がリースやレンタルにより毎月のランニングコストとして運営しており,初期の段階でかかる資金ではなく毎月の経費としてイニシャルコストに入れていないと言うが,仮にリース代金の性質がランニングコストであるとしても,そのことは,リース料について本件契約締結前に説明しない理由とすることはできない。
以上のとおり,被告会社は,原告が本件契約を締結して撤回できない状況に至ってから,従前の見積額に加えて800万円を超える負担を原告に課した。このような多額の負担が必要となるのであれば,被告会社は遅くとも本件契約締結前にその旨を原告に説明すべきであった。その説明を怠った被告会社の責任は重大である。
さらに,被告会社は,機器類をメーカーから仕入れ,これをリース会社に販売して利益を上げているが,そのことについての説明も本件契約締結前にすべきであった。
(3)売上予測,損益分岐点予測,利益率について
原告は,平成17年12月21日,被告Y3から,本件店舗における売上予測は月額100万円から120万円であると説明を受けたが,この数値には,鍵とコピーの売上げは含まれていない。原告が鍵も行うことを決めたのは,平成18年1月14日の加盟契約の際であり,コピーに至っては平成18年2月10日以降のことである。しかし,実際の売上げは,開店直後を除き,その30%前後に過ぎなかった。開店直後の売上げが約80万円あったのは,被告会社から被告Y4やBが派遣され,十分人が足りていたからである。仮に開店直後と同様の人的体制を採るなら,その分人件費が増加し,利益が圧迫される。
これほどの乖離は,被告会社の行った売上予測の根拠が合理性のないものであったことを強く推認させる。被告Y3本人は昼間人口等の要素を勘案したものであると述べるが,果たして上記売上予測が合理的な根拠に基づいて算出されたものであったかは極めて疑わしい。少なくとも,本件訴訟において被告らは売上予測の根拠の詳細を書面により明らかにしようとしない。売上予測は,開店を決める際に極めて重要な判断要素であり,それが本件のように根拠の薄弱なものであるという事実は明らかに被告会社らの説明義務違反を構成する。
被告Y4は,平成18年8月7日,原告に対し,本件店舗の損益分岐点売上げにつき月100万円程度であると説明した。そうすると,上記売上予測のとおり売上げがあったとしても,原告は本件店舗からほとんど利益を上げることはできなかったのであり,被告らは本件店舗開店前からその事実を認識していたことになる。かかる認識があったのであれば,フランチャイザー本部たる被告会社は,当該事実を加盟希望者である原告に説明すべき義務があった(利益の上がらないフランチャイズに加盟する者などいない。)。多額の初期投資を行い「はんこ広場」に加盟して引くに引けない状況になってから損益分岐点売上げが予測売上げを上回ることを説明すること自体,被告らの不誠実な態度を裏付けるものである。
また,被告Y3は,粗利益が70%もある,利益率は43%もあると説明していたが,具体的な根拠の示されていない数値である。
被告らは,原告の外販営業の努力が足りないと言うが,原告が外販営業に行けば,アルバイトの主婦が店番をすることとなるが,それでは店舗に来た顧客への対応は何もできない。パートタイムの従業員に期待できるのは店番程度であり,原告が外販営業をしないのは,時間がないからである。その原因の一つとして,被告会社の技術研修が不十分であったため,原告自身の技術習得が顧客の要求に応えられず,従業員の指導を行うこともできなかったということが上げられる。
被告らは,原告の経費に無駄遣いが多いと言うが,被告らが人件費として主張する月額8万円では時給400円程度となり,最低賃金すら満たしていない。月額8万円で誰が働くのか。しかも,原告自身が朝から晩まで働いていたのに,その人件費は考慮されていない。その他の被告らが指摘する経費も,いずれも必要なものであった。
原告が別に経営するアスク有限会社の経費を本件店舗の経費として計上した事実はない。むしろ,本件店舗の営業に関して,アスク有限会社の電話やパソコンを使用することがあった。
(4)職域ルート(外販ルート)について
被告会社が作成したパンフレットには,「官公庁・企業に行って印鑑を販売できます」「本部が官公庁,大企業への職域ルートを開発!!」「500ヶ所以上,毎月2~3社開拓!」「はんこ広場は充実した運営システムによる店舗の売上に加えて本部が官公庁,大企業等の職域ルートを開拓することにより,売上を確保できますので,売上の心配が解消できます。」「本部は加盟店契約時,5~8社の職域ルートを責任を持って開拓し,営業活動もサポートします。」と記載されており,「売上高別損益予測」においても,店舗売上と外販売上は別項目として記載されている(甲1の1及び1の2)。また,被告会社のホームページにも,「本部は加盟店の契約時,5~8社の職域ルートを責任を持って開拓し,営業活動もサポートします。」「外販ビジネスはどの企業にもできるものではなく,弊社が永年の実績により開拓したものでこのシステムを活用すると,官公庁,大手企業の指定業者となるとともに,定期的に出向き,チラシの配布,食堂やオフィスの一角で展示販売ができます。*店舗と外販ビジネスの相乗効果により,加盟店に対するお客様の信頼度が得られます。」「本部が官公庁・大企業への職域ルートを開発」と記載されている(甲3)。
原告は,被告Y3から上記パンフレット等を見せられ,「被告会社は他社のフランチャイズと違って,官公庁・大企業等の職域ルート(独自の外販ルート開拓)を行うため,店舗売上げにプラスした職域ルートの売上げが計上される。開店時に5社から8社,それ以降毎月2社から3社を責任をもって開拓します。安心して欲しい。」と説明を受けていた。
被告会社全体での毎月2社から3社という趣旨であれば,原告にとって何の利益にもならない無意味な話である。被告会社は,原告の本件店舗が官公庁・大企業の指定業者となるようにしなければならなかった。
被告らは,職域ルートは自店舗の運営が軌道に乗った段階で紹介できる性質のものであると主張するが,そのような説明は全くなかった。被告らは,職域ルート開拓費用として52万5000円を徴収しており,これは明白な詐欺である。
(5)利益保証制度について
被告Y3が原告に渡したパンフレット(甲4)には,利益保証制度について何らの条件の記載もなかった。
原告は,平成18年1月14日,契約をするから実印を持って来るようにと被告Y3に言われて実印を持参し,契約書の内容は今までに説明していたとおりだからと言われて署名・捺印した。契約書は事前に渡されておらず,読み合わせ等もしておらず,内容は確認していない。したがって,契約書の36条の内容についても認識していなかった。
原告は,本件店舗開業後の3月初旬,開業支援のために本件店舗に来ていたY4に利益保証制度について質問したところ,利益保証制度の適用を受けるためには,1日営業訪問30件,ポスティング500件を実行し,これを毎日報告書に具体的に書いて本部に提出することが必要であると言われた。しかし,原告の開業後の状況からすると,そうすることは不可能であった。そもそも,営業訪問は,移動時間を考慮すれば1件最低10分は要するから営業訪問だけで600分,10時間かかる。ポスティングは移動時間を含めて1件2分としても1000分,16時間かかる。これをアルバイトでまかなったとして,時給800円で1日2万0800円,月間(30日)で62万4000円かかることとなり,その点から見ても不可能である。
(6)その他法定の情報提供義務
中小小売商業振興法11条1項によれば,特定連鎖化事業(フランチャイズ・システム)について加盟希望者と契約を締結しようとするときは,予め法定開示事項を記載した書面を交付してその説明を行わなければならないとされており,この法定開示事項には,直近の3事業年度における加盟店の数の推移に関する事項(同法施行規則10条6号)と直近の5事業年度における当該特定連鎖化事業をめぐる訴えの件数(同条7号)等,詳細な情報が含まれているところ,本件契約締結前,原告は,被告会社から「はんこ広場」について,宣伝用パンフレットに記載された事項以外については,書面はおろか口頭でも何らの説明も受けていなかった。このことは,中小小売商業振興法に違反するほか,独占禁止法に基づく不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に抵触する疑いがある。また,被告会社が社団法人日本フランチャイズチェーン協会の正会員でないとしても,同法人の自主規制はフランチャイザーである被告会社も十分配慮すべきところ,被告会社の原告に対する情報開示はその自主規制の求める程度に全く満たない極めて不十分なものであった。
(7)因果関係
被告らに信義則上の義務違反ないし不法行為がなく,被告らが事前に客観的で正確な情報を提供していたならば,原告は本件契約を締結することはなく,本件店舗を開設することもなかった。
平成17年12月14日から同18年7月31日までに開業した「はんこ広場」のフランチャイジーは19店舗であり,このうち少なくとも原告を含む8店舗は同年11月末までに閉店し,1店舗は本件システムを脱退している。この短期間での閉鎖の確率は驚異的である。このことは,本件店舗の失敗が本件店舗に固有の原因によるものではなく,本件システムに問題があることを示している。
(8)損害
被告らの不法行為による損害(主位的請求)は,次のアないしオの合計額2395万4755円であり,被告会社の債務不履行による請求(予備的請求)は,次のアないしエの合計額2145万4755円である。(なお,以上の損害額が前記第1の請求額と一致しないのは,原告が,主張する損害額を訴状記載のそれから減額しつつ,請求を減縮しなかったためである。)
ア 開店準備資金797万9175円
内訳 加盟金105万円
保証金30万円
職域ルート開拓費52万5000円
研修費31万5000円
初期仕入費用154万6650円
店舗什器備品124万4775円
広告費31万5000円
店舗看板費用173万7750円
オープニング費用31万5000円
内装費63万円
イ リース料890万0073円
内訳 原告は,クレディセゾンとの間でコピー機のリース料として15回分32万2875円を支払い,中途解約のための解約損料(当該リース物件の売却代金21万円を控除後)として65万円を支払わされた。原告の支払合計金額は97万2875円である。
オリックスとの間で,印鑑彫刻機のリース料11回分合計88万2420円を支払い,33万7050円で転売させられた。転売価格を差し引いた原告の支払総額は395万3439円である。
三井住銀リース株式会社との間で,印刷機について毎月のリース料14回分合計45万8640円を支払い,中途解約金として133万5000円を支払わされた。当該リース物件の売却代金21万1970円が返済に充当され,支払総額は158万1670円である。
株式会社アプラスとの間で,スタンプ印制作機及び合鍵制作機について毎月のリース料16回分94万8600円を支払い,当該リース物件の売却処分費39万3960円が差し引かれ,残額217万2840円を年利2パーセントで返済させられることとなった。その返済合計額は239万2089円である。
ウ 開業から廃業までの累積赤字352万5507円
エ 逸失利益ないし慰謝料105万円
開業から廃業まで原告が無報酬で働いたことによる逸失利益又は慰謝料1か月15万円の7か月分(平成18年3月から9月まで)である。
オ 本訴の提起・遂行に係る弁護士費用250万円
3  被告の主張
(1)原告は,弁当店のフランチャイジーで,フランチャイズシステムについてよく理解している経営者であるのに,なにゆえ「何も説明を受けずに契約させられた」などの詐欺的行為や説明義務違反を主張するのか理解不能である。被告会社は,原告からの質問には全て答えており,その上で加盟するか否かの判断を原告に委ねている。
(2)初期投資額・機材のリース料について
開業資金については,各種機器類についてはリースを組むことを前提として初期費用にはカウントしていない。ただし,機材のリースの件は,11月12日に被告Y3が説明しており,原告はリースを組みたいと述べていた。
初期費用は,加盟金105万円,保証金30万円,職域ルート開拓費52万5000円,店舗什器備品124万4775円,広告費31万5000円である。店舗看板費用,オープニング費用,内装費は,各加盟店店主の意向によってケースバイケースによる変動数値であり,初期費用にはカウントしていない。
(3)売上予測・損益分岐点予測・利益率について
被告会社による売上予測は,他店舗での実績値を踏まえたものであり,開業当初の1か月の売上げが約80万円であったことは,その予測値がほぼ正しかったことを裏付けている。その後本件店舗の売上げが上がらないのは,原告が被告会社の指導に従わず,営業訪問やポスティングを怠る一方,経費に無駄遣いがあるからである。被告Y3及び同Y4が平成18年8月7日に本件店舗に出向いた際,原告は,「営業,ポスティング,ハンディングはしない。インターネット,雑誌等への販促はしている。」と述べて,はんこ広場マニュアル,オープン前研修,OJTの内容が全く理解されておらず,原告自身の我流による経営を行っていることが明らかになった。これでは売上げが上がらないのは当然である。売上げは,営業訪問,ちらしのポスティング・ハンディングにより店舗の認知度を上げてゆくことから始まる。こうした地道な活動が売上げに結び付くのである。我流による経営の責任を被告会社に転嫁することは許されない。
Bの営業については,その売上実績の数字自体に重要性があるのではなく,あくまではじめの一歩を作ったことに大きな意義があるのであって,開拓して顧客に対してその後加盟店側でつなぎの営業をして商売を広げていくのである。そのつなぎの営業を原告は怠っていたのが失敗の原因である。
本件店舗の適正経費は,賃料6万2000円(本件店舗は,原告が経営するアスク有限会社の事務所を兼ねていたから,その分として減額すべきである。),人件費8万円(原告が営業のため外出する時間帯のためのパート従業員1日当たり4時間半で週4.5日勤務),水道光熱費1万5000円,通信費5000円,機器レンタル料5万1975円,リース料19万3095円,駐車料4000円(足利市の駐車料の相場は月額4000円と認識している。),ロイヤリティ5万2500円であるから,粗利益率を70%とすると,損益分岐点売上げは70万円程度となる。ところが,実際の本件店舗では,折込広告等広告宣伝費として月平均約7万円を支出し(ポスティング,ハンディングの方が費用も安く効果的である。),パート従業員を2名雇用し,駐車場一台8000円の3台分2万4000円を契約し(従業員は自転車で通勤させるべきである。),雑費消耗品を月平均7万4340円も計上し(同規模の他店舗では2万円程度である。),過剰な経費を支出しており,被告会社が何度もその是正を指導したのに原告は従わなかった。平成18年8月7日に被告Y4が損益分岐点売上げを100万円前後と言ったのは,このような無駄遣いをしている現状を前提として,原告に対する叱責の意味を込めて言ったものである。
研修期間は十分である。従業員に対する指導は,フランチャイジーの責務であることは本件契約書にも明記されている。
(4)職域ルートについて
職域ルートについて虚偽の説明があったとする原告の主張は否認する。
職域ルートとは,被告会社が永年の実績により指定業者とされている官公庁や企業を加盟店に紹介して,加盟店が当該官公庁等の指定場所に商品を陳列して職員や社員に販売できるほか,出入業者として直接購買部門に接する機会も多くなるなど,幅広い販売機会が得られるものである。また,それによって知名度,認知度,信用力をも高めることになり,店舗運営上非常に有利になるものである。しかし,職域ルートは自店舗の運営が軌道に乗った段階で紹介できる性質のものである。店舗内外の営業ができるようになって次のステップとしてより高度な職域ルート販売をなし得るのである。
被告Y3は,職域ルートを「はんこ広場」全体として毎月2,3社開拓すると述べていたもので,各フランチャイジーのために開拓するとは述べていない。職域ルートの開拓は,これによりフランチャイズ全体の信用性が高まる結果,各加盟店にとっても有益なことである。
被告Y3は,原告に対して,職域ルートは自店舗の運営が軌道に乗った段階で紹介できる旨当初から説明している。
なお,本件店舗の開業当初,Bは多数の営業訪問を行い,取引先を開拓している。
(5)利益保証制度について
利益保証制度について虚偽の説明があったとする原告の主張は否認する。
本件契約締結に際して,被告Y4及び同Y3は,契約書の読み合わせに2時間も割き,原告からの質疑には応答しており,原告は契約の内容を十二分に理解した上で署名押印したから,原告は利益保証の要件(第36条)についても承知していた。
営業訪問30件,ポスティング500件を4時間半で行うことは可能であり,利益保証の要件は不合理なものではない。
(6)損害・因果関係について
原告の本件店舗経営失敗の原因は,上記のとおり原告が被告会社の指導に従わないで,営業訪問やハンディング,ポスティングなどをせず,折込広告料等,被告会社の指導に反する贅沢な経費を使った放漫経営によるものである。
また,原告の主張する損害は,ガソリン代をはじめとしてそのほとんどが弁当チェーン店の営業経費であり,本件店舗の経費と混同している。
本訴請求は,原告に責任のある経営失敗を被告らに転嫁するものであり,棄却されるべきである。
第3  当裁判所の判断
1  前記前提事実及び証拠(甲1ないし6,甲24ないし27,乙1,乙4ないし6,乙9ないし14,乙18ないし20,原告本人,被告Y1本人,同Y3本人,同Y4本人,弁論の前趣旨)を総合すれば,次の事実が認められる。
(1)原告は,足利市内において平成11年1月より「ほっかほっか亭」のフランチャイジーとして弁当の製造販売業を営んでいたが,同事業は従業員が業務に慣れて原告自身が出勤する必要は乏しくなってきていたため,以前から興味を持っていた「はんこ・印刷」業界のフランチャイズに加盟することについて検討を始めた。しかし,原告は,当該業界には全く経験がなく,パソコンでのデザイン等にも不慣れなため,研修制度がしっかりしていて,開店後の指導にも積極的なフランチャイズ本部に加盟したいと考え,本件システムに興味を持ち,平成17年11月4日,被告会社に電話で資料請求をし,そのころ被告会社から資料(甲1の1,2)の送付を受けた。
同資料には「独立時最大の心配は,いかに顧客を確保し,利益を出せるかどうかではないでしょうか。その点当社の〈はんこ広場〉は,充実した店舗運営のシステムを提供。店舗運営と職域ルートの相乗効果,さらに小スペースで行える今話題の合鍵作成や開錠工事・セキュリティ商品の取り扱いで売上の大幅アップも可能です。」と記載され,A店舗の店舗販売月商180万円,外販月商70万円,償却前利益108万円,B店舗の店舗販売月商220万円,外販月商80万円という記載があった。
また,被告会社のホームページ(甲2)には,「開業資金270~500万円前後」「本部は加盟店の契約時5~8社の職域ルートを責任をもって開拓し,営業活動もサポートします。」「外販ビジネスはどの企業にもできるものではなく,弊社が永年の実績により開拓したものでこのシステムを活用すると,官公庁,大手企業の指定業者となるとともに,定期的に出向き,チラシの配布,食堂やオフィスの一角で展示販売ができます。*店舗と外販ビジネスの相乗効果により,加盟店に対するお客様の信頼度が得られます。」「本部が官公庁・大企業への職域ルートを開発」と記載されていた。
原告は,「はんこ広場」の加盟店となる場合,店舗売上げとは別に官公庁や大企業の指定業者となることに伴う外販売上げを期待できるという部分に魅力を感じ,より詳しい説明を受けるため,被告会社に連絡を取り,面会を求めた。
(2)原告は,平成17年11月12日,被告会社店舗開発課長である被告Y3と上野松坂屋で待ち合わせ,同被告から被告会社事務所及び被告会社の直営店であるはんこ広場上野店を案内された後,近くの喫茶店で話を聞き,はんこ広場への加盟を勧誘された。
その際,原告は,「加盟店利益保証制度」と題する書面(甲4)の交付を受けた。この資料には,本部が加盟店に対し月間利益41万円を開業後1年間保証する旨が記載されているだけで,利益保証の要件や保証される利益の算出方法については記載はなく,被告Y3もその要件について説明することはなく,本件システムのメリットの1つとして説明したにとどまった。
被告Y3は,契約に至らなければ返還するので,加盟申込金10万円を支払えば,足利市の市場調査を行い,開業のために適当な店舗を選定するなどして,より詳しい説明をすることができるので,検討して欲しいと述べた。
(3)12月1日,原告は加盟申込金10万円を被告会社に振り込んだ。これを受けて,被告会社では,足利市の市場調査を行うほか,同市内において「はんこ広場」足利店として適当な店舗を探し始めた。
(4)同月9日,原告は,いろいろと質問したいことがあるということで,被告会社を訪ねて被告Y3に面会し,足利市内に既に開業していた競合店と考えられる「はんこ卸売センター」足利店の存在が気になると述べたため,被告Y3は,「はんこ広場」の店舗でも競合店の多いフランチャイズ店舗である「はんこ広場」池袋店に原告を案内して同店のオーナーと話をさせた。同店のオーナーは,同店の経営が順調である旨のほか,開業当初の苦労話を原告に聞かせた。その後,被告Y3は,喫茶店で,本件システムについて原告からの質問に答えるなどした。(その際,原告は「総額どれくらいかかるか」と質問し,被告Y3はこれに答えたが,同被告が答えた額については,後述のとおり争いがある。)
(5)同年12月21日,被告Y3は,原告が開業するために適当な店舗として本件店舗を紹介し,被告会社での調査検討結果によれば,本件店舗における売上げは,月額100万円から120万円と見込まれる,そのほかに職域ルート開拓による外販売上げもあると述べて,本件店舗における「はんこ広場」の開業を勧めた。原告は,被告Y3の言葉と被告会社の利益保証制度の存在と考え合わせて,本件店舗の毎月の利益は41万円を超えるものと期待した。その際,被告Y3は,原告に対し,初期投資額を747万円余とする概算見積書(乙13)を提示した。原告は,当時,合鍵とコピーの営業を行うことを予定しておらず,上記売上予測及び初期投資額は,はんこ及び印刷のみの営業を前提とするものであった。
また,同日ころ,原告は,被告Y3に対し,来店客用の駐車場が必要ではないかと質問したところ,同被告は,来店客は短時間の滞在であるため,来店客用の駐車場は必要ないと述べた。
(6)原告は,本件システムに加盟することを決意し,平成18年1月7日,仲介不動産業者である株式会社さくら屋において,本件店舗の所有者との間で賃貸借契約(期間は同年1月20日から2年間,賃料月額9万5000円,敷金19万円)を締結したが,当初の予定と異なり,大型看板を設置するために2階も賃借することとなった(甲10,乙16)。上記契約には被告Y3が立ち会い,被告会社は同契約につき原告の連帯保証人となった。同日,同月14日に加盟契約を締結する予定が打ち合わされ,また,同日付で被告会社から原告宛に加盟金,研修費,職域ルート費として209万円の請求書が発行された。
(7)同月10日,原告は,上記209万円を被告会社の口座に送金して支払った。
(8)同月14日,被告Y3,同Y2及び原告が被告会社に集まり,本件契約が締結された。被告Y2が本件契約書(乙11)の読み合わせを行い,原告はこれに署名押印した。その際,被告会社は,乙13の概算見積書に原告の希望を容れて修正を加えた初期投資額を844万円余とする概算見積書(乙14)を原告に提示した。また,その際,本件店舗の開業に向けて配布するチラシの内容などについても協議がなされた。
同月15日付で,原告は,本件店舗の内装工事を被告会社の紹介した業者に代金63万円で注文した(甲22)。また,同月17日付で,被告会社は原告に対し,初期仕入,店舗什器備品,広告費及びオープニング費用として342万1425円,サイン工事代金として173万7750円の合計額である515万9175円を請求し,同月23日,原告はこの金員を被告会社の口座に送金して支払った。
(9)同月22日ころ,被告の従業員Aから,本件店舗の営業に必要な印鑑彫刻機等の機材を購入するかリースにするかと質問され,リースを組むのであれば第三者の連帯保証人が必要であるとの説明があった。
(10)原告は,被告会社が作成したスケジュールに従い,同月30日から2月20日まで,途中土日等の休日を挟む正味約16日間,商品知識,接客,商品制作技術等について,研修を受けた(乙6)。
原告は,同年2月21日ころから27日まで毎日チラシを撒き,店舗周辺の商店への挨拶回り,商店街組合への加入などの開業準備をした。その間である2月22日には,本件店舗近くに駐車場2区画を賃借し,同月27日には,駐車場1区画を追加して賃借した。賃料はいずれも1区画8000円であった。
(11)平成18年2月28日,原告は,本件店舗において,被告会社のフランチャイジーとして「はんこ広場」足利店をオープンした。
同日から3月4日までの5日間,被告会社からは担当スーパーバイザーとして被告Y4が,営業担当としてBが足利店の応援に来た。その間,はんこの制作等は被告Y4が主に行い,また,同被告は,その合間に原告やパート従業員に対する技術指導・接客指導を行った。しかし,被告Y4は,合鍵の制作機械の操作を行うことはできなかった。一方,Bは,その5日間で,25件合計7万3660円を売り上げた。
3月4日,原告は,被告Y4から利益保証制度についての説明を受け,乙1に署名した。その際,原告は,利益保証制度の適用を受けるためには,開店日から毎日継続してポスティング500枚以上,営業訪問30社以上をしなければならないと思い,本件店舗では,開店日からこれを実施していなかったため,利益保証制度の適用を受けられないと思っていた。(しかし,乙1には,利益保証制度について「申請は月間単位とします」と記載されており,開店後1年内であれば,その途中の月からでも適用を受けることは可能とされていた。)
(12)本件店舗の売上げは,開業当初の3月は80万円近い売上げであったが,4月は46万円余,5月は34万円余と低落した。被告会社は,研修で指導したように営業訪問とポスティングに力を入れるようにと指導したが,本件店舗では,開店後しばらくしてパート従業員も印鑑彫刻機の操作を行えるようになったものの,合鍵制作業務は,原告自身の技術習得も不十分であったため,パート従業員に対する指導を行うこともできず,原告自身が行うほかなく,特に合鍵は顧客を待たせてその場で複製する必要があったため,原告は店舗を離れることができなかった。パート従業員は,6月末ころまで合鍵の制作を行うことができなかった。
(13)原告は,売上予測との乖離がひどいなどと被告Y4に苦情の電話を入れたところ,6月22日,Bが営業支援に派遣され,翌23日まで足利市内で営業訪問を行い,2日間で6件合計3万9000円の売上げを得た。その際の訪問件数は,22日が34件,23日が30件であった。
Bは,7月13日にも営業支援に訪れ,5件合計2万3970円の売上げを得た。同日の営業訪問件数は33件であった。
(14)原告は,同年6月の本件店舗の売上げが30万円を下回る程度にとどまったため,同年7月下旬,被告Y3に連絡し,「売上予測と実際の売上げの乖離が大きい」「職域ルートの紹介がない」「屋外に出すこともできない看板代金を返却して欲しい」などと訴えて,足利店への来店を求め,同年8月7日,被告Y3と被告Y4が本件店舗に来て話合いをした。その際,原告は,被告Y4に対し,足利店の損益分岐点売上げがいくらかと質問したところ,同被告は「100万円前後」と答えた。
原告は,その後,被告会社に対し本件店舗の経営不振について責任を追及する姿勢であり,これに対して被告会社は,被告ら代理人名の同年8月23日付内容証明郵便(甲24)により一定の譲歩を示したが,原告は,原告代理人弁護士名で損害賠償を求める旨の内容証明郵便(甲25)で返答し,当事者は紛争状態となった。
(15)原告は,同年8月31日ころ本件店舗の廃業を決意し,同年10月31日ころ,本件店舗建物を賃貸人に返還した(甲19の2によれば,従業員の勤務は,同年9月28日ころが最後と認められる。)。
2  被告会社の説明義務について
(1)フランチャイズシステムは,本部(フランチャイザー)が,加盟店から加盟金やロイヤルティの支払を得る代わりに,加盟店(フランチャイジー)に対し同一のブランドネーム・マークなどの使用を許し,店舗のイメージや提供する商品・サービスの内容・品質を同一ないし同等のものとすることにより,当該システム全体の認知度や信用を高め,加盟店の集客力ないし収益力を増大させることを主たる目的としており,そのために,本部は加盟店に対し,様々な物(店舗の内外装設備,機械,什器備品,仕入商品等)を提供するほか店舗経営上のノウハウ等の情報やサービスを提供する一方,当該システム全体の認知度や信頼性を維持するため,加盟店に対して様々な規制を課すこととしている。このため,これらの多岐に亘る給付に対して加盟店が支払う対価も,費目が多岐に亘ることとなるのが通例である。また,本部は,当該業界の状況や当該システムの効果について知識・経験を豊富に有するのに対し,加盟希望者は,程度の差はあれ,これらに乏しいのが一般であるから,加盟希望者としては,当該システムに加盟して開業するか否かを決断する際には,店舗の立地条件や開業後の収支見通しに関しても本部に対し情報提供を求め,与えられた情報に多くを依存してその決断をする場合が多いと考えられる。以上のことからすると,本部は,加盟希望者に対し,開業前ないし開業後に提供するもの(設備備品,ノウハウ,商品資材)とその価額,それらが開業にあたり必須のものであるか選択的なものであるか(店舗運営における必要性の程度),契約解除の要件と解除の場合の精算方法,本部が加盟店に求める規制とこれに違反した場合のペナルティなどについて具体的に明らかにするほか,立地条件や収支見通しについて加盟希望者に情報を提供する場合には,的確な情報を提供して,その判断を誤らせないように配慮すべき信義則上の義務があるというべきである。
(2)初期投資額,機材のリース料等について
原告は,平成17年12月9日に,被告Y3に対し,開業資金としてどのくらいかかるかと質問したところ,被告Y3は500万円くらいと答えた,見積書(乙13,14)の中で機材は店舗什器・備品に含まれていると思っていたところ,本件契約締結後に明らかにされた「はんこ広場」の店舗営業のために必要な機材の購入費は合計660万円余であり,そのほかに開業までに必要とした経費は797万9175円であったから,被告Y3による500万円程度で当該店舗営業を始められる旨の説明は虚偽であった,本件契約締結後に本件店舗経営に必要な機材の代金ないしリース料についてAから説明を受けたが,これは寝耳に水のことであったと主張ないし供述する。
しかし,被告Y3本人は,12月9日のやりとりについて,開業費については,「一般的には,開業資金に内外装等の物件取得費を加えた合計は,700~800万円くらいかかっているようです。」と答えた,機材はリース対象であるため,ランニングコストとして初期投資額に算入しないものとして説明した旨供述していること,前示のとおり,乙13,14は,本件契約締結時までに原告に提示されたと認められること,「はんこ広場」の店舗営業のために相当な機材が必要となることは,同業種に知識経験のない原告であっても,本件契約締結前に複数の店舗を案内され見学する過程などで気付いたはずであること,本件契約締結までに,原告は被告Y3と4回面談しており,重要であるはずの月額経費の予測ないしその内訳である機材に関する経費の予測が話題にならなかったとは考えにくいこと,乙13,14に示された什器備品の額は,機材費としては明らかに少額であることなどからすると,機材のリース料が寝耳に水の話であったとする原告本人の供述は,にわかに採用することができない。
けれども,原告本人及び弁論の全趣旨によれば,被告会社は本件契約締結前に機材の具体的な代金額又はリース料等を原告に対して開示しなかったことが認められるところ,本件店舗における実際のリース料及びレンタル料の合計額は月額25万円程度で,経費のうち相当に大きな部分を占めることからすれば,具体的なリース料等は,原告がはんこ広場のフランチャイジーとして開業するか否かを判断する上で,極めて重要な資料というべきであるから,被告会社としては,原告からこれについて特段の質問がなかったとしても,フランチャイザーの加盟希望者に対する信義則上の義務として,本件契約締結前に原告に対してこれを開示すべきであり,被告会社がこれを本件契約締結前に開示しなかったことは,その義務に違反したものというべきである。
被告Y3本人は,機材なしで開業するフランチャイジーもあり,機材は本件店舗営業に必須のものではない旨供述するが,原告が機材なしで開業し得たとはおよそ考えられないことからすれば,この供述をもって被告会社の上記説明義務違反を否定することはできない。
(3)売上予測,損益分岐点予測,利益率について
原告は,本件契約締結前に被告会社(被告Y3)の示した売上予測,損益分岐点予測,利益率が合理的な根拠がないものであったと主張するが,弁論の全趣旨によれば,本件店舗での経費の予測値は,上記のリース料・レンタル料を除いては,商品の仕入値を含めておおよそ開示されていたか,原告が認識ないし予測し得たものと認められるから,損益分岐点予測及び利益率に係る原告の主張は,前示のリース料・レンタル料が開示されなかった問題にほぼ帰着するというべきである。そこで,ここでは,被告会社の示した売上予測について検討する。
被告Y1及び同Y3本人によれば,本件店舗の売上予測を月額100万円ないし120万円としたのは,商圏を半径1キロ程度とした昼間人口を,「はんこ広場」の直営店ともう1店舗ないし2店舗の実績値をもとに作成した方程式に入れて算出したものであるが,予測値と実績値との間には3割程度の誤差は生じるものであり,そのことは原告にも説明したと思うという。そして,被告らは,本件店舗の開業当初1か月の売上げが約80万円であったのは,当該予測がほぼ正しかったことを裏付ける,開業から1年程度は苦労するのが当然である,本件店舗の経営不振は,原告が被告会社の指導に従わず,営業訪問やポスティング・ハンディングに消極的で,Bが開拓した取引先との関係も維持しようとせず,経費についても人件費,駐車場代,広告費などに無駄遣いが多かったからであると主張ないし供述する。
しかし,当該売上予測は,その具体的な算出過程を明らかにする証拠はない。思うに,本件店舗で行うはんこ制作,名刺等のデザイン・印刷,合鍵の制作は,必ずしも継続的な需要者を見込みにくい業種であると考えられ,売上予測を的確に行うことが元来困難なものではないかとも考えられるのであり,いずれにしても当該売上予測が合理的な根拠のあるものであったと認めるに足りる証拠はない。
また,乙2,乙3及び弁論の全趣旨によれば,被告会社が指導する営業モデルは,従来であれば顧客の方から来店・架電するなどして注文するのを店舗で待つスタイルを通例とするこの種の営業を,積極的な営業訪問による顔つなぎとチラシの配布等による地域における認知度の向上により需要を積極的に発掘するスタイルとするものであり,相当に高度の営業力と営業に割くことができる労働時間とが必要と考えられ,そのためには,フランチャイジーである経営者自身が外回りの営業活動に精力的に取り組むとともに,店舗を任せられる意欲と能力のある従業員を低賃金で雇えることが前提となると考えられるが,このような前提条件が平均的なフランチャイジーに期待しうるものであるのか疑問があるばかりでなく,当該業種が継続的取引関係を築きにくいと考えられるものであることからすると,このような営業モデルが投下労働力・投下資本に見合う売上げに結び付くものとなるのか,特に,オフィス街の集中する大都市とは異なる足利市のような地方都市においては,甚だ疑問というべきである。現に,Bが本件店舗の営業支援をした際の売上実績を見ても,日額平均2万円に満たない売上げでは,粗利益から固定的経費を除けば,Bの人件費をまかなえるかどうかすら疑問であるし,このような営業モデルが地方都市で成功している例があるとする証拠もない。以上によれば,被告会社の指導に従った営業活動を行うことで本件店舗の売上げが多少伸びることがあったとしても,また,本件店舗の経費を節約する余地が多少あったとしても,それにより本件店舗を黒字に転換し得たとはとうてい認め難いのであり,本件店舗の経営不振の原因を原告の責任にのみ帰せしめることはできず,ひるがえって,前記売上予測に合理的な根拠があったことを裏付ける証拠があるということはできない。
なお,原告は,被告会社の研修体制に不備があり,自己の技術習得も不十分な中で従業員に対する指導を行うことも困難であったため,開業後の顧客への対応が不十分なものとなったと主張する。しかし,従業員に対する指導はフランチャイジーの責務とされていたこと(本件契約書第31条),被告会社は,開業に必要な技術習得が被告会社による研修のみで足りることを保証していたとする証拠はないこと,他方,原告は,はんこ制作,印刷,合鍵制作の各業種について,それぞれ相応の技術水準が要求されることを店舗見学などを通じて知ったと思われるのに,約1か月半後には開業しようと決意して本件建物を賃借し,本件契約を締結したのであるから,相当な熱意を持って自己の技術習得とともに従業員に対する指導教育に取り組む必要があったというべきであることなどからすると,原告の主張事実のみから被告会社の研修体制に不備があったと認めることはできず,他にそのことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,被告会社は,本件契約締結に先立ち,原告に対し売上予測を告知するにあたり,その予測値が確たる根拠があるものではなく,原告がこれに期待を抱くことのないように説明すべき信義則上の義務があったというべきであるが,前記認定のとおり,被告会社の従業員である被告Y3は,このような説明をせず,その予測値が相当な根拠があるものとして説明したことが認められるから,被告会社には,その説明義務に違反したというべきである。
(4)職域ルートについて
原告は,被告Y3が被告会社として本件店舗のために毎月2社から3社を職域ルートとして開拓すると約束したと主張する。しかし,甲1の1には,「本部が官公庁,大企業への職域ルートを開発!!」の標題の末尾に「500ヶ所以上,毎月2~3社開拓!」との記載があることからすると,「毎月2~3社開拓」というのが本件システム全体としてのことであると解するのが自然であり,他方,被告Y3が足利店のみのために毎月2社から3社を開拓すると原告に対し約束した事実を認めるに足りる証拠はない。
しかし,前示のとおり,甲1の2には,「本部は加盟店の契約時,5~8社の職域ルートを責任をもって開拓」する旨の記載があり,被告Y3は原告に対し特に留保なく「職域ルート」を紹介する旨説明し,被告会社は原告からその開拓費用として52万5000円を徴収した事実が認められるのに,被告会社が現実に原告に対し職域ルートを紹介したことはなかったことが認められる。この点について,被告らは,本件店舗の開業当初,Bが足利市内の多数の事業所等に営業訪問を行い,若干の売上げを獲得したことを主張するが,甲1の1,甲3,被告Y1,同Y3本人によれば,「職域ルート」の意味は,官公庁や大企業の指定業者として社内販売,展示販売等を行える取引関係であるとのことであるから,Bのしたことは,職域ルートの開拓には当たらないというべきである。
また,被告らは,職域ルートは自店舗の運営が軌道に乗った段階で紹介できる性質のものである旨主張し,被告Y1,同Y3本人もその旨供述するが(ただし,被告Y1本人は,原告に対し何時でも職域ルートを紹介できる状態であったが,開業直後の本件店舗はそれに対応できる状態になかったと述べ,被告Y3本人は,職域ルートの紹介は,申請に基づいて審査を行う必要があると述べており,職域ルート紹介の要件は曖昧である。),被告会社が「はんこ広場」の信用を傷付けることのないよう,当該フランチャイジー店舗の経営が安定し,その提供する商品ないしサービスが一定水準以上であることを見極める必要があることは理解しうるものの,被告会社は原告にそのことを説明しなかったため,原告は,本件店舗開業後すぐにでも「職域ルート」の紹介を受けることができ,それが売上げに寄与するものと理解して本件システムへの加盟の動機としていたことが認められ,そのような理解は,原告が当時与えられていた情報からすれば必ずしも不合理なものではないから,上記のとおり被告会社が職域ルートの開拓・紹介を本件システムの売り物の1つとしながら,これを紹介する要件について本件契約に先立ち説明していなかったことは,原告に対する信義則上の説明義務に違反したものというべきである。
もっとも,被告らが職域ルートの意味として言うところの「指定業者」とは,取引先と具体的にどの程度の拘束性・持続性のある関係であるのか全く不明であり,フランチャイジー店舗がそれを紹介してもらうことで売上げにどの程度寄与するのか明らかでなく,原告が売上げに寄与すると期待したことについては,客観的に見れば,合理的な根拠があったということはできない。甲1ないし3の被告会社作成の資料等には,「職域ルート」のほかに「外販ルート」という言葉も使用されており,「外販ルート」とは外回りの営業のことを意味し,「職域ルート」とはその一内容として位置付けられているかのようであり,甲1の2に表示されたA店舗,B店舗の「外販」の売上高の例は,必ずしも職域ルートの直接の効果によることを意味するものと見ることはできない。職域ルートが売上げに寄与する旨の記載は,具体的な根拠は示されておらず,セールストークの域を出ないものとも解しうる。ただ,これらの資料では,職域ルートと外販ルートの意味の違いは明らかにされておらず,一見すると,職域ルートが売上げ向上に直接結び付くかのような誤解を生じるおそれのあるものであることは否定できないのであり,その記載内容も説明不十分というべきである。
(5)利益保証制度について
原告は,利益保証制度が営業訪問30件,ポスティング(ハンディング)500件の営業活動を実施することが要件であることを平成18年3月4日まで知らなかったと主張する。確かに,原告が当初被告会社から交付された「加盟店利益保証制度」と題する書面(甲4)にはその要件及び保証される利益の算出方法(以下「利益保証の要件等」)についての記載がなく,その詳細は,3月4日付で作成された乙1により初めて明らかにされたことが認められる。しかし,同年1月14日に締結された本件契約書(乙11)の第36条にも,「毎日,営業訪問30件とポスティング500枚を実行すること」が利益保証の要件であること及び保証される利益の算出方法が明記されていたのであり,この点,本件契約締結に際して同契約書の読み合わせは行われていないと原告は主張するが,被告Y3本人は読み合わせをした旨明確に供述しており,原告本人によっても同契約の締結は相当な時間をかけて行われたことが窺われ,また,原告がその内容に無頓着に署名押印をしたとは考えにくいことからすると,本件契約締結時に利益保証の要件を知らなかったとする原告本人の供述・陳述は採用することができない。
もっとも,原告は,本件契約締結に先立ち,本件店舗建物の賃貸借契約を締結し,被告会社に対して加盟金等を支払っていたのであり,本件契約に際して本件契約書を見て利益保証の要件等を知ったからといって,その時には既に本件契約を締結しないという選択はしにくい段階にあったと考えられるから,被告会社としては,本件契約時に利益保証の要件等を開示したのでは遅きに失したというべきで,このことは,原告に対する信義則上の説明義務に反するというべきである。
そして,原告本人は,適用要件について特段の定めのない利益保証制度の存在は,被告会社がフランチャイジー店舗の収益性に対して自信と責任を持つことを表していると理解していたと言うのであり,また,そのような理解は,与えられていた情報(甲4)に鑑みて不合理なものではないから,利益保証の要件等に関する上記説明義務違反は,原告の加盟判断に影響を及ぼしたものと認めることができる。
なお,被告らは,乙31,32を提出して,営業訪問30件とポスティング500枚は4時間半程度で行うことが可能であると主張し,被告Y3もこれに沿う供述をするが,それが不可能ではないとしてもかなり困難な仕事であることは,Bの営業訪問の実績からも窺われるというべきである。このことに関して被告Y1,同Y3本人は,Bは本部の業務もしていたから営業訪問数が少なくなったと述べるが,仮に本部の業務に関して電話等をすることがあったとしても,それが営業訪問数に大きな影響を及ぼすほど時間のかかるものであったとは考えにくく,また,そのことを認めるに足りる証拠もない。以上によれば,被告らの上記主張を採用することはできない。
(6)法定開示事項等について
原告は,被告会社が中小小売商業振興法11条1項,同法施行規則10条が要求している開示事項(特に,直近5年間におけるフランチャイジーとの間の係属訴訟数及び直近3事業年度の加盟店数の推移)を原告に開示しなかったと主張する。
確かに,本件契約締結にあたり,被告会社が上記法定開示事項を原告に開示した事実を認めるに足りる証拠はない。
しかし,本件契約当時,被告会社はフランチャイジーとの間の訴訟は係属していなかったというのであるから(直近5年間に訴訟継続があったとする証拠はない。),被告会社がそのことを明らかにしなかったことは,特に問題にするにあたらない。
また,加盟店数の推移については,被告Y1本人は,これまでに「はんこ広場」のフランチャイジーとして開業した店舗は,160店前後で,うち50店前後が廃業したにとどまり,廃業率は他のフランチャイズシステムとの比較して低いと思う旨述べており,この供述は,具体的な店舗の場所ないし名称を明らかとしたものではなく,裏付けに乏しいというべきであるが,いずれにしてもその数値が原告に「はんこ広場」への加盟を思いとどまらせる程度のものであったとする証拠はなく,その開示義務違反が原告の加盟決意に影響を及ぼすものであったと認めることはできない。
けれども,被告会社に法定開示事項を開示しない違法のあった事実は,被告会社の信頼性に関わるものであり,原告が本件契約締結に際してこれを知っていたなら(知っていたとする証拠はない。),契約締結に消極的となった可能性があるというべきである。
(7)まとめ
以上のとおり,被告会社は,原告に対する信義則上の説明義務を怠ったというべきであり,これらが原告の本件システムへの加盟判断に重要な影響を及ぼしたことが推認されることからすると,被告会社によりこれらの説明義務が尽くされて原告に的確な情報が与えられていた場合には,原告が本件契約締結に至らなかった高度の蓋然性があるというべきである。
なお,原告は,新規加盟希望者御礼金規定(甲5)や,被告Y2が被告会社の常務取締役を名乗りながら取締役として登記されていなかったことを問題にするが,これらの事実が被告らの不法行為又は債務不履行と関連性があるとは認められない。
3  主位的請求(被告らの不法行為責任)について
原告は,被告Y3,同Y4に説明義務違反等による不法行為があり,被告会社はその使用者として,被告Y1,同Y2は被告Y3,同Y4の説明義務違反等を指示・承認していた共同不法行為により,いずれも原告に対し損害賠償義務を負担する旨主張する。
しかし,上記2のような説明義務に関しては,本件契約締結の一方当事者となることが予定されていた組織体としての被告会社が当該義務違反の生じないように注意すべき立場にあったことは認められるものの,被告会社の営業担当に過ぎない被告Y3としては,原告に対してどの段階でどの程度の説明を行うべきであったかが必ずしも明らかとは言い難く,また,被告会社のホームページや被告会社が原告に送付した資料の記載内容にも,上記のとおり説明不十分な点があり,原告はこれらの記載内容にも相当な影響を受けていたことが窺われることからすると,被告Y3に当該義務違反の責任があると認めるには足りないというべきである。よって,原告の被告Y3に対する不法行為に基づく請求は理由がない。このことは,本件契約成立後,本件店舗の開業支援や経営指導に従事したに過ぎないと認められる被告Y4についても同様である。そうすると,これら被告両名に不法行為が成立することを前提とするその余の被告らに対する原告の請求についても理由がないというべきである。(なお,被告Y1は,被告会社の代表取締役として,本件システムに係る営業活動全般において,加盟希望者に対する説明義務違反が生じないよう注意すべき義務があり,そのために適切な営業方法の構築と従業員教育・営業管理を行うべき義務があったと言いうる可能性はあるが,ここでは論じない。)
以上の次第であるから,原告の被告らに対する主位的請求は,いずれも理由がない。
4  予備的請求(被告会社の債務不履行責任)について
一方,上記の認定判断によれば,本件契約の当事者である組織体としての被告会社は,本件契約締結に至る過程において,売上予測の根拠,使用機材のリース料,職域ルートの内容及びその紹介の要件,利益保証の要件等について,フランチャイザーとしての加盟希望者に対する信義則上の説明義務を尽くしていたとは認められず,これにより,原告が本件契約を締結してはんこ広場のフランチャイジーとしての営業を始めるか否かについて,原告に合理的な検討・判断を行うことを困難にさせたと認めるのが相当であり,上記説明義務が尽くされていれば原告が本件契約の締結ないし本件店舗の経営をするに至らなかった高度の蓋然性を認めることができるから,被告会社は原告の本件店舗開業により生じた損失について,損害賠償として相応の負担をすべきものと認める。
5  損害
原告の主張する損害のうち,本件店舗の開業から廃業までの累積赤字及び逸失利益ないし慰謝料については,弁論の全趣旨によれば,原告のさらなる営業努力と創意工夫によって経費の節減と売上げの伸張を図る余地があった可能性も考えられるから(ただし,それによって黒字転換する可能性があったとまで認められないことは前示のとおりである。),その主張額の全てが被告会社の上記債務不履行と相当因果関係のある損害であるとまでは認めることができない。そのことを含む本件に現れた一切の事実・事情を考慮すると,原告の主張する損害(弁護士費用を除く。)のうち,2000万円をもって上記説明義務違反と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
6  過失相殺
およそ新規開業は常にリスクを伴うものであり,被告会社が本件店舗の経営失敗を予見可能であったと認めるに足りる証拠はなく,原告は,そのリスクを本来的に負担すべき立場にあったのであるから,原告としては,被告会社から得る情報に多くを依存していたとしても,積極的に開業費用や収支予測に関する情報を収集し,主体的に本件システムへの加盟ないし本件店舗での開業の成否を検討予測する必要があったというべきところ,①被告会社の示した本件店舗の売上予測については,前示のとおり,当該業種の需要の傾向等に鑑みて,的確を期し難いことが想定可能なものであったと考えられるし,その数値がどの程度の根拠を有するものであるか,類似の市場環境にある店舗の実績値等の情報収集を行い判断することも可能だったはずであること,また,商圏の市場としての経済環境は,被告会社の従業員よりむしろ地元である原告の方が把握しやすい立場にあったと考えられること,②機材のリース料等については,前示のとおり,原告としても他店舗の見学等を通じて必要とする機材を知り得たはずであるから,ある程度の費用負担は予測できたはずであり,原告の方からもその購入費又はリース料について確認すべきであったこと,③職域ルートの内容とそれが売上げに寄与する程度に関して示されていた情報は曖昧なものであり,原告がこれに期待を寄せるだけの根拠があったとは認められないこと,以上の諸事情を考慮すると,本件における原告の過失割合は,8割をもって相当と判断する。
そうすると,被告会社が原告に対し負担すべき損害賠償額は,次のとおり400万円と認められる。
2000万円×(1-0.8)=400万円
7  結論
よって,原告の主位的請求をいずれも棄却し,原告の被告会社に対する予備的請求は,400万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成18年12月24日)から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し,主文のとおり判決する。
(裁判官 針塚遵)

 

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