判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(211)平成24年 1月26日 東京地裁 平22(ワ)25783号 コンサルティング料請求事件
判例リスト「完全成功報酬|完全成果報酬 営業代行会社」(211)平成24年 1月26日 東京地裁 平22(ワ)25783号 コンサルティング料請求事件
裁判年月日 平成24年 1月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)25783号
事件名 コンサルティング料請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2012WLJPCA01268015
要旨
◆原告が、主位的に、被告との間で、被告とブルネイ・ダムサラーム国(ブルネイ)のファンド事業設立に向けてのコンサルティング契約を締結したとして、同契約に基づく報酬の支払を求め、予備的に、原告は仲立に関する行為を行うことを業とする商人であるところ、その営業の範囲内において、被告がブルネイとの共同ファンド事業を設立するために被告とブルネイ政府関係者とを結びつけ、被告とブルネイ政府との共同ファンド設立の仲立行為をしたとして、商法512条に基づく報酬の支払を求めた事案において、原告と被告との間で、原告主張のコンサルティング契約が締結されるに至ったと認められず、また、原告の各行為と被告・ブルネイ間のファンド事業設立に係る合意の成立との間に因果関係があるとはいえないなどとして、請求を棄却した事例
参照条文
商法502条11号
商法512条
商法550条
裁判年月日 平成24年 1月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)25783号
事件名 コンサルティング料請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2012WLJPCA01268015
東京都世田谷区〈以下省略〉
原告 X
同訴訟代理人弁護士 小林芳男
同 加藤悟
同 平石喬識
同 一杉昭寛
同 大岡雅文
東京都港区〈以下省略〉
被告 SBIホールディングス株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 飯田耕一郎
同 田中浩之
同 近澤諒
同 辰野嘉則
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,金3000万円及びこれに対する平成22年7月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,主位的に,①原告が,被告との間で,被告とブルネイ・ダムサラーム国(以下「ブルネイ」という。)のファンド事業設立に向けてのコンサルティング契約を締結したとして,同契約に基づく報酬の支払いを求め,予備的に,②原告は仲立に関する行為を行うことを業とする商人であるところ,その営業の範囲内において,被告がブルネイとの共同ファンド事業を設立するために被告とブルネイ政府関係者とを結びつけ,被告とブルネイ政府との共同ファンド設立の仲立行為をしたとして,商法512条に基づく報酬の支払いを求めた事案である。
2 争いのない事実
(1) 被告は,ファンド運営等のアセットマネジメント事業等を目的とする株式会社である。
(2) 被告は,ブルネイ財務省との間で,平成22年3月25日,アジアを中心としたイスラム適格の有望な企業を投資対象とするプライベート・エクイティ・ファンドを共同設立することを最終合意し(以下同合意を「本件合意」という。),また,被告のグループとブルネイ財務省の双方出資により合弁でファンドマネジメント会社をブルネイに設立することを予定している。
本件合意における共同ファンドに拠出されるファンド額は,合計5000万米ドルである。
3 争点
(1) 原告と被告のコンサルティング契約の成立の有無(主位的請求関係)
(2) 原告の行為と,被告・ブルネイの間の本件合意の成立との間の因果関係の有無(予備的請求関係)
4 争点についての当事者の主張
(1) 原告と被告のコンサルティング契約の成立の有無(主位的請求関係)
① 原告の主張
原告は,平成20年2月23日に,被告との間で,ブルネイにおけるファンド事業設立に向けてのコンサルティング契約を締結した。
すなわち,原告は,被告のCEO’s OfficeマネージングダイレクターであるB(以下「B」という。)との間で,原告がビジネスとして行動することを明確にした上で,Bから被告のブルネイ訪問のスケジュールのアレンジを依頼され,成功報酬の算定方法についても後日協議することとなった。このような状況の下,原告は,平成20年2月23日,ブルネイナショナルデーパーティーで被告の代表取締役であるA(以下「A」という。)と会い,Aから改めて,ブルネイにおけるファンド事業設立に向けてのコンサルティング業務を依頼され,原告と被告との間で,コンサルティング契約が成立したものであり,報酬については,後日協議して決定する旨の合意及び協議が成立しない場合には一般的な報酬の決定方法による旨の合意があった。
被告とブルネイの間で合意された共同ファンドのファンド額は5000万米ドルであり,その半分の被告拠出額の少なくとも3パーセントにあたる75万ドル,日本円で6900万円相当(1ドル92円換算)が本件コンサルティング契約の報酬として相当である。
よって原告は被告に対し,上記6900万円の一部請求として3000万円及び訴状送達の日の翌日である平成22年7月17日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
② 被告の主張
被告は,原告との間で何らの契約も締結したことはない。
原告は,被告とブルネイ財務省の関係が始まったごく当初の時期に,半ば強引に関与の足跡を残しただけで,コンサルティングその他,対価の支払いに値するような行為は一切行っていない。
(2) 原告の行為と,被告・ブルネイ間の本件合意の成立との間の因果関係の有無(予備的請求関係)
① 原告の主張
原告は,従前,自己の名をもって,各金融機関のファンド設立及びそのファンドへの顧客紹介による仲立行為を反復継続して行っており,商法502条11号の仲立に関する行為を行うことを業とする商人であるところ,その営業の範囲内において,被告がブルネイとの共同ファンド事業を設立するために被告とブルネイ政府関係者とを結びつけ,被告とブルネイ政府との共同ファンド設立の仲立行為をした。
被告とブルネイとの共同ファンド設立は,ブルネイ政府の重要人物らと強い繋がりを持ち,ブルネイ政府に影響力が強い原告の力添えなくしては成立しなかったものである。
なお,原告が行った行為の相当報酬額は,前記(1)①に述べたとおり6900万円もしくはM&Aアドバイザリー業務の手数料の計算方式であるリーマン方式により算出される35万ドルすなわち3220万円(1ドル92円換算)であり,原告はその一部請求として,(1)①に述べたのと同額の支払いを求める。
② 被告の主張
原告に商法512条に基づく報酬請求権が認められるためには,原告の行為と被告・ブルネイ間の本件合意との間に因果関係があることが必要であるところ,原告は,被告とブルネイの実質的な交渉には一切関与していないのであり,原告の行為と本件合意との間に因果関係はない。
また,原告の行った行為は,M&Aのコンサルティングとは質的にも量的にも到底比べものにならないものである。
なお,本件における原告の行為は,ブルネイ政府のために行われたものであり,被告のために行われたものではない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
証拠(甲1ないし12,15,16,乙1,証人B,原告,なお〔〕内は頁数を示す。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 原告は,昭和59年から平成2年まで大和證券株式会社のシンガポール支店に勤務し,同社退職後,平成7年12月から平成12年2月まで,ブルネイ投資庁に勤務し,平成12年以降は,JB Capital Investmentの名称でコンサルティング業を行っている。
(2) 被告は,東京証券取引所一部上場企業である。
(3) 被告は,平成19年11月6日,ブルネイの駐日大使から,同月26日にaホテルにおいて,ブルネイ国際金融センター(以下「BIFC」という。)が開催する予定の「ブルネイ王国の金融投資機会について」と題するセミナーの招待状を受け取った(甲2)。
同セミナーは,日系企業の事業進出や投資をブルネイに誘致する目的で開催されたものであり,原告は,ブルネイ財務省からの依頼で,同セミナーの開催に協力し,日系金融機関招待客リストの作成に関わった。
(4) 同月26日,上記セミナーが開催され,その中で,原告はブルネイ投資庁勤務時代の体験談やブルネイの金融市場等に関する講演を行った(甲3)。
被告のCEO’s OfficeマネージングダイレクターであるBは,上記セミナーに出席した。
同セミナー終了後の懇親会の席で,Bは,ブルネイ財務省事務次官であるCとの間で,被告の事業内容やインターネットを用いた金融事業等についての会話をしたところ,CはBの話に好印象を持ち,一度ブルネイまで来てもらいたい旨述べた(甲6〔1〕)。
また,同懇親会において,原告とBは,名刺を交換し,挨拶をした(甲4)。
(5) 平成20年2月10日,原告はBに対し電子メールを送信し,Bに面会を求めた。
同月18日,Bと原告は昼食を共にし,このとき原告はBに対し,自己の経歴を説明してブルネイ財務省関係者との人脈を広く有することをアピールした。
またこのとき,Bは原告に対し,前記セミナーの際にCからブルネイに来てもらいたい旨の話があったこと,被告の代表取締役であるA(以下「A」という。)やBを含む被告の従業員の一行(以下「被告の一行」という。)が同年3月5日にかけてドバイへの出張を予定しており,その帰りにブルネイに立ち寄ろうと思っていることを話し,原告とBの間で,原告がブルネイの関係者のアポイントメントを取って被告の一行との面談を設定することになった。
(6) 原告は,同年2月19日以降,ブルネイの関係者と連絡をとって被告の一行との面談時間を調整し(甲9),同月21日,原告はBに対し,「御社,A社長他3名の方々がブルネイ訪問の件,3月6日木曜日2時半以降,時間を空けておくということで確認しておきました。C他に合っていただきます」「ビジネスとして御社が望まれる方向で,小生は動いて参る所存です。できれば成功報酬契約締結等をお考え願えれば幸甚です」等と記載した電子メール(甲6〔3〕)を送信した。
これに対し,Bは,「ご手配,ご配慮,深謝いたします。できましたら,参考までに,御社の成功報酬の体系を教えていただけないでしょうか。」との電子メールを返信した(甲6〔3〕)。
同年2月22日,原告はBに対し,「当社と結んだ契約内容は若干ながら会社によって違います。(1)シンガポールの有力銀行のプライベートバンキング部門との間で結んだものは顧客の資産からあがる純収益の30%を毎年受領するというもので,資金導入後3年間を有効とする。(中略)(3)同じ日系ですが,資産の30ベーシスというものもあれば,マネジメントフィーの10-30%というのもあります。」等とするメールを返信し(甲6〔2〕),これに対しBは,「ご期待に沿える契約ができるか,わかりませんが,お互い,捕らぬ狸の・・・をしていてもしょうがないので,今回の出張の成果をお互いに評価しながら,現実的なものを話し合いませんか?」と返信し(甲6〔2〕),これに対し,被告は「もちろん現時的に対応していただければ結構です。ご存知の通り,小生はブルネイで個人会社を経営をしている身で成功報酬契約がすべてです。ただ以前,口約束で痛い目にあったことがあり書面での契約をお願いする次第です。」と返信した(甲6〔2〕)。
(7) 同月23日,aホテルでブルネイ大使館がブルネイナショナルデーパーティーを開催し,そこでBは原告にAを紹介し,Aと原告は名刺交換をした(甲5)。
(8) 同年3月3日までに,原告は,被告の一行がC,BIFC長官のD,ブルネイ財務省の副事務次官であるE,ブルネイ財務省投資部長のF,ブルネイ投資庁長官のG及びブルネイ投資庁ベンチャーキャピタル戦略投資部長のHと面会するスケジュールを設定した(甲9)。
(9) 同年3月6日,被告の一行がブルネイを訪問したが,最も重要な面談相手であったCを訪ねてみると,秘書はアポイントを認識しておらずその確認のために待たされ,結局Cは腹痛のためにオフィスに来ない旨の返事で面会はできなかった。そのためやむなく被告の一行は同日及び翌7日,Cより下位の担当官であるF,D,Gらと面談し,被告がブルネイで行うことが考えられる事業として,被告が考案した,①被告とブルネイ政府が折半出資して,5000万米ドルのファンドを共同設立すること,②被告とブルネイ政府が「イスラム金融リサーチ機関」を共同設立すること,③被告とブルネイ政府が,イスラム法遵守大学を共同設立し,SBI大学院と提携してe-ラーニングによる教育を行うこと,④被告とブルネイ政府が共同して,インターネット専業のイスラム銀行をマレーシアに共同設立すること,の4つの事業の提案をした。
(10) 同月8日,原告はBに対し,「ブルネイ訪問ご苦労様でした。先方から連絡があり,御社のプレゼンにかなり好印象を持ったようです。」とのメールを送信し(甲6〔8〕),同月10日,Bは原告に対し,「このたびは,大変お世話になりました。無事,帰国しております。今後ともよろしくお願いします。」とのメールを返信した(甲6〔8〕)。
(11) その後,ブルネイ側からの反応がないため,同月19日,Bは原告に対し「その後,ブルネイからは何か反応はあし(原文のまま)ましたでしょうか」とのメールを送信し(甲6〔9〕),また,同月21日,Aから直接F宛に,お礼とブルネイ側の回答を求める手紙を出した。
(12) 同年4月3日,原告はBに対し「すでに先方から返事も届いているのではないでしょうか。御社のプロポーザルに対して前向きに考えているようです。ぜひうまく行くことを祈っております。」「貴殿に申し上げた成功報酬等のの(原文のまま)retainer契約の件,A社長にご相談して下さい。」とのメールを送信した(甲6〔10〕)。しかし,被告にはブルネイ側からの返事は来ておらず,Bは,同日,「今日現在の段階で,お返事をいただいていないようなのですが,いつ頃,誰宛にどのように形式(郵送・FAX・メイル)で,送られたのか,ご確認いただけますでしょうか」と返信した(甲6〔10〕)。
しかし,その後もブルネイ側から被告への回答がなく,原告がBに対し同年4月8日に「ビジネスとして成功報酬契約考えていただけましたか」とのメールを送信したのに対し(甲6〔11〕),Bは同月9日「御社との取り決めに関しては,先方からのお返事を待って,興味の程をはかってから,現実的なものをお話合いさせていただけないでしょうか。」と返信した(甲6〔11〕)。
(13) 同月23日,原告はBに対し,「Fと今朝やっと連絡が取れました」「さて彼によれば,SBIから提出された4つのプロポーザルの中で一番最初の共同で設立する50MMファンドについて具体的プランを作成願いたいということです」等とメール送信した(甲6〔12〕)。
(14) Bは,このときまでの経過から,原告を介してのブルネイ側との連絡は円滑に進まないと判断し,同日,Fに対し,直接メールで前記Aの手紙に対する返事を求めた(甲11)。これに対し,同日,FからBに対し,直属の上司から被告の提案に対し正式に進めるようゴーサインがでたこと及び計画の実現のために取り組むべき事項を書面でまとめて送ることを求める旨のメールが返信された(甲11)。そして,Bは,以後ブルネイとの連絡を直接行うことにし,同年5月11日から12日にかけてブルネイを再度訪問し,より詳細な提案を行う計画を立て,ブルネイ財務省の事務次官であるEやFとの面談の約束を取り付け,同年5月7日,Fとの間で電話と電子メールにより5月12日の予定を決め,参考までに原告にもそのことを伝えた(甲6〔15〕)。同日,原告はBに対し,「良いアポが取れましたね。Eが御社案件の最終決定者ですから今回のアポは間違いなく先方はいかに重要視しているかが見て受け取れます。成功をお祈りします。」とのメールを送信し,これに対し同日Bは「ありがとうございます。御社との取り決めのお話も,帰国後,Aとできるように頑張ります」と返信した(甲6〔17〕)。
なお,この間,Bは,ファンドの共同設立事業に関する詳細な提案資料の準備のため,ブルネイの法制・税制に関して原告に質問をしたことがあり,これに対し原告は,同年5月2日,ブルネイ側から聞いたBIFC所属の法務担当者であるIの名前と連絡先を伝えて同人に質問するよう述べると共に「4月9日の貴殿のメールにて御社との取り決めについて現実的な取り決めをさせていただきたいと申されていましたが,忘れないでくださいよ。」とするメールを送信した(甲6〔13〕)。これに対し,Bは,同日,「ありがとうございます。御社との取り決めに関しては,帰国後,ご相談させてください。」と返信した(甲6〔13〕)。しかしながら,BはIに照会を行ったところあまり有益な情報を得ることができず,結局ブルネイの法制・税制に関してはブルネイから被告に別途直接紹介されたJの助力を受けることになった。
(15) Bは,同年5月11日及び12日に,上記の予定のとおりブルネイを訪問し,E及びFに対し,ファンドの共同設立事業に関するプレゼンテーションを行った。同訪問の際,Bはブルネイ側の関係者と話をする中で,それまで懸念して配慮を行ってきたブルネイ財務省関係者に対する原告の影響力につき,これを警戒する必要がないと判断した。
(16) その後,被告は,直接ブルネイ側との間で約2年弱の間交渉や作業を重ね,その間平成20年8月27日にはブルネイ側との間で覚書を締結し,平成22年3月25日に至り,被告とブルネイ財務省との間で本件合意が成立した。
(17) 平成22年3月27日頃から,原告は,Bに対し,コンサルティング料の支払いをするよう求めたが,Bは,これを拒絶した。
2 判断
(1) 原告と被告の間のコンサルティング契約の成立の有無について(主位的請求関係)
本件において原告は,平成20年2月23日に,ブルネイナショナルデーパーティーで被告の代表取締役であるAから,ブルネイにおけるファンド事業設立に向けてのコンサルティング業務を依頼されたことにより,原告と被告との間で,コンサルティング契約が成立した旨主張する。
しかしながら,上記1に認定した事実によれば,原告は,証券会社の勤務経験がある上,コンサルティングを業としている者であり,また,被告は東証一部上場企業であるところ,そのような業者同士の間で,国家が関わるファンド事業設立に向けてのコンサルティング業務の発注・受注を行うに際し,これが書面でなく口頭で,具体的な報酬の算出方法も決めずに,しかもパーティーの席において行われるなどという事態はそもそも通常考え難い事柄であるばかりでなく,上記1に認定した経過によれば,平成20年2月23日の段階では,未だ被告がブルネイとの間で具体的にどのような事業を行うのかについて全く決まっていない状況であった(その後の平成20年3月6日及び7日の被告の一行のブルネイ訪問の際に,被告がブルネイで行うことが考えられる事業として初めて4つの提案がなされるに至っている)ことからみて,上記2月23日時点で原告が行うべきコンサルティング業務の内容を確定できたと考えることも困難である。さらに,上記1に認定した経過を見ても,確かに,原告がBに対し何度も,被告との「成功報酬契約」の締結を求めていた事実は認められるものの,この原告の要望に対し,Bが「ご期待に沿える契約ができるか,わかりませんが」「出張の成果をお互いに評価しながら,現実的なものを話し合いませんか」「御社との取り決めに関しては,先方からのお返事を待って,興味の程をはかってから,現実的なものをお話し合いさせていただけないでしょうか」「帰国後,ご相談させてください」等として,やや回りくどい表現ではあるものの,少なくとも原告の求める契約締結の諾否についての回答を保留し続けていたことも認められ,また,その後Bが原告を介してのブルネイ側との連絡は円滑に進まないと判断して直接ブルネイとの連絡をとることにし,平成20年5月11日及び12日のブルネイ訪問によりブルネイ財務省関係者に対する原告の影響力につき,これを警戒する必要がないと判断するに至った経過が認められるのであり,このような経過からしても,原告と被告との間で,原告主張のようなコンサルティング契約が締結されるに至ったと認めることはできない。
従って,原告の主位的請求は理由がない。
(2) 原告の行為と,被告・ブルネイ間の本件合意の成立との間の因果関係の有無について(予備的請求関係)
本件において原告は,被告がブルネイとの共同ファンド事業を設立するために被告とブルネイ政府関係者とを結びつけ,被告とブルネイ政府との共同ファンド設立の仲立行為をした旨主張し,商法512条に基づく報酬請求を行っているところ,同条に基づく報酬請求権が発生するには,このような仲立(仲介)行為と,仲立(仲介)された当事者間の契約との間に因果関係があることが必要であると解される(商法550条)。
この点につき,上記1に認定した事実によれば,本件においては原告が,①平成20年3月6日及び7日の被告の一行のブルネイ訪問について,ブルネイの関係者と連絡をとって面談の設定を行ったことや,②同面談後,Bが原告に対し,ブルネイからの返事について確認を求めた際に,ブルネイとの連絡の取り次ぎを行ったこと,③Bがブルネイの法制・税制に関して原告に質問をした際,ブルネイ側から聞いたBIFC所属の法務担当者であるIの名前と連絡先を伝えたことが認められる。
しかしながら,これも上記1に認定したとおり,もともとBは,被告による面談の設定以前に既に,日系企業の事業進出や投資をブルネイに誘致する目的で開催されたBIFCのセミナーでCと面識を持ち,その際Cが被告の事業に興味を持ちブルネイまで来るよう述べていたこと,上記(1)にも述べたとおり,同面談は未だ被告がブルネイとの間で具体的にどのような事業を行うのかについて全く決まっていない初期の段階で行われたものにすぎず,また,Bは同面談後の原告の取り次ぎによるブルネイ側との連絡が円滑に進まないと判断して直接ブルネイとの連絡をとることにし,ファンドの共同設立事業を目指す方向性が定まって以降,被告が原告を介することなくブルネイとの交渉や作業を2年近くにわたって行い本件合意に至っていること,ブルネイの法制・税制についてBはIからあまり有益な情報を得るに至らなかったこと等の事情が認められ,このことと,原告がブルネイ財務省関係者と旧知であったことは事実であるとしても,そのことが被告・ブルネイ間の本件合意の成立にどう影響したかを証拠上認定することは困難であることを併せ考慮すれば,本件において原告の上記①②③の行為と被告・ブルネイ間の本件合意との間に因果関係があるということはできず,他に本件において原告が被告のために本件合意と因果関係のある行為を行ったと認めることはできない(なお,原告は,Bに対し,ブルネイ財務省関係者から得た極秘情報を伝えたり,種々のアドバイスを行った等とも主張するが,これらを具体的に認定するに足りる証拠はなく,また仮にそのような事実があったとしても,これが被告・ブルネイ間の本件合意と因果関係があると認めることもできない。)。
3 結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 大澤知子)
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