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判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(39)平成29年10月16日 東京地裁 平23(ワ)16777号 損害賠償請求事件

判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(39)平成29年10月16日 東京地裁 平23(ワ)16777号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成29年10月16日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平23(ワ)16777号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2017WLJPCA10168002

要旨
◆原告会社が、その従業員であった被告Y1は、原告会社の代表者の承諾がないのに同社と第三者との間の土地売買契約に係る同代表者作成名義の売買契約書を作成してこれを行使し、同契約書に関する紛争を生じさせて和解金の支払等による損害を生じさせたと主張して、被告Y1に対しては不法行為又は債務不履行に基づき、被告Y1の妻である被告Y2及び同子である被告Y3に対しては身元保証契約に基づき、損害の一部である1億2000万円等の連帯支払を求めた事案において、被告Y1による本件売買契約書の偽造を認定してその責任を認め、原告会社主張の損害を認めた上で、過失相殺及び権利濫用の抗弁を排斥したが、不法行為に基づく原告会社の損害賠償請求権はその全部が時効によって消滅したとし、債務不履行に基づく同社の損害賠償請求権に係る遅延損害金の起算日を認定して、被告Y1に対する請求を一部認容する一方、本件身元保証書のうち被告Y2及び被告Y3の各作成名義部分の成立の真正を否定して、同被告らに対する請求を棄却した事例

参照条文
民法415条
民法446条
民法709条
民法724条
民事訴訟法228条4項

裁判年月日  平成29年10月16日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平23(ワ)16777号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2017WLJPCA10168002

神戸市〈以下省略〉
旧商号株式会社a
原告 株式会社X
代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 秋田一惠
埼玉県狭山市〈以下省略〉
被告 Y1
同訴訟代理人弁護士 大久保誠太郎
同 播磨源二
同 陣内康豊
同所
被告 Y2
秋田市〈以下省略〉
被告 Y3
上記2名訴訟代理人弁護士 小町谷一博

 

 

主文

1  被告Y1は,原告に対し,1億2000万円及びこれに対する平成23年6月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告の被告Y1に対するその余の請求を棄却する。
3  原告の被告Y2及び被告Y3に対する請求をいずれも棄却する。
4  訴訟費用は,原告に生じた費用の3分の1と被告Y1に生じた費用を被告Y1の負担とし,原告に生じたその余の費用,被告Y2に生じた費用及び被告Y3に生じた費用を原告の負担とする。
5  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
被告らは,原告に対し,連帯して1億2000万円及びこれに対する平成22年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
1  事案の概要
本件は,原告が,原告の従業員であった被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,原告代表者の承諾がないのに,原告と第三者との間の土地売買契約に係る原告代表者作成名義の売買契約書を作成し,これを行使したことによって,同契約書に関する紛争を生じさせ,和解金の支払等による損害を原告に生じさせたと主張して,①被告Y1に対しては,不法行為又は雇用契約上の債務不履行(両訴訟物は,選択的併合の関係にある。)に基づき,損害金合計2億3623万0305円の一部である1億2000万円及びこれに対する不法行為後の日(損害発生の日)である平成22年2月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,②被告Y1の妻である被告Y2(以下「被告Y2」という。)及び被告Y1の子である被告Y3(以下「被告Y3」という。)に対しては,身元保証契約による保証債務履行請求権に基づき,被告Y1に対する請求と同額の金員の支払を求める事案である。
2  前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。
(1)  当事者
ア 原告は,スポーツ用品の製造販売等を目的とする株式会社である。平成19年2月23日から平成21年4月までの間,原告の代表取締役は,B(以下「B」という。)であった。
原告は,本件訴訟の係属中である平成24年12月1日,子会社であった株式会社bを吸収合併し,商号を旧商号「株式会社a」から現商号「株式会社X」に変更した。
(弁論の全趣旨)
イ 被告Y1は,平成19年2月21日に原告に入社し,同年7月11日(後記(2)アの売買契約書の作成日)当時,原告の執行役員経理部長(会社法上の役員等ではない。)であった。
(争いがない。)
ウ 被告Y2は,被告Y1の妻であり,平成19年2月1日(後記(4)アの「誓約保証書」と題する書面の作成日付)当時,被告Y1と同居していた。
(弁論の全趣旨)
エ 被告Y3は,被告Y1の子であり,平成19年2月1日(後記(4)アの「誓約保証書」と題する書面の作成日付)当時,秋田県に居住しており,被告Y1とは別居していた。
(弁論の全趣旨)
(2)  売買契約書の作成経緯等
ア 被告Y1は,平成19年7月11日,株式会社c(以下「c社」という。)との間で,原告がc社から東京都千代田区○○2番5所在の土地及び同番6所在の土地(地積合計1658.73m2。以下,2筆合わせて「本件土地」という。)を代金100億3520万円で買い受ける旨の「土地売買契約書」と題する契約書を,買主欄に「株式会社a代表取締役B」名義の記名印及び原告代表者印を押印の上,作成した(以下,この契約書を「本件売買契約書」といい,本件売買契約書に係る契約を「本件売買契約」という。)。
本件売買契約書には,売買代金の支払時期を平成19年9月7日とする旨,契約当事者の一方が契約上の義務に違反したときは相手方が催告の上契約を解除することができる旨,契約上の義務違反による解除に伴う違約金を20億0704万円とする旨の各条項が記載されていた。
(甲2,乙イ12,被告Y1本人)
イ c社は,平成19年9月10日頃,原告に対し,本件売買契約に基づき,売買代金支払義務の履行を催告した。
(甲7,21,乙イ12)
ウ 原告は,平成19年10月2日,本件売買契約書の作成経緯について事情聴取等の内部調査(以下「本件内部調査」という。)を開始した。その結果,被告Y1は,同日,被告Y1において本件売買契約書の作成(偽造)を独断で実行したことを認める旨が印字された別紙1の書面(以下「自認書1」という。)に署名及び指印をするとともに,自認書1の本文と同旨の内容を自筆で記載した上で署名及び指印をして,別紙2の書面(以下「自認書2」という。)を作成した(被告Y1が真意に基づいて上記各書面を作成したかについては,後記のとおり,当事者間に争いがある。)。
(甲4,5,17,21,22,49,乙イ12,被告Y1本人)
エ 原告は,平成19年10月2日付けで,本件売買契約書を偽造したことを理由に,被告Y1を懲戒解雇した。
(甲21,乙イ12)
オ 原告は,平成19年10月10日付け回答書をもって,c社に対し,本件売買契約書の原告作成名義部分は,被告Y1が権限なく原告に無断で作成(偽造)したものであるから無効であるとして,本件売買契約に基づく売買代金支払義務の履行を拒否する旨を通知した。
(甲7)
カ c社は,平成19年11月20日付け通知書をもって,原告に対し,本件売買契約を解除する旨の意思表示をし,違約金20億0704万円の支払を求めた。
(甲8の1,9,乙イ9の1)
キ 原告は,平成20年2月9日,本件売買契約書を偽造した上,これをc社に交付して行使したことを告訴事実として,被告Y1を有印私文書偽造及び同行使罪の被疑事実で東京地方検察庁に刑事告訴した。
(甲11,19)
(3)  裁判の経緯等
ア 原告は,平成20年1月11日,c社に対し,本件売買契約の解除に基づく20億0704万円の違約金支払債務が存在しないことの確認を求める旨の債務不存在確認請求訴訟を東京地方裁判所に提起した。
原告は,上記債務不存在確認請求訴訟について,C弁護士(以下「C弁護士」という。),D弁護士(以下「D弁護士」という。),E弁護士(以下「E弁護士」という。),F弁護士(以下「F弁護士」といい,上記4名の弁護士を「前訴弁護士ら」という。)との間で委任契約をそれぞれ締結し,訴訟追行を委任した。
(甲8の1,8の2,10,32の1~34の3,35~41,48)
イ c社は,平成20年2月15日,原告に対し,上記アの訴訟を本訴として,本件売買契約の解除に基づく違約金20億0704万円の支払を求める旨の反訴を提起した(以下,上記アの本訴と共に「前訴」という。)。
(甲9)
ウ 平成22年2月19日,原告及びc社の更生管財人(当時,c社は会社更生手続中であった。)は,前訴について,原告がc社に対して同月23日限り和解金1億円を支払う旨の裁判上の和解(以下「本件和解」という。)をした。
(甲10)
エ その後,原告は,本件和解に基づき,c社に対して1億円を支払った。
(弁論の全趣旨)
オ 原告は,前訴の訴訟追行について,前訴弁護士らに対し,弁護士報酬等として合計1億2668万5805円(消費税込,源泉徴収前)を支払った。各弁護士に対する支払額は,次のとおりである。
(ア) C弁護士 1890万円(うち着手金630万円,成功報酬1260万円)
(イ) D弁護士 8155万9800円(うち着手金525万円,活動報酬2625万円,成功報酬5005万9800円)
(ウ) E弁護士 2527万3505円(うち着手金525万円,成功報酬2002万3505円)
(エ) F弁護士 95万2500円(活動報酬等42万7500円,成功報酬52万5000円)
(甲12,32の1~34の3,35~41)
カ 原告は,平成20年1月10日頃,前訴の訴訟費用として印紙代504万円を支払った。
(甲8の1,8の2,12)
キ 被告Y1は,平成24年7月4日,東京地方裁判所に起訴され,平成25年12月16日,本件売買契約書の作成について原告代表者の承諾を得ていなかったとして,有印私文書偽造罪の公訴事実により懲役2年執行猶予4年の有罪判決の宣告を受け,同判決は,平成26年9月9日,確定した(以下,この裁判を「刑事裁判」という。)。
(甲19,20,24)
(4)  身元保証契約について
ア 別紙3のとおり,被告らを作成名義人とする原告宛ての平成19年2月21日付け「誓約保証書」と題する書面(以下「本件身元保証書」という。)が存在する。同書面には,次の各記載部分がある。
(ア) 「誓約者氏名」の欄に被告Y1名義の署名押印があり,その上に「私は,貴社に従業員として入社にあたり,貴社従業員就業規則,その他の諸規程,命令を遵守すると共に,営業秘密管理に努め,誠実に職務に精勤することを誓約致します。」との誓約文の記載がある。
(イ) 「身元保証人」欄に被告Y2及び被告Y3名義の署名押印があり,その上に「私等は,右誓約本人の身上に関する一切の責任を負い万一右本人の故意又は重大な過失により貴社に損害を与えたときは,右本人の入社日より五年間身元保証人として右本人と連帯して賠償の責を負い貴社に迷惑をおかけ致しません。」との誓約文の記載がある。
(甲15)
イ 本件身元保証書のうち,被告Y1作成名義部分(上記ア(ア))の成立の真正については争いがないが,被告Y2及び被告Y3の各作成名義部分(上記ア(イ))の成立の真正については,後記のとおり,争いがある。
(5)  請求
原告は,平成23年5月24日,本件訴訟を提起し,被告Y1及び被告Y2に対しては同年6月7日に,被告Y3に対しては同月9日に,訴状が送達された。原告は,本件訴訟を提起する前の時点で,被告らに対して損害賠償を請求したことを主張しない。
(顕著な事実)
(6)  時効の援用の意思表示
被告Y1は平成27年10月22日の本件弁論準備手続期日において,被告Y2及び被告Y3は同年11月30日の本件弁論準備手続期日において,それぞれ,原告に対し,原告の被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求について消滅時効を援用するとの意思表示をした。
(顕著な事実)
2  争点
(争点の位置づけ)
原告は,被告Y1に対して①不法行為に基づく損害賠償と②雇用契約上の債務不履行(従業員としての誠実義務違反)に基づく損害賠償を選択的に請求し,被告Y2及び被告Y3に対してこれらにつき保証債務の履行を請求しているところ,以下の争点は,争点(5)を除き,①②の両請求に共通である。
(争点)
(1) 本件売買契約書の偽造
(2) 原告の損害額
(3) 過失相殺の抗弁
(4) 権利濫用の抗弁
(5) 不法行為に係る消滅時効の抗弁
(6) 本件身元保証書(被告Y2作成名義部分)の成立の真正
(7) 本件身元保証書(被告Y3作成名義部分)の成立の真正
3  争点に関する当事者の主張
(1)  争点(1)(本件売買契約書の偽造)について
(原告の主張)
ア 被告Y1は,平成19年7月11日,原告における職掌上,本件売買契約を締結する権限がないのに,当時の原告代表者であったBの承諾を得ることなく,原告代表者の記名印及び代表者印を冒用し,本件売買契約書の買主欄に押印し,本件売買契約書を偽造した。
このことは,刑事裁判において,被告Y1が,本件売買契約書の作成についてBの承諾を得たから有印私文書偽造罪は成立しないと主張して争ったものの,当該主張は排斥され,有罪判決を受けたことからも明らかである。
イ 被告Y1の上記行為は,原告に対する不法行為又は雇用契約上の債務不履行(従業員としての誠実義務違反)に当たる。
(被告らの主張)
ア 被告Y1は,本件売買契約書の作成について,当時の原告代表者であったB及び当時の原告の顧問であり実質的な代表者であったG(以下「G」という。)に対して事前に相談し,承諾を得ていた。
被告Y1は,不動産ブローカーであるH(以下「H」という。),I(以下「I」という。)ないしJ(以下「J」という。)から,本件土地の取引について名義を貸せば原告が4億円の利益を受けられる旨の提案を受けたため,原告の利益になると考え,これをB及びGに対して相談し,承諾を得た上で,原告の利益のために本件売買契約書を作成した。本件売買契約書の作成日にBが原告本社に不在であったことから,被告Y1は,Bから依頼されて,原告代表者B名義の本件売買契約書を作成した。
イ その後,Hらの上記提案が虚偽であることが判明し,B及びGが,被告Y1に対し,刑事上・民事上の責任を追及しないことを前提に,本件売買契約書の作成について独断で実行した旨を認めるよう懇願したため,被告Y1は,やむを得ず,本件売買契約書の作成(偽造)を独断で実行したことを認める旨が印字された自認書1(別紙1)に署名及び指印をするとともに,同旨の内容を自筆で記載した自認書2(別紙2)に署名及び指印をした。
したがって,これらの書面は,被告Y1の真意に基づき作成されたものではない。
ウ なお,刑事裁判では明らかになっていなかった事実として,被告Y1は,本件売買契約に関する書面について,営業時間中の原告の社内において,別件で原告を来訪していたK弁護士(以下「K弁護士」という。)に対して相談をしていたという事実がある。この事実は,被告Y1が,本件売買契約の存在を原告に対して秘密にしていなかったことを意味するから,被告Y1が本件売買契約に関する事務を行うことについてB及びGの承諾を得ていたことを推認させる事実である。
エ よって,被告Y1は,原告に対し,不法行為又は雇用契約上の債務不履行(従業員としての誠実義務違反)に基づく損害賠償責任を負わない。
(2)  争点(2)(原告の損害額)について
(原告の主張)
被告Y1が本件売買契約書を偽造したことによって,原告は,次のア~エの各費用の支出を余儀なくされた(前記前提事実(3)エ~カ)。したがって,ア~エの各費用合計2億3623万0305円が,被告Y1の不法行為又は債務不履行によって原告に生じた損害である。
原告は,本件訴訟において,上記損害金の一部である1億2000万円を請求する。
ア 前訴の和解金 1億円
イ 前訴の弁護士費用 1億2668万5805円
ウ 前訴の訴訟費用 504万円
エ 本件訴訟の弁護士費用 450万4500円
(被告らの主張)
ア 前訴の和解金について
原告の主張によれば,本件売買契約書は,被告Y1が権限なく作成した無効な契約書であるし,仮に本件売買契約が有効に成立していたとしても,本件売買契約は,被告Y1が,Hらに騙されて,名義貸しの目的で締結したものであるから,前訴において,虚偽表示等の抗弁が認められる可能性が高い状況であった。
したがって,c社の反訴請求には理由がない可能性が高く,原告は,前訴において,和解金を支払う必要がなかったにもかかわらず,被告Y1の証人尋問を申請する等の立証を尽くすことなく,安易に和解金を支払っており,損害拡大防止義務(損害軽減義務)に違反するから,前訴の和解金は,原告主張の被告Y1の不法行為等と相当因果関係のある損害とは認められない。
イ 前訴の弁護士費用について
前訴の弁護士費用は,訴訟遂行の難易,得られた経済的利益その他の事情に照らして不相当に過大であるから,原告主張の被告Y1の不法行為等と相当因果関係のある損害とは認められない。
ウ 前訴の訴訟費用について
原告において,消極的確認の訴えである債務不存在確認請求訴訟を先行して提起する必要はなかったのであるから,上記訴訟提起のための印紙代は不要な支出であり,原告主張の被告Y1の不法行為等と相当因果関係のある損害とは認められない。
エ 本件訴訟の弁護士費用について
否認ないし争う。
(3)  争点(3)(過失相殺の抗弁)について
(被告らの主張)
仮に被告Y1が本件売買契約書を偽造したとしても,原告自身が主張する次の各事情に照らせば,本件売買契約書の偽造については,原告側にも落ち度があるというべきであるから,過失相殺をすべきである。
ア Bは,平成19年4月頃,被告Y1が,本件売買契約書の作成に先立ち,本件土地の取引に関する「取り纏め依頼書」を独断で作成していたことを認識したにもかかわらず,被告Y1に対して口頭で注意をするのみで,相手方から回収した上記依頼書の原本を被告Y1に保管させ続けていた。
イ Bは,上記アの依頼書作成が発覚した以降も,原告代表者印等が入った金庫の鍵を被告Y1に管理させていた。
ウ 本件売買契約書は,平成19年7月11日,原告の会社内の会議室で営業時間中に作成されたものである。
(原告の主張)
否認ないし争う。
被告Y1は,本件売買契約書を偽造した当時,執行役員経理部長の地位にあったことに照らせば,原告に対し,高度の善管注意義務を負っていたというべきであり,そのような立場の被告Y1が本件売買契約書を偽造することについて原告が予見できるはずもない。
(4)  争点(4)(権利濫用の抗弁)について
(被告らの主張)
本件訴訟は,原告が,被告Y1の証人尋問を申請する等して被告Y1を前訴に関与させることなく,不熱心な訴訟遂行により不必要な和解金を支払った上で,これを被告Y1に転嫁して請求するものである。このような請求は,権利の濫用であって,信義則に反し許されない。
(原告の主張)
否認ないし争う。
(5)  争点(5)(不法行為に係る消滅時効の抗弁)について
(被告らの主張)
原告の被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求権について,同請求権の消滅時効の起算点は「損害及び加害者を知った時」(民法724条)であるところ,原告は,遅くとも平成19年10月2日頃(本件内部調査の開始時期),被告Y1が「加害者」であることを知った。そして,原告は,原告の主張する損害の費目ごとに,次のとおり,「損害」が発生したことを知り,本件訴訟を提起するまでに消滅時効が完成したから,被告らは,これを援用する。
ア 前訴の和解金について
原告は,本件売買契約書の存在を認識した平成19年10月2日頃又はc社が原告に対して違約金の支払を求める旨の反訴状の送達を受けた平成20年2月15日に損害の発生を知ったというべきであるから,遅くとも後者の日から3年後の日である平成23年2月15日の経過時に消滅時効が完成した。その理由は,原告は,本件売買契約書の存在を認識した時点で,c社から違約金を請求される可能性を認識することができたところ,前訴の和解金は違約金と実質的に同一性を有しているから,違約金を請求される可能性を認識した時点で,前訴の和解金の支払義務を負うことを認識することが可能であったといえるからである。
イ 前訴の弁護士費用について
原告は,前訴について前訴弁護士らとの間で委任契約を締結した平成20年1月11日,前訴の弁護士費用に係る損害の発生を知ったというべきであるから,同日から3年後の日である平成23年1月11日の経過時に消滅時効が完成した。
なお,前訴の弁護士費用のうち着手金に係る損害賠償請求権については,委任契約の締結時期について論じるまでもなく,原告は,遅くとも前訴弁護士らに対して最後に着手金を支払った平成20年4月22日には損害の発生を知ったというべきであり,同日から3年後の日である平成23年4月22日の経過時に消滅時効が完成した。
ウ 前訴の訴訟費用について
原告は,遅くとも前訴を提起した平成20年1月10日までには印紙を購入し,訴訟費用(印紙代)を支出したところ,これによって損害の発生を知ったというべきであるから,同日から3年後の日である平成23年1月10日の経過時に消滅時効が完成した。
(原告の主張)
否認ないし争う。
被告Y1の不法行為による全損害について,前訴の和解金の支払によって具体的な損害額が確定したのであるから,本件和解が成立した平成22年2月19日が,原告が「損害」を「知った時」に当たる。
そして,原告は,本件訴訟を平成23年5月24日に提起したから,不法行為に基づく損害賠償請求権は時効により消滅していない。
(6)  争点(6)〔本件身元保証書(被告Y2作成名義部分)の成立の真正〕について
(原告の主張)
ア 被告Y2は,原告に対し,真正に成立した本件身元保証書(被告Y2作成名義部分)によって,被告Y1の入社日(平成19年2月21日)から5年間,被告Y1の身元保証人として,被告Y1が故意又は重大な過失により原告に損害を与えたときは,被告Y1と連帯して賠償の責を負う旨の意思表示をしたところ,前記のとおり,被告Y1は,故意により原告に損害を与えたのであるから,被告Y2は,原告に対し,被告Y1と連帯して賠償の責を負う。
イ 本件身元保証書の被告Y2名義の署名押印部分は,被告Y2が自署押印したものである。その根拠は,次のとおりである。
(ア) 本件身元保証書の被告Y2名義の署名部分の筆跡は,本件身元保証書の被告Y1名義の署名部分の筆跡と相違する。
被告Y1は,本人尋問において,被告Y2名義の署名部分について,被告Y1が署名した旨を供述するが,同供述は信用することができない。
(イ) 確かに,本件身元保証書における被告Y2名義の押印部分の印影は,被告Y1名義の押印部分の印影と同一であると認められる。
しかし,被告Y1は,本件身元保証書の作成当時,被告Y2と同居しており,印章を共用していたから,被告Y1及び被告Y2名義の押印部分の印影が同一であったとしても不自然ではない。
(ウ) 被告Y2は,①本人尋問において,本件身元保証書に押印していない旨を供述するものの,その供述内容は曖昧であり,②証拠として提出する陳述書(乙ロ1)の内容も,身元保証ではなく連帯保証を否定するものであって不自然不合理であり,いずれも信用することができない。
ウ 仮に被告Y2名義の署名押印部分が,被告Y2が自署押印したのではなく,被告Y1が作成したものであったとしても,被告Y1と被告Y2は夫婦であることから,日常的にお互いに包括的な代理権を付与していた状況にあり,本件でも,被告Y2が被告Y1に対して署名代理を委任したものであるから,本件身元保証書の被告Y2名義の署名押印部分は,被告Y2の意思に基づいて作成されたものであり,有効である。
エ なお,被告Y1は,Bから,原告において当時使用していた「誓約保証書」と題する身元保証書の書式を交付され,Bの面前で被告Y2及び被告Y3の各作成名義部分も含めて記入し押印した旨の主張をし,本人尋問において,これに沿う供述をする。しかし,当時,原告の顧問であり,後に原告の代表者となったBが,従業員から身元保証書を直接受領するといった総務部が行うべき事務をするとは考え難く,本件身元保証書の作成経緯に係る被告Y1の上記主張は採用することができない。
オ したがって,本件身元保証書(被告Y2作成名義部分)は真正に成立しており,被告Y2は,原告に対し,本件身元保証書によって,身元保証の意思表示(上記ア)をしたと認められる。
(被告Y2の主張)
ア 本件身元保証書(Y2作成名義部分)の成立の真正を争う。
本件身元保証書の被告Y2名義の署名押印部分は,被告Y1が,被告Y2に無断で作成したものである。被告Y2は,署名も押印もしていない。
イ 被告Y2は,被告Y1に対し,本件身元保証書作成に係る代理権を付与したことはない。
(7)  争点(7)〔本件身元保証書(被告Y3作成名義部分)の成立の真正〕について
(原告の主張)
ア 被告Y3は,原告に対し,真正に成立した本件身元保証書(被告Y3作成名義部分)によって,被告Y1の入社日(平成19年2月21日)から5年間,被告Y1の身元保証人として,被告Y1が故意又は重大な過失により原告に損害を与えたときは,被告Y1と連帯して賠償の責を負う旨の意思表示をしたところ,前記のとおり,被告Y1は,故意により原告に損害を与えたのであるから,被告Y3は,原告に対し,被告Y1と連帯して賠償の責を負う。
イ 本件身元保証書の被告Y3名義の署名押印部分は,被告Y3が自署押印したものである。その根拠は,次のとおりである。
(ア) 本件身元保証書の被告Y3名義の署名部分の筆跡は,本件身元保証書の被告Y1名義の署名部分の筆跡と相違する。
被告Y1は,本人尋問において,被告Y3名義の署名部分について,被告Y1が署名した旨を供述するが,同供述は信用することができない。
(イ) 確かに,本件身元保証書における被告Y3名義の押印部分の印影は,被告Y1名義の押印部分の印影と同一であると認められる。
しかし,被告Y1と被告Y3は,本件身元保証書の作成当時,良好な父子関係にあったのであるから,同一の印章を使用していたとしても不自然ではないない。
(ウ) 被告Y3は,本人尋問において,本件身元保証書に押印していない旨を供述するものの,証拠として提出する陳述書(乙ロ2)の内容は,身元保証ではなく連帯保証を否定するものである。不動産会社の経営者である被告Y3において,身元保証と連帯保証の区別がつかないとは考え難く,上記陳述書の内容は不自然であり,被告Y3の上記供述も信用することができない。
ウ 仮に被告Y3名義の署名押印部分が,被告Y3が自署押印したのではなく,被告Y1が作成したものであったとしても,被告Y1と被告Y3は親子であって関係も良好であったことから,被告Y3が被告Y1に対して署名代理を委任したものであるから,本件保証書の被告Y3名義の署名押印部分は,被告Y3の意思に基づいて作成されたものであり,有効である。
エ なお,被告Y1は,Bから,原告において当時使用していた「誓約保証書」と題する身元保証書の書式を交付され,Bの面前で,これに被告Y2及び被告Y3の各作成名義部分も含めて記入し押印して本件身元保証書を作成した旨の主張をし,本人尋問において,これに沿う供述をする,しかし,当時,原告の顧問であり,後に原告の代表者となったBが,従業員から身元保証書を直接受領するといった総務部が行うべき事務をするとは考え難く,本件身元保証書の作成経緯に係る被告Y1の上記主張は採用することができない。
オ したがって,本件身元保証書(被告Y3作成名義部分)は真正に成立しており,被告Y3は,原告に対し,本件身元保証書によって,身元保証の意思表示(上記ア)をしたと認められる。
(被告Y3の主張)
ア 本件身元保証書(被告Y3作成名義部分)の成立の真正を争う。
本件身元保証書の被告Y3名義の署名押印部分は,被告Y1が,被告Y3に無断で作成したものである。被告Y3は,署名も押印もしていない。
イ 被告Y3は,被告Y1に対し,本件身元保証書作成に係る代理権を付与したことはない。
第3  当裁判所の判断
1  争点(1)(本件売買契約書の偽造)について
(1)  事実認定
前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
ア 被告Y1(昭和14年○月○日生)は,平成19年2月21日,原告に入社し,執行役員経理部長に就任した。被告Y1は,原告の職掌上,不動産取引に関する権限を有していなかった。
(甲14,21,49,乙イ12,証人B,被告Y1本人)
イ 被告Y1は,原告に入社後,執行役員経理部長として,原告の社印,銀行印,代表者印等の印章が保管されている金庫の鍵を所持しており,当該印章等の管理及び使用に係る社内規程はあったものの,当該印章等を自由に使用することが事実上可能な立場にあった。
(甲21,49)
ウ 被告Y1は,平成19年3月頃,不動産ブローカーであるJから,本件土地の取引に関して原告が形式的に契約当事者となることによって2,3千万円の利益を得られる旨の提案を受けた。そこで,被告Y1は,同年4月3日付けで,原告が相場よりも高額で買い受けることを表明する旨の「取り纏め依頼書」と題する書面を,原告執行役員経理部長被告Y1名義で,原告の社印(角印)を押印の上,作成し,その原本をJに対して交付した。被告Y1が上記「取り纏め依頼書」を作成することについて,原告代表者であったBが承諾をしていたかについては,当事者間に争いがある。
(甲21,乙イ12)
エ その後,Bは,上記「取り纏め依頼書」が出回っていることを知り,被告Y1に対し,原告は本件土地の取引には関与しないことを伝えた上で,上記書面の原本を回収するように指示したところ,被告Y1は,平成19年4月24日頃,上記書面の原本をJから回収した。
(甲21,乙イ12)
オ 被告Y1は,平成19年7月11日,原告の本社内において,c社の関係者と会い,原告代表者の記名印及び代表者印を押印して本件売買契約書を作成した。原告においては,原告代表者以外の者が原告代表者印を押印する場合には,事前に捺印申請書を提出して決裁を受ける必要があったが,被告Y1は,本件売買契約書に原告代表者印を押印するに当たり,捺印申請書を提出していなかった。
なお,Bは,同日,本件売買契約書を作成した場に同席していなかった。Bが,同日,原告の本社に出勤していたかについては,当事者間に争いがある。
(甲21,49,乙イ12)
カ 原告は,平成19年10月2日,本件内部調査を開始し,Bは,同日,本件内部調査の一環として,原告の子会社の会議室において,当時の原告の総務部長であったLを同席させた上で,被告Y1に対する事情聴取(以下「本件事情聴取」という。)を行った。その際,Bは,予め準備した自認書の内容を被告Y1に確認させ,被告Y1の修正意見に基づき内容を修正した自認書1(別紙1)の本文をパソコンで作成し,被告Y1は自認書1の末尾に署名及び指印をした。また,Bに替わって,当時の原告の顧問であったGが本件事情聴取に加わった際に,被告Y1は,Gの求めに応じて,自認書1の本文と同じ内容を自筆で記載した上で署名及び指印をして自認書2(別紙2)を作成した。
(甲4,5,17,21,22,49,乙イ10,12)
キ Bは,刑事裁判の証人尋問において,本件売買契約書の作成を承諾していない旨を証言し,本件訴訟の証人尋問においても,同旨の証言をした。なお,Bは,現在,原告を退職している。
(甲21,証人B)
ク 被告Y1は,刑事裁判の被告人質問において,次の各供述をした。
(ア) 平成19年10月2日,本件事情聴取を受けた際に,Bから「きのうGとよく話しました。それで,会社のため社員のため家族のために,Y1さん1人でやったことにしてほしい。」と言われた。
(イ) その後,本件事情聴取に途中から加わったGから「Bさんから聞いたと思うけど,会社のため社員のため家族のために,Y1さん1人でやったことにしてくださいね。」と言われた。
(乙イ12)
ケ B及びGは,刑事裁判の証人尋問において,上記クの各発言をしたことを否定する旨の証言をした。
(甲21,22)
コ 被告Y1は,上記クの発言を含む本件事情聴取の会話内容をICレコーダーで録音した電磁的記録媒体を原告が所持している旨を主張し,文書提出命令の申立てをしたが,当裁判所は,上記電磁的記録媒体が存在し,原告がこれを所持していると認めることはできないとして同申立てを却下する旨の決定をし,同決定はその後確定した。
(顕著な事実)
(2)  検討
ア 被告Y1は,自認書1に署名及び指印をしたことが認められるから(前記(1)カ),自認書1は,真正に成立したことが認められる。
そして,自認書1には,被告Y1が,本件売買契約書を締結する権限がないのに,原告代表者であったBの承諾を得ることなく,原告代表者の記名印及び代表印を冒用して本件売買契約書を作成した事実を自認する旨が記載されているから,特段の事情がない限り,被告Y1は,平成19年10月2日の時点で,上記書面に記載された上記事実を自認していたことが認められる。
これに対し,被告Y1は,自認書1の記載内容は被告Y1の真意に基づくものではないと主張する。しかしながら,前記(1)カの事実によれば,本件事情聴取の際,被告Y1がBに対して書面の記載内容について意見を述べ,Bが被告Y1の意見を踏まえた修正を加えた上で自認書1の本文をパソコンで作成し,被告Y1がこれに署名及び指印をしたことが認められる。すなわち,被告Y1は,自認書1の記載内容について自己の意見を反映させる機会を与えられた上で,その記載内容を確認して署名及び指印をしたことが認められる。
また,被告Y1は,B及びGから,刑事上・民事上の責任は問わないことを約束した上で懇願され,本件売買契約書の偽造を自認する旨の書面を作成してしまったと主張し,刑事裁判においてもこれに沿う供述をした。しかし,B及びGは,いずれも,刑事裁判において,被告Y1の上記主張事実を否定する証言をしており,被告Y1の上記供述を裏付ける客観的な証拠もないから,被告Y1の上記主張は,採用することができない。
これらの事情に加え,本件事情聴取の一部の録音の反訳書(甲17)の記載内容からは,本件事情聴取の際に被告Y1が意思を抑圧されるような状況にあったことは窺われないこと,被告Y1が自認書1と同趣旨の内容の書面(自認書2)を再度自筆でも作成していること(前記(1)カ)等の事情を総合すると,自認書1の記載内容が被告Y1の真意に基づくものではないと認めるに足りる特段の事情があるということはできない。
したがって,被告Y1は,平成19年10月2日の時点で,Bの承諾を得ることなく,原告代表者の記名印及び代表社印を冒用して本件売買契約書を作成したことを自認していたことが認定できるところ,このことは,被告Y1が,原告との間に損害賠償を巡る紛争が生じる前の時点で,本件売買契約書の作成に係る上記経緯を認めていたことを意味するから,被告Y1がBの承諾を得ることなく本件売買契約書を作成したことを強く推認させる事実である。
イ 被告Y1は,平成19年7月11日(本件売買契約書を作成した日),原告の本社に出勤していなかったBが,被告Y1に対して本件売買契約書にB名義の記名押印をすることを依頼したと主張し,そのことを裏付ける証拠として,その当時の被告Y1の手帳(乙イ7)を提出する。上記手帳には,同11日の欄には「社長欠」,同月12日の欄には「社長神戸役員会」と記載されているが(乙イ7),その記載の趣旨及び経緯が証拠上明らかではなく,Bが刑事裁判において同月11日に原告の本社に出勤していた旨の証言をしていること(甲21)も踏まえれば,上記手帳の記載は,同月11日にBが原告の本社に出勤していなかったことを推認させる的確な証拠とはいえず,他にこれを認定するに足りる証拠はない。したがって,被告Y1の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。
また,被告Y1は,本件売買契約に関する書面について,営業時間中の原告の社内において,別件で原告を来訪していたK弁護士に相談をしたことがあり,この事実は,被告Y1が本件売買契約の存在を原告に対して秘密にしていなかったことを意味すると主張し,本人尋問において,上記主張事実に沿う供述をする。しかし,被告Y1の供述を裏付ける客観的な証拠はなく(K弁護士は,刑事裁判において被告Y1の弁護人を務めていたが,刑事裁判では上記事実を主張していない。),Bが,K弁護士に対して原告の業務を依頼したことはない旨を証言していることも踏まえると,被告Y1の上記主張事実を認定することはできない。したがって,被告Y1の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。
ウ 以上に加えて,Bが,刑事裁判及び本件訴訟において,本件売買契約書の作成を承諾していなかった旨を一貫して証言していること等も併せ考慮すれば,被告Y1は,本件売買契約を締結する権限がないのに,Bの承諾を得ることなく,原告代表者の記名印及び代表社印を冒用して,原告代表者B名義の本件売買契約書を作成したことが認められる。
そして,被告Y1の上記行為は,原告に本件売買契約に基づく義務を負う危険性を生じさせる行為であって,原告の法律上保護された利益を故意に侵害する行為であるから,原告に対する不法行為に当たる。
また,被告Y1の上記行為は,雇用契約上,従業員が使用者に対して負っている職務に誠実に従事すべき義務にも違反するというべきであるから,原告に対する債務不履行にも当たる。
2  争点2(原告の損害額)について
(1)  前訴の和解金(1億円)について
ア 被告らは,原告が前訴の和解金を支払ったことについて,損害拡大防止義務(損害軽減義務)に違反する等として,原告主張の被告Y1の不法行為等との間に相当因果関係が認められないと主張する。
イ しかしながら,前訴の主たる争点は,本件売買契約の有効性であった(仮に本件売買契約が有効であれば,抗弁等が認められない限り,c社の原告に対する違約金支払請求権が認められることになる。)ところ,証拠上,いわゆる処分証書である本件売買契約書に原告代表者印による押印がされていたことから,原告は,前訴において,証拠関係上,必ずしも勝訴判決が見込まれる状況にはなかったものと推認される。
そのような状況の下で,原告は,前訴の裁判所から,平成21年12月3日の弁論準備手続期日において,原告がc社に対して和解金2億円(c社の原告に対する請求額の約10分の1の額)を支払う旨の和解案の提示を受けた上で(乙イ15),原告がc社に対して和解金1億円を支払う旨の上記和解案よりも原告に有利な内容の本件和解をしたのであるから(前記前提事実(3)ウ),本件和解の時点では刑事裁判の結果が出ていなかったことも考慮すれば,原告が本件和解をしたことは,結論の見通し,立証の難易,費用等を総合的に勘案した上での合理的な判断であったと認められる。
ウ したがって,前訴の和解金について,原告において,殊更不利な条件で和解をした等の損害拡大防止義務(損害軽減義務)に違反するような事実は認められず,和解金額も相当であるから,被告Y1の不法行為及び債務不履行との間に相当因果関係のある損害であることが認められる。
(2)  前訴の弁護士費用(1億2668万5805円)について
ア 被告らは,前訴の弁護士費用が不相当に過大であると主張する。
イ 原告は,前訴において,c社から20億0704万円の違約金を請求されていたところ,c社に対して1億円の和解金を支払うことで前訴を解決したのであるから,前訴の対象とする経済的利益は20億0704万円であり,前訴弁護士らが前訴を追行したことによって結果的に原告が受けた経済的利益は19億0704万円であったと認められる。
ウ (旧)日本弁護士連合会報酬等基準(甲47,乙イ16)によれば,訴訟事件(経済的利益が3億円を超える事件)における着手金は(訴訟の対象とする)経済的利益の2%+369万円,成功報酬は(訴訟追行によって確保した)経済的利益の4%+738万円と定められている。これに対し,原告が支払った前訴の弁護士費用の額は,着手金及び成功報酬に日当等を加えた総額が1億2668万5805円であるところ(前記前提事実(3)オ),これは訴訟追行によって確保した経済的利益(19億0704万円)の約6.6%に当たるから,上記基準に照らして相当な範囲内の報酬額であると評価することができる。
これに加え,原告においては社内稟議を経て前訴弁護士らに対する弁護士報酬額を決定していること(甲39~41),有価証券報告書等にも特別損失(訴訟関連費用)として前訴弁護士らに対する弁護士報酬を計上して開示していること(甲42~44)等の事情を総合すれば,前訴の弁護士費用が不相当に過大であるとは認められない。
エ よって,前訴の弁護士費用は,被告Y1の不法行為及び債務不履行との間に相当因果関係のある損害であることが認められる。
(3)  前訴の訴訟費用(504万円)について
前訴の訴訟費用は,前訴を追行するために必要な費用であり,前記前提事実によれば,被告Y1の不法行為及び債務不履行によって,原告が前訴を追行することを余儀なくされたことが認められる。
なお,被告らは,あえて原告が先行して債務不存在確認請求訴訟を提起する必要はなかったと主張するが,訴訟提起の当時,原告は,c社から,原告名義の銀行預金債権について,本件売買契約の解除に基づく違約金請求権を被保全債権として仮差押えを受けていたことが認められるから(甲8の1),上記被保全債権の不存在を訴訟において確定する必要があったことが認められる。
したがって,原告としては,被告Y1の不法行為及び債務不履行により,先行して債務不存在確認請求訴訟を提起する方法で前訴の訴訟追行をすることを余儀なくされたと認められるから,前訴の訴訟費用は,被告Y1の不法行為及び債務不履行との間に相当因果関係のある損害であることが認められる。
(4)  本件訴訟の弁護士費用について
本件訴訟の弁護士費用としては,本件事案の内容,立証の難易その他諸般の事情を考慮して,原告が主張する450万4500円を,被告Y1の不法行為との間に相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。
また,原告は,被告Y1の雇用契約上の債務不履行によって生じた損害を回復するために,本件訴訟を提起することを余儀なくされたところ,本件事案の内容等に照らせば,債務不履行に基づく損害賠償請求について,立証の難易等の点で不法行為に基づく損害賠償請求と異なるところはないから,上記弁護士費用は,被告Y1の債務不履行との間でも相当因果関係のある損害であるということができる。
(5)  まとめ
以上によれば,被告Y1の不法行為又は債務不履行による原告の損害額は,合計2億3623万0305円である。
3  争点(3)(過失相殺の抗弁)について
被告らは,被告Y1による本件売買契約書の偽造について原告側にも落ち度があると主張する。
しかしながら,前記1(争点(1))で認定説示したとおり,本件売買契約書の偽造は,執行役員経理部長として代表者印等の管理について権限を有する被告Y1が,Bらに相談することなく独断で実行したものであり,原告において被告Y1の上記行為を防ぐことが容易であったことを認めるに足りる証拠はない。原告において,本件土地の売買に関する「取り纏め依頼者」を被告Y1が作成したことを認識した後も,被告Y1に対して代表者印等を管理する権限を与え続けていたこと等の被告らが主張する各事実を考慮しても,原告側において結果を回避することが容易であったということはできないから,公平の観点に照らして原告側に過失相殺の事由があるということはできない。
よって,被告らの上記主張は,採用することができない。
4  争点(4)(権利濫用の抗弁)について
被告らは,原告が,被告Y1を前訴に関与させないままに,前訴の和解金等の支払による損害の賠償を被告Y1に対して請求することは,権利の濫用であると主張する。
しかしながら,前記2(争点(2))で認定説示したとおり,原告は,前訴を合理的な内容の本件和解によって解決したと評価することができ,前訴の結果が被告Y1に不当な不利益を与えるものであるということはできないから,被告Y1の証人尋問を申請する等して被告Y1を前訴に関与させなかったことのみをもって,原告が被告Y1に対して損害賠償を請求することが権利の濫用であるということはできない。
よって,被告らの上記主張は採用することができない。
5  争点(5)(不法行為に係る消滅時効の抗弁)について
(1)  判断基準
民法724条は,不法行為に基づく法律関係が,未知の当事者間に,予期しない事情に基づいて発生することがあることにかんがみ,被害者による損害賠償請求権の行使を念頭に置いて,消滅時効の起算点に関して特則を設けたのであるから,同条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当である(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)。
(2)  検討
ア まず,不法行為と相当因果関係に立つ損害の賠償義務は,その不法行為の時に発生すると解されるから(最高裁昭和55年(オ)第1113号同58年9月6日第三小法廷判決・民集37巻7号901頁参照),被告Y1には,本件売買契約書を偽造した時点で,これと相当因果関係に立つ損害の賠償義務が発生したといえる。
イ そして,本件売買契約書には解除に伴う違約金の定めがあるから(前記前提事実(2)ア),偽造された本件売買契約書の作成名義人は,本件売買契約書が偽造されたことを認識した時点で,第三者から上記違約金の定めに基づいて違約金等を請求される可能性があることを認識することが可能であり,当該請求の可能性を認識することによって,具体的な損害額はともかくとして,当該請求に伴って発生する本件売買契約書の偽造による不法行為と相当因果関係に立つ全部の損害の発生を認識することができるというべきである。
したがって,遅くとも被告Y1が原告の代表者であるBに対して本件売買契約書の偽造を自認した平成19年10月2日の時点で,被害者である原告において,加害者である被告Y1に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度に,本件売買契約書の偽造による不法行為と相当因果関係に立つ全部の損害について,損害賠償義務の発生を知ったということができる。
よって,原告の被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は,平成19年10月2日の時点でその進行を開始し,同日から3年後の日である平成22年10月2日の経過時に完成し,同日までに時効を中断する事由は認められない(本件訴訟の提起日は,平成23年5月24日である。)から,原告の被告Y1に対する不法行為に基づく上記損害に係る賠償請求権は,その全部が時効によって消滅したことが認められる。
ウ これに対し,原告は,被告Y1の不法行為による損害は,前訴の和解金の支払によって具体的な損害額が確定したのであるから,原告の被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,原告がc社との間で本件和解をした平成22年2月19日であると主張する。
(ア) しかしながら,前記(1)のとおり,損害を知ったというためには,被害者において,加害者に対する損害賠償が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知れば足りるのであるから,必ずしも判決,和解等によって損害額が具体的に確定することまで要するということはできない。
(イ) また,本件売買契約書に係る紛争は,原告の執行役員経理部長の肩書きを有する被告Y1が原告の代表者名義の記名押印をしたことに端を発するものであって,原告は,本件売買契約書の記載内容に照らして,本件売買契約書が偽造されたことを認識した時点で,契約の相手方から,本件売買契約の解除に基づき違約金等を請求されるなど,いずれかの法的構成により責任を問われることによって,損害が生ずることを認識することが可能であったと認められる。したがって,原告としては,上記時点で,被告Y1に対して損害の賠償を求めることも可能であったのであり,それが過重な負担であるとまではいえない。
(ウ) よって,原告の上記主張は,採用することができない。
エ なお,一般に,弁護士に訴訟追行を委任し,同弁護士との間で報酬等の支払に係る契約(支払契約)を締結した依頼者は,同弁護士がその訴訟を追行し,依頼者が主張する経済的利益を取得した場合には,上記支払契約に基づく報酬等を支払わなければならないことを,上記支払契約を締結した時点で認識するというべきであるから,弁護士報酬等に係る損害賠償請求権は,支払契約の締結時から消滅時効が進行すると解することもできる(最高裁昭和44年(オ)第812号同45年6月19日第二小法廷判決・民集24巻6号560頁参照)。
もっとも,原告は,最初に債務不存在確認請求訴訟の提起及び追行を委任したC弁護士に対し,着手金名目の弁護士報酬を,平成20年1月31日の時点で支払ったことが認められ,この頃,支払契約を締結したことが推認されることから(甲12,32の1~34の3,35~41),この時点で,後に支払契約を締結する他の弁護士の分も含め,前訴の追行について相応の弁護士報酬等を支払わなければならないことを認識したと認定することができる。
したがって,原告は,C弁護士との間で支払契約を締結したことが推認される平成20年1月31日頃の時点で,前訴弁護士らに対する弁護士報酬に係る損害の発生を認識したと認定することができる。したがって,原告の被告Y1に対する前訴の弁護士費用に係る不法行為に基づく損害賠償請求権については,同日から3年後の日である平成23年1月31日の経過時に時効が完成し,同日までに時効を中断する事由は認められない。
よって,仮に,弁護士報酬等に係る不法行為に基づく損害賠償請求権については,支払契約の締結時から消滅時効の進行が開始すると解したとしても,本件においては,消滅時効が完成しているというべきである。
(3)  まとめ
以上によれば,原告の被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求に対する被告らの消滅時効の抗弁は理由がある。
6  まとめ(被告Y1に対する請求について)
原告は,被告Y1に対し,不法行為に基づく損害賠償請求と債務不履行(雇用契約上の誠実義務違反)に基づく損害賠償請求を選択的に行っているところ,前記5(争点(5))で認定説示したとおり,不法行為に基づく損害賠償請求は,時効消滅により,理由がない。
そこで,債務不履行に基づく請求について判断するに,前記1(争点(1))から前記4(争点(4))までに認定説示したとおり,原告の主張する損害合計2億3623万0305円は,被告Y1の債務不履行と相当因果関係のある損害であると認められ,これを消滅又は減額させるべき事情はないから,本件訴訟における一部請求の対象である1億2000万円の全部について理由がある。もっとも,債務不履行に基づく損害賠償債務は,期限の利益の定めのない債務であって,債務者が履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解される(最高裁昭和51年(オ)第1089号同55年12月18日第一小法廷判決・民集34巻7号888頁参照)ところ,前記前提事実(5)によれば,原告は,平成23年6月7日,本件訴訟の訴状の送達によってはじめて被告Y1に対して履行の請求をしたことが認められるから,訴状送達の日の翌日である平成23年6月8日が遅延損害金の起算日となる。
したがって,原告の被告Y1に対する債務不履行に基づく損害賠償請求は,1億2000万円及びこれに対する請求日の翌日(訴状送達の日の翌日)である平成23年6月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
7  争点(6)〔本件身元保証書(被告Y2作成名義部分)の成立の真正〕について
(1)  被告Y2の署名押印について
ア 原告は,本件身元保証書の被告Y2名義の署名押印部分は被告Y2が自署押印をしたものであると主張するが,同主張を裏付ける客観的な証拠はない。かえって,①本件身元保証書の被告Y2名義の署名押印部分を,被告Y2が自署押印したと認められる文書(本件訴訟手続における訴訟委任状,出廷者カード等)の署名押印部分と対照すると,筆跡及び印影が異なると認められること,②被告Y1は,本件身元保証書の被告Y2作成名義部分を偽造した旨証言していること,③本件身元保証書の被告Y2名義の押印部分の印影と被告Y1名義の押印部分の印影は同一であることが認められ,また,被告Y2名義の署名と被告Y1名義の署名の筆跡の特徴が酷似していることが認められることに照らせば,原告の上記主張は,採用することができない。
イ これに対し,原告は,本件身元保証書の被告Y1名義の署名と被告Y2名義の署名には,筆圧やインクの濃さ等に違いがあると指摘するが,被告Y1が,被告Y2名義の署名を偽造するために,あえて筆圧等が異なるように書いた可能性も排斥することができないから,原告の上記指摘を直ちに採用することはできないし,原告の上記指摘に基づき,被告Y1が被告Y2名義の署名部分を作成していないことが認められたからといって,それだけでは直ちに被告Y2が本件身元保証書に自署押印したということにはならない。
また,原告は,本件身元保証書の被告Y1名義の押印部分の印影と被告Y2名義の押印部分の印影とが同一であると認められることについて,日常的に夫婦間で同一の印章を共用していても不自然ではない旨を主張するが,被告Y1が被告Y2名義の押印部分を作成していないことが認められたからといって,それだけでは直ちに被告Y2が本件身元保証書に自署押印したということにはならない。
さらに,被告Y1は,Bから本件身元保証書を交付され,Bの面前で本件身元保証書に被告Y2及び被告Y3の各作成名義部分も含めて記入した旨の主張をし,これに沿う供述をするところ,原告は,上記供述には信用性がないと指摘する。確かに,原告において全従業員の入社時に機械的に身元保証書の提出を求めることは総務部の担当業務であって(甲49),被告Y1が入社した時点では原告の顧問であり,いずれ代表取締役に就任することが予定されていたB(証人B)がこのような業務を担当するとは考え難いから,被告Y1の上記供述の信用性には疑問がある。しかし,被告Y1の上記主張を採用することができないからといって,本件身元保証書が真正に成立した旨の原告の主張を直ちに採用することができるわけではないから,原告の上記指摘は,本件身元保証書の成立の真正に関する上記アの結論を左右するものではない。
ウ したがって,被告Y2が本件身元保証書に署名押印したことを認めることはできない。
(2)  署名代理について
原告は,仮に被告Y1が被告Y2名義の署名押印部分を作成したものであったとしても,被告Y2が,日常的な包括的代理権に基づき,被告Y1に対して署名代理を委任したものであるから,本件身元保証書の被告Y2名義の署名押印部分は被告Y2の意思に基づくものであり,本件身元保証書の被告Y2名義部分は真正に成立していると主張する。
しかしながら,同居の夫婦間とはいえ,身元保証書という重大な債務を負う可能性のある書面についてまで,包括的な署名代理の権限を付与していたとは考え難く,その他に,被告Y1が,本件身元保証書の作成に当たって,被告Y2から個別具体的な授権を得ていたと認めるに足りる証拠もないから,原告の上記主張は,採用することができない。
(3)  まとめ
よって,被告Y2が原告に対して本件身元保証書によって保証の意思表示をしたということはできない。
8  争点(7)〔本件身元保証書(被告Y3作成名義部分)の成立の真正〕について
(1)  被告Y3の署名押印について
ア 原告は,本件身元保証書の被告Y3名義の署名押印部分は被告Y3が自署押印をしたものであると主張するが,同主張を裏付ける客観的な証拠はない。かえって,①本件身元保証書の被告Y3名義の署名押印部分を,被告Y3が自署押印したと認められる文書(本件訴訟手続に提出された訴訟委任状,出廷者カード等)の署名押印部分と対照すると,筆跡及び印影が異なると認められること,②被告Y1は,本件身元保証書の被告Y3作成名義部分を偽造した旨証言していること,③被告Y3は,本件身元保証書が作成された当時,秋田県に居住して被告Y1とは別居しており,被告Y1との間で頻繁に連絡を取り合うような関係ではなかった(甲25~30,被告Y1本人,被告Y3本人)にもかかわらず,本件身元保証書の被告Y3名義の押印部分の印影と被告Y1名義の押印部分の印影は同一であることが認められることを総合考慮すると,遠方に居住する被告Y3が,被告Y1が原告から交付を受けて持ち帰った本件身元保証書の身元保証人欄に自ら署名押印したとは認め難い。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ これに対し,原告は,Bから本件身元保証書を交付され,Bの面前で本件身元保証書に被告Y2及び被告Y3の各作成名義部分も含めて記入した旨の被告Y1の主張及びこれに沿う供述は信用することができない旨を主張するが,原告の同主張が上記アの結論を左右するものではないことは,前記7で説示したとおりである。
ウ したがって,被告Y3が本件身元保証書に署名押印したことを認めることはできない。
(2)  署名代理について
原告は,仮に被告Y1が被告Y3名義の署名押印部分を作成したものであったとしても,被告Y3が被告Y1に対して署名代理を委任したものであるから,本件身元保証書の被告Y3名義の署名押印部分は被告Y3の意思に基づくものであり,本件身元保証書の被告Y3作成名義部分は真正に成立していると主張する。
しかしながら,被告Y3について,①本件身元保証書の作成当時,被告Y1と別居していたこと(前記前提事実(1)エ),②不動産会社の経営をしていたこと(被告Y3本人)等の事情が認められることに照らすと,被告Y3が,身元保証書という重大な債務を負う可能性のある書面の作成について,被告Y1に対して署名代理の権限を付与したとは考え難く,その他に,被告Y1が,本件身元保証書の作成に当たって,被告Y3から個別具体的な授権を得ていたと認めるに足りる証拠もない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(3)  まとめ
よって,被告Y3が原告に対して本件身元保証書によって保証の意思表示をしたということはできない。
第4  結論
以上のとおり,①原告の被告Y1に対する請求については,債務不履行に基づく損害賠償請求は主文1項記載の限度で理由があるから認容し,その余の債務不履行に基づく損害賠償請求及び不法行為に基づく損害賠償請求はいずれも理由がないから棄却することとし,②原告の被告Y2及び被告Y3に対する請求については,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部
(裁判長裁判官 三木素子 裁判官 畑佳秀 裁判官 友部一慶)

 

〈以下省略〉

 

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