
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(177)平成25年 3月22日 東京地裁 平23(ワ)3088号 損害賠償請求事件
判例リスト「完全成果報酬|完全成功報酬 営業代行会社」(177)平成25年 3月22日 東京地裁 平23(ワ)3088号 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成25年 3月22日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)3088号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部却下、一部棄却 文献番号 2013WLJPCA03228012
要旨
◆a社との匿名組合契約の終了に伴い同社からb社株式を譲り受けることになったX社が、a社を実質的に支配するY3社及び同社代表取締役Y1はY2に指示してb社株券を保管場所Y4社から持ち出し無断費消したなどとして損害賠償を求めた事案において、Y2は本件株券を原告事務所に返還したと認められるから本件株券を原告親会社の実質的経営者に引き渡したとは認められないとして、同引渡しを前提とするY2及びY4社の不法行為責任を否定し、また、原告が主張する被告らの各責任も否定してY2らに対する請求を棄却した上、海外在住のY1に対する訴えは、不法行為の客観的事実関係について十分な証明がないから不法行為地を理由とする国際裁判管轄は認められないなどとして、同訴えを却下した事例
参照条文
民法709条
民法715条
民法719条1項
会社法350条
民事訴訟法3条の3第8号
裁判年月日 平成25年 3月22日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平23(ワ)3088号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部却下、一部棄却 文献番号 2013WLJPCA03228012
大阪市〈以下省略〉
原告 有限会社X
同代表者取締役 A
同訴訟代理人弁護士 塩谷安男
同 豊田賢治
同 池田理明
同 横井良
同 小宮誉文
東京都港区〈以下省略〉
被告 Y3株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 川端健太
同 信國篤慶
東京都港区〈以下省略〉
被告 Y4株式会社
同代表者代表取締役 C
同訴訟代理人弁護士 髙橋法彦
シンガポール共和国〈以下省略〉
被告 Y1
同訴訟代理人弁護士 川嶋尚道
同 牧野義信
同 加藤春恵
同 近藤秀和
同 原口昌之
同 坂井陽一
東京都中央区〈以下省略〉
被告 Y2
同訴訟代理人弁護士 堂野達之
同 福住淳
同 後藤大
主文
1 原告の被告Y1に対する訴えを却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告に対し,連帯して2億円及びこれに対する平成19年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は,原告が,有限会社a(以下「a社」という。)との間の匿名組合契約の終了に伴い,a社からb株式会社(以下「b社」という。)の株式の分配を受けることになったところ,a社を実質的に支配していた被告Y3社(変更前の商号は「c株式会社」。以下,商号変更の前後を問わず「被告Y3社」という。)及びその代表取締役であった被告Y1(以下「被告Y1」という。)が,被告Y2(以下「被告Y2」という。)に指示して,原告が受領するはずのb社の株券を,その保管場所であった被告Y4株式会社(以下「被告Y4社」という。)から持ち出して,原告に承諾を得ることなく費消したなどと主張して,被告Y3社及び被告Y4社に対しては,民法709条,715条,719条1項前段及び会社法350条に基づき,被告Y1及び被告Y2に対しては,民法709条及び719条1項前段に基づき,損害額2億9123万5000円の一部に当たる2億円及び最終の不法行為日である平成19年5月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。
1 前提事実(括弧内に証拠等を記載した事実以外は争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は,有価証券の保有及び売買を主な事業とする有限会社であり,d株式会社(以下「d社」という。)の100%出資により,d社の集めた資金の受け皿となる会社として,平成17年3月に設立された。
同年7月から平成21年4月まで,原告の登記簿上の取締役は,D(以下「D」という。)であった(甲1の1,同2)。
イ d社は,ファンドの組成・管理,不動産事業,M&Aのコンサルティング及びこれらに付随する資金調達を業とする株式会社であり,E(以下「E」という。)の100%出資によって,平成16年4月に設立された。Eは,設立時から平成17年6月までd社の代表取締役を務め,平成18年2月まで取締役を務めた後,いったん取締役を辞任したが,平成20年12月に代表取締役に復帰した(甲4の1,同2,乙イ6)。
ウ 被告Y3社は,投資事業を主な事業とする株式会社であり,東京証券取引所第二部市場に株式を上場している。被告Y3社は,平成22年10月1日,商号を「c株式会社」から,現商号に変更した。
エ 被告Y1は,平成16年7月から平成19年9月まで,被告Y3社の代表取締役(社長)を務め,その後,平成20年6月まで,取締役を務めた者である。被告Y1は,平成17年5月から平成18年8月まで,被告Y4社の取締役も兼務した(甲2の2,同3,甲3の2)。
オ 被告Y4社は,投資に関するコンサルティングを業とする株式会社である。被告Y4社は,平成16年10月から平成17年5月まで,被告Y3社がその株式の50%以上を有する同社の子会社であったが,その後,保有株式が減少し,子会社ではなくなった(弁論の全趣旨)。
カ 被告Y2は,平成16年10月にd社に入社し,平成17年6月から同社の執行役員を務めたが,同年11月末日に同社を退社して,被告Y3社に入社し,平成18年12月からは関連事業部の事業部長と被告Y3社の子会社である株式会社eの取締役を務めていた者である。
キ Eは,前記イのとおり,d社の設立者であり,平成16年4月から平成18年2月まで及び平成20年12月2日以降,d社の代表取締役又は取締役を務めている。また,Eは,被告Y3社の役員も務めたことがあり,平成16年6月から平成17年6月まで監査役,同月から平成18年6月まで代表取締役(副社長),同月から同年9月まで取締役を務めた。さらに,Eは,平成17年8月から平成18年8月まで,b社の取締役を,平成17年12月以降,株式会社f(以下「f社」という。)の代表取締役を兼務した。
(2) 被告Y3社によるb社への投資
被告Y3社は,支援先の企業に対して資金と人材を投入し,財務基盤再構築と競争力回復を図り,株価の上昇を通じて企業価値の向上を目指すという企業活性化支援事業を行っていた。
被告Y3社は,平成17年頃,大阪証券取引所市場第二部に株式を上場していたb社を活性化支援先の一つと位置づけ,同年5月23日,b社の新株予約権(以下「本件新株予約権」という。)1万5500個(1個につき1000株。1550万株相当。)を3億4100万円で引き受けることにした。本件新株予約権の行使価格は,1株あたり190円であり,同月末日時点でのb社の株価は,384円であった。(以上の事実につき,甲7,甲8の1ないし3,甲48)。
当時,d社の代表取締役と被告Y3社の監査役を務めていたEは,この新株予約権引受けの交渉を担当し,同年8月には,b社の取締役にも就任して,同社の経営再建に当たった。
(3) a社によるファンドの組成
ア 被告Y4社は,匿名組合契約を締結した匿名組合員からの出資を募集して,これを原資に,被告Y3社からb社の新株予約権を購入することにした。被告Y4社は,平成17年7月28日,その購入資金を集める受け皿会社として,中間法人を経由して,a社を設立した。a社は,設立時から平成19年11月まで,被告Y4社の本店事務所内を本店所在地とし,匿名組合契約の組成,計算事務等の管理業務を被告Y4社に,投資助言業務等を被告Y4社の子会社であるg株式会社に,それぞれ業務委託していた(甲3,甲12,甲13,甲18(各枝番含む),弁論の全趣旨)。
イ a社は,被告Y3社からb社の新株予約権を購入する資金を集めることを目的に,「a1匿名組合」(以下「a1ファンド」という。)を組成することとし,投資家からの出資を募集した。
(4) 原告や被告Y3社によるa1ファンドへの出資
ア 原告は,a1ファンドへの出資をすることにし,平成17年8月8日,a1ファンドへの投資資金を集めることを目的に,複数の投資家との間で匿名組合契約を締結し,合計14億8580万円の匿名組合出資を受けた(以下,原告と各投資家との間のこの匿名組合契約により組成された匿名組合を総称して「本件原告ファンド」という。)。
原告と各匿名組合員との間では,本件原告ファンドを原資とする営業により各計算期間中に生じた利益及び損失の全額を匿名組合員に分配すること,契約期間を平成18年7月31日までとすることが合意された(甲14)。
イ 原告(匿名組合員)は,同月10日,a社(営業者)との間で,下記の内容を含む匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約」という。)を締結し,本件原告ファンドに対する出資金14億8580万円のうち13億9500万円をa1ファンドに出資した(以上の事実につき,甲14,甲16,甲17,甲18の1,弁論の全趣旨)。
記
(ア) a社は,本営業により各計算期間中に生じた利益及び損失の全額を,本匿名組合員に分配するものとする。
(イ) 計算期間とは,4月1日(同日を含む。以下同じ。)から9月30日まで,10月1日から3月31日までの各半年間(ただし,初回の計算期間の始期は平成17年8月10日。)とする。
(ウ) 営業者は,各計算期日から3か月以内に,当該計算期間における本営業の実施に関する損益計算書及び貸借対照表,当該計算期間における利益及び損失の計算表,当該計算期間における社員総会議事録の各写しを,匿名組合員に交付する。
(エ) 契約の期間は,契約締結日から平成21年7月末日までとする。ただし,契約期間満了までに匿名組合員の同意を得ることで,営業者はその判断により契約期間をさらに1年間延長することができ,その後も同様とする。
ウ 被告Y3社も,平成17年8月頃,原告と同様に,31億5000万円をa1ファンドに出資した(甲18の1)。
また,被告Y2が取締役を務めていた有限会社hは12億5200万円を,被告Y3社が業務執行組合員を務めていたi企業再生ファンド(以下「iファンド」という。)は5000万円を,被告Y3社が資本参加していたj株式会社(当時の商号は「株式会社j1」。以下,商号変更の前後を問わず「j社」という。)は5億円を,原告や被告Y3社と同様に,それぞれa1ファンドに出資した(甲18の1,同2,甲20)。
(5) a社による新株予約権の購入
a社は,同年8月12日,a1ファンドで調達した資金を用いて,被告Y3社から,本件新株予約権1万5500個のうち1万2300個を31億6110万円で購入した。
a社は,同月18日から同年9月1日までに,順次,本件新株予約権を行使し,b社から合計1230万株の株式の発行を受けた(甲18の2)。
(6) a社からの配当金の支払
b社株式の株価は,平成17年9月30日時点で758円となり,a1ファンドには,巨額の含み益が発生し,同日の時点で約38億円の営業利益を計上した。a社は,同年12月29日,匿名組合員のうち原告,被告Y3社,j社のみに配当を実施することとし,原告は約8億3200万円,被告Y3社は約18億7800万円,j社は約2億9800万円の配当を受けた(甲18の2,同3)。
被告Y3社は,平成17年12月,a1ファンドの全ての持分(31億5000万円)を有限会社k(以下「k社」という。)に約32億円で譲渡し,a1ファンドから離脱した。
(7) a1ファンドの破綻
平成18年1月,いわゆる「ライブドアショック」が発生して株式市場が冷え込み,それ以降,b社の株価も同年1月の終値で538円,同年2月の終値で420円,同年5月の終値で352円,同年8月の終値で229円と下落を続けた(甲8の2)。
a社は,原告との間の本件匿名組合契約を,同年7月31日をもって終了する処理を行い,清算の結果,原告は,b社株式191万5000株(同日の終値で213円)と現金3185万6498円の償還を受けることになった(甲18の4)。しかし,原告に償還されるべきb社の株券は,a社の事務所を兼ねる被告Y4社の事務所において管理・保管されることになり,原告の事務所には返還されなかった。
(8) b社の株券の移動
ア 被告Y3社は,ライブドアショックの影響を受けて資金繰りが悪化したため,平成18年8月23日以降,被告Y4社の事務所に管理・保管されていた原告に償還すべきb社の株券191万5000株のうち130万株を利用して資金調達を行い,平成18年9月15日,そのうちの40万株を被告Y4社の事務所に返還した(甲28,甲32)。そのため,平成19年3月の時点で,原告に償還されるべきb社の株券のうち90万株は被告Y3社によって資金調達に利用され,101万5000株は被告Y4社の事務所内で管理・保管されていた。
イ 被告Y2は,同月16日から同月22日までの間に,被告Y4社の事務所内から,原告に償還されるべきb社の株券101万5000株を運び出した(被告Y2が株券を運んだ先が原告の事務所であるかは争いがある。以下,被告Y2によるこの株券の移動を「本件株券移動①」という。)。
同月22日,b社の株券101万5000株は,被告Y3社が活性化支援先の一つと位置づけ,当時Eが代表取締役を務めていたf社に渡り,エイケイ証券株式会社(以下「エイケイ証券」という。)のf社名義の証券口座に入庫され,f社の資金調達に利用された(甲48)。
ウ 被告Y2は,平成19年5月22日,被告Y3社が資金調達に利用していたb社の株券の残り90万株の返還を受けることになったため,被告Y3社の事務所から,原告に償還されるべきb社の株券90万株を運び出した(被告Y2が株券を運んだ先が原告の事務所であるかは,前記イと同様,争いがある。以下,被告Y2によるこの株券の移動を「本件株券移動②」といい,本件株券移動①と併せて「本件各株券移動」という。)。
同日,b社の株券90万株もまた,エイケイ証券のf社名義の証券口座に入庫され,f社の資金調達に利用された。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 被告Y1に対する訴えについて国際裁判管轄があるか
(原告の主張)
ア 被告Y1が我が国においてした行為によって原告の法益に損害が生じたとの客観的事実関係を証明すれば,原告の被告Y1に対する訴えについて,不法行為地である我が国の裁判所に国際裁判管轄が認められる。
被告Y1は,Eと共謀して,原告の承諾がないのに,被告Y2に指示して,平成19年3月及び5月の2回にわたり,原告所有のb社の株券合計191万5000株を東京都内にある被告Y4社の事務所及び被告Y3社の事務所から持ち出させ,E又はその指示を受けた者にこれを引き渡して費消させた。原告は,その客観的事実関係について十分な証明を行ったから,不法行為地である我が国の裁判所に,原告の被告Y1に対する訴えの国際裁判管轄が認められる。
イ 被告Y1は,シンガポール共和国に永年定住していないし,被告Y1の配偶者は現在も我が国に居住しているから,原告の被告Y1に対する訴えは,普通裁判籍によって我が国に国際裁判管轄が認められる。
(被告Y1の主張)
ア 原告は,被告Y1とEの共謀や被告Y2への指示の態様について,極めて抽象的な主張しかせず,その主張を裏付ける証拠も何ら提出しないから,不法行為地管轄を認めることはできない。
イ 被告Y1の現住所は,シンガポール共和国内にあり,日本に生活の本拠はないから,我が国の裁判所に普通裁判籍はない。
(2) 被告Y2がb社の株券を原告の事務所に返還したか
(原告の主張)
ア 本件株券移動①
被告Y2は,平成19年3月16日から同月22日までの間に,原告に償還されるべきb社の株券101万5000株を,E又はその指示を受けた者に交付し,費消させた。
イ 本件株券移動②
被告Y2は,同年5月22日,原告に償還されるべきb社の株券90万株を,E又はその指示を受けた者に交付し,費消させた。
ウ 被告Y2が株券を原告の事務所ではなくE又はその指示を受けた者の下に運んだといえる根拠
(ア) 本件株券移動①の前の事実関係
a a社脱退前にb社の株券を原告に返還する準備がされていたこと及び被告Y3社による流用
a1ファンドは,平成18年5月頃から,原告の脱退と脱退に伴う出資の返還を予定しており(乙イ3,乙ニ7),原告も,同年8月,b社の株券を受け入れるためにサンライズキャピタル証券株式会社に証券口座を開設し,受領の準備をしていた(甲75の1)。しかし,Eは,急きょ,原告の承諾なく,b社の株券を被告Y3社に流用させることにしたため,結局,当該口座は利用されなかった。
b d社の要職にあったF(以下「F」という。)やG(以下「G」という。)が原告のa1ファンド脱退について報告を受けていないこと
平成17年6月から原告の100%親会社であるd社の取締役を務め,平成18年9月からは代表取締役を務めたFや,d社の管理部門の責任者であったGは,原告が平成18年7月31日にa1ファンドを脱退したことについて,d社の従業員で原告の事務を担当していたH(以下「H」という。)やI(旧姓は「I1」。以下「I」という。)を含め,誰からも報告を受けなかった。
c 被告Y4社に株券を管理・保管させた動機
被告ら及びEは,原告のa1ファンド脱退後,原告に償還されるべきb社の株券を被告Y4社に管理・保管させ,原告の承諾を得ないまま,無償で被告Y3社の資金繰りに利用させたから,被告ら及びEがb社の株券を被告Y4社に留め置いた真の理由が,当時資金繰りに苦しんでいた被告Y3社の救済にあったことは明らかである。そうすると,被告Y2による本件各株券移動の動機も,b社の株券をf社の資金繰りに利用させるためであったと考えられ,被告Y2が株券を原告に持ち込む必要はないから,被告Y2は,b社の株券を,E又はその指示を受けたf社の関係者等に直接渡したはずである。
被告らは,原告がa1ファンドを脱退した平成18年7月31日当時,本件原告ファンドが債務超過の状態にあってすぐには解散することができなかったため,直ちにb社の株券を原告に返還する必要がなく,被告Y4社に管理・保管させていたと主張するが,本件各株券移動の時点でも本件原告ファンドは債務超過の状態にあったから,被告らの説明には齟齬がある。
d Eによるエイケイ証券口座の開設と株券移動直後の入庫
Eは,本件株券移動①の直前である平成19年3月13日頃,エイケイ証券にf社名義の口座を開設し,被告Y2は,その直後の同月16日から22日までの間に本件株券移動①を行ったから,本件株券移動①は,被告Y2が,受け皿となる口座の準備を整えたEの指示を受けて,EかEの指示を受けたf社の関係者等に株券を直接渡したと推認される。
そもそも,被告らの主張によれば,Eが原告の実質的な代表者であり,原告の財産を受領・処分する権限を有していたのだから,被告Y2が,E又はその指示を受けた者に直接b社の株券を交付することに何ら問題はないはずであって,Eもそのように指示するのが自然である。Eも,過去に,独断でb社の株券を流用したことを認めていた(甲26,甲27)。
(イ) 本件各株券移動当時の事実関係
a 本件各株券移動の動機
被告Y2が,本件各株券移動を行った動機は,原告に承諾を得ないまま,b社の株券を被告Y3社の活性化支援先の一つであるf社の資金繰りに利用させるためであった。そうすると,被告Y2は,b社の株券を直接f社に持ち込めば足りるから,原告の事務所に持って行ったはずがない。
被告らは,本件株券移動①の動機について,被告Y3社の監査に当たって,被告Y4社に管理・保管されていたiファンドに償還すべきb社の株券を被告Y3社の事務所に届ける必要が生じ,この事務を被告Y2が担当することになったので,被告Y2が,原告にも一緒に株券を届けることにしたと主張する。しかし,監査に当たって株券の現物を実際に確認する必要まではないのが通常であるから,iファンド所有に係る株券を被告Y3社の事務所に運ぶ必要はなかったはずであるし,当時はまだ本件原告ファンドが債務超過の状態にあったから,原告の事務所に株券を届ける必要もなかった。また,原告に償還すべき株券は191万5000株であり,その一部の101万5000株だけをあえて先に返還する必要もなかった。したがって,被告らの主張する動機は不自然である。
b 原告の従業員が受領していないこと
原告の事務を担当していたHやIは,本件各株券移動の当時,被告Y2からb社の株券を受領していない。
このことは,原告と被告Y2との間で受領証のやりとりがされなかったことからも明らかである。被告らは,本件株券移動①の際に,b社の株券191万5000株を受領した旨が記載された原告作成名義・a社宛ての平成18年10月31日付け受領証(乙イ4。以下「平成18年10月31日付け受領証」という。)をa社に渡し,本件株券移動②の際に,b社の株券90万株を受領した旨が記載された原告作成名義・被告Y3社宛ての平成19年5月22日付け受領証(乙イ7。以下「平成19年5月22日付け受領証」という。)を,被告Y3社に渡したと主張するが,これは,E又はその指示を受けた者が権限なく作成したものであり,HやIが作成したものではない。特に,平成19年5月22日付け受領証は,原告の実印が用いられておらず,偽造書面であることは明らかである。
また,Hは,本件株券移動②のあった平成19年5月22日の午後3時2分,被告Y3社の監査法人から原告宛てに届いた「預り株式残高確認書」(甲31)にb社の株券90万株を原告から預かっていると記載されていたことについて,被告Y2に対し,内容が分からないため確認できるものがあれば教えてほしいと電子メールで問い合わせた(甲83)。これは,Hがそのときまでb社の株券90万株を受領していないことを示している。また,被告Y2は,これに対し,同日午後11時18分に,単に「問題ありません。」と返信するのみで,その日に原告の事務所に運び込んだ90万株のことだと説明をしていないから,株券を運び込んだ者の行動として不自然である。
c FやGが株券の移動について報告を受けていないこと
F及びGは,本件各株券移動に際し,原告がb社の株券を受領したという報告を誰からも受けていない。
被告Y2は,平成19年5月頃,本件原告ファンドの処理について困惑したGから頼られる状況にあったから(乙ニ7),このような状況でb社の株券を原告に返還したのであれば,被告Y2は,Gにそのことを報告するはずであり,不自然である。
また,本件原告ファンドの第2期(平成18年4月1日から平成19年3月31日)財務諸表(乙ニ8の2)には,原告のf社に対するb社株式の貸株料が記載されておらず,本券原告ファンドの決算事務を手伝っていた被告Y2が,この貸株の事実を隠そうとしたことがうかがわれる。
(ウ) 本件株券移動②の後の事実関係
a f社の従業員が原告の事務所にb社の株券を受け取りに行っていないこと
Eは,原告の事務所に移ったb社の株券を,f社の従業員であったJ(以下「J」という。)やK(以下「K」という。)に取りに行かせ,Hに対してもf社の従業員に対して株券を渡すよう指示をしたと陳述及び供述する。しかし,原告とJ及びKとの間で株券の受領証が交わされた形跡はないし,JもHも,b社の株券のやり取りをした記憶はないと述べるから,Eの上記供述は信用できない。
b 被告Y2による場当たり的な決算処理
被告Y2は,本件原告ファンドの決算処理を主導していたが,その決算処理ないし解散処理は二転三転し,混乱した様相を呈している(甲78,甲82,乙イ3,乙ニ8の2,被告Y2本人)。このような混乱が生じたのは,b社の株券を被告Y3社やf社の資金繰りに流用するという,本来予定されていなかった事態が発生したためとしか考えられない。
c 被告Y2やEがa1ファンド脱退や株券の移動について秘匿していたこと
被告Y2は,本件各株券移動を行っておきながら,Fに対し,このことを一貫して秘匿していた。d社では,d社の管理するファンドの投資家全員に当該ファンドの決算書を送付することとしていたが,a1ファンドからの脱退について記された本件原告ファンドの第2期財務諸表(乙ニ8の2)は,平成19年6月にEの顧客3名に送付されたのみで,Fの顧客を中心に構成されたそれ以外の匿名組合員には送付されなかった(甲81)。
Eや被告Y2がFに本件各株券移動の事実を告げなかったのは,原告に承諾を得ないままb社の株券をf社の資金調達に利用しようと考えたためである。
(エ) a1ファンド脱退時に原告に分配された現金の返還も受けていないこと
原告は,a1ファンドからの脱退に伴い,b社の株券に加え,現金3185万6498円が分配されるはずであった。しかし,原告は,これまでに当該金員の返還を受けていない。
(オ) 被告Y2の供述が信用できないこと
被告Y2は,b社の株券を,平成19年3月22日頃及び同年5月22日に,原告の事務所に移動させたと供述するが,これを裏付ける客観的な証拠はない。
それに,被告Y2は,本件各株券移動について,当初はいずれもHかIに交付したと主張したが,H及びIの陳述書が提出されると,株券を原告の金庫に入れた可能性もあるとして主張を変遷させた。また,被告Y2は,平成18年10月31日付け受領証の作成経緯についても,a社が平成19年5月にb社の株券191万5000株を原告に返還したことから,原告がa社に対して交付したものであると主張していたが,その後,平成19年3月に被告Y4社に交付したと主張するようになり,その作成経緯の説明が変遷している。
さらに,被告Y2は,当初,b社の株券を被告Y3社の事務所に持ち込んだことはないと主張していたが,客観的な証拠を示されると,本件各株券移動の前に被告Y3社にその一部を持ち込んで利用させていたことを認めるに至った。
これに加え,被告Y2は,本件訴訟係属後,F,G,Jに働きかけ,原告に協力しないよう求めるなど,真実を述べているのであれば通常とらないはずの工作を行っていた(乙ニ28,甲96の1及び2)。
したがって,被告Y2の本件各株券移動に関する供述は,信用することができない。
エ 以上によれば,被告Y2が,原告の所有するb社の株券191万5000株を,原告の承諾なく持ち出し,これを費消したことは明らかであり,被告Y2は,原告に対して不法行為責任を負う。
また,被告Y4社は,原告のためにb社の株券を管理・保管しなければならないにもかかわらず,原告の承諾なく被告Y2にその全部を引き渡し,これを費消させたから,原告に対して不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
ア 本件株券移動①について
被告Y2は,被告Y4社の代表者であったL(以下「L」という。)及び被告Y3社の財務担当取締役であったM(以下「M」という。)に事前に連絡をした上で,平成19年3月19日から22日までの間に,被告Y4社の事務所を訪れ,a社の管理・保管に係る原告所有のb社の株券101万5000株を受領し,d社の事務所内にあった原告の事務所に持ち込み,HもしくはIに引き渡したか,又は自身で同事務所内の金庫に保管した。
イ 本件株券移動②について
被告Y2は,被告Y3社の資金繰りに目処がついて,b社の株券90万株を原告に返還できる状態となったと聞いたことから,被告Y3社の事務所から原告の事務所に株券を移動させることとし,平成19年5月22日,被告Y3社の事務所で本件株券90万株を受領し,d社の事務所内にある原告の事務所に持ち込み,HもしくはIに対してこれを引き渡したか,又は自身で同事務所内の金庫に保管した。
ウ 被告Y2が株券を原告に返還したとする被告Y2及びEの供述が信用できること
(ア) 客観的な裏付けがあること
a 被告Y2は,平成19年3月22日頃に原告事務所に株券を移動させるに当たり,あらかじめ,原告から平成18年10月31日付け受領証(乙イ4)を受け取り,被告Y4社の事務所から株券を持ち出す際,これをa社に渡した。この受領証は,当時,原告の印鑑を利用する権限,株券の受領及び貸付権限並びに受領証の作成権限を有していたE又はその指示を受けたd社の従業員が作成したものである。
平成18年10月31日付け受領証には,日付と受領した株券数について事実と異なる記載(株券数につき191万5000株と記載)があるが,これは,本件匿名組合契約6条1項に「営業者は,各計算期間終了後3ヶ月以内の任意の日に,当該計算期間ごとに前条に従い計算・分配される利益を,出資割合に従い,出資金受入口座内の残高を上限として,金銭にて本匿名組合員に支払う。」と定められていたことを踏まえ,全ての株券を本件匿名組合契約の終了日である同年7月31日から3か月以内に返還した内容となるように作成したものである。このような文面にしても,平成19年2月21日付け株券預り証(乙ニ24)により残り90万株が被告Y3社に管理・保管されていることが明らかであり,残りは被告Y3社から原告に直接返還されれば足りるから,a社に対して全ての株券の返還を受けた旨を記載しても問題はなかった。
b また,被告Y2は,平成19年5月22日に原告事務所に株券を移動させるに当たり,あらかじめ,原告から同日付け受領証(乙イ7)を受け取り,被告Y3社の事務所から株券を持ち出す際,これを被告Y3社に渡した。この受領証も,E又はその指示を受けたd社の従業員が,原告の他の様々な契約書(乙イ15の1,乙イ16の1,乙イ17)にも用いられている原告の印鑑を用いて作成したものである。
原告は,本件株券移動②のあった平成19年5月22日に被告Y2がHに送った電子メールの内容が不自然であると主張するが,被告Y2は,Hから,同年3月31日時点で被告Y3社がb社の株券を90万株預かっていたかどうかについて問い合わせを受け,端的に「問題ありません。」と正しく回答したのであって,その回答は自然かつ合理的である。
(イ) 被告Y4社に株券を管理・保管させた動機及び本件各株券移動の動機
a 原告がa1ファンドを脱退した当時,償還を受けるべきb社の株券を被告Y4社に預けたままにした理由は,本件原告ファンドが債務超過で清算を行えない状態にあり,すぐに株券を原告に渡す必要がなかったためである。
b 被告Y2が平成19年3月22日頃にb社の株券を原告の事務所に運んだ動機ないし理由は,以下のとおりである。
同月頃,被告Y3社の従業員であった被告Y2は,a1ファンドの事務を行っていた被告Y4社の従業員のNが退職し,被告Y2以外に複雑なa1ファンドの処理を行う知識を有する者がいなくなったことから,いつか自らa1ファンドの清算事務を処理しなければならないと考えていた。そして,被告Y2は,この頃,原告と同時にa1ファンドを脱退したiファンドが被告Y3社の連結対象子会社となり,iファンド保有に係る株券について,被告Y3社の監査法人による現物確認を受ける必要が生じたこと(乙イ35),iファンドも,原告と同様,a1ファンド脱退時にb社の株券6万9000株を被告Y4社に預けたままにしてあり,これを被告Y3社に返還する必要があることを知った。このとき,被告Y2は,これを機に,被告Y3社の事務所に近い原告にもb社の株券を返還しようと考えたのである。
c 被告Y2が平成19年5月22日にb社の株券を原告の事務所に運んだ動機ないし理由は,同月頃,被告Y3社から,資金繰りに目処がつき,原告から借りていたb社の株券90万株を返還できると聞いたため,a1ファンドの清算事務の処理を進めるために,被告Y3社の事務所から原告の事務所に残りの株券を移動させようと考えたのである。
(ウ) 原告の提出する陳述書の内容や原告側証人の供述が信用できないこと
本件訴訟は,原告の背後にいるO(以下「O」という。)が,関係者に対して,協力しないと事件に巻き込む旨告げて,自らの考えるストーリーに沿った陳述書を多数作成させ,これらを証拠提出した不当訴訟である。原告が提出した関係者の陳述書や法廷での供述は,いずれもOの意向に従った内容のものであって,信用することができない。
(3) Eのb社の株券についての処分権限
(被告らの主張)
仮に,被告Y2が,Eに対し,原告に償還すべきb社の株券を交付したとしても,Eは,平成19年3月及び5月当時,原告の実質的な代表者であり,b社の株券を受領,処分する権限を有していたから,被告Y2の交付行為は,原告代表者に対する適法な行為であり,不法行為責任を生じさせない。
また,仮に,被告Y2が,Eの指示を受けたf社の従業員に交付したとしても,原告とf社との間には,b社の株券消費貸借契約が成立している(乙ニ3,乙ニ4)から,その交付行為は適法な行為であり,不法行為責任を生じさせない。
(原告の主張)
Eは,本件各株券移動の当時,議決権割合35%のd社の一株主にすぎず,d社の役員でもなかったから(甲4の2,甲54),d社及び原告において何らの権限も有していなかった。Eが,当時,d社及び原告の事務所に出入りしていたのは,Eがd社の取締役を辞任する前からあった投資案件が全て終了しておらず,引き続き投資先のモニタリングを行わせた方が投資家の利益となるとFが考え,出入りを許したからにすぎない。E自身も,過去に,b社の株券を原告に無断で流用したことを認め(甲26,甲27),本件訴訟に至るまで,Fや原告の取締役を務めるA(以下「A」という。)からb社の株券の流用について責められても,自らに処分権限があることを主張しなかった。
f社との間のb社の株券消費貸借契約は,Eが無権限で締結したものであるし,その契約書も,E又はその指示を受けた第三者が無権限で作成したものである。
仮に,Eに原告の財産を処分する何らかの権限があったと評価するとしても,当該権限は無制限ではなく,あくまで原告の利益のために行使されなければならない(会社法356条参照)。Eは,原告の利益を何ら図ることなく,自ら代表取締役を務めるf社の資金繰りの目的のためだけに原告の財産であるb社の株券を利用したから,このような行為をEに与えられた権限の範囲内の行為と認めることはできない。
(4) f社から原告へのb社の株券の返還と追認
(被告らの主張)
仮に,原告とf社との間のb社の株券消費貸借契約が成立しておらず,同契約書(乙ニ3,乙ニ4)が権限なく作成されたものであったとしても,f社は,株券を返還することができない場合に現金で返済するとの約定に従って,平成19年9月19日,原告に対し,株券の返還に代えて現金9000万円(本件株券の貸株料100万円を含む。)を支払った。これは,その前日のb社株式の終値1株90円で換算すると,98万8888株の返還に当たる(乙イ28,乙イ29,甲86)。また,f社は,平成19年12月11日,原告に対し,b社から配当された283万1850円を送金した。原告は,f社との間の株券消費貸借契約の存在を前提とする入金を全く問題視していないから,同契約を追認したというべきであり,これによって,被告Y2及び被告Y4社による株券移動行為の違法性は阻却されている。
(原告の主張)
ア FとGは,Eから,a社との間の本件匿名組合契約は続いているという報告を受けていたため,原告が実際には本件匿名組合契約を解約してa1ファンドを脱退していたことや,これに伴ってb社の株券の償還を受けられる立場にあったことを,平成20年9月に至るまで全く認知することができなかった(甲76の1)。
被告らの主張する9000万円の返金は,Eがf社の上場を維持するために虚偽の外観を作出する目的で行った資金移動の一環であって,株券の返済等として支払われたものではない。
イ また,原告は,前記アのとおり,平成20年9月まで,a1ファンド脱退に伴ってb社の株券の償還を受けられる立場にあったことを知らず,b社からの配当を受領していたことも知らなかったから,これに異議を述べなかったからといって追認は認められない。
(5) 本件各株券移動が被告Y3社の事業として行われたか
(原告の主張)
被告Y3社の主たる事業は投資事業であって,ファンドの管理も同社の業務の範囲内にあった。そして,a1ファンドの運営は,被告Y3社によって行われていた。被告Y2は,本件各株券移動の当時,被告Y3社において,関連事業部部長を務めており,被告Y3社の取締役で,a1ファンドの組成及び運営を統括していたMの指示に従い,a1ファンドの運営に関する事務を行っていた。
本件各株券移動は,被告Y1の主導により,M等の指示を受けた被告Y2が,被告Y3社の業務として行ったものである。
仮に,被告Y3社の正式な業務の範囲内でなかったとしても,被告Y2の当該行為の外形を観察すれば,被告Y3社の業務の範囲内の行為に属するとみられるというべきである。
したがって,被告Y3社は,被告Y2の不法行為について使用者責任を負う。また,上記被告Y2の行為は,被告Y3社の当時の代表者である被告Y1が主導して行ったものであるから,被告Y3社は会社法350条に基づく責任を負う。
(被告Y3社の主張)
a社の運営を支配し,a社の意思決定をしていたのは,a社から業務委託を受けていた被告Y4社である。被告Y2による本件各株券移動は,a1ファンドの清算業務の一部であって,被告Y3社の業務ではない。被告Y3社は,本件各株券移動があった当時,既にa社との間の匿名組合契約の出資持分の全部をk社に譲渡しており,a社の決算書すら送付されてこない状態となっていた。本件各株券移動が被告Y3社の資金繰りとは無関係であることは,被告Y3社の当時の財務担当取締役であったMも認めるところである(甲88,証人M)。
(6) 被告Y1とEの共謀の有無等
(原告の主張)
被告Y1は,Eと共謀の上,Eないし被告Y1において被告Y2に指示して,平成19年3月22日頃及び同年5月22日,原告の承諾がないのに,原告所有のb社の株券合計191万5000株を持ち出させ,E又はその指示を受けた者にこれを引き渡して費消させたから,原告に対して不法行為責任を負う。
また,被告Y1がEとビジネスにおいて密接な関係を有していたこと,被告Y3社及び被告Y1が,被告Y4社及びa社を実質的に支配しf社の経営も支配していたこと,被告Y3社が原告所有のb社の株券を原告に無断で流用していたことからすると,f社へのb社の株券移動も,被告らによる組織的な行動の一環であることが明らかである。したがって,被告Y3社及び被告Y4社は会社法350条又は民法715条の責任を,被告ら全員が719条1項前段の責任を,原告に対して負う。
(被告らの主張)
被告Y1及びEは,被告Y2の本件各株券移動について何ら共謀を行っていないし,被告Y1又はEが被告Y2に対して株券の移動を指示した事実もない。
また,被告らが組織的な行為として本件各株券移動を行った事実もない。
(7) 損害額
(原告の主張)
b社の株価は,Y2が101万5000株を持ち出した平成19年3月22日の時点では169円であり,90万株を持ち出した同年5月22日の時点では133円であったから,下記計算式のとおり,原告の被った損害は,2億9123万5000円であり,原告は,被告らに対し,その損害の一部である2億円について,損害賠償を求める。
169円×101万5000株=1億7153万5000円
133円×90万株=1億1970万円
合計 2億9123万5000円
(被告らの主張)
原告は,f社から,b社の株券消費貸借契約に基づき,株券の返還に代えて現金9000万円の返還を受けたから,この分を損害から差し引くべきである。
第3 争点に対する判断
1 前提事実,証拠(甲9ないし甲11,甲29,甲39,甲47,甲56,甲57,甲65,甲76の1,同2,甲88,乙イ8,乙ロ1,乙ロ2,乙ロ4,乙ハ4,乙ニ6,乙ニ19,乙ニ29,後記書証,証人E,証人F,証人H,証人M及び被告Y2本人)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)ア Eは,大学を卒業後,和光証券株式会社(以下「和光証券」という)に勤めた。和光証券には,後にd社の代表取締役を務めるFが先輩として在籍し,後に被告Y3社で共に代表取締役を務める被告Y1が同期として在籍し,後に原告の登記簿上の代表取締役となるDが後輩として在籍していた。Eは,先に和光証券を退社していたFから誘われ,和光証券を退社後,平成12年,エンゼル証券株式会社(以下「エンゼル証券」という。)に入社した。エンゼル証券には,Eが勤める東京本社に,後にd社の執行役員となる被告Y2が在籍し,その大阪支店に,和光証券から移籍したF,後にd社の執行役員となるG,原告の取締役を務めるAが在籍していた(甲1,甲4の2)。
Eは,平成16年3月に,エンゼル証券を退社すると,同年4月5日,ファンドの組成管理,不動産投資事業等を行う会社としてd社を設立して,その一人株主及び代表取締役となった。d社は,投資資金の受け皿となる会社を子会社として設立し,その子会社と投資ファンドとの間で匿名組合契約を締結して資金を調達し,再生を必要とする事業会社に投資して,その会社の再生・企業価値の向上を図り,その成功報酬や管理業務の対価を得るという事業を展開するようになった(甲4の1)。
イ Eは,平成15年1月頃,被告Y3社の株式を海外ファンド等に譲渡するビジネスに仲介役として関与したことがきっかけで,被告Y3社の資金調達や調達した資金の投資・運用に関連する仕事をするようになっており,平成16年6月には,被告Y3社の監査役に就任した。
ウ 被告Y2は,平成16年10月,d社に入社していたエンゼル証券における先輩であるP(以下「P」という。)から誘われてd社に入社し,d社の経理・財務全般,顧客へのコンサルティング業務,投資ファンドの組成や契約書作成,決算対策などを担当するようになった。
(2) d社は,平成17年3月,匿名組合出資を集める受け皿会社として,d社の100%出資により,原告を設立した。原告は資金の受け皿にすぎなかったため,取締役はd社からの独立性を書面上確保するための名目的な存在にすぎず,Eは,当時d社の従業員であったPに原告の取締役に就任してもらった。Pの後に原告の取締役となったDも,名義を貸してもらいたいという依頼を受けて名目上取締役に就任したにすぎず,兵庫県に居住しており,原告の事務所には一度も出社しなかった。
原告は,設立時から平成21年5月まで,d社の本店(東京事務所)所在地にその事務所を置き,固有の従業員を持たず,d社との間に投資運用に関する助言,業務執行,計算事務及び資産管理等の業務委託契約を締結して,d社の従業員に原告の事務を担当させていた。原告の代表印等の印鑑や預金通帳は,d社の本店にある金庫(乙ニ2の1ないし3)の中に保管されており,この金庫は,鍵で解錠した上,パスワードを入力して開く仕組みであり,鍵は,一つはEが保有し,もう一つはd社の従業員であるHに預けていた。もっとも,この金庫は,平素は鍵をかけていない状態のまま,パスワードの入力で開け閉めをしている状況であり,そのパスワードは,E,被告Y2とHが知っていた。
(3) Eは,平成17年2月頃,知り合いを通じて,b社が受注の落ち込みにより資金繰りに窮し,投資してくれる投資家を探していることを知った。Eは,実際にb社と打合せを行うにつれ,b社には将来性があると感じ,同年5月には,投資を実行したいと考えるようになった。Eは,具体的な投資の仕組みとして,まず,被告Y3社がb社の新株予約権を取得して資金を入れ,これと並行して,資金の受け皿会社を用意して資金を集め,受け皿会社がその資金を用いて被告Y3社からb社の新株予約権を購入し,その後,Eがb社の役員に就任して財務体質の改善を図り,企業価値を高めるという形を採用することにした。
このように,b社への投資は,Eが中心となって進められ,当時被告Y3社の代表取締役社長であった被告Y1は,新株予約権取得のための資金を集めるために動いたものの,Eが独自の人脈により持ってきた案件であるということを尊重し,Eに対して具体的な指示をすることはなかった。
(4) 被告Y3社は,平成17年5月23日,b社の新株予約権1万5500個を3億4100万円で引き受けた。そして,Eは,同年6月,被告Y3社の代表取締役副社長に就任した。
被告Y4社は,当時親会社であった被告Y3社からb社の案件の紹介を受け,この案件に関与することとなり,投資家からの資金を集めて被告Y3社から新株予約権を購入する会社として,中間法人を経由して,同年7月28日,a社を設立した。a社は,投資資金の受け皿会社にすぎないため,独自の事務所を有さず,事務処理等を被告Y4社に委託しており,現実にa社の設立等の事務手続を担当したのは,被告Y4社の従業員N(以下「N」という。)であった。
a社は,b社の新株予約権の購入資金を集めるため,a1ファンドを組成することとした。
(5) Eは,平成17年6月に上場会社である被告Y3社の代表取締役に就任するに際して,公認会計士から,利益相反を回避する必要があると指摘されたため,同月25日,d社の代表取締役を退任して取締役となった。これを受け,Eの大学時代の同級生であり,d社の設立時からその取締役であったQ(以下「Q」という。)が,Eの後任として,同月,d社の代表取締役に就任した。そして,Eと和光証券時代から関係が深かったFは,Eの誘いを受け,同月,エンゼル証券を退社し,d社の取締役に就任した。
(6) Eは,b社への投資を魅力的なものと考えていたことから,原告をこれに関与させることとし,原告は,平成17年8月8日,投資家からの匿名組合出資を募り,a1ファンドへの出資を目的として,本件原告ファンドを組成した。この匿名組合(本件原告ファンド)は,l社(出資額4億6580万円)他8名の匿名組合員から成るもので,「X社2号匿名組合」と呼称し,出資額は,合計14億8580万円であった。
本件原告ファンドの匿名組合契約の契約書は,原告取締役Dの名義で作成されたが,実際にこの契約書の押印を行ったのは,E又はその指示を受けたHであった(甲14)。
原告は,同月10日,a社との間で,本件匿名組合契約を締結し,本件原告ファンドで集めた資金14億8580万円から管理手数料を控除した13億9500万円を,a1ファンドに出資した。このときの匿名組合契約書も,原告代表者Dの名義で作成されたが,実際にこの契約書の押印を行ったのは,E又はその指示を受けたHであった(甲16)。
なお,a1ファンドは,原告のほか,被告Y3社(出資額31億5000万円),h社(同12億5200万円),j社(同5億円),iファンド(同5000万円)を出資者(匿名組合員)とするものであった。
(7) 被告Y2は,本件原告ファンド組成当初から,d社の従業員として本件原告ファンドの管理業務を担当していた上,本件原告ファンドの資金の出資先であるa1ファンドについても,管理担当者である被告Y4社のNの知識や経験が乏しかったため,その管理業務を支援していた。
(8) 被告Y3社は,平成17年10月,副社長であったEの主導により,飲食チェーン事業を営むf社に資本参加し,Eは,同年12月,f社の代表取締役に就任し,f社の業務が多忙であるなどの理由から,平成18年2月28日には,d社の取締役を辞任した。
その後,d社の内部では,Qが代表取締役として経営に当たっていたが,d社の財産を私的に流用したなどの疑いが生じ,Qは,Eの勧告を受け,同年9月5日,d社の取締役を辞任し,d社を退社した。そして,Qの後任としては,Eと長い付き合いであり,d社の取締役であったFが代表取締役に就任し,d社の株式の過半数を保有するようになった(甲4の2)。
もっとも,Fは,代表取締役に就任後も,d社の大阪支店で執務しており,d社の東京本社での日常的な業務についてまでは実際には把握していなかった。他方,Eは,将来的にはd社の代表取締役への復帰を予定しており,取締役退任後も事実上d社の実権を握っており,d社の東京本社に席を有し,d社の役員会に出席し(乙イ14の1,同2),d社の業務に関する報告を受ける(乙イ12の3,乙イ12の4,乙イ13の2)など,d社における業務を継続して行い,前記(2)のとおり,原告の代表印等が保管されている金庫を開閉することができた。そして,Eは,原告の決算処理をしたり(乙9),Hに指示して原告名義の証券口座を開設させる(甲29,甲75の1)など,原告の経営や管理についても関与し続けていた。そして,Fは,代表者就任前に組成された東京事務所が管理するファンドについては,事実上Eに処理をゆだね,その処理を黙認していた。
(9) 被告Y2は,平成17年12月頃,当時被告Y3社の代表取締役副社長を務めていたEから誘われて,執行役員を務めていたd社を退社し,被告Y3社の関連事業部(ファンドの作成・管理,M&Aなど,投資に関する業務を担当する部署)の次長として入社し,被告Y3社のファンド管理業務等を担当するようになった。
d社では,上記被告Y2の退社に伴い,被告Y2の行っていたファンド管理業務は,Gが引き継いだ。しかし,本件原告ファンドの日常の事務処理は,事務責任者であるHがこれを行っており,決算対応等の節目に上京する場合を除き,大阪支店に常駐していたGが関与することはなかった。そこで,Hは,本件原告ファンドについて分からないことがあれば,従前同様,被告Y2に相談をしており,被告Y2は,被告Y3社入社後も,d社の本社に席やパソコンを有して出入りし,本件原告ファンドの事務処理に事実上関与していた(乙ニ7,乙ニ8の1)。
(10) 前提事実(6),(7)のとおり,b社の株価は,平成17年中は高値を付け,a1ファンドは営業利益を計上できる状況であったが,平成18年1月に発生したライブドアショックの影響を受け,同月以降は下落を続けるようになった。原告は,平成18年7月31日,a社との間で,本件匿名組合契約を合意解約により終了させた。この結果,原告は,b社株式191万5000株及び現金3185万6498円の償還を受けることとなった。
被告Y4社のNは,同年8月7日,被告Y2に宛て,「X社 大量保有報告書の届出」と題する電子メール(乙ロ3)を送信したが,これは,CCとして,Hにも送信されていた。この電子メールには,原告のb社株式の分配取得による大量保有報告書の届出日の期限が7月31日の5日後である本日(8月7日,なお,同月6日は日曜日)となること,参考までに添付したので,内容の確認を求めること,その1頁目に原告の捺印が必要であること,報告書は7通作成し,1通は控えとして原告の保管となることなどが記載されていた。
そして,原告は,同年8月11日,原告がa社から同年7月31日にb社の株式191万5000株を取得した旨を記載した原告作成名義の大量保有報告書を関東財務局に提出し,同報告書は,公衆の縦覧に供された(乙イ1。原告は,乙イ1の成立を否認するが,これには原告の印鑑による印影があるし,前記のとおりHは大量保有報告書の提出に関する電子メールをNから受信しており,H自身も,時期ははっきりしないが大量保有報告書に判を押して役所に提出した記憶があると供述するから,乙イ1は真正に成立したものと認められる。)
a社は,同年8月24日,原告提出に係る上記大量保有報告書と同旨の記載をした変更報告書を作成し,これを関東財務局に提出し,同報告書も,公衆の縦覧に供された(乙イ2)。
本件原告ファンドは,本件匿名組合契約を合意解約した当時,期中に一部の投資家に配当を行った後,b社の株価が下落したことより,債務超過の状態にあり,b社の株式を換価しても出資者に出資金を返還できる見込みがなく,逆に,期中に分配を行った投資家から返金を受ける必要があるなど,直ちには清算が行えない状態にあった。そのため,本件原告ファンドの終期は平成18年7月末から1年間延長され(乙ニ8の2),Eは,原告に償還すべきb社の株式191万5000株をa社の事務所を兼ねる被告Y4社の事務所に管理・保管させたままにすることにした。
(11) Eは,被告Y3社の資金繰りのために,被告Y3社に対し,原告に償還されるべきb社の株式130万株を貸すこととし,被告Y2は,平成18年8月23日,被告Y4社の事務所から被告Y3社の事務所まで,b社の株券130万株を運んだ。被告Y3社は,同年9月15日,原告から借り受けたb社の株券のうち40万株を返還することになり,被告Y2は,被告Y3社の事務所から被告Y4社の事務所に株券を運んだ。その結果,原告に償還されるべきb社の株券のうち,被告Y3社の事務所に管理・保管されるものは90万株,被告Y4社の事務所内に管理・保管されるものは101万5000株となった(甲28,甲30,甲31,乙ニ24ないし26)。
この頃,被告Y2は,被告Y3社の関連事業部部長に昇進し,被告Y3社の財務担当取締役を務めていたMの指示に従って,ファンドの運営に関する事務を行っていたが,平成18年8月頃,Nが被告Y4社を退社すると被告Y4社にa1ファンドの担当者がいなくなったことから,被告Y2は,それ以降,a1ファンドの事務処理を行うようになった。
(12) 原告と同時にa1ファンドを脱退したiファンドは,平成19年3月決算から被告Y3社の連結対象子会社となり,その保有株式について監査法人から現物確認の要請を受けた。そのため,a社は,iファンド保有に係るb社の株券を,被告Y3社の事務所に返還することになった(乙イ35)。
前記(11)のとおり,この頃には,被告Y4社にa1ファンド担当者がいなかったことなどから,被告Y2は,自ら,被告Y4社の事務所から被告Y3社の事務所にiファンド保有に係るb社の株券を運ぶこととし,併せて,同時期に脱退をした原告に対しても,被告Y4社の事務所に保管されていたb社の株券を返還することとした。
(13) Eは,平成18年9月に被告Y3社の取締役を辞任していたが,他の投資案件の関係で被告Y2と業務を行っており,頻繁に連絡を取り合っていた。
Eは,d社の企業再生支援事業として,f社に投資していたが,平成17年12月以降,自らf社の代表取締役を兼務し,財務体質や収益力の改善に当たっていた(乙イ20の1,同2)。しかし,f社は,平成19年2月頃には,資金繰りに窮し,頻繁にd社から短期の借入れを受ける状態となった(乙21の1,同2)。このような中,Eは,f社の経営を支援することが同社に融資をしている原告やd社の利益にもなると考え,原告が所有するb社の株券を原告からf社に貸して,一時的に資金繰りに利用しようと考えた。
(14) 被告Y2は,平成19年3月16日,被告Y4社の取締役のLに,電子メールで,原告とiファンドが平成18年7月31日をもってa1ファンドを脱退しており,a社が預かっているb社の株券(原告分191万5000株,iファンド分6万9000株)を分配する必要があるから,受領書と引き換えに被告Y4社の事務所まで株券を取りに行くと連絡した(甲25)。そして,被告Y2は,同月19日から22日までの間に,被告Y4社の事務所から,受領証と引き換えに,iファンドに返還すべき6万9000株と,原告に返還すべき101万5000株分のb社の株券(1万株券101枚及び1000株券5枚の合計106枚)を運び出し,原告の事務所に届けた(乙イ4,乙ニ5,乙ニ20)。
このとき被告Y2が原告分の株式と引き換えに被告Y4社に渡した平成18年10月31日付け受領証には,日付が平成18年10月31日,受領した株券数が191万5000株と記載されたが,日付については,本件匿名組合契約6条1項に「営業者は,各計算期間終了後3ヶ月以内の任意の日に,当該計算期間ごとに前条に従い計算・分配される利益を,出資割合に従い,出資金受入口座内の残高を上限として,金銭にて本匿名組合員に支払う。」と定められていたことを踏まえ,全部の株券を本件匿名組合契約の終了日である同年7月31日から3か月以内に返還した内容となるように作成され,株券数については,残り90万株が被告Y3社に管理されていることが平成19年2月21日付け株券預り証(乙ニ24)によって原告において明らかであり,残りは被告Y3社から原告に直接返還されれば足りるから,全ての株券を受領した旨の記載がされたものであった。
なお,平成19年3月ないし5月当時,被告Y3社の事務所(東京都港区〈以下省略〉)とd社の本店兼原告の事務所(東京都港区〈以下省略〉)の距離は近く,d社の本店に勤務していた従業員は,Eの和光証券における後輩で営業担当であったR,事務責任者のH及びその補助をするIの3名であった。
(15) b社の株券101万5000株は,Eないしその指示を受けたf社の関係者により原告の事務所から運び出され,平成19年3月22日,エイケイ証券のf社の証券口座に入庫され,f社の資金繰りに利用された。
E又はその指示を受けたd社の従業員と,f社は,平成19年3月22日付けで,原告とf社との間でb社の株式101万5000株の貸株をする旨の株券消費貸借契約書を作成した(乙ニ3)。
(16) 被告Y3社は,平成19年5月頃,資金繰りに目処がついたため,原告から借りていたb社の株券90万株を返還することにした。被告Y2は,その頃,これを知り,これを原告の事務所に持ち込もうと考えた。
他方,Eは,この頃,被告Y2を介して被告Y3社が原告に対してb社の株券を返還する予定であることを知り,これもf社の資金繰りに利用しようと考えた。
(17) 被告Y2は,本件原告ファンドの第2期(平成18年4月1日から平成19年3月31日)決算に当たって,在京していたGと共に,S会計士(以下「S会計士」という。)の事務所を訪れて,財務諸表の作成を依頼した。S会計士は,平成19年5月17日,被告Y2とGに対し,作成した財務諸表を電子メールで送付した。この財務諸表注記には,「平成18年7月31日に主たる運用財産であるa1匿名組合出資を解約し,現物を含む財産を受け入れた」と記載され,「資産運用状況のご報告」のページには,平成18年7月31日に本件匿名組合契約の解約によりb社の株式191万5000株を取得した旨が記載された(乙ニ8の1,同2)。
(18) 被告Y2は,平成19年5月22日,被告Y3社の事務所から原告に償還されるべきb社の90万株分の株券(1万株券90枚〔乙ニ5〕)を運び出し,原告の事務所に届けた。被告Y2は,このとき,被告Y3社に対し,平成19年5月22日付け受領証(乙イ7)を交付した。
b社の90万株分の株券は,Eないしその指示を受けたf社の関係者により原告の事務所から運び出され,同日,f社名義のエイケイ証券の証券口座に入庫され,f社の資金調達に利用された。
E又はその指示を受けたd社の従業員と,f社は,同日付けで,原告とf社との間で,b社の株式90万株の貸株をする旨の株券消費貸借契約書を作成した(乙ニ4)。
(19) 被告Y3社は,原告に対し,平成19年5月9日付けで,同被告の監査法人が同被告の原告に対する同年3月31日現在の預り株式残高の確認を望んでいるので,同年5月18日までに確認書を監査法人宛に返送してほしい旨を記載した依頼書(甲31)を送付していた。上記依頼書には,その上半分に,預り株式残高として,b社の株式90万株が記載され,その備考欄には平成19年2月21日預り分と記載されており,その下半分は,確認書欄となっており,原告において確認書欄を記入の上,これをそのまま監査法人に送付する体裁となっていた。Hは,決算書等を見てもこの依頼書をどのように処理していいか分からなかったので,本件株券移動②のあった平成19年5月22日午後3時2分,被告Y2に対し,同様に処理が分からない被告Y3社のミレニア宛て営業用投資有価証券1800万円と併せて,内容が分からないため確認できるものがあれば教えてほしいと電子メールで問い合わせた。これに対し,被告Y2は,同年5月22日午後11時18分,電子メール(甲83)で返信し,b社株式については「問題ありません。」と,ミレニア宛て営業用投資有価証券については確認している最中である旨回答した。
(20) 原告の事務担当者は,平成19年6月28日,本件原告ファンドの投資家のうち,株式会社m,Y4株式会社,Tの3名に対し,書留・配達記録郵便物として,a1ファンド及び本件原告ファンドの運用報告書を送付した。そして,Hは,同日,電子メール(乙ニ23)により,G,F,E,被告Y2らに宛てて,上記ファンドについて「各投資家へ運用報告書を送付しました」と報告した(甲81,乙ニ23)。
(21) 原告は,平成19年12月11日,f社から,f社が資金調達に使用していた原告所有に係るb社の株式に対する配当金283万1850円を受領した。Hは,被告Y2からこの配当金の明細の報告を受け,遅くとも平成20年5月26日にはそのことを認識したが,Eと被告Y2が,d社及び原告の役員らからf社がb社の株式を使用している事実について異議を述べられたことはなかった(乙イ26,乙ニ10)。
2 争点(2)(被告Y2がb社の株券を原告の事務所に返還したか)について
(1) 前記認定のとおり,被告Y2は,本件各株券移動により,b社の株券を原告の事務所に返還したものと認められる。
(2) これに対し,原告は,原告の事務を担当していたHやIが本件各株券移動に当たって被告Y2から株券を受領していないことを上記返還を否定する根拠として主張するので,まず,この点について検討する(争点(2)に関する原告の主張ウ(イ)b)。
ア Hは,被告Y2からb社の株券を受領したことを否定し,被告Y2から株券を受領したのであれば,その内容を確認し,受領書を作成し,Gに報告することになるが,本件各株券移動の当時,b社の株券の照合作業,受領書の作成及びGへの報告をしたことはないと陳述及び供述する(甲29,甲56,証人H)。
しかし,被告Y2は,b社の株券をH又はIに交付するか,原告の事務所にある金庫に入れるなどして原告に返還した旨陳述及び供述する(乙ニ6,被告Y2本人)。そして,前記1(2)及び(9)の認定事実によれば,被告Y2は,その当時,原告の事務所があるd社の本社に席を置いて出入りし,原告の金庫を開閉することができたから,原告の事務所に株券を返還することは客観的に可能な状況にあったし,a1ファンドに関する事務処理をし,本件原告ファンドに関する事務処理に関与していたから,b社の株券を原告の事務所に運ぶという被告Y2の上記陳述等が不自然とまではいえない。
また,Hは,受領書を含む各種書類を作成する際も,指示を受けて作成していたのであって,Hが本件各株券移動について初めて事実確認を受けたのは,平成23年2月1日の本件訴訟提起前後であり,既に本件各株券移動から長期間が経過していた(いずれの事実も証人H)ところ,被告Y2が原告の事務所に持ち込んだとされる株券は,本券株券移動①につき106枚,本券株券移動②につき90枚であって,いずれもかさばるものでもない。そうすると,被告Y2からの株券受領は,Hにとって印象深い業務であるとまではいえないから,Hが被告Y2からb社の株券を受領していないと断言することができるほどの明確な記憶を有しているかには疑問が残る。
そうであるところ,本件訴訟では,FやOが,L,J,I等の関係者に対して,協力しないと事件に巻き込むと告げて,自らの考えるストーリーに沿った陳述書を作成させたり,明確な記憶がない部分について断定的な口調の陳述書を作成させるなどの働きかけをしたことがうかがわれ(乙ロ4ないし乙ロ20,乙ニ35,乙ニ36),Hについても,OがHの陳述書(甲29)のドラフトを作成し,さらに加筆修正を加えて完成させたことがうかがわれる(乙イ37,乙イ38)。そうすると,Hの供述及び陳述書には,働きかけによる影響があった可能性を否定することができない。
したがって,Hの上記陳述等は,にわかには信用することができない。
イ Iの平成23年11月5日付け陳述書(甲57)には,d社の事務所内で上場会社の株券を自分一人で受け取るということは絶対になく,そのような仕事をすることがあれば,まず間違いなくHに報告し,Hに同席してもらうが,当時,そのようにして被告Y2から本件株券を受け取った記憶は一切ない旨の記載がある。しかし,反対尋問を経ていない陳述書の記載を安易に採用することはできないところ,Iの平成24年12月12日付け陳述書(乙ニ36)には,先に提出した陳述書はFから強く協力を要請されて作成したものであるが,株券について自分のせいにされても困るという気持ちも影響して,記憶と異なる記載になっている部分があるとした上で,b社の株券を絶対に受け取っていないとも言い切れないこと,担当した事務についてHに十分な報告をしないこともあったこと,被告Y2からEに渡すよう言われて封筒を預かれば中身を気にせずにEに渡していたことなど平成23年11月5日付け陳述書と矛盾する内容が記載されており,同日付け陳述書は信用し難い。
ウ 原告は,被告Y2が原告の事務所にb社の株券を運んだのであれば,HかIから受領証を受け取ったはずであり,これがないのは不自然であると主張する。
しかし,前記1(14)及び(18)で認定したとおり,被告Y2は,平成19年3月22日頃,被告Y4社の事務所からb社の株券101万5000株を運び出すに当たり,平成18年10月31日付け受領証(乙イ4)を被告Y4社に交付しているし,平成19年5月22日,被告Y3社の事務所からb社の株券90万株を運び出すに当たり,平成19年5月22日付け受領証(乙イ7)を被告Y3社に交付している。そうすると,被告Y2は,本件各株券移動に先立って原告から受領証を受け取っていたことになり,b社の株券を原告の事務所に持ち込んだ際に,原告から重ねて受領証の交付を受けないことが不自然であるとまではいい難い。
この点,原告は,平成18年10月31日付け受領証はE又はその指示を受けた第三者が原告に無断で作成したものであると主張し,HとIは,これに沿う陳述ないし供述をする。しかし,平成18年10月31日付け受領証には原告の印鑑として法務局に提出された印鑑(実印)による印影がある(甲58)ところ,Eは,d社の従業員に指示して受領書を作成させたと供述し,Hは,本人尋問において,Fがd社の代表取締役に就任した後もEの指示を受けて本件原告ファンドの事務処理をすることがあったことを認めているから,平成18年10月31日付け受領証を原告が業務委託していたd社が作成した可能性を否定できず,その真正な成立を否定することができない。
また,原告は,平成19年5月22日付け受領証はE又はその指示を受けた第三者が原告に無断で作成したものであり,これに使用された印鑑は原告の印鑑ではないと主張する。しかし,平成19年5月22日付け受領証に用いられた印鑑は,後に原告の印鑑として法務局に提出されるものであり(乙イ18),当時原告が締結した他の契約書にも用いられていた(乙イ15の1,乙イ16の1,乙イ17)から,当時から原告が使用していたものと認められる。そうすると,平成19年5月22日付け受領証についても,原告の印鑑による押印があるということになり,平成18年10月31日付け受領証と同様の理由で,その真正な成立を否定することができない。
エ 原告は,被告Y2が平成19年5月22日にHに送信した電子メールの内容からすれば,被告Y2が同日にHにb社の株券を渡したと考えるのは不自然であると主張する。
しかし,前記1(19)で認定したとおり,Hは,平成19年5月22日,被告Y3社から同年3月31日時点における預かり株式の残高が90万株であったか確認を求められ,これについて被告Y2に問い合わせたのであって,同時点における被告Y3社の預かり株式の残高が90万株であったことは事実であるから(前記1(11),(16)),被告Y2が「問題ありません。」と回答したのは当然であり,その90万株の株券はその日に原告に持参したものであるということまで説明する必要があったとはいえない。したがって,被告Y2がHに送信した電子メールの内容が不合理であるとする原告の主張には理由がない。
オ 以上のとおり,HやIの供述等を理由にHらが本件各株券移動で被告Y2から株券を受領しておらず,したがって,被告Y2が原告の事務所に株券を返還したことはないとする旨の原告の主張は,採用することができない。
(3) 原告は,FとGが,a1ファンドの脱退,株券の移動及びf社への貸株について報告を受けていないと主張するから,この点について検討する(争点(2)に関する原告の主張ウ(ア)b,(イ)c,(ウ)c)。
ア 原告は,d社の代表取締役であるFや被告Y2退社後に本件原告ファンドに関する業務を担当していたGが,原告のa1ファンド脱退,b社の株券の受領,f社への貸株について,誰からも報告を受けておらず,むしろ,Eや被告Y2はこれらの事実を秘匿していたと主張し,FとGはこれに沿う陳述及び供述をする(甲65,甲76の1,同2,証人F)。
しかし,前記1(10)及び(17)で認定したとおり,原告は,平成18年8月11日,原告がa社から同年7月31日にb社の株式191万5000株を取得した旨を記載した原告作成名義の大量保有報告書(乙イ1)を関東財務局に提出し,これが公衆の縦覧に供されているし,Gは,被告Y2と共に,S会計士と相談しながら原告の決算業務を行い,S会計士は,平成19年5月17日,平成18年7月31日に本件匿名組合契約を解約してb社の株式191万5000株を受け入れた旨の記載を含む原告の第2期財務諸表を,Gと被告Y2に電子メールで送付している(乙ニ8の1,同2)。これらの事実に照らせば,E及び被告Y2が,殊更,FやGに,原告のa1ファンドからの脱退,b社の株券の取得等の事実を隠していたと認めることはできないし,少なくとも,Gについては,a1ファンド脱退の事実を知らなかったとは認め難い。
Fに関しても,前記(2)アで認定したとおり,Oと共に,関係者に対して,協力しないと事件に巻き込むと告げて,自らの考えるストーリーに沿った陳述書を作成させるなどしたことがうかがわれることや,平成24年1月12日に被告Y2と面談した際,本件訴訟の意味を「いやがらせ」と答え,同席した人物に対して「彼(被告Y2)ね,X社の訴訟やってる件で巻き込まれてるねん。」と述べ,被告Y2に対しても,b社の株券の移動について「Y2(被告Y2)やってないの,こっちも分かっとるやんか。」,「Hにしたって,I1にしたって,被害者と思ってるねん。」などと述べ,自身の本件訴訟における陳述及び供述内容と矛盾する発言を訴訟外において繰り返している(甲96の1,乙ニ21,乙ニ28)。そして,被告Y4社の担当者であったNからのメール(乙ロ3)の内容によれば,このメールをCCで受け取ったHは,上記大量保有報告書の控えを原告の事務所に保管したと推認されるのであり,さらに,前記のとおり,原告における本件原告ファンドに関する業務の担当者であったGが平成19年5月に原告の第2期財務諸表に関する業務を行っていたことからすると,d社の代表者でありながら,a1ファンドからの脱退以降の事実について当時およそ知らなかったとするFの陳述等も,容易に信用することができない。
イ また,原告は,本件原告ファンドの第2期財務諸表には,原告のf社に対するb社の株式の貸株料が記載されておらず,この点を隠そうとしていたことがうかがわれると主張するが,f社は,平成19年12月11日,原告所有のb社株式に対する配当金283万1850円を原告に送金しているし(乙イ26,乙ニ10),被告Y2も,Hに,上記配当金の送金について明細を報告しているから(乙ニ10),Eや被告Y2が,F,G及びd社の従業員に,f社への貸株の事実を殊更隠そうとしていたとは認め難い。
ウ よって,FとGが,a1ファンドの脱退,株券の移動及びf社への貸株について報告を受けておらず,これらの事実が秘匿されていたとする原告の主張は,採用することができない。
(4) 原告は,被告Y2が本件各株券移動を行った動機は,b社の株券をf社の資金繰りに利用するためであり,被告らが主張する動機は不自然であると主張するから,この点について検討する(争点(2)に関する原告の主張ウ(ア)c,(イ)a)。
ア 原告は,被告Y2が本件各株券移動をした理由は,原告の承諾を得ないまま,b社の株券を被告Y3社の活性化支援先の一つであるf社の資金繰りに利用させるためであり,被告Y2は,株券を直接f社に持ち込めば足りたのであって,これを原告の事務所に運んだはずがない旨主張する。
そして,被告Y2とEが頻繁に連絡を取り合っていたこと,被告Y2が被告Y4社の事務所又は被告Y3社の事務所からb社の株券を運び出した直後に,その株券がEによってf社の資金調達のために使用されていること,被告Y2はEが被告Y3社に対して原告に償還すべき機動建設の株券を貸株するに際して被告Y3社の事務所まで株券を運んだことなどの事実が認められるところ,これらの事実は,被告Y2がEの指示を受けてb社の株券を直接Eのもとに運んだという事実を推認させる事情に当たるようにも思われる。
しかし,被告Y2は,これを明確に否定する供述をしており,本件各株券移動をした理由について,いつかはa1ファンドの清算を処理しなければならないと考えていたところ,iファンドに対しb社の株券を返還する必要が生じたのを機に,a社に残っていた101万5000株を原告に届けることにし(本件株券移動①),残り90万株については,これを借りていた被告Y3社において資金繰りの目途が付いたのを機に被告Y3社から原告に持参した(本件株券移動②)旨述べており,この説明は,Nの退職により事実上a1ファンドの清算事務を引き継いでしまった被告Y2の立場としてはうなずけるものであって,これを殊更不自然なものということはできない。また,証人Eも,f社への資金繰りにb社の株券を利用するについて,被告Y2に話をしたことはない旨証言する。そして,被告Y2は,ファンドの清算処理を担当していた自分としては,Eが原告に償還すべきb社の株券をf社に使うのであれば絶対文句を言ったところであり,それもあって,Eは,被告Y2にはその話をしてこなかったのだと思う旨供述している(被告Y2本人調書21頁)ところ,被告Y2や証人Eの上記各供述が虚偽であるとは断定し難い上に,被告Y2がEの指示により株券を直接Eのもとに運んだ事実を推認させると思われる上記各事情は,被告Y2と連絡を取り合っていたEが,被告Y2から株券が原告に返還されるという話を事前に聞き,被告Y2には事情を話さないまま独自にf社への運搬を手配したとしても矛盾なく説明できる事情であるから,これらの事情がEの指示を推認させる事情になり得るとしても,その推認は強いものとはいえず,被告Y2及び証人Eの上記各供述を覆すに足りるまでのものとはいえない。
イ ところで,原告は,本件原告ファンドは原告のa1ファンド脱退時と本件株券移動①の時のいずれの時点でも債務超過であったから,被告Y2が本件株券移動①の時点で原告の事務所に株券を移動させる理由はなかったはずであると主張する。
しかし,前記1(12)で認定したとおり,被告Y2が本件株券移動①を行った時点では,a社からiファンドにb社の株券を返還する必要が生じており,これとともに原告の株券を原告の事務所に移動させるきっかけがあったから,原告のa1ファンド脱退時とは状況が異なる。また,本件株券移動①の際に被告Y3社の事務所と原告の事務所は近く,被告Y2が,既に返還していた株券に続いて原告の事務所に株券を返還しようというのも理解できなくはない。
これに対し,原告は,監査に当たって株券の現物を実際に確認する必要まではないのが通常であるから,被告Y3社の経理部門が被告Y2に対してiファンドの保有するb社の株券を返還するよう要求することはあり得ないと主張し,Mもこれに沿う陳述及び供述をする(甲88,証人M)。
しかし,当時の法律関係に照らせば,b社の株券は,平成18年10月31日までにiファンドに返還されているはずのものであって,被告Y4社の事務所に管理・保管されたままとなっていることの方が不自然な状態であるから,このような状況を前提に監査法人が適正な監査を行おうとした場合,株券について現物の監査を指示することは,それほど不自然なこととは考えられず,監査法人がiファンドが保有する有価証券を現物確認したと認められる。
したがって,被告Y3社の経理部門が被告Y2に対してiファンドの保有するb社の株券を返還するよう要求することがあり得ないとする原告の上記主張は採用し難い。
(5) 原告は,f社の従業員が原告の事務所にb社の株券を受け取りに行っていないと主張するので,この点について検討する(争点(2)に関する原告の主張ウ(ウ)a)。
原告は,Eがf社の従業員であったJやKに指示して,原告の事務所に移ったb社の株券を取りに行かせ,Hに対してもf社の従業員に対して株券を渡すよう指示をしたことはないと主張し,Hはこれに沿う陳述及び供述をする(甲29,甲56,証人H)。
しかし,Eは,f社の従業員に原告の事務所までb社の株券を取りに行かせた旨証言しているところ,JやKは,b社の株券を取りに行った可能性を明確には否定していない(甲91の1ないし3,乙ニ22,乙ニ35)。そして,本件各株券移動に関するHの陳述等を信用することができないのは前記(2)アで説示したとおりである。JやKが原告の事務所にb社の株券を受け取りに行っていないとまでは認定することができないから,これによって原告の主張が積極的に裏付けられるとはいえない。
(6) 原告は,① Eが本件株券移動①の直前にf社名義の口座を開設したことを被告Y2がEに直接株券を交付した根拠として主張し,さらに,② Eが,過去に,独断でb社の株券を流用したことを認めていたことを被告Y2がEに株券を交付した根拠として主張するようである(争点(2)に関する原告の主張ウ(ア)d)。
上記①についてみると,確かに,f社名義の口座の開設は,本件株券移動①の直前にされているが,これは,被告Y2との会話の中で被告Y2が近々本件株券移動①を行うということを察知した被告Eにおいて口座開設を行ったものと認めることもでき,そうであるからといって,被告Y2において,Eが株券をf社に貸株をすることをあらかじめ認識していたことの根拠にはならない。
次に,上記②についてみると,証拠(甲27,証人E,同F)によれば,原告への出資者の中には,f社に対し直接に資金の融通をしていた者がいたところ,その返済がないことに業を煮やしていたこともあり,他の出資者2名と共にb社の株券の返還がないことの責任を追及しようと考え,平成20年12月9日,d社の大阪支店の事務所にE,F,A及びDを呼び出し,投資金の返還を求めたこと,Eは,その際,投資家等から約3時間にわたり追及を受け,その際,怒鳴られたり,きつい言葉で返済を迫られた上,貸株はEが勝手にやった旨を書けと迫られ,「確認書」(甲27)を作成したこと,上記書面には「f社へ貸株を行った件につきましては,Eの判断により行ったものであり,代表であるD氏は全く内容を知らされておらず,関係のない取引である事を書面にて確認をいたします」との記載があることが認められる(なお,証人Fの供述中,Eが自発的に上記書面を書いたとの点は,証人Eの証言に照らし採用しない。)。また,原告のEに対する訴訟(当庁平成20年(ワ)第34576号代償金等請求事件)において,Eは,原告に対する責任を認めていた(甲26)。しかし,この「確認書」及びEの応訴態度からは,Eが,原告の名目上の代表者であるDに相談せず,原告の経営全般を行っていたEの判断で貸株したことを確認書で認め,また,原告から提起されたEを被告とする訴訟につき,f社が借りた株券全部を原告に返還できなかったことに責任を感じて,責任を否定することはなかった(証人E)ことは認められるとしても,このような貸株を前提とした株券の返還を被告Y2に指示したことまでを認める内容のものとは認められないから,これらの事実をもって,被告Y2がEに株券を交付したことの根拠とすることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(7) その他の主張
原告は,被告Y2がEに直接株券を交付したと認められる根拠として,その他に,① a1ファンドが,平成18年5月頃から,原告の脱退と脱退に伴う出資の返還を予定しており(乙イ3,乙ニ7),原告も,平成18年8月,b社の株券を受け入れるための証券口座を開設していた(甲75の1)にもかかわらず,その証券口座を全く利用せず,b社の株券を被告Y3社に使用させることとして,上記口座を利用しなかった事実,② 被告Y2が,本件原告ファンドについて,場当たり的な決算処理をしていた事実,③ 原告が,b社の株券だけでなく,a1ファンド脱退時に原告に償還されるべき現金についても返還も受けていない事実を主張する(争点(2)に関する原告の主張ウ(ア)a,(ウ)b,(エ))。
しかし,上記①についてみると,原告に開設された証券口座がb社の株券を受け入れることを目的として開設されたかどうかはともかくとして,前記1(10)認定の事実によれば,本件匿名組合契約を合意解約した当時,直ちにb社の株券が原告に返還されなかったのは,本件原告ファンドが債務超過の状態にあり,直ちに清算を行えない状態にあったため,Eが上記株券を原告に返還しなかったこととしたからであり,そうすると,上記証券口座が開設されながらこれに株券が受け入れられなかった事実やその後に株券が一時的に被告Y3社の資金繰りに貸与ないし流用された事実をもってしても,被告Y2が本件各株券移動に際しEがf社に貸株を行うという意図を持っていることを認識し,株券をEに交付したものと認める根拠とすることはできない。また,上記②は,被告Y2の決算処理が適切さを欠いていたこと,上記③は,a1ファンドが本件匿名組合契約の解約後の処理を完了していなかったことを示すものであるとしても,これらの事実を前提としても,被告Y2が原告の事務所にb社の株券を移動させていないと推認させるものではない。
(8) 原告は,被告Y2の供述は,客観的な裏付けがないばかりか,後に本件各株券移動について自ら原告の金庫に入れた可能性があることを認めるなど説明が変遷するなどしている上,本件訴訟係属後,関係者に対し原告に協力しないよう求める工作をするなどしたから,信用することができないと主張する(争点(2)に関する原告の主張ウ(オ))。
しかし,既に説示したとおり,平成18年10月31日付け受領証(乙イ4),平成19年5月22日付け受領証(乙イ7),b社株式の大量保有報告書(乙イ1),GがS会計士に本件原告ファンドの財務諸表の作成を依頼したことを裏付けるS会計士の電子メール(乙ニ8の1)など被告Y2の供述の相当部分は客観的書証により裏付けられている。また,被告Y2は,当初b社の株券をd社の従業員であるH又はIに引き渡した旨主張していたところ,本人尋問においては,株券を持参してH又はIに渡したか,もしくは自分で金庫に入れた旨供述しており,その説明には一部変遷がある。しかし,これは,Hらが株券の交付を受けた覚えがない旨陳述していることが明らかになり,自ら株券を金庫に入れた可能性も否定できないことから,主張を訂正したものであるとうかがわれ,これが著しく不自然であるということはできない上,株券の交付を受けたことがないとのHらの陳述等の信用性に疑問があることは前示のとおりである。その余の点を含め,原告が被告Y2の説明の変遷として指摘するところを踏まえても,被告Y2の供述の信用性を否定することはできない。また,原告が主張する被告Y2の「工作」については,O及びこれと連携したFが,Oの考えるストーリーに沿った訴訟資料の準備を進めていることに照らし,Fらに対し,そのような準備に加担しないように求めたものとうかがえるのであり,被告Y2の立場としては,このような反応をすることも無理からぬともいえるのであって,これをもって被告Y2の供述等の信用性を否定する事情とすることはできない。
(9) 以上のとおりであるから,原告の主張を踏まえても,被告Y2が本件各株券移動に当たって,b社の株券を原告の事務所に返還したとの被告Y2の供述の信用性を否定することができない。したがって,被告Y2が,原告に償還されるべき株券をE又はその指示を受けた第三者に引き渡したとの事実を前提とする原告の主張を認めることはできない。
3 被告ら(被告Y1を除く)の責任についてのまとめ
(1) 上記2のとおり,被告Y2が原告に償還されるべき株券をEに引き渡したものとは認定することができないから,これを前提とする被告Y2の不法行為責任及び被告Y4社の不法行為責任(争点(2)原告の主張エ)を認めることはできない。
(2) 原告は,被告Y2の不法行為責任を前提として被告Y3社に使用者責任があると主張し,また,原告主張の被告Y2の行為は被告Y1が主導したものであるとして被告Y3社に会社法350条に基づく責任があると主張する(争点(5))が,被告Y2の不法行為が認められないから,被告Y3社の使用者責任やその不法行為を被告Y1が主導したことを前提とする会社法350条に基づく責任を認めることもできない。
(3) また,原告は,被告Y1がEと共謀の上,被告Y2に指示して株券を持ち出させ,Eに引き渡させたとか,f社への株券移動は被告らの組織的な行動の一環であるとして,被告Y3社及び被告Y4社の会社法350条又は民法715条の使用者責任並びに被告ら全員につき民法719条1項前段の共同不法行為責任があると主張するが,既に判示したところによれば,これらの責任を認めることもできない。
4 争点(1)(被告Y1に対する訴えについて国際裁判管轄があるか)について
(1) 原告は,被告Y1に対する訴えについて,不法行為地である我が国の裁判所に国際裁判管轄が認められると主張する。
原告は,被告Y1の不法行為として,被告Y1が,Eと共謀の上,被告Y2に指示して,原告所有のb社の株券合計191万5000株を持ち出させ,E又はその指示を受けた者にこれを引き渡して費消させたと主張するが,上記2で説示したとおり,被告Y2がb社の株券をE又はその指示を受けた者に株券を引き渡したと明確に認めることはできない。
したがって,原告の被告Y1に対する訴えは,不法行為の客観的事実関係について十分な証明がないといわざるを得ず,我が国の裁判所に,不法行為地であることを理由とする国際裁判管轄を認めることはできない。
(2) また,原告は,被告Y1は,シンガポール共和国に永年定住しておらず,日本国内に住所を有していると主張するが,本件全証拠を検討しても,これを認めるに足る的確な証拠はない。
(3) したがって,原告の被告Y1に対する訴えについては,我が国の裁判所に国際裁判管轄が認められず,却下を免れない。
5 結論
以上によれば,原告の請求のうち,被告Y1に対する請求に係る訴えは不適法であるからこれを却下し,その余の請求については,いずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 太田晃詳 裁判官 小川嘉基 裁判官 竹内幸伸)
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