判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(185)平成24年12月27日 東京地裁 平22(ワ)36716号 損害賠償請求事件(本訴)、損害賠償等請求事件(反訴)
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(185)平成24年12月27日 東京地裁 平22(ワ)36716号 損害賠償請求事件(本訴)、損害賠償等請求事件(反訴)
裁判年月日 平成24年12月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)36716号・平24(ワ)1813号
事件名 損害賠償請求事件(本訴)、損害賠償等請求事件(反訴)
裁判結果 一部認容(本訴)、請求棄却(反訴) 文献番号 2012WLJPCA12278010
要旨
◆いわゆる等価交換方式によって本件土地にマンションを建築する本件計画を立てるなどしていた原告会社が、本件土地の一部分の借地権及びこれを敷地とする本件建物の共有者である被告Y1ないし被告Y5に対し、被告らを含む本件土地の全ての借地権者らとの間で、借地権及び建物を買い受けるとともにマンションの専有部分を売却することについての基本合意が成立したにもかかわらず、被告らは同合意に反する新たな要求をするなどしたため、本件計画を中止せざるを得なくなったとして、債務不履行又は信義則上の義務違反に基づき、2652万8520円等の各支払を求めた(本訴)ところ、被告らが、原告会社に対し、本訴提起は不法行為に当たるとして、損害賠償を求めた(反訴)事案において、本件事実経過によれば被告らによる交渉の打切りは信義則上の義務に反すると認めた上で、91万7200円を原告会社の損害と認定するなどして、本訴請求を一部認容する一方、本訴において原告会社が主張する権利は事実的、法律的根拠を欠くとはいえないとして、反訴請求を棄却した事例
参照条文
民法1条2項
民法415条
民法709条
裁判年月日 平成24年12月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)36716号・平24(ワ)1813号
事件名 損害賠償請求事件(本訴)、損害賠償等請求事件(反訴)
裁判結果 一部認容(本訴)、請求棄却(反訴) 文献番号 2012WLJPCA12278010
(本訴)平成22年(ワ)第36716号損害賠償請求事件
(反訴)平成24年(ワ)第1813号損害賠償等請求事件
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告(反訴被告) 株式会社フジタ(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 堤義成
同 中村しん吾
同 岩本康博
同 遠藤崇史
同 大村郁文
アメリカ合衆国カリフォルニア州パシフィカ市〈以下省略〉
被告(反訴原告) Y1(以下「被告Y1」という。)
同所
被告(反訴原告) Y2(以下「被告Y2」という。)
同所
被告(反訴原告) Y3(以下「被告Y3」という。)
同所
被告(反訴原告) Y4(以下「被告Y4」という。)
同所
被告(反訴原告) Y5(以下「被告Y5」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 増田利昭
主文
1 被告らは,原告に対し,各自91万7200円並びにこれに対する被告Y1及び被告Y3は平成22年12月11日から,被告Y2,被告Y4及び被告Y5は同月14日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の本訴請求及び被告らの反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じて,これを36分し,その35を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
被告らは,原告に対し,各自2652万8520円並びにうち2552万8520円に対する被告Y1及び被告Y3は平成22年12月11日から,被告Y2,被告Y4及び被告Y5は同月14日から,うち100万円に対する平成23年12月10日からそれぞれ支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 反訴
原告は,被告らに対し,1015万7943円及びうち923万0449円に対する平成22年9月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本訴
原告は,別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)に,いわゆる等価交換方式によってマンションを建築する計画(以下「本件計画」という。)を立て,本件土地上に借地権及び建物を有する者らと交渉をするなどしていた。被告らは,本件土地の一部分の借地権及びこれを敷地とする別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」といい,その敷地の借地権と併せて「本件物件」という。)の共有者である。
原告は,被告らを含むすべての借地権者らとの間で,借地権及び建物を買い受けると共に,マンションの専有部分を売却する(代金は相殺する)ことについての基本合意が成立したにもかかわらず,被告らが同合意に反する新たな要求をするなどしたため,本件計画を中止せざるを得なくなったとして,被告らに対し,債務不履行又は信義則上の義務違反に基づく損害賠償として,2652万8520円(本件土地の測量費用162万8000円,マンションの設計費用303万5000円,他の地権者との交渉等に要した弁護士費用210万円,被告らの相続登記費用19万7200円,他の地権者に対する営業補償72万円,人件費1784万8320円,慰謝料100万円の合計額)及び遅延損害金(慰謝料以外の損害につき訴状送達の日の翌日から,慰謝料につき訴え変更申立書の送達の日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合によるもの)の支払を求めている。
(2) 反訴
被告らは,本訴において原告が主張する上記の権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くにもかかわらず,原告がそのことを知りながら,又は通常人であれば知り得たといえるのに,あえて本訴を提起したものであり,これは不法行為に当たるとして,原告に対し,損害賠償として,1015万7943円(慰謝料500万円,本訴に対する応訴に要した弁護士費用423万4494円,反訴における弁護士費用92万3449円の合計額)及びうち923万4494円(慰謝料と本訴に対する応訴に要した弁護士費用の合計額)に対する本訴提起の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
2 前提となる事実(争いがない。なお,関連する書証を付記した。)
(1) 当事者等
ア 原告は,建設工事の請負,企画,設計,管理及びコンサルティング等を目的とする株式会社である。
イ 被告らは,本件物件を相続し(遺産分割未了),共有している。
被告Y1以外の被告ら(以下「被告Y2ら」という。)は,被告Y1とB(平成10年7月18日死亡。以下「B」という。)の子であり,原告との交渉等を被告Y1に委任していた。
ウ 本件建物は,Bの父であるC(昭和59年9月15日死亡。以下「C」という。)が所有していたものであり,Cの死亡後は,Bが相続し,Bの弟であるD(平成21年2月17日死亡。以下「D」という。)が居住していた。
(2) 本件基本合意
ア 原告は,本件計画を立て,平成19年11月,本件土地の借地権者らとの間で,交渉を開始した。
イ 原告の担当者であるE(以下「E」という。)は,平成21年1月頃,Dとの間で,本件計画に参加することに関する交渉を開始したが,Dが死亡したため,その後,被告Y1と交渉することとなった。
ウ 被告Y1は,同年3月2日,被告Y2らの代理人として,本件建物の敷地部分を本件計画の対象に含めることに同意した(甲54)。
エ 被告Y1は,同月6日,被告Y2らの代理人として,本件物件に関して本件計画に参加すること,原告から譲渡を受ける物件を本件計画に基づいて建築されるマンションのうち面積14.2坪の専有部分(以下「14.2坪の部屋」という。)とすることを承諾した(甲4)。
オ 被告Y1は,同月10日,被告Y2らの代理人として,原告との間で,エの合意に基づいて,被告Y2らが原告に本件物件を譲渡し,原告が被告Y2らに14.2坪の部屋を譲渡することとし,取引の詳細については,別途締結する売買契約(以下「最終売買契約」という。)において定める旨の合意をした(以下「本件基本合意」という。)(甲5)。
本件基本合意には,以下の条項がある。
(ア) 基本条件(第1条及び第2条)
原告は,被告Y2らに対し,本件物件の譲受けと引換えに,14.2坪の部屋を譲渡する。
(イ) 最終売買契約(第8条)
原告と被告Y2らは,① 原告が本件土地の借地権者らとの権利調整を完了し,かつ② マンションの建築確認を取得することを条件に,原告が本件物件を買い受ける売買契約と被告Y2らが14.2坪の部屋を買い受ける売買契約を締結し,それぞれの売買代金を相殺する。
(ウ) 中止の場合の費用分担(第6条)
本件計画の遂行に要する測量・設計等は,すべて原告の負担により行い,本件計画が中止されたときも,原告は,被告Y2らに対し,中止時までに負担した費用の分担を一切請求できない。
(エ) 合意解消の場合の措置(第14条)
① 権利調整が不調に終わったとき,又は② 原告がマンションの建築確認を取得できないときは,本件基本合意は当然に解消され,原告と被告Y2らは,互いに損害の賠償請求等を行わない。
(3) 他の借地権者との間の基本合意
ア 原告は,本件土地に借地権及び建物を有する者らのうち,F(以下「F」という。)及びG(以下「G」という。)を除く者(H(以下「H」という。),I,J,K,L)との間で,平成21年1月22日から同年5月26日までの間に,本件基本合意と同様の基本合意をした(甲6,8,10,13,15)。
イ 原告は,平成22年1月21日にFとの間で,同年3月10日にGとの間で,それぞれ本件基本合意と同様の基本合意をした(甲17,20)。
(4) 本件基本合意後の経緯
ア 被告Y1は,平成22年1月8日,原告から譲り受ける物件として,14.2坪の部屋ではなく,2LDKの部屋と1LDKの部屋及び2車庫を希望する旨のメールを原告に送信した(甲24)。
イ 原告は,同月12日,被告Y2に対し,原告が被告Y2らに譲渡する物件は坪数が14.2坪であることの確認を求めるメールを送信した(甲25)。
ウ 同年2月10日,原告は,被告Y2らが本件建物を相続するという内容の遺産分割協議書の案文を作成し,被告Y1及び被告Y2に送付したところ,同月17日,被告Y1から,同被告も相続人として本件建物の共有者となる旨の遺産分割協議書にしてほしいと依頼され,同月20日,改めてその旨の遺産分割協議書の案文を送付した(甲58,59)。
エ 同年3月15日,原告は,本件計画において宅地造成業者となる予定の株式会社大京(以下「大京」という。)との間で,基本協定を締結した(甲60)。
オ 原告は,同月19日頃,被告Y1に対し,原告が被告らに譲渡する物件について,1LDKの部屋2つではどうかという提案をした(甲26)。
カ その後,原告は,代理人弁護士を通じて,数回にわたり,被告Y1に連絡を取ろうとしたが,返答がない状況が続いたため,被告らに対して,同年4月16日及び同月30日,最終売買契約に応じるよう催告する旨の通知書を送付した上(甲27,28の各1,2),同年6月15日,最終売買契約に応じなかったことによって生じた損害の賠償を求める旨の通告書を送付した(甲29の1,2)。
キ 現在,本件計画は中止となり,建築確認申請はされていない。
3 本訴
(原告の主張)
(1) 被告らの責任
ア 原告は,平成22年3月10日までに,本件土地のすべての借地権者との間で,本件基本合意と同様の基本合意をし,権利調整を完了した。マンションの建築確認は取得していないが,これは,被告らが交渉を拒絶したためであって,被告らが故意に条件の成就を妨げたということができるから,原告は建築確認が取得されたとみなすことができる(民法130条)。
したがって,被告らが最終売買契約の締結の求めに応じなかったことは,本件基本合意の第8条に違反するものであり,被告らは,債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。
イ 仮に,そうでないとしても,本件土地のすべての借地権者との間で本件基本合意と同様の合意がされ,最終売買契約の締結に向けた交渉がされていた段階に至ってから,被告らが一方的に交渉を破棄し,最終売買契約を締結しなかったことは,契約交渉過程における信義則上の義務に違反するものであり,被告らは,損害賠償義務を負う。
ウ なお,本件基本合意の第6条は,合意当事者の責めに帰することのできない事由により本件計画が中止となった場合,調査等に要した費用を事業主である原告が負担するということを定めたものにすぎない。
また,本件基本合意の第14条は,他の借地権者らとの間の権利調整が不調に終わり,又はマンションの建築確認が取得できなかったために計画が中止された場合について,このような場合には,原告及び被告らのいずれも責任があるとはいえないことから,損害賠償義務を負わないと定めたにすぎない。
(2) 損害について
ア 本件土地の測量費用(甲30) 162万8000円
イ マンションのプラン設計費用(甲31) 303万5000円
ウ F及びGとの交渉等に要した弁護士費用(甲32) 210万円
エ 本件建物の被告らへの相続登記の準備に要した費用(甲33) 19万7200円
オ Hに支払った営業補償金(甲34) 72万円
カ 本件計画のために費やした従業員の人件費(甲35) 1784万8320円
キ 慰謝料 100万円
ク 合計 2652万8520円
(被告らの主張)
(1) 被告らの責任について
ア 本件基本合意は,最終売買契約の締結に至るまでの当座の合意としての意味しかないから,本件土地の借地権者全員との間で本件基本合意と同様の基本合意をしたとしても,権利調整を完了したとはいえない。また,少なくとも平成22年3月28日,Fは,原告に対し,本件基本合意と同様の基本合意について,同年4月15日を停止期限とする解除の意思表示をしたから(甲65),Fとの間では,権利関係を調整したとはいえない。
したがって,被告らが最終売買契約を締結しないことが本件基本合意の第8条に違反するとはいえない。
イ また,本件基本合意がされても,それだけでは,契約締結に対する原告の期待を保護する程度にまで交渉が成熟していたということはできない。
ウ さらに,本件基本合意の第14条及び第6条によれば,被告らは,原告が損害として主張する費用の賠償義務を負わないというべきである。
エ 被告らが,平成22年3月中旬以降,原告との契約締結交渉を拒否したのは,それまでの原告のあまりにも不誠実な対応に,まともな交渉ができる相手ではないことが判明したことと,原告が執拗に被告らの実家を訪れて面会を強要したり,近くの駅で待ち伏せをしてつきまとうなどのストーカーまがいの対応に出たことから,怒りと恐怖を覚えたからであって,やむを得ない事情がある。
(2) 損害について
争う。
4 反訴
(被告らの主張)
(1) 本件計画が中止になったのは,原告とFとの間の権利調整が不調となったからであり,被告らに債務不履行はない。
(2) 原告は,本訴提起前の時点で,本件計画が中断されているのではなく,既に中止となったことを認識していたにもかかわらず,これが中断されているとの虚偽の主張をしている。
(3) 原告は,大京との間で,原告が平成22年3月26日頃までに地権者との売買契約締結を完了した後,同年6月1日頃を目処に大京において建築確認申請をするとの合意をしたにもかかわらず,被告らが交渉を拒絶したために本件マンションの建築確認を取得することができなかったとの虚偽の主張をしている。
(4) 原告は,被告Y1が他の被告らの代理人として原告と交渉していた者であり,本件基本合意の当事者ではない事実を認識しながら,被告Y1が本件基本合意の当事者であることを前提とする主張をしている。
(5) 本件基本合意によれば,原告は,本件計画が中止となり,又は借地権者との権利調整が不調となっても,被告らに対し,損害賠償等の請求を行わないこととされている(第6条,第14条)。
(6) 以上の事実によれば,原告は,本訴において主張する権利が事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら,又は,通常人であれば知り得たといえるのに,あえて本訴を提起したものであり,これは不法行為に当たる。
これによって被告らが被った損害は,次のとおりである。
ア 慰謝料 500万円(被告ら1人当たり100万円)
イ 本訴に対する応訴に要した弁護士費用 423万4494円
ウ 反訴における弁護士費用 92万3449円(上記ア,イの合計額の10%)
エ 合計 1015万7943円
(原告の反論)
(1) 本件計画が中止又は中断となったのは,被告らが本件基本合意に反した提案をしたからである。
(2) 本件計画が再開されるか否かは,その後の被告らの対応次第によって決まるものであったから,原告は中止と中断を厳密に使い分けていなかったにすぎない。
(3) 原告が大京との間で建築確認申請に関する合意をしたのは,更に交渉することによって被告らが考えを改めれば,建築確認を取得することが可能になるからである。
(4) 被告Y1は,他の被告らの代理人として原告と交渉を続けており,このような交渉の経緯からすれば,被告Y1が借地権者の地位を有することが判明した平成22年2月の時点において,被告Y1が本件基本合意の当事者となることについて,黙示の合意があったというべきである。
(5) 本件基本合意第6条,第14条は,自らの行為によって本件計画を中止させ,又は権利調整を不調とさせた借地権者には適用されない。
第3 当裁判所の判断
1 本訴
(1) 被告らの責任について
ア 前記前提となる事実,証拠(甲2の1,2,甲3から甲5まで,甲24から甲29まで(枝番を含む。),甲37,甲38,甲54から甲57まで,甲66,乙1,乙4,乙8,乙9,乙14,乙19,証人E,被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 原告の担当者であるEは,平成21年1月頃,Dとの間で交渉を開始したが,まもなくDが死亡した。Dには妻子がなく,その父C,姉Bも既に死亡していたため,Eは,本件物件について,Bの夫であったアメリカ在住の被告Y1と交渉することとなった。
(イ) Eは,同年3月2日,被告Y1に対し,本件計画について説明した。被告Y1は,本件計画に参加することを希望し,本件建物の敷地部分を本件計画の対象に含めることを承諾した。
(ウ) Eは,同月6日,被告Y1に対し,複数の資料を示しながら,本件建物の路線価や公示価格を参考にすると,その借地権価格は約2700万円であり,本件計画において被告らが取得する予定のマンションの専有部分は14.2坪の部屋となり,それが1LDKの部屋であることを説明した。
被告Y1は,同日,① 本件計画に参加すること,② 取得するマンションの床面積が14.2坪であることを承諾し,同月10日,被告Y2らの代理人として,本件基本合意をした。当時,E及び被告Y1は,Dの相続人が被告Y2らのみであると考えていた。
(エ) その後,被告Y1は,アメリカに帰国したため,本件計画の進捗状況,本件建物の管理,地主に対する地代等に関して,電話やメールでEと連絡を取り合っていた。
(オ) 原告は,平成21年5月までに,F及びGを除く本件土地の借地権者との間で,本件基本合意と同じ内容の合意をし,平成22年3月10日までに,F及びGとの間で,本件基本合意と同じ内容の合意をした。
(カ) 被告Y1は,平成22年1月8日,Eに対し,以前,等価交換の対象として,2LDKの部屋と1LDKの部屋及び車庫2つを希望すると伝えていたにもかかわらず,その後回答がないなどと記載したメールを送信した。
これに対し,Eは,同日,被告Y1に対し,被告らが取得するマンションの部屋の位置などを検討しているなどと記載したメールを返信し,同月12日には,被告Y2に対し,被告らが取得するマンションの専有部分の床面積は14.2坪であり,その旨確認してほしい旨記載したメールを送信した。
また,Eは,被告Y2に対し,本件建物の所有名義がCのままとなっているため,被告Y2ら名義の相続登記をする必要がある旨連絡した。
(キ) その後も,被告らは,2LDKの部屋と1LDKの部屋及び2車庫との交換を希望したため,Eは,同年2月5日,被告Y2に対し,被告らの希望によれば専有部分の面積が約30坪程度となり,等価交換事業における不動産の評価基準とは乖離しているなどと記載したメールを送信した。
(ク) 被告Y1は,同月17日,Eに対し,14.2坪では被告Y2らが難色を示していると伝えるとともに,本件建物については,被告Y1にも相続分があることが判明したため,同被告を含めた被告ら全員を相続人とする遺産分割協議書を作成するようにと要請した。
(ケ) Eは,その後も被告Y1との協議を続けたものの,被告らは,14.2坪の部屋との等価交換に応じなかった。
そのため,Eは,同年3月20日,被告Y1に対し,1LDKの部屋を2つ(合計21.5坪)用意するとの代替案を提示して,その図面を示し,その後も,Eを始めとする原告の従業員や原告の依頼を受けた弁護士が被告Y1との協議を試みたが,被告Y1はこれに応じなかった。
イ 以上の事実を前提に判断する。
(ア) 原告は,被告らが最終売買契約の締結の求めに応じなかったことが,本件基本合意の第8条に違反する債務不履行であると主張する。
しかし,本件基本合意の第8条は,原告が,本件土地の地権者との権利調整を完了し,かつマンションの建築確認を取得した後,本件基本合意に基づき最終売買契約を締結するものとしているところ,原告は,未だ建築確認を取得していない(前記前提となる事実(4)キ)から,被告らが最終売買契約の締結の求めに応じなかったことが,同条に違反する債務不履行であるとはいえない。
原告は,建築確認が取得できなかったのは,被告らが最終売買契約の締結に向けた交渉に応じなかったからであり,故意に条件成就を妨げたと主張する。
しかし,上記認定事実によれば,被告らが原告との交渉を打ち切ったのは,平成22年3月20日頃と認められるところ,前記前提となる事実,証拠(甲60,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,同月15日,当初の予定を変更し,被告らとの最終売買契約を締結した後に,建築確認申請をすることとした事実が認められる。
そうすると,原告が,建築確認を取得しなかったのは,原告自らの判断によるものというほかなく,被告らが最終売買契約の締結に向けた交渉に応じなかった結果であるとはいえないから,被告らが故意に条件成就を妨げたとはいえない。したがって,原告の主張は採用することができない。
(イ) 原告は,被告らが交渉を破棄し,最終売買契約を締結しなかったことは,契約交渉過程における信義則上の義務に違反するものであると主張する。
上記認定事実によれば,被告Y1は,Eから説明を受け,被告Y2らの代理人として,原告に対し,等価交換の対象となる専有部分が14.2坪の部屋であることを承諾し,原告との間でそれを前提とする最終売買契約を締結することを合意したこと,そのため,原告は,本件基本合意に定めた面積での等価交換が可能であると信じ,他の地権者との権利調整を進めるとともに,被告らに対する相続登記の準備に協力していたこと,その後,被告らから,本件基本合意における合意内容を超える面積の専有部分を要求され,これに応じて譲歩案を提示したこと,にもかかわらず,被告らは,これに応ずることなく,その後の一切の交渉を拒絶したことが認められる。
このような事実経過によれば,被告らによる交渉の打切りは,信義則上の義務に反するものと認められる。
(ウ) この点につき,被告らは,本件基本合意が,最終売買契約の締結に至るまでの当座の合意にすぎないから,原告の信頼を保護する必要はないと主張する。
しかし,本件計画は,原告が購入する地権者の権利と,地権者が購入する新たに建築されるマンションの専有部分を価値の等しいものとし,それぞれの売買代金債権を対当額で相殺することを内容とするものであるところ,本件基本合意は,等価交換の対象となる専有部分について,面積を確定することを主たる目的とするものと解されるから,本件計画の基礎となる事項に関する合意であるというべきであって,単なる当座の合意にとどまるものとはいえない。
また,被告らは,最終売買契約の締結に向けた交渉を打ち切ったのは,原告の対応が不誠実であったとか,複数回にわたって面会を強要するなどの不当な対応があったためであり,交渉を打ち切ったことについてやむを得ない事情があると主張する。
しかし,上記認定事実によれば,原告は,被告らから2LDKと1LDK及び2車庫を要求された際,譲歩案を提案するなどしており,その対応が不誠実であったとはいえない。また,上記認定事実によれば,多数の地権者との権利関係を調整しなければならない本件計画において,被告らとの間で最終売買契約を締結できるか否かが,その実現を左右する状況にあったものと認められるから,被告らによって交渉を拒絶された後,複数回にわたって面会するよう求めることも当然というべきであるし,証拠(甲66,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,その態様も,電話をし,面会を求めるにとどまるものであって,一般的に許容し得ないものとはいい難い。
さらに,被告Y1は,本件基本合意の当事者とはなっておらず,原告に対して何らの法的責任を負わないと主張する。
しかし,被告Y1は,交渉段階の当初から,被告Y2らの代理人として振る舞い,本件基本合意の成立に関与した者として,原告に被告らとの間で最終売買契約を締結することができると信じさせたというべきであるから,信義則上の義務違反に基づく責任を負うというべきである。
以上のとおり,被告らの主張はいずれも採用することができない。
(2) 損害について
ア 本件土地の測量費用について
前記前提となる事実,証拠(甲30,甲64)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成21年6月8日,株式会社鼎測量設計に対し,本件土地の測量を注文し,その報酬として,162万7500円を支払い,同社から測量図面の提出を受けたこと,同日の時点では,地権者のうち,FとGとの間での権利調整が完了していなかったことが認められる。
そうすると,この測量費用の支出は,FやGの動向次第では,本件計画が実現できなくなる可能性のある中で実行されたものであって,原告が被告らとの間で最終売買契約が締結できるものと信頼したために実行されたものとはいえない。
したがって,これらの費用が,被告らの義務違反によって原告に生じた損害であるとは認められない。
イ マンションのプラン設計費用について
前記前提となる事実,証拠(甲31,甲63の1から18まで)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成20年9月頃から,株式会社安宅設計にマンションの設計図面等の作成を依頼し,別表「作成年月日」欄記載の日に,同表「作業内容」欄記載の図面を同社が作成したことが認められる。
このうち,同表の番号1から14までの図面は,原告と被告らとの間で本件基本合意が成立する平成21年3月10日より前に作成されたものであるから,原告が被告らとの間で最終売買契約が締結できるものと信頼して作成を依頼したものとはいえない。
また,同表の番号17の図面は,被告らの新たな要求に応じた場合,原告の採算がどのようになるかを検討するための資料であるし(証人E),番号15,16及び18の図面も,被告ら以外の地権者との個別の交渉のために作成されたものというべきであるから,これらは,原告が被告らとの間で最終売買契約が締結できるものと信頼して作成を依頼したものとはいえない。
したがって,これらの図面の作成費用が,被告らの義務違反によって原告に生じた損害であるとは認められない。
ウ F及びGとの交渉等に要した弁護士費用について
証拠(甲32)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成21年3月10日に被告らと本件基本合意に至り,その後,F及びG以外の地権者との間で本件基本合意と同趣旨の合意に至ったことから,F及びGとの交渉を弁護士に依頼し,その成功報酬として210万円(うち源泉徴収税が30万円)を支払ったことが認められる。
しかし,これは,F及びGとの個別の交渉のために支出されたものであって,被告らとの間で最終売買契約が成立するものと信頼して実行されたものとはいい難い。
したがって,この費用が,被告らの義務違反によって原告に生じた損害であるとは認められない。
エ 本件建物の被告らへの相続登記の準備に要した費用について
証拠(甲33,甲57)及び弁論の全趣旨によれば,本件基本合意が成立した時点において,本件建物の登記名義は既に死亡していたCのままとなっており,最終売買契約を締結するための準備として,被告らに対する相続を原因とする所有権移転登記手続をする必要があったこと,原告が相続関係の調査等を司法書士に依頼し,その費用として19万7200円を支払ったことが認められる。
これは,被告らとの間で最終売買契約が締結できるものと信頼して支出された費用であると認められる。
したがって,被告らは,上記の19万7200円の損害を賠償する責任を負う。
オ Hに支払った営業保証金について
前記前提となる事実,証拠(甲34)及び弁論の全趣旨によれば,Hは,本件計画が実行されるものと信頼して,平成21年12月,本件土地上の建物において営んでいた飲食店を廃業したこと,被告らの交渉拒絶により,本件計画が実行できなくなったため,原告は,Hに対する営業保証として,Hの所有する建物を6か月間賃借することとし,その賃料として合計72万円(月額12万円)を支払ったことが認められる。
これらの事実によれば,このような費用は,被告らによって交渉を打ち切られ,本件計画を実現することができなくなったために支出を余儀なくされたものということができる。
したがって,被告らは,上記の72万円の損害を賠償する責任を負う。
カ 本件計画のために費やした従業員の人件費
原告は,本件計画を遂行するために,平成19年11月から平成22年3月までの間,従業員の人件費として合計1784万8320円を支出しており,これは,被告らが交渉を打ち切ったことによって生じた損害であると主張する。
しかし,本件計画は,複数の地権者との交渉を要する等価交換事業であり,原告は,被告らによる交渉拒絶の有無にかかわらず,従業員に地権者との交渉に当たらせるなどの必要があったものと認められるから,このような業務に関して支出した人件費が,被告らの義務違反によって原告に生じた損害であるとは認められない。
したがって,原告の主張は採用することができない。
キ 慰謝料について
原告は,被告らの本件訴訟における主張の内容が,原告の従業員を侮辱するものであり,その慰謝料は100万円であると主張する。
しかし,仮に,被告らの主張の内容が原告の従業員を侮辱するものであったとしても,それによる損害は,原告の従業員に生ずるものであるから,原告がこれを請求することはできないというべきである。
したがって,原告の主張は採用することができない。
ク 被告らの主張について
被告らは,本件基本合意の第14条及び第6条により,原告に対する損害賠償義務を負わないと主張する。しかし,これらの条項は,本件計画が頓挫したことについて,当事者双方に責めに帰すべき事由がない場合に関するものであることがその文言上明らかであるから,本件のように,被告らに信義則上の義務違反が認められる場合にまで,これらの条項が適用されるものとはいえない。
よって,被告らの主張は採用することができない。
ケ まとめ
以上によれば,被告らは,原告に対し,信義則上の義務違反に基づく損害賠償として,91万7200円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払義務を負う。
遅延損害金について,原告は,商事法定利率によるべきことを主張するが,この損害賠償義務は,契約上の債務の不履行を原因とするものではないから,商行為によって生じた債務ということはできず,したがって,遅延損害金は,民法所定の年5分の割合によって定めるべきである。
2 反訴
被告らは,原告が本訴において主張する権利について,事実的,法律的根拠を欠くにもかかわらず,原告がそのことを知りながら,又は通常人であれば知り得たにもかかわらず,あえて本訴を提起したものであり,これは不法行為に当たると主張する。
しかし,上記1において説示したとおり,原告が本訴において主張する権利について,事実的,法律的根拠を欠くとはいえない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告らの反訴請求は理由がない。
第4 結論
よって,原告の本訴請求は主文掲記の限度で理由があり,被告らの反訴請求は理由がない。
(裁判長裁判官 村上正敏 裁判官 片山博仁 裁判官 林優香子)
〈以下省略〉
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