
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(96)平成21年11月26日 東京地裁 平20(ワ)24635号 業務委託料請求事件、不当利得返還反訴請求事件
「営業アウトソーシング」に関する裁判例(96)平成21年11月26日 東京地裁 平20(ワ)24635号 業務委託料請求事件、不当利得返還反訴請求事件
裁判年月日 平成21年11月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)24635号・平21(ワ)5596号
事件名 業務委託料請求事件、不当利得返還反訴請求事件
裁判結果 本訴請求認容、反訴請求棄却 文献番号 2009WLJPCA11268026
要旨
◆企業経営のコンサルタント等を業とする原告が、理学診療用機器の開発等を業とする被告との間で被告の営業支援に係る業務委託契約を締結し、原告は旧商品から本件商品への切り替え受注を実現したほか、新規の見込顧客を獲得したのであり、被告に対し、委託料等を請求できるとして、被告に対し、未払の委託料を請求(本訴)したところ、被告が原告に対し、本件契約は解除されたとして、支払済みの金員の返還を求めた(反訴)事案にいて、本件契約は収益向上に向けたコンサルテーションを行うことを目的とする準委任契約ないしはこれに準ずる契約であり、原告はその履行として営業活動を行っているから、被告に対し、合意解除までの期間、委託料を請求することができるとし、また、合意解除はそれまでに発生した請求権に影響を及ぼさないなどとして、本訴請求を全部認容する一方で、反訴請求については棄却した事例
参照条文
民法656条
裁判年月日 平成21年11月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)24635号・平21(ワ)5596号
事件名 業務委託料請求事件、不当利得返還反訴請求事件
裁判結果 本訴請求認容、反訴請求棄却 文献番号 2009WLJPCA11268026
平成20年(ワ)第24635号 業務委託料請求事件
平成21年(ワ)第5596号 不当利得返還反訴請求事件
東京都千代田区〈以下省略〉
原告(反訴被告) 株式会社セレブリックス
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 久保健一郎
群馬県前橋市〈以下省略〉
被告(反訴原告) 株式会社シェンペクス
代表者代表取締役 B
訴訟代理人弁護士 高坂隆信
主文
1 被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)に対し,814万4550円並びにうち265万9060円に対する平成20年7月1日から,うち282万3750円に対する同年8月1日から及び266万1740円に対する同年9月1日から各支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
2 被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,本訴被告(反訴原告)の負担とする。
4 この判決第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
主文第1項と同旨
2 反訴
原告(反訴被告。以下「原告」という。)は,被告(反訴原告。以下「被告」という。)に対し,579万4770円及びこれに対する平成21年2月26日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 前提事実(争いがない事実,裁判所に顕著な事実及び後掲証拠により容易に認定できる事実)
(1) 原告は,企業経営におけるコンサルタント業務等を業とする株式会社であり,被告は,理学診療用機器の研究開発等を業とする株式会社である。被告は,平成18年10月25日,民事再生手続において再生計画認可決定を受けた(乙11)。
(2) 原告と被告は,平成20年2月1日,原告が被告に対し,被告の営業支援等に係る下記業務を業務委託料金(以下「委託料」という。)3465万円(消費税込み。以下同じ。)で行う旨の業務委託契約(以下「本件契約」といい,同契約書面〔甲1〕を「本件契約書」という。)を締結した。
記
① テストセールス(平成20年2月,3月実施)
② 営業スタッフ派遣(具体的には,原告職員が被告内部の業務を代行する形式のコンサルテーションを行うこと)
(3) 原告と被告は,本件契約において,委託料の支払につき,平成20年3月末日限り315万円を,並びに同年4月から平成21年3月まで,毎月末日限り262万5000円を書面で請求し,同請求を受けた日の属する月の翌月末日限り同額を支払うこと,及び支払を遅延したときは年14.6%の割合による遅延損害金を支払うこと,また,本件業務遂行に必要な費用(以下「必要経費」といい,委託料と併せて「委託料等」という。)については,被告の負担とし,委託料の請求,支払と併せて同時に支払うことを合意した。
(4) 原告と被告は,本件契約において,原告又は被告が,相手方の債務不履行その他正当な理由に基づき,本件契約を解除する場合,本件契約は,将来にわたって効力を失うものとすることを合意した(甲1〔4条〕)。
(5) 被告は,平成20年5月14日に315万円,同年7月1日に同年4月分の委託料等264万4770円を支払ったが,同年5月分以降の委託料等の支払いをしていない。
(6) 原告は,委託料等として,平成20年5月分265万9060円,同年6月分282万3750円,同年7月分として266万1740円の支払いを各月末日に発送した書面で請求した。
(7) 本件契約は,平成20年7月31日をもって,合意解除された(以下「本件解除」という。)。
(8) 被告は,原告に対し,第5回弁論準備手続期日(平成21年5月25日)において,後記損害賠償債権を自働債権とし,原告の本訴請求債権(上記(6)及び遅延損害金債権)を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした。
2 本件は,原告が被告に対し,本件契約に基づき,上記1(6)の委託料等及び遅延損害金の支払いを求めた(本訴)のに対し,被告が原告に対し,不当利得に基づき既払分の委託料等(上記1(5))の返還又は債務不履行に基づく損害賠償の支払いを求めた(反訴)事案である。
3 主たる争点及び当事者の主張
(1) 本件契約の内容等(原告が行った業務の内容,合意解除の効力を含む。)
(原告の主張)
ア 本件契約は,被告の営業支援を内容とする準委任契約であり,被告の具体的な営業成績の実現を目的とする請負契約ではない。原告は,被告に対する営業支援活動を行い,被告が取り扱っていたリラクセーションチャンバー(以下「旧商品」という。)からキャビン型高気圧環境機器(以下「本件商品」という。)への切替受注(合計1047万5000円)を実現したほか,東洋大学,相撲協会など新規の見込顧客を獲得したものであり,被告に対し,委託料等の請求をすることができる。
なお,業務報告書(甲9)の「受注欄」や「売上粗利推移グラフ」は受注目標ではなく,受注実績についての記載欄であり,被告主張の根拠となるものではない。
イ 本件契約は合意解除されているが,本件契約において,解除の効力は将来に向けて効力を有することが定めているから(前提事実(4)),原告が受領した委託料等が不当利得になるものではない。被告は,上記解除が債務不履行解除であるとも主張するが,遡及効がないことに変わりはない。
(被告の主張)
ア 本件契約は,被告の本件商品の売り上げを増加させることを内容とする請負契約である。被告は,本件契約を締結するに当たり,原告代表者C(以下「C」という。)から,本件契約を締結することにより,新規顧客を開拓し,間違いなく売り上げを伸ばすことができると言われ,本件契約を締結することにした。原告作成の業務報告書に「受注欄」や「売上粗利推移グラフ」が設けられていることも,このことを裏付ける。
本件契約において,平成20年2月及び3月は,原告による事業戦略構築,事業モデル構築,営業戦略構築及びテストセールスの期間とされ,同年4月以降は,市場開拓推進による事業の収益向上の期間とされた(乙2)。すなわち,同年4月以降は,原告において新規顧客との間で契約を成立させ,売上げを増加させることが契約の内容とされていた。そして,同年2月及び3月は,そのための準備期間とされた。
本件契約において,被告は,原告に対し,月額250万円を支払うことになっていたが,この費用を賄うためには,少なくとも毎月2台ないし3台の被告製品の販売が実現させなければならない。したがって,原告は,同年4月以降,少なくとも1か月当たり3台の販売契約を実現させる債務を負っていた。しかるに,原告は,平成20年2月及び3月になすべき事業戦略構築等やテストセールスを行わず,同年4月以降,1台の成約も実現できなかった。
よって,原告は被告に対し,本件契約に基づき報酬請求をすることはできない。
イ そして,本件契約は原告の債務不履行により解除又は合意解除がされているから,支払済みの報酬は,原状回復又は不当利得として被告に返還されるべきである。
(2) 原告の損害賠償義務の有無
(被告の主張)
原告は,旧商品による既存の収益基盤を安定かつ多様化しつつ,しかるべき時機が到来した際に,本件商品への切り替えを提案するとの長期的営業手法によるべきであるとの基本路線を明確にしていた。
しかし,被告は,本件契約締結当時,旧商品の製造販売を行っておらず,本件商品の販売に生き残りをかけていたのであるから,原告が主張する上記方針は,被告の基本的な経営方針に沿わないものであった。したがって,原告は,本件契約締結の際,遅くともテストセールス終了時点において,この基本方針を被告に伝える法的義務があり,その義務が履行されていれば,被告は,本件契約の締結ないしは継続をしなかった。しかるに,原告はこれを被告に伝えず,本件契約を締結し,これを継続して,毎月の報酬金合計579万4770円を受領したものであり,原告は,上記金額相当額の損害について賠償する義務がある。
(原告の主張)
原告は,被告が民事再生により企業イメージが低下していたこと,本件商品が高額であること,本件テストセールスを経た感触等を踏まえて,上記基本路線が相当であると考え,同路線を基軸にした経営指導を行ってきた。原告は,この方針を被告に伝えており,原告において,被告が主張するような法的義務違反はない。
第3 裁判所の判断
1 争点1(本件契約の内容等)について
(1) 前提事実,証拠(甲1,3~26,乙1,2,5,8,13,原告代表者本人,被告代表者本人〔書証番号については,枝番の記載を省略する。〕)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告と被告は,本件契約書を作成することにより,本件契約を締結した。本件契約書には,業務委託契約書の名称が付され,本件契約は,原告が被告に対し,収益向上に向けたコンサルテーションを行うことを目的とすること(1条),原告が被告に対し委託するコンサルテーションの内容は,テストセールス(平成20年2,3月実施)と営業スタッフ派遣(マネージャークラス)であること(2条),平成20年2月1日から同21年3月末日までの契約期間(4条)における上記委託業務の対価は3300万円であり,これを同年3月に300万円,その後,各月250万円の分割で支払うこと(5条,6条)などが記載されている。
イ 本件契約を締結した際,被告代表者B(以下「B」という。)は,Cに売上の増加を具体的に約束させたり,売上の増加を契約書に明記することを求めなかった。
ウ 原告の会社案内(乙1)には,企業理念として,収益向上という「実績の果実」を提供していくことを使命とすること,「入り込み型営業コンサルティングサービス」として「事前にお約束した目標達成を実現します。」という記載,「営業アウトソーシング」として「成果コミット型での対応が可能」という記載がある。また,原告が被告に交付した平成20年2月5日付け提案書(乙2)には,売上シミュレーションという項目があり,これには,平成20年度の売上が8億円,平成24年度の売上が23億2000万円と記載されている。もっとも,同項目には,これがあくまで仮説であることが注記されている。
エ 本件契約にいうテストセールス期間中の平成20年2月及び3月,Cは,キャリアバンク,穴吹工務店及び同志社大学などを他の案件で訪れた際,本件商品の設置可能性などを打診し,また,Bと面談して,被告の経営相談を行った(この期間の原告担当者は,CとDであり,両者は業務を適宜分担して行った。)。同年4月15日以降,原告社員のE(以下「E」という。)が本件業務の担当となり,本件契約に関するスケジュール表(甲3。以下「本件スケジュール表」という。)を作成し,被告に交付するなどした。本件スケジュール表には,月ごとの行動及び目標欄があり,それには,5月アポイント10件,6月アポイント44件,7月関東圏店舗全訪問,8月2600万円,9月5850万円の記載がある。Eは,競合他社調査や市場調査等を行い,後記のとおり,旧商品からの切替導入や新規顧客の獲得に向けた営業を行い(Cが同行したこともあった。),これに基づき,各月ごとの業務報告書(甲9。以下「本件報告書」という。)を作成し,被告に交付した。本件報告書には,受注欄があり,これには企業名や売上の記載欄がある。また,その下には,売上実績と粗利実績を記入するグラフ欄がある。
オ 被告は,もともと旧商品を中心に製造販売を行っていたが,旧商品に対する問題点が指摘されたことなどから,平成18年11月ころには旧商品の製造は中止していた。被告は,その後,本件商品を主力商品として製造販売する営業方針を採っており,このことは原告も被告から説明を受けて知っていた。もっとも,Cは,本件商品が高額商品であったこと,被告が民事再生中の会社で企業イメージが低下していたこと及びテストセールス期間中の訪問企業の反応などを踏まえ,まずは旧商品の保守サービスをしっかり行って信用を高めるとともに,今後の市場調査等を踏まえ,時機を見て本件商品の販売を本格化させることを考えた。ところが,平成20年5月ころ,旧商品につき,重大事故発生の危険性が報道されたたため,被告は,旧商品を自主回収(リコール)することとなり,その後は,旧商品の販売先に本件商品への切替を勧めるとともに新規顧客獲得のための営業活動を行った。原告は,この切替導入により,1047万5000円相当の売り上げを上げたが,本件解除に至るまで,新規顧客との契約は1件も成立させることはできなかった。
(2) 上記(1)の各事実(特にアイの事実)によれば,本件契約は,収益向上に向けたコンサルテーションを行うことを目的とする準委任契約ないしはこれに準ずる契約であると解するのが相当であり,原告は,その履行として,同エオの事実のとおり,各営業活動を行っているから,被告に対し,合意解除までの期間,約定どおりの業務委託料を請求することができる(合意解除は,それまでに発生した同請求権に影響を及ぼさない。)。
被告は,本件契約は請負契約であることを前提に,原告に対し,月額250万円を支払うことになっており,この費用を賄うためには,少なくとも毎月2台ないし3台の被告製品の販売が実現させなければならず,原告は,同年4月以降,少なくとも1か月当たり3台の販売契約を実現させる債務を負っていたと主張する。
上記のとおり,原告の業務内容は,顧客の売上を伸ばし,その収益を上げるためのコンサルテーションを行うものであることからすれば,原告が,被告に対する業務内容の説明の中で,被告の売上を伸ばす旨の言動をした可能性は高いと思われるし,このような説明を聞いた被告が,本件業務委託料に見合う成果を期待するのも自然なことといえる。しかし,本件契約書上,被告主張のような成果実現が原告の債務内容になっているわけではなく,被告代表者自身,原告代表者から,具体的な数字を踏まえた成果の約束をさせたわけではないことを自認している。上記(1)ウエの各事実も,被告の上記主張を直接立証するものではなく(本件スケジュール表に記載されているのも,あくまで「目標」であり,しかも,平成20年7月時点では,未だ成果〔成約〕は予定されていない。),その他,本件において,被告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
2 争点2(原告の損害賠償義務の有無)について
前記のとおり,Cは,テストセールス期間中の訪問企業の反応などを踏まえ,まずは旧商品の保守サービスをしっかり行って信用を高めるとともに,今後の市場調査等を踏まえ,時機を見て本件商品の販売を本格化させるという基本方針を立てた(この事実は,当事者間に概ね争いがない。)。そして,前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,上記基本方針は,旧商品の保守サービスを行う中で,本件商品への切替を働きかけることや新規顧客への営業活動も並行して行う趣旨を含むものであることが認められ(前記のとおり,実際にも,E及びCは,旧商品のリコール以前から本件商品への切替導入や新規顧客獲得のための活動も行っている。),Cが,このような基本方針をBに伝えたことも認められる。
被告は,このことを否定し,上記基本方針は被告の経営方針に沿わないものであり,この方針を被告に伝えなかったことは債務不履行に当たると主張するが,上記のとおり,上記基本方針は,旧商品の保守サービスだけを行うものではなく,被告に対する営業支援内容として合理的なものであり,被告に秘匿すべき理由もないから,原告内部にとどめておいたとは考えられない。被告の上記主張は採用できない。
第4 結論
以上によれば,原告の本訴請求は理由があり,被告の反訴請求は,その余の点を考慮するまでもなく理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 廣谷章雄)
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